第二十三管理世界における幹部局員の不正とそれに連鎖して起こった大規模なデモ。
マイナスイメージがつきまとう管理局の評判を払拭しようとコロニー・メルセデスで行われる予定だった新造艦の進宙式。
しかし、その新造艦が謎の一団に奪われてしまう事態が起きた。
この進宙式を中継しようと集められた各世界のマスコミ、管理局の関係者たちがごった返しているメルセデスは新造艦強奪の為の陽動で起きた爆発にてメルセデス内は大混乱となる。
混乱の中、管理局側も新造艦をみすみす強奪されては管理局の威信にかかわると判断し、必死に手を打つも相手の戦力が上で悉く失敗に終わる。
そんな中、クロノが艦長を務めるガイアが現場となっているコロニー・メルセデスに到着した。
ガイアがメルセデス近海に到着した頃、メルセデス内にあるシェルターでは、
「いやぁ~私の艦が‥‥」
新造艦の設計・建造指揮を執っていたパープルトンは強奪された新造艦の姿を見て悲鳴をあげる。
その後、何を思ったのかシェルターを出ていく。
「ちょっと!!ニナ!!」
彼女の背後からパープルトンの親友であるポーラが声をあけるが、パープルトンはその声を無視して急ぎ管制室を目指して行った。
ガイア 艦橋
「コロニー・メルセデスに間もなく到着」
「周辺の映像をモニターにまわせ」
「了解」
艦橋にあるメインモニターにはメルセデスの外の映像が映し出される。
メルセデスの外では先ほどまで管理局の次元航行艦と新造艦強奪集団の仲間の艦との戦闘があり、民間船舶は戦闘に巻き込まれてはたまらないとメルセデスから逃げ出そうとしており、メルセデスの外部でも混乱は起きていた。
「これはひどいな‥‥」
チンクがメルセデス外部での混乱にポツリと感想を述べる。
「民間船舶に被害は?」
「今のところ、民間船舶に被害は確認されていません。ですが、次元航行艦のアンテルムとホイヘンスが撃沈され、マラルディが戦闘不能となっている模様」
クロノは民間船舶に被害が出ていないか確認をとる。
管理局の次元航行艦に被害は出ているが、幸いなことに民間船舶に被害は出ていない。
「‥‥」
「‥‥」
しかし、味方の次元航行艦が二隻撃沈されている状況にクロノ、フェイトの表情は硬い。
「敵の数は?」
「本日、メルセデスで進宙式を迎える予定だった新造艦、外部では次元航行艦に似ている武装艦一隻、計二隻です」
「メルセデスに敵の詳細なデータをこちらに転送してもらってくれ」
「了解」
クロノは敵の艦影を知るためにメルセデスに今日、進宙式予定だった新造艦、メルセデス外部で管理局の次元航行艦と戦闘を行った武装艦についての詳細を求めた。
「艦長、メルセデスより返信です。『武装艦についての詳細は送信可能なるも新造艦の詳細は機密につき、送信不能』だそうです」
「奪われて機密もないだろうが‥‥」
メルセデスからの返信は襲撃して来た武装艦についての情報は送れるが、新造艦についての情報はクロノに与えられないと言う判断が下された。
そんなメルセデスからの返信を聞き、クロノは呆れる。
既に強奪されてしまったのだから、機密なんてあったものでもない。
出し惜しみをして逃げられでもしたらそれこそ目も当てられない。
クロノがメルセデスからの返信に呆れている頃、その新造艦の艦橋では、
リリー・マルレーン 艦橋
「気密正常、機関部異常なし」
「リリー・マルレーン、全て異常なし。ただし、乗員の人数が少ないので、現状での戦闘はあまりオススメ出来やせんぜ、キャプテン」
「後方よりニーベルング接近」
「キャプテン、ニーベルングより通信」
「通信回路をひらけ」
「了解」
『流石ですね、キャプテン。まさか、易々と管理局の新造艦を奪っちまうなんて』
「こっちは管理局から退職金を戴いていないんだ。お前もそうだろう?コッセル」
『ええ』
「だから、あたしらの退職金代わりにこの艦を戴いたのさ」
『管理局にとってはまさに赤字級の退職金ですね』
