星の海へ   作:ステルス兄貴

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三十八話 訓練から実戦へ 雷王作戦始動

 

 

火星宙域 沖合 訓練指定宙域

 

艦内に起床ラッパの放送が鳴り響き、ベッドで寝ていた乗員たちは一斉に飛び起き、素早く隊員服へと着替え自分達の持ち場へと走っていく。

 

「総員、配置完了」

 

「時間は?」

 

「七分三十六秒」

 

第一艦橋にてこの報告を聞いた良馬は、少々不満そうな顔をした。

 

「なんとか五分代まで短縮出来るようこの訓練は続けましょう」

 

「了解」

 

新見も良馬の意見には賛成した様子だった。

 

起床後の配置集合の後、順次交代で朝食、小休止の後、戦闘訓練へと入った。

 

「全機、続けっ!」

 

「「了解!」」

 

「各小隊、フォーメーションを崩すな!」

 

坂井が新人パイロットたちに注意を促す。

火星宙域の沖合に存在するアステロイドベルト帯にて、古代自ら操縦するコスモゼロ、垂直尾翼と尾部が黄色く塗られた山本の搭乗するコスモタイガー、坂井が操縦する垂直尾翼と尾部が青に塗られたコスモタイガーが、坂本、椎名、加藤らの新人が乗るコスモタイガーと共に小惑星帯に突入していった。

 

その一方で、

 

「標的用無人ロケット発射」

 

まほろば と ヤマト からは多数の標的用のロケットが発射され、いずこかへと飛んでいく。

暫くするとロケットは逆噴射して時間差を付けて、まほろば、ヤマトへと戻ってくる。

それを撃ち落すのが戦闘の基本的訓練であった。

 

「主砲、射撃用意!!」

 

「はいっ!主砲発射用意!」

 

「目標前方二十七宇宙キロ!!」

 

良馬が砲戦準備を命じ、新人の砲術員が操作パネルに向かい、星名が目標までの数値を読み上げる。

 

「ロケットの中には攻撃をしてはならない味方のロケットもあるので味方識別を怠らないように」

 

「はいっ!!」

 

訓練航海初日に良馬に味方識別の件を指摘されたため、星名はセンサーを必死で操作し敵と味方の識別を行った。

 

「敵、第一波左舷上方330度から接近!!」

 

敵を探知した星名が砲術長のフェリシアに報告する。

 

「航海長、右、十五度転換」

 

「了解、右、十五度転換」

 

永倉が操縦桿を操作し艦首を右へと回頭させる。

まほろば の全主砲が左方へと旋回する。

 

「ショックカノン動力接続‥‥測敵完了‥‥自動追尾装置セット完了」

 

「誤差修正右一度、上下角三度」

 

「目標本艦の軸線に到達」

 

「発射」

 

フェリシアの命令が主砲管制室に届くと、管制室のチーフが発射ボタンを押す。

まほろば から放たれたライムグリーン色の光線が標的ロケットへと吸い込まれるように向かい命中する。

 

「目標の破壊を確認!!続いての目標を捕捉!!距離‥‥」

 

星名が標的ロケットの撃破を確認した後、またセンサーを操作して次の標的ロケットの接近を知らせる。

艦橋やCICで まほろば の目と頭脳のようなやり取りが行われている中、艦内の他の部署でも様々な訓練が行われている。

 

「第三ブロック被弾!応急修理隊!至急応急修理せよ!」

 

「急げ!」

 

「早くしろ!!」

 

消火器や修理道具・資材を抱えた修理班が被弾箇所へと急ぐ。

被弾箇所へと着いた修理班は消火活動と修理作業を行う。

 

「お前ら訓練学校で何を習ってやがった。応急パッキンの当て方が逆だ!グズグズしているとお陀仏だぞ!」

 

修理班のチーフが新人の間違いを指摘する。

 

「機関に異常振動!推力低下!」

 

「波動エンジンチェック急げ!」

 

「りょ、了解」

 

機関長の井上は直接機関室にて、新人の機関部員の指導にあたっている。

ヤマト以降の防衛軍の戦闘艦艇では、機関メンテナンスは機関室にあるメンテナンス用のロボットも搭載されているが、いざという時は直接人の手で行えるよう機関の非常時訓練に組み込まれている。

