星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百七十五話 ディエチの捜査官研修

 

 

アクエリアスの脅威が去ったが、ディンギルの再来が懸念されているミッドチルダでは、管理局‥特に“海”が戦力の再編に奔走していた。

 

ディンギルに残党が居る限り、彼らは再びミッドチルダの奪還と国家元首の敵討ちにやって来る。

 

彼らよりも先に戦力を整えなければならない。

 

管理局にとってハイパー放射ミサイルの対策ビーム砲の技術を取り逃がしたのは、痛かった。

 

それにフェイトが大気圏・宇宙空間両方で運用できる戦闘機の開発・運用を見送った事について“海”はちょっと気になった程度で未だに開発を行う気配はない。

 

“海”が戦力の再編成に奔走している中、ディエチは‥‥

 

第四管理世界カルナログに彼女の姿はあった。

 

ディエチはディンギル戦役後、本格的に“陸”の捜査官を目指す事にして、この第四管理世界で捜査官研修を受けていた。

 

 

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元々嘱託局員と言う事もあってディエチの捜査官研修の手続きはすんなりと通った。

 

それは養父に代わって今の陸士108部隊の部隊長となったラッド・カルタスの推薦も関係していた。

 

しかし、ディエチ本人としては馴染みのある108部隊での研修・配属を希望したのだが、先のディンギル戦役のせいで管理局の信頼性が揺らぎ、他の管理世界での治安が著しく低下していた。

 

それはこの第四管理世界でも例外ではなく、ディエチがこの世界に来た翌日、管理局傘下の関連企業のテナントが入ったビルが爆弾テロの標的になった。

 

なので、戦闘機人であるディエチの腕を見込んでミッドチルダではなく他の管理世界での研修となった。

 

管理局‥“海”としては、かつてはジェイル・スカリエッティ率いるテロリストのメンバーの一人であったが、戦闘機人と言う戦力になり得る駒をみすみす“陸”に取られるのは癪であったが、経験を積ませ即時戦力になったころ合いを見計らって“陸”から強引に“海”に引き抜こうと言う魂胆もあった。

 

何しろ“海”にはあの八神はやて、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと言うディエチと顔馴染みの局員も居るし、何よりも彼女の姉であるチンク・ナカジマも居るのだから、彼女たちが説得すればすんなりとディエチも“陸”から“海”への転向もするだろうと予測していた。

 

そんな“海”の思惑を知り由も無く、カルナログで捜査官研修のカリキュラムを熟していたディエチはある日突然、研修先の部隊‥カルナログ・陸士120部隊の第七分隊の分隊長室へ呼び出しを受けた。

 

(ふぅ~どうにもこの世界の気候には慣れないな‥‥)

 

隊舎の通路を歩きながらディエチはチラッと窓の外を見る。

 

この世界に来てまだ数ヶ月なのだが、ミッドチルダの夏とカルナログの夏はどうも異なる。

 

暑いのは同じなのだが、近年になってからのカルナログの治安、住んで居る人などの周辺の環境がどうにも自分の肌には合わない。

 

(確か元機動六課にもこの世界の出身者が居たってスバルから聞いたな‥‥)

 

ディエチがこの第四管理世界、カルナログへの研修が決まった時、スバルが思い出したかのように、かつて自分が所属していた機動六課にて第四管理世界出身者が居ることをディエチに教えてくれた。

 

その人物は、ヴァイス・グランセニック。

 

機動六課では、ロングアーチでヘリパイロットを務めており、ヘリ操縦士としては最高位のA級ライセンスを保有している。

 

元々は武装隊に所属しており、入隊直後の上官がシグナムだった縁から彼は八神家やなのはとは顔なじみであった。

 

その縁で彼は機動六課にヘリのパイロットとしてスカウトされた経緯を持つ。

 

武装隊時代に立て篭もり犯を狙撃する任務でミスショットし、人質であった自身の妹ラグナの左目を失明させてしまったことがトラウマとなり武装隊を辞めた過去があるが、JS事件を経て過去から立ち直った経緯がある。

 

(この世界の現状じゃあ、立てこもり事件が起きるのも無理はないな‥‥)

 

スバルからヴァイスの話を聞き、第四管理世界の現状を見ると妙に納得してしまう自分が居た。

 