「あたらしらを散々こき使ってくれたんだ‥‥これぐらいのサービスは当然さ」
『副長、後方より次元航行艦と思われる熱源を探知』
『まだ居たのか‥‥ん?艦影がちょっと違うな‥‥まさか、先日就航したもう一隻の新造艦か?』
『そのようです』
『キャプテン、あの新型艦は我々で相手をしやす。キャプテンは急ぎこの海域からの離脱を‥‥』
「おい、おい、あたしに尻尾を巻いて逃げろって言うのかい?」
『そちらの艦はまだ乗員の数が不足しているでしょうし、武装、機関についてもまだまだ訓練が必要かと思いますが?』
「やれやれ、お前さんには全てお見通しってことか‥‥」
『ハハ‥‥キャプテンとは長い付き合いですからね』
「まぁ、癪ではなるが、お前さんの言う通りさ。格好悪いが、あたしらは先にトンズラさせてもらう。先に例の合流ポイントでまっている。いいかい、死ぬんじゃないよ」
『もとよりそのつもりです』
ニーベルングに居る副長のコッセルとの通話を終えると、
「機関最大出力!!さっさとこの海域からトンズラするよ!!」
「へい!!機関最大出力!!」
新造艦‥リリー・マルレーンは速度を上げてこの海域からの離脱を図る。
ガイア 艦橋
「敵艦を捕捉、モニターに映します」
ガイアも速度を上げて奪われた新造艦、敵の武装艦に追いつこうとする。
そして、ようやくその姿を捕捉した。
「二隻の諸元をデータベースに登録せよ。以降、新造艦をアノニマス1、武装艦をアノニマス2とする」
名前が無いと不便なので、クロノは便宜上の名前をつける。
「アノニマス1、速度を上げています!!当海域を離脱する模様!!」
「いかん、逃がすな!!最大射程で攻撃用意!!」
クロノはアノニマス1を逃すまいと長距離射程で砲撃しようとする。
「ん?艦長、メルセデスからの通信です」
「こんな時に?まぁ、いい通信回路を開け」
クロノとしては先ほど断れた新造艦の情報を得られるのではないかと思った。
しかし、通信内容はクロノが思っていたモノと異なり、尚且つクロノを始めとしてガイアの艦橋メンバーが呆れる内容であった。
『追跡している次元航行艦!!いい!?新造艦へは絶対に発砲しないで!!それと接舷ハッチを強行接舷するような強引な手段で船体に傷なんてつけたらタダじゃおかないわよ!!』
ガイアに通信を送って来たのはシェルターから管制室に移動したパープルトンだった。
「は?」
「えっ?」
「ん?」
パープルトンの通信内容を聞いてクロノを始めとするガイアの艦橋メンバーは唖然とする。
「失礼だが貴官は?」
一応、パープルトンは管理局の制服を着ているので、管理局員である事は分かるが所属も名前も知らないので、クロノはパープルトンの所属と名前を訊ねる。
『艦政部造艦科のニナ・パープルトン。あの新造艦を設計した造艦技師よ』
「それで、パープルトン技師。先ほどの言葉だが発砲を許可せず、強行接舷も許可せずとはどういう事ですかな?」
『言葉の通りよ!!あの艦を傷つけるような真似は絶対に許さないわ!!無傷のままあの艦を取り返して!!』
(何を言っているんだ?この女は?)
(そんなの無理に決まっているじゃない)
通信が繋がっているので、口には出さないが、チンクもフェイトもパープルトンの指示に呆れる。
彼女の指示はあまりにも無理難題だ。
無傷のまま新造艦を取り返せなんて‥‥
新造艦を強奪した連中に停船命令を出して相手がそれを聞き入れて強行ではない、正規の手順で接舷して、艦内を制圧してメルセデスへ回航する。
それでなければ、あの新造艦を無傷で取り返すなんて不可能だ。
それに停船命令を聞くような連中なら最初から新造艦を強奪なんてしない。
(まぁ、パープルトンはんの言う事も分からない訳ではないが、このまま犯罪者に自分が造った艦が奪われて、その後に悪用されて大勢の被害者が出るよりは、撃沈した方がええのに‥‥)
(そんな事も分からんのか?あの人は‥‥?)
