星の海へ   作:ステルス兄貴

73 / 294
六十四話 もう一つの地球

 

 

火星でスターシアの妹のサーシアの墓参りをし、赤い大地の星、火星を後にしたヤマト、まほろば、雪風・改の一行‥‥。

地球まで後もう少しだ‥‥。

そんな中、フェイトとティアナはヤマトのゲストルームにて、今日もスターシアと守の娘であるサーシアとユリーシャの子守を行っていた。

フェイトたちが子守をしていると、

 

「マスター‥‥」

 

フェイトのデバイスであるバルディッシュがフェイトに話しかけた。

 

「何?バルディッシュ」

 

「実は‥‥」

 

バルディッシュはフェイトに語り掛ける。

 

「それ本当!?バルディッシュ!?」

 

バルディッシュの言葉を聞き、フェイトは思わず声をあげる。

 

「はい。イスカンダルでお目にかかったスターシア陛下ですが、魔力反応がありました。ランクはSないしオーバーSクラス‥‥間違いかと思い、ずっと黙っておりました。申し訳ありません。そして、サーシア王女とユリーシャ王女からもそれとなく魔力を感じます」

 

「そう、やっぱり‥‥」

 

フェイトも、スターシアから発せられていた神々しいオーラに違和感を感じていたのだが、それが裏付けられたことを認識した。

 

「ティアナはどう思う?スターシア陛下や皇女殿下たちが魔力保有者であることを管理局に報告すべきだと思う?」

 

「いえ、ジュラさん同様、私は、スターシア陛下については報告すべきではないと思います。勿論サーシア王女、ユリーシャ王女に関しても同様です。今回、地球防衛軍と行動を共にして分かりました。スターシア陛下がSクラスの魔力保持者だと知ると管理局は必ず、イスカンダルへ赴き、スターシア陛下を管理局に勧誘する筈です。それどころか、イスカンダルの技術をロストロギア認定するでしょう‥‥実際にイスカンダルにはあのダイヤを始めとする希少な鉱物資源がありますから‥‥」

 

「うん‥‥管理局なら、そうするだろうね」

 

「でも、私から見たスターシア陛下は不屈の信念を持っている方です。管理局の勧誘をそう簡単に乗るとは思えませんし、管理局もそう簡単に諦めるとは思えません。となると、管理局はイスカンダルの技術と共にスターシア陛下を強引にミッドへ拉致する可能性もあります」

 

「‥‥」

 

ティアナの言うスターシアの拉致‥‥。

フェイト自身はティアナの言うその言葉を否定は出来なかった。

 

「もし、管理局がスターシア陛下を強引にイスカンダルから拉致したら‥‥」

 

ティアナはそこまで言って言葉を詰まらせた。

 

「ティアナの言いたい事は分かるよ」

 

フェイトはティアナが何を言おうとしたのか察した。

再建途中にも関わらず、イスカンダルへと赴いた地球防衛軍。

新天地を目指さなければならないにも関わらず、命を賭けてまでイスカンダルを救おうとしたデスラー総統率いるガミラス帝国。

下手にイスカンダルに手を出せば、自分たち管理局があの暗黒星団帝国の艦隊とガミラス戦役時の地球と同じ末路を辿るのは容易に想像がついた。

 

「バルディッシュ。スターシア陛下と、サーシア王女、ユリーシャ王女の魔力データは記憶しないでおいてね。イスカンダル星の座標もね」

 

「そうですね。それがよろしいかと」

 

「クロス・ミラージュもお願いね」

 

「承知しました」

 

バルディッシュもクロス・ミラージュも空気を読んだのか、積極的に同意したため、フェイトとティアナはこの件を封印した。

フェイトとティアナがスターシア、サーシア、ユリーシャの魔力について、他言無用を貫く姿勢を決めている中、ヤマトの艦内工場で、真田は守に一丁のコスモガンを手渡した。

 

「これは?」

 

「お前の銃に決まっているだろう」

 

「?」

 

真田は、さも当然という表情で守に言った。

しかし、守は真田の言う事が理解できなかったのか首を傾げている。

 

「ん?何だ。聞いてなかったのか?一昨年の航海でタイタンに降りた時、お前の弟が雪風の近くで拾ったのさ。そのままあいつが持っていたんだが、今回のイスカンダルへの出撃が決まった時、俺が預かって整備しておいたんだ。こんなこともあろうかと思ってな」

 

「まったく、お前らは‥‥」

 

守は苦笑しながら真田からコスモガンを受け取った。

現役軍人に戻った以上、作戦行動中はコスモガンの携行が義務付けられているからだ。

射撃場では、そこにあった訓練用のコスモガンを使用していたため、実感が薄かった。

そのため、コスモガンの入ったホルスターを腰に巻いた守は久しぶりの重みに懐かしさを感じた。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 第一艦橋

