星の海へ   作:ステルス兄貴

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六十一話 新たなる旅立ち

 

ゴルバを撃破した後、イスカンダルをサンザー星系の安定軌道上まで、曳航した混成艦隊は、戦いによって傷ついた艦の修理に追われていた。

 

青い空とどこまでも続く海‥‥

 

マザータウン近くの海にはヤマト、まほろば、ゲルバデスが並んで停泊しており、その周辺にはガミラス艦隊の艦艇も停泊している。

 

「修理は順調だ。イスカンダルは物資が豊富だからな。後、あと半日でもあれば、飛び立てるだろう」

 

修理作業を指揮していた真田が皆に修理状況を報告する。

 

修理に使用しているイスカンダルの物資はちゃんとスターシアからの使用許可をとっている。

 

「船の修理と言うことならば」 と、言う理由でスターシアはイスカンダルの物資の採掘と使用を許可してくれた。

 

修理に関してはこの後、第二の故郷を探す為、大航海へと向かうガミラス側の艦艇が優先的に行われ、ヤマト、まほろば の技術班の人員もガミラス側の艦船の修理の手伝いをしている。

 

「ご苦労様です。真田さん」

 

「あとは、兄さんたちをマザータウンまで送って行くだけか‥‥」

 

「すまん、世話をかけるな」

 

「いいですよ、兄さん」

 

敵の脅威が去り、サンザーへの落下の事態が回避出来た為、守がイスカンダルを離れる理由がなくなり、またスターシアと子供たちとの平穏な生活が戻る筈であったが、そこにスターシアから通信が入った。

 

「スターシアさん‥‥」

 

「スターシア、敵は消えた。僕もすぐに戻るよ」

 

「いえ、守‥‥貴方はそのまま地球へ帰って‥‥」

 

突如、スターシアは、守にイスカンダルを離れ、地球へ帰ってくれと言う。

 

「っ!?」

 

スターシアのこの発言を聞いて、狼狽する守。

 

半ば三行半を押し付けられた様な形であるから、狼狽するもの当然である。

 

「何故だ!?どうしてなんだ!?スターシア!!」

 

「兄弟星、ガミラスを失ったイスカンダルは何時崩壊してもおかしくない不安定な状態‥‥そんな状態の中で娘たちを育てる訳には‥‥だから、守‥‥貴方は地球で‥‥安全な星で‥‥私たちの娘を育てて下さい‥‥」

 

「スターシア‥‥」

 

「貴方と一緒にその子たちを守り、育ててあげられなくてごめんなさい‥‥でも、私はイスカンダルの女王‥‥ここを離れる訳にはいかないのです。例え、この星と共にこの身が滅びたとしても‥‥」

 

「‥‥」

 

やはり、スターシアの信念はこの宇宙に存在するその物質よりも固いのかもしれない。

 

「守‥‥たとえ遠く離れていても私たちはいつも一緒です。貴方の傍には私たちの娘‥‥サーシアとユリーシャが‥‥」

 

守が我が子たちに視線を向ける。

 

「サーシア‥‥ユリーシャ‥‥私の可愛い娘たち‥‥お父さんと一緒に地球で‥‥いい子で居るのよ‥‥そして、地球の人たちに可愛がってもらうのよ。私は何時でも貴女たちを見守っているわ‥‥」

 

何だか、スターシアの尻に敷かれている守であった。

 

 

そして、此方でも再会した親子が居た。

 

「父様‥‥」

 

「ジュラ‥‥」

 

ジュラを連れて、良馬と彼女のデバイスを製作したリニスはデスラーの座乗するゲルバデスを訪ねていた。

 

それからデスラーとジュラは互いに抱擁し、互いに生きていた事に喜んでいた。

 

そして、デスラーがメラとジュラをサイレンの星へ幽閉した最大の理由であるジレル人の特殊能力に関してはリニスが製作したデバイスによってジュラのジレル人としての能力は制御することが出来ている旨を彼女のデバイスの製作者であるリニスから説明をした。

 

科学技術では地球を凌ぐガミラスでも魔術、魔法と言ったオカルト分野に関してはまだ未発達だった為、リニスのデバイス技術はガミラスにとっては新たな技術であった。

 

リニスからの技術がもたらされた事で、今後ジュラのデバイスはガミラス独自の技術を盛り込まれていくかもしれない。

 

そして、ジュラの世話役にはディッツ提督の娘、メルダ・ディッツが任されることになった。

 

「月村‥娘が‥‥ジュラが世話になったな」

 

デスラーは良馬とリニスに礼を言った。

 

「いえ‥‥あの‥デスラー総統‥‥総統に一つお願いがあります」

 

「ん?なにかな?」

 

良馬はデスラーにある頼みごとをした。

 

 

ヤマトのCICでは、大山が床で胡坐をかきながら、ガミラス艦と交信していた。

 

「・・・・ルマツ・バク・カシ・ケル・ルマ・・・・えっと・・・・ルマウ・ユ・ジニ」

 

大山は慣れないガミラス語を喋っている。

 

そして床には何やら計算式が書かれた大量の紙がある。

 

「トチローさん‥‥何やっているんです?」

 

そこに島が通りかかり、大山が何をやっているのかを訊ねる。

 

「おお、航海長、今、ガミラスの技術者と話している所なんだが‥‥ええいっ!!くそっ!!向こうの技術者にも翻訳機を渡しておけってデスラーに言っといてくれ。まどろっこしくてかなわん」

 

「それは、もう古代の奴が手配していたと思いますが‥‥一体何を話しているんです?」

 

「敵をやっつけたのは良いが、イスカンダルにイスカンダリウムが有る限り敵は何度もイスカンダルにやって来るんじゃないかと思ってな」

 

「確かに‥‥そう言われればそうですね」

 

「そこでだ、ガミラスの物質縮退技術をもってすれば、イスカンダリウムの組成自体を変化させられるんじゃないかと思って計算してみたんだ。無害な星間戦争に地用されない様な安全な物質にな‥‥」

 

「そんな事が出来るんですか?」

 

島が驚いた感じで大山に訊ねる。

 

「計算上ではな‥‥あとは、その公式を相手に教えてやるだけなんだが‥‥それがどうもなぁ‥‥」

 

