星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百八十五話 戦後処理と帰還

 

 

銀河鉄道、そしてその銀河鉄道の始発駅が存在する惑星ディスティニーに降りかかった未曾有の危機‥‥

 

別の宇宙から襲来したアルフォート星団帝国軍‥‥

 

彼らは自分たちの宇宙が銀河鉄道の路線拡大に伴う空間軌道が、自分たちが住む宇宙に異常干渉を引き起こし、自分たちの宇宙の平穏のために惑星ディスティニーの破壊と銀河鉄道の壊滅を目的として襲来してきた。

 

しかし、異常干渉の原因が銀河鉄道の路線拡大による影響である事を確証する証拠はなく、あくまでもアルフォート星団帝国の国家元首の予測でしかなかった。

 

別宇宙から銀河鉄道が存在する宇宙へ遠征に来たアルフォート星団帝国軍、彼らに対抗するために戦った空間鉄道警備隊、双方に多大の犠牲を出して遠征艦隊の総司令官であるフォレシスの戦死をもって、この戦いに終止符が打たれた。

 

遠征艦隊旗艦である巨大戦艦はヒューベリオンの攻撃を受けて大破し、艦内に誘爆が広がり、退艦命令で出ていた。

 

「それじゃあ、トゥリル‥また会いましょうね」

 

「ああ‥‥」

 

ルイはトゥリルと別れ、フォレシスとの戦いで傷ついた同僚である学を支えながらビッグワンの着陸地点を目指す。

 

とは言え、ルイ自身もアルフォート星人の攻撃を受けて傷ついており、学も四肢に傷を負っているので、力が出ないのか歩みが遅い。

 

天井からは瓦礫が振り、通路も彼方此方崩れ始める。

 

そして、学の足元も崩れた。

 

「有紀‥君‥‥」

 

ルイは落ちそうになる学の手を掴む。

 

「行ってくれ‥ルイ」

 

「嫌よ」

 

「このままじゃあ、君まで‥‥君だけでも生きろ!!」

 

「嫌!!絶対に嫌!!」

 

「ルイ!!」

 

「貴方の居ない未来ならいらない!!」

 

「ありがとう‥‥」

 

ルイの告白に学は嬉しそうに微笑むが、このままではルイの命も危険だと判断した学は掴んでいるルイの手を離す。

 

学が奈落へ落下しそうになった時、

 

ガシッ!!

 

第三者の手が学の手をしっかりと掴む。

 

「賭けは俺の勝ちだな」

 

学の手を掴んだのはデイビッドであった。

 

「行こうぜ、皆で‥‥」

 

「「了解」」

 

デイビッドはそのまま学を引き上げて、背中に背負うとビッグワンの着陸地点を目指す。

 

ビッグワンの着陸地点では、ユキ、バルジを始めとするシリウス小隊の皆が待っていた。

 

そして、学たちを乗せたビッグワンは爆発する巨大戦艦から脱出する。

 

 

ヒューベリオン 第一艦橋

 

「超大型戦艦よりビッグワンの脱出を確認!!」

 

「航空隊も全機収容完了!!」

 

「超大型戦艦、爆沈を確認しました!!」

 

「アイアンベルガーに牽引ビームを発射、曳航し現宙域を離脱する」

 

「了解」

 

ビッグワンは何とか自走可能であったが、元々アイアンベルガーは元々無理をして此処まで来て戦っていた。

 

村瀬も帰りはビッグワンに牽引してもらうつもりで此処まで来て戦っていたので、ビッグワンではないが、ヒューベリオンに牽引してもらいディスティニーへの帰還行動に入る。

 

その際、連結してあった列車砲は切り離した。

 

「ビッグワンもアイアンベルガーもボロボロだな」

 

良馬はディスティニーに向かうビッグワンとアイアンベルガーを見てポツリと呟く。

 

「それは本艦も同じですよ」

 

「折角、修理してもらったのだが、またドックの整備員の人たちには迷惑をかけるな‥‥」

 

「今回は流石に特務情報部とらやも動いては来ないでしょうから、堂々として居られますね」

 

「そうだな‥‥」

 

「空間軌道の異常干渉波、急速に減衰していきます。アルフォート星団帝国軍の残存艦隊も撤退を開始した模様です」

 

百合亜の報告に艦橋に居た全員が小さく安堵の息を吐く。

 

「終わったんだな‥‥」

 

良馬の呟きは誰に宛てたものでもなく、静寂の広がる宇宙へと溶けていった。

 

 

ビッグワン 医療車両

 

「手当ては終わりました。ですが、二人とも、しばらくは絶対安静ですよ」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

巨大戦艦から脱出し、ビッグワンへと戻った学とルイはビッグワンの医療車両にて応急手当を受ける。

 

