星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百四十話 ローレライの魔女

 

 

本局を襲った未曾有の大災害。

 

その規模は管理局の歴史史上最大のモノであった。

 

本局の危機に際して、予定されていた演習を取り止めて、はやては急ぎ艦を本局へと引き返した。

 

その途中で探査任務を急遽切り上げて、はやて同様本局の救助へと向かうクロノが艦長を務めるガイアと合流して、本局がある異空間へと次元転移するもそこは自分たちが見慣れている空間ではなく、周囲が漆黒の闇となっている空間だった。

 

そして、自分たちの前方にはブラックホールの様な黒く巨大な物体があり、このまま本局へ向かえば自分たちも吸い寄せられてしまう。

 

クロノとはやては艦と乗員の安全を優先するためにやむなく本局の救助を諦めた。

 

 

ジャガーノート 艦橋

 

「通常空間を確認、次元転移‥成功」

 

「ガイアも次元転移を確認しました」

 

「‥‥」

 

ガイアと共に通常空間へ次元転移を行ったジャガーノート。

 

無事に逃げ切れることが出来たのだが、ジャガーノートの艦橋内の空気は重い。

 

はやてはチラッと副長席のグリフィスを見る。

 

「‥‥」

 

彼は俯いたまま黙っている。

 

はやてが本局の救助をギリギリまで諦めきれなかったのは、本局に居る人々の救助を行いたい一心であったが、それ以上に無限書庫で司書長を務めているユーノの安否が気になっており、グリフィスの方も自身の母親で人事部長を務めているレティの身を案じていた。

 

ジャガーノートの航海長であるルキノにとってもレティは義母にあたるので、グリフィスの心情は理解できるが、今戻ってもどうする事も出来ない事も理解していた。

 

いや、はやて、グリフィス、ルキノ以外にもジャガーノート、ガイアには本局に身内、親友が居る乗員は居るだろう。

 

彼らもきっと本局の惨状を見て気が気でないだろう。

 

 

その頃、本局がある異空間では、長きにわたって“海”の総本山を務めて来た本局にも最後の時が訪れた。

 

黒い竜巻の様な気流が本局をバラバラにして本局を構成していた部品、本局に居た人々、停泊していた次元航行艦を漆黒の巨大な渦の中に吸い込んだ。

 

やがて嵐は過ぎ、本局を食い散らかした漆黒の物体は満足したかのように何処かへと消えて行った。

 

 

ガイアとジャガーノートが通常空間に次元転移をしてから三時間後‥‥

 

「もう一度、本局のある空間へ次元転移をしてみようと思うんやけど、クロノ君はどう思う?」

 

はやてはやはり本局の状況が知りたく、こうして時間を置いたのだからあのブラックホールも消滅している可能性を示唆して本局のある異空間へ再度次元転移を行おうとして、クロノの意見を求める。

 

『そうだな。あれから三時間が経ったし、もう現状が回復しているかもしれない』

 

クロノもあのブラックホールがいつまでも本局のある空間に存在しているとは思えず、ガイアとジャガーノートは再び本局のある空間へと次元転移をした。

 

すると三時間前と異なり、周囲の空間は自分たちが知る青緑色の景色が広がる空間となっていた。

 

「どうやら、あのブラックホールは消えたみたいやな‥‥急ぎ本局の座標へと向かうで!!」

 

「了解」

 

ルキノは逸る気持ちでジャガーノートを本局がある座標へと向かわせる。

 

しかし、そこで見たのはガイア、ジャガーノートの乗員たちを絶望させる光景であった。

 

「なっ!?」

 

「そ、そんな‥‥」

 

「本局が‥‥」

 

ガイア、ジャガーノートの艦橋にあるモニターには見慣れている筈の本局の姿はどこにも無く、代わりに本局を構成していたであろう残骸がいくつか漂っているだけであった。

 

「ほ、本当に此処が本局のあった座標なのか?」

 

グリフィスがルキノに座標の間違いではないのかを問う。

 

「は、はい。間違い‥ありません」

 

ルキノは答えづらそうに此処が、かつて本局があった場所であると告げる。

 

「‥‥」

 

ルキノの返答を聞き、がっくりと項垂れるグリフィス。

 

