星の海へ   作:ステルス兄貴

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今回の話の中で防衛軍の主観については自分の想像が含まれます。


二百二十六話 ティアナの恋路・改革の予兆

 

 

第二十三管理世界、コロニー・メルセデスにて大きな事件が起きている頃、ケンタウロス座アルファ星では‥‥

 

アルファ星は太陽系内の惑星同様、地球連邦が一から宇宙開拓をした外宇宙の最初の惑星であり、当初は資源採掘の炭鉱惑星であったが、次第に地球の企業が進出し、資源採掘の他に別荘地や娯楽施設を充実されて観光開発にも力を入れ始め、街も拡大し、活性化してきた。

 

そんなアルファ星の市街地内にあるレストラン。

 

その日の夜もレストランは営業をしており、店内はディナーを楽しむ客たちでにぎわっていた。

 

O・M・C・Sが普及している事で、外宇宙の星でも地球の様々な料理を食することが出来る。

 

まさに、O・M・C・Sは食の大革命を齎した機械と言っても過言ではない。

 

レストランの店内はムーディーな雰囲気でいかにも大人の高級レストランという感じの店内にある一つのテーブル席にて、

 

「あ、あの‥‥ら、ランスターさん」

 

「はい」

 

「その‥‥ぼ、僕とお付き合いしてもらえませんか!?」

 

「えっ?」

 

そのテーブル席に居た男性客が女性客に交際を申し込んでいた。

 

女性客に交際を申し込んでいる男性客の名前は、北野哲。

 

そして、北野から交際を申し込まれた女性客の名前は、ティアナ・ランスター。

 

北野から交際を申し込まれたティアナは目が点となり、唖然としていた。

 

二人の最初の出会いは、地球が暗黒星団帝国に占領された時であった。

 

本来、ミッドチルダ出身のティアナが地球のゴタゴタに首を突っ込む必要はなかった筈であった。

 

しかし、ティアナは彗星帝国の残党に襲撃された自分とフェイトを助けだし、手厚く保護してくれたもう一つの地球に恩義を感じ、パルチザンへ自ら志願して暗黒星団帝国との戦いに身を投じた。

 

その戦いの中でティアナは同じくパルチザン活動をしていた北野の部隊に配属され、北野と部隊長であった古野間と数多くの戦場を共にした。

 

暗黒星団帝国戦役後、管理局との通信が再開され、自分たちがミッドチルダへの帰還準備が整っていく中、ティアナはこの地球への残留を希望し、ミッドチルダへは戻らなかった。

 

北野との再会はパルチザン活動における表彰式で、北野はミッドチルダへ戻ったとばかりに思ったティアナが地球に残留していた事に驚いた。

 

それからティアナは防衛軍への入隊を希望し、宇宙戦士訓練学校へ入校を果たし、訓練と座学を学び、訓練校の卒業後は巡洋艦、八雲の戦術長となり、バジウド星系を中心に勤務していた。

 

そんな中、防衛軍は一部の暴走した政治家と軍人たちの影響で、バジウド星系に存在する親ボラー連邦派の星間国家へ武力侵攻を行うも成果はほぼ返り討ちに遭うような形で、防衛軍は敗北した。

 

戦線の整理と艦の修理でティアナが戦術長を務める八雲はアルファ星へと戻って来た。

 

八雲がアルファ星基地のドックで整備を行っている中、親ボラー連邦派への侵攻失敗の情報調査のため、北野は司令部からアルファ星へと監査のために派遣された。

 

この時、北野は初めてアルファ星に来たので、基地の外にある市街地の地理が分からなかった。

 

そこへ、ティアナと再会した北野。

 

ティアナはアルファ星での滞在日数が北野よりもあったので、市街地の地理をある程度把握していた。

 

そこで、ティアナは北野をアルファ星の市街地を案内した。

 

この日以降、ティアナと北野は連絡先を交換して度々会うようになった。

 

第三者から見れば、二人の様子はカップルの様に見え、もしかしたら北野自身も多少、ティアナの事を意識していたのかもしれない。

 

しかし、肝心のティアナ本人はあくまでもアルファ星の地理に不慣れな北野を案内したガイド役をしていただけに過ぎないと思っていた。

 

だが、今夜レストランにてティアナは北野から交際を申し込まれた。

 

これまでの人生の中で異性との交際が無いティアナ。

 

