タグボートに引かれ、まほろば が地球に帰還したのは、敵の超巨大戦艦の消滅から約五時間後の事だった。
ドックには多くの市民やマスコミが詰めかけている。
声こそ聞こえないが、スクリーンに映る市民は皆明るい表情をしている。
市民のあの笑顔を守ることができただけでも、命令を無視して戦った価値はあるが、我々は勝ったわけではない。
地球防衛軍はやっと再建の目途がたったにも関わらず、たった一回の戦闘でまたもや壊滅に近い打撃を受けた。
元々数が少なかったとは言え、ガミラスとの戦争では八年~九年の歳月を要したが、彗星帝国との戦争では一年も経っていない中での今回の防衛軍の壊滅。
負けはしなかったが、これが勝利とはとても言えない状況だった。
しかし、後世の歴史の教科書には恐らく「勝利」と言う言葉が使われてしまうだろう。
ヤマトが命令違反を犯してまでテレザートに赴き、白色彗星帝国の情報を仕入れてもなお、これだけの被害を出してしまった。
もし何もしないままでいたら、地球人類は知らぬ間に彗星帝国に蹂躙され、彼らの手によって絶滅か奴隷化されていたはずだ。
我々地球人類は、何が誤っていたのかを真剣に省みて改善しないと次はもうないかも知れない。
宇宙艦船用ドックに着岸した まほろば、ヤマト、薩摩 で最初に下艦したのは負傷者、その次に今回の戦闘で無念の戦死を遂げた勇敢なる宇宙戦士たちだった。
良馬、ギンガ、リニスの三人は まほろば から降ろされていく彼らの棺を身じろぎひとつせず、敬礼して見送った。
岸壁では、薩摩 まほろば、ヤマト を下艦した乗員たちが家族や恋人、友人を見つけて再会を喜ぶ者がいる。
今回の戦闘において遺体すら還らない者が大部分なのだから、生還ともなれば喜びもひとしおだろう。
しかし、悲しみの表情で動かない者、泣き崩れる者の方が多かった。
良馬、ギンガ、リニスの三人はその光景を まほろば の甲板から見ていた。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ‥‥
カーテンの隙間から朝の陽光が差し込んでいる。
アラームが鳴り始めてから約三十秒後‥‥
「うっ‥‥くっ‥‥んっ‥‥?」
もぞもぞと動く手がアラーム音を鳴らしている目覚まし時計に伸び、アラーム音を止めた。
「ん~‥‥」
良馬はまだ疲労感が残る身体を起こした。
そしてチラリと隣を見る。
そこには、毛布にくるまった長い藍色の髪をした女性‥中嶋ギンガが眠っていた。
あの後、良馬たちは生きて戻る事は無いと思っていた地球に再び戻った。
まほろば が係留されたドックには、月村家の面々が迎えに来てくれた。
互いに積る話はあったが、良馬もギンガもリニスも今は休息を欲した。
そこで、三人は良馬の実家、月村家の屋敷へと向かい、休息をとる事とした。
ギンガは中嶋家へ送ろうとしたが、本人が良馬と一緒に居たいと言って、実家の中嶋家にギンガの無事を伝え、月村家へと向かったのだ。
月村家の大きな風呂で疲れを癒し、ノエルの心尽くしの手料理を食べた後、寝室へと向かった。
夜、眠ろうとしてもあれだけの体験をして疲れ切った筈なのに良馬はなかなか寝付けなかった。
そんな良馬の下にギンガが訊ねてきた。
ギンガも良馬同様、なかなか寝付けなかったらしい。
それから二人はあたかも当然の様に体を重ね合った。
いつぞや、ディアーチェが言った、「食べる事は生きている者の特権である」その言葉も身に染みたが、今の良馬とギンガは、こうして体を重ね合う事で互いの温もり、生きている事を確認しあった。
そして良馬は此処でようやく土方を始めとする今回の戦いで死んでいった多くの戦友たちに涙を流した。
そんな良馬にギンガはあやすかのように良馬を抱きしめ、彼の頭を優しく撫でた。
