星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百七十二話 ナカジマ家の再会

 

 

ディンギルの野望とアクエリアスからの脅威は、まほろばとガイアを始めとする勇敢なる者たちの活躍と犠牲によって、取り除かれミッドチルダは水没を免れた。

 

しかし、その代償は決して小さくはなかった。

 

ガイアの乗員たちにしてみれば、ミッドチルダは救われたのだが救ったと言う高揚感は少なく、現実感がなかったり、むしろ喪失感の方が大きかった。

 

あとは、まほろばに収容しているガイアの乗員たちを管理局の艦であるジャガーノートに移送してミッドチルダに還ってもらうだけで、まほろばも捜索に来た艦と共に地球へ還るだけとなった。

 

ガイアの負傷者たちには移送に次ぐ移送となり、身体に負担をかけてしまうのが申し訳ないが、このまま まほろば でミッドチルダへ向かうと管理局員たちの手によってまほろばが拿捕されてしまう恐れがあったので、その点は理解してもらいたかった。

 

ジャガーノートの艦長であるはやてもその点は理解しており、ガイアの乗員たちの受け入れ態勢を取っていた。

 

その最中、はやてはギンガに何か用があるみたいで、乗員の移送作業の中、まほろばを訪れると言う。

 

ギンガにしてみれば、はやてが一体自分に何の用があるのか、皆目見当がつかない。

 

自分にもう一度、管理局へ戻って来てほしいのかと思ったが、はやては地球における自分の状況を知っている。

 

既に地球で結婚し、子供も居る自分に対して管理局に戻ってきて欲しいとは考えにくい。

 

用があると言いつつ、武装局員を連れてまほろばを強襲するとは、あのはやての性格からも考えにくい。

 

周辺にはまほろばだけでなく、ヤマト、ヒューベリオン、ヱクセリヲン、ランダルミーデの強力な宇宙戦艦が居る。

 

まほろばを強襲なんてすれば、逆に自分たちが窮地に陥る。

 

どの道、はやては自分を訪ねて来るので、その時には訪問理由が判明するので、ギンガは、はやての訪問を待つ事にした。

 

医務室では石田が動かしても支障が少ない負傷者の選定を始め、その負傷者からジャガーノートへと移ってもらう。

 

ガイア、ジャガーノート、まほろばの内火艇、救命艇をフル稼働させてガイア乗員の移乗を行う。

 

そんな中、ジャガーノートからまほろばに向かう一艇の内火艇には、ジャガーノートの艦長であるはやてと一組の家族が乗艇していた。

 

「で、でか‥‥」

 

「しかも武器が船体の上にてんこ盛りっス」

 

「管理局とは艦の設計思想が全然違うって事だね」

 

「チンク姉を迎えに行くって言うのは分かるけど、何であたしたちまで一緒に行くんだ?」

 

「そもそも、今回いきなり父さんが『出かける』って、言ってそのまま訳が分からないまま次元の海に来たしね」

 

内火艇に乗艇しているノーヴェ、ウェンディ、ディエチの三人は、今回のお出かけ?につては、理解できない事ばかりであった。

 

ミッドチルダがアクエリアスによって水没するかもしれないと言う時にいきなり『出かけるぞ』と言われたのだからノーヴェたちは戸惑う。

 

更にはもう一つの地球の宇宙戦艦に行くのだから困惑は増すばかりだ。

 

そして、やって来たまほろばの格納庫。

 

事前にギンガからはやてたちの来訪は行き渡っているのか、局員の制服と異なる人たちが居ても、まほろばの乗員たちは首を傾げながらも乗艦を拒否するような事はなかった。

 

「艦長から連絡を受けています。ジャガーノートの八神艦長ですね?」

 

「ええ、そうです」

 

「失礼ですが、お連れの方々は?」

 

「こちらの艦の艦長さんの関係者‥ってところです」

 

「えっ?」

 

ミッドチルダの人間が自分たちの艦の責任者の関係者と言われてまほろばの乗員は困惑する。

 

「まぁ、こちらの艦の艦長さんからの許可は得ているんやからな」

 

「は、はぁ‥‥」

 

まほろばの乗員は、はやての言葉に訝しむが、一応ギンガから乗艦許可がはやてに出ているので、彼女の連れにも出ているのだろうと思い、はやてたちの乗艦を許可して、案内をする。

 

まほろばの通路を歩いている中、ノーヴェたちは物珍しく艦内を見渡している。

 

管理局の艦と違いシンプルで無骨な造りの艦内‥‥

 

「なんか、管理局の艦と違って装飾が少ないっスね」

 

「そりゃあ、この艦は管理局の艦じゃないからだろう」

 

