ミッドチルダを含む周辺の管理世界の制圧に成功したザール率いるディンギル軍だったが、第九管理世界での戦いでまさかの手痛い敗北をしてしまい、残存艦隊を纏めてウルクへと帰還した。
当然、アクエリアスがミッドチルダに到達する前にウルクへと帰還した事で、大総統であるルガールには報告をしなければならない。
しかし、父親の性格を理解しているザールは戦勝に関しては嘘偽りなく報告したが、第九管理世界での戦いについてはいくつか省略をして、戦果のみを報告した。
報告後、ルガールは幕僚たちにこの作戦の成功を祈禱すると言い、ウルク後部にある山頂の上にある神殿へ息子のザールをつれて赴いた。
なお、その間にもウルクはアクエリアスへ十九回目のワープを行うべくアクエリアスに向けてワープ光線を当てていた。
二人が向かった神殿は、さながら地球に存在した古代のローマもしくはアテネを思わせる建築物であり、ウルク後部にそびえる山の頂上にぽつんと建つ神殿の内部は広く、地下へ向かっていくように構造が出来ている。
その様式及び姿は地球の古代史にも出てくるであろうバビロン神殿の造りにも似ていた。
神殿の入り口を潜り少し奥へ進むと、祭壇の奥には自分たちの守り神である巨大な魔神像が鎮座している。
魔神像の大きさは数十メートル程あり、あぐらをかき、右手には三槍を持って床に付いている。
顔は地球における鬼の様な姿をした魔神の背中には、悪魔かと連想させる翼が生えている。
地球‥ミッドチルダの人間が見ればとても守護神の像とは言えず、悪魔崇拝者が拝みそうな造形をしていた。
しかし、ディンギル星人にとっては、この像は自分たちが崇め、信仰する神の姿なのだ。
それに歴史的価値もありそうで、ユーノたちスクライア族としても調査したい一品だろう。
ルガールは普段の大総統服から神官服へと着替え、祭壇に立ち、ザールはその後ろに片膝をついて控えている。
「神々の王よ。我が息子に栄光と幸を与えよ。再びディンギルに繁栄をもたらしめよ‥‥」
ルガールは祈祷を終え、魔神像を背に振り替える。
この時、ザールはまるでルガール自身が魔神と化したかのように見えた。
「息子よ。魔神の前には全てが見通している。正直に申せ。お前は敵に敗れて戻って来たのであろう?」
ルガールがギロリとザールを睨みつけながら見下ろす。
そもそもザールの報告には無理があった。
出撃した時は移動要塞母艦を旗艦として数多くの艦隊を率いて出撃して行ったにもかかわらず、帰還した時はドウズ型重武装戦艦とカリグラ級中型戦艦が僅か十数隻のみで、旗艦であった移動要塞母艦の姿も水雷母艦、空母の姿も一隻も居なかったのだから‥‥
あの時、ルガールだけでなく、その場にいた幕僚たちもきっとザールの報告に違和感を覚えただろう。
「は、はい‥‥」
ザールは全身の血が凍りつくような恐怖を覚え、とっさに床に頭をこすりつける。
恐怖のあまりルガールの顔を直視する事が出来なかったのだ。
「父上、申し訳ございません。我が艦隊はミッドチルダ及び周辺の惑星を攻略し、ミッドチルダの封鎖に成功しましたが、戦艦を中心とする残存艦隊と交戦となり、残念ながら補給中に予想外の攻撃を受け、艦隊の大半を失い、こうして帰還もやむなきに到りました」
ザールは震えながら省いていた第九管理世界での戦いをルガールに報告する。
「やはりそうであったか‥‥私が何故お前を神殿に連れて来たか分かるか?」
「い、いいえ‥‥」
ルガールが自分を神殿に連れて来た理由を問うが、ザールとしては父が何故自分を神殿に連れて来たのか皆目見当がつかない。
ルガールは再びザールに背を向けて魔神像を見つめながらザールを神殿に連れて来た理由を話す。
「我が王家に伝わる秘密を語って聞かせるためだ」
「えっ?」
「我らが向かわんとするミッドチルダと言う星は……かつての我らの祖先が住んでいた星なのだ!!」
「っ!?」
衝撃がザールの背筋が走り渡り、下げていた頭が父へ向かれていた。
今、自分の父は何と言ったか?
