第二十三管理世界で起きた騒動は管理局の評価にまたもや影を落とす結果となった。
しかし、時空管理局が存在しなければ管理世界の治安維持は出来ないので、管理局の存在は必要不可欠なのだ。
そんな管理局ではあるが、管理局所有のコロニー『メルセデス』では、マスコミ、そして造艦部所属の局員らが集まっていた。
コロニーには沢山の民間船舶が入港している。
「第二整備班は第六ドックへ集合せよ!!」
「カメラチェック急げ!!」
「物資の搬入進捗状況はどうか!?」
そして、メルセデス内にある次元航行艦のドックでは大勢の整備員や局員たちが慌ただしく動き回っている。
この日、メルセデスでは管理局の新造艦が就役しようとしていた。
管理局が保有しているコロニーだけあって、このメルセデスには次元航行艦を建造することが出来るドックも備えていた。
メルセデスで就航しようとしている新造艦は艦政部造艦科のトップであるオサリバンがヴェルタンとヴェルニーが建造したガイアに対抗するかのように同じく艦政部造艦科に所属する造艦技師であるニナ・パープルトンに密かに建造を命じた艦であった。
オサリバンがヴェルタンとヴェルニーを異端視していたようにパープルトン自身も二人を異端視すると同時にライバル視している節があり、オサリバンから今回の新造艦建造の命令が出た時、パープルトンは二人を見返してやるつもりでその話を受けた。
建造については完成するまで秘匿されていたのでパープルトンは新造艦完成までコロニーでの生活を余儀なくされた。
しかし、その苦労もようやく今日で終わる。
そう思うと完成した新造艦がまるで自分の我が子の門出の様に思えて愛おしく思える。
ガイアが就役した時の進宙式の時は、参加人数が限られていたが、その式典に参加したオサリバンは自分がパープルトンに建造を命じた新造艦が完成した暁にはガイアの時とは比べモノにならないくらいの盛大な進宙式にしようと思っていた。
その結果、メルセデスには大勢のマスコミが集まっていた。
「オサリバン部長」
「おお、パープルトン君。此度はご苦労だった」
「いえ。部長が当初、すばらしい原案を用意してくださったおかげで建造期間をかなり短縮することが出来ました」
新造艦があるドックの傍らでパープルトンがオサリバンを見つけ、声をかける。
二人とも今日の日を待ちに待っていたので、上機嫌だ。
「しかし、第二十三管理世界でのデモについては予想外の出来事ですし、管理局にとってもマイナスなイメージとなっていますが‥‥」
「その話は私の方にも入っている。しかし、そんなマイナスのニュースも今回の新造艦の就役で払拭できるだろう。むしろ、これはチャンスでもあるのだよ」
「チャンス‥ですか?」
「そうだ。どこかのバカの不正がきっかけで起きたデモもバカの不正も全ては今日の日をより一層盛り上げるための前座に過ぎんのだ」
「は、はぁ‥‥」
オサリバンは第二十三管理世界で起きたデモも局員が起こした犯罪さえも今回の新造艦の就役でプラスへ変換することが出来ると思っていた。
進宙式の時間が近づいている中、メルセデスに接近中の一隻の貨物船が居た。
『こちらメルセデス港湾管制塔。接近中の貨物船、船名と入港目的を述べよ』
「こちら次元貨物船、マルセル。管理局より依頼があった物資を輸送中。メルセデスへの入港許可を求む」
マルセルから入港目的と入港許可を求められたメルセデス管制塔のオペレーターは今日、メルセデスに入港予定の民間船舶を調べる。
今日は管理局の新造艦の進宙式があり、オサリバンがマスコミを大勢呼び寄せた為、民間船舶の入港が普段よりも多い。
オペレーターはコンピューターで今日、入港予定の民間船舶の船名を検索する。
すると、『マルセル』と言う船名の貨物船が今日、入港する事が事前に入力されていた。