ウェンディとノーヴェが小声でまほろばの艦内の造りについて話していると、

 

「では、こちらでお待ちください」

 

はやてたちは会議室のような部屋に通される。

 

まほろばの乗員が部屋から出て行くと、

 

「な、なぁ、父さん‥‥」

 

ノーヴェがゲンヤに声をかける。

 

「いい加減、教えてくれないか?なんでいきなり次元の海に出かけたかと思ったら、こんなことになっているんだ?」

 

「そうっスよ。訳が分からないっス」

 

ウェンディもノーヴェと同じく声をあげて事情をゲンヤに訊ねる。

 

「そうだな‥‥分かった」

 

ようやく此処でゲンヤはノーヴェたちに今回のお出かけについて話す。

 

「信じられないかもしれないが‥‥八神から突然話が来た‥‥この艦‥もう一つの地球に所属しているこの艦の艦長はスバルの実の姉‥‥つまり、お前たちにとって一番上の姉に当たる人物なんだ」

 

「「「えっ?」」」

 

まほろばの艦長が自分たちの姉であると聞いてノーヴェたちは目が点になる。

 

「ちょ、ちょっと、待って、父さん。どうしてスバルのお姉さんがもう一つの地球の艦の艦長になっているのさ?」

 

スバルもゲンヤもミッドチルダに住んで居るので、スバルの実姉と言う人物が居たら当然その人物もミッドチルダもしくは何処かの管理世界に居る筈だ。

 

だが、そのスバルの実姉はミッドチルダでも管理世界でもなく、管理局が未だに手出しを出来ていない世界‥もう一つの地球に居る事になる。

 

当然どんな経緯があってスバルの実姉がもう一つの地球に居るのか、ディエチがゲンヤにその訳を訊ねる。

 

「ああ、それはな‥‥」

 

ゲンヤはノーヴェたちにスバルの実姉‥ギンガがもう一つの地球に居る理由を話す。

 

ギンガが次元漂流をして殉職扱いになった新暦75年はまだノーヴェたちがスカリエッティの下に居た頃なので、当然ノーヴェたちがその理由を知る由も無かった。

 

「そ、そんな事が‥‥」

 

「ちょっと、信じられないっスね」

 

ノーヴェとウェンディはあまりにも荒唐無稽な話だと思うが、ディエチは‥‥

 

(あっ、そう言えば‥‥)

 

何か思い当たる節があった。

 

それは、新暦75年‥この年、地上本部ビルにて行われる公開陳述会が行われる少し前‥‥

 

「なにっ!?それは本当なのかい!?間違いはないのだね?ドゥーエ」

 

ベルカ地区にあったスカリエッティの秘密研究にて、そこの主であるスカリエッティが何やら驚愕した様子で誰かと話していたのをディエチは聞いていた。

 

(ドゥーエ?ああ、二番目の姉か‥‥)

 

(確か今は管理局で諜報活動をしているんだっけ?)

 

姉妹の中でも二番目の姉であるドゥーエはそのIS能力のためか長期任務が多く、ディエチは未だにその姉とは面識がない。

 

自分とよくコンビを組み、その姉と面識のあるクアットロが言うにはナンバーズの中で一番の残忍さをもつ姉らしい‥‥

 

その姉からスカリエッティに何やら重大な報告があったみたいだ。

 

「くっ、まさかタイプ・ゼロ・ファーストが既に死んでいたとは‥‥こんな事なら、聖王のマテリアルが完成する前に確保しておくべきだったか‥‥いや、ファーストがダメでもまだセカンドが居る。最悪、聖王のマテリアルが確保できればそれだけでも我々の勝利に繋がる筈だ」

 

二番目の姉からの報告を受けたスカリエッティは何やらブツブツと呟いていたが、彼が日頃からブツブツと呟いていたのは日常茶飯事なので、ディエチは特に気にする事もなく、今の今まで忘れていた。

 

結果的に若干の変更があったものの、作戦は実行され、公開陳述会が行われている地上本部ビルをクアットロ、チンク、ノーヴェ、ウェンディ、セインが襲撃をかけるが、それはあくまでも陽動であり、トーレとセッテは遊撃に当たり、本命である機動六課隊舎には自分とオットー、ディードが向かい、聖王のマテリアル‥ヴィヴィオを確保した。

 

地上本部ビルの襲撃は陽動であるが、副目標のタイプ・ゼロ・セカンド‥スバルの確保も含まれていた。

 

しかし、スバルが常に機動六課のFW陣と一緒に行動を共にしていた事とティアナの幻影魔法で攪乱された事でスバルの確保には至らなかった。

 

この戦果についてスカリエッティはそこまで大きな落胆は無かった。

 

あくまでも本命は聖王のゆりかごのキーであるヴィヴィオだったからだ。

 

と、かつて管理局と敵対していた頃を思い出していたディエチであった。

 

(スバルの実の姉貴ってことはタイプ・ゼロ・シリーズのファーストって事か‥‥)

 

(この艦の艦長って事みたいだが、一体どんな奴なんだ?)