攻略を進めているミッドチルダと言う星はかつて自分たちの先祖が居た星?
父がミッドチルダを攻略しようとしているのはただ単にアクエリアスがミッドチルダに向かっていると言うだけではなく、惑星環境が自分たちに適していると言う理由だけではなく、先祖の星だったと言う深い理由があった。
それは、ガルマン星がかつてガミラス建国前に存在していたガミラス人にとって先祖の星だった現象と全く同じであった。
「我々の祖先は一万年の昔、ミッドチルダに最初の文明を築いた民族だったのだ」
ミッドチルダにおける一万年の昔‥‥それはヴィヴィオのオリジナルとなった聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト、アインハルトの先祖、覇王クラウス・G・S・イングヴァルトが存在していた古代ベルカ時代よりも遥か昔の超々古代時代である。
しかし、そんな民族がミッドチルダではなく、遥か宇宙の彼方であるディンギル星に文明を築いていたのは何故か?
ガミラス同様、ミッドチルダから一部の民族が宇宙へ移民したからなのか?
いや、そうではなかった。
「ある時、極めて異常な気象に襲われ、一年に渡って雨が降り続いた。水惑星が回遊して来たためである。河は溢れ、平地は海の様になり、野も山も村も町も生きとし生けるものすべてが水に覆い尽くされた。さしもの文明も根こそぎ水の底に沈み、人々はこの世の最後の時と諦めるばかりだった」
ルガールはミッドチルダに住んで居た先祖たちを襲った悲劇を語る。
古代ベルカ時代の記述にもディンギル星人の先祖の記録が一切残っていなかったのはアクエリアスの水害によって文明が全て押し流れてしまったからだった。
しかし、ディンギル星人の祖先はミッドチルダから遥か彼方のディンギル星にて文明を築き直している。
それは何故か?
ルガールは続きを語る。
「その絶望の時、空の一角から宇宙人の乗った円盤が現れ、一人でも助けようと救いに降りて来た。こうして選ばれた人々は神によって祝福された。その強き力を行使して、連れて行かれた先の惑星ディンギルを征服し、新たなる王国を築いた。それが我がルガール王国の起源なのである。だが、ディンギルは水没し、我々はかつての祖先のように住むべき地を失った。しかし、我々は今強き力を持って我らの祖先の星、ミッドチルダを制圧しようとしている!」
ルガールは水没したミッドチルダからディンギル星に文明を築き直せた歴史を語る。
ただ親切心から水没し、溺れている人々を助け出すために助けたのか?
それとも自分たちの星の労働力‥つまり奴隷としての価値を見出して助けたのか?
救いに降りた元祖ディンギル星人がどんな考えで彼らの祖先を助けたのかは知る由もない。
なお、この時に元祖ディンギル星人の宇宙船からディンギル星に着く前に一部の人々が宇宙船から脱出した。
この時、脱出した一部の人たちはバシュタールに流れ着き、そこで別の文明を築き上げた。
しかし、ルガール王国と違いこちらのバシュタールの文明の方は滅んでしまった。
ルガールは強き意思と、強き力を持つ自分達が必ず勝つ、という勢いで彼は息子に語り続ける。
「祖先の偉業に対しても、この作戦は成功させねばならぬ!!我々こそが、ミッドチルダの正統な支配者なのである!!‥‥アクエリアスとウルクはあと一時間ほどで十九回目のワープをする。そして、二十回目のワープを明ければ、そこにはミッドチルダがある」
「はい!!」
先程までザールを支配していた恐怖心はいつの間にか消えていた。
彼は立ち上がり、ルガールにディンギル軍式の敬礼をする。
「今一度機会を与えよう。彼奴等がこのまま引き下がる筈がない。必ずや次のワープ地点に現れるであろう。身を挺して彼奴等を撃て!!その時こそお前は大総統に相応しい者となれ!!神々もお前の戦いにあらゆる加護を惜しまぬであろう!」
「はっ!!今度こそ、必ず父上のご期待に添います」
「直ちに我が全艦隊を率いて出撃せよ!」
「はっ!!」
胸を張って神殿を出るザールの頭上にワープ光線によってオレンジ色に光るアクエリアスがディンギルの未来を確信させるように美しく浮かんでいた。
ウルクの宇宙船港に来たザールは、
「全艦に出撃命令を出せ!」
「はっ!!」
ザールはウルクに残っている宇宙戦闘艦全てに出撃命令を下す。
戦力は第九管理世界での戦いで生き残ったドウズ型重武装戦艦、カリグラ級中型戦艦、水雷母艦の大艦隊であった。
残念ながら空母に至ってはミッドチルダ方面に全艦出撃し、全艦全滅と言う結果になってしまったが、ドウズ型重武装戦艦も空母と同等とはいかずとも艦載機は搭載可能であった。
ザールは艦隊旗艦をガルンボルストから高官指揮用重駆逐戦闘機ラルゴールムへと移した。
このラルゴールムも航空機としては大型だが、戦闘艦の部類ではすこぶる小型であるが、運動性能については戦艦よりも優れており、先頭部に対艦用のビームキャノンも装備している。
現在の戦力上、ディンギル軍に出し惜しみをしている余裕は無い。
ザールはウルクに残る全戦力を投入する事をルガールより了承を得ているので、今回の旗艦変更は艦隊指揮が執りやすい事と戦闘艦を一隻でも多く前線に投入できるようにした事だ。
「‥‥」
(ガイア‥‥そしてまほろばめ、次こそは、必ず仕留めてくれる!!)
