星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百三十話 神前式

 

 

地球の人口減少問題の打開策として連邦政府は一夫二妻制を導入した。

 

折しもその期間内に良馬はギンガと結婚間近となり、結婚式の準備に余念がない状況だった。

 

そんな中、月村家でお世話になっているユリーシャが一夫二妻制の制度を理解し、良馬に求婚して来た。

 

良馬は当初、ユリーシャは先輩である古代守から託された娘であったので、異性として意識はせずに妹の様に接し続けて来たのだが、ユリーシャの熱意に根負けした事と、表向きユリーシャは月村家の遠縁の親戚と言う事にしていた。

 

しかし、ユリーシャの情報が何処かから漏れたのか、ユリーシャ‥月村摩耶へお見合いを申し込む者もおり、その話を聞いた良馬は屁理屈だが、ユリーシャを手元に置いておきたいと言うエゴが働いた。

 

そして、ユリーシャの求婚を受けたのだ。

 

とある喫茶店にて、良馬はその話をギンガへと話した。

 

「ギンガにとって、寝耳に水かもしれないが、俺自身、ユリーシャにお見合いが来た事も寝耳に水だった‥‥古代先輩からユリーシャを託されたからには最後まで責任を持ちたい‥‥ユリーシャを赤の他人に渡したくない‥‥そんな独占欲とも言い切れる汚いエゴだ‥古代先輩の信頼もユリーシャの気持ちを利用し、ギンガの気持ちを裏切っている様な形になった‥‥でも、ユリーシャとも結婚するからと言って君を蔑ろにするつもりはない。二人とも平等に愛する。これは神に誓ってもいい」

 

「‥‥はぁ~‥良馬さんの気持ちは分かりました。まぁ、考えてみればユリーシャちゃんは地球では知り合いが極端に少ないですし、この世界に来たばかりの頃の私とほぼ同じような境遇ですからね。良馬さんが心配になるのも分かります」

 

ユリーシャの境遇を考慮してギンガは理解を示してくれた。

 

良馬たちの結婚式の準備が着々と進んでいる中、防衛軍司令部では‥‥

 

バジウド星系への遠征失敗における軍の戦力の再編成についての会議が未だに行われていた。

 

「今回の遠征で空母の脆弱性は判明した!!故に今後は空母の建造は行わずに大型の戦艦を中心に建造して行けばいいのでないか!?」

 

「その通りだ!!戦艦ならば、格納庫も装備可能だ。航空戦力はそれだけでも十分に足りるのではないか!?」

 

軍上層部の大艦巨砲主義者はこの先の空母の建造は無用だと主張する。

 

「確かに戦艦には格納庫は搭載可能だ。しかしだ、敵が大規模な機動部隊を用いたらどうする?いくら、戦艦にも艦載機が格納可能としても搭載可能な航空機は明らかに空母に劣る」

 

「左様、実際にガルマン・ガミラス、ボラー連邦は多数の空母を保有している。ボラー連邦が空母を保有していると言う事はバジウド星系のボラー連邦派の星間国家も保有していることになる」

 

「あの遠征の失敗の一つに敵の急降下爆撃であると報告もある。我々が敵よりも多くの空母と艦載機を有していればあの時のような敗戦にはならなかったのではないか?」

 

航空主流派も負けじと反論する。

 

「それは結果論だろう!?」

 

「そちらも同じではないか!?」

 

「大型の戦艦を多数投入したところで、100%勝てる保証はあるのか!?」

 

「そうだ!!現に彗星帝国戦役ではあれだけの戦艦を投入しても負けたではないか!!」

 

「反対に、敵の機動部隊を撃滅したのは我が方の空母部隊ではないか!?」

 

「だが、あの時の機動部隊にはヤマト、まほろば が居たではないか!?」

 

「その通りだ!!全て空母と艦載機が勝敗をつけた訳ではない!!」

 

(やれやれ、これでは十年経っても決まらんな‥‥)

 

大艦巨砲主義派と航空主流派とのやり取りを眺めつつ藤堂は呆れる。

 

「そもそも、ボラー連邦には空母だけではない!!次元潜航艦も保有しているのだ。戦艦を始めとする艦に亜空間ソナーを装備しているとは言え、艦隊で索敵なんてしていたら、格好の標的ではないか!?」

 

「そうだ!!そうならない為にも哨戒機で一早く敵の次元潜航艦を発見する必要がある!!戦艦にも哨戒機は確かに搭載可能かもしれないが、せいぜい二、三機ではないか!!その程度の哨戒機で、亜空間に潜む敵を味方が攻撃を受ける前に発見できるのか!?」

