土星圏を舞台にした白色彗星主力艦隊(通称:バルゼー艦隊)と地球防衛軍連合艦隊の戦いは、地球防衛軍側に多数の犠牲を出しながらも、白色彗星の主力艦隊に勝利した。
しかし、突如出現した白色彗星本体には波動砲ですら歯が立たず、周囲のガスを取り払っただけにとどまった。
ガスの中から出てきた要塞都市に防衛軍は成す術無く破れ、旗艦であるアンドロメダは轟沈。
辛くも撃沈を逃れた防衛軍艦隊の残存艦艇は木星圏まで退避した。
木星の衛星の一つ、カリストは木星の第四衛星であり、西暦2007年までに発見された衛星の中で内側から八番目の軌道を回っている。
名はギリシャ神話に登場するニュンペー、カリストーにちなむ。
カリストは太陽系に存在する衛星の中ではガニメデ、タイタンに次いで三番目に大きく、太陽系の全天体の中でも水星に次いで十二番目に大きい。
この衛星はガリレオ・ガリレイによって発見されており、そのためイオ、ガニメデ、エウロパとあわせてガリレオ衛星と呼ばれている。
比較的明るい衛星で、双眼鏡でも観察できる。
土星圏の衛星群に地球軍の基地が有る様に、当然木星圏の衛星群にも地球軍の基地が建設され、良馬が艦長を務める戦艦 まほろば は、このカリストへと落ち延びた。
その他の艦艇もそれぞれ、木星の衛星であるエウロパやイオへ無事に落ち延びた。
地上に建設された基地は彗星帝国の攻撃により、破壊されてしまっていたが、艦船の修理用ドックなどは、クレーターの影や地下に建設されており、無事で まほろば もカリストの地下、修理用ドックへその身を横たえた。
カリストに到着した時、まほろば の誰もが戦いとアンドロメダの撃沈と言う事実を目の当たりにして精神的、肉体的に疲労困憊していた。
しかし、彼らに長々と休んでいる時間、悲しんでいる時間はなく、次なる戦い‥あの要塞都市との再戦の為、今は一刻も早く艦の修理と補給をしなければならなかった。
「副長、修理の進行状況は?」
良馬が、新見に現在の状況を確認する。
「はっ、機関部の方は間もなく終了との事です」
「そうか」
「火器管制システムのチェックと損傷点検も終わりました」
砲雷長のフェリシアが火器管制の現状を報告する。
「よし、大至急、保守作業にかかれ!!通信長、通信機能の方は?」
良馬は、フェリシアに まほろば の武装修理を命じ、続いて通信長のギンガに通信機能の状態を訊ねる。
「アンテナの損傷が酷いので、送受信が出来るまでもう少し時間がかかりそうです」
「できるだけ急いでくれ。なんとかして早く地球と交信したい」
「はい」
「艦長、操艦機能は完全に回復できました」
操艦システムをチェックしていた航海長の永倉は修理が完了した事を報告する。
「そうか‥‥レーダーは修理できたし、後は通信だけだな‥‥」
「艦長、彗星帝国は今どの辺りにいるんでしょう?」
永倉が彗星帝国の現在位置を訊ねるが、
「そう焦るな。カリスト基地も通信アンテナや通信施設を破壊されたため、未だに地球との交信が出来ない状態らしい‥‥」
「それじゃあ他の基地も?」
「恐らく似た様な状況だろう。それに基地にも まほろば にも負傷者が多数出ている。今、リニスたち医務官らが頑張ってくれている」
「そうですね」
「それよりも、航海長、副長。隣にある艦を見てみなよ」
「えっ?」
「あの戦艦ですか?」
良馬に言われ、永倉と新見が まほろば の隣に横たわっている艦を見る。
其処には、一隻の主力戦艦が横たわっていた。
そしてその船体には、白い文字で『薩摩』と書かれていた。
「っ!?あれは!!」
「薩摩!?あの艦は!?」
「うん。西郷さんが乗っていた艦だ。土星圏の戦線を離脱後、なんとか此処まで辿り着いたらしい」
「それで西郷のおやっさんは?」
永倉が西郷の現状を訊ねる。
「まだ意識を取り戻されていない‥‥今、治療中だそうだ‥‥」
「そうですか‥‥」
永倉も新見も西郷を案じ、心配そうな顔をする。
そこへ、
「艦長!!通信機能が回復しました!!」
「火器管制システムも修理完了!!いつでもぶっ放せます!!」
ようやく通信機能と火器管制の修理が終わった。
後は傷ついた船外補修のみとなったが、艦の大きさから此方は少し時間がかかると報告を受けた。
「そうか。では、早速地球と交信をしてくれ」
「はい!!」
ギンガは早速地球との通信回路を開いた。
