星の海へ   作:ステルス兄貴

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今年最後の展示となります。

今年もありがとうございました。

来年もよろしくお願い致します。


二百六十九話 ウルク崩壊

 

 

アクエリアスの最後のワープとなる二十回目のワープを阻止するためにウルクへと強行着陸したまほろばとガイア。

 

ワープ装置が設置されていると思われる総統府へまほろばとガイアは主砲にて総統府を砲撃してワープ装置を破壊しようとした。

 

しかし、総統府の周囲は強力なバリアで防御されており、なかなか命中弾を与えられなかった。

 

一方、ディンギル側もアクエリアスをワープさせてしまえば、ミッドチルダを救う手立てはなく、自分たちの勝ちであると判断し、何としてでもアクエリアスのワープを行おうとルガール自身が陣頭指揮に立ちロボットホースに跨って白兵戦を仕掛けて来た。

 

まさにどちらも死力を尽くす戦いとなった。

 

戦況は一時、ディンギル側に傾きつつあった時、ティアナはノイマンに頼み、まほろばの船体を少し浮上させて航空隊を出撃させ、ウルクの総統府を空爆する。

 

その攻撃が功を制し、総統府内に設置されていたワープ装置を破壊することに成功した。

 

ワープ装置が破壊された事でアクエリアスへ放射されていたワープ光線は停止し、ディンギルはアクエリアスをワープさせる事が出来ないと思われた。

 

現在のアクエリアスの位置から二分の一光速で進んでもミッドチルダに辿り着くまで三百年の時間があり、それだけの時間があれば管理局も体制を立て直すには十分な時間であった。

 

しかし、戦略ではディンギル側が一枚上手だった。

 

ワープ装置は総統府にあるモノだけではなく、もう一台あった。

 

残りの一台はウルク後部にある山頂の神殿内にあると推測された。

 

ティアナたちまほろばの航空隊は神殿前の広場に着陸し、神殿内へと突入した。

 

神殿内に入ったティアナたちを出迎えたのはディンギルの民たちが信奉した巨大な邪神像の姿、そして敵の兵士たちの待ち伏せであった。

 

このまま敵の兵士たちの相手をしているとアクエリアスが最後のワープをしてしまう。

 

ティアナと同じく神殿内に入った山本は自分たちが敵の兵士たちの相手をするので、ティアナにはワープ装置の破壊を頼んだ。

 

山本の提案を受けてティアナはエレベーターの中に駆け込む。

 

すると、エレベーターの中に駆け込んで来た人物が居た。

 

ティアナは敵兵が自分を追いかけて来たのかと思ったが、エレベーターの中に駆け込んで来たのは意外な人物であった。

 

エレベーターの中に駆け込んで来た人物‥‥それは、まほろばの医務室で出会った肌の色が特殊な色をした少年であった。

 

そして、少年はこの神殿内の構造に詳しい事が判明した。

 

それは、この少年の出身が現在、管理局と敵対しているディンギル出身である事の証明となった。

 

少年はティアナに神殿内を案内すると言うが、少年がディンギル星人と分かるとそれが罠なのではないかと疑ってしまうが、時間が無いのも事実であり、少年のガイド無しに敵兵が居る中で、ワープ装置を捜すのはあまりにも無謀であり、ティアナは少年に案内を頼んだ。

 

「でも、どうしてまほろばを降りて此処に?危ないわよ」

 

少年が今、自分たちと敵対しているディンギル星人であり、神殿内に居る敵兵にとって同じ星の住人だとしても今の神殿内は戦場となっているので危険だ。

 

そんな危険な状況下にもかかわらず、少年はまほろばを降りてこの神殿に来ている。

 

ティアナは少年に何故、そんな危険のある場所に来たのかを問う。

 

「どうしても来たかったんだ。お母さんや僕たちを置き去りにした酷い連中が居る所だけれど、やっぱり会いたかったんだ‥‥ディンギルの人に‥‥」

 

「そう‥‥」

 

ティアナにはぼかして言ったが、少年には分かっていた。

 

ウルクには‥‥この神殿には自分の父親が居ることを‥‥

 

「もしかして、坊やの星‥ディンギルはアクエリアスの水で水没しちゃったの?」

 

「うん。いきなりの事で、気づいた時にはもう手遅れで、空は黒い雲に覆われて大粒の雨がすごい勢いで降ってきて町はあっという間に海みたいになって‥‥」

 

