星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百二十五話 新造艦強奪事件 後日談

 

 

コロニー・メルセデスにて進宙式を控えていた管理局の新造艦。

 

しかし、その新造艦は謎の集団に強奪されてしまった。

 

その新造艦強奪事件で管理局はコロニーにも次元航行艦にも少なからずの被害を受けた。

 

逃げ場のないコロニー内で起きた事件なので、被災者もかなりの人数が出た。

 

コロニー・メルセデスで新造艦強奪事件が起きている中、第二十三管理世界における裁判の証人護衛任務を終えて、本局へ帰還途中のガイアはメルセデスからの救難信号を受信してメルセデス救援へと向かう。

 

ガイアがメルセデス近海に到着した時、新造艦を強奪した者たちはメルセデスからの逃亡を開始していた。

 

当然、管理局としてはこのまま新造艦を強奪されて逃亡を許す訳にはいかない。

 

ガイアは新造艦の追跡を行うも、新造艦を強奪した連中の仲間、もしくは協力者が乗った武装艦との戦闘になった。

 

小惑星が多数漂うデブリ地帯にて、武装艦を撃沈するもその戦闘でガイアの船体も激しく傷つき、追跡する筈の新造艦もロストしていた。

 

なくなく、ガイアは強奪された新造艦への追跡を断念し、その経緯をメルセデスへと報告するのであった。

 

 

ガイア 艦橋

 

メルセデスへ報告のために通信を開くと、

 

『新造艦は!?あたしの新造艦はどうなったの!?無事に取り戻せたんでしょうね!?勿論、無傷で!!』

 

モニターにはパープルトンの顔がドアップで映し出される。

 

「‥‥」

 

彼女の言動に報告を入れようとしたクロノはドン引きする。

 

いや、クロノだけでなく、ガイアの艦橋に居た全員がクロノと同じリアクションをとる。

 

「それについてこれから報告をする所だ。パープルトン技師」

 

『それで、新造艦の件はどうなった?』

 

メルセデスの管制室の室長がパープルトンを押しのける。

 

そしてクロノは気を取り直してメルセデスへと報告を入れる。

 

「新造艦に関してですが、残念ながらロストしてしまいました」

 

『はぁ!?ロストぉ!?ロストってどういう事よ!?逃がしたの!?』

 

クロノの報告にいち早く嚙みついたのはメルセデスの管制室の室長ではなく、パープルトンであった。

 

『ちょっと!!どういう事よ!!貴方!!あの艦を奪った連中に逃げられたの!?』

 

「そうなりますね」

 

パープルトンは新造艦を奪った連中に逃げられた報告を聞き熱くなるが、クロノは冷静に返答する。

 

『何やっているのよ!?貴方は!?貴方はあの艦がどれだけ凄い艦なのか全然わかっていないわ!!』

 

「その点については重々承知しています。ですが‥‥」

 

『言い訳なんて聞きたくないわ!!この件は本局に抗議させてもらいます!!』

 

パープルトンは鼻息を荒くしてその場から大股で去っていく。

 

(あの女、彼が本局の統括官の息子であると言う事を知らないのか?)

 

(いや、知らないからあんな態度を取れたのだろうな‥‥)

 

(本局に抗議を入れると言うが、返り討ちに遭わないか?)

 

パープルトンの先ほどの言動から、クロノがリンディの息子だと言う事実を知らないからこそ、あそこまでの態度を取れたのだろう。

 

メルセデス管制室の室長はパープルトンの行く末に若干の同情した。

 

『すまないな。ハラオウン提督。彼女も自分が心血を注いで建造した新造艦が奪われた事で冷静さを欠いているのだ』

 

「ええ、彼女の様子を見れば承知しています」

 

クロノが見ても彼女の様子は常軌を逸しているように見えた。

 

その原因はやはり新造艦が強奪された事による精神的ダメージなのだろうと察した。

 

『それで、強奪された新造艦に逃亡を許したと言うが、どういった経緯があったのだ?』

 

クロノは室長にデブリ地帯での戦闘経緯を伝える。

 

「現在、艦の応急修理、負傷者の手当て及び撃破した武装艦の残骸調査を行っております」

 

『そうか‥‥新造艦に逃げられたのは残念であったが、撃破した武装艦から何らかの手掛かりが掴めれば、今後の捜査に役立つな』

 

「はい。それでそちらの被害は?」

 

