星の海へ   作:ステルス兄貴

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この話は中嶋加奈江の視点でプロローグ前~十八話までの裏側を描きました。
クイント・ナカジマの設定に若干のオリジナル設定が含まれています。



番外編 中嶋加奈江の回想録 

ゼスト隊長が密かに内偵を進めていた戦闘機人製造プラントの一斉摘発‥‥。

戦闘機人‥‥それは、クローン体の人体に身体能力、そして魔法能力を強化するための特殊な機械部品をインプラントした存在の総称。

とある科学者が人造魔導士を誕生させる理論、『プロジェクトFate』と同じく提唱した理論で、発表当初は管理局の人員不足を解消できるかもしれないと言う事で持てはやされたが、やがて、『プロジェクトFate』同様、倫理的、人道的、技術的等の問題点からタブー視されて、表向きでは研究・開発は禁止されているが、現在でも裏の非合法組織では未だに研究・開発が進んでいるらしい‥‥。

二年前、私たちはとある研究所が今でも戦闘機人の違法な研究・開発を続けているとの情報を掴み、その研究所に一斉捜査をかけた。

その結果、私たちはその研究所で生まれたであろう二人の戦闘機人である少女たちを保護した。

その時、保護した二人の少女たちの容姿は幼い時の私に似ていた‥‥。

気になった私は、保護した二人を知り合いの科学・技術者であるマリエル・アテンザ(マーリー)の下に検査の為に連れて行った。

検査の結果、私は驚愕した。

何故ならば彼女たちのDNA配列が私のDNAと一致したからだ。

つまり、この二人は私のDNAを元に造られたのだ。

捜査を掛けた研究所は調べた結果、管理局とは何のつながりもない研究所だった。

しかし、その何のつながりもない筈の研究所で管理局員である私のDNAと同じ戦闘機人が二人も誕生していた。

その事実から本当にあの研究所は、管理局とは何の関係も無かったのだろうか?と私は疑問に思った。

そもそも私のDNAデータは何時、何処から外部に流出したのだろうか?

だが、それについては心当たりがあった。

私は管理局に入局してからはずっと局で行われている健康診断を受けてきた。

考えたくはないが、恐らく局で受けた血液検査から私のDNAデータは、外部に流出したのだろう。

だとしたら、あの研究所に戦闘機人の製造を命じたのは管理局自体か若しくは管理局内に反管理局組織の内通者(スパイ)が居る事となる。

しかし、それは私の憶測にすぎず、確たる証拠はない。

私からの報告を聞いたゼスト隊長もどうやら私と同じ疑問を抱いた様で、「この件は一先ず俺が預かる」と言って、一部の局員以外知る事のない事実となった。

彼女たちの誕生も気になったが今は、保護した二人の少女たちの見受けを何とかしなければならなかった。

このままでは、彼女たちは研究資料として、今度は管理局の研究所で実験動物としての扱いを受ける恐れがある。

だが、私の心の中では既に決まっていた。

私は夫のゲンヤさんに事の真相を話した上で、彼女たちを自分たち夫婦の養子にする事を提案した。

私たち夫婦が結婚してから、もう随分経つけど、未だに子宝に恵まれないし、ゲンヤさんはもう若い訳では無い‥‥

それにお互いに管理局の局員と言う事で、家に居る時間は多いとは言えず、結婚当初より共に家で過ごす時間は減り、当然肌を重ねる事も少なくなってきている。

こう言っちゃあ悪いが恐らくこの先、子宝にはもう恵まれそうにない。

それに彼女たちは私とDNAが同じなのだから、遺伝子的には私の子供に変わりないのだから‥‥

案の定、私の提案にゲンヤさんは快く了承してくれた。

ゲンヤさんも子供の事については私同様、悩んでいた様だ。

私は早速、ゼスト隊長にその旨を伝え、二人をナカジマ家の養子として向かい入れた。

そして私が養子縁組で必要な手続きとして、二人の名前を訊ねると、二人は怯えた様子で、

 

「タイプ・ゼロ‥‥ファースト‥‥」

 

「‥‥たいぷ・ぜろ‥‥せかんど‥‥」

 

と、自分たちの製造番号を答えた。

恐らく研究所内でも研究員たちからその様に呼ばれていたのだろう。

私はそんな二人にもう自分たちが戦闘機人であることを‥‥人間兵器であることを忘れ、一人の人として生きていくように言った。

そして私は二人にそれぞれ名前を授けた。

姉で、私同様青く長い髪を持ち、私の容姿を妹より多く受け継いでいる少女にはギンガ。

青いショートヘアーの妹にはスバルと名付けた。

 

二人を養子にしてから暫くしてギンガは妹を守る為、私が得意とするシューティング・アーツを教えて欲しいと頼んできたので、私はギンガにシューティング・アーツを教えたが、妹のスバルは傷つくのも傷つけるのも嫌だと言って、訓練には参加しなかったが、それ以外では「お母さん、お母さん」と、甘えん坊な子だった。

それから二年の歳月が経った‥‥

そして、私たちはまた新たな戦闘機人の製造研究所があるとの情報を掴んだ。

当然非合法の研究所だ。

ゼスト隊長は早速その研究所を捜査しようとしたが、そこを私たちの上司であるレジアス本部長がソレ(捜査)に待ったをかけた。

レジアス・ゲイズ本部長‥‥。

非魔導師ながらも将官、そして“陸”のトップにまで上り詰めたエリート局員で、ミッドの平和を何よりも考えている人‥‥

士官学校では、ゼスト隊長と同期生で士官学校卒業後も良好な関係を築いてきた二人なのだが、ここ最近、二人の交友関係の仲に亀裂が生じ始めている。

噂ではあるが、レジアス本部長が“陸”の管理局の人員不足を解消するために、本来違法である筈の人造魔導師、戦闘機人の研究を密かに後押ししていると言う噂を聞いた。

その噂を聞いて、まさか、私のDNAをギンガとスバルが生み出されたあの研究所に持ち込み、研究・製造を依頼したのはレジアス本部長なのではないかと思った。

考えたくはないが、地上本部の本部長と言う彼の地位ならば、私のDNAデータを外部に持ち出す事くらい簡単に出来る。

当然、ゼスト隊長もレジアス本部長の噂を聞いており、その真相を問いただしたが、レジアス本部長は曖昧に答えをはぐらかした。

そんなレジアス本部長の態度にゼスト隊長は業を煮やし「もう、勝手にさせてもらう」と言って今回の戦闘機人製造プラントの強制捜査を予定通りに行う事を私たちに伝えた。

私は何だか一抹の不安を抱きながらその任務にあたる事となった。

親友のメガーヌもレジアス本部長とゼスト隊長のやり取りを見て、私と同じ様に不安そうな表情をしていた。

 