「トチローさんなら大丈夫ですよ‥‥おっと、もうこんな時間だ。それじゃあ頑張って下さい」

 

そう言って島はCICを後にした。

 

「語学は専門じゃないんだがなぁ~‥‥」

 

確かに真田同様、理系の塊である大山に文系科目は苦手の部類に入る。

 

大山がやれやれと言った感じでいると、

 

「今、翻訳機が届いた所だ。手間をかけてすまなかった」

 

と、地球語に変換されたガミラスの技術者の声がスピーカーから流れ出した。

 

「ふぅ~‥‥神は俺を見放さなかったか」

 

と、一安心した大山だった。

 

これで、効率は大きく上がる。

 

そう思っていたら、

 

「カミ?‥‥紙で組成変換が出来るのか?」

 

大山の独り言を勘違いするガミラスの技術者。

 

彼の独り言はどうやら向こうのガミラスの技術者に聞こえていた様だ。

 

「いやいや、今のは独り言だ。いいか、今から説明するからちょっと待て‥‥ズズズッー」

 

そう言って、ガミラスの技術者にイスカンダリウムの組成変換を伝える前に、大山は手に持っていたカップ麺のスープを飲み干した。

 

「‥‥すまんが、今の単語は翻訳出来なかった‥‥どういう意味だ?」

 

先程の大山の独り言を聞き取れた様にガミラスの通信機器はかなりの精巧品らしく、大山がカップ麺のスープを啜った音まで拾っていた。

 

「やっぱり、見放されたかなぁ~‥‥」

 

大山はガックリと項垂れたが、直ぐに気を取り戻して、ガミラスの技術者にイスカンダリウムの組成変換の説明を行った。

 

それからすぐにイスカンダリウムの組成変換が行われ、イスカンダリウムは無害な物質へと変換された。

 

これで暗黒星団帝国がイスカンダルを狙う理由は消えた。

 

ガミラス艦隊が出航準備を行っている中、デスラーの娘、ジュラの身柄をデスラーの下に送り届けた良馬はギンガを連れて今度はランベアを訪問していた。

 

目的は勿論、バーガーに別れを言う為であった。

 

そのランベアにはネレディアの姿もあった。

 

そこで四人は互いに言葉を交わし、握手をする。

 

七色星団にて敵前逃亡罪が適用されそうになったバーガーであるが、先程良馬がデスラーの下にジュラの身柄を返した時、良馬はデスラーにバーガーの助命を乞うたのだ。

 

デスラーは良馬の頼みを聞き、バーガーの七色星団の戦いにおける敵前逃亡を不問にした。

 

 

まほろば の食堂ではゲルバデスから、まほろば へと何故か戻って来たジュラの姿と彼女の世話役となったメルダの姿があった。

 

ジュラはこの後の長い航海に備えて航海前にある事をどうしてもやっておきたかった。

 

それは‥‥

 

「ほれ、ご注文のマゼランパフェだぞ」

 

ディアーチェがジュラの前にパフェが入ったパフェグラスを置く。

 

ジュラは、まほろば に保護されて、このマゼランパフェと出会ってから彼女は必ず毎食のデザートにはこのマゼランパフェを注文していた。

 

この次、マゼランパフェを食べられるのは、新しい新天地を見つけ、その後地球とガミラスが国交を結んでからになる。

 

それがいつの日になるのかはまだ分からない。

 

だからこそ、今のうちにマゼランパフェを食べておきたかったのだ。

 

それが、ジュラが長い航海前にやっておきたかった事だった。

 

勿論、世話役としてジュラと共に まほろば へやって来たメルダにもマゼランパフェは提供された。

 

ジュラは目を輝かせながらスプーンを持ちマゼランパフェを食べ始める。

 

「‥‥」

 

しかし、メルダの方はジッとマゼランパフェが入った容器を見ている。

 

「ん?メルダさん‥‥食べないんですか?おいしいですよ」

 

ジュラはパフェを食べないメルダに対して食べないのかと問う。

 

「あっ、いえ‥‥その‥‥」

 

メルダが戸惑いながら、傍に居たディアーチェに、

 

「あ、あの‥これは本当に食べ物なのか?」

 

と、ディアーチェにマゼランパフェが食べ物なのかを問う。

 

と言うか、今、目の前でジュラが満面の笑みを浮かべて食べているのだから、食べ物に違いない。

 

しかし、ガミラスにはこうしたパフェなる食べ物は存在しないみたいで、メルダとしては食べるのに少々戸惑っていた。

 

「マゼランパフェ‥まほろば、ヤマトでは人気のスイーツだぞ」

 

自慢気にディアーチェはメルダにこれは食べ物だと教える。

 

「食べないの?」

 

「あっ‥‥いえ‥‥」

 

ジュラが食べているのに自分が食べないと不敬に当たるので、メルダは恐る恐るスプーンでマゼランパフェを一口掬い、口へと運ぶ。

 

「どう?」

 

「‥‥」

 

味を訊ねるジュラにメルダは一瞬固まったかと思ったら‥‥

 

「こ、こんな食べ物が宇宙にあったなんて‥‥」

 

メルダは震える声で一言そう呟くと、

 

「私は今、モーレツに感激している!!」

 

メルダはジュラの目の前だが、一心不乱マゼランパフェを食べ始めた。

 

軍人家系の家とは言え、そこに居たのは紛れもなく、年相応の女子の姿だった。

 

ジュラはメルダもこのマゼランパフェが気に入ってくれた様子に嬉しそうに微笑むと自分もマゼランパフェを食べる。

 

食べ終わった頃には彼女たちが居たテーブルの上には空になったパフェグラスが大量にあった‥‥。

 

 

イスカンダリウムの組成変換が終わり、良馬とギンガがバーガーとネレディアに別れを告げて居る頃、デスラーが座乗するゲルバデスの修理は間もなく終り、デスラーと古代は互いの艦の甲板上で話し合っていた。

 

「古代‥‥」

 

「デスラー‥‥」

 

「イスカンダリウムの組成変換か‥‥星の不安定さは変わらないが、少なくともあの連中がイスカンダルを狙う事は無いだろう。お前は優秀な仲間を持っているな。心底羨ましいぞ」

 

「デスラー‥‥君はこれからどうするつもりなんだ?」

 

