第17管理世界の管理局支部にある次元航行艦ドックには先のテレザート宙域で損傷を受けたクロノ・ハラオウンが艦長を務めるXV級次元航行艦、クラウディアがその身を横たえていた。
クラウディアはこのドックにて応急修理を終え、再びテレザートへ向けて出航しようとしていた。
「各部チェック終了、各システム、異常ありません」
「よし、管制塔に連絡。本艦は予定どおりの時刻にテレザートへ向け出発する」
「はっ!!」
第17管理世界の支部長がクロノの報告を重視してくれた為か、クラウディアの修理は優先的に行われたおかげでこうして短時間で終了した。
「あの艦がまだテレザートに滞在してくれればいいんだが‥‥」
艦長席に座ったクロノは不安交じりに言う。
「うん、そうだね」
クロノの横でフェイトもやや不安げに答える。
全身をハリネズミの様にミサイルで武装したあのミサイル艦隊が、消滅させられる前の艦隊内の通信でしきりに出していたあの『ヤマト』という名の艦。
小学校三年生の終わりごろから中学卒業までの約五年半の間、地球の‥‥日本の海鳴で生活したフェイトにとってはとても偶然や聞き間違いで片付けることはできなかった。
確かに地球とミッドには似た様な文化や名前が存在するように、もしかしたら自分たちの知らない世界の艦が、たまたま自分が地球で知る艦の名前と同じだったのかもしれないが、あの艦のシルエットと艦名から地球以外の産物ではないとフェイトの中には確信めいたモノが存在していた。
その確信を得るため、フェイトはどうしてもあの『ヤマト』と名乗る艦の乗員と話がしたかった。
所属する世界や組織の事、
何故あのミサイル艦隊と戦ったのか?
あのミサイル艦隊を攻撃した武器はどんな名前で、どういう原理なのか?
そして、どうやってバキューム鉱石を操作し、エネルギーが一瞬で回復したのか?
聞きたい事は沢山あったが、確実に言える事はあれだけの強力な艦船を建造し保有、運用できる国家なり組織なのだから、時空管理局や管理世界と同等かそれ以上の文明や科学力、そして軍事力を持っているのは間違いない。
高圧的な態度や言葉で挑発し、迂闊に相手を刺激して敵対するのだけは避けたいが、フェイトは何故か、あの艦の乗組員とはちゃんと話ができるという確信めいた予感を抱いていた。
出航予定時間となり、クラウディアは第十七管理世界を出発して全速でテレザート宙域へと向かった。
そしてテレザート宙域に入った頃、
「か、艦長!!テレザートに超大型の天体が亜光速で接近しています!!」
周辺の監視を行っていたオペレーターが緊迫した声をあげる。
「そんなバカな!!一昨日まではそんな天体は確認できなかったじゃない!?超大型の天体なら一昨日の時点で探知していてもおかしくない筈よ!!」
フェイトがオペレーターに観測ミスではないかと問うと、
「ですが、間違いありません。直径約6600キロの超大型の天体で、周囲からは強力な電波と重力場を確認できます!!」
「パネルに出せ」
「了解」
クロノの指示に従ってオペレーターは捕捉した超大型の天体をパネルに投影した。
「こ、これはっ!?」
パネルには巨大な白色彗星の姿がいっぱいに広がる。
映し出された白色彗星の映像に誰もが声と顔色を失った。
「なんか‥この彗星‥‥」
「不気味と言うか‥‥」
「怖い‥‥」
経験の浅い新人乗組員や女性乗組員は白色彗星を見て心底恐怖しているような声を漏らして身体を震わせた。
フェイトやティアナも口にこそ出さなかったが、他のクルーたち同様、あの巨大な白色彗星から漂ってくる形容しがたい禍々しさと不気味さに冷汗を流していた。
「僅か二日で、こんな巨大な彗星が接近してくるなんて‥‥」
「こんな事ってあり得るんですか?」
ティアナが次元航行艦乗りとして天体などに自分たちより遥かに詳しいクロノに訊ねる。