ユキの言葉にベッドに横たわる学とその隣で右腕に包帯を巻かれたルイは小さく頷いた。

 

四肢の傷の痛みは酷かったが、それ以上に生き残ったという実感が学の胸を満たしていた。

 

「学」

 

医療車両に入ってきたバルジを見て、学は痛む身体を無理に起こそうとする。

 

「いいから、そのまま寝ていろ」

 

バルジは静かに歩み寄り、学とルイの顔を交互に見て、ふっと表情を和らげた。

 

「よく生きて戻ってきてくれた。空間鉄道警備隊として、お前たちの行動を誇りに思う」

 

「デイビッドのおかげです。彼が来てくれなかったら、俺たちは‥‥」

 

あの時、デイビッドが間に合わなかったら自分は今、この場には居なかったと思うと彼には感謝してもしきれない。

 

学がデイビッドに礼を言いかけると、ドアの横で壁に寄りかかっていたデイビッドが、照れ隠しのように鼻で笑った。

 

「おいおい、俺の活躍はもっと大声で言ってくれて構わないぜ?まっ、今回は特別サービスだ。落ちる寸前のお前たちの熱いやり取りを特等席で聞かされた分のツケは、ディスティニーの食堂でたっぷり払ってもらうからな」

 

「あ、あれはっ‥‥!」

 

ルイが顔を真っ赤にして反論しようとするが、デイビッドのからかいの言葉に張り詰めていた医務室の空気が一気に緩み、穏やかな笑い声が響いた。

 

「フフ‥‥」

 

ユキも優しく微笑みながら、学たちを見つめている。

 

笑いが収まった後、学は真剣な表情で隣のベッドのルイを見た。

 

「さっきは‥‥その‥ありがとう。君の手、すごく力強かったし‥‥暖かかった」

 

ルイは一瞬目を丸くしたが、すぐに優しく微笑み返し、学の無事な方の手にそっと自分の手を重ねた。

 

「あ、当たり前じゃない!!それに言ったでしょう、貴方の居ない未来なんていらないって‥‥」

 

「ああ、ありがとう」

 

その言葉に、学は少し照れくさそうに、けれど力強く頷いた。

 

 

ビッグワン 指揮車両

 

バルジたちが指揮車両に戻ると、メインスクリーンにはヒューベリオン、そしてヒューベリオンに牽引されているアイアンベルガーの姿が映し出されていた。

 

「隊長。ヒューベリオンとアイアンベルガーから通信です」

 

「うむ、繋いでくれ」

 

「了解」

 

ユキの報告を受け、通信回路を開くとスクリーンに村瀬と良馬の顔が分割して映し出される。

 

『バルジ、そっちの様子はどうだ?』

 

村瀬が厳しい表情のまま問いかける。

 

「満身創痍だが、全員の無事を確認した。村瀬、援護感謝する」

 

『気にするな、銀河鉄道とディスティニーの危機に細かい事は言いっこなしだぜ』

 

バルジは次に、もう一つの画面の良馬に向かって敬礼した。

 

「月村艦長、ヒューベリオンの多大なる支援に心より感謝する。貴艦の助けがなければ、我々はディスティニーに帰還できなかっただろう」

 

『礼には及びません、バルジ隊長。我々も、銀河鉄道が守るこの宇宙の平穏を願う気持ちは同じですから』

 

良馬は穏やかに笑い返した。

 

『それに、これだけの激戦を生き抜いた貴方がたを此処へ置き去りにするわけにはいきませんよ。ディスティニーまで、我々がしっかりとエスコートさせていただきます』

 

「感謝します」

 

バルジは通信を切ると、前方のメインスクリーンいっぱいに広がる星の海を見つめた。

 

別宇宙の軍勢との激突‥‥

 

互いに多くの犠牲を払った悲しい戦いだった‥‥

 

アルフォート星団帝国との間には、決して消えることのない爪痕が残っただろう。

 

しかし、今はただ傷ついた仲間たちと共に母なる星へ帰ろう‥‥銀河の命を運ぶ鉄路の灯を絶やさないために‥‥

 

「ビッグワン、これより惑星ディスティニーへ帰還する」

 

「了解」

 

バルジの力強い命令が、傷だらけの艦内に静かに、そして確かな希望を持って響き渡った。

 

デイビッドがビッグワンをディスティニーへと向けて走らせる。

 

満身創痍の一隻と二両が、激戦を終えてついに惑星ディスティニーへと戻って来た。

 

銀河鉄道の運行指令室では、息を呑んでモニターを見つめていた運行司令の藤堂平吾郎を始めとしてオペレーターたちの間に歓声が沸き上がった。

 

「空間軌道上にビッグワン、ヒューベリオン、アイアンベルガーの無事を確認!!」

 