「我が宿願は、ガミラス帝国を復興させる事だ。だが、今はそのガミラス星も既に無い‥‥」

 

デスラーには故郷を失ったためか哀愁が漂っていた。

 

「デスラー‥‥」

 

「心配はいらん。またいつの日か、必ず新たなる大地となる星を見つけて見せる。たとえ幾年この宇宙を流離おうとも‥‥この宇宙にいるガミラスの生き残りを集結させて‥‥見たまえ、彼らの顔を‥‥」

 

そう言ってデスラーはゲルバデスの甲板を見る。

 

デスラーに釣られて古代も同じく視線をゲルバデスの甲板へと向ける。

 

「我々は一度ならず、お互いの血を流しながら戦った‥‥だが、今や彼らは過去にしがみ付いていない‥‥お前の仲間たちにも、我が兵士たちにもその瞳に映っているのは、ここから無限に広がっていく未来‥‥そうではないかね?」

 

デスラーの言う通り、ゲルバデスの甲板で修理作業を行っている防衛軍兵士にもガミラス兵士にも憎しみの感情はなく、互いに助け合っている姿だった。

 

「これは、別れではない‥‥これは、ガミラスと地球、そしてイスカンダルの新たなる旅立ちの時なのだよ‥‥」

 

「デスラー‥‥」

 

デスラーの言葉に古代は感銘している様子。

 

「古代、いつの日かまた会おう‥‥」

 

デスラーは古代に再会の言葉を残し、古代の前から去って行った。

 

去って行くデスラーに対し、古代は無言のまま敬礼し、彼を見送った。

 

やがて、ガミラス艦艇は全て修理、補給を終えて、新たな大地となる星を求めての大航海の途へと旅立って行った。

 

その中でランベアの艦橋では、

 

「また会えるかしら?あの娘たちに‥‥」

 

イスカンダルから浮上していく中、ネレディアはバーガーに通信を入れ訊ねる。

 

「さあな。でも、いつかその内、また会えるだろうさ‥‥この広い、星の海でな‥‥」

 

バーガーはメッセージカプセルを取り出し、蓋を開いた。

 

メリアの映像の次にインプットされた最高の戦友たちの姿‥‥その姿を見て、彼は再びこの広い宇宙のどこかで彼らと再会できる確信を得た気がした。

 

 

ガミラス艦隊を見送り、ヤマト、まほろば の方は修理作業が継続されており、その中で、両艦の幹部達は、帰りの航路について話し合いをしていた。

 

帰りにはヘリオポーズに一時立ち寄り、管理局と再度コンタクトを試みて、太陽系では、未だに第十一番惑星は彗星帝国の兵站基地になっているので、ヘリオポーズを通過後、地球の制宙圏である土星圏まで一気にワープする。

 

地球に帰る際も、暗黒星団帝国の追撃、太陽系に近づいたら、彗星帝国の待ち伏せも推測され、土星圏に辿り着くまで、油断は許せない状況が続く事となる。

 

帰りの航路についての話し合いが終わるころ、良馬が真田と古代に守の事を訊ねた。

 

「そういえば、古代先輩は、娘さんたちと一緒に地球へ戻るんですよね?」

 

「ああ‥‥」

 

「その予定ですけど‥‥」

 

真田と古代は守が双子の娘のサーシアとユリーシャと共に地球へ帰還する事を肯定する。

 

「お二人は結婚式って挙げたんでしょうか?」

 

「「‥‥」」

 

良馬疑問に沈黙する真田と古代。

 

「多分‥‥」

 

「していないでしょうね‥‥」

 

守がイスカンダルに留まった当時には当然、守とスターシアの二人だけ‥‥

 

すると、祝福してくれる人、立会人は当然いない。

 

二人はこの後、暫くは離れ離れとなる。

 

それならば、離れる前に祝福して、形ある記念の思い出を残したらどうだろうか?

 

「それなら‥‥」

 

良馬がある提案をしたら、

 

「良いですねそれ!!」

 

「うむ、確かに」

 

古代と真田はその提案に乗った。

 

そして、それは実行に移された。

 

「‥‥えっと‥‥今、何て言った?真田、進?」

 

守は額を手で抑えながら真田と弟(古代)に訊ねる。

 

「だから、結婚式だ。ケ・ッ・コ・ン・シ・キ」

 

「だから、誰の!?」

 

「『誰の』って、兄さんとスターシアさんの結婚式に決まっているでしょう!!」

 

兄(守)の問いに弟(古代)はさも当然のように答える。

 

「馬鹿言うな、俺たちはとうに夫婦だぞ。今さら式を開く意味があるのか?」

 

結婚式の話を聞き、守にしては珍しく狼狽えている。

 

「意味は大ありだぞ、古代。お前たち、人前で結婚式を挙げてないだろう。それにお前はこれからスターシアと離れ離れになるんだ。離れる前に形ある記念を残しておけ」

 

「それにスターシアさんにも地球の文化に触れてもらう良い機会じゃないか兄さん」

 

「‥‥」

 

(弟と親友の言うことはもっともなのだが‥‥)

 

その時、予想外かつ決め手となる言動をとった者がいた。

 

「守、皆さんのお気持ち、お受けしましょう」

 

「スターシア‥‥」

 

今回の結婚式の主役であるもう一人の当事者たるスターシア本人だった。

 

実は良馬が守とスターシアの結婚式の提案をした後、古代と真田は守に、雪がスターシアに提案をしに行ったのだ。

 

彼女の言葉を聞いて、真田と進は会心の笑顔を浮かべた。

 

スターシアがやると言ったからには、守は断る理由が見つからず、イスカンダルを離れる前にスターシアとの結婚式を挙げることにした。

 

スターシア本人も愛する夫と子供たちと分かれる前に何か思い出を残したかったのだ。

 

メインスクリーンの真田がグッと親指を立てる。

 

「スターシアがOKしてくれだぞ」

 

「分かりました。では、早速アレの準備の方をよろしくお願いします」

 

「うむ、最高のモノを仕上げて見せよう」

 

真田は自信満々の表情で言った。

 

やはり、結婚式にはあれが欠かせない‥‥

 

「それで、彼女たちはどうする?」

 