 

「艦長、あと二時間で月軌道です」

 

「ん、通信長、司令部に連絡だ。地球到着時間は日本時間19時20分で宜しいか、とね」

 

「わかりました」

 

良馬の指示を受け、ギンガは司令部と到着時刻を調整する。

通常の任務とは異なり、ヤマトにはイスカンダルから帰還した守の他にスターシアの血を引くサーシアとユリーシャが乗っており、到着に際しては藤堂司令長官ら軍高官らが出迎えに立ち会うため、彼らのスケジュール調整も不可欠なのだ。

またそれだけではなく、フェイトとティアナの当面の滞在先の案内も行う必要もある。

守、サーシア、ユリーシャはともかく、フェイトら時空管理局組については、魔法や次元世界等のデリケートな問題も抱えているため、良馬や古代、真田らの幹部は守と相談して彼女たちの身分を、

 

『イスカンダルに不時着し、保護されていた遭難者』

 

と言う立場にしておくつもりだ。

そして、その件に関しては、フェイトたちにはこの後で話をして、守と口を合わせる様にしてもらう予定だ。

守、サーシア、ユリーシャの三人に表舞台に立ってもらい、フェイトたちはその陰に隠す形で公には公表しない事にした。

 

「司令部より回答。港内整理のため、地球到着は21時にしてもらいたいとの事です」

 

「分かった。20時を以って当直任務を解除。総員入港配置とする。全艦に伝えてくれ」

 

「了解」

 

良馬の命令を受け、ギンガが艦内に放送をかけた。

 

地球防衛軍司令部からの命令は まほろば だけでなく、ヤマトにも伝わっていた。

 

「総員に通達。日本時間20時を以って当直配置を解除。総員入港配置とする。地球到着は日本時間21時。繰り返す‥‥」

 

相原の声で地球帰還時刻が告げられ、艦内の空気が変わった。

一ヶ月余りの重大任務もようやく終わり、無事に故郷へと戻れたためか、新人たちには緊張の中にも高揚感が漂う。

フェイトとティアナの二人は宛がわれた部屋で荷物の整理をしていた。

最も荷物と言っても、テリオスから着の身着のままで脱出したため、携行してきたのは身分証明書を兼ねた執務官手帳とそれぞれの愛機であるデバイス、あとはヤマト、まほろば が融通した官給品ぐらいだ。

特に女性特有の物品は、雪一人しか正規の女性乗組員がいないヤマトではストックに余裕がないため、女性の乗組員が多数乗っている まほろば から ヤマトへストックを融通したものだ。

 

「いよいよこっちの世界の地球なんだね」

 

フェイトは少しウキウキしている様子で言う。

しかし、その反面、不安もあるがティアナの前ではそれを表だって見せてはいない。

 

「ええ‥‥宇宙戦争で地上の様相が激変していると言われていますけど、地表は一体どんな状況なんでしょうね?」

 

ティアナは第97管理外世界とは異なるもう一つの「地球」への到着を控え、緊張は隠せないようだ。

 

「私たち、地球ではどう扱われるんでしょう?」

 

ティアナが少し不安げに言う。

こちらの地球にも魔法文化はないようだが、ノアの一件で、地球防衛軍サイドは管理局の機密事項を含めた資料も回収して調査しているだろう。

ティアナの不安そうな様子にフェイトも僅かにだが、自身が抱いている不安を表にさらけ出す。

 

「ノアの犠牲者にもエリオやキャロみたいな子供の局員が少なからずいたからね‥‥それに、この世界は私たちの知っている地球同様、十八歳未満の子供が軍や警察等の仕事についたり、関係した教育を受けるのを禁止している。管理局に好印象を持つとは思えないね。ヤマト や まほろば の人たちはともかく、他の地球防衛軍の軍人さんや地球連邦政府の政治家さんたちがどう出るのか。正直わからない‥‥」

 

フェイトの言う通り、人が多く所属している組織ならば、当然一枚岩と言う訳ではない。

それは、自分たちの所属する時空管理局も同じである。

本局と地上本部に別れ、更には本局の“海”にも管理世界を広げようと主張する管理世界拡大推進派とそれらの活動を自粛すべきだと主張する穏健派が存在する。

自分たちがこの地球でどのような立場に立たされるのかはまだフェイトたちには想像もつかない。

しかし、分かっている事はガミラスや白色彗星帝国との戦争をくぐり抜けてきたこの世界の地球の「実績」を考えるとここの地球が時空管理局の保護や干渉を受け入れるとは到底思えない。

