星の海へ   作:ステルス兄貴

77 / 294
六十八話 組織の闇

 

防衛軍が日本を含む各国で行われている宇宙戦艦の建造計画、そしてテリオス、ノアに密かに記録されていた管理局の暗部を見て、フェイトとティアナの身柄を管理局へ返還した後、今後の管理局への対処方法を協議し、小休止が行われ、休憩後にフェイトとティアナが呼ばれ、意見交換が行われた。

それは、フェイトたちが想像していたような事態‥‥地球防衛軍側による高圧的な尋問同様の事情聴取にはならなかった。

しかし、会議はどこか後ろめたさを含む重苦しい雰囲気のまま解散になった。

暴言や罵倒が飛び合う吊し上げのような事にならなかったのは、良馬と古代が、

 

「惻隠の情を持って接してほしい。彼女たちも彗星帝国の被害者なのだから」

 

と言う主張を司令部側に申し立てたのもその要因の一つだ。

時空管理局に対する認識は別の認識として、先方にもそうならざるを得ない事情があるだろうし、波動砲クラスの大量破壊兵器を時空管理局は保有しておらず、イスカンダル救援作戦時の波動砲の威力に彼女たちはかなりの衝撃を受け、脅威に感じても不思議ではなく、魔法文化に対する我々の印象とこの世界の軍事力に対する時空管理局の印象には何の違いもない、等と説明。

いささかヒートアップした議論になったが、藤堂長官の口添えもあり、良馬らの意向に沿ったものとなった。

 

しかし、フェイトたちとの質疑応答の間も会議場は重い雰囲気だった。

フェイトとティアナも人員が変わっていたとは言え、テリオスがダーティミッションに参加していたとは知らず、管理外世界への無警告でアルカンシェルを撃ち込み、その世界に住む大勢の無関係で無抵抗の住民へ対する虐殺行為、魔法文化の無い管理外世界における住民への略奪・暴行、魔力素質者の拉致などの違法行為を目の当たりにしてショックを受けた。

また管理局の人材不足からの理由で、まだ年端もいかない子供の魔導師まで危険な任務に投入する理由を問いただされた時は、流石にフェイトたちも苦しげだった。

もう一つの地球――第97管理外世界――で六年間暮らしたフェイトはその地でのルールも知っていたから、自分たちを見る目が厳しいものだろうとは覚悟していたが、その事実を知るのは、今この場ではティアナのみで、防衛軍側でその事実を知る者が居ないため、その件に関しては、咎められることは無かった。

そもそもフェイトもティアナも人事課の人間ではないので、管理局への人事に対する意見はそこまで強くは言えない。

ノア、テリオスに残されていたデータに関しての質問、管理局の組織運営等の質問は終わり、残りはフェイトとティアナをミッドに帰す事のみとなり、管理局とのコンタクト時のみ来てもらう事でフェイトとティアナは月村家に帰った。

 

「「‥‥」」

 

屋敷へ帰る道中の車の中で、フェイトとティアナは黙ったままであった。

その理由はやはりテリオスがダーティミッションを行っていた事とその内容だった。

反管理局勢力の殲滅任務‥‥

管理世界入りを拒否した世界への虐殺とも言える制裁処置‥‥

無抵抗、無関係の人間に対してアルカンシェルを撃ち込んでの大量殺戮をした事‥‥

魔法文化の無い世界における住民への略奪・暴行、魔力素質者の拉致‥‥

 

これでは、ガミラスや彗星帝国、暗黒星団帝国のやり方と何ら変わりないではないか‥‥

これらの事は本来管理局の法律で禁止されている事ばかりであった。

それを管理局は平然と行い、行った者は処罰される事無く、その事実は闇へと葬り去られているか、罪に問われる所か称賛される始末‥‥。

管理局員は自分たちが作った法は守らなくても良いと言う暗黙の掟でもあるのだろうか?

自分たちの知らない所で法の番人、正義を語っている管理局が裏では平然と違法行為行っていた。

この世界へ漂流してから余りにも驚く事が多すぎた。

それと同時にフェイトとティアナの中で管理局が掲げる正義と言うモノが揺らぎ、曇って来た。

それどころか管理局の存在自体に対しても疑問点が湧いてきた。

特にティアナは、兄の葬儀の際、兄の上官からぼろ糞に言われた事、機動六課活動始めの際、親友の姉(ギンガ)の葬儀にも同じ光景を見た経験から、目の前の上官やその親友たちと違い、元々管理局に対して忠義なんてものは感じていなかった。

それ故に、管理局の掲げる正義に疑問を感じたのだ。

 

(私、このまま管理局に在籍していていいのかしら?)