心地よい温もりの中、ようやく良馬は眠る事が出来た。
目が覚めた良馬は、未だに眠るギンガの前髪をすく。
「んっ‥‥んぅ~‥‥」
ギンガは少し、身をよじるが起きる気配はない。
そんなギンガの様子に良馬は、クスッと笑みを浮かべ、もう少し見ていたかったが、そろそろ朝食の時間なので、ギンガを起こす事にした。
「ギンガ、起きて、朝だよ」
「‥んん?良馬‥さん?」
「うん。おはよう、今日もいい天気だよ」
寝ぼけ眼を擦りながら起き上るギンガ。
起き上がった為、ギンガの身体を隠していた毛布がスルっとその身から落ち、ギンガの美しい裸体を露わとさせる。
「っ!?」
その事に気が付いたギンガは慌てて毛布を手繰り寄せ、自らの身体を隠す。
「別に隠さなくてもいいじゃないか。互いに何度も見てきた仲なんだし‥‥」
「でも‥その‥やっぱり、そうマジマジと見られると‥‥」
「やっぱりギンガは可愛いな」
良馬は、顎先をくいと上げさせると、顔を寄せていった。
その意図を悟ったギンガは受け入れるように目を閉る。
そして、音もなく唇と唇は触れ合った。
触れ合う時は一瞬で、されど心が繋がるのは無限の時にも思える。
時間はたったの数秒。
二人の音もなく唇は離れた。
朝食の最中、月村家に一本の電話が入った。
掛けてきたのはこの地球におけるギンガの父、中嶋源三郎からだった。
「明後日、ヤマトの幹部乗組員に対する査問会議を行うことになった。君も証人として出席するようにとのお達しだ」
「分かりました。でも、随分早いですね。それに軍法会議ではなく、査問会とは‥‥」
最初のヤマトの脱走は兎も角、政府の降伏命令を無視して戦闘に持ち込んだ事から本来ならば自分も共犯でその査問を受ける身となって居る筈だ。
いや、ヤマトの脱走を見逃している点で、自分も共犯だったのだ。
同じくヤマトを追撃した土方は彗星帝国との戦いで戦死しているので、ヤマト脱走の件に関しては、自分が最高位となっている。
そう言う意味では当然出席もするし、処分は甘んじて受けるつもりでいたから一向に構わないが、彗星帝国との戦闘が一応終結してからまだ日が経っていない。
「まっ、大人の事情という奴さ」
源三郎は些か肩を竦める。
「軍は保有していた戦力の大半を失った。そのため、直ぐに再建に入らねばならない。そのためには、再建の足枷になり得る事は早々に片付けておかなければならないのだよ」
「はぁ‥‥」
良馬は源三郎の説明に頷く。
確かに彗星帝国の国家元首であるズォーダーは斃れた。
しかし、彼らの支配域はアンドロメダ星雲にあると推定されており、新たな君主が地球に対する報復戦ないし仇戦を企てる可能性がある。
それに、彼らは第十一番惑星の兵站基地を再建し、そこに太陽系内の残存戦力を集結させている。
連中がいつ地球への反攻をしてくるか分からない。
それにガミラス、白色彗星帝国‥‥そして、ギンガがかつて所属していた時空管理局‥‥少なくとも三つの星間国家が存在したのだ。
今後も新たな好戦的かつ侵略的な勢力とぶつかり合う可能性も否定できない以上、戦力の再建は必須だ。
その為には今回の戦争の反省と教訓のフィードバックは欠かせない。
(ヤマト脱走の件に関しては、真相に近い部分が市民に知られており、軍上層部に対する批判が強くなっているため、上層部が古代君達を処断することは無いだろうが、メンツを潰されて収まりがつかないお偉方も居るだろうし‥‥)
信賞必罰は軍の鉄則であるが、今、ヤマトの幹部を処分すれば、それこそ彗星帝国ではなく、連邦市民の手によって今の政府は倒れるかもしれない。
市民にとっては、政府は降伏を受諾した腰抜け、ヤマトは自分たちを絶望から救ってくれた英雄(ヒーロー)なのだから。
(まぁ、精々厳重注意と減俸ぐらいが妥当だろう。自分も手を貸していたからな‥‥俺も何らかの形で償わないとな‥‥)