その報告に張り詰めていた司令室の空気が一気に解け、藤堂平吾郎も深く安堵の息を吐きながらモニターに映るボロボロの車両とヒューベリオンの姿を見つめた。

 

「よくぞ‥‥よくぞ生きて帰ってきてくれた。ただちに医療班と整備班を操車場と第一ドックへ急行させろ!彼らは我が銀河鉄道の誇りだ、最高の態勢で迎え入れろ!!」

 

『了解!!』

 

ドックにゆっくりと接舷していくヒューベリオン。

 

そして、ビッグワンとアイアンベルガーは普段使い慣れた操車場へと戻る。

 

操車場には待機していた無数の医療スタッフとストレッチャーが雪崩れ込んでくる。

 

デイビッドが学に肩を貸して操車場のホームへと降りる。

 

「医療班の皆さん、うちの無茶ばかりする若手を頼むぜ」

 

ストレッチャーに乗せられそうになる学だったが、彼は一度立ち止まり、隣を歩くルイの方へと顔を向けた。

 

「ルイ、自分で歩けそうか?」

 

「当たり前じゃない。これくらいの怪我、有紀君に比べたら何ともないわよ」

 

強がるルイだったが、その顔には隠しきれない疲労が滲んでいた。

 

しかし、学を見つめる瞳はどこか嬉しそうで、二人は言葉を交わさずとも互いの無事を確かめ合うように小さく微笑んだ。

 

アイアンベルガーが停車した操車場のホームでも村瀬がアイアンベルガーから降りると、

 

「お帰り、村瀬」

 

スピカ小隊の隊長であるジュリアが村瀬を出迎えた。

 

「ジュリア‥‥目が覚めたのか‥‥?」

 

出撃した際、意識不明の重体であったジュリアが今は目が覚めて自分の眼前に居る。

 

「無茶ばかりする貴方が居るとおちおち寝ても居られないわよ」

 

ジュリアはフッと笑みを浮かべつつ村瀬に皮肉を言う。

 

「すなまい」

 

「そう思うなら、今後は無茶をしないでよね」

 

「ああ、善処する‥だが、アイアンベルガーには少し無理をさせすぎたな」

 

村瀬は照れ隠しのようにジュリアから視線を逸らし、自身の背後に停まる満身創痍の装甲列車を見上げた。

 

その強固な装甲は至る所が焼け焦げ、激戦の過酷さを物語っている。

 

「ええ、本当にボロボロね。でも‥‥よく帰ってきてくれたわ。おかえりなさい、村瀬」

 

「ああ‥ただいま‥ジュリア」

 

いつもの憎まれ口の応酬の中にも、互いの無事を心から喜ぶ温かな空気が流れていた。

 

「「「‥‥」」」

 

なお、ベガ小隊の隊員たちは空気を読んで二人の邪魔をしない様にサッとホームに降りて去るのであった。

 

 

数日後‥‥

 

 

銀河鉄道本部内にある医療区画のとある病室‥‥

 

その病室にて、学はベッドから上半身を起こして広大な窓の外を見下ろしていた。

 

「有紀君、起きていて大丈夫なの?」

 

病室のドアが開き、右腕の包帯が取れたルイが果物の籠を持って入ってきた。

 

「ああ、もう痛みはほとんどないよ。それよりルイの方は?腕はもういいのか?」

 

「ええ、傷跡は少し残るかもしれないけど、運動機能には全く問題ないって。明日には退院の許可が出るわ」

 

ルイは学のベッドの隣に椅子を引き、静かに腰を下ろした。

 

二人の間に、穏やかで優しい沈黙が流れる。

 

学は再び窓の外、果てしなく広がる星の海へと視線を向けた。

 

アルフォート星団帝国との悲しい激突‥‥

 

銀河鉄道を守るために命を懸けて守り抜いた仲間たち‥‥

 

「‥‥悲しい戦いだったな」

 

「えっ?」

 

学がポツリと呟く。

 

「お互いの宇宙を守るためとはいえ、彼らもまた、必死だったんだ。でも、俺たちは生き残った。多くの犠牲の上に繋がれた命だ」

 

「そうね‥‥」

 

「だから、俺はこれからも走り続ける。銀河鉄道が繋ぐ、すべての命と未来を守るために‥‥」

 

学の力強い言葉にルイは嬉しそうに目を細め、学の左手にそっと自分の両手を重ねた。

 

あの崩れゆく戦艦の中で、彼を絶対に離すまいと強く握りしめた時のように‥‥

 

「私も一緒よ、有紀君。貴方がどこへ向かおうと、私がずっと隣で支えるから‥‥だって、言ったでしょ?」

 

ルイは少し顔を赤らめながら、しかし真っ直ぐに学の瞳を見つめた。

 

「貴方の居ない未来なんて、いらないって」

 

