星の海へ   作:ステルス兄貴

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六十六話 BRAVE DUEL

 

偶然、海鳴の街にあった昔の自分と同じ名前のホビーショップに入ったフェイトたち。

 

其処で待っていたのは、フェイトのかつての母、プレシア・テスタロッサと瓜二つの容姿を持つ店長と新型の体感シミュレーションゲーム、BRAVE DUEL。

 

店長の勧めでこの新型ゲームを体験する事になったフェイトたち。

 

その先に彼女たちを待ち受ける展開とは‥‥。

 

「それじゃあみんな、位置に着いたかしら?」

 

「はい、大丈夫です」

 

フェイトたちはBRAVE DUELを体験するため、今、人一人が入れる大きさの大型シミュレーターの中に居る。

 

「それじゃあ‥‥ブレイブシュミレーター‥‥作動」

 

セフィリアが装置を作動させると、フェイトたちはフワッとした無重力に似た感覚となる。

 

「なんか‥不思議な感覚ね‥‥」

 

まほろば、ヤマトで体験したワープとはまた違う感覚だ。

 

「それじゃあ、ステージ設定の操作はハラオウンさん。貴女にやってもらおうかしら」

 

「わ、私ですか!?」

 

「ええ、ちょうどチームデュエルのときのリーダーが入る機体に入っているし」

 

「このシミュレーターってそういう位置づけなんですか!?」

 

わたわたと慌てだすフェイトを見て苦笑するセフィリア。

 

「大丈夫、ちゃんと操作のレクチャーはするから」

 

「は、はい」

 

「それじゃあ、ディスプレイにプレイヤー人数を『3』と入力して、モードはフリートレーニング、ステージはそうね‥‥最初だし、雲海上空って入力してみて」

 

「は、はい‥‥えっと‥‥プレイヤー人数、『3』‥‥モードはフリートレーニング‥‥ステージは‥雲海上空‥‥これでいいのかな?‥‥ん?これはなんだろう?」

 

ディスプレイの下にもう一つ項目があり、選択肢に『Yes』 『No』と書かれていた。

 

「えっと‥‥とりあえず‥『Yes』で‥‥」

 

フェイトは最後の項目についてセフィリアに訊ねることなく『Yes』を選択した。

 

「設定できました」

 

「それじゃあブレイブホルダーを胸の前にかざして‥‥それじゃあ行くわよ」

 

「ブレイブデュエル、スタンバイ‥‥プレイヤースキャン開始‥‥アリーナ上にアバター生成‥‥ダイブ‥‥コンプリート」

 

機械の喋る声を聞きながら、意識が何処かに吸い込まれるような感覚の後、

 

「ダイブ完了‥目を開けてもいいわよ」

 

セフィリアの声がして、三人が目を開けると、其処は‥‥

 

「な、なにこれー!?」

 

「雲の上の様ですね」

 

「‥‥」

 

三人は雲海の上に居た。

 

飛行属性のあるフェイトに関しては、特に不思議ではないが、飛行属性の無いティアナに関しては、誰かの助力を借りずに飛んでいる状態なので、驚愕の余り、唖然としている。

 

「今、ハラオウンさんたちの視点と痛感を除く感覚は、シミュレーションの中のアバターとリンクしている状態よ。だから、風を肌で感じたり、物を握った時の感触も感じる筈よ。後は、時間が来るまで遊んで構わないから」

 

その後、三人は自分たちが持っているデバイス?から、自分たちの属性や操作方法を聞き、シミュレーション空間を満喫していた。

 

そして、一通り、楽しんだ頃‥‥

 

突然現れた空中ディスプレイに何かのメッセージが表示され、警告音のような音が鳴り響いた。

 

「な、なに?」

 

「何が有ったの?」

 

突然の事態にフェイトとティアナは少し慌てている様子。

 

メッセージの内容には『HERE COME NEW DUELIST 』と書かれていた。

 

「どうやら、乱入者のようね」

 

「「乱入者!?」」

 

警報音の正体に思わず声を揃えて驚くフェイトとティアナ。

 

本来ならばトレーニングモードではプレイ中に他のプレイヤーが乱入することはできない。

 

実は、先程フェイトが最後に押した選択肢‥‥あれは、『乱入可能。挑戦者求む』の項目だった。

 

あの項目で『Yes』を選択すると、フリートレーニングモードだろうが誰かが乱入すると同時に対戦モードに切り替わってしまうのだ。

 

そうこうしているうちにディスプレイから落雷のような光空間内に降り注いだ。

 

轟音と共に煙が広がり、その中に人影がうっすらと見える。

 

辺りを覆っていた煙が晴れていくにつれ、乱入者の姿がはっきりと見えるようになってきた。

 

乱入者の人数は三人‥‥

 

三人の内、一人はフェイトたちと同じくらいの年齢の女性であるが、後の二人はスバルよりも少し年下ぐらいの年齢の少女たちで、三人とも目元を隠すかのようにバイザーを着けている。

 

しかし、それ以前に目を引くのが三人の衣装だった。

 

同い年くらいの女性は髪に藍色のリボンを着け、紫の半袖のジャケット、白いズボンに銀色の装甲を腹部、腰部、脚部などに身に着けて、両腕には頑丈そうな装甲ナックルを着け、両足には、ローラーブーツを履いていた。

