星の海へ   作:ステルス兄貴

246 / 294
前回は雪がご近所トラブルに巻き込まれましたが、今回はティアナがご近所トラブルに巻き込まれる事に‥‥


二百三十七話 ご近所トラブルそのⅢ

 

 

ティアナ・ランスター・北野‥‥

 

元は異世界であるミッドチルダ出身の魔導師で、時空管理局所属の局員であり、管理局ではエリートの役職である執務官まであと一歩の所の執務官補佐官まで上り詰めた。

 

しかし、今は管理局ではなく地球防衛軍の軍人となり、北野哲の妻であり、一児の母でもある。

 

そんなティアナの趣味の一つにバイクによるツーリングがあった。

 

ミッドチルダに居た時はレンタルやかつて所属していた機動六課時代では、同じ部隊に所属していたヴァイス・グランセニックが保有していたバイクを貸してもらっていた。

 

ミッドチルダから地球に移り住んでからもその趣味は変わっておらず、訓練校時代にバイクの免許を取り、その後、軍に任官してから給金を少しずつ貯めて、中古ながらもバイクを一台購入した。

 

ミッドチルダよりも科学技術が進んだこの地球のバイクはティアナ個人としても興味深い代物であったからだ。

 

初めてこの世界のバイクを見た時、ティアナは‥‥

 

(タイヤを使わずに宙に浮いている車があるから、バイクも‥‥って思ったけど、まさか本当に宙に浮くバイクがあるなんて‥‥)

 

ミッドチルダではなのは、はやての生まれ故郷である地球と同じく車もバイクもタイヤが存在するが、ティアナが残ったもう一つの地球では、街中をタイヤがなく宙に浮いている車‥エアーカーが普通に存在して街中を走っている。

 

そして、タイヤがない車が存在しているので、タイヤのないバイクも当然存在していた。

 

一応、タイヤがある車もバイクも存在はしていたが、やはりタイヤがないエアーカーやアストロバイクの方が、世間では人気がある。

 

タイヤ走行だとタイヤがすり減っていき、いずれはタイヤを交換しなければならない。

 

その交換費用も馬鹿にならない。

 

そんな手間と出費があるなら、最初からタイヤがない車やバイクが選ばれるのは当然の選択なのかもしれない。

 

ティアナもタイヤがないバイクがどんな物なのか興味はあったが、バイクはやはり乗り慣れたタイヤがあるタイプが良いので、ティアナがこの世界で最初に買ったバイクは従来のタイヤがあるタイプのバイクだった。

 

尤もタイヤがある中古のバイクだからこそ、格安で買うことが出来たのだ。

 

しかし、北野と結婚して、一児の母親となってからなかなか時間がとれず、ツーリングへ出かける余裕がない。

 

一応、旦那である北野も子育てや家事は協力してくれるが、まだ息子は乳飲み子なので、男性である北野でも出来ない事もあるし、息子自身が母親のティアナから離れる事を極端に嫌う傾向があった。

 

軍任官時の給金から現在では幾分、昇給し貯蓄には若干の余裕が出来た。

 

息子の方も最近では段々とティアナだけでなく、父親の北野との時間でも愚図らなくなり始めた。

 

なので、ティアナがツーリングを再開できる日は近いかもしれない。

 

そんなある日、ティアナが新居のガレージで愛車の手入れをしていた。

 

中々乗れる時間は取れなくても、こうしてメンテナンスをしなければ、いざ乗ろうとした時に不具合が生じるかもしれない。

 

「うーん‥‥そろそろ、新車にしようかしら?」

 

ティアナが保有しているのは元々中古のバイクであり、結婚前は時間があれば結構乗っていた。

 

いくら定期的にメンテナンスをしているとは言え、半永久的に使える代物ではない。

 

ティアナは、愛車のメンテナンスをしながらそろそろ新車の購入を考えた。

 

彼女が新車の購入を考えながらバイクのメンテナンスをしていると、

 

「あら?北野さん、またバイクを弄っているの?」

 

「財前口さん。ええ、こういうのは日々のメンテナンスは欠かせませんから」

 

近所に住む主婦の財前口がティアナに声をかけてきた。

 

「まぁ、北野さんのそのバイク古そうだから、整備も大変じゃない?わざわざタイヤ付きのバイクを選ぶなんて、北野さんそんなに余裕がないの?」

 

財前口はティアナをやや小馬鹿にしたような顔で言ってくる。

 

(余計なお世話よ‥‥)

 

「私はタイヤがあるタイプのバイクが好きなんです」

 

ティアナは財前口の言葉に内心ムカッとしつつも適当に追い返そうとする。

 

「財前口さんは何処かにお出かけですか?」

 

(出かけるなら、さっさとこの場から消えてくれないかしら?)