(今日入港予定の貨物船だな。しかも管理局の依頼をした船みたいだし、入港させても問題ないだろう。むしろ、入港を拒否したり、待機させたりしたら管理局から抗議がくるかもしれない)
オペレーターは入港予定があり、しかも積荷については管理局が依頼した物なので、この貨物船の入港を拒否したり、遅延すると管理局の他の部署からのクレームが入ると思い入港を許可した。
貨物船 マルセル号 ブリッジ
「‥‥キャプテン、メルセデスから入港許可がおりましたぜ」
「ニーベルングの位置は?」
「へい、予定通りの位置で待機しておりやす」
「よし、行くよ。野郎ども」
『へい!!』
マルセル号のブリッジには貨物船の船員に似つかわしくない様相の者たちが乗っていた。
その頃、某世界の港にて、身元不明の死体がいくつも転がっていた。
それらの遺体が発見されるのはもう少し先の事であった。
そして、それらの遺体の身元が判明するのも同様の事が言えた。
マルセル号はメルセデスへと入港し、積荷の荷下ろしを始める。
此処までは貨物船の入港風景と何ら変わらない光景だ。
「あれ?あの貨物船の連中は?」
「えっ?さっきまでそこに居たけど‥‥」
しかし、港湾労働者たちが気づいた時、マルセル号の船員たちは全員が消えていた。
彼らはマルセル号の船員たちの行方に首を傾げた。
そのマルセル号の船員たちは‥‥
港近くの倉庫に居り、身に纏っていた作業着を脱ぐ。
船員たちは作業着の下に本局の制服を着ていた。
「フッ、まさか再びこの制服で人様の前に出るとはね‥‥」
マルセル号のブリッジにてキャプテンと呼ばれた人物は自らが身に纏っている管理局の制服に対して自嘲めいた笑みを浮かべる。
「キャプテン、階級章です」
そんな中、部下の一人がキャプテンに管理局の階級章を手渡す。
その階級章は一佐を示す階級章であった。
「一佐とはねぇ‥‥管理局を脱走したが、そう言えばまだ管理局からは退職金を貰っていなかったよ‥‥こいつは退職金代わりとしての昇進か?」
皮肉を言いつつ一佐の証である階級章をつける。
「さて、今メルセデスは管理局員やマスコミがごった返してバカ騒ぎしている。今回の主催者はよほど目立ちたがり屋なのかね?でも、あたしらにとって、その目立ちがり屋の性格が今回は幸いしたモンさね」
キャプテンは今回、メンデルで行われる出来事‥‥新造艦の進宙式の主催者であるオサリバンの行為に呆れる。
「コッセル、監視カメラのジャミング状況は?」
『へい、キャプテンがメルセデスへ潜入してからメルセデスの監視カメラにはダミー映像を流しています。なので、キャプテンたちの姿は監視カメラには映っておりません』
「パーフェクトだ。コッセル」
『感謝の極み』
「それじゃあ、まずは手筈通りに行きな。終わったら例の場所に集合だ。いいね、場所と時間を間違えるんじゃないよ」
『へい!!』
キャプテンは部下たちに指示をすると部下たちは素早く動き出した。
メルセデスで何らかの陰謀が進んでいる中、先ほど新造艦が鎮座しているドックにてオサリバンと会話を交わしていたパープルトンは、ドックに集まっていた人々の中に見慣れた顔を見つけ、その人物に声をかけた。
「ポーラ!!」
「ニナ!!」
「ポーラも来ていたの?」
「当り前じゃない!!今日はニナの晴れ舞台だもの!!」
パープルトンが声をかけたのは自身が所属する艦政部造艦科に所属しているポーラ・ギリッシュだった。
ポーラはパープルトンと親友であり、同じ部署に所属していると言う事で今日の進宙式にも参加していたのだ。
「それにしても凄いわね。ニナは‥数年とは言え、量産型の艦じゃなくてイチからこれまでにない新造艦を造っちゃうなんて」
「イチ‥って言う訳じゃなくて、草案はオサリバン部長がある程度まとめていてくれたから、ほんの少しの手直しと追加ですぐに建造に移る事が出来たのよ」
