星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百八十話 惑星ディスティニー

 

 

銀河系中心部のガルマン・ガミラス領内及びボラー連邦領内での銀河交叉における影響の調査と人命救助活動を行っていたヤマトとヒューベリオン。

 

ガルマン・ガミラス領内での活動中にボラーからの接触、存在が一切確認されなかった事から、防衛軍司令部はヤマトとヒューベリオンにボラー連邦領内の調査と人命救助活動を命じた。

 

地球の艦で初めてボラー連邦領内に進出したヤマトとヒューベリオンは、慎重にボラー連邦領内を調査して行き、途中でボラー連邦の避難船団と遭遇した。

 

あわや戦闘になりそうになった時、ボラー艦隊の至近で重力震が起きた。

 

ヤマトとヒューベリオンの今回の任務はボラー連邦への侵攻ではなく人命救助活動だったので、避難船を守るために重力震の対処と避難船の救助を行った。

 

その活動で自分たちに侵略の意図が無い事を理解してもらい、銀河交叉の際、ボラー連邦本星で一体何が起こったのかを知る事が出来た。

 

ボラーの避難船団には安全航路と難民惑星の座標を提示し、引き続きボラー連邦領内の調査と人命救助活動を再開した。

 

しかし、活動中に再び重力震が起き、ヒューベリオンはワームホールへと吸い込まれてしまった。

 

ワームホールへ吸い込まれたヒューベリオンがホールアウトしたのは銀河系とは別の宇宙であった。

 

そこで、ヒューベリオンはその宇宙の大交通網と言える銀河鉄道の警備を担う組織、空間鉄道警備隊と遭遇する事となった。

 

空間鉄道警備隊(通称:SDF)の司令官、藤堂平吾郎との会談で、ヒューベリオンは修理に必要な部品と生存権を得ることが出来た。

 

 

ヒューベリオン 第一艦橋

 

「何とか、修理の部品を調達できて良かった」

 

「そうですね。でも、鉄道警備隊の司令官の名前がまさかの『藤堂』って‥‥」

 

「ああ、まさか長官と同じ名前とは‥‥」

 

「しかも此処って太陽系とも銀河系とも違う宇宙なのに、日本人と同じ名前の人物が存在しているなんて‥‥」

 

「平行宇宙……あるいは、我々の知る歴史とは異なる進化を辿った人類の分岐点なのかもしれません」

 

良馬と永倉が抱く疑問に対して綺羅がコンソールから顔を上げ、冷静な声で推測を口にした。

 

「『藤堂』という日本人と同じ名だけでなく、彼らの組織体制や気質、そして何より『人を救う』という理念……どこか我々の地球防衛軍に通じるものを感じます」

 

「うん、そうだな」

 

良馬は深く腕を組み、メインスクリーンに映る光景を静かに見つめていた。

 

そこには、星々の間を縫うように敷かれた光の軌道‥力強く宇宙を駆けるSDFの装甲列車や銀河鉄道が映し出されている。

 

「今はその謎を解き明かしている猶予はないな‥‥重要なのは、彼らが我々に敵意を向けず、異邦人である我々に対して救いの手を差し伸べてくれたという事実だ」

 

良馬の重々しくも力強い言葉に、第一艦橋の乗員たちは気を引き締めるように頷いた。

 

「機関長、修理の進捗はどうか?」

 

良馬は内線回路を開き、艦の心臓部である機関室へと呼びかけた。

 

『こちら機関室。SDFから提供されたパーツですが、驚いたことに規格の変換は思いのほかスムーズに進んでいます。基礎的な技術や電子回路の論理構造が、奇妙なほど共通点が多いんですよ。まるで同じ系譜の技術をベースにしているかのようです』

 

麗羅の声には、安堵とともに技術者としての知的好奇心が混じっていた。

 

『この分なら、メインエンジンのバイパス回路接続と出力安定まで、あと数時間といったところです』

 

「ご苦労。引き続き急ピッチで頼む」

 

『了解』

 

通信を切ると、百合亜が不安そうな表情で良馬に質問をする。

 

「艦長、ヤマトはどうしているでしょうか?我々がワームホールに呑み込まれた後、ボラー領内で孤立していなければ良いのですが‥‥」

 

「ヤマトには古代艦長や真田先輩が居る。我々と同じように、これまで数々の死線を共に潜り抜けてきた歴戦の乗員たちが‥‥それにヤマトは容易く沈むような艦ではない。案ずることはないさ」

 

良馬はそう言い切ると、再びスクリーンへと鋭い視線を向けた。

 