捜査の前日、私はメガーヌに今回の捜査から外れる様に言った。

実はメガーヌは一児の母となっていた。

彼女は妊娠していたことを、私やゼスト隊長を含め、隊の全員に隠していた。

子を宿し、大きくなったお腹も変身魔法の要領で普通に見えるようにしていた。

つわりもなく、食事の志向も特に変化がなかったためまったく気づかれなかったが、さすがに隊舎の廊下で産気づけば誰でも気づく。

産気の際、陣痛の痛みで魔法が解けて、お腹が大きくなった彼女の姿を見た時は、一瞬フリーズしたが、他の同僚の声で我に返り、その後は急いでメガーヌを病院へ搬送した。

無事に出産を終えたメガーヌは子供の父親については頑として口を割らなかった。

しかし、長い付き合いである私にはなんとなく予想がついていたので、話したくないのなら聞かないと決め、それ以降私達の間でその話題が出ることはなかった。

メガーヌの想い人は知っていたし、その相手が意外と酒に弱く、飲みすぎると記憶を失うことがあることも知っている。

多分その辺りを上手く利用し、誘導したのだろう。

メガーヌの娘、ルーテシアはまだ幼い。

管理局の任務に絶対の安全などなく、万が一メガーヌが命を落とすことがあれば、ルーテシアは孤児になってしまう。

ゼスト隊長もその点を心配しており、私同様、メガーヌを今回の任務から外そうとしたが、彼女はそれを受け入れなかった。

ギンガとスバルの時の様に簡単に決着がつくと思って楽観視していたのか分からないが、彼女は最後までこの任務から外れる事は無かった。

それでも、私自身はメガーヌにはやはり、今回の任務からは外れて欲しかった。

もし、私の身に何が有れば、彼女にギンガたちの事を見て欲しかったからである。

だが、反対にメガーヌから「貴女こそ、今回の件から外れた方がいいわ」と言われてしまった。

彼女も私と同じで、残される子供の身を案じており、それと同時に我が子の身を案じていた。

私がメガーヌに残ってもらい、万が一の事があったら、彼女にギンガとスバルの事を見てもらおうと考えていたのと同じようにメガーヌも同じことを考えていたのだろう。

ゼスト隊長も同じく私に今回の任務から外れる様に言ったが、私自身もこの任務から外れる事はしなかった。

その理由はやはり、ギンガとスバルの誕生に私のDNAが使用されていた事が深く関係していた。

これから摘発する研究所にはもしかしたら、ギンガやスバルの様な境遇の子どもたちがいるかもしれないと思ったから‥‥

そしてギンガとスバル同様、また私のDNAを使用した戦闘機人の子供たちがいるかもしれないと思ったから。

ゼスト隊長もメガーヌもその事を考慮したのか、私にそれ以上今回の任務から外れる様には言わなかった。

そして、私はメガーヌと必ず生きて戻ろうと約束した。

 

様々な不安を抱えたまま捜査当日の日を迎えた。

その日、現場へ向かおうとする私をギンガとスバルは必死に引き止めた。

今思えば、この子たちには分かっていたのかもしれない。

私が生きてこの家に戻れなかった事を‥‥

でも、行かない訳にはいかず、私はギンガとスバルに必ず帰って来ると優しく諭し、任務へと赴いた。

 

そして行われた戦闘機人製造研究所の強制捜査‥‥。

だが、完璧な奇襲捜査にも関わらず、相手はまるでこの日、この時間、この場所で捜査が行われることを知っているかのように万全の迎撃態勢をとっていた。

研究所の全域には、AMF‥‥アンチ・マギリンク・フィールドと呼ばれる効果範囲内の魔力結合を解いて魔法を無効化するフィールドが展開されており、上手く力が出せない。

しかも出入り口は堅く閉ざされて脱出するのも不可能。

此処から出るには他の脱出口を探すしか方法は無かった。

そんな中、私はゼスト隊長と親友であり、同期のメガーヌとも離れ離れになってしまった。

通信を送ろうにも妨害電波まで流されており、通信も出来ない。

一人、また一人と仲間がガジェットと呼ばれる機械兵や待ち構えていた戦闘機人たちの手によって討たれていく。

そう言う私も既に致命傷を負っている。

手でお腹に開いた風穴を押さえるが、それは何の意味もなさい‥‥。

指の間からは赤い血が絶えず流れ続けてくる。

力が抜け、体中が寒く、そして急激な眠気が襲って来る。

もう、痛みも感じない‥‥

これが『死』と言う感覚なのだろうか?

 

「ゲンヤさん‥‥ギンガ‥‥スバル‥‥ごめんなさい‥‥お母さん‥‥帰れそうに‥‥ない‥‥わ‥‥ほんとうに‥‥ごめん‥‥ね‥‥」

 

私の脳裏にはエルセアの家に残してきた家族の事が思い浮かぶ。

ギンガにはシューティング・アーツの全てを教える事が出来なかった。

師匠としてそれは余りにも無念で仕方がない。

スバルは大丈夫だろうか?

あの子は優しい子であるが、甘えん坊で、寂しがり屋だ。

ギンガも普段はスバルの姉と言う立場で真面目に振舞っているが、私が居なくなった後、責任感で押し潰されないか心配だ。

ゲンヤさんも残されたギンガとスバルをちゃんと育てられるだろうか?

あの人、少し家事が苦手な面もあるし。

あぁーダメだ‥‥

物凄く眠い‥‥

重くなる瞼‥‥

私は目を閉じ、意識を失う前に、

ゲンヤさん‥‥ギンガ‥‥スバル‥‥

どうか、私の分まで生きて‥‥幸せに‥‥ね‥‥そして‥‥約束を破って‥‥ごめんね‥‥。

と、家族の幸せを願って私の意識はブラックアウトした‥‥‥

 

 

死より強いもの、それは、理性ではなくて、愛である。

                                 トーマス・マン より

 

 

それからどれくらいの時間が経っただろうか?

 

‥‥暗い‥‥それと何やら暖かい‥‥?

 

んんっ!? 

 

体が‥‥押し流れる―――――――!?

 

ま、眩しい‥此処は一体どこ何だろう? 

 

 

「生まれたか!?」

 

誰かが‥‥?

 

男の人の声がする。

 

薄目を開けて見てみると、看護服を着た女性とスーツ姿の男性の姿が見える。

 

「加奈、よく頑張った!!見ろ、お前に似た可愛い女の子だぞ!!」

 

男の人が抱き上げ、ベッドで横になっている母らしき人の横に私を横たえる。

なるほど、さっきのは母親の胎内で、私は今、産まれた所のようだ。

 

 

 

 

えっ!?

 

ちょっと待って!!

 

私はさっき、死んだ筈‥‥

 

それがなんで、今生まれた事になっているの!?

 

それにカナって誰?

 

私の母親はカナと言う名前ではなかった。

 

混乱していた私の意識は再び強い眠気によって薄れていった‥‥‥。

 

 

それから暫くして私の立場が判明した。

今の私の名前は本田加奈江。

本田彰仁と本田加奈との間に生まれた本田家の長女‥‥

しかし、私はただの本田家の長女ではない‥‥

かつて仕事の合間、暇つぶしで読んでいたネット小説でよく目にした転生者というやつだ。

そして、生まれた世界はミッドチルダではなく、地球と言う星だった。

生まれ変わった私には、リンカーコアが無かった。

つまり、この世界での私は魔導師ではなく、非魔導師。

レジアス本部長やゲンヤさんと同じ、普通の人間となって生まれ変わった。

地球‥‥

この世界(星)の名前はよく知っている。

夫だったゲンヤさんのご先祖様も地球と呼ばれる世界出身者であり、また本局に在籍していたグレアム提督の故郷であり、ギンガたちを保護した翌年、第97管理外世界で起こったPT事件、闇の書事件において事件解決の為に管理局に貢献したのは僅か九歳の現地に住む少女だった。

その少女が住む世界、第97管理外世界も地球と言う名前だった。

しかし、私が今いる地球はミッドで噂されている地球とは随分と文明の発展力に差がある気がした。

だが、そんな事は、私は特に気にしていない。

何の因果か分からないが、死んだ筈の私は今、こうして生きている。

生きていれば、ゲンヤさんやギンガ、スバルとまた会えるかもしれない。

私はそんな可能性を信じてこの世界を生きて行こうと決めた。

 

