もう一つの地球にて、ギンガ、ティアナがそれぞれ結婚をして新たな家庭を築き、更に妊娠・出産をして新ママとなり、子育てに奮闘している最中、二人の生まれ故郷であるミッドチルダのベルカ地区にある聖王教会の騎士、カリム・グラシアはレアスキルにて、ある予知をした。
そして、その予知の内容が管理局‥ひいてはミッドチルダにあまり芳しくない内容だった。
その予知の内容と言うのが、
黒き魔女、海を守る法の城へと迫り、法の城は虚しく焼け落ちる
それを先駆けに古き民たち、蒼き世界と共に故郷の地を取り戻さんとかの地へと来訪す
と言う内容だった。
これまでの人生の中でカリムは何度も予知を行ってきたが、的中率は100%と言う訳でもないし、予知の規模も小さな事件やアクシデント程度であり、しかもその事件やアクシデントが起こるのも半年先~数年以内と言う時期も不明なモノだった。
そんなカリムの予知に大きな転機が訪れたのは新暦70年代初頭に発動した予知であり、その内容が管理局とミッドチルダに大きな災いが降り注ぐような内容であった。
しかし、これまでの予知の様に100%当たる確証も無く、またその災いがいつ来るのかも分からなかった。
そんな中で当時、管理局の中でも新進気鋭の新米士官であったはやては新暦71年10月に起きた空港火災を機に自分の部隊を持ちたいと言う夢をより一層抱くようになった。
そして、はやてとカリムの利害の一致により新暦75年に機動六課が設立された。
運用期間が一年と言う期限付きであったが、この年にミッドチルダもしくは管理局の存続に大きく関係する事件が起きなければ、カリムの予知は外れた事になる。
と言うのもカリムの予知は半年先から数年以内の事件やアクシデントをランダムに予知するものであり、新暦75年がカリムの予知の期限の年であった。
はやてとしても一年の期限とは言え、将来の部隊運用経験に繋げる機会でもあったので、期限付きの運用を『良し』としたのだ。
そして、その年にカリムの予知は的中する事になった。
後の歴史に刻まれるJS事件が起きたのだ。
事件は機動六課を中心とする管理局の魔導師たちの活躍で収束し、管理局‥そしてミッドチルダは崩壊から逃れることが出来た。
次にカリムが予知した大きな事件‥‥
ボラー連邦との邂逅であった。
この事態はJS事件よりも早い時期に的中する事となり、また結果についてはJS事件と異なり、管理局に大きなダメージを与える事となった。
しかし、結果はどうあれ、カリムの予知の中で大きな事件を示唆する予知の的中率は高い事が証明された。
その為、カリムは自身の予知を信じてくれるクロノとはやてと接触して、予知内容の解釈を行い、JS事件の時の様に事件を未然に防ぐ対策を取ろうとした。
尤もJS事件の時は完璧な対策を取れずに主犯であるスカリエッティ相手に後手、後手に回ってしまったが、JS事件を経験したからこそ、今回の予知における事件は何とか未然に防ごうとしていた。
「最初の文章はいずれシーマ・ガラハウが本局へ襲撃を仕掛けてくると判断して良いが‥‥」
「問題は次の文章やね。『古き民たち、蒼き世界と共に故郷の地を取り戻さんとかの地へと来訪す』‥‥この『古き民たち』ってなんやろう?」
「『たち』と言う事は複数なのだろうが‥‥」
「やはり、古代ベルカ時代に関係するのではないでしょうか?」
「古代ベルカか‥‥」
「確かに古代ベルカ時代に関係していると『古き民』になるな‥‥」
「それってヴィヴィオやアインハルト、イクスたちの事を指すんやろうか?」
「でも、古代ベルカ時代の関係者が『故郷の地を取り戻す』って‥先ほど、シスターが仰っていた噂に似ているような文章だな」
「‥‥」
今、ベルカ地区で聖王教会がいずれ管理局に対して反旗を翻すのではないかと言う噂‥‥
この文章はまさにその噂を事実にするかのような内容だ。
「なぁ、カリム、シスター・シャッハ。教会内で不穏な動きとかは掴めてないん?」
