星の海へ   作:ステルス兄貴

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六十九話 クリスマス

 

「「温泉?」」

 

「ええ」

 

クリスマスが迫るある日の夕食の席で、忍がフェイトとティアナに提案をする。

 

良馬、ギンガ、リニスの三人は、長期休暇は取れなかったが、幸いクリスマス期間の数日間と正月は休みをとる事が出来た。

 

そして、クリスマスの休みには、月村家が所有する山奥の温泉宿を貸し切って、そこへ知り合いを集めて皆でクリスマスを祝おうと言う話だ。

 

(温泉か‥‥)

 

フェイトにとって温泉は、少なからず縁がある。

 

母(プレシア)の命令でジュエルシードを探している時、フェイトとアルフは温泉街にジュエルシードの反応があったため、その温泉街へ探しに行った。

 

アルフはそこで温泉を満喫したが、真面目な性格のフェイトは温泉には入らずにずっとジュエルシードを探していたため、温泉には入っていない。

 

その後も、管理局員になってからは、仕事と学業の二束の草鞋であり、温泉に行く暇は無く、中学を卒業後はミッドに家を移し、その後はずっと仕事一途に生きてきた。

 

六課時代に地球へ戻った時もみんなで入ったのはスーパー銭湯であり、温泉では無い。

 

フェイト自身、温泉に興味がない訳では無い。

 

正直に言って、先日の防衛軍本部での会談は、二人にとって決して居心地がいいものではなかった。

 

本来なら庇護下にあるべき十歳そこそこの少年・少女を武装隊員にして危険な前線任務に投入することを何とも思わず、それを普通に行っている時空管理局に対して地球防衛軍本部の軍人たちの目は厳しく冷淡で、中には露骨な嫌悪の目を向けてくる者もいた。

 

管理局には管理局なりの事情があるのだが、地球防衛軍側の認識を改めさせるほどの説得力はなく、フェイトたちはいたたまれない思いをしたが、それがこの世界の常識なら受け入れるしかないのだ。

 

防衛軍側も管理局側の事情を全く考慮していない訳では無いが、それでも年端のいかぬ少年、少女を危険な任務に投入し、自分たち大人は安全な場所から偉そうに指示を出す管理局の体制がどうしても許せなかったのだろう。

 

とはいえ、それで自分たちの待遇が悪くなることはなく、行動が規制されることもなかった。

 

むろん、許可なく軍事施設の立ち入り禁止、撮影・録音禁止の場所等はあるが、それは自分たちに限ったことではなく、当然の処置だと理解している。

 

それに週一とはいえ、本局と交信もさせてくれるのだから、寛大といえば寛大だ。

 

どうやって次元通信装置を運用しているのか等、知りたい事は山ほどあるが、軍規に触れる部分もあるため、聞く事はかなわないだろう。

 

ヤマト、まほろば の乗員たちも恐らく時空管理局には不快感を持っているだろうに、それをおくびにも出さず、個人的なバッシングは一切しなかった。

 

自分たちにとってはありがたい事には違わないが、そんな事をして睨まれないのだろうか?

 

その件を守に聞いてみたが、

 

「あいつらはもう十分睨まれている」

 

と笑って言った。

 

先の白色彗星帝国との戦闘に先立ち、古代たちはヤマトで軍命令に反逆してまで発進し、良馬はヤマトの反逆を知りつつ、防衛軍の命令を無視して、阻止行動をとらず見逃した。

 

問題にならない筈が無いのだが、結果としてヤマトの強行発進がなければ彗星帝国にあっさりと地球は敗れていたことが証明された事と防衛軍の壊滅的人手不足のため、上層部も彼らを粗略には扱えないのだ。

 

フェイトとティアナを後見とする月村家も良馬は上記の防衛軍の人材不足理由から、無下に扱えず、更に各国の政界や企業と太いパイプを持つ月村家を簡単に敵に回す真似は出来ず、その為フェイトたちにも簡単に手を出せないのだ。

 

