星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百二十一話 証人警護 そのⅢ

 

 

此処で時系列はガイアが就役したばかりの頃に戻る。

 

ガイアが就役した同じ頃、某認知外世界‥‥

 

この世界は管理局にはまだ発見もされていない世界ではなるが、いくつもの宇宙船が停泊する施設がある世界なのだが、市街地の様子はアメリカ西部の開拓時代のような光景で、果てしなく続く荒野に木造の建造物が立ち並ぶ街であった。

 

そんな街の一角にある酒場‥‥

 

その酒場にはいかにも無法者って感じの容姿をした男たちが酒を嗜んだり、葉巻やタバコをふかしながらカードゲームを楽しんでいる。

 

ただ、無法者風の男たちがたむろする酒場の一席に紅一点の存在があった。

 

酒場の一席に居るその女性は、周りの無法者風の男たちに負けず劣らずの雰囲気を纏っており、例え女性だとしても手を出そうとする者、声をかける者も居ない。

 

いや、過去にこの女性に手を出そうとした男たちが居たのかもしれない。

 

だが、それらの命知らずのチャレンジャーたちは悉くこの女性の前に敗北をしたのだろう。

 

この敗北とは振られたとかのレベルではなく、人生そのものを終わらせた敗北である。

 

そうしたチャレンジャーの末路を見てきた周囲の男たちはこの女性に手を出す事も声をかける事もないのだろう。

 

そんな中、酒場に一人の男が入って来ると、店内にいる男たちには目もくれず、隅のテーブル席で酒を嗜んでいる女性に声をかけた。

 

「キャプテン!!キャプテン!!」

 

「なんだい?騒々しいね」

 

「耳寄りな情報を入手しやした」

 

男は女性の耳元で自分の要件を小声で話す。

 

どうやらこの男と女性は上司と部下の関係の様だ。

 

「耳寄りな情報?」

 

「へい。管理局の新造艦に関する情報です」

 

「新造艦?どうせ、あたしらが管理局から退職金代わりに貰った艦と同型の艦だろう?管理局の連中、同じ型の艦をバーゲンセールの投げ売り品のようにばかすかと就航させているんだから」

 

「それが情報ですと、そんな量産品ではなく、一品限りの特注品みたいでさぁ~」

 

「特注品?その情報、間違いないんだろうね?」

 

「へい、此方を‥‥」

 

男は女性に持っていたタブレット端末の画面を見せる。

 

そこにはネットニュースでガイアの就役を知らせる記事が書かれていた。

 

「へぇ~管理局の連中にしちゃあ、一点ものなんて珍しいじゃないか‥‥でも、次元の海で就役している管理局の艦を戴くにはちょいと面倒んじゃないかい?」

 

自分たちも武装した艦を持っているが、相手も同じく武装した艦。

 

しかも次元の海でドンパチして奪うとなるとこちらにも被害が出るし、奪う品も傷物になってしまう。

 

「実はもう一隻、管理局の一点ものがありやして、こちらはまだ就役しておらず、管理局所有のコロニー、『メルセデス』の造艦ドックで最終調整中との事です」

 

男はタブレット端末を操作して、まだ建造中の次元航行艦の画像を女性に見せる。

 

その画像にはドックに鎮座して整備されている次元航行艦の姿が映し出される。

 

「‥‥この艦の就役予定日は?」

 

「情報ですと‥‥」

 

男は女性に画像に映し出されている次元航行艦の就役予定日を伝える。

 

「この艦があるコロニーは確か『メルセデス』‥と言ったっけ?」

 

「へい」

 

「よし、行くよ。今からお宝強奪の準備だ」

 

「へい!!」

 

女性は席を立ち、テーブルに幾枚かの金貨を置くと颯爽と酒場を後にした。

 

 

何からの陰謀が動き始めた中、時系列は元に戻り、裁判に出廷予定の証人を護衛中のガイアは一路、次元跳躍をした後、航路上に一番近いコロニーを目指して航行していた。

 

その最中、追手の海賊たちを撒くために管理局がまだ未調査の海域で以前フェイトが まほろば に救助された際に遭遇した時に見た宇宙船のエネルギーを吸うクラゲのような生物と同一種が生息する星を発見した。

 

ガイアを追ってきた海賊たちの末路とこの宇宙生物が生息する星の危険性をクロノは本局へ急ぎ知らせた。

 