ギンガから聞いた地球連邦の基本方針は、

 

『地球連邦は他の星の人類を支配しない。そして支配されない』

 

同盟関係を持つならば、あくまで対等の関係を保つというものだ。

また、管理世界での世界観、「次元世界」についても航海中に良馬や古代、真田に説明する機会があった。

彼らは耳を傾けてくれて、少なからず質問も受けたこともあり、一定の理解は得られたようだが、地球連邦がその世界観を導入する見込みは薄そうだ。

ましてや、管理局の傘下‥管理世界入りになるなんて絶対にあり得ない。

 

「君たちの世界観は理解できるし、その考え方も尊重する。しかし、我々がそれに同調することは全く別問題だ。ましてや君たちの組織や世界に従属する義務は全くない」

 

というものだった。

フェイトもティアナも予想していた解答なので、別に失望はしなかったが、対等に付き合う事を果たして管理局が承知するだろうか?という懸念が残った。

自分たちよりも優れた技術をもつ世界が管理局の傘下に入らない事を魔導師至上主義の局員や管理世界拡大推進派の局員がそう簡単に認め、諦めるだろうか?

しかし、管理局が強引にこれから向かう地球を無理矢理従属させようとすれば、地球側は管理局を侵略者と見なして頑強に抵抗されるだろう。

少なくとも、艦船の戦闘力は段違いで管理局の艦船ではあっという間に潰滅してしまうだろう。

白兵戦でも、白色彗星帝国の都市要塞内部の戦闘のように、地球防衛軍の兵士が死兵化して突っ込んで来たら、魔法頼みの管理局武装隊員では抑えきれず、たちまち屍山血河が築かれよう。

地上戦において戦うのは歩兵だけではなく、自分の知る第97管理外世界でも普通にある戦車と言う地上兵器最強の戦闘車両も当然これから向かうもう一つの地球にも存在する筈だ。

しかし、管理局にはその様な戦闘車両は正式に採用されていない。

精々、地上戦における指揮を執る為の指揮車両と暴動鎮圧用の放水車両ぐらいだ。

それに個人装備の銃火器も、ライフルはおろか、拳銃までパルスレーザーという高エネルギー光学兵器が主力だという。

しかも驚いたことに、彼らが装備しているハンドガンは90年近く前に制式採用されたものだということ。

もちろん改良が重ねられているだろうが、これは純粋にこの世界の地球の技術によるもの。

イスカンダルやガミラスから齎されたオーバーテクノロジーに目が奪われがちだが、図面の形だけで提供された波動エンジンを短期間で実体化し、使いこなしてみせたのは、紛れも無くこの世界の地球の科学・工業力に裏打ちされたものだ。

それに波動エンジンが齎される前の防衛軍艦艇でさえ、管理局の次元航行艦と十分に渡り合える強さを持っている。

 

(進歩した科学は魔法と同じだと言うけど、管理局はヤマトが登場する前の地球防衛軍にも敵わなかったんじゃないかなぁ‥‥?)

 

(喧嘩しても勝てない相手なら、関わらないようにするか、仲良くするしかないわよねぇ‥‥もし、管理局と地球防衛軍が戦争する羽目になったら、私、ギンガさんみたく、この地球に亡命しようかしら‥‥?いや、マジで‥‥)

 

フェイトとティアナはしみじみと思うのだった。

その時、部屋のドアがノックされる。

 

「森です。少し時間を貰えるかしら?」

 

「え、ええ‥どうぞ‥‥」

 

フェイトが入室の許可を出すと雪が部屋に入って来た。

 

雪の話の内容は、自分たち時空管理局員の扱いについての提案だった。

時空管理局という組織形態や魔法という力の存在は現在の地球連邦や地球防衛軍にとってもデリケートな問題で、市民に公表できるものではないため、表向きは宇宙で遭難してイスカンダルに不時着し、スターシアに保護されていたことにするのはどうか、というものだ。

守は既にその件に関しては、了承済みとの事だ。

スターシア絡みの人物なら、肩身が狭い思いをすることもないだろうという事らしい。

少し考えて、その申し入れを受けたフェイトとティアナは、お礼を言うべく、その足で守がいる部屋へと向かい、彼に礼を述べた。

 

 

防衛軍軍人の官舎の一角、この世界におけるギンガの実家である中嶋家。

その家の台所にはこの家の主である中嶋源三郎の妻、中嶋加奈江と良馬たち月村家と中嶋家が後見人を務める少女、高町紅葉が夕食の準備をしていた。

そして、リビングのソファではギンガの義妹であり、源三郎と加奈江の娘である桜花がテレビを見ていた。

 