「ディエチ・ナカジマ。ご用命がありとの事で伺いました」

 

「御苦労」

 

第七分隊・分隊長のミハイル・ベネディクト一尉が執務デスクに座りながらディエチを待っていた。

 

ベネディクト一尉は男性局員としては華奢な体系だ。

 

鼻筋の通った物静かな人物で、管理局員と言うよりも大学の教授、研究者と言われた方がしっくりくる。

 

ただ、そんな彼がこの世界で長きにわって分隊長を務めて来たとはにわかには信じられない。

 

彼がこの地に赴任して、分隊長を務めてもう今年で五年目になる。

 

管理世界入りをした世界とは言え、その世界全ての住人が管理局からの管理世界入りを受け入れている訳ではない。

 

未だに反管理局思想を持つ者は当然居るし、隊内の規律維持、現地での情報収集、駐留しているミッドチルダの住民、管理局員の家族の保護任務など、仕事は多忙と緊張を極めた筈だ。

 

ベネディクト一尉はその困難な状況の中、少人数の部隊を率いて、冷静沈着に見事に任務を遂行して来たのだから管理局員としては優秀な人物なのだろう。

 

「君を呼んだのは、ナカジマ研修生‥君に極秘の任務をやってもらいたい」

 

「極秘の任務‥ですか?」

 

「そうだ」

 

「どのような任務なのですか?」

 

「君は先日起きた殺人事件、爆弾テロは知っているだろう?」

 

「はい。同じ分隊のカシアス士長が死亡した件と管理局の装備品を納品している工場が何者かの手によって爆弾が仕掛けられた事件ですよね?」

 

「そうだ。まさか我が分隊から殉職者が出るとは‥‥」

 

三日前、パウル・カシアス士長は市内を巡回中に何者かの襲撃を受けた。

 

カシアス士長は背後から後頭部にレーザー銃の銃撃を受け、血塗れの状態で発見された。

 

局員を狙った事で金銭目的ではなく、管理局に反感を持つ者の犯行として捜査をしているが、未だに犯人は検挙されていない。

 

元々治安があまりよろしくない世界であったが、ディンギル戦役を経て管理局の力が弱まると、治安に関して悪化の一途をたどっており、昼夜を問わず、管理局員、そして管理局に協力的な企業の社員をターゲットにしたテロ事件が頻発していた。

 

「私は死亡したカシアス士長とは面識が殆どありませんでしたが、捜査は別の部署の局員が行っているのでは?」

 

「‥‥実はカシアス士長が殺された原因は、怨恨や行きずりの犯行ではない可能性もある」

 

「誰かと間違われて殺害されたとか?‥いえ、そもそも管理局員であるからこそ狙われたのではありませんか?」

 

此処連日管理局員を狙ったテロ事件があるので、殺害動機が『管理局員だから』と言う理由も頷ける。

 

「いや、私は彼が管理局員と言う理由で殺されたのではないと思っている」

 

しかし、ベネディクト一尉はテロ事件と今回の殺人に関しては別件ではないかと思っている様だ。

 

「その根拠は何ですか?」

 

「‥‥此処だけの話だが、カシアス士長は保管庫の押収物が何者かの手によって密かに外部へ持ち出されているのではないかと言う疑念を持っていてね」

 

「‥‥実際はどうだったんですか?」

 

もしも管理局の保管庫から押収物が持ち出されていたら、それは管理責任だけでなく、犯罪者との取引に使用されているかもしれない‥‥

 

それは管理局員としては裏切り行為に当たる。

 

ディエチは殉職した局員の疑念が当たっていたのか、それとも外れていたのかを訊ねる。

 

「実際に確認した所、押収物の数がリストと合っていなかった」

 

「それって‥つまり‥‥」

 

「何者かが押収物を外部に持ち出していたと言う事だ。そこで、君に押収物を外部へ持ち出している人物の特定を行ってもらいたい」

 

「ん?何故、私なのでしょうか?」

 

ディエチは頼まれた任務の内容から、かなりの重要な任務内容なので、それがどうして捜査官研修中の自分‥まだ正式に捜査官になっていない半人前の自分にその様な重要任務を与えるのか気になった。

 