 

中学生くらいの少女の内、黒髪のツインテールの少女は、前ボタンを全開にしている白いフロックコート状の上着を着て、その下に黒いアンダーシャツ、下は水色のハーフパンツを履き、装備は先ほどの女性と同じく、両腕には頑丈そうな装甲ナックルを着け、両足にはローラーブーツを履いている。

 

そして、最後の一人は、自分の親友でもある高町なのはのバリアジャケットの色違い。

 

手に持っているデバイス?らしき物も、なのはの愛機、レイジング・ハートの色違いの杖を持っている。

 

仮想空間とは言え、まさかこの世界でなのはそっくりの少女と対峙するとは思ってもみなかった。

 

(まさか、この乱入者って‥‥)

 

リニスにはこの三人の正体に察しがついた。

 

一方、相手側も‥‥

 

(フェイトさんにティアナ!?それにリニスさんも!?どうしてここに!?)

 

(あれはっ!?ハラオウン執務官にランスター補佐官!?なんであの二人がこの世界に居るのよ!?)

 

三人の内、二人はフェイトたちの姿を見て表情には出さないが内心驚いていた。

 

「フェイトさん、リニスさん。相手のステータスは、私たちよりも上ですよ」

 

ティアナは目の前に表示された乱入者の情報を見て驚いた。

 

対戦相手のランクは全員が自分たちよりも二つランクが上のR+。

 

既に二つ名も設定されていた。

 

なのは似のバリアジャケットを纏った少女は カードランク R+ 通り名 星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)

 

ギンガ似のバリアジャケットを纏った女性は カードランク R+ 通り名 鋼の戦乙女(シュタール・オブ・ワルキューレ)

 

スバル似のバリアジャケットを纏った少女は カードランク R+ 通り名 疾風の不死鳥(シュトゥアム・フェニックス)

 

高レベルプレイヤーの乱入に困惑するフェイトたちに乱入者の三人は、一斉にフェイトたちに襲い掛かった。

 

フェイトにはあのなのはのバリアジャケットに似た服の少女、シュテル・ザ・デストラクターが、

 

ティアナにはかつての相棒、スバル・ナカジマに似た服の少女シュトゥアム・、フェニックス。

 

そして、リニスには管理局員時代のギンガのバリアジャケットを着た女性、シュタール・オブ・ワルキューレがそれぞれ相対した。

 

「パイロシューターッ!」

 

少女がそう高らかに宣言すると先ほどと同じ真紅の光弾が少女の周りに付き添うように出現する。

 

「シュートッ!」

 

少女の合図とともに計五発の光弾がフェイトに向かって飛翔する。

 

(なのはのアクセルシュートとそっくり!?)

 

フェイトは少女が放ってきたシューターを避け、自身もシューターを放ち、之を迎撃する。

 

だが、これだけでは終わらない。

 

「シューターだけに気をとられては困りますよ」

 

「っ!?」

 

フェイトは上空を見上げる。

 

その目線の先には、先ほどから相対していた少女が浮かんでいる。

 

しかし、少女が両手で持つ杖は先端部分の形状が先ほどまでとは変化していた。

 

今までは丸みを帯びた、まるで魔法少女が持っている杖のようだったのに対し、現在は先端が二股に分かれた、槍のような形状へと変化している。

 

(ますますなのはのレイジング・ハートにそっくり!?)

 

と、相対している少女の戦闘スタイルがミッドに居る親友と被る。

 

「屠れ灼熱の尖角‥‥」

 

二股の穂先へ、赤い光が収束し始める。

 

「ブラスト‥‥」

 

「っ!?まずい!!」

 

それを見たフェイトもすかさず、自分が持つ武器を少女へと向けた。

 

「プラズマ‥‥」

 

フェイトの掛け声と共に手に持っている武器に放電現象と共に金色の光球が先端へと収束し始める。

 

そして、二人の収束していた光が一定の大きさ以上になったその時‥‥。

 

「ファイアーッ!!」

 

「スマッシャー!!」

 

二人のほぼ同時の掛け声により光線‥‥もとい砲撃が放たれた。

 

二人の杖から放たれた砲撃は真正面からぶつかり合い、先ほどの光弾同士の衝突とは比べ物にならないほどの爆風と煙が辺りに撒き散らされる。

 

そして、煙が晴れるのを待つ前に、紅蓮の砲撃が煙を突き破るようにフェイトへと向かって放たれた。

 

「複数連続で!!」

 

フェイトは驚きの声を上げて、高速瞬間移動にてその光球を交わした。

 

一方、ティアナの方も苦戦をしていた。

 

初プレイと慣れない‥‥と言うか、初めての空中戦と言う事もあり、上手く対処が出来ないのだ。

 

(くっ、この子。スバルと同じタイプの戦闘スタイル‥‥それなのに何で‥‥どうして‥‥)

 

スバルとは管理局の訓練学校時代から何度も模擬戦をして来た。

 

それ故、対処法は知っている筈なのに何故自分はこうも苦戦をしているのか?