そしてその知らせは統括官であるリンディの下にも届けられた。

 

「ま、まさかこのような生物が存在するとは‥‥」

 

ガイアから送られてきた映像をリンディと共に見た秘書官は顔を引き攣らせながら映像を見ている。

 

「次元の海には私たちの常識が通じない生き物がまだまだ存在していると言う事よ」

 

「ですが、証人を護衛にする任務の最中にこのような世界を発見するとはさすが、統括官のご子息ですな」

 

「私の息子だから見つけられた訳ではないわ。あくまでも巡り合わせよ」

 

リンディ自身もたまたまジュエルシードの反応を探知した事で、第97管理外世界を発見し、そこで後々に管理局のエース・オブ・エースと言われる高町なのはと邂逅する事となった。

 

なのは、フェイト、はやてたちとの出会いをリンディ自身、確信をもって出会った訳ではない。

 

神の悪戯とも言える運命がリンディを第97管理外世界へ手繰り寄せたのかもしれない。

 

「まぁ、いずれにしてもガイアからの報告とこの映像を見る限り、クロノが言う通り、報告にあった世界は今後、監視・観測世界に指定した方が良いわね」

 

リンディもクロノが判断したようにあのクラゲみたいな生物が生息している空洞惑星を監視・観測世界に指定する件については賛成の姿勢を示した。

 

「急ぎ、かの世界に対して監視衛星を設置する手配をして頂戴」

 

「承知しました」

 

リンディはあのクラゲみたいな生物が生息している空洞惑星を監視・観測する為に監視衛星の設置を命じた。

 

その頃、ガイアが向かう予定の第二十三管理世界‥そこにある管理局支部にある一室では‥‥

 

この部屋には部屋の主である幹部クラスの局員とその秘書官が居た。

 

「しかし、大丈夫でしょうか?」

 

「ん?何がだ?」

 

秘書官が何やら不安そうな様子で幹部局員へと訊ねる。

 

「例の件‥成功するでしょうか?」

 

「おい、おい、何を弱気な事を言っている」

 

秘書官は不安そうな様子なのだが、幹部局員は至って冷静であった。

 

「で、ですが、あの証人を警護しているのはあの統括官の息子と義娘ですし、運んでいるのは管理局の新鋭艦です。いくら無法者の海賊でも手に余るのではないでしょうか?」

 

「君の言う通り、相手は管理局の新鋭艦に管理局が誇るエース級の魔導師だ。しかし、連中も無法者とは言え、プロだ。金を受け取ったからには依頼はきっちりと熟す筈だ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「あいつらは無法者‥‥金さえ払えば女・子供でも容赦なく殺すような奴らだぞ」

 

「で、ですが万が一、それで民間人に被害が出たら‥‥」

 

「それはいわゆる、コラテラルダメージというものに過ぎない。大義の為の、致し方ない犠牲だ。第一、それをやったのは無法者の海賊たちだ。我々には何の責任もない。そんなところに居たソイツに運が無かったのだよ」

 

「‥‥」

 

「不服そうだね?」

 

「い、いくら大義のためとは言え、やはり民間人に被害が出るのは‥‥」

 

「君も考え給え、何の権力もない民間人百人と管理世界を‥‥今後の次元の海を管理していく我々と民間人‥どちらが必要な人材だと思うかね?」

 

「そ、それは‥‥」

 

「小等部の学生でも分かる答えだ。我々はどんと構え、連中からの知らせを待っているだけでいいのだ」

 

「は、はぁ~‥‥」

 

自己保身の御高説を説いているのは、何を隠そうオードリーが裁判で証言して告発しようとしている幹部局員であった。

 

彼は自分が大金で雇った海賊たちがガイア共々証人であるオードリーを上手く始末してくれるモノだと信じて疑わない様子だった。

 

しかし、その海賊たちは既にクラゲのような宇宙生物が生息している空洞惑星にて全滅している事を知らなかった。

 

また、クロノの方も海賊たちがあの空洞惑星まで追ってきた海賊船が全てだと知らなかった。

 

 

ガイア 艦橋

 

「次元跳躍完了」

 

「艦に異常を認めず‥‥」

 

「前方にコロニー、『カプリス』を確認」

 

「通信長、カプリスへ入港許可を求めくれ」

 

「了解」

 