「私はまだ捜査官研修中の身ですし、此処に来てまだ二ヶ月しか経っていません」

 

研修中‥しかもその研修地のカルナログに来てたった二ヶ月しか経っていない。

 

しかもディエチはこのカルナログに来たのは今回が初めてだ。

 

地の利も未熟、役職としても未熟の自分に任せる意味が分からない。

 

「二ヶ月だからだ」

 

「は?」

 

ベネディクトはディエチに今回の任務を任せる理由を語り始める。

 

「押収物の持ち出しが発覚したのは二ヶ月以上も前の事だ‥‥つまり、君は確実に犯人ではないと言う事だ。それにミッドではとある事件の解決に一役買ったそうではないか」

 

ベネディクトはそう言いながらデスクの中から一冊のファイルを取り出しながら言う。

 

「は、はぁ‥‥」

 

(もしも、カシアス士長が押収物を持ち出している犯人を捜しているとしたら、彼の殺害はただのテロではなく、事件を別の側面から考える必要があるな‥‥)

 

ディエチがカシアス士長の事件について考えを巡らせつつファイルを受け取ろうとした時、

 

ドゴーン!!

 

グラグラグラグラ‥‥

 

「うわっ‥‥」

 

轟音と共に庁舎が揺れる。

 

(この音、爆発音!?)

 

爆発音がしたことでこの揺れは地震ではない事は明白であり、戦闘機人であるディエチは耳も当然、常人よりも優れている。

 

なので、この轟音が爆音である事を瞬時に察する。

 

それと同時に此処最近、この世界で起きているテロ事件の事が脳裏をよぎり咄嗟に床に伏せる。

 

実際、カシアス士長が殺害された日、市街地にある映画館で爆弾テロが起きて大勢の死傷者が出ていた。

 

この映画館の運営も管理局に協力的な企業であった。

 

昨日は昨日で、別の管理局に協力的な企業へ質量兵器を使用しての砲撃が、企業のテナントが入ったビルに対して行われている。

 

あの爆発音はこの庁舎に向けてテロリストが何かしらの攻撃を仕掛けて来たのではないかと思ったからだ。

 

「ナカジマ研修生!!何をしている!?」

 

ディエチは万が一を想定して床に伏していたのだが、ベネディクト一尉は床に伏せることなく、窓際に立っていた。

 

「ちょっと、危ないですよ!!」

 

ディエチは狙撃の危険性を視野に入れてベネディクト一尉に注意する。

 

「危ない?何を言っているんだ?」

 

しかし、ベネディクト一尉はディエチの指摘に対して怪訝そうに眉をひそめる。

 

(『何を言っている?』ってそれはこっちのセリフなのに‥‥)

 

(この人、全く危機意識がないの?)

 

彼の言動にディエチは心の中で呆れる。

 

そんなディエチの心情を知る由も無く、ベネディクト一尉は窓を開ける。

 

(ちょっ、この人一体何をしているの!?)

 

(窓を開けるなんて、『狙撃してください』って言っている様なものじゃない!?)

 

ディエチはますます彼の行動に呆れつつ理解出来なかった。

 

「此処に来て見てみろ」

 

ベネディクト一尉は双眼鏡をディエチに差し出す。

 

(私は別の双眼鏡を使わなくても見えるけど‥‥)

 

戦闘機人のディエチは耳も良ければ当然、目も良い。

 

しかも彼女はスナイパーなのでナンバーズの中でも視力は一番優れていた。

 

とは言え、仮にも今の上司から手渡されたのでそれを断る訳にもいかないので、双眼鏡を受け取り、窓の外を恐る恐る確認する。

 

(スナイパーは‥‥見当たらないな‥‥)

 

ディエチはますスナイパーの有無を確認する。

 

「場所は確認出来るか?」

 

「は、はい‥‥」

 

窓の外では、ある箇所から黒煙が立ち上っている。

 

「あそこは‥‥確か局員の官舎地区です」

 

「‥‥やられた」

 

「えっ?」

 

ベネディクト一尉がポツリと呟き、ディエチはその言葉を聞き逃さなかった。

 

「どういう事ですか?」

 

「あれは‥‥俺の家だ‥‥」

 

「えっ?」

 

攻撃‥と言うか、爆発が起きたのはベネディクト一尉の官舎であった。

 

早速、ディエチとベネディクト一尉は現場へと向かう。

 

二人が現場に到着した時、既に炎、煙は既に収まっていた。

 

その代わりに現場は沢山の人だかりで、消防士たちの他に“陸”の捜査官や鑑識、そして“海”の執務官までもが居た。

 

管理局の関係者以外にも事件が起きたと言う事で複数の野次馬までもが居た。

 

(この人たち、爆弾が爆発したのに怖くないのかな?)

