星の海へ   作:ステルス兄貴

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四十四話 アスタル破壊

「貴官はっ!?」

 

「第307哨戒艦隊司令官、ヴォルケ・コルサックであります」

 

モニターに映る老勇士の士官はタランにガミラス式の敬礼をしながらモニターにその姿を映していた。

 

「まさか、貴官が生きていたとは‥‥」

 

タランは驚いた様にコルサックへと語り掛けた。

元ガミラス軍冥王星基地司令官、ヴァルケ・シュルツにそっくりな男、ヴォルケ・コルサックはシュルツの兄であった。

容姿は、弟のシュルツによく似ているものの、頭部や顎には戦傷とみられる大きな傷が見られ左眼にはレンズ式の義眼が埋め込まれているのが彼と弟のシュルツと異なる最大の特徴である。

シュルツはデスラーに盲目的な忠誠を誓っていたが、コルサックはそうではなかった。

彼は、孤高を保つ戦士であった。

それは、心の中に凶暴な獣を有する程の‥‥。

その為、ガミラス司令部は彼の危険性を危惧しており、故に彼を左遷とも言うべき部隊に配属させた。

彼が指揮官を務めている第307哨戒艦隊は退役寸前の老兵ばかりの寄せ集め部隊であった為、ガミラス司令部もヤマトのイスカンダルへの航海時には、彼の部隊には特に期待しておらず、逆に軽視しており、更に彼の担当宙域をヤマトがイスカンダルへ向かう航路からも外していた。

本来ならば、期待をしていなかったコルサックをヤマトにぶつけて彼を殺すのも一つの手では?と言う意見も出たが、万が一にもコルサックがヤマトを撃沈したら、彼の発言権を強めると言う意見もあり、コルサックはヤマトと戦う事は無かったのだ。

 

「総統閣下のご命令を受け、老体に鞭を打ち、馳せ参じました」

 

「『老体に鞭を打ち』と言うが、貴官の覇気は昔とちっとも変わらない様子みたいだが?」

 

「このコルサック、体は老いても魂はその最後まで戦士でございます」

 

「そうか、それは心強い」

 

タランの言う通り、現状のガミラスでは、一人、一艦でも同胞は心強い戦力となる。

実際、コルサックは老いたことを忘れさせるような戦士としての闘気を帝国が衰退した今でも有していた。

 

「我が祖国‥そして盟友イスカンダルの件については、既に承知しております。これより、第307哨戒艦隊はタラン将軍と共にイスカンダル追跡の任につきます」

 

「うむ、頼むぞ」

 

「ザー・ベルク!!」

 

コルサックはガミラス式の敬礼をして通信を切った。

 

 

タラン艦隊とコルサック艦隊がハ―ゲルを護衛しつつ、超質量の縮退作業が進められていなく中、イスカンダルに付き添っているデスラーの方では‥‥。

 

「イスカンダルの様子はどうだ?」

 

「表面温度が急激に上昇しています。恐らくサンザーに近づいているためと思われます」

 

「スターシアと古代守は宮殿内にいる。まだ無事の筈だ‥‥」

 

イスカンダルの宮殿は一種のシェルターでもあり、様々な自然環境の変化にも耐えられる様に作られている。

その為、気温の急激な変化が有ったとしても、宮殿内の温度は一定に保たれているため、宮殿内に居れば、無事の筈である。

 

(まだなのか‥‥タラン‥‥)

 

デスラーは使いに出した腹心の到着を今か今かと待つ。

その時、

 

「大変です総統!!」

 

オペレーターの一人が声をあげる。

 

「今度はどうしたと言うのだ?」

 

「イスカンダルが、サンザー星系第五番惑星アスタルの軌道に入りました!!不幸な事に、アスタルの現在位置はイスカンダルの落下針路から0.27しかずれておりません。このままでは、イスカンダルとアスタルが‥‥」

 

「衝突すると言うのか‥‥アスタルと衝突してしまえば、いかに宮殿と言えども‥‥」

 

デスラーの脳裏に最悪の惨事が過る。

そんな時、デスラー艦隊の後方に艦隊反応が現れた。

 

「後方に敵艦隊が出現!!」

 

「性懲りもなく、また現れよったか‥‥全艦、再び戦闘配備を整えよ!!」

 

