星の海へ   作:ステルス兄貴

296 / 300
今作のなのはたちはテレビ版の世界線で劇場版の『Reflection』『Detonation』の内容を体験していません。

なので、エルトリアの存在を知りません。

またエルトリアも劇場版のような滅亡の危機に瀕した惑星でもありません。


二百八十七話 侵略への道と同盟への道

 

 

果てしなく広がる宇宙の海、そして幾重にも連なる次元の壁。

 

本来ならば決して交わるはずのなかった別々の宇宙で、今、歴史の歯車が大きく動き出そうとしていた。

 

次元断層に飲み込まれ、消息を絶っていた戦艦ヒューベリオンが奇跡の帰還を果たした。

 

ガルマン・ガミラス本星外縁部で彼らを迎えたのは、歴戦の宇宙戦艦ヤマト。

 

ヒューベリオン艦長の月村良馬が古代進と真田志郎にもたらしたのは、常識を覆す別宇宙「惑星ディスティニー」での体験談だった。

 

そこには、星々の海に光の軌跡を敷いて走る「銀河鉄道」が存在し、彼らは空間鉄道警備隊(SDF)と共に、アルフォート星団帝国軍という未知の脅威と死闘を繰り広げていた。

 

良馬の報告はただの生還報告ではない。

 

彼が手にしたのは、惑星ディスティニーからの同盟の打診、そして地球への「銀河鉄道路線の開通」という途方もない未来への切符だった。

 

一見すると、おとぎ話のような蒸気機関車型の宇宙船の姿に、古代は平和へのロマンを見出し、真田は未知の物理法則と技術体系に驚嘆する。

 

ヤマトからの極秘通信を受けた地球防衛軍司令部では、高官たちがその非現実的な報告に狼狽する中、藤堂平九郎長官だけが静かに、しかし力強く決断を下す。

 

ヤマトが信じる絆と未来を重んじ、地球は次元を超えた新たなる隣人を迎え入れる準備――未曾有の「宇宙鉄道」開通に向けた第一歩を踏み出したのである。

 

一方、それらとは全く異なる別の宇宙。時空管理局に所属する次元航行艦イゾルデの艦内では、けたたましい警報とともに、極限のサバイバル訓練が繰り広げられていた。

 

新たに艦長に就任したフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、艦内にアンチ・マジック・フィールド(AMF)を展開。

 

魔法という絶対的な力をあえて封じ込め、非殺傷仕様の電流槍を用いた苛烈な白兵戦ドクトリンを敷いていた。

 

戦術長兼副長のチンク・ナカジマ率いる精鋭部隊との泥臭くも洗練された近接格闘戦を通し、フェイトは新米魔導師たちに「魔力が尽きた時、最後に頼れるのは鍛え抜かれた己の肉体と戦術のみ」という戦場の真理を自らの身体で叩き込んでいく。

 

過去の次元漂流の経験から「未知の環境での生存戦略」を極めようとするフェイトの生真面目すぎる姿勢は、イゾルデを管理局随一の武闘派艦艇へと変貌させつつあった。

 

通信越しにその惨状(?)を目の当たりにした八神はやては、スマートなエリート魔導師たちがスパルタ海兵隊のように染まっていく現実に戦慄し、シグナムのようなバトルジャンキーにこの波が伝播しないことを密かに祈るしかなかった。

 

ロマンと科学の力で未知なる世界へのレールを繋ごうとする地球連邦。

 

次元の海を生き抜くため、あえて魔法を捨てて物理的な戦闘ドクトリンを研ぎ澄ます管理局の艦艇。

 

全く異なるベクトルで未来を見据える二つの世界は、やがて来るであろう次元を超えた邂逅を予感させるように、それぞれの星の海に新たな波紋を広げていくのだった。

 

時空管理局の次元航行艦イゾルデが、武闘派艦艇としての過酷なドクトリンを日常とし始めた頃‥‥

 

宇宙‥次元の海は平穏ばかりではない。

 

時として宇宙は旅人に過酷な運命をもたらす事がある‥‥

 

「艦長、前方の空間で、空間位相の崩壊を確認!未知の次元震です! 規模は……計測不能!!」

 

管制室に響き渡るオペレーターの悲痛な叫びと共に、次元の海を航行していたイゾルデの艦体は、見えざる巨人の手に掴まれたかのように激しく揺さぶられた。

 

「総員、対衝撃防御!ミッドチルダに緊急伝!!」

 

「機関出力低下、艦体防御シールドへの魔力供給ライン断絶!!」

 

報告が次々と飛び交う中、イゾルデのメインモニターが次々とブラックアウトしていく。

 

次元断層の突発的な異常発生――それは、次元航行艦にとって最も恐るべき自然の脅威だった。

 

次元震に飲み込まれた事で魔力駆動システムがショートを起こし、艦内に火花が散る。

 

だが、パニックは起きなかった。

 

フェイトが常日頃から課していた「AMF下での完全手動・物理的対処」の訓練が、この極限状態において見事に機能したのだ。

 

魔力に頼らず、局員たちは己の肉体と連携で物理的なバルブ操作や隔壁の封鎖を迅速に行い、艦の致命的な崩壊を食い止めていた。

 