 

制宙権、敵次元潜航艦の早期発見、これこそが宇宙空間における戦闘で優位に戦いを進めるための戦術であり、その戦術を行うには空母が必須だと航空主流派は訴える。

 

「長官、長官のお考えをお聞かせください!!」

 

「長官!!」

 

会議室の皆は藤堂に意見を求める。

 

「‥‥空母の建造に関しては、あの遠征で喪失した数、補填として建造を認める。建造に関してもガルマン・ガミラスへの技術提供を求め、ガルマン・ガミラス側より技術交換が拒否された場合、従来の艦影とする」

 

大艦巨砲主義派としては、面白くはない決定であったが、航空主流派の言葉を否定できる程の実績も言葉も見つからなかったので、藤堂の決断を渋々受ける事となった。

 

 

月面 ガルマン・ガミラス 地球大使館

 

「ジュラ様、バレル様、地球防衛軍より面会を求む連絡が来ております」

 

「軍からの面会?政府ではなくて?」

 

「はい」

 

「分かりました。では、調整をお願いします」

 

「承知しました」

 

「ジュラ様。軍からの面会と言う事は、何かしらの軍事技術についての意見交換か、技術交換かと思われます」

 

バレルがジュラに今回、軍からの面会についての要件を察する。

 

「分かっています。恐らく、先日地球軍が行ったバジウド星系への遠征の件でしょう」

 

ジレル人の血が混じっているジュラには地球の軍部が一体何の用で面会を求めて来たのか既に知っている様だった。

 

「なるほど‥あの遠征で、地球軍はバジウド星系のボラー連邦派に手痛い敗北をしたと聞きましたからね」

 

バレルもジュラと防衛軍が行ったバジウド星系への遠征について知っていたので、ジュラの言葉に納得する。

 

やがて、防衛軍月面基地よりガルマン・ガミラス地球大使館へ軍の使者がやってきた。

 

「突然の面会ながらも、こうして時間を割いて頂き大使方には感謝に堪えません」

 

「いえ、地球の方々も色々と大変なのは知っていますから」

 

バジウド星系への遠征問題の他に地球全体の人口減少問題についてもジュラは知っていた。

 

「それで、早速なのですが‥‥」

 

軍部の使者はジュラに今回の面会目的を告げる。

 

「なるほど、空母の建造ノウハウを‥‥」

 

「はい。ガルマン・ガミラスはガミラス時代から空母の建造と運用実績が地球よりもあるので、そのノウハウを地球に提供して頂きたいと頼みに来た次第です」

 

「それは技術交換‥と言う事ですかな?」

 

バレルが使者に問う。

 

ガルマン・ガミラス側に空母の建造・運用ノウハウを貰い、地球はガルマン・ガミラス側に何も与えないではフェアではない。

 

「勿論、そう見て頂いで結構です。地球側としましては、戦艦の設計図をガルマン・ガミラス側に提供する用意があります」

 

「戦艦ですか‥‥」

 

バレルとしては既にガルマン・ガミラスでは十分な数の戦艦を保有している。

 

そこに地球製とは言え、戦艦の設計図を貰ってもガルマン・ガミラスとしては大して魅力的な案とは言えない。

 

「勿論、戦艦と言ってもドレッドノート級の量産された艦と違い、旗艦級の戦艦‥アンドロメダ級となっております」

 

使者はアンドロメダ級の設計図の一部をジュラとバレルに見せる。

 

「艦首部に二つの波動砲の発射口‥‥」

 

ガルマン・ガミラスにおける波動砲‥デスラー砲を装備している量産艦、フォルヴァルツ級一等航宙巡洋戦艦もデスラー砲の発射口は一門だ。

 

発射口も同艦よりもアンドロメダ級の方が大きい。

 

艦の大きさもガルマン・ガミラスの最新鋭戦艦のノイ・ゼラード級航宙戦艦よりも若干小さいが、 ガイデロール級航宙戦艦やラムール級航宙巡洋戦艦よりも大型だ。

 

現在、ガルマン・ガミラスが行っているボラー連邦領への大規模な攻勢に地球のアンドロメダ級を多数投入できれば戦線に大きな変化をもたらすことが出来るかもしれない。

 

建造も設計図があれば、ガルマン・ガミラスの技術があれば短期間で大量とは言えないが、それでも数隻でも十分な戦力になる。

 

軍事に素人なバレルからみてもアンドロメダ級戦艦が強力な戦艦である事は理解できる。

 