『こちらの負傷者は少なくとも数百名規模になるだろう。ただし、これはあくまでも現時点での推測だ。人数はこれから先、もっと増える事が予想される。爆発と火災における建物の被害も甚大で、港の整備が整い次第、民間船舶を入港させて民間人の避難を開始する予定だ』

 

「分かりました。こちらも現状の事態を収拾し終えたらメルセデスへと戻ります」

 

『うむ。承知した』

 

メルセデスへ一連の報告を終えた後、今度は本局へと報告を入れるクロノ。

 

 

時空管理局 本局

 

「ハラオウン統括官。ガイアより通信がありました」

 

リンディの秘書官が本局に入ったガイアからの報告をリンディに報告する。

 

「それってメルセデスの件?」

 

「はい。メルセデスより奪われた新造艦を追いかけたガイアですが、小惑星の密集地帯で協力者と思われる武装艦と交戦したもようです」

 

「交戦!?それで、ガイアはどうなったの!?」

 

秘書官の言う交戦と言う単語にリンディは食いつくように反応を示し、秘書官に詳細を求める。

 

「ガイアは小惑星密集地帯にて、協力者と思われる武装艦を撃沈するも強奪された新造艦を取り逃したようです。恐らく武装艦との戦闘が長引いた事が原因かと思われます」

 

「それで、ガイアの被害は?」

 

「岩塊を船体に浴びて、ダメージを負い乗員にも負傷者が出たみたいですが、幸い死者は出ていない様です」

 

「そう‥‥」

 

「現在、ガイアは小惑星密集地帯付近で負傷者の手当て、船体の応急修理、撃沈した武装艦の調査を行っており、作業が終了次第メルセデスへ向かうそうです」

 

「メルセデスの方の被害は?」

 

「まだ詳細は来ていませんが、ご承知の通り新造艦は強奪され、次元航行艦二隻が撃沈、一隻が中破、コロニー内部も爆破と火災が起き、死傷者が多数出ている模様です」

 

「今回の事件の犯人についての情報は?」

 

「そちらもまだコロニー内の混乱が収拾していないので、事件の調査も開始できる状態ではありません」

 

「‥‥」

 

(とんだ失態ね)

 

(まさか建造されたばかりの新造艦が何者かの手によって奪われるなんて‥‥)

 

(第二十三管理世界での出来事と言い、どうしてこんなにも大きな事件が続くのかしら?)

 

第二十三管理世界での事件に続き、コロニー・メルセデスでの一件はリンディの心労に追撃をしてきた。

 

リンディがデスクに両肘をつき、頭を抱えていると、

 

『ハラオウン統括官。艦政部造艦科所属のニナ・パープルトンと言う造艦技師が統括官に話があると言ってきております』

 

通信室のオペレーターがリンディと話がしたいという人物から通信が入ってきた旨を報告する。

 

「艦政部造艦科?造艦技師が一体、私に何の用があるの?」

 

『さあ?ですが、相手の方はかなりご立腹の様子でした』

 

「艦政部造艦科と言えば、次元航行艦を設計・造艦する部署です。そこの造艦技師となると、やはり今回メルセデスで起きた新造艦強奪の件ではないでしょうか?」

 

秘書官は何故、艦政部造艦科の造艦技師がリンディに通信を送って来たのか察しがついた。

 

「やっぱりそうなるわよね‥‥はぁ~‥‥繋いで頂戴」

 

『承知しました』

 

オペレーターがリンディに通信回路を開くと、モニターには一人の女性の姿が映し出される。

 

「お待たせしました。統括官のリンディ・ハラオウンです」

 

『艦政部造艦科所属のニナ・パープルトンです』

 

リンディとパープルトンはまず、互いに初対面だったので、自己紹介をかわす。

 

「それで、お話と言うのはなんでしょうか?パープルトン技師」

 

『本局の統括官でしたら、既にお聞きと思いますが、コロニー・メルセデスにて完成したばかりの新造艦が何者かの手によって強奪されました』

 

「ええ、その話でしたら、本局にも届いています」

 

『その件で、先頃完成したばかりのもう一隻の新造艦、ガイアが奪還のために追跡をしましたが、先ほど強奪された新造艦をロストしたと報告を受けました』

 

「その報告も強奪された新造艦を追跡したガイアから受けているわ」

 

『 そう、そのガイアです!!』

 

「ん?どういう事かしら?」

 

『ガイアは現在、管理局で就役している次元航行艦の中でも最新鋭の艦だとお聞きしました』

 

