星の海へ   作:ステルス兄貴

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三百四話 黄昏の管理世界

宇宙海賊シーマ・ガラハウ――彼女の常識外れの操艦技術と策謀の前に、次元警邏艦『オベロン』は為す術もなく大破させられた。

 

拭いきれない屈辱と己の未熟さに打ちのめされたフェイト・テスタロッサ・ハラオウンだったが、彼女は立ち止まらなかった。

 

親友たちや家族の支えを胸に、副官チンクや天才造艦技師ヴェルタンの協力を得て、極秘裏に次世代強襲母艦『ナディア』を建造。

 

かつての愛艦『イゾルデ』の歴戦のクルーたちを迎え入れ、過酷な慣熟訓練を乗り越えたフェイトたちは、失われた誇りを取り戻すべく、反撃の刃として次元の海へと抜錨した。

 

一方、次元の壁を隔てたもう一つの宇宙――惑星ディスティニー。

 

過酷な大戦を乗り越えたこの星は、未知なる青い星『地球』との歴史的な平和同盟を締結した。

 

地球への駐在武官という特命を受けたSDF(空間鉄道警備隊)最強の部隊『シリウス小隊』は、バルジ隊長の号令のもと、重武装列車、ビッグワンで希望のレールを走り、未知なる同盟惑星である地球へと力強く突き進んでいく。

 

とある次元の海の一角にて、ナディアの艦内は、赤黒い非常用照明とけたたましいアラート音に包まれていた。

 

「仮想敵艦『リリー・マルレーン』、右舷下方より急上昇! 空間魚雷、来ます!」

 

「全砲門、迎撃態勢! スラスター全開、回避軌道へ!」

 

戦術士官の怒号が飛ぶ中、航海長のレイセンがコンソールを叩くように操作し、瞬時に回避演算を弾き出す。

 

次の瞬間、ナディアの巨体が強烈なGを伴って跳ね上がるように右へとスライドした。

 

慣性制御システムが作動しているにもかかわらず、ブリッジのクルーたちはシートのハーネスに激しく体を打ち付けられる。

 

「くっ……姿勢制御スラスターの立ち上がりが早すぎる! イゾルデのタイミングでカウンターを当てると、艦の姿勢が逆にブレるぞ!」

 

「仮想敵からの追撃! 空間曲率が歪みます……この機動、シーマ・ガラハウ特有の反転突撃です!」

 

「着弾まで十秒!」

 

ブリッジ内に焦燥が走る。

 

ヴェルタンが独自に組み上げたナディアの次元駆動炉(メインジェネレーター)は、圧倒的な出力を誇る反面、ピーキーすぎて乗り手のわずかな操作のズレすらもダイレクトに艦の挙動へと反映させてしまう。

 

荒馬のような新鋭艦の制御にクルーたちが翻弄される中、艦長席のフェイトは決して冷静さを失っていなかった。

 

「焦らないで。システムに人間が合わせるんじゃないわ。艦の『呼吸』を読んで、みんなのタイミングをコンマ一秒のレベルで同期させるのよ」

 

凛とした声が響く。

 

フェイトは手元の戦術データを瞬時に解析し、的確な指示を飛ばす。

 

「チンク、予測演算パターンC! レイセン、補助スラスターによる相殺機動をカット。メインスラスターの推力だけで強引にねじ伏せて!」

 

「了解! メインスラスター、出力百二十パーセント! 次元断層を蹴ります!」

 

フェイトの叫びに応え、レイセンが迷いなくスロットルを押し込む。

 

先ほどまで暴れ馬のように挙動を乱していたナディアが、フェイトの統率とクルーたちの神がかった連携によって完全に押さえ込まれ、まるで一本の鋭い矢のように仮想敵艦の死角へと滑り込んだ。

 

「敵艦の反転突撃を回避! 完全な射線に捉えました!」

 

「次元収束砲(アークスマッシャー)、ロックオン!」

 

「撃てぇっ!!」

 

フェイトの号令と共に、ナディアの主砲から放たれた極太の光条が、シミュレーション上の『リリー・マルレーン』を正確に貫いた。

 

『ターゲット・サイレンス。仮想敵艦の撃沈判定を確認。……シミュレーション・フェーズ3、オールクリアです』

 

合成音声が無機質に訓練の終了を告げると、ブリッジの照明が通常モードへと切り替わった。

 

「ふぅ~…………っ」

 

フェイトは深く息を吐き出し、艦長席に身を沈めた。

 

張り詰めていた緊張の糸が切れ、クルーたちも次々とコンソールに突っ伏したり、天を仰いで荒い息を吐いたりしている。

 

ここ数日、彼らは睡眠時間すら削り、文字通り血反吐を吐くような訓練を繰り返していた。

 

最新鋭のシステムに己の肉体と反射神経をアジャストさせるため、何度も仮想の海賊船に撃沈されては、パラメータを修正して再戦を挑むという狂気的なループ。

 