ミリアリアはカプリスの次元航行船発着場の管制塔へ通信を入れ、入港許可を求めた。

 

ガイアは先程まで海賊と一戦交え、さらにクラゲのような宇宙生物にも襲われた事で、コロニーに入港するには十分な名分があり、コロニー側も管理局の次元航行艦の入港を拒否する理由がないので、入港許可はすんなりとおりた。

 

ガイアがコロニーに入港する前に、フェイトは再びオードリーの居る船室へ赴き、事情を説明していた。

 

今度は事前の説明がある次元跳躍だったので、オードリーは最初の次元跳躍時よりは顔色が明るかった。

 

「失礼します。バーンさん実は艦長が言うには追手の情報網はかなり広く、細かい様子でこのままでは裁判の開廷日時まで貴女を第二十三管理世界へ連れて行く事が難しいかもしれません」

 

「そ、そんなっ!?」

 

「そこで、追手の目をガイアに引き付けてもらい、私たちは別ルートで第二十三管理世界を目指します」

 

「別のルート?」

 

「はい。ガイアはコロニーに一時立ち寄り、そこから民間の次元航行船で第二十三管理世界を目指します。引き続き私が、貴女を警護します。まずは、バーンさんが証人だと分からない様に此方に着替えてください」

 

フェイトはオードリーに管理局の“海”の女性制服を渡す。

 

「なるほど、管理局員の制服を身に着けていれば、追手の目を誤魔化せるという訳ですね」

 

「はい。ただ、制服だけでは弱いので、こちらも着けて下さい」

 

フェイトは制服の他にウィッグと伊達メガネも追加でオードリーへと渡す。

 

ウィッグと伊達メガネで遠巻きから見れば、フェイトの眼前に居る少女がオードリーとは思えないくらいの変装が出来た。

 

やがて、ガイアがコロニーに入港し、整備と補修の件について艦長のクロノがコロニーの管制官と話している間にフェイトはオードリーを連れてガイアを出てまずはチケット発券場へと向かった。

 

「すみません。第二十三管理世界行きの船はありますか?」

 

「はい。第五バースより出航予定です」

 

「では、その船の乗船チケットを二枚下さい」

 

「承知しました。お席のクラスですが、どのクラスにしましょうか?」

 

地球での飛行機同様、民間の次元航行船にも座席にクラスがある。

 

最高級のファーストクラス、中間のビジネスクラス、一番安いエコノミークラス。

 

(エコノミークラスだと安いし人が多いけど、その分、人目が多いからバーンさんの変装に気づかれてしまうかもしれない)

 

(ファーストクラスは人目を気にする必要はないけど、チケット代が高いし‥‥)

 

(此処は中間のビジネスクラスかな?)

 

「ビジネスクラスのチケットを二枚下さい」

 

「承知しました」

 

チケットを手に入れて、オードリーにチケットを渡し、二人は第二十三管理世界行きの次元航行船乗り場へと向かう。

 

フェイトはチケットの他にオードリーにガイア艦内で用意した嘱託局員の身分証明書を手渡した。

 

オードリーは正規の局員ではないので、正規局員の身分証明書は流石に用意できなかったが、嘱託局員の身分証明書ならば顔写真と嘱託局員である事の証明文章と保証人の名前があればすぐに用意できるので、此方も用意していた。

 

地球で海外旅行へ行くのにパスポートが必要なように他の世界に入国するには身分証明書が必要だ。

 

(こういう時、管理局の権限があって助かる‥‥)

 

コロニーの場合はこうして管理局員の制服を身に纏っているし、クロノがコロニー側に話をつけているので、チケットを買うまでは特に身分証明書を見せる必要がなかった。

 

フェイトは管理局の権限が肥大化して様々な弊害が生み出されている事に疑問を抱いていたが、今回についてはその管理局の権限に救われた。

 

チケットを無事に購入出来た二人はそのまま第二十三管理世界行きの次元航行船へと乗り込んだ。

 

立ち寄ったコロニーはとは言え、どこに追手の目があるか分からないからだ。

 

二人が乗り込んだ次元航行船は、ファーストクラス程ではないがビジネスクラスのキャビンもそれなりのスペースがあり、乗客も少ないので、オードリーを警護するフェイトとしても周囲に目をやりやすいので、警護しやすかった。

 

