星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百六十二話 戦闘宙域へ

 

 

アクエリアスの接近による水害とそれを後押しするかのような未知の敵勢力の出現。

 

この二つの問題を解決すべく管理局は第六十一管理世界に居る残存艦隊に敵勢力の排除とアクエリアスのワープ阻止を命じた。

 

そして、管理局の残存艦隊では心許ない事から管理局は、遭難し第六十一管理世界で修理を行っていたまほろばにも協力要請を行った。

 

管理局からの協力要請を受けて艦長のギンガは乗員たちからの意見を求め、まほろばの乗員たちから理解を得ると、まほろばは管理局からの協力要請を受けて管理局の残存艦隊と共に今回の作戦に参加する事となった。

 

 

ガイア 艦橋

 

「まほろばは洋上航行をしてから出撃すると?」

 

『さっき、まほろばから連絡が入ってな。修理したてのエンジンをいきなりフル回転すると、エンジントラブルを引き起こすかもしれへんから、洋上でエンジンの試運転をするみたいや』

 

「まぁ、まほろばは本来の純正品の部品を使用している訳ではないからな。月村艦長もその辺りは不安があるのだろう」

 

クロノはまほろばが洋上航行をして試運転を行う理由が頷けた。

 

機関部の修理備品は全て管理局が用意した部分であった。

 

まほろばの機関部・技術部の乗員たちの見解では、本来防衛軍が使用している部品ではないが、なんとか代替品として使用できるとの事で、まほろばを修理したのだが、やはり不安はある。

 

『なるほど‥それと、防衛軍の艦船が何隻かまほろばを捜索しているみたいや』

 

クロノの言葉を聞いて、はやても納得した様子だった。

 

そして、はやてはまほろばを発見するために防衛軍の戦艦群が捜索に出ている旨も伝える。

 

「総合統括官が聞いたら、その捜索隊にも協力要請を出しそうだな」

 

まほろばを見つけるためにヒューベリオン以下の防衛軍の戦艦部隊がディンギル星系を捜索している。

 

もしも管理局がそれらの捜索隊と遭遇ないし、その情報をリンディに伝えたらまほろばだけでなく、その戦艦部隊にもミッドチルダを救うために協力しろと言うに違いないと思ってしまう。

 

『そうやな‥実際にまほろばに協力要請をしたくらいやからな‥‥でも、ミッドチルダ、管理局の現状を考えると私でもリンディさんと同じ事をしとるよ』

 

はやてもまほろば捜索隊と遭遇したら、捜索隊にも協力要請を頼むと言う。

 

良馬も古代も管理局からの協力要請なんて最初は訝しむだろうが、ミッドチルダの現状を知ったら、ギンガと同じ様に協力していたことだろう。

 

「主力艦隊が壊滅し、アクエリアスがミッドチルダに近づいている現状だからこそ、協力要請で済んでいるのだが、もしもこれが平時だったら協力要請ではなく、拿捕だっただろうな」

 

クロノは自嘲めいた笑みを浮かべて皮肉を呟く。

 

『‥‥』

 

クロノの発言にはやては否定も肯定もしなかった。

 

しかし、心の中ではクロノの言葉に肯定的な部分もあった。

 

確かに現状、管理局は戦力が大幅にダウンしている中でアクエリアスの接近と未知の敵勢力の対処で一杯、一杯なのだが、クロノの言う通り、これがもしも平時の中でまほろばが遭難していたら、管理局はきっとまほろばを拿捕していただろう。

 

そんな思いがクロノ同様、はやてにもあった。

 

その日は、各艦は各部の最終チェックを行った。

 

また補給に関してもはやては第六十一管理世界の支部長に頼み込み、まほろばを含めて全艦まんべんなく補給できるように頼み込んだ。

 

そして、翌日の早朝‥‥

 

ドックでは、朝早くながらも作業員たちがバタバタと忙しそうに動いていた。

 

ドックに停泊している艦船が出航しようとしていた。

 

はやてのジャガーノート、クロノのガイアを含めて、管理局の次元航行艦群はガントリーロックを外してそのまま上空へと浮上する。

 

一方、まほろばは、ドックに水を注水していた。

 

その間、各部署からの配置報告が艦橋に入る。

 

フェイトもオブザーバーとして、艦長席の後方に座席を設けてそこに着席して出航の様子を見学している。

 