「今、ギンガが説明をしに行っています。折角の祝宴ですから、彼女たちにも参加してもらうつもりです」

 

真田の言う彼女たちとは、フェイト、ティアナの事を指していた。

 

「結婚式‥‥ですか?」

 

「スターシア陛下と古代守さんの?」

 

フェイトとティアナはギンガから齎された話に絶句する。

 

明日の出航前にイスカンダルの宮殿にて、スターシアと守の結婚式を執り行う。

 

二人は夫婦なのだが、まだ正式に式を挙げていないため、結婚式を挙げるのは別に不思議ではない。

 

だが、フェイトとティアナが驚いたのは式に出席するどころか、手伝ってほしいと言うのだ。

 

「でも、私たちでいいのかな?」

 

フェイトの方はまだ戸惑いがちの様で、ギンガに聞き直してくる。

 

「はい。古代艦長代理からは『是非』と言っていましたから‥フェイトさんたちの参加には異論はありません」

 

「そう言う事でしたら‥‥」

 

「参加させていただきます」

 

実際、フェイトとティアナは太陽系赤道祭にも参加したし、こうした御目出度い式なのだから、一人でも多く参加してもらい、スターシアと守の事を祝福してもらいたかった。

 

それに具体的な内容を聞くと、結婚式には欠かせないあの役回りがあった。

 

女性に生まれてきたからにはこれも一つの経験。

 

ましてや、ささやかながらも一惑星国家の女王陛下の結婚式の手伝いなど早々出来るものではない。

 

否、むしろ望むところだ。

 

時空管理局員ではなく、一人の人間、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、ティアナ・ランスターとして全力で取り組もう‥‥。

 

と、気合を入れる二人であった。

 

ヤマト、まほろば の技術班、航海班を中心として、艦の補修を行い、砲術班、機関班は砲塔を始めとする火器、機関の整備を行い、主計科、生活班は明日行われるスターシアと古代守の結婚式準備を行っていた。

 

その中で、明日の結婚式に参加するフェイトとティアナはヤマトを訪問していた。

 

訪問の理由は両艦の一部の幹部クラスを中心とした、結婚式実行委員会との打ち合わせの為であった。

 

「「‥‥」」

 

そして、二人は打ち合わせの会場となっている部屋のデスクの上に鎮座している二つのリングに目を奪われ絶句していた。

 

「良い出来ですね」

 

良馬がリングを見て、その出来具合を褒める。

 

「まぁ、真田さんのお手製ですから、当然と言えば当然ですけどね」

 

さも当然の様に言う古代にフェイトは恐る恐る訊ねる。

 

「あの‥‥これ、ダイヤ‥‥ですよね?」

 

「ああ、これはイスカンダル産のダイヤだ」

 

ダイヤの出所を答えたのは、真田だった。

 

「リングは‥‥ネオ・コスモナイトですか?」

 

良馬がリングの組成を真田に訊ねる。

 

「ああ、雪風・改に備蓄されていた物を少し分けてもらった」

 

「ダイヤも良いカット具合だ‥‥地球のモノと比べるとかなり上質なダイヤですね」

 

「ああ、品質では地球産の10カラット分以上に相当するな」

 

「「そんなに!?」」

 

フェイトとティアナも驚きの声を上げたが、見てみるかと、真田からケースごと手渡され、まじまじと見てみると、確かに今まで目にしたダイヤとは根本的な何かが違うように思えた。

 

(こんなダイヤ、地球でもミッドでも見た事ないよ‥‥)

 

(私もです‥‥)

 

心が躍るというより、癒される輝きというべきか。

 

「驚くべき原石だよ。どの部分を調べても組成と品質がほぼ一定しているんだ」

 

「かなりの反則品質ですね」

 

「ああ‥‥だが、こんな上質のダイヤでもイスカンダル人から見たら、その辺の石ころ同然なのだがな‥‥」

 

真田は苦笑しながら地球では希少なダイヤでもイスカンダルでは何の価値も無い石ころだと言う。

 

「そんな、石ころを乗っけただけのリングを送って大丈夫でしょうか?」

 

「まぁ、スターシアにとっては石ころなのだが、送ってもらう相手と気持ちによってこのリングはスターシアにとっては、十分な価値があると思うが?それにちゃんとカット加工しているしな」

 

「確かに‥‥」

 

「そうですね」

 

良馬と真田、古代が明日の結婚式で使用する結婚指輪について話している中、フェイトとティアナは未だにその結婚指輪に釘付けであった。

 

(ホントに反則だよ、このダイヤ。今まで見てきた宝石が石ころ同然じゃない‥‥)

 

(そんな反則なダイヤが此処(イスカンダル)じゃ、ただの石ころ扱い‥‥)

 

フェイトとティアナの中で宝石に対する価値観が変わっていった。

 

もし、管理局がイスカンダルを見つけたら、イスカンダリウムではなく、このダイヤモンドを採掘する鉱山惑星に指定しそうで不安になる。

 

万が一、管理局があの暗黒星団帝国同様、スターシアを強制的に排除してイスカンダルを管理局所有の鉱山惑星にしたら、暗黒星団帝国の艦隊と同じ末路を辿る事になるだろう。

 

管理局の艦船では暗黒星団帝国よりも簡単に壊滅させられてしまう。

 

だが幸いなことにマゼラン星雲は航行禁止海域に指定されているので、管理局がこのマゼラン星雲に来る事がない。

 

それが本当にせめてもの救いだった。

 

「あの‥‥」

 

「ん?何かな?」

 

「このリング、どこで加工したんですか?」

 

ティアナが真田に訊ねた。

 

リングにせよダイヤにせよ、加工と研磨の精度が半端ではない。

 

宝石にはまだ縁が薄いティアナでもわかるほどの代物、否、業物だからだ。

 

「ああ、それはヤマトの艦内工場で加工したのさ」

 

「この艦(ヤマト)で、ですか!?」

 

ティアナが信じられない表情をしたが、真田の説明でなるほどという表情になる。

 

管理局の艦船の中には加工できる工場施設など存在しない。

 

だから、回収されたロストロギアも倉庫みたいな所に一時保管され、詳しい解析などは本局へ戻ってから行われる。

 

