星の海へ   作:ステルス兄貴

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三十六話 門出

 

無限に広がる大宇宙‥‥。

 

この無数の星々の煌めきの中に様々な生命の営みがある‥‥。

 

愛‥‥

 

希望‥‥

 

野心‥‥

 

戦い‥‥

 

それは地球人類の営みと何ら変わる事は無い。

 

そして今、この大宇宙の一部で一つの戦いが終わった。

 

時に西暦2201年‥‥

 

 

宇宙の邪悪な侵略者、白色彗星の戦いの中で、ヤマトと戦ったデスラーは、古代進との間に芽生えた奇妙な友情に想い馳せつつ、新国家の建設を目指し、新たな故郷となる惑星を求め、大航海の途についていた。

 

双胴を思わせる外観と後方に寄せられた上部構造物群が特徴的であるガミラスのゲルバデス級航宙戦闘母艦。

 

一番艦であるゲルバデスを中心に多数のガミラス艦隊が宇宙を航行していた。

そのゲルバデスの艦橋では、

 

「只今より総統閣下よりお言葉をいただく。皆の者!清聴する様に!!」

 

と、デスラーの副官、ガデル・タランが全艦にチャンネルを開き、デスラーの演説が始まる事を伝えると、ガミラス帝国総統、アベルト・デスラーは一歩前に出て、口を開く。

 

「諸君、我々がガミラス大帝星を離れて、すでに二年あまり‥‥だが、我々は決していたずらに宇宙を放浪していた訳ではない。大ガミラス帝国の再建、ガミラス民族の復興‥‥この宿願を果たす為である」

 

演説するデスラーの声には長きに渡る航海にも関わらず、些かの疲れも淀みもない。

 

「諸君、この宇宙は広大である。我々の新国家となるべき惑星は必ず発見されるであろう!故に、十分な戦力を増強し、来るべき日に備えなければならない。揺るぎなき本星を築き、周辺の星々をことごとく打ち従え、偉大なる我がガミラス帝国を、再びこの大宇宙の盟主とするのだ!!」

 

力強く国家再興を宣言したデスラーは、ここでひと呼吸置いて再び口を開く。

 

「これより我が母なるガミラス星に立ち寄り、一目最後の別れを告げた後、新天地への大航海へと向かう。将兵諸君のこれまでの労苦に感謝するとともに、今一層の忠誠を期待する」

 

『総統万歳!(ガーレ・フェゼロン!!)』

 

将兵たちがガミラス式の敬礼をしてデスラーに忠誠を誓う。

 

デスラーが将兵たちの歓呼に応えて右手を上げると、歓声はピタリと止む。

 

そして、デスラーは改めて口を開く。

 

「全艦、ガミラス星に針路を取れ!」

 

ガミラス艦隊は一路、自分たちの故郷であるガミラス星を目指した。

 

 

一方、地球では、ヤマト、まほろば の訓練航海への準備が着々と整えられていく中、やはり白色彗星残党軍に対しての撃退作戦が発令された。

 

そんな中、本日病院を退院するヤマトの第一艦橋要員たちは、病院の窓から復興していく街を見ていた。

 

「あれからもうひと月か‥‥」

 

ヤマト通信長の相原がしみじみと激動のひと月を思い出す様に呟く。

 

「病院の窓から見ている時もそうだけど、復興ペースが上がって来たみたいですね」

 

「だが、アフリカの方はまだ酷いらしいぜ。直撃を受けた際、日本の十倍以上の面積が消し飛んだそうだ」

 

日本は比較的に軽い被害で済んだが外国の方はこれ以上の被害を受けた。

 

テレビで見た情報を伝えるヤマト砲術長の南部。

 

「でも、テレサが居なかったら、もっと酷い事になっていたかもしれないだよな‥‥」

 

ヤマト航海長補佐の太田がテレサの名前を口に出す。

 

(おい、太田、航海長の前じゃ、テレサさんの事は禁句だろう!!)

 

相原は空気読め!!と言わんばかりに太田に耳打ちする。

 

(あっ!!)