ティアナはディンギル星がアクエリアスの水柱によって水没した事を少年の口からきいて知った。

 

(このままだと、ミッドもディンギルみたいにアクエリアスの水で‥‥)

 

このままアクエリアスのワープを許せば、自分やギンガの故郷‥ミッドチルダもディンギルと同じ末路が待っているのだと少年の実体験を聞いて実感させられる。

 

「ただ、この先、坊や‥貴方の星の同胞を私は殺すかもしれないわ。それでもいいの?」

 

アクエリアスのワープを阻止するため‥ミッドチルダを救うためにティアナはこの先で待っている障害を排除するため、少年の故郷の人間を少年の目の前で殺すかもしれない。

 

つまり、ティアナはこれから少年にとって同郷の人間の仇にある事を彼に伝える。

 

「うん‥‥お姉さんたちが自分たちの星を助けるために必死に戦っている事は分かっているから‥‥アクエリアスが近づけば、お姉さんたちの星もディンギルみたいになっちゃうのは知っている‥‥僕たちみたいな人をこれ以上出さないために僕も協力するよ」

 

しかし、少年はティアナがこれからするであろう同郷殺しを理解し、更には自分の同胞を裏切る事まで明言した。

 

まぁ、正確には『元』がつくし、元々ミッドチルダはティアナとギンガの故郷なので、少年の言う『自分たちの星』と言うのも中らずと雖も遠からずだったので。

 

「‥ありがとう」

 

「えへへ‥‥」

 

ティアナは少年の言葉に礼を言うと、彼はニッと嬉しそうに笑みを零す。

 

(あと三分か‥‥)

 

ティアナはちらっと腕時計を見る。

 

タイムリミットはもうすぐとなっている。

 

やがて、エレベーターが目的の階に到着する。

 

「こっち」

 

エレベーターを降りて少年の案内の下、無駄な時間を消費することなくティアナは神殿内に設置されたコントロール・ルームへと辿り着く事が出来た。

 

神殿の外見はピラミッドで、邪神像がある場所はいかにも神殿っぽさがあったが、今、自分たちが居る階層は神殿と言うよりも中はまるで宇宙船の造りであり、通路がたくさんあった。

 

「ここがコントロール・ルームだよ」

 

「わかった。案内ありがとう。坊やはここにいてちょだい。危ないから」

 

「う、うん‥‥」

 

不安そうな表情を浮かべる少年を尻目にティアナは目的の部屋である神殿内のコントロール・ルームの自動ドアを開けて中に入る。

 

そこは正面の壁が様々な機械で埋まった部屋で、アクエリアスのワープを制御するサブコントロール・ルームに間違いなかった。

 

「‥‥」

 

そして、コントロールパネルの前には、ティアナに背を向けて一人の男が椅子に座って計器類を操作していた。

 

男はコントロール・ルームに入って来たティアナの気配に気づいたのかチラッと一瞥する。

 

「まさか本当に、ここまで来るとはな‥‥」

 

コントロール・ルームに低い男性の声が響く。

 

「あ、貴方がディンギルの王?」

 

ティアナが男にディンギルの国家元首なのかを問う。

 

すると、その男は椅子からゆっくりと立ち上がり、マントを翻しながら振り返る。

 

「そうだ。ディンギル帝国大神官大総統、ルガールだ」

 

彼の姿は何とも威厳と威圧感をまとっている。

 

(さ、流石、ディンギルの国家元首‥‥以前見せてもらったガミラスの総統、デスラーと似たようなオーラと威圧感があるわ‥‥)

 

初対面の相手が敵であろうと、ティアナは礼儀を持って話し掛けた。

 

「わ、私は宇宙戦艦まほろばの副長、ティアナ・ランスター・北野と申します」

 

「ぬっ?貴様は女か?」

 

「は、はい」

 

「まさか、女の乗る艦に我が息子は敗れたと言うのか‥‥」

 

ルガールが眼前に居る者が女である事に驚愕する。

 

しかもウルクに強行着陸をしてきたあのまほろばの副長‥つまり、艦での№2に当たる者だ。

 

ルガールは自分の母も妻も子供を産むだけの弱い存在だと思っていた。

 

地球において未だにそんな思想を持っているとヤバい奴、時代遅れの差別主義者と思われる考えであるが、ディンギルでは男尊女卑の思想が根強く広がっていたので、男性よりも強い女性が居るなんて信じられなかった。

 

そして、自分の息子の一人が、女性が乗る艦に負けた事にも驚愕に値した。

 

ティアナはルガールが一体何に驚いているのか?