これは前回の白色彗星戦役の経緯が大きく関係している。

無人の機械制御故、機関に深刻なダメージを受けた時、本来応急処置を擦る筈の機械さえも作動せず、撃沈または大破した艦が続出したからだ。

 

「主電源停止!補助機関へ動力接続!エネルギー伝導管のチェックを急げ!」

 

井上は老体ながらも年の差なんて感じさせない程、機関室を走りながら機関員たちに指示を下していく。

 

医務室では負傷者に見立てた人形や負傷者役の乗組員を使い、応急救護の演習が行われた。

 

「その薬はこっちの負傷者に!!」

 

「この傷の場合、包帯の巻き方は‥‥」

 

「それは戦死者役の人形よ!!戦死者は遺体袋に収納し、臨時の遺体保管場所へ運んで!!」

 

リニスも額に汗をかきながら、原田らの新人衛生士たちに指示を出していた。

 

訓練は、初日こそ新人たちのポカが続発したが、ヤマトの坂本と北野のパンツ一丁艦内マラソンが効いたのか、日を追うごとに少しずつ形になってきた。

 

「訓練終了。時間、地球標準時、十九時三十五分!」

 

「五分遅れか‥‥」

 

「まぁ、初期の頃の十分遅れに比べると練度は確実に上がっているよ」

 

通信にてヤマトの古代と良馬は今日の訓練の総合評価を下す。

 

「ふぅ~‥‥今日も疲れた~‥‥」

 

ギンガは一息つきながら食堂にて、夕食の日替わり定食が乗ったお盆を持ちながら、空いている席を探す。

食料供給システム、Organic Material Cycle System通称オムシス(O.M.C.S)と合成食料の普及により、地球の食糧事情は、次第に改善されて来た為、当然ギンガのお盆に乗っている料理の量は物凄く、新人たちは未だに見慣れないのか、唖然とした表情をしている。

若い新人たちは食べ盛りの年頃なのだが、その新人たちでも完食できるか分からないぐらいの量の食事量を女性であるギンガが平然としながら食べようとしているのだから、驚きもする。

もしこの光景をヤマト副長の真田が見たら、

 

「無駄なカロリー摂取は愚かな行為だ」

 

とでも言っていただろう。

しかし、彼女の場合いくら食べても本人の体型は変わらないと来たものなのだから、ギンガを除く他の女性乗員としては羨む体質だ。

空席を見つけ、その席に座りギンガが食事をしていると、

 

「あ、あの‥通信長‥‥」

 

「ん?」

 

「少し宜しいですか?」

 

主計科の隊員服を着た一人の女性隊員がギンガに声をかけてきた。

 

「えっと‥‥もしかして、玲ちゃん?」

 

ギンガが首を傾げながら、恐る恐る訊ねる。

 

「はい。お久しぶりです先輩」

 

褐色の肌をして、銀色の髪をした、ショートヘアで目の色が赤い女性隊員、山本玲がギンガに敬礼をする。

士官学校時代、ギンガは通信科の学科をメインに、応急医療科と飛行科の学科も掛け持ちで受けていたので、当然後輩の知り合いも多い。

その中で、今ギンガに声をかけた山本玲は航空科の後輩の一人だった。

 

「ホント、久しぶり。あっ、髪切ったんだ」

 

ギンガが士官学校時代に見た玲は、前髪が目にかかるギリギリで後ろ髪は肩より少し下まで伸ばしていた。

しかし、今、目の前に居る玲は髪を全体的にショートカットにしている。

 

「あれ?でも、玲ちゃん。飛行科に進まなかったの?椎名ちゃんはそのまま飛行科でヤマトの方に配属されているのに‥‥」

 

後輩の一人、椎名晶もギンガの後輩なのだが、二人とも同じ名前なので、椎名の方は「椎名ちゃん」 玲の方は、「玲ちゃん」と呼んでいるギンガだった。

そしてギンガとしては玲が飛行科に進まなかったのが意外で仕方なかった。

士官学校時代から彼女は椎名同様、坂本や加藤等の男性陣とタメを貼れるぐらいの腕の持ち主だった。

それが任官した今は飛行科ではなく、主計科の所属となっている。

 

「いえ、本当は私も航空隊配属を望んでいました」

 

「なら何で主計科に?」

 