「我々の最優先任務は、このヒューベリオンをいち早く万全の状態に戻し、元の宇宙へ帰還するルートを見つけ出すことだ。ヤマトも必ずヒューベリオンを探している筈だ。古代艦長たちを安心させるために一日‥いや、一分一秒でもはやく元の宇宙へ戻ろう」

 

「はい」

 

「航海長、航海班総出で、空間鉄道警備隊から提供された星図データと、我々の航星記録を照合。さらに、SDFのデータリンクから周辺宙域における次元の歪みに関する観測記録をピックアップしてくれ。ヒューベリオンを呑み込んだあの重力震の発生源、あるいは類似する時空震動のパターンを特定できれば、帰還への糸口が掴めるはずだ」

 

「了解!直ちにデータ解析に移行します!」

 

「必ず生きて、元の宇宙へ帰還するぞ!!」

 

良馬の一声で、第一艦橋に再び活気が戻った。

 

コンソールを叩く音、各セクションからの報告の声が飛び交う。

 

異宇宙の星の海、見たこともない星座が輝く宙域で、ヒューベリオンの乗員たちは再び希望の光を灯し始めていた。

 

窓の外では、銀河鉄道の汽笛が、静かに、そして力強く宇宙空間に響き渡っていた。

 

その銀河鉄道・空間鉄道警備隊の司令部ではある異常事態が起きていた‥‥

 

「司令!!惑星クーロンへ向かったビッグワンからの識別信号が突然消滅しました!!」

 

「なにっ!?」

 

「ビッグワン、応答せよ!!こちら銀河鉄道管理局!!ビッグワン、応答せよ!!‥‥ダメです!!ビッグワン、応答しません!!」

 

「‥‥ベガ小隊、リゲル小隊、アクルクス小隊を第一級戦闘装備でクーロン宙域へ向かわせろ!!」

 

「了解」

 

本来、タビト宙域の近くにホールアウトしたヒューベリオンの調査に向かわせたかったシリウス小隊のビッグワンは、タビト宙域にホワイトホールが出現する前に惑星クーロンにて、SDFが使用している救難信号が発せられた事で、惑星クーロンへ調査に向かっていた。

 

その惑星クーロンの調査中にビッグワンの識別信号が突然消え、通信を送っても返答がない。

 

この事態から惑星クーロン、もしくはクーロン宙域で何かしらのアクシデントが発生したものと思われ、藤堂平吾郎はビッグワンに何かあったのだと判断し、ベガ、リゲル、アクルクスの三小隊に完全武装を装備させて惑星クーロンへと調査に向かわせた。

 

完全武装の三個小隊は過剰戦力だと思われるが、以前、惑星リオグランデにて宇宙海賊がビッグワンの強奪を試みた事件があったので、完全武装の三個小隊を送ったのは決して過剰戦力ではなかった。

 

「ベガ小隊、リゲル小隊、アクルクス小隊、第一級戦闘装備で発進しました。大気圏離脱、クーロン宙域までのワープインまであと二分」

 

「ビッグワンの識別信号は?」

 

「消滅したままです」

 

「全ての回線を開き呼び続けろ。デネブ小隊にいつでも発進できるように待機させておけ」

 

藤堂平吾郎は更に後方予備隊としてデネブ小隊にも出撃待機を命じた。

 

「了解」

 

空間鉄道警備隊の司令室にあるモニターに惑星クーロンへと向かう、ベガ小隊のアイアンベルガー、リゲル小隊のブルーギャリソン、アクルクス小隊のサザンクロス‥三両のSDF戦闘車両がモニターに映る。

 

(そう言えば、今ビッグワンには特務情報部のイワノフ管理官が乗車していたな‥‥)

 

 

【挿絵表示】

 

 

(そして、特務情報部は今回、惑星クーロンから発せられているSDFシグナルを誰が発しているのか知っているような様子だった‥‥)

 

惑星クーロンから発信されているのはSDFが使用している救難信号であったが、信号が発せられた時、惑星クーロンとその周辺にSDF車両は存在していなかった。

 

では、一体誰がSDFコードでの救難信号を発信していたのか?

 

藤堂平吾郎が調査のために惑星クーロンへシリウス小隊を派遣する際、空間鉄道警備隊の公安・諜報部とも言える特務情報部が横やりを入れるかのように、今回の調査任務に特務情報部所属のイワノフ管理官を乗車させるように言ってきた。

 

特務情報部のこの行動に藤堂平吾郎は違和感を覚えた。

 

ただの調査任務に特務情報部がしゃしゃり出てくるのはあまりにも不自然だったからだ。

 

(特務情報部はまだヒューベリオンの存在を掴んだ様子はないが、彼らがヒューベリオンの存在を知れば、一体何をしでかすか分かったモノではない‥‥)

 