「ヤマトは単独で長距離長期間の行動をするための艦だからな。ある程度の生産設備は不可欠なのさ。それに、今の地球防衛軍の艦船もヤマトほどの規模の作業スペースは設けていないが、ある程度の物資を生産できる艦内工場を有している」

 

「へぇー‥‥」

 

ティアナは唖然としながら真田の説明を聞いていた。

 

まほろば にも当然、ヤマト並みの艦内工場は存在するが、今までの航海でフェイトもティアナもそうした場所には無縁だったので、今回初めて知った。

 

「そういえば、衣装の仮縫いは済んだんですか?」

 

もう一つ重要なアイテムについて訊ねる良馬に真田は、

 

「ああ、雪がモデルを買って出てくれているからな。今はデータの再入力中だ。男性衣装の方は古代本人がやっている」

 

雪とスターシアの背丈、体型は似ていたので、スターシアのウェディングドレスは雪がモデルとなり仮縫いをして、守の方は守自身が行っている。

 

当初、守の礼服は軍人なので大礼服にするかそれともタキシードのどちらにするかを訊ねた所、守はタキシードの方を選んだ。

 

「あの‥‥もしかして、ウェディングドレスや礼服の縫製もヤマトで?」

 

「ああ、そうだよ」

 

半ば呆然としながら訊ねるフェイトに真田はさも当然の様に頷く。

 

((何なの!?この艦は!?))

 

思わずツッコミそうになるフェイトたちに良馬が捕捉をする。

 

「まぁ、ヤマトが凄い艦だと言うのは分かるけど、真田さんも十分凄い人ですよ。大抵の事は『こんなこともあろうかと』の一言で片付けるんですから。それと‥‥」

 

良馬は小声で真田の凄さをフェイトとティアナに教える。

 

(両肘膝から先が義手義足で、その上、それで設計製造から戦闘機の操縦や白兵戦までこなしたり、義手義足に爆弾を仕込むなんてスカリエッティを上回るマッd‥‥もとい、スーパーサイエンティストじゃないですか!?)

 

ティアナは真田があのスカリエッティを越える人物だと認識したのと同時に真田がミッドに‥‥スカリエッティ陣営や反管理局側のテロリストに居なくて良かったと安堵した。

 

(ティアナ、もうツッコむ気が失せたよ、私‥‥)

 

と、フェイトとティアナは、心の中で真田志郎を歩くロストロギアと認定したのである。

 

同様に真田とは違う着目点を持つトチローも真田と並ぶほどのスーパーエンジニア

であった。

 

ヤマト と まほろば の厨房では、明日の宴会料理とウェディングケーキの準備が進められていた。

 

主役たる夫婦の意向で、ウェディングケーキ自体のサイズは抑え、全乗組員の口に入るよう、同じ材料で配布用のケーキも作られていた。

 

ウェディングケーキの基礎になるスポンジ部分が焼き上がったら、あとはデコレートをするだけ。

 

ケーキのデコレートに関してはディアーチェがプロデュースすると言う。

 

味に関してはギンガたち、女性乗務員が監修を務めた。

 

その中には当然、甘いモノ好きのフェイトとティアナも含まれていた。

 

式場の飾り付けの一部も、真田からの図面を元にヤマト、まほろば の艦内工場で次々と製作されていった。

 

「すまない、スターシア。悪乗りする連中ばかりで‥‥」

 

守は自分のタキシードの仮縫いが終わった後、自分たちの結婚式にかこつけてお祭り屋と化した同期生や弟、後輩たちのことをスターシアに謝るが、愛妻は黙って顔を横に振った。

 

「私は大丈夫よ、守。それに、進さんたちはつい先日、多くの仲間を亡くされたのでしょう?お祭り気分になりたい気持ちは十分理解できるわ。それに、ここの人たちが私たちの結婚を心からお祝いしてくれているのは本当なんだし、こういう賑やかな雰囲気は、生まれてこの方知らなかったから‥‥」

 

スターシアと妹のサーシアが生まれた時、イスカンダルの人口は、両親を除けば年老いた使用人が数人だけになっていた。

 

故にここまで大勢の人たちから祝福を受ける事など無く、スターシアとしても初めての経験であったが、こうしたバカ騒ぎも悪くはないと思っていた。

 

「スターシア‥‥」

 

それに明日にはしばらくの間、離れ離れになる二人‥‥。

 

だからこそ、一緒に居られる時間を一分一秒無駄にはしたくなかった。

 

やがて、二人は自然な形でお互いの唇を重ね合わせ、守はスターシアをベッドに押し倒した。

 

そして、二人の影は一つになって重なった‥‥。

 

 

「えっ!?俺がですか!?」

 

「そうだ、お前以外に誰がいるんだ?」

 

明日の結婚式の最終打ち合わせの中で良馬が思わず声をあげる。

 

「真田さんか古代君がやるんじゃないんですか?」

 

良馬はてっきり真田か古代がやるものばっかりだと思い、何故自分がやるのかを訊ねる。

 

「役職ではヤマトの副長の俺より、艦長であるお前の方が上だろう?」

 

真田は、年齢はともかく、役職では良馬の方が上だと言って逃れ、

 

「そ、それは‥‥古代君だって同じだよね?」

 

良馬は少し狼狽えつつ、古代に振る。

 

「えっと‥‥自分はあくまで『代理』ですから‥‥それに兄さんの身内でもありますし‥‥そもそも今回の発案者は月村先輩じゃないですか」

 

「うっ‥‥」

 

守の身内言う事と、今回の結婚式の発案者と言う口実で上手く逃れる古代。

 

「あまり、柄じゃないんだけどな‥‥こういう役は本来、沖田さんか土方さんにこそやってもらいたかったよ‥‥」

 

「「‥‥」」

 

良馬のボヤキに思わず黙る真田と古代。

 

「艦長」を「船長」に置き換えればそう珍しい事ではない。

 

職務権限として認められているからだ。

 

自分はその資格には程遠いとしか思えないが、引き受けた以上、後に退くつもりはない。

 

フェイトとティアナ同様、明日の結婚式で大役を務める事になった良馬であった。

 

その夜、フェイトとティアナは明日の結婚式の事を思い、中々寝付けず、医務室から睡眠導入剤を貰いに行った。

 

 