 

自分が女だから一体何だと言うのか?

 

と、思いつつも時間が無いので、ルガールとの対話を試みた。

 

(ここは、あくまでも話し合いでいかないと‥これ以上、無駄な犠牲を払わない為にも‥‥)

 

「ディンギル星の水没には深く同情します。ミッドチルダへ移住したいと言うのであれば、私の独断では無理ですが、管理局の高官に働きかけてミッドチルダへ受け入れるように仲介します。ですから、無駄な戦闘は止めて、アクエリアスのワープを中止していただけませんか?」

 

何としても止めさせなければならないティアナであったが、ルガールはティアナの言葉を聞いて、見下す視線を送りながら最悪な返答をしてきた。

 

「たわけた事を言うな!!同情や施しなどいらぬ!!」

 

(やっぱり、国が国なら王も王ね‥‥あまりにも自己中心的すぎる‥‥)

 

此処で、アクエリアスをワープさせてしまえば、あとは二分の一光速の速度でミッドチルダ方向へと進み、二十四時間後にはミッドチルダの至近距離を通過する。

 

そうなれば、アクエリアスとミッドチルダの引力の干渉でミッドチルダにはアクエリアスから数百兆トンの水が降り注ぎ、大陸は水没し、ミッドチルダの陸上で生息している生物は人類を含めてすべて絶滅してしまう。

 

反対にディンギル側とすれば、このワープをさせてしまえば、アクエリアスを止める手立てはない。

 

自動的に自分たちの目的‥勝利が決定的となる。

 

「アクエリアスの女王から聞きました。貴方がたの先祖は元々ミッドチルダで文明を築いた民族だと‥」

 

「その通りだ」

 

「だったら、何故今のミッドチルダの人類と一緒に暮らす選択をしなかったんですか!?救いを求めて来たら、ミッドチルダの人類はあなた方を受け入れたかもしれないのに‥‥」

 

(管理局ならば、ディンギルの技術を質量兵器を持つ野蛮人と見下すかもしれない)

 

(それでも、彼らのもつ宇宙艦船技術はきっと欲しがる筈‥‥)

 

(それならば、ある程度の妥協がする筈‥‥)

 

仮にディンギルが‥ルガールがミッドチルダとの共存を念頭に管理局側に対話を申し込んだ場合、管理局はディンギルの‥ルガールとの対話、そしてディンギルとの共存を望むだろうか?

 

そんな疑問を抱くが、ディンギルとの戦争で管理局も疲弊している。

 

ディンギルも兵力、物資にもう余裕がある訳ではない。

 

それならば、ディンギルと管理局との間で共存の合意がなされる可能性もある。

 

しかし、ルガールからの回答は、

 

「我らは神によって選ばれ、一万年前の大洪水からミッドチルダを逃れ、ディンギル王国を築く祝福を得た者たちだ。その反面、お前たちは神の祝福を得られなかった劣悪な者たちの子孫‥‥そのような者たち信じよと言うのか?神にも選ばれぬ劣等種であるお前たちと共に同じ星に暮らせと?ふざけるな!!」

 

(今ではアンタの言う劣等種が神様気取りな所もあるけどね‥‥)

 

ルガールの言葉を聞いて管理局の中に自分たちは神の使い、正義の使者と驕る者たちが居る現状を心の中で突っ込むティアナ。

 

「今また我らはアクエリアスからの水害を逃れ、神によって選ばれた。この世で最も崇高なものは怒りと憎しみ、憎悪だ!!」

 

(性格が終わっているわ‥この王様は‥‥)

 

崇高する感情が全てマイナス面な事にティアナは内心呆れる。

 

「神によって選ばれなかった者の憎悪と怨嗟を試練として乗り越え、古きモノを破壊し、新たなモノに作り変えて、世の中を進化・進歩させるのだ!!そして、アクエリアスの最後のワープまであと一分だ」

 

「なっ!?」

 

ティアナがコントロール・ルームの窓外を見ると、消えかかっているアクエリアスの姿がある。

 

タイム・パネルのメモリに明かりがついていないのは残り一つだけとなっている。

 