 

ノーヴェはゲンヤから話を聞き、スバルの実姉であるギンガに興味を抱き始めた。

 

その頃、はやてたちを案内したまほろばの乗員はギンガの下へと向かい、はやてたちが今どこに居るのかを報告する。

 

「艦長、管理局の八神艦長が来艦しました」

 

『そう‥それで、八神艦長は今、格納庫に居るの?』

 

「いえ、何か八神艦長以外にも私服の一団が居りまして‥‥」

 

『えっ?私服の一団?』

 

「はい。八神艦長が言うには艦長の関係者だとか‥‥」

 

『ま、まさか‥‥』

 

ギンガは何かを察したのか声が震えている。

 

『八神艦長たちは今、どこに?』

 

「第三会議室で待機してもらっています」

 

『第三会議室ね?分かったわ。ありがとう』

 

乗組員との通話を終えたギンガは、はやてたちが居るとされる第三会議室へと走る。

 

(もしかして、はやてさんが言う用って‥‥)

 

乗組員から報告が上がった私服の一団‥‥

 

はやてはもしかしたらミッドチルダに居る自分の家族を連れて来てくれたのではないか?

 

ギンガは、そんな予感を抱きながらまほろばの通路を走る。

 

そして‥‥

 

第三会議室の扉が開くと、ギンガの視界に映ったのは、最後に会った時よりも大人の姿になったスバルと年老いたゲンヤの姿があった。

 

スバルとゲンヤも部屋に入って来た女性の姿を見て目を見開く。

 

そして、互いにダッと駆け出す。

 

ギンガは被っていた軍帽が脱げたが、そんな事は気にせずに駆け寄るのを止めない。

 

「ギンガ!!」

 

「ギン姉!!」

 

「父さん!!スバル!!」

 

三人は抱き合い、目には涙を浮かべて再会を喜ぶ。

 

はやてもこの光景にはウルッときてしまい、目には光るモノがあった。

 

「「「‥‥」」」

 

ノーヴェたちはそんな三人の様子を見て、この艦の艦長が‥‥ギンガがゲンヤの娘であり、スバルの実姉である事を認識する。

 

「立派になったな、ギンガ‥‥」

 

「うん‥うん‥私、頑張ったんだよ‥‥」

 

「ギン姉‥なんだか母さんみたい‥‥って、ギン姉はもうお母さんなんだっけ?」

 

「うん‥‥」

 

お互いに話したい事はいっぱいある筈なのに言葉が中々出ない。

 

ギンガ本人もはやてから家族の面会をするかと聞かれた時、一度は断ったのだが、こうして実際に会うと感極まってしまう。

 

三人は暫しの間、涙を流しつつ再会を喜ぶのであった。

 

それから少しして、落ち着きを取り戻し、ゲンヤがギンガにノーヴェたちを紹介する。

 

正直、此処まで彼女たちは背景でしかなかったので‥‥

 

「ギンガ、紹介しよう‥‥お前がもう一つの地球に行った後、家が引き取った娘たちだ」

 

「フェイトさんとティアナから話は聞いていたけど‥そう、貴女たちが‥‥」

 

ギンガは視線をノーヴェたちに移す。

 

「は、はじめまして‥ノーヴェ・ナカジマです」

 

「あたしは、ウェンディ・ナカジマっス」

 

「ディエチ・ナカジマです」

 

ノーヴェたちはギンガに自己紹介をする。

 

スバルの実姉と言われてもやはり長い間、離れ離れで暮らしていたので、実感がなく他人のようにしか感じない。

 

ただスバルの実姉と言う事で、スバルに似た雰囲気はあるのだが、どうも取っつきにくい。

 

なので、自己紹介も他人行儀と言うか緊張してしまう。

 

「もう一人、チンクって娘も居るんだが‥‥」

 

「あっ、その子とはもう会ったよ」

 

「えっ?会った?」

 

「うん。彼女、ガイアの戦術長だったから‥もうジャガーノートに移乗しちゃったかも‥‥」

 

「そ、そうか‥‥」

 

ゲンヤはこの場でチンクを紹介できなかった事にちょっと残念そうだ。

 

「あっ、ちょっと待って、スバルが居るなら‥‥」

 

ギンガは何かを思い出したかのように会議室にある内線で、

 

「あっ、副長?ちっと第三会議室に来てちょうだい」

 

と、ギンガ同様何も知らないティアナを呼び出した。

 

「艦長、一体何の‥‥えっ?スバル!?」

 

「ティア!!」

 

スバルは会議室に入って来たティアナの姿を見て反射的に飛び掛かると、

 

ガシッ!!