 

「フフ、私ね、こう見えても小さなビジネスをしているのよ」

 

「ビジネス‥ですか?」

 

ティアナから見た財前口はどうもてもキャリアウーマンには見えず、冴えない中年のおばさんと言う印象が拭えない。

 

なので、彼女が一体どんな仕事をしているのか見当もつかない。

 

(まさか、スーパーやコンビニのレジ打ちでビジネスとか言わないでよね)

 

スーパーやコンビニのパートも立派な仕事の内に入るが、それをビジネスなんて大袈裟な表現はしないだろうと思うティアナ。

 

「一体、何のビジネスをしているんですか?」

 

一応、ティアナは彼女がどんなビジネスをしているのかを興味半分で聞いてみると、財前口は胸を張って答える。

 

「転売よ、て・ん・ば・い。物を買ってそれを他者に高く売るのよ。今日もその仕入れのためにお店を巡ろうと思ってね」

 

「転売‥ですか‥‥そんなビジネスがあるんですね」

 

「貴女、もしかしてバカにしている?」

 

「い、いえ、そんなことはありませんよ」

 

「転売ってすごいのよ」

 

「そうなんですか?」

 

「そうよ。転売は一見簡単に見えると、素人がやっても安く買い叩かれるけど、一流の転売ヤーは、そこら辺の品物をもう二度と手に入らないような貴重品に見せる腕前と口上力が必要なの、実際に私は月に30万も稼いでいるのよ。もう、此処まで稼ぐと会社で働くのがバカらしくなっちゃって、先月会社を辞めたわ」

 

「それは随分と思い切った行動をしましたね」

 

(普通に働いていたなら、転売とか言うのは副業にすればいいのに‥‥)

 

会社で働いていれば給料とボーナスも入る。

 

彼女がいつから働いていたのかは分からないが、学生から社会人になり、その会社でずっと働いていたとしたら、彼女もそこそこの役職に就いて、給金やボーナスもそれなりにもらえている筈だ。

 

安定した収入源があるならば、その収入源と転売によってもたらされる利益も足せば家計もかなり潤うと思うティアナ。

 

「そうなのよ。だから、北野さんも何か限定の物や貴重品が手に入ったら教えてね。私が高額で引き取ってあげるわ。最もその後で、私がそれ以上の金額で、売るけどね」

 

(最後の一言が余計ね)

 

(それにそんな貴重品が手に入っても、貴女には教えるつもりはないわ)

 

仮にティアナから限定品、貴重品を高額で買い取ってもその金額以上の金額で転売して利益を出そうとする財前口の行為にドン引きした。

 

そんな人に自分が手に入れた限定品、貴重品を渡す訳がない。

 

「それじゃあ、またね~」

 

ティアナの様子に気づかずに財前口は去って行った。

 

この様な財前口とのやり取りがあったが、その後のティアナはそんなやり取りなど忘れてバイクのメンテナンスに勤しんだ。

 

 

そして、その日の夜‥‥

 

「ねぇ、哲さん」

 

「ん?なんだい?」

 

「私のバイク、そろそろ新車に変えたいのだけど‥‥勿論、代金は私の貯蓄から払うわ」

 

車同様、バイクもピンキリで、ピンのバイクとなると何百万となる。

 

勿論、ティアナとしては値段との兼ね合いはちゃんとするし、代金も自分が払うつもりだ。

 

「そうか‥‥まぁ、良いんじゃないか?ティアナのバイク、年季が入っているし、乗っている時に万が一の事があると大変だからね」

 

北野はティアナが新車のバイクを買う事を許可してくれた。

 

