星の海へ   作:ステルス兄貴

61 / 294
五十二話 大和ホテルでの邂逅 前編

 

ピアノの音色を聴き、その音色の下へと向かう良馬たち。

通路を歩いていくとピアノの音は次第に大きくなっていく。

やがて、木製の扉が現れその扉を開けるとその先はラウンジになっていた。

壁沿いにつけられた通路を歩いていくと、その先は折れ曲がって階下へと続く階段になっていた。

此処もフロントロビー同様、ヨーロッパ風の作りになっており、赤い絨毯が扉下の通路から階段の下まで続いていた。

 

(此処は‥‥ラウンジ‥なのか‥‥?)

 

良馬は片手にコスモガンを持ちながら壁を背に下へと降りて行く。

階下にも赤い絨毯が敷き詰められており、石造りの大きな部屋で奥にはレンガ造りの暖炉があり、パチパチと音を立てて火が燃えていた。

部屋の中心部には革張りの高級そうなソファーにマホガニー製のテーブル、黒光りするグランドピアノが置かれている。

そして、其処には肩を大きく露出させた赤いドレスを着た女性がピアノを弾いていた。

ソファーには若い男とハンチング帽を被った老人が向かい合わせで座っている。

 

(あの肌の色‥‥間違いないガミラス人だ)

 

ピアノを弾いている女性と二人の男性の肌の色を見て、彼らがガミラス人である事が確認できた。

しかし、彼らは軍服ではなく、クラシックなスーツを着こなしている。

更にもう一人、ガミラス人の青年がフロアをせわしなく歩き回っている。

彼もガミラスの軍服ではなく、オールドファッションな服装をしている。

このラウンジにいるガミラス人は全部で四人の様だ。

その様子はまるで雪山のロッジの様な光景だった。

猛吹雪で足止めをくらった登山者かスキー客がピアノの演奏に耳を傾けながら煙草を吹かしていると言った風景だ。

遭難信号を出していたのは恐らく彼らなのだろう。

やがてソファーに座って煙草を吸っていたガミラス人の男性が紫煙を吐き、人の気配に気がついたのか、此方に視線を向けて来た。

そこで、良馬と視線が合った。

 

「おい、メルヒ。お客さんだ」

 

そう男は叫んだ。

そして、ピアノの演奏も止まる。

良馬たちの姿を見て、メルヒは足を止めて不機嫌そうな表情で良馬たちを睨む。

 

「どうやら、助かった様じゃの」と、老人は嬉しそうに言うが、メルヒは舌打ちをし、「助けが来たと思ったら、異星人かよ」と蔑んだ。

 

「この際、何だって良いさ」

 

ソファーに座っている男はだるそうに言う。

 

「遭難信号を出していたのはあなた方ですか?」

 

良馬はガミラス人たちに救難信号を出していたのかを問う。

 

「ああ‥‥」

 

ソファーに座って煙草を銜えていた男が頷きながら肯定した。

 

(翻訳機なしで言語を交わしている‥‥?)

 

声をかけた良馬自身、翻訳機もなしに相手の言語が分かる事に疑問を感じた。

そんな中、

 

「あれ?俺の銃が‥‥」

 

加藤は先程まで手に持っていた自分のコスモガンがいつの間にか消えている事に気がついた。

しかし、異変はそれだけでは無く、

 

「か、加藤君、服が‥‥」

 

ギンガが驚愕した表情で加藤を見る。

其処には、防衛軍の軍服ではなく、私服を着た加藤の姿があった。

 

「えっ?そう言う通信長こそ‥‥」

 

「えっ?」

 

ギンガも慌てて自分の服装を見た。

すると、加藤同様、自分も地球で休日の日に過ごしている様な私服姿になっていた。

それは良馬も同様で、いつの間にか手に持っていたコスモガンは無く、服装も私服姿になっていた。

更に、まほろば から持ってきた探査キットや通信機の類が無くなっており、背嚢の中に有るのは救急キットと非常食のみとなっていた。

 

(とりあえず、地球人である事は伏せた方がいいかな)

 