特別な魔法やシステムに頼るのではない。血のにじむような努力と連携で、彼らはこのじゃじゃ馬を乗りこなそうとしていた。

 

「……全セクションの応答速度、設計上の理論値に到達しました。先ほどの回避機動、イゾルデの時よりコンマ五秒も速いです」

 

チンクが手元のデータを信じられないといった様子で見つめ、感嘆の息を漏らす。

 

「みんな……よく付いてきてくれたわね」

 

フェイトは制服の袖で額の汗を拭い、疲れ切ってはいるが、どこか清々しい表情を浮かべるクルーたちを見渡した。

 

「これでようやく、ナディアはただの『最新鋭艦』から、私たちの『手足』になったわ。あの過酷な訓練を乗り越えた私たちなら……もう、どんな機動をされても喰らいつける」

「ええ。艦長があそこまで緻密な予測と指示を出してくれるんです。俺たちが弱音を吐くわけにはいきませんよ」

 

レイセンが振り返り、疲労の中にも確かな自信に満ちた笑みを浮かべた。

 

失われた誇りを取り戻し、自分たちを打ち負かしたあの海賊を、今度こそ完璧に越えてみせるという純粋な戦士としての意志。

 

「チンク。ナディアの各部冷却が終わり次第、通常航行へ移行。索敵レーダーの感度を最大にして、シーマ・ガラハウの痕跡を探って」

 

「了解しました……ついに、ですね」

 

「ええ。反撃の準備は、すべて整ったわ」

 

フェイトは再びメインスクリーンを見据えた。

 

その深紅の瞳に宿る光は、極限の疲労と引き換えに手に入れた、研ぎ澄まされた刃のような鋭利な輝きを放っていた。

 

一方、その頃‥‥

 

極彩色の次元断層を執念の推進力で突き抜けたビッグワンは、激しい揺れの余韻を断ち切るように、ついに安定した通常宇宙へと躍り出た。

 

車窓の向こう、暗黒の宇宙空間にひときわ鮮やかに浮かび上がっていたのは、深く澄んだ青さと豊かな緑を湛えた美しい惑星――地球だった。

 

「……あれが、月村さんの故郷……地球」

 

ルイが窓に額を寄せ、息を呑むようにその光景を見つめる。

 

隣に立つ学も、胸の鼓動を高鳴らせながら、かつて幾多の戦乱をくぐり抜け、そして今まさに新たな未来へ踏み出そうとしている青き星をじっと見据えていた。

 

『全乗員に告ぐ。ビッグワンはこれより、地球との外交条約に基づき、大気圏への直接降下ではなく、地球圏軌道ステーションへの接舷アプローチに入る。各員、着任の準備を怠るな』

 

車内アナウンスに続いて、バルジ隊長の厳かなどっしりとした声が響く。

 

巨大な宇宙港(スペースポート)へと滑らかに滑り込んでいくビッグワンの車内で、学は小さく呟いた。

 

「違う星同士が、こうして手を取り合う。言葉にすれば簡単だけど……これまでの歴史を思えば、本当に奇跡みたいな第一歩なんだよな」

 

「ええ」

 

ルイが優しく微笑む。

 

「これまでは、未知の存在と出会えば、まず武力で自分たちの安全を確保しようとして血が流れてきた。でも、私たちがここで築く信頼が、宇宙全体の平和に繋がる。……決して、力で縛り付けるような形ではなく、対話で分かり合うこと。それが私たちの使命ね」

 

「ああ。武装列車に乗っている俺たちが言うのも変かもしれないけど、この大砲は『脅し』じゃなく、対話のテーブルを守るための盾だ。……必ず成功させよう」

 

やがて重厚なブレーキ音と共にドックの固定クランプが噛み合い、長旅の終着点への到着が告げられた。

 

タラップが開き、シリウス小隊の面々が月村良馬と共に外へと降り立つ。

 

出迎えたのは、地球連邦政府や防衛軍の面々だった。

 

「よくぞ来てくれた、SDFシリウス小隊の皆さん。そして月村君たちもおかえりなさい」

 

司令官から差し出された手を取る良馬の表情には、故郷へ戻ってきた深い安堵が入り混じっていた。

 

学やルイたちも地球側の高官たちと固い握手を交わし、「平和のための駐在武官」としての第一歩を力強く踏み出したのだった。

 

その頃、次元の壁を隔てた深く冷たい次元の海。

 

慣熟訓練を終え、通常航行へと移行したナディアのブリッジは、微かな駆動音だけが響く静寂に包まれていた。

 

その静寂を破ったのは、戦術長席のチンクの鋭い声だった。

 

「艦長! 次元波動走査線(ソナー)に微弱なノイズを感知! 第8次元境界面、暗礁宙域のデブリ群に紛れるようにして移動する艦影があります!」

 

その報告に、ブリッジの空気が一瞬にして張り詰めた。

 

フェイトはバッと目を開き、身を乗り出した。

 