デスラー艦隊を‥‥イスカンダルを追い掛けてきた黒い艦隊‥‥。

暗黒星団帝国第一艦隊、旗艦 プレアデスの方でも、イスカンダルとアスタルの衝突は察知していた。

 

 

暗黒星団帝国 第一艦隊、旗艦 プレアデス 艦橋

 

「デーダー司令!!イスカンダルが太陽系サンザーの第五惑星アスタルの軌道に‥‥このままでは、第五惑星と衝突してしまいます!!」

 

オペレーターが慌てて報告するが、

 

「かまわん。取るに足らん敵と同じく放っておけ」

 

と、デーダーは冷静に静観していた。

 

「しかし司令、このままイスカンダルが衝突してしまえば、イスカンダリウムの採掘が‥‥」

 

「心配いらん‥‥このまましばらく放っておくのだ。これでいいのだ」

 

「はぁ‥‥」

 

デーダー艦隊はデスラー艦隊を攻撃する事もなく、イスカンダルとアスタルとの衝突を防ごうともせず、静観していた。

 

 

ガミラス艦隊 総旗艦 ゲルバデス 艦橋

 

「総統‥‥どうしたことでしょう?敵は我々と一定の距離を保ったままで射程距離内にさえ入ってこようともしません。まるで静観しているようです」

 

オペレーターは敵の動きが読めず、恐る恐るデスラーに報告する。

 

「どういうことだ‥‥?敵もイスカンダルがアスタルの軌道に接近していることは知っていよう。我がガミラス星を採掘していたことから考えるに、あの連中はイスカンダリウムを欲しているのではないのか?イスカンダルとアスタルが衝突してしまえば、イスカンダリウムの採掘が不可能になってしまう筈だ」

 

「それは総統‥‥大変申し上げにくい事なのですが‥‥」

 

士官の一人がデスラーに報告する。

 

「イスカンダリウムはイスカンダル星の深部に存在する鉱石です。対して、イスカンダルの表層地殻は硬度の高い珪素結晶やダイヤモンドなどの採掘には適さないものばかりです。アスタルは小さな惑星のため、衝突が起こってもイスカンダル地殻が吹き飛ぶ程度にとどまるでしょう‥‥おそらく敵は衝突を放置し、邪魔なイスカンダルの地殻のみをはぎ取ろうとしているのでは‥‥?」

 

この士官の言う通り、アスタルはイスカンダルよりも小さい惑星で重力も当然イスカンダルよりも弱い。

よってイスカンダルがアスタルに接近しても重力干渉でイスカンダルが止まると言う事は無かった。

 

「ぬぅぅ‥‥なんという奴らだ!!それで我々を攻撃してくることもないのか‥‥イスカンダルの危機を見過ごしてまで我々と戦う事はないと見越している‥‥いや、それ以上に、我々など眼中にないと言う訳か‥‥このデスラーを侮辱しおって‥‥」

 

「アスタルとイスカンダルの距離、あと900宇宙キロ‥‥!!」

 

「私は‥‥どうすればいいのだ‥‥アスタルにはいかなる生命も生息していない‥‥だが、我が母なる星ガミラスを失っただけではなく、同じ星系に属する兄弟ともいえる惑星をもう一つ失えと言うのか‥‥この手で‥‥この手で破壊しろというのか‥‥」

 

「総統‥‥このままではイスカンダルが‥‥」

 

「やむをえん‥‥全艦、アスタルへ艦首を向けろ!!アスタルを‥‥アスタルをイスカンダルと衝突前に破壊する。ただし、イスカンダルへの被害を最小限に食い止めるのだ!!」

 

デスラー艦隊はアスタルへと針路を向けて進撃する。

 

それを見ていたデーダーは、

 

「ふふふ‥‥イスカンダルを守る為、アスタルを破壊しようというのだろうが、そうはさせんぞ。この機に乗じ、目障り極まりない貴様らを叩き潰してやるわ。アスタルと共に宇宙の塵となるがいい!!前衛艦隊を差し向けろ!!」

 

デーダーが配下の艦隊に進撃を命じると、艦隊はデスラー艦隊に向けて進撃した。

 

当然の敵の動きはデスラー艦隊でも察知していた。

 

「総統!!敵艦隊の一部が攻め込んできました!!」

 

「邪魔だてしようというのか‥‥許せぬ‥‥!!」

 