階段付近に居た加藤とギンガもラウンジへと降りて来た。

 

 

タバコを吸っていたガミラス人の男性は階段を降りてくる新顔の客たちをソファーの背に両手を乗せたまま見ていた。

 

「貴方たちは何処から来たの?」

 

ピアノを弾いていたガミラス人の女性が此処へ来た新顔の客に何処から来たのかを微笑みながら訊ねる。

良馬は流石に「地球から来ました」とバカ正直に言う訳にはいかなかった。

 

「何処から来たかって聞いてんだ!!さっさと答えろ!!」

 

メルヒは尋問の様に強い口調で問いただす。

 

メルヒこと、クルム・メルヒ少尉はフォムト・バーガーの部下の一人で、あの七色星団の戦いで生き残った一人でもあった。

七色星団の戦いでは、ランベア搭載のスヌーカのパイロットの一人として、バーガーと共にガミラス史上初、瞬間物質転送機によるヤマトへの急降下爆撃を行った。

その時、ふと新顔の客の中に居る女(ギンガ)の顔を見て、タバコを吸っていたガミラス人の男性は唖然として手に持っていた煙草を落しかけた。

 

「‥‥メ、メリア」

 

声にならない呻き声と共に腰を浮かす男性。

自分の目の前に居た女(ギンガ)の容姿がネレディアの妹であり、かつて自分の恋人であったメリア・リッケと容姿が瓜二つだったのだ。

違う点と言えば、肌の色と髪の毛の色だけであった。

 

(いや、メリアがこんな所に居る訳がない)

 

その事は誰よりも自分がよく知っている。

しかし、かつての恋人と似た容姿を持つ女性が居た事で、感情が少し和らいだ。

 

「まぁいい。突然こんな事になったんだ。困惑するのも無理はねぇ」

 

「少佐、良いんですか!?」

 

メルヒは自分たちが何処から来たのかも言わない無礼な連中に納得出来ない様子。

 

「かまわねぇよ。とりあえず、自己紹介ぐらいはしとこうか。俺はバーガー。フォムト・バーガー少佐だ。何処から来たのか言えなくても名前ぐらいは言えるだろう?偽名でも良いからよ」

 

「‥‥良馬‥月村 良馬です。出身地は‥‥ザルツと言う星です」

 

バーガーは先程偽名でも良いと言ったので、良馬は名前に関しては本名を名乗ったが、出身地の星に関しては出鱈目な星の名前を出した。

此処で馬鹿正直に地球人ですと言えば、無用な軋みを生み出すと思ったからだ。

加藤もギンガもその辺は良馬と同じく空気を読んで、良馬が出鱈目な星の名前を出しても突っ込む事は無かった。

もしスバルがこの場に居たら、あっさりと良馬が地球人だと言う事をバラしそうだった。

 

「ツキムラか‥よろしくな」

 

バーガーはぎこちなくも笑みを浮かべた。

良馬の言葉を理解出来た様子からバーガーたちも翻訳機なしで此方(地球)の言語を理解出来る様子だった。

そして良馬は加藤とギンガの二人をバーガーたちに紹介した。

 

(へぇ~あの女、ナカジマっていうのか)

 

無論ギンガがメリアと名乗らない事は百も承知であったが、バーガーの心の中の騒めきは収まらなかった。

良馬たちが名を名乗ったので、バーガーもメルヒ、バーレン、ネレディアを紹介する。

互いに自己紹介が終わると、良馬は自分たちがこのホテルへ訳を話すが、

 

「我々はあなた方が発した遭難信号を受信して此処まで来たのですが、このホテルのロビーで突如、入り口が消失してしまって‥‥」

 

ミイラ取りがミイラになる感じとなり、すまなそうに言う。

バーガーは暖炉に歩み寄り、薪を二、三本くべる。

 

「それじゃあワシ等と同じじゃな。ワシ等もこのホテルの中に入ってすぐに入り口が消えてしまったからな」

 

バーレンがこのホテルに足止めになっている訳を話す。

それによると、彼らも自分と同じ様にこのホテルに足止めされていたみたいだった。

 