『第二艦橋、航海班配置につきました』

 

『こちら機関室、機関部配置につきました』

 

『中央コンピューター室、配置につきました』

 

「艦内全機構損傷復旧率八十パーセント。ただし、出航に支障なし」

 

艦内機構をチェックしているアルバートの前にある表示パネルが次々と青色に変わっていく。

 

(復旧率が八十パーセントか‥‥でも時間が無いこの状況下では仕方ないわね。航行中に出来るだけ復旧率を高めるしかないわね)

 

アルバートの報告を聞き、ギンガは心の中で考えていた。

 

「波動エンジン異常なし。補助エンジン、エネルギー充填八十パーセント」

 

機関長席で柳原が補助エンジンのエネルギー充填状況を報告する。

 

艦内の出航準備が整ったのでいよいよ本格的に出航準備を行うまほろば。

 

「ドック注水」

 

水の轟音がドック内に響き、まほろばが停泊しているドックに水が注水される。

 

「周囲の水域が汚かったので、やっぱりドックに入って来る水も汚いですね」

 

ドック内には周囲に広がる薄緑色の水と同じ色の水が入って来る。

 

ドック内に満たされていく水の色を見てノイマンは思わず水質の悪さに対して愚痴を零す。

 

「沖合に出れば多少は水の色も綺麗にはなるでしょう」

 

隣の席のうららが陸地周辺の水は汚いが、沖合ならば多少この水質の悪さも改善されているだろうと予測する。

 

第六十一管理世界は、元々は自然豊かな世界だったが、管理局の強引な強兵案から第六十一管理世界の豊かな自然は伐採され、港湾地区には沢山の造艦所、補修ドックが建設された結果、環境汚染が懸念されている。

 

しかし、そんな自然保護官の意見など、管理局の上層部‥特に“海”は管理世界の一つが自然破壊によって生物が生存不能な世界になっても管理局の戦力増強を優先するべきだと主張し、開発をどんどん進めていた。

 

それは某アニメに登場する大王が言い放った、

 

『環境破壊は気持ち良いzoy』

 

を体現するかのようであった。

 

「ドック注水完了」

 

「ゲート開口」

 

「ガントリーロック解除」

 

「ガントリーロック解除」

 

ドックのゲートが開き、まほろばの船体を固定していたガントリーロックが解除される。

 

「微速前進0.5」

 

「微速前進0.5」

 

まほろばはゆっくりとドックから動き出す。

 

「出港水路へ進入」

 

「波動エンジン内、エネルギー注入」

 

「補助エンジン、第二戦速へ」

 

ドックから水路へ入ったまほろばはぐんぐんと速度を上げる。

 

機関部員たちは機器を操作しながら波動エンジンの状態を注意深く見守る。

 

何せ、修理に使った部品は防衛軍の規格内の部品ではないのだから‥‥

 

沖合まで出ると、うららが指摘した通り、海水の色も薄緑色から群青へと変わっていく。

 

「波動エンジン、シリンダーへの閉鎖弁オープン。波動エンジン始動、五分前」

 

操艦しているノイマンの表情にわずかな緊張の色が見える。

 

「波動エンジン内圧力上昇、エネルギー充填九十パーセント」

 

「補助エンジン、最大戦速」

 

「波動エンジン内圧力上昇、エネルギー充填百パーセント」

 

洋上に出るとまほろばの速度はどんどん上がっていき、艦首に波を受けながらも海上を進んで行く。

 

上空には先にドックを出航したジャガーノート、ガイアを始めとする管理局の次元航行艦群の姿がある。

 

 

ガイア 艦橋

 

 

「やはり、水上艦を意識している造りからか、水上を航行している姿は様になるな」

 

水上を航行しているまほろばの姿をモニター越しで見ながらクロノは呟く。

 

「ガイアもまほろば、ヤマトを参考に作られたから、他の管理局の艦と比べて水上艦らしいフォルムをしているが、まほろばの方はより水上艦に近いフォルムをしている」

 

「今のところ、まほろばは順調に航行しているみたいですね」

 

「うむ。管理局からの支給部品だから、はやてからの報告を受けた時、ちゃんと動くか心配であったが、どうやら取り越し苦労で終わったみたいだな」

 

問題なく洋上航行しているまほろばの姿を見てクロノは一息つく。

 