彼女自身も今の地球の状況が気になったのだ。
地球の状況は、地球に居る家族の安否にも繋がるのだから‥‥。
「艦長」
「ん?」
フェリシアが不安そうな表情で良馬に声をかける。
「地球はこの先どうなってしまうんでしょう?」
「‥‥」
フェリシアの地球の未来を不安に思う言葉はその場に居た全員の気持ちを代弁していた。
「‥‥防衛軍の主力艦隊が壊滅してしまったからな‥‥」
「ヤマトも行方不明ですし‥‥」
「残存艦隊の戦力で彗星帝国と戦えるんでしょうか?」
「‥‥」
様々な不安が漂う中、
「か、艦長!!」
地球と交信していたギンガが声をあげる。
「どうした?防衛軍本部と連絡はとれたのか?」
「そ、それが‥‥地球が‥‥地球が‥‥降伏したそうです‥‥」
「なっ!?」
「っ!?」
「なにっ!?」
ギンガの言葉にその場に居た皆が固まる。
「そんなっ!?」
「地球が‥‥」
「それは本当なのか?ギンガ?」
「は、はい‥‥まだ勧告を受諾してはいませんが‥‥彗星帝国側は無条件降伏を勧告しているそうです‥‥」
「艦長、これからどうします?」
「‥‥」
地球側の無条件降伏に良馬はこの後、どうすべきか判断を即座に下せなかった。
良馬達が地球の無条件降伏を知る少し前‥‥。
地球の防衛軍本部でも動揺と不安が渦巻いていた。
「アンドロメダが‥‥」
「地球の残存勢力であの要塞都市と戦って勝てるのか?」
「無理だ‥‥」
「ヤマトはどうなった?」
「行方不明らしいです」
「やられちまったんじゃないのか?」
「どうすればいい?」
「何か手は無いのか?」
防衛軍幕僚が戸惑っている中、
「長官。大統領から通信が入っています」
「繋いでくれ」
防衛軍の現状とこれからの対策を聞こうと、藤堂の下に地球連邦大統領が通信を送って来た。
「長官。地球防衛軍は全滅したのか?」
「残念ながら‥‥」
地球防衛軍艦艇全てが全滅したわけではないが、木星圏に残存艦隊が居る事、各艦の通信機能と木星圏の基地の通信設備が使用不能な事に、防衛軍本部はどれくらいの艦艇が残っているのか把握しきれていなかった。
その為、本部は、防衛軍は全滅したものだと思い込んでいた。
「この上は残った戦力を全て集結させ、防衛行動を‥‥」
「その戦力で守り切れるのか?」
地球本土にある主な戦力はパトロール艦、護衛艦や駆逐艦、パトロール艇(巡視艇)の中、小型艦艇の他にガミラス戦役時に使用し、現在は士官学校や訓練校に練習艦として払い下げとなった旧式艦ぐらいしかなかった。
その戦力ではとてもあの要塞都市と戦って勝てると言える戦力ではなかった。
「‥‥例え最後の一人になろうとも私は戦う所存です。大統領、市民にはまだ敗戦を知らせないでください。今知らせれば、大混乱になります」
「もう遅い!!先程報道官が発表してしまった!!」
「なっ!?」
大統領のこの言葉に藤堂は言葉をなくした。
大統領と共に防衛軍と彗星帝国軍との戦いを観戦していた大統領府の報道官が勝手に防衛軍壊滅の事実を記者発表してしまったのだ。
その為、地球の各地で市民たちは大混乱となった。
マスコミは各国の政府機関や関連施設に押し寄せ、これからの対策、詳しい情報、責任をとれ!!等と野次を飛ばした。
宇宙空港でも地球から脱出しようと、市民たちが押し寄せ、将棋倒しとなる惨事が起こった。
その他の交通機関でも同じような事が起こり、中には現状に悲観して自殺をする者も居た。
また高速道路や一般道でも逃げ惑う車で大渋滞が出来、その混乱の中、玉突き事故を起こし、其処から火災に発展する惨事が起きた。
地球市民が極度の恐怖によってパニック状態となっている中、中嶋家の加奈江と火憐、紅葉そして中嶋家に来ていた八神家の皆は、バルコニーからパニックになり逃げ惑っている人々を、冷静に見ていた。
「平和ボケも此処に極まれりね」
「まったくだ。ガミラスとの戦争時にはあそこまで取り乱したりはしなかった。全く情けない限りだ」
眼下で逃げ惑う人々を見ながら加奈江とシュベルトは呆れながら言う。
「お母さん」
「ん?どうしたの?」
加奈江とシュベルトが声のした方を向くと、子供たちが不安そうに見つめている。
「地球はどうなっちゃうの?」
「防衛軍は全滅したって‥‥良馬さんやギンガ姉さんは‥‥?」
二人の母たちは子供たちを抱きしめ、不安を拭い去ろうとする。