一方で、コウランはパープルトンと同じ技術者として彼女の言う事も一部は理解できたが、このまま強奪されて、後々に悪用されて大勢の被害者を出すくらいならば今この場において撃沈もやむを得ないと思いパープルトンの言動にやはり呆れていた。
「パープルトン技師。自身が設計した艦を傷つけられたくないと言う貴女の思いは分かります。ですが、現状そのような事は不可能です。敵の手にみすみす渡すくらいなら撃沈も視野に入れなければなりません」
『ダメよ!!撃沈なんて!!絶対にダメ!!ましてや貴方の艦であの艦を傷物にするなんて!!』
(ん?どう言う意味だ?)
パープルトンとしては毛嫌いしているヴェルタンとヴェルニーが設計した艦に自分が設計した艦を傷物もしくは撃沈なんてされたらたまったものではない。
そんな彼女の心情なんてクロノが知る筈もなく、パープルトンの言葉にクロノは眉をひそめる。
まさか、艦政部造艦科の人間関係がこの件に影響しているなんてクロノは知る筈もない。
もっともヴェルタンとヴェルニーもオサリバンやパープルトンのプライドやライバル心なんて知りもしないし、眼中にないだろう。
一方的に突っかかって来る同僚と頭の固い上司‥‥せいぜいそれくらいの認識だ。
「情報も与えず、攻撃をするな、傷つけるな、無傷のまま奪還しろ、そんな無理難題を吹っかけないでいただきたい。これは訓練ではなく実戦なんですよ」
流石のクロノもパープルトンの言動には呆れと共に怒りを覚える。
『兎に角!!あの艦は無傷のままメルセデスに持ってきて!!いい!!無傷のままよ!!』
パープルトンはそう言って一方的に通信を切ってしまった。
「‥‥艦長、さっきの話ですが、どうしますか?」
フェイトがクロノに声をかけ、新造艦の対処を訊ねる。
「副長。我々があんな無理難題に付き合う義理はない。奪還が不可能と判断したら、攻撃して撃沈する」
クロノはパープルトンの指示を一蹴する。
「ですが、後から艦政部造艦科より抗議が来たら‥‥」
「先程の通信内容は記録してあるのだろう?」
「はい」
「だったら、それを証拠にすればいい。あの人がいかに無理難題を突き付けたのか、証明できる」
「そうですね」
「本艦はそのままアノニマス1、アノニマス2を追尾!!勿論、相手が此方の指示に従わず、逃亡、攻撃をしれくれば発砲も許可する!!」
クロノはパープルトンの頼みなんて無視して、新造艦と武装艦を攻撃してでも停船させ、最悪の場合は撃沈するつもりでいた。
ニーベルング 艦橋
「後方より、管理局所属の次元航行艦、接近!!」
「流石は新造艦、なかなか足の速い艦のようですね」
「管理局艦より停船命令が送られています!!」
「無視しろ」
しばらくの間、ガイアからは停船命令が送られてきたが、そんな命令に従うくらいならば、そもそも新造艦の強奪何て行わないし、海賊なんてやっていない。
すると、
「管理局艦、発砲!!」
後方からガイアのジャスティス・カノンが迫って来る。
クロノが逃亡と見なして発砲命令を出したのだ。
しかし、距離があった為かガイアのジャスティス・カノンはニーベルングにもリリー・マルレーンにも命中しなかった。
「機雷放出!!連中の足を鈍らせてやれ!!同時に上げ舵三十五!!機関出力最大!!」
「了解!!機雷投下!!」
ニーベルングから機雷が放出されると、それはガイアの前方に展開する。
自分たちは海賊なので、管理局の質量兵器所持禁止なんて法律は関係ない。
故に質量兵器である機雷を所持して使用しても何ら問題はない。
ガイア 艦橋
「アノニマス2、何かを船外へ放出しています!!」
「撃ち方止め!!」
クロノは相手の出方を見るために攻撃を一時中止する。
「あっ、あれはっ!?」
第九十七管理外世界におけるこれまでの経験からアノニマス2が船外へ放出しているモノの正体をクロノは瞬時に見破る。
「上げ舵と同時に面舵一杯!!」
「了解、上げ舵、面舵一杯」
レイセンがクロノの指示通り操艦桿を操作する。
「艦長、もしかしてあれはっ!?」
「ああ、機雷だ!!」
同じくフェイトもアノニマス2が船外へ放出しているモノの正体に気づく。
クロノは機雷を回避しようとするも一機の機雷がガイアの艦首部に命中する。
「うわっ!!」
「くっ‥‥!!」
「きゃぁっ!!」
一機の機雷であるが、ガイアに大きな衝撃が起こる。
「被害は!?」