「識別信号は?」

 

「偽装されていますが、次元駆動炉の波長パターン、および空間曲率の固有の歪み……間違いありません。宇宙海賊シーマ・ガラハウの旗艦『リリー・マルレーン』、およびその随伴艦隊です!」

 

ついに尻尾を掴んだ。

 

その事実が告げられた瞬間、クルーたちの間に声なきどよめきと、ぞっとするほどの冷たい闘志が走った。

 

「……見つけた」

 

フェイトは低く呟き、ゆっくりと立ち上がった。

 

深紅の瞳の奥に、かつてオベロンを無惨に沈められた日の屈辱と、散っていった命への祈り、そしてシーマに対する冷徹なまでの怒りが静かに燃え上がる。

 

だが、今のフェイトの心に焦りは一切なかった。ナディアという絶対的な刃と、それを共に振るう仲間への信頼が、彼女の心を氷のように冷静に保たせている。

 

「機関、最大戦速へ移行。次元潜航深度を深く保ったまま、敵艦隊の真下から急速接近するわ。気づかれる前に、確実に『食いつく』のよ」

 

「了解! メインスラスター、出力最大! 次元潜航、深く潜ります!」

 

レイセンの復唱と共に、ナディアの艦体全体が低く重厚な唸りを上げ、次元の海のさらに奥深くへとその白い巨体を沈め、猛烈な速度で加速を始めた。

 

「各砲座、エネルギー充填開始。いつでも撃てるようにロックオンの準備を。チンク、敵の護衛艦隊の配置データと、リリー・マルレーンの予想回避ルートの演算を急いで!!」

 

「アイ・サー。すでにシミュレーションのフェーズ4を応用し、敵の反転突撃に対するカウンター軌道を三通り用意してあります」

 

完璧な手際で応じるチンクに小さく頷き、フェイトは前方のメインモニター――赤く点滅する敵艦隊のマーカーを氷の眼差しで見据えた。

 

「――待っていなさい、シーマ・ガラハウ。あなたがどんな手を使おうと、今度こそ逃がしはしない」

 

一方、次元暗礁宙域を航行中のリリー・マルレーン。

 

薄暗い艦橋で鉄扇を弄っていたシーマ・ガラハウは、突如として鳴り響いたけたたましい警報音にピクリと眉を潜めた。

 

「なんだい、騒々しいねぇ。また管理局のうすのろ共が迷子にでもなったのかい?」

 

「キャプテン! 後方下方より、信じられない速度で接近する高エネルギー体を感知! この次元震の規模……大型艦です!しかも、見たこともない速さで真っ直ぐこちらへ向かってきます!」

 

レーダー手の悲鳴じみた報告に、シーマは鉄扇を閉じ、獰猛な笑みを浮かべてモニターを睨みつけた。

 

「ほう……? 懲りずにまたおもちゃを引っ張り出してきたのかい。いいだろう、どの面の皮を下げてきたか見てやろうじゃないか」

 

次元の暗闇の中で、二つの執念が激突する瞬間は、もう目前まで迫っていた。

 

次元の暗闇を切り裂き、白い閃光が下方から突き上げるように襲い掛かった。

 

「主砲斉射!」

 

フェイトの凛とした号令と共に、ナディアの艦首から放たれた極太の光条が、暗礁宙域のデブリ群を塵に変えながら『リリー・マルレーン』の横腹へと殺到する。

 

「面舵いっぱぁいっ!ぼやぼやするんじゃないよ!」

 

薄暗い艦橋で、シーマ・ガラハウの鋭い怒声が飛んだ。

 

卓越した操舵手の反応と、シーマ自身の直感的な指示により、リリー・マルレーンは巨体をよじるようにして直撃を回避する。

 

しかし、かすめた防殻の一部が赤熱し、激しい火花が艦橋の窓越しにも確認できた。

 

「チッ……なんだいあのふざけた加速と火力は! 管理局の新型ってレベルじゃないよ!」

 

「キャプテン、敵艦からオープンチャンネルで通信が入ります!」

 

メインモニターにノイズと共に映し出されたのは、燃えるような深紅の瞳でこちらを見据えるフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの姿だった。

 

『宇宙海賊シーマ・ガラハウ。およびリリー・マルレーン乗組員に告ぐ。こちらは時空管理局、次元航行艦ナディア。あなたたちを完全武装解除、および捕縛します』

 

その顔を見た瞬間、シーマは一瞬呆気にとられ、直後に腹の底から楽しげな哄笑を響かせた。

 

「アハハハハッ! どこの馬の骨かと思えば、この間、尻尾を巻いて逃げ帰った金髪のお嬢ちゃんじゃないか!?この前のおもちゃを壊されて、今度は随分と立派な船を引っ張り出してきたもんだねぇ!」

 

『……ええ。貴女がオベロンを壊し、大勢の命を奪い、嘲笑ったこと、決して忘れてはいない。でも、今日私たちがここに来たのは、ただの復讐のためじゃない』

 