翌日、イスカンダルは絶好の晴天に恵まれ、まさに結婚式日和であった。

 

「さて、ティアナ、そろそろ行こうか‥‥?」

 

フェイトは鏡の前で管理局の制服のチェックをしているティアナに声をかける。

 

勿論、この制服も、デバイスに残っていたデータを基に まほろば の艦内工場で作られたものだ。

 

「は、はい」

 

フェイトに促され、二人は部屋を後にした。

 

二人は今日の挙式で重要な役を務めることになっているのだ。

 

そして、事前に教えられた道を通りイスカンダルの宮殿を目指す。

 

「この街はすごいですね‥‥ミッドの文明を始めとするどの管理世界よりも科学技術が進んでいますよ」

 

無人タクシーに乗り、イスカンダルのマザータウンの街並みを見渡しながらティアナが呟く。

 

しかし、街には人っ子一人の姿も無く、ゴーストタウンと化していた。

 

「そうだね‥‥でも、イスカンダルにはもうスターシア陛下しか居ないんだよね‥‥」

 

滅び去って行くイスカンダル文明にフェイトは寂しそうに呟いた。

 

やがて宮殿に着き、ある一室のドアをノックした。

 

「失礼します。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンとティアナ・ランスターです」

 

「どうぞ」

 

中からスターシアの声が聞こえた。

 

「失礼します」

 

一礼して入室した二人は顔を上げて部屋の主がいる方を見た。

 

「「っ!!?」」

 

極めてシンプルな白いドレスに身を包んだスターシアに、二人は息を飲み込んだ。

 

((確かに、豪華にする必要なんか何一つないよ(わ)ね‥‥))

 

ウェディングを纏ったスターシアを見たフェイトとティアナは全く同じ感想を抱いた。

 

スターシアと守の意向を汲んだ真田と雪が用意したのは、これ以上はない程簡素なデザインのミルキーホワイトのドレスだったが、かえって良く着映えした。

 

純白ではなくミルキーホワイトにしたのは、スターシアが既に二児の母親であることの証だ。

 

(内から醸し出す雰囲気が違うから、シンプルなドレスがよく映えるんだ‥‥)

 

スターシアから放たれる神秘的なオーラに圧倒されながらも、フェイトは分析した。

 

「とても良くお似合いです。スターシア陛下」

 

と心からの賛辞を口にするフェイト。

 

「ありがとうございます。フェイトさん」

 

フェイトの賛辞にスターシアはニッコリと微笑む。

 

それは、まさに聖母の微笑みであった。

 

(母親になっても内に秘めた誇りとカリスマ性は全く色褪せないのよね、この方は‥‥)

 

ティアナは同意しつつも、内心で舌を巻いていた。

 

こういうタイプの人物は、ミッドはもちろん、自分たちが赴いた世界にはいなかった。

 

(この部隊の人たちといい、スターシアさんといい、色々な意味ですごい人たちの集まりだ‥‥)

 

管理局員でここの人たちと色々な意味で(魔法抜きで)渡り合える人はかなり少ないのではないか?

 

魔法文明もなく、思想も当然違うのだから、比較する事自体がおかしいのだろうが‥‥

 

フェイトとティアナは同じことを考えていた。

 

そこにドアがノックされる。

 

「失礼します」

 

入室の声をかけ、部屋に入ってきた良馬はすぐに姿勢を正し、スターシアに向けて挙手の礼をとった。

 

((地球防衛軍の敬礼や挙動に比べると、管理局のそれはいかにも緩くて遅い(わ)ね))

 

敬礼一つにしても、ただの治安維持組織と正規軍ではこうも違うのか?

 

フェイトとティアナは率直にそう思った。

 

良馬は艦長制服姿で、胸部には数々の略章や勲章、金色の参戦飾緒も付けて腰には重力サーベルをぶら下げていた。

 

「月村艦長、今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ。我が身に余る大役ですが、全力で務めましょう」

 

スターシアの挨拶に軍人らしい口調で応えた良馬だった。

 

「月村さん、何か、緊張していません?」

 

ティアナが良馬に訊ねてきた。

 

「うん‥‥発案したのは良いが、まさか結婚式の司式までするとは予想外だったよ」

 

と、良馬本人はそう言うが、

 

「いいじゃないですか。非公式とはいえ、初めて地球人とイスカンダル人の結婚式を取り仕切った艦長になるんですから」

 

「うん‥‥まぁ、そうなんだけど‥‥でも、非公式とはいえ、女王陛下の結婚式の司式というのは前代未聞にして空前絶後だろうなぁ‥‥」

 

と肩を竦め、ティアナたちも苦笑しながら頷いた。

 

そして、腕時計を見て時間を確認すると、

 

「式の開始まであと一時間だ‥‥それでは自分は先に式場で待っています」

 

と、スターシアに敬礼しながらそう伝えて花嫁控室から立ち去った。

 

その頃、厨房では、

 

「うむ、問題ない。完成だ!!」

 

ディアーチェがウェディングケーキ最終チェックを終えてサムズアップすると、ケーキ作りを手伝っていたヤマト、まほろば の両艦のスタッフが沸いた。

 

宮殿内の式場では、真田の指揮で床、壁、天井に飾り付けがなされ、急拵えには見えない祭壇も設置された。

 

「ノリノリだな、皆」

 

「まあな‥‥」

 

手持ち無沙汰の新郎と真田がその一角におり、新郎である守が苦笑しながら、参加者たちを見ている。

 

「お祭りはお祭りとして楽しまなければな。生き残った者たちは‥‥」

 

そう言った真田の顔が一瞬曇った。

 

その意味するところを知っているから、守も無言で頷く。

 

地球防衛軍は再建半ばで白色彗星帝国との、短期間だが激烈を極めた戦闘で、人的・物的に多大な損失を被った。

 

特に人的損害は、有人艦の増備を削って無人艦に切り換えざるを得ないところにまで深刻化していた。

 

弟たちは弱冠20歳そこそこで最早中堅として扱われ、真田や良馬の生き残った世代は本来ならベテランが座るポストに就かざるを得ない。

 

そういう中で自分は地球に帰るのだから、恐らく自分も地球に帰れば、防衛軍に復隊しなければならないだろう。

 

