星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百三十五話 ベビーファイト&ご近所トラブル

 

 

ミッドチルダにて、カリムが不吉な予知をして、クロノたちがその予知の解釈に奔走している頃、ギンガ、ティアナが住んでいるもう一つの地球では‥‥

 

ある日の晴れた昼下がり、ギンガは乳母車に誉を乗せて散歩に出かけていた。

 

そして、二人の付き添いにはノエルも行動を共にしていた。

 

ギンガも誉も今や月村家の人間であり、これまで月村家の人間はその権力の巨大さと大きな権限を有するために政敵や更には権力を欲する身内からも命や身柄を狙われており、今ではギンガと誉もそんな政敵からのターゲットにされる可能性が高い。

 

ガミラス戦役から始まった外宇宙からの侵略でそう言ったケースは減っては来たが油断は出来ない。

 

ギンガが死ねば良馬の妻の座が一つ空く事になるので、その空席を狙う目的でギンガを狙う輩も存在するかもしれない、

 

また誉はまだ赤ん坊なので、誘拐するには格好のターゲットだ。

 

なので、ギンガと誉、ユリーシャと友莉葉の二人っきりで外出する際は基本的にノエルが二人の護衛役として同行している。

 

忍はこの現状に対して、

 

(うーん、ノエル一体だけだとギンガちゃん、ユリーシャちゃん、誉、友莉葉の護衛や子守りに手が回らない)

 

(新たに自動人形を作ろうかな?)

 

と、ノエルだけでは足りないと思い追加の自動人形の製作を考えていた。

 

なお、そんな護衛対象である誉であるが、夜の一族であり法術士である良馬と戦闘機人ながらも魔導師であるギンガの子なので当然、彼女にもリンカーコアが存在している。

 

そして、高レベルの魔法素質を持つイスカンダル人のハーフであるユリーシャから産まれた友莉葉も誉同様にリンカーコアを有していた。

 

今後の修行次第で二人は魔法と法術の両方を使えるかもしれないが、それはまだまだ先の事だ。

 

一方、地球人で非魔導師の北野と魔導師であるティアナとの間に産まれた哲郎については母親譲りだったのか、彼にもリンカーコアの存在が確認された。

 

ただ、ティアナはクロス・ミラージュからその件は伝えられた時、夫である北野に自分の息子が魔導師である事を伝えるか迷ったが、まだ赤ん坊である息子が通常の地球人とは異なる力を宿している事を伝えて良いモノか迷った結果、北野にはもう少し先になってから伝える事にした。

 

ただ地球人同士の間に産まれた深雪は非魔導師だったので、リンカーコアは存在していない。

 

そして、ギンガは自身が戦闘機人であると同時に魔導師でもあるので当然、自分の娘も魔力を受け継いでいるのではないかと思っていたが、その予想は当たっていた。

 

良馬や忍もギンガが魔導師である事を知っていたので彼女同様、誉も魔導師なのかと思っていた。

 

とは言え、まだ物心がついていない赤ん坊相手に魔導師の心得なんて言ったところで理解できるわけでもないので、ティアナの様に誉、そして友莉葉にもいずれ教えるつもりだった。

 

 

「うーん、今日はいい天気ですね。絶好の散歩日和だわ」

 

「ええ、そうですね」

 

ギンガたちが海鳴市の住宅街をのんびりと散歩していると、

 

「そこよ!」

 

「ダメよ!!頑張りなさい!!」

 

「ん?何かしら?」

 

「そこの公園から聞こえますね」

 

ギンガたちが現在居る直ぐ傍にある公園から複数の人の声がした。

 

気になったので、ギンガたちは声が聞こえるその公園に行ってみると、公園の一角では何かやっているのか、人だかりが出来ている。

 

そして集まっているのは何故か皆、誉と同じくらいの子供を連れた主婦たちのようだった。

 

「ん?なにかあるのかしら?」

 

「行ってみますか?」

 

「う、うん」

 

ギンガとノエルはそこに何があるのかを確かめようと人だかりに近づく。

 

「誰?あの人?メンバーじゃないわね」

 

「誰よ、あんたたちは」

 

ギンガとノエルに気づいた主婦たちが一斉にギンガたちに対して視線を向けてくる。

 

「い、いえ何をしているのかなと思って‥‥」

 

主婦たちの視線を浴びて、ギンガが恐る恐る答えながら主婦たちが見ていたモノに視線を向ける。

 

そこで、ギンガたちの視線に映ったのは‥‥

 

「あぐぐぐぐ‥‥」

 

「うぎぎー」

 

抱っこ紐でそれぞれの母親に吊るされた二人の赤ん坊が殴り合いをしていた。

 

二人の赤ん坊の内、一人の赤ん坊がもう一人の赤ん坊の髪の毛を右手で掴みつつ、頭に噛み付き、左手で唇を引っ張っている。

 