「メインシステム、完全沈黙。予備電源のみ稼働中……。艦長、イゾルデは次元の海流に流されています。現在位置……特定不能。本局との超空間通信も完全にロストしました。我々は完全に遭難しました」

 

非常灯の赤い光が明滅する艦橋で、フェイトは指揮官席の手すりを強く握り締めながら、冷徹に状況を分析していた。

 

この艦には、かつて幾多の死線を共に潜り抜けた高町なのはも、八神はやても乗っていない。今、全乗員の命運を握っているのは、艦長である自分と、副長のチンクだけなのだ。

 

「負傷者の確認の有無と艦内の損害状況を確認」

 

「了解!!」

 

「ミッドチルダへの通信は!?」

 

「ダメです、応答有りません!!」

 

「引き続き通信を送って‥あと救難信号も」

 

「は、はい」

 

絶望的な状況下であっても、フェイトとチンクの瞳に諦めの色は一切ない。

 

しかし、現実としてイゾルデは自力航行能力を喪失し、ミッドチルダとの連絡も絶たれたまま、未知の宙域を漂流する鉄の箱と化していた。

 

その時だった‥‥

 

「艦長、通信機に受信反応があります!!」

 

「スピーカーに繋いで!!」

 

「了解!!」

 

通信士がスピーカーに繋ぐとスピーカーからは、

 

『――ザーッ未確認艦に告ぐ。こちらは惑星国家エルトリア所属、警備艦F-01。貴艦の遭難信号を受信した。状況を求む』

 

ノイズ混じりの通信機から、突如として凛とした声が響き渡った。

 

時空管理局の共通言語に近いが、独特の訛りと、未知の暗号化プロトコルを持った通信が入る。

 

「エルトリア……? チンク、管理局のデータベースに該当する管理世界はある?」

 

「……いえ、艦長。イゾルデに搭載されている未踏査宙域の記録も含め、該当する惑星国家の名前は存在しません。完全な未知の勢力です」

 

チンクがコンソールを素早く叩きながら、緊張に満ちた声で答える。

 

「管理局やもう一つの地球やディンギル帝国以外にもまだ宇宙艦船をもつ世界があったんだ‥‥」

 

「艦長、それでどうしますか?」

 

通信士が返信をするのに困っている様子だ。

 

未知の星間国家からのファースト・コンタクトとなるが、これが彗星帝国のような凶暴な星間国家の場合、罠と言う可能性もある。

 

しかし、現状ミッドチルダと連絡がつかず、艦は走行不能‥‥

 

機関も復旧の見込み無し‥‥

 

このままではいずれ遭難し全滅してしまう。

 

ならば、此処はエルトリアとやらに賭けてみるしかない。

 

生き残るためにも‥‥

 

「本艦の現状を返信して」

 

「りょ、了解‥‥」

 

通信士はエルトリアの艦に返信をする。

 

メインモニターの視界が部分的に回復すると同時に、イゾルデのクルーたちは息を呑んだ。

 

次元の海を割って現れたのは、時空管理局の艦艇とも全く異なる艦影の艦であるが、フェイトが以前見たもう一つ地球や彗星帝国、暗黒星団帝国、そしてディンギル帝国とも異なる‥‥これまでフェイトが邂逅してきた星間国家ともデータにもない艦影の宇宙艦船がモニターには映し出される。

 

『曳航トラクタービームを照射する。我が国の本星、エルトリアの軌道上ドックにて修理と補給を提供しよう。武装を解除し、誘導に従われたし』

 

『エルトリアの厚意に感謝し、誘導に従います。こちらは時空管理局所属、次元航行艦イゾルデ。艦長のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。救助に深く感謝いたします』

 

通信を終え、フェイトが小さく息を吐くと同時に、イゾルデの艦体に柔らかな、しかし抗いようのない強大なエネルギーの波動がまとわりついた。

 

エルトリア艦から放たれた曳航トラクタービームだ。

 

「……信じられない。これほど不純物のない、純化された魔力と重力制御の結合波なんて、本局の救難専用艦でも出力できないはずなのに……」

 

コンソールに表示されるエネルギー波形を凝視していた通信士が、戦慄を隠せない様子で呟く。

 

戦術長兼副長のチンクは、義眼のレンズを鋭く明滅させながら画面を見据えていた。

 

「周囲の警戒は怠るな。敵対の意志は見られないが、これほどの技術を持つ連中だ。一瞬で我々の息の根を止めることも容易い」

 

「ええ。でも、今は彼らの善意を信じましょう」

 

フェイトは静かに、しかし毅然とした声で応じた。

 

メインモニターのノイズが完全に払拭され、イゾルデを先導するエルトリア警備艦『F-01』の全容が映し出される。

 

それは、管理局の白を基調とした洗練されたシルエットとも、かつて交戦したディンギル帝国の刺々しい装甲とも異なる船だった。

 

そして、その背後に横たわる惑星の姿が露わになった瞬間、艦橋の全員が息を呑んだ。

 

「これが……惑星国家、エルトリア……」

 

フェイトの唇から、こぼれ落ちるように言葉が漏れた。

 