「それじゃあ、このホテルは出口がないんですか?」

 

ギンガが不安そうに訊ねるとネレディアが上品な仕草で歩み寄った。

 

「色々試したんだけどね‥‥みんな徒労に終わったわ。私たちは此処に四日間閉じ込められているのよ」

 

ネレディアは、自分たちはこのホテルから出る為にありとあらゆる事を試したか無駄に終わった事を告げる。

彼女の話を聞きながらバーガーは暖炉の中の赤々と燃える炎をジッと見つめていた。

 

「せっかく救出に来てくれたのにすまねぇな。俺達の遭難信号のせいでこんな事に巻き込んじまってな」

 

バーガーもすまなそうに暖炉から視線を良馬たちに向けて言う。

 

「で、でも外に出られないホテルなんて‥そんなモノある訳が‥‥」

 

加藤がこの非日常的な現象に疑問を投げかける。

 

「じゃあ試してみな。時間ならたっぷりあるからよ」

 

メルヒが小馬鹿にした様に言う。

 

「扉から出られないのなら、窓から外に出れば済むだろう」

 

そう言って加藤はタックルする様に近くにあった窓へと走る。

不思議な事に窓はまるで加藤を飲み込むかのように開いた。

窓の外は真っ暗で何も見えないが、加藤は窓の外へと飛び込んで行くと、直ぐにラウンジから飛び出していった勢いのまま別の窓からラウンジの中へと飛び込んできた。

ラウンジへと飛び込んだ‥と言うか、ラウンジに戻って来た加藤は一瞬自分の身に何が起きたのか、理解できない様子であったが、辺りを見回して、此処は先程自分が飛び出していったラウンジだと気づくと首を傾げた。

 

「あ、あれ?」

 

「だから言っただろう。俺たちも色々やったって」

 

メルヒが呆れる様に言った。

 

その後、良馬たちはバーガーたちと話し合い、明日から出口の捜索を共同で行う事になり、この日は解散となった。

ネレディアがギンガを部屋へと案内する。

 

「此処は部屋だけは沢山あるから好きに使って良いわよ」

 

「ほぇ~‥‥」

 

ギンガは高級そうなホテルの部屋を見て唖然としているが、気を取り直して客室内を歩き回っているギンガをジッとネレディアは見ている。

やがて、ギンガは客室のテーブルの引き出しから一冊の本を見つけた。

 

「やっぱりちゃんとしたホテルには客室に本が置かれているんですね」

 

嘗ての故郷‥ミッドでも一流ホテルのアグスタにあるスイートルームにも様々な本が置かれていると言うのを聞いた事があった。

ギンガが本をテーブルの中から取り出すと、ネレディアがギンガの傍に寄り、本のタイトルを覗き込む。

 

「へぇ~懐かしい。コレ、子供の頃によく読んだわ」

 

「えっ!?コレを‥ですか?」

 

ギンガは不思議そうな表所を浮かべながらネレディアを見る。

 

「ええ。『さびしい魔女』」

 

「えっ!?」

 

ネレディアから本のタイトルを聞いたギンガは戸惑ったが、それ以上は深く突っ込まなかった。

 

「どんな話なんですか?」

 

ギンガがネレディアに本のタイトルである『さびしい魔女』がどんな内容の話なのかを訊ねた。

 

「確か‥‥」

 

ネレディアはギンガに『さびしい魔女』の内容をかいつまんで教えた。

それによると、『さびしい魔女』は以下の様な内容だった。

 

 

むかし、むかし、ある所に不思議な力を持つ白い少女がいました。

 

少女は何時も独りぼっち‥‥。

 

そこで、少女は友達を探す為、旅に出ました。

 

やがて、白い少女は青い国へと辿り着きました。

 

白い少女は、其処で友達を探しました。

 

しかし、青い国の人々は誰も友達にはなってくれませんでした。

 

白い少女は、悲しく‥‥そして寂しさのあまりに叫びました。

 

「どうして友達になってくれないの!?」

 

すると、青い国の人々はこう言いました。

 