(詳しくは駐在武官も交えて意見交換するか‥‥)

 

玄人視線からの意見も取り入れてアンドロメダ級の設計図とガルマン・ガミラスにおける空母の設計図の技術交換をするか、しないかの意見を纏める必要性をバレルは感じた。

 

「地球側の意見は承知しました。しかし、軍部についての意見ですから我々外交官のみで決定する訳にはいきません。駐在武官、本国と意見を交えて返答すると言う形でよろしいでしょうか?」

 

技術交換とは言え、軍事技術が関係するとなると、やはり軍事の専門家の意見も反映しなければならず、バレルは今日この場での返答は出来ず、正式回答は後日に延期する事とした。

 

「ジュラ様もよろしいでしょうか?」

 

「ええ。軍事に関しては私も素人ですから、やはり専門家の意見も交えなければなりません。地球側もこの件については納得して頂きたく存じます」

 

「分かりました」

 

頼んでいるのは地球側なので、それを無視して上から目線な意見を押し通す訳にもいかない。

 

使者は月面基地へと戻ると、先ほど行われたガルマン・ガミラス地球大使館でのやり取りを藤堂に報告する。

 

『そうか、返答は後日か‥‥まぁ、ガルマン・ガミラス側の意見も理解できる。こちらは頼む側なのだ。失礼の無いように頼む』

 

「承知しました」

 

『今回の技術交換には軍の今後の発展が掛かっている』

 

「はい」

 

藤堂から言われ、使者としては今回の任務が責任重大な交渉だとプレッシャーを感じた。

 

軍でガルマン・ガミラスとの軍事交渉が行われた中、いよいよ良馬とギンガ、ユリーシャの結婚式の日取りが決まり、古代は急遽アルファ星からチャーター便で地球へと戻った。

 

そのチャーター便の機内にて、

 

「あれ?古代さん?」

 

「ん?」

 

チャーター便の機内にて古代は声をかけられた。

 

「北野か?」

 

古代に声をかけて来たのは査察任務でアルファ星に赴いていた北野だった。

 

「帰朝命令でもあったんですか?」

 

ヤマトの艦長である古代がヤマトではなくチャーター便で地球に戻る為、古代に司令部から急な帰朝命令でも出たのかと思った。

 

「いや、今回の地球への帰還は個人的な要件だ。勿論、司令部には休暇申請はして、ちゃんと申請は受理されている」

 

「は、はぁ~‥‥」

 

(あの仕事人間の古代さんが個人的な要件って一体何だろう?)

 

(もしかして、雪さんとの結婚式かな?)

 

北野が抱く古代のイメージは休暇とは無縁の仕事人間であった。

 

その古代が休暇申請をするのだから、一体どんな用があって地球に戻るのか北野としては気になったが、公務ではなく私的な休暇なので、此処で詳しく聞くのは野暮と言うものなので、北野は古代の地球へ戻る訳を聞かなかった。

 

チャーター便の速度によるアルファ星から地球までの移動時間、準備期間を見越してある程度余裕がある時期に良馬は古代を地球に呼び寄せたのだ。

 

古代としても久しぶりに婚約者である雪にも会えるので、まさに渡りに船であった。

 

地球へ戻った古代は良馬とユリーシャにはすまないと思いつつ、婚約者の雪に会いに行った。

 

「あれ?古代君?どうしたの?ヤマトはアルファ星に居る筈じゃあ‥‥」

 

地球に単身で戻って来た古代に雪は驚く。

 

ヤマトはケンタウロス座アルファ星基地に居る筈で、古代はヤマトの艦長なのだから、当然、古代もアルファ星に居ると思っていたからだ。

 

古代は雪に良馬とユリーシャが結婚する事を伝えていなかった。

 

「ちょっと、用事が出来て急遽、地球に戻って来たんだ」

 

「用事?」

 

「ああ、詳しい話はそこのカフェで話すよ」

 

古代は近くにある喫茶店を指さし、二人は喫茶店へと入店する。

 

喫茶店にて古代はコーヒーを注文し、雪はミルクティーを注文した。

 

「お待たせしました」

 

やがて、注文した品が届くと古代が雪に地球に戻って来た理由を話す。

 

「それで、地球に戻って来た理由なんだが、実は今度、月村さんが結婚するんだ」

 

「月村さんって、まほろばの艦長の?」

 

「ああ」

 

「確かに古代君と月村さんとは長い付き合いですものね」

 