「総統、デスラー砲によるアスタル破壊のシミュレートが完了しました!!出力を絞って発射せねば、アスタルはおろか、イスカンダルにまで壊滅的な被害を与えかねません‥‥計算によれば、通常の12プラスマイナス2%の出力で、最低限の被害に食い止められることができます‥‥ただ‥‥」

 

シミュレートを行った技術士官は最後に言葉を濁らせた。

 

「ただ‥‥どうした?」

 

「この出力では、アスタルを破壊するために、最低三発のデスラー砲を命中させなければなりません。ご存知の通り、デスラー砲をチャージしている間、本艦は無防備状態になってしまいます!!その間に敵の攻撃を受ければ‥‥」

 

「死を恐れていては何も始まらん!!時間が無いのだ!!実行に移すしかあるまい。全艦、戦闘配備!!本艦はデスラー砲の発射準備だ!!」

 

「ハッ!!」

 

デスラーが座乗するゲルバデスは早速デスラー砲をアスタル破壊の為、出力調整が行われ、チャージが行われた。

その間、僚艦は敵をゲルバデスに近づけまいと、ゲルバデスの周りを囲むような配置をとった。

敵は左右両翼から巡洋艦、駆逐艦を展開し、後方には部隊の旗艦らしき空母が攻撃機を展開させている。

デスラー艦隊の空母も艦載機を展開し、左右の艦隊は僚艦が対処し、敵の空母は艦載機部隊にゲルバデスの護衛には三隻のガイペロン級多層式航宙母艦がついた。

アスタル周辺の宙域でガミラスと敵艦隊のショックカノンとミサイルが応酬し合う中、デスラー砲のチャージが終わった。

 

「デスラー砲、チャージ終了!!発射準備良し!!」

 

「デスラー砲‥‥発射!!」

 

ゲルバデスから一発目のデスラー砲が放たれた。

デスラー砲は吸い込まれるようにアスタルへと命中した。

 

「一発目、命中です!!アスタル破壊まであと二射撃!!」

 

観測していたオペレーターからの報告で一発目は問題なくアスタルへと命中した。

 

「よし‥‥次弾のチャージを急がせろ!!」

 

「ハッ!!」

 

ゲルバデスは二発目のチャージに取り掛かった。

 

チャージをしているゲルバデスの後方では、デバッケがゲルバデスに接近しようとしている敵の爆撃機と激しい戦闘をしていたが、敵の空母は戦闘機を積んでいない様で、直掩の護衛機はおらず、艦載機戦の戦況はややガミラス側が有利な展開となっていた。

そんな中、二発目のチャージが完了し、アスタルに二発目のデスラー砲が撃ち込まれた。

 

「二発目命中!!アスタルの地殻とコアに変動を確認!!」

 

二発目のデスラー砲を受けたアスタルは星全体に罅割れが生じ、罅の間からマグマの姿も確認できた。

 

「あと一発‥‥あと一発だ‥‥急げ!!次弾をチャージするのだ!!」

 

「了解!!」

 

ゲルバデスは最後の三発目のチャージに取り掛かった。

 

やがて、チャージが完了し、アスタルを破壊する為の最後のデスラー砲がゲルバデスから放たれた。

 

三発目のデスラー砲を受けたアスタルは地表で何度も大きな爆発を繰り返し、やがて、大きな閃光と共に星としてのその生涯を閉じた。

 

「こうするしか‥‥こうするしかなかったのだ‥‥許せ‥‥アスタル‥‥」

 

この手でガミラスの兄弟星を葬ったデスラーは消滅したアスタルに黙祷を捧げつつ、謝罪した。

 

アスタルを破壊した後、デスラーも敵残存艦隊の掃討に参加した。

 

「アスタルの墓標に、彼奴らの爆炎を弔いの灯火として捧げるのだ!!」

 

『オオっー!!』

 

デスラー艦隊の士気は高まった。

そうなれば、後は一方的なワンサイドゲームだった。

敵艦は次々と沈められて行き、残った空母もスヌーカとドルシーラの艦爆と雷撃により沈められた。

 

敵艦隊を全滅させた後、

 

「総統閣下、通信が入っております!!」

 

「繋げ‥‥」

 

「はっ!!」

 

「総統!!タラン、只今戻ってまいりました!!」

 

旧サファイア戦線跡に超質量物質を採取しに行ったタランが帰って来た。

 

「タラン!!無事だったか!?」

 

「はっ!!サファイア戦線跡にて敵と交戦するも、援軍との合流により辛くも勝利‥‥無事、超質量物質の捕獲に成功しました!!」

 