「艦首、第一装甲板破損!!」
「ネオ・アルカンシェル発射口装甲板の一部に歪みが発生!!」
「発射口の装甲板が歪んだとすると‥‥」
「ああ、ネオ・アルカンシェルは使用不可能だ‥‥アノニマスの動きは!?」
ガイアが機雷で被弾したので、これをチャンスと思い、ガイアに向けて発砲してくるかと思いきや、
「本艦より11時方向、上方四十度、距離五百‥反撃せずに逃走を図っています」
「敵は徹底的に逃げにかかっているな‥‥」
敵は反撃には移らずにガイアとの距離を開けようとしている。
「このまま追えるか?」
「大丈夫だ、艦長。敵の航跡はトレースしている」
レイセンが引き続き、敵を追尾するのに問題がない事を告げる。
「よし、本艦はこのままアノニマスの追跡を続行する。本局にもメルセデスの救援とアノニマスの件を伝えてくれ」
「了解」
ミリアリアは急ぎ、本局へこの件を報告し、メルセデスには引き続きガイアは追跡を続行する旨を伝える。
時空管理局 本局 リンディ執務室
「と、統括官!!大変です!!」
本局に居たリンディの下に秘書官が慌てた様子で入って来る。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「コロニー・メルセデスで‥‥」
「メルセデス?ああ、そう言えば、今日、何かイベントをやるって言っていたわね」
リンディも本局の統括官と言う立場からメルセデスで行われる進宙式に招待状が届いていた。
しかし、はやて同様、リンディも多忙な身だったので、仕事に支障をきたす為、新造艦の進宙式への参加は見送っていた。
「それで、メルセデスで何かあったの?」
「はい。何者かの手によって新造艦が強奪された模様です」
「なんですって!!それは間違いないの!?」
「メルセデスからの緊急伝なので、間違いないかと‥‥」
「それで、状況は!?」
「現在、ガイアが新造艦の追跡を行っている模様ですが、メルセデス外部にも協力者と思われる武装艦も居たらしく、既に三隻の次元航行艦が戦闘不能となっており、内二隻が撃沈された報告も上がっています」
「‥‥」
秘書官の言葉にリンディは唖然とする。
「‥メルセデスの被害は?」
「内部で大規模な爆破が起きて、火災が起きており、現在消火活動中であり、負傷者の集計も混乱を極めており、まだ正確な人数は明らかになっておりません。メルセデスとガイアからはメルセデスへの救援を求める報告が上がっています」
「急ぎ、周辺の次元航行艦にはメルセデスの救援へ向かってもらって頂戴」
「承知しました。統括官、それで現在逃走している新造艦については、追跡をしているガイアに増援を送りますか?」
「‥‥」
秘書官の問いにリンディは暫し考える。
「‥‥いえ、メルセデスの方が被害は甚大みたいだし、人員もそちらが必要な筈よ。救援は全てメルセデスに向かわせて」
武装艦はすでに二隻の次元航行艦を沈めている程の強力な艦である事が伺える。
そんな相手に対して大量に次元航行艦を派遣すれば一体何隻の艦が返り討ちに遭うか分からない。
それならば強奪された新造艦と武装艦を追うよりも多数の民間人が被災したメルセデスへ救援に向かわせた方が管理局の評判を少しでも下げずに済むのではないかと思った。
「ですが、大丈夫でしょうか?情報では既に相手は二隻も管理局の次元航行艦を撃沈しておりますが‥‥」
「クロノなら大丈夫よ。それにあの子が指揮をする艦も新造艦だもの」
「そ、そうですね」
リンディがクロノの下に増援を送らなかったのはガイアも新造艦であると言う事、クロノの次元航行艦乗りとしての経験を見込んでの事であった。
ニーベルング 艦橋
「追跡艦の様子は?」
コッセルはオペレーターにガイアの様子を訊ねる。
「俺たちが放った機雷に気づき回避行動を取りやした」
「まさか、機雷に気づくとはな‥‥」
質量兵器に疎いと思われていた管理局がまさか機雷の存在に気づくとはコッセルとしては予想外だった。
「まぁ、追跡相手である我々が放出したモノなんで、不審がるのも当然かと‥‥」
「それで、ダメージは与えられてはいないか?」
「いえ、一基だけ被雷しやしたぜ。艦首にかすり傷ですが、ダメージを与えて、足を鈍らせやした。副長はまだ奴らは追ってくると?」
「連中としては完成したばかりの新造艦を奪われたんだ。面子にこだわる管理局としては絶対に取り戻したい筈だ」