これからミッドチルダの命運をかけての戦いがある中で、まほろばは間違いなく今の管理局艦隊の中で主力を担う戦力なので、第六十一管理世界で足止めをくらうのはクロノたちにしても痛い。

 

だが、まほろばは動いている事から、管理局の支給部品は本来ならば規格外品ながらも問題なく代用している様だ。

 

 

「波動エンジン点火二分前、フライホイール始動十秒前」

 

「現在、補助エンジンの出力最大」

 

「波動エンジン内、エネルギー充填百二十パーセント、フライホイール始動」

 

「フライホイール始動」

 

まほろばの機関室では波動エンジンの二基のシリンダーがゆっくりと動き出したと思ったら、徐々に回転数があがっていく。

 

「波動エンジン点火十秒前、九‥‥八‥‥七‥‥六‥‥五‥‥四‥‥三‥‥二‥‥一‥‥フライホイール接続‥‥点火」

 

「点火」

 

「まほろば発進」

 

ノイマンが操艦レバーを思いっきり引くとまほろばその巨体を海面から浮上させた。

 

しかし、噴射が弱く海面から一定以上の高さに浮上しない。

 

「航海長、浮上していないみたいだけど、どうしたの!?」

 

ギンガが慌ててノイマンに浮上していない原因を訊ねる。

 

ノイマンも急ぎ機器のチェックを行う。

 

「艦長、エンジン出力不調!!浮揚しません!!」

 

「機関室!!エネルギー導入のチェックは!?」

 

柳原が機関室に不調原因を訊ねる。

 

『メーターに異常はありません!!ですが、タキオン圧力調整機の作動が鈍いみたいです!!』

 

「航海長、主翼を展開!!姿勢制御ロケットを定点ローリング!!」

 

機関室からの返信を聞いてギンガはノイマンに指示を出す。

 

「了解。主翼を展開し、姿勢制御ロケットで定点ローリングをします!!」

 

ギンガからの指示を受けてノイマンは急ぎ、ギンガの指示通りの操作を行う。

 

まほろばは主翼を展開すると共に、姿勢制御ロケット四基を九十度ずつひねり、定点ローリング、前方の二基を下部へ噴射した。

 

同時にスッと浮揚したまほろばは、やや右舷側に傾きつつもはずみがついてぐーんと上昇した。

 

「ふぅ~‥‥」

 

「ハァ~‥‥」

 

無事に浮上した事でギンガ、ノイマンは一息つく。

 

「やれやれ、一時はどうなるかと思ったわね」

 

ティアナも一息つきながらもなんとかまほろばが出航で来た事に胸をなでおろした。

 

 

ガイア 艦橋

 

「艦長、まほろばの様子が変です」

 

「なにっ!?」

 

先程まで問題なく洋上を航行していたまほろばであったが、海面から僅かに浮上したと思ったら、それ以上の高さに中々浮上しない。

 

「やはりエンジンに何かトラブルがあったのか‥‥」

 

まほろばの奇妙な動きはやはり機関部に何らかのトラブルがある事を証明している。

 

「まほろばに救援が必要か通信を‥‥」

 

クロノが慌ててまほろばに救援が必要か通信を送ろうとした時、

 

「か、艦長、まほろばが‥‥」

 

「まほろばがどうし‥‥っ!?」

 

クロノがモニターを見ると、まほろばが左右に巨大な翼を展開し、船底部の噴射口から船体を支えるかのように噴射して高度を上昇させる。

 

「‥まったく、凄い船だ‥‥もう一つの地球の艦は‥‥」

 

クロノはまほろばの一連の動きに感嘆の声を漏らした。

 

 

「上昇角四十度、全艦異常なし、大気圏航行」

 

海面から浮上したまほろばは上空を飛行しているジャガーノート、ガイアを含む管理局艦隊と合流した。

 

全艦の合流を確認したはやては、全艦に針路を通達する。

 

『全艦に告ぐ。当艦隊の目的は第九管理世界に存在する敵勢力を排除し、水世界アクエリアスへと到達し、その次元転移を阻止する事にある。アクエリアスが現在、ミッドチルダから九百光年の位置にあり、あと六日でミッドチルダに接近する。しかし、世界一つの次元転移などと言うあまりにもスケールが大きい事態を止める事が出来るのか?それはやってみないと分からへん。またアクエリアスに辿り着く前に敵勢力を排除する事が出来るのか?これも非常な困難が予想される』