 

「むぐぐぐ‥‥」

 

スバルが自分に抱き着く前に、ティアナは片手でスバルの顔を掴んで接近を阻んだ。

 

「ぷはっ、ちょっ、ティア!!いきなりなにするのさ!?」

 

「ご、ごめん。反射的に‥‥」

 

「でも、ティアがギン姉と一緒に艦に乗っていて良かったよ!!またこうして会えたし!!」

 

「そうね‥‥」

 

「あれが、今のランスターの嬢ちゃんか‥‥」

 

「顔の傷はめっちゃインパクトがあるっス‥‥あの時、戦ったのが今のティアナだったら速攻で勝敗がついていた様な気がするっス‥‥」

 

ゲンヤとウェンディは今のティアナの姿を見て若干引いていた。

 

特にJS事件の際、ティアナと戦ったウェンディはマジで引いていた。

 

スバルとティアナが話に花を咲かせている中、ギンガもゲンヤと新たなにナカジマ家の家族になったノーヴェたちと話す。

 

「では、改めまして、スバルの姉で今は地球連邦政府・地球防衛軍所属、宇宙戦艦まほろばの艦長を務めている月村ギンガです」

 

「あっ、ど、どうも」

 

「よろしくっス」

 

「よろしく」

 

「パパリンからその‥ギンガさん?の事情は聞いていたっスけど‥‥」

 

「聞いた当初はちょっと信じられなかったが‥‥」

 

「こうして目の前にするとやっぱり本当だったんだ‥‥」

 

「ああ、あの時の事ね‥‥まぁ、私自身当初は信じられなかったから、話を聞いただけだとやっぱり信憑性はないもんね」

 

「八神から聞いたが、ギンガ‥今、お前は母親になったんだって‥‥」

 

「うん。娘が一人‥‥」

 

ギンガはそう言って誉の画像をゲンヤたちに見せる。

 

「そ、そうか‥‥」

 

ゲンヤにしてみればギンガの娘‥誉は彼にとっては孫にあたる。

 

写真や画像でしか会えないのがちょっと残念そうだ。

 

「えっ?娘って‥ヴィヴィオみたいに養子をとったって事‥‥なんですか?」

 

ノーヴェがギンガに養子を取って育てているのかと訊ねる。

 

自分もギンガも戦闘機人なので、普通の女性の様に自らの体内に子を宿して出産する事が出来るのかと思ったのだろう。

 

「ううん。ちゃんとお腹を痛めて産んだ子よ」

 

ギンガはノーヴェにちゃんと普通の女性と同じように妊娠・出産した事を伝える。

 

その証拠にノーヴェたちに自分が妊娠している時の画像を見せる。

 

ノーヴェたちは食い入るようにその画像を見る、

 

その画像にはお腹を大きくしたギンガの姿、そして娘の誉を出産した直後の画像があった。

 

出産した事で当然お腹はへこんでいる。

 

ギンガは更に、はやてには見せていない最近撮ったばかりの誉の画像も見せる。

 

「ほ、本当に出産したんだ‥‥」

 

「そうみたいっスね」

 

(ファーストが普通の女性の様に妊娠・出産したって事はあたしたちも普通の女の人みたいに‥‥)

 

ディエチとウェンディは若干信じられないって感じで画像を見ていたが、ノーヴェは例え生まれ方がちょっと自分たちとは異なるが、同じ戦闘機人であるギンガが妊娠・出産したんだから、自分たちも同じく妊娠・出産が出来るかもしれないと思った。

 

一方、ティアナとスバルの方は‥‥

 

「八神さんから聞いたんだけど‥ティア‥ギン姉と同じで結婚して子供が居るって‥‥」

 

「ええ」

 

「やっぱり、本当だったんだ‥‥それで、旦那さんってどんな人なの?それにティアの子供もどんな子なのかな?」

 

スバルがティアナの旦那、そして子供に興味を示したので、ティアナはスバルに自分が持っている家族写真を見せる。

 

「この人が私の旦那の哲さん。それで、こっちが息子の哲郎よ」

 

「うわぁ~ティアの旦那さん、なかなかのイケメンじゃん」

 

「でしょう?でも、哲さんはイケメンだけじゃないのよ」

 

と、スバルに自分の旦那がいかに優れているのかを延々と話し始めた。

 

(ティアって此処まで人を褒める人だったっけ?)