 

ディエチは現場に集まった野次馬の人たちをチラッと見つつ、彼らの行動に呆れる。

 

(うわっ、これは酷い‥‥)

 

爆発とその後の火災によってベネディクト一尉の官舎は跡形も無く吹っ飛んでいる。

 

そして、地面の一角にはブルーシートがかけられた遺体が複数体あった。

 

「これは、これは、ベネディクト一尉。この度は官舎とは言え、住宅がこの様な事になり、誠にご愁傷様です」

 

“海”の執務官はタバコを吹かしながらニヤついた顔をしながらベネディクト一尉に言い放つ。

 

(”海“の執務官ってフェイトさんみたいな真面目そうな人がなれる役職だと思っていたけど、そうじゃない人もなれるんだ‥‥)

 

ディエチは“海”の執務官の事を冷ややかな目で見ていた。

 

彼女がこれまで出会って来た執務官は真面目で正義感の溢れる人ばかりだったからだ。

 

しかし、今自分の目の前に居る執務官は真面目からも正義感からもかけ離れている印象を受ける。

 

「それで、この死体があんたの官舎の傍に転がっていたのだが、見覚えは?」

 

執務官はベネディクト一尉に今回の事件における被害者たち‥遺体の身元を訊ねる。

 

「‥‥」

 

ベネディクト一尉は一体の遺体に掛けられていたブルーシートを外す。

 

「この遺体は家に通い出来ていた家政婦だ」

 

「他の死体はどうですか?身元が分かる死体はありませんか?」

 

「そうだな‥‥この遺体とこの遺体はよく家の近所を徘徊していたホームレスだ。この遺体は‥‥可哀そうに近所の子供だ。よく家の裏手で遊んでいたのを見た事がある。あとは‥‥身に覚えがないな」

 

ベネディクト一尉は淡々と遺体の身元確認を行う。

 

しかし、爆発現場に近かった事から遺体は丸焦げで顔もぐちゃぐちゃで判別がつかない。

 

そこで、身元確認には歯の治療痕やDNA鑑定で身元を洗うしかないが、ホームレスは少々厄介だ。

 

ホームレスになる前に歯の治療をしていれば歯科医院にカルテがあるのだろうが、それでも身元を確認するのは大変だし、此処まで真っ黒だと生前の顔も判別できない。

 

犠牲者全員の身元確認が難航すると思われた中、

 

「そうですか‥‥」

 

執務官は徐にホームレスの遺体に近づくと、

 

「となると、犯人は此奴だな」

 

そう言いながらホームレスの遺体を蹴り始めた。

 

「‥‥」

 

ディエチは当然この執務官の行動に対して顔を顰める。

 

「このホームレスが?その根拠は?この者が爆弾テロの犯人であり、ホームレスの姿はあくまでも仮の姿で、その正体はテロリストだったと言うのか?」

 

ベネディクト一尉も一瞬、顔をムッとさせつつも執務官にこのホームレスが犯人である根拠を訊ねる。

 

「テロリストじゃない。此奴はタバコでも吹かしていたんだろう?そんで、火の着いたタバコをポイ捨てしてゴミ集積所にあったスプレー缶かペンキとガス管のガスにでも引火したのでしょう?」

 

執務官はチラッと道端を見る。

 

そこには黒くなったスプレー缶やペンキ缶の残骸らしきモノが転がっていた。

 

それにこの官舎のライフラインにはガス管も通っているので最初はタバコのポイ捨てから始まり、そこからスプレー缶、ペンキ缶に引火して、その火災がガス管に引火して大爆笑へと繋がった‥‥

 

それが執務官の推理だった。

 

「いや、どう見てもベネディクト一尉を狙った爆弾テロだろう!?」

 