「い、いや管理局の士官学校で習った天文学でもこんなことはなかったし、僕自身、あんな巨大な彗星を見たのは初めてだ‥‥あの彗星の存在は余りにも異常だ‥‥」
クロノでさえ、パネルに映し出されている彗星の存在は初めて見たと言う。
戸惑い、恐怖、不安、そんな思いを抱いていたクロノたちにさらなる情報がもたらされた。
「本艦より二時の方向、先日の戦闘艦、ヤマトを確認!!」
「なに!?間違いないか!?」
「はい!!間違いありません!!先日と同じエネルギー反応と艦影ですから」
クラウディアのクルーはあの艦を聞き間違いかもしれないが、本当の名前が判明するまで、仮名ながらもヤマトと呼んでいる。
「クロノ!」
フェイトがクロノの方へ顔を向ける。
「ああ、ヤマトに追いつけるか?」
クロノにはフェイトが何を言いたいか分かっていたようで、操舵手にヤマト追撃を指示する。
「やってみます」
次元航行艦のメイン機関である魔導炉が唸りをあげ、クラウディアはヤマトを追いかける。
「通信士、ヤマトに通信を送って呼びかけて!此方に敵対の意思はない事と私たちの所属・艦名を!!地球の英語と日本語の通信文は私が作るから、貴方は大至急ミッド語とベルカ語の通信文をお願い!」
「わ、わかりました」
通信士に通信を依頼したフェイトは自らもキーボードを叩いてヤマトに呼びかける英文と日本語文のメッセージを作り、通信士に渡した。
この時、テレザートから例の白色彗星へと通信が行われていたのだが、残念なことに次元航行艦の通信傍受器では両者の通信を傍受出来ず、通信士は気が付かないままヤマトへの通信文を作成していた。
通信文を作成している時、オペレーターが一段と緊迫した声を上げる。
「テレザートからエネルギー反応!急激に増大しています!!」
「強力な磁場発生!送受信ができません!!」
「何度でも呼び続けて!!」
テレザートからのエネルギー反応の影響か、クラウディアの通信機が一時的に使用不能になった。
その為、ヤマトへ通信が送れない。
「テレザートからのエネルギー反応が止りません!!このままでは、星全体が爆発、崩壊の危険があります!!」
「何らかの攻撃か?まさか、プレオを破壊した例のミサイルか?」
「いえ、その反応はありません。重力バランス変動による地殻崩壊でもありません!」
「では、一体‥‥」
「テレザートの光学映像、出します!」
パネルに映し出されたテレザートの映像を見て、クラウディアのクルーはまたも驚愕した。
テレザート星全体が黄色い光に包まれていたのもさる事ながら、光の中に金髪で青いドレスらしい服をまとたった若い女性が祈るような姿勢で浮かび上がったのだ。
しばらくその光景が続いたが、やがてその姿が消え、遂にテレザートに終局の時がやって来た。
あの白色彗星はテレザートに接近し、両者がぶつかり合う寸前、テレザート星が白色彗星を巻き込み大爆発を起こした。
「衝撃波が来るぞ!!全員何かに掴まれ!!」
唖然とする中、クロノの慌てた大声がクラウディアに響いた。
それから、八時間後‥‥
テレザート星の大爆発から逃れるためクラウディアは緊急転移してその場から転移した為、ヤマトとコンタクトをとることはできなかった。
いや、それ以前にヤマトの速力はクラウディアを遥かに上回っており、到底追いつけるものではなかった。
結局、確認できたのはテレザート星の謎の大爆発。
星の表面に浮かび上がって来た金髪で青いドレスのような服をまとたった謎の若い女性。
不気味で巨大な白色彗星。
ヤマトの姿を捉えた不鮮明な光学データだった。
余りにも荒唐無稽で、情報不足が否めない出来事であったが、執務官としては一連の出来事を全て報告書にまとめる義務がある為、フェイトはクラウディアの艦内にある自分の部屋で報告書の作成を行っていた。
テレザートの爆発によって起きた衝撃波から逃れる為、緊急次元転移を行ったが、多少の影響を受け、またもやクラウディアの各部署には損傷個所が幾つも出た。
