星の海へ   作:ステルス兄貴

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今回は真琴がママ友?トラブルに遭います。


二百四十二話 窃盗トラブル

 

 

異世界、ミッドチルダにて“海”の総本山である本局が崩壊し、ベルカ地区で暴動が起き、ミッドチルダが混沌としている中、管理局が認識したもう一つの地球では‥‥

 

 

「~~♪~~~♪~~♪~~~♪」

 

海鳴市にある一軒の住宅にて、永倉真琴 (旧姓:原田)が鼻歌交じりで裁縫作業をしていた。

 

彼女は防衛軍の衛生士で、かつては宇宙戦艦まほろばに乗艦していたが、まほろばの航海長であった永倉新一と結婚後は以前、雪が務めていた防衛軍中央病院で看護師を務めつつ、永倉との間に産まれた息子、翼の育児を行っている。

 

なお、永倉家にも良馬が真田に頼んで、家事・育児支援のためのロボット、パピライザーをプレゼントして、永倉家の支援を行っている。

 

パピライザーの支援を受けつつ家事育児に奔走し、一人息子の翼は今年三歳となり、保育園に通い出した。

 

そんな彼女であるが、衛生士としての一面の他にコスプレイヤーとしての一面も持っていた。

 

勿論、趣味として‥だ。

 

旦那である永倉との出会いの切っ掛けも真琴が初めて乗艦したまほろばで行われた太陽系赤道祭で、ヤマト航海長補佐である太田の間違った情報を鵜呑みにして、メイド服姿のままで赤道祭会場入りをしてしまい、気まずい中で、永倉も新選組の衣装で会場入りした事から、これが二人の運命的なきっかけとなった。

 

そんな真琴であるが、コスプレ衣装に関しても市販の衣装を買う事もあれば、自らの手で制作する事もあり、その能力を活かして今は自らの子供の服も作ったりしていた。

 

「よし、完成!!うーん、今回の出来もなかなかのモノね。翼、新しい服が出来たわよ!!」

 

「わーい!!」

 

息子のために世界に一つだけしかない服を作り、その服を息子に着せる。

 

その服を着て喜んでいる息子の姿を見るのが、母親として真琴は嬉しかった。

 

そんなある日、翼が通う保育園でバザーが開催されることになり、その知らせのプリントを見ると、

 

「へぇー、今度のバザーにはハンドメイド作品の専用ブースが出来るんだ‥‥それなら、張り切って子供服を作っちゃおうかな」

 

「いい機会なんじゃないか?以前から女の子の服を作りたいって言っていたし」

 

「うん。私、やってみるよ」

 

旦那である永倉もバザーに真琴がハンドメイド作品を出す事を勧めて来る。

 

子供が男の子であり、これまで作って来た子供服は当然、男児向けの服であったので、真琴はこれまで女児の子供服を作る機会がなかったので、今回が初チャレンジになるが、真琴はバザーに向けて女の子用の子供を制作する事にした。

 

なお、余談であるが、ギンガがまほろばの二代目艦長となり、良馬がまほろばを降りて内勤になったのと同時に永倉もまほろばの航海長職から内勤へと異動になっており、現在は新たな勤務地が発表されるまで、自宅と軍の庁舎を通勤していた。

 

 

「あっ、翼。ミシンを使っている時に近くに来ちゃダメよ。パピライザー、ちょっと翼の事を見ていて」

 

「ハイ」

 

「ねぇ、ママ。それ、ぼくの服?」

 

子供部屋に行く前、翼は真琴に自分の服を作っているのかを訊ねる。

 

「ううん。これはバザーに出す服だよ。翼の服はまた別で作ってあげるから」

 

「うん」

 

真琴は翼に何を作っているのかを伝えるのと同時にまた別の機会で翼の服を作ってあげる事を伝えると翼は笑みを浮かべて頷く。

 

「翼サン。向コウデ私ト遊ビマショウ」

 

そして、パピライザーと共に子供部屋に向かう翼。

 

その間、真琴はバザーに出品する子供服を作る。

 

これまで作りたいと思っていた女児向けのワンピースやスカート、フリルやレース、リボンをふんだんに使ったリメイクTシャツなどを作った。

 

真琴自身も今後、娘が生まれた時の為のいい経験にもなった。

 

「ん-、どれもいい出来ね!あとは‥‥」

 

数日の時間をかけて真琴はバザーに出品するための服を仕上げた。

 

完成品を水で晒して庭に干した後、背伸びをして自らを労う中、

 

「ん?」

 

ミシンの近くには布の残りが目に入る。

 

「折角だし、余った布でシュシュでも作ろうかしら?毛糸で編むのもいいわね」

 