「何かの手違いで主計科に配属されました‥‥でも、恐らく兄が裏で手をまわしたのかもしれません」

 

「お兄さん?」

 

「はい。ヤマト、コスモタイガー隊隊長の山本明夫です」

 

「ヤマトの?」

 

「はい‥‥恐らく兄は、私を危険な目に合わせないように、私の配属先を飛行科から主計科に変更させたのだと思います」

 

「でも、玲ちゃんは‥‥」

 

「私は‥飛びたいんです‥‥」

 

玲はグッと唇を噛みしめながら呟く。

 

「それで玲ちゃんは、どうしたいの?」

 

ギンガは玲を向かいの席に座らせた。

此処は先輩として後輩の悩みを聞いてあげなくてはと、お姉さん肌のギンガは玲の相談に乗る。

 

「その‥‥先輩は艦橋勤務なので、艦長と顔を合わせる機会が多いと思いまして‥‥」

 

玲の頼みはギンガの口から良馬に玲の配置転属の許可を貰いたいと言うものだった。

艦長には乗員の配置を転属出来る特別権限があるのだ。

本来、ヤマトの乗艦予定の無かったアナライザーがヤマトに乗艦出来たのもこの特別権限からくるものだった。

彼女は士官学校の先輩であるギンガを仲介して自分の転属を艦長に進言してもらおうと思ったのだ。

 

「それだったら、私よりも、艦長に直接伝えたらどうかしら?」

 

「えぇぇっー!!む、無理ですよ!!」

 

玲にしては珍しく、声をあげ、手をあたふたとふる。

 

「大丈夫よ。艦長は話せば分かってくれる人だから。それよりも、玲ちゃん」

 

「はい?」

 

「‥‥腕は衰えてないよね?」

 

ギンガは少し挑発するような目つきと仕草で玲に訊ねる。

 

「っ!?それは、愚問ですよ、先輩。今の私の腕ならば先輩にだって勝つ自信はありますから」

 

ギンガからの挑発を玲は堂々とした態度で返す。

 

「それなら、まず玲ちゃんの腕を確かめさせて貰おうかな」

 

と、ギンガは夕食を早々と食べた後、シュミレーションルームへと行き、玲と艦載機によるシミュレーションの模擬戦を行った。

結果は、玲の言う通り、確かに玲の腕は衰えておらず、以前よりも腕は上がっており、五回戦中、二回は玲の勝ちだった。

ギンガと玲はその記録映像を手に良馬の下へと向かい、事情を話した。

 

「そうか‥‥それじゃあ、直接今度は君の腕を見せてもらおう。ヤマトの山本隊長にはこっちで話をつけておくから」

 

「ありがとうございます!!艦長」

 

「ただ‥‥」

 

「ただ?」

 

「‥‥今回の航海で予備機がなくてね‥‥君の機体は旧式だが、俺が使用していたコスモゼロになってしまうが、それでも良いかな?」

 

「構いません。飛べるのであれば‥‥」

 

「そうか。まぁ、旧式とは言え、今でも古代君が愛機として乗っている現役機だから見かけだけの問題だけどね‥‥」

 

「はい。お願いします」

 

その後、良馬はヤマトと通信回路を開き、山本と話し合いをした結果、最終日に行われる、ヤマト と まほろば のコスモタイガー隊で行われる模擬戦で俺(山本)を納得させることが出来れば、飛行科の所属を認めると言う事だった。

玲も山本(兄)からのこの条件を飲んだ。

 

そして、模擬戦前に玲は良馬のコスモゼロに乗り、訓練飛行を行った。

 

「坂井君、君から見てあの新人さんはどう見る?」

 

良馬は訓練飛行をしている山本機を見ながら隣にいる坂井に玲の感想を訊ねた。

 

「腕はいいな。後は度胸だろうな、俺たち航空隊は敵艦の真っただ中に突っ込むからな‥‥一応、今日の模擬戦で、その覚悟を見極めるつもりさ」

 

坂井は山本機を見ながらそう答える。

 

「そうか‥‥くれぐれもケガの無い様に頼む」

 

「ああ」

 