流石に第十七管理世界には戻れないので、クラウディアは別の管理世界へと赴く事となった。
折角、優先的に応急修理をしてくれたにも関わらず、出航したその日にボロボロの姿で戻り、「また修理してくれ」とは、クロノも言い辛いのだろう。
星の海を見ながらフェイトはヤマトとは、またいつか逢える様な気がしてならなかった。
彗星帝国 ガトランティス 玉座の間
テレザートの自爆とも言える大爆発の影響により、一時的に針路を変更せざるを得なくなった白色彗星。
その事実にズォーダーは不機嫌さを露わにしていた。
「我が帝国は建国から一度たりとも軌道を変えた事は無い。今回の軌道変更はガトランティス有史以来の屈辱である。しかし、この広い宇宙で誰一人出来なかった事を成し遂げただけでもテレサには十分に敬意を表する。だが、この屈辱は徹底的に晴らさなければならない。ゲーニッツ!!」
「はっ!!」
「バルゼー艦隊の現在位置はどこだ?」
「はっ、銀河・太陽系外周の8.7光年の位置にあるシリウス恒星系まで進出し、待機しております」
床に埋め込まれたパネルに宇宙海図を開いて艦隊配置図をズォーダーに説明するゲーニッツ。
「よし、直ちにバルゼー艦隊に出撃を命じろ!!我が帝国も三倍に速度をあげ、地球へ進撃する。これより地球大攻略作戦を実施する!!」
大帝ズォーダーは高々と地球攻略作戦の開始を宣言した。
この瞬間、白色彗星の本格的な地球侵略作戦が開始された。
シリウス恒星系‥‥
そこには、彗星帝国の大・中・小の戦闘艦を主力とする大艦隊が遊弋していた。
戦艦と思われる大型艦は全長300mを超え、中型の巡洋艦クラスの艦も200m、小型の駆逐艦でも防衛軍の宇宙駆逐艦以上の大きさを誇っている。
その艦隊のほぼ中央にいる大型艦は、他の艦とは全く異なるフォルムを持っていた。
艦形は双胴型でエンジンも双発。
大きさは他の大型戦艦よりも更に一回り大きく、双胴型艦体中央の艦首下部に大口径の兵器らしき武装を装備しており、他の僚艦とは異なる戦術思想を持っていることは明らかだ。
その戦艦‥‥バルゼー艦隊 旗艦 火炎直撃砲搭載戦艦、メダルーザの艦橋で、一人の男が全艦に命令を下した。
「大帝のご命令が下った。我が艦隊は総力をあげて太陽系へ突入し、地球軍を撃滅する!!」
この男こそ、この艦隊を率いる艦隊司令、バルゼー提督であった。
艦隊司令、バルゼー提督の命令一下、バルゼー艦隊はシリウス恒星系を出撃し、太陽系を目指し進撃を開始した。
さらにズォーダー大帝の命令はプロキオン恒星系に待機していたガトランティス、プロキオン方面軍にも伝えられ直ちに出撃。
バルゼー艦隊と土星圏での合流を目指し、圧倒的戦闘力をもって太陽系へ迫っていった。
一方、地球防衛軍も手を拱いてはおらず、連合艦隊司令の土方が先頭に立って様々な策を打っていた。
太陽系外縁部にパトロール艦隊を増派するとともに、冥王星、海王星、天王星の各衛星にける資源採掘、惑星開発を一旦中止させ、採掘した資源と軍属、民間人スタッフ、を地球に送り返させた。
大規模な移送船団が定期便の様に各惑星の衛星と地球を往復するため、通常の護衛部隊では手が回らず、護衛には内惑星防衛艦隊の水星・金星、月面常駐艦、地球本土防衛までもが駆り出された。
当然その中には、良馬が艦長を務める まほろば も含まれていた。
土方が民間人らを避難させたのは、単に人道上の理由だけでなく、資源輸送船団を護衛している護衛艦やパトロール艦も間近に迫っているであろう彗星帝国軍との決戦に投入する思惑があるからだ。
護衛艦、パトロール艦と言っても小口径とはいえ艦首にはちゃんと波動砲を装備し、砲撃能力は駆逐艦以上の力を有しており、パトロール艦の索敵能力は戦場でも十分に役立つ。
敵艦隊の戦力規模がはっきりしない以上、戦える艦船は全て投入する。