眼前には、息を呑むほどに鮮やかなエメラルドグリーンの大地と、深く澄み渡ったコバルトブルーの海が広がっていた。

 

だが、それ以上に彼女たちの目を釘付けにしたのは、惑星を幾重にも取り巻く巨大な人工の輪――軌道リングだった。

 

そのリングは単なる建造物ではなく、まるで神経細胞のように微細な光のラインが幾千、幾万と走り、星全体に張り巡らされた巨大なエネルギー網の一部として機能していることが一目で分かった。

 

リングの随所にある宇宙港からは、無数の交易船が星屑のように尾を引いて離発着を繰り返している。

 

「ズームします……」

 

オペレーターが震える手で地表の映像を拡大する。

 

モニターに映し出されたのは、鬱蒼とした巨樹の森や広大な大自然とクリスタルのように透き通る高層ビル群が完璧な調和を保って共存する未来都市だった。

 

街の合間を走る光の軌跡は、おそらく重力制御された空中回廊だろう。

 

「信じられません……大気中の魔力純度が、ミッドチルダの全盛期、いやそれ以上です。しかも、それが高度な科学技術のプラントと完全に同調し、環境を汚染するどころか活性化させている。科学と魔導の融合……これほどの次元で両者を成立させている世界が、未管理世界に存在していたなんて……」

 

オペレーターの報告を聞きながら、フェイトは胸の奥を激しく揺さぶられていた。

 

彼女がこれまで歩んできた星の海は、常に血と硝煙、そして飢えた獣のような侵略者たちのエゴに満ちていた。彗星帝国、暗黒星団帝国、そしてあの冷酷なディンギル帝国‥…力を持てば誰もが他者を支配しようとし、奪い合う‥‥それが宇宙の真理だと、心のどこかで諦めかけていた。

 

しかし、目の前にあるエルトリアという星は、圧倒的な「強さ」を誇りながらも、その力ですべてを威圧するような禍々しさが微塵もなかった。

 

ただただ、静かで、寛容で、美しい理想郷がそこにあった。

 

「次元の海の中に、こんな世界があったんだ……」

 

フェイトの言葉に、チンクが静かに歩み寄る。

 

「艦長……これは、単なる遭難事件では済まなくなりましたね。我々はとんでもないパンドラの箱を叩いてしまったのかもしれない」

 

「ええ……でも、まずは生き残れたことを感謝しましょう。全員、気を引き締めて。私たちは今、時空管理局の顔としてこの星の人々と接することになるわ」

 

イゾルデはエルトリアの誘導に従い、軌道リングに設置された『第十二魔導造船ドック』へと滑り込んだ。

 

入港と同時に、フェイトたちの驚愕はさらに深まることとなる。

 

ドック内に展開されたのは、物質を分子レベルで再構成するような、未知の修復光線だった。

 

イゾルデの引き裂かれた装甲、焼き切れた魔力回路の伝導経路が、まるで生き物の傷口が塞がるように、凄まじい速度と精緻さで編み直されていく。

 

本来ならば次元航行艦専用の本格的な工廠で数ヶ月はかかるはずの重修復が、ここではまるで日常の定期メンテナンスのように淡々と、かつ芸術的な手際で進められていくのだ。

 

フェイトが艦内の指揮と修復状況の確認に追われる中、エルトリア政府の代表団とのファースト・コンタクトが行われた。

 

本来なら艦長であるフェイトが出向くべきであったが、予備電源しか機能していない艦の現状を鑑み、エルトリア側は「艦の安全を最優先にされたし」と、極めて合理的な配慮を示した。

 

そのため、フェイトの名代として副長のチンクが代表団との面会に赴いた。

 

 

数時間後‥イゾルデ艦長室。

 

ドアが開く音とともに戻ってきたチンクの顔を見て、フェイトは机の上の端末から顔を上げた。

 

チンクの表情には、いつもの冷静なサイボーグとしての仮面の奥に、隠しきれない畏怖と興奮の光が混じり合っていた。

 

「ご苦労様、チンク……それで、彼らは一体、どのような国家だった?」

 

フェイトの問いかけに、チンクは手にしたタブレットのデータを空間にホログラムとして展開しながら、一呼吸置いて答えた。

 

「はい、艦長。信じ難い報告になります。エルトリアは、私たちが知る『管理世界』の概念を根底から覆す存在です。彼らは単にこの星だけで完結している独立国家ではありません。彼らはその独自の高度な魔導科学文明を背景に、我々時空管理局がその存在すら認知していない『数々の星間国家』や異次元の世界と、独自の宇宙貿易を行っている……完全なる『永世中立星間国家』です」

 

「永世中立……星間国家……」

 

フェイトはその言葉を噛み締めるように呟き、艦長室の丸窓から外を見やった。

 

ドックの外、果てしなく広がる星の海には、見たこともない形状の、しかし洗練された交易船が絶え間なく行き交っている。

 

そのどれもが、自衛のための最小限の武装しか備えていないように見える。

 

だが、船体を包む防御フィールドや推進機関の放つ輝きは、管理局の最新鋭巡洋艦を遥かに凌駕する出力を示していた。

 