こうして、訓練飛行を終えた後、休息と機体の整備の後、飛行隊の模擬戦が行われた。

結果はほぼ互角で、彗星帝国との戦いを生き抜いた山本と坂井のほぼ一騎打ちとなり、互いに残弾とエネルギー切れにて引き分け。

新人たちは当然、バタバタと訓練用の特殊ペイント弾を食らい、愛機をペイント塗れにしていた。

それでも玲は最後の方まで食いつき、何とか山本を納得させる事が出来、晴れて飛行科へと転属できた。

これが後に、『緋眼のエース』と呼ばれる戦闘機乗り、山本玲の誕生の瞬間でもあった。

 

やがて、訓練日程を終え、木星圏へ‥‥彗星帝国残党軍との戦闘宙域へと向かう日を迎えた。

 

「総員に告ぐ。艦長の月村だ。皆、これまでの厳しい訓練によく耐えてきた。これより本艦とヤマトは木星圏、ガニメデ基地へと出航する。皆も知っているだろうが、現在木星圏と土星圏は彗星帝国残党軍との最前線である。本艦とヤマトは木星圏にて、友軍と合流した後、残党軍一掃の作戦、『雷王作戦』に参加する。皆、これまでの訓練の成果を十分に発揮してもらいたい‥‥諸君の奮闘に期待する!!」

 

艦内放送を終えると、艦橋要員が皆、良馬に敬礼する。

良馬は彼らに答礼し、改めて命令を下す。

 

「目標、木星圏ガニメデ基地!!まほろば、発進!!」

 

「機関全速!!」

 

「コース、木星圏ガニメデ基地!!宜候!!」

 

まほろば と ヤマト はエンジンを吹かし、木星圏へと旅立って行った。

この時、遥か彼方の星界で盟友の星が危機を迎えていようとは、彼らにはまだ気づく術がなかった‥‥

 

 

木星圏 カリスト軌道

 

「木星圏、カリスト軌道に到達。ガニメデ軌道上に地球防衛軍戦艦を三隻確認」

 

「味方識別信号を確認!!」

 

「識別信号グリーン‥蝦夷 アイル・オブ・スカイ メリーランド の三隻です!!雷王作戦の同行艦に間違いありません!!」

 

星名がガニメデ軌道上で停泊している戦艦を確認し、味方識別を行い、それらが雷王作戦に同行する味方艦である事を再度確認して報告する。

 

「ガニメデ基地より入電しました。『そのまま三艦に合流し、フォーメーションを整え、待機せよ』‥‥以上です」

 

「よし、ガニメデ基地に『了解』と返信」

 

「わかりました」

 

ギンガは早速ガニメデ基地へと返信を送り、

 

「航海長、減速」

 

「了解、減速開始!!重力アンカー始動!!」

 

良馬は永倉に指示を出し、永倉は制動をかける。

まほろば は姿勢制御ブースターを吹かし、徐々に速度を落とす。

やがて、まほろば、ヤマトは停泊している三隻の戦艦と並ぶようにして停止する。

 

「しかし、これだけの短期間によく艦船の建造が間に合いましたね‥‥」

 

永倉が隣に並んでいる戦艦を見ながら呟く。

 

「これまでは、宇宙船の建造に必要な特殊金属や宇宙鉱物などの希少資源が不足していたんだけど、今は彗星帝国の艦船の残骸から、地球は無数の金属資源を得る事が出来た‥‥簡単に言えばリサイクルによって戦艦を作っているわけだ」

 

良馬が造船所の技師から聞いた話をして、短期間での戦艦の建造のタネを教える。

 

「敵の残骸のおかげでこれだけ早い再建が叶ったわけですか‥‥彗星帝国側にしてみれば皮肉ですね、本来自分たちの作った艦によって自分たちが討たれる訳ですから‥‥」

 

フェリシアが皮肉を込めて呟いた。

 

出撃命令がガニメデ基地から出されるまで待機していると、ガニメデ軌道上に今度は剥き出しの波動エンジンを積んだ無人の作業船がガニメデ基地に向け、航行していた。

 

「な、永倉先輩、あれは何でしょう?」

 

星名がその異様な姿の作業船を見て、永倉に訊ねる。

 

「なんだ?ありゃ?剥き出しの波動エンジンの様だが‥‥」

 

永倉も良く分からない様子。

 

「あれは恐らくHWVED搭載型の波動エンジンじゃよ」

 