「ミッドチルダは既に我が手に落ちたも同然‥‥フハハハハハ‥‥」

 

既に勝利を確信したのかルガールは高笑いをする。

 

「わかったか!? この世を動かすのは力だ!!」

 

ティアナにそう言い放つと、ルガールは腰のホルスターから銃を取り出して、その銃口をティアナに向ける。

 

「ち、違う‥アンタは間違っているわ!!その考えも何もかも‥‥」

 

消えかかっているアクエリアスに眼が奪われてしまい、ティアナは動きが一歩遅れた。

 

一歩ずつ、一歩ずつルガールは銃を構えながらティアナに迫る。

 

対するティアナは一歩ずつ後退する。

 

ティアナは腰のホルスターに手をやるが、コスモガンを抜けない。

 

今ここで、コスモガンを抜けばルガールの言う事を肯定してしまう。

 

だが、コスモガンを抜かなければ自身の命が危険だ。

 

ティアナが葛藤していると、

 

「お父さん!!」

 

「っ!?」

 

コントロール・ルームの扉付近に待たせていた少年がティアナとルガールとの間に飛び込んで来た。

 

(お父さん!?この子の父親がこの自己中な王様!?)

 

ティアナは少年の父親がルガールである事に驚愕する。

 

一方のルガールの方も少年の姿を見て目を大きく見開く。

 

ディンギルに置き去りにして、ディンギル星と運命を共にしたと思っていたもう一人の息子が自分の目の前に現れたのだから‥‥

 

しかし、ルガールにとって、それは一瞬の戸惑いであって、今は息子よりも眼前の敵を斃す事が優先であり、彼は迷わず銃の引き金を引いた。

 

ズキューン!!

 

「お父さん!!やめて!!」

 

少年はティアナの前に庇うように立ったので、ルガールが撃ったビームガンのビームは少年の身体を貫いた。

 

少年は仰け反って倒れる。

 

「うっ‥うぅ‥‥お、お父さん‥‥」

 

「‥‥」

 

ティアナは愕然となって倒れている少年を見て、ルガールは銃を構えたまま固まる。

 

「ぼ、坊や!!」

 

すぐに駆け寄って少年を抱き上げる。

 

「‥‥」

 

ティアナはルガールの表情が微かに揺らぐのを見逃さなかった。

 

「き、貴様ぁ‥それでもこの子の父親か!?‥‥それでも人間かぁぁぁ!!?」

 

ティアナの絶叫がコントロール・ルームに響く。

 

「‥‥」

 

ルガールはティアナの強い怒り、憎しみが籠った視線にたじろくように一、二歩後ずさる。

 

ティアナとしてはこのままコスモガンを抜いてルガールを撃ち殺したかったが、少年を抱えているため、それが出来なかった。

 

ルガールはその隙にレバーを下げると椅子と共に下へ降下して行った。

 

「お姉‥さん‥‥」

 

怒りに満ちた感情であるティアナであったが、かき消えそうな擦れた声がティアナの理性を呼び戻した。

 

「坊や、しっかり!!」

 

ティアナは持っていた救急キットで応急手当をするが、救急キットの装備だけではどうにもならない。

 

「ぼ、僕は‥‥人として誉められる事をしたんだろう‥‥?」

 

「‥ええ‥‥ええ、そうよ!!」

 

「よかっ…た…ボ…ク…」

 

少年は涙を流しつつ息を引き取った。

 

「坊や?……坊や!?……坊やあぁぁぁ!!!」

 

ティアナは少年の身体を何度も揺すり、叫ぶが少年が再び目を開ける事は無かった。

 

コントロール・ルームに再びティアナの絶叫が響く。

 

それと同時にアクエリアスも消えた。

 

最後のワープを許してしまったのだ。

 

 

コントロール・ルームから椅子ごと降下したルガールは神殿地下の秘密ドックに停泊している巨大な円盤の艦橋に居た。

 

「アクエリアスのワープを確認」

 

オペレーターが二十回目のアクエリアスのワープを確認し、ルガールに報告する。

 

「うむ、これで我々の勝ちだ。ミッドチルダは我々ディンギルのものとなった」

 

報告を受けたルガールは、二人の息子を自らの手に掛け、家族を全て失ったのだが、家族を失った喪失感など微塵も感じさせず、むしろ最後のワープを成功させた事実に高揚感さえ覚えている。