「そうね。今回、メルセデスで強奪されてしまった新造艦を除けば、ガイアは管理局では最新鋭の次元航行艦になるわね」

 

『その最新鋭の次元航行艦をもってしても、むざむざと新造艦を奪われロストしてしまうなんて、職務怠慢なのではありませんか?』

 

パープルトンは自分がクロノに無理難題を吹っかけたにもかかわらず、その点をリンディには伝えずに、奪われた新造艦を取り戻せなかったのはクロノたちガイアの責任だと言い放つ。

 

今は公人なので私情を挟む訳にはいかないが、パープルトンのこの発言にリンディは内心、ムカッと来た。

 

「貴女は職務怠慢と仰いますが、ガイアは追跡中にもう一隻の武装艦との戦闘を行っています。現状から察するに、その武装艦は新造艦を逃がすために遅滞戦闘を仕掛けてきたため、ガイアは新造艦をロストする結果となり、これは決してガイアの職務怠慢ではありません。むしろ彼らは管理局としての職務を十分に全うしました」

 

協力者と思われる武装艦を放っておいて新造艦の追跡何て出来ない。

 

新造艦を逃がすためにガイアを十分に引き付けた事から、武装艦を指揮していた人物はかなり優秀な人物が指揮を執っていた事が窺える。

 

『物は言いようですね。ですが、ガイアがあの艦を逃したせいで、今後どれだけの被害が出ると思っているのですか?その被害に遭った人たちに貴女はどう言い訳をするおつもりですか?』

 

「そうならないように今後対策をとるつもりです。ですが、それ以前に何故、新造艦を本局のドックではなく、コロニーのドックで建造したのですか?本局のドックで建造すれば、今回の様に強奪されるような事態にはならなかったのではないの?」

 

『貴女、本局の統括官なのに責任転嫁するのですか?』

 

「責任について転嫁するつもりも、言い訳をするつもりもないわ。ただ、新造艦の建造についての疑問を述べただけよ」

 

『兎に角、この件については全て貴女方、本局の次元航行艦司令部にあり、私たち艦政部造艦科には一切ありませんから!!』

 

そう言い残してパープルトンは通信をきった。

 

「なんだか、無茶苦茶な人でしたね」

 

秘書官もパープルトンの言動には呆れている。

 

「色々あって混乱しているのでしょう」

 

リンディもメルセデスの室長やクロノ同様、パープルトンが精神的に参っているのだと判断した。

 

「しかし、大丈夫でしょうか?」

 

秘書官としてもやはり、今回奪われた新造艦による今後の被害を考えると不安になる。

 

「‥‥」

 

パープルトンには問題ない様に言ったが、やはりリンディ自身も不安となっている。

 

「それに今回の一件が原因となって艦政部造艦科がサボタージュをしたりするのではいでしょうか‥‥?」

 

秘書官は強奪された新造艦の今後の被害の他に艦政部造艦科が業務をサボタージュするのではないかと思った。

 

艦政部造艦科は本局の“海”が使用する次元航行艦を建造する管理局でも重要な部署だ。

 

その部署がサボタージュなんてすれば、次元航行艦の設計・建造業務が止まり、それは管理局の戦力低下につながる。

 

「それは大丈夫よ。そんな事をすれば、それこそ管理局を懲戒解雇されるでしょうから」

 

しかし、リンディは艦政部造艦科がサボタージュなんてする訳がないと言う確信があった。

 

もしも、艦政部造艦科がサボタージュなんてすれば、当然本局人事部のレティが艦政部造艦科のサボタージュ原因を調査する。

 

その原因を知れば、レティはリンディとの私情関係を抜いても艦政部造艦科側に重い処分を下すだろうとリンディはそう思っていた。

 

本局はパープルトンが言う様な職務怠慢な事など一切していないのだから‥‥

 

管理局を懲戒解雇されても造艦技師ならば当然資格を有しているので、民間の造船所に再就職することは可能だろうが、管理局と違い民間の造船所だと特権制度が無く、それぞれの会社ごとの決まりに従う事になるので、それなりに無理が通る管理局の方が仕事しやすいと言うメリットがあるので、管理局に務める造艦技師も管理局で働きたい筈だ。

 

なので、自身の職を失うような真似をするとは思えなかった。

 

リンディが第二十三管理世界での一件、そして今回起きた新造艦強奪事件、更に今後今回強奪事された新造艦によって引き起こされるかもしれない被害を思うとリンディの悩みは益々増える一方であった。