以前、なのは、はやてたちの故郷である地球に一時避難していたヴィヴィオが聖王教会の過激派に拉致されそうになったことがあった。
その後の取り締まりで教会内の過激派は一掃されたが、それでも自分たちの知らない水面下で過激派の思想は未だに根強いており、彼らが一斉蜂起するのではないかと、この文章を見てそう思えてしまうのも不思議ではない。
「そ、そんな事は‥‥ないと思います」
シャッハはその可能性を否定するが、心でも読まない限り人の考えは分からない。
なので、強くは否定できない。
スカリエッティも十年の歳月をかけてあのJS事件を引き起こした。
当時の最高評議会の後ろ盾があったとしても水面下で着々と準備を行って来た。
カリムも教会内でそれなりの地位ではあるが、教会の最高位と言う訳ではないので、教会内の事を全て知っている訳ではない。
カリムやシャッハが知らない中で何らかの計画が水面下で進められていないとは言い切れない。
「教会内についての調査は戻った後にするとして、この『蒼き世界』ってなんだ?」
流石にこの場で教会内の過激派の存在の有無については不明なので、クロノは『古き民』の次の文章の気になった点を指摘する。
「古代ベルカの関係者たちが蒼い世界と一緒にミッドチルダに来る?‥‥なんか、へんな解釈になるな」
「蒼き世界が船の事を指す‥‥も、ちゃうな。船だった場合、カリムの予知ではちゃんと『船』と予知される筈やし‥‥」
「世界が、星‥だとしたら?」
クロノが管理局の定義に当てはめて、『世界=惑星』ではないかと推測する。
「えっ?星?」
「ああ。それか船と表記する事も出来ない星と同じくらいの大きさの船‥とか?」
「星くらいの大きさの船?そこまで巨大な船が存在するのでしょうか?」
カリムがクロノに惑星と同等の大きさの宇宙船なんて存在するのかを問う。
「分からない。でも、管理局も次元の海に存在する全ての世界を発見した訳ではない。だから、星くらいの大きさの船を造った世界も無い訳ではない」
クロノの予測は当たっており、実際にジレル人は惑星とほぼ大きさの方舟を造り、彗星帝国もジレル人の方舟ほどではないが、都市帝国の中に超巨大戦艦ガトランティスを保有していた。
「カリム、シャッハ、古代ベルカ時代に『聖王のゆりかご』以外にそこまで巨大な船を造り上げる技術があったんか?」
『聖王のゆりかご』 は確かに巨大な船であった。
恐らくこれまで管理局が遭遇してきた船の中では一番の巨艦だろう。
しかし、カリムの予知では『聖王のゆりかご』は『翼』と評されていた。
『聖王のゆりかご』 の大きさの船で『翼』なのだから、『世界』・・惑星規模の宇宙船となると『聖王のゆりかご』 の何百倍の大きさになるのか予想も出来ない。
「いえ、教会にある古代ベルカ時代の書物でも『聖王のゆりかご』以外に船などに関する記録は見当たりません」
古代ベルカ時代ではいくつもの国が存在し、国の数だけの王がいたが、カリムは巨大な船を有していたのは聖王家だけだと言う。
しかし、あくまでも古代ベルカ時代の記録は断片的な記録なので、もしかしたら聖王家以外にも巨大な船を有していた国があったかもしれない。
「‥‥その点は、ユーノの奴に調べさせるか」
クロノは『聖王のゆりかご』以外に古代ベルカ時代に巨大な船がなかったかを無限書庫のユーノに調べさせることにした。
前半の予知についてはシーマによる本局襲撃だと判断したクロノたちであったが、後半の文章の解釈については情報が不足していた。
しかもこの予知の出来事が早くて今から半年後、遅くて数年以内の未来に起こる可能性がある以上、今の内に対策をしなければならなかった。
「後半の冒頭に『それを先駆けに‥』って書いとるから、この古き民がシーマの協力者とちゃうんか?」
クロノからシーマは協力者と共に本局へ襲撃を仕掛けてくると予測したので、その協力者こそが、予知の中にある『古き民』なのではないかとはやては推測する。
「なるほど‥‥」
