星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百三十一話 結婚ラッシュ

 

 

良馬がようやくギンガと結婚し、次いで地球連邦政府が地球人口の減少から一夫二妻制が導入され、ユリーシャも良馬と結婚した。

 

結婚後、良馬は披露宴におけるユリーシャの子供発言について訊ねてみた。

 

あの時は、神前式でお神酒を飲んでいたので、酔っていたのかもしれないと思い、深くは突っ込まなかった。

 

しかし、今日のユリーシャは素面なので、あの時の発言が酔っていたからなのか?

 

それともガチで本気だったのか真相は判明する。

 

「ねぇ、ユリーシャ」

 

「ん?なあに?」

 

「披露宴の時、ユリーシャは子供が欲しいみたいな事を言っていたのだけれど、覚えているかな?」

 

「ん?覚えているよ。今日はまだ赤ちゃんが来なかったけど、明日には来るのかな?」

 

「さ、さあ、どうだろう?その‥一夫二妻制が導入されて、きっとあちこちで結婚式があるから、大変なんじゃないかな?」

 

「そう‥そうだね。私の赤ちゃん、いつ来るんだろう」

 

「‥‥」

 

どうやら、ユリーシャは本気で結婚すれば赤ちゃんが何処からともなく来ると思い込んでいる様だ。

 

ユリーシャに現実を教えるか?

 

それとも放置か?

 

良馬は一先ず、彼女の身内である古代に急ぎ連絡を入れた。

 

「古代くん!!古代くん、まだ地球に居る!?」

 

『えっ?ええ、まだいますけど‥‥』

 

「ちょっと、相談に乗ってくれ!!」

 

『はい?』

 

同性ではあるが、古代はユリーシャの叔父なので良馬の脳裏にすぐに姿が浮かんだのだ。

 

幸い古代はまだ地球に居たので、良馬は直ぐに古代とコンタクトを取り、とある喫茶店にて彼と待ち合わせた。

 

やがて、古代が来ると、彼はボックス席に居る良馬を見つけ、席に着く。

 

「どうしたんですか?月村さん。あんなに慌てて」

 

「古代くん‥実は‥‥」

 

良馬は古代にユリーシャの子供についての認識を相談する。

 

「へ、へぇ~‥あのユリーシャが‥‥」

 

「サーシアちゃんにそんな感じの様子はなかったかい?」

 

「えっ?サーシアに‥ですか?」

 

「ああ。妹のユリーシャがあの様子だと姉のサーシアちゃんも『まさか』‥と、思って」

 

「うーん‥サーシアにはその様な一面はありませんでしたね」

 

古代は暗黒星団帝国の本星を目指していた時の航海を振り返り、サーシアの事を思い出すが、良馬が相談しているようなぶっ飛んだ事は口にしていなかった。

 

「そうか‥‥それで、古代くん」

 

「なんでしょう?」

 

「ユリーシャに正直話した方が良いだろうか?」

 

「えっ?」

 

「その‥子供がどうやって生まれてくるのかを‥だ‥‥」

 

「‥‥」

 

古代としては即答することが出来なかった。

 

ユリーシャ本人は良馬との子供を望んでいるのだが、子供が生まれてくる経緯を純真無垢なユリーシャに教えて良いのだろうか?

 

「本来なら身内とは言え、関係ない古代くんにこんな相談は見当違いだと分かっているのだが‥‥」

 

「ま、まぁ、月村さんが言いたいことは分かりますよ。ですが、確かにデリケートな問題ですね‥‥」

 

古代としても結婚したばかりの姪っ子の相談なので、出来れば力になりたかった。

 

しかし、

 

「ですが、その問題は月村さんとユリーシャの夫婦間の問題です。いくら私がユリーシャの叔父とは言え、やはり月村さんとユリーシャで話し合うべきではないでしょうか?」

 

「‥‥」

 

この問題に関しては月村家の問題なので、いくら身内であってもあまり首を突っ込める問題ではなく、良馬とユリーシャの夫婦間の問題であると判断した古代。

 

 

「ぎ、ギンガ」

 

「どうしたんですか?」

 

「ユリーシャの事なんだが‥‥」

 

「ユリーシャちゃんがどうかしましたか?」

 

「実は‥‥」

 

良馬は古代の次に妻となったギンガに事の次第を相談した。

 

披露宴の時にはギンガはティアナや中嶋家や瓢を始めとする八雲の乗員たちと話し込んでいてユリーシャの子供発言を聞いていなかった。

 

「‥‥って、感じで、ユリーシャは子供がどうやって生まれてくるのかを知らないみたいだ‥‥」

 

