星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百八十三話 ディスティニー絶対防衛ライン

 

 

惑星ディスティニー‥‥

 

銀河鉄道の始発駅がある惑星‥‥

 

今、その惑星ディスティニーに最大の危機が迫ろうとしていた。

 

銀河鉄道が存在する宇宙とは別の宇宙にあるアルフォート星団‥‥

 

そのアルフォートの宇宙より、武闘派の勢力、アルフォート星団帝国が人工的に別宇宙へ渡る為のディメンションホールを開け、銀河鉄道が存在する宇宙へと進出してきた。

 

彼らの目的が銀河鉄道の壊滅と惑星ディスティニーの破壊である事を知った空間鉄道警備隊、SDFは当然、彼らの目的を黙って見過ごす訳にはいかなかった。

 

しかし、SDFとアルフォート星団帝国との間には大きな技術力の差があった。

 

侵攻して来たアルフォート星団帝国軍とSDFは果敢に戦うも、次々と敗退し、ディスティニーまで後退する。

 

そんな中、アルフォート星団帝国に抗うためにSDF所属のシリウス小隊、ビッグワンはアルフォート星団からの逃亡者から齎されたコスモ・マトリックスを装備してアルフォート星団帝国軍との戦いへと向かった。

 

 

ビッグワン 指揮車両

 

「防衛要塞アネックス。管理局が外敵に備え、ディスティニー星周囲に配備している無人武装ステーションの一つだ。通常は予備操車場として使われている。この要塞でアルフォート艦隊の注意を逸らしている間にビッグワンは主砲の改装を完成させ、その頭上に小ワープ、艦隊下方へ駆け抜けつつ、攻撃をかける。狙いはアルフォートの旗艦‥この大型戦艦だ」

 

シリウス小隊隊長のバルジが小隊の隊員たちに作戦を説明する。

 

これまでの監視衛星の情報からアルフォート艦隊の大まかな陣容は把握できた。

 

艦隊の中央部には艦影が若干異なる大型戦艦が一隻確認されており、バルジはその戦艦こそ侵攻艦隊の指揮官が座上する艦隊旗艦だと判断し、その戦艦を攻撃目標とした。

 

 

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「指揮系統を混乱させて一気に殲滅か‥‥」

 

「これが最後の砦だ。突破されれば我々の命運は尽きる。何としてでも銀河鉄道を守るんだ。そして必ず生きて還る。いいな!?」

 

『了解!!』

 

銀河鉄道とアルフォート星団帝国軍との最後の決戦が始まろうとしていた時、

 

 

???

 

「うっ‥うーん‥‥」

 

パルーム分岐点で宇宙空間に放り出されMIA‥死亡認定となっていたルイが目を覚ました。

 

そこに植物人間‥と呼べるような姿をした一人の人間が、ルイが寝かされていた部屋に入って来た。

 

 

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「戦場の見分と同胞の救助に当たっていた部隊がお前を回収した。標本としてな‥‥聞きたい事があって一時、私が預かった」

 

その植物人間もとい、アルフォート星人の手のひらから真珠と金で作られたようなペンダントが出て来た。

 

「これを何故、お前が持っていた?」

 

「彼女は‥‥リフルさんは‥‥亡くなったわ‥‥」

 

そのアルフォート星人の首にも同じペンダントがぶら下がっていた事からルイは眼前のアルフォート星人が以前、惑星クーロンへ不時着したアルフォート星団からの逃亡者、リフルの関係者だと判断し、彼女があれからどうなったのかを伝えた。

 

「リフル‥‥愚かな事を‥‥私の妹は優れた科学者だった‥‥だが、理想論が過ぎた‥‥コスモ・マトリックスは既に銀河鉄道に渡っているのだな?」

 

「ええ‥‥」

 

「‥‥これを」

 

「えっ?」

 

「私が逃がしてやる」

 

そう言ってアルフォート星人は自分たちが使用している宇宙服をルイに手渡す。

 

「ええ!!」

 

彼女の行動に驚くルイ。

 

「ユウキの下に帰るが良い」

 

「ど、どうして‥‥」

 

「うわごとで何度も呼んでいた。お前の大事な人なのだろう?」

 

何故、敵であるアルフォート星人が学の事を知っていたのか、疑問に思ったが、それは自分が眠っている間に口にしていた様だ。

 

自分の恥ずかしい寝言を聞かれはしたが、ルイは眼前に居るアルフォート星人はあのリフルの姉と言う事で、決して悪い人ではないと判断し、彼女の後について行った。

 

そして、艦載機の格納まで来ると、

 

「アレに乗って行け」

 

脱出艇を用意してくれた。

 

「操縦は精神感応式だ。私の名はトゥリル。妹を看取ってくれたことを感謝する」

 

「‥‥私は‥ルイ」

 

「忘れない‥‥さあ、早く行け」

 

「一つ教えてちょうだい」

 

「なんだ?」

 

「何故、貴女たちはこんな戦いを始めてしまったの?リフルは争いを望んでいなかった‥だから命をかけて私たちにコスモ・マトリックスを届けてくれたの」

 

ルイはアルフォート帝国が銀河鉄道に戦いを挑んだ理由を訊ねる。

 

「分かっている。だが、私たちは後戻りできないのだ‥‥生きるために‥‥」

 

「だったら、一緒に生きればいいじゃない!?もうお互い、これ以上の犠牲は‥‥この戦いを終わらせましょう、トゥリル」

 

ルイがトゥリルを説得する中、警報が鳴る。

 

どうやらルイを連れ出した事がバレたみたいだ。

 