流石機関に詳しい井上が作業船に積まれている波動エンジンの正体を教える。

 

「火星のフォボスと木星のガニメデ基地とで共同開発中だときいておる」

 

「詳しいっすね」

 

「これでも機関屋じゃからな」

 

永倉の言葉に当然だと言わんばかりに言う井上。

 

「HWVEDってなんですか?」

 

今度は星名が井上に質問する。

 

「確か、ハイパー・ワープ・ボヤージ・エクスペリメンタル・デバイスの略じゃ」

 

「それってどんな機能なんです?」

 

「超ワープ航法を行うための実験デバイスじゃ」

 

「そんな事が可能なんですか?」

 

「うむ、理論上ではな‥‥じゃが、実験結果は散々で一度目は完全に暴走し爆発、二度目はワープに成功したが、艦内に数十Gと言う強力な重力が計測され、有人使用が見限られたそうじゃ」

 

「何か、怖いッスね‥‥」

 

自分の身体に数十Gの重力が加わった場面を想像したのか、永倉は体を震わせる。

 

「じゃが、人は何時か克服するじゃろう。何度も実験と失敗の連続を重ねて人は技術を進歩させてきたんじゃからのう‥‥」

 

井上の話を聞き、この地球の完全技術の高さを思い知らされるギンガだった。

自分がミッドを離れてから幾年月があるとしても、恐らく管理局の次元航行艦の建造技術ではとてもマネ出来ないだろう。

 

「ガニメデ基地より入電」

 

「パネルにまわしてくれ」

 

「了解」

 

パネルにはギンガが良く知る人物が映し出された。

 

(あっ、山南校長‥‥)

 

「ガニメデ基地の山南だ」

 

パネルにはかつて戦艦 えいゆう の艦長から士官学校の校長となった山南修が映っていた。

山南は白色彗星との決戦後、士官学校の校長からこのガニメデ基地の司令官に転属となっており、次期連合艦隊総司令の内定も受けていた。

そして、士官学校の校長職には、同じく士官学校で、今なお教鞭をふっている榎本 勇がその職に就いている。

 

「戦艦、まほろば艦長の月村です」

 

「ヤマト艦長代理の古代です。山南司令、作戦の準備状況はどうですか?」

 

「うむ、まずは作戦内容を再確認しておこう。これが敵の勢力だ‥‥」

 

山南が基地のコンピューターを操作し、現在の敵の勢力図を映し出し、説明を始める。

 

「見ての通り、既にわが軍の駆逐艦隊の展開は終了している。ヤマト、まほろば を中心とする戦艦部隊はここでワープアウト直後にそのまま中央突破を図り、敵の指揮系統、すなわち敵の旗艦を一気に叩く。その後、指揮系統を失って混乱する敵に対し全方位より駆逐艦隊が止めを刺すわけだ。中央突破をした戦艦部隊はそのまま直進し、戦闘圏外へと離脱、敵の退路を塞ぐ形をとる」

 

「「‥‥」」

 

良馬も古代も黙って山南の説明を聞く。

 

「重要なのは最初の一手だ。知っての通り、彗星帝国の艦船は非常に高い技術力のもと建造され、砲撃能力は我々防衛軍を凌ぐ」

 

確かに彗星帝国の艦船は皆、回転式砲塔を採用しており発射速度に関しては防衛軍よりも早い。

 

「また、残党とは言え、敵勢力の方が数で勝っていると言う点も否定できん。指揮系統が維持されたままなら、後続の駆逐艦隊は全滅の憂き目に遇う可能性も否定できん‥‥」

 

「承知しております」

 

「まさしく、雷神ゼウスの放つ雷光の如く、一撃で旗艦を沈める事‥‥これがこの作戦の要だぞ」

 

「はい」

 

「了解」

 

「よし、他の三艦の発進準備が整い次第、土星圏へ向け出撃してくれたまえ‥‥では、健闘を祈る」

 

そう言って山南は通信をきった。

 

「戦艦、アイル・オブ・スカイ より入電、三艦とも出航準備が整った様です」

 

「よし、全艦出撃!!五分後に第二船速へ加速!!十五分後に土星圏へのワープを開始する!!副長」

 

「はい」

 

「敵艦直前へのワープ航路の計算を任せる」

 

「了解」

 