「ルイ‥‥」

 

学は重なったルイの手を優しく握り返し、照れくさそうに、けれど世界で一番幸せそうな笑顔を向けた。

 

「ああ。これからもずっと、よろしくな、ルイ!!」

 

傷ついた銀河鉄道の軌道は、やがて新たな光を帯びて再び星々を繋いでいくだろう。

 

彼らが守り抜いたその鉄路には、これからも無限の未来が待っている。

 

出発の汽笛が鳴るその日まで、今はただ、戦士たちに束の間の安息が必要だった。

 

シリウス小隊、ベガ小隊と共にアルフォート星団帝国軍と戦ったヒューベリオンは再びディスティニーのドック入りとなり、地球へ戻るにはもう少し先になりそうだった。

 

尤も地球のある宇宙への帰還方法もこれから銀河鉄道管理局と検討しなければならない。

 

その最中、良馬は再び銀河鉄道管理局総司令のレイラと会談の機会を設けていた。

 

銀河鉄道の心臓部とも言える静謐な空間‥‥銀河鉄道総司令官室‥‥

 

星々の瞬きを映し出す巨大なステンドグラスを背に銀河鉄道総司令レイラ・ディスティニー・シュラは静かに微笑んでいた。

 

その視線の先には、戦艦ヒューベリオンの艦長である良馬の姿があった。

 

「月村艦長。この度のアルフォート星団帝国との戦い‥‥貴方とヒューベリオンの多大なる支援に銀河鉄道を代表して心より感謝申し上げます。貴方がたの助けがなければ、ディスティニーは今頃、次元の狭間に消えていたかもしれません」

 

レイラの深く、包み込むような声が謁見室に響く。

 

良馬は姿勢を正し、静かに首を振った。

 

「感謝の言葉は不要です、レイラ総司令。我々もまた、この宇宙の平穏を願う者の一人‥暴走する別宇宙の力によって、罪なき星々が蹂躙されるのを黙って見過ごすわけにはいきませんでした。ただ、一つ気になる事がありまして‥‥」

 

「なんでしょう?」

 

「彼らがこの宇宙へ侵攻した理由‥‥彼らは銀河鉄道の路線拡張による行為がアルフォートの宇宙に異常現象を引き起こしたため‥‥と言っておりました。我々は実際にアルフォートの宇宙へは行った事がないので、その点については何とも言えませんが、これが事実なのか?それとも誤解なのか?今後、その事態をはっきりとする必要があると思います」

 

良馬の鋭くも本質を突いた問いかけに対し、レイラは微かに目を伏せ、悲痛な色を滲ませた。

 

「月村艦長のおっしゃる通りです。アルフォート星団帝国の国家元首が抱いた疑念‥そして彼らがこの宇宙に侵攻するに至った『空間軌道による異常干渉』という問題‥我々銀河鉄道は、これを単なる『敵の誤解』として切り捨てることはできません」

 

レイラはゆっくりと顔を上げ、その神秘的な双眸で良馬を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「銀河鉄道は命と命、星と未来を結ぶためのもの‥‥もし、私たちの‥銀河鉄道の路線拡張行為が、次元の壁を越えて他者の宇宙の平穏を脅かし、結果として彼らの故郷に多大な迷惑をかけていたのだとすれば‥‥私たちもまた、彼らにとって侵略者であったという事になります」

 

「レイラ総司令‥‥」

 

「現在、管理局の技術部門および空間探査局を総動員し、アルフォート星団帝国が残した次元干渉波のデータと我々の軌道ネットワークのログを照合・解析させています。もし我々のシステムに欠陥があり、別宇宙へ負荷をかけていたという事実が判明したならば、直ちに全路線の空間シールド構造を見直し、二度と同じ悲劇を生まないための抜本的な改修を行う覚悟です」

 

レイラの毅然とした、しかしどこか自戒を込めた言葉に良馬は静かに頷いた。

 

「そのお言葉を聞いて安心しました。己の正義を盲信せず、他者の痛みと向き合おうとする‥‥だからこそ、銀河鉄道は多くの星々から信頼されているのですね。その姿勢には我々地球も見習わなければなりません」

 

銀河交叉でガルマン・ガミラス、ボラー連邦の領内は滅茶苦茶で治安も悪化している。

 

そんな状況だからこそ、いがみ合っている場合ではないのだが、長年積もり積もった恨みはそう簡単には消えない。

 

ガルマン・ガミラスと地球の同盟が稀なケースなのだが、地球人全員がかつてのガミラスの所業を許した訳ではないし、旧ガミラス出身者の中にはヤマトや地球に身内を殺された者も居るだろう。

 

そう言う点を踏まえて銀河鉄道は様々な惑星を交通網として運行している。

 