管理局の訓練校時代では、同期生から成績の事で疎まれて、機動六課時代では、親しい異性は自分よりも年下のエリオだけだったので、ティアナはエリオを異性とは意識しておらず、仲間と言うカテゴリーで見ていた。

 

同じく六課に所属していたヴァイスやグリフィスにも同じ事が言えた。

 

そんな生活が長かったので、宇宙戦士訓練学校でも土門や揚羽の事も異性と言うよりも仲間でもありライバルと見ていた。

 

なので、北野からこうして正式に交際を申し込まれてもどんな反応をして良いのか分からないティアナ。

 

「‥‥も、もしかして、北野さんはこの顔の傷の事で私に対して負い目を感じているのでしょうか?」

 

ティアナの顔には未だに魚の骨のような形の傷が残っている。

 

これはパルチザン活動の際、暗黒星団帝国地球占領軍総司令であるカザンと対峙した時にカザンのレーザー銃がティアナの頬を掠め、彼女の顔には傷が残った。

 

整形技術で顔の傷は消すことが出来るのだが、ティアナは敢えて顔の傷を残している。

 

宇宙戦士訓練学校、そして艦隊勤務となった現在、異性から意識されたり声をかけられていないのはこの顔の傷が大きな原因だった。

 

しかし、そんな中で北野はティアナに交際を申し込んで来た。

 

だが、ティアナは北野が何故、自分に交際を申し込んできたのか分からず、顔の傷を負った作戦時、北野はティアナの傍に居た。

 

自分のせいでティアナの顔を傷つけてしまった。

 

負い目や同情で交際を申し込んで来るのであるならば、ティアナは速攻で振ってやろうと思った。

 

「確かにあの時は、自分の不手際でランスターさんに傷を残してしまった事を悔やみました。しかし、顔の傷が気になるようでしたら、ランスターさんはとっくの昔に傷を消している筈です」

 

「‥‥」

 

「僕がランスターさんに惚れたのは、顔の傷にかんしてではありません。僕はランスターさんの強さと優しさに惚れたんです」

 

「‥‥」

 

ティアナは北野が自分のどこに惚れたのかその理由を聞いてみる事にしたが、これまでの人生で異性からの告白を受けた事の無いティアナとしては、若干の恥ずかしさがあり、頬はほんのりと赤かった。

 

「本来ならば、あの時の戦いは、ランスターさんにとっては対岸の火事であった筈です。それにもかかわらず、貴女はパルチザンとして僕たちと共に地球のために戦ってくれました」

 

「あ、あの時は‥その‥‥遭難していた私たちを手厚く保護してくれた地球に恩が当たった訳だし‥‥」

 

「それでも、あの時の戦場は訓練や演習ではなく、殺し殺される命をかけた戦場でした。貴女は弱音を吐くことなく戦ってくれました」

 

「‥‥」

 

「貴女が別の星の住人であると密かに知り、いつかは還ってしまうのかと思うと寂しい思いがありました。しかし、表彰式の時、貴女が地球に残ってくれた事実を知り、ホッとし、宇宙戦士訓練学校を編入すると聞き、僕は喜んで推薦状を書きました」

 

「えっ?北野さんが私を!?」

 

てっきり、自分を推薦したのは良馬と源三郎の二人だけだと思っていたが、北野も自分を推薦していたとは知らなかった。

 

「地球に残っても軍以外の他の職にだってつけた筈でした。ですが、ランスターさんは軍への入隊を志願した‥‥なので、僕にも何か出来ない事は無いかと思って‥‥あっ、古野間さんもランスターさんを推薦していたんですよ」

 

「古野間さんも!?」

 

北野以外に古野間も自分を推薦していた事実に益々驚愕するティアナ。

 

「はい。それに先日、アルファ星に来たばかりの僕を案内してくれました。地図アプリや別の人に案内役を頼む事も出来た筈なのに‥‥」

 

「‥‥」

 

「そうしたランスターさんの強さと優しさに僕は惹かれました」

 

北野から自分の何処が好きになったのかその理由を知ったティアナ。

 

しかし、告白されたからと言ってその場で了承するのは早計である。

 

自分の顔の傷に対して負い目や同情を抱いている訳でもないので、速攻で振ってやろうと言う思いはいつの間にか消え失せていた。

 

なので、ティアナは北野に‥‥

 

「少しだけ考える時間を下さい。心の整理がついたら連絡をいれます」

 

と、返答はこの場ではしなかった。

 

というか出来なかった。

 