「どこのメーカーのどのバイクにするのか、もう決めたのかい?」

 

「ううん、それはこれからバイク雑誌やネットを見てから決めようと思っているわ」

 

新車を買うにしても予算が限られているので、ティアナはまず情報収集から行う事にした。

 

それから数日後‥‥

 

ティアナは息子をベビーカーに乗せて本屋に行き、バイク雑誌を買うついでに散歩に出かけた。

 

その道中、ティアナは財前口とたまたま出会ってしまう。

 

「あら?北野さん、こんにちは」

 

「こ、こんにちは‥‥」

 

「あっ、そうそう、北野さん。ちょっといいかしら?」

 

「な、なんでしょう?」

 

「実はね、前に話した転売ビジネスの話なんだけど、なんか新しい限定品や人気が出そうなもの、二度手に入らないような貴重品とか北野さん、何か知らないかしら?」

 

「えっ?」

 

突然の相談にティアナは思わず固まる。

 

しかし、すぐに再起動して、

 

「す、すみません。私はその‥転売?とか言うのには疎いのでどんな品が、人気があるのか分からないので‥‥それに私自身、そこまで物を持っている訳ではありません。私はいわゆるミニマリストって奴なんで‥‥」

 

苦笑いしつつ財前口の相談を躱すティアナ。

 

すると、財前口は残念そうな顔をするが、ある提案をしてきた。

 

「そうなの?でも、北野さんが何か教えてくれたら、そのお礼にちょっとしたお金をあげることもできるのよ。子育て中の主婦には丁度いい小遣い稼ぎになると思うけど?」

 

「いえ、今の稼ぎで十分ですから‥それじゃあ‥‥」

 

そう言うが、ティアナとしても彼女はあまり深い付き合いをしたい人物ではないので、ティアナは彼女からの提案を断った。

 

ティアナはこれ以上、彼女と話す事もないので、その場から去った。

 

「ふぅ~ちょっとしつこいな、あの人‥‥それにあまり関わりたくない気がするわね」

 

その場から去ったティアナは改めて財前口とは関わりたくないと思った。

 

そして、その日の夜‥‥

 

「‥‥って、事がありまして」

 

恒例の新ママ会で、ティアナは近況を伝える。

 

『北野さんも大変ね。私も先日‥‥』

 

雪が皆に先日、自分の身に起きたご近所トラブルを語る。

 

『えっ?本当にそんな人が!?』

 

「ちょっと信じられませんね」

 

ギンガもティアナも雪が語るような常識外れな人が居たんなんてちょっと信じられなかった。

 

『当事者である私自身も信じられなかったわよ』

 

雪自身、未だにあのような人が居たなんて信じられなく、先日までのご近所トラブルが本当に現実の出来事だったのかと思う。

 

その後も互いの近況や子供たちの様子などの会話が続いた。

 

そんな中、

 

「あっ、そう言えば、私そろそろ新車のバイクの購入を検討しているんですけど、何かオススメのバイクとかってありますか?」

 

ティアナはギンガたちにバイクの話をする。

 

『バイク?うーん‥私も進さんも車は乗ってもバイクは乗らないからちょっと分からないわね』

 

『私も‥‥あっ、でも良馬さんなら何か知っているかも‥‥月村グループでもバイクを作っているし‥‥』

 

雪もギンガもバイクに興味がなかったので、ティアナからの相談には乗れなかったが、良馬の実家である月村グループでもバイクの生産をしているので、良馬経由で忍から何かオススメのバイクを教えてもらえるかもしれないと言う提案でであった。

 

「えっ?良いんですか?」

 

『聞くだけだから、手間じゃないし、いいわよ』

 

「ありがとうございます」

 

こうしてティアナはギンガ経由でオススメのバイク情報を得る事にした。

 

通話後、ギンガは早速良馬に訊ねてみた。

 

「良馬さん」

 

「ん?なんだい?」

 

「ティアナが新しいバイクを購入したいみたいなんですが、何かオススメのバイクってありますか?」

 

「バイク?北野くんの奥さんはバイクが好きなの?」

 

「ええ。任官したばかりの頃は中古のバイクを買っていたみたいですが、そのバイクが古くなったので、新車に変えるみたいで‥月村グループでもバイクを生産しているので、詳しく知っていると思って‥‥」