「ただ、知り合いだからと言って式に出席する訳じゃなくて、月村さんの結婚相手に関係があるんだ」

 

「結婚相手?」

 

「一人は防衛軍作戦五課の課長さんの娘さんで、もう一人が‥‥」

 

「月村さんはやっぱり、二人の奥さんを貰うのね。まぁ、月村さんの家はお金持ちだものね」

 

雪は良馬が最近施行されたばかりの一夫二妻制の制度を使い二人の奥さんを貰う事を古代から聞き、お金持ちだからこそ、二人の奥さんを貰うのだと納得した。

 

「それで、もう一人の結婚相手がユリーシャなんだ」

 

「ユリーシャ?それって‥‥」

 

「ああ、兄さんとスターシアさんの双子の娘の一人‥サーシアの妹で、俺にとっては姪にあたる人物だ」

 

「まさか、ユリーシャちゃんと月村さんが‥‥」

 

あまりにも意外な人物の登場に雪は目を丸くする。

 

「でも、どうしてユリーシャちゃんが月村さんと?」

 

そして、ユリーシャと良馬が結婚する訳を雪は古代に訊ねる。

 

「兄さんがサーシアとユリーシャを連れて地球へ戻ってきた時、サーシアを真田さんに‥そして、ユリーシャを月村さんに預けたみたいなんだ」

 

「子供たちを?どうして?」

 

雪としては自分の子供を他の人に預ける事が信じられなかった。

 

当時の守も暫くの間、育児に専念していたが、軍に復帰し、就航したばかりの春藍の副長の任務を受け、仕事中は流石に二人の娘を春藍に乗せる訳にもいかず、また娘たちのある特徴が子供たちを預ける原因となる。

 

「それはイスカンダル人特有の成長速度が関係していたんだ」

 

「イスカンダル人の成長速度?」

 

「イスカンダル人は赤ん坊の時期が物凄く短い特徴があるんだ。でも、一定の身体つきまで成長するとそこからは地球人と同じ成長速度らしい‥‥軍に復帰して艦隊勤務になっていたから、サーシアとユリーシャを育てるには難しい環境になった。それで、兄さんはサーシアをイカルスに向かう真田さんに‥‥そしてユリーシャを月村さんに預けたんだ。月村さんの家は世界でも有数のお金持ち‥人一人を匿うくらい出来ると判断したみたいだ。実際、兄さんの判断は当たって、二人とも周囲にはサーシア、ユリーシャと分からずに成長した」

 

流石に子供二人を預かるのは真田には負担になるので、守はユリーシャを月村家‥忍に預けたのだ。

 

「イスカンダル人にそんな特徴が‥‥」

 

イスカンダル人特有の成長速度を古代が知ったのは暗黒星団帝国に地球が占領され、地球を救うために暗黒星団帝国の母星へ向かっている最中の事であり、その時雪は地球で暗黒星団帝国に捕まっていたので、イスカンダル人特有の成長速度を知らなかった。

 

「それで、月村さんの家に居たユリーシャが月村さんと一緒に暮らしているうちに成長して、段々と月村さんを異性として意識していったみたいだ」

 

(サーシアもヤマトに乗艦中の短期間で俺に恋愛感情を抱いていたからな‥‥)

 

ユリーシャの姉であるサーシアもヤマトに乗艦している中で、自分を叔父ではなく一人の男性として恋愛感情を抱いた。

 

こうしたサーシアの経緯からユリーシャもきっと自分と同じように父親以外の異性である良馬へ恋愛感情を抱いたのだと推測する古代。

 

勿論サーシアが自分に恋愛感情を抱いた事は雪には秘密にしてある。

 

叔父と姪の関係とは言え、雪としてはやはり自分以外の女性が古代に言い寄るのは面白くないだろうし‥‥

 

「でも、イスカンダル人の成長速度が地球人よりも早いとなると身体は兎も角、知能とかは大丈夫なの?」

 

見た目は大人、頭脳は子供では今後の生活に支障が出るのではないかと雪は疑問に思う。

 

「その辺は特に問題ないらしい。そう思うとイスカンダル人の頭脳は地球人よりも優れている事になる。元々地球に波動エンジンやコスモクリーナーの技術を齎したのはイスカンダルだからな」

 

「そうね」

 

「でも、身体つきや知能は良いとして年齢の問題は?」

 

イスカンダルならば、その特有の成長速度は大して珍しくもなかったかもしれないが、此処は地球‥‥

 

例え、一夫二妻制になっても結婚可能年齢は決まっている。

 