「へぇ~あのオサリバン部長がね‥‥なんかイメージが沸かないな‥‥」
ポーラにとってオサリバンが量産型の次元航行艦ではなく、イチから新造艦の草案を考えた事、
自らが草案を考えたにもかかわらず、その建造指揮権をパープルトンに任せた事に意外性を覚えた。
「普段なら、部下の手柄も自分の手柄にするようなタイプの人なのに‥‥」
「私も最初、この話を受けた時ソレは思ったけど、実際に話を受けた後で、オサリバン部長が私にこの話をした理由が分かった気がしたわ‥‥」
「ん?それってどういうこと?」
「この艦が造られたのが、此処メルセデスでしょう?」
「ええ、そうね」
「完成まで私、このメルセデスにずっと缶詰めでね‥‥」
「えっ?転送ポートでミッドに戻ったりは?」
「してない。オサリバン部長が自分で造らずに私に任せたのは多分、そのせいだと思う」
「あぁ~確かにニ、三年ずっとこのコロニーに缶詰は確かに苦行だわ‥‥」
一応、大勢の人々が生活するコロニーなので、最低限の生活に必要なモノが手に入る商業施設や病院等の医療施設は存在するが、娯楽施設は限られている。
しかも建造を秘匿するために転送ポートでコロニーの外へ出る事も厳禁とされていたので、パープルトンはこの話を受けてから今日までこのメルセデスにずっと缶詰めだった。
それが建造秘匿の条件があったので、オサリバンは自身ではなく自分にこの話を振ったのだと思った。
完成までコロニーに缶詰めになる以外にオサリバンは一応、役職として艦政部造艦科のトップなので、長期間部署を不在にする事は出来ないので、パープルトンにこの話を振ったのはそう言った役職も関係していたのかもしれない。
「まぁ、オサリバン部長としてはあの変人二人組に一泡吹かしてやりたいって言う所もあったと思うわ」
「変人二人組?」
「ほら、ヴェルタンとヴェルニーの二人組よ」
「ああ、あの二人ね」
ポーラも艦政部造艦科に所属しているので、当然ヴェルタンとヴェルニーの事は知っている。
「少し前にあの二人が造った新造艦が就役したでしょう?」
「ええ、艦政部造艦科でも話題になっていたわね」
「オサリバン部長が、あの二人の艦が先に就役されて悔しがっていたわ」
「でも、あっちの方が先に建造を始めたんでしょう?」
「ええ、だから後に建造した方がより多くのデータが取れるって言って納得させたわ」
「それで、データは取れたの?」
「あんなの口からの出まかせよ。仮にデータが送られて来ても最初に見るのはあの変人二人組だし、そのデータが本当にそのままのデータなのかも怪しいしね」
「あの二人がデータを改ざんすると?」
「結構無理を押し通して建造したみたいだからね。そんな無理強いをして建造したのに、不具合が見つかれば造艦技師としてこの先やっていけないでしょう?」
「うーん‥でも、確かにあの二人は変人だけど、造艦技師としてのプライドは高いからそんな事をするとは思えないけど‥‥」
パープルトンはオサリバン同様、ヴェルタンとヴェルニーの事を変人として毛嫌いして、自分たちが造った艦をよく見せようとデータの改ざんも平気でするような人物だと思っていたが、ポーラは変人だと言う認識はあっても造艦技師としては一流の腕を持っていると思っており、そんな彼らがデータの改ざんなんてする訳がないと思っていた。
「でも、ポーラ。あの変人二人組よ。保身のためなら何でもやりそうだわ。今日の進宙式に来ていない事で、私が建造した艦の清潔さが保たれるわね」
「えっ?それってどういうこと?」
「あの二人に私が造った艦が視姦されなくて済むって事よ。ほら言うじゃない?艦は女性だって」
「‥‥」
(いくら、あの二人が気に食わないからといってそこまで言う?)