 

訓練校、機動六課、そして六課卒業後も交流を持っていたが、ティアナが嬉々として人の事を誇らしげに褒める姿をスバルは今、初めて見たような気がした。

 

「それで、息子の哲郎なんだけど‥‥」

 

次でティアナは自分の息子自慢を始めた。

 

(ティアが今、幸せなのは良いんだけど、此処まで人の自慢話を聞かされると、なんかムカムカするな‥‥)

 

スバルはいくら久しぶりに再会した親友でも此処まで惚気と家族の自慢話を延々と聞かされるといい加減しつこいと言う感情が浮き上がる。

 

「それで、スバル」

 

「ん?な、何かな?ティア」

 

スバルは若干顔を引きつらせながら対応する。

 

「スバルは今、お付き合いしている人とか居ないの?」

 

ティアナはスバルに異性関係を訊ねる。

 

それは決して意図は無かった。

 

だが、延々と家族自慢の話を聞かされたスバルにとってそれは残酷な質問であった。

 

「ちょっと、ティア‥それをあたしに聞く?」

 

スバルからは黒いオーラがにじみ出る。

 

「えっ?ちょっと、スバル‥どうしたの?」

 

ティアナはスバルの様子が変な事に気づく。

 

「ティアはいいよねぇ~結婚して、こんなにもカッコイイ旦那さんが居て、しかも子供も居てさぁ~‥‥あたしなんて結婚どころか彼氏も居ないのに‥‥」

 

「ご、ゴメン‥‥」

 

ティアナはまさか、自分がミッドチルダに居ない間、スバルには未だに彼氏が居ない事を知らず、地雷を踏んでしまった事について素直に謝った。

 

「で、でも、気になる人とかは居ないの?ほら、同じ部隊とかで‥‥」

 

「居ないよ」

 

「そ、そう‥‥なんか、ゴメン‥本当にごめん‥‥」

 

ティアナは此処に来て自分がスバルに酷な質問をしたのだとようやく自覚した。

 

スバルの怒りも何とか静まり、お互いに長い間積もった話を終えて、そろそろと言う時、

 

「ね、ねぇ、ギン姉、ティア‥‥」

 

スバルは恐る恐る声をかけて来た。

 

「その‥‥二人ともミッドに戻って来れないかな?」

 

「「‥‥」」

 

奇跡のような偶然で、再会することが出来たのだが、奇跡なんてそう何度も起こらない。

 

次に会えるのは一体何時になるのか?

 

もしかしたら、今度こそ最後の機会になるかもしれない。

 

ならば、ギンガとティアナにミッドチルダへと戻って来てくれれば何時でも会える。

 

しかし‥‥

 

「ごめんなさい、スバル‥残念だけどそれは出来ないわ」

 

「私も‥‥」

 

ギンガもティアナもミッドチルダには戻れないと言う。

 

「さっきも言ったように私もティアナも、もう一つの地球で家族が出来たの‥‥今、ミッドチルダに戻れば、子供たちを悲しませることになる‥‥それはどうして出来ないわ」

 

「それに、今の私たちがミッドチルダに戻れば十中八九、もう一つの地球についての情報を管理局は知りたがるはず‥‥そうなれば、私たちはどの道、管理局に身柄を拘束されてスバルに会うのは不可能よ」

 

「‥‥」

 

「私たちはもう一つの地球に深く関わり過ぎたのよ、スバル‥‥だからもうミッドには戻れない」

 

「そ、それは‥‥ね、ねぇ、父さん‥父さんからもギン姉を説得してよ」

 

「スバル‥残念だが、ギンガとランスターの嬢ちゃんが言っている事は理解できる」

 

「そ、そんなっ!?」

 

「そもそも、八神のお節介でこうして会う事が出来たが、ギンガ自身、本当は俺たちを会う事を一度断っているんだぞ。会えばきっと俺やお前にまた寂しい思いをさせると思ったからだ‥‥ギンガとランスターの嬢ちゃんの意思は固い。どんなに説得しようと二人はミッドには戻らない‥それに、二人にはもう家族が居るんだろう?しかもまだ小さな子供も居る‥俺たちのエゴで子供たちから母親を奪う権利なんてない筈だ」

 

「そ、そうだね‥‥ゴメン、ギン姉、ティア‥我が儘を言って‥‥」

 

「ううん。スバルの気持ち、分からない訳じゃあないから‥‥」

 

「私もよ」

 

ギンガとティアナは自分たちがミッドチルダに戻って欲しいと言う気持ちが十分に理解できた。

 

しかし、周りの環境が既にそれを許さない事になっていた。

 