「拓也、そのまま噛みちぎっちゃいな」

 

「泣いちゃだめよ、春樹!!」

 

「ひ、酷い!一体何をやっているんですか!?あなたたちはっ!?」

 

自分の子供を戦わせる‥主婦たちが行っているその酷い行為を見てギンガは近くにいる年配の女の人に一体何をしているのかと訊ねる。

 

いくらなんでもまだ物心がつく前の赤ん坊に対してこの行為はあまりにも野蛮だ。

 

「ベビーファイトだよ。泣くか泣かせるかの真剣勝負」

 

ギンガの問いにさも当然のように赤ん坊たちが何をしているのかを言う年配の女。

 

「えぼおー」

 

噛み付いていた赤ん坊が対戦相手の赤ん坊のこめかみに肘打ちをくらわし、勝負がついた。

 

肘打ちを食らった赤ん坊はそれがとどめだったのか大泣きをする。

 

「やったわ!!さすが拓也ね!!」

 

対戦相手を泣かせた赤ん坊とその母親は両手を高く上げて、勝利を喜んでいる。

 

「もういっぺんやらしてよ!!」

 

一方で、泣かされた方の赤ん坊の母親はよほど悔しかったのか泣きながらリベンジをしようとするが、

 

「奥さんみっともないわよ」

 

その態度はあまりにも見苦しい。

 

そのため、別の主婦に抑えつけられている。

 

「いくら休日の日中、ヒマだからって自分の子供を使ってこんなことをするなんて貴女たちは一体何を考えているんですか!?」

 

子を持つ母親の所業とは思えぬ行為にギンガは声を荒げる。

 

すると先程の勝負に勝った主婦がギンガに絡んできた。

 

「何良い子ぶってんのよ!?」

 

「事実を言っているだけです!!貴女、本当にそれでも母親ですか!?」

 

「憎たらしいわね!!拓也、パンチよ!!パンチ!!」

 

ギンガの反論にカチンと来たのか、その主婦は自分の子供に誉を攻撃するように言う。

 

「あー!あー!」

 

母親の言う事を理解しているのか拓也と呼ばれている赤ん坊はシュッ、シュッとシャドーボクシングのように拳を繰り出してくる。

 

「ちょっと変な挑発はやめてください!!」

 

変な人に絡まれてしまったと思いつつギンガは止めようとするが、

 

「でぇー」

 

ペチッ!!

 

拓也と呼ばれた赤ん坊のパンチが誉の頬に当たる。

 

赤ん坊の咄嗟の事でギンガも反応が遅れた。

 

自動人形のノエルならば十分に対処は出来たのだろうけど、相手は誉と同じ赤ん坊なので、反撃していいものか判断に迷ったのだ。

 

「‥‥」

 

いきなり頬にパンチを食らったにもかかわらず、誉は泣かずに一瞬だけ目を細めたと思ったら、手に持っていた玩具でパンチをしてきた赤ん坊の頬を思いっきり殴った。

 

それはまさに倍返しの行為だった。

 

「だぁぁぁぁぁー!!」

 

「があぁぁぁー」

 

しかも一発殴った後、引き続き玩具でその赤ん坊の頭部を玩具で叩き続けている‥‥誉としてはよほど頭にきたのだろう。

 

思えばこの時から誉の負けず嫌いな性格が形成されたのかもしれない。

 

「やぁぁぁぁぁー!!」

 

「うわぁぁぁぁんー!!」

 

突然の‥しかも玩具越しの反撃を受けた赤ん坊は大泣きをしている。

 

「こ、こら、止めなさい!!誉!!」

 

「ちょっと!!それ凶器じゃない!?」

 

ギンガが慌てて誉の手から玩具を取り上げて誉はようやく殴るのを止めた。

 

「拓也君が泣いたわ!!」

 

「まさか、関脇が負けるなんて!!」

 

周りの主婦たちは拓也が泣いたのがよっぽど意外だったのだろうか驚いている。

 

「関脇?一体何のことですか?」

 

誉が泣かせた赤ん坊が『関脇』と言われて益々困惑するギンガ。

 

「ベビーファイトの番付だよ。今、泣いたのが関脇の鶴田拓也、九ヶ月」

 

年配の女の人が『関脇』の意味と先程、誉を殴った赤ん坊の紹介をする。

 

「負けてないわよ!!あの子、凶器を使ったじゃない!!」

 

拓也の母親はさっきの勝負の勝敗に不服らしい。

 

しかし、無関係の誉をいきなり殴りつけ、反撃を受けたのだから自業自得なのかもしれない。

 

拓也の母親にしてみれば、ベビーファイトは手、足、口、のみの戦いであり、例え赤ん坊の玩具でも道具を用いての戦いは反則なのだが、そもそも誉はこのベビーファイトのメンバーではないので、玩具を使っての攻撃をしようが関係ない。

