マゼラン星雲 某宙域
デーダー艦隊の全滅はマゼラン方面総司令官のメルダースの下に定時連絡がない事、艦隊のシグナルが全てロストした事から直ぐに察しがつき、彼は本国の国家元首に通信を入れていた。
彼の心情は非常に心苦しいものだった。
ガミラス星の消滅によるガミラシウム採掘の失敗と同鉱物資源の採掘不能に続き、突然介入してきた艦隊により、デーダー率いる第一機動艦隊まで全滅させられたというのだから気が重くならない筈が無い。
「お待たせ致しました。聖総統がお成りです」
若い女の声が国家元首の到着を告げる。
「せ、聖総統‥‥誠に申し訳ありません‥‥デーダー旗下の我が遊動艦隊が不覚にも全滅した模様です」
「全滅だと?」
「はっ、ガミラス星において遭遇した敵に加え、新たな敵が現れたとのことで‥‥」
メルダースは少し声が裏返り、冷や汗をかきながら状況報告を行う、
「新たな敵?して、その正体も分からぬと言うのか?」
「あっ、いえ、判明したしました。ガミラス星の敵は旧ガミラス帝国の生き残り‥‥新たな敵の方は銀河系宇宙のはずれ、第30等級太陽系の惑星、地球に所属する戦闘艦でございます」
「地球か‥‥ふふ‥‥いずれ見る事もあるだろう。‥‥それにデーダーは尊大で自分の力を過信しすぎる男‥‥敗れ去ったとて驚くにはあらたん‥‥ところでイスカンダリウムはどうなっておる?」
聖総統なる人物は、臣下であるデーダーの死を悼むことなく、イスカンダリウムについて訊ねる。
「あっ、はい。かくなる上は、私がこのゴルバをもって小癪な敵共を撃滅し、必ずや採掘を完了して御覧に入れます」
「うむ、吉報を待っているぞ」
「はっ」
臣下の礼を取り、通信が切れた後、メルダースは振り返って幕僚に命じた。
これ以上の失敗は許されない。
イスカンダリウムの採掘を行わなければ、自分は生きて祖国へは帰れない。
状況はまさに崖っぷちであったが、メルダースにはその状況を覆せる程の自信があった。
「これよりゴルバは速やかにイスカンダルに赴き、イスカンダリウム採掘の条件を整える。 機関最大、全速力でイスカンダルに向かえ!」
「はっ!」
特異な(地球人視点)形状をした機動要塞が加速してイスカンダルを目指す。
イスカンダルをめぐる争乱はまだ終わっていなかった――。
イスカンダルを監視する傍ら、船外では艦の損傷修理作業が行われている。
まほろば の被害は被弾箇所付近で食い止められていたため大した事はなかったが、ヤマトは敵旗艦の砲撃を一身に受けた結果、一部は地球で本格的修繕が必要なものもあり、まほろば の資材と工作班メンバーも助っ人として加わっていた。
しかし、両艦とも死者や後遺障害を伴う重傷者等の大きな人的損害がなかったことはまさに幸運だった。
「ありがとうございます。手伝ってもらっちゃって」
医療班メンバーに混じって負傷者の手当てを行うフェイトとティアナ、そしてジュラに、原田が礼を言った。
「いえ。危ない所を助けていただいた上、寝食の面倒まで見ていただいているんですから、この位の事は当然です」
「そうです。困ったときはお互い様ですよ」
フェイトとティアナはそう返し、ジュラはコクコクと頷いて負傷者の治療を継続した。
戦闘中、何度となく被弾した時は顔色をなくしていたたが、すぐに落ち着きを取り戻したティアナとフェイト、ジュラは負傷者の手当ての助力を申し出て、戦闘終了後こうして負傷者の手当ての手伝いをしている。
ジュラは、医療班の説明を聞きながら、負傷者の手当てを行っているが、覚えは良い方で、本当に初めてなのかという疑問さえ浮かぶほどだ。
なお、ジュラは今、医療班の女性スタッフが着る白い看護師の制服を着用して救護を行っている。
地球防衛軍艦船の艦内は地球連邦の領土‥‥つまり時空管理局の権限外なので、魔法は使えないのだが、執務官やその補佐官は、仕事柄魔法以外の蘇生術や救命救急術もマスターしているので、問題なく負傷者の介抱を手伝えるのだ。
フェイトとティアナ、ジュラに傷の手当てをしてもらっている乗組員は、あからさまに嬉しそうな表情を浮かべていた。
フェイトとティアナの容貌や話す言葉は地球人そのものなので全く違和感がなく、しかも容姿端麗だから、新たな花を添える恰好になった。