例え大型機であっても戦闘可能ならば戦線に投入する気概でザールはウルクを出撃した。
ラルゴールムのコックピットにて、ザールは拳をギュッと握りしめ、ガイア、まほろばとの雪辱戦に闘志を燃やしていた。
そんな、ザールが出撃して行く様を神殿から総統府に戻ったルガールは幕僚たちと共に見送る。
(これでよし‥‥)
(よもや今度は破れる事はないだろう)
ザールは決して才能がないわけではない。
むしろ、己の才能に溺れるきらいがあるくらいだ。
第九管理世界での戦いで戦死した参謀もザールをディンギル軍一の将軍として認めていた。
次の相手は第九管理世界での戦った敵よりも少ない。
それは地球で言う『牛刀をもって鶏を割く』 『獅子は兎を狩るにも全力を尽くす』の言葉に尽くす程の過剰戦力でもあった。
そして、あれだけ自分に諭されて次の大総統となる事を自覚し、更に前回の雪辱を果たそうとしている息子が二度も同じ敵に敗れる訳がないと確信していた。
(しかしだ‥‥しかし、万が一にも敗れておめおめと戻ってくるような事があれば、例え息子と言えど、容赦はせぬぞ‥‥)
ラルゴールムの乗員たちは知らぬ間にザールと一蓮托生となった。
大敗北後に二度目のチャンスを与えること事態、ザールが自分の息子と言う忖度がルガールの中に少なからず存在していた。
だからこそ、三度目は無いとルガールは決めていた。
「アクエリアス、十九回目のワープ終了まであと二分‥‥」
艦隊の大半を失ったが、アクエリアスのワープは此処まで順調に進んでいる。
あと一回、ワープを終えればミッドチルダは自分たちディンギルのものだ。
ルガールはジッと薄くなっていくアクエリアスを見つめながら時が経つのを待っていた。
やがて、アクエリアスの姿は消え、十九回目のワープを完了した。
「アクエリアス、ワープ完了。続いて都市衛星ウルク、ワープに入ります」
そして、ウルクもアクエリアスを追うようにしてワープした。
「うっ‥‥うーん‥‥」
まほろばの医務室にて、ティアナは目を覚ました。
「あっ、石田先生!!副長が目を覚ました!!」
看護師が石田にティアナの意識が覚醒した事を伝えると石田はティアナが横になっているベッドの傍までやって来た。
「石田先生‥私‥‥」
「心配ありません。処置はもう終わっているので、大丈夫ですよ」
ティアナがチラッと横をみると輸血パックと点滴が見えた。
負傷した肩にも包帯が巻かれていた。
「あれからどうなったんですか?」
「敵勢力はまほろばの砲撃で壊滅して撤退したみたいです。現在、ガイアとまほろばでアクエリアスのワープを阻止するために作戦行動中みたいです」
「そ、それじゃあ、私も艦橋に‥‥」
ティアナは起き上がり、艦橋に向かおうとするが、
「副長、それはせめて点滴と輸血が完全に終わってからにしてください」
石田に止められた。
「は、はい‥‥」
無理矢理にでも押し通ろうとするが、石田からの圧で頷くしか出来なかった。
「ん?石田先生、そっちの子は?」
ティアナは医務室にまほろばには似つかわしくないお客が居ることに気づく。
「ああ、この子は管理局のオブザーバーの方と一緒に来た子よ」
石田は少年について、フェイトと一緒に来た事を伝える。
「えっ?フェイトさんと?」
「ええ」
「でも‥‥」
ティアナは少年の肌の色について益々疑問を抱く。
年齢に関しては、機動六課時代に同じFW陣に居たエリオと変わらない年齢なので、管理局ではそう珍しい事はないのかもしれないが、肌の色についてはガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国、ボラー連邦を始めとする地球がこれまで戦って来た外宇宙の星間国家と同じ様に地球、ミッドチルダを始めとする管理世界の住人とは異なる色をしている。
(私が居ない間に管理局も変わったから、肌の色が異なる世界も管理世界にしたのかしら?)