 

私がこの世界(地球)に転生してから早十七年の歳月が流れた。

十七年経った私の容姿はどういう訳か、前世の私と同じような容姿をしていた。

ただ、日本人としての血が流れているため、前世では青かった髪は黒い髪だ。

それ以外は前世と同じ容姿だった。

ギンガもきっと十七歳になったらこんな感じになるのだろうかと思った。

あの子は、スバルより私に似ていたから‥‥。

しかし、未だにミッドに残してきた家族と会える兆しはない。

 

 

「ごきげんよう」

 

爽やかな朝にお嬢様挨拶がこだまする。

落ち着いた色合いのセーラー服にベレー帽‥‥昨今珍しい清楚な制服。

私立、白百合女学館。

幼稚舎から大学までの一貫教育のある明治時代後期から現在まで続く伝統あるお嬢様学校である。

 

開校当初は華族専門の学校だったが、時代の波、そして戦争による敗戦で華族制度が廃止となり、こうして入学試験に合格した女子は誰でも入学が出来る学校となった。

受験時当時、特に「この学校に行きたい!!」と言う希望はなかったし、この学校は元々母や祖母の母校だったらしく、母が「祖母母娘、三代に渡って女学館で学ぶのがママの夢だったのよ~」と、言われ、親孝行目的もあったし、実家からも近いのでこの学校に入った。

前世では、高校生活と言うものを行わなかったから、個人的にも高校生活と言うものにも興味があった。

何故私が前世において高校生活を行っていなかったのかと言うと、ミッドの中学卒業後に管理局の訓練校に入った為である。

それに同じく前世では私の両親は早くに亡くなったので、この後世では、両親に親孝行と言うものをしたかった。

まぁ入学試験の時にはかなり、苦労したけど、私は何とか母の願いをかなえる事が出来、このお嬢様学校へと入学する事が出来た。

 

入学当初は初めてのお嬢様学校と言う事で戸惑いはした。

前世を含め、お嬢様とは縁が無かったし、私自身お嬢様と言う柄では無かったからだ。

しかし、入学してから半年も経てば慣れてくる。

入学時、幼稚舎・初等部・中等部から持ち上がりが殆どの中で私は外部入学者。

とは言え、一学年の人数は多く、初めて同じクラスになるような場合も多い。

学校に‥クラスに馴染めるか不安だったが、すぐに仲の良い友人も出来て、まずまずのスタートだった。

 

「ごきげんよう、本田さん」

 

「ごきげんよう」

 

高校に入って二度目の春が来た。

 

 

そして、この年、私はあの人と出会った‥‥。

 

 

‘春一番’

 

この日は正に、その名に相応しい陽気。

しかし、天気は良いが、朝から風が強い日だった。

授業が終わり、他の学生も帰宅する姿がチラホラ見える。

かく言う私もその中の一人だった。

 

「きゃっ!!」

 

朝よりは風が弱まったと言え、時々突風が吹く。

皆、スカートと帽子を抑え、更に髪を抑えなければならない状況。非常に歩き難いし、気を使う。

そう言う私も例外ではなく、髪が酷い状況だった。

強風に騒ぎながら友人達と別れ、自宅への道を歩く。

 

「あ~、もう髪がぐちゃぐちゃ。春が来るのは良いけど、風強すぎよ。この風、明日にはおさまっていればいいけど‥‥」

 

帽子とスカートを抑えながら歩いてはいるもののかなり歩き難い。

しかも片手には鞄を持っているのだから尚更だ。

 

「っ、キャ!!‥‥あぁーっ!!」

 

一瞬強風が吹きとっさに私は帽子を抑えようとしたのだが、反応が遅れてしまった。

被っていた帽子は風で飛ばされ、正面から歩いてくる人の方向に飛んでいった。

その人は一瞬驚いた様子でとっさに私の帽子を掴もうとしてくれたのだが、あと一歩届かず私の帽子は街路樹に引っ掛かってしまった。

 

「あぁ~、もう最悪!!」

 

私は帽子の引っ掛った街路樹を見上げた。

そんなに高くはないが、今の私の身長では届かない。手を伸ばしても無理だろう。

こんな時に魔法(ウィングロード)が使えたらすぐに取れるのに‥‥

今更ながら、非魔導師であるこの体が恨めしい。

そんな風に思いながら、私は困ったように街路樹を見上げ、立ち止まった。

だから、横から突然声をかけられた時、私は驚いた。

それも二重の意味で‥‥。

 

「すまない。突然の事で掴めなかった」

 

「えっ!?」

 

まさか、正面を歩いていた人が今もソコにいるとは思ってもいなかった 。

しかも、逆に謝られた。

そして、その人の声は、前世で私の夫だったゲンヤさんの声にとてつもなく似ていた。

 

「あっ、いえ、こちらこそスミマセン。気にしないで下さい」

 

私は平然を装いながらその人にそう答えた。

 

「いや、掴みそこねた俺もいけなかった。流石に君ではこの高さでは届かないだろう?」

 

そう言うと、その人はスルスルと木に登り、私の帽子を取ってくれた。

 

「ありがとうございます」

 

私は帽子を受け取り、その人にお礼を言った。

 

「いや、かまわない。今日は風が強いし、こういう事もあるだろう」

 

その人は今では珍しい詰襟の学生服を着ていた。

襟の部分には錨の形をしたピンバッチがついている。

自分より身長は高く、真面目そうで落ち着いた雰囲気のある人だった。

 

「今日は本当にありがとうございます」

 

と笑顔で御礼を告げた。

一瞬、彼が固まった気がしたが彼も微笑んでくれたので安心した。

あの後、二~三言程話し、私はその人と別れた。

互いに存在を気にしつつも引き留める事など出来ない。

 

(また会えるだろうか?)

 

ゲンヤさんと同じ声を持つ人‥‥。

私は言葉に出さずとも、互いに胸に思いを秘めたまま、家へと帰った。

 

 

その後、あの人と会うことなく月日が過ぎ、初夏が近づいた。

学生の楽しみの一つ、夏休みが迫っていたのだが、その前に突破しなければならない関門があった。

期末テストと言う名の関門だ。

 

 

テスト、それは学生たちの怨敵!!

テスト、それは全ての学生達が見る共通の悪夢!!

テスト、それは大いなる祝福(夏休み)への道を阻む学生にとっては魔の断崖絶壁!!

苦しみ悶える難関(テスト)の前では武術の才など何の意味を為さない。

私達学生の宿敵を打ち破る為に必要なのは、脳に詰め込んだ情報量とその応用力。

 

 

‥‥‥と言う訳で、

私はその宿敵を打ち破り、一夏の休暇を勝ち取る為、学校の帰りに大型書店に寄る事にした。

大型書店だけあって品揃えも良く、目当ての参考書コーナーに向かう。

そして、お目当ての参考書を見つけ、手を伸ばすのだが、

 

「ん~ん‥‥と、届かない‥‥」

 

今の私の身長では届かなかった。

それでも、どうしても試験勉強には必要なので、私はその参考書を必死に取ろうとした。

 

「ん~、もうっ!身長があともう、五㎝欲しいっ!もう少し、棚を低くしてくれれば良いのにっ!!もう、皆が身長高い訳じゃないのよ!!」

 

参考書が取れずについつい愚痴ってしまう。

その時、

 

―――スッ

 

「えっ!?」

 

誰かの手が私の取ろうとした参考書に伸び、

 

「この本で合っているだろうか?」

 