フェイトの声には、微塵の揺らぎもなかった。ただ静かに、絶対的な覚悟が込められている。

 

『これ以上の悲劇を生まないため……あなたたちの悪意を、ここで完全に食い止める!』

 

「『これ以上の悲劇を生まないため』だと? 言ってくれるじゃないか、お嬢ちゃん。管理局が存在する限り、悲劇は常に生み出されているとも知らないで‥‥」

 

通信が切れると同時、ナディアが信じられない挙動を見せた。

 

巨大な質量を持つ強襲母艦でありながら、まるで小型の艦載機のように鋭角なターンを決め、リリー・マルレーンの死角へともぐり込んできたのだ。

 

「甘いよッ! 図体がデカいだけのハリボテで、このアタシの背後を取れると思うんじゃないよ!」

 

シーマは鉄扇を鋭く振り下ろした。

 

「全砲門開け! 機雷散布と同時に、反転突撃(カウンター・アサルト)だ! あの白いおもちゃを蜂の巣にしてやりな!」

 

リリー・マルレーンが推進剤を猛烈に噴射し、急ブレーキと同時に姿勢を百八十度反転させる。かつてオベロンを為す術もなく沈めた、シーマ特有の変則的な変態機動。

 

無数の機雷が宙にばらまかれ、圧倒的な弾幕がナディアへと降り注ごうとした。

 

だが、ナディアのブリッジに焦りは皆無だった。

 

「シミュレーション・フェーズ3と同じ機動! 来ます!」

 

「レイセン、事前演算通りにスラスター点火! 艦体を滑らせて!」

 

チンクの叫びに呼応し、フェイトが鋭く指示を飛ばす。

 

機雷群が爆発し、死の弾幕が迫るそのコンマ数秒前、ナディアは姿勢制御スラスターを極限まで吹かし、リリー・マルレーンの反転突撃の『さらに外側』へと、滑るようにスライド回避したのだ。

 

「なにッ!?」

 

完全に射線を確保したナディアの副砲群が火を噴こうとした瞬間、シーマの口元が獰猛に歪んだ。

 

「アタシが同じ手をバカ正直に使うと思ったかい!? 面舵急旋回! 散布した機雷群を盾にして死角へ潜り込め!」

 

リリー・マルレーンは反転突撃そのものをフェイントに使い、自ら散布した機雷の爆発光をブラインドにして強引に軸線をズラした。

 

予測演算を逆手に取った、海賊ならではの常識外れの機動。

 

だが。

 

「――読まれることくらい、織り込み済みよ! レイセン、補助スラスター再点火! 追従して!」

 

「もらいましたァッ!!」

 

フェイトの指示のもと、ナディアの駆動炉が悲鳴のような唸りを上げ、強引な軌道修正でリリー・マルレーンの回避先へと覆い被さるように食らいついた。

 

ドゴォォォォンッ!!

 

「くっ‥‥」

 

リリー・マルレーンの艦内に激しい衝撃が走り、シーマも思わずコンソールに手をついて姿勢を保つ。

 

「第3装甲ブロック大破! 機関部にも被弾!」

 

「馬鹿な……このアタシのフェイントを読んで、力業でねじ伏せてきただと……!?」

 

モニター越しに見える白い巨艦は、もはや先日シーマが一方的に蹂躙した獲物ではなかった。

 

艦の性能だけでなく、それを操る指揮官とクルーたちが完全に一体となり、殺気すら感じさせるほどの執念でこちらを追い詰めている。

 

(……チッ。あの小娘、これほど短期間で艦を自分の手足にしやがったのか)

 

シーマは舌打ちをした。

 

歴戦の勘が、彼女に強烈な警告を発している。

 

このまま真正面から撃ち合えば、戦術と執念で上回る相手に確実に沈められる、と。

 

海賊にとって、最も重要なのは『生き延びること』だ。

 

「次元重力震爆弾(グラビティ・マイン)を射出! デブリ群ごと吹っ飛ばして、目眩ましにするよ!」

 

「りょ、了解!」

 

リリー・マルレーンの後部ハッチから射出された漆黒のカプセルが、周囲の巨大なデブリ群の中心で起爆した。

 

その瞬間、強烈な空間の歪みが発生し、次元の海そのものが渦を巻くような暴風雨へと変貌する。

 

「艦長! 敵艦が重力震爆弾を起爆! 前方に大規模な次元断層が発生します!」

 

「巻き込まれればナディアの装甲でも保ちません!」

 

「総員、対ショック防御! 前方シールド最大展開! 艦の姿勢維持に全力を注いで!」

 

フェイトの指示のもと、ナディアは荒れ狂う次元の嵐の直撃を正面から受け止めた。

 

激しい揺れがブリッジを襲い、メインモニターの映像がノイズで乱れる。

 

数分後。

 

荒れ狂っていた空間の歪みが徐々に収束し、モニターの視界が晴れていく。

 