 

太田は慌てて口を閉じる。

 

「いや、いいさ」

 

しかし、ヤマト航海長の島はそこまで気にしていない様子。

 

「テレサは死んでなんかいない。生きているんだ‥‥俺の中でな‥‥俺の身体にはテレサの血が流れている‥‥そしていつか、俺の子供達が、その血を世界中に広げていくだろう。テレサはもう‥‥ひとりじゃないんだ‥‥」

 

テレサの事で人として更に成長してひと皮むけた様子の島だった。

 

「みんな、退院おめでとう」

 

そこに、ヤマト生活班長兼レーダー手の雪が来た。

 

『雪さん』

 

更に、

 

「雪サーン、オヒサシブリデス!!」

 

分析ロボのアナライザーもやって来た。

 

「おいおい、アナライザー。久々に会ったって言うのに、退院したての俺たちには一言もなしか?」

 

相原がアナライザーの態度に不満を言う。

 

「フフン!!ヤロードモ二興味ハアリマセン!!ワタシダッテ、体中ニガタガキテ、修理ニ時間ガカカッテイタンデス!!」

 

アナライザーも自分が入院?していたんだぞ!!と言う。

 

そして、

 

「見テクダサイ、雪サン!!コノ新品同様ノボディー!!」

 

と、身体の彼方此方を回転させてアピールするアナライザー。

 

「えぇ?どこが、どう変わったんだ?」

 

と、茶化す南部。

 

まぁ、南部の言う事も最もであり、特にアナライザーの身体の部分で変化したところは見受けられない。

 

「ウルサーイ!!南部ノヤローハ眼鏡ヲ替エル必要ガアリマスネ!!」

 

「なんだと!?こいつ!!」

 

「元気そうね、アナライザーも」

 

そんなやり取りを雪は苦笑しながらアナライザーが変わりないことを確認する。

 

「ソレガ、私ハ元気ナノデスガ、佐渡大先生ガ‥‥」

 

「ん?佐渡先生がどうかしたのか?」

 

島が心配そうに佐渡について訊ねると、

 

ドアが開き、其処から佐渡が現れた。

 

「うぃ~っ‥‥ヒック!!まったく、しかし、もう‥‥ヒック!!」

 

しかし、現れた佐渡は何だか悪酔いしている様子だった。

 

「にゃ~‥‥」

 

その佐渡の傍らには愛猫のミー君もいるが、そのミー君も元気が無い様子。

 

「佐渡先生、どうしたんですか?」

 

太田が佐渡に何があったのかを尋ねる。

 

「実に許しがたい!!いくら復興が急務とは言え、酒を造る手間を省いてどうする!!まったく、この配給品の合成酒ときたら‥‥」

 

そう言って佐渡は手に持っていた酒瓶を目にやる。

 

その中には、米から作られた純正の酒ではなく、科学薬品等で作られた合成酒が入っていた。

 

どうやら、配給された合成酒の質が余りにも悪くて悪酔いしたようだ。

 

そして、佐渡の愛猫のミー君も佐渡同様、酒を愛飲するのだが、やはり佐渡同様、合成酒の味が気に食わない様子。

 

「じゃあ、飲まなきゃいいじゃないですか」

 

と、相原はツッコミを入れる。

 

まぁ、相原の意見も最もである。

 

「飲まないぐらいなら、死んだ方がマシじゃ!!」

 

と、例え酒の質が悪くても酒は手放さないと、酒好きの意地を見せる佐渡。

 

「はは、冗談ですよ。はいこれ、真田さんからの差し入れです」

 

と言って、ちゃんと酒蔵で造った純正の酒を佐渡に渡す相原。

 

「おお~っ!!流石は真田君じゃ!!物事をよくわかっちょる‥‥ん?そう言えば古代の奴はどうした?今日は皆の退院日なのに、来ないのか?それに真田君もおらんのう?」

 

と、相原から酒を受け取った佐渡はこの場に居てもおかしくない古代の姿が居なかったので、それを不思議に思い佐渡は古代と真田の行方を訊ねる。

 

「艦長代理は彗星帝国の残党軍を撃退するための作戦会議に出ています。そして技師長は一足早く、ヤマトに行きました」

 

太田が古代と真田の行方を佐渡に教える。

 

「作戦会議の方はもうそろそろ終わる頃だと思いますけど‥‥」

 

「しかし、まさか彗星帝国に生き残りが居やがったとはな‥‥全く、ゴキブリ並にしぶとい連中だよ!!」

 

と、忌々しそうに呟く南部。

 

「また戦いが始まるって事か‥‥」

 