その為、せっかく出て来た料理の味も分からない程、ティアナは頭の中で様々な思いが巡っていた。

 

 

八雲 食堂

 

「はぁ~‥‥」

 

北野から告白された後、ティアナは八雲へと戻り、八雲の食堂にて一人頭を抱えていた。

 

そこへ、

 

「どうしたの?ティアナ」

 

ギンガが声をかけてきた。

 

「あっ、ギンガさん‥‥」

 

(そう言えばギンガさんは月村艦長と付き合っていたし、こうした事に詳しいかも‥‥)

 

ギンガはティアナの人脈の中で、唯一のリア充だと認識している人物だったので、恋愛ごとには詳しく相談に乗れる人物だと思い、

 

「じ、実は‥‥」

 

ティアナはギンガに北野から告白された事を話した。

 

「えっ?告白された?」

 

「は、はい‥‥」

 

「告白されたって誰に?」

 

「北野さんって人で‥‥」

 

ティアナは自分の知る北野の経歴をギンガに伝える。

 

「そっか‥パルチザン活動の時に‥‥」

 

「はい。私は北野さんの部隊と一緒に戦っていました。その時に北野さんは私の事を意識していたみたいで‥‥」

 

「それで、ティアナはどうしたの?OKしたの?」

 

やはり、ギンガも女子‥他の人とは言え、恋バナには興味がある。

 

「その‥‥返事は‥また後日と言う事で‥‥」

 

「先延ばしにしたの?」

 

「はい」

 

「そう‥‥でも、パルチザン活動の時に出会ったのなら、その北野さんって人の人となりは分かっているんじゃない?」

 

「ええ、北野さんは正義感が強い人です。しかも防衛軍ではエリート士官です」

 

「どこか不満があるの?」

 

「‥その‥‥男の人と付き合うのって‥‥どういう事なのか分からなくて‥‥ギンガさんはどういった経緯で月村艦長とお付き合いをする事になったんですか?」

 

「私?‥私はね‥‥」

 

ギンガはティアナに良馬と恋仲になった経緯を語る。

 

ティアナはこれまでギンガの恋バナなんてリア充の自慢の様にしか思えなかったので、ギンガがどんな経緯があって良馬と恋仲になったのかを聞いていなかった。

 

しかし自分は今、北野からの告白の返答をする為、ギンガと良馬が恋人になった経緯を参考にする為に聞いた。

 

「本当は私から良馬さんに告白しようと思ったんだけど、その‥‥男の人のプライドなのかな?私が告白しようと察したのか、良馬さんから告白をしてきたの」

 

「男の人のプライド‥ですか‥‥」

 

「女の私たちには分からないけど、やっぱり好きな女性に告白するなら男の人から‥‥って言うプライドじゃないかな?」

 

「はぁ~‥‥」

 

「でも、好きな人に告白するのは男の人も女の人も勇気を振り絞って行うものなのよ」

 

「勇気‥‥ですか‥‥」

 

「ええ。私自身、良馬さんに告白しようとした時、心臓がバクバクで、そのままショック死するんじゃないかと思ったわ」

 

「そ、それは少しオーバーなんじゃあ‥‥」

 

「でも、それくらい好きな人に告白するのは勇気がいるってことよ」

 

「‥‥」

 

(北野さんもそうだったのかな?)

 

「でも、告白を受けてその後も上手くいくのでしょうか?」

 

「ん?」

 

「ギンガさんと月村艦長は上手くいっていますが、全てのカップルが告白して、付き合ってもそのまま上手くいくとは限りませんよね?」

 

「‥‥そうね。付き合ってみないと分からない人の本性ってあるものね」

 

交際中もしくは交際前は人の良さそうな素振りを見せるが、交際・結婚をした途端、これまでの態度が豹変して醜い本性を現してパートナーをないがしろにする者は少なからず存在する。

 

幸いなことにギンガも良馬も互いに愛し合っているので、そうしたトラブルは起きていない。

 

勿論、古代と雪も同様の事が言える。

 

「信じていない‥‥と言う訳ではないのですが‥‥」

 

やはり、これまでの人生の中で異性との交際が無いが為に北野との交際に消極的と言うか、不安になるティアナ。

 

「でも、その‥北野さんの人となりは分かっているんでしょう?」

 

「はい。北野さんは私の顔に残る傷についても気にしていませんでした。それに‥‥」

 

「それに?」

 

「‥‥パルチザン活動をしている時にどうしても魔法を使わなければならない事態がありまして‥‥」

 