(万が一、特務情報部がヒューベリオンに手荒な真似をすれば、彼らは協定違反と判断し、我々に敵対するかもしれない‥‥)

 

(此処は、総司令から特務情報部にヒューベリオンへ手を出さぬよう、釘を刺してもらおう‥‥)

 

今回の調査任務における特務情報部の動きを懸念して藤堂平吾郎は先手を打つことにした。

 

「ちょっと、席を外す。何か進展があれば呼んでくれ」

 

「は、はい」

 

藤堂平吾郎は運行司令室から出て総司令が待つ部屋へと向かう。

 

その総司令室では、銀河鉄道管理局総司令官のレイラ・ディスティニー・シュラが立ちながら宇宙儀に手をかざしながら目を閉じ、何かを感じ取ろうとしていた。

 

 

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「何かが近づいている‥‥なのに見えない‥‥分からない‥‥」

 

レイラが困惑していると、扉がノックされる。

 

「‥どうぞ」

 

「失礼します」

 

レイラが入室を許可すると、総司令室に藤堂平吾郎が入って来た。

 

彼はレイラに一礼し、早速用件を伝える。

 

「総司令官も既にご存じの通りかと思いますが、現在タビトにて別宇宙からの訪問者が居ります」

 

「ええ、知っているわ」

 

「今回、シリウス小隊の任務に特務情報部のイワノフ管理官が同行しましたが、特務情報部の動きにはどうもきな臭いモノを覚えます」

 

「‥‥」

 

藤堂平吾郎の言葉にレイラは目を閉じて聞いている。

 

「訪問者たちの武装技術は我々の技術を越えるレベルです。もしも特務情報部が彼らに要らぬちょっかいを出せば、彼らの怒りを買うのは必須です。故に総司令官直々に特務情報部へ彼らに手を出さぬよう釘を刺していただけますか?」

 

「分かりました、藤堂司令」

 

レイラは静かに目を開き、その深淵を思わせる瞳を真っ直ぐに藤堂平吾郎へ向けた。

 

「特務情報部には、私から厳重に警告を発しておきましょう。別宇宙からの訪問者に対し、いらぬ疑念を抱かせ、銀河鉄道の威信を貶めるような真似は決してさせません」

 

「感謝致します、総司令。彼ら『地球防衛軍』の艦、ヒューベリオンは未知の兵器を有しています。不要な摩擦を避けるためにも、今は彼らの艦の修復と帰還を静かに支援することが最善の策であると自分は思います」

 

藤堂平吾郎が安堵の息を吐き、一礼して退出そうとしたその時、レイラが微かに表情を強張らせて言葉を紡いだ。

 

「しかし、藤堂司令……気がかりなのはそれだけではありません」

 

「と、言われますと?」

 

「先程から、運命の軌道がひどく乱れているのを感じるのです。ビッグワンの通信途絶……そして、タビト宙域に現れたホワイトホール。これらは決して無関係な事象ではない……得体の知れない、暗く冷たい影がこの宇宙の理に干渉しようとしている……」

 

レイラの言葉に、藤堂平吾郎は眉間を深く寄せた。

 

ビッグワンが消えたクーロン宙域。

 

そして、タビト星系にて別宇宙の艦を吐き出した時空の裂け目。

 

この二つの事象が線で繋がった時、それが意味するものは決して平穏な結末ではない。

 

レイラの言葉を聞き、藤堂平吾郎に特務情報部以上の不安が過る。

 

そんな中、

 

『司令、ビッグワンとの通信が回復しました!!』

 

音信不通だったビッグワンから通信が入ったとの知らせが舞い込む。

 

「分かった。今行く、では総司令官。失礼します」

 

「藤堂司令」

 

「はい。なんでしょう?」

 

「もし、可能ならば別宇宙からの訪問者をこのディスティニーへ来てもらう事は可能かしら?」

 

「ディスティニーへ‥‥ですか?」

 

「そうです。宇宙の理に干渉しようとしている者の正体はまだ分かりませんが、今タビトに居る訪問者たちについて、私はタビトに現れる少し前からその予感を感じていました。彼らは此方が手を出さなければ、心強いパートナーになり得る存在であり、私自身その訪問者とは会ってみたいのです‥‥」

 

「分かりました。ビッグワンの件の後、タビトに居るスピカ小隊と訪問者に総司令官の意を伝えます」

 

藤堂平吾郎は総司令室を後にし、足早に運行司令室へと戻っていった。

 

一方、惑星クーロンでの調査任務中に音信不通となっていたシリウス小隊のビッグワンでは‥‥

 

惑星クーロンから遠く離れたサザーランド星系と呼ばれる星系に居た。

 

ビッグワンが惑星クーロンから遠く離れたサザーランド星系に居る理由‥‥

 