 

はやてはジャガーノートの艦橋を見渡す。

 

グリフィスを含めて皆、不安そうな表情だ。

 

『しかし、一つ分かっている事はある‥‥私たちの敗北は、ミッドチルダに居る大勢の人々の未来の破滅を意味する。ミッドチルダに居る人々の為、私たちの運命がどうなろうと、この作戦は何としてでも成功せなあかん。全員の奮闘を期待する‥以上』

 

訓示放送を終えると、これまでまほろばに秘匿されていた行き先の針路が送られる。

 

協力要請をしているが、管理局側の本音としては部外者に辺境の管理世界とは言え、座標を教えるのは心苦しいだろうが、贅沢は言ってられないと言うのが管理局の現状だ。

 

「艦長、管理局艦より、目的地の座標が送られてきました」

 

「モニターに表示して」

 

「了解」

 

メイリンが機器を操作するとモニターにはどこかの星の座標が表示される。

 

「この座標は‥‥」

 

「第九管理世界の座標だよ」

 

「第九管理世界‥‥確かあそこは砂漠と刑務所しかない所でしたよね?」

 

ギンガも元は管理局員なので、第九管理世界がどんな世界なのか知っている。

 

「うん。そうだよ。でも、今は敵勢力の根拠地になっているみたい」

 

「その他に敵勢力の情報は無いんですか?」

 

「情報収集をする間もなく、主力艦隊が壊滅したみたいで‥‥それに時間もないし‥‥」

 

「いきあたりばったり‥ですか‥‥」

 

「う、うん」

 

第九管理世界に居る敵勢力の情報は皆無で、分かっているのは彼らが保有するミサイルが凶悪な性能を持っていることだけだ。

 

前途多難な今回の出撃にフェイトは気まずそうに頷く。

 

「大気圏脱出十秒前‥‥」

 

宇宙空間がまほろばの前方に広がり、星々が見え始めた。

 

「主翼収納」

 

まほろばは主翼を収納しつつ、なおもぐんぐんと上昇していく。

 

「波動エンジン、大気圏外出力へ‥‥重力圏離脱」

 

振り返るとお世話になった第六十一管理世界はどんどんと離れて行く。

 

(もう二度と来ることはないけど、お世話になりました)

 

(願わくば、あの世界の自然環境が少しでもよくなりますように‥‥)

 

ギンガはお世話になった世界が環境破壊で滅びるのは忍び難く自然環境の改善がみられる事を祈った。

 

「でも、フェイトさん。敵はミッドチルダ本土にも空襲をしかけて来たんですよね?それならば、ミッドチルダ近海まで敵は進出しているのではないでしょうか?」

 

「ミッド周辺の衛星やアステロイド帯にある監視衛星からミッド近海に敵影は見られないみたい。それで、最初に敵勢力が襲撃して来た第九管理世界に駐屯しているんじゃなかって、“海”はそう判断しているのよ」

 

「なるほど」

 

仮に第九管理世界に居なければ、そこからミッドチルダ方面へと向かって行けば、いずれは敵勢力に遭遇するだろうと言う判断である。

 

また、ディンギル軍としても予定通りアクエリアスがミッドチルダに接近して、ミッドチルダ全体を水没させた後、ディンギル星と同じくアクエリアスの水とミッドチルダの組成が結びつき大爆発したとしても、ある程度距離が離れた第九管理世界ならば、艦隊に被害が及ばないと判断していた。

 

一度、ディンギル星が爆発している現場を目撃しているザールだからこその判断であった。

 

宇宙空間では摩擦抵抗がないため、一度与えられた速度はそのまま持続する。

 

波動エンジンの負荷軽減のため、まほろばは補助エンジンに切り替えて航行する。

 

敵勢力が居るとされる第九管理世界まで管理局艦隊は攻撃を受けることなく宇宙空間を航行している。

 

「技師長」

 

「はい」

 

「戦闘予想空間まで、まだ距離と時間があります。可能な限りでいいので、艦の修理作業をして、万全の状態に少しでも近づけて」

 

出航前にアルバートからの報告で艦内復旧率が百パーセントではなく、現状八十パーセントの状況下なので、戦闘が始まる前に少しでもまほろばの状態を万全の状態に近づけたかった。

 

先程のエンジントラブルが良い例だ。

 