ジュラもエルフ耳であるが、神秘的な雰囲気と美女と言う容姿からやはり、人気があった。
それにジレル人特有の能力に関してはリニスが製作したデバイスにより制御されており、彼女が無意識で力を解放する事は無かった。
「被弾箇所の応急修理、完了しました」
「ヤマトの方の応急修理もあと十五分で終了する見込です」
「周囲に敵艦の様子は無いか?」
「今の所ありません」
「引き続き、警戒を続けてくれ」
「了解」
敵があれで諦めたとは考えにくい。
新たな艦隊を派遣してくる可能性は十分あった。
イスカンダルを巡ってもう一悶着は避けられないだろう。
だからこそ、一刻も早くスターシアと古代守を救出しなければならない。
敵艦隊を撃滅できても、二人を救助出来なければ、ここまで来た意味がない。
良馬や古代、真田らヤマトの首脳陣はそれを思い、表面は平然としながらも内心は焦慮を募らせていた。
ヤマトは合流したデスラー艦隊旗艦ゲルバデスと通信を交わし、古代はデスラーと久しぶりの再会とあの艦隊の目的を訊ねていた。
「デスラー‥‥」
「古代‥‥必ず来ると思っていたよ」
「デスラー、彼らの目的は一体何なんだ?」
「我々の星にある地下物質の採掘に来たようだ」
「地下物質?」
「ガミラシウムとイスカンダリウム‥‥それだけでは何の役にも立たぬが、濃縮すれば強力なエネルギーを発する鉱石だ‥‥そしてそれだけではなく、恒星からの放射エネルギーを変換する際の触媒として非常に優秀な役目を果たす事が分かっている」
「二つの星に同じ物質があるというわけか?」
「我々の星は同じ組成で出来ている双子星だからな。遥かな太古、我々二つの文明はこれらの鉱石がもたらすエネルギーで栄えたと伝えられている」
デスラーの説明から、ガミラスとイスカンダルが地球以上の技術力を持っている事から、十分にその説は有力な説であると推測される。
「だが、それらの採掘は星の寿命を更に極端に短くする‥‥そのため、我々ガミラスも、そしてイスカンダルもここ数千年来、採掘は行ってこなかったのだ‥‥」
やはり、有用な資源の採掘にはそれなりのリスクが付き纏い、それはガミラスもイスカンダルも例外ではなかった様だ。
そして、何故あの艦隊がイスカンダルを狙うのかを聞いた後、次に真田はデスラーに何故イスカンダルが暴走せずに止まって居るのかを聞き、マイクロブラックホールによる潮汐力干渉によるものだと説明した。
マイクロブラックホールによる潮汐力干渉‥‥。
それは、地球を放射能塗れにした遊星爆弾と同じ技術‥‥。
その点を大山に指摘され、デスラーはバツ悪そうに口を閉ざした。
タランに旧サファイア戦線跡に向かわせた時もデスラーは同じことを口にしていた。
被害にあった地球人から皮肉を込められて言われれば、気まずくなるのも当然だ。
しかし、これらの事は一時的のしのぎに過ぎず、根本的な解決にはならない。
仮にイスカンダルのあった軌道に戻しても、ガミラスとの重力バランスが無いため、また暴走してしまう。
そのため、イスカンダルにはこの先どんな天変地異が起こるか分からない。
故に、どうしてもスターシアと守をイスカンダルから連れ出さなければ、ならなかった。
デスラーも既にスターシアたちに対し、何度となく脱出し、こちらに移乗するよう説得したが、ダメであったと古代に伝えた。
宇宙戦艦 まほろば 第一艦橋
「艦長、ヤマトとデスラー艦隊の間に回線が繋がりました」
良馬が頷くと映像が繋がり、スクリーンにはヤマトの古代とこれまでは写真でしか見なかったデスラー総統が映し出された。
艦橋の空気がピンと張り詰め、息を呑む者もいる。
つい最近までの敵国の指導者がそこにいるのだから、平静を保つのは至難の業だ。
「デスラー、紹介する。俺の先輩で、兄の後輩である月村艦長だ」
古代がデスラーに良馬を紹介した。
「お初にお目にかかります。デスラー総統。宇宙戦艦、まほろば 艦長の月村良馬です」
挙手して軽く自己紹介した。
デスラーは応えるかのように右手を挙げて軽く頷く。
「大ガミラス帝国総統アベルト・デスラーだ」
良馬とデスラーは挨拶も簡単に済ませ、古代とデスラーとの間で情報交換がなされる。
