星の海へ   作:ステルス兄貴

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五十六話 星巡る方舟の旅立ち

 

シャンブロウでの戦いはガミラスと まほろば の航空隊の活躍で敵の機動部隊は壊滅し、残存艦隊はネレディア率いるガミラス艦隊が引き受ける形となった。

その最中、ネレディアが乗艦するミランガルにミサイルが接近する。

ミランガル‥ネレディアの窮地を救ったのはバーガーが操縦するツヴァルケだった。

機体はミサイルに当たり木端微塵となるが、操縦していたバーガー本人は間一髪で機体から脱出して無事だった。

ミランガルの上空にはガトランティスの機動部隊を壊滅させたガミラスのツヴァルケ隊、デバッケ隊、スヌーカ隊と まほろば のコスモタイガー隊が駆け付け、敵艦隊を壊滅すべく、攻撃をかけて行き、その隙にバーガーはミランガルへ収容された。

 

「まほろば 接近してきます!!」

 

「むっ!?」

 

オペレーターの報告にダガームは顔をしかめる。

地球の戦艦は前衛艦隊と機動部隊を壊滅させ、メガルーダの火炎直撃砲を封じたのだ。

そして今度はこのメガルーダ本体を沈めに来た。

 

(この、化け物め!!)

 

圧倒的に不利な状況にも関わらず、気づけば友軍艦艇はその数を殆んど無くした。

思えば、地球はあのガミラスの猛攻から僅か一隻の戦艦でガミラス帝国を崩壊へと導き、そして大帝陛下御自ら率いるガトランティス本星をも退けた。

ただの辺境の田舎蛮族共では無かった。

 

「くっ、残存艦艇を集結、反撃させろ!!」

 

此処に来てダガームは自らが狩人から狩られる獲物になったのでは?と、思い始めた。

ダガーム艦隊は支離滅裂となっており、戦場から逃亡する艦も出始めた。

今、メガルーダの直掩にいるのは二隻の駆逐艦のみ。

まほろば は大きく迂回してメガルーダの後方から接近して来る。

ダガームの命令を受けて、まほろば に接近して来た敵の駆逐艦に対して、まほろばは第一主砲からショックカノンを放つ。

被弾した艦は操艦機能を失い、落伍して行く。

もう一隻の駆逐艦は右舷側から迂回して まほろば に接近して来た。

まほろば は右舷側のミサイル発射管からミサイルを一斉に放つ。

ミサイルは敵の駆逐艦を囲むように接近して命中する。

煙と爆炎を出しながら、ミサイル攻撃を受けた駆逐艦は爆沈した。

 

「何をしている!?落とせ!!落とさんか!!」

 

ダガームが腕を振るいながら、命令する。

メガルーダの後部砲塔が火を吹くが、副砲クラスの砲の為、まほろば を撃沈する事は不可能で、命中しても まほろば は速度を落とすこと無く、メガルーダへと迫って来る。

まさに、肉を切らせて骨を切るような姿勢だった。

鬼神の如く自分たちに迫って来る まほろば に メガルーダの艦橋員は恐怖を抱き、震え上がる。

ここで何とか反撃し、まほろば に決定的なダメージを与えなければ、士気が下がると思ったダガームは、

 

「おのれ!!もはや拿捕など、どうでもいいわ!!此処で宇宙の藻屑にしてやる!!転送機など無くとも火炎直撃砲はまだ使えるのだ!!」

 

火炎直撃砲の発射コンソールの下へ走り寄ったダガームはそこに居た砲手を殴り飛ばして強引に退かせると、コンソール下部にあったレバーを思いっ切り引っ張る。

 

「メガルーダに死角なし!!」

 

それは、火炎直撃砲の発射口本体をパージさせる緊急レバーであった。

メガルーダの下部に装備されていた筒状の火炎直撃砲砲塔部が火を吹き、メガルーダから分離した。

 

「沈め!!まほろば!!」

 

ダガームは用のなくなった火炎直撃砲の本体をミサイルとして まほろば へぶつける策をとった。

火炎直撃砲の砲塔はクルクルと回りながら、まほろば へと迫って行った。

まほろば 目がけて発射された砲塔本体を見てダガームは、

命中だ。これで勝った!!