「彼らは、我々が何処から来たのか、どのような組織に属しているのかについて、必要以上の追究をしてきませんでした。ただ、『星の海で遭難した旅人を見過ごす理由は我が国にはない』と……それだけで、この破格の修理と物資の補給を、すべて無償で提供してくれたのです。チンクが管理局の所属であることを告げても、彼らはただ穏やかに微笑むだけでした」

 

「……なんて広大で、寛容な世界なの」

 

フェイトの胸に、熱い感情が込み上げてきた。

 

幼い頃から戦いに身を投じ、管理局の局員となってからも、血生臭い紛争や次元犯罪、そしてディンギル帝国との苛烈な戦争の最前線で傷つき、擦り切れてきた彼女にとって、エルトリアの人々の無条件の善意は、凍てついた心を溶かす本物の救いの光のように思えた。

 

(科学と魔法が互いを否定せず、手を取り合えば、これほどまでに優しく、豊かな世界を作ることができるんだ。真田さんたちが地球で作ろうとしている『誰も傷つけない列車』の理想が、ここにはもう、形として存在している……)

 

だが、その感動が深ければ深いほど、フェイトの胸の奥底には、まるで鋭い氷の針が突き刺さるような、冷たい不安と恐怖が急速に広がり始めていた。

 

「艦長……?」

 

チンクが、フェイトの顔色の変化に気づき、怪訝そうに声をかける。

 

「……チンク。やはり私たちは、この世界を‥‥エルトリアの人々を見てはいけないものだったのかもしれない」

 

フェイトの声は微かに震えていた。

 

彼女の脳裏に浮かんだのは、美しく輝くエルトリアの街並みではなく、ミッドチルダにある、薄暗く、焦燥感に満ちた時空管理局仮庁舎の会議室の光景だった。

 

 

数日後‥‥

 

エルトリアの驚異的な技術によって、傷一つない新造艦さながらの姿を取り戻したイゾルデは、ドックを離れ、ミッドチルダへの帰還の途に就いた。

 

次元の海を滑るように進む巡航速度は、遭難前よりも明らかに向上している。エルトリアの技術者が、イゾルデの機関の不調な同調ラインまで完璧に調整してくれた証拠だった。

 

だが、静まり返った艦長室の中で、フェイトはただ一人、暗転したディスプレイの前で拳を握り締め、血が滲むほどに唇を噛み締めていた。

 

(このエルトリアの存在を……今の管理局に報告していいのだろうか……? いいえ、絶対にダメ。報告してしまえば、あの星は……)

 

画面に表示されているのは、作成途中の『遭難および生還報告書』のファイルだ。

 

現在の時空管理局、特に次元の海を統括する航行部隊は、完全に疲弊し、追い詰められていた。

 

突如として現れた戦闘国家『ディンギル帝国』との戦い‥‥地球の戦艦まほろばの介入によって最悪の破滅こそ免れたものの、失われた膨大な兵力、破壊された拠点、そして何より「いつまた強力な外敵に襲われるか分からない」という上層部の恐怖と焦燥は、限界に達している。

 

そんな飢えた狼のような状態の管理局に、「ミッドチルダを遥かに凌駕する魔導科学を持ち、豊富な資源を抱えながら、軍事的には無警戒な中立国」のデータを差し出せば、どうなるか?‥‥結果は火を見るより明らかだった。

 

(『全次元の管理と平和の維持、そして失われた戦力の早期回復』という大義名分を掲げて、上層部は間違いなくエルトリアの技術と資源を強制的に管理という名の接収しようとする。エルトリア側がそれを拒めば『潜在的脅威』として武力行使すら辞さないかもしれない。あの優しく、私たちを救ってくれた人たちを、私たちの都合のいい戦火に巻き込んでしまう……!)

 

「ただの次元震による漂流……自力でのシステム復旧による帰還として、処理できなか。エルトリアの座標も、データも、すべて私の権限で消去すれば……」

 

フェイトの独白に、ドアの横に立っていたチンクが静かに、しかし断腸の思いを込めて首を振った。

 

「……それは無理ですよ、艦長。気持ちは痛いほど分かりますが」

 

「チンク……」

 

「イゾルデの装甲を見てください。断線したはずの魔力回路の接合部、出力が跳ね上がった主機関……どれ一つとっても、我が国の技術体系には存在しない未知のナノ素子やエネルギー結晶が使われています。本局の技術局が一度でも簡易スキャンを行えば、一目で『管理局以外の超高度文明との接触』が露見します」

 

艦にダメージが無く、エルトリアでの修理の痕跡が無ければ、次元震による影響で航海機器の記録装置に不具合が起きた‥‥と報告すればエルトリアの痕跡を隠すことが出来るのだが、艦を修理した事で物的証拠が残り過ぎている。

 

「それに、次元震発生から生還までの航跡ログを改竄することは、艦長と言えど完全な反逆罪です。もし隠蔽が発覚すれば、艦長だけでなく、イゾルデの乗員全員が査問会議にかけられ、記憶を強制捜索されるでしょう。そうなれば、隠そうとしたエルトリアの座標は、より最悪な形で上層部の知るところになります」

 

すべてを隠し通すことは不可能なのだ。

 