「よし‥‥直ぐにマイクロブラックホールを設置しろ。イスカンダルを停止させるのだ!!」

 

「わかりました。マイクロブラックホール起動!!イスカンダルを質量誘導し、サンザーから引き離すのだ!!」

 

「はっ!!」

 

ハーゲルがイスカンダルへと接近し、マイクロブラックホールを起動させる。

すると、イスカンダルはマイクロブラックホールの影響を受け、暴走を止めた。

マイクロブラックホールの影響でイスカンダルが停止した事は、イスカンダルに住むスターシアと守にもすぐに分かった。

 

 

イスカンダル マザータウン 王宮

 

「動きが止まった‥‥さっきの爆発といい、一体どうしたと言うんだ?」

 

突然イスカンダルが止まった事に戸惑う守。

しかし、スターシアには何故イスカンダルが突然止まったのか、察しはついた。

今のイスカンダルが自然に停止する筈はない。

これは明らかに人為的に止められたもの‥‥。

そんな事をする人はこの広い宇宙の中でただ一人しか居ない‥‥。

 

「デスラー‥‥」

 

スターシアは、その人物の名を口にする。

 

「デスラー?どういう事だ?スターシア」

 

「彼が止めてくれたのです。この星の暴走を‥‥」

 

「デスラーが俺たちを?」

 

守としては、かつて自分の故郷である星を放射能塗れにした人物がイスカンダルに対し、何故ここまで世話を焼くのかが分からなかった。

しかし、イスカンダルの暴動が止まったのは事実だった。

こうして、イスカンダルがサンザーへ落下する事は免れた。

だが、問題はまだ半分解決しただけに過ぎなかった‥‥。

まだイスカンダルを狙う敵が居る‥‥。

ソイツらを倒さぬ限り、まだイスカンダルの危機は去っていなかった‥‥。

 

デスラーがイスカンダルの暴走を止めたその頃、

 

まほろば の医務室では、リニスがフェイトの包帯を新しいモノに取り換えていた。

その最中、

 

「ねぇ‥リニス‥‥」

 

「ん?なんですか?フェイト」

 

おもむろにフェイトがリニスに声をかけてきた。

 

「月村艦長は、緊急の任務って言っていたけど、ヤマト と まほろば はどこへ向かおうとしているの?」

 

フェイトはヤマト と まほろば の行き先を訊ねた。

 

「あっ、もし、行き先も軍事機密とかなら無理に言わなくていいから」

 

フェイトはあくまでも少し気になった程度の事でもし、ヤマト と まほろば の行き先が軍事機密に当たるのであれば、当然リニスには守秘義務があるので、フェイトに対して無理に言う必要はない。

リニス自身もそれを承知していた。

しかし、どの道ヤマト と まほろば がイスカンダルに到着したら何処へ向かっていたのかは分かるのだが、とりあえずリニスは曖昧に答えた。

 

「そうですね‥‥まだ詳しい行先は教えられませんが、ヤマト と まほろば はマゼラン星雲へと向かっています」

 

「マゼラン‥星雲‥‥」

 

マゼラン星雲と聞き、フェイトは顔色を少し悪くする。

 

(マゼラン星雲って以前、58探査部隊が消息を絶って、テレザートやヒアデス星団同様、航行禁止にされた所じゃない!!)

 

「どうかしましたか?顔色が少し悪いですよ。フェイト」

 

「その‥‥危険じゃないかな?」

 

フェイトがマゼラン星雲に行くのは危険ではないかと危惧する。

彼女がマゼラン星雲へ行くのが危険ではないかと危惧する理由は、以前管理局内で行った第58探査部隊がマゼラン星雲にて宇宙気象により遭難した事を知っていたからだ。

しかし、それは表向きの理由で本当はガミラス艦隊に撃沈されたのだが、真実を知るのはごく僅かの者のみで、フェイトもティアナも知らなかった。

 

「まぁ、危険はありますが、ヤマトが一昨年イスカンダルまでの航海しており、その航海データがあるので、危険な宙域の場所は分かっているので大丈夫ですよ。それに今回はガミラスからの妨害はありませんから」

 

確かにイスカンダルまでの途中に次元断層などの危険宙域はあるが、今回の航海では、その宙域の位置も既に知っているので、それらの危険宙域は避けて行く航路を立ててある。

難所と言えば、精々流れの早い宇宙気流ぐらいの突破と七色星団の銀河系入口側のイオン乱流くらいだ。

それよりも危惧するのは、彗星帝国の残党とガミラス星を破壊した謎の艦隊と起こり得る戦闘だ。

 

(本当に大丈夫かな?)