 

「で、この子が同じく関脇の佐藤浩介君、八ヶ月、小結の高田正男君、七ヶ月、前頭筆頭の花田香住ちゃん、七ヶ月、前頭二枚目の須田とおる君、四ヶ月」

 

年配の女の人は上位実力者である赤ん坊の紹介をギンガとノエルにする。

 

「出場者は十二ヶ月未満ならば男女問わずOK。毎週土曜日の正午からこの公園でやっているわ。あたしゃ、運営会長の柳田まどかよ」

 

「奥さんのお嬢ちゃん強いわね」

 

「大関になれるかもよ」

 

周りの主婦たちは誉を褒めるが、ギンガはそれを素直に受け止められなかった。

 

「や、やっぱり貴女たちは変よ‥‥大バカよ!!母親失格よ!!」

 

自分がお腹を痛めて産んだ我が子をまるで戦いの道具のように扱い、勝てばそれがまるでステータスのように自慢する。

 

ギンガはフルフルと小さく震えながら不機嫌を露にする。

 

「‥‥」

 

ノエルも同じ気持ちなのか僅かに顔を歪める。

 

すると、一人の黒い服を着た女の人がギンガの前に出た。

 

「誰が大バカだって?」

 

「うぅ~」

 

その女の人が引いている黒いベビーカーには女の人と同じく黒いベビー服に黒い帽子を被った薄気味悪い赤ん坊が乗っている。

 

「この子が大関の野呂四郎君、六ヶ月よ」

 

柳田がこの薄気味悪い赤ん坊の紹介をする。

 

「うぅ~」

 

「な、何か薄気味悪い子ね」

 

「この子は忌み数がかさなる日と時間に生まれてね。通称サタンって呼ばれているのよ」

 

「うぅ~」

 

確かに着ている服もそうだが、生まれて半年たった赤ん坊には見えない不気味さがその子から滲み出ていた。

 

まさに悪魔憑きと言われても不思議ではない。

 

「たいていの子は四郎の目を見ただけで泣くわ」

 

「うぅ~」

 

「帰ります」

 

「そうですね」

 

こんなくだらないことにこれ以上付き合う義理は無いのでギンガとノエルは帰ろうとする。

 

「ちょっと待った。一本やらせてみなよ」

 

しかし、柳田がダメ元で四郎と誉に一戦させようとすると、周囲の主婦たちもこの戦いの行く末が気になるのか、このままギンガたちを逃がすつもりはないのだろう。

 

いつの間にか、しかも自然な形でギンガとノエルの退路を塞いでいた。

 

ギンガにしてもノエルにしても非魔導師の一般人程度ならば強行突破は出来なくもないがこの場には誉も居るし、何より軍人たる自分が守るべき一般市民に対して暴力を振るう訳にはいかない。

 

退路なく、やむを得ずギンガは誉に申し訳ないと思いつつもこの勝負を受けざるを得なかった。

 

それぞれ向き合う二人の赤ん坊。

 

「うぅ~」

 

四郎は鋭い目で誉を睨んでくる。

 

この時、もしかしたら彼はいつも通り、自分が睨みをきかせれば相手は泣くと思っていた。

 

しかし、今日の対戦相手は違った。

 

四郎が対戦相手の赤ん坊を睨んだ瞬間、対戦相手は‥‥

 

「あ‘んっ!?」

 

四郎を上回る鋭い目付きと共になんと殺気の様なモノを四郎にぶつけてきた。

 

それを受けて四郎は本能的に身の危機を感じて、

 

「うっ、うわぁぁ――ん!!」

 

大声をあげて泣いて母親に抱きついた。

 

「サタンが泣いたわ!!」

 

「うそ!!」

 

「えっ?えっ?どうしたの?何かあったの?」

 

ギンガは突然起こった事態についていけず、オロオロするばかりであった。

 

「奥さん。貴女、見ていなかったの?」

 

泣き喚く我が子を抱きしめる四郎の母親に言われて、

 

「えっ?いつも変わらない顔でしょう?」

 

ギンガは誉の顔を見るが、誉はギンガにいつものように微笑みをかえす。

 

「これは大物ね」

 

「キング‥‥いえ、クイーンに相応しいわね」

 

「やめてください。だいたいキングとかクイーンってなん何ですか!?」

 

「ウチらはベビーファイトの頂点を男の子ならキング、女の子ならクイーンって呼んでいるのよ。その子こそ地上最強の赤ん坊なのさ」

 

「貴女の子供なら絶対にクイーンになれるわ」

 

「羨ましいわね」

 

頂点の素質を持つ誉を羨む主婦たちであったが、

 

「ちょっとこの子は普通の子なのよ!!」

 