 

リンディが今後の管理局の未来に頭を抱えている頃、メルセデスではコロニー内の火災はようやく鎮火して負傷者の集計、被害の調査を行える状態となった。

 

「監視カメラには犯人たちの映像はないのか?」

 

「それが、犯人たちは事前にメルセデスのホストコンピューターに侵入し、偽物の映像情報を流していたみたいです」

 

偽情報を流されていたので、監視カメラには犯人たちの姿は映されていなかった。

 

「室長!!ただいま、新造艦ドックに調査へ向かった部隊から報告が入りました!!」

 

「何か犯人の特定に繋がる手掛かりがあったのか!?」

 

「いえ、それが‥‥」

 

オペレーターが言うには新造艦ドックへ調査に向かった局員たちが発見したのは検問所の中に押し込められていた警備に当たっていたと思われる局員たちの死体であった。

 

「警備に当たっていた局員たちからの報告がなかったのはそのせいか‥‥」

 

新造艦ドックの前には検問所を設けており、許可証が無い者は例え管理局員でも通さない様に言明していた。

 

新造艦を奪って行った連中が堂々と新造艦の下にたどり着けたのは検問所の局員たちを蹴散らしていた事が判明した。

 

「生存者もしくはそこに犯人の特定に繋がる手掛かりは無いか?」

 

「待ってください‥‥あっ、奇跡的に生存者が一名いました。ただし、重傷のため、治療が必要です」

 

「すぐに病院へ搬送しろ。その生存者は犯人を見た唯一の人物なのだからな」

 

「了解」

 

そんな中で運よく一人の生存者が見つかった。

 

しかし、襲撃を受けた為、その生存者も重傷を負っており、すぐにでも治療が必要な状況であり、犯人を知るためにはその者の証言が必要なため、室長は直ぐに生存者を病院へ搬送するように手配した。

 

(今となっては犯人を知る手掛かりはかの生存者だけだ‥‥)

 

(何としてでも生き長らえてくれよ‥‥)

 

室長は犯人を知る手掛かりを得る為、生存者の無事を祈った。

 

「室長、ガイアより映像通信が入りました」

 

「ガイアから?よし、繋げ」

 

そこへ、艦の応急修理と残骸調査を終えたガイアから通信が入った。

 

「ハラオウン艦長。犯人に関する手掛かりは何かつかめたかね?」

 

『残骸を調査した結果、撃破した武装艦はやはりMS機関を搭載していた艦でまちがいありません。それと、先の事件でも撃破した海賊船が独自の改造を施したMS機関を使用していたのですが、今回撃破した武装艦については管理局で使用されている次元航行艦とほぼ同型のMS機関を搭載・使用していました』

 

「管理局の次元航行艦とほぼ同じ‥‥」

 

『はい。艦影も似ていたと思いましたが、まさかエンジンも管理局の次元航行艦とほぼ同じ型式でした』

 

「そうか‥‥こちらでも最初、あの武装艦を見た時、管理局の次元航行艦と似ていると思ったが、まさかエンジンも管理局の次元航行艦とほぼ似ているとは‥‥」

 

『ただ単に相手を油断させるために管理局の艦に似せたのでしょうか?』

 

「当初、こちらも武装艦のライブラリーを照合したが、該当する艦はなかった。つまり、あれは管理局の次元航行艦ではないと言う事になるのだが‥‥」

 

管理局が運用している次元航行艦の中に強奪されたのは今回の新造艦だけで、この事件以前に管理局の次元航行艦が強奪された件がなかったので、あの武装艦が管理局の次元航行艦に似ていたのは相手を油断させるための罠ではないかと思うも、室長は何だか煮え切らない様子だ。

 

外見を似せるだけなら兎も角、エンジンもほぼ同じ構造という点が引っかかるのだ。

 

近年、MS機関の構造が何者かの手によって外部へ情報が流出しているが、あの武装艦もそう言った情報を入手して造られた艦だったのだろうか?