「最初に真田さんからサーシア紹介された時、真田さんはサーシアの事を『真田澪』‥真田さんの姪として俺たちに紹介して来たんだ。多分、ユリーシャもそんな感じで遠縁の親戚設定とかして誤魔化しているんじゃないかな?」

 

(戸籍とかも弄っているに違いない。月村家の権力とガミラスとの戦争で戸籍が一時混乱していたからな‥‥その混乱に乗じて地球人としてのユリーシャの戸籍を用意したんだろう)

 

「それで、古代君はやっぱり姪っ子さんの結婚式だから地球へ?」

 

「ああ。兄さんもスターシアさんも地球から遠く離れたイスカンダルに居るから、ユリーシャの身近な血縁者は俺だけだからな」

 

「そう‥そうよね。ユリーシャちゃんは親元を離れて一人、地球に居るのだから、結婚式の時くらい、誰か身内の人が来てもらいたいわよね」

 

「うん。月村さんもその為に俺を呼んだんだ」

 

古代は雪に地球へ戻って来た理由を話し、

 

「それで、この後に月村さんの家に行って式の内容を聞くのだが‥雪も一緒に来るかい?」

 

「えっ?私も!?」

 

古代の提案に雪は驚く。

 

「でも、私が行っていいのかしら?」

 

「大丈夫だよ。雪は俺の婚約者なんだし」

 

飲み物を飲んだ後、二人は喫茶店を後にして月村家に向かった。

 

 

海鳴市 月村家

 

「いらっしゃい。古代くん。森さんもわざわざ来てくれありがとうございます」

 

二人を出迎えた良馬は雪も一緒に来たのは意外であったが、古代と雪の関係を知っているので、特に気にしていない。

 

「私も来て大丈夫だったんですか?」

 

「構わないよ」

 

「は、はぁ‥‥」

 

良馬はユリーシャが待つ部屋に二人を案内した。

 

「ユリーシャ。古代くんと森さんが来てくれたよ」

 

「あっ、古代の叔父様」

 

「ユリーシャ、結婚おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

「古代くんにはユリーシャの親族代表として式に参加してもらうけど‥‥森さんも参列しますか?」

 

「えっ?」

 

良馬の提案に雪は驚く。

 

チャペルでの結婚式ではなく、式は神社での神前式で、八束神社では限られたスペースなので、式には参列者が限られてしまう。

 

その代わり、披露宴は広い会場を抑えてある。

 

「えっ?でも、私が参列して良いんですか?」

 

「森さんは古代くんの婚約者だし、半ば古代家の人間じゃない」

 

「古代くんにも同じ事を言われました」

 

先程の喫茶店で古代からも良馬と同じ事を言うあたり、二人は似た者同士なのだと思う雪だった。

 

「そうなんだ‥‥それで、森さんも参列するなら、この後に古代くんの着物を用意するから、森さんの着物も用意するけど?」

 

「でも、着物なんて高い物いいんですか?」

 

「大丈夫、大丈夫。それに式に参列する事で、君たちの式の参考になるかもしれないし」

 

「そ、それじゃあ‥‥」

 

古代と雪は結婚式をあげるならチャペルでの結婚式と決めていたので、神社での神前式とは異なる形式なので、参考になるかは分からないが、チャペルでの結婚式が主流となっている中、神社での神前式は中々参列できない貴重な機会なので、雪は参列する事に決めた。

 

その後、良馬は古代と雪を着物屋へと連れて行く。

 

そこで、古代は古代家の紋付袴を雪は神前式用の着物を良馬から買ってもらった。

 

式に向けての準備が進み、そして、いよいよ神前式当日を迎えた。

 

ギンガは当初から神前式に参列するので、式当日どんな事をするのかレクチャーを受けていたが、ユリーシャは半ばイレギュラーな参列だったので、急ぎ神前式での行動をレクチャーする事になったが、ユリーシャは物覚えが良かったので、式当日までには完璧に覚えた。

 

式当日は快晴で新郎新婦たちを祝福してくれるかのようだった。

 

八束神社には着物、礼服を身に着けた男女が溢れていた。

 

そんな中、今日の主役である良馬、ギンガ、ユリーシャの三人も式の為、着替えていた。

 

良馬は月村家の家紋が描かれた紋付袴姿。

 

ギンガとユリーシャは白無垢姿となっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

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「二人とも緊張している?」

 

控室で良馬は白無垢姿のギンガとユリーシャに声をかける。

 

「は、はい。この衣装も当日のレクチャーも受けましたが、今日は本番ですから嫌でも緊張してしまいます」

 