「ねぇ、母さん」

 

「ん?どうしたの?」

 

テレビを見入っていた桜花が台所に居る母に声をかけてきた。

 

「今日、義姉さんたち地球に帰ってくるんでしょう?」

 

「ええ、父さんが言うには今日の夜に帰ってくるらしいわよ」

 

「そっか‥‥」

 

ギンガが帰ってくると言う事実に桜花は嬉しそうだ。

 

紅葉はソファーの上で読書をしていたが、桜花の見ていたテレビの音が耳に入った。

テレビでは、今回のヤマト、まほろば のイスカンダルへの航海の事で、ガミラスと共闘した件について軍事ジャーナリストや評論家が意見を交わしていた。

今回のイスカンダルへの航海‥‥初めは新人達の訓練航海の予定が、なし崩し的にイスカンダルへの救援任務となり、そこで、何とガミラス軍と共闘して未知の敵艦隊を破り、イスカンダルを救ったと言う。

 

世論調査では、ガミラスとの共闘には、賛否両論というよりも否定的な見方が多く、紅葉自身もガミラスを許す事はまだできていないが、何時までもガミラスを憎んでいても家族が還ってくるわけではなく、イスカンダルの救援という目的は同じなのだから、個人的感情とは切り離そうと努力している。

 

ただ、今回の件で、紅葉は何となくだがこれから自分の周囲が俄かに忙しくなるという予感を覚えていた。

胸元に下がるネックレスの先にある、亡き母から守り石として受け継いだ黒真珠の様な石に視線を向け、呟く。

 

「これから忙しくなりそうね。ルシフェリオン‥‥」

 

(それは、レディーの勘か?)

 

紅葉の脳裏に渋い男性の声が聞こえた。

 

(ええ‥‥)

 

紅葉も心の中で語り掛ける様に答えた。

その後、夜の21時過ぎに、中嶋家に連絡が入り、ギンガは今日、家には戻れないと言う連絡を受けた時、桜花は物凄くしょんぼりしていた。

 

 

ヤマト、まほろば、雪風・改の三隻は月軌道を通過し、地球圏に戻った。

 

「あ、あれは‥‥?」

 

「一体‥‥?」

 

荷造りを終えたフェイトとティアナは、スクリーンに映し出された光景に我が目を疑ったが、それに答えたのはアナライザーだった。

 

「アレハ、彗星帝国ノ本拠地‥都市要塞ノ下部デスヨ。フェイトサン、ティアナサン」

 

フェイトたちが見たのは虚空に浮かぶ巨大なお椀状の物体‥‥都市帝国の基礎を成していた小惑星部分だった。

ヤマト、まほろば の決死隊の突入で動力炉を破壊され、巨大戦艦が離脱した後も、この小惑星は破壊されることなく、大量の艦船等の残骸や兵士、都市要塞に住んでいた大勢の住民たちの遺骸と共に月軌道の近くを公転し始めていた。

岩盤は極めて堅固で、掘削し破壊するにも手間がかかるため、地球防衛軍は巨体を応用した防御要塞やドック等への改築を模索していると言う。

もし、これが成功したら、地球は巨大な移動要塞を手に入れる事となる。

しかし、それが実現する目途は未だに立っていない。

だが、地球に人類が生きている限り、それはいつか実現するだろう。

 

「あれが、白色彗星帝国の本拠地だったんだ‥‥」

 

フェイトが宇宙を漂うお椀を見て呟き、

 

「‥‥」

 

ティアナは言葉を失っていた。

 

(古代さんや真田さん、良馬さんたちは、本当にあの中に突っ込んでいったんだ(のね)‥‥)

 

(リニスはあそこで沢山の人を殺した‥‥あのリニスが‥‥でも、そうしないと自分達が殺されていたのよね‥‥)

 

突入部隊の内、生還率はほんの一割程‥‥。

ヤマトの戦闘機隊と空間騎兵隊は全滅という、凄惨極まる死闘にも関わらず、白色彗星帝国を止められなかった。

残党とはいえ、白色彗星帝国軍の攻撃を肌身で体験したフェイトたちは全身が総毛立つのを覚えた。

 

私たちが同じ立場になった時‥‥ミッドや管理局が管理する世界が何処かの侵略者に侵略されたら、自分たちは地球防衛軍の宇宙戦士達のように膝を屈する事なく戦えるだろうか?

まぁ、最初の内は、管理局の勝利を疑わずに戦うかもしれないが、いざ戦って見て相手が防衛軍や彗星帝国、ガミラス、暗黒星団帝国の様な強力な艦艇を有して居たら、管理局の次元航行艦隊はあっという間に壊滅してしまう。

それでも、管理局は諦めずに尚も戦い続けるだろうか?