それはディスティニーと各惑星国家との信頼関係があるからこそ、成せる業なのだろう。

 

良馬は少しだけ表情を和らげ、懐から一つの小型データ端末を取り出し、レイラへと進み出た。

 

「ヒューベリオンのメインコンピューターにも交戦中に観測したアルフォート軍の兵器から発せられる特殊な次元波長や巨大戦艦の空間跳躍に関する詳細なデータが記録されています。今後の技術解析に役立ててください」

 

そう言ってレイラに端末を手渡す。

 

「月村艦長‥よろしいのですか? これは貴方がたにとっても極秘の戦術データが含まれているはずでは?」

 

「構いません。銀河鉄道が抱える問題の真実を明らかにし、これ以上の無益な争いを防げるのであれば、これくらい安いものです」

 

良馬の迷いのない言葉にレイラは胸の前で両手を組み、深く頭を下げた。

 

「そして、その次元波長の解析が進めば、貴方がたが元の宇宙へ帰還するための『次元航法』の確立にも繋がるはずです。我々銀河鉄道は、貴方がたを必ず故郷へと送り届けます。それが我々を救ってくださったヒューベリオンに対する、せめてもの恩返しですから」

 

「ええ、期待して待たせてもらいます。我々の故郷である地球でも、帰りを待っている者たちがいますからね」

 

良馬は穏やかに微笑み返し、一礼をして総司令官室を後にした。

 

一人残されたレイラは、再び背後の巨大なステンドグラスへと振り返り、果てしなく広がる星々の海を見つめた。

 

「‥‥命を運ぶ路線‥‥それは時に重く、過酷な十字架を背負う事になる‥‥それでも人は、走り続けなければならないのですね‥‥」

 

レイラの呟きは、誰に宛てたものでもなく、静寂の部屋に溶けていった。

 

別宇宙からの脅威は去り、惑星ディスティニーは再び平穏を取り戻しつつある。

 

しかし、本当の意味での解決はこれからなのだ。

 

傷ついた車両が修復され、隊員たちの傷が癒え、真実が解き明かされた時に、銀河鉄道はまた一つ大きな進化を遂げるだろう。

 

数多の星を繋ぎ、人々の想いを運ぶために‥‥

 

どこまでも続く無限の軌道の先へ‥‥

 

誇り高き汽笛を響かせながら、彼らの旅は、これからも続いていくのだ‥‥

 

 

銀河鉄道が新たに再起を果たそうとしている中、銀河鉄道管理官本部内にある委員会室では、ある男の査問委員会が行われていた。

 

「イワノフ管理官‥君は運行指令室にて勝手にアネックスを操作し、銀河鉄道‥そして、ディスティニーの命運を左右する大事な戦いに無用な横やりを入れた‥‥これは間違いないかね?」

 

そう、アルフォート艦隊との戦いで恐慌に走り、アネックスを強引に作動させた特務情報部管理官のイワノフであった。

 

ほんの数日前は、シリウス小隊隊長のバルジをこの査問委員会にかける側の人間だったイワノフが今度は査問委員会を受ける側の人間になっていた。

 

結果的にアネックスは無人だったので、人的被害は無くアルフォート星団帝国をこの宇宙から退けたとは言え、一歩間違えれば彼の独断専行でディスティニーは滅んでいたのかもしれないのだから、戦後、有耶無耶にするのではなく、ちゃんと責任問題を追及しようと言うのだ。

 

委員会室の重苦しい空気の中、室内の中央に設置されている証言台に立たされたイワノフは、忌々しげに舌打ちをした。

 

周囲を取り囲む査問委員たちの厳しい視線を浴びながらも、彼の態度は未だ傲慢さを失っていなかった。

 

「『間違いないか』、と問われれば肯定するしかありませんな。ですが!!」

 

イワノフは周囲を見渡し、委員会長を鋭く睨みつけた。

 

「あの状況下で、空間鉄道警備隊の戦力だけではアルフォート艦隊を防ぎきれなかったのは明白!!私は銀河鉄道の‥ディスティニーの存亡を懸けた最も合理的かつ確実な手段としてアネックスを起動させたまでです!!そして最終的に我々は生き残った!!これは私の判断が正しかったという何よりの証拠ではありませんか!?」

 

己の正当性を声高に主張するイワノフ。

 

しかし、委員長はそんな彼の姿を冷ややかな目で見下ろした。

 

「それは君の言う通り結果論に過ぎんが、問題はそこではないのだよ、イワノフ管理官」

 

「なっ!?それは、どういう事です!?」

 

「アネックスの攻撃はアルフォート艦隊にはまったく役に立たず、結局アネックスは破壊された。しかし、あの時、ビッグワンの車内では火器管制システムへコスモ・マトリックスのインストール作業中だった。君の行為は時間を稼ぐ目的であった筈のビッグワンの行為に水を差したのだ」