と、勝ち誇った笑みを浮かべた。

しかし、彼の思惑とは違って まほろば は衝突直前に艦を右側にロールし始め、火炎直撃砲の砲塔本体の回転に合わせるようにギリギリの所を通り抜けて行く。

ダガームの策は、まほろば の左舷の船体にかすり傷をつける程度に終わった。

まほろば にかすり傷をつけただけで終わった火炎直撃砲の砲塔は何もない宙域で爆発し、消滅した。

 

「なっ!?避けただと!?」

 

ダガームは焦りと一撃必勝の攻撃をかわされた事で歯をギリギリと食いしばりながら悔しがる。

速度を落さず、火炎直撃砲の砲塔を躱した まほろば は メガルーダのすぐ後ろに迫っていた。

 

「必中距離‥‥捕えたぞ!!ロケットアンカー打て!!照準、敵艦右艦尾!!」

 

「了解、目標、敵艦、右艦尾、ロケットアンカー発射!!」

 

その瞬間、まほろば からまるで大きなクジラに対してモリを打ち込むかのように巨大な鎖をジャラジャラと音を立てながら まほろば のロケットアンカーがメガルーダの艦体に打ち込まれた。

その衝撃は凄まじいモノでメガルーダの乗組員たちは次々と転倒する。

 

「なっ、何事だ!?」

 

ダガームは周囲に何が起きたのか問うが、理解できる者は居なかった。

まほろば と メガルーダは鎖で繋がれた古代ローマのグラディエーターの様な形となっていた。

互いに鎖で繋がれており、どちらかを斃すまで距離を取る事も自由に動き回る事も出来ない。

しかも まほろば はアンカーの鎖を収納し始め、ジワジワと距離を縮めて来た。

 

「まほろば、急速接近!!」

 

「ぶつかるぞ!!」

 

迫り来る まほろば にますます怯えるメガルーダの乗組員たち。

 

「うろたえるな!!艦首大型砲にて、まほろば を討つ!!仰角上げ!!発射準備!!」

 

双方とも遠心力にて、壁に引き付けられるが、それでも何とか耐えながら射撃準備を行って行く。

メガルーダの前部甲板には火炎直撃砲に次ぐ大口径五連装砲塔がある。

いくら、まほろば の重装甲と言えどもこの至近距離でこの大口径の一斉射撃を受ければ、無事では済まない。

まほろば の主砲も仰角上げで照準をメガルーダへと狙う。

しかし、動きはメガルーダの方が まほろば よりも早かった。

 

「最後に勝つのはこのわしだ!!メガルーダは負けぬのだ!!」

 

ダガームは今度こそ、まほろば を沈められると思ったが、勝利の女神は彼には微笑まなかった。

メガルーダの大口径五連装砲塔が まほろば に狙いをつけようと砲身を上げ始めた時に、まほろば の艦橋周辺に装備されたミサイルランチャと三連装の第一、二副砲、パルスレーザー砲が火を噴いた。

撃沈には至る傷は負わなくとも、メガルーダの各所に被害が起き、ケーブルや回路が切れ、艦橋の各所に火花や煙が出る。

その影響でメガルーダの大口径五連装砲塔の管制システムにも影響が出た。

砲身の仰角を上げる事が出来なくなったのだ。

 

「このメガルーダが地球の蛮族共の戦艦なんぞに負ける訳にはいかんのだ!!主砲撃て!!」

 

メガルーダの大口径五連装砲塔から発射された五本のビームが発射される。

だが、仰角の角度が足りなく命中したのは五本中一本だけで、しかも まほろば の艦尾にあるカタパルトをかすっただけだった。

そして、ダガームの抵抗もここまでであった。

死神が鎌を振り上げるかのように まほろば の前甲板にある三連装の第一、第二、第三主砲が仰角を上げ、メガルーダに狙いをつけていた。

 

「照準良し!!射撃用意良し!!」

 

「撃て!!」

 

「発射!!」

 

まほろば の第一、第二、第三主砲が一斉に火を噴き、メガルーダの艦体を貫く。

 

「ぐっおおおおおお‥‥‥!!」

 

装甲が破れる凄まじい音に続いて大きな爆炎と衝撃波がダガームを始め、メガルーダの乗組員たちを襲う。

 

「こんな‥‥こんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁー!!」

 

ダガームの絶叫と共にメガルーダは爆沈した。

しかし、至近距離での大型戦艦の爆発は凄まじいモノで、まほろば はその爆炎に巻き込まれた。

 