 

安全だと思われていた研修でイレギュラーな次元震を受け、更には星間戦争に巻き込まれ、遭難した現状がコレだ‥‥

宇宙では絶対に安全とは言えない環境なので、フェイトが不安視するのも分からない訳ではなかった。

 

「フェイトさん、食事が出来たみたいです」

 

そこへ、ティアナが食事の準備が出来たと声をかけに医務室へとやって来た。

彼女の手にはディアーチェから受け取った岡持ちがあり、その中には医務室へ来る前に頼んだ注文の料理が入っていた。

 

「あっ、うん。ありがとう、ティアナ」

 

(食事か‥‥そう言えば、私や はやて、にそっくりな人が居るなら、なのは とそっくりな人も居るのかな‥‥?)

 

フェイトが自分 と はやて にそっくりな人がいるのだから、なのはのそっくりさんも居るのではないかと思ったが、

 

(流石にそこまではないか‥‥)

 

フェイトはそんな事ないと否定した。

しかし、後にフェイトは驚愕する事となる。

 

 

「はっ、はっくちゅん!!」

 

地球の‥海鳴市にある私立、天応中学の教室にて、高町紅葉がくしゃみをした。

 

「どうしたの?紅葉?風邪?」

 

「い、いえ。違います」

 

「もしかしたら、誰かが紅葉の噂でもしていたんじゃない?」

 

「そうかな?」

 

と、天応中学の教室では、いつもと変わらない学生風景があった。

 

 

食事が終わり、リニスが淹れてくれたお茶を飲んでいると、

 

「本艦は十五分後にワープに入る。各員、部署にて待機せよ。繰り返す‥‥」

 

艦内にワープ準備を知らせるギンガの声が流れる。

イスカンダル目指しての第一回目のワープが行われるのだ。

第十一番惑星が未だに白色彗星帝国の残党に占拠されているので、まほろば とヤマト は土星圏から一気に太陽系外へとワープを行い、第十一番惑星を通過する事にしたのだ。

 

「ワープ‥‥ですか?」

 

「はい」

 

フェイトは地球生活経験もあり、地球で製作されたSF映画の中で、ワープと言う現象が描かれているものは見たことがあるが、体験するのはこれが当然初めてである。

 

「あの‥‥ワープって何ですか?」

 

ワープの事を知らないティアナはリニスに質問する。

SF映画などによく登場する言葉であるが、詳しい事は知らない。

そのため、どのような現象なのかを聞いたのだ。

 

「要約すれば、超光速航行による空間転移と考えて下さい」

 

光より速く航行する――。

 

時空管理局艦船の次元航行とも異なる空間転移航行技術。

リニスの説明を聞きティアナは息を飲んだ。

危険はないが、身体には若干の負担がかかるという。

 

「では、お二人は部屋にお戻りください」

 

リニスはフェイトとティアナに部屋に戻る様に指示する。

 

「ええ。そうさせてもらうわ」

 

二人は部屋を出ようとした時、

 

「あっ、そうだ。フェイト」

 

「ん?何?リニス」

 

「コレを持って行ってください」

 

リニスはフェイトに錠剤入った瓶とミネラルウォーターのペットボトルを二つ渡した。

 

「えっと‥‥これは?」

 

「酔い止め薬よ」

 

「酔い止め!?」

 

渡された錠剤の正体に思わず、声が裏返るフェイト。

 

「最初だと、多分ワープ酔いをするかもしれないから‥‥」

 

リニスはこれまでの新人とワープから初めてのワープ体験の場合、慣れていないとワープ酔いをするので、こうして念の為、フェイトとティアナに酔い止めの薬を手渡した。

 

「酔うんですか?‥‥宇宙戦艦の中で‥‥星の海なのに‥‥」

 

「ええ。でも、気分が悪くなるのは最初の一回目だけだと思うから。回数をこなしていく内に慣れますよ」

 

「はぁ~」

 

ティアナはどこか煮え切らないというか信じていない様子だった。

経験のした事のないワープ‥‥。

光より速く航行する事で酔う事が有るのだろうか?と言う半信半疑だったのだ。

何か問いたげなティアナにフェイトは念話で、

 