「全艦出撃!!」

 

まほろば、ヤマト、蝦夷、アイル・オブ・スカイ、メリーランドの五隻の戦艦はガニメデを出撃した。

 

木星、ジュピターはギリシャ神話の雷神ゼウスを指す‥‥。

 

五隻の戦艦部隊はまさに木星から放たれた雷の矢となったのだ‥‥。

 

しかし、艦隊が土星圏に向かう前に、この木星圏に多数のワープアウト反応が現れた。

 

「っ!?‥‥敵の‥‥残党軍の艦隊です!!」

 

「なっ!?」

 

突然の出来事に艦橋はやや騒然となる。

まさか土星圏に集結している敵艦隊が木星圏まで出張ってくるとは予想外だった。

残党軍は土星圏に展開していた防衛軍の駆逐戦隊の包囲網をワープで強硬突破し、木星圏の近くへと侵攻してきた。

だが、作戦を中止するわけにもいかず、山南はこの木星圏にて雷王作戦を実施する事に決めた。

敵も恐らく背水の陣なのだろう。

山南は土星圏に展開していた包囲艦隊を至急木星圏に急行させたが、それでも到着まで時間がかかる。

戦艦部隊は包囲艦隊が到着するまでこの木星圏にて粘る事となった。

残党艦隊は左右両翼に高速駆逐艦隊を展開し、中央に旗艦であるアポカリクス級空母と護衛のミサイル艦数隻を展開している。

しかし、空母と言っても艦載機は積んでおらず、全ての艦載機は第十一番惑星の防空任務のためにあげられており、完全に艦種の役割を果たしておらず、ただ大きいと言う理由で旗艦に選ばれただけである。

この艦隊を率いているのは、ゲーニッツと共に崩落する都市帝国から命からがら脱出した彗星帝国艦隊副総司令のザイゼンだった。

ザイゼン自身、この戦いはどう転んでも此方が負けると踏んでいたが、ズォーダーを始め、多くの同胞の命が潰えたこの星系‥‥。

その原因となった地球に対し、せめて一矢報いたいとこの戦いに身を投じたのであった。

 

左翼側の駆逐艦隊には まほろば のコスモタイガー隊があたり、右翼側にはヤマト所属のコスモタイガー隊が対応した。

戦艦部隊は作戦通り敵旗艦を短時間で沈めるため、波動砲のチャージを開始する。

やがてエネルギーチャージが終了すると五隻の戦艦から波動砲が放たれる。

 

 

彗星帝国残党軍 旗艦 アポカリクス級空母 艦橋

 

「ざ、ザイゼン提督!!地球艦隊から高エネルギー砲が!!」

 

「か、回避!!」

 

「駄目です!!間に合いません!!」

 

「こんな‥‥こんな‥‥まさかっ!?‥‥ガトランティス万歳!!」

 

放たれた波動砲は中央部に展開していた敵艦隊を跡形も無く消滅させた。

地球軍の戦艦から放たれた高エネルギー砲の威力を見て、兵士たちに動揺が見られる。

 

 

残党軍 後衛 副司令官座乗 ゴストーク級ミサイル艦 艦橋

 

「ふ‥‥副指令!!我が方の旗艦が‥‥轟沈を!!」

 

「ザイゼン提督も戦死した模様!!」

 

「艦隊に混乱が生じています!!このままでは‥‥!!」

 

艦隊司令が戦死し、しかも戦死の原因が強力な兵器によるものだという理由が指揮系統の混乱に拍車をかけた。

 

「なんという‥‥なんという電光石火の攻撃だ‥‥!!」

 

副指令は事態の深刻さを認識し、暫しの間今後の艦隊運動を考えた後、結論を出した。

 

 

「‥‥‥特攻だ」

 

「えっ!?」

 

「混乱する指揮系統をまとめるには一つしかない!!我々が先導して特攻し、他の艦に今何をすべきかを伝えるのだ!!」

 

「しかし‥‥それでは‥‥!!」

 

「後のことは十一番惑星に残っている本隊がなんとかしてくれる‥‥今、我々がなすべきことは木星圏の地球軍勢力を出来る限り消耗させる事!! 敵を倒さぬままで退却することは断じて許されん!! 彗星帝国ガトランティスの兵士として、誇りと共に潔く散ろう!!」