「敵旗艦轟沈!!」

 

メガルーダの撃沈はミランガルの方でも確認できた。

 

「まほろば はどうした!?」

 

ネレディアは まほろば の所在を確認する。

 

「あれだけの爆発です‥‥爆発に巻き込まれて消滅しまった可能性も‥‥」

 

オペレーターが気まずそうに意見を述べる。

しかし、メガルーダの爆炎を切り裂くように まほろば は爆煙の中から出現した。

「旗艦撃沈」の知らせは瞬く間にガトランティスの残存艦艇に知らされ、直ちに戦闘行為を止め、ワープにて撤退していった。

 

戦闘が終わると、周囲の幻想的な空間が崩れ去っていき、普段見慣れた星の海の姿となる。

そして、目の前には巨大なイカの様な構造物が浮いていた。

それはとてつもない大きさで まほろば や ヤマトはおろか、あのガトランティスの巨大戦艦よりも大きかった。

周囲は白い骨組みによって内部は透明に透けており、見方によっては網目構造を持つ横倒しになった電波塔の様にも見える。

良馬たちが調査したシャンブロウ自体もこの巨大な構造物の一部で星一つ自体が人工建造物だったのだ。

この壮大な『方舟』と言って良い超巨大な宇宙船は古代アクエリアス文明‥古代ジレル星人の遺産とも言うべき代物であったが、推進機関も構造も作られた年代さえも分からない。

恐らく『聖王のゆりかご』よりも古い物であると推察される。

フェイトとティアナも息を飲んで、モニターに映る超巨大な構造物を見ていた。

 

「あんな巨大な船が存在するなんて‥‥」

 

「間違いなく、ロストロギアクラス‥ううん、ロストロギアなんて一言で片づけられないそれ以上の代物ね‥‥」

 

今までの管理局、管理世界の歴史上には無い程の巨大な宇宙船‥‥

機能は分からなくともその見た目だけで、あの『方舟』がロストロギア級以上の代物。

管理局員ならば、是が非でも調査を行い、回収したい代物だ。

しかし、今の自分たちにその権限が無いのは百も承知している。

長い間、ガミラスにも管理局にも見つからなかった代物だ。

恐らくこの先も管理局には見つかる事は無いだろう。

フェイトとティアナはジュラの時と同じように、あの『方舟』について報告するつもりはなく、それぞれのデバイスにもあの『方舟』の情報は記録しないように指示した。

 

「あれが、母の故郷‥‥」

 

一方、ジュラは初めて見た母、メラの故郷をジッと瞬きもせずに見ていた。

 

戦闘の終結が、戦いの終わりを意味するわけではない。

混成艦隊の各艦はこの戦闘における遭難者たちの捜索・救助に取り掛かった。

戦いが終わった宙域には轟沈せず、比較的原型をとどめているガミラス艦艇の残骸もチラホラあった。

またバーガーの様に機体から脱出したパイロットも居るかもしれない。

コスモタイガー隊とガミラス航空機隊は生存者の捜索に入った。

その他にもガミラスからは内火艇、まほろば からは救命艇、上陸用舟艇など飛ばせる機体を全て使用して大規模かつ広範囲の捜索、救助活動を行った。

加藤も必死でメルヒの捜索を行った。

あのガトランティス攻略作戦の際、玲の兄、山本明夫は被弾した機体から命からがら脱出し九死に一生を得た。

今回の戦いでもバーガーが同じ様な行動をとっている。

なので、メルヒも機体が爆発する寸前にベイルアウト(脱出)しているかもしれないと言う期待を抱いていた。

しかし、大規模な捜索にも関わらず、メルヒは発見されなかった。

 

収容されたガミラス軍の負傷者たちの内、輸血用の血液などの問題により重傷者はミランガルを始めとするガミラス艦へ、止血などの軽い手当で処置できる軽傷者たちは まほろば で手当てを受けた。

初めて地球の戦艦に乗ったガミラスの将兵たちは物珍しそうにあたりを見回していた。

本音を言えば、フェイトとティアナは実際にガミラス人と言う人種をこの目で見たかったが、自分たちが医務室へ行ってもやることはなく、却って邪魔になってしまうので、用意されていた部屋で待機していた。

それに今後の航海でガミラス人と接触する機会はある筈なので、今回は見送った。

 