ベネディクト一尉、ディエチと共に現場に来た捜査官は、これは事故ではなくテロであると主張する。

 

「よせ」

 

だが、そんな捜査官をベネディクト一尉が制止させる。

 

「しかし!!」

 

「元々彼らには事件を解決しようとする気概はない」

 

「‥‥」

 

「では、事件は一件落着と言う事で、ミッドへの事後処理と報告書の作成と提出はそちらでお願いしますよ。ごきげんよう」

 

そう言い残して“海”の執務官は現場から去っていく。

 

「‥‥俺はいつもより、早めに家を出た‥‥君に話をする為にな‥‥もしも、いつも通りの時間に出勤していたらと思うと、ゾッとする」

 

ベネディクト一尉はディエチに小声で今朝の事を話す。

 

「では、殺害されたカシアス士長の件と今回の件‥繋がりがあると?」

 

「狙われたのは“陸”の局員‥‥偶然の一致なのかもしれないが‥‥兎も角、例の件、頼んだぞ」

 

「は、はい」

 

ベネディクト一尉はディエチに押収品を外部へ持ち出している者の捜査を改めてディエチに託すと庁舎へと戻っていく。

 

「頼んだ‥って言われてもな‥‥」

 

正直、情報が少なすぎる中での捜査は難しい。

 

それに自分は研修中なので、この世界にずっといる訳ではない。

 

ミッドチルダに戻れば、捜査は継続できない。

 

「‥‥」

 

「ん?マルデンさん、どうしたの?」

 

ディエチが悩んでいると、身元不明の遺体をジッと見つめている局員が居た。

 

ラムサス・マルデン士長‥‥殺されたカシアス士長と同じ階級であり、この世界に赴任してから二年になる。

 

その間にこの世界特有の暑さで日焼けをしている。

 

身体つきは筋肉質で武骨な印象を受ける男性局員だ。

 

「あっ、いえ‥‥」

 

「もしかして、その人‥知り合いだったの?」

 

「いえ、知らない者です。では‥‥」

 

「‥‥」

 

何だか煮え切らない態度でその場から帰るマルデン。

 

少々気になったディエチはマルデンが見ていた遺体をチラッと見る。

 

爆発の衝撃で手足は捻じ曲がり、火災によって身体は黒焦げになっている。

 

(黒焦げで分かりにくいけど、このご遺体の性別は男性‥‥)

 

(身体の大きさからしてまだ若い‥‥十代半ばって感じか‥‥)

 

(顔は煤で汚れ皮膚は焼けただれている‥‥)

 

(衣服もボロボロになっているから、たとえ知り合いだったとしてもこのご遺体が誰の遺体なんて分かる筈ないか‥‥)

 

当初はチラ見していたディエチであったが、

 

(ん?これは‥‥)

 

片膝を地面について遺体を凝視し、指で触れる。

 

最初は煤で汚れているだけかと思ったが、その遺体の胸元部分には‥‥

 

(花の‥タトゥー‥‥?)

 

薄っすらとだが、花模様のタトゥーが確認出来た。

 

(マルデン士長はこの花のタトゥーを見て、この人が誰なのか、分かったんだ‥‥)

 

(でも、この人は管理局員じゃない‥‥だとするとマルデン士長とこの人の関係は一体‥‥)

 

マルデンはあくまでも『知らない』と言うが、この遺体を見ていたマルデンの態度は何かしらの事情を知っている様だった。

 

(まさか、マルデン士長が押収物を外部に持ち出していた犯人で、この人はその取引相手?)

 

(でも、取引相手にしては若すぎるし‥‥うーん‥‥)

 

考えが纏まらず、後頭部を手で掻きながら集まった野次馬たちを見渡すディエチ。

 

(ん?あれはっ!?)

 

そんな中で、ディエチは野次馬の中に見知った顔の男を見つける。

 

(あれはっ!?華晨!?)

 

以前、ミッドチルダ西部で起きた謎の連続行方不明事件‥‥

 

その事件の犯人の一人である華晨が野次馬の中に居り、彼はそそくさと現場から逃げて行く。

 

(あいつ、生きていたのか!?)