メインの出品作が終わったので、残った布で真琴は小物を作り始める。

 

「真琴サン。ソロソロ翼サンノオ迎エノ時間デス」

 

真琴が小物を作っているとパピライザーが保育園の迎えの時間である事を知らせる。

 

「えっ?ああ、そうね。熱中していると時間が経つのも忘れちゃうわ。それじゃあ、行ってくるわね。帰りに買い物もして帰るから、それまでお留守番よろしくね、パピライザー」

 

「了解デス。イッテラッシャイマセ」

 

それから保育園へ息子を迎えに行き、帰りにスーパーで夕飯の買い物をして自宅へと戻ると、

 

「バザーの服、全部女の子の服だね」

 

翼が庭に干してある服に気づき真琴に訊ねる。

 

「バザーに出す服だからね。男の子の服は翼の服なのよ」

 

「ふーん」

 

真琴が干してある服を触ると、

 

「うーん、まだ少し湿っているわね。もう少し干しておきましょう」

 

服はまだほんのりと湿っていたので、先に夕飯の支度をする真琴。

 

そして、夕方になり、

 

「そろそろ乾いたでしょう。後はアイロンをかけて包装して‥‥」

 

この後の予定を口にしつつ、庭に干してあるバザーに出す子供服を取りに行くと、

 

「えっ?あ、あれ?」

 

干してあった子供服の内、ワンピースが一着無くなっていた。

 

「もしかして、風で飛んだ?」

 

真琴は庭の周囲を見渡すが、ワンピースは見つからない。

 

「ん?えっ?なにこれ?足跡?」

 

しかも物干し台の近くには見慣れぬ靴の足跡が残っていた。

 

「も、もしかして泥棒!?えっ?ウソでしょう!?」

 

永倉家の門と庭に出るための通路には柵があるが、家の門は夜間しか閉めておらず、日中は開けている。

 

その為、日中に関しては誰でも庭に出入り出来る状態となっていた。

 

パピライザーも居るし、まさか軍人の家に泥棒に入る奴なんていないだろうと高を括っていた事が油断に繋がり、真琴は思わず背筋がゾッとした。

 

室内に入って来たらパピライザーが撃退ないし、警察へ通報するのだが、今回の泥棒は屋内には入らず、庭に干していたワンピースのみを盗んで直ぐに出て行ったので、パピライザーも反応しなかったのだろう。

 

「今度からパピライザーの警戒範囲の設定を家の中だけじゃなくて、家の敷地内に広げよう‥‥」

 

騒ぎを大きくしたくはないが、実際に服が盗まれたので、真琴は警察と旦那である永倉に連絡を入れて、パピライザーの警戒範囲の設定を変えた。

 

知らせを聞いて永倉は仕事を早退して血相をかえて、家に戻って来た。

 

「真琴!!翼!!大丈夫か!?」

 

「う、うん。私も翼も平気よ」

 

「そうか‥よかった~‥‥」

 

家族の無事が確認され、永倉は深く息を吐いて安堵する。

 

「それで、泥棒って聞いて急いで帰って来たんだが、何を盗まれたんだ?」

 

「庭に干していたバザーに出すワンピースよ」

 

真琴は永倉に盗まれた品物を伝える。

 

「バザーに出すワンピース?なんでそんなモノを?」

 

「うーん、私も良く分からないわ」

 

真琴としても盗まれた品が何故、庭に干していたバザーに出す予定のワンピースだったのか分からない。

 

ワンピース以外の服は盗まれておらず、物干し竿にあった。

 

しかし、バザーに出品予定だった品とは言え、盗難は盗難なので、真琴は警察に被害届をちゃんと提出した。

 

警察も永倉夫妻が防衛軍人と言う事で鑑識をいれて庭に残った下足痕に石膏を流して型を取り、物干し台や物干し竿の指紋を取ったり、近所に聞き込みをかけて不審者の情報を集めていた。

 

(まったく、一体何処の誰が持って行ったのよ‥‥)

 

(あれ、結構自信作だったのに‥‥)

 

警察の作業を見守りつつ、真琴は何処の誰か分からぬ犯人に密かな怒りを燃やしていた。

 

 

永倉家に窃盗犯が侵入してから数日後‥‥

 

「ん?」

 

真琴がいつものように翼の迎えに保育園に行った時、一人の女児が真琴の作ったワンピースに似た服を着ているのを目撃した。

 

真琴が作ったワンピースは先日、庭で盗まれたワンピースだ。

 

(もしかして、あのワンピースはこの前、家で盗まれたやつ?)

 

(いや、似ているだけ?)

 

(ううん、違う。あのアップリケは‥‥)

 

(この前、庭からワンピースを盗んだ犯人はあの子?)