「急いで救命艇を出すんや!!もしかしたら生存者が居るかもしれへんで!!通信も広域で送って何か応答が無いか確認するんや!!」

 

「りょ、了解」

 

はやては、いつまでもショックを受けている暇はないと喝を入れて救助活動を行う旨を乗員に告げる。

 

やがて、ガイアの方からも救命艇が出て救助活動を始めると同時に両艦は周囲に通信を送り、反応がないか確認した。

 

しかし、見つかるのは残骸ばかりで生存者はおろか被災者の遺体さえも見つからない。

 

通信を送っても周囲からは応答がない。

 

やがて、演習に参加する次元航行艦が戻って来た。

 

彼らも本局の惨状を見て絶句している事だろう。

 

「リンディさん」

 

『はやてさん‥これは‥‥一体何があったの?』

 

「私らも全部を見てはいないのですが‥‥」

 

はやてはリンディにこの空間で見たブラックホールの様なモノの存在をリンディに伝える。

 

『ブラックホール‥なんでそんなものが此処に‥‥』

 

「いえ、姿形はブラックホールに似ていましたが、アレは‥その‥‥ブラックホールとも言えない存在に見えました」

 

フェイトがガイアの艦橋で聞いた女の人のすすり泣くような声‥‥

 

あの声をはやても聞いていた。

 

声を発するブラックホールなんて聞いた事も無い。

 

もしかしたら、緊張状態だったことから精神的な空耳だったのかもしれないが、本来ならばブラックホールが現れない空間にブラックホールが出現したのだから、あのブラックホールが本当にブラックホールだったのかを疑うのも当然だ。

 

『それで、生存者は?』

 

「現在、救助活動をしていますが、未だ生存者発見の報告は‥‥」

 

『‥‥そう』

 

リンディもはやての報告を受けて、親友であるレティの姿が脳裏を過った。

 

『こちらからも救命艇を出して救助活動を行います』

 

「はい」

 

演習に参加予定だった次元航行艦隊からも次々と救命艇が出て救助活動を行った。

 

大規模かつ長時間の救助活動を行うも等々生存者を発見することは出来なかった。

 

この大惨事で本局に居たレティを含む数万人が犠牲になったと後の公式記録が残された。

 

 

ミッドチルダ 地上本部ビル 一角

 

「聞きましたか?本局で起きたあの大惨事を‥‥」

 

「ええ。本局から此処に移って正解でしたな」

 

地上本部ビルの一角に設けられた“海”の分室。

 

そこには“海”の幹部局員らが集まって本局の出来事を振り返っていた。

 

彼らは偶々何かしらの用件で本局から地上本部ビルに居た訳ではなく、カリムの予言の解釈からシーマがいずれ本局に襲撃をかけて来る事にビビッて、“陸”のロールスロイス本部長に頼み込んで、地上本部ビルの一角に“海”の分室を作り、そこに数年前から避難していたのだ。

 

勿論、分室を作るにあたって予算の都合をロールスロイス本部長がつけたのは言うまでもない。

 

本局を改装し、次元航行艦を次々と建造する為の予算分けで“海”が幾らかの予算を“陸”に融通したのは地上本部ビル内に分室を作った事で家賃代わりとして融通したのだ。

 

「しかし、本局に停泊していた次元航行艦を失ったのは痛手でしたな」

 

「ええ、偶々演習があり、何隻かは無事でしたけど‥‥」

 

「無限書庫の喪失も痛手だったのではないか?裁判記録やロストロギアの記録全てが無に帰したのだから‥‥」

 

「だが、無限書庫にはこれまで管理局が行って来た公に出来ない記録もありましたからな。それが永遠に人目につかなくなると思うと、怪我の功名だったのではないか?」

 

「おい、おい、滅多なことは言わないでくれ。管理局にはそのような記録は元からないのだぞ」

 

「おっと、そうでしたな。ハハハハハ‥‥」

 

分室に居る“海”の幹部局員たちは自分たちが生き残ったのはまさに天佑なのだと思い、高笑いをしていた。

 

「それに、本局に居た大勢の幹部局員が亡くなった事で、様々な役職の椅子も空きましたな」

 