 

捜索、救助活動が終わった後、良馬はミランガルのネレディアに通信を入れた。

 

「捜索活動は粗方終了したようですね、ツキムラ艦長」

 

「はい‥‥あの、ネレディア大佐」

 

「なんでしょう?」

 

「あのガトランティスを相手に共に戦えた事を誇りに思います。それと同時に今回の戦いで散って逝った勇敢なるガミラス将兵たちに対して哀悼の意を表します」

 

まほろば の艦橋員全員が敬礼し、

 

「ありがとう‥‥私からも我々ガミラスと戦い散って逝った勇敢なる地球の将兵たちの魂が地球へ戻らんことを心から祈る」

 

ミランガルの艦橋員もガミラス式の敬礼をして、ガミラスとの戦いで散って逝った宇宙戦士たちに黙祷した。

それは地球とガミラスがお互いの気持ちを尊重し合えたと言う事だ。

こんな日が来るなんて まほろば の乗組員たちは思ってもみなかった。

かつて、自分たちの故郷である地球を滅ぼそうとしたガミラスと共闘しお互い戦死した将兵たちの死を悼む等と言う時が‥‥。

フェイトとティアナは第三者的な立場であったが、ガミラス、地球の宇宙戦士たちの為に黙祷をささげ、間接的に関係のあるジュラも同じく黙祷し、戦死者たちの御霊の安寧の眠りを祈った。

 

ミランガル と まほろば は流石に作られた星が異なる為、互いに接舷ハッチを接続させることは出来なかった為、かなりの至近距離で停船している。

甲板では技術班と甲板部が今回の戦闘でダメージを受けた箇所の応急修理をしている。

イスカンダルへ行けば、そこでは新たにα星、七色星団で戦ったあの円盤型の艦隊との戦闘も予想されるなか、艦の状態は万全にしておかなければならない。

応急修理が行われている中、ネレディアは、まほろば を訪れた。

ダガーム艦隊との戦闘でバーガーも負傷したが、軽傷の為、まほろば で治療を受けている。

心配になったネレディアにバーレンが気を利かせて、「見舞いに行ってやれ」と言ってこうしてバーガーの様子を見に、まほろば へとやって来た。

まほろば に来たネレディアを出迎えたのは艦長の良馬だった。

 

(改めて見ると、レーレライさんが化けていた姿と同じだ‥‥)

 

記憶の内容は兎も角、容姿は大和ホテルで見たレーレライが化けていた姿と瓜二つだった。

最も今、目の前に居るネレディアがオリジナルなのだから、似ていて当然だ。

良馬はネレディアをバーガーの居る医務室へと案内する。

幸いネレディアは翻訳機を携えていたので、会話に支障はなかった。

あのホテルで良馬たち地球人とバーガーたちガミラス人が翻訳機なしで会話が出来たのはレーレライの魔法によるものだったのだろう。

 

「それにしてもあの艦を倒す事が出来たのが、今でも信じられません」

 

良馬はあの火炎直撃砲搭載艦、メガルーダを倒す事が出来たのが未だに信じられなかった。

 

「私もです‥‥ただ‥‥」

 

「ただ?」

 

「ただ、あの艦隊を倒す事が出来たのはいいが、このままイスカンダルで行っても良いモノだろうかと思って‥‥」

 

「えっ?」

 

「フォムトは七色星団からの敗残‥いや、敵前逃亡をしたことになっている‥‥我がガミラスの軍規では敵前逃亡は死刑だ‥‥もしかしたら、総統がフォムトを処罰するかもしれない‥‥」

 

「‥‥」

 

他の星の軍律に口を挟む権利は良馬にはないが、それでも共にあのホテルで過ごし、ダガーム艦隊と戦った仲間でもある。

 

「自分には他軍の軍律に口を挟む権利はなく、それをすれば当然内政干渉でありますが、彼は共に戦った仲間です‥‥もし、デスラー総統が彼を処断すると言うのであれば、自分はバーガー少佐を亡命者として地球で保護する所存です」

 

「‥‥」

 

「しかし、今のデスラー総統ならば、バーガー少佐の事もきっと免罪してくれると思います。今のガミラスにはバーガー少佐の様な方は必要な人材の筈ですから」

 

「そうだと良いんですが‥‥」

 