土方の方針はまさに全力全開なのであった。
土方の命令を受け、太陽系外周にて、索敵任務を行っていた一隻のパトルール艦が居た。
その艦の名前は渦潮と言った。
渦潮は今度、士官学校を卒業する士官候補生たちを研修目的で乗せ、太陽系外周のパトロール活動を行っていた。
パトロール艦 渦潮 艦橋
「艦長、本艦は無事に太陽系を離脱しました」
「内宇宙巡航速度から外宇宙巡航速度に移行」
「了解、外宇宙巡航速度、宜候!」
渦潮の艦長は航海士に外宇宙用の速度で航行するように命じ、パトロール活動を行う。
「艦長、間もなく本艦は、シリウス星系の外周へ到達します」
「うむ、レーダー衛星、監視衛星の放出準備」
「了解」
パトロール艦の任務はパトロール活動だけではなく、搭載されたレーダー衛星や監視衛星を太陽系外にバラ撒き、敵の侵入経路と艦隊規模の情報収集も担っていた。
「艦長。やはり、敵は来るんでしょうか?」
「ああ、必ず来る。そうでなければ、第十一番惑星基地をあそこまで破壊したりはしないさ」
操舵をしながら航海士が艦長へと訊ねると、艦長は確信めいた様に言う。
そこにレーダーの観測を行っていた、士官候補生の椎名晶が報告の為、割り込んできた。
「艦長。お話し中、申し訳ありません。先程、第十四監視衛星が敵の艦影らしきものをキャッチしましたが、直後に反応が消失しました。おそらく敵に破壊されたものだと思われます」
椎名晶は、間もなく士官学校の卒業を控えた士官候補生であり、彼女はギンガとも面識のある人物であった。
と言うのも、椎名が受講したコースが通信科をメインに航空科、医療科コースだった為、ギンガが士官学校で受講したコースと被り、ギンガと椎名の二人は先輩、後輩の仲だったのだ。
「なにっ!?」
椎名の報告を聞き、艦橋に緊張が走る。
第十四監視衛星は渦潮の現在位置からすぐ近くだ。
向こうの速力次第ではあるが、凡そ半日で敵艦隊に遭遇することになる。
「総員戦闘配置。敵さんは間違いなくここを通るぞ!」
「了解」
艦長の命令の下、渦潮の全乗組員はそれぞれの配置につき、敵との遭遇に備える。
「司令部に連絡。本艦は索敵行動に入る、と」
「わかりました!」
敵の規模が分からないため、敵艦隊に捕捉されれば、逃げきれるかどうかわからない。
士官候補生たちは、緊張と不安を抱きながら職務にあたった。
そして‥‥
「ビンゴだぞ、諸君‥‥」
艦長は一筋の汗を流し、無理矢理笑みを浮かべた。
渦潮はシリウス恒星系より太陽系へ侵入してくる敵艦隊の姿を捉えた。
しかし、その数は余りにも多く、長居しては此方が発見され、あっという間に撃沈されてしまうので、確認できた敵艦隊の陣容と侵入コースを伝え、即座に退避行動に移った。
渦潮からの通報は土星衛星タイタンの防衛軍司令部へと伝わった。
タイタンは土星の第六番目の衛星で、土星圏の衛星では最大の大きさを誇る。
その直径は約5150kmで惑星である水星よりも大きい。
タイタンには宇宙艦船建造に不可欠な超金属コスモナイトの一大採掘地であると同時に、現在対白色彗星帝国との決戦に備え、地球防衛軍艦隊司令部が此処に将旗を掲げていた。
そのタイタン基地に齎された一本の電文が、地球防衛軍と連邦政府を震撼させた。
単艦でシリウス星系方面に索敵に向かったパトロール艦、渦潮が白色彗星帝国軍の大艦隊を発見したと言うのだ。
渦潮の報告では確認できた艦隊数だけでも、地球防衛軍の全艦よりも数が多く、さらに戦艦、空母は地球艦隊のモノよりも大型だと言う。
報告を聞き、連合艦隊司令長官である土方はしばし沈思黙考する。
そんな土方の周りでは、戦務幕僚たちが、今後の方針をどうするか、検討を行っている。
「ともかく、各惑星や衛星の艦隊に戦闘準備の命令を‥‥」
「内惑星艦隊はどうする?」
「火星基地に集結させるか?」
「いや、それよりは此処土星圏に集めた方が‥‥」