 

「ああ、それと先ほど入った情報だが‥‥」

 

室長はクロノに検問所で警備に当たっていた局員たちが犯人グループに襲撃されていた件を伝える。

 

『それで生存者は?』

 

「一人生き残っていた。今、病院へ搬送されて治療を受けている。助かってくれたら犯人を知る大きな手掛かりになるが、こればかりは医者の腕と本人の生命力に賭けるしかない」

 

『そうですね‥‥』

 

「それで、ガイアはこの後どうする?」

 

『メルセデスの支援に回ろうかと思っているのですが‥‥』

 

「こちらも事態は収拾し始めたので、大丈夫だ。それにパープルトン技師の事もあるからな‥ガイアはメルセデスから避難する民間人を乗せた次元航行船の護衛を頼む」

 

『承知しました』

 

メルセデスにはパープルトンが滞在しており、ガイアがメルセデスへ入港すれば、また騒ぎ立てる可能性が高い。

 

ただでさえ、襲撃を受けてゴタゴタしている中でクロノたちガイアの乗員がパープルトンと鉢合わせしたらまた、さっきの通信時みたいにパープルトンがクロノたちに絡んでこないとは言い切れない。

 

そうした面倒事はメルセデスの局員もクロノたちガイアの乗員も望まない。

 

なので、無用な面倒事は避けるべきだとクロノも室長も判断した。

 

そこで、室長はガイアにメルセデスから避難する民間人を乗せた次元航行船を本局までの護衛を頼んだ。

 

『では、犯人について何か分かりましたらご連絡を下さい』

 

「うむ、承知した」

 

パープルトンとの面倒事を避けるためにガイアはメルセデスへは入港せずに避難民を乗せた次元航行船と共に本局へ戻る事にした。

 

 

ガイア 艦橋

 

「航海長、針路変更。本局に帰還だ」

 

「了解」

 

ガイアは反転して、メルセデスから本局へと戻るコースをとった。

 

周囲にはメルセデスから避難してきた複数の次元航行船の姿がある。

 

「出来ればメルセデスに向かい、何か手伝いたい所ではあったが‥‥」

 

クロノとしてもいくら事態が終息してきたとは言え、メルセデスの復興はこれからなので、何か手伝えることもあったのではないかと思ったのだが、メルセデスにパープルトンが居ると絡まれる事は目に見えているので、室長が言うようにメルセデスへ向かわなかったのはある意味で正解だった。

 

「まぁ、私としてもあの人と会うのは確かに面倒だったけど、私たちがメルセデスに行ったら、当然あの人と鉢合わせをする可能性があるもんね」

 

フェイトもクロノ同様、パープルトンと鉢合わせをするのは遠慮したい様子だ。

 

「それにしてもあの女、本局に抗議を入れると言っていたが、大丈夫なのか?艦長」

 

そして、チンクがクロノにパープルトンが言っていた『本局へ抗議する』と言っていた事に彼女は本当に本局へ抗議するのか気になった。

 

「彼女が本当に本局へ抗議し、問題になったら例の通信内容を証拠にして徹底的にやりあうさ」

 

クロノはパープルトンが本当に本局へ抗議した場合の対処法をチンクに伝える。

 

しかし、パープルトンは既に本局のリンディに抗議を入れていた事をクロノは知らなかった。

 

 

メルセデスでの混乱が収束に向かっていた頃、某宙域では‥‥

 

 

リリー・マルレーン 艦橋

 

「キャプテン、既に会合予定時間を二時間過ぎていますが、未だにニーベルングの反応はありません」

 

「‥‥」

 

リリー・マルレーンは殿を務めたニーベルングとの合流を図ろうとしていた。

 

しかし、予定時間を過ぎてもニーベルングは現れない。

 

「キャプテン、これ以上この海域に留まるのは危険です。管理局の連中も馬鹿ではありやせん。いつこの海域に捜索の手を広めるかわかりやせん」

 

キャプテンはニーベルングと別れる際、コッセルに時間厳守を命じた。

 

だが、その時間になってもニーベルングがこの海域に現れないとなると‥‥

 

(まさか、コッセルの奴が管理局の艦に!?)