「お前の力は人々を惑わせる悪魔の力だ」

 

「お前は魔女だ!!」

 

「お前の様な魔女に誰が友達になるものか!!」

 

青い国の人々は白い少女の力を恐れ、彼女を魔女と呼び忌み嫌いました。

 

少女はその言葉に傷つき、家から出なくなりました。

 

やがて、青い国の人々は白い少女を殺そうとしました。

 

それを憐れんだ神様が白い少女に白い船を与え、青い国から逃がしました。

 

神様から貰った白い船に乗った白い少女は、遠い遠い国へと旅立って行きました。

 

まだ見ぬ明日と言う国へ‥‥

 

希望と言う名の船に乗って‥‥

 

 

「‥‥」

 

ギンガはネレディアから『さびしい魔女』の内容を聞き、自分もこの物語に出てくる白い少女に対し、親近感の様なモノを感じだ。

ミッドに居た時‥‥。

母(クイント)に救い出される前から、自分は普通の人じゃない‥‥。

機械と混じった体の化物だ‥‥。

母(クイント)に救い出された後もそのジレンマに苛まれたていた。

でも、母や父‥‥周りの人々のおかげで、自分は化物じゃない。

クイント・ナカジマとゲンヤ・ナカジマの娘なんだと胸を張って生きていけた。

遭難し、今の地球へ流れ着いた時も、自分の周囲には自分を暖かく迎えてくれた人が居た。

でも、この白い少女の周りには誰も居なかった‥‥。

ギンガにはこの白い少女の気持ちが痛い程理解できた。

 

「何だか悲しいお話ですね」

 

「ただの作り話よ。子供に優れている人を外見だけで虐めちゃダメって言う事を教えようとしたんじゃないかしら?」

 

「そうなんですか?でも、何となく遠回しと言うか、分かりにくい教訓な様な‥‥」

 

「そう?まぁ、いいわ。それじゃあね、また明日」

 

「はい。おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

ネレディアはそう言って部屋から出て行った。

 

「‥‥」

 

ネレディアが部屋から出て行くと、ギンガはテーブルの上にある本に視線を向け、首を傾げた。

ギンガの視線の先にある本には『盲目の少女』とタイトル書きされた本が有ったからだ。

 

ギンガの部屋から出たネレディアは、客室の一室の扉が開かれているのを見つけ、その部屋へと歩み寄る。

その部屋にはバーガーが居り、彼は椅子に座りながら、ゴムボールを窓の外へ投げている。

すると、窓の外から先程投げたボールが帰って来る。

まるで誰かが投げ返したかのように‥‥

 

「ストレスの解消法かしら?」

 

「まあな‥‥」

 

ネレディアがバーガーに声をかけても彼は振り向くことなく、ボールを投げては窓の外から戻って来るボールをキャッチする。

 

「‥‥すげぇ似ていたよな‥アイツ‥‥」

 

一人キャッチボールをしていたバーガーはゴムボールを投げながら扉の前に立つネレディアにぼんやりとした口調で話しかける。

 

「え?何の事?」

 

ネレディアには、話の主旨が分からない様子。

 

「いや、あのザルツ人のナカジマって女だよ」

 

バーガーは過去を振り返るかのように呟く。

 

「誰に似ているの?」

 

「‥‥いや、いい。忘れてくれ、俺の勘違いだったようだ」

 

ネレディアが分かってくれなかった事でバーガーはこの話を打ち切った。

 

 

翌朝、七時頃、このホテルに閉じ込められたガミラス人と地球人全員がラウンジへと集まった。

此処に集まった理由は大きく二つある。

まず一つは食糧問題である。

四日間このホテルに閉じ込められていたバーガーたちは既に食糧が尽きており、良馬たちが持ってきた非常食が今は唯一の食糧であった為、それを均等に分ける必要があった。

しかし、飲み水に至っては幸いな事に問題なく、ラウンジの横にあるバーのビール樽の中に大量にあり、幾ら消費しても翌日にはどういう訳かいつの間にか補給されていたと言う。