 

(でも、靴跡はどうみても大人の靴跡だったし‥‥)

 

(盗んだ犯人が転売したかあの子にあげた?)

 

様々な憶測が真琴の脳裏を過る。

 

しかし、犯人に繋がる決定打がない。

 

真琴が呆然と立ち尽くしていると、

 

「さあ、リエ。帰りましょう」

 

すると、母親らしき女性がやって来て、女の子の手を取り、真琴の方へとやって来る。

 

そこで、真琴は事情を聞いてみる事にした。

 

「あの、すみません」

 

「あん?何よ、アンタ」

 

母親らしき女性はぶっきらぼうな様子で返答する。

 

「その、ワンピース。どこで手に入れたんですか?」

 

「はぁ?普通にお店で買ったんだけど?それがなにか?」

 

「‥‥それじゃあ、そのお店の名前と住所、教えてもらえませんか?」

 

「えっ?なんでそんな事、知りたがるの?貴女の所って確か男の子よね?なに?自分の子に女装でもさせるの?だとしたら、マジ引くんだけど‥‥」

 

真琴がワンピースの購入先を訊ねるとその母親は少し挙動不審になった。

 

それに真琴本人はほぼこの親子とは初対面であるが、相手の方は真琴の子供が息子である事を知っているみたいだ。

 

「違います。実は先日、家の庭でバザー用に作ったワンピースが誰かに盗まれてしまって、娘さんが今、着ているワンピースが盗まれたワンピースとそっくりなんです。だからお店で購入出来る訳がないんです」

 

「はぁ!?ちょっと、変な言いがかりはやめてもらえます?これは正真正銘、お店で購入した服なんですけど?」

 

「だったら、その服をどこのお店で購入したんですか?そのお店の場所はどこかと聞いているんです。さっきも言いましたけど、先日、家の庭からワンピースが一着盗まれているんです」

 

「なんなの!?私を泥棒扱いする気!?信じられない!!」

 

真琴としては大事にしたくはなかったが、目の前の女性が大声を出すので、他の保護者たちも何事かと真琴たちの方へとチラチラと視線を向けている。

 

「いえ、そうじゃなくて、既に警察の方にも被害届を出しているので、購入したお店を知りたいんです。リサイクルショップだった場合、犯人がその店に売りに来ているのだとしたら、警察に連絡をして調べてもらいたいので‥‥」

 

「け、警察!?何よ!?それ!!そんな服一着で大袈裟ね!!」

 

「いや、大袈裟だなんて、こっちは現に庭に不法侵入をされてワンピースを盗まれているんですから‥‥」

 

真琴が更に深く事情を追及しようとした時、

 

「ママ!!」

 

「あっ、翼。ごめんね、遅くなっちゃって‥‥」

 

翼が真琴の姿を見つけて駆け寄って来た。

 

(翼が来ちゃったし、これ以上此処で揉めるわけにはいかないな‥‥)

 

自分の子供が来てしまった以上、これ以上の追及は無理だと判断した真琴。

 

ただどうしてもワンピースの事が気になったので、

 

「教えていただけないなら仕方ありません。盗まれたワンピースがそちらにある事だけを警察に連絡をしますので、今後、警察から連絡があると思うので、警察にお伝えください」

 

真琴は釘をさすかのように伝え、翼と共に帰路につこうとしたが、

 

「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!!警察って何よ!?なんで家にそんな‥‥」

 

「いえ、ですから‥‥」

 

疑惑のある女児の母親が引き留めて来た。

 

真琴はうんざりした感じで足を止める。

 

その時、

 

「あっ、その服、ぼくのママが作った服だ!!やっぱりキレイだね、ママ!!」

 

翼は女児が来ているワンピースを見て、着ているワンピースが自分の母親が作った服であると大きな声で指摘する。

 

「えっ!?あ、ああ‥そ、そうね‥‥」

 

「何よ!?親子揃って言い掛かりをつけるつもり!?いい加減にしてよ!!」

 

翼の言葉を聞いてリエの母親は金切り声を上げながら怒鳴る。

 

しかし、翼は子供ゆえの無邪気さなのか意図して言った訳ではない。

 

そして、リエの母親の不機嫌さをもろともせずに翼はワンピース事情を話す。

 

「その服、この前なくなっちゃって、家に沢山のお巡りさんが来り、ママが物凄く心配していたんだよ」

 

「‥‥」

 

「こ、この服は私がお店で買ったの!!アンタのママが作った服じゃないのよ!!」

 

翼からワンピースの事を聞いてリエは気まずそうに俯き、リエの母親は声を荒げる。

 