どうやら幕僚たちは、司令部の基本方針通り、冥王星、海王星、天王星、土星、木星、火星の各宙域に戦闘区域を設け、敵艦隊を分散的に迎撃しようとしているようだ。
彼らの検討議論の声がまるで聞こえていないかのように一人、土方は沈思黙考を続ける。
敵は戦闘艦だけでも地球艦隊の倍はある。
しかも地球艦隊の戦艦よりも大型‥‥
しかし、この陣容に土方は一つ気になる点があった。
シリウス方面から侵入してくる艦隊の中に空母が異常に少なかったのだ。
第十一番惑星での件から見て、敵の基本戦術はまず機動部隊による航空先制攻撃だろう。
それにも関わらず、艦隊に随伴する空母が余りにも少ない。
空母を中心とする機動部隊は別ルートから向かっているのかも知れない。
だとすると、敵はまず空母を使っての奇襲攻撃を行ってくるかもしれない。
いずれにせよ、防衛軍司令部が想定している各惑星圏からの漸減戦は、彼我の戦力に差がなければ有効だが、これだけの戦力差があると、数の暴力で押し潰されるのは明らかであった。
やがて、土方はモニターに映る太陽系内の戦力配置図を睨みながら、幕僚に指示を下し始めるが、その指示を耳にした幕僚は当惑の色を見せた。
「命令を下す。太陽系第一、第二外周艦隊の二個艦隊は一時間以内に合流、同じく第四、第五艦隊は第三艦隊と合流し、直ちに土星圏タイタン基地に集結させろ」
「そ、そんなっ!?」
「総司令‥‥」
「冥王星、天王星、海王星所属艦隊も全てこのタイタン基地へ集結させろ」
「お待ちください、総司令。司令部の許可なく、艦隊配置を変えるのは‥‥」
「そんな時間は無い直ちに命令を伝達しろ」
幕僚の意見など聞く耳持たず、土方は命令を下す。
「しかし、それではあまりにも独断すぎるのではないでしょうか?」
「君たちは、私の戦務幕僚ではないのかね?そしてこれは私の命令なのだよ」
土方のこの言葉が決め手となり、幕僚たちは各艦隊に土方の命令を伝達した。
(古代たちの意見をまとも取り合わなかった挙げ句がこの体たらくだ!ガミラスとの戦争中の方がまだ危機感があった。いつから地球はこんなに余裕ぶれる程強くなったんだ!?)
土方は内心で連邦政府首脳と防衛軍上層部に呆れかえっていた。
命令を受けた各惑星や衛星の駐屯艦隊は直ちに出撃し、土方の命令通りに土星圏タイタン基地へ集結し始めた。
冥王星、海王星、天王星基地に残っている基地職員も艦隊の集結と共に、基地の内部データを破棄、無人戦闘衛星や無人攻撃ステーションを自動迎撃モードに切り替えた後、基地から退避した。
地球の防衛軍司令本部では、突如自分たちの受け持ち区域から土星圏タイタン基地へ向かう艦隊の動きを見て混乱が出始めた。
オペレーターは各艦隊の旗艦に通信を入れ、元の配置に戻るように伝えるが、タイタン基地への集結は艦隊司令の土方からの命令なので、艦隊は土方の命令に逆らえない様で本部からの命令を無視する形で土星圏へと集結していった。
当然、地球の軍本部、特に参謀本部は土方の独断専行に憤激した。
「長官、土方総司令に中止命令を出してください!!」
参謀の一人が藤堂に土方を止める様に進言する。
その直後、
「土星圏、タイタン基地より入電です」
土星に居る土方から通信が入った。
「通信回路を開け」
参謀の一人がオペレーターに命令するとパネルに土方の姿が映った。
「土方総司令、これは一体どういうことだ!?」
長官よりも先に参謀は土方に訊ねる。
「長官、事後承諾になり申し訳ない。白色彗星の太陽系侵攻艦隊と思われる大艦隊が太陽系に向け、出撃してきましたので」
「その報告ならば受けている」
「土星軌道を絶対防衛線として地球防衛艦隊全艦を持ってこれを迎撃にあたります」
「越権行為だ!!作戦指示は軍令部から出すものだ!!」
「予想される大戦力を分析した結果、太陽系の広い範囲に戦力を分散配置するのは非常に危険です」