ヴェルタンとヴェルニーの二人をボロクソに言うパープルトンに対してポーラはパープルトンに対して若干の嫌悪感を覚える。
「そ、それよりもマスコミの数が凄いわね。此処に来る間も色んな世界のテレビカメラが入っていたし、記者が多くて来るのも大変だったわ」
これ以上、あの二人の話題だとポーラはパープルトンに対してきつめの言葉を吐いてしまいそうなので、彼女は話題を変えた。
「オサリバン部長が派手に宣伝をしてね。まぁ、ポーラも知っているでしょうけど、今第二十三管理世界での汚職騒ぎで管理局の印象が悪いでしょう?」
「ええ、あの事件の発端となった裁判は私も見たわ。同じ管理局員として恥ずべき行為だったわね」
「印象が悪くなった管理局のイメージを払拭する良い機会だし、何よりも私が造った艦がその役目を担うのよ。造艦技師としてこれほど誇らしい事は無いわ」
「まぁ、管理局のマイナスイメージを払拭出来るか、分からないけど、確かに管理局にとっては明るい話題にはなるわね」
コロニー・メルセデスにて、管理局の新造艦の進宙式と言う明るい話題と何かしらの陰謀が密かに進んでいる中、本局では‥‥
時空管理局 本局 次元航行艦ドック
本局内にある次元航行艦のドック‥‥
数ある艦船ドックの中で、はやてが艦長を務めるジャガーノートも今はその羽を休めていた。
ジャガーノートの艦長室では、はやてとグリフィスが書類仕事をしていた。
「そう言えば‥‥」
仕事をしているとグリフィスが何かを思い出したかのように声を上げる。
「今日、メルセデスと言う名前のコロニーで新造艦の進宙式があるみたいですよ」
「ああ、そう言えばそんなイベントがあったけな‥‥今日なんや‥‥」
「八神艦長は確かガイアの進宙式には参加したんですよね?」
「クロノ君が艦長で、フェイトちゃんが副長を務める艦やからな。それに招待状もちゃんときたし、友人として出席るのは当然の事やで、グリフィス君」
「メルセデスで行われる進宙式には招待状が来なかったんですか?」
「いや、来たで」
はやてはガイアの進宙式同様、メルセデスで行われる新造艦の進宙式への招待状が届いていた。
しかし、その進宙式当日にこうして本局に居ると言う事はメルセデスでの進宙式には参加するつもりが無いと言う事だ。
「参加されないのですか?」
グリフィスもその点は疑問に思い、はやてに訊ねる。
「自分の艦がオーバーホール中やのに、そんな社交辞令ばかりのイベントに参加しとる暇なんかないわ。まぁ、どっちみち参加するつもりはなかったから今回のオーバーホールはちょうどええ口実やったわ。ミゼット提督も今回は参加しておらんみたいやし」
はやての他にガイアの進宙式に参加したミゼットもメルセデスでの進宙式は不参加の様だ。
「しかし、大々的にマスコミに伝えている所を見ると、進宙する新造艦はガイアの様な一点ものみたいですね」
「一点ものね‥‥管理局にしては随分と珍しい事やね」
「ええ‥MS機関が開発されてから、管理局‥というよりも艦政部造艦科はジャガーノートと同じ型の艦を量産していますからね」
「ボラーへの武力制裁の失敗で数多くの艦を失ったからな‥‥とりあえず数を揃えたいって感じで、一点ものやのうて、量産型を沢山生産して数を揃えようとしているんやろう」
「そんな中でガイアに次ぐ一点ものとは‥‥一体、どんな心境の変化なのでしょう?」
「さあ、艦政部造艦科としても今の量産型の発展として実験的な意味合いで造ったのかもしれへん」
「なるほど」
はやてとしては今回の新造艦は艦政部造艦科が次世代の量産型の試作艦として新たに建造した艦ではないかと推測するが、その実情がまさか艦政部造艦科内における局員同士のプライドをかけたコンペみたいなモノだとは思いもよらなかった。
そんな新造艦の進宙式の時間が迫っているメルセデスでは‥‥
「キャプテン、戻りやした」
「首尾は?」
「バッチリっス」
「どこもかしこもまさにお祭り騒ぎで誰も俺たちの事を不審がる奴なんて居ませんでした」
「油断も極まれりだね。天下の管理局様が‥‥まぁ、そのおかげであたしらの作戦は順調に進んでいる訳だし、その点については感謝しておこうか?」
「そうですね」
「さあて、それじゃあいよいよメインディッシュと行くかねぇ~」
怪しげな笑みを浮かべた一団はある場所へと向かって行く。
「申し訳ございません。此処から先は通行許可証がありませんと進めません」
一団が進む先にある検問ゲートにて、警備担当の管理局員が一団を呼び留める。
「通行許可証だと?この方は一佐だ。下っ端のお前らよりも階級は上だぞ!?」
「例え一佐であっても規則は規則です」
「やれやれ、頭の固い坊やだねぇ~」
すると、キャプテンが一団の先頭に出ると、警備にあたっている局員に不敵な笑みを浮かべながら近づく。
「お前はママに教わらなかったのかい?怖い人に出会ったら、サイフとケツの穴を守りなさいって‥‥」
「な、何を言って‥‥」
「ガーベラ・テトラ起動」
『イエス・マム』
すると、キャプテンが手に持っていた扇子がリボルバー型の拳銃デバイスに変わり、
パシュン!!
