星の海へ   作:ステルス兄貴

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五十一話 シャンブロウへの誘い ようこそ、大和ホテルへ

 

 

突如、現れたガトランティス艦隊から攻撃を受けた まほろば。

ガトランティスが誇る強力な兵器、火炎直撃砲を搭載した戦艦から逃れる為に逃げ込んだ惑星にはエネルギーを吸う未知の宇宙生物が多数潜んでいた。

ガトランティス艦隊、そして宇宙生物から逃れる為に前代未聞の惑星内でワープを行った まほろば だった。

まほろば は何とか無事にワープアウトした。

 

航海長の永倉が目を覚ますと、彼は一時、まほろば‥そして自分の身に何があったのか、理解できなかったが、次第に意識が戻っていくと、何があったのかを理解した。

まほろば の艦内は電灯が落ちており、辺りは薄暗かった。

電力が落ちていると言うのに非常電源が働いておらず、非常灯もついていない。

薄らと見えて来た自分の視線の先には、まほろば の操舵桿が見えて来た。

反射的に彼は操縦桿を握った。

そして、その操舵桿から伝わって来る反応に違和感を覚えた。

 

「ん?舵が‥勝手に流されている‥‥」

 

操舵桿を握りながら、ふと窓の外を見ると、彼は更に困惑した。

通常ワープアウトをすれば、別の宙域へと移動する。

だが、今自分の目の前に広がる光景は星の海ではなく、辺り一面灰色の雲か霧がかかったような奇妙な光景が広がっていた。

やがて、自分以外の艦橋員たちも意識を取り戻し始めた。

 

「大丈夫か?みんな?」

 

良馬が艦橋員の安否を確認する。

 

「は、はい‥‥」

 

「何とか‥‥」

 

「大丈夫です」

 

どうやらみんなにケガは無いようだ。

 

「各部、被害チェックを急げ」

 

次に良馬は まほろば の各箇所に被害が無いか、乗員にケガはないかを確認した。

まほろば の各箇所にも被害は特に無く、乗員にも怪我人等は出なかった。

フェイトとティアナ、ジュラも特に異常は無いとの事だ。

 

「航海長、現在位置は?」

 

良馬は永倉に今の位置を訊ねる。

 

「そ、それが‥‥分かりません」

 

「えっ?」

 

窓の外には星の海では無く、一面灰色の空間が広がり、皆は永倉同様困惑する。

そんな中、まほろば の艦内の電灯が灯り、今まで停止していた艦内の機能も作動し始めた。

しかし、現在位置は不明のまま‥‥

すると、まほろば はまるでどこかへと呼び寄せられているかの様に勝手に動き始めた。

 

「どういう事だ?舵が効かない‥‥オートパイロットは切って有る筈なのに‥‥」

 

永倉は操舵桿を握り必死に艦の制御を取り戻そうとするが、舵はウンともスンとも言う事をきかず、何処かへと向かって行く。

乗員たちは戸惑いながらも現在位置の確認、突発的な事態に備え、周囲の警戒を怠らない様に警戒態勢を強めていた。

この状況でパニックを起こせばそれはより事態の悪化を招くのは訓練学校や士官学校で基礎として習う事である。

 

現在位置の特定をしていた新見が良馬に報告をする。

 

「艦長、星が一つも観測できません」

 

新見がコンソールを何度も操作するが、モニターに表示されるのは『観測不能』と言う文字だけである。

 

「レーダーはどうだ?」

 

「‥‥此方もダメです。周囲に反応なし‥‥周りに反射するモノが何もありません」

 

レーダー画面も反応が無く、真っ白な映像のみ。

良馬は当初、この空間はヤマトがイスカンダル及びテレザートへの航海の途中で紛れ込んだ次元断層と言う場所なのではないかと思った。

しかし、ヤマトの記録にあった次元断層の記録と現在の状況が少々異なる事から此処が次元断層なのだろうかという疑問も生まれる。

 

「艦長、操艦機能は全くダメです。マニュアルモードにも切り替わりませんし、非常停止機能も言う事を利きません」

 

「機関長、エンジンはどうだ?止められるか?」

 

「こっちもダメじゃ、エンジンを止めようとしても制御できん。フライホイールが勝手に動いとる」

 

「‥‥」

 