「戦力を集中する方がもっと危険だ!!敵の主力はその艦隊だけではない!!後から白色彗星の本体がやってくる!!」
「侵攻艦隊は地球艦隊よりも規模が大きい艦隊だ。戦力を集中するほか、勝利の見込みは無い!!」
「例え勝利を得ても味方も半数は失うだろう!?その戦力でどうやって戦うんだ!?どうやって地球を守ると言うんだ!?」
「この戦いに勝たなければ、地球は生き残る道は無い。白色彗星にはまた別の戦略を考えればいい」
「む、無謀だ」
「長官、御許可を頂けますかな?」
「君は指揮系統をなんと心得ているんだ!?」
「今は長官の決断が一番必要な時なのです」
土方と参謀のやり取りを黙って聞いていた藤堂が此処で口を開いた。
「土方君、戦略上の大変更は防衛会議の決定が必要なのは君も知っているだろう?」
「のんびりと会議を開いている暇はありません。作戦を直ちに実行しなければ地球は壊滅的被害を受けます」
「もう少し、時間をくれたまえ‥‥」
「ご決断ください」
「‥‥」
「‥‥では、私の権限で作戦を実行させていただきます。地球の全艦隊は私の指揮下にあるのですから」
そう言い残し、土方は長官である藤堂や参謀達の答を聞かず、通信をきった。
(市民が平和と繁栄に酔いしれるのはまだいい。しかし、地球連邦の政治家や軍人は本来危機意識を持っていなければならない。僅か一年‥‥たった一年で、防衛軍上層部はこうも簡単に危機意識を失ってしまったというのか)
土方は地球との通信をきった後、今の地球の現状を嘆いた。
ガミラス戦役で常にピリピリしていた頃と違い、白色彗星帝国の侵攻艦隊が迫ってきていると言うのに、司令部の中には、「アンドロメダが居るのだから大丈夫」等と言う余裕さえも感じられた。
「そ、総司令!?長官、土方司令を罷免してください!!長官!!」
一方、地球の防衛軍司令部では、土方の越権行為に幕僚たちが藤堂に意見するが、当の藤堂は考えに耽った。
今、土方を罷免させてしまえば、後任の人事に会議を開き、連邦政府のお偉方に事情を説明し、後任に相応しい人間の調査を行い、検討し、そこでようやく、決まる。
その間に白色彗星帝国の侵攻艦隊が太陽系に来てしまう。
指揮官を失った状態の艦隊など、ただの烏合の衆と化してしまう。
そうなれば、地球は終わりだ。
危険かもしれないが、ここは土方に任せてようと決めた藤堂だった。
そんな時、
「長官」
参謀長の西郷が藤堂に話しかけた。
西郷も土方を罷免しろというのか?と思った藤堂であったが、西郷の話を聞き、一瞬目を見開いたが、
「‥‥よかろう。西郷君」
西郷にある許可を出した。
「ハッ、ありがとうございます長官。では、準備が整いしだい現地へ向かいます」
「うむ、頼むぞ」
西郷は藤堂に何かを意見具申して、その具申が通ると、司令部のコントロール室を出て行った。
その後、藤堂は土方の提案を受け入れ土星圏を絶対防衛ラインに設定し、地球防衛軍全艦艇で白色彗星を迎え撃つ事となった。
「木星圏、ガニメデ、エウロパ、イオ、各衛星の航空機部隊は最短距離に居る第一、第二、第三、巡航空母艦隊のいずれかに合流。合流完了次第空母部隊は土星基地へ集結せよ!」
召集命令が太陽系内を駆け巡り、防衛軍の全ての艦艇はタイタン基地へと集結していく中、
冥王星からの軍属引き上げを行い、今まさに地球から艦隊集結地のタイタン基地へ向かおうとする まほろば に便乗する人物がいた。
その人物とは‥‥
「お待ちしておりました。西郷参謀長」
先程、司令部のコントロール室から退室した西郷だった。
まほろば に乗艦した西郷を良馬は敬礼しながら出迎える。
「木星のガニメデまで、お世話になるよ。月村艦長」
「はい」
西郷は木星の衛星ガニメデに何か用が有るらしく、まほろば に便乗者として乗艦した。
一名の便乗者を乗せた まほろば は土星衛星タイタンの前に木星の衛星ガニメデを目指し地球を飛び立った。