 

ミッドチルダ西部で起きた行方不明事件で犯人である華晨と王・東風(ワン・トウフウ)は逃亡の際、行方不明になっていた。

 

二人とも爆発に巻き込まれていた事からてっきり死亡したと思われていたのだが、その一人が生きていた。

 

であるならば、もう一人の犯人、王・東風(ワン・トウフウ)も生きている可能性がある。

 

ディエチは急ぎつつも気づかれない様に華晨の後を追う。

 

華晨は事件現場近くではキョロキョロと周囲を確認しながら歩いていた。

 

事件現場なので、周囲には沢山の管理局員が居たので、自分に尾行もしくは職務質問をされるのではないかとビクビクしていたのだ。

 

しかし、事件現場に居た局員たちはディエチを除いて華晨の存在どころか気にも留めていなかったので、事件現場から遠ざかるにつれ、華晨も安心したのか段々と周囲を見渡す事をせずに一般人に紛れて歩くようになる。

 

やがて、華晨の行き先が見えて来た。

 

カルナログの首都の中でも金、性欲、暴力、そして麻薬が行きかう魔都と呼ばれるにふさわしい歓楽街‥‥

 

管理局が既に摘発を諦めた街の一角だ。

 

犯罪者が身を隠すにはうってつけの場所だ‥‥

 

「アイヤ~随分と遅かったアルナ~」

 

華晨は一軒の飲食店の裏口の扉を開ける。

 

すると、店内からは王・東風(ワン・トウフウ)が姿を現す。

 

(やっぱり、王の方も生きていたか‥‥)

 

華晨が生きていたので、その共犯である王・東風(ワン・トウフウ)も生きているのではないかと思っていたが、ディエチの予想通り、王も生きていた。

 

まさか、華晨がディエチに尾行されているとは知る由も無く、華晨は王と話し込んでいた。

 

「帰り道の途中で事件がありまして‥‥」

 

「事件?」

 

「はい。局員の官舎地区で爆弾テロがあったみたいで‥‥」

 

「局員の官舎地区!?って事は局員がきっとわんさか来たネェ。後は着けられなかったカ?」

 

王は華晨に尾行されなかったかを問う。

 

此処がミッドチルダではないとは言え、一桁代の管理世界なので、自分たちを捜している管理局員が居るかもしれない。

 

「だ、大丈夫ネェ。何度か振り返ったけど、追いかけてくる局員は居なかったネェ」

 

華晨は王に尾行は無かったと言うが、

 

カチャ

 

「久しぶりだね」

 

「「っ!?」」

 

ディエチは華晨の背中にビーム銃を突き付けて声をかける。

 

「お、お前はっ!?」

 

「まさか生きているとは思わなかったよ」

 

「華晨!!お前!!尾行は無かったと言ったではないか!?」

 

「す、すみません‥‥」

 

「ま、まさか、ミッドからしつこく私たちを捕まえるために追って来るとは‥‥」

 

王はディエチが自分たちを追いかけてミッドチルダから第四管理世界カルナログに来たのかと思っていた。

 

しかし、

 

「あぁ~残念だけど、貴方たちを見つけたのは偶然で、死んだと思っていた人たちをわざわざ捜して追いかける程、今の管理局は暇じゃないんだよ」

 

「なっ!?」

 

適当にあしらわれた件について王は絶句する。

 

「でも、この偶然に感謝かな?どの道、貴方たちはお尋ね者だし、この世界で起きている事件にも関与している可能性もあるしね」

 

「ちょ、ちょっと待つネ!!」

 

ディエチが王と華晨の二人を連行しようとすると、王が声を上げてディエチを止める。

 

「なに?」

 

「た、確かに私たちはミッドの事件に関係したが、この世界での事件には関係ないアルヨォ」

 

「その言葉、私は信じるとでも?」

 

ディエチがジト目で王を睨む。

 

「管理局に追われている私たちが管理局の施設を攻撃何てしないヨォ」

 

「まぁ、確かに‥‥」

 

一応、王が言う事も最もであり、管理局から追われている彼らが管理局の施設を襲えば余計に自分たちを追い詰める事になる。

 

「管理局の施設に対しての破壊工作はしていなくとも、管理局員との取引は?」

 

ディエチは次に自分が追っている管理局の押収物を外部に持ち出している局員の取引相手が王の可能性もあるので、その点についても訊ねる。

 