まほろば は勝手に動いているが、故障している訳でも暴走している訳でも無さそうだ。

まるで外部からハッキングでも受けて操作されているみたいだった。

 

「此奴は一体何処へ行こうとしているんだ?」

 

様々な手段を試したが、それが全てダメと言う事で永倉は半ば諦め状態でシートに体を預ける。

 

「艦長、此処はヤマトが何度か落ちたとされる次元断層と言う場所なんですか?」

 

ギンガが不安そうに良馬に訊ねる。

 

「最初はそう思ったが、もし此処が次元断層ならば、他にも沢山の宇宙船が難破して居る筈だ。だが、周りにはその反応も無く、更に次元断層では時間の流れも通常の空間とは異なるし、時空の性質も違う‥‥その為、エンジンのエネルギーも吸われ航行不能になる‥‥でも、まほろば のエンジンにはその様子は全く無い‥‥故に此処が次元断層とは言えない」

 

「それじゃあ此処は‥‥」

 

「分からない‥‥次元断層なのかもしれないが、我々の知る次元断層とは多少異なる性質の‥‥未知の次元断層なのかもしれない‥‥」

 

宇宙にはまだまだ未知な空間が多く存在する。

明確な答えが出ないまま まほろば は進んでいく。

そして‥‥

 

「なっ、なんだ?あれはっ!?」

 

前方の様子を窺っていた永倉が声をあげる。

灰色一色の空間に漸く星の様なモノが現れた。

その星はまるでコマの様に水平に自転し、北極と南極と思しき場所から強烈なピンクの光を上下に放ち、北半球、赤道、南半球の位置それぞれ一つずつピンクのリングを持ち、赤道のリングは物凄く巨大で、地球であれば、月軌道まで到達するぐらいの大きさがあり、こんな奇妙な形の星は今までの天文学では観測されない全くの未知の星であった。

そんな奇妙な星へ まほろば は向かって行く。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 医務室

 

医務室でもこの奇妙な空間にフェイトたちは困惑していた。

 

「此処は一体何処なんでしょうか?」

 

「分からない‥‥」

 

フェイト自身も次元航行艦乗りの義母(リンディ)や義兄(クロノ)からもこんな次元があるなんて聞いた事がない。

フェイトとティアナが不安に、ジュラは何やらソワソワして落ち着かない様子だった。

 

「どうかしましたか?ジュラさん」

 

ティアナが心配そうにジュラに話しかける。

 

「あっ、いえ‥‥その‥‥何だか、この空間に入ってから妙に懐かしい様な気がして‥‥」

 

「懐かしい?」

 

「は、はい‥‥何だか母と同じ様な力を感じるんです」

 

「ジュラさんのお母さんの力‥‥」

 

身体に異常があるわけではなさそうだが、ジュラはその後も何だか落ち着かない様子であった。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 第一艦橋

 

「どうやら、目的地はあの星のようじゃのう‥‥」

 

井上がスクリーンに表示された奇妙な星を見ながら呟く。

新見とギンガはこの奇妙な星を解析しようとコンソールを操作している。

 

「   」

 

「ん?」

 

そんな中、良馬は何かが聴こえたような気がして辺りを見回す。

 

「どうしました?艦長?」

 

フェリシアが心配そうに良馬へ声をかけた。

 

「あっ、いや、何でもない」

 

良馬は(空耳か?)と思いつつ前方の星をジッと見た。

やがて、まほろば は惑星の地表へと降下し始めた。

惑星の表面には多くのガスが対流している。

この惑星が地球や火星の様に地殻を持つ惑星なのか?

それとも木星の様にガス状惑星なのか?