 

「そうか‥分かった。忍さんに聞いてみよう‥‥」

 

良馬はギンガから相談を聞いて、忍に聞いてみた。

 

「あら?そうなの?それじゃあ、カタログを手配してあげるわ。でもあくまでもそれは家の会社で販売しているバイクだけよ」

 

と、月村グループの総帥としての言葉であった。

 

「ありがとうございます。忍さん」

 

そして、月村グループが手掛けているバイク部門からいくつかのオススメのバイクが掲載されているカタログがティアナの下に速達で届けられた。

 

なお、忍からティアナにはバイクのカタログの他に、

 

『北野さんへ、もし家の会社で販売しているバイクを購入する際には、多少の割引も致します』

 

と、営業も含まれていた。

 

その追加文章を見てティアナは、

 

(商魂逞しいってこう言う事を言うのかしら?)

 

と、思いつつも割り引いてくれるのはありがたいので、その言葉に甘えようかと思いつつ、どんなバイクがあるのかをチェックした。

 

「タイヤがあるタイプと無いタイプの二種類をやっぱり生産しているのね」

 

カタログをめくっていくと、

 

「ん?このバイク、通常はタイヤ走行だけど、ホバーリング機能も搭載しているんだ‥‥」

 

一台のバイクがティアナの目に留まった。

 

そのバイクはタイヤ走行タイプのバイクであったが、道路状況、環境によって、タイヤの部分が変形して、アストロバイクにもなるタイプのバイクであった。

 

「両方の機能を持っているのか‥‥デザインや大きさも良いわね‥‥」

 

性能、デザイン、車体の大きさなど、ティアナ好みのバイクだった。

 

中古車や他社のバイクと異なり、月村グループで生産しているバイクならば、通常の値段からいくらか割り引いてくれるのだから、値段的にも手が届く。

 

「よし、決めた!!」

 

検討した結果、ティアナは月村グループのバイクを購入する事に決めた。

 

そこからティアナの行動は早く、忍とバイクを購入する契約を結ぶと、定価よりも多少値段を割り引いてくれた。

 

それから数日、点検が終わり新車の準備が出来たと忍から連絡があった。

 

「おまたせ、これが注文したバイクよ。ちゃんと車検も保険も入っているし、ティアナちゃんが注文したオプションを含めて、色んなオプションもか搭載してあるわ。それに何時でも乗れるようにエネルギーも満タンよ」

 

「‥‥」

 

ティアナの眼前にはピカピカのバイクが鎮座しており、思わず目を奪われた。

 

「ありがとうございます。値段も割り引いてもらって‥‥」

 

「いいのよ。今後も月村グループをよろしくね」

 

「は、はい」

 

(やっぱり、商魂逞しいわね。この人‥‥)

 

「古いバイクの方はこっちで引きとるから、今日はこのまま乗って帰って良いわよ。ただし、ヘルメットはちゃんと着用してね」

 

「はい」

 

ティアナはバイクのカギを受け取り、ヘルメットを被って、試験走行をかねて自宅までの帰路を新車で帰った。

 

そして、自宅のガレージに停めた後もティアナはしばらく新車を眺めた。

 

キラキラと輝くボディーは惚れ惚れする。

 

ティアナが新車を眺めていると、そこを財前口が通りかかって声をかけてきた。

 

「あら?北野さん。新しいバイクを買ったの?」

 

「ええ」

 

「でも、新車なのにまたタイヤ付きのタイプなの?」

 

「ですから、私はタイヤがあるタイプのバイクが好きなんです。それに、これはホバーリング機能もついていますから」

 

「あら?そうなの?」

 

ティアナの返答に対して意外そうな様子で財前口もティアナの新車のバイクを見る。

 

「えっ?これって、TUKIMURAから出ているニューモデルじゃない?高かったんじゃないの?」

 

「まぁ、それなりの値段はしましたが、貯蓄をしていましたから‥‥」

 

値引きしてもらった事をティアナはグッと堪えた。

 

もしも、この場で値引きしてもらったなんて言えば、転売ヤーである彼女の事だ。

 