「ええ、人事部に艦隊統括官、探索部隊統括官の椅子‥‥出来る事なら総合統括官の椅子も空いて欲しかったですな」

 

「ふん、あの女狐め‥運のいい奴だ」

 

「だが、既に三提督も亡く、今回の災害であの女狐の親友であったレティ提督も亡くなった事で、女狐の力は大幅にダウンしただろう」

 

「今回の件で斃れた同志のためにも我々の改革を何としてでも成し遂げるぞ」

 

『おおー!!』

 

生き残った“海”の幹部局員たちは自分たちに追い風が吹いて来たのだとこの時、確信していた。

 

 

ミッドチルダ 教導隊 隊舎

 

「本局が!?」

 

「そんな‥マジかよ!?はやて!!」

 

はやてはミッドチルダの教導隊に居るなのはとヴィータに本局で起きた一連の出来事を話す。

 

『今はまだ報道されてへんけど、いずれ発表される事やから二人には先に話しておこうと思ってな』

 

「それで、被害は?」

 

『本局は完全にバラバラになって、生存者は居らん‥‥』

 

「本局には確か無限書庫もあっただろう?まさか‥‥」

 

『無限書庫も当然、消滅したわ‥‥そこで働いている人らと一緒に‥‥』

 

「そ、それじゃあ、ユーノの奴は‥‥」

 

『‥‥』

 

「そんなっ!?ユーノ君が‥‥」

 

「ユーノの奴が‥‥」

 

はやて、なのは、ヴィータはこの時、ユーノもこの災害に巻き込まれて死亡したのだと思った。

 

だが、ユーノは幸運にもこの日は非番でミッドチルダに来ていたので無事だった。

 

なのはたちはそれを後に知る事になる。

 

『ユーノ君だけやない。レティ提督も亡くなった‥‥』

 

「レティさんも‥‥」

 

「うん。グリフィス君はやっぱりショックを受けて寝込んどるわ‥‥」

 

「なんてことだ‥‥それで、何が原因で本局がそんな事になったんだ?やっぱり、シーマって奴の仕業なのか?」

 

『いや、シーマ・ガラハウなんかよりも恐ろしく強大なモノやった‥‥』

 

「ん?どういう事だよ、はやて」

 

はやてはヴィータとなのはに本局を破壊したであろうブラックホールの様なモノをクロノたちと共に見た事を伝える。

 

「ブラックホールに似た何か?それってブラックホールじゃないのか?」

 

『あれは姿形こそ、ブラックホールに似ていたけど、ブラックホールやない。別の何かや‥‥』

 

はやては確信をもって本局を破壊したのはブラックホールではないと断言する。

 

「ブラックホールじゃない何か‥‥それって何なのか分からないのか?」

 

本局を襲ったブラックホールに似た何かの正体が分からなければ、今後も管理局はソレと遭遇するかもしれない。

 

今回の本局崩壊の規模から見て、もしもアレがミッドチルダや他の管理世界へ襲来したら、それこそ本局以上の被害が出るのは必須だ。

 

『調べようにも無限書庫も無くなってしまったしな‥‥』

 

無限書庫ならば、あのブラックホールに似た何かの正体を掴む記録か情報があったかもしれないが、肝心の無限書庫がそのブラックホールに似た何かの手によって破壊されてしまっているので、調べることが出来ない。

 

それだけではなく、裁判中の事件の証拠も一緒に消滅してしまったので、今後の裁判にも大きな影響が出る事は確実である。

 

『あっ、でも、もしかしたら‥‥』

 

はやては思い出し方の様に声をあげる。

 

「ん?どうした?」

 

『以前、フェイトちゃんからアルザスの破壊竜についての話を聞いて、キャロの故郷であるアルザスに行ったんやけど、そもそもの発端がある大学の先生が壁画の鑑定依頼を受けた事なんよ。その先生は色んな世界の考古学を専門に扱っとるから、昔の記録とかもその大学で保管しているかもしれへん』

 

「でも、考古学と今回のブラックホールに似た奴の正体は別物じゃないか?」

 

『でも、無限書庫が無くなってしまった現状、可能性に賭けてみるしかないと私は思っとる』

 

「そうか‥‥」

 

『なのはちゃん』

 

「ん?」

 

