管理局が第61管理世界と定めるスプールスにガイアとジャガーノートによって曳航されたまほろばが入港し、そこで修理を受けている最中、ガイア、ジャガーノートの母港であるミッドチルダでは‥‥
ミッドチルダ クラナガン 地上本部ビル 一室
「総合統括、例の水世界について詳細なデータが纏まりました。それと再び150光年程の距離が縮みました。このままではあと十七日にはミッドの至近距離を通過します」
リンディからミッドチルダへと接近している水惑星について調べていたオペレーターが分析結果をリンディに報告する。
「ご苦労様。それにしてもこれで三回目‥‥どう考えても自然現象でも次元震の影響でもなさそうね」
「ええ、何者かがあの水世界を意図的にミッドへ近づけているとしか思えません」
確実にミッドチルダへと近づいている水惑星アクエリアス‥‥
24時間おきに150光年もの距離を既に三回も移動している。
これはどう考えても自然に移動している訳でも、最近ミッドチルダ周辺で起きている次元震の影響でもなく、誰かが意図的にアクエリアスをワープさせてミッドチルダに近づけているとしか思えない。
アクエリアスをミッドチルダへ近づけている理由は、どうなれ少なくとも移動させてる者はアクエリアスを利用してミッドチルダを水没させようとしているのは明白だ。
「スクライア君に至急連絡をとらないと‥‥」
報告を受け取ったリンディは至急ユーノと連絡を取る。
「スクライア君、例の水世界について何か分かったかしら?」
『はい。ある程度、解析が終わりました』
「それじゃあ、その解析データを持って地上本部ビルまで来てくれるかしら?」
『分かりました』
リンディはユーノを地上本部ビルに来るように伝え、
「大至急、緊急会議を開きます。“陸”“海”“空”の高官たちを急ぎ招集して頂戴」
「承知しました」
ミッドチルダに接近して来るアクエリアスついて、早急に対処しなければならないので、リンディは管理局の“陸”“海”“空”の高官たちを招集して、対策会議を行った。
尤も対策とは言え、残された道は一つしかないとリンディはこの時そう思っていた。
地上本部ビルの中にある毎年、公開陳述会が開かれる大会議場に、“陸”“海”“空”の高官たちが次々と招集される。
「やれやれ、公開陳述会でもないのに、いきなりの招集なんて‥‥」
「一体何事だ?」
「何でも緊急度が高い議題らしい」
“陸”“海”“空”の高官たちがワラワラと会場に入って行くが、予定外の緊急招集に何事かと戸惑いつつも愚痴る。
やがて、“陸”“海”“空”の高官たちが揃い緊急会議が始まる。
「お忙しい所、集まって貰ってありがとうございます」
今回の会議の主催であるリンディが集まった高官たちにまずは社交辞令の礼を述べる。
「全くだ」
「こっちは暇ではないのだぞ」
「それで、議題は一体なんだ?」
「緊急と言うからにはさぞかし大変なことなんだろうな?」
リンディの事を快く思っていない“海”の高官は勿論の事、予定外の会議に招集された“陸”と“空”の高官たちからも皮肉が飛んでくる。
しかし、今のリンディにはそんな年の割に行動がお子様連中の言動に付き合っている暇はない。
「早速、議題に入らせていただきます。先日来よりミッドチルダ周辺の近海で大小規模の次元震が起きており、我々“海”はその原因を調査うする為に多数の次元航行艦をあちこちに派遣しました。その調査の過程で、ガイアがとある海域である移動性の世界を発見しました」
「移動性の世界?」
「はい。ガイアから送られて来たその世界は殆どが水で構成されている世界です。そして、引力の干渉によって近くの世界を水没させる恐るべき世界でもあります。今から表示する映像はその水世界の影響によって水没した世界の映像になります」
会議場の大モニターにはガイアが記録したディンギル星で起きた水害の映像が映し出される。
『‥‥』
大地と言う大地は海の様に水没し、空からは大粒の雨が降り注ぐ。
その天変地異の規模はミッドチルダを始めとするどの管理世界でもこれまで確認できない程の規模であり、まさにこの世の終末のような光景だ。