殺傷設定のシューターが警備に当たっていた管理局員の頭を吹っ飛ばす。
『っ!?』
突然の事に他の警備にあたっていた管理局員たちは驚愕するもデバイスを起動させて応戦しようとするが、キャプテンの部下たちの方が動きは早く、デバイスやビーム銃を向けていた。
ズルズル‥‥
「‥‥」
部下たちは斃した管理局員たちの死体を引きずって物陰に死体を隠す。
「片付けたかい?」
「へい。これで少しは時間を稼げます」
検問の警備にあたっていた管理局員たちを片付けた一団はなおも先に進む。
「キャプテン、まもなく最初の花火が作動する時間です」
部下の一人がキャプテンに報告をあげると、キャプテンは口角を吊り上げて嬉しそうに呟く。
「さあ、楽しい、楽しい、祭りの始まりだ」
その表情はかつてミッドチルダ、首都クラナガンで大規模テロ事件を起こしたスカリエッティに似た狂気を含む笑みだった。
突如、メルセデスの一画にて轟音と大きな地震のような振動が起こる。
「な、なんだ!?」
「地震か!?」
「コロニーで地震なんか起きるか!?」
コロニーに居る人々は突然の轟音と振動に戸惑いが隠せない。
この轟音と振動はコロニーを管理するコロニー管制室でも当然確認された。
「なんだ!?どうした!?」
「隕石でも衝突したのか!?」
「コロニー内で爆発を確認!!」
「なんだと!?事故か!?」
「詳細は不明!!現在、調査中!!」
「火災発生!!直ちに消火活動を行います!!」
「港への入港はどうしますか!?」
「この状況下では混乱を招く!!一時、港への入港を制限しろ!!」
「了解!!」
管制室ではオペレーターや通信員、各部の長が動き回り、指示を飛ばしている。
突然の事態にコロニー中が困惑、混乱が生じ始める。
それは新造艦の進宙式の会場でも同じでマスコミも現状を中継し始める。
「部長、此処は危険です。直ぐに避難を!!」
オサリバンの部下が彼に避難を促す。
「避難?避難だと!?この輝かしい栄光の日に何故、私が逃げなければならない!?」
「コロニー内で爆発が起きたみたいで、火災も起きているようです!!」
「市街地ではパニック状態となっており、式典どころではありません!!」
「ぬぅ~‥‥コロニー管理の連中は一体何をしていたのだ!?」
オサリバンとしては待ちに待って新造艦の進宙式をコロニー側の不手際で台無しにされた事に憤慨する。
そして、その怒りの矛先はコロニーを管理している局員らへと向けられる。
「ポーラ、早く!!」
「一体何が起こったのよ!?」
オサリバンが自らのプライドが邪魔をして避難に消極的な態度をとっている中、パープルトンとポーラは危険を察知してシェルターへと避難した。
コロニーの住人、新造艦の進宙式の参加者たちが困惑、パニックになっている中、再びコロニーの各所で爆発が起きた。
「再びコロニー内の別の区画で爆発を確認!!」
「もはやこれは事故などではない!!テロだ!!急ぎ、本局及び周辺の次元航行艦へ連絡を入れろ!!」
「室長!!大変です!!」
「どうした!?」
「先ほどの爆発で転送ポート区画に深刻なダメージを受け、転送ポートが使用不能!!」
「なんだと!?」
転送ポートが爆発で使用不能となったことで、コロニー内に居る人々を別の場所へ避難させることが出来なくなった。
「消火活動とコロニー内の住人の避難誘導を迅速にしろ!!これ以上のパニックを抑えるのだ!!負傷者の救助もだ!!」
二度の爆発でコロニー内は完全にパニック状態となり、負傷者も続出する。
管制室はこの非常事態に本局と周囲の次元航行艦に救難信号を送った。
メルセデスからの救難信号を受け取ったのは第二十三管理世界から帰路についているガイアであった。
ガイア 艦橋
「っ!?これはっ!?艦長、コロニー・メルセデスより救難信号です!!」
「救難信号だって!?」
「はい」
「メルセデスで何が起きたのか、詳細を聞いてくれ」
「了解」
ミリアリアはメルセデスへ救難信号を受信した旨と状況を訊ねる。
メルセデスはガイアへ状況を伝える。
「メルセデスにてテロが起きた模様です」
「テロ!?」
「コロニー内の各所で爆発が起き、転送ポートが使用不能となっているようです」
「転送ポートが!!それじゃあ、コロニーの住人の避難が出来ないか‥‥航海長、全速でメルセデスへ急行せよ!!」
「了解」
広大な世界と異なり、コロニーは限られた空間である。