 

ティアナにはそれが理解できない。

 

「クロスファイヤー・シュート」

 

ティアナが銃を撃つとオレンジ色の光弾が対戦相手の少女‥フェニックス目掛けて飛翔する。

 

フェニックスは空中に出来た道、ウィングロードの上を疾走。

 

縦横無尽に空色の帯状魔法陣が張り巡らされていく。

 

そしてそれはティアナの放った光弾を防ぐ楯にもなった。

 

子供相手に大人気ないかもしれないが、ティアナはこれがバーチャルゲームだと言う事を忘れて、マジで相手を潰しにかかった。

 

「このっ!!」

 

ティアナはバインドで対戦相手四肢を拘束し、近接砲の構えをとる。

 

見る見るうちにフェニックスの目の前がオレンジ色の輝きで染められていくが、フェニックスは焦ってはいる様子はない。

 

「はぁっ!!」

 

その場で重心を落とし、右足でウィングロードを踏み込むと一息に左足を振り抜く。

 

すると、左足を拘束していたバインドは引きちぎられ、ティアナの鼻先を鋭い前蹴りが通り過ぎる。

 

蹴りの軌道上にあった発射直前の魔力は蹴りあげられ、二人の頭上で爆散した。

 

その間にフェニックスは残るバインドを破り、ティアナへと接近する。

 

だが、今度はティアナの方から間合いを取り、追撃を掛けようとするフェニックスを牽制すべく魔力弾が両者の間を飛び交う。

 

機先を制されたフェニックスは追うに追えず、自身もまた距離を取り、仕切り直しを図る。

 

(び、びっくりした‥‥いくらゲームとは言え、何?あの化け物じみた動きは?)

 

バインドで拘束した時点で詰み‥とまではいかないにしても、一発大きいのを入れられると踏んでいただけに驚きもひとしおだ。

 

フェイトとティアナの二人がシュテルとフェニックスとの間で壮絶な戦闘を行っている中、

 

リニスとワルキューレは戦闘を行うことなく、対峙していた。

 

「はぁ~‥‥何やっているんですか?ギンガさん」

 

と、リニスがやや呆れた様子でワルキューレに話しかける。

 

すると、

 

「あっ、やっぱりバレていましたか‥‥」

 

と、ワルキューレ‥もとい、ギンガはバイザーを取り払い、素顔を晒した。

 

「それで、何故、紅葉さんや桜花さんとゲームを?」

 

リニスはワルキューレ(ギンガ)の正体以外にも他にもメンバーであるシュテルとフェニックスの正体までも見破り、理由を訊ねてきた。

 

「実は、昨日地球に帰って来たのに、実家に帰らなかった事で桜花がへそを曲げてしまって‥‥」

 

「それで、今日は彼女たちに付き合っていると言う訳ですか?」

 

「はい。開店と同時に来て、もうずっとプレイし続けて‥‥」

 

「今では、R+まで一気にレベル上げをしたと‥‥」

 

「ええ。でも、前日は少し寝不足なのでそろそろきつくなってきました」

 

「成程、昨夜は、マスターとお楽しみだった訳ですね」

 

「あぅ‥‥」

 

リニスが茶化す様に言うと、ギンガはたちまち顔を赤く染める。

 

「BRAVE DUELをやっていると言う事は、ギンガさんたちもここに来ているのですか?」

 

「はい。フェイトさんたちもここに?」

 

「ええ‥‥」

 

「あの、紅葉や桜花の事はフェイトさんたちには‥‥」

 

「恐らくバレて居るでしょうね。特に紅葉さんはこのAMFの中でもかなりの高ランク魔力を保持していますから‥‥今日、貴女を迎えに屋敷に来ていたでしょう?」

 

「はい」

 

「恐らくその時に紅葉さんの存在には気づいている筈です」

 

フェイトたちも同じ店に居ると言う事実にギンガは少し表情を曇らせる。

 

「フェイトさんたちは紅葉や桜花を管理局に勧誘するでしょうか?」

 

「‥‥」

 

ギンガの質問に対し、リニスは黙り込む。

 

昔のフェイトならば、その様な事はしないだろうが、自分がフェイトの下を離れて約十年‥‥それだけの年月があれば、人を変えるには十分の年月だ。

 

まして、今のフェイトは管理局の執務官と言う立場にある。

 

目の前に高ランクの魔導師が居れば、是が非でも管理局に入れたい筈だ。

 

ジュラやサーシア、ユリーシャの場合は、王族や国家元首の娘と言う事でフェイトたちも勧誘を断念せざるを得なかったかもしれないが、紅葉は一般人で、しかも後見人が居るとは言え、天涯孤独の身‥‥。

 

管理局の法律を盾にフェイトたちが無理矢理ミッドに連れて行く可能性が全くない訳では無い。

 

「リニスさん」

 

「はい」

 

リニスが考え込んでいると、ギンガはリニスに話しかける。

 

「リニスさんはフェイトさんの知り合いの様ですけど?」

 

「ええ、フェイトの愛機であるバルディッシュは私がフェイトに造り与えたデバイスです‥‥それに、魔法の知識も私がフェイトに教えました」

 

「実は私も、十三歳の頃に、空港で起きた火災事故に巻き込まれた時、フェイトさんに助けられました。でも‥‥」

 

「でも?」

 

「でも、いくらフェイトさんでも、紅葉や桜花を無理矢理ミッドに連れて行こうとするのであれば。たとえフェイトさんやティアナであっても私は全力で紅葉と桜花を守るつもりです」

 