「大丈夫よ。ギンガも良馬君もきっと生きているわ。もうじき、地球に戻ってきてアイツらを追っ払ってくれるわ」
(そうよ、ギンガも良馬君もきっと生きているわ‥‥きっと‥‥)
地球の混乱状況をその元凶である彗星帝国の大帝ズォーダー以下の幕僚達はモニターにてその光景を眺めていた。
「あの騒ぎ様、慌て様‥‥つくづく地球人が野蛮で愚かな人種であるよい証拠ですわね」
サーベラーが地球人たちの行動を見て嘲笑う。
「一気に捻り潰してしまいましょう」
ラーゼラーがズォーダーに進言する。
「まぁ、それは面白い余興ですわね」
サーベラーもラーゼラーの意見に同調する。
「いや、久々に出会った美しい星だ。潰してしまうには惜しい。全地球人を奴隷として膝まずかせるのも悪くはない。ゲーニッツ!!直ちに地球へ使者を送れ!!地球に無条件降伏を命じろ!!」
「ハッ!!」
ズォーダーは地球を潰さず、地球人の奴隷化を望み、ゲーニッツに使者を送る様に命じた。
ゲーニッツは直ちに一個小隊の艦船を地球へ使者として送った。
地球側も何もせず、彗星帝国の艦船を向かい入れる筈もなく、戦闘衛星と攻撃ステーションにて迎撃するが、彗星帝国軍の艦船の侵入を阻止する事は出来ず、逆にその殆どが破壊されてしまった。
上空に侵入した彗星帝国軍の艦は、防衛軍本部へ通信を入れた。
「長官、敵艦より通信が入っております」
「繋げ‥‥」
「ハッ」
本部の大モニターには使者として地球へ赴いたラーゼラーの姿が映り、降伏勧告を地球へ迫った。
「我が全能なる大帝星、ガトランティス。大帝ズォーダーの命により汝ら地球人類に告ぐ!!生存か、絶滅か選択をする時が来た!!地球時間一時間以内に決定せよ!!汝らが生き残る道は大帝ズォーダーの御前に膝まずき、無条件降伏せよ。返答なき場合、我々は実力を行使する!!よいな‥‥」
彗星帝国の使者(ラーゼラー)の通信を聞き、
「畜生!!バカにしやがって!!」
「こうなれば徹底抗戦だ!!」
「だが、勝ち目はないぞ」
「地球市民を道ずれにする気か!?」
本部でも様々な意見が飛び交う中、藤堂は大統領官邸へと赴き、返答をどうすれば良いかと指示を乞う。
「大統領閣下、事態は急を要します。ご決断を!!」
「待て、まだ話し合いの余地が有るのではないか?一度でもいい。打診してみてくれ。この事態を乗り切れるのであれば、私は名誉も誇りも捨てるつもりだ」
「‥‥はい」
大統領は彗星帝国相手に会見を申し込んだ。
しかし‥‥
「ハハハハハ‥‥和平交渉だと?たわけたことを」
ズォーダーは地球からの返信を嘲笑った。
「これ以上、猶予を与えてはつけ上がるばかり‥‥いっそ一思いに‥‥」
サーベラーはやはり地球を滅ぼす事をズォーダーに上申する。
だが、ズォーダーはやはり地球を諦めきれないのか、
「まぁ待て、サーベラー楽しみはゆっくりと味わうものだ。我々の力を今一つ見せつけてやるか‥‥手始めは‥あの星がよかろう」
ズォーダーは地球側の意思を完全に挫くため、見せしめのために月を目標に要塞都市に装備されている大口径の砲門で月を攻撃し始めた。
要塞砲の攻撃を受けた月は崩壊までは至らなかったが、月基地は完全に破壊され、表面に大きな亀裂を生じさせ、大爆発が起こり、赤く燃え上がった。
「月を!?」
「はい。敵要塞砲の集中砲火を受け、全体的に白熱化しております」
彗星帝国の月攻撃はすぐに大統領の下へと届けられた。
(見せしめか。次は地球を狙うと言う事か‥‥)
敵の行動を藤堂はいち早く読んだ。
そしてその意味も‥‥
「命運は尽きた‥‥もはや‥‥降伏するしかない‥‥」
大統領は項垂れ、彗星帝国に対して降伏する事を決断した。
地球の夜空には太陽の如く、赤く燃える月が浮かび上がった。
ズォーダーの思惑通り、月への攻撃は地球連邦政府に降伏を選択させる決め手となった。
「ハハハハハ‥‥地球人よ、分かったか?コレが大宇宙に君臨する私の力だ!!尚、私に刃向うも良い。だが、その美しい星をみすみす破滅させることもない。降伏まで二十四時間の猶予を与える。それが、私が貴様らに与える最後の情けだ!!」
ズォーダーは最早彗星帝国の勝利に揺るがない事を信じ、高笑いをした。
大統領は官邸に記者達を集め、彗星帝国に対し、無条件降伏をする旨を伝えた。
それはメディアを通じ、全世界に伝えられた。
当然、その通信は まほろば も受信していた。
「降伏だと!?冗談じゃない!」