それはクーロン宙域にて十年前、タビト星系に突如出現し、一方的に攻撃を仕掛けて来た所属不明艦と再び遭遇し、戦闘になったからである。

 

所属不明艦の装備はビッグワンの装備を凌駕しており、ビッグワンは逃げ出すので精一杯であった。

 

その結果、緊急ワープを行いクーロン宙域からサザーランド星系にワープアウトしたのだった。

 

「此方、シリウス小隊ビッグワン、現在サザーランド星系第四惑星に居る」

 

シリウス小隊の運行管理兼メカニックパート担当であるデイビッド・ヤングがビッグワンの現状を銀河鉄道管理局に伝える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『了解、直ちに救援を送ります』

 

「頼む。それとクーロン宙域の運行は直ぐに止めてくれ。所属不明の戦艦が居る。奴らの武器は‥‥」

 

『クーロン宙域には、ベガ小隊、リゲル小隊、アクルクス小隊が第一級戦闘装備で向かっています』

 

「っ!?」

 

「行かせるな!!呼び戻せ!!」

 

銀河鉄道管理局からの返答にシリウス小隊隊長のシュワンヘルト・バルジが叫ぶ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

しかし、シリウス小隊からの警告は一足遅く、クーロン宙域にはベガ小隊、リゲル小隊、アクルクス小隊が到着してしまった。

 

そして、彼らはクーロン宙域を航行する所属不明の戦艦を捕捉していた。

 

 

ベガ小隊 アイアンベルガー 指揮車両

 

「総員戦闘配備!!向こうがその気を見せやがったら即応戦する!!」

 

「了解」

 

ベガ小隊隊長の村瀬龍作が戦闘命令を下す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

アイアンベルガーは磁力バリアを解除し、窓には装甲シャッターを下ろす。

 

戦闘車両の砲門は所属不明艦をロックし、スペース・イーグル隊を全機出撃させる。

 

リゲル小隊、アクルクス小隊も同様の行動を取る。

 

所属不明艦も砲塔を三小隊へと向け、発射体制をとる。

 

「敵艦、戦闘態勢を取りました」

 

「よし、撃て!!」

 

村瀬は所属不明艦の行動からこちらに敵対行動の意思有りと判断し、攻撃命令を下す。

 

三小隊の戦闘車両は所属不明艦に向けて発砲するが、そのエネルギー波は装甲で弾かれて所属不明艦にダメージは一切ない。

 

更に所属不明艦も多数の艦載機を射出する。

 

スペース・イーグル隊も所属不明艦への攻撃を行うが、対空砲火と敵艦載機の防空網に阻まれて次々と堕とされていく。

 

戦艦と装甲列車に搭載できる艦載機の機数の差があまりにも有り過ぎた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

所属不明艦の主砲の直撃を受けたアクルクス小隊のサザンクロスの先頭車両が大破する。

 

隊員たちは誘爆を防ぐために先頭車両を直ぐに切り離す。

 

すると、先頭車両は大爆発を起こす。

 

あのまま連結していたら誘爆し、隊は全滅していたところだ。

 

「サザンクロス号大破!!」

 

「なにっ!?」

 

村瀬は知らせを聞いて怒りで顔を歪ませる。

 

サザンクロス号はかつて自分がSDFに入りたての頃に入隊した古巣の部隊だったからだ。

 

『村瀬!!撤退しろ!!』

 

そこへ、バルジからの通信が入る。

 

「バルジか!?」

 

『今の我々の装備では奴等には勝てない』

 

「古巣の小隊がやられたんだ!!このままおめおめと‥‥」

 

『耐えてくれ!!退けば勝算はある!!』

 

「‥‥」

 

『村瀬!!お前らまでみすみす死ぬな!!』

 

「くっ‥‥」

 

村瀬が撤退か?それとも徹底抗戦か?と判断を躊躇していると、

 

「あっ、敵艦が消えます」

 

「なにっ!?」

 

所属不明艦は艦載機を収容するとワープで何処かに消えた。

 

「どうなっている‥‥?」

 

(俺たちは撃破する価値すらない小物だとでも言うのか!?)