「えっ?使ったの?魔法を!?」

 

「は、はい」

 

管理局の法律では基本、管理外世界における魔法の使用は禁止されている。

 

「あの時のティアナは防衛軍の軍人じゃなくて、管理局員だったわよね?」

 

「はい」

 

「それなら、管理外世界での魔法の使用は禁止されているって知っていたでしょう?」

 

「でも、あの時は私が魔法を使わなければ、古野間さんも北野さんも危ない状況でした」

 

「確かに私はその時の状況を見ていないし、もう管理局員でもないからティアナが魔法を使った事についてとやかく言わないわ。というか、良馬さんの家の地下でフェイトさんも普通に使っていたしね」

 

「あっ、そう言えば‥‥」

 

ティアナ自身もすっかり忘れていたが、良馬の実家である月村家の地下で、フェイトやヴィヴィオを含めて魔法を結構使用していたので、今更管理局の法律なんて気にしていてもしかたがなかった。

 

「それで、ティアナが魔導師と知った後も北野さんはティアナとの付き合いを変えた?」

 

「いえ、北野さんたちは私が魔導師であっても態度を変えることはありませんでした」

 

ミッドチルダを始めとする管理世界では魔法も魔導師も珍しくもない。

 

しかし、地球のように魔法や魔導師なんておとぎ話や漫画・アニメの産物の様に、全く魔法が浸透していない世界では、魔導師は別の見方からした忌み嫌う存在になりかねない。

 

だが、北野も古野間もティアナが魔導師だと知っても態度や見方を変えることなく、戦友として互いに背中を任せる仲で暗黒星団帝国と戦った。

 

「そこまで理解のある人なら、交際・結婚後に豹変するとは思えないけど‥‥」

 

ギンガとしては、まだ北野と言う人物と深く交流したことが無いが、ティアナの話を聞く限り、ティアナに告白した北野と言う人物は誠実な人物だと思った。

 

ティアナの境遇、顔の傷を理解しているのだから‥‥

 

自分と妹のスバルは魔導師の中でも戦闘機人と言う特殊な生まれ方をした。

 

その為、今のティアナの様に異性に対して心を許せなかった部分があった。

 

だが、この世界に次元漂流して良馬に救助され、彼の周りに戦闘機人さえ霞んでしまう様な特殊な出生をした人物ばかりだったので、自分の出生にコンプレックスを抱いていたのが些細な悩みに思えてきた。

 

「‥‥」

 

「さっきも言ったように私はティアナたちがパルチザン活動をしている時、どんな戦いがあって、どんな風に過ごしていたのかは分からないけど、一緒に激しく厳しい戦場を経験して、お互いを守り合って来た仲なんでしょう?」

 

「は、はい」

 

「それなら、ティアナの心の奥底にもう答えは出ているんじゃない?」

 

「‥‥そ、そう言えば、ギンガさんの方はどうなんですか?」

 

「ん?私?」

 

「はい。あれから、月村艦長と何か進展はありましたか?」

 

ティアナは咄嗟に話題を変えた。

 

ただあまりにも露骨な話題逸らしだったので、こんなあからさまな態度にギンガは引っ掛からないと思ったが、

 

「実は‥この前、良馬さんにプロポーズされてね」

 

ギンガは嬉しそうにティアナへ先日、良馬からプロポーズをされた話をする。

 

(うっ‥な、何か藪蛇だったかも‥‥)

 

自分から話題をふっておいて何だが、ギンガの惚気を聞いてティアナはちょっと後悔した。

 

(でも‥プロポーズか‥‥)

 

今回、北野が自分に伝えて来たのはプロポーズではなく、交際の申し込みで、すぐに結婚に直結する話ではない。

 

もし、自分が北野からの交際をOKして、そのまま順調な交際を続けて行ったら、いつか自分もギンガの様に北野からプロポーズをされる日が来るのだろうか?

 

ギンガの話を聞きそんな未来が脳裏を過るティアナだった。

 

 

ギンガにアドバイスを受けたティアナは八雲にある自分の居室に戻り、ベッドの上に寝転がって天井をジッと見つめる。

 

(私の心の奥底には答えが出ている‥‥か‥‥)

 

ティアナは先ほどギンガからの言葉を心の中で呟く。

 

「あぁ~もう!!なにウジウジしているのよ!!私らしくもない!!」

 

髪の毛をガシガシと搔きながら声をあげるティアナ。

 

(そうよ、JS事件を始めとして、これまで数多くの修羅場を潜ってきたじゃない!!)