「早く行け」

 

「トゥリル‥‥」

 

「良いから行け、此処に居ればお前は殺されるぞ」

 

「‥‥」

 

ルイは後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、その場を去る。

 

やがて格納庫に武装したアルフォート星人たちがやって来た。

 

「捕虜はどこだ?」

 

「此処には居ない」

 

「‥‥一緒に来い」

 

アルフォート星人たちはトゥリルを何処かへと連行して行った。

 

ルイはそれを物陰から窺っていた‥‥

 

 

ディスティニー 銀河鉄道 運行指令室

 

「アルフォート艦隊、アネックス到達まであと2200秒」

 

「アネックス、全防衛システム起動」

 

アルフォート艦隊の接近を捕捉したアネックスは格納式の砲塔を全て出現させて応戦準備を整える。

 

 

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「遠隔操作による応戦準備完了しました」

 

「ビッグワンの位置と状況は?」

 

「ディスティニーより一万五千宇宙キロ、新主砲メインシステム作業完遂率75%」

 

「‥‥時間が足りんな」

 

アルフォート星団帝国とはもう一つの別宇宙からの訪問者たちの手を借りたにもかかわらず、火器管制システムへのコスモ・マトリックスのインストールがまだ終わっていない。

 

アルフォート星団帝国軍の侵攻速度があまりにも早すぎた。

 

せめてもう一日あれば、状況は変わっていた。

 

 

銀河鉄道 SDF車両 整備場

 

「残念ですが、機関部の損傷が思ったより酷く‥‥素粒子砲も圧力弁への被弾が激しく、使い物になりません」

 

『そうか‥分かった』

 

ベガ小隊の戦闘車両、アイアンベルガーを修理していた整備員が藤堂平吾郎に修理状況を報告する。

 

アルラキス分岐点での戦いでアイアンベルガーの切り札とも言える素粒子砲は、その宙域に展開していたアルフォート星団帝国軍との戦いで無茶をしたのか使用不能となっていた。

 

その後、スピカ小隊救援にパルーム分岐点に来たアイアンベルガーであったが、救助活動に専念していたのは既に素粒子砲が使用不能となっていたためであった。

 

この状況からアイアンベルガーは満足に戦う事も、本来の速度も出せない状況であった。

 

そこへ、

 

「アネックスまで走ればいい」

 

隊長の村瀬を始めとして、ベガ小隊のメンバーがやって来た。

 

「派手にやられちゃいるが、アイアンベルガーは死んじゃいねぇ」

 

「素粒子砲がダメなら代わりにグスタフを連結してくれ、二両だ」

 

戦闘パート担当のエドウィン・シルバーが素粒子砲を搭載した車両ではなく、SDFでも最も攻撃力がある列車砲、グスタフを用意するように言う。

 

 

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「そ、そんな無謀です」

 

整備員としては機関出力が75%しか出ない状況で巨大な列車砲を二両も連結すれば、機動力はますます低下し、行動不能になる可能性もあるので止める。

 

「帰りはビッグワンに引っ張ってもらうさ」

 

だが、村瀬は行動不能になれば、ビッグワンに牽引してもらいディスティニーへ還ると言う。

 

「し、しかし‥‥」

 

「怪我をしてもユキちゃんが居るしな」

 

『ハハハハハ‥‥』

 

還りはビッグワンが居れば問題なく、負傷してもシリウス小隊の医療担当のユキがいるので問題ないと運行管理パート担当のホセ・アントニオ・バルディビアがお気楽そうに言うと、ベガ小隊のメンバーからは笑いが零れる。

 

 

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「よし、そうと決まったらまずは腹ごしらえだ」

 

『了解!!』

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

整備員の言葉を無視してベガ小隊のメンバーは整備場を後にした。

 

そんな中、宇宙ではアルフォート星団帝国軍に動きがあった。

 

「アルフォート艦隊、アネックスの有効射程圏内に入りました」

 

「出来るだけ、引き付けろ‥‥こちらからは仕掛けるな‥‥ビッグワンのために少しでも時間を‥‥」

 

「司令、アルフォート艦隊、全艦速度を落としています!!」

 

「なにっ!?」

 

アルフォート艦隊側もアネックスの存在は既に捕捉している。

 

アネックスを意識して進撃速度を落としたのか?

 

アネックスの対処に戸惑っているのか?

 

いずれにしてもこれはビッグワン、銀河鉄道側にはチャンスであった。

 

ビッグワン側もアルフォート艦隊の動きは掴んでいた。

 

「アルフォート艦隊、停止しました」

 

「どういう事だ?」

 

シリウス小隊でもアルフォート艦隊の行動に対して戸惑うも引き続きコスモ・マトリックスのインストール作業を続けられた。

 

そんなアルフォート艦隊側に動きがあった。

 

「司令、アルフォート艦隊から入電です」

 

「内容は?」

 

「『銀河鉄道管理局に告ぐ、速やかに始発駅を解放せよ』‥以上です」

 

アルフォート艦隊は銀河鉄道側に降伏勧告を送って来たのだ。

 

その為に進撃速度を落としたのだろう。

 

「‥‥好都合だ。『検討する。暫時待たれたし‥‥』そう返信しておけ」

 

「了解」

 

(ビッグワン、その間に新主砲を完成させてくれ)

 

藤堂平吾郎の祈りにも似た呟きは、絶望的な状況下における銀河鉄道側にとって、唯一残された希望の光であった。

 

 

ビッグワン コンピューター車両

 

「急げ! 伝導チューブのバイパス回線を繋ぎ直せ!」

 