「ユリーシャは?」

 

「だ、大丈夫‥‥」

 

ユリーシャ本人は大丈夫と言うが、彼女にしては珍しく顔が引き攣っていた。

 

二人とも事前に袖を通していたが、今日は本番と言う事でギンガは勿論の事、ユリーシャも何だかソワソワしていた落ち着きがない。

 

神前式はチャペルでの結婚式と異なり行う事が多い。

 

まずは手水の儀。

 

神事に先立って身を清める儀式だ。

 

八束神社の巫女が水の入った柄杓を左手・右手・左手の順にかけ、最後に左手にかけた水で口をすすぐ。

 

手水の儀が終わると参進‥社殿に入る儀式となる。

 

八束神社の斎主を先頭に新郎新婦、両家の親、親族で社殿に向かい境内を進んでいく儀式で、今回は花嫁が二人居るので、左にギンガ、中央に花婿の良馬、右にユリーシャの形で社殿に向かって歩いていく。

 

ゆっくりとした足取りで社殿に向かう一同であるが、花婿、花嫁の良馬、ギンガ、ユリーシャは勿論、ギンガの養父である源三郎、そしてユリーシャの親族である古代も緊張した面持ちで境内を歩いていた。

 

(ウェディングドレスじゃなかったのはちょっと残念だったけど、こうしてギンガの花嫁姿を見ることが出来たと思うと転生した甲斐があったわね)

 

(ミッドには無い結婚式の形態だけど、ギンガが幸せになってくれるのが何より一番ね)

 

(スバルの結婚式が見れないのが残念だけど)

 

着物を身に纏い境内を歩きながら、加奈江は白無垢姿のギンガを見つめる。

 

そして、加奈江以外にも、もう一人ギンガの白無垢姿に思いを寄せる人物が居た。

 

(私が知るギンガの結婚相手とは違うけど、この世界でもギンガが幸せそうで何よりね)

 

それは紅葉であった。

 

彼女も加奈江同様、前世の記憶を持っており、前世では管理局員で、ギンガの同僚であった。

 

そしてその前世でもギンガは良馬ではないが、同じく同僚の男性と結婚していた。

 

自分は任務の過程で殉職してしまい、その後のギンガの家庭を知る事は叶わなかった。

 

この世界に転生し、外宇宙からの侵略を受け、家族と家を失い絶望のどん底に落ちた。

 

しかし、そんなどん底の不幸な目に遭ったが、そんな最中にもう会えないと思っていたギンガと再会して、こうして彼女の結婚する姿を見ることができた。

 

この世界でも自分は魔導師であるが、管理局と違い殉職する事は無いだろうし、今の自分には実家の洋菓子店を再建すると言う夢も出来た。

 

この世界に転生して不幸な出来事が続いたが、こうしてギンガと再会してから彼女の運気も好転したような気がした。

 

紅葉にとって今の状況は幸せな環境であった。

 

 

社殿に入る事を昇殿と呼ばれ、斎主、巫女、新郎新婦、両親、親族の順に拝殿に入場し、神前を前に左右それぞれに新郎側、新婦側が分かれて用意されている椅子へと着席する。

 

今の地球は一夫二妻制となったので、必然的に花嫁側の席が多く埋まる。

 

一同が社殿に入ると心身を祓い清めるお祓いの儀式、修祓の儀が行われる。

 

斎主が幣束を振りながら参列者全員が祓詞を受ける。

 

それが終わると、祝詞奏上‥斎主が神に新郎新婦の結婚を報告し、二人の幸せが末長く続くように祈りを捧げる。

 

(去年までは一夫一妻制だったからな‥‥今年一夫二妻となった事を神様は理解してくれるだろうか?)

 

斎主が祝詞を上げている中、去年より花嫁の人数が多い事に八束神社の神がそれを理解して祝福してくれるのか良馬は心配になる。

 

斎主の祝詞が終わり、次は三献の儀または誓盃の儀、三三九度と呼ばれる儀式となる。

 

小・中・大3種類の盃で新郎新婦が交互にお神酒を飲み交わし、夫婦の永遠の契りを誓う。

 

一番小さな盃、一の盃は新郎がまず飲み、次に新婦、そしてまた新郎が飲む。

 

この小さな盃は新郎新婦を巡り合わせてくれた神様、ご先祖様への感謝を意味する盃。

 

(ユリーシャ、お酒は大丈夫かな?)