古代らもイスカンダルにこのまま留まるのは危険だとして、スターシアたちの説得にまわった。
ヤマトがイスカンダルへの通信回路を開いている間、良馬はもう一度、デスラーに通信をいれた。
しかも秘匿通信で‥‥。
「何かな?月村艦長。こっそりと恨み言でも言いに来たのかな?」
「そんな姑息な事はしません」
心外だと言わんばかりにジト目でデスラーを見る良馬。
「話と言うのは、総統の御息女の事です」
良馬の口から娘(ジュラ)の事が出た時、ピクッとデスラーの眉が動いた。
「‥‥会ったのか?」
「‥‥はい。サイレンの星で‥‥そして現在、御息女は当艦にて保護しています」
「‥‥」
「この件が終わりましたら、御息女に会ってあげて下さい。彼女も総統に会いたがっていましたから‥‥」
「うむ、分かった‥‥」
この時、デスラーはほんの僅かだけ、ガミラスの総統ではなく、一人の父親としての顔をした。
「艦長、イスカンダルと回線が繋がりました。ヤマトにも接続します!」
デスラーと秘匿通信中にギンガから連絡があり、秘匿通信をきり、ヤマトのメンバーたちと共にイスカンダルに残るスターシアと古代守の説得に当たる事にした。
まほろば の艦橋にあるメインスクリーンの画面が三分割され、古代 守とスターシアが加わった。
「進か‥立派に成長したな‥‥それに月村も戦艦の艦長に就任したのか、おめでとう」
「ありがとうございます。古代先輩」
守に戦艦の艦長就任を言われ、礼を言う良馬。
「ん?そう言えば、沖田艦長はどうした?」
守はヤマトの艦長席にヤマト艦長の沖田の姿が見えない事に気づき、沖田の事を訊ねる。
「‥‥沖田艦長はイスカンダルからの帰りに‥‥地球を目前に宇宙放射線病で‥‥」
古代は沖田が不在な理由を守に伝える。
「‥‥そうか」
守はあの時のイスカンダルでの別れが沖田との今生の別れとなった事に表情を曇らせた。
「兄さん、スターシアさん!早くイスカンダルから脱出してヤマトに避難を!!沖田艦長だってこの場に居たらきっと同じ事を言っています!!」
「‥‥」
そして、古代は本題へと入り守とスターシアにイスカンダルからの避難を促す。
確かに沖田艦長ならば自分たちに避難を促すだろう。
冥王星海戦の時にもそうだったように‥‥
しかし、
「進、俺たちのためによく此処まで来てくれた‥だが、もうこれで、充分だ。お前たちの方こそ地球に帰ってくれ」
守もスターシアもイスカンダルから避難する様子は見せない。
「古代、なぜ脱出しないんだ!?」
続いて、古代と真田が守とスターシアに脱出を勧め始めた。
「すまない真田」
「相変わらず頑固な奴だな、お前は」
更に大山も説得役に参加した。
「トチロー?お前まで来てくれたのか‥‥」
守としてはヤマトが来たのだから、進と真田は予想内だったが、まさか大山までもがヤマトに乗っていたのは予想外だったようで驚きの声を出す。
「スターシアさん、お願いです。地球の人達は貴女方を待っているんです。貴女方から受けた御恩を私達は忘れたことがありません」
「ありがとう、雪さん‥‥貴女方のお気持ち、とても嬉しく思います」
「あんたがスターシアか‥‥『嬉しく思います』だって?そりゃ、あんたはいいさ、イスカンダルに残るがいい。そこの女王様だそうだからな」
「トチロー」
大山の王族に対する無礼な発言に守は少し、不機嫌そうな声を出す。
「俺は言わせてもらうぞ、古代」
しかし、当の大山はそんな事はお構いなしだと言う態度で発言を続ける。
「なぁ、女王様。確かにイスカンダルは今、停止して小康状態を保っている。だが、今回の事件の影響でこれから先どんな天変地異がその星を襲うか分からないんだぞ。そんな星にどうして留まり続けなきゃならない?」
「‥‥」
大山の質問にスターシアは暫し無言であったが、
「‥‥それが‥‥しきたりなのです」
と、自分が滅びゆく星に留まる理由を話し始めた。
「ふん、しきたりか‥‥そんなものはなぁ、穿き潰した猿股みたいにポーンと捨てちまえ」
「分かってくれ、トチロー。例え滅びゆく運命にあろうとも、イスカンダルが滅びる瞬間まで、俺とスターシアは此処に居る。ガミラスとの戦いで地球が瀕死の危機になった時、お前たちはどうしていた?諦めずに地球に留まっていただろう?」
「‥‥」