そう思い、良馬は源三郎と今後の日程確認に入った。
源三郎と日程確認を終え、朝食を食べた後、良馬は軍本部に出頭した。
長官室前の通路では、既に古代も来ていた。
「月村艦長、古代艦長代理、どうぞ中へ‥‥」
長官付秘書に呼ばれ、古代と共に長官室に入り、一連の戦闘の報告を行った。
「本来ならば、ゆっくり休ませてやりたいのだが、今は防衛軍の再建が急務なのでな。すまないと思っているが、来月には宇宙戦士訓練学校と士官学校の卒業を早め、卒業生たちを早期に任官させる。君達にはまた出てもらうことになりそうなのだ」
藤堂の言葉に良馬と古代は頷く。
「それともう一つ話があるのだ。特に古代、君にだ‥‥」
藤堂は話題を変え、いくらか声を低くした。
「無許可発進、停戦命令を無視しての戦闘行為のことですね?」
「うむ‥‥」
古代の言葉に藤堂は頷く。
「あれは間違いなく私が主導しました。査問委員会でも軍法会議でも逃げるつもりはありません。ですから、早急な開催と厳正な処分をお願い致します」
古代は甘んじて処分を受け入れる覚悟の様子である。
「それについては、ヤマト追跡時に虚偽の報告に関係した小官にも責任があります。土方司令亡き今、自分も相応の責任を負う義務があります。それに停戦命令無視での戦闘行為についても同じです」
藤堂はしばし沈黙してから、
「その件については、二人とも知っているだろうが、明後日に査問会が開かれる。詳しい処分はその時に通達される」
と回答した。
後日、開かれた査問会では、藤堂をはじめとする防衛軍の上層部の他、地球連邦政府大統領を含む、地球連邦政府の高官までもが出席した。
一戦艦乗組員が引き起こした事件の裁定に連邦政府大統領自らが関与するのは異例中の異例で、今までの防衛軍史上初となる事例となった。
まぁ、それだけ今回のヤマトの地球脱走問題、防衛軍残存艦隊による徹底抗戦はデリケートな問題なのだ。
呼ばれたのはヤマトの中で、古代と雪の二名。
ヤマト脱走時の折、追撃した まほろば の艦長である良馬。
そして彗星帝国との徹底抗戦を行った薩摩の艦長や副長らが出席した。
午前中に一人ずつ聴聞を実施された。
その中で良馬は、ヤマト脱走事件についての質疑応答で、
「月村艦長は、ヤマトと交戦する意図はありましたか?」
と、質問された。
「命令に従うのが軍人の本分ですから、『やれ』と言われればやりますが、勝ち目は薄いと思っていました。カタログスペックだけならば、アンドロメダ、まほろば は確かにヤマトの性能を上回っていたでしょうが、戦闘は機械やコンピューターではなく、人間がやるものです。ヤマトは元々長距離用移民船の為、その防御力は防衛軍艦艇の中でも随一のレベルです。更にその艦を動かすのは、あの大航海の経験者たちばかり‥‥イレギュラーな事態への対応力は防衛軍一優秀といえましょう。翻って当時の まほろば の乗員は幹部を除く、大半は実戦未経験者で、計画していた訓練カリキュラムの半分にも満たない状態でした。それは共にヤマト追撃に出たアンドロメダも同様です。そんな状態でまともに戦っても勝てる見込みはありませんでした」
良馬は当時の乗員のレベルとヤマト乗員のレベルの違いを指摘し、艦船のカタログデータのみでは、実戦では役に立たない事を説明した。
次に、良馬はあの時共にヤマトを追撃した土方についての質問を受けた。
「土方総司令はヤマトと戦う意思はなかったと思いますか?」
「正直な所それは分かりかねます。土方提督の考えは土方提督にしか分からないでしょうから。ですが‥‥」
「ですが?」
「ですが、土方提督は恐らくヤマトを撃沈する意図はなかったと思います」
「その根拠は?」