「確かにどこから来るのか分からないシーマが最初に本局へ襲撃を仕掛けて、管理局の目を引きつけ、その隙にシーマの協力者たちがミッド本土へと襲撃を仕掛ける‥‥」
「まさにスカリエッティがとった行動の拡大版やな」
スカリエッティは『聖王のゆりかご』の始動キーであるヴィヴィオを確保するために地上本部を襲撃して、管理局、六課の目をそちらに移した隙に六課の隊舎を襲撃してヴィヴィオを拉致した。
尤も地上本部の襲撃でもスカリエッティはスバル、フェイト、エリオの確保も副目標としていた。
ギンガはその時、既にミッドチルダではなく、もう一つの地球に次元漂流していたので、確保対象から外れていたが、もしも彼女がミッドチルダに居たら、ギンガも確保対象にされていただろう。
そして、今回の予知の内容を解釈するとまずシーマたちが本局へ襲撃して、管理局の目を本局へ向けている最中に、彼女の協力者たちが大挙してミッドチルダに襲撃をしかけてくるのではないかと解釈した。
「本局の襲撃を未然に防ぐことが出来れば、協力者たちのミッド襲撃を防ぐことが出来るのかもしれないな‥‥」
「しかし、本局の高官たちが信じてくれるでしょうか?」
カリムは今回の予知を管理局が真に受けるか不安視していた。
「JS事件やボラー連邦での実績はある訳だし、襲撃をして来るのがあのシーマ・ガラハウならば、管理局も警戒はするのではないだろうか?」
実際、近年に起きた大きな事件を二つも予知したので、今回の予知も信じざるを得ないのではないかとクロノは予測する。
「せやね。シーマ・ガラハウはスカリエッティとは別の意味でぶっ飛んだ人物みたいやし、逮捕する機会があるならば、この機を絶好の機会と捉えるんとちゃうかな?」
「そうだな‥‥早速報告書をまとめて協議してもらおう」
クロノとはやてはシーマとその協力者たちによる本局とミッドチルダ本土への襲撃の可能性がある事を報告書に纏めた。
それと同時にクロノはユーノに古代ベルカ時代で『聖王のゆりかご』以外に巨大な船を建造した国がないか?
また、その時代にミッドチルダから他の世界へ移住した民族がいないかを調べてもらった。
無限書庫
「スクライア司書長。ハラオウン提督より通信が入っております」
「えっ?クロノから?」
(また無茶な内容や量の資料請求じゃないだろうな‥‥)
クロノからの連絡と言う事で反射的に警戒してしまうユーノ。
「わ、分かった。こっちに繋げてくれ」
「承知しました」
ユーノのデスクの上にある端末にはクロノの姿が映し出される。
「や、やあ、クロノ。何か用かい?」
『用が無ければわざわざ、お前さんに連絡はしない』
(コイツ‥‥)
クロノの最初の言葉にユーノは顔を引き攣らせる。
「それで、一体何の用なんだい?こっちは忙しいのだが?」
『僕がわざわざお前に連絡して来るのだから、仕事の依頼に決まっているだろう』
(やっぱりか‥‥)
「仕事ね‥それで依頼ってなに?」
げんなりとした様子のユーノ。
しかし、此処でいくら断っても無駄なあがきなのはこれまでの経験から理解しているので、ユーノはクロノに要件を訊ねる。
『古代ベルカ時代でミッドから外の世界に移民した民族がいないか調べてくれ。ついでに『聖王のゆりかご』以外に巨大な船を保有していた国が無いかもだ』
「はぁ?古代ベルカ時代の資料だと!?」
クロノからの依頼を聞きユーノは思わず声が裏返る。
「いくら無限書庫でも古代ベルカ時代の記録については断片的な記録しかないんだ。あの時代は戦乱の時代だったからね。だから、ピンポイントにある情報じゃないんだよ。そんな簡単に出せるなら、考古学者なんて居ないし、僕らスクライア族は遺跡の調査なんてしていないんだよ」
クロノからの無茶な依頼にユーノは不機嫌そうに答える。
『そこは無限書庫なんだろう?断片的でもあるかもしれないじゃないか。そして、それを見つけるのが君の仕事だろうが』
「無茶なモノは無茶だ。そんなに言うなら、僕の知り合いの大学教授を紹介するからその人に聞いてくれ」