守の問いに大山も黙ってしまった。
確かに今のイスカンダルとガミラスの攻撃を受け、放射能塗れになった地球は状況が似ていた。
「分かってくれ‥‥俺はもうイスカンダルの人間なんだ」
と、スターシアとのおしどり夫婦ぶりをまじまじと見せる守。
その心情はよしとしよう‥夫婦は運命共同体なのだから‥‥
だが、此処で諦めきれずに良馬は抱えていた最大の疑問を口にした。
「あの‥古代先輩」
「なんだ?月村?」
「古代先輩は、約一年半、イスカンダルでスターシアさんと暮らして居たんですよね?」
「ああ、そうだが?」
「‥‥お二人の間にお子さんは生まれましたか?」
「なっ!?」
「‥‥」
良馬のストレートの質問に守とスターシアは赤面した。
まほろば の艦橋メンバーもヤマトの艦橋メンバーも若干顔を赤くしている。
恐らくデスラーも唖然としているだろう。
「どうなんですか?生まれましたか?」
しかし、良馬は周りの視線を気にせずに追撃する。
「そ、それは‥‥」
「どうなんですか?」
「あ、ああ‥‥生まれた‥‥双子の‥娘がな‥‥」
守は自分とスターシアとの間に子供が生まれた事を告げる。
『っ!?』
それを聞いた良馬、ヤマト、まほろば の艦橋メンバー、そしてデスラーは驚きより納得した表情になり、同時に攻め手を見つけた顔つきになった。
「ほほう‥双子ですか?それはおめでとうございます」
「あ、ああ。ありがとう‥‥」
「‥‥」
「なんてお名前ですか?」
「サーシアとユリーシャだ」
「へぇ~」
良馬はスッと目を細め、守は気まずそうに視線を逸らし、スターシアは相変わらず顔を赤く染めたままだ。
「ならば尚の事、娘さんたちが成人し、無事に巣立つまで、先輩には父親として、スターシアさんには母親として果たすべき義務がある筈なのでは?」
「そ、そうだよ、まさか自分の娘たちまで一緒に死なせる気なのか!?兄さん!!」
「私がこのような事を言う資格はないかも知れぬが、君たちはイスカンダルの未来を託する者として、サーシアとユリーシャを産んだのではなかったのかね?」
デスラーも加勢する。
守とて、一応、二児の父親なのだ。
既に絶滅危惧人種であるイスカンダル人の未来を担うかもしれない子供たちも自分たちのしきたりのためにむざむざと殺す事は本意ではない様だ。
「古代、帰って来い!スターシアと子供たちと一緒に!」
「スターシアさん、貴女は地球のために十二分の好意を示して下さいました。地球は、貴女と娘さんを歓迎します! ですから!!」
真田に続き、雪も涙ぐみながら説得に加わる。
「「‥‥」」
二人ともさすがに苦しげな表情になる。
まだ乳飲み子であろうサーシアとユリーシャを人質にする形なのは心苦しいが、人命には変えられないし、サーシアとユリーシャの二人を孤児にするわけにもいかないのだ。
ましてやまだ生まれたての赤子を殺すなど論外である。
守もスターシアも弟や友人たちの気持ちが痛い程解っているから、話題をふった良馬を責めない。
「守、私はどうしたら‥‥」
スターシアが苦しい胸中を吐露する。
彼女はイスカンダルが暴走中、一度はデスラーの説得に応じようかと思った事があった。
それは、自分と愛する人との間に生まれた我が子たちを心配する故の事だった。
フェイトとティアナは医務室の椅子に座り、リニスが淹れたお茶を前に艦橋から流れてくる映像を見ていた。
(いいのかな、部外者の私たちまでブリッジの映像を見ちゃって‥‥)
まだ警戒体制なのに艦橋の映像が映し出されため、二人は慌てて退出しようとしたが、
「良いですよ。ちゃんと艦長から許可が出ているし、百聞は一見に如かず。これも異文化コミュニケーションの一環じゃないかしら?」
確かにリニスの言うとおり、初遭遇の世界の姿を見て知るのも管理局員の仕事だ。
(お兄さん、か‥‥)
ティアナは、古代兄弟から目を離せなかった。
その理由は、リニスから聞いた古代艦長代理の身の上に関係していた。
両親はガミラスとの戦争で亡くなり、肉親は兄一人しかいないのは、かつての自分と同じ境遇だからだ。
そして同じく義兄がいるフェイトをチラッと横目で見ると、
「‥‥」
フェイトは少し頬赤く染め、守を見ていた。
(えっ!?フェ、フェイトさん!?)