「第二十三管理世界に到着するまでまだ時間があるから、休める時は休んでおいた方がいいわ。第二十三管理世界に着いたらきっと第四管理世界の時みたいに追手が来るかもしれないから」

 

「は、はい」

 

オードリーは少し不安になりながらもフェイトが言っている事も当たっているので、休める今の内に身体を休める事にした。

 

シートをリクライニングして眠るオードリー。

 

そんな彼女を見守りつつ、フェイトは周囲を警戒した。

 

(問題は第二十三管理世界に着いてから‥‥)

 

(いくら、バーンさんを変装させているとは言え第二十三管理世界は敵のホームグラウンド‥‥油断は出来ない‥‥)

 

(でも、第四管理世界の時の様にレンタカーを借りても私の身分証明書を使えば一発でバレてしまう)

 

(バーンさんの嘱託局員の身分証明書を使えば何とかなるかな?)

 

(それとこの船の第二十三管理世界到着日時と裁判の日まで、泊まる場所‥‥)

 

(裁判の日まで多少時間があるから、どこかに身を隠す場所は必要なんだけど、あまり人の出入りが多いホテルは支部の目が届きやすいし、周りの人を巻き込んでしまう‥‥)

 

(民泊も同様の事が言える‥‥)

 

(流石にマンションを借りることは出来ないし‥‥)

 

(あっ、そう言えば誰かがラブホテルはフロントの人に見られることなく部屋に入れるって聞いたけど‥‥あっ、ダメだ。店の前やロビーには防犯カメラがある)

 

ラブホテルは確かにフロントや受付の人に会う事なく、部屋に入れるが、その代わりに客同士のトラブルや事件防止のために防犯カメラが設置されている。

 

その防犯カメラの情報が第二十三管理世界支部に伝われば、襲撃を受ける可能性が高い。

 

(人目が少なく、防犯カメラがないホテルなんてあるのかな‥‥)

 

(流石に裁判の日まで次元航行船発着場で過ごす訳にはいかないし‥‥)

 

(うーん‥どうしよう‥‥)

 

(最悪、移動手段が確保出来たら車中泊でも視野に入れておくか‥‥)

 

フェイトは第二十三管理世界に着くまでの道中で、第二十三管理世界に着いた後の事を考える。

 

移動手段、裁判の日までの宿泊場所を悩ませた。

 

第二十三管理世界では、海賊の他に第四管理世界同様、第二十三管理世界支部の管理局員も信用できない。

 

幸い、裁判の中継は民放テレビでも放送されるので、証拠映像が流れればいくら幹部局員が関わっていたとしても管理局は幹部局員へ忖度などせずに躊躇なく幹部局員を切り捨てて、組織の保身を図るだろう。

 

追手側もクロノの読み通り、まさかガイアがコロニーへ立ち寄り、オードリーが民間の次元航行船に乗って第二十三管理世界を目指しているとは思ってもよらず、次元航行船の中は何事もなく平穏に過ごせた。

 

目的地である第二十三管理世界に到着するとフェイトもオードリーも妙に緊張してしまう。

 

周囲の人間全てが襲撃して来るのではないかと勘ぐってしまう。

 

(いつまでも立ち尽くしている暇はない)

 

(ひとまず、バーンさんの身分証明書を使って移動手段を確保しよう)

 

「バーンさん」

 

「は、はい」

 

「ひとまず、この世界での移動手段を確保する必要があるから、バーンさんに渡した嘱託局員の身分証明書でレンタカーを借りよう」

 

「はい」

 

二人は緊張した面持ちで次元航行船の発着場に隣接するレンタカーショップにて移動手段の確保をする事にした。

 

嘱託局員の身分証明書にある氏名欄には流石にオードリーの本名を乗せていない。

 

問題のある行為に見えるが、この場合証人の生命を守る為の超法規的措置と言う事で、嘱託局員の身分証明書には偽名が記載されていた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「すみません。レンタカーを借りたいんですけど」

 

「はい。どのような車をご希望でしょうか?」

 

「速くて、車体が頑丈な車ってありますか?」

 

第四管理世界での出来事を考慮してフェイトはレンタルする車に速さと丈夫さを求めた。

 

「それですと‥‥此方の車はどうでしょうか?」

 

フェイトのリクエストを聞いて店員はタブレット端末を操作して一台の車の画像を二人に見せる。

 