「えっ?間違いないよ。ママが作った服だよ。ぼく、ママが作っているのをパピライザーと一緒にずっと見ていたもん」

 

「それはアンタの勘違いでしょう!?何なの!?親子そろって失礼な人たちね!!訴えてやるから覚悟しなさい!!」

 

「‥‥」

 

リエの母親は翼にまで食ってかかってきた。

 

そんな彼女の態度に真琴も堪忍袋の緒が切れて、

 

「『訴える』ですって?‥いいわよ、受け立つとうじゃない!!言っておくけど、製作過程と完成時の写真と動画もありますからね。それも警察には渡してあるし、犯人の靴跡や指紋も採取されているみたいだし、出るとこ出た方が、話が早いわ!!」

 

真琴が思わず叫ぶと、

 

「だ、だって‥だって、リエ、可愛いお洋服が欲しかったんだもん!!」

 

これまで黙っていたリエが堰を切るように話し始めた。

 

「えっ?」

 

「あの服可愛いって言ったら、ママが持ってきてくれたの!!お外に置いてある服だから持って行って良いって‥だから、ママは悪くないもん!!」

 

「ちょ、ちょっとリエ!!アンタ、何を言っているのよ!?嘘はいっちゃあいけません!!」

 

真実を暴露しながらも母親を庇う娘とテンパってそんな娘を叱る母親‥‥

 

ちょっとした修羅場と化す。

 

「‥‥」

 

真琴が呆れていると、

 

「御二人とも、何を騒いでいるんですか?他の保護者の方や子供たちも居るんですよ?」

 

遠巻きで様子を窺っていた保護者の誰かが伝えたのか、保育園の園長がやって来た。

 

そして、そのまま真琴たちは園長室へと連れられて事情聴取時事されることになった。

 

なお、翼とリエについては担任の保育士が別室で見ている事になり、保護者同士で園長に事情聴取をする。

 

「なんで、私がこんな目に遭わないといけない訳!?こんな事をするなんて、園長だからって許されるんですか!?」

 

園長室でもリエの母親は園長相手に怒鳴り散らす。

 

「落ち着いてください。まずは一体何を騒いでいたのか、その説明を求めているんです」

 

園長はリエの母親を宥めつつ、騒ぎの原因を訊ねる。

 

「だーかーらぁ!!」

 

頭に血が上っているのかリエの母親は終始興奮気味で話が通じない。

 

「私がお話します」

 

見かねて真琴が園長に事情を説明する。

 

「‥‥と言う訳で、お騒がせして申し訳ございません。私としては此処までの騒ぎにするつもりはなかったんです。まさか、此方の方がこんなにも大声をだすとは知らず、軽率だったと反省しています」

 

真琴は少しばかり嫌味を込めて園長に事情を説明すると、興奮していたリエの母親は真琴の言葉にカチンと来たのか、

 

「何が『反省しています』よ!!人の事をバカにして!!アンタの事、絶対に許すつもりはないから!!だいたい、これ見よがしに庭に子供服を干しているアンタが悪いんでしょう!?」

 

「は?」

 

リエの母親の言葉に真琴は思わず呆れる。

 

「子供の目に着く場所に服を干すなんて、それを見た子供が欲しがることくらい思いつかない訳!?それでもアンタ、母親なの!?子供の気持ち全然理解してないじゃない!!」

 

「えっ?ソレ、本気で言っています?」

 

「当然じゃない!!可愛い我が子が欲しがったモノを手に入れて何が悪いの!?悪いのは子供が欲しがるモノを見せびらかしたアンタでしょう!?私は全然悪くないから!!」

 

逆ギレして、自分が永倉家の庭に侵入してワンピースを盗んだと自供している事に気づいていないリエの母親。

 

(あっ、今サラッと自供した‥‥)

 

そんなリエの母親の自供を見逃さない真琴。

 

当然、園長も同じで見逃さなかった。

 

「兼田信さん。貴女が永倉さんの家からワンピースを盗んだのは事実なんですね?」

 

(へぇー、この人。カネダノブさんって言うんだ‥‥随分と代わった名字ね)

 

此処で初めてリエの母親の名字を知る真琴。

 

「えっ?あっ、いや、そうじゃなくて‥その‥‥」

 

園長に問われ、自分が自白している事に気づくリエの母親こと、兼田信。

 

彼女はしどろもどろに言い訳を言おうとするが、もう遅い。

 

既に真琴も園長も兼田信が永倉家の庭からワンピースを盗んだ事を聞いている。

 

「今、はっきりとおっしゃいましたよね?『我が子が欲しがったモノを手に入れた』と‥‥それって、家の庭に侵入して干してあったワンピースを盗んだと言う事ですよね?」

 

「えっ、いや、それは‥‥」

 