「了解! コスモ・マトリックス、主砲へのエネルギー伝達ラインを接続します!」

 

コンピューター車両では暁たち整備員が汗まみれになりながら、未知の技術であるコスモ・マトリックスの組み込み作業に奔走していた。

 

『状況はどうですか?』

 

バルジの声が通信機越しに響く。

 

「インストール率92%‥‥ 敵さんがおとなしく待ってくれているおかげで、何とか間に合いそうだ。外の様子はどうだ?」

 

『管理局がうまく引き伸ばしてくれています。でも、長くは‥‥』

 

「分かった。もう少しだけ待ってくれ」

 

暁は慌てず急いで慎重に作業を進める。

 

 

アルフォート星団帝国軍 侵攻艦隊 旗艦 艦橋

 

「銀河鉄道より返答。『検討する。暫時待たれたし』‥とのことです」

 

旗艦のブリッジにて、通信兵からの報告を受けたアルフォート艦隊の司令官は、冷酷な笑みを浮かべた。

 

「フン、愚かな‥大方時間稼ぎのつもりだろうが‥‥我々の圧倒的な戦力の前に、もはや小細工など無意味だというのに‥諦めの悪い連中だ」

 

「いかがいたしますか? このまま艦隊の一斉掃射で敵要塞を吹き飛ばし相手の戦意を挫きますか?」

 

「……いや、降伏の絶望を味わうための時間を少しだけ連中に与えてやる。だが、私の気が変わるか、期日を過ぎれば一斉射撃で宇宙の塵にしてくれる。全艦、主砲のチャージを維持したまま待機せよ」

 

「了解」

 

絶対的な力を持つ者の傲慢さ‥それが、アルフォート艦隊の歩みを僅かに止めていた。

 

その頃、ディスティニーの銀河鉄道運行指令室では、イワノフが人知れずに女性オペレーターの近くまで移動していた。

 

そして‥‥

 

「撃て‥‥」

 

「えっ?」

 

「アネックスをあの艦隊のど真ん中に突っ込ませろ‥旗艦を狙うんだ」

 

イワノフは女性オペレーターにコスモガンを突きつけてアネックスの移動を指示する。

 

「そ、そんな‥‥」

 

「ソレで一気に片を付けてやる」

 

しかし、女性オペレーターがアネックスを動かす気配が無いと判断すると、

 

「どけ!!」

 

女性オペレーターを殴り飛ばす。

 

「イワノフ、何を!?」

 

藤堂平吾郎が声を荒げるも彼は止まらない。

 

男性オペレーターがイワノフを取り押さえようとすると、彼はコスモガンでそれを牽制する。

 

「ハハハハハ‥‥宇宙の塵にしてくれる」

 

イワノフがキーボードを操作してアネックスを動かす。

 

彼が、『これで勝った』 と思った矢先、

 

ガチャ

 

イワノフの後頭部に金属質なモノが押し付けられる。

 

「ぬっ!?」

 

「‥‥この男を連れて行け」

 

今度は藤堂平吾郎がイワノフの頭部にコスモガンを突きつけていた。

 

ゼロ距離で、下手な動きをすれば、藤堂平吾郎はためらいもなく自分を撃つと判断したイワノフは大人しく男性オペレーターたちに身柄を拘束され、指令室から引きずり出された。

 

一方、宇宙ではイワノフが操作した事により、アネックスがアルフォート艦隊に発砲しながら動き出す。

 

「アネックスが発砲しながら艦隊に前進しています」

 

「どうなっているんだ?話が違うぞ」

 

アネックスの予想外の動きにも戸惑うシリウス小隊の隊員たち。

 

しかし、アネックスの攻撃はアルフォート艦隊にダメージを与えることが出来ない。

 

反対にアルフォート艦隊の一斉射でアネックスは大爆発を起こし、アルフォート艦隊を宇宙の塵にするどころか逆にアネックスの方が宇宙の塵になる始末であった。

 

「アネックス、ロスト‥破壊された模様」

 

「くそっ、管理局は何をやっているんだ!?」

 

折角、艦隊が停止した事で時間稼ぎが出来るかと思いきや銀河鉄道側が先制攻撃を仕掛けた事で、アルフォート艦隊は動き出す。

 

『バルジ、すまない』

 

指揮車両のモニターに藤堂平吾郎の姿が映る。

 

「司令‥‥」

 

「イワノフの野郎か‥‥」

 

藤堂平吾郎がこの状況でアネックスを動かすとは思えない。

 

そんな余計な事をやるのはあの時、指令室に居たイワノフだと思い、デイビッドは声を荒げる。

 

「艦体の状況は?」

 

「被害なし‥‥侵攻を再開しました」

 

「くっ‥‥」

 

学もこの状況に苦虫を噛んだ。

 

 

此処で少しだけ、時間を巻き戻し、視点をディスティニーに移す。

 

 

「あれ?隊長」

 

「飯食わないんですか?」

 

「ああ、俺はちょっと寄る所がある。お前たちは先に行ってたらふく食っていてくれ」

 

整備員を後にしたベガ小隊の隊員たちであったが、村瀬だけは食堂ではなく医療区画へと向かった。

 

村瀬が医療区画に辿り着く前、ジュリアが治療されている集中治療室。

 

ガラス越しにジュリア以外のスピカ小隊の隊員たちが心配そうに事の成り行きを見守っている。

 

そんな中、

 

「レインハート隊長の容体は?」

 

「ん?」

 

「えっ?」

 

「あっ‥‥月村艦長」

 

スピカ小隊の隊員たちは慌てて背筋を伸ばして敬礼の姿勢をとろうとした。

 

「敬礼は大丈夫」

 

良馬は片手を軽く挙げてそれを制すと、静かに歩み寄り、ガラスの向こう側を見る。

 

そこには、生命維持装置の微かな駆動音だけが響くベッドの上で包帯に巻かれ、血の気のない青白い顔で静かに眠っているジュリアの姿があった。

 

「それで、医務官は何と?」

 

良馬はスピカ小隊の隊員たちにジュリアの容体を訊ねる。

 

「一命は、取り留めました」

 

「損傷した内臓の修復手術も先ほど無事に終わって‥‥」

 

「ですが、バイタルは安定しているものの、いつ意識が戻るかは分からないと‥‥」

 

(なんで、三人でセリフを割るのだろう?)