しつこく月村グループの製品を強請って来るに違いない。

 

「そう‥それにしても良いバイクね。オプションがいくつも着けられているみたいだけど?」

 

「安全を考慮して取付けてもらいました」

 

普段のティアナならば適当にあしらっていたかもしれないが、この時は新車が来たばかりでテンションが上がっており、財前口にベラベラと余計な事を言ってしまった。

 

そしてその結果が後になってそれを後悔することになる。

 

財前口は通信端末を取り出すと、

 

「ちょっと、このバイクの価値を調べてみるわね」

 

「ん?財前口さんもコレと同じ型のバイクを購入するんですか?」

 

ティアナはてっきり、財前口も自分と同じバイクの購入を検討したのかと思った。

 

それからすぐに、財前口が通信端末から顔を上げて、

 

「やっぱり‥‥このバイク、オプション無しでもこの値段よ!?」

 

驚いた顔でティアナに通信端末の画面を見せた。

 

(えっ!?忍さん、いくら友人割引でも値引き過ぎじゃあ‥‥)

 

オプションなしの本来の標準価格を見て、ティアナは忍が随分と値引きしてくれている事を知る。

 

「オプションもいくつかついているし、結構高値で売れるわ。もしかしたら、貴女が買った値段の二倍くらいになるかも!!」

 

「へ、へぇ~‥そうですか」

 

(だから何?このバイクが高いって事は分かったけど、貴女は何が言いたいの?)

 

「私の知り合いに車両関係に強い人が居るから、その人にいくらで売れるか聞いてみる?」

 

「は?」

 

財前口はティアナの新車を見つめながら若干興奮している様子で提案して来るが、ティアナとしては彼女の提案に唖然とする。

 

(えっ?何?言っているの?この人‥‥)

 

「いや、ちょっと待ってください。何を言っているんですか?」

 

「だから、このバイク、まだ発売されたばかりだし、オプションに関してもほぼフル仕様じゃない?バイクマニアの人に売ったら、貴女が買った時の金額よりも高くなる可能性があるって言ったでしょう?それを確認してあげるって言っているのよ」

 

「いえ、売るつもりはないので、必要ありません」

 

「えっ?どうして?大金が手に入るかもしれないのよ?」

 

「折角、買ったばかりの新車をどうして速攻売らなければならないんですか?意味が分かりませよ」

 

例え財前口の言う通り、バイクの購入費以上のお金が手に入るとしても忍からの好意で値引きしてまで手に入れた新車をどうして早々に手放さないといけないのか、ティアナにはその意味が分からない。

 

第一、そんなことをすれば忍とギンガからの信用が無くなってしまう。

 

しかし、財前口にはティアナの事情何て知らないのだから、譲る気配がない。

 

「でも、考えてみなさいよ。そのお金があれば、もっと高価なバイクが買えると思わない?」

 

「それは関係ありません。私はこのバイクだからこそ、買ったんです。なので、売ってお金にするなんて考えていませんから」

 

「そう?それなら仕方ないわね」

 

財前口はしばらくティアナとバイクを見つめながら、諦めるかのように言うが、

 

(あの目‥完全に諦めていないわね)

 

(盗難対策もバッチリしないと‥‥)

 

ティアナには彼女がそう簡単に諦めたとは思えなかった。

 

「もったいないわね」

 

財前口はティアナの新車を見ながら一言、言い残してその場から去って行った。

 

「でも、機会があったらまた話しましょう」

 

去り際に振り向いてそう言った。

 

(やっぱり、諦めていないわね)

 

財前口のその態度で彼女がティアナの新車を諦めていない事が確信にかわった。

 

それから数日は何事もない平穏な日々が続き、ティアナは週末には早速、新車でのツーリングを計画していた。

 

そんな中、

 

ピンポーン!!

 

自宅の呼び鈴が鳴る。

 

ティアナが応対してみると、来客は財前口であった。

 

「こんにちは、北野さん。ちょっと時間あるかしら?」

 

財前口の声が聞こえるとティアナは内心呆れた。

 

(しつこいわね。まだ私の新車を狙っているの?)