しかし、そこにリリー・マルレーンの姿はすでになかった。

 

「……敵艦の反応、ロストしました。空間の歪みに乗じて、別次元へと逃亡した模様です」

 

チンクが悔しそうにコンソールを叩き、報告を上げる。

 

ブリッジに重苦しい沈黙が落ちた。完全な奇襲をかけ、相手のフェイントすらも上回った。

 

だが、シーマの経験に裏打ちされた生存本能と予測不能な逃走判断が、あと一歩のところでナディアの刃を躱したのだ。

 

「……くっ、逃がしたか」

 

フェイトは艦長席に深く座り直し、静かに息を吐いた。

 

しかし、フェイトはゆっくりと顔を上げ、クルーたちを見渡した。

 

「みんな、よくやってくれたわ。あのシーマ・ガラハウの機動を完全に読み切り、退却にまで追い込んだ……私たちの戦術は間違っていなかった」

 

その言葉に、クルーたちの顔に確かな誇りが戻る。

 

彼らは負けたわけではない。

 

正面からの戦いにおいて、あの海賊船を凌駕してみせたのだ。

 

「敵の尻尾は一度掴んだ。なら、次も必ず見つけ出せる。チンク、次元波動の残留データを収集。逃走ルートの予測演算を開始して」

 

「アイ・サー! すぐに解析に回し――」

 

チンクの声が途切れた。

 

彼女は手元のコンソールに次々と表示される赤いエラー表示を見つめながら、小さく顔をしかめる。

 

「……逃走ルートの予測演算、一時中断します。艦長、本艦の被害報告が上がってきました。先ほどの次元嵐をシールドで正面から受け止めた影響に加え、事前の限界を超えた回避機動の負荷により、第二・第四スラスターの駆動系および次元駆動炉の冷却システムに中程度のダメージを確認しました」

 

「……さすがに、無傷とはいかなかったわね」

 

フェイトは小さく息を吐いた。

 

ピーキーな新鋭艦を強引に手なずけた代償だ。

 

この状態でシーマの予測不能な逃走を追い続けるのは危険すぎる。

 

「チンク。現在位置から最も近い、ドックがある管理世界はどこ?」

 

「第63管理世界『ルークス』です。この世界なら、大型艦の修繕設備も整っているはずです」

 

「分かったわ。ナディアの進路をルークスへ。入港許可を取り次第、そこで艦のメンテを行うわ」

 

数時間後――。

 

『第63管理世界ルークス軌道上へ到達。支部より、入港許可のパスコードを受信しました。これより大気圏へ降下します』

 

メインモニターには赤茶けた荒野と、その一部に広がる都市群を持つ惑星が映し出された。

 

大型艦であるナディアは、その強襲揚陸機能を生かし、雲海を突き抜けて地表へと近づいていく。

 

指定された降下ポイントに到達する、その時だった。

 

「――ッ!? 地表より多数の高熱源体接近! 対空ミサイル群です!!」

 

突如として鳴り響いたけたたましいアラート音。

 

無数の赤い光点がナディアを下方から突き上げるように迫ってくる。

 

「対空ミサイル!? どういうこと、私たちは正規の入港許可を得ているはずよ!」

 

「敵味方識別信号(IFF)、発信しています! ですが、攻撃の手が緩みません!ロックオンされました、着弾まで十秒!」

 

「くっ……迎撃システム起動! シールド、対物理衝撃に移行して!」

 

自動迎撃火器が火を噴き、空中で爆発が起こる。

 

しかし、迎撃しきれなかった数発がシールドに着弾し、艦全体を激しい揺れが襲った。

 

「シールド出力低下! ダメージを負った機関部への負荷が強すぎます!」

 

「反撃はしないで! チンク、ルークスの管理局支部へ緊急通信!」

 

「繋いでいます! ……ルークス支部、応答あり!」

 

ノイズ混じりの通信スクリーンの向こうに、支部管制官が映し出された。

 

『こちら第63管理世界ルークス支部! 貴艦は現在、反政府レジスタンス軍の占領領域上空に降下中だ! 彼らは管理局の艦船を無差別に攻撃している!直ちに進路を0-4-0へ変更せよ!』

 

「レジスタンス軍ですって……!? 了解! レイセン、指定された針路へ強行突破して!」

 

レイセンがスロットルを叩き込むと、ナディアは巨体を軋ませながら急旋回し、ミサイルの弾幕を強引に振り切るように加速した。

 

眼下の荒野を這うように飛び、やがて巨大な防壁に囲まれた支部都市の専用ドックへと滑り込んだ。

 

『……ミサイルの追尾、振り切りました』

 

チンクの安堵した報告に、全員が深く息を吐き出す。

 

「助かったわ……でも、解せないわね。これほどの大規模な反乱が起きているなら、なぜ本局のデータベースに情報が共有されていないの?」

 

フェイトの疑問符を抱えたまま、ナディアはドックでの修繕に入った。

 