(ティアナ、郷に入っては郷に従え‥‥悩んだら負けだよ)

 

と、アドバイスをした。

 

(は、はい‥‥)

 

本来のツッコミ属性の為か、やっぱり煮え切らないティアナであった。

 

「あっ、それと‥‥」

 

「ん?まだ何かあるの?」

 

「ええ、この先、フェイトとティアナさんのお世話はこの子が担当する事になるわ。入ってらっしゃい」

 

リニスが声をかけると、

 

「皆サン、コンニチハ」

 

棒読みの様な電子言葉の挨拶をしながら、医務室に入ってきた赤い物体にフェイトとティアナは文字通り目を丸くした。

その物体は、カプセル形の胴体に手脚があり、脚部にはキャタピラーがあり、手は人と同じ五本の指がついていた。

 

「バトライザー、挨拶を‥‥」

 

「ハイ。戦艦 まほろば 所属、自律分析ロボットノ“バトライザー”ト申シマス。以後、ヲ見知リオキ下サイ」

 

と言いながら、右手を下に出して目上の者に対する礼をとった。

 

「わ、私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。よろしくね、バトライザー」

 

「ティアナ・ランスターです」

 

フェイトとティアナはぎこちないが、バトライザーと握手を交わした。

 

「ヨロシクオ願イシマス。フェイトサン、ティアナサン」

 

自己紹介を終え、フェイトとティアナはバトライザーの案内の下、部屋へと戻った。

部屋へと戻るため、通路を歩いきながらフェイトは辺りを見渡す。

やはりこの艦は地球の船としか思えないことだらけだ。

最も自分の知る地球よりも高度な科学技術であるが‥‥

言葉がスムーズに通じているのもさながら、先程見たメニュー表に書かれていた食事のお品書きや飲料物の名称は地球、そのものだ。

今のところ待遇は悪くない。

むしろ良好と言えよう。

しかし、これから先何が自分たちを待ち受けているのか分からない。

兎も角、今は間もなく体験するであろうワープという空間転移航行が無事に済むことを祈るしかなかった。

 

「ワープ準備完了!!」

 

ワープの為、機関出力をあげると足元から新たに微かなノイズと振動が伝わってきた。

 

(これが、タキオン粒子エネルギー‥‥)

 

重力制御が完全なのか、加速Gは殆ど感じない。

ヤマト や まほろば のような宇宙戦艦に限らず、この世界の艦船の最大巡航速度は光速の99%だという。

ワープについては、少し前にリニスから基本的な説明を受けていた。

それによると、ワープの時間は実質一分足らずで、負傷者がワープを体験しても危険はないと聞いているが、やはり緊張は隠せない。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

「ワープ!!」

 

「ワープ!!」

 

眩い閃光と共に ヤマト、まほろば、雪風・改は土星圏から第十一番惑星の外縁部、ヘリオポーズ手前まで一気にワープした。

 

「ワープ終了」

 

「現在位置と艦の損傷チェックを急げ、僚艦の状況はどうか?」

 

「ヤマト、雪風・改、共にワープアウトを確認」

 

「本艦の現在位置、ヘリオポーズの手前、誤差0.0025。十分に許容範囲です」

 

ヤマト、まほろば、雪風・改の三隻は無事にイスカンダルに向けての第一回目のワープを終了した。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 女性士官予備室

 

「うぅ~‥‥」

 

「大丈夫?ティアナ?」

 

「うぅ~‥‥ぎぼぢわるい‥です‥‥」

 

フェイトの問いに顔を青くして、手で口を抑えながら答えるティアナ。

 

「だから、ちゃんと酔い止めを飲めば良かったのに‥‥」

 

ワープを無事に終えた まほろば の女性士官予備室にて、ティアナはワープ酔いを訴えていた。

ティアナは本当にワープという現象で酔うのかと不信に思い、リニスに渡された酔い止めを飲まなかったのだ。

その為、酔い止めを飲まない状態で初ワープを経験し、リニスが指摘した通り、初めてのワープに酔ってしまったのだ。

そんなワープ酔いしているティアナをフェイトは呆れながらも背中を摩り介抱していた。

フェイトはリニスに言われた通りちゃんと酔い止めを飲んでいたので、酔ってはいなかった。

ティアナを介抱しつつ、フェイトは初めて体験した超光速空間跳躍航行に驚いていた。

管理局艦船の次元跳躍航法とは全く異なる技術が、この世界では超光速航行が普通に行われているという事実を現職の管理局局員では、フェイトたちが初めて体験したのだ。

補足として、ギンガは初ワープの時、既に防衛軍軍人だったので、ノーカンである。

最もミッド出身者であるならば、ギンガがワープの初めての体験者となる。

フェイトはワープを終えティアナを介抱しながら、ふと思案する。

管理局とは異なる次元航行を有する地球連邦を始めとする多数の星間国家‥‥。

 