おかげで、喉の渇きからは何とか逃れた。

もう一つは、全員の今日一日の予定確認であった。

朝に予定確認をし、夕方に夕食と共に報告会を行う。

こうする事でホテルからの脱出の糸口を掴もうと考えたのだ。

まず、バーガーたちが四日の間で調べ上げた事が良馬たちにも公開された。

テーブルの上にはバーガーが書いたホテルの見取り図がある。

 

「このホテルは全部で十一階だが、ロビーにあるエレベーターは故障中なのか全くうごかねぇし、四階には五階へと続く階段さえもねぇ‥勿論、下に行く階段もだ」

 

「これだけ大きなホテルなら何処か壁を壊すか、隠し通路みたいな所はないんですか?」

 

ギンガがバーガーに質問する。

 

「それもダメだ。壁は全て堅い棒で叩きながら歩き回ったが、脆い箇所も隠し通路の様な場所も無かった」

 

「となると、残るは天井か床か‥‥」

 

見取り図を見ながら考え込む仕草をとる良馬。

 

「おや?そう言えば、お前さんたちの連れのもう一人はどうしたんじゃ?」

 

バーレンが加藤の姿が見えなかったので、彼の行方を訊ねた。

 

「ああ、彼なら先程トイレに‥‥」

 

良馬が加藤の行方をバーレンに伝えようとした時、

 

「うひゃぁぁぁぁぁぁー!!」

 

加藤の悲鳴と共に何かが崩れる音がした。

 

「な、なんだ!?」

 

「今の声は!!」

 

「加藤君の声よ」

 

ラウンジに居た皆は、急ぎ声がした方へと向かう。

すると何をどうしたらこうなったのか分からないが、加藤が床に出来た大穴の前で尻餅をついていた。

 

「一体どうしたの?」

 

「つ、通路を歩いていたら、床が脆くなっていたみたいで‥‥」

 

そして加藤が落ちそうになった穴を皆で覗き込むと、

 

「これって地面じゃねぇか?」

 

バーガーは驚いた様な声を出す。

床下に開いた穴には土色の地面が見えていた。

この穴の部分は他のコンクリートでも装甲板の様な堅い素材では無く土の地面だった。

 

(あの戦艦大和の外装は張りぼてなのか?)

 

外は戦艦大和の外装をしていたのだから、その艦艇部が地面な訳がないのだが、現にこうして床に空いた穴は装甲板ではなく、土の地面となっている。

 

「ホテルの壁は壊せなくても此処から穴を掘り進んでいけば、外に出られるかもしれない」

 

良馬たちは穴を覗き込んだ後、直ぐに行動に移した。

キッチンや倉庫から穴掘りに使えそうな道具とバケツをかき集め穴の下に戻って来る。

そして、ローテションを組み交代で穴を掘る作業を行う事になった。

ただ、ギンガとネレディア、バーレンの三人は掘削作業から外れ、残土の運搬処理係りとなった。

当初、バーレンは「年寄りだと思って特別扱いはするな!!」と、不満を零していたが、大した道具も無い中での掘削作業は結構体力を使う作業なので、バーガーがバーレンを説得した。

上官でもなく、ガミラス人ですらない良馬から指示をされるのは普段のバーガーだったら、我慢ならない筈だったのだが、何故か良馬から指示をされても大して気にはならなかった。

最もメルヒは不満そうな顔をしていたが‥‥

 

早速掘削作業が行われ、集めたバケツに次々と残土が収められて行く。

穴の中は湿気が含まれており、掘削した周囲から崩れると言う事は無く、ホテルに閉じ込められているメンバーにとってはこの穴が唯一の希望となった。

確実に脱出できる確証はないが、希望が有るのと無いのとでは、全く違う。

他に脱出の手段も手懸かりも見つからない為、皆はこの穴に希望を抱き、一心不乱で掘削作業を行った。

作業は思ったよりも捗り、二日目にはホテルの床から梯子を降ろさなければならないくらいに深く掘り進められ、続いて横穴を掘る段階へと進んでいた。

客室からはスタンドライトと延長コードが運び込まれ、暗い穴の中を明るく照らす。

一丸となって作業をしている内に、かつての敵同士と言う認識は消えていた。

例え、生まれた星が違い、国家間がいがみ合った仲でも個人と接して居れば見方も変わって来る。

しかし、メルヒはやはり選民思想が強いのか、未だに良馬たちとは一歩距離を置き、毛嫌いしている様だ。

 

そんな共同生活が一週間過ぎた。

まほろば はどうしただろうか?