モニターを見る高官たちは顔を引き攣らせる者、唖然とする者と様々なリアクションをとっている。
「これは本物の映像か?」
「はい。紛れもなく本当にあった出来事です」
「それで、その映像の世界を水没させた水世界がどうしたと言うのかね?」
「ガイアがこの水世界を発見した時、この水世界はミッドチルダへと向かっている事が判明しました。しかし、その時の位置と速度からミッドチルダの至近距離に来るまでは六千年の時間が必要と言う結論に至りました」
「六千年?」
「では、今回の突然の招集は六千年後に近づいて来るその水世界についての対策なのか?」
「馬鹿馬鹿しい、六千年もの時間があるならば、まだ対策何てする必要はないだろう?」
「本来ならば、そうなります。ですが、ガイアの艦長であるハラオウン提督がこの水世界に設置したビーコン装置が、異常事態を観測しました」
「異常事態?」
「どの様な異常かね?」
「24時間おきに150光年の距離を縮めてミッドチルダに向かってきています」
「24時間おきに150光年だと!?」
「はい。既にこの水世界は三回‥ガイアがこの水世界を発見した地点からミッドまで450光年の距離を縮めています」
「それで、その水世界がミッドに近づいたら、先ほどの映像の世界の様にミッドは水没すると言うのかね?」
「ガイアから報告のあったデータを分析しました。この水世界の質量から計算しますと、数百兆トンの水が降り注ぐことになります。ミッドチルダの海面は約一兆二千億トンの水で十メートル上昇しますから、大陸は全て水没する事になります。そして、このままのペースですと、あと十七日でこの水世界はミッドチルダの至近距離を通過します。その際、引力の干渉によって先程申し上げた量の水がミッドチルダへと降り注ぐ事になるでしょう」
「あと十七日でミッドチルダへ来ると言うのか?それは間違いないのか!?」
「はい」
「そんな‥‥」
「ま、まさか‥‥」
「しかし、そのような世界はこれまで聞いた事がないぞ!!」
「それについてですが、それらしき水世界の記述が古代人の記録から発見されました」
この緊急会議に呼ばれたユーノがミッドチルダに接近している水世界について補足説明を行う。
「これは以前、バシュタールから発掘された粘土板文章の一部です」
続いてモニターには以前、ラティス、ユーノたちスクライア一族がバシュタールで発掘した粘土板文章が映る。
当然、リンディを含めて管理局の高官たちはそこに書かれている文字を読むことは出来ない。
「此処に書かれている文字をランティス教授が長い時間をかけて解読した結果、今から四十数億年の昔、アクエリアスと呼ばれる水惑星がミッドチルダへと回遊し、水と生命の芽を与えたと書かれている事が判明しました」
「水はミッドの大地から湧いて出たのではないのか?」
「そもそも、そんな古代人の妄言など信じられる筈がない」
管理局の高官たちは粘土板文章の解釈について懐疑的な反応を示す。
「アクエリアスがまだ未発見であれば、皆さんのおっしゃる通り古代人の妄言‥そう思われるのも分かります。ですが、現にアクエリアスは確かに存在し、ミッドチルダに近づいている。これが事実なのです」
ユーノは高官たちの意見に反論を突きつける。
「それで、ミッドに水と生命を与えた世界が、何故ミッドを水没させようとしているのだ?」
「それは分かりません。ですが、何者かがこの水世界を急速にミッドへと近づけて水没させようとしているのは明白です。しかも残された時間はもう一ヶ月もありません。今回の緊急招集はこの水世界に対する対処についての話し合いを行うものです」
「接近して来るコースが分かっているならば、多数の次元航行艦を派遣して、ネオ・アルカンシェルでその水世界を破壊してしまえば、話は済むのではないか?」
高官の一人はアクエリアスをネオ・アルカンシェルで破壊すれば、ミッドチルダは水没せずに済むと提案するが、
「水世界の質量と距離から、ネオ・アルカンシェルを打ち込めば、撃った艦は水世界の爆発の衝撃で沈むでしょうし、その爆発によって生じる衝撃波は凄まじいもので、ミッドチルダにもその影響が出るので、水世界の破壊は事実上不可能です」