‥‥いや、無理だ‥時空管理局はここまでの事態は全く想定していない。

格上の敵相手に戦った事がない管理局が殺し殺される覚悟なんか持っているわけがない。

時空管理局‥特に“海”は、次元世界の法と秩序の守護者と自ら誇ってきたが、この世界に関わるのなら、自分たちは新参の弱小勢力に過ぎないと自覚し、一から学ぶことを始めないといずれは数多の管理世界を巻き込んで崩壊してしまう。

フェイトたちは肝が冷えていくのをはっきりと感じていた。

 

 

地球に近づくにつれ、モニターに夜の日本の地表の様子が無数の明かりの数となって見えるのだが、

 

「アナライザー、地上は何であんなに暗いの?」

 

フェイトはアナライザーに地球の地表について訊ねる。

フェイトが疑問に思った訳は、かつて彼女は何度も大気圏上に停泊していたアースラから見た、第97管理外世界の夜の地上はもっともっと明るかったためであった。

それにもかかわらず、同じく地球を名乗るこの星は地球連邦の首都だという東京地区こそ一目でわかるが、他の地区の明かりは比べものにならないほど少ない。

ギンガによれば、地球は今、緑と海は回復しつつあるもののまだ遊星爆弾によるクレーターやクレーター湖沼が方々に見られるという。

ガミラスとの戦争から再建を果たした地球に連戦する形で今度は彗星帝国との戦争が始まり、地球は再び廃墟の星と成り果てしまった。

初の核被爆国で、地震大国でもある日本は対策をとるのが早く、他の地域より相対的に人的損耗率が少なかったとはいえ、第97管理外世界と比べ、ここまで人口が少なくなってしまったのか?

フェイトたちは、もう一言も発することができなかった。

そこに、

 

「本艦は30分後に大気圏に突入する。総員、最終チェックにかかれ!!総員、入港準備!!」

 

と、艦長代理である古代の声が響いた。

 

 

そして、三十分後、ヤマト、まほろば、雪風・改は地球大気圏へと突入した。

 

「誘導信号受信。データ転送。星名君、確認を‥‥」

 

「了解しました‥‥確認完了、異常ありません」

 

「周辺空域、異常なし」

 

照明を落とした艦橋内に確認の声が響く。

此処からは地上の司令部管制の誘導で基地に降りるのだ。

 

まほろば 同様、ヤマトも入港体制をとった。

 

「着水三分前。総員、対ショック防御」

 

相原の声が流れる中、乗組員はそれぞれの席やジャンプシートに腰掛けシートベルトを装着する。

フェイト、ティアナがジャンプシートに腰掛けシートベルトを装着する。

サーシアとユリーシャは乳母車へと乗せて、その乳母車を動かないようにベルトで固定する。

 

「着水」

 

舵を握る島の声が響いて数秒の後、ヤマトの巨体にズシン、ズシンと衝撃が走り、ほどなく止む。

 

「着水完了。各部、浸水の有無を確認せよ」

 

真田の声が響いた。

 

「島君もなかなかやるな」

 

守が弟の親友の腕前に感心したように言う。

 

気象と海面状況は薄雲ながら風は弱く、波浪注意報も出ておらず、ヤマトは順調に地下軍港の入口に向け、約15ノットの速力で海面を航行した。

フェイトの前にあるモニターには、ヤマトの上空を越えて近くに着水する まほろば の映像が映った。

星の海でもそうだが、やはりヤマトは元々は海上艦と言うことで、水の海でもその姿は様になっていた。

勿論、ヤマトをベースに造られた まほろば も水の海が似合う。

 

海上を進んでいくヤマト、まほろば を見て、これが戦う船の姿なのだと、改めて実感するフェイトとティアナ。

二人の今までの認識では、戦う船と言えば管理局の次元航行艦と巡航艦‥そして、あの『聖王のゆりかご』だった。

しかし、『聖王のゆりかご』はあくまでイレギュラーで、それを稼動状態にしたスカリエッティは、そのノウハウを未だに頑として明かしていない。

一連の次元航行艦撃沈事件続発で焦る時空管理局、特に“海”は、スカリエッティと共に軌道刑務所に収監されているウーノ、トーレ、クアットロら初期に稼動開始したナンバーズ(クアットロと同時期に稼動開始したチンクや、セイン以降の中~後期稼動開始組はゆりかごの整備に全く関わっていない)に、『聖王のゆりかご』のノウハウを提供すれば刑期を大幅に短縮する等の司法取引を持ち掛けているが、彼女たちは嘲笑するだけで、管理局は未だに『聖王のゆりかご』については何も得られずにいる。