 

ジュリアの容体を三人はまるで示し合わせたかのように伝える姿に良馬は疑問を覚える。

 

そこへ、もう一人の見舞い客がやって来た。

 

 

医療区画にある集中治療室まで来ると、そこにはジュリアを除くスピカ小隊の隊員たちと一人の男性の姿があった。

 

「あっ、村瀬隊長」

 

「ジュリア隊長のお見舞いに来てくれたんですか?」

 

「ああ‥ところで、ソイツは?」

 

「初めまして、以前、スピカ小隊に救助していただいた者です」

 

良馬は村瀬に一礼しつつ、自分は以前スピカ小隊に助け出してもらった救助者である事を告げる。

 

実際にこの世界に漂流し、艦の修理や銀河鉄道の関係者との仲介をとりなしてくれたのは他ならぬスピカ小隊とジュリアであった。

 

その彼女が意識不明の重体と言う事で、出撃前に良馬は心配になりこうして見舞いに来たのだ。

 

「ほう、スピカ小隊にか‥‥」

 

「ええ。彼女たちがいなければ、俺たちはあのまま宇宙の遭難者になっていました。彼女たちには大きな恩があるんです」

 

スピカ小隊もSDFである以上、自分たちベガ小隊同様、宇宙における救助任務は熟してきた。

 

なので、村瀬は良馬を何処かの宙域で救助された救助者だと思っていた。

 

何しろ今の良馬は軍服の上着、スカーフ、軍帽を脱いだ状態なので、村瀬には別宇宙の戦艦の艦長とは思わなかった。

 

村瀬は無精髭を撫でながら、ガラス越しに見える痛々しい姿のジュリアに目をやった。

 

「そうか‥だが、気にするな。それが俺たちの仕事だ」

 

村瀬は良馬の肩をポンと叩いた。

 

「そ、それで‥なんだ‥‥も、もしかしてアンタ、ジュリアに気があるのか?」

 

村瀬は若干キョドりながらジュリアの事をどう思っているのかを良馬に訊ねる。

 

「えっ?」

 

村瀬は良馬がジュリアに助けられたことで、良馬が彼女に一目惚れしたのかと思ったのだ。

 

「いえ、俺は既婚者で子供も居ますので、彼女に対して恋愛感情は持っていません」

 

「そ、そうか‥‥」

 

ジュリアに関する恋愛感情をシレッと否定する良馬に村瀬はホッとする。

 

そこへ、無情にも非常警報のサイレンが医療区画にも鳴り響く。

 

『アネックス破壊!! アルフォート艦隊、本星に向けて進撃を再開!!』

 

「‥‥どうやら、飯を食っている時間は無くなっちまったらしいな」

 

村瀬は放送内容を聞き、歴戦の戦士の顔へと変わる。

 

「出撃なさるのですか?」

 

「ああ、このままおめおめとディスティニーをあの連中に好き勝手にさせる訳にはいかないからな」

 

「‥‥」

 

コスモ・マトリックスのデータをインストールしたのはビッグワンだけで、そのビッグワンは今、宇宙に出ている。

 

村瀬の戦闘列車にはコスモ・マトリックスがインストールされていない。

 

コスモ・マトリックス無しの戦闘列車がどこまでアルフォート艦隊と戦えるだろうか?

 

しかし、此処で止めた所でこの男は絶対に止まらない。

 

良馬はそう判断すると同時に戦士である村瀬には自分の正体を話しても良いと思った。

 

彼はどう見ても特務情報部と繋がっている様には思えなかったからだ。

 

「村瀬隊長‥‥」

 

「ん?」

 

「その‥実は、自分は‥‥」

 

良馬は村瀬に自分の正体を話した。

 

「なるほど、アルフォート星団とは別の宇宙から‥‥」

 

「はい。この宇宙に漂流した時に救助の手を差し伸べてくれたのがこちらのスピカ小隊の方々でした。そして、俺の艦の修理は終わっており、戦う事なら可能‥‥この後、すぐに俺たちも出撃します」

 

良馬がこの後直ぐに自分たちも宇宙へとあがり、アルフォート艦隊を戦う旨を伝えると、

 

「馬鹿野郎」

 

村瀬は鼻で笑った。

 

「これはお前さんたちの星の揉め事じゃないんだ。今回の件は俺たち銀河鉄道の‥‥SDFの意地を見せる戦いだ。余所者が首を突っ込んで命を落とすこたぁねぇ。艦の修理が終わったのなら、さっさと自分たちの故郷に戻れ」

 

言葉はキツイがこれは村瀬なりの心遣いであった。

 