普通の子じゃないと思われ、ギンガは思わず声をあげる。

 

それは母親である自分が普通の人ではなく戦闘機人であるため、誉にも偏見を持たれたと思わず感じたのだ。

 

もちろん周りの主婦たちはギンガが特殊な事情を抱えているなんてそんなことを知る由もない。

 

「あたしゃ、別に変な子だなんて言ってないよ」

 

声をあげたギンガに対して平然とした態度で言う柳田。

 

彼女たちからすれば何故ギンガがこうもムキになっているのかが不思議なのだ。

 

そこに一人の赤ちゃんが歩いて公園に入って来た。

 

「あっ!キングだわ!!」

 

「えっ!?」

 

「あの子がキングベイビーよ。丸川弘樹、八ヶ月。体重22キロ。海鳴の大魔神」

 

「は、八ヶ月で歩いているの!?それにあの子の親は!?」

 

「いるけど、いつも一人で歩いてくるね」

 

「本当に八ヶ月の赤ん坊なの!?あの子!?」

 

「ちょっと信じられませんね」

 

八ヶ月の赤ん坊が歩行器無しで一人で立って歩き、しかも親の同伴なしに一人で自宅から公園に来ていることにギンガとノエルは驚愕せずにはいられなかった。

 

当然一人で立って歩くことが出来、体重が八ヶ月で既に22キロあるので、身長もそれなりにあった。

 

なので、ギンガもノエルも思わず彼が年齢詐称なのではないかと疑ってしまうレベルだ。

 

「アアアアアア~」

 

「な、なによ?その低い声は‥‥?やっぱり、この子、年齢を詐称しているでしょう」

 

更に弘樹は八ヶ月の赤ちゃんとも思えない大地を揺るがすような低い声を出す。

 

「頑張って~!!あの子が最後の砦よ~」

 

一人の主婦が誉に声援をおくる。

 

しかし、それは声援というよりも誉を煽っているかのようにも聞こえる。

 

「ふざけないでください!!」

 

あんな子とまともに肉弾戦なんてやったら、大切な我が子がケガをしてしまう。

 

なんとしても止めさせなければならない。

 

ギンガがそう思っていた矢先、

 

「あっきゅー」

 

誉はそんな親の心配を知らずに不敵な笑を浮かべて相手を挑発する。

 

「アアアアア~」

 

そんな誉の挑発に弘樹も怒ったようだ。

 

「奥さんこれはもう止められないよ」

 

弘樹は誉のベビーカーに近づくと両手を合せ、振り上げるとその勢いを殺さずベビーカーに叩きつける。

 

だが、誉は身体をよじってその攻撃を紙一重でそれを躱す。

 

ギンガとノエルが思わず止めに入ろうとするが、周りの主婦に止められる。

 

「離してください!!あのままでは本当に殺されちゃうわ!!」

 

「お嬢様に傷をつける輩を止めなければなりません!!」

 

「親や関係者の乱入は禁止だよ!!」

 

保護者たちも半乱闘化しそうな中、赤ん坊たちも戦っていた。

 

誉は弘樹の首と腕に手をまわし、外へ身体を傾けるとベビーカーの重さを利用し、そのまま倒れる。

 

誉よりも背が大きかった弘樹はこれによりDDTをかけられる形となった。

 

「DDTよ!凄い!!」

 

「ん?まだ泣いてないわね。試合続行」

 

柳田は弘樹の様子を確認すると弘樹は涙ぐんではいるが、まだ泣いていない。

 

ベビーファイトのルールは相手を泣かすまで試合は終わらない。

 

弘樹としてもキングの面子があるのか、必死に泣くのを堪えている。

 

しかし、そんな弘樹に追撃の手が加えられる。

 

「はぁ!」

 

グキッ!!

 

「アアア~!!」

 

誉により腕拉ぎをかけられ弘樹はとうとう声をあげ泣き出してしまった。

 

「どうやら勝負あったわね‥‥」

 

「新キング‥‥いえ、新クイーン誕生ね」

 

「ひぃ~」

 

主婦たちがギンガたちの方を見ると、ギンガは誉を脇に抱えて、ノエルは誉が乗って来たベビーカーを持ち、その場を急いで後にした。

 

その後、この公園の主婦たちの間で誉のことは噂になり、ギンガはこの公園を散歩コースから外した。

 

ギンガたちの名前と住所がバレていない事がギンガにとっては幸いだったのかもしれない。

 

 

『えぇーそんなことがあったんですか?』

 

『ちょっと信じられませんけど‥‥』

 

(でも、世界は違ってもなのはさんとはやてさんの生まれ故郷でもある街だし、そんな規格外な赤ん坊が居ても不思議じゃないのかな?)