リンディはこの会議の前にアクエリアスを模索しており、その中でネオ・アルカンシェルにてアクエリアスを破壊する事も検討に入れていた。
しかし、それをシミュレーションしてみた場合、ネオ・アルカンシェルを撃ち込んだ次元航行艦はアクエリアスの爆発の衝撃波でバラバラになり、爆発によって生じたハイパーノヴァはミッドチルダまで到達し、大きな被害をもたらすと言う結果が出ていた。
アクエリアスを破壊するには距離的に既に遅かった。
「率直に申し上げて、ミッドをアクエリアスの水没から避ける手段はもうありません」
アクエリアスを破壊出来ない以上、ミッドチルダを水没させる手立てが見つからない。
リンディの結論は高官たちを絶望に叩き落す。
「では、どうする?」
「我々はこのまま何もせずに水没を待つだけなのか?」
「ミッドに住む全人類を一時的に他の管理世界やコロニーへ避難させるしか方法はないと思っています」
「ミッドを捨てろと言うのかね?君は!?」
「では、何か他に代案はありますか?」
「‥‥」
一時的とは言え、ミッドチルダから脱出案を提案するリンディに対して高官の一人は脱出案について難癖をつけて来るが、代わりにリンディが代案を求めると黙り込んでしまう。
他の高官たちも代案が思い浮かばない様子だ。
時間も無く、アクエリアスの破壊も不可能。
このまま黙っていればミッドチルダは水没する。
それは自分たちの死を意味する。
「しかし、アクエリアスが来るまでにミッドの住民全てを移住させることが出来るのか?」
「それは、分かりません。ですが、このまま何もせずに手を拱いていてはミッドが水没し、住民は全滅するのが必須です」
「だが、転送ポートが無いとなると時間がかかりそうだ」
地上本部ビルにも転送ポートがあったのだが、それは本局へ向かう為の転送ポートだったので、本局が失われた後、それは無用の長物と成り果てていたので、先日撤去されてしまった。
旧機動六課隊舎跡地に建設中の新庁舎ではまだ転送ポートの設置が出来ておらず、建物の建設を後にして転送ポートの設置を優先してもアクエリアスがミッドチルダに来るまで転送ポートの設置と設定は間に合いそうもない。
「管理局の輸送艦以外に民間の次元航行船を全て徴用し、住民の避難に使用します」
「だが、いくら民間の次元航行船を使用したからと言ってミッドの全住人を移送できるのか?」
「一度に全ての住人を移送するのは不可能なので、何度も往復しなければなりません」
「何度もか‥‥」
「はい。なので、早急に民間の船舶会社へ連絡を入れて船の手配と避難者のリスト、そして、ミッド全体にアクエリアスの接近と避難説明を行う必要があります。それと避難予定地の管理世界への通達、既に管理世界に居るミッドチルダの住人の所在の確認と、ミッドチルダへの帰国の停止など、既にやる事は山積みなので、迅速にこの事態に対応しなければなりません」
リンディはアクエリアスがミッドチルダに来るまでの対処を提案し、時間がおしているのですんなりとリンディの提案が受け入れられた。
緊急会議後、高官たちは直ぐにこの事態に対処すべく動き出す。
そんな中、
「ハラオウン総合統括、一ついいですかな?」
「はい。なんでしょう?」
“海”の高官数名がリンディの下に近づいて来た。
「今回の水世界の他にある事態が起きたと噂がありましてね」
「噂?それはどんな噂なのでしょう?」
「今、何処かの管理世界に第二の97管理外世界の戦艦が居るとか?」
「‥‥」
噂の内容を確認するかのようにリンディへと訊ねる“海”の高官。
リンディはまほろばに対して手出し無用の保証書は出したが、緘口令は出していなかった。
それは暗黙の了解だと思っていたのだが、そうはいかないらしい。
管理局としてはロストロギアレベルの戦闘力を持つ戦艦が実際に管理局のドックに停泊しているのだから噂にならない訳がない。
そして、噂とは光よりも早く分子よりも小さく厳重な緘口令を敷いても何処からか洩れてしまう。