「俺たちはまだ戦えるぞ!」
「降伏したって、利用価値がなくなれば皆殺しに決まっている!破滅を僅かに先延ばしにするだけじゃないか!!」
「あんな奴らの奴隷になるなんて真っ平御免だ!!」
連邦政府の無条件降伏決定に、軍部、特に前線の宇宙戦士たちは強く反発した。
それはこの まほろば の乗員も例外ではなかった。
「‥‥」
「艦長‥‥」
「通信長‥艦内マイクを」
「は、はい」
良馬の冷静な態度と言葉にギンガは少し、戸惑いつつ艦内マイクを入れた。
良馬は艦内放送を通じて負傷者以外の全乗組員を食堂へと集めた。
作業中の乗員も一時作業を止めて集まる様に指示が来た。
集まった乗員たちは地球が彗星帝国に対し、降伏したことによる不安。
地球防衛軍主力艦隊の壊滅による戦力不足による不安。
地球に残してきた家族の心配等、決して明るい表情の者は居ない。
皆がそれぞれの不安を抱いている中、艦長の良馬が艦橋要員達と共に食堂にやって来た。
乗員は良馬がどのような用件で自分達を集合させたのか気になった。
もし此処で武装解除し、降伏すると言うのであれば、暴動が起きそうな、雰囲気でもある。
「皆‥‥無条件降伏の事は既に聞き及んでいると思う‥‥地球防衛軍主力艦隊は壊滅し、敵の都市要塞は今、地球へと迫っている。だが、我々はまだ生きている!!まだ戦える。‥‥土方提督は最後に『死ぬな!!生きて戦え!!』と仰っていた‥‥。此処で降伏してしまっては、土方提督やアンドロメダを始めとする多くの戦友たちの死が無駄になってしまう!!」
「‥‥」
皆は沈黙し、良馬の言葉を聞いている。
「‥‥俺は降伏を拒否する!!最後まで戦う!!」
良馬は連邦政府の意思に反し、徹底抗戦の意思を乗員全員に伝える。
「尚、之は連邦政府や司令部の意思に反する事だ‥‥そして之は強制ではない。下艦したい者は下艦を許可する。戦力は極めて少ないが、ヤマトはガミラスとの戦争でもただ一隻でガミラスの妨害の中、イスカンダルまで辿り着いた‥‥希望は決して無い訳ではない!!例え まほろば 一隻でも俺は行く!!」
良馬は地球が降伏を決定した時、自問していた。
また逃げるのか?と‥‥
ヤマトの副長の話が来た時も、アンドロメダと共にヤマトを追撃した時も、行こうと思えば行けた‥‥
しかし、良馬はどちらとも行けなかった。
いや、理由をつけて行かなかったのかもしれない。
だが、自分が行けば すくね を‥‥三木を助ける事が出来たのかもしれないと、自分を攻めていた。
だからこそ、地球の危機にこのまま降伏していいのか?と、思い、今度こそ逃げないと決め、降伏を拒否する意思を固め、決断したのだ。
良馬が降伏の拒否を表明した時、
「一隻では‥ないぞ‥‥」
突如、まほろば のスピーカーから聞き慣れた声がした。
「この声はっ!?」
「西郷のおやっさん!?」
食堂のモニターには先ほど意識を取り戻したばかりの西郷の姿が映し出された。
その姿は頭に血が滲んでいる包帯をしている痛々しい姿であるが、命に別状はない様だ。
「横にある薩摩を連れて行くがいい‥‥薩摩の乗員も君たちと同じだ。降伏を拒否し、最後まで戦う覚悟でいる‥‥残念ながら‥‥私は指揮を執れる体ではない。君たちを見送る事しか出来んが‥‥許してくれ」
「いえ、御無事なだけでないよりです。地球の事はお任せ下さい!!」
「月村艦長。無条件降伏をした地球を‥‥長官を責めてはいかんぞ。勝ち目のない戦いを挑んで無益な血を流すよりも、屈辱に耐えながら明日の光を待つ方を選んだんだ。実にあの人らしい‥‥」
「はい」
「参謀長命令だ‥‥行け‥‥地球を救うのだ」
「了解しました」
良馬を始めとし、まほろば 乗員一同は西郷に敬礼した。
まほろば と 薩摩 の徹底抗戦の意思は固められたが、まだ作業が完全に終了したわけではなく、作業は急ピッチで行われた。
その間、下艦したい者は艦を降りるよう通達されたが、降りるものは居なかった。
しかし、ガミラスとの決戦‥冥王星海戦の出撃前同様、重傷者だけは下艦を余儀なくされた。
作業を行っている まほろば の下に通信機能が回復したガニメデ基地から通信が入り、ヤマトの無事とガニメデ基地を出撃したと言う報告が齎され、皆は歓喜した。
まだ希望はあると‥‥
だが、そのすぐ後で、地球を目指すヤマトが、ガニメデ沖合にて、デスラー総統率いるガミラス残存艦隊と戦闘状態となった事が伝えられた。