「確かにあの人たちには感謝しても足りないけど、それで変に意識することはないと思うし、それはあの人たちも望んでないと思うな。それよりも、今後の事の方が大事だよ。ティアナ」

 

「そうですね‥‥」

 

管理局員として、防衛軍の様々な技術も興味に尽きないが、魔導師として無関心でいられないのが、自分たちと同じく月村家が後見人を務める高町紅葉の存在だ。

 

この世界の地球を覆うAMFならぬ「AMA(アンチ・マギリング・エア)」の中で、自分やなのはと同等‥‥いやそれ以上の魔力資質を持つ少女。

 

しかも高町姓で、なのはと容姿まで似ており、「もう一人のなのは」と言ってもいい存在だ。

 

自分たちが何時までこの地球に滞在するかは詳しい日程は分からないが、仲良くなるに越した事はないし、何より彼女には魔導師資質があるので放置してはおけない。

 

本人は自分にその資質があるのを知っているのか? 術式は? デバイスは?

 

ひょっとしたら管理局が存在を把握していない未知の魔法なのかも知れないのだ。

 

「でも、あの子が魔導師だったとしても、周囲にその事を知られていなければ何のことはないんですけどね」

 

「そうなんだけどね‥‥」

 

友人と一緒の時の様子を見ていても別段何の問題はない。

 

魔導師であることを知られていないか、そもそも本人が知らないままなのかはわからない。

 

管理局規則では管理外世界で魔導師資質がある者の存在を把握した場合、管理世界からの不法渡航者でない、つまりその世界で生まれ育ち、魔法の事を知らないでいる者に対しては、基本的には干渉しないことになっている。

 

但し、魔法を悪用したり、その恐れがある者については、たとえ管理外世界の住民であっても、一時的に身柄を拘束した上で、記憶の一部と魔力を永久封印する魔法医学的措置を施す事がある。

 

まぁ、紅葉についてはそういう懸念は限りなく低そうだ。

 

「まずは、彼女と馴染む事が肝心だよ。管理局員としてではなく、一人の人間として、ね」

 

「はい」

 

クリスマスにある温泉旅行には、その高町紅葉も参加する予定だ。

 

これを機に、自分たちがこの地球を去るまでに、彼女と親しくなりたいと、思うフェイトとティアナだった。

 

温泉旅行前日、紅葉と桜花が月村家に泊まりに来た。

 

勿論、桜花が居るのだからギンガも一緒に泊まっている。

 

夕食の時、紅葉はノエルと共に夕食の手伝いをした。

 

そして、

 

「お口に合うかわかりませんが‥‥」

 

遠慮しがちに言っていた紅葉が作ったおかずを食してみたフェイトとティアナは、

 

((何だか敗北感を感じるなぁ(わ)‥‥))

 

との感想を抱いていた。

 

高町紅葉の料理の腕は、弱冠十三歳という年齢を割り引いても十分以上なレベルだった。

 

ガミラス、彗星帝国との戦争の余波の中、オムシスの復旧で、食糧生産は何とかまかなっているが、生鮮の方は、まだ肉類は大豆や小麦グルテン等が混じっており、決して潤沢ではない食材でこれだけのものを作ってみせたのだから‥‥

 

翻って、フェイトとティアナは長期間、あるいは遠隔世界の捜査任務に就くことが多く、自分で調理する機会は少ない。

 

食べるモノと言えば、外食かコンビニなどのレトルト食品やインスタンス食品ぐらいなものだ。

 

仕事ゆえ仕方ないのだが、自分たちより明らかに年少で、しかも無二の親友/上官及び師にあたる存在と酷似した容姿の少女となると、我が身と照らし合わせないわけにはいかなかった。

 

「ねぇ、紅葉」

 

「何でしょう?」

 

夕食後、紅葉とノエルが淹れた紅茶やココアを飲みながら、桜花とギンガはボードゲームをして、忍、ノエル、良馬、リニスが明日の旅行の予定を立てながら、歓談し、紅葉は読書をしていたが、ここでフェイトが核心に迫ろうと紅葉に話しかけた。