ギンガは昔の命の恩人であろうとも、ミッドに残してきた妹の親友であろうとも、今の大事な妹と妹分を管理局の法律を盾にして無理矢理ミッドに連れて行こうとするのであれば、完全に敵と見なし、排除すると言い放った。

 

「‥‥その時は‥‥私がフェイトに引導を渡します」

 

リニスも、もしフェイトがそんな人攫いの様な真似をするのであれば、自分がフェイトを排除すると言った。

 

リニスとギンガは話し込んでいる中、フェイトと紅葉、ティアナと桜花の勝負もいよいよ大詰めを迎えようとしていた。

 

フェイトはバインドで四肢を拘束され、紅葉は詠唱始める。

 

「集え、明星(あかぼし)。全てを焼き消す焔となれ!ルシフェリオン・ブレイカー!」

 

「ひっ!?」

 

フェイトの眼前に太陽の様な灼熱色のブレイカーが迫り、

 

ドカーン!!

 

フェイトはバインドをブレイクする暇もなく、灼熱色のブレイカーが命中した。

 

一方、ティアナの方も、迫りくるフェニックスに向け、大量の誘導弾を放つが、相手は誘導弾の流れを読み、間合いに入ったものだけを打ち落としながら高速で接近し、誘導弾への対処を終えたフェニックスは、残りが接近する前にティアナ目掛けて拳を突き出していた。

 

「ディバイン‥バスター!!」

 

「うわぁぁぁぁー!!」

 

ティアナもフェニックスの空色のバスターにより、吹き飛んだ。

 

フェイト、ティアナが負け、丁度プレイ時間も終了となり、フェイトたちの初BRAVE DUELは残念ながら、黒星で終わった。

 

「「‥‥」」

 

バーチャルなのでアバターには痛感は感じないので、痛くも痒くも無かったし、そもそも攻撃を受けたのは、自分たちの身体ではなく、仮想の存在であるアバターであり、本体であるフェイトたちの肉体には何の外傷も無かったし、身体に痛みを感じることもなかった。

 

しかし、体験した事は今でも脳裏に焼き付いており、フェイトはなのはと海鳴で決戦を行った時の事を思い出し、昔のトラウマを思い出したのか、顔色が悪く、少し震えている。

 

ティアナは自分よりも年下相手に負けた‥‥しかも、かつての相棒と同じ戦闘スタイルの相手に負けた事が悔しいようだ。

 

二人の周りの空気はドヨーンと重く暗い。

 

「ふ、二人とも元気を出して。たかがゲームで負けただけじゃない。ねっ?」

 

リニスが二人を励ますが、相変わらず二人の纏う空気は重い。

 

どうしたものかと、リニスが考え込むが、その時、彼女の視界に時計が映った。

時刻は既に昼時を越えている。

 

「と、とりあえず、お昼にしましょう?ねっ?此処のフードコートのご飯、結構美味しいのよ」

 

リニスの提案に、二人は頷いた。

 

ゲームに負けてもお腹はすいた様だ。

 

三人はビルの中にあるフードコートへと向かい、そこで昼食を摂る事にした。

 

フードコートは既に昼時を過ぎていると言うのに中々の混雑で、人数分の空席を探すのも一苦労だった。

 

フェイトたちが空いている席を探していると、その視線の先に顔見知りの顔を見つけた。

 

と言うか、テーブルの上に乗った大量の料理を‥‥

 

それは、成人男性でも食べきれるか分からないくらいの量なのだが、テーブルの前の椅子に着いているその人物は平然とその大量の料理を食べている。

 

リニスは此処に来て自分の愚かさを呪った。

 

(し、しまった!?ギンガさんたちがここに居る事は分かっていたのに、来てしまった‥‥)

 

ギンガたちが開店と同時にずっとこの店でBRAVE DUELをやっていると言う事は、先程ゲーム最中に聞いたばかりではないか。

 

朝からずっとBRAVE DUELをやっていたならば、今の自分たち同様、このビルのフードコートで食事を摂る事も簡単に予測できた事ではないか。

 

案の定、フェイトは既にターゲットをロックオンしている。

 

そこで、リニスはギンガに念話で語り掛ける。

 

(ギンガさん、ギンガさん!!)

 

(リニスさん!?)

 

(すみません、フェイトたちが今、貴女の後ろに居ます)

 

(えっ!?何やっているんですか!?このままじゃ、紅葉と桜花の二人と鉢合わせしてしまいますよ!!)

 

(それについても申し訳ありません。既にフェイトは貴女たちに狙いを定めています)

 

(っ!?)

 

こうなれば、偶然を装ってこの場をやり過ごすしかない。

 

食事最中に席を立てば不自然であるし、なによりこの場で堂々と魔法を発動させることも、魔法について訊ねてくることは無いだろうと踏んだギンガであったが、念の為、紅葉に念話で、もし、魔法について訊ねられても、知らん顔していて欲しいと頼んだ。

 

「あれ?もしかしてギンガ?」

 

そこに、フェイトも偶然を装ってギンガに話しかけてきた。

 

「ふぇ、フェイトさん?どうして此処に?」

 

「BRAVE DUELって言う体験ゲームをしにきたの」

 

「ギンガたちは?」

 

「わ、私たちもです」

 

フェイトとギンガのやり取りの中、この世界におけるギンガの新たな妹、桜花がフェイトに聞き返す。

 

「義姉さん、お知合いですか?」

 

「えっ?ええ‥友人のフェイトさんとティアナさんよ」

 

「初めまして、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 

「ティアナ・ランスターです」

 

(やっぱり、ハラオウン執務官にランスター補佐官本人!?)