「こちらの車は‥‥」

 

店員がタブレット端末に車の画像を表示しながら車の説明をする。

 

「では、この車を借ります」

 

店員の説明を聞き、レンタカーを借りる。

 

「では、身分証明書の提示をお願いします」

 

店員から身分証明書の提示をお願いされ、オードリーは事前に渡された嘱託局員の身分証明書を提示する。

 

「えっと、お名前は‥‥ミネバ・ザビ様ですね?」

 

身分証明書を確認し、コンピューターに名前を入力する。

 

レンタルしたのが管理局の関係者と言う事でレンタカーショップの店員はすんなりと車を貸してくれた。

 

「では、こちらが車のカギになります」

 

「どうも‥‥」

 

(まずは、第一段階は無事に終了‥‥)

 

(次は拠点の確保をしないと‥‥)

 

移動手段を確保し、次は裁判の日までの拠点の確保となった。

 

二人はレンタカーを借りると拠点の確保のために次に観光案内所へと向かった。

 

観光案内所では、ホテル・旅館・民泊の情報を仕入れた。

 

「宿泊費用は気にしないで、なるべく人目がなくて防犯カメラが少ない宿をセレクトして、ただ宿によっては狭かったり、古い宿になってしまうかもしれないけど、我慢してくれる?」

 

「大丈夫です。父の仇を討てるなら‥‥」

 

流石に数が多いので、オードリーにも協力してもらい宿泊場所を探す。

 

その際、フェイトはオードリーに宿泊する宿について条件を伝える。

 

(バーンさんはなのはみたいに不屈の精神があるように強い人だ‥‥)

 

何軒かの宿泊情報を見ていく内に何とか条件に見合うホテルを見つけ出し、電話を入れて予約をとった。

 

勿論、予約名はオードリーの偽名である『ミネバ・ザビ』で予約をとった。

 

オードリーを変装させ、移動手段の確保と拠点を確保したフェイトであったが、一つ失念していたことがあった。

 

それはフェイト自身の事であった。

 

次元航行船の発着場には当然防犯カメラが幾つも設置されている。

 

その情報は管制室の他に第二十三管理世界の管理局支部にも共有されていた。

 

「なに!?フェイト・テスタロッサ・ハラオウンだと!?間違いないのか!?」

 

次元航行船発着場にフェイトらしき人物が現れたという報告は裁判で不正を告発されそうになっている幹部局員にも知らされた。

 

「はい。次元航行船発着場にその姿が確認されました。念の為、顔認証システムで検索を掛けましたが、間違いなく本人であると言う結果が出ております」

 

秘書官が幹部局員に次元航行船発着場に現れたフェイトらしき人物は間違いなく、フェイト本人であると言う事が確認出来ている旨も報告する。

 

フェイトはオードリーには変装をさせたが、自身は変装をせずにそのままの姿で来たので、簡単に素性がバレてしまった。

 

管理局内でエース・オブ・エースと呼ばれているなのは同様、フェイトも有名である。

 

あのJS事件を解決に導いた奇跡の部隊、機動六課に所属し、管理局内でも未だに注目されている第二の第九十七管理外世界‥もう一つの地球からの帰還者‥‥

 

そう言った過去の輝かしい実績がある。

 

フェイト自身はそう言った実績にはあまり興味が無頓着だったことが今回素性がすぐにバレてしまう結果となった。

 

「確か彼女は証人を乗せている次元航行艦の乗員だったな‥‥」

 

「ええ、それは第四管理世界で確認されていますから」

 

「まさか、証人を乗せた次元航行艦がこの世界に辿り着いたというのか!?」

 

「いえ、証人を乗せている筈の次元航行艦ガイアの入港は確認されていません」

 

「それで、彼女の動向は!?一人か!?証人は!?」

 

「同行者は一名‥管理局員の制服を身に纏っています」

 

「顔は?確認できたか?」

 

「はい。証人‥‥の様にも見えますが、髪型や髪の長さが証人と違い、眼鏡もかけています」

 

「変装かもしれん。くそっ、一体どうやってこの世界へ‥‥」

 

(次元航行艦の艦内に転送ポートなどないぞ‥‥)

 

「ど、どうしますか?」

 

秘書官は証人であるオードリーの所在は不明でもそのオードリーを警護している関係者のフェイト本人がこの第二十三管理世界に現れた事に動揺している。

 