 

(くそっ、舐めやがって‥‥)

 

サザンクロスを大破させるくらいの威力がある武器を搭載しているのなら、残りの車両も撃破する事は出来た筈だ。

 

既に制宙権もなく、空間鉄道警備隊側の武器では傷一つつかないのだから一方的に撃破する事も可能だった。

 

しかし、所属不明艦はその状況下でもいきなり戦闘を止めてワープでこの宙域から離脱したのだった。

 

クーロン宙域での一方的な戦闘が終わった頃、ヒューベリオが停泊しているタビトでは‥‥

 

「えっ?ヒューベリオをディスティニーへ?」

 

『そうだ』

 

フレイムスワローの指揮車両にて、ジュリアは藤堂平吾郎からヒューベリオンをディスティニーへ案内せよとの命令を受けた。

 

「でも、何故ヒューベリオンをディスティニーに?」

 

『総司令官がどうも彼らに興味を抱いているみたいでな』

 

「えっ?総司令が?」

 

『うむ、その他に特務情報部が此処最近、コソコソと妙な動きをしている。今回のシリウス小隊の任務にも強引に乗り込んで来た。もしも彼らがヒューベリオンの存在を知れば、何かしらのちょっかいを出すのではないかと思ってな‥‥』

 

「でしたら、タビトの方が安全では?」

 

惑星ディスティニーは銀河鉄道の始発駅であり、空間鉄道警備隊の根拠地‥‥当然、特務情報部の本部もある。

 

そんなディスティニーにヒューベリオンを回航すれば、余計にヒューベリオンが特務情報部の手に落ちてしまうのではないかとジュリアは思った。

 

『いや、逆に私や総司令の目が届く範囲にヒューベリオンを置いた方がむしろ安全だ』

 

特務情報部本部があるディスティニーよりも、ディスティニーから離れたタビトに停泊させている方が逆に特務情報部にヒューベリオンが手に落ちやすいと藤堂平吾郎はそう判断した。

 

それならば、自分たちの目が届く範囲にヒューベリオンを停泊させた方がむしろ安全だと言うのだ。

 

「なるほど……確かに、辺境のタビトで特務情報部の別働隊に包囲されるよりは、藤堂司令やレイラ総司令の目と権限が直接届くディスティニー本星に置いた方が牽制にもなりますね」

 

ジュリアは藤堂平吾郎の意図を理解し、深く頷いた。

 

『そういうことだ。それに、彼らの艦の修理が完了したとしても、元の宇宙へ帰還するための座標計算や次元断層のデータは、管理局の中枢であるディスティニーのスーパーコンピューターを用いなければ解析は難しいだろう。彼らにとっても悪い話ではないはずだ』

 

「了解しました。直ちにヒューベリオンの月村艦長に総司令の意向を伝え、ディスティニーへの回航準備に入ります」

 

『うむ、頼んだぞ』

 

「はい。愛、ヒューベリオンの月村艦長に連絡を取って」

 

「了解」

 

銀河鉄道管理局との通信を切ると、ジュリアはすぐさま愛に指示を出し、ヒューベリオンの第一艦橋へと回線を開いた。

 

 

ヒューベリオン 第一艦橋

 

「艦長、フレイムスワローから通信です」

 

「フレイムスワローから?分かった。通信回路を開いてくれ」

 

「了解」

 

沙織が通信回路を開くとメインスクリーンにジュリアの姿が映し出される。

 

『月村艦長、艦の修理状況はいかがでしょうか?』

 

「レインハート隊長。SDFの協力のおかげで、メインエンジンのバイパス接続は無事に完了した。現在、最終的な出力チェックを行っているところだ。数十分後には自力航行が可能になる」

 

良馬の報告に、ジュリアは安堵の表情を見せた後、すぐに真剣な眼差しへと切り替わった。

 

『それは重畳です。実は先程、藤堂司令、並びに銀河鉄道管理局のレイラ総司令官より、特命が下りました。ヒューベリオンには、我々スピカ小隊の護衛のもと、銀河鉄道の始発駅である惑星ディスティニーへ向かっていただきたいのです』

 

「惑星ディスティニー‥‥銀河鉄道の始発駅へ‥ですか?」

 

良馬が眉をひそめると、横にいた綺羅が鋭く問いかけた。

 

「我々のような素性の知れない異邦人の武装艦を、あなた方の本星へ招き入れるということですか? いささか不用心……いや、何か特別な理由か目的があるとお見受けしますが?」

 

ジュリアは隠し立てすることなく、率直に答えた。

 

『ええ、綺羅技師長のお察しの通りです。現在、我がSDFの内部組織である「特務情報部」が、不穏な動きを見せています。彼らは管理局の公安・諜報を担う部署ですが、目的のためなら手段を選ばない強硬な一面があります。もし彼らが貴艦の存在と、その未知のオーバーテクノロジーを知れば、どのような手段に出るか分かりません』

 

「なるほど」

 

良馬は顎に手を当てた。

 

「辺境の宙域でこっそり嗅ぎ回られるよりは、総司令官たちの膝元に置いて監視下‥いや、保護下に置いた方が、特務情報部もおいそれとは手が出せないというわけですか‥‥」

 