転送ポートが使えなければ、避難するには港にある船を使わなければならない。
しかし、コロニーで爆発と火災が起きている中、民間船舶の入港も制限している筈だ。
火災がコロニー全体に広がる前に救援に赴く必要がある。
勿論、ガイア以外にも管理局の次元航行艦は向かっているだろうが、救援には一隻でも多い方が良いだろう。
ガイアは急ぎメルセデス救援へと向かった。
そのガイアが向かっているメルセデスでは今もなお混乱が続き、事態の収拾に目途がつきそうにない。
折角今日、進宙式する筈だった新造艦のドックにも避難勧告が下された。
艦内に居た作業員たちも急ぎ避難している中、避難している作業員やマスコミ、管理局員らとは正反対の方向へ歩いている一団があった。
周囲の人たちが慌てて逃げている中、その一団は冷静な足取りで新造艦が鎮座しているドックへと向かう。
進宙式の会場はこの爆発騒ぎでマスコミも関係者も逃げ出しており、艦内に居た作業員も次々と避難していた。
無人となった新造艦にその一団は避難指示が聞こえてないかのように乗艦していく。
「こうもあっさりといくなんて何だか拍子抜けだね」
キャプテンは当初、この作戦前には管理局員との派手なドンパチを覚悟していたが、陽動の爆破で皆が警備を放り投げて避難したことに拍子抜けする。
新造艦の艦内に入った一団は機関部に行く者と艦橋に行く者に別れる。
新造艦 艦橋
「これがあたしらの新しい艦になるって訳だ」
「キャプテン。こんなモノが落ちていやした」
「あん?」
部下の一人がキャプテンに一通の白い封筒を差し出す。
キャプテンが封筒を受け取り開けてみると、そこには一枚の紙が入っていた。
その紙には、
『艦名:ボニファス』
と、書かれていた。
恐らく進宙式の時に発表されるはずだったこの新造艦の艦名だったのだろう。
この混乱でオサリバンが落としたのだ。
「ボニファス‥はん、随分とシケた名前をつけるつもりだったんだねぇ~管理局の奴らは‥‥」
この新造艦に命名される筈だった艦名を知り、キャプテンはそれを鼻で笑う。
「今日からこの艦はマルレーン‥‥リリー・マルレーンだ」
キャプテンは管理局が本来付ける艦名とは異なる艦名を新造艦に名付けた。
「タラップを上げな。モタモタしていると邪魔者が来るよ」
「はっ!!タラップを上げろ。船台ロック解放」
「つづいて機関始動」
「はっ!!機関始動」
その一団は着々と新造艦の発進準備を始めた。
「キャプテン、大変です!!発進ゲートが開きません!!」
「どうやらゲートの開口ロックはこの艦ではなく外のコンピューター制御の模様です!!」
しかし、いざ発進準備を行ってみると、肝心の発進口はシャッターで閉ざされていた。
そのシャッターの開口装置はこの艦では制御出来ない。
此処で作戦は失敗かと部下たちはそう思ったが、キャプテンは、
「かまわない。主砲をぶっ放してゲートを吹っ飛ばしな!!」
「えっ?いいんですか?」
「あたしらは管理局員じゃないんだよ。お行儀よく発進する必要なんてない。海賊なら海賊らしい発進と行こうじゃないか」
「はっ!!主砲発射準備!!」
新造艦が海賊と名乗る一団に乗っ取られ、発進準備をしている中、避難用のシェルターでは‥‥
「ねぇ、外の‥新造艦ドックの様子は見ることが出来ないの?」
パープルトンが作業員の一人に新造艦が鎮座しているドックの様子が気になり、ドックの映像が見られないかを訊ねている。
彼女としてはこの爆発で瓦礫が新造艦に落下してどこか傷ついていないか心配なのだ。
「この爆発で、電源も主電源から非常電源に切り替わっているでしょうから、ちょっと難しいかもしれません」
「それでも可能性はゼロではないのよね?」
「は、はい」
「それじゃあ、やってみて」
「わ、分かりました」
作業員はパープルトンの圧に負けて、新造艦ドックの監視カメラ映像をシェルターに設置してあるコンピューターで映像回線を開く。
モニターに映る映像はやはり、非常電源なので、映りは悪いが何とか見ることが出来た。
そこには瓦礫に押しつぶされることなく、健全な姿の新造艦が映し出されていた。
(よかった、被害は無いみたい‥‥)
被害の無い新造艦の姿にホッとする。
だが、映像に映る新造艦はタラップを上げ、機関を動かしている。
非常電源に切り替わった為、海賊が流しているダミー映像ではなく本物の映像が流れだしたのだ。
(えっ?なんで動いているの!?)