「まぁ、ユリーシャちゃんらしいって言えばらしいですけど‥‥」

 

「しかも、ユリーシャは子供を望んでいる‥‥でも、あんな純真無垢な子に教えるべきなのか‥‥」

 

「うーん‥でも、真実を知らなければ、得るモノも得られませんよ」

 

ただ待っているだけでは子供は出来ない。

 

自分の子供を欲するにはそう言ったプロセスを踏む必要がある。

 

「‥‥」

 

ギンガに後押しを受けるも煮え切らない良馬。

 

「よろしければ、私や忍さんからユリーシャちゃんに教えますが?」

 

異性では羞恥もあるだろうから、同性で子供が生まれてくるプロセスをユリーシャに教える提案をするギンガ。

 

確かに自分からユリーシャに伝えるのはやはり恥ずかしい。

 

だが、いつまでも誤魔化せる問題ではない。

 

良馬はギンガと忍に託すことにした。

 

「忍さん」

 

「ん?どうしたの?ギンガちゃん」

 

良馬からユリーシャの事を任されたギンガは忍にも相談をした。

 

「実は、さっき‥‥」

 

「なるほどねぇ~確かにユリーシャちゃんに性教育については教えていなかったわね。多分、古代さんもスターシアさんもユリーシャちゃんには教えていなかった様ね‥‥サーシアちゃんの方は‥‥うーん、あの真田さんが果たして教えるかしら?」

 

忍のイメージとして、あの真田がサーシアに性教育を教えるとは思えない。

 

多分、サーシアの方もヤマトに乗艦中はどういう経緯で子供が生まれてくるのか知らないのではないかと忍が判断したが、サーシアは子供が生まれてくる経緯を実は知っていた。

 

真田はサーシアに宇宙戦士としての教育の他に一般教養も教えており、その中の生物の参考書で彼女は子供が生まれてくる経緯を知っていたのだ。

 

故にデザリアム星でジェレミアこと、スカリエッティが、デザリアム星人が抱える生物の種として重大な欠陥を持っている事情の中で、彼が連発した『交配』と言う言葉に思わず羞恥してしまった。

 

ユリーシャに関しても忍とノエルが一般教養は教えたが、魚類、鳥類、両生類、爬虫類が卵で子孫を残していくのと同じように人間と他の生物との繫殖についてユリーシャは異なると思い込んでいた。

 

「生物の授業もやったんだけど、ユリーシャちゃんはどうやら間違った知識を持ってしまった様ね‥‥」

 

「それで、良馬さんはユリーシャちゃんに子供が生まれてくる経緯を伝えるか迷っている様で、私は教えても良いんじゃないかと言って、どうせ教えるなら異性の良馬さんよりも同性の私たちが教えた方が良いのではないかと思って、忍さんに相談した次第です」

 

「まぁ、ギンガちゃんの判断は良い判断だと思うわ。良馬が伝えたらユリーシャちゃんがショックを受けるか、その場で良馬を押し倒すかのどちらかかもしれないわね」

 

「押し倒す‥‥」

 

忍の言う『押し倒す』の部分に思わず反応してしまうギンガ。

 

「とりあえず、教材を用意してユリーシャちゃんに現実を教えないといけないわね」

 

「はい」

 

というわけで、忍とギンガは保体の教材を持ってユリーシャの下へと向かった。

 

「ユリーシャちゃん」

 

「シノブ、どうしたの?ギンガも一緒に」

 

「あの、ユリーシャちゃん。ユリーシャちゃんは子供‥欲しいの?」

 

「うん。欲しい!!私とリョーマの子供!!」

 

「「‥‥」」

 

(こ、これは確かに良馬さんが悩むのも分る気がする)

 

(き、綺麗な目をしているけど、現実を知ってどっちに転ぶのか心配になるわね‥‥)

 

純真無垢な目で良馬との子供を欲するユリーシャに忍とギンガはこれから現実をつきつける事に罪悪感を覚える。

 

しかし、自分たちが此処に来た目的を忘れてはならない。

 

「そ、その事だけど、ユリーシャちゃんはもしかして大きな勘違いをしているかもしれないのよ」

 

「勘違い?」

 

「ええ、結婚しからと言って子供が直ぐに出来る訳じゃなくてね」

 

「子供が生まれるにはその‥色々とやることがあるのよ」

 

「やること?」

 

「そうよ。今日はどうやって赤ちゃんが生まれてくるのかをユリーシャちゃんに知ってもらって、それでも良馬との子供を望むのかを決めてちょうだい」

 

忍とギンガはユリーシャに分かりやすく、丁寧にどうやって子供が生まれてくるのかを教えた。

 

その頃、別室では‥‥

 