 

今は執務官補佐であるが、今後もこのまま管理局に在籍して居たらいずれ自分にもあの映像にあったみたいな汚れ仕事を上層部が命じてくるかもしれない。

その時、自分はその命令に従う事が出来るだろうか?

無抵抗、無関係の者に対してデバイスを向け、引き金を引くことが出来るだろうか?

しかし、兄の死後、夢を抱いて来た執務官までもう少しなのだ。

ティアナの葛藤はこの後もまだまだ引きずる事になる。

 

(まさか、管理局があんなことをしていたなんて‥‥)

 

そしてそれはフェイト自身も同じで、自分も管理局上層部から映像で見た様な汚れ仕事を命じられるかもしれない。

いや、自分だけではない。

はやてやなのは‥‥エリオやキャロがあの様な汚れ仕事を命令されるかもしれない。

そうなった時、彼女たちのメンタル面は大丈夫だろうか?

事実が公になった時、管理局は命じた者には責任を取らさず、実行した者たちに責任や罪を着せて処罰するつもりではないだろうか?

ティアナ以上にフェイトには守るべきモノ、大切な者たちが沢山ある。

またフェイトとしては自分が所属する組織の闇を守に知られた事についてもそれなりにショックを受けていた。

彼女の葛藤‥悩みはティアナ以上だった。

 

 

それから数日後‥‥

 

 

時空管理局・次元航行本部

 

コンソールに着信を知らせるシグナルが点灯し、アラームが鳴る。

オペレーターがすぐに回線を繋ぐと、画面にはフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官とティアナ・ランスター補佐官が映っている。

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官及びティアナ・ランスター執務官補です。クロノ・ハラオウン提督は在室中でしょうか?」

 

二人の後ろには、先日の通信の時にも同席していた戦艦の艦長(良馬)も居た。

 

「た、只今お繋します」

 

オペレーターは慌ててクロノに通信を繋いだ。

 

 

ハラオウン提督執務室

 

「やあ、二人とも元気そうだな‥‥もうそっちの地球に降りたのかい?」

 

「うん。三日前にね」

 

転送ポートが使えない以上、次元航行艦で迎えに行かなければならない。

しかし、肝心のフェイトたちが居る地球の座標を管理局は知らない。

フェイトとティアナのデバイスには現在位置の座標が記録されているかもしれない。

だが、管理局と地球連邦政府は正式に国交を結んではいない。

まだ知らぬ未知の組織に自分たちの座標をそう簡単に教える筈もなく、フェイトとティアナが居る地球へ迎えに行く事も困難な状態だった。

今はこうして通信により、近況を伝えるしかない。

口頭でも伝えられなくはないが、それを行えば自分たちにスパイ容疑がかかるのではないかとフェイトとティアナもちゃんと理解しているので、それはしないし、自分たちの置かれている待遇は決して悪いモノではないし、防衛軍は自分たちの身柄をミッドへと返還するつもりでいる。

ならば、下手な事はせずにその時を待てばいいだけの事だ。

今は、管理局との交信が行われているこの貴重な時間を有意義に使う事が先決だった。

 

「ねぇ、クロノ‥‥実は‥‥」

 

フェイトは先日、防衛軍との話し合いの中で見たテリオスが行ったダーティミッションや管理局の暗部とも言うべき、管理局が行ってきた違法行為の内容を話した。

 

「いや‥‥そんな‥バカな‥‥管理局がその様な事を‥‥」

 

彼女の話をクロノは当初は信じられなかった。

と言うのもどれもこれも管理局の法律で禁止されている事ばかりで、そのような公式記録は管理局のどこにも存在しないからだ。

テリオスのメインコンピューターに暗部行為の記録が残っていること事態が不思議なくらいだった。

しかし、JS事件後には管理局の不正が公になっている事からあり得ない事ではないと思うクロノだった。

だが、公式記録がなければ調べることもできない。

フェイトが見た映像を証拠に提出して関係者に尋問しても公式記録ではないことから証拠能力は『無し』と判断されそれらの違法行為を行った関係者を裁くこともできない。

ここまで酷い事をしておいてその者たちは罪に問われる事もなく平然としている現状にクロノとしてはなんとも歯がゆい事だった。

 