(まさか、艦内に居た作業員たちが勝手に動かしているの!?)
「ちょっと、貴方。艦内に居た作業員たちは避難しないで艦内に残っているの!?」
「い、いえ、作業員たちにも避難指示が出ている筈です」
「じゃあ、どうしてあの艦が動こうとしているのよ!?」
「わ、分かりません」
「オサリバン部長に連絡を入れて!!大至急!!」
「は、はい」
パープルトンの様子からこれが異常事態であると判断した作業員は急ぎ、オサリバンと管制室へ連絡を入れる。
「なに!?例の新造艦が勝手に動いている!?」
「そうなんです!!モニターで確認しました!!艦内には誰も乗っていない筈なんです!!」
「そんなバカなっ!?何かの間違いじゃあ‥‥」
「間違いではありません!!」
パープルトンとオサリバンと連絡を取り合っていると、
ドゴォォォォォー!!
シェルターの近くで轟音と振動が起きる。
「な、なに!?」
「新造艦が主砲を撃ってゲートを破壊しました!!」
「なんですって!!」
「新造艦が動き出しています!!」
「急いで管制室に連絡を入れて!!新造艦が奪われたのよ!!」
「は、はい」
流石に作業員でもこの事態は異常なのだと理解し、作業員は急ぎコロニー管制室へ連絡を入れる。
「なにっ!?例の新造艦が奪われただと!?」
『そうなんです!!奪い返してください!!次元航行艦は!?港に停泊していないのですか!?』
「それが、艦政部造艦科のオサリバン部長より、一隻でも多くマスコミ関係者の船を入れるように事前に言われていたので、管理局の艦はコロニーを離れており、周辺海域の哨戒に出ています」
『なんですって!!』
「で、ですが、先ほど本局と周辺の次元航行艦へ救難信号を出したので、すぐに引き返すと思います」
『それなら、すぐに呼び戻して!!』
パープルトンは相手の鼓膜が破れるくらいの大声で叫んだ。
リリー・マルレーン 艦橋
「外に居るコッセルにこちらの状況を教えてやりな。ついでに外の状況も知りたい。そろそろ、あたしらの行動にも気づく奴が出るかもしれないからね」
「へい」
キャプテンはコロニーの外に居る部下に自分たちが新造艦を奪った事とコロニーの外の状況を訊ねた。
コロニー・メルセデス 周辺海域
ニーベルング 艦橋
「副長、キャプテンより連絡がありました」
「それで、キャプテンは?」
「無事に目的のブツを手に入れたようです」
「流石はキャプテン‥‥いや、シーマ様だ」
「キャプテンから、外の状況を知りたいと言ってきております」
「副長、コロニーからの無線を傍受。連中は周辺の次元航行艦を呼び寄せている様です」
「管理局の次元航行艦三隻を確認!!」
「よし、キャプテンに返信。『管理局の次元航行艦が三隻、コロニーの周辺をうろついている。そちらは此方で対処する』と‥‥」
「了解」
海賊の副長、デトローフ・コッセルは海賊団でのキャプテンであるシーマ・ガラハウへ通信を送った。
リリー・マルレーン 艦橋
「キャプテン。副長から返信です」
「コッセルは何と言っている?」
「コロニー周辺に管理局の次元航行艦が三隻うろついているみたいでそちらは副長が処理するみたいですぜ」
「よし、本艦はこのままコロニーを出て、さっさとトンズラするよ」
「へい!!」
コロニーから出ての戦闘はまだ乗員が揃っている訳ではないので、自分たちには不利なので、コロニーに集まりつつある管理局の次元航行艦の相手は副長のコッセルに任せ、自分たちはこの海域から退避する。
ニーベルング 艦橋
「よし、行くぞ。慎ましくな」
「偽装・装甲分離準備」
「主砲、一番~三番起動」
「主砲照準、左舷前方、管理局艦。発射と同時に偽装・装甲を分離。機関最大‥‥さあて、これで外も面白くなるぞ」