「忍さんもギンガも大丈夫かな‥‥?それにユリーシャも‥‥」

 

山猫状態となったリニスを撫でながら別室で性教育を教えている忍とギンガに思いを寄せる。

 

「忍さんは長い時間を生きて来た女性ですから経験豊富でしょうし、ギンガさんもマスターと何度も逢瀬を重ねてきているので、ユリーシャさんに教えるには問題ないと思いますよ」

 

良馬に撫でられながらリニスは忍とギンガを信頼しているのかユリーシャには子供が生まれてくるプロセスをちゃんと理解できるように教えてくれるだろうと思っている。

 

「忍さんにもギンガにも嫌な役を押し付けてしまったかな?」

 

「いえ、女性のことは女性に任せるのが一番でしょうから、此処は忍さんとギンガさんを信じて待ちましょう」

 

「‥‥」

 

リニスの言う通り、ユリーシャの事を託したのは、自分なのだから、此処は忍とギンガを信じて待つしかなかった。

 

良馬がリニスを撫でながら事の成り行きを待っている中、忍、ギンガ、ユリーシャが居る部屋では‥‥

 

「あ、赤ちゃんが生まれてくるにはそんなことを‥‥」

 

ユリーシャは子供が生まれるプロセスを知り、顔を赤らめる。

 

「し、シノブやギンガは経験があるの?」

 

「「‥‥」」

 

ユリーシャの質問に忍とギンガが恥ずかしそうに視線を逸らす。

 

「そ、その‥‥」

 

「あ、あるにはあるわね」

 

二人はユリーシャの質問について肯定する。

 

「そ、それで、此処でも大事なのは一度、そういう事をしたからと言って子供が出来る訳じゃあないのよ」

 

次いで忍はユリーシャに妊娠までのプロセスを説明する。

 

(子供か‥‥私も良馬さんと結婚した訳だし、子作りに本腰を入れようかしら?)

 

忍がユリーシャに妊娠についての説明をしている最中、ギンガもユリーシャの様に良馬との子供が段々と欲しくなり、子作りを頑張ろうかと思った。

 

「‥と言う訳よ。いいかしら?」

 

「う、うん」

 

忍から妊娠について説明を受けたユリーシャの顔は赤い。

 

「これらの事を踏まえて、良馬との子供を望むのか?それは貴女自身が決める事よ。他の選択肢として養子を迎えると言う手もあるわ」

 

「ヨウシ?」

 

「養子って言うのは‥‥」

 

忍はユリーシャに養子について説明した。

 

「‥‥って言うのが、養子よ。分かったかしら?」

 

「うん。でも、私はやっぱり、リョーマとの子供が欲しいかも‥‥でも‥」

 

ユリーシャの信念は固くあくまでも良馬との子供を望む様子だ。

 

それでも、彼女には不安がある。

 

女性としてそれは当然かもしれない。

 

「大丈夫ですよ。良馬さんは優しい人ですから、決して無理矢理‥なんて事はしないと思うわ」

 

これまでのギンガとの逢瀬は互いに同意しての事だったので、いくら結婚したからといって無理矢理はしない。

 

その点をギンガはユリーシャに説明する。

 

あとはユリーシャの決断次第となり、忍とギンガは良馬の下へ向かい、彼に説明し終えた事を告げる。

 

「それで、ユリーシャの反応は?」

 

「やっぱり、困惑していたわね」

 

「現実を知ると‥ね‥‥」

 

「でも、彼女は真剣に貴方との子供を望んでいたわ‥それでもし、彼女が貴方を求めて来た時は優しくしてあげなさい」

 

「ただ、暫くは気まずいかもしれませんが‥‥」

 

「は、はい」

 

忍の忠告を聞き良馬はユリーシャが現実を理解したのだと察する。

 

そしてギンガの言う通り、ユリーシャは変に良馬の事を意識するだろうから両者の間には気まずい空気が流れるのは当然の事だった。

 

 

この年、良馬とギンガ、ユリーシャの結婚式が行われた様に古代と雪の結婚式も行われた。

 

ガミラス戦役後に婚約した二人で結婚式まであと三日となった時にアンドロメダ星雲から飛来した白色彗星、テレザートからの謎のメッセージなど、結婚式を挙げている場合ではなく、地球の新たな危機を悟った古代たちはメッセージの発信源であるテレザートに司令部の制止を無視して発進した。

 

結果的に地球はガミラスと同等‥いや、それ以上の技術を持つ彗星帝国に狙われている事が判明し、ヤマトは再び地球のために戦った。

 

大きな犠牲を払い、地球は辛くも彗星帝国からの侵略の魔の手を退けた。

 

その後、古代と雪は結婚を無期延期状態となり、地球は三度外宇宙からの侵略を受け、太陽異常が起きるなど、結婚を無期延期にしたとは言え、地球の危機が立て続けに起きた。

 

その為、古代は自分たちがいざ結婚式を挙げようとすると決まって地球全体レベルの危機が起きるのではないかと思ってしまい、なかなか雪に結婚を申し込むことができなくなった。

 

しかし、このままなぁなぁと結婚を延長していては、雪自身、古代は自分と結婚する気が無いのではないか?