こんなに時間が経っても捜索隊の第二陣を送って来ないとなると、見捨てられたのかもしれない。

食糧ももう残り少なくなっている。

ギンガは枕元に置かれた紙に線を一本書き足す。

日にち感覚を失わない為に、ギンガはこうして記録を取っていた。

一週間の内、六日間を縦線で示し、七日目を横線でしめる。

そして、今日横線が入った。

憂鬱な気分を少しでも忘れようと、ギンガは以前見つけた『盲目の少女』とタイトル書きされた本を手に取り、表紙を開いた。

 

 

少女は生まれてすぐに病気で視覚と聴力を失い、言葉が不自由になった。

 

少女の両親は娘の将来を不安に感じ、盲学校の女性教師を少女の家庭教師として雇った。

 

教師は決して少女を甘やかす事無く接し、少女はその度に反発し、一向に言う事を聞こうとしなかった。

 

ある日、教師と少女が散歩をしている時、教師は井戸の水を桶に汲み、少女の手を握り彼女に水を触らせた。

 

そして、掌に指で何度も文字を書いた。

 

その行為に少女はモノには全て名前が有るのだと知り、感動した。

 

光も音も無い世界に少女は初めて光の存在を知った感覚を覚えた。

 

 

ギンガが本を読んでいると、彼女の耳に小さく女性が囁く様な声が聞こえた。

 

「っ!?誰!?」

 

ギンガが部屋を見渡すが、辺りには人の気配はない。

そこで、部屋の扉を開け、通路に出ても誰かが居た形跡はない。

しかし、ギンガには確かに聞こえたのだ。

 

「こっち‥‥かしら‥‥?」

 

ギンガは部屋を出て通路へと出る。

そして辿り着いた先は最初にこのホテルのフロントロビーであった。

すると、そこには良馬の姿があり、彼はロビーに飾られていた一枚の肖像画をジッと見ていた。

それは、最初にこのホテルに来た時、ギンガが視線を感じたあの女性の肖像画だった。

 

「良馬さん」

 

「あっ、ギンガか」

 

ギンガに声をかけられ、振り向く良馬。

 

「どうしたんですか?こんな所で?」

 

「声が聞えてね」

 

「声?ですか‥‥?」

 

「ああ」

 

良馬はギンガと同じく声が聞えてこのロビーに来たのだと言う。

最もその声の主の言葉は何と言っていたのか分からなかったが‥‥

そして声の主を探しているその最中、この肖像画がどうしても気になったのだ。

 

「でも、ただの絵ですよ?」

 

「そうなんだけど、この絵‥‥何だか生きているみたいに感じたんだ」

 

「‥‥」

 

確かに良馬の言う通り、肖像画に描かれている女性は絵にしてはかなりリアルで瞬きや会話を振って来ても可笑しくないレベルの精巧さだ。

しかし、所詮絵は絵で会話をしなければ、瞬きもしない。

良馬とギンガロビーにあるソファーに座り、先程聴こえた声について話し合った。

それによると、ギンガは女性の声が聴こえ、その声の言葉はジレル語だったと言う。

ギンガは此処に来る前にジュラからジレル後を習っていたので、謎の声の内容を知る事が出来た。

 

「ジレル?それってジュラさんのお母さんの祖国の?」

 

「はい」

 

「それでその人は何って言っていたの?」

 

「確か『飢えは争いを引き起こす』‥‥でした」

 

「飢えは争いを引き起こす‥‥」

 

「あっ、でも、もしかしたら私の聞き間違いかもしれません。お腹の空き過ぎで空耳が聞えたのかもしれませんし‥‥」

 