『その‥辛いかもしれへんけど‥‥』

 

「うん。分かっている」

 

『そうか?それならええんやけど‥‥ヴィータ、なのはちゃんの事をよろしく頼むな』

 

「ああ、任せろ、はやて」

 

はやては親友を亡くし意気消沈しているなのはをヴィータに託して通信を切った。

 

そして、次にフェイトとコンタクトをとる。

 

「フェイトちゃん」

 

『ん?なに?はやて』

 

「フェイトちゃん、この前アルザスの竜について調べとった大学の先生がおったやろう?」

 

『うん。ランティス教授の事だね』

 

「その人にあのブラックホールに似た何かの情報を持っていないか聞いてもらえない?」

 

『えっ?教授に?でも、教授は考古学専門だから、畑違いじゃないかな?』

 

フェイトもヴィータと同じ事を言う。

 

「そうなんやけど‥‥」

 

はやてはフェイトに二度手間になりながらもフェイトにランティスとコンタクトを取りたい理由を話す。

 

『分かった。教授には私の方から連絡をしてみるよ』

 

「ありがとな、フェイトちゃん。それで何か分かったら連絡を入れてや」

 

『うん。分かった』

 

フェイトがランティスとコンタクトをとってくれると言う形ではやては通信を切った。

 

そして、フェイトは早速、ランティスが教鞭をとっている大学へ連絡を入れた。

 

「はい。考古学研究室です」

 

すると最初に出たのはランティスではなく、彼の研究室に在籍している研究員生だった。

 

『あの、私は時空管理局、次元航行艦ガイア副長のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。恐れ入りますが、スピアーノ教授はいらっしゃいますか?』

 

「少々お待ちください。教授、スピアーノ教授、管理局の方から外線です」

 

「はい、変わりました。スピアーノです。ハラオウンさん、お久しぶりです。どうかしましたか?」

 

『あの、教授。今日はちょっと、教授に聞きたい事がありまして‥‥』

 

「ん?聞きたい事?何ですか?」

 

『実は先ほど‥‥』

 

フェイトはランティスに本局で起きた事を伝えた。

 

「やはり‥テレビで転送ポートの使用が出来ない事を報道していたので、本局で何かあったのかと思ったのだが‥‥スクライア君も無限書庫や同僚と連絡が付かないと不安になっていたのですが‥‥」

 

『えっ?スクライアって‥‥まさか、そこにユーノが居るんですか!?』

 

「あ、ああ。今日は、彼が非番だったから、一緒に飲もうと以前約束をしてね」

 

『ちょっと、代わって貰えますか?』

 

「構わないよ。スクライア君、管理局のハラオウンさんと言う方が君に代わってくれと言っているが、大丈夫かな?」

 

「ハラオウン?それってどちらですか?」

 

ランティスはフェイトの名字を言ったので、ユーノとしてはフェイトなのか、クロノなのか分からない。

 

「女性の人だ」

 

「ああ、フェイトか‥‥フェイト、どうしたんだい?」

 

『ユーノ、無事だったんだ!!良かった‥‥』

 

「その様子だとやっぱり本局で何かあったんだね」

 

『あっ、うん‥実は‥‥』

 

フェイトはユーノにも本局であった事を話した。

 

「そうか‥‥」

 

グリフィス同様、ユーノも本局での惨事を聞きがっくりと項垂れる。

 

(みんな‥‥)

 

今日の朝、自分と交代で無限書庫に入った同僚。

 

ミッドチルダへ行く自分を見送ってくれた同僚たち‥‥

 

仕事量が多い無限書庫で苦労を共にしてきた同僚たちが『死んだ』と言われても未だに実感がない。

 

『ユーノ‥‥』

 

「ごめん、急にみんなが『死んだ』って言われても、その‥何だかね‥‥」

 

『うん』

 

「教授に用があったんだよね?代わるよ‥‥」

 

ユーノは話す事も厳しいのか、ランティスと代わった。

 

「すまない。スクライア君も心の整理がつかないみたいで‥その‥多少困惑と言うか‥‥」

 

『ええ、分かっています。ユーノ以外にも今回の件で家族や友人を亡くした人が大勢居るので‥誰もが困惑しているでしょうから‥‥』

 