 

「なんでしょう?新車を売るって話でしたらお断りなんですけど?」

 

直接会って対応するのも面倒なのでティアナはインターフォン越しで対応する。

 

「そう言わずにこれを見てちょうだい」

 

そう言う財前口の手には一枚の紙が握られていた。

 

そして、インターフォンのカメラにその紙を見せる。

 

その紙にはティアナの新車を勝手に査定した金額が書かれていた。

 

「見てくれた?此処に書いてある通り、あのバイク、売ればこんな金額になるのよ」

 

財前口は値段の部分を指さして得意げに笑う。

 

ティアナが目を凝らして紙に書かれている金額以外の項目に目を通すと、海外のオークションだとティアナの新車はかなりの高額で売れる事が書かれていた。

 

「北野さん、これを見てもまだ売る気にはならないの?」

 

財前口は金額を表示すればティアナの気が変わると思っていたのだろう。

 

しかし、ティアナの答えは決まっており、

 

「ですから、売る気はありません。あの新車は私の大切なものなんですから」

 

ティアナの返答に財前口は悔しそうに唇を噛み、紙を手でグシャっと思いっきり握りしめる。

 

「で、でも、このお金があれば‥‥」

 

財前口の言葉は途切れるが、彼女の目にはまだ諦めきれない光が宿っている様に見えた。

 

ティアナの予想通り、財前口は帰ろうとせず、更に詳しく説明を続ける。

 

「で、でも、見なさいよ。あのバイクを売ったら、売却金から購入金額を引くと大体このくらいの利益が出るのよ」

 

「売るつもりなら最初から購入なんてしません。私は貴女と違って転売を目的として購入した訳ではないんです!!だから、あのバイクをお金に変えるつもりはありません!!」

 

「で、でも、このお金があったらどれだけ色んな事が出来るか考えた事あるの?ランクアップしてもっと良いバイクを買う事も高級エステにも行くことが出来るし、ブランド物のバックや服、アクセサリーがいくつも買えるのよ」

 

財前口はティアナの物欲を刺激するように言う。

 

「それでも、私はあのバイクを売るつもりはありません。お金よりもあのバイクが私の宝物なんです」

 

「どうして分かってくれないの?北野さん、貴女は今大金を得る絶好のチャンスなのよ!?使用期間が多ければ多い程、値段は落ちるの!?もっと良いバイクに乗り換えるチャンスを貴女はみすみす逃すと言うの?」

 

あのバイクはティアナが初めて買った新車であり、忍から特別に割安で売ってもらったバイクでもある。

 

「はい、それでも売りません」

 

なので、ティアナは財前口の提案を断りつづける。

 

そもそも、仮に彼女に頼んであのバイクをオークションにかけて売却したところのそのお金が丸々ティアナの下に入るのかも怪しい。

 

仲介手数料とか言って売却金の殆どを持って行く姿が容易に想像できる。

 

ティアナの言葉に財前口は呆れた表情を浮かべて黙る。

 

これでようやく諦めたかと思ったのだが、

 

「北野さん、貴女はこの書類にサインするだけでいいの‥あとの面倒な手続きや作業は全部、私がやるからお願いよ!!」

 

財前口は諦めきれずに手続き、作業諸々の事は全て自分がやり、ティアナが行うのは譲渡書にサインするだけだと言うが、その言動から予想通り、バイクの売却金は自分が殆どもらっていく様に見える。

 

「ですから、私はサインなんてしません!!あのバイクは私が好きで買ったバイク‥売るつもりはありません!!日本語が通じないんですか!?」

 

「で、でも、これだけの大金を手に入れるチャンスを逃すなんてバカみたいじゃない?」

 

財前口は断り続けるティアナをあの手、この手で丸め込もうとするが、ティアナは一切応じない。

 

「バカで結構です。あのバイクはお金にも代えがたいバイクなので」

 

「どうしてそんなことを言うのよ!?なんで、そんなにも頑固なの!?一瞬で大金が手に入るチャンスを逃すなんて!?」

 

「貴女には分からないでしょうけど、私にとってお金ではない価値があのバイクにはあるんです!!」

 

「‥‥あなた、本当に理解できないわ」

 

「理解出来なくて結構です。もういいですか?何と言われようともあのバイクは売るつもりはないので、お帰り下さい。あまりしつこいと警察を呼びますよ」

 