その後、フェイトとクロノ‥双方の情報を交換してから、良馬も話に加わった。

フェイトとティアナが公式記録に残されていない管理局の暗部の記録を防衛軍との話し合いの中で見たと言う事は、良馬を含め、防衛軍関係者に管理局の暗部、違法行為が知れ渡っている事になる。

恐らく目の前に居る艦長も管理局の暗部の事を知っているだろう。

しかし、それにもかかわらず、彼は管理局員である自分やフェイトたちの前で嫌悪感を出す事無く、こうして対応してくれているし、フェイトたちの待遇にも今の所、変わった様子がない。

管理局の場合、此処までの対応が出来るだろうか?

クロノはそう思った。

しかし、人間が運営する組織である以上、100%クリーンな組織など存在しない。

互いに心が読めるジレル人ならばもしかしたら、可能かもしれないが、防衛軍とて人間が運営する組織故、闇は当然存在する。

あのガミラスと地球との戦争‥‥その発端となった出来事がまさにそれだ。

それに防衛軍が過去に事故として処理した案件の中にも、もしかしたら組織の闇である陰謀が含まれていたかもしれない。

軍艦の建造に至っても軍と政府の官僚、企業との癒着が存在しているかもしれない。

防衛軍、管理局、それら組織の闇は深く、その犠牲となった人の数は正確には分からない程である。

これら一切は組織の闇として公式な記録も証拠もなく、また一般には決して出る事もなく、市民や末端の組織人には一切知られることは無かった。

しかし、今回管理局は運が悪く、他の組織にそれら闇の所業がバレてしまい、そこから一部の同じ組織の人間にバレてしまった。

 

「重ね重ね有難うございます、月村艦長」

 

「いえいえ、船乗りの務めというだけですから、お気になさらず。それよりも、今後の話をしましょうか、クロノ提督」

 

良馬が持ちかけたのは、定期的にこういう通信のやりとりをする必要があるということ。

 

「そうですね、おっしゃるとおりです」

 

今後はあの世界‥第二の地球の関係が管理世界や時空管理局の動向に大きく関わってくるかも知れないのだ。

フェイトたちにもう一つの地球を見せておくのも決して無駄ではあるまい。

とは言え、お互い常に連絡を取り合う事は大事だ。

クロノは良馬の提案を受けることにした。

 

「ところで、月村艦長、差し支えなければお聞きしたいのですが‥‥」

 

「軍機に関わらない程度で良ければ構いませんが‥‥」

 

クロノは、ヤマトと遭遇してから、ずっと持ち続けていた疑問を口にする。

 

「ヤマトをはじめとして、地球防衛軍の艦船はどのような動力源を採用しているのですか?」

 

(やはりそう来たか‥‥)

 

クロノからの問いに良馬は予想通りの問いだと思った。

彼ら管理局側としたら、知りたいと思うのは当然だろう。

彼らの艦船技術と防衛軍の艦船技術では、此方側の方が上だ。

詳細はともかく、波動機関やタキオン粒子の存在はこの世界の子供だって知っているし、ヤマトが建造されて以降、高校や大学では物理の授業でタキオン理論も教えているから、特に秘密にすることではない。

 

「‥‥ハラオウン提督は、タキオン粒子をご存じですか?」

 

「無限に加速する物質という概念は知っていますが‥‥まさか、そのタキオン粒子は実在するのですか!?」

 

「基本技術はイスカンダルから齎されたものですが、現在は我が軍の宇宙艦艇の大部分や一部の宇宙船舶に搭載されています」

 

「そうですか‥‥しかし、そんな事を我々に話してもよろしいのですか?」

 

「既にタキオン粒子の存在は此方の世界では、子供も知っていますし、基本理論は高校の理科の授業で教えています。それに、もっと進んだ技術を持っている軍事勢力も存在しますからね」

 