彗星帝国が太陽系内に存在して、地球と彗星帝国‥その両者との間に停戦協定が行われない限り、地球と彗星帝国との間の戦闘はこの先も継続する事実をこの場にいる皆が改めて認識した。

 

その彗星帝国残存艦隊の対策についての会議が開かれている防衛軍本部の大会議では、

 

「―――――と言う訳で、パトロール部隊がカイパーベルト外周部で中隊規模の艦隊を確認したそうだ。未だ敵の兵站基地となっている第十一番惑星で、高度の熱反応をキャッチしている」

 

「第一の目標は、我々の太陽系の共有財産である、この第十一番惑星を取り戻すことだ。彗星帝国残党軍がここを失えば、太陽系への侵攻の足掛かりを完全に失うことになるだろう。だが、我々がまずしなければならんのは、土星圏に集結し、戦力を増強しつつある敵残存艦隊の一掃だ」

 

と、大モニターにて、彗星帝国残党軍と第十一番惑星周辺の宙域海図が映し出されている。

 

「各艦の作戦内容は配布した資料に明記してある。よく目を通しておいてくれ。以上だ‥‥解散!!」

 

会場に居た将校たちが全員立ち上がり、敬礼して会議は終了した。

 

「雷王‥‥作戦‥‥?」

 

配布された資料の作戦名を見て古代は首を傾げつつ、中身を見た。

 

「ヤマト と まほろば‥それに数隻の主力戦艦のみで敵を中央突破、一点集中攻撃か‥‥頭の固い防衛軍にしては、中々奇抜な作戦ですね」

 

古代は隣を歩く良馬にこの作戦の内容が今までの防衛軍の作戦とは違い、かなり奇抜性のある内容に意外性を感じた。

 

「それなんだけどね、古代君。あの作戦の草案は今度、宇宙戦士士官学校を繰り上げ卒業した新人君が立案した作戦らしい」

 

「新人が!?」

 

まさか、この様に奇抜な作戦が、士官学校を繰り上げ卒業したばかりの新人が考えた作戦とは、驚いたようで、思わず声が裏返る古代。

 

「まぁ、そう驚く事じゃないでしょう。実際、古代君も卒業したてで、ヤマトに乗って君は途中からは沖田艦長に代わり、そのヤマトを指揮していたじゃないか」

 

「はぁ‥‥それにしても『雷王作戦』というのは少し物々しいですね」

 

「神話のゼウスからでも採ったんだろう。ゼウスは雷を持って万物に罰を与える神だからな」

 

「罰‥‥ですか‥‥」

 

古代としては何か思う事が有るのか、少し顔を俯かせた。

そんな二人の前に、

 

「おう、やっと会議が終わったか!!」

 

病院を出た佐渡達が古代の事を待っていた。

 

「皆さん、すっかり元気になりましたね」

 

良馬が前と変わらず、すっかり前回の戦いの傷から回復したヤマトの乗員に声をかける。

 

「あたりまえじゃ、地球一の名医がつきっきりだったんじゃからな!」

 

「いやぁー早く退院させろと言っても中々退院させてくれなかったんだ。この大先生は」

 

「まるで牢屋に入っている気分でしたよ」

 

と、島と相原が苦笑しながら病院生活を語る。

 

「罰当たりめ!!女の看護師に鼻の下を伸ばしていたのは何処のどいつだ?」

 

「ソウデス。相原ハ一生入院シタイト言ッテイマシタ」

 

アナライザーの暴露で良馬は苦笑する。

 

「さあ、機関長や加藤たちが待っとるぞ!!行こう英雄の丘へ!!」

 

古代たちは防衛軍本部から一路、英雄の丘へと向かった。

 

その途中、ヤマトから戻った真田も古代らと合流して皆で英雄の丘へと向かった。

 

 

英雄の丘‥‥

 

そこには宇宙戦艦ヤマト初代艦長の沖田十三の銅像と共に御影石にはガミラス戦役や訓練・演習中の事故によって命を落とした宇宙戦士たちの名前が刻まれており、新たに、白色彗星帝国との戦争で命を落とした者たちの名も刻まれていた。

 

また近くには祈る姿をした女性のブロンズ像が立っており、これは、イスカンダルから地球へ命懸けで波動エンジン等の超技術を伝えたサーシア・イスカンダルを顕彰したものだが、像の基部には新たにテレサの名も刻まれた。

 

そして、土方の胸像も新たに設置されていた。

 