「しかも貴女、自分の子供の前で窃盗を働いたと言う事ですか?それが母親のする事ですか!?子供が真似をしたらどうするつもりなんですか?」

 

園長はなおも追及する。

 

「ひぃっ!?」

 

そして、園長は兼田信に『母親とはなんたるものか』 『大人として、人としての常識』 など、小一時間説教をした。

 

「わ、私が‥悪かった‥です‥‥申し訳ございませんでした‥‥」

 

兼田信は半泣きになり、ようやく永倉家の庭からワンピースを盗んだ事を認め、真琴に謝罪した。

 

そして、園長を仲介にバザー当日に販売する予定だったワンピースの値段で、ワンピースを買い取る事、真琴と翼に謝罪する事を決めて、お互いに示談が成立し、今後はお互いに子供のケアを最優先する事などを決めてその日は解散となった。

 

「お手数ですが、永倉さん。警察へのご連絡だけお願いします」

 

「分かりました」

 

真琴と兼田信の間で示談と言う形になったので、警察に犯人が判明し示談と言う形で、和解で来た旨を被害者である真琴から伝えてもらいたいと園長が頼むが、

 

(とりあえず、兼田信さんから正式な謝罪と代金の支払いがあるまで保留しておこう‥‥)

 

真琴は謝罪と代金の支払いが済むまで警察への連絡は保留する事にした。

 

あの性格なので、後日どんないちゃもんをつけられるか分かったものではなかったので、今日の口約束だけでは信じられなかったのだ。

 

翌日‥‥

 

「それじゃあね」

 

「うん、バイバイ」

 

真琴が翼を保育園に連れて行くと、

 

「あっ、永倉さん。すみません、園長先生がお呼びで‥‥お手数ですが、園長室に来てもらえますか?」

 

一人の保育士が真琴に声をかけてきた。

 

「えっ?あっ、はい‥‥」

 

(一体何の用だろう?)

 

(昨日の件なんだろうけど‥‥)

 

(警察に連絡をしていない事がバレたのかな?)

 

示談となったが、真琴は兼田信の事を警戒してまだ警察には連絡を入れていなかった。

 

その件が保育園側にバレてしまったのかと警戒しつつ園長室へと案内された。

 

「ああ、永倉さん。おはようございます。お呼び立てして申し訳ありません」

 

「おはようございます。えっと‥これは?」

 

園長室には園長以外に一組の男女が居た。

 

女性の方は昨日、ワンピースの件で揉めた兼田信だったので、男性も彼女の関係者だと思われる。

 

そして、机には大きくな紙袋がいくつも置かれているなんとも奇妙な光景が広がっている。

 

「はじめまして、兼田信敦盛と申します。この度は愚妻が大変なご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません」

 

男性の方は兼田信の旦那の様で、真琴にワンピースの件について頭を下げて謝罪する。

 

「は、はぁ‥‥」

 

旦那の様子から、彼はまともな常識人の様だ。

 

「実は昨夜、念のために兼田信さんのご自宅に連絡をして、旦那さんにもお話をして今後はこのようなことが無いようにお願いをしたんです。そうしたら‥‥」

 

園長が真琴に兼田信夫妻が態々朝一に園長室に来た理由を話すと、

 

「園から電話をもらい、妻を問いただすと、今回のワンピースだけではなく、‥‥その‥他にも他所様の家や店から色々と盗んでいた事が発覚しまして‥‥お恥ずかしい限りですが、誠に申し訳ございません!!」

 

旦那が続きを語る。

 

「えっ‥えぇ‥‥」

 

旦那の言葉を聞き、驚愕する真琴であるが、

 

(でも、昨日の言動から他で盗みをしていても不思議じゃないか‥‥)

 

彼女の昨日の言動からワンピースの一件が初犯とは思えなかったので、他で盗みを働いていたとしてもそこまで驚くようなことではないと思う真琴。

 

「それで、今朝ご連絡をいただいて取り急ぎ、事情を知る永倉さんにまだお宅の物がないか確認して頂こうと思いまして、ご足労いただいた次第なんです」

 

「は、はぁ‥‥」

 

旦那は一応、確認してくれと紙袋の中身を一つずつテーブルの上に出す。

 

中身はハンカチや帽子、靴下、手袋、髪留め、洋服など、女の子の向けの物ばかりであった。

 

(私が作ったワンピースみたいに自分の娘が欲しいって言ったモノを盗っていたんだろうな‥‥)

 

紙袋の中身を見つつ、昨日の兼田信の言動を思い出す真琴。

 

しかし、真琴は兼田信とは昨日がほぼ初対面であり、彼女を家に上げた事がないので、ワンピース以外に紙袋の中に永倉家から盗まれた品はなかった。

 