現時点では判断がつかない。

どこまでも続く分厚い雲を通り抜け、ゆっくりと降下して行く まほろば。

まほろば の船体が雲に触れるとまるで水面の様に波紋が広がる。

 

「惑星地表を確認。現在の高度、推定四千二百。惑星表面は何らかの液体で構成されている模様」

 

惑星表面の液体を調べたくても今の まほろば は完全に操艦機能を外部に乗っ取られているため、液体のある場所へ向かって調べる事も出来ない。

まほろば の乗員に出来ることはセンサーや計器を読み取り、少しでもこの惑星の情報を得ようとする事しか出来なかった。

やがて、メインノズルの噴射が抑えられ、大気によって まほろば は自然と減速して行った。

次第に速度を減速していく まほろば のレーダーに大きな光点が表示され、ピンと警告音が鳴る。

 

「レーダーに感あり!!前方に巨大浮遊物です!!」

 

新見の報告に全員が前方を注視するが、白く濁ったガスの為、見通す事が出来ない。

しかし、視界が段々と晴れていくと まほろば の前方に巨大な柱の様な構造物の影が見えて来た。

操艦レバーはゆっくりと前方へ倒れ、まほろば は緩やかな角度をとって減速し、柱へと接近して行く。

 

「あ、あれはっ!?」

 

「十字架?」

 

防衛軍が所有している戦艦の中でも大きな部類に属する まほろば が芥子粒程の大きさ位にしか見えない位、巨大構造物の全体を把握するのは難しい。

しかし、何とか巨大構造物が十字に重なっているのを何とか確認でき、フェリシアは、思わず口にする。

 

「どうやら此処が目的地の様だ」

 

まほろば の様子を見て、良馬が呟く。

その まほろば は巨大な十字架の下層へ向かって誘導されて行く。

近づくと益々その大きさを実感される。

遥か下面に広がる星は不気味な雰囲気があるが、ガスでは無く、地表面を持ち表面に液体を保持する地球と同じようなタイプの星の様だ。

木星の様に強力な重力を有している訳でもない様だが、少々重い物質で出来ているにしても大気が存在する惑星に置いてこれだけの巨大構造物を浮遊されている事に まほろば の乗員は畏敬の念を抱かずにはいられなかった。

 

(この中に大きな飛○石でもあるのかな?)

 

フェリシアは昔見たアニメ映画で巨大な城を空に浮かべる程の力を持つ○行石がこの巨大な構造物の中に入っているんじゃないかと思った。

 

謎の招待者はこの壁に刻まれた文字を見せたいのか、ゆっくりと壁を右側にしながら飛行させ、まほろば のサーチライトが「読め」と言わんばかりに自動点灯させる。

しかし、壁に刻まれている文字は地球の文字でもなく、ミッド、ガミラス、ガトランティスなどの星間国家の文字とも違う文字だった為、解読は不可能だった。

やがて、艦首バーニアが吹き、急制動をかけると、ロケットアンカーが射出され、アンカー部は霧の中へと消えていく。

しかし、鎖の部分がピンっと張っている為、恐らく何処かに突き刺さったのだろう。

 

まほろば をこの巨大な構造物の下に呼び寄せた謎の招待者はその後、何のリアクションも起こさない。

通信が入る様子も無く、まほろば から様々な周波数で通信を送っても感度は無いし攻撃して来る様子も無い。

そこで、この惑星を探査する事になった。

この巨大な十字架は明らかに人工建造物であり、此処まで まほろば を誘導して来たのは外部の何者かによる意思だ。

ならば、下面に広がる惑星の何処かに誰かが住んでいるのかもしれない。

まほろば に搭載されている上陸用舟艇にて、この惑星の探査が開始される事になった。

 

上陸用舟艇は、惑星降下用の艦載内火艇で衛星軌道上の艦船から敵地である惑星に降下することを前提に設計されており、艇体には装甲が張られそれなりの武装も施されている。

下部にキャタピラを装備し不整地の疾走が可能となっている。

人員や物資輸送の双方を効率よく行えるように、大きさの割には、カーゴルームは広く、内側の壁面にはロングシートの座席がある。

乗降扉は艇正面にある。艇内レイアウトはカーゴルームが前、操縦席が後部上方にあるという独特なもの。

操縦室は四人乗りであり、パイロットは後部の専用扉から乗降する。

なお、カーゴルームと操縦室はつながっておりカーゴルームからの乗降も可能である。

 

探査に向かうのは、上陸用舟艇のパイロットとして加藤、通信員としてギンガ、探査・分析要員としてバトライザー、そして良馬もこの探査に参加した。

当初、この探査に良馬が参加する事に皆は反対したが、まほろば は今、動くに動けない状態。

そんな状況では、艦の指揮など執る事も無く、ただ待つ事よりも実際にこの奇妙な惑星を直に見に行きたいと言う彼の知的好奇心でもあった。

良馬と付き合いの長い永倉と井上は良馬らしいと苦笑したが、新見は最後まで良馬が探査へ赴く事に対して渋っていた。

この場にターニャがいれば、恐らく新見と同じ事を言い、同じ様な表情をしていただろう。

 