「主砲発射準備完了!!」
「撃て!!」
ニーベルングが放った主砲はメルセデス救援に駆け付けた管理局の次元航行艦の後部に命中。
いきなりの攻撃にその次元航行艦は成す術無く撃沈された。
コロニー・メルセデス 管制室
「アンテルム被弾!!」
「続いてホイヘンスも被弾!!」
「不明艦捕捉、数一。距離、2300」
「なんで、そんな位置に!?」
「貨物船に偽装していた模様です」
襲撃して来た海賊船は当初、民間の貨物船に偽装していた。
メルセデス周辺には今日の進宙式のために数多くの民間船舶が出入りしており、通常では考えられないくらい管制室は多忙となっていた。
その為、入港の順番さえも決めるのにオペレーターたちは一杯、一杯であった。
ただし、オサリバンの指示でマスコミ関係、管理局関係の船舶は優先的に乗り入れており、不審な貨物船がメルセデス周辺の海域に投錨していても不思議には思わなかった。
警備に関して人数が多すぎて目が行き届いていなかった。
ガイアの進宙式が必要最低限の人員で行われたのはこうした警備態勢を確実にするためであった。
しかし、ガイアの進水式と大きく差を見せつけたかったオサリバンの見栄が今回の混乱を生み出してしまった。
「海賊か?」
「映像、出ます」
管制室のメインモニターには管理局の次元航行艦を二隻沈めた海賊の船と思われる艦の姿が映し出される。
「な、なんだ?あの艦は!?」
管制室に居た管理局員たちはモニターに映し出された不明艦の姿を見て困惑する。
「艦首部は管理局の次元航行艦とそっくりではないか!?」
その不明艦は艦首の部分が今、管理局で使用されている次元航行艦とそっくりな造りをしていたのだ。
「まさか、鹵獲されたのか?」
「ライブラリー照合‥‥ダメです。艦船番号が消されているので詳細不明」
管理局の次元航行艦が海賊に鹵獲・改造されたのかと思い、艦船番号を照会するが、番号が既に抹消されているのか、管理局のどの艦が鹵獲されたのか分からなかった。
「マラルディ、不明艦の迎撃にあたります!!」
ガイアの前にメルセデスへ救援に赴いた管理局の次元航行艦三隻の内、二隻が撃沈され、残る一隻が不明艦の迎撃へと向かう。
しかし、改造を施され、主砲の数が従来の次元航行艦よりも多く、なおかつ速射性も相手が優れているのか迎撃にあたった次元航行艦はあっという間に被弾した。
「マラルディ被弾、中破した模様!!」
「くっ、これで次元航行艦は壊滅か‥‥ガイアはまだ到着せんのか!?」
メルセデスからの救難信号を受信して返信し、救援に向かった管理局の次元航行艦は、アンテルム、ホイヘンス、マラルディ、そしてガイアの四隻でその内、既に三隻が戦闘不能となった。
「このままでは新造艦は奪われ、襲撃して来た海賊にやられ放題だぞ!!」
第二十三管理世界での出来事、そして今回、此処メルセデスで起きた新造艦強奪事件‥このまま犯人を逃して新造艦を奪われてしまえば折角の管理局へのプラスイメージも失笑か嘲笑の的になってしまう。
頼みの綱は此処に向かっているガイアだけとなってしまい、管制室の室長はガイアの到着を一日千秋の思いで待った。
「ガイア、メルセデス管制海域に到着しました!!」
室長の思いが通じたのかガイアがようやくメルセデスの近海までやって来た。
「ガイアに至急、現状を伝えろ!!管理局の威信にかけて何としてでも新造艦を取り戻すのだ!!」
「了解」
メルセデスからガイアに向けて、近況が伝えられた。
今回、管理局の新造艦を奪った海賊のキャプテンはガンダムシリーズに登場したシーマ様こと、シーマ・ガラハウです。
ガンダムシリーズのシーマ様と異なり、彼女は元管理局の魔導師と言う設定となっています。
【挿絵表示】