 

「紅葉、少し貴女に話があるのだけれど‥‥」

 

「いいですよ」

 

(まぁ、大体予想は出来るけどね)

 

紅葉は、フェイトの案内の下、フェイトとティアナの部屋へと来た。

 

もちろん、フェイトたちの行動は月村家の皆に筒抜けになっており、万が一紅葉の身に危険が迫れば、突入する構えをとっていた。

 

「単刀直入に聞くけど、紅葉‥‥貴女、魔導師なんでしょう?」

 

フェイトの問いに紅葉は動揺した様子はなく、淡々と答えた。

 

「そうですね‥‥以前、ギンガさんからも同じ質問を受けましたが、魔法を使えるのが魔導師だとするならば、確かに私は魔導師ということになりますね。御二人もギンガさんや私同様魔導師なのでしょう?」

 

「ええ」

 

紅葉の問い返しにフェイトとティアナも頷く。

 

「私たちは、その魔法で次元世界の治安維持活動をしているの」

 

ティアナが自分たちの仕事を簡単に纏めた言葉で紅葉に説明する。

 

「確かギンガさんも元はその治安維持組織で働いていたんですよね?」

 

(やっぱり、前世同様、目の前のハラオウン執務官もランスター補佐官も管理局員だったわね‥‥)

 

「そうよ‥‥ミッドチルダ‥それが私たちの組織がある星(世界)の名前なの」

 

「ミッドチルダ‥‥」

 

(知っているけどね‥‥)

 

前世が管理局員だった紅葉は当然、管理局があった世界の事も知っているが、それを表に出す事無く、キョトンとした振りをする。

 

「ええ」

 

「それじゃあ、フェイトさんとティアナさんもデバイスをお持ちなんですか?」

 

とりあえず、話題を変えようと紅葉は、自分やギンガが魔力制御の為所持しているデバイスを彼女たちも持っているのかを訊ねる。

 

「ええ、持っているわよ」

 

そう言いながら、フェイトはポケットから金色の三角形をした金属を、ティアナはカード形をした金属を取り出してテーブルに置く。

 

すると、そのデバイスがチカチカと点滅し、紅葉に話し始めた。

 

「初めまして、私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンのインテリジェントデバイス、バルディッシュです」

 

「私はティアナ・ランスターのインテリジェントデバイス、クロス・ミラージュです」

 

「初めまして。私は高町紅葉。宜しくね、バルディッシュ、クロス・ミラージュ」

 

そう言うや、紅葉は首から提げていたネックレスを外すとテーブル上に置く。

 

すると、鎖に繋がれていた黒真珠の様な石がチカチカと明滅し、

 

「お初にお目にかかる。私は高町紅葉の自律魔法制御媒体(デバイス)、ルシフェリオン・暁である」

 

渋い中年男性の明瞭な日本語の声でルシフェリオンはフェイトとティアナ、それぞれのデバイスに名乗った。

 

「「‥‥」」

 

魔法少女が持つデバイスには大凡ミスマッチな声であるが、突っ込まない方がいいのだろう――。

 

目の前の黒真珠はフェイトたちが思っていた以上に洞察力が優れているようだ。

 

「以前、ギンガ女史にも説明したのだが、私の声が合わなくて驚いているようだが、私がこの星に来たのはもう四十年以上前で、最初の主(レディー)は彼女の亡き母親なのだ」

 

「「えっ!?」」

 

これにはフェイトたちが驚く。

 

彼女たちの持っているデバイスは一個人限定にカスタマイズされたもので、主(マスター)が死亡したり、何らかの理由で魔法を使えなくなると、他人には、たとえ実子であっても転用することができず、そのまま廃棄されてしまう。

 

しかし、目の前のルシフェリオンは違うようだ。

 

「無論、単に肉親で魔力を持っているからといって、無条件に継承されたわけではない。私が彼女を新たなレディー(主)と認めたからこそ、だ」

 