まほろば から発進した上陸用舟艇は惑星の重力に引かれて降下して行く。

巨大構造物には出入り口らしきものは無く、やはりこの惑星に招待者の手掛かりがあると思った探査班のメンバーは惑星への降下を開始して行く。

かなりの高度を降りて行くと、その先には何らかの液体を貯めた水面が現れた。

 

「惑星表面ニハ生命反応ハ感ジラレマセン」

 

探査・分析をしていたバトライザーが良馬たちに報告する。

この惑星には他に人工構造物は見つからず、それどころか山や谷、森といった自然物も見つからない。

表面は生物の息吹が全く感じない余りにも無機質な空間だった。

 

「人が住んでいる訳じゃないのか‥‥よし、水中も探知してみよう」

 

「了解」

 

加藤は操縦桿を前に倒し、上陸用舟艇は水面に接近し、やがて、水の中へと潜航して行く。

水の中にもやはり魚を始めとする水生生物の存在が確認出来ない。

潜航して行くと、次第に辺りは暗くなっていき、艇内は機器の明かりだけが灯り不気味な感じだ。

 

「深度五十‥‥五十五‥‥」

 

バトライザーが深度計の数値を読んでいく。

 

そんな中‥‥

 

「      」

 

(ん?歌‥‥?)

 

ギンガの耳に何かが聴こえて来た。

それは女性の歌声であったのだが、良馬と加藤にはその歌声が聴こえていない様子だった。

ギンガは念の為、センサーにて、この歌声が何なのか確かめようとしたが、センサーには何の反応が無い‥‥

つまり、この歌声は自分にしか聴こえていない事になる。

その瞬間、突然機体が激しく振動し始めた。

コンソールには幾つもの警告ランプが点灯し、モニターには危険を知らせる『Warning』の表示が点滅しながら警報音を響かせている。

 

「どうした?この警戒音はなんだ!?」

 

「分かりません。突然、操縦不能になって‥‥」

 

加藤は必死に艇のコントロールを取り戻そうと操縦桿を握る。

だが上陸用舟艇は一向にコントロールを取り戻さず、この惑星に吸い寄せられた まほろば 同様、何処かへと誘導されて行く。

 

「航法コンピューターガ外部カラハッキングヲ受ケテイマス。コノママデハ危険デス」

 

バトライザーも警告するが、上陸用舟艇は速度を変える事無く沈降して行く。

まほろば から「状況を知らせ」と言う通信が入り、ギンガが此方の状況を知らせたが、まほろば の方では、此方からの通信が受信出来ていない様子。

やがて、まほろば からの通信も受信出来なくなった。

原因は惑星表面の大きな変化があった。

今まで液体で覆われていた惑星表面が突如、灰色の壁に覆われたのだ。

それと同時にあの巨大構造物にも変化が現われた。

最下層部の下部が惑星へと伸びていき、惑星表面を覆っていた壁と連結した。

それはまるでこの惑星と巨大構造物が一つの機械の様であり、良馬たち、探査隊をその内部に飲み込んだみたいだった。

救助に行きたくても今の まほろば は相変わらず、操艦不能で動くことが出来ずに行くに行けない状況の為、皆が出来ることは探査隊のメンバーの無事を祈ることぐらいしか出来なかった。

 

一方その頃、探査隊の方は必死に上陸用舟艇のコントロールを回復させようとしたが、一向に事態は改善しない。

 

「現在の深度は?」

 

良馬の問いに操縦桿を握る加藤は「計器が読めません」と叫ぶ。

コンソールにあるモニターは相変わらず点滅を繰り返し、時々表示される数値も『深度九百六十』と全くあてにならない数値が表示される。

 

「いくら装甲が有るとはいえ、このまま沈殿して行けば、いずれは安全潜行深度を越えて、圧潰するぞ」

 

「それは分かっていますが、操縦桿が‥‥」

 