「ご存じのとおり、土方提督は最近まで宇宙戦士士官学校の教官と校長を勤められ、古代進艦長代理やこの私も提督の教育を受けた一人です。課する訓練、教練には一切妥協を許さない人でしたが、厳しいカリキュラムを通じて、教え子ひとりひとりを実に事細かに見ておられました。土方提督は、古代進艦長代理を始め、ヤマトの第一艦橋要員の性格を知っているが故に、彼らの覚悟の度合いを量っていたのではと私は推察しています‥‥まぁ、それが的を射ているかどうかは、私は土方提督ではないのでわかりませんが‥‥」
その後、良馬は何故政府が彗星帝国に対して、降伏を受諾したにも関わらず、徹底抗戦をしたのか等色々聞かれた。
良馬は毅然とした態度で聴取に臨み、自分の意見と意思を貫いた。
関係者全員からの事情聴取を終え、その結果を委員会のメンバーで審議が行われ、そしてその日の夕方には裁定が出た。
処分内容はやはり良馬が思った通り、厳重注意と減俸による比較的軽い処分で、戦死者においては全員二階級特進とし、特進階級で遺族には遺族年金を支給する事となった。
減給カットされた分の俸給は戦没者遺児・戦争孤児育英事業基金に寄付するらしい。
「大人の事情だな」
裁定結果を聞いた良馬は源三郎と同じ一言を呟いた。
また、ケガを押して査問会に出席した西郷参謀長は、自らの浅慮が原因でこのような事態を招いた、と自らに対する懲罰会議開催を希望したが、大統領と藤堂司令長官が強く慰留したため続投が決まった。
但し、本人の強い希望もあって、厳重注意と委員手当全額+俸給20%を育英基金に寄付する事となった。
翌日、良馬は連邦中央病院へ向かい入院中の乗員の見舞いに訪れた。
その際、良馬は年長者の井上から二時間ほどこっぴどくお説教を受ける羽目となった。
「ん?あれは‥‥」
病院の通路にて、良馬は見慣れた後ろ姿を見つけ声をかけた。
「おーい、古代君」
「あっ、月村さん」
振り返った古代の頬は少し赤く腫れていた。
「どうしたの?その頬‥‥?」
「あっ、いや、あははは‥‥」
古代は乾いた笑いで誤魔化している。
良馬は不審に思い、近くの病室を見渡すと、その病室には『真田志郎』と書かれていた。
(成程、真田さんに鉄拳制裁を食らったか‥‥)
病室で何があったかを何となくだが、察した良馬だった。
その後、古代は佐渡に捕まり、良馬同様長々と佐渡の説教も受ける羽目になった。
その様子を看護師として非常勤していた雪は苦笑しながら見ていた。
病院を後にし、まほろば がある月村造船第二宇宙船ドックへと来た良馬。
その月村造船では、以前よりも技師や作業員たちが忙しそうに造艦作業に追われていた。
しかし、月基地を始めとし、火星~第十一番惑星までの基地は彗星帝国に破壊されてしまい、資源採掘が現在行われていない状況下、造艦に必要な資材はあるのか、と言う問題に関しては、苦肉の策として木星~土星にかけての宙域に漂う防衛軍と彗星帝国の艦艇の残骸を回収し、それらの残骸から艦船の建造へとあてられた。
またあの巨大戦艦の無差別砲撃で建造中の艦船が少なからず破壊されており、それらの艤装予定品や部材等が余剰になってしまった為、それらの資材は取り急ぎ修復中の艦に流用されている。
更に以前良馬が第十一番惑星にて鹵獲した彗星帝国の空母や駆逐艦同様、損傷が軽いまま遺棄された旧白色彗星軍艦は接収して、詳しく調査が行われ改造した後、防衛軍艦艇の一部に組み込む予定だ。
敵国の艦艇だから嫌などと言っている場合ではない。
造艦技術者曰く、白色彗星帝国の艦は長距離侵攻作戦に使用されるので、居住性は地球艦より良好だと言う。
「おお、月村。来たか」
「大山さん」
良馬が声のした方に振り向くと、其処には小柄で蟹股、瓶底眼鏡をかけた一人の男がいた。
この男の名は大山歳郎。