 

「アクエリアスを無事にワープさせたからにはもはやウルクにも用はない。まほろば、ガイア、このウルクと共に宇宙の塵に成り果てるが良い‥都市衛星ウルク爆破スイッチをいれろ」

 

「はっ!!」

 

一人の兵士が大きなレバーを下ろすと、ウルクの各所で爆発が起き始めた。

 

 

まほろば 艦橋

 

「アクエリアス‥‥ワープしました‥‥」

 

『‥‥』

 

林の報告を受けてまほろばの艦橋内は重苦しい空気となる。

 

しかし、ガイアの方がもっと重苦しい空気に違いない。

 

(ティアナ‥間に合わなかったんだ‥‥)

 

ギンガがチラッとフェイトの様子を窺うと、フェイトは項垂れていた。

 

これでミッドチルダを救う手立ては無くなってしまった。

 

そんな重苦しい空気の中で、突如、周辺の建物が爆発しだした。

 

建物の爆発する爆音は艦橋にも響く。

 

「な、なに!?いきなり都市が爆発し始めたんだけど!?」

 

うららがいきなり爆発し始めた事に驚く。

 

「くそっ、敵はどうやらこの衛星都市ごと本艦を葬る様だ‥‥アクエリアスをワープさせてしまえば、この衛星都市はもう用済みだろうからな‥‥」

 

アルバートは怒気を含んだ声で敵の狙いを分析する。

 

「航海長、一先ず脱出する。発進準備!!」

 

ギンガはこのまま此処に居るのは危険だと判断してノイマンに発進準備を命じる。

 

「は、はい。発進準備に入ります」

 

アクエリアスをワープさせてしまったのは悔しいが、今は脱出しなければ、自分たちの生命も危険だ。

 

それはガイアの方も同じで、ミッドチルダを救う手立ては無事にウルクを脱出してから考えればいい‥‥

 

今は爆発しているウルクからの脱出を優先した。

 

 

ガイア 艦橋

 

「機関長、エンジンフル出力!」

 

「航海長、脱出だ」

 

「りょ、了解」

 

ガイアは直ぐに上昇して離脱を開始したが、まほろばの異変に気が付いた。

 

まほろばはまだ浮上せずに、ウルクの地表に居る。

 

「艦長、まほろばがまだ浮上していません!!」

 

「なにっ!?」

 

(まだ、エンジンの異常が直っていなかったのか‥‥)

 

ニュートリノ・ビームを放たれた際、まほろばの異常を予感していたいたが、その後の戦闘でまほろばの機関はまだ不調であった。

 

 

まほろば 機関室

 

「機関長!!ダメです!!エネルギー漏れが酷くてこれ以上、出力がアップしません!!」

 

「馬鹿野郎!!弱音を吐くな!!最後の最後まで諦めるんじゃねぇ!!」

 

「は、はい!!」

 

機関室では、機関士と技術班が総出で機関の修理を行っていた。

 

 

ウルク 神殿内

 

「飛行長!!脱出よ!!」

 

『ですが、副長は‥‥』

 

「此処で死ぬつもりはないわ!!でも、私を待っていると、間に合わないかもしれない!!だから先に脱出して!!」

 

『りょ、了解』

 

ティアナは邪神像のある礼拝堂で敵兵と戦っていた山本ら航空隊の隊員たちを先に脱出させた。

 

そして、ティアナは少年の亡骸を抱いたまま脱出する。

 

いくら、死者でもこのまま瓦礫に押しつぶされて宇宙に放り出されるのはあまりにも可哀そうだ。

 

異郷となるが、せめて地球の地に埋葬したいと思ったのだ。

 

エレベーターを使用している時もティアナはいつエレベーターが止まるのか?