「残念ながら、俺は恩知らずのまま生きていけるほど、行儀のいい男じゃないんでね。それに、この星がやられたら、俺たちの帰る手段も無くなる‥‥此処まで来たら一蓮托生ですよ。それにこう見えて、俺を含めて艦の乗員たちは結構修羅場は潜っているんです。そう易々と死ぬつもりはありません」

 

しかし、良馬の瞳の奥に燃えるような闘志を見て、村瀬は小さく息を吐いた。

 

「ふん、好きにしろ。だが、死ぬなよ」

 

「ええ、そのつもりです。妻や子供たちも居るのでね。しかし、それは貴方にも同じ事が言えるんですよ」

 

「俺たちベガ小隊は宇宙一の猛者だせ、そう簡単に死ぬようなタマじゃねぇ。同じ戦場に行くならせいぜい遅れないように付いてきな!」

 

村瀬は踵を返し、列車とベガ小隊の隊員たちが待つ整備場へと走り出した。

 

良馬もまた、スピカ小隊の隊員たちに短く頷き、自身の戦場へと向かう。

 

『艦長、火器管制システムへのコスモ・マトリックスシステムのインストール終わりました』

 

ヒューベリオンへ向かう途中、インカムに綺羅から報告が上がる。

 

「よし、戻り次第。直ちに出撃する。藤堂司令にもその旨を伝える」

 

『了解』

 

ヒューベリオンはビッグワン同様、万全の状態となった。

 

一方、村瀬の方もアイアンベルガーの状態を整備員から伝えられた。

 

「機関出力は、70%は確保できましたが、グスタフの連結で機動性はさらに悪くなっています」

 

「分かった」

 

村瀬は整備員に右手を差し出す。

 

整備員も右手を差し出そうとするも、自分の手が油まみれになっている事に気づき、躊躇する。

 

しかし、村瀬は気にせずに整備員の手を握る。

 

「ありがとよ」

 

「‥ご武運を」

 

乗員が揃いアイアンベルガーは発進準備に入る。

 

ベガ小隊の行動は指令室にも伝えられる。

 

「司令!! ベガ小隊、アイアンベルガーが出発しました!!グスタフを二両牽引しています!」

 

オペレーターの悲鳴のような報告に藤堂平吾郎は目を見開いた。

 

「村瀬の奴‥‥満身創痍の車両で無茶を‥‥」

 

だが、藤堂平吾郎は止めるための通信を繋がなかった。

 

彼らの覚悟を‥そして銀河鉄道の誇りを誰よりも理解していたからだ。

 

さらに、

 

『藤堂司令、遅くなって申し訳ない。これより、ヒューベリオンもディスティニー防衛ラインに向け出航します』

 

良馬が藤堂平吾郎にヒューベリオンも出航する旨を伝える。

 

藤堂平吾郎は通信機越しに響く良馬の力強い声に一瞬だけ目を伏せ、そして深く頷いた。

 

「月村艦長‥‥感謝する。本来ならば、あなた方に此方の問題に巻き込むべきではないのだが、今はその厚意に甘えさせてもらう。この宇宙の危機に手を貸してくれたことを、我々は決して忘れはしない」

 

『いえ、乗り掛かった船ですよ。それに、こっちには守るべき恩人たちもいますからね』

 

「頼んだぞ。そして、必ず生きて、君たち家族や仲間が待つ宇宙へ帰還してくれ」

 

『ええ。派手に暴れさせてもらいますよ』

 

通信が切れ、藤堂平吾郎は正面のメインモニターを見据えた。

 

SDF本部からは列車砲グスタフを二両連結し、更に通常の戦闘車両を連結したアイアンベルガーが発進し、秘密ドックからはヒューベリオンが出撃した。

 

その頃、宇宙空間ではビッグワンとアルフォート艦隊の戦いが始まっていた。

 

「高熱源体多数接近」

 

「磁力シールド全開」

 

「軌道リング大破」

 

メインシステム、機関にコスモ・マトリックスシステムをインストールしていたおかげで、機動性が増している事で、ビッグワンはアルフォート艦隊からの攻撃を避けて、火器管制システムのインストール作業を続けていたのだが、問題が生じた。

 

「くそっ、第二ユニットがやられた」

 

「予備はありません」

 

「だめならバイパスを噛ませろ。此処までやったんだ。このまま無駄にしてたまるか」

 

「はい!!」

 

ユニットが破損した事でインストールが止まる。

 

交換パーツはないので、迂回路をつくり、システムをインストールさせる。

 

その間もアルフォート艦隊からのミサイルや砲撃がビッグワンを襲う。

 

「アルフォート艦隊に再び高熱源体を確認」

 

「止めを刺す気か!?」

 

そこへ、ワープでアイアンベルガーが現場に到着する。

 

『よう、加勢に来たぜ』

 

「アイアンベルガー!!」

 

「ベガ小隊か!?」

 

アイアンベルガーはビッグワンの前に乗り出し、

 

「アイアンベルガー、ヘッドオープン!!」

 

アイアンベルガーの二つ目の切り札‥‥

 

フレイムスワローと同じく先頭車両の前部にある大口径主砲を出し、グスタフも発射準備を行う。

 

「よし、派手にぶっ放せ!!」

 

アイアンベルガーの大口径主砲、戦闘車両の主砲、二両のグスタフからの砲撃がアルフォート艦隊へと向かって放たれる。

 

コスモ・マトリックスが無いとは言え、これらの高エネルギー砲を受けたアルフォート艦隊に被害が出る。

 

しかも密集隊形をとっていた事で、誘爆する艦が多数出た。

 

『村瀬、応援感謝する』

 

「気にすんなって、いつもの事よ」

 