現実という名の冷徹な壁が、フェイトの前に立ちはだかる。

 

もし自分がここで嘘をつき、それが破綻すれば、イゾルデの部下たちを「反逆者の共犯」として地獄に突き落とすことになる。

 

だが、本当のことを言えば、恩人を侵略の手にかける片棒を担ぐことになる。

 

「……分かっている。分かっているわ、チンク」

 

彼女は震える指をキーボードへと伸ばし、激しい自己嫌悪と罪悪感に押し潰されそうになりながら、決定キーを叩いた。

 

『極秘報告データ・送信完了』

 

無機質なシステム音声が、艦長室に虚しく響く。

 

それは、フェイトにとって、救ってくれた理想郷の胸に、自らの手で非情な刃を突き立てるような、あまりにも残酷な「裏切りの切符」の提出だった。

 

 

――ミッドチルダ・時空管理局仮庁舎・会議室。

 

暗く沈んだ空間の中、フェイトから送られてきたエルトリアの詳細なデータが巨大なホログラムモニターに投影されていた。

 

それを見つめる管理局の将官たちの目には、疲労の陰りを食い破るような、異様な熱が帯びていた。

 

「これだ……この技術があれば、忌まわしきディンギル帝国から受けた傷を直ぐに回復する事が出来る!」

 

「我等管理局よりも優れた魔導科学の融合炉……まさに我々が求めていた理想の兵器体系ではないか!?」

 

「しかし、相手は『永世中立星間国家』を謳っているとのことですが?」

 

一人の幕僚の言葉を、上座に座る提督が冷酷な声で叩き斬る。

 

「次元の海の守護者たる我々がディンギル帝国などと言う野蛮人共のせいで疲弊しておるのだ。そんな中で、中立などという甘えは許されん!」

 

会議室の空気が、一種の「暴走した正義感」によって染め上げられていく。

 

「時空管理局の掲げる全次元の平和のために、その力を使ってもらう。これはエルトリアの技術を銀河規模の防衛に役立てるための『大義』だ。直ちにエルトリアに向けて交渉……いや、彼らが拒絶した場合に備え、大規模な遠征艦隊を編成しろ!」

 

「遠征の目的はいかがなさいますか?」

 

「目的は、惑星国家エルトリアの『保護』および新たな管理世界への編入だ!!」

 

次元の海の平和の維持を目的として設立されたはずの時空管理局は、生存への恐怖と「市民を守らねばならない」という切実な正義感。それが裏返り、時空管理局は自らが忌み嫌っていたはずの侵略者へとその姿を変貌させようとしていた。

 

いや、彼らにとって自分たちの行為が侵略だと言う認識はなかった。

 

これはあくまでもエルトリアを時空管理局が保護すると言う名目なのだ。

 

二つの異なる宇宙。

 

二つの異なる星間国家。

 

彼らは今、全く相反する運命の岐路に立っていた。

 

 

一方の宇宙では、緊急の用件で戦艦ヤマトとヒューベリオンが全速で地球への帰路についていた。

 

彼らが持ち帰るのは、未知の宇宙を駆ける『銀河鉄道』という希望。

 

地球連邦政府は、別宇宙の惑星ディスティニーと手を取り合い、互いの平和と発展のために未知のレールを敷き、新たなる隣人を「対等な友」として出迎える準備を進めている。

 

だが、もう一つの宇宙では、泥沼の戦争に疲弊した時空管理局が、自らの正義と生存を盾にして、救いの手を差し伸べてくれた平和な星を「武力」によって支配し、その全てを奪い取ろうと艦隊の矛先を向けていた。

 

対話と絆による、未来への『開拓』か?

 

それとも武力と強要による、絶望への『侵略』か?

 

フェイトを乗せたイゾルデがミッドチルダへと帰還するその航跡は、やがて全宇宙を巻き込む壮大な歴史の皮肉と避けられない激突へのカウントダウンを刻み始めていた。

 

時空管理局がエルトリアに対して保護・管理と言う名の支配を行おうとする中、別宇宙‥ディスティニーからの希望の切符を手にした戦艦ヒューベリオンとその護衛として地球に同行したヤマトは母港である地球へ辿り着いた。

 

ドックに到着すると既に地球連邦政府からの出迎えが待っていた。

 

良馬はレイラから預かった親書と報告用に纏めたデータなどを携え、古代と真田はヒューベリオンが別宇宙へ行ったとされる証明の裏付けを説明するために同行した。

 

地球へ帰還早々なのだが、彼らは休む間もなく、連邦政府会議所の議場へと向かった。

 

これから語られる報告は、地球人類の歴史――いや、宇宙の歴史そのものを覆す重大なものだったからだ。

 

重厚な扉が閉ざされた地球連邦政府会議所。

 

その会議所の議席を埋め尽くす高官たちの視線が、中央の演壇に立つ月村良馬へと注がれていた。

 

「――以上が、我がヒューベリオンが次元断層(ワームホール)に飲み込まれた後の航跡ログの全てです。我々が辿り着いた先は、全く異なる歴史を歩む別宇宙……惑星ディスティニーでした」

 

静まり返る議場に、良馬の凛とした声が響く。

 