ましてや今回は緘口令を敷いていないので、洩れるのも当然なのかもしれない。
「ええ、事実ですがそれが何か?」
実際にまほろばはスプールスのドックに停泊しているので、誤魔化しは利かないので、リンディは高官の言葉を肯定する。
「ならば、何故その艦をそのまま放置している?」
「左様、MS機関を有しているとは言え、まだまだ改良の余地はある筈だ」
「かの世界の戦艦が管理局のドックに居るのであるならば、これは絶好の好機ではないか?」
高官たちはまほろばを拿捕しろと言ってくる。
「貴方がたの思惑がどうかは知りませんが、まほろばに関しては既に安全を保証する保証書を発行しています。その後で難癖をつけて、まほろばを拿捕するような真似をすれば、彼らは自艦防衛の為に徹底的に抵抗するでしょう‥‥その結果は、どうなるのかは聡明な貴方がたならお分かり頂けるかと思いますが?」
「「「‥‥」」」
まほろばに関して既に手を回されている事に高官たちは苦虫を嚙み潰したように顔を顰める。
「今は、かの世界の戦艦の件よりも優先する事があると思いますが?優先順位を履き違えない様に‥‥」
リンディは高官たちに一礼し、彼らに釘をさしてその場を後にした。
「くっ、女狐め‥‥」
「どうします?このまま折角のチャンスをみすみす逃す訳には‥‥」
「しかし、どんな罪状で、拿捕すれば‥‥」
「そんなもの、適当な罪状をでっち上げれば良いだけの事だ。我々管理局が黒と判断したものはどんなに白くても黒になるのだからな」
高官たちはまほろばを諦めきれず、何らかの罪状をでっち上げて冤罪をかけてまほろばを拿捕しようと画策しようとする。
しかし、高官たちの言動、彼らがまほろばの存在を確証している事が見え見えだったのでリンディは、はやてたちにまほろば周辺の監視をより厳しくするように頼んだ。
リンディからこの連絡を受けたはやては、
やっぱりか‥‥
と、想定内の事とは言え、管理局の高官たちの思惑に呆れた。
なので、ギンガとティアナに高官たちの思惑は伝え、まほろば周辺にサーチャーを増やして監視を強化し、ギンガとティアナもまほろばの乗員たちに対して不要の艦外へ出る事を控えるように徹底した。
「それで、リンディさん。例の水世界について何か分かった事はありますか?」
リンディからまほろば周辺の監視を厳重にするように言われた後、はやてはもう一つの疑問であったアクエリアスについてその後の状況を訊ねる。
『既に三回150光年の距離を縮めているわ。これはもう誰かが意図的にあの水世界をミッドに近づけているとしか思えないわ』
「誰か‥‥世界一つを移動させるなんて一個人、海賊やテロリストには不可能な事と思います。それにクロノ君やフェイトちゃんの艦を襲撃した連中の事も気になりますね」
PT事件の主犯であり、フェイトの生みの親である大魔導師、プレシア・テスタロッサ、そしてJS事件の主犯であったジェイル・スカリエッティでさえも世界‥惑星一つを24時間おきにワープさせるなんて不可能だろう。
これはもう海賊やテロリストレベルではなく、国家規模と見た方がいいかもしれない。
『まさか、今回の件にボラー連邦が関係しているんじゃあ‥‥』
「そ、そんな‥まさかっ‥‥!?」
武力制裁の失敗直後に報復が考えられつつも長い期間、一切の報復行動がなかったボラー連邦‥‥
リンディは此処に来てボラー連邦が報復でアクエリアスをミッドチルダに近づけているのではないかと思った。
「でも、あのボラー連邦ですし‥‥うーん‥でも‥‥」
はやても有り得ない話ではないと思いつつもまだ確たる証拠がないので、決め手が薄い。
「クロノ君とフェイトちゃんの艦が襲撃を受けた時の映像を解析して襲撃者の正体を探ってみます」
『ええ、お願いするわ』
アクエリアスの問題についてはミッドチルダに居るリンディたちに任せて、はやての方はまほろばの警備とガイアの襲撃者の調査を行う事になった。
(ギンガ、ギンガ)
はやてはその前に管理局の一部の局員がまほろばの存在を勘づいて、狙っている事を注意喚起を促すためにギンガに念話を送る。
(はい、なんでしょう?)