しかし、物量でディスティニー攻略を目指すアルフォート艦隊‥‥

 

アイアンベルガーの一撃は艦隊の一部の戦力を削いだだけに過ぎなかった。

 

「くっ、思ったよりも残っていやがる‥‥グスタフ、再充填急げ!!」

 

村瀬はグスタフの第二斉射の準備をさせるが、砲弾ではなくエネルギー波を使用するグスタフとは言え、エネルギーチャージにある程度の時間がかかる。

 

アルフォート艦隊もグスタフのエネルギーチャージを待つほど、お人好しではなく、ビッグワンよりもまずはアイアンベルガーを先に沈めにかかろうとした。

 

その時、

 

「っ!?後方に余剰次元の爆縮を検知」

 

ユキがビッグワンの後方に余剰次元の爆縮現象を検知した旨を報告する。

 

「アルフォート艦隊からではなく、ビッグワンの後方から!?」

 

「間違いないのか!?」

 

「はい!!間違いありません!!」

 

ユキが断言したその直後、ビッグワンとアイアンベルガーの上方を青白い二つの閃光が宇宙空間を駆け抜けていく。

 

進行する先の空間を引き裂くかのように先端が鏃さながら尖っている。

 

宇宙空間を疾る二つの矢は小さなアステロイドと接触する。

 

するとアステロイドは一瞬の内に消滅する。

 

アステロイドに接触するも二つの光は速度を落とす事は無かった。

 

さらに行く手の空間を捻じ開けるように二本の光は螺旋状に絡み合う。

 

互いに速度を競い合っていたかのように走っていた二つの光がついに衝突すると、

 

カッ!!

 

巨大な光芒が生じるやいなや、その中から無数の光条が生じた。

 

分裂した光のエネルギーが無数の指をもつ掌さながらにアルフォート艦隊の艦艇を飲み込んでいく。

 

爆発の光すら強烈なエネルギーに呑まれていく。

 

閃光が収まるとその空間に漂っているのはアルフォート艦隊の残骸だった。

 

光の直撃を受けて蒸発してしまった艦も居る筈だ。

 

中には生き残った艦も居るが、航行可能、戦闘不能となっている艦も確認できる。

 

この一撃で戦況をひっくり返した光の正体‥‥

 

それは、ヒューベリオンが放った拡散波動砲であった。

 

 

ビッグワン 指揮車両

 

「す、すごい‥‥」

 

あれだけいたアルフォート艦隊を一撃で粉砕した拡散波動砲の威力をみて学は啞然とする。

 

「な、何が起きたんだ!?」

 

デイビッドがモニターに映し出された惨状──いや、彼らにとっては起死回生の光景を見て声を上げる。

 

「アルフォート艦隊の約半数が沈黙……信じられません、たった一撃で……!」

 

ユキも計器の数値と照らし合わせながら、震える声で報告した。

 

空間のエネルギー残滓は、これまでの銀河鉄道の兵装とは次元が違うことを示していた。

 

「こ、これが月村艦長のヒューベリオンの力か‥‥」

 

バルジが驚愕と共に画面を見据える。

 

爆発の余韻と光の帯が残る宙域から、一隻の巨大な戦艦が悠然と姿を現した。

 

銀河鉄道の車両とは根本的に異なる設計思想で作られた、威風堂々たるその艦影‥宇宙戦艦ヒューベリオン‥‥

 

『シリウス小隊、ベガ小隊、遅れてすまない』

 

通信モニターに良馬の姿が映し出された。

 

「あ、アンタ……なんて、とんでもねぇモンをぶっ放しやがる!?」

 

村瀬が呆れ半分、歓喜半分の声を上げる。

 

アイアンベルガーの素粒子砲以上の威力があったヒューベリオンの拡散波動砲。

 

初めて拡散波動砲の威力を見たシリウス小隊、ベガ小隊の隊員たちが唖然とするのも当然の反応だった。

 

それは、拡散波動砲をくらったアルフォート艦隊も同様だった。

 

味方の大半を一撃で沈められた事により、旗艦ブリッジは大混乱に陥っていた。

 

「右翼艦隊、通信途絶!!」

 

「左翼艦隊も三割が航行不能です!!」

 

「ば、バカなっ!?一撃で‥‥たった一撃でこれほどの被害を受けたと言うのか!?それをあの未知の艦がやったというのか‥‥!?」

 

アルフォート軍の司令官は怒りに顔を歪め、新たに現れたヒューベリオンを睨みつける。

 

絶対的な優位が一瞬にして崩れ去ったのだ。

 

「あのような兵器の情報は無かったぞ‥‥」

 

「い、いかがなさいますか?司令官」

 

「ええい、構わん!!陣形を再編しろ!!全艦、あの忌々しい戦艦と銀河鉄道の残存部隊を集中砲火で沈めろ!!」

 

生き残ったアルフォート艦隊が、怒り狂ったようにヒューベリオンとSDF車両へ向けて全砲門を開く。

 

 

ヒューベリオン 第一艦橋

 

「敵艦隊、陣形を再編し、尚も攻撃態勢をとりつつあり」

 

「侵略者とは言え、彼らも勇者か‥‥」

 

艦隊の大半を失いつつある中で、なおも戦意を失わず最後の一艦まで戦う姿勢のアルフォート艦隊の様子から、例え住む宇宙が異なっても、シリウス小隊やベガ小隊のようにアルフォート艦隊にも勇者が居るのだと実感する。

 

さらに希望の光は連鎖する。

 

ビッグワンのコンピューター車両から、待ちに待った報告が飛び込んできた。

 