ミッドチルダ‥管理局と地球連邦政府・防衛軍との間に不信感がある以上、国交を結ぶことは難しい。

 

地球連邦政府はミッドチルダを征服したいわけではない。

 

だが、ミッドチルダ‥管理局はもう一つの地球を『管理』という名で支配をしたい。

 

管理局が地球連邦政府と対等の同盟関係を考えない限りギンガとティアナが再び故郷の土を踏むことはないだろう。

 

後ろ髪を引かれる思いがあるが、お互いにいつまでも此処にいる訳にはいかない。

 

再び抱擁を交わして、ナカジマ家の面々は、はやてと共にまほろばを後にした。

 

内火艇の窓から遠ざかっていくまほろばの姿をスバルとゲンヤは寂しそうに見つめていた。

 

やがて、出航準備が整ったのか、まほろば以下の地球艦船はゆっくりと動き出し、次第に速度を上げて行き、漆黒の宇宙へと姿を消した。

 

「ギン姉‥ティア‥行っちゃった」

 

「ああ‥だが、今回こうして会えたんだ‥‥生きていればいずれはまた会えるだろう」

 

自分はもう年なので、ギンガとは今生の別れになるかもしれない。

 

しかし、スバルはまだ若い‥‥

 

生きていればこの先、ギンガ、ティアナと会える可能性は決してゼロではない。

 

ゲンヤは自分の娘が再び遠い星に住んで居る姉に出会える様にと願うのだった。

 

「そうか、やはりあの艦長が‥‥」

 

ジャガーノートに戻った際、ナカジマ家の面々は先にジャガーノートに移乗していたチンクと合流し、まほろばの艦長がスバルの姉である事を告げる。

 

「えっ?チンク姉、知っていたの!?」

 

チンクの回答にノーヴェが訊ねる。

 

「いや‥ただ、雰囲気が何となくだがスバルに似ていたので、もしや‥と思ってな」

 

「そうなんだ‥‥」

 

「しかし、同じ戦闘機人ながら妊娠し、出産していたとは‥‥」

 

「スバルとその‥ギンガさんはドクターとは別の誰かが生み出した戦闘機人だけど、理論はドクターのモノと同じだろうから、あたしたちも‥‥」

 

「ああ、普通の女性と同じく妊娠・出産する事が出来ると言う事だ」

 

「もっとも、あたしらはそんな相手が居ないっスけどね」

 

「痛い所を突いて来るな、ウェンディ‥‥」

 

ギンガとの出会いは決して無駄ではなく、自分たち戦闘機人も普通の女性と何ら変わりなく妊娠・出産する事が出来る証明となった。

 

「あっ!!しまった!!」

 

そんな中、突然チンクが何かを思い出したかのように声を上げる。

 

「どうしたの?チンク姉」

 

「あのミサイルに対処するビーム砲のデータを貰うのを忘れていた!!」

 

ディンギル軍が使用したハイパー放射ミサイル‥‥その恐るべきミサイルをアルバートが開発したビーム砲はいとも簡単に無効化させてしまった。

 

もしもこの先、ディンギル軍の残党が再びミッドチルダを襲撃してこないとは言い切れない。

 

彼らが存在する限り、例のミサイルを使用してこないとも言い切れない。

 

なので、あのミサイルを無効化させるビーム砲の存在は今の管理局にとって必要不可欠な兵器であった。

 

今、反転してもとても間に合わない。

 

つい先ほどまで、自分はあのビーム砲を搭載していた艦に乗艦していたにもかかわらず、その製造データを貰い忘れてしまった失態に気づいたチンクであった。

 

「そ、そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ、チンク姉」

 

「そうスっよ。もう一つの地球の技術で出来たなら、管理局でも出来るっスよ」

 

ノーヴェとウェンディはチンクを励ますが、チンクのショックは大きかった。

 

 

一方、ジャガーノートと別れ、地球への帰還行動に入ったまほろばでは‥‥

 

まほろば 艦橋

 

「スバルたち元気そうでしたね」

 

「そうね‥‥」

 

ティアナが先ほどまでのナカジマ家との再会についてギンガに話題を振る。

 

現時点で自分たちはミッドチルダには戻れない。

 

スバルたちにそう説明したのだが、やはり再会してしまうと心は揺れる。

 

だが、地球には自分たちの家族が待っているのも事実‥‥

 

もし、結婚していなかったら?

 

もし、子供がいなかったら?