良馬の言う事も最もであるが、確実な確証があるわけでは無い。

バーガーはあの星の探査から帰って来た時、ヤマト、地球へ対する復讐心は一切なく、ネレディアは半日の間に一体彼にどんな心境の変化があったのかと疑問に思ったが、彼がこうして地球と協同したのもあの艦隊に勝てた要因の一つである。

そして、先程の戦いで死んでしまったかと思ったバーガーは生きて自分の下に戻って来てくれた事には感謝しているが、戦いがこうして終わると、彼の処遇についての事にネレディアは一抹の不安を抱くのも無理はなかった。

 

一方、まほろば の医務室にて治療中のバーガーはと言うと‥‥

 

 

「へぇ~地球の艦も大したもんじゃねぇか」

 

バーガーは手当てを終えて、医務室近くの通路にある椅子に座りながら初めて見る地球の宇宙戦艦の内部を見渡しながら感嘆の声を漏らした。

祖国であるガミラスと比べると科学力が劣ると言われていた地球の宇宙戦艦の設備もガミラスと勝るとも劣らない程のレベルであった。

あれほど憎んでいた筈の地球なのだが、あのホテルでの共同生活とダガーム艦隊との戦いを通じて地球に対する憎悪と復讐心はいつの間にか消えていた。

だからこそ、あの戦いに勝つことが出来たし、今こうして地球の宇宙戦艦を冷静な目で見る事が出来ている。

バーガーはそんな自分に思わず苦笑してしまう。

 

「これもあいつらのおかげだな‥‥」

 

バーガーがポツリと呟いた時、

 

「バーガーさん!」

 

自分の名前を呼ぶ声がした。

発音に若干の違和感があるが、それは間違いなく、自分たちの世界の言葉だった。

そしてその声の主は聞き覚えのある声だった。

 

「ナカジマか」

 

「良かったです。御無事で‥‥」

 

やって来たのは、メリアと瓜二つの容姿を持つ女性、ギンガだった。

ギンガは士官学校時代に医療科も受講しており、応急処置ぐらいは出来るので、こうしてリニスたち医務班を手伝いに来た。

その最中、彼女はバーガーの姿を見つけて声をかけたのだ。

 

「ナカジマ、お前ガミラス語が話せるのか?」

 

「はい。覚えたてでまだまだ下手ですけど」

 

「確かに、発音が全然だめだな、それじゃあまるで、言葉を覚えたてのガキと同じレベルだぜ」

 

ニっと不敵な笑みを浮かべながらバーガーはギンガのガミラス語に対する意見を述べる。

 

「むぅ~」

 

バーガーの皮肉にギンガは頬を膨らませる。

 

「そうむくれるなって。かわいい顔が台無しだぞ」

 

そう言いながらバーガーは椅子から立ち上がった。

その際、懐から彼が肌身離さず持っていたメッセージカプセルが零れ落ちた。

 

「それはもしかして、メッセージカプセルですか?」

 

「ん?なんだ?コイツを知っているのか?」

 

「はい。士官学校時代にイスカンダル製のメッセージカプセルの画像を見た事があるんです‥‥大切な物なんですね。肌身離さず持っているなんて」

 

「ああ。こいつは形見みたいなもんなんだ‥‥」

 

そう言ってバーガーはカプセルを開ける。

すると、

 

『ねぇ、フォムト。今度姉さんと一緒に夜景を見に行かない?あそこの夜景、ガミラス星で見る夜景と違って、とっても綺麗なの』

 

カプセルが映し出すホログラムにはギンガそっくりのガミラス人の女性が映し出され、記録されたメッセージを話し始める。

 

「えっ!?私っ!?」

 

ギンガは思わず自分にそっくりなガミラス人の女性を見て目を見開き驚く。

 

「こいつはメリア。俺の恋人だった女だ‥‥」

 

「あっ‥‥この人が‥‥」

 

大和ホテルで、バーレンから聞いたバーガーの恋人‥‥

 

「バーレンさんから聞きました‥‥ガトランティスとの戦いで戦死なさったって‥‥」

 

「‥‥ああ‥‥俺はこいつを守ってやれなかった‥‥助けられなかった‥‥コイツは俺の目の前で死なせちまった‥‥」

 

「バーガーさん‥‥」

 

「でも、今回はちゃんと守れた‥‥お前もネレディアも大勢の仲間もな‥‥ただ、今回も守れなかった奴も居たがな‥‥

 