フェイトの態度を見て、少し動揺するティアナ。
何しろ、彼女はポォーっとした表情で、頬を薄らと赤らめて守を見ている。
その様子はまさに恋する乙女であった。
(あ、あの、なのはさん一途なフェイトさんが、異性を見て顔を赤らめている!?でもまぁ、その気持ちも分からない訳ではないわね)
ティアナは納得した様な表情をした。
年頃のフェイトの下には、管理局のエリートやミッドを始めとする各管理世界の官僚からのお見合いの話や交際を申し込む異性が大勢いたりするが、フェイト自身、その全てを断っている。
何しろ、彼女と関係を持ちたがっている異性はその殆どが、管理局員ではエリート家系のハラオウン家の名声やフェイトの容姿、体目当ての輩が多い。
それに比べて、防衛軍軍人の人たちは、まさに質実剛健の言葉が似合う人たちであった。
そして今、フェイトの目の前にあるモニターの中に写る一人の男、古代守は質実剛健、家族愛に満ちている男であった。
家族愛については、フェイトは幼少期の出来事で人一倍に敏感で何よりもその大切さを理解している。
滅びゆく星に妻を残したままいかず、妻と共に運命を共にする守の姿はまさにフェイトにとって理想の男性像に見えた。
しかし‥‥
(フェイトさん、初恋は実らないモノですよ。守さんは既にスターシアさんと夫婦じゃないですか‥‥略奪愛と言うモノは確かに世間には存在しますが、相手があの女王陛下では無理ですよ)
と、フェイトの初恋は実らないな、と予測するティアナであった。
ちょうど、その頃、ミッドでは‥‥
そのフェイトの義兄であるクロノは、眉間にシワを刻みながら記者会見用の資料と原稿を確認していた。
義妹の遭難に加え、本局‥‥特に“海”の局員の離職や転属により、その皺寄せが自分に振り降りかかり、無限図書館程ではないが、通常の事務仕事の三倍~五倍に仕事量が増え、毎晩徹夜同然の仕事環境で家族に会えず、ストレスも疲れに拍車をかけている。
しかし、それが中間管理職の悲しく辛い立場なのだ。
今回、管理局が記者会見を開く事になったのは、巡航艦テリオスの遭難と義妹ら救出の詳細がマスコミにすっぱ抜かれたからだ。
たちまちテレビや雑誌記者等のマスコミがミッドを走り回り、高町なのは、八神はやて、スバル・ナカジマらフェイト、ティアナの友人や旧機動六課隊員達にまで取材の申し込みが殺到したり、フェイトが後見人になっている高町ヴィヴィオまでマークされる事態に波及した為、遂に管理局も記者会見を開かざるを得なくなったのだが、一連の対応に当たってきたクロノ・ハラオウンが記者会見に出る代わりに、それ以外の管理局員や家族への取材を自粛させることになった次第だ。
クロノが、眉間にシワを刻みながら記者会見用の資料と原稿を確認する二時間前、クロノは記者会見用の資料と原稿を上司に見せ、ダメ出しを食らい、その上司を相手に声を荒げていた。
「あれもダメ、これもダメじゃ、会見の意味がないじゃありませんか!?JS事件の余波で管理局への信頼が揺らいでいるのに、これ以上情報を隠蔽したり、改竄すれば、余計に他の管理世界からの不信を募らせるだけです!」
普段は穏やかなクロノの豹変ぶりに、流石の上司も譲歩を余儀なくされた。
時空管理局・ミッドチルダ地上本部ビル
同じ時空管理局でも、地上本部の反応は“海”“空”とは微妙に違っていた。
「だから言わんこっちゃない。こういう事態は予測できていたのにな‥‥中途半端な武装しか持たず、まともに戦えない次元航行艦なんか、何十隻造っても金を下水に流すようなものだ!」
JS事件で前地上本部長の故レジアス・ゲイズと、主犯とされるジェイル・スカリエッティの関係が暴露されて面子を失った地上本部にすれば、ある意味で本局に対し、内心でいい気味だと思う者も少なくなかった。
レジアス・ゲイズの後を受けてミッド防衛長官に就任したセオドア・ロールスロイス中将は、陸戦魔導師ながら航空武装隊に出向した経歴の持ち主で、容姿は地球の英国紳士と言う言葉が似合う人物であるが、その見た目とは裏腹に本局からのヘッドハンティングに対しては完全移籍を断固拒み通した硬骨漢として知られていた。
彼自身も秘密主義、魔導師至上主義の本局には腹を立てていたが、まずは記者会見を見てから対応を決めることにしていた。
彼自身も若かりし頃はエース級と言われた魔導師であったが、本局局員ほど魔法の力を信奉してはいなかった。