「は、はぁ~‥‥」
「予測は常に最悪の想定をしておくものだぞ。特に戦場ではな」
コッセルは長距離レーダーでガイアの様子を窺う。
ガイアの針路を見ると、ガイアは自分たちの追跡を諦めている様子は無く、未だに自分たちの跡を追いかけて来る。
「確かに‥‥」
「とは言え、キャプテンたちとの合流ポイントまで奴らを案内する訳にはいかない」
コッセルはキーボードを操作して周辺宙域の海図をモニターに映しだす。
「‥‥航海長、一時針路変更。ポイントDY003に向かえ」
「アイサー。針路変更、ポイントDY003」
「予定到着時刻は?」
「あと二時間程です」
「観測手は他にも管理局の増援が来るかもしれん。警戒を怠るな」
「了解」
ニーベルングはガイアからの追撃を利用して、ガイアをある場所まで誘い込んだ。
それから二時間後‥‥
ガイア 艦橋
「アノニマス2を捕捉しました」
「アノニマス1の反応は?」
「見当たりません。ですが、この海域はデブリが多い為、それに紛れているのかもしれません」
「方向と距離は?」
「左舷前方三十度、距離八千」
「よし今度こそ、此処で止めるぞ。戦闘用意」
「戦闘用意。各砲塔へ動力伝達」
「航海長、デブリが多い。操艦には十分に気を付けてくれ」
「了解」
クロノはこの宙域で新造艦を奪還、もしくは撃沈してこの事態の収拾をつけようと意気込んだ。
ただ、追跡相手が逃げ込んだ場所が小惑星やアステロイドが多いデブリ地帯だった。
敵はこのデブリを利用してガイアを一気に引き離そうとしているとクロノは思っていた。
ニーベルング 艦橋
「副長の予測通り、奴らは追いかけてきやしたね」
「管理局の連中はしつこいからな‥此処で連中を仕留めるぞ。総員戦闘配置」
「管理局艦との距離、六千五百‥‥距離、六千。速度を上げて付いてきやす」
「アンカー撃て、同時に機関停止。囮デコイを二発撃て‥タイミングを誤るなよ」
ニーベルングは比較的大き目な小惑星にアンカーを撃ち込む。
機関を停めていたので、ニーベルングの船体は反動で大きく揺れ、その勢いのまま小惑星の周辺を回る。
その最中にデコイを二発放出した。
ガイア 艦橋
ニーベルングのこの行動に追跡していたガイアは未だに気づかずにいた。
しかもニーベルングは機関を停めた事で、ガイアのセンサーは本物のニーベルングをロストしていた。
尚且つ、この周辺はデブリが多い地帯なので、ただでさえレーダー、センサーの感度が落ちていた。
なので、ガイアのレーダーがニーベルングの放ったデコイを見間違えるのも仕方がなかったのだ。
「目標、針路そのまま距離四千七百」
「アノニマス1の反応も探知しました。やはり、デブリの中に潜んでいた模様」
「‥‥アノニマスに何か変化は?」
「ありません。針路、速力共にそのままです」
(相手もこちらの追跡に気づいている筈‥‥それなのに何故、なんのリアクションも起こさない)
フェイトは追われている筈の新造艦、武装艦の行動に違和感を覚える。
「艦長、アノニマスの行動ですが、妙ではありませんか?」
「ああ。針路は兎も角、速力も上げないとは逃げ方としては確かに妙だ‥‥はっ!?ま、まさかっ!?」
「あれは囮!?」
クロノとフェイトは此処でようやく自分たちが追いかけているのは追跡していた新造艦でも武装艦でもない事を悟る。
「アノニマス、反応消失」
ニーベルングが撃ったデコイはやがてエネルギー切れで停止した。
「周囲の索敵を急げ!!あのデコイを囮にしてこの海域から逃げていればいいが、これを機に仕掛けてくる可能性もあるぞ!!」
クロノは追跡相手からの逆襲もありえると判断し、一刻も早く相手の位置を特定するように指示を出す。
ニーベルング 艦橋
「機関始動!!前部ミサイル発射管全門発射準備!!主砲一番~三番砲撃用意!!照準、前方管理局次元航行艦!!」
質量兵器である機雷を搭載している様にニーベルングには同じく質量兵器であるミサイルも搭載されていた。
コッセルは前部全ての兵装の照準をガイアへと向けた。
ガイア 艦橋
「本艦後方、五時の方向にアノニマス2の反応を探知!!距離五百!!」
「なにっ!?いつの間に!?」
「後ろ!?」
後方から出現したアノニマス2にクロノもフェイトも驚愕する。
「アノニマス1の反応は!?」
「ありません!!」
(やはり、アノニマス1は逃げた?)