「うむ‥それで、私に用とは一体なんだね?もしかしてアルザスの件かね?」

 

こんな時だが、フェイトが自分に連絡を入れて来たのだ‥アルザスの破壊竜について何か分かったからこそ、連絡を入れて来たのかと思った。

 

『いえ、違います。実は今回、本局で起きた事態で、私はテロではなく災害であると判断し、その災害の原因について古代の人は何か記録を残していると思い、教授にそれらしき記録がないか訊ねた次第です』

 

「災害か‥君には辛い話になるが、本局が崩壊する際、どんな現象があったのか話してもらっても良いかな?」

 

『は、はい』

 

フェイトは本局が完全に崩壊する様を目撃してはいないが、本局がある‥いや、本局があったあの異次元空間で見たあのブラックホールに似た何かの存在をランティスに伝えた。

 

「それはブラックホールではないのか?」

 

フェイトから本局崩壊の原因を聞き、その原因はブラックホールかと思うランティス。

 

『姿形はブラックホールでした。しかし、元々本局があった異空間にブラックホールなんてありません。ブラックホールなんてあればそんな空間に管理局の施設何て建てませんよ』

 

「それもそうだな」

 

『それに聞き間違いかもしれませんが、そのブラックホールの様なモノから‥‥その‥‥女性がすすり泣くような声が聞こえたんです』

 

「女性の泣き声‥‥」

 

ランティスは顎に手を当てて考え込む。

 

「もしかして‥‥」

 

すると、何か思い当たる節があったらしく、バタバタと机の上の書類や本を漁り、何枚かの書類を持って再びフェイトの前に出る。

 

「まだ完全に翻訳は出来ていないが、かつてバシュタールと言う世界に住んでいた古の民が残した天体学を記した古文書の中に今回の事例に似た記述があった」

 

『どんな記述なんですか?』

 

「ローレライの魔女だ」

 

『ローレライの‥魔女‥‥』

 

「ああ‥古文書には、『ローレライの魔女が歌をうたう時、生きとし生ける者の命が消える』 と書かれている」

 

『‥‥』

 

古代人が考えて書いた文章なのだから、多少はファンタジー要素を盛り込んでいる内容なのかと思いきや、本局の惨状を見るに、まさにその文章は的を射ていた。

 

「しかし、古文書には魔女と表記されているが、その正体は異質のエネルギーを求めて次元の海を彷徨う巨大な暗黒彗星だ」

 

『暗黒‥彗星‥‥』

 

「うむ。しかし、君の話とバシュタールの民の古文書から暗黒彗星と言われている事にも疑問を感じる」

 

今回、本局を崩壊させたのはブラックホールではなく、古の民の記録から巨大な暗黒彗星と思われる。

 

しかし、フェイトが聞いたとされる女性のすすり泣くような声‥‥

 

これがもしも聞き間違えではなく、暗黒彗星こと、ローレライの魔女が出していたとしたら‥‥

 

(プレオを破壊して、ギンガたちが居るもう一つの地球が戦った彗星帝国‥‥)

 

(テレザートが崩壊する時、クラウディアからその姿を捉えたけど、あれも不気味な彗星だった‥‥いや、正確には彗星に擬態していた人工物だったわね‥‥)

 

(でも、あの時見た暗黒彗星は彗星帝国のモノと比べると別物に感じた)

 

(シーマ・ガラハウが彗星帝国と似た技術で彗星に擬態した人工物で本局を襲撃したとも思えない)

 

(彗星は移動するモノだけど、あれはまさか‥‥)

 

フェイトは自分があまりにも荒唐無稽な考えを抱いていると思いつつも、ランティスに聞かなければならないと思いつつ、自分が抱いた思いを打ち明けてみた。

 

『あ、あの教授』

 

「ん?何かな?」

 

『これは荒唐無稽で滅茶苦茶な話かもしれませんが‥‥彗星の‥星の姿をした生き物と言うのは存在するのでしょうか?』

 

「星の姿をした生き物?」

 

『はい。あの彗星が人工物でないとすると、意志を持って移動しているかの様に見えたので‥‥』

 

「た、確かに古文書では『異質のエネルギーを求めて』と書かれてあるからな‥‥」

 