真田と古代の兄、古代 守とは士官学校の同期で真田と同じ技術者でもあった。
しかし、真田を正統派な天才技術者と例えるならば、大山は奇才・奇抜な天才技術者だった。
月村グループはこれまで何度か大山に様々な技術開発を依頼しており、その関係で良馬は大山と面識があった。
「何故此処に?」
「ああ、まほろば の修理にあたっては俺も協力していてな」
大山は自分が修理状況を説明すると言って技術者に代わり、良馬を案内した。
大山は まほろば の修理状況の他に現在の防衛軍の状況を良馬に話す。
それによると、アンドロメダ級二番艦、ネメシスの他にも後続のアンドロメダ級三番艦のアルデバラン以降の建造とアンドロメダ・改級の戦艦の建造も今現在進められているとの事だった。
ただし、アンドロメダ・改級に関しては他艦への資材の流用の為、約半年は就役が遅れる見込みらしい。
艦内巡検の最中、
「そうそう!お前が遭遇した、時空何とかの難破船、ありゃなかなか面白そうな船だな!」
「時空管理局ですよ。それで、どこまでの事が分かっているんですか?」
白色彗星帝国との決戦直前だったこともあり、本格的な調査はこれかららしいが、大山はかなり張り切っているようだ。
まぁ、それは艦に関しての話で、
「しかし、紅葉ちゃんや桜花ちゃんと同じ位の子供が多く死んでいたのは不愉快だったな」
と、時空管理局の組織としての在り方には不快感を露わにしていた。
「ええ、正直、信頼に値する組織なのか疑問な所です」
ギンガがこの世界に漂流した経緯やまだ義務教育中である筈の年齢の少年少女を危険な宇宙の任務に平気で就ける様な組織だ。
簡単に信頼を寄せる事が出来るのかはまだ判断出来ない。
そもそも地球連邦政府は未だにその時空管理局とは正式に交流を持っていなければ、コンタクトもとっていない。
時空管理局がガミラスや彗星帝国の様にいきなり地球連邦政府に対し、無条件降伏を迫ってくるとは思えないが、まだ得体の知れない組織故に警戒だけはしておいた方が良いだろうと思った。
「艦内の残留放射能を解析したんだが、解析の結果、彗星帝国の攻撃を受けていた様だ」
「やはり、彗星帝国が彼方此方の宇宙を征服していたと言う証明になった訳ですね」
「ああ、早いとこ、軍の艦船を揃えないとな、何時十一番惑星に居る連中の反攻があるか分からないからな」
「ええ‥‥」
その後艦内巡検を終えた二人は、
「大山さんはこれからどうするんですか?」
まほろば の修理は九割ほど完成したので、大山がこれ以上 まほろば の修理に関わる予定は今のところ無い。
それ故、良馬は、この後の大山の予定が気になり、彼本人に訊ねた。
「この後はヤマトの方の作業だ。それが一段落ついたら、時空管理局の艦を調査、その後は土星のタイタンへ行く」
「土星へ?彗星帝国との最前線じゃないですか」
「まあな、だがこれも防衛軍の再編計画の一環だ」
「大変そうですね」
「確かにな。でも技術者としては、やりがいのある仕事だから俺は満足している」
「そうですか」
ニッと笑みを浮かべる大山に釣られて良馬も笑みを浮かべた。
良馬が まほろば の修理状況を確認した後、良馬の下に今後の予定の件についての話があると、出頭命令が出された。
長官室前には、何時ぞやと同じように古代の姿があった。
やがて秘書が長官室へと案内すると、藤堂が二人を待っていた。
「わざわざ何度も来てもらってすまない」
「いえ、これも軍人の務めで給料分ですから」
「うむ、来てもらったのは他でもない。君たちには艦の発進準備が完了し次第、練習任務に当たってもらいたいのだ」
「訓練校や士官学校の学生の卒業が早まるのですか?」
良馬は先日、藤堂から訓練学校、士官学校の学生達の卒業が早まる事は知っていたが、古代は今ここで初めて知った事実故、驚いている。