 

(お、男の人と交際するくらいこれまで潜ってきた修羅場と比べたらなんてことないじゃない!!)

 

(それに付き合った後で豹変するなら、振ってやればいいだけの話じゃない!!)

 

これまでの経験を振り返り、自分を鼓舞するティアナ。

 

それに北野が申し込んで来たのはあくまでも交際であり、結婚ではない。

 

交際後に北野の態度が豹変したり、性格の不一致があれば振って別れればそれで終わる話だ。

 

 

後日‥‥

 

 

ティアナは先日の返事をしたいと言って北野と連絡をとる。

 

ティアナが北野を呼んだのは、アルファ星の市街地にあるファミレス。

 

流石に先日、北野が誘った高級レストランは無理だったので、ファミレスとなってしまった。

 

「あ、あの北野さん」

 

「は、はい」

 

北野も今日、ティアナから連絡を受けた理由をちゃんと理解しているのか、彼自身も緊張している面持ちだ。

 

勿論、返事をするティアナも緊張している。

 

「あの‥この前の話ですが‥‥」

 

お客が食事、仕事、お茶会をしているファミレス。

 

その一席で、今、大輪の花が密かに咲いた。

 

 

アルファ星 防衛軍基地 司令官室

 

「すみません。ラップ司令官。何だか司令官を矢面に立たせるような事になってしまって‥‥」

 

基地内にある司令官室にて、良馬は新たにアルファ星基地司令官となったラップにバジウド星系への進攻における報告書と意見書を提出した。

 

その意見書には今回の進攻における失敗で良馬が思った意見を纏め上げてある。

 

ただし、軍上層部はこの意見書を見たら憤慨するかもしれない。

 

そうなれば、意見書を提出した自分よりも持ち込み発言したラップに批難が飛んでくるかもしれない。

 

「ハハ、構わないよ。そうなる事も承知でキャゼルヌ先輩からこの職を引き継いだんだ。上に立つと言う事はそれなりの責任が伴うと言う事なのだからな」

 

艦隊司令官から基地の司令官になってもラップの人柄は変わらなかった。

 

そう言う点ではキャゼルヌ同様、良馬にとってはありがたかった。

 

「それにしても軍部への意見で空母の建造と艦載機のバリエーションの増加とは‥‥このご時世に無理を言うな、お前も」

 

「今回の進攻における失敗から導き出す事が出来ましたからね。やはり防衛軍はガルマン・ガミラスと比べ大型正規空母が圧倒的に不足しています。それに艦載機の機種についてもこれまでは、コスモタイガーが戦闘機と爆撃機を兼用して使用してきました。コスモタイガーを改造した雷撃機も作りましたが、かつてガミラスが運用していた雷撃機であるドルシーラと比べますと威力不足は否めません」

 

良馬はラップに防衛軍が使用しているコスモタイガー雷撃機タイプとかつてガミラスで使用されていた空間雷撃機FWG97 ドルシーラのスペック図を見せて二つの機体を比較させる。

 

ガミラスで使用されていたドルシーラのスペックが手に入るのもガルマン・ガミラスと同盟を組んでおり、尚且つガルマン・ガミラスでは既にドルシーラは退役している為、ドルシーラのスペックなど地球に見せてもガルマン・ガミラスとしては軍事機密に当たらないレベルとなっているからだ。

 

コスモタイガーが戦闘機と攻撃機の両方を兼ね備えているのも人材不足な防衛軍の苦肉の策だ。

 

「それに運用する母艦に関しても防衛軍の空母は戦闘空母‥‥ゲルバデス級航宙戦闘母艦にあたる艦で、搭載機数はどうしても艦載機搭載が可能な戦艦よりもわずかに優れている程度です。彗星帝国から鹵獲したホワイトスカウト級も確かに機動力は優れていますが、搭載機数が二十四機と空母としては少数ですから、防衛軍でもガイペロン級多層式航宙母艦のような空母を建造・保有し、機動部隊の編成を考慮するべきかと‥‥」

 

「確かにあの遠征では航空機の運用失敗が作戦の失敗に繋がった点があるからな‥‥だが、タイミングが悪いな‥‥あの遠征で軍は再建が必要な事態となった。それに軍上層部は大艦巨砲主義な部分があるからな‥‥」

 