良馬はタキオン粒子の基本理論と彗星帝国の艦艇の大まかな説明をし、通信に関しては週に一度、フェイト、ティアナの現状報告を兼ねて定時連絡をすることで合意し、通信を終えた。

 

 

通信を閉じた後、クロノは「ふぅ~」と溜息をついた。

フェイトたちの顔色は良さそうだ。

向こうの待遇は真っ当な様子で身柄を拘束されている訳でもなさそうだ。

二人については取り敢えず大丈夫だ。

しかし、管理局が行ったダーティミッションについては看過できなかった。

それに地球防衛軍艦船の動力源が、まさかタキオン粒子とはあまりにも意外だった。

どこの管理世界でも、実用化どころか、まだ理論すら確立されていない未知のエネルギー理論‥‥。

それもそうだ‥管理世界は医学等の一部の分野以外では、科学技術はさほど進歩していないのだ。

その医療技術すら、ミッドは地球連邦よりもレベルが下なのだ。

回復魔法、治癒魔法があるから別にいいじゃないか‥‥そう指摘する魔導師も居る。

しかし、魔導師とは言え人間であり神ではない。

治癒魔法とて、限界はある。

現に死んだ人間を生き返らせる魔法は存在しないし、なのはも十一歳の頃の大怪我の際には長期間の入院と懸命なリハビリで回復したのだ。

 

(次元世界の平和の為と言う名の名目で質量兵器の禁止が科学技術、医療技術の進歩の芽を摘んでしまっているというのか?)

 

あの白色彗星帝国軍の様に強力な軍事的脅威に対抗するには、現行の次元航行艦が全く役立たずと言うのはいやというほど今回の件で思い知らされた。

それに、地球側から提供された白色彗星帝国軍の兵器情報には宇宙戦闘機や大型攻撃機も含まれていて、これらの艦載機は、宇宙空間はもとより大気圏内でも行動可能という。

宇宙空間を飛行するのだから恐らくは速度は、超音速で飛行できるだろう。

有人とは言えスカリエッティの航空型ガジェットドローンとは訳が違う。

とてもじゃないが、あんな兵器が相手では、なのはやシグナムといったエース級の空戦魔導師でも対抗できない。

バリアジャケットを纏っているとは言え、フェイトですら音速のスピードなんて出せない。

ましてや空気が薄く気温が低い成層圏や真空の宇宙においての戦闘なんてもってのほかだ。

それも一対多数では‥‥。

 

「やれやれ、上にどう説明したものか‥‥」

 

今回、防衛軍側が再び通信を送って来た事から、この後また本局で報告会議が行われるだろう。

クロノは、今の映像を記録したディスクを手にすると、一つ溜息をついて立ち上がった。

 

 

それから、数時間後‥‥

 

 

時空管理局本局・次元航行本部 会議場

 

クロノ・ハラオウンはフェイトたちからの連絡映像データを本局の高官たちに見せていた。

しかし、ダーティミッションの部分については編集しカットした。

どうせ見せたところで管理局上層部は否定するだろうし、それどころかダーティミッションの部分を防衛軍側の策略だと言いだしかねない。

もし、それが元で管理局のはねっかえりが向こうの地球へ戦端を開きかねないと思ったからだ。

 

「タキオン粒子だと? 馬鹿な!?管理世界のどこも実証はおろか理論すら確立されていないのだぞ!!」

 

「ブラフだ!!ブラフに決まっている!」

 

「その通りだ!!魔法文明の無い、管理外世界の連中にそこまで高度な技術が扱えるわけがない!!」

 

「そうだ!!その通りだ!!」

 

(これだよ。これだから嫌だったんだ‥‥)

 

次元世界積極拡大派、魔導師至上主義の高官たちの反応は、クロノの予想どおりの反応で、彼は思わず溜息をついた。

 

(大体、管理外世界だからと言って、我々よりも技術が劣るとは限らないだろう?)