「そ、そうなの?」

 

ティアナが気圧されたように呟いた。

 

そこへ、ルシフェリオンから質問が飛ぶ。

 

「これも以前、ギンガ女史に問うたのだが、お主らは、レディーが魔導師とやらだと知って、どうするつもりなのだ?」

 

これにはフェイトとティアナも一瞬絶句したが、すぐにその意味するところを理解した。

 

慢性人材難である時空管理局は、若くて優秀な魔導師は喉から手が出るほど欲しい人材だ。

 

執務官も、捜査等で赴いた任地で金の卵や原石を探し、スカウトしてくることがある。

 

管理外世界の住民ながら、管理局を代表するエース魔導師になった高町なのはや八神はやてがそのいい例だ。

 

「その事なんだけど‥‥ねぇ、紅葉‥貴女、管理局に来るつもりはない?」

 

フェイトは、紅葉に管理局へ来ないかと訊ねた。

 

「‥‥残念ですが、固辞します」

 

紅葉は、フェイトの誘いを即座に断った。

 

(また管理局員になって次元犯罪者に殺されるのは御免だからね)

 

「理由を聞いても良いかな?」

 

「私には夢があります」

 

「夢?」

 

「はい。私の夢は、翠屋の再建です」

 

紅葉は前世では管理局員で次元犯罪者との逮捕劇最中、命を落とした。

 

この後世でも再び管理局員になって前世と同じ様な最後を遂げるのは正直御免だ。

 

それに今の自分には実家の翠屋を再建し、継ぐことが指名なのだ。

 

管理局に再び入るつもりは毛頭ない。

 

「翠屋‥‥」

 

高町なのはの実家が経営している翠屋‥‥。

 

(この世界にもあったんだ‥‥)

 

翠屋の事を知っているフェイトは、この世界にも翠屋が有った事に意外性を感じた。

 

「私のお店は母と父、そして祖母が切り盛りしていました‥‥ですが、ガミラスとの戦争で、私はお店も家族も失いました」

 

「「‥‥」」

 

「だからこそ、私は家族との思い出があるあのお店を‥‥翠屋を再建したいんです‥‥翠屋は二百年以上前から続いていたお店なんです‥‥ガミラスとの戦争前は、お店の中には絶えず、海鳴の人々の笑みがありました。だから、いつの日か、私の作ったお菓子やお料理で再び海鳴の皆に笑顔を届けたいんです」

 

「そう‥‥わかった。そう言う事なら、もうこれ以上、紅葉を管理局にスカウトしたりはしないよ」

 

フェイトがそう言って、ティアナも頷く。

 

(やっぱりこの子は、なのはの子孫ね、この年でしっかりと未来のビジョンを抱いている)

 

フェイトは紅葉の強い意志を見て間違いなく紅葉はなのはの血を継いでいる娘だと思った。

 

時空管理局は、管理外世界の住民でも優秀な魔導師資質がある者はスカウトすることを厭わないが、この世界は管理局より遥かに強い戦力を持っているし、子供が軍隊や警察組織で働く事を法律で禁じている。

 

それに紅葉自身がこの地球でやりたい事が有るなら、管理世界の揉め事に管理外世界の人を巻き込むのは、やっぱり気が進まないからだ。

 

フェイトの親友であり、ティアナの師たる高町なのはは自分の意思で管理局に手を貸したのだからまだ良いだろう。

 

彼女は両親も兄姉も皆健在で、出身世界は政治や戦争、紛争等の様々な問題を抱えているものの存亡の危機には至っていない。

 

しかし、同じ姓で容姿も似ている紅葉が生まれ育ったこの地球は一度ならず二度も外宇宙からの侵略によって存亡の崖っぷちに立たされた上、彼女の家族はガミラスとの戦争で全員落命した。

 

そういう過酷な環境で生きてきた彼女がこの世界に嫌気がさしているならばまだしも、当の紅葉にそういった様子は全くない。

 