 

自分以外に好きな女性が出来たのではないか?

 

そう思ってしまうのも不思議ではない。

 

ここ最近、連邦政府は地球の人口減少の解消として一夫二妻制を導入した事で雪の焦りは益々加速する。

 

そんな中で良馬とギンガ、ユリーシャの結婚式が行われ、それに触発するかのように古代と雪も結婚式を挙げた。

 

良馬とギンガ、ユリーシャの結婚式は神社での神前式であったが、古代と雪の結婚式はチャペルでの結婚式となった。

 

白いタキシードに身を包む古代とミルキーホワイトのウェディングドレスに身を包んだ雪が初々しい様子で祭壇の前に立つ。

 

雪は以前、スターシアと守の結婚式においてスターシアのウェディングの仮縫いモデルを行った事があったので雪自身、自分が着るウェディングドレスは同じ色、似たデザインのウェディングドレスと密かに決めていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

教会にあるステンドグラスを背景に祭壇の前に立つ神父が、

 

「新郎、古代進。 貴方はここにいる森雪を病める時も 健やかなる時も 富める時も 貧しき時も妻として愛し 敬い 慈しみ、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 

古代に雪を妻として娶る事を誓うかと問う。

 

「誓います」

 

古代は力強く雪を妻として娶る事を誓う。

 

神父は頷き、次に雪へ、

 

「新婦森雪。 貴方は古代進を夫とし、健やかなる時も 病める時も 喜びの時も 悲しみの時も 富める時も 貧しい時も これを愛し 敬い 慈しみ、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「誓います」

 

雪も女性ながら力強く誓う。

 

なお、古代、雪の結婚式には良馬とギンガ、ユリーシャの三人も招待されており、教会の一席にてその様子を見ていた。

 

(教会での結婚式は地球もミッドもあまり変わらない形式ね‥‥)

 

(神社での神前式が地球独特の結婚式の形式なのかもしれないわね)

 

古代と雪の結婚式を見て、地球でのチャペルでの結婚式と生まれ故郷のミッドチルダにおける結婚式とあまり違わない事に感心する。

 

「ユリーシャはまだ赤ん坊だったから覚えていないかもしれないけど、ユリーシャのお父さんとお母さんもイスカンダルで結婚式を挙げたんだよ」

 

良馬はユリーシャにイスカンダルで行われた守とスターシアの結婚式の話をする。

 

未だに漂っている両者の気まずい空気を少しでも和ませようとしたのだ。

 

「父様、母様も叔父様と雪さんみたいな結婚式だったの?」

 

「ああ。ユリーシャとギンガにはどうしても家の仕来たりで神社での神前式になり、白無垢になったが、その後の披露宴のドレス‥良く似合っていたよ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

良馬に褒められた事にユリーシャは頬を赤く染めて俯くユリーシャ。

 

披露宴となると良馬たちの披露宴同様、お祭りのような賑わいとなる。

 

特に第一艦橋のメンバーは家族の様に古代と雪を祝福する。

 

(この場に沖田艦長や土方さんが居てくれたらな‥‥)

 

古代はこの場には居ない自分の父親みたいな存在だった沖田や土方がもしもこの場に居てくれたらと思う。

 

二人ならきっと自分の子供の結婚式みたいに古代と雪を祝福しただろう。

 

「おめでとう!!」

 

「古代さん、森さん、結婚おめでとう!!」

 

「良い家庭を築いて下さい!!」

 

「困ったことがあったら遠慮なく相談して下さい」

 

披露宴会場では主役の二人はあっという間に友人たちに囲まれる。

 

「ありがとう、みんな」

 

「ありがとうございます」

 

古代と雪は照れくさそうに礼を言う。

 

そんな古代と雪の結婚式を神妙な面持ちで参加している参列者が居た。

 

「どうしたの?何か難しい顔をして」

 

今回の結婚式に招待されているティアナがその人物‥北野に声をかける。

 

ティアナは第二次イスカンダル航海の復路でヤマトに乗艦し、地球が暗黒星団帝国に占領された際、パルチザン活動を行い地球に打ち込まれたハイペロン爆弾占領作戦の時、雪と行動を共にしていたので、意外とヤマトの乗員‥古代と雪とは交流があった。

 

そして、北野も士官学校卒業後にヤマトに乗艦し、ティアナと共に暗黒星団帝国相手にパルチザン活動を行っていたので、古代と雪とは交流があった。

 

故にティアナと北野の二人が古代と雪の披露宴の会場に居ても何らおかしくはなかった。

 

では、北野は何故、この目出度い席で神妙な顔をしているのか?