『異質のエネルギー‥‥それって‥‥』

 

「ああ、次元の海に通常は存在しないエネルギーだ‥‥もしかして、奴が本局に現れたのは‥‥」

 

ランティスはローレライの魔女の特性の他に何やら思い当たる節がある様だ。

 

『何か分かったんですか?』

 

「これはあくまでも仮説にすぎないが、奴が本当に『異質のエネルギー』を求めて次元の海を彷徨っているのであるならば、奴が本局に来たきっかけは先日、本局で起きた爆発事故が原因なのかもしれない」

 

『えっ?』

 

ランティスは本局にローレライの魔女が来た原因は先日、本局で起きた爆発事故が引き金になったと推測する。

 

 

『爆発事故が?それってどういう事ですか?』

 

「ふむ、本局で起きた爆発事故によって本局から魔力エネルギー洩れて、そのエネルギーに釣られてローレライの魔女が本局のある異空間へとやって来たのではないだろうか?」

 

『本局の魔力エネルギーが‥‥』

 

ランティスは仮説と唱えたが、それは外れてはいなかった。

 

管理局があの異次元空間の中に建設した本局には長い時間をかけて魔力エネルギーが蓄えられていた。

 

そんな中で先日、本局で起きた爆発事故は大きく膨らんだ風船に小さな穴が開き空気が漏れたみたいに、その穴から魔力エネルギーがそこから漏れだした。

 

そして、異質のエネルギーを求めて宇宙を彷徨っているローレライの魔女が本局から漏れ出た魔力エネルギーを感知して本局へと呼び寄せてしまったのだ。

 

「仮に私の仮説が当たっているとしたら、君の言う通り、ローレライの魔女は彗星の姿をした生き物名かもしれないな‥‥」

 

自分が立てた仮説通りならば、ローレライの魔女にとって異質のエネルギーは自身の食料だ。

 

星が食料を求める‥‥

 

それはまさに星自体が自我を持ち、食欲があるみたいだ。

 

食欲があると言う事はまさに生き物である証明にも見える。

 

もしも、この場にヤマト、まほろばの乗員が居たら、『星の姿をした生き物がいるのか?』 と言う疑問を聞いたら、『居る』と答えるだろう。

 

実際に彼らは星の姿をした生き物を見たことがあるからだ。

 

ガルマン・ガミラスの惑星破壊ミサイルが誤って太陽に命中して、太陽の核融合が異常増進した時、地球側は太陽制御を諦め、第二の地球となる星を求めて銀河系中心部へと進出した。

 

銀河系中心部に向かいつつ当初は広大な宇宙なのだから地球人類が住める星なんて見つかるだろうと言う楽観視をする部分もあったが、地球人類が住める星が見つからない。

 

そんな中でデスラーから地球とよく似た惑星の情報が齎された。

 

惑星の名前はファンタム‥‥

 

デスラーからの情報を受けてファンタムへと向かうヤマトとまほろば。

 

そして、到着した惑星ファンタムは確かに地球に似た惑星だった。

 

しかし、アナライザーや一部の人間には地球と異なる星に見え、地表の調査中に幻覚を見る事となり、ファンタムがただの惑星ではないのではないかと言う疑問が当然浮かぶ。

 

そんなファンタムの正体はコスモ生命体と呼ばれる星の姿をした生き物だった。

 

残念ながら、ファンタムはデスラーの怒りを買い惑星破壊ミサイルで粉砕されてしまったが、ローレライの魔女の特性を聞いたら、ヤマト、まほろばの乗員はローレライの魔女はファンタムと同じコスモ生命体だと判断するだろう。

 

『一先ず、この結果を総合統括官に報告しますがよろしいでしょうか?』

 

「ああ。しかし、あくまでも仮説であり、それが真相とは限らないがね」

 

『いえ、今は少しでも手掛かりがあっただけでも十分です。それでは‥‥』

 

フェイトは本局を襲撃したブラックホールに似た天体‥暗黒彗星、ローレライの魔女についてリンディとはやてに知らせる事にした。

 

それとユーノの生存もだ。

 

リンディ、はやてがそれぞれ乗艦している船室にて、フェイトがランティスから聞いた本局を襲撃したブラックホールに似た襲撃者の正体について、それを伝えるためにリモート会議を開いた。