また、聖王教会に『聖王のゆりかご』の建造資料の提出を求めているが、何分、古代ベルカの遺産とも言うべき代物なので、聖王教会にも資料が少なく、しかも当時のベルカは大きな戦乱の真っ最中だったため、『聖王のゆりかご』の設計図などはその戦乱で消失してしまっており、詳しい物は残ってはいなかった。

フェイトは、『聖王のゆりかご』は確かに巨大な船だったが、防御力があまりにも貧弱で、この世界の艦船の火力の前では紙切れ同然で容易に破壊されてしまうだろうと読んでいた。

古くてもあのシャンブロウの様な物凄い技術で作られた舟ならば、話は違って来るだろうが、あの方舟の様な舟を管理局が作るのは一体どれくらいの時間がかかるか見当もつかない。

 

(――『聖王のゆりかご』がどんなに強力でも、結局のところ、私たちの世界で大昔に設計された艦。どんなに大きくても老いた鯨は若い鯱の群れからは逃げ延びることはできない‥‥先々を考えるなら、地球防衛軍から技術供与してもらうのがベターよね。でも、子供を危険な任務に投入する組織だと警戒されているだろうから、それは難しいわね)

 

ティアナは、『聖王のゆりかご』の技術を得ようと奔走している“海”の上層部を思い浮かべ、内心で冷笑しながらも、地球防衛軍も容易にタキオン機関技術を管理局に提供してはくれないだろうと、溜息をついた。

管理局が防衛軍の様に専守防衛を掲げるような組織にならない事には防衛軍からのタキオン技術の提供はなされないだろうと予見して‥‥。

 

ズシンと軽く突き上げるような衝撃の後、まほろば は地球の海へと着水した。

 

「着水完了」

 

「艦体に異状なし!」

 

星名の報告を皮切りに、艦橋員が各々の入港準備の作業に入り、副長の新見がそれを統括する。

まほろば、ヤマトは波を掻き分けながら海面を進みやがて、防衛軍の軍港へと入港し着岸した。

雪風・改は近くの防衛軍施設の空港へと着陸した。

 

「接舷完了」

 

「艦内電源、地上出力に切換確認。機関室、メインエンジン停止作業に移れ」

 

着岸した まほろば、ヤマトは火の入り続けたエンジンを止めてようやくその身を休める事が出来た。

 

左舷搭乗口下からボーディングタラップが迫り出し、地上に達するや行き交う作業用車両に混じって、白いリムジンタイプの防衛軍公用車がタラップ下に着く。

公用車の後部席にいた人物が降りるのと、良馬がタラップから地上に降り立つのはほぼ同時だった。

良馬を出迎えた人物それは他ならぬ、地球防衛軍長官、藤堂平九郎その人であった。

 

「長官、ただいま戻りました」

 

「ご苦労だった」

 

短い会話を交わし、藤堂と共にヤマトの下へと赴く。

ヤマトからも乗降タラップが地上に伸びている。

その下では西郷以下の軍幹部が勢揃いしている。

ヤマトの上甲板や主砲塔上には、作業中以外の乗組員たちが登舷礼式のため並び、港内に停泊している他の艦艇にも登舷礼式のため「総員上甲板」がかけられていた。

やがて、

搭乗口に古代守が立ち、挙手の礼をする。

タラップを降りる守に続き、眠っているサーシアを腕に抱く雪とユリーシャを抱く古代が守の後に続いた。

守は藤堂の前に立ち、改めて敬礼する。

 

「古代守、只今帰還しました」

 

「うむ。待っていたよ、古代」

 

「はっ」

 

「長旅で流石に疲れただろう。今はゆっくり鋭気を養ってくれ」

 

「はい」

 

藤堂が自ら先導し、迎えの車両に守を案内し、その後に古代と雪が続く。

藤堂たちがリムジンに乗り込むと、車は発車した。

リムジンを見送った後、良馬は まほろば に戻った。

そして、総員下艦の前に艦長訓示を行った。

 

「今次航海は、新人諸君の練習を目的としていたが、突然の予定変更でイスカンダル救援に変わり、大マゼラン雲まで往復三十万光年に及ぶ遠征と、未知の敵・暗黒星団帝国軍との交戦やガミラス軍との共闘という、極めて異例で厳しい任務の中、イスカンダル星防衛に成功し、スターシア陛下、我らが戦友・古代守先輩、そしてサーシア、ユリーシャ両王女殿下を御救い出来、尚かつ本艦及びヤマトともに全員が生還したことは最大の成果だ。本艦はこれより修繕作業に入り、諸君はしばしの休暇となるが、新たな脅威の存在が明らかになった以上、有事となればすぐ出撃できるよう、心身を整えてもらいたい以上だ」