自分が管理局を離れてからもう何年も経っているので、その間に少年の故郷を管理世界にしたのだと自己完結した。
その間に石田は艦橋に内線をかけてギンガにティアナが起きた事を伝えた。
(‥‥哲さんと哲郎‥今頃何をしているんだろう?)
少年の姿を見て地球に居る旦那と息子の事が気になったティアナ。
「‥‥」
すると、少年がジッとティアナの事を見ている。
「ん?どうしたの?」
「‥‥それ」
「それ?どれ?」
少年は自分の顔の頬を指でなぞる。
それはティアナの顔に走る傷の事を指していた。
「ああ、これね。昔、パルチザン活動をしている時にね」
「パルチザン?」
「ああ、悪の支配者から抵抗している人たちの事よ」
「貴方は‥女の人‥‥だよね?」
「ええ、そうよ。旦那と息子も居るのよ」
「女の人なのに戦うの?」
「女だって戦う時は戦うわ」
「‥‥」
ティアナの言葉に少年は信じられないって表情をする。
彼の母星のディンギルでは、女は男に守られる弱い存在だと思っていたからだ。
現にディンギル軍に女性の軍人は居なかった。
「ん?どうしたの?」
「ぼくの居た所じゃあ、女の人は軍に居なかったから‥‥ちょっと驚いただけ」
「あら?そうなの?でも、この艦の艦長も女の人よ」
「変わった星なんだね」
やはり、女性が軍人‥ましてや一艦の艦長を務めているなんて信じられなかった。
「それじゃあ、私は艦橋に戻ります」
「はい。お大事に」
「ばいばい」
やがて、点滴と輸血が終わりティアナは士官用のジャケットを羽織って、医務室を出て艦橋に戻った。
まほろば 艦橋
「副長、もう大丈夫なの?」
「はい。ご心配をおかけして申し訳ありません」
艦橋に戻るとギンガがティアナの身を案じるが、ティアナはもう治った旨を伝える。
「そう?でも、あまり無理はしないでね」
「はい。それで、医務室で石田先生に聞いたのですが、まほろばはこれから‥‥」
「うん。ガイアと共にアクエリアスの十九回目のワープアウト地点に向けてワープする。そこが敵との決戦場になる」
「分かりました」
ティアナはギンガに敬礼し、副長席に戻る。
そして、
(フェイトさん、フェイトさん)
念話でフェイトに話しかける。
(ん?どうしたの?ティアナ)
(さっき、医務室で変わった肌の色をした子を見たんですけど‥‥)
(ああ、あの子ね)
(石田先生はフェイトさんと一緒に来たオブザーバーって言っていましたけど‥‥)
(ああ、うん。表向きはね)
(表向き?)
(実はあの子、アクエリアスの水害で水没した星で私たちが救助したの)
(えっ?アクエリアスの!?それがどうしてフェイトさんと一緒にまほろばに?他の救助者は?)
(救助できたのはあの子だけで、現場に居たあの子の母親も‥‥)
(‥‥)
あの少年が壮絶な体験をしている事に念話ながら絶句するティアナ。
自分やエリオ、キャロも壮絶な幼少期を体験して来たが、まさかあの子も家族を失う体験をしていたとは意外であった。
(あの、フェイトさん)
(ん?)