 

「更に言うと、アルフォート星団帝国側が通告してきた降伏勧告への返答により時間を稼いでいた。だが、君が勝手にアネックスを動かした事でその時間稼ぎも全て水の泡となり、予定よりも早く戦端が開かれてしまったのだぞ」

 

「しかも、君は運行指令室でそれを直に見聞きしていた筈ではないか」

 

委員長やとある委員たちの言葉に他の委員たちも深く頷く。

 

「我々銀河鉄道の使命は『命を運ぶ』ことだ。味方の命を駒として扱い、星そのものを危機に晒すような独断専行は、特務情報部の権限を大きく逸脱していると言わざるを得ない」

 

「ふざけるな!!綺麗事で宇宙が守れるものか!!そもそもこの銀河鉄道を影から守って来たのは我々特務情報部なのだぞ!!そして、私はその特務情報部の管理官だ!!この査問委員会こそが、無駄な行為であると何故分からん!?私を査問にかけるなど、銀河鉄道の未来を潰そうとしているのと同じ行為だと言う事が貴様らには理解できんのか!?」

 

激昂し、証言台から身を乗り出しながら叫ぶイワノフ。

 

ガチャ‥‥キィィィ‥‥

 

その時、委員会室の奥の扉が静かに開き、レイラが姿を現した。

 

彼女の姿を認めた瞬間、室内の空気が一変し、イワノフも息を呑んで動きを止める。

 

「れ、レイラ総司令‥‥」

 

流石のイワノフもレイラの姿を見て萎縮してしまう。

 

彼の額からは冷や汗が滲み、流れ出す。

 

委員長を含め、委員たちも全員が頭を下げている。

 

レイラは静かな足取りで進み出ると、イワノフへと哀悼にも似た視線を向けた。

 

「イワノフ管理官。貴方の行動原理が、貴方なりの『ディスティニーと銀河鉄道を守るための正義』であったことは理解しています。しかし、他者の痛みを顧みず、力のみで全てを制しようとするそのやり方は、今回我々が向き合うべきであった『別宇宙との軋轢』と同じ過ちを生むものです」

 

「そ、総司令‥‥わ、私は‥‥」

 

「決定を下します」

 

イワノフの言葉を無視するかのようにレイラの凛とした声が室内に響き渡る。

 

「イワノフ管理官。貴方を特務情報部管理官の任から解任すると同時に銀河鉄道管理局からの永久追放を命じます。また、アネックスの不正操作に関する特別背任の疑いで、直ちに保安部へ身柄を引き渡すものとします」

 

「そ、そんな馬鹿な!?わ、私はディスティニーの‥‥銀河鉄道のために‥‥総司令!!は、離せ!!私がいなければ、この宇宙は‥‥銀河鉄道は‥‥!!」

 

イワノフは室内に待機していた保安隊員たちに両腕を拘束され、委員会室から引きずり出されていく。

 

バタン!!

 

彼の見苦しい叫び声は、やがて重い扉の向こうへと消えていった。

 

静寂を取り戻した室内で、レイラは静かに目を伏せた。

 

「「「‥‥」」」

 

査問委員会のメンバーはレイラにしては珍しく厳しい即決の判決にただ黙っていたのだが、彼女の言動に思わず身震いをする者も居た。

 

これで内部の膿は出た。

 

しかし、これはあくまでも氷山の一角に過ぎないのかもしれない。

 

それでも真の意味での銀河鉄道が生まれ変わるための戦いがこれから始まるのだ。

 

 

イワノフの査問委員会から数日が経過し、惑星ディスティニーは徐々に本来の平穏と活気を取り戻しつつあった。

 

ドックにて修復作業を続けていた戦艦ヒューベリオンも銀河鉄道の優秀な整備班の尽力によって、別宇宙への帰還に向けた次元跳躍エンジンの最終調整段階に入っていた。

 

ヒューベリオンが地球への帰還のために出航する日は間近に迫っていた。

 

そんな中、銀河鉄道管理局の深枢である総司令官室にて、良馬とレイラによる最後の会談が行われていた。

 

巨大なステンドグラスから差し込む星の光が、向かい合う二人の横顔を静かに照らし出している。

 

「月村艦長、ヒューベリオンの修復と次元跳躍への改修作業、無事に目処が立ったようですね。先程、整備部から報告を受けました」

 

「ええ。銀河鉄道の皆さんの献身的なサポートには、地球を代表して何度お礼を言っても足りません。アルフォート星団帝国が残した次元干渉波のデータ解析も完了し、我々の宇宙へ帰還するための座標も無事に定まりました」

 

良馬は深く頷き、静かで力強い眼差しでレイラを見つめ返した。

 