 

紅葉は顔には出さず、前世での有名人がどうしてこの世界に居るのか驚いていた。

 

(ゲームとは言え、ハラオウン執務官に収束砲を撃ち込んじゃったからな‥‥やっぱり怒っているのかな?)

 

そんな紅葉とは裏腹に事情を知らない桜花はフェイトに声をかける。

 

「お姉さんたちもBRAVE DUELやっていたんですね。私たちも朝からずっとプレイし続けてR+クラスまでいきました」

 

と、胸を張って言う。

 

「えっと‥‥貴女は?」

 

桜花に名前を訊ねるフェイト。

 

「これは失礼。私は中嶋桜花と言います」

 

「よろしくね、桜花」

 

(この子からも魔力を感じる‥‥)

 

桜花に挨拶をしつつもフェイトは桜花からも魔力がある事を感じ取った。

 

「それにしてもフェイトさんはここの店長さんの娘さんとそっくりですね」

 

「そ、そうかな?」

 

「ええ、髪の毛の色以外はホント、そっくりです」

 

桜花とフェイトが話していると、

 

「貴女の名前は何ていうの?」

 

ティアナが紅葉の名前を訊ねる。

 

「た、高町紅葉です‥‥」

 

紅葉もフェイトたちに自己紹介をして頭を下げる。

 

(た、高町!? この子の苗字(ファミリーネーム)が?)

 

フェイトとティアナは気が遠くなりそうになりながらも、内心の動揺を辛うじて抑え込んだ。

 

「私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンよ。こちらこそよろしくね」

 

「私はティアナ・ランスターです。よろしくね」

 

「はい。ハラオウンさん、ランスターさん」

 

「フェイトでいいよ、紅葉」

 

「私もティアナでいいわよ、紅葉」

 

「わかりました。フェイトさん、ティアナさん‥‥」

 

「よろしく」

 

皆が自己紹介をしている中、

 

 

ルシフェリオン視点

 

ふむ、魔導師の一人は今朝レディーを追いかけていた者、もう一人はその先輩か上官といったところか‥‥

レディーを見て、随分驚いているようだが、誰かと似ているのだろうか?

 

見たところ、魔導師としてのスキルもかなり高いな。

 

特に年長の金髪の方は、レディーと同等の魔力量だ。

 

それに、二人とも自律型魔力運用媒体(デバイス)を持っているな。

 

悪意は感じないが、取り敢えず留意しておこう。

 

ルシフェリオンは、紅葉の服の下からフェイトとティアナを注視していた。

 

 

「紅葉もBRAVE DUELをやっていたの?」

 

「はい。桜花とギンガさんの二人と一緒に‥‥」

 

ティアナが紅葉にBRAVE DUELをプレイしていたのかを訊ねた。

 

「それじゃあやっぱり、星光の殲滅者って‥もしかして‥‥」

 

「私の二つ名です。R+ランクになった時の特典で、二つ名の名乗れるようになったので、皆で考えて設定しました」

 

(容姿と言い、魔力と言い、なのはさんそっくりなんだけど、何で殲滅者なんて物騒な二つ名の付けたのかしら?)

 

と、ティアナは紅葉のセンスを疑った。

そこへ、

 

「どうだったかしら?BRAVE DUELは?」

 

セフィリアが皆に感想を聞きに来た。

 

「楽しかったです!!」

 

「はい、今までにない経験が出来ました」

 

桜花と紅葉は今まで体験した事の無い体感シミュレーションゲーム満足した様子。

 

一方、フェイト、ティアナもあの体感シミュレーションゲームに関しては、別の意味で驚かされ満足している。

 

痛感を感じること以外には、殆ど現実と変わらない架空の世界‥‥。

 

六課時代に隊舎内の敷地にあった最新のシミュレーションシステムも凄かったが、アレは実際の自分たちで行うため、事故やケガを負う可能性もあった。

 

しかし、このBRAVE DUELは、アバターを使用しての体感シミュレーション故、ケガの心配はない。

 

ミッドで‥特に訓練校にはこのシステムを是非導入したいと思った二人だった。

 

BRAVE DUELの感想を言いながら、食事をしていた皆であったが、先に食事を摂っていたギンガたちの方が早く食べ終わり、

 

「それじゃあ、フェイトさん、ティアナ、リニスさん。私たちはこれで‥‥」

 

と、席を立った。

 

「あっ‥‥」

 

フェイトにしてみれば、もう少し、紅葉と話をしたかった様だが、ボロを出す前に、退散する事にしたギンガたちであった。

 

ギンガたちが店を出て、それを急いで追うのも不自然な為、フェイトは次にリニスに紅葉の事を訊ねた。

 

「リニスはあの紅葉って子と親しいの?」

 

「えっ?あっ、はい。紅葉さんはマスターが後見人を務めている戦災孤児です」

 

「戦災‥‥」

 

「孤児‥‥」

 