(ヤマトの勝利による弊害が此処にも出て来たか‥‥)

 

ガミラス戦役以降、防衛軍上層部は、ヤマトの勝利は人の力ではなく、科学技術・機械族の勝利と錯覚し、その為ガミラス戦役以降の艦は機械による自動管理方式が採用され、乗員人数の削減、ひいては無人艦の建造に至った。

 

当時、真田はそんな軍の姿勢に警鐘を鳴らした。

 

しかし、ガミラス戦役で多くの人材を失った地球としては貴重な人材をいたずらに消耗する訳にはいかないので、軍が自動管理方式や無人艦の建造に走るのも無理はなかった。

 

そして、ヤマトの勝利はそうした自動管理方式や無人艦の他に星の海では海上と異なり、防御力、攻撃力、そして艦載機も搭載可能と言う事で、戦艦は最強の兵器と言う認識のままであった。

 

だからこそ、ガルマン・ガミラスと異なり防衛軍は空母の建造に消極的だ。

 

建造したとしても正規空母と言うよりはドレッドノート級をベースとしている戦艦空母なので、やはり大艦巨砲主義が捨てきれずにいる。

 

だが、いつまでも停滞をしている暇はない。

 

ガルマン・ガミラスと同盟を組んでいるとは言え、進歩しなければ地球はいつか手痛い目に遭うかもしれない。

 

「勿論、現状すんなりと受け入れられるとは思っていません。ですが、少数ながらも徐々に建造数を増やしていければと考えています。その間に人材の育成も同時に行わなければなりませんし」

 

「確かに艦があってもそれを動かす人間が居なければ話にならないからな」

 

「空母の建造に関してもガルマン・ガミラスは空母大国とも言える星間国家です。技術交換で空母の建造と運用ノウハウを学べます」

 

「しかし、技術交換と言う事は、地球側もガルマン・ガミラスへ技術を提供しなければならんだろう?ガルマン・ガミラスより優れている技術は地球にあるだろうか?」

 

ガルマン・ガミラスは空母大国でもあり、技術大国でもある。

 

デスラー自身も太陽制御の時に古代へ、『地球よりも我がガルマン・ガミラスの方が、技術が優れている』 と言ったくらいだ。

 

結果的にガルマン・ガミラスが行った太陽制御は失敗に終わってしまったが、そのプランに関しても真田が『完璧』と言うお墨付きを付けるくらいのモノだった。

 

それに現在、防衛軍が使用している波動エンジンの連続ワープを可能とする機能も元はデスラーから送られたデータを基盤としている。

 

「ガルマン・ガミラスが空母大国ならば、地球は戦艦大国です。ガルマン・ガミラスには戦艦の設計図を技術交換してみてはどうでしょうか?」

 

「戦艦か‥‥しかし、技術大国であるガルマン・ガミラスならば、戦艦も地球の戦艦よりも性能が良いのではないか?」

 

「うーん‥これは主観ですが、ガルマン・ガミラスはボラー同様、性能ではなく数で圧倒する戦法なので、戦艦の性能が上がるのであるならば、ガルマン・ガミラスとしても悪い話ではないと思うのですが‥‥」

 

「戦艦の設計図と言うが、やはりドレッドノート級だろうか?」

 

「うーん‥いえ、少なくともアンドロメダ級かアリゾナ級くらいの大風呂敷でないと話にならないかもしれません」

 

「アンドロメダ級かアリゾナ級‥‥随分と難しい注文だな」

 

「まぁ、決定事項ではないので、上手くいけばドレッドノート級で手を打てるかもしれませんが‥‥ガルマン・ガミラスもボラー連邦との戦時ですからね」

 

「そうだな。まずは政治家連中と軍上層部を納得させる事が先だな」

 

此処でラップと良馬が議論しても決定とはならず、ラップの言う通り、まずは連邦政府と軍上層部が決定しなければならない。

 

その連邦政府では、先日のバジウド星系への遠征失敗にも問題に関係する地球人類が大きく関係する問題に直面していた。

 

 

地球 連邦政府議事堂 大会議室

 

 

「各国の人口集計を纏めますと、地球人類の人口は低下の一途を辿っています」

 

今日の連邦会議での議題は地球の人口についてであった。

 

ガミラス戦役から今日まで、地球は外宇宙からの星間国家や大規模な宇宙災害によって人口の減少が加速していた。

 