ギンガは まほろば に通信を入れるが まほろば からは一向に通信が入らない。

沈殿して行く上陸用舟艇の先に明るい水色に光る場所が見えて来た。

この水中が海だと仮定すれば明るいのは人工物の証明しか考えられない。

地下都市、海底都市等の人工建造物があり、明るくなっているのだろう。

上陸用舟艇はその光に向かって急加速していく。

 

「このままじゃ、ぶつかる」

 

加藤はこの光の先に構造物があり、其処に衝突するのかと思った。

それは良馬とギンガも同じ考えだった。

 

「全員、ショックに備えろ!!」

 

良馬が叫ぶ。

やがて上陸用舟艇は光の中に飛び込むと‥‥

 

バシャ―――――ン!!

 

「えっ?」

 

探査隊は水音と目の前の光景に唖然とした。

上陸用舟艇は先程まで海の底へ沈殿していたと思ったら水面を出て空を飛行していた。

そして、眼下には広大な熱帯雨林の様な森広がっていた。

 

「海底に海と森が広がっていたのか‥‥」

 

「一体どんな構造をしているんだ?この星は‥‥」

 

こんな目茶苦茶な構造の星なんて常識を逸している。

しかし、現にこの目茶苦茶な星は存在し自分たちは其処に居る。

いつの間にか操縦機能も回復しており、上陸用舟艇はこの目茶苦茶な星の熱帯雨林の上空を飛んでいる。

 

「まるでアマゾン見たいですね」

 

加藤が眼下の熱帯雨林を見ながら呟く。

 

「確かに‥‥」

 

自然物は存在したが、鳥や動物、人間の姿は確認出来ない。

 

「あ、あれは何でしょう?」

 

ギンガがキャノピー越しに何かに気がつき指さす。

その先には直径が何十キロもありそうな巨大な大木が見えた。

大木は周囲の熱帯雨林の樹木とは比較にならない程の大きさで、熱帯雨林の中心にキノコ雲が立っている様にも見える。

皆が巨大な樹木に目が向いていると、ピピピピ‥‥と、通信の受信音が鳴った。

やっと まほろば との通信が繋がったと思い、ギンガが操作すると、それは まほろば からの通信では無かった。

 

「艦長、ガミラスからの救難信号です」

 

「ガミラスからの?」

 

「はい。発信から何日が経っているのか、向こうの状況は詳しくは分かりませんが、間違いありません。この信号パターンはガミラスのモノです」

 

「どうしますか?艦長」

 

「‥‥救助に向かう」

 

「えっ!?でも‥‥」

 

ガミラスへ救助に向かう事に加藤は少し不満な様子。

 

「ガミラスと地球は和解したんだ‥‥昨日の敵は今日の友だ。それにガミラスが我々よりも先に遭難していたとすると、この惑星の情報を我々よりも持っているかもしれない」

 

「は、はい」

 

上陸用舟艇が熱帯雨林の上空を飛んでいると、やがて蛇行する一本の川へと出た。

救難信号は川上から発せられている様だ。

加藤の操縦する上陸用舟艇は光点目がけて飛行する。

先程までの操縦不能状態とは随分差がある。

 

「発信点近ヅキマス。高度ヲサゲテクダサイ」

 

水面擦れ擦れを飛んでいくと、信号はジャングルの中から発せられており、上陸用舟艇は飛行モードから地上走行モードへと移り変わり、発信点目指して進んでいくが、その途中で土壌の関係から、これ以上は進めなくなり、バトライザーに留守番をさせ、良馬たちは徒歩で信号の発信点を目指した。

 

熱帯雨林の空気成分は地球のモノと変わらず、放射能等人体に有害な物質は計測されなかった為、三人はヘルメットを脱いだ。

亜熱帯特有の気候で少し蒸し暑い。

そんな中、良馬と加藤は探査キットと非常食等が入ったサバイバルキットを背嚢に詰め、コスモガンを片手に持ち、ギンガは携帯用の通信機、救急キット、サバイバルキットを背嚢に詰めて発信点を目指す。

 

(やっぱり妙だ‥‥此処は海底の筈なのに、こうして川や森がある‥‥それにこの惑星の近くには恒星は無かった筈なのに、まるで太陽と同じような光がさしている)

 

周囲を警戒しつつ、この星の環境に疑問が深まる。

そんな中、

 