そんな英雄の丘に一人の青年の姿があった。

 

「親父‥‥俺、無事に訓練学校を卒業出来たよ‥‥」

 

青年は白色彗星戦役での戦死者の名前が刻まれた御影石に花束を添え、自分が宇宙戦士訓練学校を無事に卒業した事を報告した。

 

「おや?君は?」

 

古代はその青年に声をかけた。

 

「は、はい!!元ヤマト機関長、徳川彦左衛門の次男、徳川太助です!!」

 

と、自らの名を名乗った。

 

「徳川さんの‥‥そう言えばお父さんにそっくりだ」

 

真田はその青年の顔立ちに戦死した徳川の面影がある事に気が付いた。

 

「み、皆さんの事は、父からよく聞かされました!!じ、実は、僕も宇宙戦士訓練学校の機関部を卒業しまして‥‥まだ配属先は決まっていませんが‥‥」

 

「そうか‥‥お父さんの跡を継ぐのか‥‥」

 

「頑張れよ」

 

先輩たちは太助に声援を送る。

 

「は、はい!!では、失礼します!!」

 

初々しい様子でその場から去っていく太助だった。

 

「英雄の丘に眠る戦士の皆さん、今日負傷者全員無事に退院する事が出来ました。徳川機関長、加藤、斎藤‥‥最後まで任務を全うし、不幸にして戦いに斃れた多くの友よ‥‥我々は君達の事を決して忘れる事は無いでしょう。我々は諸君の高価な犠牲によって勝ち得たこの平和は永遠のものとして守り続けて行くことを誓います‥‥宇宙戦士の霊へ黙祷!!」

 

その後、古代が御影石の前で弔辞を読み全員が黙とうし、

 

「黙祷終わり!!敬礼!!」

 

黙祷の後、敬礼した。

 

戦死した宇宙戦士たちへ近状報告した後、皆はその場で故人を偲び酒の席を設けた。

 

その最中、

 

「そう言えば、古代、雪、お前たちはいつ結婚するんじゃ?」

 

と、以前に良馬が思った疑問を佐渡が古代に訊ねてきた。

 

「そうだぞ。いつまでも婚約じゃあ死んだ連中もあの世でやきもきしているぞ」

 

島も二人の事が気になる様だ。

 

そこで、古代は以前良馬に話した通り、雪との結婚を無期延期にする旨を伝えた。

 

その事を聞いた良馬を除く皆はやはり、「何故だ?」と思った。

 

古代がその訳を話すと雪と共にリア充フィールドが展開された。

 

このフィールドは彼氏・彼女が居ない者には酷く有害なフィールドだ。

 

「でも、早く式を挙げてくれた方が僕も落ち着くんだけどなぁ~‥‥」

 

と、意外にも相原が古代たちに早く式を挙げて欲しいと言う。

 

「何でお前が落ち着くんじゃ?」

 

佐渡が相原に質問する。

 

まぁ、佐渡の疑問も最もだ。

 

相原は古代、または雪の身内でもないし、まして雪の元カレでもない。

 

(まっ、諦めがつくってことだろうな‥‥)

 

会話を聞きながら、酒の入ったコップを傾ける良馬。

 

「ソレハ‥‥」

 

すると、アナライザーが突然雪に近づくと、

 

「コウイウコトデス」

 

雪のスカートを捲った。

 

突然スカートを捲られた雪は、

 

「アナライザー!!待ちなさい!!」

 

アナライザーを追い掛け回す。

 

「相変わらず、ロボットとは思えない思考回路を持つロボットだ」

 

雪とアナライザーの追いかけっこを見ながら良馬は呟き、

 

「あの癖は中々直らんな‥‥」

 

佐渡は呆れたように呟く。

 

そして酒の席が進んで行く中、

 

「そう言えば、月村さんも彼女がいましたよね?」

 

と、古代が良馬に話題を振って来た。

 

「えっ!?」

 

突然自分に異性ネタの矛先を向けられた良馬は一瞬ギョッとした顔をする。

 

「どうなんですか?彼女とは‥‥?」

 

古代が詰め寄ってくる。

 

「へぇ~月村さんの彼女かぁ~」

 

「どんな人なんです?」

 

「やっぱり何処かの金持ちのお嬢さんなんですか?」

 

他の男連中も、興味があるのか詰め寄ってくる。

 

他人の恋愛事‥しかも良馬は南部同様、裕福な家の出身‥‥

 