 

キャプテンの脳裏に最悪の事態が脳裏を過った。

 

「キャプテン‥‥」

 

「ああ、もう煩いね!!やむを得ない、時間に遅れたアイツらが悪い!!この海域からズラかるよ!!」

 

リリー・マルレーンはニーベルングとの合流を断念し、何処かへと姿を消した。

 

 

メルセデス事件が起きてから数日後日‥‥

 

 

本局に帰還したガイアは、そこでクロノはパープルトンが本当に抗議を入れていた事を知った。

 

「あの人、本当に本局へ抗議していたのか‥‥」

 

「それで、クロノに何か処罰とか下されるの?」

 

「いや、此方からも例の通信内容を送った結果、統括官とレティ提督が協議して、此方には何の落ち度がないと判断された」

 

リンディからパープルトンが本局に抗議が入って来た旨を聞いたクロノは新造艦を追跡する際、パープルトンからの通信内容を送った。

 

通信ではパープルトンがクロノに、新造艦を追跡する際、『攻撃するな』 『無傷で奪還しろ』 など、クロノに対して無理難題を吹っかけている事が証明された。 

 

リンディもレティもこの通信内容を見て、パープルトンの言う事が滅茶苦茶な事を言っていると判断した。

 

しかも彼女がリンディに抗議した際、この通信内容をリンディには言っておらず、一方的にクロノの職務怠慢だと言っていた事がリンディやレティの心象にマイナス面となった。

 

本局側のこの判断に当然、パープルトンは激怒した。

 

彼女はこの件についての不満と愚痴をポーラに語った。

 

勿論、この時もパープルトンは新造艦を追跡しているガイアへ新造艦を無傷のまま奪還するように言った事を伝えていない。

 

あの時、ポーラはまだシェルターに居たので、管制室でのパープルトンとクロノとのやり取りを知らなかった。

 

リンディやポーラにその事を伝えていないと言う事は彼女自身、あの時クロノに言ったオーダーが無理難題だとパープルトン自身も自覚しているのかもしれない。

 

そこで、あの時の通信内容を伝えずに、いかにクロノたちが職務怠慢だったのかを触れ回っていた。

 

「ねぇ、ポーラ。ヒドイと思わない!?あの艦を逃したのはあいつらの失態なのに、本局はあいつらに何の処分も下さないのよ!?」

 

「え、ええ‥‥そうね」

 

「新造艦の艦長だからって理由で、本局のお偉いさん忖度でもしているのかしら?それとも、あの艦長が賄賂とかを送っているのかもしれないわね」

 

不満と愚痴を熱く語るパープルトンに対してポーラは、

 

(今後はニナとの付き合い方を見直そうかしら?)

 

造艦技師としてのプライドの高さ、技師としての腕は一流なのだが、今回の一件で親友であると思っていた彼女の性格の一面を垣間見たポーラだった。

 

 

そして、検問所で奇跡的に生きていた局員は病院に搬送され適切な手術と治療を受けた結果、一命を取り留めた。

 

室長は医師の許可を得ると早速、その局員の下へ別の局員を向かわせて事情聴取を行う。

 

「では、犯人たちは管理局の制服を身に着けていたのだな?」

 

「は、はい。それで、リーダー格の人物は一佐の階級章を身に着けていました」

 

生存した局員はあの日のあの時の出来後を語る。

 

「管理局の制服に一佐の階級章か‥‥」

 

「ですが、通行許可証を持っていなかったので、例え一佐でも通すことは出来ないので、規則通り通行を止めるといきなりデバイスを起動させ、殺傷設定のシューターで‥‥」

 

「君たちに襲い掛かった‥‥と‥‥」

 

「はい‥‥」

 

あの日の事を思い出したのか生存した局員は小さく震えていた。

 

「犯人の特徴で制服や階級章の他に何か気づいた事はなかったか?」

 

「一佐の階級章をつけていた人物は、体系や声から恐らく女性です」

 

「顔は覚えているか?君たちのデバイスは犯人の手によって破壊されていたので、犯人たちの顔がわからない」

 

襲撃犯は検問所の局員たちを殺しにかかった後、証拠を残さない為、警備に当たっていた局員のデバイスを完全に破壊していた。

 

その為、デバイスにも犯人たちの手掛かりは残されていなかった。

 

なので、今はこの生存者の証言だけが犯人を知る唯一の手掛かりとなっていた。

 

「全員の顔は覚えていませんが、そのリーダー格の人物の顔はなんとか‥‥」

 

主犯格の犯人は襲撃犯の中で唯一の女性だったと言う事から印象に残っていた。

 

「よし、急いで似顔絵を作成する」

 

事情聴取に向かった局員からの報告を聞き、室長は似顔絵が得意な別の局員を病院に派遣すると、早速主犯格の似顔絵が作成された。

 

「髪は黒くて肩よりも少し長い感じで‥‥目は細く鋭い感じでした‥‥」

 

生存者の証言を基にスケッチブックに犯人の似顔絵を描いていく。

 

そして、

 

「こんな感じか?」

 