「こちら、コンピューター車両、迂回回路の接続完了!!火器管制システムへのコスモ・マトリックス・インストール、100%!!学、ぶっ放せ!!」

 

暁の叫びに、ビッグワンのブリッジが歓喜に沸く。

 

「これより反撃に転じる! ビッグワン、敵艦へ突入!!主砲及びコスモ・マトリックスシステム起動!!」

 

『バルジ隊長、敵の旗艦は中央のあのデカブツですね? 周りの露払いは我々が引き受けます!!』

 

『派手にぶっ飛ばしてくれよ!!』

 

ヒューベリオンとアイアンベルガーが前進し、アルフォート艦隊の猛烈な砲火を強靭なエネルギーシールドで弾き返しながら、主砲や副砲による精密射撃で次々と敵の戦闘艦を沈め、中央への道を切り拓いていく。

 

「村瀬‥月村艦長‥‥恩に着る‥‥ビッグワン、全速前進!!」

 

「全速前進!!」

 

「主砲、発射用意!!」

 

「主砲、発射用意‥‥撃てぇぇぇっ!!」

 

ビッグワンの戦闘車両から放たれたエネルギー波はこれまでダメージを当たる事が出来なかったアルフォート星団帝国の宇宙戦艦の装甲を貫き、撃沈する事が出来た。

 

アイアンベルガーとグスタフから放たれた、荒れ狂うエネルギーの奔流。

 

そして、ヒューベリオンからの大口径の援護射撃とミサイル・魚雷の雷撃。

 

三つの強大な部隊から放たれた一撃は、まるで一本の巨大な光の槍となって宇宙空間を切り裂き、護衛の艦艇ごとアルフォート艦隊の旗艦へと真っ直ぐに突き進んでいった。

 

「エネルギー波、接近!!」

 

「か、回避!!」

 

「だ、ダメです!!間に合いません!!」

 

ビッグワンのコスモ・マトリックスをインストールした新主砲のエネルギー波はアルフォート艦隊の旗艦の船体を貫いた。

 

「て、帝国万歳!!」

 

指揮官は艦橋で絶叫すると同時に爆炎と衝撃が彼らを襲った。

 

 

ヒューベリオン 第一艦橋

 

「敵艦隊、全滅を確認」

 

「これで、ディスティニーを救えたんでしょうか?」

 

ディスティニー周辺にはアルフォート艦隊の残骸のみが漂うだけで、生き残っているアルフォート艦隊の艦は見当たらない。

 

状況的にはディスティニーの防衛は成功したかのように見えた。

 

「‥‥」

 

ただ、良馬だけはこの状況に違和感を覚えていた。

 

「星名」

 

「はい」

 

「周囲に輸送船団または移動要塞の類の反応はないか?」

 

「輸送船団か移動要塞ですか?分かりました。探知してみます」

 

百合亜はレーダーを最大レンジにして探索する。

 

「‥‥艦長、この宙域周辺に輸送船団や移動要塞の反応はありません」

 

しかし、ヒューベリオンのコスモレーダーに輸送船団、移動要塞の類は発見できなかった。

 

「‥通信長」

 

「はい」

 

「シリウス小隊のバルジ隊長とベガ小隊の村瀬隊長に通信を繋いでくれ」

 

「了解」

 

沙織はビッグワンとアイアンベルガーとの通信回路をひらく。

 

艦橋のメインモニターには分割でバルジと村瀬の姿が映る。

 

「バルジ隊長、村瀬隊長、何とか敵の侵攻艦隊を撃破する事は出来ましたが、俺はこれで全てが終わったとは思えません」

 

『ん?それはどういう事だ?』

 

『敵は追加で戦力を投入して来ると言う事か?』

 

「ええ、彼らは遠征をしている身で、この宇宙は彼らにとっては未知の宇宙空間‥となれば補給・兵站を整える必要があります。ましてやあれだけの大艦隊を送り込んで来たのですから、投入された人員もそれなりの人数の筈です。それらの艦隊、人員を運用するには補給は十分に整える必要がある筈です」

 

彗星帝国は白色彗星本体、暗黒星団帝国も多数の大型輸送艦、中間補給基地で占領軍の兵站を整えてきた。

 

いくら別宇宙の存在とは言え、遠征を行っているとしたら必ず兵站を整える必要がある筈だ。

 

その為、良馬は周辺の宙域に輸送船団か艦隊の補給基地となり得る移動要塞の有無を確認したのだ。

 

しかし、周囲には輸送船団、移動要塞の類は存在しない。

 

ならば、白色彗星帝国の本体がワープで太陽系に侵攻してきたようにアルフォート星団帝国軍も補給・兵站を担う第二陣を投入してくる可能性は十分にあった。

 

良馬の指摘に、モニター向こうのバルジと村瀬の顔に再び緊張が走った。

 

『なるほど、確かに月村艦長の言う通りだ。我々は目先の艦隊を叩く事ばかりに気を取られ、敵の「兵站」という大局的な視点を見落としていたかもしれない』

 

バルジが顎に手を当て、険しい表情で同意する。

 

SDFはあくまで「空間鉄道警備隊」であり、銀河鉄道の治安維持や事故・遭難の救助、宇宙海賊の取り締まりとテロ対策が主眼である。

 

今回のように『別宇宙からの国家規模の侵略戦争』という事態において、純粋な軍隊としての戦略的視点に長けているのは、数々の星間戦争を潜り抜けてきた良馬たちの方だった。

 

『チッ、つまり今片付けた連中は、ただの露払いに過ぎなかったって事かよ』

 