私に差し出してきた。

私は驚いたままその参考書を取ってくれた人物を見上げているだけだった。

 

「えっと‥‥この本ではなかったか?」

 

黙っている私を見て、バツ悪そうに、その人は尋ねてきた。

 

「っ!? は、はい。スミマセン。合っています。どうもありがとうございます!!」

 

私は慌てて本を受け取り、その人にお礼を言った。

 

「いや、俺の方こそ驚かせてしまったようだ。すまない」

 

「あっ、突然で驚いたのもあるんですけど‥‥えっと‥‥この前、帽子を取ってくださった方ですよね?それに驚いてしまって‥‥」

 

「あっ、あぁ、覚えていたのかい?」

 

「はい。あの時は助かりました。そして今回もありがとうございます!!」

 

その後、暫くその場で互いの事について話しをしていたが、他人の邪魔になるのではないかとの話しになり、どちらともなく、近くのカフェに移動した。

 

偶然にも再会した私達は、本屋から近くのカフェに移動し、互いの事について話をした。

 

「それじゃあ改めて、防衛軍士官学校三年の中嶋源三郎です」

 

「私立白百合女学館二年の本田 加奈江です」

 

互いに自己紹介をした後、話題は尽きず、時間は足りなかった。

二人は時間を忘れたかのように様々な事を話し、互いの連絡先を交換し、この日は分かれた。

 

(ナカジマ‥‥ゲンヤさんと同じファミリーネーム‥‥ゲンヤさんと同じ声に同じファミリーネームを持つ人‥‥これは偶然なのかしら?)

 

私は源三郎さんとの出会いをただの偶然とは片付けられず、彼との出会いに運命的なものを感じた。

なお、余談であるがこの時、入った翠屋と言う喫茶店のシュークリームはとても絶品だったので、私は今後もこの翠屋に行こうと思った。

 

 

あれから源三郎さんと何度か会い、メールや電話のやり取りを何度も行った。

ただ、源三郎さんは防衛軍の士官学校の生徒故、そう簡単に会える訳ではなかった。

そんな中、私は期末テストと言う夏休み前の最大の難関に打ち勝ち、今は夏休みを謳歌している。

でも、源三郎さんと会えないのはやはり寂しい‥‥。

そんな夏休み中のある日、私は気分転換に友人と二人で街へとショッピングへ出かけた。

翠屋でティータイムをし、百貨店で友人と水着やパジャマ、下着を見たり、アクセサリーショップに入り、アクセサリーを買ったり、私と友人は夏休みの一時を楽しんだ。

 

そしてその帰り道‥‥

 

「よぉ彼女達~。俺達と遊ばない~?」

 

「面白いとこ知ってんだよねぇ~」

 

「俺達。退屈はさせないよぉ~」

 

見知らぬ男達に声を掛けられていた。

これが俗に言う『ナンパ』と言うものなのだが、連中の目つきや気配から下心が丸見えである。

 

「か、加奈江‥‥」

 

友人はこの様な体験は無いのか、すっかり怯えて私の服を震えながら掴んでいる。

私の場合は、前世でこんな連中よりももっとおっかない次元犯罪者達を相手にしてきたので、怖いとは思わないし、魔法やシューティング・アーツは使えないけど、この世界に転生して「合氣道」「空手」「柔術」といったこの国独自の格闘技を学んできた。

当初は、両親に反対されたが、「護身のため」と言ったら、あっさりと了承してくれた。

それなので、

 

「はっきり言ってお断り。貴方達に付き合うような暇は無いのよ。さっ、行きましょう」

 

私は友人の手を引いて、男達を無視して通り過ぎようとしたが、

 

「そう言うなよ。楽しもうぜ~」

 

男の一人が手を伸ばしてきたので、

 

――パシンッ!!

 

「付き合う暇は無いって言ったでしょう!!はっきり言うけど馬鹿は馬鹿でもツマラナイ馬鹿を相手にすると疲れるのよ!!貴方達、自分がどれだけ間抜けで滑稽に見えるか理解していますか?」

 

私は男の手を払いのけて、拒絶の姿勢を貫く。

すると、言われた方は急激に頭に血が上ったようで、

 

「此のアマ!人が優しく言ってりゃぁ、つけ上がるんじゃねぇ!!」

 

「こっちが下手に出てりゃ図に乗りやがって!!」

 

激昂して、一人は殴りかかってきたが、

 

「てぇぇぇい!!」

 

殴りかかってきた男の手を掴んで、勢いのまま投げ飛ばす。

 

「このクソアマ!」

 

今度はナイフを取り出してきた。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

ナイフを持った男が私に来たが、

 

 

――ドガッ!!

 

突然、横から入って来た拳で、男はノックアウトされた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

ナイフ男をノックアウトしたのは、源三郎さんだった。

 

「え、ええ。ありがとうございます‥‥ほら、貴女もお礼を‥‥」

 

怯えきっている友人にそう促すと、

 

「あ、ありがとうございます」

 

怯えながらも友人は源三郎さんにお礼をいった。

 

「て、テメェ!!その制服、防衛軍の士官学校の制服じゃねぇか!!」

 

一人の男が源三郎さんを指さしながら、叫ぶ。

どうやら士官学校の制服は結構有名の様だ。

 

「士官学校の生徒が民間人に暴行していいと思っているのかよ!?」

 

「何言っているのよ!?これはどう見ても非が有るのは貴方達の方じゃない!!」

 

「そ、そうよ。ナイフまで取り出して‥‥」

 

友人も士官学校生の宗次郎さんが来てくれて、不安や恐怖が若干和らいでいる。

 

「へっ、そう言っていられるのも今の内だぜ。おい、行くぞ‥‥」

 

男の一人がニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、捨て台詞を吐くと、何故か男達はその場からあっさりと去って行った。

私はその後にあの男が言い残した言葉の意味を知る事となった。

 

それから暫くして、源三郎さんが士官学校を放校処分されるかもしれないと言う話を聞いた。

噂では、源三郎さんが一方的に民間人に暴行を働いたというものだった。

源三郎さんは処分が決まるまで寮の自室で謹慎させられていると言う。

私は事実を確認する為、士官学校へと赴き、その話を聞いて驚いた。

あの時、捨て台詞を吐いたあの男は何でもとある企業の社長の息子らしく、その男達が言うには、あの日、自分たちは仲間と共に街の中を歩いていたら、一人の士官学校の生徒がいきなり自分たちに金を出せと要求し、それを断ったら殴られたと証言した。

その金銭を要求し、暴行を働いたのが源三郎さんだと言うのだ。

余りにも無茶苦茶で出鱈目な話に私は憤慨し、あの時一緒に居た友人を急いで呼び、士官学校の教官達に事の真相を話した。

教官達も被害者面をしているあの男たちの証言全てを鵜呑みにしている訳ではないが、あの男の親の会社と言うのが、どうも軍需産業系の会社で防衛軍上層部の天下り先や何かと融通を聞かせているらしく、教官たちもそう簡単に逆らえないと言う。

このままでは、源三郎さんは士官学校を放校されてしまう。

悪いのはあの連中なのに、何故、源三郎さんがこんな酷い仕打ちを受けなければならない?