 

「は‥‥はい‥‥!!」

 

戦艦部隊は当初の目的どおり、敵旗艦を沈めたのを確認し、敵戦列後方へ離脱するための行動をとった。

しかしここで敵艦隊は思わぬ行動に出た。

 

それを最初に察知したのは まほろば に乗艦した新人の星名だった。

 

「ん?‥‥これは‥‥!!か、艦長!!て、敵艦隊が転進を開始しています!!」

 

「なに?」

 

敵艦隊は早々に混乱した動きを立て直した。

 

「敵艦隊の一部はガニメデ基地に向って突っ込んできます!!」

 

敵のこの突然の動きを見て、一番驚いたのはヤマトの新人士官の北野だった。

彼は士官学校を主席で卒業し、卒業間近で今回の雷王作戦の草案を立案した秀才だった。

 

「そ、そんな‥‥指揮系統の混乱がそう早く収まるはずはないのに‥‥」

 

敵の指揮系統の余りにも早い立ち直りに北野は驚愕するばかりであった。

一体どういう命令で‥‥どういった方法で此処まで早く事態を立て直せたのか?

それは、北野には分からなかった。

しかし、まさか敵が『全艦特攻だ!!』と言うバカげた命令で立て直せたと言う事実を北野には予想もつくはずもなかった。

 

「相原!!包囲艦隊の到着はまだか!?」

 

古代が通信長の相原に訊ねる。

 

「だめです。到着まで最低でもあと五分かかります」

 

「これが実戦だ‥‥紙の上で計算して立てた作戦通りにはいかないんだよ、北野」

 

「‥‥‥」

 

古代の言葉を聞き、改めて実戦の困難さを実感する北野。

戦場ではまさに何が起こるか分からない。

今回の戦いは北野を含め、新人たちにはよい経験となっただろう。

 

「全艦、戦闘態勢を崩すな!!包囲艦隊の到着まで何とか耐え切るぞ!!敵をガニメデ基地に向かわせるな!!我々に引き付けるんだ!」

 

戦艦部隊はガニメデ基地と敵艦隊の間に割り込んで砲撃戦を開始した。

両翼の高速駆逐艦隊もコスモタイガー隊を振り切り戦艦部隊に特攻をしかけようとするが、後方からコスモタイガーの対艦ミサイル攻撃、前方からは戦艦部隊の砲撃とミサイルが容赦なく襲い装甲の薄い駆逐艦隊は次々と撃沈されていった。

そんな中、包囲網を突破して一隻のゴストーク級ミサイル艦が まほろば に突っ込んできた。

 

「せめて、この艦だけでも!!」

 

それはこの艦隊の副司令官が乗るミサイル艦だった。

 

「だ、ダメだ‥‥避けきれない‥‥」

 

まほろば と ミサイル艦との距離が近すぎて回避が間に合わない。

このままでは、まほろば はミサイル艦の特攻を受けてしまう。

そのミサイル艦では、

 

「大ガトランティスに栄光あれぇぇー!!」

 

副司令官が祖国の栄光を叫ぶ。

 

「砲雷長!!ロケットアンカー発射!!」

 

「えっ!?」

 

「奴の横っ腹に打ち込め!!」

 

「は、はい!!ロケットアンカー、発射!!」

 

まほろば の艦首にあるロケットアンカーが勢いよく飛び出すと、特攻して来るミサイル艦に突き刺さる。

ロケットアンカーが打ち込まれた為、ミサイル艦の突入針路が狂い、ミサイル艦自身の推進力と まほろば の推進力とで綱引き状態となるが、やがて、まほろば のアンカーチェーンが千切れ、ミサイル艦は近くのアステロイドの小惑星と衝突して爆沈した。

 

それから五分後、敵艦隊の後方、左右に土星圏から到着した駆逐艦隊が砲雷撃戦を開始し敵残存艦隊は殲滅された。

 

「戦闘宙域に反応!!包囲艦隊の到着です」

 

新見がコスモレーダーで捉えた包囲艦隊の反応を見つけ報告する。

 

「なんとか切り抜けたようじゃな‥‥」

 

井上がホッとした様子で呟く。

 

「ええ、新乗組員たちもよく頑張ってくれた」

 

良馬は新乗組員に労いの言葉を掛ける。

 