出来上がった似顔絵を見せながら生存者に確認を取る。

 

「そう、まさにそんな感じの人でした」

 

似顔絵を描いた局員のデッサン力は上手く、生存者の局員が伝える主犯の特徴を的確に捉えており、出来上がった似顔絵はまさに主犯格にそっくりだと言う。

 

「これを急いでコピーして本局に通達。全管理世界に指名手配しろ」

 

「了解!!」

 

作成された似顔絵は本局にも転送され、早速前科者リストと照合がかけられる。

 

しかし、前科者リストには該当する人物は居なかった。

 

「‥‥」

 

そんな中、主犯格の似顔絵を見たレティは顔を顰める。

 

「どうしたの?レティ。難しい顔をして」

 

主犯格の似顔絵と睨めっこしているレティにリンディが声をかける。

 

「ああ、リンディ‥‥」

 

「ん?それってメルセデス事件の主犯とされる人物の似顔絵?」

 

「ええ、そうよ。さっきメルセデスから送られて来たの」

 

「でも、その人物は前科者リストには無かったんでしょう?」

 

「ええ、前科者リストには無かったわ‥‥ただ‥‥」

 

「ただ?」

 

「ただ、この人の顔、何処かで見たことがあるような気がするのよ‥‥」

 

「えっ?」

 

レティはメルセデス事件の主犯をどこかで見たような気がしていた。

 

なので、犯人の似顔絵を見て顔を顰めていたのだ。

 

「どこかで見たって‥‥それってレティが過去にこの事件の犯人と会った事があるって事なの?」

 

「うーん‥それが思い出せないのよ。でも、どこかで見たのは確かよ」

 

「見間違えとか他人の空似ってことはない?」

 

今回の事件の内容から、レティのような管理局の中でも幹部クラスの局員がこのような凶悪犯と面識があるとはとても思えない。

 

「他人の空似‥‥それは確かにあり得そうだけど‥‥」

 

「その人と話した事はあるの?」

 

「いえ、話した事は無いと思うわ。ただ、どこかでこの犯人の顔を見たことがあるって事なんだけど‥‥」

 

レティはリンディから、『他人の空似ではないか?』 と指摘されてそうかもしれないと思いつつもやはり心のどこかでモヤモヤする思いを抱いていた。

 

そのモヤモヤが晴れたのはそれから数日後の事‥‥

 

「リンディ、メルセデス事件の犯人の検討がついたわ!!」

 

「えっ?本当なの!?」

 

メルセデス事件については犯人の手掛かりは一枚の似顔絵だけということで、捜査に進展のない状況が続いていた。

 

しかし、レティがその突破口を見つけたと言うのだ。

 

これは事件解決への大きな一歩になるとリンディは思った。

 

「それで、犯人は誰なの?」

 

「犯人は恐らくこの人物よ」

 

レティはそう言ってリンディにタブレット端末を渡す。

 

そこにはとある管理局員‥‥いや、正確には元管理局員の顔写真とプロフィールが表示されていた。

 

 

氏名 シーマ・ガラハウ

 

魔力ランク Aクラス

 

最終階級 二佐

 

備考 士官学校を首席卒業

 

 

「犯人って管理局員なの!?」

 

リンディはここ最近、管理局員の大きな不祥事が立て続けに起きている事から、今回の事件の犯人も管理局員なのかと悲痛な声を上げる。

 

「元管理局員よ」

 

「元?」

 

「彼女は数年前、自身が艦長を務める次元航行艦と部下たちと共に管理局を脱走しているわ」

 

「脱走!?でも、そんな報告は受けていないわよ!?」

 

リンディの下にはシーマによる管理局脱走の報告は今、知る事となり別の意味で驚愕する。

 

「‥次元航行艦を持ち逃げされたなんて、マスコミにとって格好のネタになるでしょう?だから一部の局員にしか知られていなかったの‥‥だから、シーマ元二佐を含めて、彼女の部下たちの存在は管理局員のリストから抹消されていたのよ」

 

新造艦強奪事件の主犯が元管理局員で、人事部に所属しているレティだからこそ、今回の事件における主犯の顔にどこか見覚えがあったのだ。

 

「なるほど、元管理局員だから管理局の制服や階級章を用意出来た訳ね」

 

「それだけじゃないわよ。リンディ」

 

「ん?」

 