ヤマトは木星圏をワープで離脱後、一気に彗星帝国に対して攻撃を仕掛けようとしたが、今まさにワープをしようかとした矢先にヤマトの周囲にガミラスの急降下爆撃機、スヌーカが多数ワープアウトしてきた。
これはガミラスの瞬間物質転送機から転移されてきたもので、艦載機の転移終了直後、ヤマトはガミラス機の猛攻を受けた。
ヤマトにとっては、力攻め一本やりの白色彗星艦隊よりも厄介な相手で案の定、ヤマトは苦戦を強いられた。
「くそっ!何もできないのか!?」
ヤマトとガミラス残存艦隊との戦闘が始まったと言う報告を聞き、良馬は苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
まほろば の修理、補給がまだ終わっていなので、出撃したくても出撃出来ない。
「通信長、ヤマトに通信は送れるか?」
「やってみます!!」
ギンガはヤマトと交信を試みる。
応援に行けないもどかしさに、皆歯ぎしりしながら戦況を案じていた。
ヤマトとしても、木星圏でガミラス相手にモタモタしていられなかった。
そこで、攻撃目標をデスラーが座乗する戦艦に絞り、波動砲にて、一気に決着をつけようと試みるも、デスラーも対ヤマト戦略を練っており、機雷を瞬間物質転送機にてヤマトの波動砲の砲門の至近距離に転移させ、波動砲を封じた。
波動砲を封じられたヤマトは、次の策として小ワープにて、デスラー艦へと接舷白兵戦へと持ち込んだ‥‥。
ギンガはヤマトへ通信を送り続けていたが、ガミラスが妨害電波を流している様で、ヤマトへの通信が届かなかったが、暫くすると、ヤマトと通信が繋がり、ガミラスとの戦闘経過の報告とヤマトの現状が伝えられた。
「デスラー総統は旗艦を移し、ガミラス艦隊と共に太陽系から退去。ヤマトは損傷したが、自力修復可能。戦闘及び航行に支障なし」
との通信が入ったため、皆一様にホッとしたが、続報に まほろば の艦橋要員は凍りついた。
その内容とは‥‥
「当艦航海長、島大介は白兵戦の途中、爆発に巻き込まれMIA。当面は当艦艦長代理・古代 進と技師長・真田 志郎が職務を、分析ロボットアナライザーが操舵を代行する。尚、ガミラス艦隊との戦闘により当艦の波動砲は使用不能」
というものだった――。
デスラー艦との接舷の際、ヤマトは波動砲の近くの機雷ごと、小ワープし、その機雷を誘爆剤として強引にデスラー艦と接舷した。
その時の衝撃でストライカーボルトが吹き飛んだ。
修理はとても応急修理で行えるものではなく、またガニメデ基地に戻り補修のやり直しでは時間がかかるとの判断で波動砲の修理は行わないものとされた。
また、ヤマト航海長の島大介に関しては白兵戦闘時、甲板にて、突入部隊の援護をしていたのだが、その際、敵の攻撃による爆発が起き、衝撃波を受け、艦周辺の重力派が届く範囲を抜け、宇宙へと放り出されてしまったのだ。
島の行方が分からなくなったのは戦闘終了後であり、古代としても当然捜索したかったのだが、その古代本人も白兵戦闘中爆発に巻き込まれ、右肩を負傷し、意識を取り戻したのはかなり時間が経ってからだった。
地球と親友‥‥。
天秤にかけられるものではないが、古代は苦渋の決断で、島の捜索を諦め、ヤマトが応急修理終了後、地球へと向かう事を決めた。
勿論応急修理中、島の捜索も行われたが、応急修理終了までの間に島を発見する事は出来なかった。
一方、カリストでも まほろば と 薩摩の出撃準備は着々と進められていた。
各員が準備を進める中、良馬は拡散波動砲の使い方を考えていた。
ヤマトの生存は嬉しい誤算であるが、肝心の波動砲は使用不能。
それに まほろば と 薩摩 が搭載している拡散波動砲は「外」を制圧・破壊するための物であり、敵艦隊や地上基地の無力化には絶大な威力を持つが、都市帝国のような対要塞戦闘では、内部への致命傷を与えるのは、単艦では困難だ。
それにあのガスバリア‥‥。
二隻の拡散波動砲で要塞都市のガスバリアを貫通させてどれだけのダメージを与えられるだろうか?
恐らく完全に破壊する事は無理だろう。
外部の建造物を一部破壊するだけで留まる。
もし、都市の重要拠点が都市帝国の中央部地下に作られていれば、折角の波動砲での攻撃も意味がない。
ならば、波動エネルギー弾の拡散開始点を、例えば都市帝国の内部に合わせてはどうか?