(管理局の管理世界の中でミッドチルダや地球人とは異なる肌の色の管理世界ってありますか?)
(ううん、今のところそんな世界は無いかな)
(なるほど‥‥)
フェイトから管理世界の現状を聞いて、ティアナは彼がまほろばにフェイトと共に居るのかとその点も妙に納得がいく。
あのような肌の色の人物を見たら、警戒されるか研究所送りにされるかもしれない。
それならば、管理世界の中でも治外法権とも言えるまほろばの艦内の方が安全だ。
(あの子の処遇についてはどうするつもりですか?)
(そこは私もまだ決めかねているよ。でも、その話の前にまずはアクエリアスの一件をどうにしかしないと)
(そうですね)
ヴィヴィオやエリオ、キャロみたいに養子縁組や後見人になってもいいのだが、そこにはやはり肌の色がどうしても関係して来る。
あの子の今後について、問題は確実にあるのだが、それは全てこのアクエリアスの一件が解決してからでないと話が始まらない。
「これより、本艦はアクエリアスのワープアウト地点に向けてワープを行う!!総員、ワープ準備!!」
「総員、ワープ準備!!」
時間的にアクエリアスが十九回目のワープを終えようとしている中、ガイアとまほろばはワープの準備を行う。
「制圧弁閉鎖、エンジン内圧力上昇を確認。ワープ可能領域へ」
「時間曲線走査開始。空間歪曲装置準備よし」
「エンジン出力120%を維持」
「時間曲線同調‥‥空間歪曲装置作動開始‥‥ワープ!!」
まほろばとガイアはアクエリアスの十九回目のワープアウト地点に向けてワープをした。
「ワープ終了」
ワープ明けするとノイマンは計器をチェックして、いくつかのスイッチをきる。
「ガイアは?」
「本艦後方にワープアウト反応を確認。無事にワープアウトした模様」
「艦に異常は?」
「艦に異常は認めず‥‥」
「周囲に敵の反応は?」
「コスモ・レーダーに反応ありません。全周囲、オール・グリーン!」
てっきりアクエリアスよりも敵が待ち構えているかと思ったが、敵はまだこの地点に来ていなかった。
「総員、戦闘配備」
「はっ、総員、戦闘配置に付け! 繰り返す、総員、戦闘配置に付け!」
しかし、この空間にアクエリアスと共に必ず敵はやって来る。
ガイア、まほろばは直ちに戦闘準備に入る。
「第一、 第二、第三、第四、第五主砲配置につきました」
「艦首魚雷室、配置完了」
「第一、 第二副砲配置完了」
「高角砲群、配置完了」
「航空隊出撃準備完了」
各部署から次々と報告が入る。
「艦長、総員戦闘配置完了しました」
ティアナの報告をきいてギンガは頷きつつホッとする。
(一先ず、アクエリアスのワープアウト地点に敵が居なくて良かった‥‥)
第九管理世界での戦いから得た敵艦船の情報では、敵は波動砲のような決戦兵器は有してはいないが、主砲はガトリング砲状で、彗星帝国、ガルマン・ガミラスの艦艇で採用されている回転式砲塔と同じく速射性が高く、しかも備え付けられている砲の数があまりにも多い。
ワープアウトと同時に敵に包囲されていたらいくらまほろばとは言え、蜂の巣になっていたところだ。
ましてやあのハイパー放射ミサイルをくらってはひとたまりない。
まほろば、ガイアが周囲を警戒していると、前方の空間が突如、オーロラのような輝きを放つとそこから薄っすらと巨大な星の輪郭が形成されたと思ったら、周囲に青く三つのリングを持つ青い星が出現した。
「いきなり星が‥‥」
「もしかしたらあれがアクエリアスじゃないか?」
「フェイトさん、あの星はアクエリアスで間違いありませんか?」
「ええ、あの特徴的な三つのリング、巨大な青い星‥‥間違いなくアクエリアスです」
ビーコンを設置するためにガイアの乗員たちはアクエリアスを見たが、まほろばの乗員たちは生のアクエリアスを見るのはこれが初めてである。
「あれがアクエリアス‥‥」
「宇宙に浮かぶ宝石みたいだ‥‥」
アクエリアスから敵艦隊が出撃して来るのかと警戒するも敵の艦隊がアクエリアスから出撃してくる気配は見られない。