むしろ、自分と同じ境遇の人々を救済したいと思っている。

 

良馬や忍たち、月村家の皆、紅葉がお世話になっている中嶋一家ら、紅葉の身近にはいい大人たちが沢山いるのだろう。

 

(兄さんが亡くなった後、私の周囲にはあの人たちみたいな大人はいなかったなぁ‥‥)

 

ティアナにとって紅葉の環境が少し羨ましく思えた。

 

「バルディッシュ、お願い」

 

フェイトが言うや、バルディッシュが点滅し、三人の前にウィンドウを展開する。

ウィンドウに映っているのは三人の若い女性の姿があった。

 

紅葉も僅かに瞠目し、その三人、特に左サイドポニーの女性を凝視する。

 

サイドポニーの女性は、髪と瞳の色を除けば紅葉が成長したらこうなるような容姿。

 

(八神二佐に高町一尉‥‥)

 

「この二人は私の親友の『八神はやて』と『高町なのは』って言う人たちだよ」

 

フェイトは、なのは、はやて との出会いから先日までの事をかい摘まんで話し、ティアナが補足する。

 

「‥‥」

 

(へぇ~ハラオウン執務官と八神二佐たちの出会いってそんなことがあったんだ‥‥)

 

その間、紅葉は一言も発することはなかった。

 

その頃、デバイス同士も念話形式での会話をしていた。

 

バルディッシュが訊ねる。

 

「ルシフェリオン、貴方はどの世界からどのようにしてこの世界に来たのですか?」

 

「ノーコメントだ。マイ・レディーから問われていない事をレディー以外の者に先に話すつもりはない‥‥一つだけ言わせてもらえば、時空管理局と似たような魔法による治安維持組織が存在していた世界だな」

 

「『存在していた』とは?」

 

過去形のように語るルシフェリオンに、今度はクロス・ミラージュが訊ねた。

 

「最後まで見届けたわけではないが、その組織は瓦解した。一握りの高ランク魔導士による、普通の魔導士や魔力を持たない者への支配の度が過ぎてな‥‥遂に大規模な武力反乱を招いた。高ランクの魔導師と言えども、多勢に無勢だった様だな。自己矛盾を曝すようだが、魔法など単なる付属物に過ぎぬのにな。そんなものが人間の価値を決めると考えた愚物共の何と多かったことか。製造されたばかりで、仕えるべき主がいなかった私は、その時起きた時空震に巻き込まれて偶然この星に来た。それだけの事だ」

 

「元の世界に戻りたいと思ったことは?」

 

「ない」

 

バルディッシュの問いにルシフェリオンから即答が返ってくる。

 

「では、貴方のレディー共々、時空管理局に来ると言う選択肢は?」

 

「ミス・高町は類い稀なる魔導師資質をお持ちです。管理局に入局すれば十分通用すると思いますが?」

 

物は試しと言わんばかりにバルディッシュとクロス・ミラージュがフェイトたち同様、ルシフェリオンにも管理局への入局を勧める。

 

「決定権を持つのはレディー自身だ。そもそもお主らの世界と地球連邦は正式な交流がない。物事の順序を間違えるなよ」

 

と素っ気ない。

 

「此方からも問うが、バルディッシュ」

 

「なんでしょう?」

 

「お主のマスターの親友である高町なのは嬢や八神はやて嬢も管理外世界出身なのだろう?何故、本来は異世界の組織である筈の時空管理局に身を置くようになったのだ?」

 

それに対してバルディッシュがPT事件や闇の書事件をかい摘まんで説明したが、ひととおり聞いたルシフェリオンは「そうか」と答えるに留まった。

 

結局、紅葉は管理局への入局の意思は示さず、ルシフェリオンも自分の主である紅葉が管理局に入局しなければ、ルシフェリオンも入局せず、主である紅葉に管理局への入局を勧める事は無いだろう。

 