 

『いい加減現実を受け止めろよ』と言いたげにクロノは次元世界積極拡大派、魔導師至上主義の高官たちを見た。

実際にガミラス、ガトランティス、防衛軍、暗黒星団帝国は魔法技術を持っていないに世界にもかかわらず、管理局の次元航行艦相手に勝利しているではないか。

最も防衛軍は管理局の艦と戦ってはいないが、これまでの実戦映像から管理局の次元航行艦よりも性能が優れているのは確かである。

 

「しかし、現実には彼らの艦船の方が管理局の艦と比べると遥かに強い。タキオン粒子云々は別にして、かの世界の探査は慎重に行うべきです。下手をすれば、ノアやテリオスの二の舞ですぞ!」

 

唯一の救いは以前に比べると慎重な意見が増えてきている。

これだけ次元航行艦がやられていれば、嫌でも現実的にならざるを得ない。

だが、それでもまだまだ慎重論を唱える局員は全体の四割ほどである。

(管理外世界、管理世界云々は兎も角、タキオン粒子のブラフというのは当たっているかもな。今の我々の艦船ではお話にならないからな‥‥『下手にちょっかい出したら死ぬぞ』と遠回しこちらへ警告したんだろう)

 

管理世界拡大推進派の意見を聞き、うんざりする一方で、クロノは冷静に現状を分析していた。

以前よりは現実的な意見が増え、この映像を三提督にも見せるべきだという意見が出て、過半数がその意見に賛成したため、途中で握り潰されることはなくなった。

また、「第二地球」の座標は未だ不明であり、しかも、第二の地球の太陽系には、彗星帝国の残党軍が存在し、安全度が低く時期尚早の意見が多く、フェイトたちの身柄の返還及び調査に関しては、当面は見送りとなったため、クロノは胸を撫で下ろした。

強行して先方に発見されれば領海侵犯で拿捕抑留。

それどころか最悪撃沈されても仕方ないのだ。

勿論、彗星帝国の残党に見つかって撃沈される恐れだってある。

だが、もし防衛軍の手によって撃沈されれば、管理局はそれを理由にして第二の地球討伐の大義名分とうって第二の地球へ侵攻するかもしれない。

しかし、現状では管理局の次元航行艦全てを向かわせても、恐らく防衛軍には、勝てないだろう。

それに、フェイトたちが第二の地球に居る限り、そんな真似は出来ない。

しかし、その反面、フェイトたちがミッドに帰還したら、第二の地球に対して何らかのリアクションをとる可能性もあると言う事だ。

クロノとしてはそのリアクションが第二の地球との戦争の引き金にならない事を祈るだけであった。

 

「‥‥」

 

クロノは渋い顔をして会議室を出た。

 

「ハラオウン提督、ちょっといいだろうか?」

 

会議室を出たクロノに、数人の提督たちが声をかける。

クロノに声をかけたのは皆、次元世界拡大には慎重な意見を持つ者ばかりだった。

 

「さっきの映像、もう一度見せてほしいのだが‥‥」

 

「ええ、いいですよ」

 

クロノは僅かに顔を綻ばせて頷いた。

 

 

その日の夕方、クロノは旧六課の隊長陣を中心にフェイトたちからの近況報告通信が届いたと連絡をした。

クロノからの連絡を受けて、高町なのは、シグナム、ヴィータ、グリフィス・ロウラン、ルキノ・リリエの五人が本局の一室に集まった。

 

「すまないな、皆。それぞれ忙しい身なのに‥‥」

 

入室するやクロノが詫びるが、皆は顔を横に振る。

 

「全然平気だよ、クロノ君。フェイトちゃんたちの事だもん」

 

「私は任務でミッドを離れていたからな。遭難後のテスタロッサの通信を見るのは初めてだ」

 

「フェイトたちがちゃんと飯食っているのか、よーく確認しねーとな」

 

「この前の通信では元気そうでしたから、多分大丈夫だと思いますけど‥‥」

 

「また別のタイプの防衛軍の軍艦も見れるかもしれませんし‥‥」

 

「‥‥ま、まぁ、兎に角見てくれ」

 

クロノは今日、入ったフェイトたちの映像を見せた。

 

映像では、フェイトたちが第二の地球へ無地に辿り着いた事、

そこでの降りた第二の地球での生活状況等を語っていた。

やがて、映像は終わった。

なのはとルキノは目を潤ませ、シグナムたちもとりあえず安心した様子だ。

 

「予想以上に明るい表情だったな」

 

「ああ、向こうでの待遇も悪くねぇーみたいだ」

 

ここでルキノが率直な疑問を口にした。

 

「ところで、この通信はどうやって行われたんでしょう?確か、捜索隊が置いていった通信ポッドが細工されていることがバレて、逆におちょくられたんですよね?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