『その通りです。そしてもう一つ。レイラ総司令官自身が、あなた方とお会いすることを強く望んでおられます。この宇宙に迫りつつある“得体の知れない影”と、あなた方が現れた重力震……総司令は、その二つに何らかの因果関係があると感じておられるようです』

 

その言葉に、第一艦橋の空気が微かに張り詰めた。

 

クーロン宙域で起こったという所属不明艦との戦闘記録や次元の歪みについては、SDFのデータリンクを通じてヒューベリオン側も断片的に把握し始めていたからだ。

 

断片的とは言え、本来ならば、部外者である自分たちに開示する情報ではないにもかかわらず、ジュリアは惜しげもなくその情報を見せて来た。

 

「月村艦長」

 

百合亜がコンソールから振り向き、静かに言った。

 

「ディスティニーの管理局本部にあるメインコンピューターと観測データにアクセスできれば、我々が吸い込まれたワームホールの逆算トラッキングがより正確に行えるはずです。帰還への大きな足がかりになります」

 

良馬は深く頷き、スクリーン越しのジュリアに向き直った。

 

「事情は理解しました。我々にとっても、元の宇宙へ帰還するための手掛かりは一つでも多く欲しい。レイラ総司令官からの招待、謹んでお受けしよう。ヒューベリオンはこれより抜錨準備に入り、フレイムスワローに追従します」

 

『感謝します、月村艦長。では、出発の準備が整い次第、共にタビトを発ちましょう』

 

「ええ」

 

良馬は頷き、発進準備を始める。

 

数十分後‥‥

 

重低音の轟きと共に、修復を終えた波動エンジンが静かに、しかし力強い脈動を打ち始めた。

 

ヒューベリオンの巨体が、ドックを離れタビトの重力圏をゆっくりと離脱していく。

 

その前方を真紅の流麗な装甲列車‥‥スピカ小隊のフレイムスワローが先導する。

 

「メインエンジン、出力安定。重力バランサー正常」

 

「各部バイパス回路、異常なし」

 

「よし」

 

良馬は艦長席から立ち上がり、前方の星海を力強く見据えた。

 

「これより本艦は、SDFスピカ小隊の先導により惑星ディスティニーへ向かう。我々の宇宙へ帰るための第一歩だ! 航海長、フレイムスワローの航跡データにリンク」

 

『了解、フレイムスワローの航跡データにリンクします!!波動エンジン、接続!!』

 

異宇宙の星々が、メインスクリーンの向こうで輝いている。

 

ヤマトと合流するため、そして自分たちの宇宙へ帰還するため、ヒューベリオンは未知なる銀河鉄道の中枢へと、その歩みを進めるのであった。

 

フレイムスワローがヒューベリオンをディスティニーへ先導している最中、ある訃報がフレイムスワローに入る。

 

「じゅ、ジュリア隊長‥‥」

 

「ん?どうしたの?」

 

「そ、それが‥‥」

 

愛がジュリアにビッグワンから入電した内容を伝える。

 

「‥‥」

 

ジュリアは入電内容を聞き静かに目を閉じる。

 

その入電内容と言うのが、シリウス小隊に所属する戦闘パート担当のブルース・J・スピードが殉職したとの報告だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

彼は惑星クーロンから強制ワープした後、ビッグワンが墜落したサザーランド星系第四惑星にあるドライブインで射殺体となって発見された。

 

犯人は直ぐに逮捕されたが、ブルースが還って来る事はない‥‥

 

ビッグワンがディスティニーに到着次第、ブルースの葬儀と埋葬が行われると言う。

 

「‥‥愛」

 

「はい」

 

「月村艦長に連絡‥ディスティニーへ着いたら、私たちは殉職したブルース・J・スピード隊員の葬儀に出席すると」

 

「は、はい」

 

愛はヒューベリオンへの通信回路を開く。

 

 

ヒューベリオン 第一艦橋

 

「艦長、フレイムスワローから通信です」

「フレイムスワローから?分かった。通信回路を開いてくれ」

 

「了解」

 

『フレイムスワローよりヒューベリオンへ……ジュリア隊長からの伝言です』

 

愛の沈痛な声が、ヒューベリオンの第一艦橋に響き渡った。

 

ジュリアから伝えられた内容‥それはシリウス小隊所属の隊員、ブルース・J・スピード隊員が不慮の事件で殉職したと言うのだ。

 

その重い事実は、異宇宙からの訪問者であるヒューベリオンのクルーたちにも少なからぬ衝撃を与えた。

「そうですか‥‥我々を助けてくれた空間鉄道警備隊にそのような悲劇が……」

 

良馬は深く目を閉じ、悲痛な面持ちでコンソールに手をついた。

 

戦場を駆ける者として、仲間の喪失がいかに心を抉るか、彼らはこれまでの地球の経験から身を以て知っている。

「艦長……」

 