艦を降り、ルークス支部の司令室へと向かう道中。

 

管理局が手配した装甲車の中から市街地を見つめていたフェイトは、その相反する光景に息を飲んだ。

 

窓の向こうに広がる表通りは、管理局の高度な技術によって真新しいインフラが整備され、一見すると平和で豊かな復興都市に見える。

 

だが、その美しい街並みの至る所に、焼け焦げた戦闘の跡や爆破テロの爪痕が痛々しく残されていた。

 

そして何より異様なのは、上空を隙間なく巡回する無人機の群れと、交差点ごとに立つ重武装の局員たちだった。

 

赤いセンサーの光が住民たちを舐めるように監視しており、それは「治安維持」という言葉からは程遠い、まるで軍事占領下の街そのものだった。

 

フェイトの胸に、冷たい違和感が落ちる。

 

司令室に通されると、ルークス支部のガリウス司令が疲労と苛立ちの混じったため息をつきながら葉巻を揉み消していた。

 

「全く、忌々しい連中ですよ。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官殿……いや、今はナディアの艦長でしたかな。貴女の艦に傷をつけたこと、このルークス支部を預かる者としてお詫びいたします」

 

「……なぜ、ここまで街が物々しい警戒態勢になっているんですか? それにレジスタンスとは一体……」

 

「数年前、我々はこの星を次元獣の脅威から保護し、医療とインフラを提供して復興を主導しました。しかし……一部の過激派が『レジスタンス』を名乗り、我々の施設や物資輸送を狙った爆破テロを繰り返しているのです」

 

ガリウス司令は顔をしかめ、手元の端末に悲惨な被害状況を映し出した。

 

「彼らは民間人の居住区に潜伏し、自爆テロすら辞さない。先日の爆破では、罪のない子供たちも犠牲になりました。我々が管理しているこの星の希少鉱石は、他世界での次元災害を防ぐための結界素材として不可欠なものですが、彼らの妨害で採掘も遅々として進まない」

 

「…………」

 

「我々が撤退すれば、この星は瞬く間に内戦状態に陥り、さらに多くの血が流れるでしょう。だからこそ、多少の強硬手段を用いてでも治安を維持し、彼らを徹底的に管理下におくことこそが、最大の犠牲を防ぐ唯一の道なのです。すべては、この星と次元世界を守るため」

 

ガリウスの言葉には、確かな事実と、彼なりの「正当な論理」があった。

 

次元獣からこの星を救ったのも事実。テロの被害も、鉱石の必要性も、決して嘘ではないのだろう。

 

彼も最初は、本気で住民を守るためにやって来たのかもしれない。

 

だが‥‥

 

(本当にそれだけ……? レジスタンスの過激派がテロを起こしているのは事実だとしても、なぜ一般の住民まで、守ってくれるはずの管理局の兵士をあんなに恐れていたの?)

 

フェイトの心に芽生えた疑問は、司令の言葉を聞いてさらに深まるばかりだった。

 

面会を終え、支部の展望デッキへと出たフェイトは、ガラス窓越しに赤茶けた大地を見つめていた。

 

遠くの荒野で微かに閃光が走り、遅れて鈍い爆発音が響く。

 

『管理局が存在する限り、悲劇は常に生み出されているとも知らないで』

 

シーマの嘲笑が、フェイトの脳裏に重く突き刺さる。

 

(違う。あいつは命を奪って笑う海賊だ。彼女の言葉なんて、ただの詭弁……信じる理由なんてどこにもない)

 

フェイトは自分に言い聞かせるように、ガラス窓にそっと右手を押し当てた。

 

(でも……ここで私が見たものは何? テロを防ぐという『正しい目的』のために、人々の自由を奪い、抑圧している。正義の在り方が権力として歪み、結果として人々を苦しめているのは事実じゃないか……)

 

「艦長……」

 

後ろに控えていたチンクが、痛ましげに声をかける。

 

「チンク。ナディアの修理を急がせて‥‥」

 

「……は、はい」

 

フェイトは燃えるような夕日に染まる荒野を、真っ直ぐに見据えた。

 

「ガリウス司令の言っていることは、全部が嘘じゃない。テロを防がなきゃいけないのも、この星が保護を必要としているのも事実よ。でも……彼らのやり方は、間違っている」

 

なのはやはやてが信じてくれた自分。

 

愛すべき家族が待つ場所。

 

その自分が拠り所とする『正義』が、目的のためなら手段を選ばない傲慢な暴力であってはならない。

 

「だから私は、自分の目で確かめる。このルークスで何が起きているのか。レジスタンスの人たちが何を思い、何のために戦っているのか……ナディアの修理が終わるまでの間、私たちは、私たちにできることを探しましょう」

 

「……了解しました。どこまでも、お供します」

 

チンクの力強い頷きに、フェイトは小さく微笑み返した。

 

薄暗いルークスの裏路地には、ひんやりとした泥と鉄錆の匂いが立ち込めていた。

 