「どうでしたか?」

 

「いえ、紙袋の中に家から盗まれた物はありませんでした」

 

「そうでしたか‥‥それは良かった」

 

ワンピース以外に永倉家から盗まれた物が無く、旦那はホッとしている様子だ。

 

「ですが、ワンピースは妻が盗んだ物だと言う事で、そちらの料金は払います」

 

そう言って旦那は一通の封筒を真琴に差し出す。

 

真琴が中を確認すると、バザーで販売予定の値段以上のお金が入っていた。

 

「えっ?値段が違います。こんなにもらえません」

 

「いえ、その金額はワンピースの値段の他に今回かけたご迷惑料の慰謝料‥‥としては少ないかもしれませんが、お受け取り下さい」

 

真琴と旦那の間で、いらない、受け取っての水かけ論みたいな展開が繰り返されて、結局真琴が根負けして封筒の中のお金を受け取ることになった。

 

その間、今回の騒動の原因となっている兼田信を真琴がチラッと見ると、俯いて鼻を鳴らして泣いているだけだったので、

 

「おい、お前もちゃんと謝罪しないか!!」

 

旦那が兼田信を怒鳴りつける。

 

「うっ‥ご、ごめんなさい‥‥」

 

旦那に言われ此処でようやく兼田信は真琴に謝罪した。

 

「本当に情けない‥‥永倉さん。改めて今回の件、誠に申し訳ございませんでした」

 

旦那も改めて頭を下げて真琴に謝罪する。

 

そして、旦那は追記して、警察にそのまま通報して良いとまで言ってきたが、謝罪とワンピースの料金を貰ったので、示談にする旨を真琴は伝えた。

 

保育園を出た真琴は被害届を出した警察署に赴き、犯人側と示談が成立した旨を伝え、被害届を取り下げた。

 

さらにその翌日‥‥

 

保育園で兼田信の娘のリエを見なくなった。

 

気になった真琴は保育士に訊ねてみた。

 

「ああ、リエちゃんのお家、引っ越したみたいなんです」

 

「えっ?引っ越した!?」

 

保育士の返答に真琴は驚く。

 

「ここだけの話なんですけど、あの後、リエちゃんと同じクラスの女児のママたちに物品を確認して頂いて‥‥みなさん、永倉さんと同じ様に慰謝料は固辞されたんですけど、旦那さんの方が限界だったみたいで‥‥」

 

兼田信は若い頃から手癖が酷く、ちょこちょこと物を盗む癖があったらしい。

 

「離婚も示唆しているつもりだったみたいですが、一人娘のリエちゃんの事を考えると‥‥」

 

「‥‥」

 

まだ小さい娘の事を考えて旦那の実家で同居することになったらしい。

 

病院へ連れて行きカウンセリングを受診させると同時に、実家のある所は近所付き合いが親密な所らしく、そこでも盗みを働くようならば、その時は身一つで追い出すつもりみたいだ。

 

「旦那さんはそう言っていましたけど、憔悴していました」

 

「はぁ‥‥」

 

「旦那さんも気の毒ですが、一番気の毒なのは娘のリエちゃんですからね」

 

同級生の家で泥棒をした母親をもったことでクラスメイトからも虐めの対象にされるかもしれないので、旦那は妻の更生と共に娘が虐められない様に早々に手を打ったと言う訳だ。

 

「そうですね。リエちゃんがお爺さんとお婆さんと一緒に幸せに暮らせるといいのですが‥‥」

 

今は正式に自分の物となったあのワンピースを着て笑みを浮かべていれば良いと思う真琴であった。

 

そして、物事の分別がつく頃、母親のような真似をしないように誠実に育ってもらいたいと願う真琴であった。

 

「へぇーそんな事があったのか‥‥」

 

事件解決度、真琴は旦那の永倉に事の顛末を話した。

 

「俺がお前さんに『やってみたらどうだ?』なんて気軽に言っちまったせいでまさか、此処までの大事になるとはな‥‥」

 

「ううん、シンちゃんのせいじゃないよ。元はと言えば、私がバザーに出品したいって言った事が切っ掛けだもん」

 

永倉は自分が真琴にバザーへの出品を許可したせいで今回のような騒動が起きたのかと思ったが、真琴はそれを否定して、元々真琴自身がバザーの出品を決めて、あのワンピースを作った事で今回の騒動が起きたのだと言う。

 

永倉家はお互いがお互いに労われる夫婦である事が今回の騒動で十分に証明され、家族の絆もグッと深まる結果となった。

 

 

ワンピース騒動から、幾日が過ぎ、保育園で行なわれたバザーも大盛況で終わった。

 