(私たち管理局は、この世界とどんな風に付き合ったらいいんだろう‥‥?)

 

まず、遭難の原因となった彗星帝国ガトランティス‥‥

本国と国家元首は斃れたが、彼らにはまだ残党が生き残っているらしい。

しかし、そんな彼らに管理局が救いの手を差し伸べるにはあまりにも危険で、結果は論外である。

弱っていた所を助けた犬が実は狂犬で自分たちが噛みつかれかねないし、ガトランティスを援助しようものならば、地球連邦は管理局もガトランティス支援国として敵とみなすだろう。

それに自分たちに襲い掛かってきた輩でもあるし、 まほろば で見た地球とガトランティスとの戦いの映像を見ると、とても管理局の傘下、または同盟国に収まる相手ではない。

むしろ、ミッドや管理世界を自分たちの植民地にしようとするだろう。

 

次にガミラス帝国‥‥。

彼らとはまだ直接見たわけではないが、此方も話を聞く限りでは、管理局の下風に立つとは思えない。

そして、地球連邦も他所の国家や勢力からの支配や管理を受け入れない。

 

(当然、管理世界入りを受け入れる訳がないわね)

 

しかし、ガトランティス、ガミラス、地球連邦、管理局が一番手を出してきそうなのは、残念ながら地球連邦だろう。

元々地球はグレアム元提督、なのは、はやて、など管理外世界にも関わらず、高ランクの魔力保有者がいる。

もしかしたら、この時代の地球にもいるかもしれない。

加えてこの艦船建造技術‥‥。

管理局‥‥特に本局の管理世界拡大・推進派と言われる高官連中がこの地球の存在を知れば、否が応でもこの地球を管理世界に入れようとするだろう。

もしそうなれば、彼らは管理局を侵略者と見なし、命懸けで管理局に刃を向けてくる‥‥。

管理局側も当然迎え撃つだろうが、管理局の艦船がガトランティスの艦船にあっさり殺られている以上、そのガトランティスと同等の戦闘能力を有する防衛軍の艦船に管理局の艦船は勝ち目がない。

何より、管理局の戦闘に“殺し合い”の定義は存在しないのだ。

 

(地球防衛軍や地球連邦まで敵に回したら、管理局はこの世界から撤退するしかない)

 

その為に、フェイトは地球連邦、地球防衛軍を警戒するという選択はとうに放棄していた。

そして、管理局局員ではあるが、この艦に乗っている以上、管理局法は忘れようと心掛けた。

 

(管理局は井の中の蛙だと言う認識を忘れないようにしないとね‥‥)

 

常に謙虚な姿勢でいなければ、無用な軋轢を生じさせる。

もし、それが生じれば、それは管理局の滅亡を意味しているかもしれないのだからだった‥‥。

 

ヘリオポーズ付近を航行中、ヤマト、まほろば の主計長、通信長の両名が通信で話し合いを行っていた。

 

「通信状況はどうでしょうか?」

 

雪が相原とギンガに訊ねる。

 

「今の所、問題なく使えます」

 

「此方も同じです。感度良好、問題ありません」

 

相原とギンガはヤマト、まほろば の通信状況は良好だと言う。

 

「クローディアさん、まほろば の物資の準備状況はどうですか?」

 

「此方のO・M・C・Sは正常に動いておる。二十四時間の連続投入は可能だぞ。其方はどうだ?」

 

「ヤマトの方も大丈夫です‥‥では、予定通り、ヘリオポーズ付近で『太陽系赤道祭』を行いましょう。皆さん、もうひと頑張りです。頑張りましょう。そして赤道祭を成功させましょうね」

 

「はい」

 

「了解」

 

雪がこの場に居る皆に赤道祭を成功させる為、頑張ろうと声をかけ、この場は解散となった。

 

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