これが戦闘中だったら、間違いなく標的にされていただろう。

 

なので、ギンガはアルバートたち技術班に航行しながらの補修作業を指示した。

 

「了解。私も例のミサイルの防御対策を行います」

 

「よろしくお願いします」

 

「はっ」

 

アルバートは部下の技術班員に指示を出すと、自身は機械工作室でハイパー放射ミサイルの防御対策の研究を行う。

 

(次の戦闘には間に合わないかもしれないが、その次にあるアクエリアスとやらのワープ阻止‥‥)

 

(彼らも何かしらの理由があってアクエリアスをワープさせているのであるならば、彼らも必死に此方の行動を妨害して来るだろう)

 

(せめてその時の戦いには間に合わせなければ‥‥)

 

(しかし、彼らは一体どんな物質を触媒に使ったのだ?)

 

(それが分かれば、触媒作用を無効にすることも可能なんだが‥‥)

 

(何分、敵の情報が少なすぎる。となれば、あのミサイルが艦体に命中するのを物理的に阻止するしかないな‥‥)

 

(だが、対空砲、迎撃ミサイルが躱されて、なおかつ阻止する方法となると‥‥)

 

アルバートは多種多様のアイディアをコンピューターに入力し始めた。

 

この時、アルバートは第九管理世界での戦いには間に合わないと判断するも、戦いはなにも第九管理世界付近だけでなく、アクエリアスのワープ阻止の際も戦闘が起きる事を見越して、その時の戦いには間に合わせようとした。

 

まほろばの切り札とも言える波動砲が一発しか撃てず、第二の切り札である波動カートリッジ弾も弾数には制限がある。

 

まほろばの切り札が波動砲、波動カートリッジ弾であるようにこれから戦う敵勢力の切り札とされるのがハイパー放射ミサイルだ。

 

だからこそ、ハイパー放射ミサイルの防御策を完成させなければ、まほろばとは言え、ハイパー放射ミサイルンの集中攻撃を受ければ撃沈の恐れもある。

 

まほろばの運命はアルバートの肩にかかっていると過言ではなかった。

 

「レーダーに反応は?」

 

敵が警戒網を敷いている可能性もあるので、偵察機や哨戒艦が潜んでいないかギンガはティアナに訊ねる。

 

「コスモレーダーに反応はありません。ミッド方面からの進撃ではないので、敵も監視網を緩めていのでしょうか?」

 

「あるいは、偵察を出す程の戦力がないか‥‥今は平気でも第九管理世界に近づけば、嫌でも発見される。警戒だけは怠らないように徹底して、レーダーレンジも限界いっぱいの長距離レンジに設定して」

 

「了解」

 

「それと、フェイトさん」

 

「ん?なにかな?」

 

「戦闘空間到着までまだ時間があります。少しでも敵についての情報が欲しいのですが‥‥」

 

「えっ?あっ、うん。私自身も全部を知っている訳ではないけど、知っているだけの事は話すよ」

 

「ありがとうございます。では‥‥」

 

艦橋ではギンガとティアナがフェイトに少しでも敵の情報を得ようとしていた。

 

「管理局の主力艦隊が壊滅したと聞きましたが、どのような経緯があって壊滅したのか分かりますか?」

 

「多分、ガイアに打ち込まれたあのミサイルが主な原因だと思う」

 

フェイトともクロノも自身が乗艦している艦の性能は管理局の量産艦よりも優れているものと自負している。

 

そのガイアをあそこまで追い込んだのだから、管理局の艦もやはりハイパー放射ミサイルで壊滅したのだとフェイトは思っていた。

 

そして、その予想は当たっていた。

 

「やはり、あのミサイルですか‥‥」

 

「うん。それにミッドチルダが空襲を受けた時、沢山の戦闘機が空を覆っていたみたいだから、敵は防衛軍の様に次元の海‥あっ、ギンガたち防衛軍で言う宇宙空間でも運用できる戦闘機を保有している筈よ」

 

「戦闘機が存在していると言うことはその戦闘機の母艦‥空母も存在し、あのミサイルを切り札とするならば、攻撃機、雷撃艇‥‥あるいは彗星帝国が運用していた様なミサイル艦を保有しているとみていいでしょう‥‥」

 

ティアナはミサイルを運用するにあたって使用される可能性の兵器をあげていく。

 