「紅葉さんはガミラスとの戦争で家族を亡くしました。身内の方は一人も居ません」

 

「そうなんだ‥‥」

 

あの年で天涯孤独‥‥。

 

小さい頃に両親を亡くし、そして自分を育てて来てくれた兄も亡くし、天涯孤独となったティアナも紅葉の心境に親近感を抱いた。

 

またフェイトもPT事件で生みの親であるプレシアを失い彼女も天涯孤独の身となった。

 

その後、すぐにハラオウン家から養子縁組の話が来たが、やはりただ一人の身内を失った寂しさがあり、ティアナ同様、紅葉の置かれた状況に親近感を抱いた。

 

もし、此処が管理世界であれば、自分はキャロやエリオの様に紅葉に対し後見人または養子縁組をかっていただろう。

 

「でも、今は先程の桜花さんやギンガさんたち、中嶋家の下で楽しく生活されています」

 

リニスは此処で紅葉の身の上を話、フェイトがどう出るのかを試した。

 

高ランクの魔力を持つ紅葉を天涯孤独だと言う理由で管理局にスカウトするのか、それともしないのか?

 

もし、するとしたら、当然彼女の意思を尊重するのか?

 

それとも、治外法権である筈のこの地球で、管理局の法律や執務官と言う立場を盾に強引にスカウトするのか?

 

無意識にリニスの警戒感が高まる。

 

「ねぇ、リニスも気づいているよね?紅葉の魔力素質に‥‥?」

 

「ええ」

 

フェイトもリニスも真剣な表情でティアナも緊張した面持ちである。

 

「フェイトは紅葉の事をどう思っているのですか?」

 

「‥‥」

 

「管理局へスカウトをするのですか?」

 

「‥‥」

 

リニスの問いにフェイトは沈黙を保っている。

 

やがて、

 

「本来なら、高魔力保持者は管理局の目の届くところが管理局の決りなんだけど‥‥」

 

「‥‥」

 

「私はそれ以前に、彼女の事をもっと知りたいだけ‥‥それを踏まえて、彼女に知ってもらいたい‥‥管理局と言う組織がある事を‥‥それでもし、管理局の仕事に興味があるなら、スカウトをしたいと思っている」

 

「そうですか」

 

フェイトの言葉を聞いて、やはりスカウトはしたいが、そこは本人の意思を尊重すると言う。

 

だが、現状を見る限り、紅葉が管理局のスカウトに応じるとは思えない。

 

これでもし、フェイトが強引にスカウトしてくると言うのであれば、やはりフェイトたちがミッドに帰るまで、紅葉に会わせない事、必要とあれば、記憶操作でも施して、紅葉の事を忘れさせようと思ったリニスであった。

 

店では若干気まずい雰囲気があったが、フェイトたちは無事に必要なものを買い揃え、月村家へと戻った。

 

その道中にて、

 

「あら?」

 

リニスが何かに気付いた様子で声をあげる。

 

「どうしたの?リニス」

 

「あれは‥‥」

 

リニスは向かいの歩道を指さす。

 

其処には、私服姿の永倉と原田の姿があった。

 

「あれって確か‥‥」

 

「医務室に居た原田さん」

 

フェイトとティアナは まほろば に乗艦していた頃の記憶からリニスが指さした女性が誰なのかを思い出した。

 

「それじゃあ、あの男の人は‥‥?」

 

「あの人は、まほろば で航海長を務めている永倉さんです」

 

リニスが男性の事をフェイトとティアナに教えると、

 

「あの二人、お付き合いしていたんですか?」

 

と、ティアナがリニスに質問する。

 

ティアナがそう思うのも無理も無く、二人の姿は恋人繋ぎをしており、口で言わなくてもその様子から自分たちはカップルですと物語っていた。

 

「原田さんはこの前のイスカンダルの航海から、まほろば に乗艦されてきたんですけど、永倉さんがお付き合いしていたなんて知りませんでした」

 

リニスもまさか、原田と永倉が男女の仲とは知らなかった。

 

原田と永倉はそのまま人ごみの中へと姿を消した。

 

三人は此処で声をかけるのも野暮と言うモノであった為、二人をそのまま見送った。

 

(でも、管理局の局員と防衛軍の人を比べると、凛々しさや精悍さは防衛軍の男性の方が上よね)

 

永倉と原田を見送った後、ティアナは心の中でそう思った。

 

それは、やはり古代兄弟を始めとする前線勤務の軍人と触れ合ったためである。

 

管理局の男性局員が全員ブ男と言う訳ではないが、自分たちの大切なモノを守るためには自らの命を省みない勇敢さでは、圧倒的に防衛軍の軍人が上であり、そう言った勇ましい面が管理局員よりも防衛軍の方が男性さをより引きたてているのかもしれない。

 

永倉と原田の二人と出会った後、引き続き海鳴の繁華街を歩いていると、今度は、

 

「あれ?」

 

ティアナが向かいの側にある公園にいる人物を見て、声をあげる。

 

「どうしたの?ティアナ」

 

「あそこに居るのって‥‥」

 

ティアナが指をさした方向をフェイトとリニスが示された方に視線を送ると、そこには‥‥。

 

「あら?アレは‥‥」

 

「確か星名さん‥‥」

 

そこに居たのは、フェイトとティアナが最初に出会った防衛軍軍人、星名透だった。

 