波動砲自体の出力は、エネルギー増幅装置のおかげでヤマトより上回っているから、拡散前の貫通力も理論上は上回っている。
内部で拡散させれば、拡散した波動エネルギーは例えは悪いが寄生虫の如く、敵の内臓を食い尽くし、寄生した相手を死に至らしめる。
ただ、問題は射程だ。
単なる拡散波動砲より敵との距離を詰めなければならないし、発射態勢中は一切無防備になるのだ。
単艦では極めて難しい。
味方艦の支援なしでは危険だろう。
とはいえ、今浮かんだ事も、此方が敗れれば元の黙阿弥であることはわかっている。
良馬は気持ちを出撃準備に切り替えた――。
良馬が要塞都市の戦力から現状の補修作業へと切り替え、指揮を執っていると、厨房から通信が入った。
「忙しい所を悪いな、艦長」
モニターに映っているのは船務科長兼厨房長のディアーチェだ。
「いや、構わないがどうした?」
「基地の連中から補給物資をタップリと貰ってな、出撃と戦勝の前祝に今日の献立は赤飯に上質な黒豚肉を使ったトンカツだ」
「随分豪華だな」
「出撃前にグルテンのカツレツじゃ味気ないだろうし、落ち込んでいる時は元気が出るものを食べるに限るだろう?」
「メニューは厨房長に任せるよ。みんなが元気出るのを作ってくれ」
「了解、任せておけ!!」
ディアーチェは嬉しそうに言った。
元々面倒見の良い性格であるし、なにより、自分の作った料理を「うまい、うまい」と言って食べる事に嬉しさを感じる彼女だ。
本心で嬉しいのだろう。
他の皆の役立つことに関して‥‥
徹底抗戦を望み、士気が高い様に見えた まほろば であったが、実際は空元気の様なものだった。
土星圏での戦闘と違い、圧倒的に劣勢な戦力で強大な敵にこれから立ち向かわねばならないのだ。
無理にでも自分を明るく、勇ましく繕っていなければ、絶望と恐怖で押し潰されてしまう。
そんな乗員たちにディアーチェの作る食事はきっと皆に活力を与える原動力となるだろう。
ここで舞台は地球圏を離れ、地球とテレザート宙域の間のとある宙域に移る。
ここ最近、管理局の次元航行艦の遭難が多発した。
それによりヒアデス星団近海は封鎖されたのだが、ヒアデス星団手前は未だに封鎖はされていない状態であり、航行する事は可能だった。
そんな中、クロノが指揮するクラウディアに救援信号が入り、クラウディアは信号の発信源である宙域へと急行した。
発信源の宙域には僚艦のエスティマが機関を停止したままの状態で停船していた。
撃沈された訳ではない様子なので、クラウディアの乗員一同はホッとした。
外から様子を見る限り、特に外装に損傷はないが、内部で‥‥艦を動かしている人間に何かあったのではないかと思い、クロノは武装局員らと共に、内火艇にてエスティマに接舷した。
「これは一体‥‥」
「何が起きたんでしょう‥‥?」
エスティマに乗艦したクロノたちはエスティマの内部の異様な雰囲気に戸惑う。
クロノたちを出迎えたのはどういうわけかエスティマの艦長でも副長でも乗艦している執務官でもない、船務長を務める士官だった。
取りあえず現状を確認するため、クロノはその士官にブリッジへ案内を頼む。
案内されたエスティマのブリッジでは、数人の局員が長靴、使い捨て前掛け、手袋とマスクを着けて、清掃作業を行っており、ブリッジにも艦長や副長などの艦の上級士官らの姿は見えなかった。
そして、ブリッジの床には大量の殺菌薬剤と洗剤が塗られ、同時に消臭剤も撒かれている。
エスティマのブリッジは薬剤の臭気の中に混じる、糞尿などの汚物の臭いも混じっており、正直に言って臭い。
連れてきた武装局員はマスクを着けていない為、全員この異臭に顔をしかめており、おそらく自分(クロノ)も無意識で顔をしかめているだろう。
中には手で鼻をつまむ者、ハンカチで鼻と口を抑えている者も居る。
ひとまずクロノは事情を聴くため、悪臭が漂うブリッジから食堂へと移動した。
まず船務長に此の艦に一体何があったのかを訊ねると、彼は自分の船室にて事務作業をしていると突如艦内に衝撃が走り、ブリッジに連絡を入れても誰も出ないので、直接向かってみると、艦長以下のブリッジクルーと執務官、武装隊員たちがことごとく卒倒しているか腰を抜かしており、大半が失禁・脱糞していたというのだ。
機関もいつの間にか停止しており、艦を運用する局員も艦を動かすことができるような状態ではなかったため、オフシフトの通信科の局員を呼び出し、救援信号を出してもらったと言う。