そんな良馬の彼女とくればどんな人なのか気になるのも無理はない。

 

「えっ!?‥いや、だから‥‥その‥‥」

 

皆から詰め寄られた良馬はタジタジ。

 

「どうした?突然の奇襲でうろたえるなんて、それで大丈夫か?艦長?」

 

「さ、真田さんまで!?」

 

異性関係に興味がなさそうな真田まで詰め寄ってくる。

 

「わ、分かりました!!話す!!話します!!」

 

それから良馬は、自分の彼女(ギンガ)の事を赤裸々に語り、真田と後輩たちの酒の肴にされた。

 

しかし、彼女の名前を出さなかったのは、良馬なりの最大の抵抗だった。

 

「ただいま」

 

英雄の丘で散々自分とギンガの関係を話す事になった良馬はドッと疲れた様子で玄関のドアを開ける。

 

「お帰りなさい。良馬さん」

 

「ああ、ただいま」

 

またも玄関で良馬を出迎えてくれたギンガ。

 

出迎えたギンガは良馬から僅かに酒の匂いがするのに気が付いた。

 

「お酒を飲んで来たんですか?」

 

「う、うん。古代君たちと一緒に英雄の丘でね‥‥」

 

「お夕食はどうします?」

 

「食べる」

 

「では、準備しますね」

 

食堂にて待つ良馬にギンガは夕食の準備をして良馬は、ギンガが作った夕食を食べた。

 

その後、入浴を済ませ、忍やノエルも思い思いの時間を過ごしている中、

 

「良馬さん、どうぞ」

 

ギンガは良馬に紅茶を差し出す。

 

「ん?ああ、ありがとう。ギンガ」

 

良馬は、ギンガから紅茶の入ったカップを受け取る。

 

「何していたんですか?」

 

ギンガは覗き込むように机の上を見る。

 

机の上には、便箋と万年筆が置いてある。

 

どうやら、良馬は誰かに手紙を書いている最中の様だった。

 

「手紙ですか?」

 

「ん?ああ、違うよ。これはね‥‥」

 

「これは?」

 

「これはね、遺書だよ」

 

「なっ!?」

 

さらりと物凄い事を言う良馬。

 

なんと、今彼が書いていた物は誰かに宛てた手紙などではなく、遺書だった。

 

「そ、そんなっ!?良馬さん!!早まらないでください!!何が有ったのかは知りませんが、自殺なんて止めてください!!」

 

ギンガは良馬が自殺するために遺書を書いていると思い、必死に自殺を止めようとする。

 

「えっ!?いや、違うよ、ギンガ。これは自殺するから遺書を残しているんじゃないよ」

 

「えっ!?」

 

しかし、良馬の口からは自殺を否定する言葉が出た。

 

「では、何故遺書なんかを?」

 

「ギンガ、俺たちは宇宙船乗りだ。甲板の一つ向こうは真空の宇宙‥‥常に死と隣り合わせの状況なんだ。敵と戦って撃沈されなくても、宇宙にはまだまだ未知の出来事が起こるし、船のエンジントラブルだってそれは死を意味する」

 

「‥‥」

 

「それに宇宙で死んだ時、必ずしも遺体が残る訳じゃない‥‥だからこうして遺書と遺髪は出発前に残しておくのさ」

 

良馬の言葉を聞いて、ギンガは宇宙に出ても敵に自分の乗艦が撃沈されないかぎり大丈夫だと思っていたが、改めて考えると自分がこの世界に漂流した切っ掛けも次元震に巻き込まれた事だった。

 

あの時は運よく良馬によって救助されたが、普通ならば死んでいても可笑しくはない状況だった。

 

それにあの彗星帝国との戦いでも従軍した宇宙戦士の殆どが戦死してしまった。

 

自分が今、こうしているのはただ単に運が良かったからだ。

 

しかし、この先もずっとこの運が続くとも限らない。

 

良馬の言葉を聞き、ギンガは、

 

「‥‥良馬さん」

 

「ん?」

 

「私も書きます」

 

「うん、そうした方が良いよ」

 

良馬は便箋と万年筆をギンガに渡した。

 

ギンガは時折「うーん」と唸りながらも遺書を認めた。

 

これから自殺するわけでもなく、遺書を書くと言うのはどうも実感しにくい。

 