「‥‥念の為、証人が乗艦した次元航行艦の行方を探れ!!それと彼女の動向も監視するのだ!!」

 

「は、はい!!」

 

次元航行船発着場の防犯カメラ映像を見た幹部局員はフェイトがどうやってガイアからこの第二十三管理世界に来たのか方法が分からなかった。

 

(まさか、あのゴロツキ共、失敗したのか‥‥)

 

フェイトがこの第二十三管理世界に来ている事から自分が金で雇った海賊たちが仕留め損ねたのだと思った。

 

自分がまさかこの世界に来ている事がバレている事を知らないフェイトは、オードリーを連れて予約した宿へと向かいまずはチェックインをする。

 

車の方も念の為、シートをかけてホテルの駐車場とは別の駐車場に停めた。

 

「一先ずこれで一安心かな?」

 

「そうですね」

 

「バーンさんにはとんだ里帰りになってしまったわね」

 

「はい‥‥」

 

まだ完全に安全ではないが、この世界に来てからは緊張しっぱなしだったので、宿について一息つけたので、緊張が少々緩み、空腹であった事も思い出し、フェイトもオードリーも腹の虫が鳴る。

 

「‥‥何か食べに行こうか?」

 

「は、はい」

 

危険があるかもしれないが、空腹ではオードリーを守る事も難しいし、オードリー本人も空腹みたいなので、二人は近くのファミリーレストランへと入った。

 

その間、第二十三管理世界の管理局支部では、フェイトの動向が調査された。

 

「どうだ?あの女の行方は分かったか?」

 

「次元航行船発着場を出た後、彼女はレンタカーを借りたみたいです」

 

「ナンバーは?」

 

「レンタカーショップの店員から確認が取れています。こちらです」

 

秘書官はフェイトが借りたレンタカーの画像を見せる。

 

「レンタカーショップを出た後は?」

 

「観光案内所に向かったみたいです」

 

「観光案内所?奴らはこの状況下で呑気にこの世界を観光する気か?」

 

幹部局員はフェイトが観光案内所へ向かった理由に首を傾げる。

 

レンタカーショップでレンタカーを借り、その後に観光案内所へ行ったとなると一見観光客と変わらない行動をしている。

 

「ん?観光案内所となると、観光地の他に宿泊地も案内しているな?」

 

「はい。ホテル等の宿泊情報も観光業の一環なので‥‥」

 

「裁判までまだ時間がある‥‥となると、奴らは身を隠すために何処かに泊まる情報を集めていたのではないか?」

 

幹部局員の読みはまさに的中していた。

 

「周辺の宿泊施設にフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの顔写真を配布し、彼女が宿泊していないか確認を取らせろ」

 

「はい」

 

管理局員にもかかわらず、まるで指名手配犯の様な扱いとなってしまったフェイト。

 

まさか自分は指名手配されたなんて知らずにレストランにて食事を摂った後、二人は急ぎホテルへと戻る。

 

「すみません。203号室のザビですが」

 

「は、はい。ザビ様ですね。少々お待ちください」

 

「‥‥」

 

チェックイン時とレストランへ出かける時と異なりフロントの従業員の態度に何か違和感を覚えるフェイト。

 

(あの人、何か態度が挙動不審に見える‥‥)

 

何だかフロントの従業員の態度が妙に緊張しているというかよそよそしいのだ。

 

まるで何かを隠しているかのように‥‥

 

フェイトは念の為、サーチャーを飛ばしてフロントの従業員の動向を調べる。

 

勿論、フェイトはフロントの従業員に悟られない様に、オードリーと共にホテルの部屋へと戻った。

 

そして部屋に戻った後、サーチャーからの情報を確認する。

 

『はい。こちら第二十三管理世界管理局支部、通信室です』

 

「あ、あの‥私、ホテル・アルセーヌの従業員なんですけど、先ほど連絡があった管理局員が当ホテルにお泊りなのですが‥‥」

 

『少々お待ちください。担当の者に代わります』

 

フロントの従業員からの通報を受けたオペレーターは誰かに代わる。

 

担当者としてオペレーターから変わった局員は映像通信で顔は出さずに黒画面に白文字で『sound only』と表示される。

 

『代わりました。私が本件の担当の者です』

 

しかも名前さえも言わない。

 