 

それは‥‥

 

「ら、ランスターさん」

 

「ん?」

 

「その‥ぼ、僕らも式を挙げませんか!?」

 

「えっ?」

 

北野はティアナに結婚を申し込んで来た。

 

そんな北野の言葉にティアナは思考が一時停止する。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。北野さん。い、いきなり結婚だなんて‥わ、私たち交際期間がそこまで長くないし‥‥」

 

良馬とギンガ、古代と雪の交際期間を見ると自分たちよりもはるかに長い。

 

しかし、それを承知で北野はティアナに結婚を申し込んで来た。

 

これは言わば、北野からのプロポーズでもある。

 

突然のプロポーズにティアナは当然困惑する。

 

「‥北野さんは古代さんと雪さんの結婚式を見て触発されただけです。きっと‥‥私たち、まだ交際して日が浅いですし、それに北野さんの実家にも挨拶をしていません」

 

「‥僕には家族は兄だけなんです」

 

「えっ?」

 

「古代さんと同じく、僕の家族はガミラスとの戦争で‥‥生きているのは僕と兄だけなんです」

 

「‥‥」

 

北野の衝撃発言にティアナは絶句する。

 

北野が士官学校卒業直後、彗星帝国残党軍に対して偏見を持っていたのは過去に古代と同じく外宇宙からの侵略で家族を失っていたからだ。

 

「その‥北野さんのお兄さんは?今どこに?」

 

「僕と同じ軍に入って、今は宇宙で艦隊勤務をしています」

 

「そう‥‥」

 

そして、北野がこうしてティアナと結婚を望んでいるのは彼自身、家族愛と言うモノを望んでいるのだ。

 

ティアナは十二歳の頃に兄のティーダを亡くした事で家族を亡くし、その後は両親と兄の遺産、管理局からの遺族年金で生活しつつ管理局の士官学校を目指していたが、兄と異なり自分には空戦属性が無く、士官学校の受験資格を満たしていなかった。

 

その為、訓練校を受験し合格、そこでスバルと出会った。

 

そこからはスバルと腐れ縁とでも言うのか機動六課卒業まで一緒に行動を共にした。

 

六課卒業後はスバルと進む道が異なるも六課時代、別班の上司であったフェイトと行動を共にし、もう一つの地球へ次元漂流し、その後フェイトがミッドチルダへと戻る時、ティアナはこの地球への残留を希望し、その後宇宙戦士訓練学校へと進んだ。

 

その際、スバル同様、うららを含めたこの地球での新たな仲間が出来た。

 

しかし、友人と家族は少々異なる。

 

これまでティアナの周囲には彼女が心を許せる仲間が‥友人たちが居た。

 

だが、北野は仲間でもなく友人でもなく、そして彼氏でもなく自分と家族になろうと言って来た。

 

こんな重要な課題をティアナは即答できるはずもなく、

 

「少しだけ時間を下さい」

 

と、北野との交際の時と同じく彼に時間を貰った。

 

披露宴後にティアナは、

 

「あ、あのギンガさん」

 

「ん?ティアナ。どうしたの?」

 

「じ、実は相談に乗ってもらいたい事が‥‥」

 

「ん?」

 

ティアナは北野と交際するか相談に乗ってもらったギンガに今回の一件についても相談に乗ってもらおうと声をかけた。

 

ギンガは既に既婚者となっているので、結婚直前の状態を経験したこともあるので相談相手にはうってつけの存在だった。

 

ギンガは良馬にちょっとティアナと飲んで来ると伝え、披露宴会場の近くにあるバーでティアナの相談に乗る事となった。

 

飲み過ぎてはいけないと思い、披露宴で二人はお酒を飲んでいなかったが、お酒を飲めば多少言いにくい事も酒の力で言いやすくなるだろうと思い今回はバーをチョイスしたのだ。

 

二人はカクテルを注文し、ギンガは早速ティアナの相談事を訊ねる。

 

「それで、どうしたの?何か深刻そうな顔をしているけど?」

 

「じ、実は今日の古代さんと雪さんの披露宴で‥‥その‥‥き、北野さんからプロポーズを受けました」

 

「えっ?プロポーズ?」

 