「だから、管理局から追われている私たちが管理局相手に取引する訳がないネェ」

 

「‥‥この世界に逃げて来て、何年?」

 

「あの事件後、すぐネ」

 

「って、事は私よりもこの世界に詳しいって事だよね?それじゃあ、この街の犯罪者たちについても情報は持っている?」

 

「まぁ、蛇の道は蛇ネ‥ある程度は‥‥」

 

「じゃあ協力‥してもらえる?それなら、貴方たちの罪も多少なりとも軽くなるかもよ」

 

「わ、分かったネェ、協力するヨォ」

 

「それじゃあ、早速聞くけど、この二ヵ月の間に急に羽振りが良くなった奴は知らない?」

 

「二ヵ月の間で羽振りが良くなった奴?」

 

「それってアイツじゃないか?」

 

ディエチの問いに華晨は心当たりがある様子だ。

 

「ん?誰ネェ」

 

「二番街の薬屋の陳だよ。最近、アイツは四丁目にあるダンスホールの裏カジノの常連って噂で、一晩でかなりの金を使っているって噂だ」

 

「ああ、アイツか‥‥普段から成金ぶって気に食わない奴ネェ‥‥アイツが管理局に逮捕されるなら、いい気味ネェ」

 

「裏カジノって事はそこに入るには何か会員証みたいなのが必要か‥‥」

 

管理局の身分証を見せた所で、効力は期待できない。

 

「私が会員証を持っているヨォ」

 

裏カジノ自体本来は管理局が検挙する対象なのだが、それすら検挙出来ていない事にこの世界における管理局の力が弱まっている証明なのだろう。

 

しかし、検挙されていなかったからこそ、今回の事件の手掛かりを得られそうなので、管理局員のディエチとしては複雑な心境だ。

 

「ただ、裏カジノ行くのにその恰好はNGネェ」

 

確かに王が会員証を持っているとはいえ、管理局の制服姿で行っては門前払いをくらいそうだ。

 

「それに女性の格好も危険‥‥男物の服装がいい‥‥」

 

華晨はそう言って男物の服と帽子を持って来た。

 

彼らのいう事は当たっていると判断したディエチはその服を受け取り着替えた。

 

勿論、着替えは衝立のある場所でだ‥‥

 

 

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「そろそろ開店の時間ネェ。では、行きましょうか?」

 

「‥‥」

 

王の後を歩きながらディエチはその裏カジノがあるとされるダンスホールへと向かう。

 

この地区は普段から治安が悪いが、夜は夜でこの街は別の顔を見せる。

 

この世界の太陽が水平線の彼方に沈み、周囲が暗くなると太陽の光の代わりに街にはネオンの人工の明かりが街を照らす。

 

街を行く人々はすがりつく物乞いの手を無造作に振り払いながら隣の者と会話を交わし、笑い合い、物乞いの存在を無かったかのように振舞う。

 

物乞いの他に怪しい商品を販売している露天商に露出が激しい服装で通行人の男性を呼び留める女性の姿もあった。

 

(管理局がもっとしっかりとしていれば、こんな事にはなっていなかった筈だし、この世界の人たちも、もっとマシな生活が出来た筈だった‥‥)

 

管理局は新しい世界、新しいロストロギアの収集ばかりで、管理世界になった世界の治安については関心がどうも低い。

 

新しいおもちゃを手に入れたら、古いおもちゃにはもう興味が無いと言いたげな印象を受けるディエチ。

 

やがて、お目当てのダンスホールへとたどり着く。

 

ホール内では楽団のメンバーが軽快な音楽を奏で、その音楽に合わせてきらびやかな衣装に身を包んだ男女たちが狂ったように踊っている。

 

王とディエチはそんな踊っている客たちを尻目にフロアの一番奥にある目立たない扉へと向かう。

 

扉の左右には屈強そうな黒服を着た男たちが居る。

 

(彼らが裏カジノの入り口を守る門番‥って事か‥‥)

 

ディエチは顔を知られない様に帽子を目深に被り直す。

 

王が裏カジノの会員証を取り出す。

 

会員証はカード状のモノではなく、金色の金貨で一見するとそれは記念硬貨に見えた。

 