(新造艦だし、奪った連中も訓練なしに新造艦を自分の手足のように扱うには無理があったのかな?)
(ううん、此処まで巧妙な罠を張っている連中だから油断は出来ない)
フェイトは武装艦であるアノニマス2が居たのだから、強奪された新造艦もどこかに潜んでいると判断していた。
しかし、実際は当初フェイトが予想した通り、乗員の人数と訓練不足の影響で既にこの周辺から逃亡していた。
だが、彼らの周到な行動にフェイトは完全に裏の裏を読み過ぎて空回りしていたが、フェイトがそれを知る由はなかった。
その間にもニーベルングからの攻撃がガイアに迫っていた。
「機関最大!!右舷の小惑星を盾に回り込め!!」
ニーベルングのミサイルがガイアに当たらず小惑星に命中しても吹き飛ばされた瓦礫がガイアの船体に当たり、衝撃を与える。
「航海長、小惑星の凹凸を利用して直撃を回避しろ!!」
「りょ、了解」
「戦術長、迎撃だ!!」
「後部第三主砲撃て!!」
(これが通常の艦だったらヤバかったな)
管理局のこれまでの艦、量産型のMS機関搭載艦は後部には武装を搭載していないので、相手に後ろをと取られたら状況的に不利になる。
ガイアは後部にも主砲を一基装備しているので、迎撃と反撃をすることが出来る。
しかし、いくら攻撃手段があっても現状、不利なのは変わらない。
「くっ、第三主砲があっても後ろをとられた状況ではどうにもならない。回り込めないのか?」
「ちょっとそれは難しい。連中はバカスカ撃ってきている。今は回避する事で精一杯だ。艦長」
操艦技術が優れているレイセンだからこそ、被弾なく粘っているのだが、そのレイセンの腕をもってしても今は逃げるだけで精一杯な状況だった。
ニーベルング 艦橋
「管理局の奴らなかなか粘りやすね」
自分たちが有利な状況下にもかかわらず未だにガイアを仕留めきれないこの状況。
通常ならば、この状況下に焦りもしくはイラつくのだろうが、ニーベルングの乗員たちは冷静だ。
恐らくかなりの修羅場を潜り抜けて来た猛者たちなのだろう。
「だが、艦は足と仕留められたら終わりだ。奴がへばりついている小惑星に向けてミサイルを撃ち込め!!艦に命中しなくてもいい!!砕いた岩のシャワーをたっぷりと浴びせてやれ!!船体が埋まるくらいにだ」
「はっ!!」
「フフ、折角、進宙したばかりでお気の毒ではあるがな」
コッセルはニヤリと笑みを浮かべつつ皮肉めいたセリフを吐く。
ニーベルングは時間差をおいてミサイルを連射した。
ガイア 艦橋
「後方より、高速飛来物接近!!」
「ミサイルだ。しかし‥‥」
ミサイルの予想弾道を見ると、どれもガイアへの直撃コースではない。
「直撃コースではない‥‥連中は一体何を‥‥」
直撃コースではないミサイルを何故撃って来たのか?
牽制のつもりなのか?