「は、はい。『結婚しないか?』って言われて‥‥」

 

「でも、ティアナと北野さんと交際を始めたのはつい最近よね?」

 

「はい。アルファ星で再会してから‥‥交際後に八雲が地球に戻った時、北野さんはまだアルファ星で仕事があったみたいで、地球に戻ったのはギンガさんたちの結婚式の少し前でして‥‥私たちの交際期間は半年も無い状態でして、そんな短期間で結婚してもいいのかと思って‥‥」

 

「うーん‥私や森さんたちの基準だと交際期間が長くないと結婚しちゃあダメって感じるかもしれないけど、交際期間って言うのは結婚するかどうかの見極めのため、互いの人となりを知る機会だと思うわ」

 

「つまりは結婚を考えるための期間‥って事ですよね?」

 

「それもあるけど、私たちの場合は結婚しようとした時、地球が外宇宙からの侵略とかで式を挙げる余裕がなかったって言うのも交際期間が長かった原因の一つね」

 

「な、なるほど‥‥」

 

「確かに話を聞く限り、ティアナと北野さんの交際期間は短いけど、互いに人となりを知る事は出来たんじゃない?最初に北野さんと交際する時も北野さんの人となりを見て、交際を続けるか、振るかの判断をしていたと思うけど、北野さんからプロポーズをされるくらいだもの、ティアナは北野さんに気に入ってもらえたんじゃない?」

 

「ま、まぁ‥北野さんは優しくて紳士的な人でしたし‥‥」

 

ティアナは照れ隠しなのかカクテルが入っているグラスに口をつけ、チビチビとカクテルを飲む。

 

「それについさっき知ったんです」

 

「なにを?」

 

「北野さんの家族構成を‥‥」

 

「‥‥」

 

「北野さんの家族、残っているのはお兄さんだけみたいで‥‥」

 

「他の家族の人は?」

 

「ガミラスとの戦争で亡くなったみたいです」

 

「そう‥‥」

 

「家族では私も昔は悲しい別れ方をしました」

 

「そうね。その気持ち分からない訳じゃないわ」

 

ギンガもミッドチルダでは、大切な人を失った過去があり、知り合いが誰一人居ないこの世界へ来て、紆余曲折を経て今は自分の家族を持った。

 

「古代さんと森さんの結婚式を見て北野さんも家族を持ちたいって思ったんじゃない?」

 

「私もそう思いました」

 

「ティアナ自身はどうなの?」

 

「はい?」

 

ギンガもカクテルを一口飲み、ティアナへ真意を問う。

 

「北野さんとこの世界で新たな家庭を築くつもりはないの?」

 

「それが分からないんです。ギンガさんは明確に月村さんと家庭を築く事をいつから夢に見ました?」

 

「そうね‥‥私はこんなことを言うのも変だけど、その‥‥良馬さんと初めて関係を持とうと思った時ね」

 

「そ、そんな時から‥‥」

 

(初恋は実らないって聞いたけど、ギンガさんは例外ね)

 

(あっ、もしかしたらミッドに居る時に誰か居たのかしら?)

 

(‥いや、それは無いわね。もし、ミッドに居る時にギンガさんが誰かを好きになっていたらスバルが興奮しながら話していたわね)

 

(それよりも今は私の問題ね)

 

ティアナは少々現実逃避しつつ今自分に突きつけられている問題の答えを出す事に専念する。

 

「ティアナは北野さんと家庭を築く事を夢見たり、想像した事は無いの?」

 

「うーん‥‥」

 

ギンガに言われ、ティアナは短い期間ながらも北野とデートや食事をしている最中、北野と家庭を築く事を想像しただろうか?

 

「すみません、一緒に居るだけで一杯、一杯でそこまでの余裕はありませんでした」

 

ティアナはデートや食事をしている時、北野との未来を創造する余裕が無かった事を今、自覚した。

 

「それじゃあ今、ちょっと想像してみたら?」

 

「‥‥」

 

ギンガに促されティアナは北野との新婚生活を想像してみる。

 

一応、兄が亡くなってから少し間、一人暮らしの期間があり、六課を卒業後も基本一人暮らしだったので、一通りの家事は出来る。

 

とは言え、北野にまだ手料理を振舞った事がないので、北野を満足させられるかは自身が無い。

 

せめて結婚する前に自分が作った手料理を北野に食べてもらいたいと言う思いがティアナの中に生まれた。

 

(ギンガさんは結構、月村さんとイチャイチャしていたけど‥‥)

 

「あ、あのギンガさん」

 

「ん?」

 

「その‥‥ギンガさんはやっぱり欲しいですか?‥‥その‥月村さんとの子供を‥‥」

 

(ギンガさんもスバルと同じ戦闘機人だろうけど、子供を産むことが出来るのかしら?)