 

(古代先輩はお酒に強い人だったけど、スターシアさんは分からないし、身体つきは成人女性だけど、実年齢はまだ一桁代だからな‥‥)

 

(一応、アルコール度数が低いお酒を用意してもらったけど‥‥)

 

ギンガは兎も角、少量とは言え、お酒を飲むので良馬はユリーシャが酔わないか心配だった。

 

練習の時はお酒ではなく、水を使用していた事、ユリーシャの実年齢の問題もあり、彼女にお酒を飲ませていなかったので、ユリーシャがお酒に強いか分からなかった。

 

中くらいの盃、二の盃は新婦、新郎、新婦の順で飲む。

 

この盃中は力を合わせて家庭を築いていく新郎新婦の誓いの盃となっている。

 

最後の一番大きな盃、三の盃は一の盃の様に新郎、新婦、新郎の順で飲む。

 

大盃は子孫繫栄と一家安泰への願いが込められている盃となっている。

 

神前式でも指輪の交換は行われる。

 

もともとは神前式にはない儀式であったが、神前式でも指輪交換を希望する新郎新婦が多くなった事で昭和の半ば頃から取り入れられるようになった。

 

良馬がギンガとユリーシャの左手の薬指に指輪をはめると、ギンガとユリーシャが二人で二重リングの指輪を良馬の左手の薬指にはめた。

 

指輪交換が終わると、次に誓詞奏上‥新郎新婦が神前に夫婦になる事を誓う誓詞を読み上げる。

 

誓詞を読み終えると次は玉串奉奠‥新郎新婦が玉串と呼ばれる榊の枝を捧げ、改めて二拝二拍手一礼を行う。

 

この儀式にも作法があり、まず右手で榊の根元、左手で先の方を下から支え、胸より高く持つ。

 

次に玉串(榊)を立て、左手を下ろして両手で根元を持ち、祈念する。

 

祈念が終わると右手を離して、玉串を下から支える。

 

玉串を時計回りに回し、根元を神様に向けて、神様に捧げ二拝二拍手一拝する。

 

新郎新婦が拝礼し、続いてご両家の親族代表が拝礼する。

 

月村家では忍が、中嶋家では源三郎が、そしてユリーシャの親族代表として古代が行った。

 

玉串の奉納が終わり、斎主が金幣を振り、新郎新婦、親族に振り御神徳を戴く金幣拝載の儀が終わり親族盃の儀となる。

 

これは両親をはじめ両家の親族が順にお神酒を飲み両家が親族となるための儀式だ。

 

お神酒を飲むのは忍、中嶋夫妻、古代だったので、この時は特に心配になることはなかった。

 

お神酒の飲むのは全員、お酒に強い人たちだったからだ。

 

親族盃の儀が終わると、いよいよ最後、〆となる斎主一拝となる。

 

斎主が、無事に神前式が執り納められたことを神様に報告し式は終わる。

 

社殿からの退場も斎主、新郎新婦、両親、親族の順番で退場する。

 

式が終わると境内での写真撮影となる。

 

「ふぅ~」

 

式が終わり一息つく古代。

 

「お疲れ、古代くん」

 

「あっ、月村さん」

 

古代に声をかける良馬。

 

「どうだった?神前式は?初めの経験だと思うけど?」

 

「いやぁ~緊張しましたよ。特に玉串を捧げるところは‥時間に関してもチャペルでの結婚式よりも時間があるような気がします。何よりも神社での結婚式はちょっと重苦しい感じでした。それに着物なんて普段から着ませんからね」

 

古代はちょっと着物に不慣れな様子だ。

 

「この後は写真撮影をして、披露宴会場へ移動する事になる。着物で不慣れかもしれないけど、今日一日は我慢してくれ」

 

「わ、分かりました」

 

まだこの着慣れない衣服を着なければならない事に若干顔を引き攣らせる古代。

 

一応、花嫁二人は御召し変えのドレスがあるが、参列者には着替えがないので、古代はもう少しの間、紋付袴姿のままであった。

 

「やっぱり、参考にはならなかったかな?」

 

「ええ、チャペルでの結婚式と形式が違いましたからね。指輪交換ぐらいしか共通していませんでしたからね」

 

やはりと言うか、予想通りチャペルでの結婚式と神社での神前式ではあまり参考にはならなかった。

 

それから、写真撮影を終えた式の参列者たちはマイクロバスにて披露宴会場へと移動する。

 

神前式と違い披露宴の招待客は多く、会場もそれなりの広さのホールを抑えてあるが、それでも人数が多いので食事はコース料理ではなくビュッフェスタイルとなっている。

 