クロノが判断に戸惑っていると、ミサイルが小惑星に着弾して岩がガイアに降り注ぐ。
「くそっ、これが狙いだったのか‥‥離脱する。上げ舵十五度!!」
「高速飛来物、第二波接近!!」
「減速!!ミサイルか瓦礫に押しつぶされるぞ!!」
すると、ガイアの正面に大きな岩塊が落ちて来て針路を塞いでしまった。
「艦長、不味いぞ。今ので、いくつかスラスターをやられた。これでは身動きが取れん」
「第一主砲と第二主砲で前方の岩塊を吹き飛ばすか?」
「いや、吹き飛ばしても岩肌にぬって同じ量の岩塊を周囲にまき散らすだけだ」
ネオ・アルカンシェルは発射口の破損で使用不可能。
ガイアの前方には大きな岩塊があり、針路を塞がれている。
動けない艦など射的の的と同じだ。
武装艦は、次は必ず直撃コースのミサイルを放ってくる。
今は恐らくミサイル発射管にミサイルを装填しているのだろう。
次のミサイル発射までに何とか此処から脱出しなければならない。
「航海長、右舷のスラスターはまだ使用できる?」
すると、フェイトがレイセンに右舷のスラスターの状態を訊ねる。
「大丈夫だ。使える。しかし、それで出て行っても的になるだけではないか?」
「ううん。右舷側のスラスターで脱出すると同時に右舷に第一~第三主砲を小惑星に向けて発砲して」
「えっ?フェイト、それはどういう事だ?」
チンクが小惑星に向けて発砲する事の意味をフェイトに訊ねる。
「スラスターの推進力と爆発で起きた爆風と衝撃波で一気に船体を押し出す」
「しかし、そんな事をすれば、ガイアの船体に岩を浴びる事になってダメージを‥‥」
ミリアリアがフェイトの指示通りの行動をとった際のリスクを述べる。
「でも、このまま何もせずにこの場に居たらミサイルの餌食になる。それなら、船体にダメージを受けても助かる方法と取るべきだよ‥‥艦長はどう思いますか?」
フェイトはこの状況下からの打破を提案し、最終的な判断はクロノへと託す。
「‥‥いいだろう。副長の作戦を実行する。航海長、右舷全スラスター噴射準備。戦術長、第一~第三主砲、右舷へ射撃用意。タイミングを合わせるんだぞ」
「右舷スラスター一斉噴射準備」
「第一~第三主砲、右舷へ旋回。スラスター噴射と同時に一斉射」
ガイアの主砲が右舷側の小惑星に向けて旋回する。
右舷のスラスターも一斉噴射の準備を行う。
ガイアが座礁した小惑星からの脱出準備を行っている時、
ニーベルング 艦橋
「さて、とどめだ。ミサイル及び前部全砲塔一斉射用意」
「ですが副長。岩が邪魔で直撃はあまり期待できやせんぜ」
「撃沈出来なくとも追撃不能にすればいいだけの事だ」
コッセルとしてはガイアを撃沈しようが、出来なかろうが関係なく、キャプテンとの合流ポイントまで管理局の艦を連れてこなければいいだけの事だった。
そして、ニーベルングの前部の兵装がガイアの居る小惑星へと向けられた。
ガイア 艦橋
「右舷全スラスター一斉噴射準備完了」
「第一~第三主砲、一斉射撃準備完了」
「よし、行くぞ‥‥総員、衝撃に備え!!右舷全スラスター一斉噴射!!」
脱出準備が整い、まずガイアの右舷側のスラスターが噴射する。
「主砲発射!!」
スラスターの噴射と同時に第一~第三主砲が一斉に小惑星に向けてジャスティス・カノンが放たれる。
すると、ガイアの艦内に凄まじい衝撃が起こる。
物は散乱し、乗員は通路の壁や床に叩きつけられる者も居た。
船体にダメージを負ったが、フェイトの狙い通り、ガイアはスラスターの推進力とジャスティス・カノンによる爆風と衝撃波によって岩塊を撒き散らしながら小惑星から脱出した。
「左舷回頭三十度!!アノニマス2を討つぞ!!」
「主砲回頭!!目標、アノニマス2!!」
クロノとしてはただ脱出するだけでなく、この機を利用して武装艦を仕留める事にした。
「主砲、一番、二番、撃て!!」
ガイアからニーベルングに向けてジャスティス・カノンが放たれた。
ニーベルング 艦橋
ニーベルングの艦橋では、管理局艦が埋まっている小惑星の一角が突如、爆発をして岩塊と共に管理局艦が浮上すると、自分たちの方向に艦首を向けて来た。
「ま、まさかっ!?」
「よもやあの状況下から生き返るとは‥‥」
「管理局艦、接近してきます!!」