船務長以外のオフシフト中だった局員たちも船室にいたところ、突然船務長から呼び出された為、ブリッジに行ったところ、艦長以下のブリッジクルーが全員床に倒れていたと証言した。
その後、オフシフト中だった局員全員で救難信号を発信し、倒れているクルーの介抱とブリッジの清掃作業をしながら救援を待っていたと言う。
「艦長たちに面会する事はできますか?」
クロノが船務長に艦長との面会を希望する。
「面会自体は可能ですが、精神的外傷を負っていますので、文字通りの面会だけで、恐らく事情は聴けないと思いますが‥‥」
船務長は自分が見た艦長らの様子から当分彼らに事情を聴くのは無理だと説明したが、クロノはそれでも念のため、と面会を希望した。
そして、クロノは医務室にて艦長らと面会したが船務長の言うとおり、彼らはベッドに横になりながら魘される者、発狂寸前の者、意識を失い深い眠りにつく者と事情を訊ねても答えてくれそうな者は居なかった。
エスティマはクラウディアから艦を運航できるスタッフが派遣され、クラウディアと共に帰還する事とした。
最近多発している次元航行艦の遭難事件の中、この宙域にエスティマ一隻を残す訳にもいかなかった。
先日遭難したノアの最後の通信では、ノアは謎の敵艦隊の襲撃にあったことが判明しており、更に此処はあのテレザートからさほど離れていない宙域‥‥。
もしも先日のような艦隊と鉢合わせすれば二隻とも危ない為、クロノは帰還という決断を即決した。
エスティマと共に帰還途中のクラウディア、その艦長席にてクロノは、
(任務を放棄せざるを得ない程の精神的外傷とは、一体何があったのだろうか?しかも船務長が船室からブリッジに辿り着く僅かな時間で‥‥)
と、エスティマの艦長たちに一体何があったのだろうかと考えを巡らせていた。
やがてエスティマとクラウディアは近くの管理世界へと降り、そこでエスティマに何があったのか徹底解析が行われた。
その結果、以下の様な映像記録がエスティマのブラックボックスに残されていた。
当初、エスティマはヒアデス星団手前で此処最近多発している次元航行艦遭難事件の被害にあった僚艦の捜索を行っていた。
その捜索の最中、エスティマの横を追い抜いて行く宇宙船らしき飛行物体を発見した。
エスティマの横を通過して行ったその宇宙船は、管理局の次元航行艦や管理世界を航行している次元航行船とも異なる船型をしていた。
どちらかと言えば、脱出ポッドを大きくした様な形、または宇宙ステーションを個人が使用するぐらいに小さくした様な形の非武装船だった。
そして解析したところ、その宇宙船からは高レベルの魔力エネルギー反応が認められた。
恐らくその宇宙船の乗員の魔力レベルだと思われ、エスティマは直ちにその宇宙船に対し停船命令を出した。
すると、その宇宙船はすんなりと停船命令を聞き、停船した。
艦長らは早速この宇宙船の拿捕を決定した。
その映像部分を見たクロノは顔をしかめた。
(ただ高レベルの魔力が感知されただけで、その船を臨検するとは‥‥これでは、海賊やテロリストと同レベルではないか。いつから管理局はこまで偉くなったんだ?こうした傲慢な態度や強引なやり方が問題の引き金になるとは思わないのか?)
そう思いつつ呆れた。
これが地上でスピード違反をした車両という事ならばまったく問題はないが、現場は星の海‥‥法定速度など存在しない空間である。
しかもエスティマが停船していた宙域は管理局が指定する管理区域ではない。
本来ならば、この船はエスティマの出した停船命令は無視しても一向に構わない筈だ。
しかし、あの宇宙船の乗員は律儀にエスティマの停船命令に従った。
やがてエスティマがその宇宙船に横づけされ、強制椄舷して武装隊員を送り込もうとしたところ、 突然ブリッジの一角に金色の光球が出現し、光球の中から、一人の青いドレス姿で金髪碧眼の若い女性が現れた。
恐らく転移系の魔法を使い自分の宇宙船からエスティマのブリッジに現れたのだろうと、推察された。
「私はテレサ。何のご用でしょうか?ご用向きを伺います」
いきなり自分たちの艦に転移してきた女性に対し、呆気にとられるクルーを尻目に、女性ははっきりと名を名乗り要件を訊ねてきた。
(あっ、あの女性はっ!?)
クロノはテレサと名乗る女性に見覚えがあった。
(似ている‥‥あのテレザートで見たあの女性そっくりだ!!)
テレザートが白色彗星と衝突して消滅する寸前、テレザート星の表面に浮き出た女性にそっくりの容姿をテレサはしていた。
(あの女性とテレサは何か関係があるのか?)