「戦闘配置のまま、アクエリアスに突入」
ギンガはアクエリアスに接近する様に命じる。
「りょ、了解。戦闘配置のままアクエリアスに向かいます」
ノイマンは緊張した面持ちでアクエリアスにまほろばを接近させる。
今回の任務は敵勢力の殲滅ではなく、アクエリアスのワープ阻止。
敵が存在し、攻撃してくるのであるならば迎撃するだけだが、今はアクエリアスをワープさせている原因を突きとめてワープを止める事が今回の任務だ。
「コスモタイガー隊、二個小隊出撃し、アクエリアスの状況を先行偵察せよ」
『了解』
玲が小隊を率いてまほろばを出撃する。
「探査衛星も射出して偵察の範囲を広げて」
「了解」
まほろばから使い捨ての探査衛星がはじき出されるように発射される。
アクエリアス本土ないし周辺に敵は必ずいる。
敵よりもはやく存在を探知する事が出来れば、多少なりとも有利に戦えるもしくは、ワープ装置を破壊している間に動きを知る事が出来れば、ワープ装置を破壊後、直ぐに逃げる事が出来るかもしれない。
「ん?あの雲間に見える緑色のモノは‥‥」
「浮遊大陸だ。雲の下にはいくつもの浮遊大陸があるみたいだ」
「そして、地表に広がる青いモノは全部海か‥‥まさに水惑星だな」
アクエリアスの大気圏内に入るとそこは、広大な海、そして上空にはいくつもの浮遊大陸が浮かんでいた。
(なんだか、忍さんのコレクションの中にあったジ〇リ映画のラ〇ュタみたい‥‥)
ギンガはアクエリアスの上空の様子が忍の持っているアニメ映画の風景に似ている印象を受けた。
(この水世界がミッドに水と生命を与えた世界‥‥)
フェイトもアクエリアスの姿を見て考え深く思う。
アクエリアスは確かにミッドチルダへ水と生命を与えた星だが、今のミッドチルダにとっては自分たちの運命を破滅に導こうとしている死の星だ。
「航海長、前方の大きな浮遊大陸に降下」
「了解」
ノイマンはギンガの命令通り、前方にある大きな浮遊大陸にまほろばの艦首を向ける。
ガイアもまほろばの後を追う。
浮遊大陸の中心には大きな湖があった。
そして周辺には大陸全体を濃い緑色の植物が覆っていた。
それはアマゾンのジャングルの様でもあった。
「すごい植物だな‥‥」
「しかし、近くに恒星がないのに、なぜこんなに昼間の様に明るいんだ?」
アクエリアスは宇宙を彷徨っている回遊惑星‥‥
太陽のような光を放つ星がなければ植物は育たないし、水があっても永久凍土の様に凍りつく筈だ。
しかし、アクエリアスは近くに太陽のような恒星も無いにもかかわらず、水は液体のままで浮遊大陸には植物が生えている。
水が液体だからこそ、近くの星に接近した際、引力の干渉を受けてその星を水浸しにしてしまう。
地球やミッドチルダの様に近くに太陽となる恒星があり、恒星との距離が適切な時、アクエリアスの水はやがてその星に生命を誕生させる切っ掛けとなるが、既に人類がそんざいする惑星にとっては死を齎す星となる。
「分からない。でも、この星自体が発光しているみたいだ‥‥」
「ん?湖の近くに何かあります」
「拡大投影して」
「了解」
もしかしたら敵の基地、それかワープ装置かもしれない。
しかし、モニターに映し出されたのは、人工物は人工物でも、敵の基地でなければワープ装置もなく、滅び去った文明の跡‥‥遺跡群であった。
「遺跡‥‥彼方此方倒壊しているがあれは明らかに人工物だ」
「この星にもかつて人類が存在していたのか‥‥」
遺跡があると言う事は人工物であり、それはかつてこの星にはかつて人類が居た事を証明している。
ウルクにあった神殿同様、この遺跡群もスクライア族にとって是非とも調査したい遺跡群だろうし、スクライア族だけでなく管理局も調査してみたい代物あろう。
「フェイトさんはこの星に遺跡がある事を知っていたんですか?」
「ううん、まさかこの世界に遺跡があったなんて初めて知ったよ」
ガイアが初めてアクエリアスに来た際、地表の様子を詳しくはチェックせず、アクエリアスが回遊惑星であり、針路がミッドチルダに向かっていると言う結論からビーコンを打ち込んだだけであり、その後すぐにディンギル軍の襲撃に遭い詳しい調査はしていなかった。