 

そんな風に自問してしまうが、やはり管理局と地球連邦政府との関係からもう一つの地球に深くかかわり過ぎた自分たちがミッドチルダに戻るのは自身の身や親しい者たちの危険があるし、もう一つの地球に残ると決めたのは自分たちの意志なので、今更ミッドチルダに思いを寄せるのは筋違いだ。

 

逆にナカジマ家の面々をもう一つの地球に亡命させたかった所だが、スバルたちにもミッドチルダでの生活があるので、それも厳しい。

 

一番手っ取り早いのはもう一つの地球とミッドチルダが交流を持つ事なのだが、管理局の現状を鑑みるとそれも厳しい。

 

「管理局の改革‥思想転換でも起きなければ、地球とミッドが交流する日は来ないのかもしれないわね」

 

「そうですね」

 

「あっ!!」

 

地球とミッドチルダが交流する日が来るのかを思っていた時、ギンガは何かを思い出したかのように声を上げる。

 

「どうしました?」

 

「私、うっかりしていて、良馬さんを父さんに紹介するのを忘れた」

 

「ああ‥確かに‥‥」

 

艦は違っても同じ空間にギンガの旦那である良馬が居たのだから、ナカジマ家の面々に紹介する事も出来た。

 

しかし、ギンガは久しぶりの家族との再会ですっかり旦那である良馬を紹介し忘れていた事を今になって思い出したのだった。

 

「でも、紹介したら、したで、問題があったかもしれませんよ」

 

「えっ?」

 

「ナカジマさん、ギンガさんが地球で結婚して子供を産ませたって事で、月村艦長に殴りかかっていたかも‥‥」

 

「ひ、否定できないかも‥‥」

 

娘の結婚・出産は確かにめでたい事なのだが、自分の知らない所でソレが済まされるとなるとゲンヤは憤りを覚え良馬に絡んでいた可能性はあった。

 

「この事は黙っておこう」

 

「そうした方がいいですね」

 

良馬もゲンヤも互いに同じ空間に居た事を知らない。

 

管理局組で知っているのはフェイトとはやてぐらいだが、こうして互いに帰還行動に入っている中で、今更それを知った所で後の祭りなので、ギンガは良馬にとってもう一人の義父が居た事を黙っておくことにした。

 

 

ガイアの乗員たちを乗せたジャガーノートは故郷であり母港であるミッドチルダへと帰還した。

 

未だにディンギル軍から受けた空襲の後は所々にその痕跡があり、先ほどまで降り続いていたアクエリアスからの大雨の影響でどんよりとした雰囲気がある。

 

「映像で見た時も酷かったけど‥‥」

 

「ああ、こうしてモニター越しではなく実際の様子を見るとディンギル軍の空襲の凄まじさを思い知らされる」

 

眼下のクラナガンの姿を見てフェイトとチンクはディンギル軍の空襲の凄まじさを実感する。

 

「ミッドを空襲したディンギル軍は当然、空戦魔導師じゃなくて‥‥」

 

「うむ、もう一つの地球が使用していた様な戦闘機だったな」

 

「‥チンク」

 

「ん?なんだ?」

 

「私はこれからの管理局は嫌でも技術革新、方針の転換を余儀なくされると思っているの‥‥」

 

「と言うと?」

 

「これは私がもう一つの地球に次元遭難していた時から思っていた事だけど、管理局にも戦闘機は必要不可欠なモノだと思っているわ」

 

「確かに今回の第九管理世界での戦い、敵本土での戦いでは、もう一つの地球が運用している戦闘機の活躍があってこそだったな‥しかし、管理局が戦闘機の運用など認めるのか?」

 

「クロノもその辺の難しさを指摘していた‥‥私自身、管理局が戦闘機の運用何て認める筈が無いと思っている‥‥特に“空”は自分たちのお株を奪う戦闘機の導入なんて絶対に認めないだろうし‥‥」

 

「そうだな」

 

「でも、今回のディンギル軍の来襲にボラー連邦との関係性を見ると管理局はこのままじゃあいけない‥‥今回はまほろばが協力してくれたけど、次はもう期待できない‥‥管理局は生まれ変わらないとこの先、ミッドや他の管理世界が危機に陥った時、管理局は、ミッドはおろか他の管理世界を守る事は出来ない‥‥」

 

フェイトは断言する様にチンクに言う。

 

「しかし“陸”“海”“空”の反目を退け、共同戦線の確立、新技術の導入‥‥これは侵略者たちと戦う事よりも難しいな‥‥」

 

これまで管理局内部‥特に“海”と“陸”は人員、予算の関係で争って来た。

 

かつて“陸”のトップを務めたレジアスが犯罪者であるスカリエッティに協力していたのもソレが影響している。

 

近年になり、“海”は度重なる失態と被害で幅を利かせる事が出来なくなってきたが、過去から続く確執は未だに拭う事は出来ていない。

 