イスカンダルから地球までの航海期間中が自分にとっての休暇の締め括りなのかも知れない。

 

そう守は思っていた。

 

防衛軍に復隊する事に関しては特に嫌悪が有る訳ではないが、自分以外の雪風の乗員遺族たちには申し訳ない気持ちがあった。

 

 

やがて、式の時間を迎えた‥‥。

 

フェイトは新郎の介添で守と共に入場し、古代は新婦の介添でスターシアと共に会場に入場した。

 

古代もフェイトもカチコチに緊張しているのがその表情と動きで分かった。

 

新郎新婦が式場に入場し、祭壇の前まで来て式は始まった。

 

会場に司式たる良馬の声が響く――。

 

「汝、古代 守よ‥‥貴方はスターシア・イスカンダルを妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかな時も、命尽きる時まで妻を愛し慈しむ事を誓いますか?」

 

良馬が婚姻の誓いを守るに問うと、

 

「誓います」

 

タキシードを着た守が力強く答える。

 

良馬は古代の誓約に頷き、次いでスターシアに向き直る。

 

「汝、スターシア・イスカンダルよ‥‥貴女は古代 守を夫とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかな時も、命尽きる時まで夫を愛し慈しむ事を誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

スターシアも婚姻の言葉に誓いの言葉を述べた。

 

式場の席にはサーシアを抱いた雪とユリーシャを抱いたギンガ。

 

そして、ヤマト と まほろば の第一艦橋乗員が座っている他、執務官服のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンとティアナ・ランスターも顔を見せていた。

 

その後ろの座席にもヤマト、まほろば、両艦の乗員たちが座り、みんなは守とスターシアの結婚を祝った。

 

(スターシアさん、本当に綺麗ですね)

 

(うん、本当にね‥‥ヴィヴィオもいつかは誰かと結婚して、ベルカの教会で式を挙げるのかな?)

 

フェイトは自分が後見人を務めるヴィヴィオも何時かは誰かを好きになり、こうしてスターシアや守の様に結婚するのかと思った。

 

ヴィヴィオもクローンとは言え、スターシアと同じ王族の血を継いでいる。

 

きっと彼女の花嫁衣裳も似合うだろう。

 

夫婦の誓約が終わったのを見て、ティアナが席を立ち、前に進んだ。

 

両手で持つ飾り箱にはペアのリングが光っていた。

 

この役、日本では男児が受け持つ事があるのだが、当然ながら作戦行動中の宇宙戦艦に子供が乗っているわけもなく、最年少のティアナに白羽の矢が立った次第だ。

 

新郎の介添役を務めたフェイト同様、ティアナもガチガチに緊張していた。

 

これは、ある意味凶悪な次元犯罪者と対峙する時や全力全開のなのはと模擬戦で対峙するよりも心臓に悪い。

 

「では、指輪の交換を‥‥」

 

まず、守が指輪を手に取り、スターシアの左手薬指にはめる。

 

次いで、スターシアが少し慣れぬ手つきで指輪を手にして守の左手薬指に通した。

 

その様をティアナは間近で網膜に焼き付けるように見入っていた。

 

指輪交換の終わり、ティアナが下がると式場の雰囲気が微妙に変わる。

 

心なしか、参列者の目つきが変わり、緊張感が漂い始めた。

 

「‥‥それでは、新郎新婦の御二方‥‥誓いのキスを‥‥」

 

地球の習慣・風俗に初めて触れるスターシアはともかく、守は皆から注がれる。

 

二人っきりの時は兎も角、此処まで大勢の人達に見られるキスはやはり恥ずかしいのだろう。

 

守が戸惑っている。

 

フェイトとティアナは、周囲が目を血走らせ、鼻息を荒くしている様に唖然とした。

 

だが、ここで雪とギンガに抱かれていた愛娘たちが無邪気な笑みを浮かべながら盛大な拡散波動砲を放った。

 

「チッチュ、チッチュ」

 

「チューチュー」

 

この一言で、緊迫しかかっていた式場の雰囲気は解けた。

 

「えっと‥‥古代先輩、娘さんたちもああ言っていますし‥‥此処は男らしく腹を括って下さい‥‥」

 

良馬が守にキスを促した。

 

「あ、ああ‥‥」

 

スターシアは訳がわからずパチクリしていたが、守がベールを上げると状況を悟ったのか、眼を閉じた。

 

そして、二人の唇は重なり合った。

 

「おめでとうございます。古代先輩、スターシアさん」

 

「おめでとう古代」

 

「おめでとう兄さん」

 

「おめでとうございます。スターシアさん」

 

『おめでとうございます!!』

 

みんなが守とスターシアに賛辞の言葉と共に拍手を送った。

 

挙式はつつがなく終わり、今は写真撮影に移っていた。

 

新郎新婦二人だけの写真。

 

守とスターシアがそれぞれ、愛娘たちを抱いた写真。

 

そこから、始まり、その後は親しい者たちとの撮影が始まった。

 

ティアナもクロスミラージュをカメラモードにして盛んにシャッターを切っていた。

 

「フェイトさん、ティアナ」

 

自分たちを呼ぶ声に、ティアナがクロスミラージュから顔を外すと、スターシアと一緒に写真に収まっていたギンガが手招きしている。

 

どうやらスターシアたちと一緒に写れという事らしい。

 

「よ、よろしいんですか?」

 

「その‥‥私たちが写っても‥‥?」

 

「ああ、遠慮無用さ」

 

フェイトとティアナが恐る恐る訊ねると守は構わないと言う。

 

そして、緊張を隠せないまま、フェイトとティアナも夫婦と一緒に写真に収まった。

 

「よし、ブーケ・トスやるぞ~!」

 

女性陣たちにはお待ちかねの時間、ブーケ・トスとなった。

 

雪をはじめ、参列していた両艦の女性乗員たちが集められ、さらにフェイトとティアナも手招きされて参加した。

 

誰が、スターシアのブーケを取ったのかはご想像にお任せする。

 

ブーケ・トスを終え、出席者全員による集合写真だ。

 

写真に写った者は皆、自分なりの笑顔を浮かべていた。

 

フェイトとティアナの二人も当然写真を受け取った。

 

写真撮影を終えた一行は、宮殿の大広間に設けられたパーティーコーナーに場を移した。

 