「航海長、まほろばをあの湖に着水させて」
「は、はい」
ノイマンは浮遊大陸の中心にある大きな湖へと向かう。
やがて、まほろばはゆっくりと降下して湖へと着水する。
静かな水面は宇宙戦艦二隻が着水した事で波立つ。
着水した衝撃で艦内は揺れたが、それも直ぐに収まった。
まほろば、ガイアは湖の上で静止する。
湖の上には微かに霧が水面全体を被うようにして流れている。
だが、湖の透明度は凄くかなりの深さまで見通す事が出来る。
ただし、魚などの水棲生物の姿は確認できない。
いや、湖だけでなく浮遊大陸にも陸上生物どころか鳥一羽の姿もない。
艦橋の窓外には湖と対岸の森林、そしてその中にちらほらとかつてこのアクエリアスで栄えていたであろう文明の痕跡である遺跡群の姿が幾つか見える。
マヤ文明もしくはインカ帝国のような石造りの祭壇もしくは神殿にも見えるが、一体何の用途をなしていたのか判らない。
「ワープ装置らしきものはありませんね」
「別の浮遊大陸に設置されているのか?」
敵の姿、基地、ワープ装置らしきものはこの浮遊大陸には確認できていない。
ならば、別の浮遊大陸にあるのだろうか?
まほろば、ガイアの乗員たちが困惑していると不意に深い霧が立ち込め始める。
それも物凄く早いスピードで‥‥
自然界の現象ではとても考えられない。
「霧が物凄い早さで立ち込めています‥‥」
「まさか、敵の仕業!?」
「いえ、レーダーには何の反応もありません!!」
霧を発生させてその靄に潜んで襲撃をかけて来たのかと思ったが、レーダーには反応がない。
まほろば、ガイアの乗員たちが戸惑っている間にも霧はあっという間に前方の視界を包み込み、対岸の森林と遺跡群は見えなくなる。
「敵の襲撃でなくても明らかにこの現状はおかしい‥‥」
やがて、霧が青白く発光するとどこからともなく、女性の声が聞こえて来た‥‥
『私は、女王アクエリアス‥‥この星によって命を与えられた者たちよ……』
霧の奥底より、胸部から上だけの女神を思わせる女性が現れた。
『心静かに聞きなさい‥‥』
女性の口は動いてはいないが、確かに声が聞こえる。
一種のテレパシーみたいなものなのだろう。
『アクエリアスは多くの星に水と命の恵みを与えました。でも、恵みばかりを与えた訳ではありません。その後もアクエリアスはしばしば回遊し、気象異変の原因となり、生物を絶滅させたり、人類がせっかく築いた文明を洪水で押し流したりしました。それでも、生物はその試練を乗り越えて進化を遂げ、人類はより高い文明を発展させていきました。アクエリアスの試練に打ち勝った者だけが未来を勝ち取ったのです。試練もまた恵みであり愛なのです。愛とは決して甘く甘美なものばかりではありません。辛く、苦しく、恐ろしい事の方が多いのです。人はソレと戦わなければなりません。どうか、勇気をもって試練と立ち向かってください。ただ、この星がミッドチルダへ訪れるのは、本当は六千年の先の筈でした‥‥それを早めているのは‥‥ディンギル星人。ディンギル星人は遥か昔、ミッドチルダから宇宙へ逃れた民族の末裔なのです。あなた方の敵はこの星には居ません。さあ、飛び立ちなさい、遠きアクエリアスの子らよ‥‥』
アクエリアスもディンギル星人たちが行っている所業を間近で見ている事からその事実をまほろば、ガイアの乗員たちへと伝える。
女王アクエリアスの姿が消えると同時に霧も青白い光も消えて再び湖の対岸が見えるようになる。
(アクエリアスは惑星ファンタムのようなコスモ生命体なんじゃあ‥‥)
ギンガはアクエリアスの言動から、アクエリアスがただの回遊する水惑星ではなく、以前第二の地球探査の際、ガルマン・ガミラスから紹介された惑星ファンタムと同じコスモ生命体ではないのかと思った。
一方、今回の敵の正体を知ったクロノたちは‥‥
「まさか、ミッドのアクエリアスを近づけている敵が‥‥」
「ミッドに住んで居た民族の末裔なんて‥‥」