「最悪の場合、次元潜航艦の運用も視野に入れておく必要があるわね」

 

ギンガはティアナがあげた兵器の他に異次元空間から迫って来る脅威の可能性も示唆する。

 

「戦闘空間に突入次第、航空隊を出撃させて、例のミサイルを搭載した艦、もしくは雷撃機を発見した場合、ミサイルが撃たれる前に敵を撃破しなければならないわね」

 

「ええ」

 

「一応、次元潜航艦の可能性を踏まえてまほろばの方でも亜空間ソナーで周囲を警戒するわ」

 

「‥‥」

 

ギンガとティアナの二人の会話のやり取りを見て、フェイトは二人の成長をまじまじと感じる。

 

空港火災の際に自分が助けた少女が‥‥

 

自分の親友が立ち上げた部隊‥機動六課で不安や焦りを覚えつつも着々と成長し、あのJS事件の解決に一役買った少女が‥‥

 

軍人として自分以上の能力を持ち、更には結婚をして家族と子供を産んだのだから、成長を覚えるのは当然だった。

 

「フェイトさん。ミッド空襲の際、敵はあのミサイルは使っていたのですか?」

 

「ううん、あのミサイルが使用されたって報告は受けていない」

 

「となると、あのミサイルは対地戦ではなく、対艦の限定兵器と見た方がいいですね」

 

「そうね」

 

地球、ミッドチルダでは確認されていない放射線を含むミサイルなので、対地戦で使用すれば、放射能汚染と大勢の被爆者を出す兵器だろうが、敵はミッドチルダ空襲の際にそのミサイルを使用していなかった事から、有害な放射線をまき散らすと言ってもやはり、範囲が限定されるのかあのミサイルは対地戦ではなく、あくまでも対艦限定使用なのだと判断するティアナとギンガだった。

 

 

ジャガーノート 艦橋

 

「フェイトちゃん、今頃なにしとるんやろう?」

 

はやてはまほろばに乗艦しているフェイトに思いを寄せる。

 

「オブザーバーとは言え、その実態は体のいい人質ですからね」

 

副長のグリフィスがフェイトの現状を憂いる。

 

「まぁ、まほろばの艦長はあのギンガやから、フェイトちゃんを手荒く扱うなんてことはせぇへんと思うけど‥‥」

 

「ん?艦長のその口ぶりは、まるでまほろばの艦長と知り合いの様に聞こえますけど?」

 

グリフィスは、はやての口ぶりに違和感を覚えたので、訊ねる。

 

「ああ、グリフィス君は知らんかったね。まほろばの艦長は実はスバルのお姉さんなんや」

 

「えっ?」

 

はやての言葉にグリフィスは一瞬固まる。

 

「スバルって、機動六課時代、スターズのFW陣の一人だったあの子ですか?」

 

「せやで」

 

「で、ですが、一体どんな経緯があってナカジマ士長のお姉さんがまほろばの艦長に?確か、ナカジマ士長のお姉さんって機動六課稼働直前に殉職したって聞きましたけど‥‥?何かの間違いでは?」

 

グリフィスはミッドチルダの住人‥しかも管理局員がどういった経緯でもう一つの地球の軍人‥しかも、まほろばの艦長になったのか理解できなかった。

 

その為、殉職したスバルの姉のそっくりな人物なのではないかと疑う。

 

しかし、はやてはそれを否定した。

 

「いや、間違いやあらへん。正真正銘、スバルのお姉さんのギンガやで」

 

「‥‥」

 

「それに副長はティアナやし」

 

「えっ?ランスター補佐官がまほろばの副長!?」

 

ティアナがもう一つの地球からミッドチルダに還ってこなかった事はグリフィスも知っていたが、まさかもう一つの地球で軍人‥それもまほろばの副長になっているとは思わなかった。

 

「うん。だから、まほろばの艦長と副長はフェイトちゃんの知り合いって事になる訳や」

 

「ま、まぁ、それなら、テスタロッサ・ハラオウン副長の身の安全は保障されたようなものですね」

 

まほろばの艦長と副長がフェイトの知り合いと言う事を聞いて、グリフィスの不安の種の一つは消えたのだった。

 

 

一方、第九管理世界でアクエリアスとウルクの到着を待っていたザールの制圧艦隊の方もこちらに向かってくる艦隊の存在を捉えていた。

 