ギンガが慌てながらそう言うが、お腹が減っている最中、その様な話をすると、

 

クゥゥ~

 

脳と身体は綿密に連携している為か、ギンガのお腹が鳴った。

 

「あぅ~」

 

お腹の音を聞かれ、ギンガは顔を赤く染め、俯く。

そんなギンガに良馬は、

 

「コレ、少ないけど」

 

そう言って自分の分の非常食である乾パンをギンガに渡して来た。

 

「でも、これは良馬さんの‥‥」

 

「大丈夫だから‥‥その‥‥いざとなれば、自分の血で何とかなる体だし‥‥」

 

「‥‥」

 

ギンガも良馬が夜の一族と呼ばれる吸血鬼の末裔である事を知っている故、其処で変なリアクションは取れなかった。

 

ロビーからラウンジへ向かう途中、良馬はジレル人について考えた。

ジュラの母親は純血のジレル星人であったが、ヤマトがサイレンの星へ辿り着く寸前で自殺した。

ガミラス領にジレル星と言う星は冥王星ガミラス基地のコンピューターには記録されていなかった。

ならば、ジュラの母親のメラは一体何処から来たのだろうか?

 

「ギンガ、管理局が管理する世界で『ジレル』と言う星はあった?」

 

「いえ、私の知る限り『ジレル』と言う名前の管理世界はありません」

 

時空管理局が管理する星の中にもジレル星は無かった。

ジレルの民は何処に住んでいて何処から来たのだろうか?

そんな思いを抱いていると、

 

「面白い話をしているわね」

 

と、ネレディアが近づいて来た。

どうやら、さっきの話を聞かれた様だ。

 

「ネレディアさんはジレルと言う星、聞いたことありませんか?」

 

ギンガがネレディアにジレルの事を訊ねた。

ガミラス人ならば、自分たちよりもジレルに詳しいと思ったからだ。

 

「ジレルの民は不思議な力を使う種族だったけど、残念ながら彼らは既に滅んだ種族よ」

 

「えっ!?」

 

「滅んだ?」

 

ネレディアの言葉に唖然とする良馬とギンガであった。

そして、ジレルの民について語ったネレディアが怪しげに微笑んだ事に気がつかなかった。

 

 

 

 

突如、ガトランティス艦の襲撃を受け、艦内には警戒音が鳴り響き、煙が充満し、彼方此方で爆発が起きている。

通路には非常灯が灯り、「退避しろ!!急げ!!」と、乗員の叫び声が辺りに木霊すし、既に息絶えた乗員の死体や天井部にあるパイプや壁の装甲板が崩れ、配線やコードが千切れ、そこからバチバチと火花を発している。

非常消火装置も作動せず、隔壁も閉まっている箇所と故障の為か、作動していない個所がある。

先程の攻撃が此の艦にかなりのダメージを与えた証拠である。

そんな中を、若き日の頃のバーガーは宇宙服を身に纏い通路を必死に走っていた。

彼は避難する為に走っているのではなく、ひたすら艦の居住区に向かっていた。

しかし、艦内エレベーターも使用不能になっており、やむを得ず、点検用の梯子をよじ上り漸く目当てのフロアへと辿り着いた。

通路に散乱する瓦礫をどけながら、彼は自分の大切な人の名を叫ぶ。

 

「メリア!!」

 

しかし、幾ら呼んでも答えず、探せど姿は見えない。

それでも彼は名前を叫び続け、探し続けた。

 

「メリア!!どこだ!?返事をしろ!!」

 

すると、

 

「フォムト!!私は此処よ!!」

 

返事が返って来た。

声のした方へ視線を向けると、そこには天井から降って来た瓦礫に体を挟まれ動けなくなっているメリアの姿があった。

しかし、どうやら生きている様だ。

バーガーは生まれて初めて神とやらに感謝した。

 

「メリア、待っていろ!!直ぐに助けるからな!!」

 

だが、バーガーが彼女の下へ走り出した瞬間、それを阻むかのように隔壁が閉まり始めた。

 

「ば、バカ!!止めろ!!」

 