余りにも理不尽だ。

そもそもあの騒動の原因の一因は私でもあるのだ。

私は何とか、源三郎さんを救う事が出来ないものかと悩んだ。

しかし、一学生である自分にそんな事が思いつくはずが無く、

 

「はぁ~」

 

思わず溜息が出る。

魔法も無く、権力も無い今の自分は余りにも無力だ。

目の前にある好物の翠屋特製のシュークリームにもカフェオレにも手をつけずに、溜息ばかりが出る。

そこへ、

 

「あら?どうしたの?溜息なんてついて?」

 

翠屋のパティシエール兼オーナーである高町桃華さんが、声をかけてきた。

 

「桃華さん」

 

私はどうしていいのかわからず、桃華さんに相談した。

すると、桃華さんは、

 

「分かったわ。私に任せて、中嶋さんは私が何とかしてみるから」

 

と言った。

それから、すぐに源三郎さんの放校処分は撤回され、反対に源三郎さんを放校処分に追いやろうとしたあの男たちが、警察に捕まり、あの男の親の会社は買収され、社長‥あの男の親は会社を解雇されたと言う。

私は桃華さんにお礼を言って、どうやって放校処分を撤回させたのかを尋ねるが、桃華さんは、「お友達に凄い人がいる」というだけで、詳しい事は教えてくれなかった。

どんな手を使ったにせよ、源三郎さんの放校処分が撤回された事実に私は喜んだ。

それから色んなことがあったけど、私達は長い交際の末、結婚した。

 

そして、西暦2188年‥‥。

 

「おぎゃあっ!!おぎゃあっ!!」

 

とある病院内で産声が響き渡る。

 

「っ!?生まれたか!?」

 

そわそわと病院中を歩きまわっていた源三郎はたった今、産声の聞こえた分娩室に足を向ける。

分娩室へと案内された源三郎が見たのは、出産の疲れを見せない満面の笑みを浮かべながら、産声をあげる小さな赤子を抱えている加奈江の姿だった。

 

「見て!元気な女の子よ!」

 

その子が後に『桜花』と名付けられる源三郎と加奈江との間に生まれた子供の誕生した日だった。

 

 

前世においてゲンヤさんと何度か体を重ねた事はあるが、出産と言う体験はこれが初めてだった。

学校の授業で聞いてはいたが、これは思ったよりもきつい体験だった。

しかし、前世ではかなわなかった、お腹を痛めて生んだ我が子の誕生には言葉では言い表せない喜びがあった。

桜花が生まれて三年後の西暦2191年、地球はガミラス帝星と言う謎の宇宙人からの攻撃を受け始めた。

この世界の軍事において素人である私から見ても、ガミラスの科学技術力は地球やミッドをも凌ぐ力を持っていた。

そして地球はガミラスの猛攻と遊星爆弾によって次第に追い詰められていき、等々その居住域を地上から地下へと移した。

私たち地球人はそれでも何とか懸命に生き延びたが、それでも地球人類滅亡のカウントは止まることなく進み、地球は次第に追い詰められて行った。

 

 

 

 

ガミラスとの戦争から約四年が経った西暦2195年、私は源三郎さんの紹介でその人と会った。

 

「加奈江、彼が今度新人研修で、俺の下で働く事となった」

 

「つ、月村 良馬です。よろしくお願いします」

 

中性的な顔立ちの青年、月村良馬君とこの時私は初めて出会った。

 

良馬君は本来宇宙艦隊勤務であったのだが、今は一時的に地上勤務で源三郎さんの下で働くことになっているらしい。

桜花も良馬君に懐き、二人は兄妹の様な関係になった。

それから、良馬君の従姉のリニスさんって方も桜花にとって姉の様な存在となった。

こうした微笑ましい光景の中、地球はガミラスの攻撃により、どんどん追い詰められていった。

地上は元より地下をも着実に侵し始めた人体に有害な放射能。

食糧や生活必需品をめぐる事情によって引き起こされる暴動騒ぎ。

誰もが地球の未来に絶望し、狂気へと駆られている。

そんな中、私が高校時代からの親友であった桃華さんが、病気のため、この世を去った。

桃華さんの所には二人のお子さんがいた。

二人の事は気になるが、上のお子さんは良馬君と同じ防衛軍軍人の様で、収入面では問題ないので大丈夫だと言っていた。

それでも何か困った事があれば、力になると私は二人に言った。

 

それから更に四年が経った西暦2199年。

 

地球人類はまさに風前の灯火と言って良い状況下だった。

そんな中、良馬君は宇宙巡洋艦の艦長、高町さんの家の上のお子さんは宇宙駆逐艦の艦長となり、何度も宇宙でガミラスと戦い無事に帰ってきてくれるけど、私はとても不安でならなかった。

そんなある日、

 

「こんにちは」

 

「はーい」

 

宇宙から帰って来た良馬君が家に来た。

元々、良馬君とリニスさんは、家を下宿として使用しているので、今日帰って来たと言う事は、暫くは地球に居ると言う事なのだろうか?

玄関で出迎えた私を良馬君は神妙な面持ちで見つめていた。

私はこの時、何か嫌な予感がした。

立ち話も何なので、リビングへと二人を招き入れる。

良馬君とリニスさんにお茶を出すと、良馬君が口を開いた。

 

「明日、冥王星へ出撃します」

 

「えっ!?」

 

つい最近、地球に帰って来たばかりなのにまた直ぐに出撃すると言う。

 

「それで、加奈江さんには預かっていただきたい物があります」

 

「何かしら?」

 

良馬君とリニスさんは無言でそれぞれ懐から白い封筒を取り出し、私の前に差し出した。

そこには筆文字で「遺書」と書かれていた。

 

「っ!?」

 

「もし、俺達が今度の戦いで戦死した場合、俺の親友‥‥いや、その方々も来なかったら、加奈江さんか中嶋さんが忍さんに渡して貰えませんか?それと之は、中嶋家の皆さんに‥‥もし、俺が帰ってきたら、捨てて構いませんが、帰ってこなかったら開いてください」

 

もう一通渡された封筒にも「遺書」と書かれていたが隅に小さく「中嶋家の皆さんへ」と書かれていた。

 

「‥‥」

 

遺書を手渡され、私は何も言う事が出来なかった。

 

「それじゃあ、桜花ちゃん、元気でね」

 

良馬君は玄関先で桜花の頭を撫でている。

 

「う、うん‥‥良馬さんもリニスさんも早く帰ってきてね」

 

桜花も何となくだが察しているのだろう。

良馬君とリニスさんがこれから何処へ行くのかを‥‥。

もしかしたら、良馬君が帰ってこないかもしれないと言う事を‥‥。

二人のやり取りを見て私は必死に涙を堪えた。

あの時、

前世でナカジマ家を後にした私を見送ったギンガとスバルはきっと同じ様な気持ちだったのだろう。

遠ざかっていく二人の姿を私達親子は二人の姿が見えなくなるまで玄関先で見送った。

 

それから数週間後‥‥。

家の電話が鳴り、私が出ると、それは源三郎さんからの電話だった。

 

「はい、中嶋でございます」

 

「加奈江か?」

 

「はい‥あの‥‥どうかしましたか?」

 

「実は伝えたいことがニ、三あるのだが‥‥」

 

「何でしょう?」

 

「先日行われた冥王星での戦いは地球側の惨敗だったそうだ」

 

源三郎さんが悔しげな口調で、冥王星で行われた戦いの結果を伝える。

 

「‥‥」

 

やはりそうか、地球の今の技術では、ガミラスには勝てない。

それぐらいは曲がりなりにも軍人の妻をやっている私でもわかる事だ。

 

「それで、良馬君とリニスさんは?」

 

私は冥王星の戦いへ参戦した大切な人達の安否を尋ねた。

 

「無事だ。今、地球に向かっている」

 

「そう、よかった」

 