「魔法なしの強力な軍事勢力は、今まで遭遇しなかったのがむしろ不思議なくらいだ。対応を誤れば、管理局自体が滅ぶという事を、本局の連中は解っているのか?」
と、ロールスロイスは暗然と一人呟いた。
ミッドチルダ南部郊外・八神邸
八神家では久しぶりに全員が揃っての夕食を囲んでいた。
ザフィーラは狼姿で床に座っている。
とはいえ、皆の話題はどうしても「あの」話題になる。
「クロノ君の所にも、フェイトちゃんたちの情報はあれからは全然入っとらんそうや‥‥」
「そうなの‥‥」
「なのはの奴も大分堪えているみたいだ。ヴィヴィオも夜泣きする事が増えたって、なのはの奴が心配そうに言っていたぜ」
折角、皆が揃った夕食にも関わらず、はやて、シャマル、ヴィータの三人の顔色は優れない。
「次元航行艦の乗組員から直に聞きましたが、相次ぐ航行艦の喪失で、乗組員たちの士気に悪影響が出ており、本局の内勤や航空防衛隊、地上本部へ転属を志願する者や管理局を退職する者も出てきています」
出張任務から帰ったばかりのシグナムが本局の現状をはやてたちに言う。
「まぁ、無理もないやろ。管理局ご自慢の次元航行艦が、あんなにも一方的に撃破された事例は、管理局史上初めてやからな。しかも、どこで襲われるか皆目わからん。フェイトちゃんたちを助けたヤマト と まほろば だって、恐らくは任務中でたまたま通りかかっただけやろな‥‥ほんまに運が良かっただけなんや‥‥フェイトちゃんたちは‥‥」
はやての言葉にシグナム、シャマル、ヴィータの三人が頷く。
「どんなに優秀な魔導師でも、真空の宇宙空間では生身では戦えへんし、一連の事件で、次元航行艦の戦闘能力が思った程でないことが明るみに出てしもうたんや。航行本部は真っ青やで」
そう言い終えて、はやてが長い嘆息をついた。
「そういえば、フェイトさんたちを助けたのが『地球防衛軍』の宇宙戦艦だというのは発表されていないですね?」
少女モードの融合型デバイス、リィンフォース・ツヴァイ(リィン)が疑問を口にした。
一般向けプレスリリースでは、『地球防衛軍』等については一切触れられておらず、管理外世界の宇宙船とだけ発表されているからだ。
それにはシグナムが答える。
「テリオスを沈めた奴らにせよ、テスタロッサ達を助けた地球防衛軍のヤマト、まほろば にせよ、今の管理局の手に負える相手ではないからな。そんなことが明るみに出たら、管理局への信頼が揺らいだり、反管理局勢力や次元犯罪者たちを勢いづかせかねん。対応を誤れば、管理局の“海”が壊滅する可能性すら出てきたんだからな」
「「「「‥‥」」」」
一同の脳裏に、いつか見た、ヤマトの超高エネルギー砲によって消し飛ぶ次元航行艦隊が浮かんでいた。
「でも、正直に言ってこれ以上、管理局が今回の一連の騒動を隠し通すには限界やろうなぁ‥‥ミッドのマスコミの連中も薄々、テリオスの遭難事件に関して、色々勘づいてきているし‥‥」
「まったく。しつこい連中だったぜ‥‥」
自分の後を追い掛け回してまで取材をしようとしてきたマスコミの事を思い出したのか、ヴィータが顔を歪めた。
場面は再びイスカンダル及びイスカンダル軌道上へと移り変わる。
更に時系列は少し遡る。
医務室のモニターにデスラー総統と古代守&スターシア夫婦が同時に現れた時、フェイトとティアナは息を呑んだ。
地球人以外の異星人‥‥
しかも、国家元首と王族の人間の姿。
まず、肌の色が違うガミラスのデスラー総統の第一印象は、全身から闘気が溢れ出ている人物。
(名前や国家元首名からして、アドルフ・ヒトラーのような人物かと思ったけど、この人はむしろ織田信長に近いかも知れない)
確かにデスラーのフルネームは、地球の歴史上、20世紀の世界を第二時世界大戦と言う破壊と殺戮の世界に変え、犠牲者5500万人と言う人類を狂気に導いた男、アドルフ・ヒトラーの名前に似ており、この世界の地球を人類絶滅まで一年と追いやった人物から当初、フェイトとティアナかなりの危険人物だと思っていた。
武力による、天下ならぬ宇宙制覇を夢見る野望家。
本来ならば、古代や良馬たち地球防衛軍にとっては、今なお不倶戴天の仇敵同士なのだろうが、自分となのは、スバルやノーヴェの様に何度もぶつかり合い、互いの思いを理解したからこそ、対等の相手として認め合い、敵対関係を解消したのだろうか?