「ふんっ、分からず屋の頑固者が!!」

 

警察と言う単語を出されてようやく財前口は諦めたのかすごすごと帰って行った。

 

そして、その日の夜‥‥

 

「えっ?そんな事が!?」

 

ティアナは夕食の席で北野に昼間の出来事を話した。

 

話を聞いた北野はまさかそんな非常識な人が身近に居たなんてちょっと信じられなかった。

 

「でも、ここ最近、ご近所トラブルがあったでしょう?」

 

「あっ、そう言えば雪さんが変な人に絡まれたって、古代さんが言っていたな‥‥」

 

月村邸での焼肉パーティーの後、雪が近所トラブルに遭っていた事を北野は古代経由で知らされていた。

 

「海鳴でも変な主婦集団が居るみたいで、ギンガさんとユリーシャちゃんの子供たちが何か巻き込まれたって聞いているし‥‥」

 

「地球が平和になると変な人も増えて行くのか‥‥何かあったら、僕にでもいいし、警察へ直ぐに通報して下さいね。万が一、君や哲郎に何かあったらと思うと‥‥」

 

「分かっているわ。でも、私だって軍人なのよ。そう簡単にやられるつもりはないわ」

 

「それでも、自分と哲郎の安全を第一に優先してくれ」

 

「ええ、分かったわ」

 

北野がいかに自分と息子を愛しているのかが分かり、ティアナとしては益々北野からの愛情を感じ、嬉しくなる。

 

それから数日、財前口からの凸はなく、ティアナもようやく彼女が自分のバイクを諦めたのかと思い、週末に予定しているツーリングの為に愛車の点検を行った。

 

息子も今はベビーベッドの中で、お昼寝中で、パピライザーがベビーベッドとの傍で息子の様子を見守り中なので、ティアナは愛車のメンテナンスに集中できた。

 

ティアナがメンテナンスに集中していると突然、

 

ガシャーン!!

 

「えっ?なに!?」

 

大きな音‥‥ガラスが割れる音がした。

 

「うわぁぁぁーん!!」

 

突然家の中に鳴り響く大きな音に寝ていた息子が泣いてしまう。

 

「パピライザー!!一体何が起きたの!?哲郎は無事!?」

 

ティアナはインカムで室内に居るパピライザーに何が起きたのかを訊ねる。

 

「リビングノ窓ガラスガ、投石ニヨリ破損シマシタ」

 

「投石!?」

 

「ハイ。何者カガ石ヲナゲコンデキマシタ。哲郎サンハ無事デス」

 

パピライザーからの報告を受けてティアナはメンテナンス作業を一時中断して家の中に戻る。

 

ティアナが家の中に戻るとパピライザーが泣いている息子をあやしていた。

 

そして、パピライザーと共にティアナがリビングへと向かうと、窓ガラスの一角が割れており、ガラスの破片と共に拳ほどの大きさの石がリビングの中に転がっていた。

 

「誰よ!?こんなことをするのは!?」

 

割れた窓ガラス、リビングに転がる石を見て思わず憤慨するティアナ。

 

「パピライザー、割れたガラスの処理を頼めるかしら?石に関しては警察に被害届を出すから証拠として残しておいて」

 

「リョウカイシマシタ」

 

パピライザーから息子を受け取り、ガラスの処理をパピライザーに頼むティアナ。

 

ティアナから割れたガラスの処理を頼まれたパピライザーは早速仕事をする。

 

ティアナが息子を抱きながらパピライザーの仕事を見ていると外から、

 

ブォン!!

 

ブルルルル‥‥

 

今度は外からバイクのエンジン音が聴こえた。

 

石を投げ込んだ犯人はバイクを乗っていたのかと一瞬思ったが、そのエンジン音には聞き覚えがあった。

 

「っ!?まさかっ!?」

 

ティアナは息子を抱きながら急いで外に出る。

 

すると何者かが新車のバイクに跨っているではないか!!

 

メンテナンスをしていたので、バイクのカギを挿しっぱなしにしていたのが仇となった。

 

「ちょっと!!あんた!!何をして‥‥」

 

「っ!?」

 

新車のバイクに跨っている人物はティアナの存在に気づき、急いでその場から逃げようとバイクを発進させる。

 

(あの後ろ姿!?まさかっ!?)