国によってはガミラス戦役前から少子高齢化が問題となっている国もあり、今は地球人口の減少に何らかの対策をとらなければ地球人類は自然消滅してしまう可能さえ出てきた。

 

「各国ごとの子育て支援や社会福祉の充実にも限界があります。此処でなんらかの対策を打ち出さなければ、地球人類の存亡にかかわります」

 

「しかし、支援に関しても財源が必要となる。その財源が乏しい国があるのだ。その点をまずは改善せねばならぬのではないか?」

 

(外宇宙からの侵略も影響しているが、まさか人口減少によって地球人類が新たな危機を迎えるとはな‥‥)

 

地球連邦政府首相であるレベロも連邦政府の関係者なので、真剣に地球人類の衰退は避けなければならないが、財政問題、貧富の差、物価高など、国によってはやはり子供を育てる事が厳しい国がある。

 

だからまずは子育て支援よりも財源の確保ではないか?と、鶏が先か、卵が先か、に似た論争が会議場では起きている。

 

しかし、このまま手を拱いて地球人類の衰退を見て見ぬふりは出来ない。

 

「財源に関しては、宇宙開拓を進めれば、莫大な財源を確保することが出来ます」

 

「だが、その宇宙開拓も先日の軍がバジウド星系で失態をした事で、停滞するのではないか?」

 

第二の地球探査で銀河系の一部には地球人類が居住可能な惑星が無い事が判明しているので、今後の探査はそれ以外の宙域が探査対象となるが、バジウド星系に存在するボラー連邦派の星間国家に喧嘩を売って返り討ちに遭った事で、今後の宇宙探査も容易に出来なくなった。

 

「太陽系内の内惑星とケンタウロス座のアルファ星だけで、十分な財政を確保できるのかね?」

 

「内惑星とは言え、火星を始めとして、木星圏、土星圏の衛星群は地球とほぼ同じ大きさの星もありますから、それらの星の資源を公平に分配すれば、財源の確保は何とか‥‥」

 

ガミラス戦役後から彗星帝国戦役までの間が一年と言う短期間だった事で地球の復興と内惑星の開拓まで進めることが出来たが、彗星帝国の残党や彗星帝国戦役後に間髪入れずに暗黒星団帝国との戦いで宇宙開拓が止まり、暗黒星団帝国との戦いが終わり、ようやくケンタウロス座のアルファ星へ開拓の手を伸ばすことが出来たと思ったら、太陽の核融合異常増進が起き、太陽制御後、ようやく平穏をつかみ取れたと思ったら、先日のバジウド星系への遠征で親ボラー連邦派へ喧嘩を売る行為‥‥

 

平穏に宇宙開拓をする時間を地球人自らの手で潰してしまったが、内惑星の資源で暫くは賄える可能性があるので、此処は内惑星の開拓を進める事で財源の確保を目的とした。

 

「それで、今日の議題である人口減少の手について何か手はあるのか?」

 

財源の確保は勿論の事、肝心の人口減少についての対策が求められた。

 

会議場に集まった政治家たちは互いに顔を見合わせたり、俯いたりしている。

 

そんな中、一人の政治家が恐る恐る口を開く。

 

「大昔、数ある国々の権力者や貴族は正妻の他に数多くの女性を囲い、跡継ぎを一人でも多く残す政策をとっていましたが、今の地球でも思い切ってその政策を復活させてみてはどうだろうか?」

 

日本でも大奥、側室といった風習があったようにかつて地球では一夫多妻を行っている国が存在した。

 

それは戦乱が絶えない時代、医療技術がまだまだ発展途上だった事で人間の寿命が短命だったが故に一人でも多くの子孫を残そうとする習慣であったが、近代に入ると、社会の安定、医療技術の進歩によって人間の寿命が上がった事に伴って一夫多妻は世界の国々で減少していった。

 

しかし、イスラーム社会やアフリカの一部では一夫多妻は細々と続いている所もあった。

 

地球の人口減少に伴い、一夫多妻制を復活させてみてはという提案が出された。

 

「しかし、一夫多妻制を復活させるにしても色々と問題が浮かぶのではないか?」

 

一夫多妻制を世界規模で行えば人口減少に歯止めがかかる可能性はある。

 

だが、それに伴う問題も多々あるだろう。

 

一夫多妻制は今の地球にとって諸刃の剣になるかもしれない。

 

「で、では多妻ではなく、まずは二人か三人で人数制限をかけての多妻制にしてみてはいかがでしょうか?」

 