白色彗星側、地球側がそれぞれ、決戦に向けて準備を行っている中、彗星帝国本土の独房に幽閉されているデスラーの下にサーベラーが訪れた。
サーベラーはデスラーに彗星帝国が本格的に地球攻略作戦を実施した事を伝え、ついでにデスラーが執着しているヤマトも自分たち彗星帝国が撃沈すると伝える。
すると、デスラーは、
「ヤマトが撃滅されるとなれば、私は生きていても仕方がない。こんな場所で生き長らえるより、潔い死を選ぶ」
と、言いだした。
デスラーと付き合いの長い者ならば、あのデスラーがこんな事を口走るなんて‥‥と、驚愕し、デスラーは何か策があるのだろうと思っただろう。
しかし、デスラーと付き合いが浅いサーベラーはデスラーが生きている事に疲れ、絶望し等々自分に根をあげたのだろうと思い、
「いいでしょう。では、今から即決裁判を行いましょう。出なさい、デスラー」
と、デスラーを独房から出した。
後は名ばかりの裁判でデスラーに死刑判決を言い渡して処刑場へと連行して処刑すればいいだけだった。
だが、デスラーはサーベラーの思惑に反し独房から出る時、一瞬の隙を突いて看守の持っていたライフルを奪いサーベラーを人質にして脱出を図った。
「な、何をするのです!!デスラー!!」
「そろそろお暇させていただく。大ガミラスの総統にはこの部屋は狭すぎるのでね」
「総参謀長!!」
「落ち着きなさい」
「物分かりがいいな。さっ、道案内をしてもらえるかね?」
デスラーはサーベラーの背中にライフルの銃口を突きつけ、歩み始めた。
「総参謀長!!」
「サーベラー総参謀長!!」
「何たることだ!!」
サーベラーを人質にしたデスラーの姿を見た衛兵たちは、声をあげるが、デスラーの行動を静観しているだけしか出来なかった。
下手にデスラーへ飛び掛かったり、不審な動きやライフルで撃てば、デスラーがサーベラーを射殺してしまうと考えられた。
脱走しようとしている罪人を捕らえるとは言え、その過程で彗星帝国の№2を殺してしまっては、国家元首であるズォーダーからどんな咎めを受けるか分からない。
そのため、衛兵たちは手を拱いていた。
「デスラーが逃げた!!」
「総参謀長を人質にしているぞ!!」
「デスラーをひっ捕らえろ!!」
デスラーは独房のある施設から外へと出た。
しかし、デスラーとしても長く外に居る事は避けたかった。
施設内と違い屋外では狙撃と言う危険性もあるからだ。
取り敢えず、エアーカーを奪取し逃亡を図ろうと考えた時、
「総統!!」
デスラー総統の副官を務め、デスラーの側近中の側近であるガデル・タランがまるでデスラーを迎えるかのように控えていた。
「タランか?」
「こちらへ、私がご案内いたします」
タランは自らが用意していたエアーカーにデスラーを案内した。
タランの運転するエアーカーは格納庫地区へと向かいそこに止めてあった彗星帝国が採用している戦闘機、イーターⅡにてタランとデスラーは彗星帝国を脱出した。
当然彗星帝国側も脱走者に手を拱いて逃がすわけにもいかず、デスラーとタランが乗ったイーターⅡの後ろからは追撃としてデスバ・テーターが二機追いかけてきた。
デスバ・テーターの攻撃をタランは巧みな操縦技術でかわしていく。
その頃、小マゼラン星雲に集結していたガミラス残存艦隊は、デスラー総統を救出せんがために密かに小マゼラン星雲を出撃し、白色彗星を追撃していた。
その中の一隻、グラーフ・シュパー将軍が座乗するメルトリア級巡洋戦艦が自分たちに接近してくる未確認飛行物体をキャッチした。
「おっ!?敵機だ!!全艦戦闘配備!!」
自分達の艦隊に接近してくるのは、間違いなくこれから砲火を交えようとしている彗星帝国の戦闘機だった。
「たかが、一機で突っ込んで来るとは、無謀な奴め!!全艦主砲発射用意!!」