会場内で招待客が食事や会話に打ち興じている中、

 

「結婚おめでとうございます。ギンガさん」

 

ティアナがギンガに声をかける。

 

「ありがとう、ティアナ」

 

「式には参列出来なかったのですが、どうでしたか?式の方は?」

 

神前式は身内のみの参列だったので、ティアナは式には参列出来なかったので、ギンガにどんな式だったのかを訊ねたのだ。

 

「教会でやる式と違ってなんか独特の雰囲気があったわ。その‥神聖と言うか、重苦って言うか‥‥」

 

教会で行われる結婚式はミッドチルダでも似たような形式の結婚式が行われているので、知っているが神社での神前式は地球独自の形式なので、ミッドチルダ出身のギンガにとって神前式はまさに最初で最後の体験であった。

 

「えっ?でも、結婚式ですよね?それが何で重苦しいんですか?」

 

「うーん‥教会と違って神社ならではの雰囲気ってやつかな?」

 

教会と違って神社の社殿は窓もなく、神前も大きいので圧迫感みたいなのを感じたのだろう。

 

(でも、結婚か‥‥)

 

ドレス姿のギンガを見てティアナは結婚を意識してしまう。

 

今は北野と言う彼氏が居るからこそ結婚を意識してしまうのだろう。

 

ギンガがティアナと話している中、ユリーシャは改めて良馬と夫婦になれた実感を覚えており、

 

「これで、私とリョーマは夫婦なんでしょう?」

 

ユリーシャは良馬の腕に抱き着き甘い声を出す。

 

「あ、ああ。そうだな」

 

(ユリーシャ、やっぱり酔っているのかな?)

 

神社でお神酒を飲んだので、やはりそのお神酒で酔っているのかと思った。

 

「ウフフフ‥私とリョーマの赤ちゃん、いつ来るのかな?」

 

「ん?」

 

「夫婦になったら赤ちゃんが来るんでしょう?お父様もお母様もそうだった」

 

「‥‥」

 

「明日かな?明後日かな?楽しみ~」

 

良馬はユリーシャの子供発言に違和感を覚えたがユリーシャのその後の発言で彼女が大きな勘違いをしている事に気づく。

 

どうやらユリーシャは結婚したらすぐに子供が何処からか来るのだと思い込んでいる様だ。

 

(古代先輩もスターシアさんもどうやって子供が生まれるのか、ユリーシャに教えていなかったのか‥‥)

 

(まぁ、時間とユリーシャの年齢的に教える暇なんてなかったけど‥‥)

 

(ど、どうしよ~‥‥)

 

(でも、お神酒で酔っているからこんな事を言っている可能もあるし、明日にでもさりげなく聞いてみるか‥‥)

 

ユリーシャが酔っている可能性もあるので、後日改めてユリーシャに訊ねる事にした良馬だった。

 

ユリーシャが良馬に早速スキンシップをしていると、

 

「月村さん、ユリーシャさん。この度は御結婚おめでとうございます」

 

良馬とユリーシャに声をかける人物が居た。

 

「ジュラさん。こちらこそ、わざわざご足労いただき、ありがとうございます」

 

披露宴会場の中に良馬とギンガが呼ぼうとしていたバーガーとネレディアの姿は残念ながらなかった。

 

一応、良馬とジュラは第二次イスカンダルの際に交流を持っていたので、披露宴にはジュラも呼んでいた。

 

そして、ジュラを経由してバーガーとネレディアも披露宴に来れないか確認してもらったが、バーガーもネレディアも今は対ボラー戦線に参戦しているので、今日の披露宴には不参加となっていた。

 

「本国に確認しましたが、フォムトさんもネレディアさんも今は前線に出ていて今日の披露宴には間に合わなかったみたいで‥‥」

 

ジュラはガルマン・ガミラス本星にバーガーとネレディアの状況を確認してもらい、その結果を良馬にすまなそうに伝える。

 

「いえ、一個人のために尽力して頂いただけでもジュラさんには感謝しております」

 

良馬は防衛軍の軍人であり、実家は地球でも有数な大富豪であるが、ガルマン・ガミラスの内政に干渉できる程の権力はない。

 

それにもかかわらず、ジュラは良馬たちのためにバーガーとネレディアの現状をわざわざ本国へ確認してくれた。

 

良馬にとってそれだけでも十分な好意であった。

 

ギンガがミッドチルダからこの地球に次元漂流をしてから幾年の月日を重ね、ようやく彼女は想い人と結ばれたのだった。

 

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