 

その日の夜、恒例の新ママ会のオンライン通話でギンガは今日の昼間にあった出来事をティアナと雪に語った。

 

ティアナは当初、ギンガの話を信じられなかったが、あのギンガがわざわざこんな分かり切った嘘をつくとも思えないし、世界が違っても海鳴市はなのは、はやてが生まれ育った街でもあるので、ギンガが話した様な規格外な赤ん坊が存在してもおかしくはないのかもしれないと思った。

 

なお、オンライン通話の前、忍にも昼間の一件を話した時、

 

「へぇ~その話もっと詳しく聞かせて‥‥その誉ちゃんを殴った人の家を特定して社会的に抹殺するから」

 

なんて、物騒な事を言っていたので、ギンガとノエルは忍を必死に止めた経緯がある。

 

「私も当初は信じられなかったわ。自分の子供を戦いの道具するような母親たちの行動に年齢詐称をしているんじゃないかと思う規格外な赤ん坊‥‥ユリーシャ、あの公園には絶対に行かない方が良いわよ」

 

「う、うん。分かった」

 

そして、ギンガはユリーシャに対しても忠告をいれる。

 

しかし、ユリーシャとしてはギンガの話が本当だったのかちょっと気になっていた。

 

なお結婚当初、ギンガはユリーシャを『ユリーシャちゃん』と呼んでいたが、ユリーシャ本人から『ちゃん付け』は止めてと言われたので現在、ギンガはユリーシャの事を家の中では『ユリーシャ』、外では『摩弥』と呼んでいる。

 

それから次の週の土曜日‥‥

 

「ま、摩弥さん。おやめください。先週、ギンガさんからもこの公園には近づくなと言われた筈です」

 

ユリーシャはノエルの制止を聞かずに例の公園へ友莉葉を連れてやって来た。

 

すると、先週ギンガが言ったように公園の一角には赤ん坊を連れた主婦たちの姿があった。

 

そしてやはりベビーファイトとやらをやっていたのだが、今回は何やら様子がおかしい。

 

「柳田さん、また負けたわ!!」

 

「なにっ!?またかい!?」

 

会場となっている砂場には外国人らしき親子が居り、その赤ん坊が次々と対戦相手を負かしている光景が広がっていた。

 

「うわぁ~ギンガの言った通りだ‥‥」

 

ユリーシャとしては本当にギンガが言う様な事が行われているのか疑問視していたので、今日実際に公園にやって来たのだが、目の前の光景を前にギンガが言っていた事が事実だったのだと確信した。

 

「あん?あれ?あんた、先週来たメイドじゃない」

 

すると、柳田がノエルに気づく。

 

メイド服なんて目立つ服で来たのが仇となった。

 

「ど、どうも‥‥」

 

ノエルは気まずそうに一礼する。

 

「アンタ、この前の子は来てないの?」

 

「い、いえ。今日は来ていませんが?」

 

柳田の言う『この前の子』とは誉の事を指しているのだと直ぐに分かった。

 

しかし、今日はギンガと誉ではなく、ユリーシャと友莉葉が来ていた。

 

「何か今日は随分と物々しい様ですが?」

 

「今、とんでもなく強いアメリカ人親子が来ているのよ」

 

「ウィィィィィッ!!アメリカ一バーン!!」

 

「柳田さん、拓也君も負けたわ!!」

 

砂場には先日誉の頬にパンチをした赤ん坊が泣きながら倒れている。

 

「浩介君も負けちゃったし‥‥」

 

もう一人の関脇である浩介も既に敗北していた様子。

 

「大関である四郎君の睨みが全然効かなかったから、まさかと思ったけど‥‥」

 

誉同様、このアメリカ人の赤ん坊には四郎の眼光は効かず、肉弾戦に持ち込まれ彼も既に敗退していた。

 

「元キングの弘樹君は入院中だし‥‥」

 

誉との一戦で、キングだった弘樹はあれから病院へと運ばれて現在も入院中‥‥

 

大関である四郎、関脇である拓也と浩介が敗北した現在、あのアメリカ人の赤ん坊に勝てる赤ん坊はこの場にはもういない様だ。

 

「アメリカサイコー!!ドウシタ?カカッテコイ!!」

 

連戦連勝で気をよくしたのかアメリカ人の母親は挑発して来る。

 

「くそっ、こうなったら‥‥」

 

「はてな?」

 

柳田はなんと、ベビーカーから友莉葉を抱き上げて、

 

「金髪には金髪をあてるわ!!」

 

誉同様、メンバーではない友莉葉にアメリカ人の赤ん坊の相手をさせた。

 

「ちょっと!!一度ならず二度も!!貴女は一体何を考えているんですか!?」

 

柳田の行為にノエルが声を荒げて友莉葉を取り返そうとするが、

 

「おさえといてみんな!!」

 

「ちょっ、離しなさい!!」

 

前回同様、周りの主婦たちがノエルの身柄を抑える。

 

やはり、一般人相手なのでノエルも本気にはなれないのが難点だ。

 

ユリーシャはこの事態に着いて行けずにオロオロするばかり‥‥

 

そして、アメリカ人の赤ん坊と対峙した友莉葉はと言うと‥‥

 

「‥‥」

 

アメリカ人の赤ん坊が被っている帽子についているゴム製の顎紐を引っ張る。

 

相手の赤ん坊は油断しており、友莉葉がある程度引っ張ると指をゴム紐から離した。

 

バチッ!!