「ですが、今日ここへ参ったのは、単なる別れの挨拶のためではありません。レイラ総司令‥‥現状まだ仮であり正式なモノではありませんが、自分は惑星ディスティニーと地球との間に友好同盟を結びたいと思っております」

 

「ディスティニーと地球との同盟?」

 

良馬の言葉に、レイラはわずかに目を見張った。

 

「はい。我々の銀河系は銀河交叉と言う大規模な宇宙災害の影響により未だ混乱の最中にあります。しかし、だからこそ地球は新たな視野を持たねばならない。次元を超え、己の正義だけでなく他者の痛みを分かち合い、共に手を取り合える友を必要としているのです。一時的とは言え、共に命を懸けて戦ったディスティニーとならば、真の信頼関係を築けると自分は確信しています」

 

良馬の言葉にレイラは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

 

「‥‥本来、銀河鉄道はいかなる星間国家の争いに対しても中立を是とする組織です。しかし、ディスティニーという一つの星として、そして命を運ぶ鉄路を守る者として、貴方たち地球との絆は既にかけがえのないものとなっています」

 

レイラはゆっくりと立ち上がり、良馬へと歩み寄った。

 

「月村艦長。ディスティニーを代表し、地球がディスティニーとの同盟を結びたいと言うのであれば、喜んでお受けいたします。そして、私からも、この新たな絆の証として、一つ提案があるのです」

 

「提案‥ですか?」

 

「はい。貴方たちの故郷である地球へ、銀河鉄道の新たな路線を開通させたいのです」

 

レイラのその言葉に良馬は驚きを隠せなかった。

 

「地球へ‥‥銀河鉄道の路線を? しかし、アルフォートの件でも分かったように、別宇宙への路線拡張は未知の危険を伴うはずでは?」

 

「ええ、かつての私ならば躊躇したでしょう。ですが、貴方から提供されたヒューベリオンの次元波長データと、今回の空間解析の技術があれば、他者の宇宙に干渉波を生み出さない、全く新しい『次元安定軌道』の敷設が可能です」

 

レイラはステンドグラス越しの星空を見上げ、両手を胸の前でそっと組んだ。

 

「月村艦長がおっしゃる通り、貴方たちの宇宙は今、争いと混乱の中にあるのでしょう。だからこそ、銀河鉄道の光を届けたいのです。兵器ではなく、人と人、心と心を繋ぐための鉄路を……地球とディスティニーを繋ぐその路線が、貴方たちの宇宙にとって平和への架け橋となることを願って‥‥」

 

良馬は息を呑む。

 

(やはり、この人は人知を超えた存在だ‥‥)

 

レイラの言動に対して改めて彼女の存在に驚愕すると言うか、計り知れないモノを覚える。

 

軍人としてガミラスを始めとする地球を狙う侵略者と戦って来た彼にとって、レイラの提案は何よりも希望に満ちた提案だった。

 

「恐れ入りました。争いを止めるのは武力ではなく、互いを知り、繋がろうとする意志‥‥まさしく、銀河鉄道の理念そのものですね」

 

良馬も立ち上がり、姿勢を正してレイラに向き直った。

 

「地球は、その路線の開通を心待ちにしています。我々の宇宙に銀河鉄道の汽笛が鳴り響くその日、それはきっと、新たな時代の幕開けとなるでしょう。地球に戻り次第、政府へと掛け合い、ディスティニーとの同盟‥そして銀河鉄道の開通へとこぎ着けてみせます」

 

良馬が静かに右手を差し出すと、レイラもまた、その手をしっかりと握り返した。

 

「ええ。次元の壁を越え、無限の星の海でまたお会いしましょう、月村艦長」

 

「必ず。地球への一番列車の到着を最高の出迎えで待たせてもらいますよ、レイラ総司令」

 

固く結ばれたその手は、次元を越えた二つの宇宙を繋ぐ確かな希望の形だった。

 

その後、レイラからの親書と一部の車両のデータを貰った良馬は総司令官室を後にした。

 

良馬が総司令官室を出ると、そこにはバルジ、ユキ、学、ルイ、デイビッドのシリウス小隊のメンバーにジュリア、シェリー、マギー、愛のスピカ小隊のメンバー、そしてベガ小隊の隊長である村瀬の姿があった。

 

皆、ヒューベリオンの修理が終わり、良馬がディスティニーから去ろうとしている事を察して別れの挨拶に来てくれたのだ。

 

良馬は予期せぬ出迎えに少し驚いたように目を見張ったが、すぐに優しく、そして誇らしげな笑みを浮かべた。

 

「皆さん‥もしかしてわざわざ見送りに来てくれたのですか?」

 

バルジが一歩前に進み出ると、シリウス小隊を代表して良馬の前に立ち、真っ直ぐにその目を見据えた。

 