次の日、ノエルが運転するマイクロバスで、良馬、忍、フェイト、ティアナ、ギンガ、桜花、加奈江、紅葉の面々は月村家が所有する温泉宿へと向かった。

 

守、サーシア ユリーシャたちにも声をかけたのだが、守たちは古代、雪、真田、島らのヤマトの親しい乗員たちとクリスマスを祝うと言う事で今回の誘いを辞退した。

 

一行が温泉宿に到着すると忍が宿の受付を行う。

 

その後、部屋割りを決めて、夕食までそれぞれ好きに過ごす事にした。

 

桜花と加奈江は温泉街の名物料理やお菓子を食べる歩くために、温泉街へと向かった。

その他のメンバーは宿の温泉へと向かった。

 

「へぇ~初めて来たけどこれは凄いな」

 

良馬は、男湯から露天風呂の扉を開ける。

 

そして、目の前に広がる壮大な露天風呂の景色に思わず声をあげて、露天風呂へと近づく良馬。

 

そこへ、

 

「きゃあっ!?」

 

「ん?『きゃあ』?」

 

良馬の耳に聞き逃せない声が聞こえてきた。

 

(今のって、間違いなく女性の声だよな。しかも何か聞き覚えのある感じの声だったけど‥‥)

 

「だ、誰ですかっ!?」

 

「ん?その声‥‥」

 

謎の声の主が、良馬に何者なのかを訊ねてくる。

 

湯気で良く見えないけど、うっすらと見えるシルエットは間違いなく女性だ。

 

(あ、あれ? ここって確か男湯の筈じゃあ‥‥? 何で女の人が?)

 

そんな風に混乱していると、次第に湯気が薄くなり、シルエットだった女性の顔が見えてきた。

 

そして、湯気の向こうにいたのは‥‥

 

「ぎ、ギンガ!?」

 

「りょ、良馬さんっ!?」

 

タオルを体に巻いただけのギンガだった。

 

「りょ、良馬さん。何で此処に!?」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待って!!ここは男湯だろう!?どうしてギンガが!?」

 

「そんなっ!?私、女湯からこっちに来たんですけど‥‥」

 

「い、いや、俺も男湯から来たんだけど‥‥」

 

どうやら随分と混乱しているらしく、互いに男湯だ女湯だと主張を繰り返す。

 

互いに主張し合った後、良馬たちはあるひとつの結論に辿り着いた。

 

というか、お互いの言い分が正しいなら、それ以外に結論なんて無いんだが。

 

「混浴‥‥」

 

「だったんですね‥‥」

 

良馬は男湯から、ギンガは女湯から入ってきた以上、つまりはそういう事なんだろう。

 

そうでなきゃ、男湯と女湯が同じ場所に繋がっている説明がつかない。

 

(ま、まぁ‥入って来たのがギンガでこの場合は良かったのかな?)

 

ギンガの場合は、これまで何度も身体を重ね合わせて来た仲のため、ギンガの裸体を知らない訳では無い。

 

忍やノエル、リニスの場合も家族なので、小さい頃から何度もお風呂に入った仲なので、彼女たちの裸も知らない訳では無い。

 

しかし、フェイトとティアナは違う。

 

もし、彼女たちと鉢合わせをすれば、かなり気まずい思いをしただろう。

 

「あ、あの‥‥」

 

「ん?」

 

「と、とりあえずお風呂に入りましょう? このままじゃ、お互い風邪ひいちゃいますよ」

 

「ん? あぁ、そうだな」

 

言われるまま、とりあえずギンガと一緒に湯船につかる良馬。

 

どうやら言い合いをしている間に思った以上に体が冷えていたらしく、じんわりとしたお湯の温かさが体に心地いい。

 

「ふぅ~‥‥」

 

「はぁ~‥‥」

 

生き返るようなお湯の温かさに、思わず声が漏れてしまう。

 

「そう言えば良馬さん」

 

「ん?」

 

「私の裸‥見ましたね」

 

「い、いや、見てない。湯気越しにちらっと見えたかもしれないけど‥‥」

 