 

するとゴム紐はアメリカ人の赤ん坊の両目に命中する。

 

「ウィィィィィ!!」

 

両目に走る激痛にアメリカ人の赤ん坊はその場に倒れる。

 

「オーマイガー!!」

 

自分の子供が倒された場面を見てアメリカ人の母親は絶叫する。

 

「やった!!」

 

「勝ったわ!!」

 

アメリカ人の赤ん坊が泣いた事で周囲の主婦たちが歓喜の声を上げる。

 

その隙にノエルは友莉葉をベビーカーに戻し、片手でベビーカーをもう片方の手でユリーシャの手を掴み急いで公園から脱出した。

 

そして、その日の夜‥‥

 

「はぁっ!?あの公園に行った!?」

 

ノエルがギンガに昼間の件を伝えた。

 

「ユリーシャ!!貴女、一体何を考えているのよ!?言った筈でしょう!?『あの公園には行かない様に!!』って!!」

 

「ご、ごめんなさい。ギンガの言っている事が本当か確かめたくて‥‥」

 

「それでも、友莉葉を連れて行くなんて何を考えているのよ!?行くなら一人で行きなさい!!」

 

「は、はい‥‥」

 

ギンガのお説教を受けてユリーシャはしょんぼりとしている。

 

「ノエルさんもどうしてユリーシャを止めなかったの!?」

 

「も、申し訳ございません」

 

ノエルも流石に良馬の奥さん相手に物理的な方法で止められず、口頭で注意を促してもユリーシャの知的好奇心には効き目がなかった。

 

「まぁ、まぁ、ギンガも落ち着いて、ノエルさんも色々と立場があって強くは止められなかったし、ちゃんとユリーシャたちをあの場から無事に逃がしてくれたのだから」

 

激怒するギンガを良馬は宥める。

 

「それにしても誉ちゃんに続いて友莉葉ちゃんまで‥‥やっぱり、その公園に集まっている主婦たち全員、社会的に抹殺する必要があるわね」

 

「忍さんも物騒な事を言わないの」

 

誉と友莉葉が怪我をするかもしれない事態を生み出したベビーファイトの参加者たちに対して忍の怒りは強く、ガチであの場に集まっていた主婦たちの家庭を抹殺してもおかしくない雰囲気を出していたので、良馬はソレを止めた。

 

何はともあれ、月村家では土曜日にあの公園付近への外出は極力控える事となった。

 

 

此処で時間は一週間前‥ギンガがあの公園で半ば強制的にベビーファイトに参加させられた日の夜に戻る。

 

ギンガから昼間に起きたにわかには信じられない体験談が語られた日、

 

「えっ?そんな事が?ちょっと信じられないな」

 

雪は夫である古代にギンガの体験談を話した。

 

当初、古代は信じられない様子であったが、

 

「でも、あのギンガさんはこんな嘘をつくような人じゃないし‥‥」

 

「えっ?と言う事は本当の事なのかい?」

 

「多分‥‥」

 

「とんでもない人たちだな。自分の子供を‥ましてやまだ赤ん坊を使って戦わせるなんて‥‥」

 

「本当に‥‥世の中には信じられない事をする人も居るのね」

 

雪は母親とは思えない行動をする人たちが存在する事に古代同様信じられないがギンガの人となりを知っているからこそ、信じられないがそういう事をしている人たちが海鳴に少なからずいることが分かった。

 

しかし、雪は別の意味で信じられないような人と邂逅する事となった。

 

翌日の日曜日‥‥

 

「あら?引っ越しかしら?」

 

「そうみたいだ」

 

古代家の新居の近くの空き家の前に引っ越し屋のトラックが止まっていた。

 

その光景から誰かが引っ越してきたみたいだ。

 

そして、その引っ越してきた人物が雪にとって厄介な人物となる事をこの時の雪は知る由も無かった。

 

それから少しして、近所のママ友が雪に声をかけてきた。

 

「ねぇ、古代さん」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「あそこの家の奥さんのこと聞いた?」

 

近所のママ友が先日、引っ越してきた家の人の噂をしてきた。

 

「いえ、何も‥‥」

 

しかし、雪はあの空き家に誰が引っ越してきたのかを知らないし、まだ面識もなかった。

 