コッセルたちニーベルングの乗員は絶対的有利に居た筈にもかかわらず、一転して仕切り直し‥いや、事態が好転した事に驚愕する。
「か、回避!!取舵一杯!!」
コッセルは回避行動を取らせるが、既に手遅れであった。
ガイアから放たれたジャスティス・カノンはニーベルングの右舷艦橋下部に命中した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」
ニーベルングは誘爆を繰り返し、やがて爆発は艦全体へと広がりニーベルングの艦体は粉々に吹っ飛んだ。
ガイア 艦橋
「アノニマス2の撃沈を確認!!」
「アノニマス1の反応は?」
「‥‥やはり、この周辺にアノニマス1の反応はありません」
「くっ、逃げられたか‥‥」
フェイトもクロノも何処からか新造艦が、ガイアを狙っているかもしれないと思っていたが、新造艦はやはり既に何処かへと逃亡しており、新造艦を奪った連中はあの武装艦を囮にしていたようだ。
新造艦をみすみす強奪されて、更には逃亡された事にクロノは悔しがる。
「アノニマス2から脱出者は確認できる?」
フェイトはニーベルングからの脱出者の有無を確認する。
もし、脱出者が居れば、その者の身柄を確保してその者たちの正体を突き止めたかった。
「‥‥いえ、脱出者は確認できません」
「そう‥‥」
しかし、残念ながらニーベルングからの脱出者は居らず、それはニーベルング乗員全員の死亡が確認された事を意味していた。
「艦長、この状況下ではこれ以上の追跡は‥‥」
今から新造艦を追いかけようにもその新造艦が何処へ逃亡したのか完全に見失ってしまったので、追跡は不可能。
それに今のガイアも岩塊を船体に浴びてダメージを負っているので、追跡を出来るような状態ではない。
フェイトもガイアの状態、新造艦を完全にロストしている状況下での追跡は不可能だと思っていた。
「ああ、分かっている。負傷者の手当てと艦の応急修理にかかれ‥それと機関長」
「はいな」
「すまないが、アノニマス2の残骸を調査してくれ」
「了解や」
小惑星からの脱出ではガイアの艦内にはすさまじい衝撃と振動があったので、負傷者が出ていてもおかしくない。
クロノも現状、これ以上の強奪された新造艦の追跡は不可能であると十分に理解している。
なので、現状新造艦を奪った連中の手掛かりは撃破したニーベルングの残骸調査にかかっている。
クロノは機械に詳しいコウランを海賊船の時と同じ様にニーベルングの残骸調査へと向かわせた。
「通信長」
「はい」
「本局とメルセデスへ状況報告をする。まずはメルセデスへ通信を入れてくれ」
「了解」
負傷者の手当て、船体の応急修理、ニーベルングの残骸調査が行われている間にクロノは本局と被害にあったメルセデスへ現状の報告を行った。
コロニー・メルセデス 管制室
メルセデスでは未だに襲撃の混乱は収まっておらず、コロニー内ではあちこち火災が起きており、負傷者の搬送や応急手当てが行われる状況だ。
そんな中、メルセデスの管制室には強奪された新造艦を追いかけて行ったガイアから通信が入った。
「室長。ガイアより映像通信が入りました!!」
「モニターに表示せよ」
「了解」
「ハラオウン提督‥‥」
管制室の室長がクロノに早速、新造艦追跡の件を訊ねようとした時、
「新造艦は!?あたしの新造艦はどうなったの!?無事に取り戻せたんでしょうね!?勿論、無傷で!!」
パープルトンがクロノの姿が映し出されたモニターにくってかかる。
『‥‥』
いきなりのパープルトンの言動にクロノもドン引きである。
『それについてこれから報告をする所だ。パープルトン技師』
「それで、新造艦の件はどうなった?」
室長がパープルトンを押しのけ、改めてクロノに新造艦の件を訊ねた。
83年前のこの日の未明、ハワイ現地時間では12月7日ですが、この日、日本は太平洋戦争へと突入していきました。
半世紀以上の時間が経ちましたが、世界では今も戦闘により多くの人々が傷ついています。
ついさっきまで隣で生きていた人が‥‥
なんて、事が世界のどこかで今も起きていると思うと先人の犠牲によって得た日本の平和を当たり前ではなく、尊いモノだと思うべきなのでしょう。