「やっぱり‥‥此処‥来た事が有る‥‥」

 

「「えっ?」」

 

ギンガはポツリと呟く。

 

「私、此処に来た事が有ります!!」

 

ギンガは昔の記憶を呼び戻し、幼少期の頃の思い出とこの場所を重ねた。

まだ自分がナカジマ家に養子に来たばかりの頃、家族で旅行へと行った第六管理世界‥‥アルザス‥‥

元機動六課FW陣のキャロ・ル・ルシエの生まれ故郷である世界‥‥

その世界へ家族でキャンプ旅行に来た時の森と目の前に広がる森があまりにもそっくりだった。

無論、良馬と加藤は驚くしかない。

ギンガの故郷はミッドチルダと呼ばれる魔法文明が発達した世界であり、此処がその魔法文明が発達した世界とはとても思えず、また加藤の方はギンガが異星人と言う事実を知らないので、地球から離れたこんな訳の分からない星にギンガが以前来た事が有るなんてとても信じられない。

疑惑を抱きつつも、三人は信号の発信点へと向かった。

 

先頭に加藤が歩き、その後ろを良馬、ギンガが歩く。

そんな中、良馬がギンガに話しかける。

 

「ギンガ、さっき此処に来たと言っていたが、此処がミッドチルダと言う訳じゃないよな?」

 

「ええ、此処はミッドチルダではありませんし、管理局が今まで観測したどの管理世界でもありません‥‥」

 

当然のことながら、ギンガは此処がミッドチルダではないと言い、その他の管理世界でもないと言う。

此処が以前、自分たち家族がキャンプ旅行に来たアルザスならば、幻獣生物が沢山居る筈だが、この森からは鳥の鳴き声一つしない。

しかし、ギンガは以前この熱帯雨林へ来た事が有ると言う。

 

「ギンガはどういう経緯で此処に似た熱帯雨林へ来たの?」

 

「昔、家族で他の世界へ旅行しに来た時です」

 

ギンガが此処に似た世界へ来た理由を話した時、

 

「艦長!!見て下さい!!」

 

先頭を歩いていた加藤が何かを見つけた様だ。

急ぎ、加藤の下へと行くと、其処には信じられないモノが鎮座していた。

 

「な、何だ?あれは‥‥?」

 

「救難信号はあそこから出ています」

 

ギンガがハンディースキャナーを向けて確認する。

 

「で、でもなんであんなモノが此処に‥‥」

 

今、三人の目の間に鎮座していたのは『やまと』だった。

しかし、『やまと』と言っても自分たちの知る宇宙戦艦ヤマトでは無く、旧日本海軍が建造した洋上時代の戦艦大和だった。

 

(何だか、前にも同じような光景を見た事があるな‥‥)

 

海とはかけ離れた場所に鎮座している戦艦大和を見て、デジャヴを感じる良馬。

彼はガミラス戦役時代に蒸発した海の底で眠っていた戦艦大和を古代たちと見た事があったので、デジャヴを感じるのも当然と言えば当然だった。

 

「行ってみるしかないな」

 

密林に鎮座している黒鉄の城を見つめながら良馬は決意を固めた。

ガミラスからの救難信号はあの大和から発せられている。

 

「で、ですが艦長、この森林地帯に戦艦大和なんて‥‥何かの罠かもしれませんよ」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず‥‥もし、この星に まほろば を誘い込んで者がいるとしたら、あの大和の中に居る可能性が高い」

 

確かに此処まで歩いて来て人工建造物はあの巨大な十字架以外はこの大和だけである。

ならば、この惑星の住人があの大和の艦内に居る可能性も十分あり得る。

この星を出る手懸かりになりそうなのは、あの大和ぐらいしかない今、この現状を打開する為に、調査隊のメンバーは戦艦大和へと向かった。

 

近づけば近づく程、奇妙な光景だった。

旧日本海軍が建造した超ド級戦艦大和は静かに森の中に鎮座していた。

 

(((何でこんな所に?)))