村瀬が忌々しそうに呟く。

 

「その可能性が高い‥ということです。最悪の場合、先ほどと同等、あるいはそれ以上の規模の艦隊が、拠点となる移動要塞や巨大母艦を伴って現れる‥‥俺の経験上、そう考えるのが自然です」

 

あれだけ対処に苦労した艦隊はあくまでも前衛艦隊であり、この後には後続部隊もしくは侵攻艦隊の本隊が来る‥‥良馬の言葉は、ヒューベリオンの艦橋のみならず、通信を傍受しているビッグワンやアイアンベルガーの乗員たちにも重くのしかかった。

 

『月村艦長の懸念、痛いほど理解できる。各車両、索敵レーダーの出力を最大に維持。コスモ・マトリックスのエネルギー充填を急げ。まだ終わっていないぞ!』

 

バルジの号令がビッグワンのブリッジに響き渡る。

 

『了解! 主砲、再充填急ぎます!』

 

学が力強く応え、計器に向き直る。

 

『こっちもグスタフのエネルギー充填を急げ!!いつでも撃てる状態にしろ!!』

 

『了解!!』

 

アイアンベルガーの方でも村瀬がグスタフの発射準備を整えるように命令を下す。

 

その時だった。

 

「艦長! 局地的な次元震を検知! こ、これは……!」

 

ヒューベリオンのレーダーを担当する百合亜が、悲鳴に近い声を上げた。

 

時を同じくして、ビッグワンのユキも異常を察知する。

 

『隊長! 前方宙域、距離三万宇宙キロに巨大な時空の歪みが発生!』

 

『なんだと!?』

 

バルジがメインモニターを睨みつける。

 

宇宙空間に、禍々しい赤黒い亀裂が走った。まるで宇宙そのものが引き裂かれるかのように、次元の裂け目が急激に拡大していく。

 

「映像、メインモニターに出します!」

 

百合亜の操作により、ヒューベリオンの第一艦橋のスクリーンにその光景が映し出された。

 

次元の裂け目の奥から姿を現したのは、先ほどの大型戦艦など比較にならないほどの超巨大な質量を持った物体だった。

 

それは見紛うほどの威容を誇る、アルフォート星団帝国の超巨戦艦であった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そしてその周囲には、先ほど全滅させた艦隊の数倍に及ぶ無数のアルフォート艦艇が巨大戦艦を守護するように密集陣形を組んでひしめいていた。

 

『なんだよ、あのデカブツは‥‥』

 

デイビッドの声が震える。

 

『奴らは、これほどの戦力をまだ隠し持っていたと言うのか‥‥』

 

バルジもまた、想定を上回る敵の絶望的な物量を前に息を呑んだ。

 

ディスティニーの運行指令室でも、藤堂平吾郎やオペレーターたちが血の気の引いた顔でモニターを見つめていた。

 

「これが‥これが、アルフォート艦隊の本隊だというのか‥‥」

 

圧倒的な絶望感が、銀河鉄道陣営を包み込もうとしていた。

 

しかし、ヒューベリオンの第一艦橋で指揮を執る良馬の瞳の光は、いささかも衰えてはいなかった。

 

「やはり来たか。どうやら向こうも、本気でこの宇宙を獲りに来ているらしい」

 

「そうみたいですね。しかし、彗星帝国との戦いに比べたら‥‥」

 

良馬と永倉は不敵な笑みすら浮かべる。

 

そして、モニターの向こうで唖然としているバルジと村瀬に声をかける。

 

「バルジ隊長、村瀬隊長。絶望している暇はありませんよ。敵の巨大戦艦が出てきた以上、あれを叩かなければ銀河鉄道にもディスティニーにも明日はありません」

 

『月村艦長‥しかし、我々の戦力で果たして‥‥』

 

バルジはアルフォート星団帝国の巨大戦艦を見て、敗北感を覚えるが、そんな彼の言葉を遮るように村瀬の野太い声が通信機から響く。

 

『ヘッ! 言うじゃねぇか別宇宙の旦那!!上等だ!!相手が星だろうが巨大戦艦だろうが、俺たちの宇宙を荒らしに来た落とし前はキッチリつけさせてやる!』

 

アイアンベルガーの指揮車両で村瀬はニヤリと笑った。

 

満身創痍の列車ではあるが、ベガ小隊の闘志は少しも削がれていない。

 

『バルジ隊長、村瀬隊長の言う通りです!!我々にはコスモ・マトリックスがあり、ヒューベリオンとアイアンベルガーがいます!!諦める理由にはなりません!!』

 

学も絶望感を振り払うように叫んだ。

 

『そうだな、我々はSDF‥銀河鉄道を守る盾だ。月村艦長、我々も続きます!』

 

バルジの声にも再び力強い決意が宿った。

 

良馬は深く頷いた。

 

「頼もしい限りだ。ヒューベリオンはこれより、敵艦隊へ向けて突撃を敢行する!!

 

良馬の号令に、ヒューベリオンのクルーが一斉に動き出す。

 

「機関、最大戦速!!波動防壁、最大展開!」

 

「全主砲、目標、前方敵艦隊!! 撃てェッ!」

 

ヒューベリオンの主砲が火を噴き、宇宙の闇を切り裂く。

 

それに呼応するように、ビッグワンの新主砲が、アイアンベルガーのグスタフが、圧倒的な物量を誇るアルフォート帝国本隊へ向けて、再び反撃の光を放ち始めた。

 

二つの宇宙の命運を賭けた真の最終決戦が、今、幕を開けたのである。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

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