「彼女たちは次元航行艦を持ち出して、管理局を脱走したのよ。しかも彼女たちが脱走に使用したのはMS機関搭載の次元航行艦‥‥当時、MS機関はまだ管理局が開発したばかりで、管理局ではMS機関は重要機密‥‥管理局を脱走したばかりの彼女たちの資金源となるのは‥‥」

 

「ま、まさか‥‥」

 

「彼女たちが海賊やテロリストにMS機関の技術を売って資金を得たんじゃないかしら?」

 

「‥‥」

 

レティの話を聞きリンディはあり得ないとは言い切れなかった。

 

「クロノ君やメルセデスからの情報では、確認された武装艦は管理局の次元航行艦に似ていたんでしょう?」

 

「え、ええ‥‥でも、全てが管理局の次元航行艦とは若干艦影が違ったみたいだけど‥‥」

 

「それは多分、彼女たちが独自に改造したんでしょう」

 

レティの推理は理にかなっていた。

 

「近年、海賊やテロリストがMS機関を搭載した船が増えたのは彼女の仕業って事ね」

 

「勿論、全てがそうじゃないだろうけど、何件かは彼女たちが関係している事は間違いないと思うわ」

 

「はぁ~今回の一件、やっぱり彼女たちを逃がしたのは痛かったかもしれないわね」

 

パープルトンにはクロノたちは職務怠慢ではないと言い切り、処分を下さなかったのは間違いないと断言できるが、逃げられたことについてはパープルトンが言ったように後々大きな火種になるかもしれないと思うリンディであった。

 

しかし、犯人と思われる人物が特的出来たのは大きい。

 

「一先ず、この情報を本局や各管理世界へ通達してちょうだい」

 

「承知しました」

 

リンディはシーマについての情報を共有させて、スカリエッティ同様、シーマ・ガラハウを広域指名手配犯に指定した。

 

 

本局 ドック ガイア 艦橋

 

「艦長、本局より先日、メルセデスで起きた新造艦強奪事件の主犯と思われる人物が特定出来たようです」

 

「なにっ!?本当か!?」

 

あれだけ周到に自分たちの痕跡を残さずに新造艦を強奪した犯人たち‥‥しかも、主犯格と思われる人物の特定が出来たと言うのだからクロノも驚く。

 

「それで、誰なんだ?主犯は?」

 

「この人物との事です」

 

ミリアリアがキーボードを操作するとモニターにはシーマの顔写真の画像が映し出される。

 

「シーマ・ガラハウ‥‥元管理局二佐!?」

 

クロノは主犯格の経歴を見て驚いた。

 

「ま、まさか、『元』が付くとは言え、あの事件の主犯が管理局の関係者だったなんて意外でしたね。しかもあのJS事件の犯人であるスカリエッティと同じ広域指名手配として手配するとは‥‥」

 

本局から犯人の情報を受信したミリアリア本人も驚いていた。

 

「いや、あの事件規模とこれから起きるかもしれない被害を考えると本局がこの人物を広域指名手配するのも分かる」

 

「しかし、士官学校を首席卒業だなんて、優秀な人物だったみたいですね」

 

ミリアリアはシーマの経歴を見て、感嘆の声を漏らす。

 

「士官学校を首席卒業するなんて、どうみてもエリートですよね?」

 

「ああ、魔力ランクもAクラスだからな」

 

「一体何が不満だったのでしょう?」

 

士官学校を首席で卒業し、しかも魔力ランクがAクラスとなると管理局では十分なエリートだ。

 

そんなエリート街道が約束された人物が管理局を脱走した理由をクロノもミリアリアも当然知る由もない。

 

「人には誰にも言えない秘密や悩みがある。恐らく彼女は誰にも相談できずに、何らかの理由で管理局を見限り、管理局を脱走したのだろう」

 

「でも、管理局が嫌になったら、普通に辞表を出せばよかったのに‥‥」

 

「管理局がそれを許さなかったのだろう」

 

常に人材不足の管理局がAクラスの魔導師をそう簡単に手放す筈がない。

 

辞表を出しても何らかの理由をつけて彼女が管理局を辞める事を許さなかったのだろう。

 

もしかしたら、管理局のそういった行為が、シーマを管理局から脱走させたのかもしれない。

 

「実際に面識もないが、あそこまでの事件を計画して実行に移した人物だ。かなり手ごわい人物だと思った方がいいかもしれないな‥‥」

 

クロノは新造艦の性能よりもシーマの能力が厄介かもしれないと予測した。

 

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