「我々はその宇宙で、星々の海を渡る宇宙交通網、『銀河鉄道』と、その安全を守る空間鉄道警備隊(SDF)と遭遇しました。彼らは、所属も素性も知れぬ我々に対し、無償で救助の手を差し伸べ、損傷したヒューベリオンの修理に全面協力してくれたのです。……しかし、その修復の最中、彼らの平和な宇宙に『アルフォート星団帝国軍』という強大な脅威が襲来しました」

 

政府高官たちの間に、どよめきが走る。

 

未知の宇宙での未知の敵‥しかし良馬の瞳は、誇り高く前を見据えていた。

 

「恩義ある人々が理不尽な暴力に晒されているのを黙って見過ごすことは地球連邦軍人の誇りが許しませんでした。我々ヒューベリオンはSDFと共闘し、激戦の末にアルフォート星団帝国軍の侵攻艦隊を退けました」

 

「すると、君は勝手に地球とは何の関係もない星間国家との戦端を開いたというのかね?」

 

「地球防衛軍の軍人として将来、アルフォート星団帝国軍との戦争になりかねない切っ掛けを造ったという自覚はあるのか?君の取った行動は地球を‥連邦市民を危険にさらす行為なのだぞ?」

 

と、アルフォート星団帝国軍と戦った良馬に対して批判的な言葉を投げかける者も居た。

 

「その危険性は十分に承知しておりました。しかし、その時のヒューベリオンはディスティニー星のドックに居り、ディスティニー星を出航した所で、アルフォート星団帝国軍と接敵するのは確実でした。私はヒューベリオンの艦長として、艦と乗員たちを守る自艦防衛手段として交戦しました。それが問題行動であるというのなら、私はその責任をとる所存であります」

 

良馬の軍人として責任を取ろうとする凛とした態度に常に裏金やらの何かしらの問題から説明責任から逃れ続けている政府高官たちは黙り込む。

 

「報告を続けます。アルフォート星団帝国軍との戦いの後、帰還に向けての艦の整備の最中、私は銀河鉄道総司令のレイラ氏と地球との同盟を提案しました」

 

(そうだ……あの時のレイラ総司令の微笑み、そして温かい言葉は、武力ではなく対話で宇宙が繋がれるという何よりの証だ)

 

良馬は心の中でディスティニーでの出来事を噛み締めながら、傍らに置かれたアタッシュケースを開いた。

 

「レイラ氏は私の提案を快く快諾してくださりました。そして、この地球とディスティニーを繋ぐ『銀河鉄道路線』の開通という、驚くべき逆提案をいただいたのです。こちらがレイラ氏から預かった同盟への親書、そして……宇宙を駆ける列車の設計図と次元軌道敷設の基礎データです!」

 

ホログラムプロジェクターが起動し、議場の空中に、美しくも力強い「蒸気機関車型の宇宙船」の設計図が浮かび上がる。

 

あまりに非現実的なそのシルエットに、高官たちがざわめき始めた。

 

「宇宙空間を走る列車だと?バカな!?おとぎ話ではないのだぞ!?」

 

「次元を超えて線路を敷くなど、今の我々の技術でも不可能だ。夢物語にも程がある」

 

「そもそも、別宇宙の国家と同盟を結ぶなど危険すぎる! ディスティニー側の連中が、その『銀河鉄道』とやらを使って地球へ軍事侵攻してくる可能性はどうなるのだ!」

 

「そうだ! 君はアルフォート星団帝国と交戦したと言ったな。ならば、その未知の帝国軍が、鉄道のレールを辿って地球へ攻め込んで来たらどう責任を取るつもりだ! 異星の病原体が持ち込まれるリスクすらあるのだぞ!」

 

先程のアルフォート星団帝国軍との戦闘同様、銀河鉄道の存在についても否定的な声が上がり始めた。

 

未知なるものへの恐怖と防衛上の懸念から、激しい反対の怒号が飛び交う。地球がこれまで多くの星間国家から侵略を受けてきた歴史を考えれば、彼らの疑念は当然の反応であった。

 

だが、良馬は一歩も引かず、議席を見据えて声を張り上げた。

 

「確かにリスクはあります。しかし、未知を恐れて自ら扉を閉ざし孤立することこそが、最大の危険ではないでしょうか!?アルフォート星団帝国は次元断層を利用して移動する勢力であり、鉄道のレールに依存するような軍隊ではありません。そして何より、ディスティニーの人々は、素性も知れない我々を無償で救い、対話の手を差し伸べてくれたのです!」

 

続いて、良馬の背後に控えていた真田が一歩前へ歩み出た。

 

「その点については私がご説明いたします」

 

ヤマトの頭脳であり、地球最高の科学技術者である彼の登場に議場の空気がピタリと静まる。

 

「ヤマト技術長の真田です。月村艦長の報告を、科学的見地から裏付けさせていただきます」

 

真田はタブレットを操作し、列車の設計図の隣に、複雑な数式とエネルギー波形のグラフを投影した。

 