この時のディンギル軍は管理局の主力艦隊を壊滅させ、ミッドチルダを始めとするいくつもの惑星にある基地を破壊した事で余裕さえ感じられた。

 

ザールは艦隊旗艦でもある移動要塞母艦の艦橋でザールは腕を組み、窓外の宇宙空間を眺めていた。

 

そんなザールの後姿は父親のルガールに似ている思いつつ、参謀はザールに声をかける。

 

「殿下」

 

「どうした?参謀。大総統から連絡でもあったのか?」

 

「いえ、監視衛星が此方に向かって接近中の艦隊の姿を捕捉いたしました。どうやらまだ残存艦隊が残っていたようです」

 

「そうか、連中にはまだ戦う事の出来る戦闘艦が残っていたとはな‥‥」

 

「はい。どこかに潜んでいたのか、武装した戦闘艦が此方に向かっているのは間違いありません」

 

管理局の戦力を根こそぎに刈り取れなかったのが自分の落ち度の様に、参謀は恐縮しながらパネルを指さす。

 

そこに映っている艦隊の中にザールは見慣れた艦影があるのを発見する。

 

「あれはっ!?我がディンギルの近くで撃破したはずの戦艦ではないか!?生きていたのか!?」

 

ハイパー放射ミサイルの攻撃を受けて間違いなく第九惑星へ墜落していくのをザール自身も確認したはずだ。

 

生きていたのか?

 

いや、それとも撃破した戦艦と同型艦か?

 

そんな疑問が脳裏を過るが、自分たちに戦いを挑んでくるのであるならば、やることは同じだ。

 

ザールはパネルを睨みつけつつ、

 

「面白い!!生きていたとしても同型艦だとしても我々がやることは一つだ!!参謀、全艦に出撃命令を出せ!!」

 

「はっ!!」

 

ザールは移動要塞母艦を含め、制圧艦隊全てに出撃命令を下した。

 

「ふっ、あれだけの数で我々に挑もうとするとは‥‥死ぬと分かっていながらも果敢に挑んで来るその勇気だけは褒めてやる。ならばこそ、盛大にあの世へと送ってやる」

 

ザールはモニターに映る管理局艦隊の姿を見つつ口角を上げた。

 

 

「第九管理世界まであと七千宇宙キロ‥更にその手前に敵の艦隊らしき反応をキャッチしました」

 

「いよいよ始まるわね」

 

「はい」

 

「ええ」

 

まほろばの方も敵の艦隊を捕捉した。

 

勿論、ガイア、ジャガーノート以下の管理局艦もレーダーで捕捉しただろう。

 

「これより本艦は戦闘空間に突入する。総員戦闘配置!!」

 

まほろばの艦内に警報が鳴り響き、乗員たちは慌ただしくヘルメット、手袋、ブーツを装備して配置につく。

 

「総員戦闘配置!!航空隊出撃用意!!全機、対空対艦攻撃装備!!」

 

「うらら、後をよろしく」

 

ティアナは徐に上着を脱ぎ、頭にヘルメットを被ると、うららに一声かける。

 

「えっ?ちょっと、ティアナ!?」

 

「艦長、私も航空隊の一員として出撃します」

 

「分かりました。気を付けて」

 

ティアナはギンガに敬礼した後、艦橋を後にして格納庫へと向かう。

 

「まったく、ティアナったら‥‥」

 

うららはやれやれと苦笑しつつ自分の作業を続けた。

 

「えっ?ちょっと、ギンガ。ティアナが出撃ってどういう事?」

 

フェイトはあわあわした様子でギンガに訊ねる。

 

「ティアナは私と同じく訓練校でパイロットのライセンスもとっているんです。だから戦闘機にも搭乗出来るんですよ。私もティアナ同様、パイロットライセンスを持っているので、戦闘機に乗れます」

 

「‥‥」

 

迎撃機が一機でも必要なので、特にギンガはティアナの出撃を許可した。

 

フェイトはティアナとギンガが戦闘機の搭乗ライセンスを持っている事にも驚愕していた。

 

「いよいよね‥‥行くわよ!!」

 

『応!!』

 

まほろばのパイロットルームでは、既に待機していた玲たち航空隊員が出撃命令を聞いてシューターで格納庫まで滑り下り、それぞれの愛機に駆け込むとコックピットに飛び乗る。

 