そして古代の問いに、藤堂は頷く。
白色彗星との戦闘で被った最大の被害は人材だった。
まだ再建途上だった地球防衛軍は、土方を始めとした多くの宇宙戦士を失ってしまった。
艦艇は造り直せば済むが、宇宙戦士(人材)の養成はそうはいかない。
ガミラス戦で絶対人口が減ったところに追い打ちをかけた今回の戦いで戦力を擦り減らした地球防衛軍は、当面の戦力を、艦艇を含めた無人兵器主体に転換し、並行して人材育成をやり直すことにした。
「時期が時期なのでな。繰り上げした卒業生を乗せて訓練航海に出てほしい」
とは言え、未だに彗星帝国の残存艦隊が太陽系内に存在している以上、宇宙戦士への育成は急務で、訓練宙域は地球~火星の間。
しかも、訓練時間はとてつもなく少ない。
僅かな訓練時間でその後直ぐに本格的な戦闘‥‥。
今年の卒業生達は中々ハードなスタートだと思う良馬と古代だった。
「工事の進捗状況はどうかね?」
「ヤマトは最低でもあと二週間程必要です」
「まほろば の方はあと一週間程必要です」
「練習航海は半月後の出発予定だ。それまでに間に合わせてもらいたい」
「「はい!!」」
藤堂からの命令を受領した良馬と古代は昼食を共にしながら今後の予定をすり合わせた。
「入院したヤマトの乗員は予定通りの日にちで退院出来るの?」
「ええ。来週には皆揃って退院だそうです」
やや置いて、良馬は気掛かりなことを古代に訊ねてみる。
「‥‥それで、島君の様子はどう?」
「ふっ切れたわけではないようですが、『気持ちは立ち治った。もう心配はいらない』と言っていました」
「そうか‥‥」
島もあの戦いでは色々なものを背負ってしまったようだ。
形的には恋人と死別したようなものだった。
「月村さんの方は?」
「入院組は来週早々までに退院して復帰できる」
その後、訓練内容の草案や何気ない日常会話をしていく中、良馬は古代にもう一つ気掛かりな事を聞く。
「そう言えば、古代君は森君と婚約中だったよね?」
「あっ、は、はい」
「もうすぐ結婚っていう時に今回の騒動に巻き込まれたけど、今後はどうするの?訓練航海が終わったら森君と式を挙げる?」
古代と雪は婚約してとうに半年を過ぎた。
白色彗星の事がなければ今頃はダダ甘な新婚生活を送っていた筈だった。
「いえ、ヤマトの皆にも話すつもりですが、雪と二人で話し合った結果、当分式は延期します」
「えっ!?」
てっきり今回の訓練航海が終わったら式を挙げると思っていた良馬に古代は延期すると言う意外な決断をしていた。
しかも、相手の雪もそれを了承していると言うのだから不思議だ。
「愛し合う者同士が一緒になる‥‥自然な形だと思うけどな‥‥」
「はい‥ですが俺たちは、会おうと思えばいつでも会えますから‥‥」
「そうか‥‥」
まぁ、恋愛は当人同士の問題だし、部外者がこれ以上口出しする権利は無いかと思い、別の話題に切り替えた。
島とテレサの事もあり、彼らなりに遠慮したのかもしれない。
「そう言えば、お兄さんの守さんはイスカンダルに住んでいるんだろう?」
「はい」
「これからどうするんだろうね?」
「兄さんとスターシアさんですか?」
「うん。他のイスカンダル人は皆死に絶えてしまったし、二人の間に子供が生まれていてもその子は、このままではいずれは独りっきりになってしまう。それに、今後イスカンダルが地球みたいな目に遭わないと断言できないでしょう?良し悪しは別として、睨みをきかせていたお隣のガミラス帝国はもうないんだ」
「確かにそうですが、スターシアさんがイスカンダルを離れるとは思えません」
古代も、それは気にかかっていたようだが、如何ともし難いという表情だ。
イスカンダル本星には、保有武力が全くと言って良い位無い。