今回のディンギル軍との戦闘で“海”はまたもや大きな被害を出した。

 

ミッドチルダの危機が去ると、今度は管理局内で局員同士の派閥争いが予想される。

 

そんな中での管理局内の統一はチンクの言う通り、侵略者と戦うよりも難しい。

 

「ミッドに戻ったら今回の件についての報告がある‥‥その件についても色々と絡んできそう」

 

「‥その件についてだが、副長の伝手で総合統括官とのアポイントを取ってもらえないだろうか?」

 

「えっ?リンディ義母さんと?」

 

「うむ‥実は、艦長から託されたモノがあってな‥‥」

 

「託されたモノ?」

 

「‥艦長からの遺書だ」

 

「えっ?クロノの‥遺書‥‥」

 

「ああ‥副長宛てのモノもある」

 

そう言ってチンクはフェイトにクロノからの遺書を手渡す。

 

「‥‥」

 

遺書を受け取ったフェイトは早速中の便箋を取り出して内容に目を通す。

 

クロノからの遺書にはフェイトに今後の管理局、そして残された家族を託す旨が書かれていた。

 

「クロノ‥‥」

 

クロノの遺書を読み、フェイトの目には涙が浮かび上がった。

 

フェイトの様子を見て、

 

(辛い役だが、私が艦長から託された役なのだ‥‥私がやらなければならない‥‥)

 

チンクはクロノからの遺書は自らの手でクロノからの遺書を彼の家族に渡さなけならないと決意した。

 

そして、ジャガーノートはミッドチルダへと着陸した。

 

第九管理世界の戦いの時と同じく、はやては事前に救急車両を手配しており、負傷者を先に艦から降ろし、医療施設へと搬送させた。

 

「さてと、これから直ぐに地上本部ビルに出頭して報告をせなアカンな‥‥まだ報告書が全部纏まっておらへんのに、『ミッドに戻り次第地上本部ビルに出頭しろ』なんてあまりにもせっかち過ぎん?」

 

ナカジマ家の面々を再会に立ち会った事も関係しているのだが、管理局の高官たちは、はやてにミッドチルダに戻り次第、地上本部ビルに出頭して顛末を報告しろなんて言って来たので、報告書を纏める時間がはやてには無かった。

 

管理局の上層部は紙の報告書を上げる前にはやての口から今回の顛末を聞こうとしていたのだ。

 

なお、何故クロノではなくはやてなのか?

 

この時点でクロノが殉職したのを知っているのはまだごく一部の人間だけだ‥‥

 

その理由は、はやてがクロノの殉職をギリギリまで秘匿するために『ハラオウン提督は自艦を失ったショックで寝込んでおり、ハラオウン提督からは事前に報告書を受け取っております』と地上本部ビルに報告していた。

 

実際に第九管理世界の戦いの後の事はクロノが纏めており、それをはやてはギンガから受け取っていた。

 

クロノはガイアを自沈させる前‥ギンガをガイアに呼んだ時にその報告書を渡しており、ギンガはまほろばにはやてが来た時に渡していた。

 

本来はフェイトにクロノからの報告書を渡そうと思っていたのだが、はやてがまほろばに来たので丁度いいと思って渡していたのだ。

 

「お疲れ様です。艦長」

 

「はぁ~‥グリフィス君、後は頼むわ」

 

「承知しました」

 

はやては疲れた様子で艦を降りて地上本部ビルへと向かう。

 

その最中、フェイトとチンクに会う。

 

「あれ?フェイトちゃんにチンク‥二人も地上本部ビルに何か用なんか?」

 

「ううん、私よりもチンクがリンディ義母さんに‥私も顔を見せようと思って‥‥」

 

「そうか」

 

「はやては?」

 

「私は今回の一件を報告せなあかんのや‥‥」

 

「質問攻めにされそうだね」

 

「やっぱり、フェイトちゃんもそう思う?」

 

「うん。地上本部ビルに居る人たちは正確な情報を知らないだろうし‥‥」

 

「フェイトちゃんは敵の根拠地での戦闘をまほろばから見たんやから、証人ってことで一緒に来てくれへん?」

 

「分かったよ。はやて」

 

はやて一人では重荷かと思ったフェイトは彼女の手伝いと言う事で、地上本部ビルで行われる報告会に出席する事にした。

 

「報告会にはリンディ義母さんも出席するだろうから、チンクを会わせるのは報告会の後で良いかな?」

 

「ああ、分かった」

 

そして、三人は地上本部ビルへと赴き、チンクは報告会が終わるまで待合所で待つ事になり、はやてとフェイトは報告会が行われる会議室へと向かうのだった。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

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