「それにしても、敵が特攻をかけてくるとは思わなかったですよ。敵にしても早々に撤退を開始すれば、包囲艦隊到着前に大部分が離脱出来た筈なのに‥‥」

 

敵の特攻に疑問を抱くフェリシア。

 

「地球をあんなふうにした奴らです。当然の報いですよ」

 

星名は怒気を含んだ声で宇宙に漂う彗星帝国艦艇の残骸を見ながら言う。

 

「月村艦長、古代艦長代理、よくやってくれた。これより防衛軍は第十一番惑星へ大部隊を派遣する」

 

山南司令より通信が入り、敵の大部隊が壊滅した今、土星~地球圏に展開していた艦隊が全て集結次第、第十一番惑星へ出兵することが伝えられ、まほろば、ヤマトには土星圏の拠点防衛の任務が与えられ、まほろば、ヤマトの二隻は補給と補修の後、土星へ向った。

また、蝦夷、アイル・オブ・スカイ、メリーランドもヤマト、まほろば とは別ルートにて土星圏を目指した。

 

 

此処で時系列は少し時間を巻き戻し、

 

彗星帝国の残党軍旗艦が撃沈され、副司令官が特攻を命じた所まで戻る。

木星圏にワープアウトしてきた残党軍の後衛艦隊を率いていたのは、元彗星帝国監視艦隊司令のミルだった。

彼は彗星帝国において監視艦隊司令官と言う役職だが、ミルはゲーニッツ同様、実際は艦隊指揮をとった経験は無かった。

しかし、数少ない艦隊司令官職と言う事でミルもこの戦いに駆り出された。

 

「み、ミル分艦隊司令。副司令官より特攻命令が‥‥」

 

オペレーターが副指令からの命令をミルに伝える。

 

(特攻だと!?くそっ、あの崩れる都市帝国から命からがら逃げてきて生き残ったと言うのに、こんな所で‥‥)

 

「ミル分艦隊司令‥‥」

 

「て、撤退だ」

 

「えっ!?」

 

ミルの言葉に驚きの声をあげる。

 

「で、ですが、命令は‥‥」

 

「木星圏の地球軍兵力の消耗は確かに重要だ。しかし、貴重な艦艇を失うのも問題である。此処は、副司令官殿に任せ、予備隊の我々は土星圏まで後退する」

 

「は、はいっ!!」

 

ミルが率いる彗星帝国残党軍、後衛艦隊、旗艦の戦艦一隻、ミサイル艦二隻、巡洋艦四隻、駆逐艦四隻は、地球艦隊に特攻をかけている味方を囮にして木星圏から撤退した。

 

イレギュラーが起こるも無事に彗星帝国の残党艦隊の殲滅という作戦の主目標は達成され、防衛軍側の被害も軽微で済んだ。

雷王作戦の第一段階の報告を受けた藤堂は残務処理と次の作戦のために必要な補給計画の見積書に目を通していた。

彗星帝国残党軍の討伐が順調に行われ、まほろば、ヤマトの両艦が土星圏を目指している中、防衛軍司令部にある長官室にいた藤堂の下に通信文を持った西郷が入室した。

 

「長官。奇妙な電文を受信しました」

 

「どこからだ?」

 

「そ、それが‥‥デスラーからの電文です」

 

「デスラーから!?‥‥間違いないのか?」

 

「はい、何度もチェックしましたので間違いありません」

 

「それで内容は?」

 

「はっ、ガミラス星が正体不明の敵に襲撃され爆発。その反動でイスカンダルが軌道を外れ暴走し、遂にはワープしてしまったとのことです」

 

「あのイスカンダルが‥‥」

 

「イスカンダルのワープアウト地点は銀河系の外れ方位25の空間だそうです」

 

「‥‥」

 

「しかし、電文の発信源があのデスラーですから何かの罠かもしれませんが‥‥」

 

「うむ‥‥」

 

西郷の推測は一理あったが、あのデスラーがイスカンダルを出汁にして、ヤマトを罠にかけるとは考えにくかった。

ヤマトを撃沈するのであれば、あの白色彗星帝国との決戦の最中、その機会は十分にあったからだ。

藤堂はヤマトの乗員の意見を聞いてみようと、デスラーの電文をヤマトへと送った。

 

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