彼は誰かと待ち合わせをしているのか、腕時計を気にしつつ、辺りも気にしている。

 

そこへ、

 

「星名!!」

 

小柄でツインテールの女の人が星名に声をかけた。

 

「ゴメン、待った?」

 

「いや、今来たとこだよ」

 

星名はそう言うが、彼がかなり前から公園で待っていたのは明白だった。

 

しかし、彼女の体面を思ってなのかデートでの待ち合わせの決まり文句を言う。

 

「それじゃあ、行こうか、百合亜ちゃん」

 

星名と百合亜と呼ばれた女の人は手を繋ぎ、そのまま人混みの中へと消えていった。

 

「「‥‥」」

 

二人の様子を見ていたフェイトとティアナは、無言のまま‥‥

 

(やっぱり、管理局員よりも防衛軍軍人の方がモテるのかしら?)

 

ティアナはそんな事を思っていた。

 

 

月村家へ戻り、入浴と夕食を済ませた後、フェイトとティアナは応接室へと向かった。

 

その応接室では、忍とノエルが既に待っており、テーブルには、沢山のアルバム。

そして、映写機とスクリーンが設置されていた。

 

「わざわざ用意してもらってすみません」

 

フェイトが忍とノエルにコレらのアルバムや映像記録を用意してもらった事に対し、礼を言う。

 

「そんなに苦労もなかったから気にしないで‥‥それよりも、本当にいいのね?」

 

「はい」

 

忍とノエルが用意したアルバムと映像記録。

 

それは、過去にこの世界の地球の海鳴での記録だった。

 

自分の知る過去とは違った歴史かもしれない記録が今、目の前にある。

 

管理局に報告するつもりは勿論無い。

 

これはあくまで、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの個人的な事なのだから‥‥。

 

そしてティアナもこの世界の過去に興味があるのか、こうして同席しているのだ。

 

何故、フェイトが忍に過去のアルバムや映像記録を用意してもらったのかと言うと、依然フェリシアが言った「自分の子孫の事なら、母か忍がよく知っている」と言う言葉を思い出し、出かける前に忍に用意してもらったのだ。

 

もっとも、昔の記録映像やアルバムと言っても皆、月村家の主体で記録された映像や写真の為、海鳴市の全てが記録された訳では無いが、この世界における高町家、八神家、そしてテスタロッサ家の事がより正確に分かるのは、この家に保管されている記録しかないと思い、フェイトは忍に頼んだのだ。

 

「それじゃあ、何処からの記録がいい?」

 

膨大な記録の中から、忍はフェイトにどこの年代からの記録を見るのかを訊ねた。

 

「西暦200X年○月からの記録からお願いします」

 

フェイトはまず最初に、母(プレシア)の頼みで海鳴市にばら撒かれたジュエルシードを探した時の年と月を選んだ。

 

「200X年の○月‥‥ちょうど、あの人が海鳴に来た頃の記録ね」

 

「あの人?」

 

忍の言う『あの人』と言う言葉に首を傾げるティアナ。

 

「それじゃあ、ノエル。お願い」

 

「はい、スタートします」

 

ノエルが映写機を操作して、スクリーンに映像が流れた。

 

やはり、月村家主体の記録映像とあって、最初の映像には今でも自分の知る海鳴で暮らして居る親友の一人、月村すずかと何故か今、自分の傍に居るこの家の主、月村忍とそのメイドのノエルの姿が多く記録されている。

 

ティアナも記録映像を見ている中、忍とノエルの事が気になった様子で先程からチラチラと忍とノエルを見ている。

 

二人はこの記録映像を見た後、その件について訊ねようと心に決め、再びスクリーンを見た。

 

やがて、月村家の日常には一人の男性が登場した。

 

彼は身寄りもなく、剣の修業の為、全国を放浪し、たまたまこの海鳴へとやって来た。

 

当初、ティアナは木の枝を剣に見立て、いきなり道場破りを行った彼の所業に呆れていた。

 

フェイトもティアナも「これは無いわ~」と呟いていた。

 

映像が進んでいき、ある場面にて、フェイトとティアナは息を飲んだ。

 

それは、海鳴市の何処かの道端なのだろう。

 

其処には地に伏せている一人の男性の姿があった。

 

その男性は頭から血を出して倒れている。

 

闇夜の雲の陰より差し込む月光は青年と倒れている人間を明確に映し出し、場を演出していた。

 

一瞬幻かと思ったが、目の前の光景はあまりにリアルだった。

 

彼の足もとに居る狐もその場の空気に恐怖しているのか怯える様に鳴いている。

 

その場に居合わせた青年も混乱していたが、元々一般人の彼がこのような現場に出くわして混乱するなという方が正しい。

 

再び男性の方をみれば明らかに誰かが背後から何か鈍器のような物で一撃して倒したのだろう。

 

後頭部から夥しい血が流れており、横顔を血で染めている。

 

被害者は男性で着ている服装はジャージであり、荷物の方は竹刀袋である。

 

これほどまでに状況証拠が揃っていればおのずと答えが出てくる。

 

この男性は剣道家であるということだ。

 

その事から、恐らく倒れている男性が先程、映像に出ていた道場の関係者である事は容易に察しがついた。

 

しかし、何故、彼は此処で倒れているのか?