勿論、死ぬつもりはサラサラないが、良馬の言う事は最もであり、また自分の体験からも、ギンガは頭を捻り、苦労しながらも遺書を書き上げた。

 

遺書を書き上げ、髪の毛の一部を切り、それらを束ねた。

 

そして書き上げた遺書と遺髪をギンガは忍に託した。

 

万一に自分の身に何かあったら之を自分の家族に届けて欲しいと言って‥‥。

 

忍の方も良馬がこれまで出撃するたびに遺書を預かって来たので手慣れているし、驚く様子もなかった。

 

 

翌日‥‥

 

南部重工、宇宙船ドック

 

南部重工の宇宙船ドックには英雄艦、宇宙戦艦ヤマトが堂々と鎮座していた。

 

「すっかり元通りになったなぁ」

 

「うむ、短時間でよく此処まで復旧出来たものだ」

 

復旧したてのヤマトに古代たちは来ていた。

 

彗星帝国との戦いでボロボロ状態だったヤマトは新品同様に整備されていた。

 

その状態にヤマトの乗員は感心している様子だ。

 

「おや?あれは‥‥?」

 

艦内を巡検中に島が機関室にて作業をしている乗員を見つけた。

 

「山崎さん」

 

機関室で作業をしていたのは、かつて徳川の片腕であった山崎奨だった。

 

山崎は、古代たちの姿に気が付いて作業を止め、古代たちに近づく。

 

「ずっとヤマトの整備を?」

 

島が山崎に訊ねると、

 

「はい。特に機関部の整備には手間取りまして‥‥皆さんの退院の出迎えに行けずに申し訳ありません」

 

「山崎さんはいつ退院を?」

 

「私は比較的軽傷だったのですぐに‥‥」

 

「山崎さんが居てくれるのでしたら安心だ」

 

真田も徳川同様、山崎の腕を認めていた。

 

「山崎さんには、次の航海から機関長として働いてもらう事になっています」

 

古代が新機関長となる山崎を紹介する。

 

「これからもヤマトの事をよろしくお願いします」

 

「はい」

 

挨拶の後、山崎は再び機関整備の作業に入った。

 

続いて古代たちはヤマト艦載機の格納庫へと向かった。

 

此処でも彗星帝国との戦いでコスモタイガーの九割を無くしたヤマトは、新たな機体を搬入する必要があり、その作業を新たにコスモタイガー隊隊長となった山本明夫が作業を進めていた。

 

「古代‥‥皆!!」

 

「山本!!」

 

「久しぶりだな、山本!!」

 

「元気だったか?」

 

「ああ‥‥俺は前の戦いで、皆よりも先に戦線から離脱しちまったからな‥‥加藤の死に際を見てやれなかったばかりか、俺は‥‥」

 

「‥‥」

 

「山本君‥‥」

 

山本は彗星帝国との戦いでおめおめ生き延びてしまった事を少し悔いている様だが、防衛軍側としても、ヤマトの皆からしても山本が無事に生還してくれたことは何よりも喜ばしい事であった。

 

生き恥を晒して恥ずかしいと言うのであれば、その分の実績を立て、後輩の人材育成で補えばいい。

 

それが防衛軍とヤマトの皆の思いだった。

 

「心配するな。俺は大丈夫さ。こうしてヤマトに乗り、戦い続ける事が死んでいった加藤たちへの供養なんだ」

 

山本自身も皆の思いを分かっている様子で、

 

「コスモタイガー隊の隊長としてビシビシ鍛えてやる」

 

と、気合十分な様子だった。

 

ヤマトが新たに始動しようとしている時、月村造船の宇宙船ドックでは、

 

「奉る~畏み~畏み~・・・・」

 

艦橋の一番奥、神棚の下にしつらえられた祭壇の前で、八束神社の宮司が祝詞を述べている。

 

海鳴市にある八束神社は月村の家とは、古い付き合いのある神社であった。

 

なんでも、忍が学生時代、そこの巫女さんが同じ学園の一つ下の後輩で、忍の夫と顔馴染みの仲だった為、神事においては、月村家は全て八束神社に依頼している。

 

そして現在、 まほろば では舟魂(ふなだま)を祀る儀式が執り行われていた。

 

祝詞を述べている宮司の後ろには、艦長の月村良馬以下の幹部乗組員と艦橋要員、ドックの技術者らが畏まった表情で立っていた。

 