「あそこの奥さん、何かとご近所の家庭事情に首を突っ込んで来る事があって、やたらとプライベートな事を聞いてくるのよ」

 

「プライベートな事‥‥それって一体どんな事ですか?」

 

「旦那さんの職業やなんのありがらみもないアドバイス的な事まで言うのよ。賃貸住まいのママ友なんて、『人が持っている家にお金払って住まわせて貰っているんでしょう?家賃収めているだけの居候と大して変わらないじゃない』なんて言われたみたいよ」

 

「それはちょっと酷いわね」

 

古代家の新居も今はマンション住まいなので、何だか旦那である古代をバカにされたような感覚でちょっとムカッとする。

 

「かと思えば、持ち家のご近所さんには、『あなたのお宅見せてもらったけど、あれって場所が良くないんじゃない?それに戸建てって言うにはなんかみすぼらしいわね』って‥‥」

 

「あそこの家だってそこまで大きな家じゃないのに‥‥」

 

「そんなことがあるから、古代さんもあまりあの家の人とは関わらない方がいいわよ」

 

「分かりました」

 

ママ友の情報が事実ならば、どうやら近所に変な人が引っ越してきたようだ。

 

雪も近所のママ友から言われて注意する事にした。

 

しかし近所なので、どうしても顔を合わせてしまう機会は訪れる。

 

雪が深雪をベビーカーに乗せて散歩に出かける際、例の家の前を通った時、近所のママ友から注意されたその家の奥さんと思われる女性と鉢合わせした。

 

「あら?こんにちは」

 

「こ、こんにちは‥‥」

 

「貴女、近所の人?」

 

「は、はい」

 

「私、この家に引っ越してきた末原埼雅美って言うの。よろしく」

 

「は、はい。古代と言います」

 

「あら?その子、貴女の子?」

 

「え、ええ‥‥」

 

「保育園とかに預けていないの?」

 

「はい。産休中は一緒に居ようかと‥‥」

 

「へぇ~」

 

雪の返答を聞いて、末原埼と名乗った女性は目を細める。

 

「‥‥」

 

(噂通り何かこの人、厄介そうな人‥‥)

 

雪は何だか、その視線に嫌な予感を覚える。

 

「奥さんが産休中でも生活できるって、旦那さんの稼ぎがさぞや良いんでしょうね。旦那さんってどんな仕事に就いているんですか?」

 

(あっ、近所のママ友が言っていた展開だ‥‥)

 

「国家公務員です」

 

「へぇ~国家公務員‥‥それは凄いわね。あっ、此処で会ったのも何かの縁だし、連絡先を交換しない?」

 

末原埼は雪と連絡先を交換したいらしく自分の通信端末を見せる。

 

「は、はぁ‥‥」

 

雪自身は厄介そうな人との連絡先の交換なんてしたくはなかったが、此処で断って無用なトラブルを起こすのも嫌だったので、渋々連絡先を交換した。

 

「連絡先も交換したことだし、これから交流を深める事を含めて、これから古代さんお家に行ってもいい?」

 

「あっ、すみません。今日はこの後に用事があるので‥‥それでは」

 

雪は末原埼に深く関わられる前にその場を後にした。

 

その後も末原埼は何かと雪の家に行きたがるが、雪は他のママ友からの対応を参考にしてのらりくらりとかわしていく。

 

近所のママ友からも末原埼の悪い噂が雪の耳に入る。

 

曰く、彼女には幼稚園に通う子供がいるのだが、その子が通う同級生の母親とランチ会に行くと会計前に『財布を忘れた』 『ちょっとトイレに行ってくる』と言ってお金を払わない。

 

曰く、同級生の家に末原埼が行った後、トイレットペーパー、洗剤、化粧品、歯ブラシ、小物のアクセサリーが無くなる。

 

そんな噂が立ち、幼稚園でも彼女は煙たがれる存在となっていた。

 

雪自身も以前スーパーに買い物に行った際、会計の為レジに並んでいると、

 

「あら?古代さん!!こっち、こっち~~!!」

 

レジの先頭で会計をしていた末原埼が列に並んでいる雪に気づき声をかけてきた。

 

「うわぁ~‥‥こ、こんにちは‥‥」

 

雪は顔を顰めつつも挨拶をする。

 

「古代さん、あなたのために先に並んであげたわ~~さあ、入って、入って!!」

 

「いえ、大丈夫です。割り込みになるので‥‥」

 

「なに言っているのよ。会計が一緒なんだから、全然大丈夫よ。ねぇ、店員さん」

 

「は、はぁ‥‥」

 

末原埼の剣幕にタジタジな店員。

 

「それじゃあ、私はこれで。支払いはあそこの金髪の人がしれくれるから」

 