 

幕末の京都ならば、辻斬りなどが横行していたが、今の安寧の世でその様な事がそう簡単に起きるのだろうかと、疑問に思うフェイトとティアナ。

 

そして、青年はその場に落ちていた凶器らしき木刀を手に取った時、運悪く通行人にその姿を見られてしまい、犯人と勘違いされた。

 

逃げる青年を匿ったのが他ならぬ月村忍だった。

 

その後、彼は自らの汚名を雪ぐ為、忍の協力の下、真犯人を探し求めた。

 

そして、

 

「やっと見つけだぜ、辻斬りヤロウ!!」

 

「はぁはぁはぁ‥‥侍君、足、速いよぉ~」

 

白装飾で白い布で顔を隠した真犯人に青年と忍が犯人に向かって叫ぶ。

 

まさにサスペンスドラマでは、いよいよ物語の終盤、一大クライマックスを迎えているような場面で場違いな声がした。

 

「お、おにいちゃんたちは‥だ、誰ですか?」

 

血まみれの男性の近くに幼い少女が居た。

 

少女は怯える様子で訊ねる。

 

確かにいきなり白い布を顔に被り、木刀を持った男性らしき人物に襲われかけていたのを助けてくれた事は事実であっても、それが必ずといって、自分の味方だとは限らない。

 

その為に彼女は、自分を助けてくれた男性とその友達であろう女性に震える感情の中で声を出して聞いたのだ。

 

「名乗ってなかったな。俺は‥‥だ‥‥テメェのせいで、散々な目にあったからな、テメェをボコボコにしてから警察に送り届けてやる」

 

肝心な青年の名前の部分だけは何故か映像がぶれて彼の名前は聞けなかった。

 

彼は、対峙する相手に木刀を向けて名乗り出した。

 

青年が堂々と名乗ると、対峙する男は何故か面白そうに笑って言った。

 

「ふっ、まさかこのような場で出会えるとはな‥‥」

 

「うん?‥‥って、その声!?」

 

青年が目を見開く中、その男はゆっくりと顔を覆っていた布を取り外していく‥‥。

 

映像を見ているフェイトとティアナは驚いた、その通り魔の正体と青年の名前を聞いた少女の姿に‥‥。

 

そして、犯人の正体は青年が道場破りをした道場の師範で自らの教え子たちや罪も無い人々を傷つけていた事にも‥‥。

 

やがて、ティアナが震える声でフェイトに訊ねた。

 

「フェイトさん‥あの子って‥‥どう見ても‥‥」

 

「え、ええ‥幼い頃のなのはよ‥‥」

 

かつて海鳴で対立し、次に再会した時には味方として出会った少女‥高町なのはの姿が其処にあった。

 

(なのはさん、昔はちゃんと年相応な可愛さがあったんですね)

 

現在のなのはと映像に映っているなのはを比べ、ティアナは今のなのはに対して失礼な事を思っていた。

 

「いけしゃあしゃあとよく言ってくれるな、このジジイ!お前のせいで俺が濡れ衣着せられたんだぞ!!」

 

連続通り魔の容疑者にして、青年に屈辱と濡れ衣を着せた真犯人。

 

「因果応報とはこの事かも知れんな、まさか君がこの場所に現れるとは」

 

青年は既に木刀を持ち、構えていた。

 

真犯人の道場の師範も青年の構えに気付き直ぐに隙の無い構えをしている。

 

特にフェイトは剣術を戦闘に使うタイプなので、犯人の構えに隙が無い事が直ぐに分かった。

 

「持ち方が様になっているとは」

 

冷徹な目の輝きに揺れを浮かべて、青年の手元を見て言う。

 

確かに最初、道場破りをした時と犯人と対峙している時とでは、明らかに構えが違う。

 

「ノエル,倒れている奴を見てやれ、息があるなら救急車だ」

 

少しの沈黙後。

 

「はい、承知しました」

 

「忍はガキの面度を見ろ、警察は後回しだ」

 

ノエルとしては人の命に係わることなので直ぐにその命令に従うが、忍は青年の言葉に不満である。

 

それは映像を見ていたフェイトとティアナも同じである。

 

「どうして警察を呼ばないの?侍君。犯人が目の前にいるんだよ?」

 

「犯人が何の関係もない赤の他人だったら、このまま警察に突き出してもいいんだがな、こいつが犯人だってなら話は別だ!!牢屋へ送る前にあの時の決着をつけてやる!!」

 

忍は青年の強い意志とその言動に負けたようで、最後にこの様な言葉を言い残した。

 

「侍君らしいね。分かった‥良いよ‥存分に戦いなよ、貴女もそこは危険だよ。こっちにおいで」

 

忍の呼び声に事態の成り行きがわからないなのはは困惑している様子。

 

「で、でも‥‥」

 

おろおろしていたなのはであるが。

 

「ちょっと君!!あの人は‥‥侍君に任せて、私たちは下がった方がいいわよ!!」

 

なのは は忍の下には行かず、あろうことか犯人と対峙している青年の足元に駆け寄った。

 

忍は声をあげ、なのはに注意を促すが、なのは はその注意を聞かず、頑としてその場を動こうとはしなかった。

 

そして映像の中のなのはが犯人に向かって声を上げた。

 

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