 

フェイトもクロノと共にガイアの艦長室に居る。

 

『それで、フェイトちゃん。あのブラックホールに似た者の正体は分かったんか?』

 

「うん。ミッドの大学で考古学を教えている教授が仮説だけど今回、本局を襲撃してきた者の正体を教えてくれた」

 

『それで、本局を襲ったアレは一体何だったの?』

 

「本局を襲ったのは‥‥『ローレライの魔女』と呼ばれる暗黒彗星の可能性があります」

 

『「ローレライの魔女」‥‥』

 

「魔女‥‥ん?それって‥‥」

 

クロノは本局を襲った暗黒彗星の別名に反応する。

 

『ま、まさか‥‥』

 

はやてもクロノ同様、気づいた。

 

『カリムが予知した「黒き魔女」って‥‥』

 

「ローレライの魔女の事を指していたのか‥‥」

 

『なんちゅうこっちゃ‥‥』

 

自分たちが立てたカリムの予言の解釈が間違っている事に気づいた。

 

「確かに奴はブラックホールと見間違えるほど黒かった‥‥それに名前に魔女がついている‥‥くそっ、この情報があればもっと別の対策が取れた筈だった」

 

クロノはカリムの予言を信じていた事で本局が襲撃されるだろうと踏んでいた。

 

“海”もカリムの予言を信じてはいなかったが、彼女の予言に便乗して予算を得て戦力の増強に励んだ。

 

これならば、シーマが襲撃をかけて来てもそこまで遅れはとらないと思っていたが、その根本が間違っていた。

 

カリムが予言した『黒き魔女』はシーマではなく、暗黒彗星のローレライの魔女だった。

 

『クロノ君のせいやない。いくらなんでもあんな災害を完全に予見するなんて無理があったんや』

 

「そうだよ。それにシーマの件があったから、『黒き魔女』がシーマだと思っちゃうのも当然の事だよ」

 

はやてとフェイトがクロノを擁護する。

 

『それで、リンディさん。今回の本局崩壊の件についてなんやけど、やっぱり伝えるんですか?』

 

はやては今回起きた一連の本局崩壊の一件を各管理世界の支部を含めて全管理世界に伝えるのかを問う。

 

『取り繕っても仕方ないし、いつかはバレるわ。それなら少しでも早めに伝えて再び体制を整える時間を少しでも多く得るようにしないと‥‥』

 

「しかし、伝えるにしても伝える管理世界は慎重に選んだ方が良いのではないですか?」

 

クロノはリンディの姿勢に一部修正を加える。

 

『それはどういう事かしら?ハラオウン提督』

 

一応、この場は公人なのでリンディは息子であるクロノを名字と役職名で呼ぶ。

 

「辺境の管理世界や管理局によって無理矢理管理世界入りをさせられた世界が本局の崩壊を知れば、管理局に対して反旗を翻すかもしれません。それに大々的に知らせるとテロリストや海賊を調子付かせる結果になりかねません」

 

『そうね‥‥』

 

本局を失い、多くの人材、次元航行艦を失った管理局としては組織の体制の立て直しは必須だ。

 

だからこそ、慎重に事を進めなければ崩壊しかけている組織が崩壊してしまう。

 

今回の本局崩壊の一件はボラー連邦への武力制裁失敗以来の大被害だ。

 

リンディもその辺はちゃんと理解している。

 

しかし、少なくともミッドチルダには今回の件を報告しなければならない。

 

尤もミッドチルダに伝えると言う事は周辺の管理世界に嫌でも知られる事になるだろう。

 

『分室の連中がネチネチと嫌味を言ってくる様子が目に浮かぶわ』

 

リンディはため息交じりで呟く。

 

『分室?』

 

「そんなものがあるの?」

 

はやてもフェイトも聞き慣れない部署の存在に質問をする。

 

『数年前に地上本部ビルの一角を一部の“海”所属の局員が間借りしているのよ』

 

リンディは、はやてたちに分室がどんな部署なのかを教える。

 

「なんで、“海”が地上本部ビルの一角にそんな部署を作ったの?」

 