良馬君は何とか無事に地球へ帰って来るようだ。

私は良馬君が無事と言う事でホッと一息ついた。

 

「それと‥だな‥‥」

 

源三郎さんが少し言葉を詰まらせる。

 

「何か他にも?」

 

「実は、火星付近でガミラスとは異なる宇宙船が突然ワープアウトして来たみたいでな、その船の乗員を月村君が救助したらしんだ」

 

「良馬君が?」

 

「ああ、それで、その船の乗員を家で預かりたいのだが‥‥」

 

源三郎さんの声は少しバツ悪そうだ。

今は、ガミラスとの戦争状態で、例え、ガミラス人でなくとも、異星人と言う事で私が過剰な拒否反応をすると思ったのだろう。

 

「良いですよ。部屋はまだ余っているのだから、例え異星人の方でも困っている時はお互い様ですもの」

 

「そうか、そう言ってもらええるとありがたい。月村君は来週にも地球に帰ってくる予定だ。それまでには準備しておこう。もちろん俺も手伝うぞ」

 

「はい」

 

私が受け入れる姿勢を示したので安心したのか、源三郎さんの声は少し明るかった。

でも、その時の私はまさか、この出会いが、あんなにも意外なモノとなるなんて予想もしていなかった。

 

その日の夜、私は奇妙な夢を見た。

 

 

此処は‥‥もしかしてミッドの地上本部?

私はテレビか映画でも見ているかのような感覚だった。

しかし今、目の前に広がる光景は前世で何度も見た事もあり、実際に来た事もあるミッドチルダ、クラナガンのシンボルとも言える時空管理局地上本部の内部だ。

ただ停電でもあったのか、辺りは真っ暗で非常灯もついておらず、薄暗い。

そんな暗い地上本部ビルの中で、戦闘を行っている者が居た。

前世で私が愛用していたリボルバーナックルと私のバリアジャケットに似たデザインのバリアジャケットを纏うギンガと私が死んだ切っ掛けとなった戦闘機人研究所でゼスト隊長を破ったあの戦闘機人が戦っていたのだ。

 

(いけない!!ギンガ、戦闘機人相手に無暗に突っ込んでは危険よ!!)

 

私は思わず声を上げるが、ギンガには届いていない。

案の定、勝敗はややギンガが不利だった。

ギンガは相手の戦闘機人のIS能力を知らずに戦いを挑み、最初の一撃でダメージを負い、その後は慎重になったのだが、相手に援軍が現れたのだ。

 

(ギンガ、逃げなさい!!その状況じゃ不利よ!!相手を捕まえるよりも自分の事を大切にしなさい!!)

 

ギンガに逃げる様に言ってもやはり私の声は届かない。

三対一の状況にも関わらず、ギンガは逃げる事も無く、尚、戦い続け益々追い詰められ、等々瀕死の重傷を負った。

そんな中、スバルがその現場に到着し、傷ついたギンガの姿を見て、怒りに我を忘れ、目は戦闘機人として稼働している事を示す金色となり、相手に襲い掛かった。

 

(スバル‥‥)

 

姉(ギンガ)の為に怒る事は構わないが、あれ程忌み嫌っていた戦闘機人モードになったスバルに私は悲しんだ。

しかし、奮戦虚しく、スバルも重傷を負い、ギンガは攫われてしまった。

 

「返せ!!ギン姉を返せぇぇぇぇー!!」

 

破壊し尽くされたフロアーにボロボロとなったスバルの絶叫が響いた。

 

 

「ギンガ!!スバル!!」

 

私はそこで目が覚めた。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

嫌な夢だった。

その為か、寝息は荒く体は寝汗をビッチョリとかいていた。

 

(さっきの夢は一体何だったんだろう?‥‥予知夢?‥‥それともミッドのギンガとスバルの身に何か起きたんじゃ‥‥)

 

私は異世界にいるであろう娘達の事が心配になったが、確認の方法が無く、暫くは不安な日々を過ごした。

 

それから約一週間の時が経った。

良馬君とリニスさん、それに救助した宇宙船の乗員の方が家に来る日となった。

 

「只今!!」

 

玄関から源三郎さんの帰宅を知らせる声がした。

 

「おかえりなさい。お父さん」

 

桜花が源三郎さんを出迎えた様だ。

 

「えっと‥‥そちらのお母さんに似た方は‥‥?」

 

玄関から桜花の戸惑う声がした。

救助した人ってそんなに私にそっくりなのかしら?

まぁ、出迎えれば分かるだろう。

そう思い、私も玄関へと向かった。

 

「お帰りなさい。アナタ」

 

「えっ!?」

 

私は良馬君が救助して、桜花が私にそっくりだと言う宇宙船の乗員を見て固まった。

向こうも同じく、私の姿を見て固まっている。

 

「か、母さん‥‥?」

 

私の目の前にいる人物は、ちょうど、私と源三郎さんが出会ったころの私に似た女性で私の事を「母さん」と呼んだ。

もしかして、この娘は‥‥

いや、間違いない‥‥

この娘は紛れもなく‥‥

 

「‥‥ギンガ?」

 

私は思わず、小さな声で呟いた。

こんな奇跡の様な偶然は存在するのだろうか?

しかし、今の私はクイント・ナカジマじゃない。

中嶋源三郎の妻で、中嶋桜花の母親、中嶋加奈江なのだ。

 

「あっ、ごめんね、学生時代の私にそっくりだったもので、驚いちゃって」

 

私は驚愕した顔を即座に引っ込めて笑みを浮かべる。

 

「紹介しよう、私の妻の加奈江だ」

 

「はじめまして、中嶋加奈江です」

 

源三郎さんが私を紹介したので、私は今の自分の名前を言う。

 

「は、はじめまして。ギンガ・ナカジマです。しばらくの間お世話になります」

 

すると、相手の方も自己紹介するが、やはりこの娘はかつての私の娘、ギンガ・ナカジマだった。

もう、見る事は叶わないと思っていたギンガの成長した姿‥‥できればスバルの成長した姿も見たかったが、こうしてギンガの成長した姿を見る事が出来て、私は嬉しさを感じた。

ギンガはしばらく家に滞在する事となり、桜花も顔には出さないが喜んでいるみたいだ。

良馬君は、他にやる事が有るのか、また直ぐに源三郎さんと一緒に家を後にした。

 

「改めて見ると、ホント、ギンガさんとお母さんはそっくりですね」

 

リビングで桜花がギンガと私を見比べて言う。

今の私の容姿は何の因果か?前世の私の髪の毛の色以外容姿がまるっきり同じなのだ。

一方、ギンガの方も同じような事を考えていた。

 

(母さんと同じ容姿‥‥でも、名前も髪の毛の色も違う‥‥それに母さんが生きているわけないじゃない‥‥あの時、確かに母さんは死んだ筈だもの‥‥)

 

ギンガは三笠で出会ったディアーチェとはやてが似ている事もあって、自分の母のクイントと加奈江は他人の空似という結論を出した。

 

翌日の朝食の席で、電話が鳴った。

 

「はい、中嶋です」

 

「あっ、加奈江さん?良馬です。中嶋さんに代わって貰えませんか?」

 

電話をかけてきたのは良馬君だった。

 

「ええ、居るわよ。あなた」

 

私は受話器を源三郎さんに渡した。

 

「ん?誰からだ?」

 

「良馬君から電話」

 

受話器を渡すと、源三郎さんは良馬君と話始めた。

会話の中には「手続き」「来る」等の言葉が混じっていた。

源三郎さんが電話の受話器を戻すと、

皆が源三郎さんの方に視線を向ける。

 