「‥‥」

 

戦いである以上、味方全員を守り通して、敵だけを倒すなんて事は出来ない。

今回の戦闘でメルヒやニルバレスを始めとする大勢の仲間が死んだ事には変わりない。

 

「それでも、バーガーさんのおかげで、助かった人も居るんです。敵に勝つことが出来たんです。バーガーさんは十分頑張りましたよ!!」

 

「ありがとうな、ナカジマ‥‥まぁ、またメリアの所には逝き損なっちまったけどな」

 

「それはきっと、メリアさんが、『まだ来てはダメ』って言ったんですよ」

 

ギンガが微笑みながらバーガーに言う。

彼女のその姿に、一瞬バーガーはメリアがそう言ったかと錯覚しそうになる。

 

「フッ、そうかもな」

 

バーガーは思わず口元を緩めた。

軽傷者の手当てが粗方終わった頃、良馬の案内の下、ネレディアが医務室へとやって来た。

 

「フォムト‥怪我は‥う、嘘‥‥」

 

医務室に入ったネレディアはギンガの姿を見て目を見開き固まる。

そして、

 

「め、メリアッ!!」

 

ネレディアはギンガに駈け寄ると、彼女を抱きしめる。

 

「えっ?あ、あの‥‥」

 

突然、ネレディアから抱きしめられたギンガは困惑する。

 

「ネレディア‥ソイツはメリアじゃねぇ‥‥」

 

「えっ?あっ、ごめんなさい。貴女があまりにもメリアに‥妹に似ていたから‥つい‥‥その驚かせてしまったわね」

 

「そんなにそっくりなんですか?」

 

良馬は未だにメリアの姿を見ていないので、そのメリアと言う女性とギンガがどのくらい似ているのか気になった。

そこで、バーガーが先程、ギンガに見せたメッセージカプセルの中に記録されていたメリアの姿を良馬に見せる。

 

「っ!?た、確かにギンガとそっくりだ‥‥」

 

肌の色と髪の毛の色が違うだけで、メリアの容姿はギンガとそっくりだった。

もし、レーレライが大和ホテルでギンガを見た時、今のネレディアの様なリアクションをして、バーガーの呼び方も読み取っていたら、きっとバーガーもレーレライの変装だと見抜けなかっただろう。

ネレディアはその後、改めてギンガに断りを入れ彼女を抱きしめた。

目の前にいるのは、妹ではないのは分かっている。

それでも妹を失ったあの時間をまるで埋めるかのようにネレディアはギンガを抱きしめ、ギンガもネレディアを抱きしめた。

ギンガ自身もネレディアの気持ちはよくわかる。

彼女自身、幼少の頃に母親であるクイントを失った中、次元漂流したこの世界で母、クイントにそっくりな人物と出会い、今はその人物の下で養子ながらも家族となっている。

たとえ異星人であってもこうして妹とそっくりな人物と出会えたのだから、ネレディアもきっと感極まるほどの嬉しさがあったに違いない。

 

「ありがとう、ナカジマさん」

 

ネレディアはゆっくりと惜しむ様にギンガから離れる。

 

「いえ、少しでもお役に立てて良かったです」

 

この広い大宇宙で、同じ容貌を持つ者と出会える事には何か意味のあってのことかもしれない。

ミッドの八神はやて、地球のディアーチェ

同じくミッド在住のフェイトと砲雷長のフェリシア

声だけはそっくりなティアナと七波

故人であるが、サーシア・イスカンダルと森雪

クイントと加奈江

そして、メリアとギンガ‥‥

ここまで立て続けに似たもの同士が出会う奇跡もかなり珍しい事なので、何か不思議な力が働いたとさえ錯覚する。

 

捜索、救助活動、そして負傷者の手当てが終了し、ネレディアはミランガルに、バーガーはランベアへと戻って行く。

ニルバレス所属の艦載機隊はミランガル、ランベアにそれぞれ収容され、ガミラス艦隊と まほろば は出航準備が整った。

ガミラスの残存艦艇、ミランガル、ランベア ケルカピア級航宙高速巡洋艦一隻、クリピテラ級航宙駆逐艦三隻そして地球防衛軍戦艦、まほろば の混成艦隊は本来の任務、イスカンダル追跡の任務へと移る。

 

そして巨大な『方舟』の方も分析不能なエネルギー源を使用した推進機を使って加速を開始する。

その居住区にはレーレライたち生き残りのジレルの民の姿があった。

彼らは失いかけた種の保存の為、あてもない未知なる旅へと出発しようとしている。

古代アクエリアス文明は宇宙の各地に蒔いた生命の種に一体何を期待していたのだろうか?