『それで、確認なんですが、お宅のホテルに宿泊しているのは間違いなく、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンなんですね?』

 

「は、はい。間違いありません。宿泊名簿にもそのようなお名前ですし、身分証明書も提示した時もそのお名前でした。配布された顔写真とも一致しています」

 

フロントの従業員にしてみれば、顔も見せず、名前も名乗らない人物は怪しさ満点なのだが、相手は確かに管理局員であるし、どうして顔も見せずに名も名乗らないのかと聞いて、相手を不快にさせたり、機嫌を損ねたら今後のホテル業務に何らかの影響を与えるかもしれないので、フロントの従業員は不審に思いつつもその二点を聞かずに管理局員からの質問に淡々と答えた。

 

『分かりました。情報提供ありがとうございます』

 

「あ、あの‥この方は何をしでかしたのですか?同じ管理局員なんですよね?」

 

相手の管理局員に不信感を覚えつつも何故、フェイトを捜しているのかを訊ねるフロントの従業員。

 

『いえ、彼女にはちょっとした確認事項がありましてね。内容は管理局内の機密なのでご説明は出来ませんが‥‥』

 

「は、はぁ~‥‥」

 

『日中では周辺住民の方々にご迷惑をおかけしますので、夜お邪魔させてただ来ます』

 

「わ、分かりました」

 

フロントの従業員と第二十三管理世界管理局支部に居る局員とのやりとりをサーチャーにて確認したフェイトは自分がこの世界で指名手配されている事を知った。

 

(フロントの従業員に抱いたあの違和感がこれだったんだ‥‥)

 

(それにしても人を指名手配犯みたいな扱いをするなんて‥‥)

 

フェイトは第二十三管理世界の管理局員に対する自分の扱いに内心で憤慨する。

 

(まぁ、いずれにしても今日の夜、この世界の管理局員の襲撃があるのは間違いなさそうね)

 

(万が一の事を考えて車をホテルの駐車場に停めていなくて良かった)

 

もしも、ホテルの駐車場にレンタカーを停めていたら、襲撃前に押収されていたかもしれない。

 

「バーンさん」

 

「はい」

 

「今夜、この世界の管理局員の襲撃があります」

 

「えっ?」

 

フェイトの言葉にオードリーは唖然とする。

 

「さっき、フロントに居る従業員の態度に違和感を覚えて念の為にサーチャーを飛ばして様子を窺っていたんですが、どうも私がこの世界で指名手配されているみたいで‥‥」

 

「えっ?ハラオウンさんが指名手配?でも、どうしてハラオウンさんが指名手配なんて‥‥」

 

「第四管理世界で私が貴女を警護している事を此処の連中にも知られて、そこから私を捉えれば貴女の場所も分かると思ったのか、既に変装がバレているのか‥‥」

 

「そ、そんなっ!?」

 

「落ち着いて、連中が此処に来るのは夜みたい。ホテルの周りにはサーチャーを撒いておくから異変があればすぐに分かるわ」

 

不安そうなオードリーを宥めるフェイト。

 

(問題は襲撃時に空戦魔導師が居るかいないかね)

 

空戦魔導師が居なければ、空から脱出すればいい。

 

しかし、ホテル周辺の空にも空戦魔導師が居たら、オードリーを連れての戦闘になり得る。

 

(やっぱり、襲撃前に此処から逃げた方が良いわね)

 

「バルディッシュ」

 

『ハイ』

 

「ホテル周辺に私以外のサーチャーの気配は?」

 

『ありません』

 

(私たちがこのホテルに居る事はすでにバレている。襲撃を成功させるため、ホテル周辺にサーチャーを撒くかこの世界の局員が張り込みをして偵察をする可能性は十分にある)

 

(サーチャーが撒かれる前、この世界の局員が張り込む前に逃げよう)

 

フェイトは予定を変更して、ホテルが包囲される前に逃げる事にした。

 

「バーンさん、予定変更。今すぐに此処から逃げるわ」

 

「で、でも逃げるにしてもフロントの前を通ったらまた通報されてしまうんじゃあ‥‥」

 

「だから空から逃げるの」

 

「空から?」

 

「そう。私は空戦属性のある魔導師だからこのまま窓から空に逃げるわよ。バルディッシュ、セットアップ!!」

 

『イエッサー!!』

 