『大学の教授?』
「その人は大学で考古学を教えている。その人なら、古代ベルカ時代の事を僕よりも知っているから、君が言っていた情報を何か知っているかもしれない。尤も僕と同じ様に絶対に知っている保証はないけどな」
ユーノはクロノにランティスを紹介して通信を切った。
その後、クロノはユーノに紹介された考古学者のランティスへと連絡を入れた。
『すみません。私は時空管理局、本局所属のクロノ・ハラオウンと申します』
「ああ、スクライア君から聞いているよ。私はランティス・スピアーノです。それで、古代ベルカ時代の事を聞きたいそうだね」
『はい。古代ベルカ時代に聖王家以外の王家もしくは国に『聖王のゆりかご』級の巨大な船が無かったか?そして、ミッドから外の世界に移民した民族が居ないかを大至急知りたいのですが‥‥』
「ふむ‥スクライア君は何と?」
『古代ベルカ時代の記録は戦乱で断片的な記録しかない‥と‥‥』
「ハラオウン氏、その点はスクライア君の言う通りだ。古代ベルカ時代の記録は現状ごく一部しか残されていない。あの戦乱でほとんどの記録が失われてしまったからな‥‥わずかに残された記録のピースを発掘し、繋ぎ合わせ過去の記録を現代に蘇らせる‥それが我々考古学者の仕事なのだよ」
『では、不明であると?』
「ふむ‥‥確証はないが、以前スクライア君たちとある世界の遺跡発掘を行った。そこで発掘した石板を解析した結果、その地に文明を築いた民族はかつてミッドチルダに文明を築いた形跡があった。その民族がハラオウン氏の言うミッドチルダから外の世界へ移民した民族なのかもしれない。しかもその民族は古代ベルカ時代よりもはるか昔‥超古代にミッドチルダの地に文明を築いた事になる」
『そんな大昔に‥‥それで、その民族は今もその世界で生きているのですか?』
「いや、その民族は滅んでしまい、今のところその民族の末裔は確認されていない」
『その民族はどうやってミッドから外の世界へ移民したのですか?』
「遺跡から出土した石板では『救いの方舟』と言う単語があった」
『救いの方舟‥‥』
「ああ」
(その救いの方舟がグラシア氏の『蒼き世界』と評される船なのかもしれないな‥‥)
『その救いの方舟とやらはかの世界の何処かに今もあると思いますか?』
「それはまだ分からない。発掘した石板は今も解析を続けている最中でそれ以上の先はまだ解明されていない」
『そうですか‥分かりました。ご協力感謝します』
そう言ってクロノは通信を切った。
この時、クロノはユーノにもランティスにもカリムの予知の内容を伝えていない。
カリムの予知はあくまでも100%の的中率ではないことから吹聴して変に動揺を誘う行動は控えようとしたのだ。
実際にJS事件の時の予知もごく一部の管理局員しか知らされていなかった。
結局、カリムの予知の後半の文章は完全に解釈出来ないままクロノとはやては報告書を提出した。
それは、解釈が出来た前半部分‥シーマの本局襲撃を防ぐことが出来れば後半の文章の内容も防ぐことが出来ると判断したからだ。
クロノとの通話を終えてから少しして、ランティスの下にユーノからの通話が入った。
ランティスを紹介したユーノとしても彼がクロノの難題にどんな回答をしたのか気になったのだ。
『教授』
「やあ、スクライア君。どうしたんだい?」
『先ほど、管理局の提督が教授の下に連絡を入れてきましたか?』
「ああ、ついさっきしてきたよ」
『すみません。実は彼を教授に紹介したのは僕なんです』
「まぁ、そんな気はしていたよ。面識のない管理局の人間がこんなマニアックな学部の一教員に連絡をしてくるのだから」
『当初、彼は僕の下に連絡を入れて来て古代ベルカ時代の記録を探していたみたいなのですが、教授の下にも同じ事を訊ねてきたのではないでしょうか?』
「ああ。古代ベルカ時代にミッドチルダから外の世界へと移民をした民族がいなかったか?それと、『聖王のゆりかご』のように巨大な船を有していた国が無かったか?を聞いて来たよ」