(さっき、リンディさんから通信があって、ミッドの高官の一部がまほろばを狙っているみたいや‥‥)
(あぁ~やっぱり‥‥)
管理局員がまほろばを狙っている事をギンガも想定していた。
だからこそ、乗員の不要な艦外へ出る事を厳禁にしていたのだ。
(一応、サーチャーは増やして、まほろば周辺に不審者がおらんか監視しとる。リンディさんも私もまほろばとのいざこざは望んでおらへんから)
(ええ、分かっています。はやてさんはそんな人ではないと言う事を‥‥)
(‥ありがとな、ギンガ)
ギンガからの言葉に感謝しているはやてだった。
一方、アクエリアスの接近に対処する事になった管理局はいきなりミッドチルダの住人にアクエリアスの接近を知らせずに、まずは民間の船舶会社へ連絡をいれて、次元航行船の徴用を行い、船の確保をすると避難船団を組織する。
普段は予算合戦を繰り返していがみ合っている“陸”“海”“空”であるが、ミッドチルダの危機が迫っているので、此処は一丸となって今回の避難作戦を成功させようと協力体制をとった。
事務員が総動員となり、ミッドチルダからの避難者リストの作成と順番を決める。
ただ、管理局が作成した避難順‥‥
第一次避難船団に乗船予定の避難者たちは、管理局の高官、ミッドチルダでも有数の大企業、昔からある名家の家族や身内で占められていた。
一般人が知れば、どう見ても依怙贔屓なリスト作成であった。
避難者たちには急ぎ乗船券が郵送された。
クロノは地球の復興が早いと思っていたが、管理局も“陸”“海”“空”の人海戦術を駆使してこの作業を僅か二日で終わらせていた。
ミッドチルダの住民の避難計画がまとまりつつある中で管理局はミッドチルダにて広域放送をした。
宇宙の彼方から水惑星アクエリアスが接近し、ミッドチルダはあと二週間ほどで水没する事。
そして、現段階でミッドチルダを水没から防ぐ手立てはもうない事、
そこで、民間の次元航行船を利用しての避難船団が組織された事、
その避難船を使って他の管理世界もしくはコロニーへ避難する事が決定された事、
順次避難船に乗船する為のチケットが郵送される事、
これらの放送内容はミッドチルダに住む住人たちは困惑する事になる。
それはヴィヴィオが通うSt.(ザンクト)ヒルデ魔法学院の生徒たちも例外ではなかった。
ミッドチルダ St.(ザンクト)ヒルデ魔法学院
「ねぇ、聞いた?管理局の話‥‥」
「うん」
「ミッドチルダがあと二週間で水没するって‥‥」
「他の管理世界に行ったら、もうミッドには戻って来れないのかな?」
「船のチケットって来た?」
「ううん、まだ」
「あと二週間しかないのに間に合うのかな?」
ヴィヴィオのクラス内ではクラスメイトたちが不安そうに管理局から発表があった内容について話している。
「何だか皆、不安そうだね」
ヴィヴィオの友人の一人であるコロナがクラスメイトの様子を見て呟く。
「そりゃあ、いきなりミッドがあと二週間で水没するなんて言われたらね‥‥」
コロナの言葉にもう一人のヴィヴィオの友人のリオが納得する様に言う。
クラス内がざわついていると、
「はい、皆さん。席について」
担任が教室に入って来ると、ざわついていたクラスメイトたちは話を止めて自分の席に着く。
「えぇー皆さん、既に管理局からの発表を聞いていると思いますが、決してパニックを起こさず、管理局からチケットが来るのを待ってください。ミッドが水没する前に全員がミッドから脱出する事は出来ます」
担任は生徒たちの不安を払拭する様に言う。
しかし、そう言われても先行きの不透明さから生徒たちからは不安が拭えない。
他のクラスもこの担任と同じ行動をしているのだろうが、学校内は学年問わず不安がる生徒でいっぱいだ。
昼食時、ヴィヴィオ、コロナ、リオが学校内の食堂である生徒を待っていると、その待ち合わせの生徒が食堂へとやって来た。