真琴が制作したハンドメイド作品も全てが完売し、『来年もよろしくお願いします』なんて言われてしまった。

 

バザーも終わり、再び普段の日常となったある日‥‥

 

永倉家の近くにある公園にある砂場に小さなフェンスが設けられると書かれた内容の回覧板が回って来た。

 

二人の子連れのママ友たちがさっそく砂場を見に行くと回覧板の内容通り、砂場はフェンスで囲まれていた。

 

大人では跨いで入れそうな高さであるが、小さな子供や犬猫の動物は砂場にはそう簡単に入れない形となっており、フェンスの一角が砂場に入れる出入り口となっている。

 

「犬や猫が砂場の中でウンチ出来ない様にフェンスを設置したんですって」

 

「へぇーこれで少しは安心して砂場が使えるわね」

 

「すなーすなー」

 

「あそびたい」

 

「良いわよ。遊んでも」

 

「「わーい!!」」

 

母親の一人がフェンスの扉を開けると子供たちは砂場の中に入って行く。

 

「仲が良いわね、二人」

 

「そうね」

 

母親たちは砂場近くのベンチに腰掛けて最初は子供たちの様子を見ていたが、砂場の周りはフェンスで囲われていると言う事で子供たちが何処かに行く事はないだろうとお互いに井戸端会議を始めた。

 

母親たちがベンチで井戸端会議をしている中、砂場に居る子供たちは‥‥

 

砂場に入った時、誰かの忘れ物なのかプラスチック製の小さなシャベルが落ちていた。

 

「シャベルみーっけ」

 

そのシャベルを一人の子供が見つける。

 

「いいなー」

 

砂場に落ちていたシャベルは一つで、子供たちは砂場で遊ぶための遊具を持ってきていなかった。

 

幼い子供と言うのは他の子供の持ち物を羨ましがる。

 

しかし、シャベルは一つしかない。

 

なので、一つしかないシャベルをめぐる争いが起こる。

 

「あははは」

 

「ん?」

 

ベンチで井戸端会議をしていた母親の一人が砂場の子供たちの異変に気付く。

 

「どうしたの?」

 

「中で変な音がしたような気がして‥‥」

 

二人の母親が砂場に近づくと‥‥

 

「あっ!!」

 

「大変!!」

 

砂場で遊ばせていた子供たちの内、一人が馬乗りになり下に居る事もを殴っていた。

 

フェンスで周りを囲まれている事から、砂場はまるで闘技場みたいな環境となっていたのだ。

 

母親たちは急ぎ我が子を抱き上げる。

 

「お宅の子は平気!?」

 

馬乗りされていた子供の母親がもう一人の母親に子供の容体を訊ねる。

 

すると、

 

「竜ちゃん!!凄いわ!!」

 

「げっ!!」

 

相手の子供は自分の子よりも軽傷で、しかもスコップを戦利品とばかりに高々と掲げており、母親の方も自らの子の勝利を喜んでいる。

 

「ムカつく!!」

 

一方で、負けた子供の母親は自分の子供が負けた事、相手の母親の態度が気に食わなく思わず声を荒げる。

 

「来週、リターンマッチよ!!ブス!!」

 

「ふん、この負け犬」

 

公園に来たばかりの時は、子供同士も母親同士も仲が良かったのだが、この一件で二組の母子の仲は一気に険悪なモノとなった。

 

「凄い戦いね」

 

「楽しそー」

 

その様子を見ていた別の母子たちは先ほど、砂場で行われていた喧嘩を見てワクワクした高揚感が沸き上がって来た。

 

砂場闘技場の噂と存在は瞬く間に周囲の主婦たちに広がった。

 

その結果‥‥

 

「うぅ~‥‥」

 

「てい!!」

 

「おちたー!!」

 

「勝者!!健吾くん!!」

 

「見事なフェイクロックね!!」

 

砂場は本来の遊び場とは異なり、我が子最強だと信じる母親たちが集う屋外闘技場と化した。

 

しかし、いくら闘技場とは言え、戦うのは最年長が三歳程の子供‥‥

 

なので、戦うのは年齢別となり、技に関しても目や急所などの攻撃はNGなどのルールが設けられた。

 

 

「良い天気ね。そう言えば以前、ギンガさんから『〇〇公園には行くな』って言われた事があるけど、あの公園には一体何があるのかしら?遊具が壊れていたのかな?」

 

ギンガとユリーシャは我が子がまだ乳飲み子だった頃、近所の公園に散歩に行ってみると、ベビーファイトと言われる子供同士のバトルに巻き込まれた。

 

後日、真琴が出産した話を聞き、永倉家も月村家と同じ海鳴市に住んで居たので、ギンガは真琴にも注意喚起をしていた。

 