『それで、教授は何と回答したのですか?』
「古代ベルカ時代ではないが大昔、ミッドチルダから外の世界へ移民をした民族については存在が確認できた」
『えっ?古代ベルカ時代よりも前の時代に!?』
ランティスの回答にユーノは驚愕する。
古代ベルカ時代よりも昔‥‥そんな時代にミッドチルダから外の世界‥つまりは他の惑星へ移動できる手段が既に発明されていたと思うと驚愕に値する。
古代ベルカ時代でさえ、それが可能とされたのは『聖王のゆりかご』だけだと思っていたからだ。
『本当にそんな民族がミッドに居たんですか!?』
「以前、君と遺跡の発掘に行ったバシュタール‥その遺跡を造った民族こそが、かつてミッドチルダに文明を築いた民族ではないかと思われる。私は遺跡を発掘した世界の名を取り、彼らを『シュタール人』と命名し、次の考古学会で発表しようと思っている」
『それで教授、そのシュタール人はどうやってミッドからあのバシュタールの地へ移り住んだのですか?』
「発掘した石板によると、シュタール人がミッドチルダに文明を築いていたある日、何日にも渡って大雨が降り続いたようだ」
『大雨‥‥』
「ああ。その大雨は大地を海の様にし、地上のあらゆるものを洪水で押し流した。その最中、救いの方舟が空より現れ、人々を異界の地へと運んだ‥と記されている」
『ですが、バシュタールに居た民族は滅んでいましたよね?それに救いの方舟の行方は?』
「バシュタールに居たシュタール人はごく一部だったらしい」
『一部?』
「うむ、大洪水から助かったシュタール人の一部は救いの方舟から逃げ、バシュタールの地へと辿り着き、そこで新たな文明を築いたが、何らかの原因で滅んでしまったみたいだ」
『その石板に書かれている事が事実ならば、かつてミッドに文明を築いたシュタール人はどこか別の世界の住人によって救い出された事になりますが、バシュタールへ逃げたシュタール人以外の人たちは、一体何処へ‥‥?』
「流石にそれは分からない。そもそも救いの方舟を寄越し、シュタール人を救った人たちの事も分からないままなのだ」
『でも、バシュタールへ逃げたシュタール人はどうして救いの方舟から逃げたのでしょう?』
「石板には救いの方舟と書かれているが、実際はどこか別世界の住人たちがシュタール人を奴隷として連れて行っただけなのかもしれない。それを察して一部のシュタール人たちは逃げ出したのかも‥‥」
『確かにそれも考えられますね』
「いずれにせよ、救いの方舟がどの世界の船なのかは依然不明のままだし、バシュタールのシュタール人全てが滅んでしまったので、それ以上の追及は不可能。あとはシュタール人がバシュタールでどのような生活をしていたのか?何故、滅んでしまったのか?石板に書かれているのはそれくらいなのだが、考古学としては古代の人々の生活や文明のレベルを知る貴重な資料だ」
『そうですね。また何か新しい発見がありましたら、教えてください』
「ああ。それじゃあ‥‥」
ユーノはランティスとの通信を切った。
ただ、クロノはユーノとランティスにカリムの予知を伝えていなかったようにランティスも先ほどユーノに話したシュタール人についての記録をクロノに話していれば、カリムの予知の解釈はもう少し進んだのかもしれない。
それから数日後‥‥
本局 会議室
「それではお二人はグラシア氏の予知などと言う不確定要素を信じて、シーマ・ガラハウとその協力者たちがいずれ本局とミッドに襲撃を仕掛けてくると言いたいのかね?」
クロノとはやてがカリムの予知を解釈し、それを基に作成した報告書へ目を通しながら“海”の高官が訝しみながら確認するようにクロノとはやてに訊ねる。
「そうです。私とハラオウン提督は今回のグラシア氏の予知をそのように解釈しております」
はやては高官の質問を肯定する。
「しかし、予知などと言う不確かなモノをそう簡単に信じられるのか?」
別の高官はカリムの予知を疑問視する。