「一見して、外見は前時代的な遺物に見えるでしょう。しかし、彼らの技術体系は我々の波動エンジンとは全く別のアプローチで、究極の進化を遂げています。この列車は、単に宇宙を飛んでいるのではありません。宇宙空間に局所的な重力場とエネルギーのシールドを展開し、自ら『目に見えないレール』を生成しながら進んでいるのです」

 

真田の言葉には、未知の科学への純粋な敬意と、確固たる自信が満ちていた。

 

「我々ヤマトは、ヒューベリオンの航跡を逆探知する際、彼らが提供してくれた空間軌道技術のデータと波動エネルギーをリンクさせました。結果は完璧でした。彼らの科学は、空間を破壊して進むのではなく、空間と『調和』して道を作る技術です。この設計図通りに我々が地球側のターミナルを建設すれば、次元の壁を越え、ディスティニーとの間に銀河鉄道を走らせることは……科学的に100パーセント可能です」

 

(真田さん……)

 

古代は、熱を帯びた真田の横顔を見つめながら、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じていた。

 

ヤマトはこれまで、ガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国、ボラー連邦と星の海で血を流す戦いを強いられてきた。

 

波動砲という強大な武力を使わざるを得ない現実に、何度も心を痛めてきた。

 

だが今、目の前にあるのは「破壊するための力」ではない‥星と星を、人と人を繋ぐための「架け橋の技術」なのだ。

 

真田は議席をぐるりと見渡し、普段の彼からは想像もつかないほど力強い声で締めくくった。

 

「政府高官の皆様。我々はかつて、イスカンダルという未知の星からの好意に救われました。今度は我々が、次元を超えた隣人と手を取り合う番です。技術者として、いや、一人の地球人として、私はこのディスティニーとの同盟締結、および地球への銀河鉄道開通計画の推進を強く推奨します!」

 

議場は深い静寂に包まれた。

 

疑念の目を向けていた高官たちも、真田の科学者としての説得力と、月村艦長が持ち帰った「ロマンと希望」の重みを前に、反論の言葉を失っていた。

 

議席の最前列で目を閉じて聴き入っていた藤堂長官が、ゆっくりと立ち上がる。

 

「武力による威圧ではなく、対話と技術の調和によって次元を繋ぐ……人類は今日、新たなる進化の扉の前に立ったのだな」

 

藤堂は良馬と真田、そして古代を見つめ、深く頷いた。

 

「では、地球と惑星ディスティニーとの同盟締結及び地球への銀河鉄道の開通についての採決を行う」

 

これまでの経緯と説明を聞き、議長が今回の議題についての採決を行う言葉を出し、議員たちは賛成か反対かの採決に入る。

 

良馬、古代、真田はドキドキしながら採決の結果を待った。

 

此処で否決されればディスティニーとの同盟締結、銀河鉄道の開通は水泡の泡となる。

 

「採決の結果‥‥賛成多数で地球連邦政府はこれより、惑星ディスティニーとの同盟を正式に発効する! 同時に、地球への銀河鉄道路線開通プロジェクトを最重要国家任務として承認する……月村艦長、古代艦長、真田技術長。君たちは地球に、かつてない素晴らしい夜明けを持ち帰ってくれた!ありがとう‥…」

 

議場を包み込む、割れんばかりの万雷の拍手。

 

光のレールが、今まさに地球の空に向かって敷かれようとしていた。

 

「ディスティニーへ同盟と銀河鉄道の開通を知らせるためにディスティニーへ使者をたてる必要があるな‥‥」

 

良馬は再びディスティニーへ向かう必要性を呟いた。

 

 

 

地球連邦政府会議所での歴史的な決定から数日後‥‥

 

防衛軍司令長官室には、藤堂平九郎、月村良馬、古代進、そして真田志郎の姿があった。

 

長官室の机の上に広げられた「地球製・宇宙列車」の初期ホログラムを青く照らしている。

 

「――惑星ディスティニーへ我が地球連邦の正式な受託の意志を伝える。これは単なる外交ではない。次元の壁を越えた、人類史上初の『星間同盟』の幕開けだ」

 

藤堂長官は一同を見渡し、厳かに言葉を続けた。

 

「ついては、ディスティニーへ連邦政府より使節団を派遣することが決定した」

 

「では、本格的にディスティニーとの同盟と銀河鉄道の開通交渉が始動する訳ですね?」

 

「うむ」

 

「それで、ディスティニーへはどうやって向かうのですか?」

 

「やはり、ヒューベリオンでむかうのでしょうか?」

 

「いや、通常の宇宙艦船で向かうのでは芸がない。レイラ氏から贈られた設計図を元に、我が地球の技術で最初の『宇宙列車』を建造し、それに使節団を乗せて送り出す。これこそが、彼らの技術への最大の敬意であり、我々が対等なパートナーであるという証明になるはずだ」

 

「地球産の宇宙列車……!」

 

「銀河鉄道開通の第一歩と言う訳ですね」

 

古代と良馬が目を輝かせる。

 

その言葉に、真田は静かに、しかしその胸の内で誰も見たことがないほどの熱い炎を燃やしながら一歩前に出た。

 

「長官。その宇宙列車の建造、ぜひ私に、技術局の総責任者として任せていただきたい」

 

真田の言葉には、いつも以上の強い意志が込められていた。

 