ガミラス艦隊が接近してくるイーターⅡ一機に対し一斉射撃をしようとした時、
そのイーターⅡから通信が入った。
「待て!!私はタラン将軍だ!!この機にはデスラー総統も乗っておられるぞ!!」
「なにっ!?」
「確かにタラン将軍の声だ!!」
『デスラー総統‥‥』
ガミラス艦隊はタランとデスラーが乗ったイーターⅡを守るかのような陣形をとり、彗星帝国へと接近した。
彗星帝国側も接近してくるガミラス艦隊をキャッチしていた。
「なに!?ガミラス艦隊が!?」
ゲーニッツは何故、ガミラス艦隊が接近してきたのか疑問に思い声を裏返した。
「直ちに戦闘艦を出し、迎撃しなさい!!彼奴等など一挙に踏み潰してしまうのです!!」
サーベラーが本土防衛艦隊の出撃を命じるが、
そこに、
「放っておけ」
ズォーダーが現れた。
「何故です!?デスラーは不敵にも我が彗星帝国から逃亡をしたのです!!この上ない恥辱ではありませんか!!」
「‥‥恥を知らなければならないのはお前たちだ!!サーベラー、ゲーニッツ!!」
「ええっ!!」
「なっ!?」
突然大帝から罵倒されたサーベラーとゲーニッツは狼狽する。
そしてズォーダーはサーベラーとゲーニッツを睨みつけながらその理由を話す。
「デスラーはやはり、立派な男だった。戦場から敵前逃亡するような男ならば死を覚悟して脱出などしまい。まして、部下が決死の覚悟で出撃して来る筈がない!!あの男はヤマトと戦うために、脱出したに違いない‥‥お前たちはわしをだました様だな?」
デスラーが幽閉された時、ズォーダーは、サーベラーとゲーニッツからデスラーがヤマトに恐れをなして敵前逃亡したと聞かされたので、デスラーが脱出をするまで、それを信じていた。
しかし、それは二人が示し合わせた虚偽の報告であった。
その根拠はデスラーとその部下達の行動で明らかであった。
最初に聞いた報告が虚偽であったと言う事実を知ったズォーダーは、静かに憤慨した。
「本来ならば、処刑するところだが、時が時だ!!今回だけは見逃す!!二度と愚かなマネをしたら許さんぞ!!いいな!?」
そう言い残しズォーダーはその場を後にした。
現在彗星帝国は地球攻略作戦の作戦行動中であり、そんな時に彗星帝国の総参謀長と艦隊総司令の二人を処刑すれば、作戦全体と士気に大きな影響を及ぼすと思い、ズォーダーはこの二人の処分を見送ったのだ。
デスラーとタランを追撃してきたデスバ・テーターは司令部からの命令を受け、彗星帝国に帰還した。
その後もガミラス艦隊は彗星帝国の状況を窺っていたが此方を迎撃するための戦闘艦隊が出撃して来る気配が全く無い。
「どうしたんでしょう?艦隊が出撃する気配が全くありませんが‥‥?」
タランが動きを見せない彗星帝国に対して不審に思いデスラーに訊ねる。
すると、彗星の中から一隻の戦艦が出てきた。
当初は、戦艦が出てきた時は警戒を強めたガミラス艦隊であったが、その戦艦が段々と接近してくると警戒を緩めた。
「見ろ、あれは‥‥」
白色彗星から出て来た一隻の戦艦‥‥それは、彗星帝国がデスラーの為に造り与えたノイ・デウスーラだった。
「あれは‥‥私の旗艦だ‥‥」
デスラーとタランがノイ・デウスーラに乗艦すると、ノイ・デウスーラの艦内は無人であり、まるで主であるデスラーの下に帰って来たようだった。
「私は、まだ大帝の友情を失ったわけではない様だ‥‥」
ズォーダーの行為にデスラーは感激した後、ガミラス艦隊に命令を下した。
「全速発進!!ヤマト撃滅せよ!!」
再び盟主を取り戻したガミラス艦隊は進撃を開始した。
目標はヤマトが居る太陽系‥‥
そのヤマトはデスラーの追撃を知る由もなく、故郷である太陽系を目指していた。
前方にバルゼー提督率いる彗星帝国艦隊、
後方にガミラス艦隊と白色彗星本体を控え、ヤマトにとっては苦難の戦いが始まったばかりであった。
そして、地球防衛軍にも厳しい戦いが待っていた。