管理局の局員的には、デスラーのような武断主義かつ独裁的な人物は言うまでもなく危険人物だ。
それこそ、スカリエッティなど問題にならず、デスラーの前では、スカリエッティさえもただの小物の小悪党レベルに成り下がっている。
しかし、良馬や古代たちにデスラーは管理局にとって危険だから付き合うな、とは言えない。
そもそも、そんな事を言う資格など、自分たちにはないし、地球と管理局は国交を結んでいる訳ではないからだ。
それに彼らは命懸けで、デスラーに対等の存在だと認めさせたのだ。
デスラーの事を人聞きで表面上しか知らない自分たちが介入できるはずもない。
かと言って、管理局の次元航行艦でガミラス艦隊と渡り合えるかと言えば、それは、『NO』である。
ガミラス艦と管理局の次元航行艦が戦えば、冥王星海戦で成す術なく、撃沈されていった波動エンジン未搭載の地球防衛軍艦艇と同じ末路を辿る事になるだろう。
実際、第58探査部隊がその末路を辿っている‥‥しかし、第58探査部隊の件に関してはフェイトとティアナは未だに知らない。
そしてもう一人、古代守と寄り添うスターシアに対しては、まさに神々しいオーラを放つ人物‥‥その一言である。
それは、ヴィヴィオのオリジナルである古代ベルカ時代の聖王オリヴィエと同列の人物と言う印象だった。
イスカンダルの女王だというが、古代たちの接し方を見る限り、彼女は女王と言う肩書よりも、一人の人間に対して敬意を払っていると思えた。
あのデスラー総統でさえ、スターシアには一目も二目も置き、イスカンダルには決して手を出さなかったと言う。
ガミラスがイスカンダルを植民地化しようとするのであれば、戦う術もないイスカンダルは一日で陥落する事が出来る。
彼らの技術力であれば、それは可能な筈なのに、ガミラスはそれを一切しなかったと言う事は、歴代のガミラス総統もイスカンダルに対しては十分な敬意を払っていた事が窺える。
(フェイトさん、この人は‥‥)
(うん、この人はとても強い‥‥)
ティアナも同じ印象を持ったようだ。
彼女も、決して力の前には絶対屈しないだろう。
スターシアは、ヤマトのメインエンジンの設計資料を地球に届けるために、唯一の肉親だった妹のサーシアを失ったという。
もちろんそれだけではないのだろうが、白色彗星帝国との戦いの傷がまだ癒えないにも関わらず、片道約15万光年をものともせずに彼女たちを救いに来た古代や良馬たち地球防衛軍の人たち‥‥。
国家再建を一休みし、命懸けで彼女たちを正体不明の敵から守ろうとしたデスラーの気持ちは十分理解できた。
(この人たちは、単なるメリット・デメリットでは動かない)
管理局から言えば、ただの「愚か者」「馬鹿者」の一言で片付けられてしまうかも知れないが、いざという時に踏ん張れるのは大抵こういう人たちなのだ。
さっきまでの戦いも正にそうではないか。
数の劣勢を意に介さず、敵を殲滅してしまった。
((つくづく、この人たちの世界は敵に回せない‥‥))
対等の友人としてなら、これほど心強い存在はないが、管理局の論理を押し付けようものなら、どんな目に遭うかわかったものではない。
そう思い、ティアナはこの先の展開が気になり、スターシア、守のイスカンダル側と古代らヤマトのメンバー及び良馬地球側の説得に耳を傾けて、一瞬でも目が離せないとモニターに釘付けとなり、
フェイトの方は、之ほど、神々しく、人として強い人物、スターシアを娶った旦那の古代 守の事が気になったようで、守の姿をジッと見ていた。
そんな中、良馬から爆弾発言があった。
「あの‥‥古代先輩」
「ん?なんだ?月村?」
「古代先輩は、約一年半、イスカンダルでスターシアさんと暮らして居たんですよね?」
「ああ、そうだが?」
「‥‥お二人の間にお子さんは生まれましたか?」