藤堂は頼もしそうに微笑み、深く頷いた。

 

「頼むぞ、真田。地球の未来のレールは、君の双肩にかかっている」

 

「はい。お任せください」

 

それから直ぐに惑星ディスティニーに向かう為、地球産の宇宙列車の建造が開始された。

 

海上フロートにも宇宙列車を飛ばすためのカタパルトレールの設置作業が行われた。

 

まだ仮の段階であるが、ディスティニーから正式に銀河鉄道の開通に伴う技術が入れば、市街地に銀河鉄道の停車駅と離発着を可能とするカタパルトレールが設置される事になるだろう。

 

メガロポリス宇宙工廠のドックでは、本来は宇宙艦船が建造される筈だが、今回はドックにはあまりにも不釣り合いな新しい「命」が宿ろうとしていた。

 

ドックの中央に据えられた鋼鉄のフレーム。

 

それはヤマトのような重厚な装甲を持つ軍艦のそれではなく、どこか懐かしく、優美な曲線を持つ「蒸気機関車」の輪郭を形作り始めていた。

 

「先生、ここの空間軌道エミッターと、波動コアからのエネルギーバイパスの同調、12パーセントのズレがあります!」

 

「いや、それで良いんだ、新見君。ディスティニーからの設計図にある『次元安定特性』に合わせるには、波動エネルギーの出力をあえて『静かに流す』必要がある。波動砲のように爆発的なエネルギーを絞り出すのではなく、川のせせらぎのように、絶え間なく、均一に循環させる必要があるんだ」

 

真田は作業用ゴーグルを額に上げ、額の汗を拭うことも忘れてコンソールに没頭していた。

 

(……俺はこれまで、ずっと『兵器』を作ってきた)

 

スパナを握り、数式を組み立てる真田の脳裏に、これまでの戦いの記憶が過る。

 

ガミラスの脅威から地球を救うため、彗星帝国の圧倒的な暴力に対抗するため‥‥

 

真田がその天才的な頭脳で生み出してきたものは、常に「敵を穿ち、破壊するための力」だった。

 

ヤマトの切り札ともいえる波動砲はその最たるものだった。

 

それが決して間違っていたとは言わないし、防衛軍の軍人たちも間違いとは言わない筈だ。

 

それは、地球を守るためには、必要な暴力だったからだ。

 

だが、地球で初めての宇宙列車‥銀河鉄道の車両を作っている真田は、

 

(科学とは、本来こうあるべきなのだ)

 

と、段々と姿が形成されていく宇宙列車の車体を見つめた。

 

今、自分が作っているのは、誰も傷つけない。誰も殺さない。

 

ただ、遠く離れた見知らぬ星の人間と、この地球の人々を繋ぎ、笑顔と文化を運ぶための「乗り物」だ。科学者として、これ以上の誉れがどこにあるだろうか?

 

「真田さん」

 

そこへ、古代がやってきた。

 

油と火花の匂いが立ち込める中、古代は建造中の列車を見上げ、感嘆の息を漏らした。

 

「本当に機関車が形になっていく‥あの列車が星の海を走るなんてなんだか不思議な気持ちになります」

 

「ああ、古代。私もだよ」

 

(真田さん、何だか生き生きとしているな‥‥)

 

真田はふっと優しい笑みを浮かべ、列車のテンダー(炭水車)部分に触れた。

 

「ヤマトの波動エンジンは、地球を救うための『盾』だった。だが、この列車に積む新型の波動融合炉は、未来へ進むための『足』になる。ディスティニーの技術である『空間軌道シールド』と、我が国の『波動防壁技術』を融合させることで、どんな次元の嵐をも突破できる、絶対の安全性を誇る列車になるはずだ」

 

「誰も傷つけない、まさに平和の列車ですね」

 

「そうだ。この列車が次元の壁を越えてディスティニーの駅に滑り込んだ時、彼らは驚くだろうな。『地球人は、これほど短期間で我々の技術を理解し、独自の息吹を吹き込んだのか』と‥‥」

 

真田の瞳には、かつてないほどの少年のような輝きがあった。

 

その横顔を見て、古代もまた、胸の奥が温かくなるのを感じていた。

 

「真田さん。俺、この列車が完成して、ディスティニーへ旅立つ日が待ち遠しいです。その時は、俺も……いや、ヤマトも護衛として、そのレールの始まりを見届けます」

 

「ああ、頼むよ、古代。君たちの眼が、この列車の最初の道標になる」

 

工廠内には、金属を叩く小気味よい音が響き渡り、溶接の火花がまるで星屑のように舞い散っている。

 

地球の最高の技術者たちが、それぞれの平和への祈りを込めて、一歩ずつ形にしていく「希望の列車」。

 

それは、冷酷な武力による支配を進めようとするもう一つの宇宙への地球からの無言の‥しかし最も力強い「答え」のようでもあった。

 

一方、その歓喜と希望に満ちた宇宙の裏側では――。

 

武力によって平和なエルトリアの空を黒く染め上げようとしている、時空管理局の無慈悲な艦隊の派遣が決まろうとしていた。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

  • 付き合っちゃえ
  • お友達のままで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。