 

その後、乗組員は荷物を纏め順次下艦していった。

乗員が下艦していく中、ドックには多数の救護車がやって来る。

乗員の下艦が終了すると防衛軍の公用車ではない、黒塗りのリムジンがドックへやって来た。

救護車には今回の航海で負傷した戦士たちが乗り、ドックに来た黒塗りのリムジンの運転席には月村家のメイドのノエルが居り、助手席には良馬、後部座席にはフェイト、ティアナ、ギンガ、リニスが乗り込んだ。

そして車は良馬の実家である海鳴の街にある月村家へと向かった。

 

夜のとばりが落ちた海鳴の街‥‥。

フェイト自身も夜の海鳴の街をこれまで何度も見てきたが、今自分が見ている海鳴の街はかつて、自分が住み、見慣れてきた海鳴の街とは異なる。

自分が知る海鳴の街と違い、目の前に広がる海鳴の街は所々に夜の闇が覆っている。

それは全て戦災によるモノなのだと、直ぐにフェイトには分かった。

 

やがて、車は月村家の屋敷へと到着した。

フェイトの目の前には、自分が知る海鳴の親友が住んでいる屋敷と寸分たがわぬ姿の屋敷があった。

 

「おっきい‥‥」

 

ティアナは初めて見る月村の屋敷を見て圧倒されていた。

 

「どうぞ」

 

良馬が玄関のドアを開けると、

 

「ようこそ、月村家へ」

 

と、月村家当主の忍がフェイトとティアナを出迎えた。

 

「っ!?」

 

忍の姿を見て、フェイトは驚愕の表情をした。

 

(すずかのお姉さん!?でも、この世界の地球って、私たちの知る地球から確か200年後の筈なのに何でこの人は今ここに!?)

 

フェイトとしては、親友の姉が200年先の未来に存在している事に物凄く疑問を感じていたが、

 

(あっ、でも、私やフェリシアみたいに、すずかか忍さんの子孫って言う線もあるかも‥‥)

 

と、目の前に居る親友の姉そっくりの人物が親友かその姉の子孫だと思っていたのだが、

 

「初めまして。月村家、当主の月村 忍です」

 

と、自己紹介したら、フェイトは再び混乱の渦の中へと飲まれた。

 

(忍?しのぶ?シノブ?な、何で、目の前にいるこの人は名前までもがすずかのお姉さんと同じ名前なの!?何故なの!?それに車を運転して来たあのメイドさんもすずかの家で見たメイドさんとそっくりだし‥‥)

 

フェイトが混乱している中、

 

「は、初めまして。ティアナ・ランスターです。この度はお世話になります」

 

と、ティアナが忍に自己紹介をしていたため、フェイトも、

 

「初めまして。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。ランスター補佐官共々お世話になります」

 

と、慌てて忍に自己紹介をした。

 

「フェイト‥‥」

 

忍はフェイトの名前を聞き、何か思いが有るような顔でフェイトの名前を呟いた。

 

「あの‥何か?」

 

フェイトは、恐る恐る忍に訊ねる。

 

「あ、いえ、何でもないわ。それより、長旅で色々疲れたでしょう?お夕食とお部屋の準備は整っているわ。どうぞ、ゆっくりしていってね。ギンガさんも今日は家に泊まっていく?」

 

と、忍はまずフェイトとティアナに持て成す用意が整っている事を伝え、次にギンガに今日、家(月村家)に泊まっていくかを訊ねる。

 

「えっと‥‥はい‥‥お世話になります」

 

ギンガは良馬の事をチラッと見て、今日は家に帰らず、此処(月村家)に泊まっていく事を忍に伝える。

 

「それじゃあまずは、お部屋へ案内するわね。ギンガさんはいつもの部屋を使って頂戴。泊まる用意は出来ているから」

 

「はい」

 

と、忍はフェイトたちを部屋へと案内する。

良馬も自分の部屋へと戻り、着替えを行った。

そしてギンガも着替えの為、月村家で用意されている部屋へと向かった。

 

「此処が二人の為に用意したお部屋よ。好きに使って頂戴ね」

 

外見の屋敷の姿同様、用意された客室は一流ホテル並に広く豪華だった。

 

「着替えとかも一応、用意したけど、今度買に行った方が良いわね。取りあえず今日はこれで我慢してね」

 

と、用意されたのは上質な布で作られた寝間着はフリルの付いたネグリジェ、下着も同様のフリルが付いている可愛らしい下着だ。

着替えの服も寝間着同様、上質な布で作られたレディース服の数々‥‥。

 