舟魂‥‥そんなオカルトめいた話を信じられるのかと言われがちかもしれないが、この慣わしは大昔の洋上船から続く伝統儀式でもあり、大航海時代の帆船の船首や船尾に取り付ける女神像がいい例である。

 

そして現に舟魂の目撃例が存在する事例も過去にある。

 

舟魂が離れると、その船は沈没すると言われている。

 

第二次世界大戦の折、トラック諸島で日本海軍の艦艇がアメリカ軍の空爆により、壊滅的打撃を受けた後、

 

「そういえば、ゆうべ白い着物を着た女が船から出て行くのを見た」

 

と証言する乗組員が、あちこちの船で続出した。

 

また舟魂のエピソードで有名な例として南極観測船(日本海軍では特務艦)として名をはせた宗谷がある。

 

宗谷が船団を組み輸送任務に就いている中、ある夜に他の船から白いモノが浮き上がり空の彼方へと離れていくのを宗谷の船員が目撃したと言う。

 

それはこの宗谷からも離れて行ったが、暫くしたら、また船に戻って来た。

 

その後、宗谷を含む船団はアメリカ海軍の潜水艦による攻撃で壊滅したが、宗谷は沈まずに帰還している。

 

そして、姉妹船や他の船舶が次々と撃沈されていく中、宗谷は何度も敵の攻撃を受けながらも、奇跡的に終戦まで生き延びた。

 

また、瀬戸内海で謎の爆発事故を起こした長門級二番戦艦、陸奥でも、沈没の数日前から着物を着た女が艦内で目撃されていたと言う話もある。

 

当然、当時の日本海軍には女性の軍人など存在しないし、基本的に海軍の軍艦に女性は乗艦出来ない為、この女の正体は不明である。

 

故に舟魂は一概に科学的じゃないと言う理由で疎かには出来ない。

 

儀式自体は、時節柄簡素にしたため三十分程度で終わり、神社の関係者を見送ると、ドックの関係者を同乗させて試験航海に出発した。

 

アンドロメダの時は、大統領までもが出席をする華々しい進宙式兼試験航海であったが、地球が再建途中の影響により、アンドロメダ級二番艦ネメシスの進宙式は必要最低限の人だけで行われたのだ。

 

なお、ヤマトの第一艦橋に沖田艦長のレリーフが飾られているように、今回の航海から、まほろば の第一艦橋には土方のレリーフが飾られた。

 

「エネルギー充填100%」

 

「艦内システム、最終チェック」

 

「通信システム、艦内外とも異常なし」

 

「火器管制システム、オールグリーン」

 

「生活ブロックシステム、異常なし」

 

「レーダー異常なし」

 

「重力制御システム異常なし」

 

「CIC、艦橋。全システム異常なし」

 

「うむ‥‥機関長、機関始動‥‥‥」

 

良馬が号令をかけ、機関長の井上が機関を始動させる。

 

「了解、補助エンジン始動」

 

井上が機関を始動させると、艦にゴゴゴゴゴゴ‥‥と小さな振動と轟音が唸り始めた。

 

「補助エンジン圧力上昇‥‥補助エンジン動力接続‥‥補助エンジン定速回転1600、両舷推進力バランス正常」

 

「ドック注水」

 

システムチェックを終え、機関が始動し始めると、乾ドックに大量の水が注水される。

やがて、乾ドックが水で満たされ、いよいよ発進となる。

 

「ガントリーロック解除」

 

まほろば の船体を固定していた拘束具が外され、

 

「微速前進0.5!」

 

「微速前進0.5」

 

補助エンジンが始動し、まほろば はゆっくりと動き出した。

 

ドックからそのまま海へと出る まほろば。

 

「波動エンジン内エネルギー注入」

 

「補助エンジン、第二戦速から第三戦速へ!」

 

「波動エンジンシリンダーへの閉鎖弁オープン、波動エンジン始動五分前!」

 

「波動エンジン内、圧力上昇エネルギー充填90%」

 

「補助エンジン最大戦速」

 

「波動エンジン内、圧力上昇エネルギー充填100%」

 

「現在補助エンジンの出力最大」

 

操縦レバーを握りながらメーターと全面を見ながら報告をする航海長の永倉。

 

「波動エンジン内、圧力上昇エネルギー充填120%、フライホイール始動」

 

井上もメーター見ながら機器を操作する。

 