 

調査隊のメンバーはそんな疑問が浮かび上がるが、解答は出る筈も無い。

周りに海も無ければ、超ド級戦艦が通れそうな大きな河川も見当たらない。

大和は其処にあるのが当然と言わんばかりにジャングルの中に存在していた。

此処がかつて海で地殻変動等によって水が干上がった。

と言う無理矢理な仮説も考えたが、大和の風化具合から、この大和が此処に存在してから、どんなに多く見積もっても半年以内だ。

その証拠に艦全体は苔も生えていなければ草木にも覆われていない。

 

大和の至近距離まで行くと、其処には降ろされたままのタラップがあり、それを上がり、甲板へと出てみると、デッキの板材は腐食している様子は一切見受けられない。

周囲に人の気配無いが場所を海へと移し人員と燃料を積み込めば動かせるのではないかと思うぐらい完全な形で残されていた戦艦大和。

良馬が艦橋を見上げると、見慣れたヤマトの姿とはちょっと違うが、類似している箇所は見られる。

 

「艦長、此処から入れるみたいです」

 

入り口を探していた加藤が、艦橋下部にあった開いたままのハッチを指さしながら報告する。

コスモガンのエネルギー量と安全装置が外れているかをチェックした後、

 

「‥‥行くぞ」

 

良馬たちは戦艦大和の内部へと入った。

 

艦内も外と同じように人の気配は無く、非常灯の赤い灯りがボゥっと灯っており、何だが不気味である。

そんな中、ギンガにある変化があった。

 

(少し体が重たいような‥‥魔力が練りにくい‥‥この中もAMFが充満されている様ね‥‥)

 

大和艦内には地球同様、AMFが充満しており、魔力の精製が上手くいかない。

頼れるのは、ホルスターに収まっているコスモガンと体術だけだとギンガは警戒しつつ通路を進んだ。

やがて通路を進んでいくと、一つの水密扉へと辿り着いた。

警戒しつつ、良馬がその扉のドアノブを握ると鍵は掛かっていない様で、ドアノブを倒し、ゆっくりと開けると其処には信じられない光景があった。

 

「なっ!?」

 

「何だ?此処‥‥?」

 

「まるで、ホテルみたいですね」

 

扉の向こうには戦艦には不釣り合いな部屋‥‥ヨーロッパ風のレトロなホテルのロビーとなっていた。

そこは天井が高く、ガラス張りになっており、窓の外には白い雲が流れている。

高級なホテルを意識して作られたのか、大理石の床に釣り合う様な高級なカーペット、柱は年季の入った大理石製の柱で中央に立つと、左右対称のシンメトリーとなっていた。

またガラスケースの中には戦艦大和に関する資料や写真、小さな模型が展示されており、壁には幾つもの絵画が飾られていた。

上層部へ行くにはジャンバラの二重扉がついたこれまたレトロなエレベーターのみだ。

エレベーター扉上部にある半円形の文字盤には十一の数が表示され、時計の様な針は四を指していた。

ロビーの電灯は灯っていたのだが、エレベーターには電力が供給されていない様で、ボタンを押してもエレベーターは起動しない。

此処にも人の居る気配、居た様子は無いが、ゴミ一つ落ちておらず、埃も溜まっておらず、荒廃している様子も無い。

フロントにある呼び出しボタンを押せば、フロントの奥の方からホテルマンが出てきても可笑しくない雰囲気である。

 

「入ったのは間違いなく戦艦なのにどうして中はこんな‥‥」

 

大和の中と外のギャップの違いに周囲を見渡す加藤。

 

「ここのホテルのオーナーは『大和ホテル』を意識して作ったのかな?」

 

「『大和ホテル』?何ですか?ソレ?」

 

「当時、日本では最先端の設備を有していた戦艦大和はその充実した艦内設備により、軍人たちからはそう呼ばれていたらしい。なお、姉妹艦の武蔵は『武蔵旅館』と呼ばれていた」

 

「へぇ~‥‥」

 

良馬の雑学に加藤は思わず相槌を打つ。

 

「でも、これは揶揄であり、褒め言葉では無かったんだよ」

 

「何故です?」

 

「戦艦と言うのは文字通り戦いに行くための船だ。しかし、大和も武蔵も出撃の機会は恵まれず、トラック島の泊地に留まったまま時間を潰していた時間が長かったからね。他の艦が戦い、傷つき、沈んでいく中、強力な力を持つ筈の大和、武蔵は戦うことなく、泊地でのんびりと停泊していた。それが、他の軍人たちには我慢できなかったんだろうね」