『本局に万が一の事態が起きた際、本局の機能を失わない様、バックアップ機能を持った施設が必要‥って事で、地上本部ビルの一角に分室を作ったのよ』

 

『地上本部ビルの一角に?よく“陸”が許しましたね』

 

はやてがリンディに分室の存在をよく“陸”が許した理由を訊ねる。

 

しかも地上本部ビルの一角に‥‥

 

本部長が違うと言う点もあるが、自分が機動六課を設立した際、当時の“陸”の責任者であるレジアス中将が自分たち、機動六課を目の敵にしてきた。

 

『ロールスロイス本部長が条件を付けて許したみたい。レジアス元中将は頑なに“海”嫌いだったけど、今のロールスロイス本部長は少々寛容な所もあるから‥‥』

 

『は、はぁ~‥‥それで、今回の件でその分室の局員が嫌味を言ってくると?』

 

『そう思っているわ。「何故、本局を守れなかった?」とか』

 

『その時は、私たちが記録した映像を見せて黙らせてやります。見方を変えれば、その分室に居る人らって、要はシーマの襲撃が怖くて地上本部ビルに逃げた腰抜けですからね』

 

『フフ、はやてさんも言うわね』

 

『事実ですからね』

 

はやてとしてはあの状況を知らない者に文句は言わせないと言う決意があった。

 

その後、生き残った次元航行艦は母港であった本局が無くなってしまったので、一路ミッドチルダを目指す事にした。

 

ミッドチルダへと帰還の最中にフェイトは、はやてにユーノが生きていた事を伝える。

 

『ユーノ君が生きとったんか!?』

 

「うん。偶々今日は非番だったみたいで、さっき話した大学の先生の所に行っていたみたい」

 

『そうか‥ユーノ君が‥‥なのはちゃんもきっと喜ぶで』

 

「うん。でも、ユーノは落ち込んでいた‥‥今回の件で、ユーノは大勢の仲間を失ったから‥‥」

 

『‥‥』

 

ユーノが生きていた事は、はやてにとっても嬉しい事であった。

 

しかし、生き残ったユーノ自身は自分だけが生き残ってしまったと言う罪悪感を抱えてしまった。

 

(ユーノ君もグリフィス君と同じ、大切な人たちを失ってしまったんやな‥‥)

 

(でも、生きてさえいればこの先、きっとええことだったある筈や‥‥)

 

今はユーノやグリフィスにかけてやる言葉が見当たらないが、時間がきっと彼らの心の傷を少しでも癒してくれるだろうとはやては信じていた。

 

港湾施設や空港施設に次々と着陸していく。

 

突然、管理局の次元航行艦が本来は使用されない筈の港湾施設や空港に次々と着陸して来たのだから、人々が困惑するのも当然の反応だった。

 

ミッドチルダに到着後、リンディは地上本部ビルにある“海”の部分へ向かい、はやてはなのはにユーノの生存を伝える。

 

『ユーノが生きていた!?』

 

「うん。フェイトちゃんが大学の先生に本局を襲ったモノの正体を聞いてもらったんや。その時、ユーノ君も大学に居ってな」

 

『そうか‥なのはの奴もきっと喜ぶぜ』

 

ユーノの生存を聞いてヴィータもホッとしたう様子だ。

 

『ただ、フェイトちゃんが言うにはユーノ君、かなり落ち込んでいるみたいや。職場の仲間を一度に大勢亡くしたから‥‥』

 

『まぁ、ユーノの気持ちも分からない訳じゃねぇなぁ。大勢の仲間が死んじまったんだから‥‥』

 

「なのはちゃんがユーノ君の心の傷を癒してくれればええんやけどな」

 

『あ、ああ‥そうだな』

 

(でも、肝心のなのはが、ユーノの奴を異性として意識していないからな‥‥)

 

はやてとしては傷心のユーノの心をなのはが癒してくれるかと思っているのだが、ヴィータはなのはが、ユーノを異性として意識していない事から難しいのではないかと思った。

 

その後、本局で一体何が起きたのか、そしてこの事態に際して“海”はどのように対処するべきなのかを決める会議が“海”の分室で行われる事となった。

 




ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテ、三提督、そしてレティ提督も亡くなったので、タグに『原作キャラ死亡』を追加しました。
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