「お父さん、何かあったの?」

 

「うん。月村君の友人の妹さんが、この前の冥王星での戦いで、お兄さんを亡くして天涯孤独になってしまってね」

 

「それで、その子はどうなるんですか?」

私は源三郎さんにその子の事を訊ねる。

 

「昨日、月村君と一緒にその子に戦災孤児育英法の適用を薦めてきてね、さっきの電話はその子が戦災孤児育英法の適用を受けるという知らせだったんだよ」

 

ギンガが戦災孤児育英法について質問し、源三郎さんがその説明をする。それにしても、その子が戦災孤児育英法を受けてくれてよかったと思う。

恐らくその子の後見を家で務めるのだろう。

 

「加奈江さん、それで‥‥」

 

案の定、源三郎さんが頼み込む様な仕草をとる。

 

「分かっています。その子を家で保護をするのでしょう?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「構いませんよ。こんなご時世ですもの。子供たちは地球の希望ですから。そしてその子供たちを育むのは私たち大人の当然の役目ですから」

 

私はギンガに続き、その子も受け入れる事にした。

 

夕方になり、その子が源三郎さんと良馬君と共に家にやって来た。

 

「紹介しよう。今日から一緒に住むことになった、高町紅葉ちゃんだ」

 

「た、高町紅葉です。よ、よろしくお願いします」

 

「よろしくね、紅葉ちゃん。私は中嶋 加奈江って言うの。 私の事はお母さんと思ってもいいのよ」

 

私は微笑みながら紅葉ちゃんを迎えるが、これは私にとって痛恨の極みだった。

桃華さんが亡くなり、紅葉ちゃんとそのお兄さんが親戚の人の家に預けられた後、私はそこで安心しきって、紅葉ちゃん達のことをすっかり忘れてしまっていた。

まさか、お兄さんが亡くなる前に親戚の方々も亡くなっていたなんて。

いくらガミラスとの戦争で生活が苦しく大変な中でも、桃華さんの親戚の方々とも、もっと交流を深めておくべきだった。

これでは、桃華さんに合わせる顔がない。

そんな罪悪感が私の心の中に駆け巡った。

 

夕食の準備の時、紅葉ちゃんは私の事を手伝ってくれた。

勿論娘の桜花も手伝ってくれた。

ギンガは前世の私の遺伝子を受け継いでいるため、常人よりも多く食べる。

それはこの世界でも変わりなかった。

今の地球は、食糧事情が逼迫している。

ギンガにとってこの世界は住みにくいだろう。

だからこそ、私は少しでもギンガの胃袋を満足させるため、この世界独自の食事療法と言うものを行った。

それが、日頃からバランスの取れた美味しい食事をとることで病気を予防し、治療しようとする考え方、医食同源と言う考えだった。

月村さんから頂いている漢方薬を材料として使った薬膳は思いの外効果があった。

それに紅葉ちゃんと何かの訓練‥‥恐らくリンカーコアの制御をしている様で、その効果もあった。

 

地球防衛艦隊が壊滅した冥王星海戦から、暫くして、防衛軍は大昔の戦争で沈んだ戦艦を修理し、イスカンダルと言う星にある放射能を除去する機械を受け取るための計画を立案し、ヤマトと言う名の戦艦をイスカンダルへと向かわせた。

そんな中、源三郎さんや良馬君はヤマトに乗艦せず地球に残った。

そして、ある日、良馬君の様子がおかしかった。

日に日に目の下の隈を濃くしていく良馬君に私は訊ねた。

 

「ねぇ、良馬君」

 

「なんでしょう?」

 

「良馬君、ちゃんと寝ている?」

 

「えっ?ええ‥‥でもなんでそんな事を?」

 

「良馬君、この頃、目の下の隈が少しずつ濃くなってきているから‥‥」

 

「だ、大丈夫ですよ。俺は軍人ですよ。体調管理ぐらいちゃんと出来ますから」

 

「そう?ならいいんだけど‥‥」

 

私はなんだか煮え切らないながらもこの場でその話題を打ち切った。

日に日に目の下の隈を濃くしていく良馬君であったが、ある日を境に目の下の隈を薄くしていった。

私は一安心したが、その反面、ギンガとリニスさんが互いにいがみ合っている様な気がした。

一体何があったのだろう?

ヤマトが太陽系を後にした後、良馬君は太陽系惑星の資源輸送護衛のため、暫く地球を留守にした。

そしてヤマトが冥王星にあるガミラス軍基地を破壊したため、地球は漸く遊星爆弾からの脅威が去った。

しかし、放射能の脅威は依然として地球に残っている。

その間、桜花と八神さんの所のお嬢さんを巻き込んでの誘拐事件が発生した。

ギンガもその件に首を突っ込んで、私は思わず二人を叱った。

どれだけ、心配しただろうか?

どれだけ八神さんに申し訳ないと思ったか?

後日、桜花共々八神さんの家にお詫びに行った時、桜花は本当に反省した様子で、その桜花を見て、八神さんは桜花の事を許してくれた。

 

桜花たちの誘拐事件が解決してから、暫くして、

 

「加奈江さん‥‥」

 

「ん?何かしら?」

 

「私、あの話、受けようと思います」

 

「本当に!?」

 

「‥はい」

 

「ありがとう!!桜花もきっと喜ぶわ!!」

 

以前、ギンガに話した中嶋家の養子入りの件をギンガは了承してくれた。

前世同様、この後世でもギンガを養子に入れるのは何となく不思議な感覚がしたが、それでも、私は嬉しかった。

しかし、その反面、ギンガにはミッドで待っているであろうゲンヤさんやスバルの下に還してられなくなる罪悪感もあった。

そしてギンガは家(中嶋家)の養子となったが、それと同時に防衛軍軍人にもなりたいと言ってきた。

何故、防衛軍軍人になりたいのか理由も尋ねて、ギンガの言い分も聞いたが、当然私も源三郎さんも反対した。

ギンガは私がいなくなった後も、こうした理由で管理局員になったのかと、思った。

しかし、あまりにもギンガの熱心な態度に遂に私たちは折れ、ギンガの防衛軍士官学校への入学を認めた。

だが、良馬君だけは最後までギンガの防衛軍の士官学校への入校に関して反対をしていたが、忍さんの登場によって呆気なく敗北し、ギンガは防衛軍の士官学校へ入校していった。

 

西暦2200年になり、ヤマトが地球に帰って来た。

地球はギリギリの所で救われた。

 

地球が救われ、復興していく中、ギンガは無事に士官学校を卒業した。

しかし、すぐに配属先は決まらず、暫しの間自宅待機を命じられた。

その間、ギンガにある変化があった。

妙に良馬君の事を意識している様なのだ。

チラチラと良馬君の事を見ては、視線を逸らしている。

当然、その視線には良馬君も気が付いている。

だが、敢えてその事については触れていない。

ギンガが良馬君に送る視線‥‥それは、恋する乙女の視線だった。

その仕草、その視線‥私にも覚えは有る。

協力はしたかったが、恋愛に関しては当人達の問題なので、こればっかりは、何とも言えなかった。

私が見ても良馬君は、いい男だ。私としては、ギンガの恋愛が実る事を祈るしかできなかった。

 

ある日の朝食の席で良馬君は遅くまで仕事をしていた様で、髪の毛はボサボサで眠そうな顔をしている。

今日はリニスさん達と買い出しに出かけるが、良馬君は、朝食後に眠ると言う。

私はそこで、とある考えが閃き、今日一緒に買い出しへ出かけるギンガに買い出しが終わったら、先に帰って良いと言って皆で買い出しへと出かけた。

目立った協力は出来ないが、やっぱりきっかけを与えるぐらい良いかと思った。

その結果、ギンガと良馬君は上手くいった様子だった。

 