簡素だが飾り付けをした展望室にテーブルが並び、夫婦がつく「上座」には、燭台とともに、大きな枕形のケーキが鎮座していた。

 

言うまでもなくディアーチェら まほろば の厨房員たちが中心になって作った自慢の一品だ。

 

ケーキカットが終わると同時に、ケーキは出席者に振舞われた。

 

当直等によって出席できなかった者に関しては、ちゃんと、後でデリバリーされる予定である。

 

「では、御二人の結婚を祝し‥乾杯」

 

『かんぱーい!!』

 

真田の乾杯の音頭でパーティーは始まった。

 

ただ、この後、出航を控えているため、出されたのもノンアルコールビールやソフトドリンクと、軽食だけだが、あちこちで笑い声が響いていた。

 

スターシアは、フェイト、ティアナ、ギンガ、リニス、原田たち女性陣と談笑し、サーシアとユリーシャはというと‥‥

 

「なかなか板についているぞ。お二人さん!」

 

「羨ましいね」

 

「ヒューヒュー」

 

乗員たちに冷やかされ、戸惑った表情の古代と雪に抱っこされていた。

 

その様を、守と真田は面白おかしそうに眺めている。

 

そして、フェイトは金髪の双子であるサーシアとユリーシャを見て、

 

(私にもあの二人みたいな可能性があったのかな?)

 

と、二つの地球があるのだから、もしかしたら、亡き姉、アリシアと平和に暮らして居た世界がこの世の何処かに有るのかもしれないと思っていた。

 

フェイトはサーシアとユリーシャの二人を自分たち姉妹に置き換えて見ていた。

 

「真田‥‥」

 

「ん?何だ?古代?」

 

真田に守は真剣な表情で話しかけた。

 

「俺は地球に帰って少し落ち着いたら、雪風の乗組員の家族を訪ねようと思う」

 

「そうか」

 

真田は絞り出すように言う、

 

「よりによって、艦長の俺が生き残ってしまったからな。それをやり残したままじゃ、いつまでも俺の中のあの戦争が終わらないんだ。たとえ遺族から罵倒されたとしても、これだけはやっておきたいんだ」

 

「古代‥‥お前がそうしたいなら、俺たちは何も言わん。だが、お前たちが笑顔でいる事。これが死んでいった部下たちへの何よりの手向けなんだ。それを忘れるなよ」

 

真田が守の目を真っ直ぐ見て言う。

 

「「‥‥」」

 

その様を、フェイトとティアナは少し離れた所で見ている。

 

「大切な人を失った悲しみは、世界共通だよね?」

 

「はい」

 

「それに、信頼できる仲間たちがいる事もね」

 

「‥‥そうですね」

 

唯一の肉親だった兄ティーダを失ったティアナにすれば、訓練校、初めて配属された救助部隊、そして機動六課時代にパートナーだったスバルを筆頭に、師匠格のなのはやフェイト、チームメイトのエリオやキャロら、機動六課のメンバーは紛れもなく大切な仲間で、その思いは今も変わらない。

 

しかし、失ったモノの多さでは、ここにいるメンバーたちはその比ではないだろう。

 

ガミラスとの戦争では、遊星爆弾は貧富、老若男女、国籍、人種を問わずに降り注ぎ、人類を含む地球の生物の過半が消え、生き残った者も、家族や友人等、大切な存在を全く失わなかった者はいないのだ。

 

(この世界に比べれば、私たちの世界はだいぶ平和よね)

 

フェイトとティアナは平和の概念の違いを痛感した。

 

やがて、パーティーはお開きの時間となり、いよいよ守とスターシアには、別れの時間が来た。

 

「さようなら‥‥守‥‥」

 

「さようなら‥‥スターシア‥‥」

 

守はヤマトの第一艦橋でメインモニターに映るスターシアに別れを告げる。

 

「だが、いつか‥‥いつかきっと、この星へ戻ってくる‥‥必ず‥‥必ずだ‥‥」

 

「ええ‥‥待っているわ‥‥守‥‥」

 

「兄さん‥‥」

 

「古代‥‥」

 

古代と真田は神妙な顔で守を見ていた。

 

 

「メインエンジン始動!!地球へ向け発進!!」

 

ヤマト、まほろば、雪風・改は、イスカンダルの海を浮上し、一路地球を目指し、出航していく。

 

離れていくイスカンダルを守はヤマトの展望室から愛娘たちと共にイスカンダルの姿が見えなくなるまで見ていた。

 

 

某星系内にある某惑星

 

「聖総統閣下‥‥メルダース長官率いるマゼラン方面軍からの通信が途絶しました」

 

聖総統と呼ばれる人物に、一人の側近がマゼラン方面軍の状況を報告しに来た。

 

「途絶だと?」

 

「は、はい」

 

側近は体をビクッと震わせて答える。

 

「ゴルバの通信設備に何か事故でもあったのか?」

 

「い、いえ‥‥その‥‥大変申し上げ難い事なのですが‥‥」

 

「何があった?申してみよ」

 

「は、はい。此方で調査した所、メルダース長官座上のゴルバのシグナルもロストしておりました‥‥恐らく破壊されたものかと‥‥」

 

「何ィ!?それで、イスカンダルは!?イスカンダリウムはどうなった!?」

 

「急ぎ、偵察艦を派遣し、イスカンダルのエネルギー調査をした所、イスカンダリウムは、我が帝国のエネルギー変換に適さない物質に組成変換されていたとの事です」

 

「‥‥そうか‥もうよい、下がれ」

 

「はっ」

 

報告をしに来た側近を下がらせ、聖総統は一人、思案する。

 

メルダースの最後の通信から彼が小癪な敵と交戦したのはほぼ間違いない。

 

故にゴルバは宇宙気象によって破壊もしくは遭難したのではなく、交戦した結果破壊されたのはほぼ確実だろう。

 

(たかが、30等系の田舎蛮族だと思っていたのだが、彼奴等もなかなかの技術を持っているではないか‥‥我が帝国のエネルギー採掘の邪魔立てをしてくれた礼を含め、例の計画を実行に移すとするか‥‥)

 

地球人類の知らない所で、またも新たな企みが進められている事を、地球人類はこの時、知る由も無かった‥‥。

 

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