ティアナもコスモゼロ62型に搭乗する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

コスモゼロ62型もこれまでロールアウトしたコスモゼロ52型同様カタパルト出撃なので、ティアナが搭乗したコスモゼロ62型もカタパルトへと上がる。

 

「これより発進口を開く。整備員は退避、エアロックの閉鎖を確認せよ」

 

全ての艦載機の発進準備が整い、まほろばの艦底部にある発進口が開く。

 

「航空隊、発進」

 

まほろばの艦底部の艦載機発進口からはコスモパイソン零式が次々と発進していく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ティアナが搭乗したコスモゼロ62型もカタパルトから射出される。

 

まほろばの航空隊はその快足を活かして前面に展開する。

 

 

一方、管理局艦隊を迎え撃つディンギル軍は‥‥

 

「水雷母艦出撃!!」

 

移動要塞母艦から水雷母艦が出撃して行く。

 

僅か十数隻しかいない艦隊など、戦艦を中心とする主力艦隊を出さずとも水雷母艦が搭載している水雷艇だけで十分だとザールは判断したのだ。

 

「水雷艇は発進準備が整い次第発進せよ!!」

 

水雷母艦の左右前面にある発進口のハッチが開くとハイパー放射ミサイルを左右に一本ずつ、計二本を搭載した水雷艇が次々と出撃して行く。

 

「これまでの戦いから、どうやら連中は宇宙空間、大気圏で運用できる航空機を保有していないようだ‥‥制宙権さえ、掌握できぬ弱小勢力だ。水雷艇の攻撃だけでカタはつくな」

 

移動要塞母艦の艦橋でモニターに映る出撃して行く水雷艇の姿を見て、ザールは既に勝敗は決したと思っていた。

 

これまでの管理局との戦いの中で、彼らは宇宙空間でもミッドチルダを始めとする大気圏内でも戦闘機の類を一切出撃させてこなかった。

 

自分たちが電撃戦で相手に戦闘機を展開させる暇が無かったと言えば、絶対にそうとは言い切れない。

 

ミッドチルダ空襲の際には、戦闘機ではなく人が空を飛んで自軍の戦闘機と戦うと言う奇妙な報告があった。

 

しかし、此処は空気の無い真空の宇宙空間‥‥

 

いくら空を飛べる人間が存在しているとは言え、空気の無い空間で人が存在していられるはずがない。

 

宇宙服を身に纏っているとしても航宙機ほどの速度は出せない。

 

ザールたちディンギル軍の余裕は揺らぐことはなかった。

 

 

ガイア 艦橋

 

「次元の海でも運用できる航空機か‥‥」

 

ガイアの上方をフライパスしていくコスモゼロ62型とコスモパイソン零式の姿を見ながらクロノはポツリと呟く。

 

「ん?なにか?」

 

「いや、この戦いが終わったら、管理局は戦力の再編成を余儀なくされる。だが、ただ再編するだけではなく、新たな改革も必要だと思ってな」

 

「改革‥ですか?」

 

「ああ。今回の戦いを何としてでも生き延びて見極める」

 

「は、はぁ‥‥」

 

フェイトは次元漂流して、地球のコスモタイガーを始めとする宇宙空間・大気圏の両方で運用できる戦闘機の必要性を内心で思っていた。

 

そして、クロノも管理局の主力艦隊が壊滅した原因、ミッドチルダ空襲されて大きな被害を出した原因に航空機戦力の大きな不足があったからではないかと思い始めていた。

 

ミッドチルダは確かに次元世界の基点として第1世界であり、リンカーコアを持つ魔力保持者および魔導師が数多く存在する世界であるが、全ての魔導師に空戦属性がある訳ではない。

 

事実機動六課のFW陣で空戦属性を持っている者は居なかった。

 

ミッドチルダの空を守るのは“空”の空戦魔導師だとプライドがある。

 

(せめて次元の海でも運用できる戦闘機があればな‥‥)

 

大気圏内の防空任務に関して“空”の顔を立てるとしても、次元の海の任務に関して次元の海で運用できる戦闘機の必要はある筈だ。

 

戦闘機のライセンスに関しては、魔導レベルも空戦属性も関係ない。

 

本人の努力と根気さえあれば、パイロットになれるのだから‥‥

 

今回の戦いはミッドチルダの運命はもとより将来、管理局で戦闘機の保有・運用の実用性の事例も含まれる戦いでもあった。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

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