クロノが苦い顔つきで気まずそうに肯定する。

 

「その話は私も聞いた。全くつまらん小細工をする奴らだ。だが、向こうの方が一枚上手だったようだな」

 

「ああ。向こうにはかなりできるエンジニアか科学者が乗っていたようだ。本来ならば、相当頭に来ているだろうに、それをおくびにも出さず、ちゃんと通信させてくれているんだからな。全く、とんだ失礼なことをしてくれたよ。今は逆探知装置は取り外されたみたいで、向こうの通信技術とノア、テリオスの通信機器の部品を使ってこちらとの通信が可能となっている」

 

クロノが思わずぼやきを口にした。

この他にも管理局が過去に行ったダーティミッションのあるのだが、クロノはこの場でもそれを口にする事はなかった。

やはり、無用な混乱や疑心は防ぎたかったからだ。

 

「管理局では想像できねーけど、宇宙戦艦同士の殴り合いって、一体どんな戦いなんだろうな‥‥」

 

JS事件の際、『聖王のゆりかご』に引導を渡したのは、管理局の次元航行艦隊のアルカンシェルの一斉射撃だった。

だが、それは宇宙戦艦同士の戦闘と言うよりも、静止した『聖王のゆりかご』に対して次元航行艦隊がアルカンシェルを撃ち込んで終わった為、その様子はさながら射撃訓練の様な形であったため、本格的な宇宙戦艦同士の戦闘と言うモノを経験した者はこの場には居ない。

クロノはテレザートにてゴーランド艦隊とヤマトの戦闘を目撃したがあくまで目撃は目撃で実戦経験とは少し違う。

 

「これまでは生存者がいなかったが、テスタロッサたちが戻れば、その一端だけでもわかるだろう‥‥それにしてもタキオン粒子とはな‥‥」

 

シグナムが考え込むように呟く。

 

「あの艦長が嘘を言っているとは思えませんが、もし事実だとすれば、管理局の艦船と向こうの世界の艦船では、少なくとも通常空間では絶望的な性能差がありますね」

 

グリフィスが管理局の次元航行艦と防衛軍の艦艇を比べる。

 

「しかも、ノアとテリオスの残骸を調査されたようですから、相当な所まで調べられたかも知れませんね」

 

ルキノの発言を聞いてクロノはドキッとする。

管理局きっての艦船マニアとしての興味‥‥だけではなかった様だ。

 

「まぁ、あの時は互いの存在を認識していなかったからな。不審な遭難船として調査されても文句は言えないさ。我々が向こう(地球防衛軍)の立場なら、そうしているからな」

 

クロノとしてはテリオス、ノアについての話題はさっさと終わらせたかった。

 

「でも、純粋な軍事技術、戦闘能力は向こうの方が上なんですよね?‥‥もし、次元航行能力を持った軍艦を防衛軍が建造して向こうと戦闘状態になったら‥‥そして、艦隊単位であの戦略砲(波動砲)を撃たれたら、本局・ミッド自体が消滅しますよ」

 

ルキノが場面を想像したのか顔を青くして言う。

 

「極論すればそうなるな。ヤマト一隻のあの戦略砲で、本局は簡単に焼け落ちるだろうな‥‥何せ、ヤマト一隻の戦略砲で、プレオを破壊したミサイル艦隊を一撃で消滅させたのだからな。だからこそ、向こうとは事を構えたくないんだ。だが、それを分からない全次元世界管理に意欲を燃やすお偉方もいるんでね、全く困ったものだよ」

 

クロノがやれやれといった様子で呟く。

 

「世界が違うとはいえ、地球の人がそんな事をするとは思えないけど‥‥」

 

地球に対する希望、否、願望を口にするなのは。

たとえ住む世界が異なっても地球人がそんな事をするとは思いたくなかった。

そんな彼女の意見にクロノは、

 

「それは僕も同じさ。でも、戦争はちょっとした行き違いからでも始まるからな。ましてや管理局は、向こうの地球の座標を掴むためとはいえ、挑発するような事をしているからな‥‥ホント、困った事をしてくれたよ」

 

クロノの苦悩が解決するのは、果たしていつになるのやら‥‥。

それは、誰にもわからない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。