「「‥‥」」

 

用意された服を見て、唖然とする二人。

 

(あ、あの‥フェイトさん‥‥この服、本当に着ても良いんですか?私にはちょっと‥‥)

 

(だ、ダメだよ、ティアナ。折角用意して貰ったんだから、着ないと失礼に当たるよ)

 

(で、でも‥‥)

 

と、それなりにドレスなどを着こなしたことがあるフェイトと違って、ティアナは今までの人生の中で無縁だった高級なレディース服の前にタジタジ。

 

(で、でも、やっぱり私には分不相応ですよ)

 

(そんな事ないよ。ティアナだってきっと似合うよ)

 

と、念話でそんなやり取りをしていると、

 

「決めかねている様なら、私がコーディネートしてあげよっか?」

 

忍が中々着替えないフェイトとティアナの行動を勘違いしたらしく、服を選んであげると言う。

 

「あ、いえ‥‥」

 

「決めかねていたとかじゃなくて‥‥」

 

「うふふふ、良いの良いの、お姉さんに任せなさい」

 

と、何故か手の動きが怪しい忍がフェイトとティアナに迫り来る。

 

「あ、あの‥‥」

 

「忍さん?」

 

「うふふふ‥‥」

 

「「アッ――――!!」」

 

 

「むっ?何だ?」

 

「フェイトさん‥ティアナ‥‥忍さんの餌食になったわね‥‥」

 

良馬は突如、聞こえてきた二人の女性の悲鳴に首を傾げるが、ギンガの方は思い当たる節があるのか床に視線を向けて、二人に「ご愁傷様」と小さく呟いた。

 

着替え終わり、食堂に来たフェイトとティアナは魂が抜けた様なボーっとした様子だった。

着ている服はとても良く似合うのだが、その表情はややミスマッチであった。

 

「あ、あの‥フェイトさん、ティアナ大丈夫?」

 

ギンガが声をかけると、

 

「ひゃい!!」

 

「へぁっ!?」

 

「えっと‥大丈夫?二人とも?」

 

「え、ええ‥‥」

 

「大丈夫です」

 

フェイトとティアナは何とか再起動をはたした。

 

それから夕食後、皆は思い思いの行動を取った。

フェイトとティアナはお風呂に入ろうと屋敷の廊下を歩いていた。

 

「それにしても、大きな屋敷ですね‥‥月村艦長のご実家」

 

ティアナが辺りを見回しながら言う。

 

「そ、そうだね」

 

フェイトはやはり、この世界の忍と自分の知る親友の姉と面影、名前が重なる事が気になっていた。

そんな二人が通路の一角に差し掛かった時、思わず足を止めて、スッと通路の端にその身を隠した。

二人の視線の先にはギンガと良馬の姿があった。

 

「あれはギンガと月村艦長‥‥?」

 

「何をしているんでしょうね?」

 

反射的に隠れてしまったが、何故か二人にはこの行動が正しかったのだと本能がそう告げていた。

フェイトとティアナの視線の先に居る二人は暫しの間、見つめ合っていたのだが、突如‥‥

 

「「んっ‥‥」」

 

唇を重ね合わせた。

 

「「っ!?」」

 

二人の行為にフェイトとティアナは思わず息を飲んだ。

それから二人は暫くの間、唇を重ね合わせ、舌を絡める濃厚なキスを行っていた。

やがて、互いの唇を離すと、ギンガは頬を赤く染め、とろんとした目つきで良馬を見つめる。

そして、良馬はギンガに何かを耳元で囁くと、ギンガは顔を赤く染めて、小さく頷いた。

ギンガが頷くと、二人は手を繋ぎながら通路を歩いて行った。

勿論手の繋方は互いの指と指を絡め合う俗にいう恋人繋ぎであった。

 

「あわわわわわ‥‥ま、まさか、ギンガと月村艦長が‥‥」

 

「私たち、すごいものを見てしまいましたね‥‥」

 

と、フェイトとティアナも顔を赤く染めていた。

もし、この場にこういった、ゴシップネタが大好きな嘗ての上司兼親友の豆狸こと、八神はやてとギンガの妹スバル・ナカジマが居たら、良馬とギンガの後をつけていたに違いない。

そして、フェイトもティアナもそれに流されていただろう。

しかし、この場には彼女たちは居ないため、フェイトとティアナの二人は出歯亀行為と言う野暮なマネをする事は無かった。

こうして、様々な思いが交差する夜の中、フェイトたちのもう一つの地球での生活が始まろうとしていた‥‥。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。