「あっ、アインハルトさん!!こっち!!こっち!!」
「皆さん、お待たせしました」
ヴィヴィオたちの下に駆け寄って来たのは、学年は違うがヴィヴィオたちと同じナカジマ・ジムの同門でありヴィヴィオたちの友人でもあるアインハルト・ストラトスであった。
ナカジマ・ジムの同門が集まり、食事が始まる。
そして食事の最中でも話題は、やはりミッドチルダがアクエリアスの接近で水没する件についてだった。
「アインハルトさんのクラスでもやっぱり、管理局からの話は話題にあがっていた?」
「はい。クラスの皆さんも困惑していました。『ミッドが水没するなんて信じられない』『避難は間に合うのか』など‥‥」
「アインハルトさんの所にはチケットってもう来ました?」
コロナがアインハルトに避難船の乗船チケットが来たかを訊ねる。
「はい。先日‥‥皆さんは?」
「私はまだ‥‥」
「私も‥‥」
アインハルトの下には避難船のチケットが来たが、コロナとリオの下にはまだ来ていない様だ。
「ヴィヴィオさんは?」
「じ、実は私の所にも、昨日‥‥」
「えっ!?」
「ホントなの!?ヴィヴィオ」
「う、うん。私となのはママ宛てに‥‥」
アインハルトは古代ベルカ時代にあったシュトゥラ王国の国王「覇王イングヴァルト」の末裔で、ヴィヴィオはクローン体とは言え、古代ベルカ時代における「聖王オリヴィエ」であり、管理局のエース・オブ・エース、高町なのはの養女と言う事で、両者とも管理局からは後々の重要人物として、第一次避難船に乗船させて早々にミッドチルダから避難させようと判断されたのだ。
勿論、ヴィヴィオの養母であるなのはにも第一次避難船の乗船チケットは来ていた。
しかし、同棲しているとは言え、ユーノにはまだチケットが来ていなかった。
「ですが、私は今回の乗船を辞退するつもりです」
するとアインハルトは第一次避難船には乗船しないと言う。
「私となのはママも乗るつもりは無いよ」
そして、ヴィヴィオとなのはもアインハルト同様、第一次避難船には乗船しないと言う。
「えっ?どうして?」
「そうだよ、折角のチケットなのに‥‥」
コロナもリオもアインハルトとヴィヴィオの決断には驚く。
ミッドチルダは約二週間後にはアクエリアスの影響で水没する。
管理局はミッドチルダに居る全住民は避難させることが可能とは言っているが、物事はやってみないと分からない。
最初は兎も角、後々になって避難が間に合わないと言う事態も起きるかもしれない。
ならばこそ、確実に避難出来る第一次避難船に乗った方が安全の筈だ。
それにもかかわらず、アインハルト、ヴィヴィオ、そしてなのははその確実性を蹴ってまで第二次以降の避難船で避難する事を選んだ。
「私はヴィヴィオさん、コロナさん、リオさんの下にチケットが来ていたら乗船するつもりでした。ですが、コロナさんとリオさんはまだチケットが来ていないではありませんか。同じジムの同門として、そして友人として避難する時は一緒に避難するつもりです」
「私もだよ。それにユーノパパ?にもまだチケットが来ていないから、なのはママも避難しないって昨日の夜に言っていたし」
アインハルトもヴィヴィオも確実な安全性よりも大切な人を選んだ。
なのはとしては、ヴィヴィオと同じ理由ながらもヴィヴィオには先に避難してもらいたいと言う思いもあった。
しかし、ヴィヴィオもなのはの気持ちを理解しつつ、自分も大切な人たちを残してミッドチルダを先に避難する事を『良し』とはしなかった。
なのは、ヴィヴィオ、アインハルトの様に第一次避難船の乗船チケットが送られたにもかかわらず、それを辞退する者は他にも居た。
アインハルトやヴィヴィオと同じく古代ベルカ時代にて『雷帝ダールグリュン』と呼ばれた貴族の末裔であるヴィクトーリア・ダールグリュンもその一人であった。
「お嬢様、管理局よりお嬢様宛てに手紙が届きました」
「管理局から?一体何の用でしょう?」