百合亜が痛ましげな視線を向ける。

 

「沙織、レインハート隊長に伝えてくれ。我々ヒューベリオンの一部の乗員たちも、地球防衛軍の軍人として、彼らの同胞の死に深く哀悼の意を表する。ディスティニーに到着次第、共に葬儀に参列させてほしい‥と」

 

「了解しました」

 

沙織が静かに頷き、フレイムスワローへと通信を返す。

 

第一艦橋は、先程までの帰還への希望に満ちた熱気から一転、静かで厳粛な空気に包まれた。

 

 

フレイムスワロー 指揮車両

 

「隊長、ヒューベリオンから返信です」

 

「月村艦長はなんて?」

 

「ブルース隊員の葬儀に出席したいと‥‥」

 

「‥‥」

 

ジュリアは良馬からの頼みにしばし無言で考える。

 

特務情報部が動いているかもしれない中でブルースの葬儀に出しても大丈夫だろうか?

 

とは言え、葬儀には司令官である藤堂平吾郎も出席するので、特務情報部もおいそれとは手荒なことはしないだろう。

 

「藤堂司令に月村艦長の意向を伝えて」

 

「了解」

 

愛は藤堂平吾郎に良馬たちヒューベリオンの乗員たちがブルースの葬儀に出席の意向がある旨を伝える。

 

『そうか、月村艦長たちが‥‥』

 

「はい。葬儀会場には当然、特務情報部の隊員が紛れ込んでいる可能性がありますが、藤堂司令が居る中で、手荒な真似をするとは思えないので、此処は彼らの意を汲んで、出席を許可してもよろしいのではないでしょうか?」

 

『‥‥うむ、月村艦長たちに葬儀の出席の許可を出す旨を伝えておいてくれ』

 

「了解しました」

 

それから直ぐにヒューベリオンへフレイムスワローから通信が送られ、葬儀の出席が許可された。

 

数時間後‥‥

 

ヒューベリオンとフレイムスワローは、ついに銀河鉄道の始発駅、惑星ディスティニーの宙域へと到着した。

 

「これが、惑星ディスティニー‥‥」

 

「銀河鉄道の始発駅とされる星‥‥」

 

メインスクリーンに映し出された光景に良馬たちは息を呑んだ。

 

極端なローアングルの視点から見上げるように広がる、巨大なターミナルステーションの威容。

 

幾重にも重なる漆黒と白金の重厚な装甲隔壁、そして無数の光の軌道が幾何学的なプラットフォームへと吸い込まれていく様は、まるで神殿のようであった。

 

下方から見上げるパースペクティブが、その建造物の規格外の巨大さと、銀河鉄道を統括する組織の絶対的な存在感を強調している。

 

しかし、その周囲には沢山の森がある自然豊かな星でもあった。

 

ディスティニーの専用ドックにヒューベリオンが停泊した後、良馬をはじめとする主要な乗員たちは、フレイムスワローの面々と共にブルース・J・スピード隊員の葬儀に参列した。

 

ブルースの遺体を乗せたビッグワンはフレイムスワロー、ヒューベリオンの到着から少し時間が経った後、ディスティニーへと戻って来た。

 

ディスティニーの駅前の広場には藤堂平吾郎を始めとする運行司令部、整備部、そしてスピカ小隊以外の空間鉄道警備隊の小隊隊員たちが整列している。

 

良馬、綺羅、永倉たちもその列に入っていた。

 

幸いSDF隊員のジャケットは防衛軍のジャケットとデザイン類似しており、SDF隊員たちもかなりの人数が居たので、良馬たちが葬儀に出席してもバレる事はなく、『どこかの隊に所属している隊員』として見られなかった。

 

シュワンヘルト・バルジ隊長をはじめとするシリウス小隊の面々は、悲しみに耐えるように顔を強張らせていた。

 

ストレッチャーの上にはブルースの遺体が乗り、その上にはシリウス小隊の小隊旗がかけられている。

 

「ブルース・J・スピード隊員に追悼の意を込め、全員敬礼」

 

藤堂平吾郎の言葉にその場にいた銀河鉄道の関係者、そして良馬たちは敬礼した。

 

ライフルから弔砲が放たれ、ブルースの遺体は待機していた霊柩車に乗せられて墓地へと向かった。

 

葬儀の重苦しい空気が少しずつ落ち着きを取り戻し始めた頃、良馬は藤堂平吾郎の案内のもと、ついに銀河鉄道管理局の最深部――レイラ・ディスティニー・シュラが待つ総司令室へと足を踏み入れた。

 

「遠路はるばる、よくいらっしゃいました。別宇宙からの訪問者さん」

 

透き通るような、それでいて宇宙の深淵を思わせる威厳を帯びた声がそう司令室の室内に響く。

 

そこには、全てを見透かすような神秘的な瞳を持つ女性‥レイラ・ディスティニー・シュラが静かに佇んでいた。

 

(っ!?こ、この人は本当に人間なのか?)