「それって元をただせば、我々と同じミッドの住人‥ってことですよね?」
「ああ‥だが、自分勝手さだけが発達した連中みたいだ‥いや、そんな連中はミッドにも居るか‥‥」
管理局の中にも未だに 『次元の海はすべて管理局のモノであり、全ての生物の生殺与奪は管理局次第だ』 と思い込んでいる局員も居るので、あながち同族とも言える。
クロノはまさに同族嫌悪な気持であった。
女王アクエリアスが消えてほぼ同時に偵察に出た航空隊から連絡が入る。
『こちら山本隊、当水惑星北半球に敵艦隊、敵基地いずれも確認出来ず』
『同じく南半球も敵勢力の存在を確認できません。ただし、海上に巨大な人工物を発見しました』
「人工物?それって遺跡とかではないの?」
『いえ、比較的に新しいもので、遺跡と言うよりも海底資源の掘削とエネルギー補給を兼ね揃えたプラントの様です。恐らく敵艦隊はこれをエネルギー源としているものとみられます』
「海上に海底資源の掘削にエネルギー補給のプラント‥‥敵さん、石油でも掘削してそれをエネルギーにでもしてんのかねぇ~」
偵察隊からの報告を聞いて、柳原は敵のエネルギー源は石油なのかと思った。
「こんな水ばかりの惑星に石油なんてあるんですか?」
「いや、その可能性は少ないだろう」
艦橋にアルバートが機械工作室から戻って来た。
「艦長、敵のミサイル防御装置、完成しました」
「お疲れ様です。技師長」
「技師長、テストは?」
オペレーターの林がアルバートに使用前にテストをしたのかを問うと、
「そんな暇はない。コンピューターシミュレーションで十分だ」
アルバートは自信ありげに言うが、他の艦橋メンバーは、
(それ本当に大丈夫なの!?)
と、若干不安であった。
「それで、技師長としてはあの海上にあるプラントをどう見る?」
ギンガは次いで、アルバートに海上に設置されているディンギル軍のプラントについて意見を求める。
「恐らくあのプラントは石油ではなく重水の汲み出しと燃料補給を兼ねているプラントであると思う」
「重水の?」
「そうだ。普通の水素は陽子の回りを電子が回っているのだが、中には陽子に中性子が一つくっついている重水素、二つくっついた三重水素もある。所謂トリチウムと言うモノだ」
「トリチウム‥‥」
「そうです。このトリチウムは中性子のためにやや重く、それから出来た水は底に沈む。このプラントはアクエリアスの中心部に貯まった重水を組み上げているのだ」
「トリチウムはデューテリウムに比べて不安定でしたよね?」
「うむ、自然界の宇宙線などによって生成され、水道水、雨水、我々の体内など、環境中に広く存在しており、弱いβ線を放出しているが、紙1枚で遮蔽できるほどエネルギーが弱く、人体への影響は小さく、体内に入っても蓄積・濃縮されず、水分として速やかに体外に排出されるか、ヘリウムに変化する」
アルバートがトリチウムについての説明を行う。
「つまり、このアクエリアスにはトリチウムが多く含まれる水が中心部に存在していると言う事ね」
「ああ。このアクエリアスの近くに恒星が無いにもかかわらず、植物が存在し、水が固体化せずに液体のままでいるのは、β崩壊のエネルギーが宇宙空間を回遊しているアクエリアスを高温に保っているのかもしれない」
アクエリアスにとってこのトリチウムが人間で言うホッカイロみたいな役割を担っていたのだろう。
「ちょっと待ってください、技師長。先ほど、クイーン・アクエリアスはこの星に敵は居ないと言っていました。もし、アクエリアスの言う事が本当であり、トリチウムを何かのエネルギーに使用するためにこうして汲み出しているとなると‥‥」
「敵はアクエリアスではなく、アクエリアス周辺の空間に潜んでいる‥‥」
敵勢力の所在がアクエリアスではなく、アクエリアス周辺の宇宙空間ではないかと予測された中、航空隊から緊急伝が入った‥‥
同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について
-
付き合っちゃえ
-
お友達のままで