それにあったとしても現状のイスカンダルで動かす事の出来そうなのは古代の兄、守一人だけ‥‥。
侵略を生業とする星間国家にとっては、イスカンダルはまさに絶好の獲物だ。
「せめて有事の時に使うホットラインくらいは敷設できないものかな。タキオン通信時差があるかもしれないが、難しくはないだろう?」
スターシアは地球の大恩人だ。
向こうが受けるかどうかは別にしても、何か変事があれば手を差し延べるのは当然の事であり、検討する価値はあるはずだ。
「そうですね。真田さんが退院したら相談してみましょう」
それからすぐに良馬と古代はイスカンダルに赴き、様々なイレギュラーに遭遇することになるとは、今の二人には予想もつかなかった。
そして、良馬は次にデスラー‥‥ガミラスについて古代に訊ねた。
彗星帝国との決戦前、木星圏にてガミラスはヤマトに対して戦いを挑んで来た。
その後、何があってガミラス艦隊が去っていったのかを詳しく知らなかった。
ガミラスが太陽系から去ったのは良いが、それが永続的なものなのか、一時的なモノなのかが気になった。
一時的なモノであれば、ガミラスは戦力を整えた後、再度地球に対し侵攻してくる可能性があるからだ。
しかし、古代の話ではデスラーが去る際、自分は気を失っていた為、はっきりとこの目と耳で見聞したわけでは無いが、雪の話ではデスラーは流暢な地球語で、
「地球に対してもヤマトに対しても恨みは消えた」
と言い残して太陽系から去って行った。
デスラーのこの言葉を信じるのであれば、ガミラスは地球への侵攻を諦めたと言う事になる。
古代自身もデスラーのこの言葉は信用できると言っていた。
その後、来たるべき練習航海任務の打ち合わせを終えた良馬は、古代と分かれて早めに帰宅した。
「お帰りなさい。良馬さん」
良馬を出迎えたのはエプロン姿のギンガだった。
キッチンからは食欲をそそるいい匂いがする。
如何やらギンガはノエルと共に夕食の準備をしていたようだ。
「ただいま」
玄関でのやりとりは新婚の夫婦の様であった。
(古代君の言った意味が少し分かったかもしれないな‥‥)
大切な人が傍に居てくれる。
結婚なんてあくまで形式上なんだと、そう思いつつ良馬はギンガがと共にリビングへと向かった。
食事の後、良馬はギンガに新たなる任務を‥訓練校と士官学校生を繰り上げ卒業させて訓練航海に出る旨を伝える。
また自分も含め、ギンガも昇進する事も伝えた。
良馬の報告を聞き、ギンガは再び良馬と共に艦に乗れることを喜んでいた。
翌日、最終調整を行っている まほろば へと向かうと、既に病院を退院した まほろば の幹部乗組員たちが来ていた。
早速、作業事務所の一角を借りてミーティングを実施し、今度の訓練航海のメニューの協議を行った。
基本的なことは古代と先日草案を纏め、それぞれ確認済となっているが、訓練は基本実戦同様に行うことで一致している。
木星圏、土星圏からは白色彗星軍の残党と戦うことだってあり得る。
困窮極まる状況下のため、一日でも早く一人前の宇宙戦士になってもらいたい。
となれば、自ずと、身体で覚えてもらうことになる。
かつて、ドイツで「兵は戦場で一人前になる」「実戦で大人になる」と言い残した軍人が居た。
今の防衛軍はまさにそこ言葉の通りになってもらわねば困るのだ。
そして、我々先輩世代がすべきは、彼らが一人前になる前に死なせないことだ。
しかも一人も脱落させずに‥だ。
これはとても難しい事である。
「新人もそうだが、あの白色彗星軍を相手にして生き延びた者は、より厳しく接して欲しい。彼らはあの激戦を生き残ったのだ。もう彼らは新人ではない。よって、中堅者としてのスキルをその身に十分つけてもらう」
良馬の最後のシメで皆は苦笑しつつも、訓練方針に同意した。
ヤマト、まほろば の出航まであと僅かであった。