 

質問した後でギンガが普通の人間ではない事に気づくが、今更訂正の使用がないので、ティアナは引き続きギンガの回答を待つ。

 

「うん。私だけじゃなくて、ユリーシャも欲しいって言っていたわ。良馬さんとの子供」

 

「そ、そうですか」

 

「検査で戦闘機人である私でも子供を妊娠・出産する事が判明しているから‥やっぱり、好きな人との子供は欲しいかな」

 

「‥‥」

 

(もしも、私と北野さんが結婚して子供が生まれたら‥‥)

 

(私の顔に残る傷を怖がらないかしら?)

 

(その場合、やっぱり顔の傷は消さないとダメなのかな?)

 

ティアナは自分が抱いた赤ん坊が、顔に残る傷を見て泣き喚く姿が脳裏を過る。

 

自分の子供から怖がられるのも嫌なので、もしもその時は顔に残る傷を消そうかと思うティアナだった。

 

しかし、そんなことを想像できるくらい、ティアナの中では北野との結婚生活を想像することが出来た。

 

「まぁ、結婚直前には色々と悩む事もあるみたいよ。私もそうだったし‥‥それで、私も養母に相談してもらったら、それってマリッジブルーじゃないかって言われたわね」

 

「マリッジブルー‥‥」

 

「結婚は出来れば最初で最後の経験にしたいじゃない?だから悩むのも当然の事だと思うわ」

 

経験者から言われるとやはり説得力がある。

 

「今日、明日に返答をする訳じゃないならティアナの中ではっきりとした返答を考えるといいわ」

 

「は、はい」

 

相談に乗って貰ってからティアナの動きは早く、北野に手料理をご馳走したり彼との交流の時間を増やした。

 

北野自身もまんざらでもない様子でむしろ、嬉しそうだった。

 

ただ、北野の兄とは会う事が出来なかったのはティアナとしては残念な所ではあった。

 

そんな嬉しそうな北野の姿を見てティアナの決心は固まった。

 

 

古代と雪の結婚式から数週間後、ティアナと北野の結婚式が行われた。

 

「まさか、この短期間で結婚式がこうも続くとは‥‥」

 

良馬は自分の結婚式、古代と雪の結婚式、そしてティアナと北野の結婚式とこの年で三件の結婚式に関係した。

 

ティアナと北野の結婚式は古代と雪の結婚式同様、チャペルでの結婚式となった。

 

当初、顔に残る傷を気にしているティアナであったが、北野も式に参列する多くの人はティアナの傷の事を理解しているので、彼女の傷をバカにしたり、気味悪がる者はいなかった。

 

流石に一切のメイクをしないと言う訳ではなく、顔の傷に関しても当然、メイクをして分かりにくくなっていた。

 

 

(ホテル・アグスタで、なのはさんたちのドレス姿を見て、ちょっと羨んだけど、まさか私がウェディングドレスを着る日が来るなんて夢にも思わなかったわ)

 

ただ、ティアナは自分には一生縁がないと思っていたウェディングドレスを身につける事となり少し恥ずかしそうだ。

 

 

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(出来る事なら、兄さんやスバルたちにも見せたかったな‥‥)

 

亡くなった兄、生まれ故郷のミッドチルダに居る友人たちにもこの姿を見せたかったし、式にも来て欲しかったと言う思いがあったがこの地球とミッドチルダが交流を持っていないので、こればかりはどうしようもない。

 

しかし、生まれ故郷に戻らない選択をしたのは自分であるし、仮にミッドチルダに戻ったとしてもそこで結婚出来たのかも分からない。

 

せめてこの選択が正解であったと信じたい。

 

「おめでとう、ティアナ」

 

「おめでとう!!」

 

「北野君もおめでとう」

 

式の参列者たちはティアナと北野の結婚を祝福する。

 

この地球の人たちの人生は波乱万丈な人生であるが、ミッドチルダ出身のティアナ自身も波乱万丈な人生をこれまで送って来た。

 

しかし、ギンガ同様、ティアナも愛する人との結婚という大きな節目をこうして迎えるのであった。

 

 

結婚ラッシュが良馬の身近で起きている中、ギンガ、ティアナの生まれ故郷であるミッドチルダでは‥‥

 

 

本局より、“海”の次元航行艦に所属する局員全員へ先日、ある通達があった。

 

それは“海”がこの度、大きな組織編制の見直しをした事であった。

 

これまでの“海”の次元航行艦の役割は管理世界になり得る世界の捜索とロストロギアの発見とその回収であった。

 