『方舟』にどんな希望を乗せたのだろうか?

それは誰にも分からない事であった。

半分ジレルの血を受け継いでいるジュラにも母の故郷の人たちと共に旅立つかを訊ねると、彼女はやはり、父の居るイスカンダルへと行くと言って、母の故郷の人たちの旅立ちを見送った。

 

 

ジレルの民の新たな旅立ちを見送り、シャンブロウ宙域を後にした混成艦隊はイスカンダルを目指していたが、その時、まごろば のレーダーが艦隊の反応を捉えた。

 

「レーダーに反応!!」

 

「っ!?」

 

艦橋内に緊張が走った。

もしかしたら、ガトランティス艦隊が援軍を引き連れて戻って来たのかもしれない。

 

 

「艦種特定急げ!!」

 

「はい!!」

 

新見は急いで接近する艦隊の艦種を調べる。

 

「艦種識別‥‥ガミラス艦隊です!!」

 

接近して来たのはガトランティス艦隊ではなく、ましてやあの円盤の艦隊でもなく、先程まで協同をしていたガミラスと同じ陣営の艦隊であった。

 

「スクリーンに投影しろ」

 

「了解」

 

モニターに表示されたのは、これまで見た事の無いガミラスの超弩級戦艦の姿だった。

 

「で、でけぇ‥‥」

 

「まほろば の1.5倍ぐらいはありますよ‥‥」

 

表示された超弩級戦艦を見て、思わず永倉と星名がその戦艦の感想を言う。

 

「あれは、恐らくヤマトの交戦記録に残っていた、ドメル将軍の旗艦と同型の戦艦だ‥‥」

 

良馬が以前見たヤマトの航海記録から接近してくる戦艦がガミラスの新造艦ではなく、既に存在していた戦艦だと説明する。

 

「詳細戦力判明、超弩級戦艦二隻、ガイデロール級航宙戦艦一隻、メルトリア級航宙巡洋戦艦五隻、ポルメリア級強襲航宙母艦二隻、ケルカピア級航宙高速巡洋艦七隻、デストリア級航宙重巡洋艦、クリピテラ級航宙駆逐艦合わせて二十一隻を確認!!」

 

戦力分析をしていた新見が接近するガミラス艦の詳細な戦力を報告する。

 

「総員戦闘配備!」

 

すかさず良馬が戦闘配備指示を出した。

戦闘配備についたとはいえ、ガミラスとは休戦状態だ。

こちらから攻撃するわけにはいかない。

同じガミラス艦隊と行動を共にしているので、いきなり攻撃を仕掛けてくるとは思えない。

しかし、もし接近中のガミラス艦隊から一方的に攻撃を受ければ流石の まほろば の方もタダでは済まない。

特にあの超弩級戦艦二隻が厄介だ。

ガミラス艦隊は速度を変えず、隊形も変えずに接近してくる。

しかし、ガミラス艦隊は接近するだけで攻撃してくる様子は無い。

 

(この距離でも攻撃隊形に移らない‥‥デスラーの命令が届いているのか?それとも此方もガミラス艦隊と行動を共にしているからか?まさか、ゼロ距離射撃でも敢行するつもりか!?)

 

良馬がそう感じ、艦橋内に緊張が続いている中、

 

「ガミラス艦から通信が入っています!」

 

通信長のギンガが声を上げた。

 

「繋いでくれ」

 

「はい」

 

やがてスクリーンに、一人の男が映し出された。

見るからに歴戦の老兵然とした人物で、眉無しでモミアゲと口髭が繋がった顔立ちに、右眼を縦に一閃した傷痕が特徴的だ。

「私は大ガミラス帝星航宙艦隊総司令官、ガル・ディッツだ。貴官が艦長か?」

 

「地球防衛艦隊所属、宇宙戦艦、まほろば、艦長の月村良馬です」

 

ガミラスの猛将と邂逅した良馬たち。

この邂逅が吉と出るか凶と出るかまだ良馬たちには分からなかった。

 


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