フェイトはバルディッシュを起動させてバリアジャケット姿へと変わると、オードリーを抱いて窓から空へと舞い上がった。

 

(ホテルに私の顔写真が配布されていると言う事は、きっと私たちがレンタカーを借りた事もバレている。日中市街地を走れば、防犯カメラやNシステムで追尾される。車を持ってくるのは夜になってから‥‥それまで何とか身を隠す場所を探さないと‥‥)

 

(多分、バーンさんの家もサーチャーがばら撒かれているか、この世界の管理局員が張っているからアウト‥‥)

 

「ねぇ、バーンさん」

 

「は、はい」

 

「夜になったら、私が車を取りに行くから、それまでどこか隠れられる場所を知らない?」

 

オードリーは元々この世界の出身なので、土地勘がある。

 

ならば、夜までどこか身を隠す絶好の場所がないか訊ねる。

 

「そう言えば、郊外の森の中に古びた廃墟があります。幼少期に近所の友達と一緒に秘密基地として使っていました」

 

「じゃあ、一先ずその廃墟に身を隠しましょう」

 

フェイトはオードリーの案内の下、郊外の森の中にある廃墟へと向かった。

 

オードリーがこの廃墟の存在を最初から教えてくれればと思ったが、彼女が教えてくれた廃墟は長い間、手入れがされておらず、屋根の一部は崩落もしくは台風などの嵐で吹き飛ばされており、家の中も埃と雨水が染み込んでおり、とても生活が出来るような状態ではなかった。

 

一応、夜になったらフェイトがレンタカーを此処まで運んでくるので、それまでの間ならば何とか我慢できる。

 

フェイトは日が落ちるのを待った。

 

 

その日の夜、フェイトたちが宿泊していたホテル周辺は物々しい雰囲気となっていた。

 

ホテル周辺の空には空戦魔導師たちが飛び交い、ホテル内にはバリアジャケットを身に纏い、手にはデバイスを手にした管理局員たちが大勢集まっていた。

 

「いいか、相手はエース級の魔導師だ。非殺傷設定でも決して舐めてかかるな」

 

「は、はい」

 

「了解」

 

「空戦隊、ホテル周辺に異常は?」

 

「ありません。道路封鎖も完了して一般車両は立ち入り禁止にしています」

 

「よし、総員配置につけ」

 

ホテル内の局員たちは比較的に足音を立てずにフェイトとオードリーが予約をいれた部屋へと近づく。

 

「ターゲットの部屋の前に到着」

 

「突入せよ」

 

「了解‥行くぞ」

 

局員たちは扉を蹴破り部屋の中へと雪崩れ込む。

 

「管理局だ!!」

 

「大人しくしろ!!」

 

しかし、いさんで部屋に突入した彼らが見たのは無人の部屋だった。

 

「い、いない!?」

 

「洗面所やクローゼットの中は!?」

 

ベッドの掛け布団を捲るとそこにあるのは丸めた毛布でまるで人が寝ているかのような偽装が施されていた。

 

「い、居ません!!」

 

「こちらにも居ません!!」

 

洗面室、クローゼットの中を調べてもフェイトも連れの姿もなかった。

 

「部屋を間違えたか?」

 

「いえ、確かに通報があった部屋です」

 

「くそっ、逃げたか!?ホテル内をくまなく捜せ!!空戦隊には周囲を探索させろ!!急げ!!」

 

「了解!!」

 

突入部隊の隊長はホテル内もしくは周辺に潜んでいる可能性があると判断し、捜索を始める。

 

その様子をフェイトはサーチャーで見ていた。

 

「昼間の内にホテルから逃げて正解だったわね。やっぱり、空戦魔導師までも投入してくるなんて‥‥一体どれだけの局員が真実を知らされているんだろうか‥‥?ガイアの方は‥クロノの方は大丈夫かな?」

 

流石に第二十三管理世界の局員全員が不正に関わっているとは考えにくい。

 

というか、考えたくもない。

 

第二十三管理世界で此処までの事をしてくるのだから、囮役を務めているガイアの方にも強力な追手が向かっていないか心配になる。

 

(バーンさんの為にもそして、この世界で働いている真っ当な管理局員の為にも頑張らないと!!)

 

フェイトは夜の第二十三管理世界の市街地をレンタカーのハンドルを握りながら強い決意が宿る目をしていた。

 

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