大昔の権力者の様に何十人の妻を迎えるのではなく、二人または三人と言う少数にして様子を窺い人口減少問題に対処してみると言う妥協案を出してみる。

 

この妥協案に関してもやはり政治家たちは不安なのか顔を見合わせて、即決することが出来ない。

 

「地球の人口減少は確かに地球人類にとって大きな問題だ。財源の確保も同じだ。だからこそ、限られた時間の中で、この問題は慎重に議論しなければならないのではないか諸君」

 

レベロは人数制限を設けた一夫多妻制について強く否定はせずに、まずは連邦市民の理解を得て、財源と法整備を整える必要があった。

 

人口減少問題があるとはいえ、あと数年で地球人類が自然消滅すると言う訳ではない。

 

多少の時間を必要とするも一夫多妻制は地球の人口減少問題を解決するかもしれない最後の手段として連邦政府の政治家たちの脳裏に強く焼けつけた。

 

 

連邦政府の政治家たちが地球の人口減少問題について会議を行っている頃、軍部の方でも先日のバジウド星系への遠征についての事後報告会が行われていた。

 

すでに遠征失敗についての処罰は行われており、あの遠征に賛成していた軍部、連邦政府の政治家は更迭、降格の処分が下されており、今は遠征で失われた軍の再編案が議題に上げられ、その中でアルファ星基地司令官のラップからの意見書に目を通した軍の上層部は、

 

「空母の建造に艦載機のバリエーションの増加だと!?」

 

「遠征で多くの人材と艦船を失った軍としては痛手だぞ」

 

「それに空母よりも戦艦の建造を増やした方が良いだろう」

 

良馬の予想通り、軍の上層部は空母の建造よりも戦艦の建造を優先したがっていた。

 

「そもそも我が軍は本格的な空母の建造ノウハウがないのだぞ!?」

 

海上艦では空母の建造ノウハウがあっても宇宙艦船と海上艦は異なる。

 

「ラップ司令官には同盟国であるガルマン・ガミラスから技術交換をしてみてはどうかと捕捉意見もあるが‥‥」

 

「技術交換と言う事は此方も何かしらの技術をガルマン・ガミラスに渡すと言う事だろう?何を渡せる?」

 

「戦艦の建造ノウハウが意見書に書かれている」

 

「ガルマン・ガミラスに戦艦の技術を!?」

 

「むぅ~‥ガルマン・ガミラスは同盟国ではあるが‥‥」

 

かつて地球人類を絶滅寸前間で追い込んだ経緯と今はボラー連邦と言う共通の敵が存在するので、同盟関係を続けることが出来ているが、そのボラー連邦が倒された時、果たしてガルマン・ガミラスは地球との同盟関係を続けるだろうか?

 

そんな星間国家に地球の戦艦技術を渡して大丈夫だろうか?

 

そのような疑念が軍上層部にはあった。

 

「しかし、戦闘経過報告書を見る限り、我が軍の空母不足は否めないのも確かだぞ」

 

政治同様、軍の方でも新たな改革の時が来たのかもしれない。

 

 

地球において改革の予感がする中、管理局の“海”の本部である本局では‥‥

 

「どうにも気になる事が有るのだが‥‥」

 

「えっ?なに?」

 

クロノが先日起きたコロニー・メルセデスで起きた新造艦強奪事件の主犯について腑に落ちない所があった。

 

「先日の新造艦強奪事件の主犯についてだ」

 

「犯人についてはもう分かっているんでしょう?」

 

フェイトは既に犯人が判明しているので、後はその犯人を捕まえるだけなのに、クロノが犯人の何処に引っかかるのか訊ねる。

 

「犯人が元管理局員なのは分かった。ただ、どの部署に所属していたのかこの職務経歴書には士官学校を卒業後の数年しか書かれていない」

 

クロノはレティ経緯から取り寄せたシーマの経歴書をフェイトに見せる。

 

「ホントだ。士官学校を卒業してから数年は“海”の部隊に所属していたみたいだけど‥‥」

 

「彼女は管理局を脱走したらしいが、その理由も気になる」

 

(無限書庫ならば、人事部よりも詳しい情報があるかもしれない)

 

(ユーノの奴に調べさせてみるか‥‥)

 

クロノから見てもシーマは出世街道を歩んでいたであろうエリート管理局員だ。

 

それがどうして管理局を脱走したのか?

 

一体彼女の身に何があったのか?

 

シーマの脱走理由が気になるクロノであった。

 

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