執事のエドガーがヴィクトーリアに管理局から届いた手紙を手渡す。
「‥‥」
エドガーから手紙を受け取ったヴィクトーリアは封筒から中身を取り出し、手紙の内容を見る。
「‥お嬢様、管理局は何と言っているのですか?」
エドガーは手紙の内容が気になりヴィクトーリアに訊ねるが、彼は大体の予想はついていた。
と言うのも、ヴィクトーリアは魔法戦技術競技であるインターミドルチャンピオンシップに出場する程の常連選手であり、家柄、学歴、そして魔力ランクも高ランクなので、管理局としては是非とも管理局員にスカウトしたい人材だったので、これまでにヴィクトーリアの下には管理局からしつこくスカウトの話が来ていた。
今回も管理局からの手紙と言う事でスカウトの件かと思ったが、今回は手紙の内容はスカウトの話とは違った。
「エドガー‥貴方も先日、管理局からの報道は見たでしょう?」
「はい。確かミッドチルダはあと二週間ほどで水没するとか‥‥」
ヴィクトーリアはエドガーに管理局からの手紙を手渡す。
「‥‥」
ヴィクトーリアから管理局からの手紙を受け取り、その内容に目を通すエドガーは顔を顰める。
「お、お嬢様、これは‥‥」
「管理局が私に早々と水没するミッドから逃げ出せ‥‥って言っているわ」
封筒の中には手紙の他に避難船の乗船チケットが入っていた。
「それで、お嬢様はどうなさるのですか?」
「ミッドの水没は既に防ぐことが出来ず、水没する事は決まった‥‥だからと言ってダールグリュン家の人間が、早々にミッドを捨てて逃げ出してはご先祖様に申し訳が立たないわ」
「お嬢様‥‥」
「エドガー」
「はっ!!」
「‥‥よかったら、そのチケットは貴方が使ってもいいのよ」
避難船のチケットはダールグリュン家の人間にのみ用意されたチケットであり、執事であるエドガーにはチケットは用意されていなかった。
その為、ヴィクトーリアは自分のチケットをエドガーに譲るとも言ってきた。
「お嬢様、私もヴィクトーリア・ダールグリュンに仕える執事です。主人が残ると決めた中で、従者たる私が主人を置いて逃げる事が出来ましょうか?」
エドガーはヴィクトーリアがギリギリまでミッドチルダに残るのだから、執事である自分もヴィクトーリアと行動を共にする旨を伝える。
「エドガー‥‥ありがとう」
そんなエドガーの行動と忠誠にヴィクトーリアは礼を言う。
「いえ、誇り高き主人を持ちまして私は幸せ者です」
「エドガー、このチケットは管理局に返して、誰か別の方に譲ってもらって」
「承知しました」
ヴィクトーリアは折角のチケットを管理局へと突き返したのだった。
管理局からの発表から、一般市民たちは次元航行船の発着場、地上本部ビルへとおしかける。
そんな人たちや管理局からの新情報を得る為、マスコミも取材で来ており、現地は混乱でカオス状態となっていた。
『では、地上本部ビルの前から中継が繋がっております』
『はい、こちら、地上本部ビル前ですが、大勢の市民が押し寄せています。我々取材クルーも管理局からの新たな情報を得るために参りましたが、管理局はあの発表から何の発表もなく、市街地の混乱は日々激しさをましています。ご覧ください』
『下がって!!下がってください!!』
『そんなのいいからもっと詳しい説明をしろ!!どうなっているんだ!?』
『ミッドから避難するってどういう事だ!?』
『避難船のチケットはいつ来るんだ!?』
『財産の保証はしてくれるのか!?』
カメラがレポーターから地上本部ビル前の光景に移ると、地上本部ビルの玄関口には多数の市民が押し寄せており、玄関口の警備にあたっている局員たちが庁舎の中に入らない様に押し返している。
『ありがとうございます。気を付けて取材を続けてください。続いては、次元航行船の発着場からです』
中継は地上本部ビル前から次元航行船の発着場へと移る。