しかし、その公園で何が行われているのかは詳しくは伝えていなかったので、真琴は何が原因なのか分からなかった。

 

でも、あの真面目なギンガが言うのだから何かしらの子供に悪影響が有るのだと思い、注意喚起を守り、真琴はギンガが注意した公園には行かなかった。

 

そして、今日は普段行き慣れている公園に久しぶりに来て見ると、砂場周辺に人だかりが出来ていた。

 

「ん?何かしら?」

 

真琴が砂場に近づくと、砂場周囲にフェンスが設置されており、砂場の中では翼と同じくらいの子供たちが殴り合いをしていた。

 

「えっ?えっ?えっ?」

 

その光景を見た真琴は困惑する。

 

周囲に居る母親らしき人たちも止めようとはせず、逆に興奮して殴り合いをしている子供たちを応援している。

 

真琴が唖然としていると、

 

「すなーすなーめぎーらー」

 

全裸の男の子がフェンスを飛び越えて砂場の中に入る。

 

「乱入よ!!」

 

「誰、この子!?」

 

突然の乱入者に主婦たちも驚いている。

 

「つとむちゃん!!」

 

すると、裸の子の姉らしき女子が砂場に駆け寄る。

 

その砂場の仲では、裸の子が先ほどまで砂場の中で殴り合いしていた子供たちの頬を抓っていた。

 

「ぢゅー!!」

 

「めぎー」

 

「いでー」

 

「凄く効いているわ!!あの子の抓り!!」

 

「らー」

 

「抓りは反則じゃないの!?」

 

「目玉と急所以外はオールオッケーよ!!」

 

「は、反則?‥‥一応、ルールはあるみたいだけど‥‥なんであの子は裸なの?」

 

主婦たちの話を聞き、真琴は顔を引き攣らせると同時に砂場の中に入った子が何故、服を着ずにいるのか疑問に思った。

 

「突然乱入して‥‥」

 

「二人を秒殺‥‥」

 

「何者よ?」

 

主婦たちは突然の乱入者に戸惑う。

 

「あたしの弟です」

 

すると、姉らしき女子は砂場から弟を出して、抱っこすると弟は、

 

「ギャー痛だだだだ」

 

姉の頬を抓りだした。

 

弟の抓りはよほど痛いのか姉は泣いていた。

 

真琴は家に戻ると、

 

「もしかして、ギンガさんが言っていたのってあの事だったのかな?でも、今日行った公園は別の公園だったけど‥‥とりあえず、ギンガさんにも伝えておこう」

 

真琴は今日、公園で見た異様な光景からあの公園も注意が必要だと思ったのだ。

 

「もしもし、月村さんのお宅ですか?」

 

『はい』

 

電話に出たのはノエルだった。

 

「あの、私、元まほろばの衛生士を務めていました永倉真琴です。ギンガさんはいらっしゃいますか?」

 

『ギンガ様は現在、軍務の最中で地球にはいません』

 

しかし、月村家に電話を入れると、ギンガは宇宙に出ているらしい。

 

「そ、そうですか‥‥」

 

『何かギンガ様に急用ですか?』

 

「そこまで急用ではないのですが、以前、ギンガさんから行ってはいけない公園について教えられたんですが、実は今日‥‥」

 

真琴はノエルに今日、公園で見た光景を話して、その公園に子供を連れていくのは避けるように伝えた。

 

『分かりました。その公園に行かない様に伝えておきます』

 

「はい。それでは‥‥」

 

ノエル自身もあの公園で行われている赤ん坊を使っての野蛮な行為を目の当たりにしているので、真琴からの情報はありがたかった。

 

「電話、誰だったの?」

 

そこへ、ユリーシャがやって来てノエルに電話の相手を訊ねる。

 

「永倉さんの奥さんで、何でも近くの公園で‥‥」

 

と、ノエルがユリーシャに真琴からの情報を伝える。

 

「えっ?別の公園でもそんな事が‥‥」

 

「どうやらそうみたいです。いいですか?ユリーシャ様。お嬢様たちの為にも今度は絶対にお嬢様たちを連れて行ってはいけませんよ!!」

 

「う、うん」

 

前回の件もあり、ノエルはユリーシャに釘をさした。

 

ユリーシャも前回、ギンガからこっぴどくお説教を受けたので、そこな素直に頷いた。

 

(ユリハを連れて行かなければ大丈夫だよね)

 

とは言え、ユリーシャ個人としてはやはり興味があるみたいで、子供を連れて行かなければ問題はないと思い、後日子供を連れずに見に行くことにしたのだった。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

  • 付き合っちゃえ
  • お友達のままで
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