しかし、此処近年、管理局よりも力のある星間国家の存在が認知された事で、管理局側もその対処として従来の任務を行う次元航行艦部隊と有事の際、外宇宙からの侵略に対処する次元航行艦隊の二つを編制する事を決め、どちらの部隊に所属するかを“海”の局員たちに選択をさせた。

 

これもMS機関の開発が大きく関係しており、従来の魔力炉だけでは管理局は此処まで大きく艦を運用する事は難しかっただろう。

 

勿論、本人の素質や性格、人間関係もあるので、所属後も異動は可能で、人事部も異動権を持っている。

 

「クロノ君は今回の組織編制の変更で、どっちに進むかもう答えは出したんか?」

 

はやてはクロノにこれまでの管理世界・ロストロギアの捜索を主にする部隊か艦隊勤務のどちらに進むかを訊ねる。

 

「正直、どちらに行くか迷っている。はやては?」

 

「私は艦隊勤務に行こう思うとる」

 

「そうか‥はやては部隊運用の経験者だもんな」

 

はやては機動六課の運用経験もある事から艦隊勤務を希望している。

 

リンディもレティも恐らくはやての希望を叶えるだろう。

 

しかし、クロノの方は未だに探索部隊と艦隊勤務のどちらに行くか迷っていた。

 

(はやてならば、僕くらいの年になったら艦隊司令官になって、将官クラスに登り詰めているだろう)

 

(一番なのはそれまで大きな戦争が起きない事なのだが‥‥)

 

(管理局が『正義』の言葉を免罪符に侵略者にならなければいいのだが‥‥)

 

(艦隊はあくまでも外部からの侵略時の防衛戦の時だけ動くことを強く進言する必要があるな)

 

管理局がボラー連邦への武力制裁失敗から徐々に回復‥いや、武力制裁失敗前よりも力をつけてきた事、そして今回の組織編制にクロノは管理局の未来を益々不安視するのであった。

 

そして、クロノ自身もこれまでの任務同様の探索部隊か有事の際には前線に出て命をかけて戦う艦隊勤務のどちらに所属するか選択をしなければならない。

 

選択をするのは艦の指揮官だけでなく、乗員たちも同じで艦長、提督が自分の望む道と異なる選択をすれば、当然異動届けは出さなければならない。

 

はやてと別れた後、クロノはフェイト、チンクと会い、彼女たちはどちらに進むつもりなのかを聞いてみた。

 

「フェイトもチンクも知っていると思うが、今“海”は大きく二つの部署に分かれようとしている」

 

「その事なら、私の所にも連絡が着たよ」

 

「私の所にもだ」

 

「人事部は異動作業の処理でてんやわんやになるだろうが、異動は個人の自由だが、参考までに二人はどちらへ行きたい?」

 

「私は探索部隊だ」

 

チンクは、はてとは異なり従来の任務である探索部隊を希望する。

 

「私も‥‥」

 

フェイトもチンク同様、探索部隊を希望した。

 

「チンクはどうして艦隊勤務ではなく、探索部隊を希望するんだ?」

 

「艦隊勤務だと自由がききにくい。探索部隊ならば、戦力では心もとないが、その反面ある程度の自由がある。次元の海をひたすら航海することが出来るからな」

 

「私もチンクと同じだね。それに私がなのはたちと出会う切っ掛けでもあったし」

 

「そうか‥‥」

 

(自由か‥‥)

 

チンクとフェイトの考えを聞き、クロノはどちらの道に進むかを決めた。

 

 

「大変そうね、レティ」

 

「そう思うなら、こっちに人員を回してもらえるかしら?統合統括官さん」

 

リンディが本局の人事課を除いてみると、そこでは異動処理作業に従事している人事課所属の局員たちの姿があった。

 

「管理局の組織改革なんて言っているけど、その余波が人事課に津波の如く襲い掛かって来て人事課は連日徹夜続きよ」

 

レティの目の下には隈がくっきりと浮き出ているので、今の人事課は無限書庫よりも多忙な部署となっている。

 

「そう言えば、クロノやフェイトの進路希望って来ているの?」

 

リンディは自分の子供たちの進路をレティに訊ねる。

 

「えっと‥ああ、二人とも捜索部隊希望ね」

 

「あら?そうなの?ええ、はやてさんは反対に艦隊勤務希望だけど」

 

外宇宙には管理局以上の力を持つ星間国家の存在が確定している事で今回の進路希望においても探索部隊よりも艦隊勤務を希望する者が多い。

 

そんな中で、クロノ、フェイトが探索部隊への希望した事はリンディにとって意外性を覚えるのであった。

 

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