『はい。こちらは次元航行船の発着場です。ロビーには多くの人で溢れています。現在、次元航行船は全てミッドからの避難船と言う事で、発着が行われておりません。チケット売り場もチケットは販売されておらず、窓口が閉鎖されている状況です』
『慌てないで下さい!!ミッドチルダの住民は全て避難出来ます!!信じて下さい!!』
テレビ画面の向こう側には次元航行船の発着場に殺到する人々の姿とそんな人々を宥めようと発着場の職員が拡声器で声を上げている姿が映し出される。
取材をするマスコミも発着場の職員、地上本部ビル前の警備局員も大変そうだ。
「やれやれ、JS事件でゆりかごが浮上した時は此処までの混乱はなかったがな‥‥」
テレビを見ながらゲンヤはミッドチルダの混乱ぶりに溜息を吐く。
「でも、慌てるのも分かる気がする‥‥ミッドが水没するのは間違いないんでしょう?」
一緒にテレビを見ていたディエチが確認するかのようにゲンヤに訊ねる。
「ああ、管理局があそこまで大々的に伝えておいて、『実はデマでした』なんて事態になれば、それこそ管理局は世間からの信用を無くすから、ミッドが水没するって言うのは事実なのだろう」
元とは言え、管理局に長く務めていたからこそ、管理局の発表が嘘とは思えないゲンヤ。
「‥‥」
ゲンヤからのお墨付きをもらい、やはりミッドチルダが水没するのだと確信したディエチ。
「そんな顔をするな」
「でも‥‥他の世界に行ったら、もうミッドには戻れないような気がして‥‥」
ディエチにとってミッドチルダは当初、テロリストとして‥兵器として生を受けたが、今では家族が出来て、その家族と共に過ごしている大切な世界だ。
その世界が水没して失われてしまうのだと知ると、寂しいし、もう二度とミッドチルダに戻って来れないような感覚に陥る。
「大丈夫だ。水が引けば、皆戻ってきて今まで通りの生活になる」
不安そうなディエチの様子に気づいたゲンヤはディエチを励ました。
また、クラナガンの市街地にあるマンションでは、
「本当にいいのかい?なのは」
アクエリアスの接近に伴い、管理局の教導隊の方も暫く任務が休止となり、なのははマンションにてユーノと荷造りをしていた。
その最中、ユーノは徐になのはへと声をかける。
「えっ?なにが?」
「昨夜も言ったけど、本当に最初の避難船に乗らなくていいのかい?僕の事なら気にせずに先にヴィヴィオと避難した方が‥‥」
管理局はミッドチルダが水没する前にミッドチルダに居る全住民は避難は出来ると言うが、本当にミッドチルダが水没する前に避難できるかは分からない。
先行きが不透明よりも確実に避難出来るならば、第一次避難船で避難して欲しい‥‥
それがユーノの思いであった。
「もう、ユーノ君ったら、言ったでしょう?ユーノ君もそうだけど、私には沢山の教え子たちが居るんだよ。教官である私が、その子たちよりも先に逃げるなんて事出来ないよ。それに、ヴィヴィオの友達だってまだ分からないけど、もしも避難するのがヴィヴィオと違ったら、きっとヴィヴィオはミッドに残ると思うよ」
「確かにあの子ならそう言いそうだ‥‥」
なのはのヴィヴィオに対する評価に納得するユーノ。
そして、なのはの予想通り、ヴィヴィオはコロナとリオがまだチケットが来て居ない事を聞くと、第一次避難船には乗船しないと言っていた。
後にそれを知ったなのはとユーノは驚いたと同時に妙にほっこりとした。
そんな中でもアクエリアスは着実にミッドチルダへと接近していた。
ミッドチルダ水没まであと十五日‥‥
同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について
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付き合っちゃえ
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お友達のままで