支給されたばかりの民間人用の厚手の外套を深く被り、フェイトはチンクと共に市街地の最下層――スラム区画へと足を踏み入れていた。

 

表通りでガリウス司令が誇っていた「文明と秩序」の恩恵など、ここには微塵もない。

 

あるのは、治安維持を名目に無残に破壊された住居の跡と、路地裏に身を潜めるようにして息を潜める人々の虚ろな瞳だけだった。

 

「ひどい……これが、私たちの『保護』下にある世界の現実なの?」

 

フェイトの胸を、鋭い痛みが容赦なく締め付ける。

 

「艦長、前方を。局員の巡回部隊です」

 

チンクの低く張り詰めた声に、フェイトは視線を前に向けた。

 

ひび割れたコンクリートの広場で、武装した五人の局員が、まだ十代半ばほどの少年を取り囲み、デバイスを突きつけていた。

 

少年の足元には、土にまみれた医療キットが散乱している。

 

「頼む、それだけは持っていかないでくれ! 妹が熱を出して、これがないと……ッ!」

 

「やかましい! どうせテロリストの連中に横流しする気だろうが!」

 

「俺たちの仲間も、お前らみたいなスラムのネズミの自爆テロで死んだんだ! テロに加担するクズどもに支給する物資なんかねえよ!」

 

テロへの恐怖と憎悪から完全に正気を失っている局員の一人が、すがりつこうとした少年を無慈悲に蹴り飛ばした。

 

石畳に体を打ち付けられ、呻き声を上げる少年。

 

さらに局員がブーツでその細い腕を踏みつけようと足を振り上げた、その瞬間だった。

 

「――何をしている!?」

 

凛とした、しかし確かな怒りを孕んだ声が路地に響き渡る。

 

風を裂くような踏み込みと共に、フェイトが局員と少年の間に割って入っていた。

 

彼女は振り下ろされた局員の足を外套越しに片手で受け止め、そのまま柔らかな動きで力を受け流し、相手の体勢を崩して地面に転がした。

 

「な、貴様ら何者だ! 局員への反抗は重罪だぞ!」

 

慌ててデバイスを構える残りの局員たち。

 

そのデバイスを、背後から音もなく接近したチンクの手刀が次々と叩き落とした。

 

「武装した大人が、抵抗できない子供に暴力を振るう……それが、この星での管理局のやり方なの?」

 

フェイトは外套のフードをゆっくりと外し、金色の髪を夜風に揺らした。

 

その深紅の瞳には、哀しみと、決して揺るがない強い意志の光が宿っていた。

 

彼女は懐から銀色のエンブレムを取り出し、局員たちの目の前に突きつける。

 

「時空管理局・本局所属、ナディア艦長。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。あなたたちの行動は、局の基本理念を大きく逸脱しているわ。直ちに武器を引き、彼への暴行の理由を説明しなさい」

 

「本局の、執務官だと……?」

 

局員たちは一瞬怯んだものの、すぐに顔を見合わせ、その表情を嘲笑へと歪めた。

 

「はっ、本局のエリート様がこんな掃き溜めで何のお戯れだ?」

 

「あんたらに俺たちの苦労が分かるかよ。いつどこで爆弾が破裂するか分からない街で、俺たちは命懸けで治安を守ってんだ!」

 

男が懐から隠し持っていたレーザー銃を抜き放とうとしたその時、路地裏の上空から強烈な閃光弾が炸裂した。

 

「ッ!? 目眩まし!」

 

白煙が立ち込める中、何者かが屋根から飛び降りてきた。

 

黒い戦闘服に身を包んだ若い女性だ。

 

彼女は素早い動作で倒れていた少年を抱え起こすと、フェイトの方を一瞥した。

 

「本局の犬だろうが何だろうが、隙を作ってくれたことには礼を言うわ! カイン、走れるわね!」

 

「姉ちゃん……!」

 

「待って! 私はあなたたちと戦うつもりは――」

 

フェイトが手を伸ばすが、女性はワイヤーガンを壁に撃ち込み、少年と共に瞬く間に夜の闇へと姿を消してしまった。

 

煙が晴れた後には、呻き声を上げる局員たちだけが残されていた。

 

「艦長、追いますか?」

 

「ええ。彼らが『レジスタンス』ね。……確かめなきゃいけない。この星で、本当は何が起きているのか」

 

フェイトとチンクは局員たちを無力化するための拘束魔法を手早く施すと、二人の後を追ってスラムのさらに奥深くへと駆け出した。

 

迷路のような地下水路を抜け、二人がたどり着いたのは、廃棄された巨大な浄水施設を利用したレジスタンスの隠れ家だった。

 

侵入者であるフェイトとチンクの周囲には、すでに無数のレーザー銃口が向けられていた。

 

だが、フェイトは一切の抵抗を見せず、両手を軽く上げてみせた。

 

「撃たないで。私たちは、あなたたちの声を聞きに来ただけよ」

 