 

(いや、声だけならば、雪さんにそっくりな声だが‥‥)

 

良馬はレイラの姿を一目見て内心身震いをする。

 

(イスカンダルのスターシアさんやシャルバート星のルダ王女以上の未知なるオーラがある)

 

レイラが纏う雰囲気は良馬がこれまで出会った王族の女性たち以上の未知なる雰囲気を纏っており、眼前の人物が人間なのかと疑ってしまうレベルであった。

 

とは言え、いつまでも挨拶をしないのは失礼にあたるので、良馬は即座に切り替えて

 

「お初にお目にかかります、レイラ総司令。自分は地球連邦・地球防衛軍、戦艦ヒューベリオン艦長の月村良馬です。此度は我々の艦の窮地を救っていただき、またこのような場を設けていただいたこと、心より感謝申し上げます」

 

軍帽を脱ぎ、脇にはさみ凛とした姿勢で一礼すると、レイラは微かに微笑んだ。

 

「堅苦しい挨拶は不要です、月村艦長。あなた方が此処へ導かれたのは、単なる偶然の座礁ではありません。大いなる運命の軌道が交差した結果なのです」

 

レイラの言葉に良馬は早速、その言葉の意味の真意を訊ねる。

 

「レイラ総司令官。フレイムスワローの通信で伺いました。『宇宙の理に干渉しようとしている得体の知れない影』とは、一体どういう意味でしょうか?」

 

良馬が核心を突く質問をすると、レイラの神秘的な瞳に鋭い光が宿った。

 

「先日、クーロン宙域に出現した所属不明の戦艦……そして、あなた方をこちらの宇宙へ引きずり込んだ重力震とホワイトホール。これらは決して無関係な自然現象ではありません。人為的に次元の壁に干渉し、異なる宇宙同士を無理矢理に繋げようとする……恐るべき悪意の存在を感じるのです」

 

「次元の壁に干渉する……まさか、あの重力震は人工的に引き起こされたモノだと言うのですか?」

 

良馬が驚愕の声を上げる。

 

自分たちが巻き込まれた重力震は銀河交叉によって影響した宇宙現象だが、そもそもの原因である銀河交叉さえも自然現象ではなく、何かしらの人工的な力によって引き起こされた人災なのだとレイラは断言する。

 

「ええ。そして、クーロン宙域に現れた所属不明艦の兵器体系は、明らかに我々の宇宙の理法から外れたものでした。SDFの兵器が全く通用しない圧倒的な力‥‥でも、彼らが何処から来たのか私も分からない‥‥」

 

藤堂平吾郎が重々しく口を開く。

 

「我々空間鉄道警備隊の戦力は、通常の宇宙海賊や局地的な紛争を鎮圧するには十分だ。だが、もしも次元を超えて侵略を企てるような存在が相手となれば、現状の装備では対応しきれん。だからこそ、総司令官は未知の技術体系を持つあなた方と直接会うことを望まれたのだ」

 

良馬は腕を組み、鋭い視線を宙に向けた。

 

「なるほど‥‥レイラ総司令、貴女はもう知っているのでしょうけど、我々の宇宙でも、銀河系の中心部でガルマン・ガミラス、そしてボラー連邦と言う二つの星間国家が熾烈な覇権争いを繰り広げてきました。それに、我々の故郷である地球もガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国と死闘を演じた経験があります‥‥ヤマトも我々を探しているはずですが、このまま一方的に帰還の道を探るだけでは済まないようですね」

 

「月村艦長。あなた方の艦の修理は完了したと聞いていますが、元の宇宙へ帰還するための座標計算には、当管理局のメインコンピューターの演算能力を提供しましょう」

 

レイラは静かに、しかし力強く言った。

 

「その代わりと言ってはなんですが、あなた方の知見を貸していただきたい。我々の宇宙に忍び寄る影の正体を突き止め、次元の崩壊を防ぐために‥‥」

 

「……レイラ総司令の御依頼に異存はありません。我々としても、その『所属不明艦』が我々の宇宙からやってきた存在である可能性、あるいはヤマトや地球に危害を加える存在である可能性を捨てきれない。共に謎を解き明かしましょう」

 

良馬の力強い返答に、藤堂とレイラは深く頷き合った。

 

二つの異なる宇宙の力と意志が、星の海で交差した瞬間であった。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

  • 付き合っちゃえ
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