良馬は見えていないと言う。

 

実際に湯気の影響で大して見えていなかった。

 

湯気越しに肌色がちょっと見えたくらいだし、なによりギンガは良馬の声が聞こえてすぐにタオルを巻いただろうしな。

 

仮に見えていたとしても、肩とかそんなところだと思う。

 

アタフタしながらもギンガの質問に答える良馬。

 

なお、ギンガは長い髪をタオルで纏めている。

 

お湯に髪がつかないようにという配慮らしい。

 

「そうなんですか‥ちょっと残念、見られていたら後で何か奢って貰おうと思ったんですけど‥‥」

 

「何、黒いこと考えているんだ?君は‥‥」

 

「えぇ~? だって、女の子の裸を見たら、それくらい当然じゃないですか?」

 

苦笑しながらギンガの頭を軽く小突き、ギンガは楽しそうに笑って良馬の肩を叩く。

 

「いや、でも、ギンガ。君の裸は何度も見たし、君だって俺の‥‥その‥‥」

 

互いの裸を知らない訳ではないのだが、こうして口にしてみると本人を目の前にして言うとやはり恥ずかしい。

 

しかし、その反面、互いの裸を見慣れた仲だからこそ、こうして湯に浸かっているのだ。

 

「‥‥」

 

でも、ギンガの方もやはり恥ずかしかったのか顔を赤くして頷く。

 

それから数分後、何とか気持ちを取り直した良馬とギンガは露天風呂から出ることなく、まったりと湯船につかっていた。

 

「此処のお風呂、空が良く見えますね‥‥夜になればきっと星が綺麗でしょうね‥‥」

 

「露天だし、少し標高が高い場所にこの宿は建っているからね‥‥」

 

空を見上げて呟くギンガに、良馬も空を見上げながら言う。

 

「でも、星空なんて、宇宙に出れば、嫌と言うほど見れるじゃないか」

 

良馬としては、星の海をギンガよりも長く航海しているため、星空なんて見飽きている。

 

「それはそうですけど、こういう場所だと何か雰囲気が違いませんか?」

 

「そう言うもんかな?」

 

「ええ、そう言うモノですよ」

 

良馬はギンガに言われ、大空を見上げる。

 

「それにしても、気持ちいいですねぇ」

 

ギンガが良馬の右肩に頭を乗せて、クスクスと笑いながら頬ずりしてくる。

 

タオルに纏められた髪が少しだけ零れ、ギンガが頬ずりするのに合わせて良馬の肩をくすぐり、そのむず痒さに彼は少しだけ身じろぎした。

 

「ギンガ、一応君も女性なのだから、少しは恥じらいを持ちなさい」

 

「持っていますよ? だから、ちゃんとこうしてタオルで体は隠しているじゃないですか」

 

「いや、そうじゃなくて、行動そのものに、もうちょっと恥じらいを‥‥まぁいいや別に‥‥」

 

恐らくギンガがこうした行動を取るのは良馬の前だけだろうからギンガに言っても徒労に終わるだろう。

 

暫く二人で露天風呂に入っていた二人であったが、他の誰かが露天風呂に入ってくる気配はない。

 

何時しか、二人は互いに向き合う位置となり‥‥良馬は、ギンガを右手で押さえつけ、顔を寄せる。

 

そして、空いている左手で顎を持って、ギンガの顔を上に向けさせ、良馬もギンガに顔を寄せる。

 

元々近かった距離が更に縮まり、お互いの吐息が感じられるくらい近くなった。

 

そして‥‥

 

「「んっ‥‥」」

 

二人の唇は重なり合った。

 

ギンガと良馬が露天風呂でイチャついている頃、

 

フェイトは露天風呂へ‥‥今まさにギンガと良馬がイチャついている現場へと向かっていた。

 

露天風呂の近くまでやってきた時、風呂場の床に人が倒れていた。

それは‥‥

 

 

「っ!?ティ、ティアナ!?」

 

そこに倒れていたのは、ティアナだった。

 