そう言って末原埼は買い物の品を持ってスーパーを出ていく。

 

翌日‥‥

 

雪は末原埼にレシートを渡して昨日の会計分のお金を返して貰おうとしたが、

 

「えぇ~そんなことあった?古代さんの勘違いじゃないの~?」

 

「そんなわけありません!!ちゃんとお金は返してください!!」

 

「まぁ、まぁ、ご近所で同じ子育てをしているママ友じゃない。そんなはした金くらい目をつぶりましょう。困った時はお互い様っていうじゃない?それに旦那さん、国家公務員なんでしょう?つまり私たちの税金で貴女たちは食べているのだから、納税している私には本来は感謝しないとねぇ~ハハハハハ‥‥」

 

ヘラヘラして雪に自分の家の買い物の料金を支払わせた。

 

そして、その日の夜‥‥

 

「それで、先日近所に引っ越してきた家の奥さんが最悪な人で‥‥」

 

と、雪はママ友オンライン会で愚痴る。

 

『うわぁ~そんな非常識な人が本当に存在するなんて‥‥』

 

『てっきり、ネット上の創作物かと思っていました』

 

『変な人』

 

ギンガ、ティアナは雪の話を聞いてドン引きしているが、ユリーシャはちょっと感覚がズレているのか変わった人と言う認識でいた。

 

「はぁ~これからもあの人と付き合っていくなんて‥‥」

 

一度やられたので、今後もこうした集り行為が続くとなると雪がげんなりするのも分かる。

 

しかも近所なので顔を合わせる機会は必ずあるだろう。

 

変に揉めて旦那である古代に迷惑を掛けたくないと言う心情も雪にはあった。

 

(雪さんのために何か出来る事ないかしら?)

 

ギンガはそんな雪のために何かできないかと思った。

 

 

オンライン会後、雪は買い物に行く際も周囲に末原埼が居ない事を確認しながら買い物をするようになった。

 

そんなある日、雪が買い物を終えて自宅のマンションに帰ろうとしていた中、

 

prrrr‥‥

 

雪の通信端末が鳴る。

 

(もしかしてまたあの人かしら?)

 

雪が警戒しつつ通信端末を見ると、

 

「あら?ギンガさん‥‥」

 

画面を見ると、それはギンガからの通話であった。

 

「えっ?焼肉パーティー?ええ、日付は‥‥はい。その日は大丈夫です。ええ、では進さんと深雪と一緒に行きます。はい、それでは当日に‥‥はい」

 

通話の内容はギンガが焼肉パーティーを企画したので、そのパーティーに雪を誘ったモノだ。

 

雪は日程を確認して、家族みんなでそのパーティーに参加する事にした。

 

ただ、この時の雪とギンガの会話を盗み聞いている者の存在に雪は気付かなかった。

 

それから幾日かの日々が過ぎ‥‥

 

海鳴市にある月村邸の庭では古代家、北野家、中嶋家、月村家の面々がBBQを楽しんでいた。

 

ギンガが雪に提案した焼肉パーティーとは月村家の庭でのBBQであった。

 

食材もやはりギンガが居るので大量に用意されているし、どれもこれもなかなかの高級品だ。

 

ノエルと主催者であるギンガが肉を始めとする食材を焼いているが、ギンガもやはり食べたい様子だ。

 

なので、

 

「ギンガ、後は俺が焼くから、君も食べてこい」

 

良馬がギンガに代わって食材を焼く役を代わると提案する。

 

「えっ?でも、主催者は私ですし‥‥」

 

ギンガとしては主催者たる自分が食事をするのは気が引けるみたいだ。

 

「ゲストと直接交流をするのも主催者の務めだよ」

 

「は、はぁ‥‥」

 

後ろ髪を引かれる思いがあったが、ギンガはゲストとの交流に混ざった。

 

「ギンガさん、今日は御招待ありがとうございます」

 

「いえ、雪さんが何だかご近所トラブルに悩んでいる様子でしたし、気晴らしになってくれれば幸いです」

 

雪は今日のパーティーに招待してくれたギンガに礼を言う。

 

ギンガも食事をしながらゲストとの交流をして楽しそうだ。

 

(誉も大きくなったらギンガと同じ様に沢山食べる子になるのだろうか?)

 

食材を焼きながらふと食事をするギンガの姿を視線に捉えつつ良馬は自分の娘である誉も将来的にはギンガ同様、大食乙女になるのかと思った。

 

楽しいパーティーの時間が続く中、

 

prrrr‥‥

 

雪の通信端末が鳴った。

 




3月14日の正午からAmazon Prime Video FOD U-NEXTにて、旧作のヤマトが配信開始し、4月4日(金)正午より順次旧作の劇場版も配信開始。

vHS ディスク以外で旧作ヤマトを見れるとは嬉しいニュースでした。
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