カード状の会員証では、所持者が何らかの理由で管理局員に摘発されてしまった場合、一発でバレてしまう。

 

しかし、記念硬貨状の会員証ならば、記念硬貨としてバレる可能性が低いと考えたのだろう。

 

黒服の男は王が見せたコインを念入りに調べ、満足したのか、一度頷きコインを王に返す。

 

「今日はいつものお連れ様ではないようですね」

 

黒服の言う王の連れとはきっと華晨の事を言っているのだろう。

 

「今日は別のツレネェ。カジノに興味がアルみたいで、連れてきたヨォ」

 

「そうですか‥‥では、ゲームをお楽しみください」

 

王の言葉を信じ、黒服は扉を開ける。

 

王とディエチが中に入ると、扉は直ぐに閉められる。

 

迷路のように分厚く垂れ下がったカーテンをかき分けて進むと急に広い部屋に出た。

 

そこには何台ものスロット台、ルーレット台、ディーラーとカードゲームを興じるカード台、高級酒が並ぶバーカウンターがあり、チップが移動するカチャカチャと言う乾いた音がして、どこの台にも客が居り、酒を飲んだり、タバコを吹かしてギャンブルに興じている。

 

このギャンブルの一プレイで何百万と言う大金が動いているに違いない。

 

ディエチが呆然としながら裏カジノの光景を見ていると、

 

「どうぞ、ウェルカムドリンクです」

 

襟元が胸のラインまで大きく開き両肩を露出させた衣装に身を包んだ店員がディエチにカクテルを差し出す。

 

「どうも」

 

その店員の衣装、顔立ちは一見すると女性に見えたが、

 

(化粧や衣装で誤魔化しているけど、あれは男の人だ‥‥)

 

ディエチはその店員の歩き方から自分にカクテルを渡してきた店員の性別が男性である事を見抜く。

 

(ん?あの店員の胸元‥‥)

 

そして、もう一度、店員の様子をジッと窺うと胸元には花のタトゥーがあしらわれていた。

 

(あのタトゥー‥‥ま、まさか‥‥)

 

ディエチが店員の姿を見て別の意味で唖然としていると、

 

「あぁ~れぇ~貧乏臭い臭いがすると思ったら、王さんではありませんか~」

 

王に嫌味ったらしく話しかけて来る人物が居た。

 

「陳‥‥」

 

王は自分に話しかけて来た人物を見て、顔を顰める。

 

(あの人が‥‥陳‥‥)

 

王に話しかけて来たのは王と同じ民族服(チャンパオ)に身を包んだ怪しい雰囲気を纏った男であった。

 

「連日、このカジノでボロ負けしているにも関わらず、また負けに来たのか?お前には学習能力はないのか?ああ、失礼、無いから毎日来てボロ負けしているんだったな、ハハハハハ‥‥」

 

「‥‥」

 

別に王に肩入れするつもりはないが、ディエチ自身もあまりこの陳と呼ばれる人物には好感は抱けない。

 

「フン、今日はカジノをしに来た訳じゃないネェ。友人を連れて来ただけネェ」

 

「ほう?そちらがお前さんの友人?」

 

「そ、そうネェ‥‥」

 

「ふん、お前さんの様な無能者の友人では、大したことないネェ。お前さんも付き合う友人は選んだ方が良いヨォ」

 

陳は手をひらひらと振りながら去って行く。

 

「分かっただろう?私が奴の事を嫌う理由が‥‥」

 

「まぁ、何となく‥‥」

 

「私がお前に協力するのは奴が管理局にしょっ引かれるのをこの目で見るためなのヨォ」

 

「‥‥」

 

王にしては珍しく力なく呟く。

 

ディエチは陳の背中を見送った後、カジノをぐるりと見渡す。

 

すると、彼女の視界に予期せぬ人物の姿が飛び込んで来た。

 

その人物は両脇に露出が激しいドレスを纏った美女を侍らせギャンブルに興じる一人の男‥‥

 

グラスに入った高級な酒をガブガブと煽り、甲高い笑い声をあげている男‥‥

 

(ど、どうしてあの人が此処に‥‥?)

 

ディエチは信じられない思いで、その男をジッと見つめていた。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

  • 付き合っちゃえ
  • お友達のままで
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