「本局の執務官様が、今更どんな言い訳を聞きに来たっていうのよ」

 

先ほど少年を救った女性が、群衆をかき分けて前に出た。彼女の瞳には、燃えるような敵意が宿っている。

 

「私の名はリーゼル。……数年前、あなたたち管理局が次元獣からこの星を救ってくれたことには、心から感謝しているわ。でも、あなたたちは治安維持を名目に居座り、採掘のノルマを課し、私たちの星の資源を一方的に搾取し始めた」

 

「それは……次元災害を防ぐための協定のはずよ」

 

「結界素材に必要な分だけなら、誰も文句は言わなかったわ! でもガリウスは、正当な理由もなく逆らう者を次々と収容所へ送った。テロを起こす過激派がいるのは事実よ。でも、私たちの大半は、ただ自分たちの星の自由を取り戻したいだけ……あなたたちの正義は、もうただの暴力なのよ!」

 

リーゼルの叫びに、周囲の人々も悲痛な同調の声を上げる。

 

(正義そのものが、権力として歪んでしまった……)

 

フェイトはゆっくりと両手を下ろし、リーゼルを、そして傷つき疲弊した人々を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「……ごめんなさい。管理局が、あなたたちの苦しみに気づけなかったこと。私たちが掲げる正義が、あなたたちの明日を奪っていたこと」

 

フェイトは深く頭を下げた。その誠実で痛切な姿に、リーゼルも、周囲の銃を構えていた者たちも一瞬たじろぐ。

 

「私は、大切な人たちと守りたい世界があって、この制服を着ることを選んだわ。だから……どんなに正しい目的があろうと、こんなやり方で誰かを泣かせるような真似、絶対に許せない。私は時空管理局の執務官として、この星の歪みを正し、あなたたちの自由を必ず取り戻す」

 

「……本気で、言っているの?」

 

「嘘はつかないわ。それに……ナディアをあんな目に遭わせた海賊を逃がすわけにはいかないから」

 

フェイトが顔を上げると、その深紅の瞳には、かつてないほど澄み切った決意の炎が燃えていた。

 

「リーゼルさん、ガリウス司令は過剰な採掘を行っていると言ったわね。……チンク、もしかして」

 

「ええ。この星の厳重な防空網の近くを、シーマの『リリー・マルレーン』が逃走ルートに選んだ理由。……ガリウス司令が不正に横流しした鉱石を、シーマたち宇宙海賊が裏ルートで買い取っているのかもしれません。直接手を組んでいなくても、結果的に管理局の腐敗が海賊の利益に繋がっているとしたら……」

 

海賊の暗躍と、腐敗した管理システム。

 

敵は一人の悪人ではなく、正義の影に巣食う構造そのものだった。

 

 

一方、次元の壁を隔てた遥か彼方の宇宙。

 

レセプションルームでは、穏やかなピアノの調べと共に、ささやかな歓迎の宴が開かれていた。

 

「素晴らしい星だね、地球は。空の色が、俺たちの故郷ディスティニーととてもよく似ている」

 

グラスを傾けながら、学が窓の外に広がる青い星を見つめて微笑む。

 

隣に立つ良馬は、長きにわたる使節としての緊張からようやく解放され、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「ええ。争いの歴史を乗り越え、やっと手にした平和です。結城さんたちがこうして来てくれたことで、この平和はさらに多くの星々へと繋がっていくはずです」

 

「そうね。武力で脅し合って偽りの秩序を作るのではなく、こうして同じテーブルで言葉を交わし、理解し合う。それが、本当の意味での『平和』ということだから」

 

ルイが優しく言い添え、学と良馬と軽くグラスを合わせた。

 

彼らが歩み始めたのは、互いの違いを認め合い、対話によって築かれる希望のレール。

 

ビッグワンが切り開いたその軌跡は、確かな温もりを持って未来へと伸びていた。

 

しかし、次元の海は未だ波乱に満ちている。

 

ルークスの地下水路で、フェイトは静かに右手を胸に当てた。

 

外套の下で、愛機バルディッシュが主の決意に応えるように、微かな脈動を返してくる。

 

「チンク、ナディアの修理状況は?」

 

「明朝には最低限の戦闘軌道に乗せられます。皆、不眠不休で次元駆動炉の再調整を行っています」

 

「分かったわ」

 

フェイトはリーゼルに向き直り、力強く手を差し出した。

 

「作戦を立てましょう。ガリウス司令の不正の証拠を掴み、この星を解放するための作戦を。……ここからが、本当の反撃よ」

 

宇宙海賊シーマ・ガラハウとの因縁、そして己の信じる正義の足元を揺るがす腐敗。

 

二つの闇を同時に断ち切るため、金色の戦士の誇り高き戦いの火蓋が切られようとしていた。

 

同僚を失い傷心のユーノ、そんな彼の身を案じたなのはの今後の進展について

  • 付き合っちゃえ
  • お友達のままで
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