「なっ!?」
「‥‥」
良馬のこの質問が悲壮でシリアスな空気をぶち壊した。
しかし、この質問がある意味転機となった。
「あ、ああ‥‥生まれた‥‥双子の‥娘がな‥‥」
「‥‥」
二人の間に娘‥しかも双子の娘が生まれていた事を知った古代たちの説得は、デスラーまで加わり、俄然激しさを増した。
流石に自分がお腹を痛めて、愛する人との間に生まれた娘たちまでイスカンダルの崩壊に巻き込む事にはスターシアも葛藤していたようで、思わず弱音を口にした。
「もうひと押しだね」
「そうですね」
フェイトたちも固唾を呑んで画面に見入っていたが、突如、イスカンダルからの通信が切れた。
「ん?何かあったんでしょうか?」
突然切れたイスカンダルからの通信にティアナは何か嫌な予感がした。
その時、艦内に緊急警報が流れた。
「後方より巨大構造物接近!!総員戦闘配備につけ!繰り返す‥‥」
「まったく、こんな時に無粋な連中ね」
リニスが椅子から立ち上がり、治療着を手にする。
「全くだよ!これじゃあクロノと同じだよ!!」
「そうですね、少しは空気を読みなさいよね!!バカスバルじゃあるまいし‥‥」
フェイトたちも心の中で毒づきながら立ち上がり、原田ら医療班員と共に包帯等のチェックを始めた。
ただこの時、
時空管理局 本局 某提督 執務室
「へっくしょん!!」
「風邪ですかクロノ提督?」
「いや、大丈夫だ。誰かが噂でもしているのかな?」
フェイトの義兄クロノが大きなくしゃみをした。
ただこのくしゃみが世間からKYと呼ばれている所以なのか偶々なのかは、定かでは無い。
また、ミッドの特別救助隊の隊舎でも、
「へっくち!!」
青髪の女性隊員が盛大にくしゃみをした。
「な、なんだ!?あれはっ!?」
突如、イスカンダルからの通信が切れたと思ったら、混成艦隊の至近距離の巨大な物体が出現した。
「レーダーはどうした!?捕捉しなかったのか?」
あんな巨大な物体が至近距離に突然現れたにも関わらず、レーダーは捕捉できなかったのかと、良馬が新見に訊ねる。
「突然‥‥突然現れました!!ワープアウト反応も感知できません!!恐らく空間偽装して接近してきたのかもしれません!!」
新見が突然現れた巨大物体を捕捉できなかった理由を話す。
「此方がイスカンダルに気を取られていた隙に‥‥」
星名が声を震わせる。
「それにも関わらず、アイツは一切攻撃を仕掛けてこなかったなんて‥‥」
ギンガはあの巨大な物体が不意打ちや奇襲が出来る絶好の機会をみすみす逃してまで、攻撃せずに、堂々と姿を現したことに疑問を感じた。
「態々奇襲などせず、堂々と姿を現すのは随分紳士的だが、違った視点から言うと、不意打ちや奇襲などせず、此方を容易く撃滅できると言う自信のあらわれなのだろう」
良馬が推測ではあるが、相手が奇襲してこなかった理由を述べると、
「随分、舐められたものですね」
と、永倉が突然現れた巨大な物体に対し、睨みをきかせる。
一難去ってその後にもっときつい難局というのは白色彗星帝国の時がそうだったが、今度もまたそのようだ。
推定一キロ以上あるその巨大な物体‥‥敢えて言うなら横倒しにした蛸壺に近い形状をした要塞は、ヤマト、まほろば、ガミラス艦隊とイスカンダルの間に割って入る位置につくと、スラスターを吹かせ、起き上がった。
「おおー蛸壺が立った!!」
フェリシアが、蛸壺の動きに声をあげた。
そして、立ち上がった蛸壺は程なくして、頭頂部を更に迫り上げていった。
恐らくその部分が司令塔なのだろう。
「わははははは、はははははっ!!あーっはっはっはっはっ!!」
その蛸壺‥‥もとい、ウラリア式制圧自動要塞ゴルバの司令塔にある司令官席では、司令官であるメルダースが防衛軍とガミラス軍の混成艦隊を見下ろしながら不敵な笑い声をあげていた。