 

エレベーターが崩壊に巻き込まれないかヒヤヒヤしていた。

 

通常ならば、被災時はエレベーターの使用はご法度なのだが、地理不慣れと崩壊までの時間が無かったので、ティアナは賭けで此処まで来るのに使用したエレベーターを使った。

 

やがて、あの巨大邪神像のある礼拝堂まで辿り着く。

 

ディンギルの民たちが信奉していた巨大邪神像もガラガラと轟音を立てて崩れて行く。

 

礼拝堂にはティアナが言ったように山本たちは先に脱出していた様で、その姿は無かった。

 

外に出た時、広場にはコスモゼロ以外の艦載機はなかった。

 

ティアナはコスモゼロのコックピットに飛び乗り、操縦桿を握ってコスモゼロを発進させる。

 

発進する際、地面が割れてタイヤが巻き込まれたが、スラスターを噴射して機体の制御を行いつつ機体を浮上させる。

 

(あ、危なかった‥‥)

 

神殿前の広場はいくつもの罅と亀裂が走り、崩壊していく。

 

あと少し遅れていたら自分は地割れに巻き込まれていた。

 

ティアナが後ろを振り返ると神殿が崩れていき、山間部の下から何かが突き上がって来た。

 

それは型が旧式ながらも巨大な円盤が姿を現した。

 

そして、崩れ落ちた岩石にそっくりの岩石型の宇宙船が次々と発進して上空に飛び上がり、巨大な円盤の周囲に展開して円盤共々宇宙へと消えて行く。

 

巨大な円盤、そして岩石型の宇宙船にはルガールを始めとするディンギル軍の残党が乗船していた。

 

彼らは用済みとなったウルクからまんまと無事に脱出して行ったのだ。

 

しかし、エンジンに異常をきたしているまほろばは未だに崩壊しているウルクの地表に居た。

 

「機関長、これ以上、出力は上がりませんか!?」

 

『ダメだ!!波動エネルギーをリークさせ過ぎたせいで、出力が五十%も出ねぇ!!』

 

ノイマンが柳原に出力について上がらないかを問うと、柳原からは現状これ以上、出力を上げる事は不可能だと言う回答が来た。

 

「くそっ、出力が上がらないとなると、飛び上がれない‥‥」

 

ノイマンが絶望するかのように呟く。

 

「航海長、この爆発で都市衛星の構造が脆くなっている。姿勢制御ロケットを逆噴射させれば、地盤を突き破れるかもしれない」

 

ギンガは飛び上がるのではなく、まほろば自体を巨大なドリルとして、地盤に潜ってウルクの下部から脱出しようと言うのだ。

 

「は、はい。姿勢制御ロケット、逆噴射用意!!」

 

ノイマンは全てのスラスターの向きを逆にセットして最後の噴射レバーを引く。

 

四散する岩盤、建造物の残骸、目のくらむような爆発の閃光の中にまほろばは完全に見えなくなった。

 

(まほろばが‥‥)

 

崩壊するウルクの上方からその様子を見ていたティアナはまほろばが誘爆に巻き込まれたのかと思った。

 

しかし、それは的外れでウルクの下部からまほろばは出て来た。

 

そして、出せる速力一杯でウルクから遠ざかっていく。

 

まほろばの無事を確認し、ティアナはホッとした表情をする。

 

やがて、ウルクは爆発を繰り返し、真っ二つになり爆散した。

 

「全機、帰投」

 

『了解』

 

コスモゼロ、コスモパイソン隊はまほろばへと戻っていく。

 

ルガールのウルク共々、まほろばとガイアを葬る思惑は外れたが、アクエリアスを二十回ワープさせると言う計画は成功してしまった。

 

まほろばに戻り、コスモゼロから降りたティアナの姿を見て整備員たちはギョッとする。

 

ティアナの隊員服には血がベットリとついており、ぐったりとした少年を抱きかかえているのだから‥‥

 

「ふ、副長は‥その血は‥‥?」

 

第九管理世界の戦いでもティアナがまほろばに戻って来た際、左肩から出血をして意識不明の状態で戻って来たので、ティアナが血まみれで戻って来たので、彼女が怪我をしたのかと思ったのだ。

 

「怪我をしたんですか?」

 

「それにその子‥‥」

 

「怪我はしていないわ‥大丈夫よ‥‥」

 

ティアナはそう言い残して医務室へと向かった。

 

「石田先生」

 

「っ!?副長!!その血どうしたんですか!?それに‥‥」

 

石田も整備員同様、ティアナの姿を見て驚愕する。

 

「神殿内の戦いの中で、出会って‥‥そこで、私を庇って‥‥」

 

ティアナは声を押し殺したようにして石田に事情を話す。

 

少年と過ごした時間は決して長くは無かった。

 

しかし、ティアナは現在一児の母‥しかも少年と同じ性別の子‥‥

 

感情移入しない訳がない。

 