彼は咄嗟に叫びながら被っていたヘルメットを取り、隔壁扉に投げつける。

ヘルメットは上手い具合に扉の間にスッポリと入り込み、その間に出来た隙間から必死に手を伸ばす。

 

「まだ閉めるな!!中にはまだメリアが残っているんだ!!」

 

彼は大声で叫ぶが、当然反応は無い。

無線機を持っておらず、彼の叫びは艦橋へと届かない。

その間にも隔壁の扉が閉まって行き、挟んだヘルメットはミシミシと音を立て始めた。

 

「メリア!!メリア!!」

 

隔壁扉の隙間から伸ばしたバーガーの手も骨を砕くかのような痛みが襲うが、彼は手を引っ込めようとしない。

メリアを助ける事が出来れば腕一本ぐらい失っても構わない。

腕を失い義手になって予備役、退役になっても良い‥‥

 

「‥‥フォムト」

 

メリアも瓦礫の中から必死に手を伸ばす。

二人の距離が離れているため、当然互いの手が触れ合う事は無かった。

メリアが口元を僅かに動かして何かを呟き、健気に微笑んだ瞬間、ズドーンとメリアの背後に大きな大爆発が起こり、そこで生じた爆炎がメリアとバーガーに迫る。

爆炎の炎がメリアを飲み込み、衝撃波がバーガーを吹き飛ばす。

その際、飛んできた破片の一つがバーガーの左頬を深く引き裂く。

爆発で生じた衝撃波で吹き飛ばされたバーガーは通路の奥まで吹き飛ばされた。

全ての障害物が無くなった隔壁は無情にも閉じられ、そこで爆炎は防がれた。

扉が閉まり、爆炎の炎に巻き込まれたメリアがどうなったのかその結果は火を見るよりも明らかであった。

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁー!!メリア!!」

 

バーガーはハッと目を覚ました。

其処は、メリアを失った艦ではなく、自身が閉じ込められたホテルの中にある自分の部屋のソファーの上だった。

顔も体も寝汗でびっちょりと濡れており、自分がさっきまで魘されながら眠っていたことが窺える。

 

そこへ、

 

「大丈夫ですか?」

 

と、女性の声がした。

 

その声を聞きバーガーは、一瞬「メリア!?」と、声のした方へと視線を向けると、其処に居たのはメリアでは無く、彼女と瓜二つの容姿を持つ、ザルツ人のナカジマと言う女だった。

掘削作業で疲れたバーガーは部屋のドアを閉めずに、ソファーへ横になって眠ってしまったのだ。

 

「な、何がだ?」

 

バーガーは、姿勢を直して不機嫌そうに顔の汗を拭いながら訊ねる。

 

「いえ、廊下を歩いていたら、叫び声が聞こえたので‥‥大丈夫ですか?バーガーさん」

 

(メリアはもうこの世に居ない‥‥アイツはただ顔がそっくりなだけだ‥‥)

 

「あ、ああ‥問題ない‥‥すまねぇな、大声出しちまって」

 

そっぽを向いたバーガーは「行け」と言わんばかりに、右手を振る。

 

「そうですか‥‥では、おやすみなさい」

 

ギンガは一礼し、その場から去って行った。

 

「ふぅ~‥‥」

 

ギンガが去り、バーガーはどっかりとソファーに座り込む。

彼の脳裏には再び過去の出来事が過ぎった。

 

「メリアは何処!?何処なの!?」

 

「‥‥」

 

「貴方が傍に居て何でこんな事になるのよ!?教えてよ!!フォムト!!」

 

味方に救助された後、バーガーはメリアの姉であるネレディアに問い詰められた。

その時、彼女に言われた言葉が未だにバーガーの耳に残る。

バーガーは衝撃波で吹き飛ばされ、意識を失ったが、その後、他の乗員の手によって救助され、一命を取り留めたのだ。

 

(‥‥メリア、俺は人を憎む事しか出来なくなっちまったよ)

 

バーガーはゆっくりと目を閉じ、左頬に残った傷を撫でる様に触った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。