 

「成程」

 

良馬が加藤に大和に関する雑学を教えていると、

 

「艦長、ガミラスからの救難信号が消えました」

 

ギンガの報告を受け、彼女が持っていたハンディースキャナーを覗き込むと、モニターには先程まで表示されていた救難信号の反応が消えていた。

 

「どういう事でしょう?」

 

「もしかしたら、此処まで誘い込むのが目的だったのか‥‥?」

 

「それじゃあ、これはガミラスの罠ですか?」

 

「いや、そう考えるのは早計だ。現に我々はガミラスからの攻撃を受けていない。これが罠なのか、それとも此処へ誘い出す目的があったのかは、もう少し調査をしないとわからない」

 

若干不安そうな表情の加藤とギンガに良馬は指示を出す。

 

「とりあえず、此処(大和ホテル)をベース(拠点)に周囲の調査から入ろう。ジャングルの中には他に人工物は無かったから、人が居るとしたらこのホテルに居る可能性が高い」

 

「「はい」」

 

良馬は指示を出した後、改めてホテルのロビーを見渡した時、彼はふと違和感を覚えた。

 

(ん‥‥?でも、このホテル‥何だか前に来た事が有るような気がする‥‥)

 

ジャングルの中でデジャヴを感じたギンガの様にこのホテルにデジャヴを感じる良馬。

その時、背後から誰かの視線を感じ、咄嗟に振り向いた。

其処には壁にかかった女性の肖像画が飾られていた。

 

(絵?‥‥変に緊張し過ぎかな?)

 

絵の中の女性がジッと良馬を見ている様に感じたのだが、所詮は絵だ。

周囲を警戒しながら進んで来たので、緊張でそう見えたのかもしれないと思い、良馬はその絵から視線を逸らした。

その直後、異変が起きた。

 

「艦長!!ドアが!!」

 

先程自分たちが通って来た水密扉のドアが独りでにバタンと音を立てて閉まったかと思ったら、ドアは消え、代わりに大きな横長の絵画がかけられた壁が前から此処に有りましたと言わんばかりの自然さで其処に存在していた。

どういうトリックなのか分からないが、良馬たちは此処に閉じ込められてしまった様だ。

ギンガが急ぎ通信機で まほろば に無線を入れるが、スピーカーからはピィー、ガァーとノイズ音しか聴こえない。

続いて上陸用舟艇のバトライザーにも連絡をとるが、やはり通じない。

 

「艦長、無線機も使用不能です。まほろば ともバトライザーとも連絡がつけられません」

 

「そうか‥‥」

 

良馬は冷静に先程ドアがあった壁を調べた。

映画やお芝居のセットまたは忍者屋敷の様に回転構造になっているのではないかと思い、壁を叩くが感触は何ら変哲もないコンクリートの壁だった。

 

「状況は不明だが、退路を断たれた様だ」

 

「やはり、ガミラスの罠だったんでしょうか?」

 

「‥‥とりあえず、手分けをして出口を探そう」

 

良馬と加藤が話している時、

 

チリリリリリ‥‥

 

ベルの音がロビーに鳴り響く。

良馬と加藤の間に一気に緊張が走る。

何処でなっているのかと周囲を見渡すと、音は止む。「何だったんだ?」と、二人が戸惑っていると、フロントの所ですまなそうな笑みを浮かべたギンガが、

 

「す、すみません。ベルを鳴らしたら誰か出てくると思って‥‥」

 

ギンガの行動にやや呆れる良馬と加藤。

しかし、もしこの場にギンガの妹であるスバル・ナカジマがいれば、恐らく彼女もギンガと同じ行動をしていたに違いない。

そして、相棒のティアナから「何やっているの!?バカスバル!!」とツッコまれていたことだろう。

緊張から一転した時、何処からかピアノの音がした。

 

「この音って‥‥」

 

「ピアノ?」

 

「その様だ」

 

「ピアノの音が聴こえるって事は其処に誰かが居るってことですよね?」

 

「自動演奏するピアノもあるが、此処で何もせずに待っているよりはマシだな。行ってみよう」

 

三人はピアノの音が聴こえる方へと向かった。

しかし、そこで彼らは意外な人物と遭遇する事となった。

 

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