「御言葉ながら、グラシア氏はJS事件、ボラー連邦の一件を予知した実績があります。今回の予知の内容もその報告書に記載しておりますが、その内容から予想される被害はJS事件以上のモノになると思われます」
クロノはカリムの予知の疑問視を払拭するかのようにこれまでのカリムの実績と今回の予知を未然に防がなかった場合の被害予想を口にする。
JS事件の時は機動六課を中心として協力者の少なさからスカリエッティ相手に後手、後手にまわったが、今回の予知を放置したらそれこそJS事件以上の被害が出るのは目に見えている。
ボラー連邦との初邂逅時、武力制裁の時と同様の事が言える。
ならば、三度目のこの予知は何としてでも被害を最小限に防がなければならない。
「それで、グラシア氏の予知では何時頃、シーマ・ガラハウの本局襲撃が予測されるのか判明しているのかね?」
「グラシア氏のレアスキル、『プロフェーティン・シュリフテン』は半年先から数年以内の未来をランダムに予知するモノであり、シーマ・ガラハウの本局襲撃が何時になるのか、正確にはまだ分かりません。ですが、少なくとも今から早くて半年後、最大で数年以内にシーマ・ガラハウとその協力者たちの本局とミッドチルダ本土の襲撃が起こる可能性があります」
「なので、今から管理局は万全の状態でシーマ・ガラハウを迎え撃つ準備と警戒が必要であると思います」
クロノとはやてがシーマからの襲撃について万全の警戒をする必要があると説くが、
「なあに、仮にシーマ・ガラハウや協力者たちが本局やミッドを襲撃して来たとしても管理局が保有するMS機関搭載の次元航行艦は多数あり、現在も続々と建造中だ。数年後にはこの艦数はさらに増えているだろうし、同時に艦種も増えている。たかがテロリスト共が徒党を組んで来たとしても簡単に撃破する事が出来るだろう」
とある高官は今後、シーマが協力者たちと共に本局、ミッドチルダに襲撃を仕掛けて来ても現状さらに数年後に予想される管理局の装備と艦数ならば、余裕で返り討ちにすることが出来ると自信満々の様子で答える。
「ですが、シーマ・ガラハウの協力者に関してもその正体と実力は未知数です。それに先日の新造艦強奪事件のやり方を見ても連中は管理局の裏をかくことは充分に考えられます」
元管理局だからこそ、管理局の情報にも精通しているだろうし、現役の管理局員を買収して最新の情報だって得る事も考えられる。
いや、そもそも現役の管理局員の中にシーマの協力者がいる可能性もある。
何より現状、シーマの協力者と考えられる『古き民』 『蒼き世界』の解釈がまだ未解読なので、警戒をするに越したことはない。
なので、クロノはその点を突く。
「しかしねぇ~いくらJS事件、ボラーの事を予知したとしてもグラシア氏の予知は100%の的中率ではないのだろう?」
「え、ええ‥‥」
「では、必ずしもシーマ・ガラハウの本局襲撃が必ず起こるとは限らないのではないか?」
「偶然、これまでの大事件を予知したとしても今回の予知は外れるかもしれないのだろう?」
「やれやれ、人騒がせな話はいい加減にしてもらいたいものだ」
カリムの予知が100%の的中率ではない事、
現在の管理局の戦力がJS事件時はおろか、ボラー連邦への武力制裁時以上の力を有している事から“海”は例え本当にシーマが本局へ襲撃してきても簡単に返り討ちすることが出来ると楽観視していた。
「「‥‥」」
そんな“海”の高官たちの様子をクロノとはやては悔しそうに顔を歪めつつ見ていた。
カリムの過去の実績があるからこそ、信じて貰えるかと思っていたのだが、それがあっさりと棄却されたのだから二人の落胆ぶりは強かった。
「くそっ、JS事件の時と言い、今回の件と言い、本当にどうしようもないな」
「起こるか分からない事件の対処何てしていられないって事やろうな」
「それに高官連中はどうも管理局の力を過信している」
「しかし、今回の件はJS事件と違って“海”で起こりそうな事件やからナカジマ三佐の助力は得られへんな」