「この子の故郷はもうないみたいですが、せめて地球の大地に埋葬したいので、先生‥‥」

 

「分かったわ」

 

石田はティアナから少年を受け取ると、戦死者の遺体を一時保存する冷凍安置装置の中に収めた。

 

(そう言えば、あの子の名前‥‥聞いていなかったわね‥‥)

 

ティアナは少年の名前を知る事も無く、彼と永遠の別れをしてしまった事に後悔が残った。

 

 

ウルクの爆散を確認後、脱出したディンギル軍の残存艦隊は襲撃してくる様子も無く、まほろばとガイアは平穏な様子で宇宙空間を航行している。

 

しかし、外は平穏でも艦内は重苦しい空気となっている。

 

ギンガはクロノと交信をして今後のアクエリアス対策について協議していた。

 

「ハラオウン提督、この度は我々の力が及ばず申し訳ございません」

 

交信が始まるとギンガはクロノに深々と頭を下げて、アクエリアスのワープを許してしまった事を謝罪する。

 

『いえ、月村艦長のせいではありません。むしろ、まほろばの皆さんは我々のために十分に協力し、戦ってもらいました。逆に我々から感謝の意を述べなければなりません』

 

「‥‥」

 

クロノからの労いの言葉は逆にギンガにはグサッとくる。

 

『フェイト』

 

「は、はい」

 

『‥‥君はそのまま、まほろばに乗艦してもう一つの地球へ行くといい』

 

「えっ?く、クロノ、な、何を‥‥」

 

フェイトはクロノの言葉の意味が理解できずに狼狽える。

 

『ミッドチルダは‥もう助からないかもしれない‥‥それなら、平和に暮らせる世界は地球だろう?』

 

「‥‥」

 

『月村艦長もこれ以上、管理局に協力する必要はない‥‥このままもう一つの地球へ帰還してもかまわない』

 

クロノはギンガにまほろばの協力要請を此処で解除する旨を伝える。

 

「ハラオウン艦長‥まだミッドチルダは滅んではいません。それにアクエリアスがミッドチルダの至近距離を通過するまで、まだ二十四時間の猶予があります。その二十四時間の間、私たちはあらゆる可能性を探らなければなりません。それが今の私たちの使命なのではないでしょうか?」

 

アクエリアスが二十回目のワープをしてしまったとは言え、ワープアウト地点がミッドチルダの至近距離と言う訳ではない。

 

ワープアウト地点からアクエリアスがミッドチルダの至近距離を通過するまで二十四時間の猶予がある。

 

この残された時間を最大限に利用して、ミッドチルダをアクエリアスの水害から救う手立てを考えなければならない。

 

『‥そう‥‥だな‥‥まだ二十四時間の猶予がある。やりましょう!!最後の最後まで!!』

 

「はい。まほろばの応急修理は間もなく、終わります。終了次第、アクエリアスを追いましょう」

 

アクエリアスを追うにしてもまほろばのエンジンの調子を整えなければならない。

 

機関士と技術班は急いでエンジンの応急修理に取り掛かる。

 

まほろばのエンジンの修理が行われている中、クロノは報告のためにミッドチルダへ通信を入れる。

 

 

ミッドチルダ クラナガン 地上本部ビル “海”分室

 

「総合統括、ガイアのハラオウン提督から通信が入りました」

 

「クロノから?繋いで頂戴」

 

「了解」

 

オペレーターが通信回路を開くとモニターにクロノの姿が映し出される。

 

リンディとしては無事にアクエリアスのワープを阻止した報告なのだと期待してしまう。

 

しかし、クロノからの内容は‥‥

 

「ハラオウン提督、アクエリアスはどうなりました?」

 

『‥申し訳ございません』

 

「えっ?」

 

『先ほど、アクエリアスは最後の‥二十回目のワープしてしまいました』

 

「‥‥」

 

クロノから齎されたのはアクエリアスのワープ阻止失敗の報告であった。

 

リンディはクロノからの報告を聞いて血の気が失せる思いがした。

 

「そ、そんな‥それじゃあ、ミッドチルダは‥‥」

 

『ですが、まだアクエリアスがミッドの至近距離を通過するのに二十四時間の猶予があります。何とかこの時間を最大限利用してアクエリアスからミッドを救う手立てを模索しています。以上‥‥』

 

クロノは報告をした後、通信を切った。

 

「総合統括‥‥」

 