その翌日‥‥

 

私が台所で朝食を作っているとギンガが来た。

そこで見たギンガは一皮むけた様に見えた。

 

「あら?ギンガ、なんだか、昨日よりも綺麗になってない?」

 

「そうですか?特に変わらないと思いますけど‥‥?」

 

ギンガは特に気にしていない様だが、私にはそう見えた。

 

「うーん、何て言えばいいのかな?一言では言えないけど、なんだか、昨日よりも少し大人っぽく見えるから‥‥」

 

「えっ!?」

 

私の感想にギンガはドキッとした様子。

そこで、私はカマをかけてみた。

 

「昨日、何か有ったの?」

 

「い、いえ。べっ、別にそんな事は‥‥」

 

「そう?私の勘違いかしら?」

 

「きっとそうです!!」

 

ギンガが強引にこの話を打ち切った。

その後、朝食の準備も一段落ついたので、

 

「それじゃあ、ギンガ。悪いんだけど、桜花と紅葉ちゃんを起こしてきてくれるかしら?後は、私がやっておくおから」

 

「はい」

 

ギンガは桜花の部屋に向かう。しかし、その歩き方はどこかぎこちないようだった。

 

(やっぱり、ギンガ‥彼と‥‥)

 

私の経験からギンガは彼と‥‥良馬君と体を重ねたのだと確信した。

 

その日の夜、

私は良馬君に呼ばれて彼の部屋で彼と二人で話をした。

 

「単刀直入に言います。まず、ギンガと交際する事になりました」

 

「まぁ~。それはおめでとう。母親の私が言うのもなんだけで、ギンガは良い娘でしょう?美人だし、気立ての良いしっかり者だし」

 

「は、はい」

 

「そ・れ・で・・どこまでいったの?」

 

「は、はい?な、何がですか?」

 

「決まっているじゃない。ギンガとどこまでいったかって聞いているのよ」

 

「そ、それは‥‥」

 

「ギンガ、良い身体していたでしょう?」

 

「っ!?」

 

良馬君の反応で私の予想は間違いなく、彼は昨夜ギンガと事を交えたと思う。

彼の反応はとても初々しかった。

 

その後、彼は真剣な表情である事を私に聞いて来た。

 

「それと加奈江さん、以前からどうしても聞きたかったことがあるんですが‥‥」

 

「何かしら?」

 

「ギンガが初めて来た日、加奈江さん玄関口で小さくギンガの名前を呟きましたよね?あの時、加奈江さんにはギンガの名前をまだ教えていないし、源三郎さんも玄関先で初めてギンガを加奈江さんや桜花ちゃんに紹介した筈なのに‥‥」

 

「‥‥」

 

「どうして、加奈江さんは紹介される前にギンガの名前を知っていたんですか?ギンガなんて名前、そうそうある名前ではありませんし‥‥」

 

まさか、あの時、呟いたギンガの名が聞こえていたなんて予想外だった。

てっきり聞こえないと思っていたのに‥‥。

戦闘機人であるギンガならば聞こえていたかもしれないが、ギンガはその問題に未だに尋ねてこないところを見ると、前世の私とそっくりな今の私を見て、気が付かなかったのだろう。

しかし、良馬君には聞こえていた。

ここは、ごまかしようがないな‥‥。

 

「参ったなぁ~聞こえないと思っていたのになぁ~」

 

私は良馬君から視線を逸らした。

口元には自然と自嘲の笑みが浮かぶ。

 

「加奈江さん、それで‥‥」

 

「ねぇ、良馬君」

.

「はい」

 

「輪廻転生って知っている?」

 

「輪廻転生?それって確か‥‥」

 

そして私はこの世界に転生した経緯を良馬君に教えた。

 

「それじゃあ、そういう事だから、くれぐれも他の人には言わないでね」

 

良馬君がギンガに私の事をバラすとは思えないが、この世界にギンガがいる以上、無用な混乱は避けたかった。

今でこそ、ギンガは中嶋家の養子であるが、前世の記憶がある自分が居れば、気まずさと罪悪感が伴う。

ギンガやスバル、ゲンヤさんがミッドで私の居ない生活をしている中、私は源三郎さんと桜花の二人とミッドでの変わらぬ様な家庭を築いていた。

ギンガはきっと私を許さないだろう。

私はギンガに拒絶されるのが怖かった。

だからこそ、私は良馬君に口止めをしたのだ。

私はなんて卑怯な人間なのだろう。

本当、自分でも嫌になるくらいだ。

 

「ギンガの事、お願いね。あの子、意外と脆い部分もあるからちゃんとカバーしてあげてね」

 

私は罪悪感を感じながらも良馬君にギンガを託し、良馬君の部屋を後にした。

 

それから暫くして、ギンガの配属先が決まった。

地球防衛軍女性宇宙戦士用の制服の上に士官用ジャケットを纏ったギンガがとても凛々しく見えた。

 

「素敵よ、ギンガ、とっても良く似合っているわ」

 

「うん、ギンガもこれで、晴れて防衛軍の一員だな」

 

「ギンガ姉さん、カッコイイですよ」

 

桜花も目を輝かせてギンガを見ている。

我が娘ながら、立派だと思ってしまうのは決して親バカではないと思う。

 

そして、いよいよ明日に出撃を控えた日の夜、

夜中に唐突だが、私は喉が渇いたので、台所で水を飲んだ後、部屋に戻ろうとした時、良馬君の部屋からギシギシと何かが軋む様な音と声が聞こえた。

気になってドア越しに耳をたててみると、

ギンガの喘ぐ声が聞こえた。

ギンガが甲高い声をあげ、暫くは二人の荒い息遣いが聞こえたが、

呼吸を整えた後ギンガは、

 

「もっと‥‥しましょう?」

 

と、良馬君を誘う。

そして、再びギンガの喘ぐ声とギシギシと軋む音がした。

それから私は暫く聞き耳をたてていたのだが、

之で何度目のやり取りだろうか?

良馬君とギンガが互いに何度も身体を求め合っていた。

何度も良馬君の身体を求めるギンガもギンガだが、それに付き合う良馬君も意外と絶倫だと思う。

私は良馬君もギンガも若いわねぇ~と思うのと同時に、孫の顔を見るのもそう遠くないなぁ~と思いつつ、二人の影響を受けたのか、少し体が火照ってきた。

ガミラスとの戦争も終わった事だし、そろそろ桜花の弟か妹を生むのも悪くないかなと思いつつ、私は部屋へと戻った。

 

その翌日、良馬君は朝、ギンガよりも先に家を出た。

彼が出る際私は、

 

「昨夜は随分とギンガとお楽しみだったみたいね?」

 

「‥‥」

 

ニンマリと笑いながら、昨夜の事を聞く私に対し、良馬君は顔を赤くし俯く。

 

「ギンガの事、よろしくね」

 

「はい」

 

良馬君は軍帽を被り直し、家を後にした。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「気をつけてね」

 

「いってらっしゃい」

 

次に朝食を摂り、制服に着替えたギンガがトランク片手に中嶋家を出た。

 

私は二人の無事を祈りながら、ギンガを見送った。

 

しかし、まさかこの年‥‥

 

ギンガが防衛軍軍人になった年にまさか、あのような事が起こるとは、この時の私には知る由もありませんでした。

 

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