「共に死線を潜り抜けた戦友だ。見送りもなしで帰すわけにはいかないだろう。月村艦長、ヒューベリオンの多大なる支援、改めて感謝する。貴方たちがいてくれなければ、我々はディスティニーへ帰還することはできなかった」

 

バルジが右手を差し出すと良馬は力強くその手を握り返した。

 

「感謝するのはこちらの方だ、バルジ隊長。あなたたちの命を懸けた戦いぶりが、我々に道を示してくれた。銀河鉄道の‥空間鉄道警備隊の誇り、この目ではっきりと見せてもらったよ」

 

その様子を見ていた村瀬が、腕を組みながらふっと口角を上げる。

 

「生憎と、アイアンベルガーはまだドック入りでな。俺たちはお見送りだけで派手な祝砲は撃てないが、この借りは、いつか地球の美味い酒で返してもらうぜ、月村」

 

「ああ、約束しよう。再び会えた時には、とびきり上等な酒を用意するよ、村瀬隊長」

 

「ちょっと、村瀬! 自分だけ抜け駆けして地球のお酒を飲もうなんてズルいわよ!」

 

ジュリアが腰に手を当てて村瀬を小突くと、スピカ小隊の面々からもクスクスと笑い声が漏れた。

 

ジュリアは良馬に向き直り、ウインクを飛ばす。

 

「もしディスティニーと地球との間に直通路線ができたら、一番列車の護衛は私たちスピカ小隊が引き受けてあげる。地球の殿方たちにも、私たちの美しさを見せつけてあげなきゃね」

 

「それは心強い。地球の男たちも、きっと君たちの魅力の虜になるだろう」

 

良馬が苦笑しながら答えると、今度は学が一歩前へ出た。その隣には、彼に寄り添うようにルイが立っている。

 

「月村艦長!!本当に、ありがとうございました。貴方たちがいなければ、俺たちは‥‥俺は、大切なものを守り抜くことはできませんでした」

 

学の言葉には、戦いを経て成長した若き隊員としての確かな決意と、隣にいるルイへの深い想いが込められていた。良馬は少し目を細め、学の肩にポンと手を置いた。

 

「有紀君。君たちの決して諦めない心が、奇跡を呼び込んだんだ。これからも、その熱い想いで銀河鉄道を‥‥そして、大切な人を守り抜いてくれ‥それと彼女を泣かせるんじゃないぞ?」

 

「えっ!? あっ、はい! もちろんです!」

 

「月村さん!!もう、からかわないでください!!」

 

顔を真っ赤にして慌てる学と、照れ隠しに俯くルイを見て、周囲に温かな笑いが巻き起こる。

 

「まっ、地球行きの一番列車の護衛は、俺たちシリウス小隊がかっさらいますけどね。地球の美味いメシとネエチャンたちにも、よろしく言っといてくださいよ!」

 

デイビッドが両手を頭の後ろで組みながら軽口を叩く。

 

「フフ、デイビッドさんったら‥月村艦長、長旅になりますが、どうか道中お気をつけて。地球の皆様にも、よろしくお伝えください」

 

「ありがとうございます。ユキさん。君たちの献身的なサポートに、我が乗組員たちも深く感謝していた」

 

良馬は皆の顔を見渡し、姿勢を正した。

 

そして、彼ら空間鉄道警備隊の隊員たちに対して、地球防衛軍の流儀で、最高級の敬礼を捧げた。

 

「皆さんもどうかお達者で‥我々の宇宙へ、銀河鉄道の汽笛が鳴り響くその日を心待ちにしています!!」

 

「「「御武運を!!」」」

 

バルジの号令に合わせ、三つの小隊の隊員たちが一斉に敬礼を返す。

 

それは誇り高き戦士たちとの次元の壁を越えて結ばれた、確かな絆の証だった。

 

数時間後‥‥

 

修復と次元跳躍用の改修を終えた戦艦ヒューベリオンは、ディスティニーのドックからゆっくりと抜錨した。

 

蒼く輝く推進剤の光が宇宙空間に尾を引き、巨大な艦体が星の海へと滑り出していく。

 

「これよりヒューベリオンは、我らが故郷、地球へと帰還する!」

 

良馬の力強い号令と共に、ヒューベリオンの艦首に眩い次元波長の光が収束していく。

 

別宇宙との境界を切り裂き、彼らは光の奔流となって宇宙の彼方へと消えていった。

 

それを見送るように、ディスティニーの操車場からは、どこかへ向けて出発する列車の力強い汽笛が鳴り響いていた。

 

命を運び、想いを繋ぐ。

 

決して途切れることのないその鉄路は、これからも無限の宇宙を走り続ける。

 

地球という、新たな終着駅を目指して――

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

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