オペレーターがリンディに恐る恐る声をかける。

 

「ミッドはもう‥終わりかもしれないわね‥‥」

 

「えっ?」

 

オペレーターはリンディの絶望した表情を見て、オペレーター自身も血の気が引いた。

 

 

リンディが現状に絶望視している中、とある星系にてある行為をしているはやてが艦長を務めているジャガーノート‥‥

 

その客室の一室にて、

 

「父さん‥‥」

 

「ん?なんだ?」

 

ディエチがゲンヤに声をかけた。

 

「もしも‥もしも、今回の騒動が無事に終わったら、私、正式に局員を目指して見ようと思うんだ」

 

ディエチはゲンヤに将来について相談をした。

 

「どうした?こんな時に‥‥」

 

今はミッドチルダが滅びるか滅びないかの瀬戸際だ。

 

そんな時に突然、将来について相談をされてもゲンヤは困惑してしまう。

 

「こんな時だから‥かな?」

 

「ん?」

 

「もしも、ミッドが滅んでしまったらもう、夢を相談出来ないし‥‥」

 

「縁起でもない事を言うな。ミッドチルダは大丈夫だ。お前さんはそのまま未来の事をだけを考えろ」

 

「う、うん」

 

「それで、正式に局員になるつもりだが、何処に行きたいんだ?チンクの奴と同じ“海”か?」

 

「ううん、父さんと同じ“陸”‥“陸”の捜査官になるつもり」

 

ディエチはゲンヤ‥そしてかつて管理局に所属していたギンガと同じく“陸”の捜査官を目指す事をゲンヤに伝える。

 

「そうか‥だが、“陸”だから仕事はきついぞ」

 

「管理局なら“陸”“海”“空”関係なく大変な仕事でしょう?」

 

「そうか‥そうだな‥‥」

 

ゲンヤとしては例え養女であっても自分の仕事を継いでくれると言うのは嬉しい。

 

しかし、妻であるクイントの件や、ギンガの事もあり、時空管理局と言う職場が決して安全な職場ではない事を危惧していた。

 

ただ、ディエチが言うように彼女が正式な局員になるには今回の事態‥‥

 

アクエリアスの水害からミッドチルダを名としてでも守らなければならなかった。

 

はやてがアクエリアス最後のワープの知らせを受けたのはそれから直ぐの事であった。

 

 

視点は変わり、ウルクが存在していた付近の宙域では、まほろばのエンジンの応急修理がようやく終わった。

 

『艦長、待たせてすまねぇな!!エンジンの応急修理、今終わったぜ!!』

 

「では、急ぎアクエリアスを追いましょう!!目標地点、アクエリアス二十回目のワープアウト地点」

 

「了解」

 

「ワープアウトと同時にディンギルの残存艦隊の待ち伏せもありえるので、戦闘配置のままワープを行うように」

 

「はい」

 

アクエリアスのワープアウト地点は既に特定されている。

 

アクエリアスを追いかけるのは簡単だ。

 

ただ、ミッドチルダを欲しているディンギルもまほろばとガイアの妨害をしてくる可能性は充分にある。

 

まほろばとガイアはアクエリアスを追うようにワープ準備に入る。

 

そこへ、着替えを終えたティアナが艦橋に戻って来た。

 

「副長」

 

「ティアナ」

 

ギンガとフェイトがティアナに声をかける。

 

「艦長‥フェイトさん‥‥すみませんでした。あと一歩のところで敵の国家元首を逃し、最後のワープまでも許す結果となり‥‥」

 

ティアナは最後の言葉を言いよどむ。

 

「?どうしたの?副長」

 

ギンガはティアナがまだ何か報告する事がある様子だったので、訊ねる。

 

「その‥‥協力者であった少年を‥‥守る事が出来ませんでした‥‥」

 

「それって‥‥」

 

「‥‥」

 

ティアナの言葉を聞いてギンガとフェイトは察した。

 

「‥辛かったね‥ティアナ」

 

「はい‥なので、あの子の為にも何としてでもミッドチルダをアクエリアスからの大洪水から救う事が、あの子への最大の弔いになると思っています」

 

「うん、そうだね。そのために頑張ろうね」

 

「はい」

 

まほろばとガイアはアクエリアスの二十回目のワープアウト地点に向けてワープをするのだった‥‥

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

  • 付き合っちゃえ
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