「対処するとしたら、はやてたち艦隊部署だろうしな。せめて、日々の演習と警戒を怠らない様にしてもらうしかない。勿論探索部隊の方でも本局やミッド周囲の警戒は怠らないつもりだ」
「せやね。こうなってしまったら、カリムにはすまないけど、今回の予知が外れてくれることを祈るしかなさそうやな」
会議終了後、クロノとはやては何だか無力感に包まれた。
そして、先ほどの会議の内容をカリムに伝えた。
『そうですか‥‥やはり‥‥』
カリム自身も完全に自分の予知全てが信じてくれるとは思っていなかったのか、そこまで深い落胆ぶりではなかった。
「すまなかった。こちらとしてもグラシアさんの過去の実績から信憑性が高いモノだと伝えたのだが‥‥」
『所詮、的中率も時期も曖昧な予知ですから‥‥』
カリムとしてもいつ自分が予知した事が起きるのか?
そもそも確実に予知した事が起こるのか?
その二つの欠点を抱えている自らのレアスキルに対して自虐めいたように言う。
「そんな、カリムは全然悪くないで。むしろ、私らに知らせてくれるだけでも感謝しとる。それにカリムの予知を管理局の人が全員否定している訳やないで」
はやてはカリムを励ます。
例えカリムの予知を信じる者が少なくても自分やクロノはカリムの予知を信じている。
『それで、管理局は騎士カリムの予知を信じていない様子でしたけど、今後シーマ・ガラハウの対処についてはどうするつもりなのでしょうか?』
シャッハが二人にカリムの予知が当たっている事を前提として管理局の対処について訊ねる。
「管理局のリアクションでは、仮にシーマたちが本局やミッドを襲撃してきてもあっさりと返り討ちできるような自信があるみたいや」
『現状、管理局はそこまでの戦力があるのでしょうか?シーマ・ガラハウは管理局の最新鋭の次元航行艦を奪っていったのでしょう?』
「管理局が今回のグラシアさんの予知を信じてないのは、的中率、いつ事件が起こるのか?以外に管理局が現状の戦力に対して妙な自信を持っているからなんです」
『自信‥ですか‥‥』
「ええ。管理局はMS機関を保有してから、かつて管理局が接したもう一つの地球やボラー連邦と同等の力を手に入れたと判断しています。僕が危惧しているのは、管理局が力の暴走をしないかです」
『力の暴走‥‥つまり、管理局が新たな力を持ち、侵略者になる危険性があると言う事ですか?』
「その可能性を秘めていると思っています」
『もし、管理局が侵略者となった時、御二人はその暴走を止められそうですか?』
「いえ、仮にそうなった場合、管理局は自分たちが侵略者になった事さえ自覚しないでしょう‥‥『正義』の言葉の前に全ての行為が正当化されるでしょうから」
『『‥‥』』
クロノの言葉を聞きカリムもシャッハもわずかに顔を歪める。
「じぶんとしてもはやてとしても今回のグラシア氏の予知‥‥当たってもらいたいと言う思いと当たってもらいたくないと言う思いがあります」
シーマの襲撃は管理局の慢心に楔を打ちこむ機会となるだろうし、不意を突かれれば大きな被害を受けるかもしれない。
しかし、襲撃がなければ管理局は益々増長するかもしれない。
そんな組織に所属している自分たちとしても今回のカリムの予知は複雑な心境であった。
『私としても今回の内容から、外れて欲しいと言う思いはあります』
『ですが、その場合騎士カリムの立場は‥‥』
シャッハはカリムの予知が外れてしまっては、カリムが管理局内でホラ吹きと言う烙印が押されてしまうのではないかと危惧する。
『構いませんよ。シスター・シャッハ。元とも管理局内でも私の予知はそこまで信頼されていない様ですから』
カリムは皮肉交じりに言う。
「JS事件やボラーとの一件の様に万が一、カリムの予知が当たった時には管理局は精一杯対処するつもりや‥そうすれば、今後はカリムの言葉を少しは支持してくれるやろう」
『ありがとうございます。騎士はやて』
(とは言え、シーマ・ガラハウは本当に来るのだろうか?)