クロノがテレザートに浮かび上がったあの女性とテレサと名乗る女性は何か関係があるのかと思っている中、映像は進んで行く。
デバイスを向けようとした執務官や局員を艦長は余裕の笑みを浮かべて制しこの空間を航行している理由を訊ねると、
テレサと名乗った女性は、
「私の‥終焉の場に赴く途中です‥‥ご用件はそれだけでしょうか?」
と、目的を告げた後、彼女は一言も話さなかった。
その間、テレサの全身からは詳細不明のエネルギーが発されており、その強度を測定すると、何とその強度は測定機器を測定不能にするぐらい凄まじいモノだった。
管理局員ならば、未知の強大な力を持つ人間を放置することはできない。
何としても本局へ連れて行き、しかるべき処置‥‥つまり、難癖をつけて強引に管理局へ組み込んでしまおうとした。
この時、エスティマの艦長はかつて、リンディ・ハラオウンが第97管理外世界にて発見し、民間協力者から嘱託局員、そして今では管理局では有名なエース・オブ・エースと言われる 高町なのは 以上の人材を確保できた。
これで自分の出世は間違いないと考えていただろう。
艦長はテレサに対して本局への任意同行を求めるがテレサはこれを拒否した。
すると、艦長はテレサに対し公務執行妨害だと通告し強引に身柄を拘束して本局へ連行しようと彼女をバインドで拘束した。
しかし、その直後にそれは起きた‥‥。
テレサの髪は逆立ち、彼女から発されるエネルギーが急激に拡大した。
そのエネルギー量は測定器を完全に破壊するほど凄まじいものであり、そのエネルギーの影響を受けた艦長、執務官と武装隊員は吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、他のブリッジクルーも座席から吹き飛ばされて床に転がると身動きがとれなくなった。
それはまるで金縛りか体の上から重石を乗せられているかのようにも見えた。
そしてテレサを拘束していたバインドは脆くも崩れ去っていった。
なお、エスティマのエンジンが停止したのも彼女が発したこのエネルギーの影響だった。
「手荒な真似をしてしまった事に関しては謝罪します。ですが、私は自分の終焉を他人に決められるわけにはまいりませんので‥‥」
昏倒している局員らに謝罪の言葉を発し、一礼しながら再び光球に包まれて彼女は再び姿を消した。
恐らくエスティマに来た時と同じように再び転移して、自分の宇宙船へと戻ったのだろう。
そして、エスティマの横にあった宇宙船は再び物凄いスピードでその宙域から離れて行った。
その後、すぐにブリッジに船務長が現れ、彼の証言通りの映像が流れた。
『‥‥』
クロノを含めたクラウディアの幹部局員はこの映像を見た後、暫しの間一言も言葉を発せなかった。
まさか、エスティマのブリッジクルーの昏睡の原因が、自分たちが引き起こした自業自得の結果だとは思いもよらなかったからだである。
もし、この場に本局の次元世界拡張・拡大推進派や魔導師至上主義の高官が居れば、このテレサという女性に公務執行妨害または公務非協力罪の罪状を着せて、広域指名手配をかけていただろう。
「自分の終焉って、あの人は自ら自分の命を絶つつもりなんでしょうか?」
長い沈黙の中、ようやく幹部の一人がクロノに訊ねる。
「あるいは自分の死期を悟って自らの故郷‥または思い出の地へと向かうところなのかも知れないな‥‥」
幹部の質問にクロノが応じ、さらに言葉を続ける。
「一つだけわかったのは、彼女の眼だ。あれは死を恐れず、覚悟をすっかり決めた者の眼だ。ああいう眼をした者を引き留めるのは、正直言って無理だ。ましてや測定器を破壊するだけの力を持つ者など、刺し違える覚悟を持っても不可能だ」
仮にテレサを指名手配犯にしたところで、彼女の力に及ばない自分たちがいくら頑張っても無駄だと思った。
管理局が誇るエース・オブ・エース、高町なのは、金色の死神、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、夜天の主、八神はやて、その配下であるヴォルケンリッターの全員を束にしてぶつけてもあのテレサと言う女性には勝てないのではないかと思う。
そしてクロノは過去、テレサと同じ眼をした女性を思い出した。
あれは忘れもしない、十年以上も前の事‥‥
第97管理外世界で起きた、フェイト や なのは、ユーノと出逢った切っ掛けとなる大事件の主犯‥フェイトの生みの親であるプレシア・テスタロッサ‥‥
通信画面越しで見た彼女の眼も不治の病に体が侵されていたにも関わらず、テレサ同様、すでに覚悟が決まった眼をしていた。
プレシアとテレサの目的は全く違えど、何人たりとも干渉させない強烈な意思があるところは共通している。
「結局のところ、あの人と私たち管理局が解り合う余地はなかったんでしょうか?」
恐る恐る訊ねる幹部にクロノは、
「生まれてからずっと管理外世界で過ごし、管理世界も管理局の存在も知らなかった人間が、魔力やそれに準じる力があるから、いきなり管理局の元に来いと言われて、『はい、分かりました』というのは明らかに無理がある。普通ならば怪しみ抵抗するものだ。高町なのは、八神はやて のケースは例外中の例外だ。あの様なケースがそう簡単にあるわけがない」
と、母(リンディ・ハラオウン)の発見はまさしく幸運中の幸運だと言い切るクロノだった。
そして心の中では、
(テレサは‥‥彼女はどこへ向かったのだろうか?せめて、彼女が安らかに眠れるよう祈るしか出来ないか‥‥)
と、テレサの冥福?を思い、祈ることしか出来なかった。
彼がテレサの最後を知るのはもう少し先になってからの事だった。