機関室では大きなタービンの羽が勢いよく回転し始め、まほろば の速度もぐんぐん上がる。

 

まほろば は、アンドロメダ級の戦艦同様、基本的に機関員の常駐を必要としないフルタイム・マシナリーゼロ仕様なのだが、戦における不測の事態に対応する為、ヤマト同様に機関員も配置が可能であり、今回の新人研修でも訓練学校を卒業した新人機関員を配備する予定である。

 

特に白色彗星との戦闘で、アンドロメダの撃沈の理由の一つに自動化の行き過ぎが指摘されたこともあり、今後の新造艦は有人管制もより考慮されることになりそうだ。

 

とは言え、それでもヤマトに比べれば少数の配置である。

 

しかし、今回のテスト航海では、機関員を配置しておらず、現在はドックの技術者が機関室に居り、大山がチューンしたエンジンの性能を検証している。

 

「波動エンジン点火10秒前‥‥9‥‥8‥‥7‥‥6‥‥5‥‥4‥‥3‥‥2‥‥1‥‥」

 

カウントダウンが始まり、

 

「フライホイール接続‥‥点火!」

 

波動エンジンに火が入り、

 

「まほろば、発進!!」

 

「まほろば、発進します!!」

 

良馬の指示に永倉がスロットルハンドルを大気圏内発進位置まで押し込んだ。

 

後部両舷の補助エンジン、メインの波動エンジンの噴射口から勢いよく火を噴いた まほろば は轟音と水柱を立てながら海上から離水する。

 

そのまま空へと舞い上がり、

 

「大気圏内航行、主翼展開」

 

まほろば の両舷から翼が広がる。

 

「大気圏脱出十秒前‥主翼収納」

 

対流圏から成層圏に入り、エンジンを地球大気圏突破モードに切り換えると、両舷に広がっている翼は、まほろば の艦内に収納し、まほろば は尚も増速していく。

 

やがて、まほろば は地球の重力圏を抜けた。

 

「地球重力圏を抜けました」

 

「全機関、空間出力に切り換えます」

 

永倉と井上が現状を報告する。

 

「直ちに艦体の損傷状況を確認せよ」

 

良馬の指示で、大気圏突破時の空気抵抗と高熱で、艦体やレーダー、主砲などに損傷が生じていないかを確認する。

 

その結果は僅か十数秒で結果が出た。

 

「艦の損傷を認めず」

 

艦の状況を確認した副長の新見が報告をする。

 

艦橋にホッとした空気が流れる。

 

造船所の技師たちはいい仕事をしてくれたようだ。

 

何事もなく帰ったら、関係者にはお礼を言わなければ。

 

地球を離脱した まほろば は月軌道の沖にて、火星までのワープテストを行い、火星沖にあるアステロイド帯の演習場にて、各火器の動作試験を行い、最後に波動砲の試射を行い、帰りも火星軌道から月軌道までワープで戻り、その日の夜に地球へ帰投した。

 

技術者たちは、今日の試験結果のデータを纏め、今後の造艦への資料とした。

 

月村造船宇宙船用の大型艦係留台座に艦が固定され、艦が地上待機当直体制に移るのに先立ち、艦長訓示が行われた。

 

「艦長の月村だ。皆、今日はお疲れ様。試験航海は無事終了した。予定どおり、明後日には新人乗組員を迎え、本艦はヤマトと共に訓練航海に出る。本来ならば白色彗星との戦いでの疲れをゆっくり癒してほしいところなのだが、大半の仲間と戦力を失った現状では、それも叶わないことを申し訳なく思う。生き残った我々にかかる期待は大きく重いものがあるが、白色彗星との戦いを生き延びた諸君ならば、必ず応えられると確信している。明日を信じて、皆一丸になって力を尽くそう!」

 

「はいっ!!」

 

「了解!!」

 

「アイ・サー!!」

 

最終チェックの後、艦内は入港当直態勢に移り、少数の当直者を残して消灯になったが、艦長以下の幹部乗組員らのミーティングは夜が更けるまで続いた。

 




デスラー乗艦の戦闘空母は、ゲームでは『デスラー・ガミラシア』と言う名前でしたが、史実で存在したドイツの装甲艦、ドイッチュラントの様に失われた場合に及ぼす心理的・宣伝的マイナス要素を憂慮し、ゲルバデス級のネームシップであるゲルバデスとなりました。
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