(それに後半の文章の解明も未だに進んでいない‥‥)
(そもそも、僕たちの解釈は会っているのだろうか?)
当たるのか?
それとも外れるのか?
当たっているとしたらそれはいつ来るのか?
自分たちが解釈した内容はそもそも当たっているのか?
そんな不安がクロノの胸の内にあった。
カリムと通信を終え、クロノは自身が艦長を務めるガイアへと戻った。
「艦長、ここ最近随分とバタバタしていましたが、何かありました?」
フェイトが艦に戻って来たクロノにここ最近の事を訊ねる。
「ああ、実は‥‥」
クロノはフェイトに今回のカリムの一件を話す。
「えっ!?そんなことがあったの!?」
話を聞いたフェイトは驚愕する。
「機動六課の時もスカリエッティ相手に大変だったのに、それがスカリエッティ以上の相手なんて‥‥それに規模もJS事件の時よりも大きくなるんじゃない?」
「ああ。はやてもカリムも同じ見解だった。だからこそ、今の内に万全の態勢を整えておかなければならないのだが‥‥」
クロノが言葉を濁した様子を見てフェイトは、
「管理局の上層部は相手にしなかった‥と?」
「ああ。上層部は今の管理局の力を過信しているようだ‥‥」
「それで大丈夫なの?」
「分からない。グラシアさんは出来れば今回の予知は外れて欲しいと言っていた。僕もはやても心の何処かでは外れてもらいたいと言う思いがあるのも事実だ」
「それで、カリムの予知ってどんな内容だったの?」
フェイトがはやてやクロノが此処まで言うカリムの予知内容が気になったので、その内容をクロノに訊ねた。
「これだ」
クロノはフェイトにカリムの予知の内容を見せる。
「‥‥」
クロノから渡されたカリムの予知内容に目を通すフェイト。
「これって本当に起きるかもしれないの?」
「現時点ではそれは分からない。起きる可能性もあるし、外れる可能性もあるとしか言えない」
「確かにこれが起きたらJS事件よりも大きな被害が起きるのは確実だね。それで、はやてたちはこの内容をどう解釈したの?」
「『黒き魔女』は先日の新造艦強奪事件の主犯であるシーマ・ガラハウを指していると解釈したのだが、後半の文章の解釈が未だに解明できていない。今になって思うと、『黒き魔女』が本当にシーマ・ガラハウの事を指しているのかさえ何だか怪しく思えてしまうのだが‥‥」
クロノはやはり、後半の文章が未だに解明されていない事で、前半の文章の解釈にも自信がなくなってきた。
「しかし、仮に前半の解釈が間違っていたとしても僕たち管理局は予知の対策をしなければならないと思っている」
「うん。そうだね」
「なので、今から半年以内は事件は起こらないだろうから、その期間は遠距離航海を行い、情報収集を行い、半年を過ぎる頃は遠距離の探査航海は控え、近海の哨戒行動をメインにしようかと思っている」
「確かにいつ起こるか分からないもんね」
JS事件の時の様にはやてクロノはカリムの予知を信じて警戒に当たる事にした。
その最中、管理局も警戒をしているわけではないが、強引に予算を勝ち取った事で、新造の次元巡航艦、
そして管理局では初となる小型の次元航行艦‥
次元警邏艦の建造を開始したのだった。