 

ところがその人物はバイクに乗ったことが無いのか、左右にフラフラと揺れながら走っている。

 

ティアナはチラッと見えたバイクを盗んだ窃盗犯の顔が見覚えのある人物に見えた。

 

バイクの運転に不慣れな人物が逃げ切れる筈もなく‥‥

 

ガシャーン!!

 

案の定暴走して、他所の家の壁に衝突した。

 

「‥‥」

 

ティアナはその光景を呆然とした表情で見ていた。

 

「な、なんだ!?」

 

やがて、衝突音を聞いてその家の住人が外に跳び出て来た。

 

そして、

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

家の外壁の惨状を見て絶叫する。

 

「おい、あんた!!酔っ払い運転でもしているのか!?」

 

「うるさいわね!!仕方ないじゃない!!バイクなんて運転したことがなかったんですもの!!そもそも、こんな所に家を建てている貴方が悪いんじゃない!!」

 

「何だと!?人の家の壁を壊しておいて、その言いぐさはなんだ!?」

 

「アンタの家のせいで、折角のお宝が壊れちゃったじゃないの!!危険を伴って手に入れたのにぃ~」

 

「何を訳の分からない事を言っている!?」

 

(やっぱり、私のバイクを盗んだのはあの人だったわね‥‥)

 

バイクから降りて、家主と言い合っているのはティアナの予想通り、財前口だった。

 

凄まじい衝突音に財前口と家主の口論を聞きつけて別のご近所さんが警察と救急車を呼び、更には野次馬まで集まって来たので、現場は混乱し始める。

 

家主と口論している財前口を現場に到着した警官と救急隊員たちが無理矢理救急車に乗せて騒ぎは収まる。

 

家主と口論するくらいだったので、財前口の怪我の程度はかすり傷程度であった。

 

その後、病院で検査と治療を受けた後、彼女は警察署へと連行された。

 

警察署の取り調べにおいて、財前口は、

 

「近所の北野さんのバイクに乗って怪我をしたので、悪いのは全部、北野さんで、私の治療費に迷惑料、壊れた家の修理費も全て北野さんが払うべきなのよ!!」

 

と、警官に主張した。

 

「そもそも最初から大人しく私にバイクを譲っていればこんな事は起こらなかったのよ!!だから、お巡りさん!!悪いのは全部北野さんなのよ!!」

 

取り調べを担当していた警官も財前口の主張には呆れていた。

 

ティアナもバイクの所有者と言う事で警察署まで向かいそこで調書をとる事になった。

 

その後の調べで、財前口はティアナ以外にも似たような事をしており、ご近所さんの家々を回っては限定品や貴重品が無いかしつこく聞いて、あればクレクレ行為を行い、今回のティアナの様に固持されると盗みに入っていたと言う。

 

ご近所のトラブルメーカーが捕まった事で、ティアナとしてはホッとするも折角の新車がおじゃんになってしまった。

 

一応、保険には入っているので、すぐに同じバイクが届くことになっているのだが、それでもショックは受けた。

 

その後、財前口は弁護士や保険会社も絡んで色々とあったが、やはり窃盗と更にはティアナのバイクの件では器物破損もプラスされたので、罰金付きの執行猶予となり、前科がついた。

 

刑務所行きは免れたが、損害賠償や慰謝料までチャラになった訳ではなく、貯金から賠償金を支払う事になった。

 

ただ、ティアナのバイクと家の壁の賠償金は高くついたので、家と土地を売ってお金に変えた。

 

その後、財前口は自分の両親の実家がある田舎へと引っ越し、その地元にある工場のパートと農作業をしているらしい。

 

「はぁ~まさか、こんなトラブルに巻き込まれるなんて予想もしなかったわ」

 

財前口とのご近所トラブルがようやく終息した後、ティアナはソファーにぐったりと座る。

 

「でも、ようやくあの新車でツーリングが出来るわね」

 

保険で同じ型のバイクも先日、届いたのでティアナは新車でのツーリングに胸を躍らせるのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。