ティアナは、顔を真っ赤にしてブルブルと身体を痙攣させながら床に倒れていたのだ。

 

何事かとフェイトは彼女の名前を呼びながらティアナに駆け寄り、倒れていたティアナを抱き起す。

 

「ど、どうしたの?ティアナ!?のぼせちゃったの!?しっかりして!!」

 

「‥‥」

 

「えっ?何?」

 

フェイトに助けだされ起こされたティアナは消え入りそうな声でブツブツと何かを呟く。

 

それはとても小さく、耳に届かなかったフェイトは問い返しながら口元に耳を近づけた。

 

「だ、ダメ‥‥」

 

「ダメ?何がダメなの?ティアナ」

 

「外‥‥外‥‥」

 

「外!?外に何があるの!?」

 

「外を‥見ては‥‥いけません‥出ては‥いけません‥‥リア充‥‥死ね‥‥」

 

そう言ってティアナはガクッと意識を失った。

 

ティアナは一体外で何を見たのだろうか?

 

その原因をフェイトは疑問に思い気になった。

 

「外を覗いたらダメって、ティアナは言っていたけど‥‥」

 

嫌な予感は感じている。

 

しかし、怖いもの見たさという言葉があるように、何故ティアナがこうなったのか原因をどうしても見て見たいという気持ちは大きく、フェイトはその誘惑に勝てなかった。

 

フェイトは、再びティアナを床に横たえると、『露天風呂』と書かれた看板の隣にある扉を少しだけ開き、外を覗き見る。

 

そこで彼女が見た光景は‥‥

 

 

「フェ、フェイト!?どうしたんですか!?それにランスターさんも!?」

 

露天風呂に続く扉の前でフェイトが顔を真っ赤にしてピクピクと痙攣しながら倒れていた。

 

フェイトの近くにはティアナも倒れている。

 

「お二人とも、どうしたんですか!?のぼせたんですか!?」

 

リニスが倒れていたフェイトを抱き上げる。

 

「‥‥」

 

「えっ?何ですか!?」

 

ティアナの時と同じようにフェイトも何がブツブツと呟いていた。

 

しかし、よく聞こえなかったリニスは自らの耳をフェイトの口元に寄せる。

 

「合体‥‥」

 

フェイトが苦しそうに呟いたのはその意味不明な言葉。

 

「はい?合体?」

 

「ギンガと‥‥月村艦長が‥‥合体‥‥」

 

『合体』と言う言葉の意味をリニスに伝えたフェイトは、その言葉を最後にガクッと意識を失った。

 

フェイトの最後の言葉の意味を理解したリニスは、

 

「はぁ~あの二人はもう‥‥」

 

やや、呆れた顔をして、フェイトを脱衣所まで運び、ティアナはノエルが運んだ。

 

「‥‥」

 

ジトー

 

「‥‥」

 

ジトー

 

温泉から上がったギンガは、脱衣所にて意識を取り戻したフェイトとティアナのジトーっとした視線に晒された。

 

「えっと‥‥」

 

気まずそうにギンガはフェイトとティアナに声をかける。

 

「ギンガさん。何か妙に肌が艶々ですね?」

 

まずはティアナがギンガへ軽いジャブを打ち込む。

 

「そ、それは、あの温泉の効能じゃないのかな?」

 

「それにしては随分疲れている様にも見えるけど?」

 

続いてフェイトまでもが攻勢に出る。

 

「お、お風呂って言うのは、案外体力使うんですよ‥‥」

 

ジトー

 

「あぅ‥‥」

 

ギンガの言い訳らしい言葉に更にジト目をきつくするフェイトとティアナ。

 

そんな三人のやり取りが理解できない紅葉と、ギンガの自業自得だとこの一件に対して、静観を決め込んだリニス。

 

もう一人の当事者の良馬は、これまた妙な事に温泉へ入った筈なのだが、「少し疲れたので、夕食まで休む」と言って部屋へと戻って行った。

 

ジト眼でギンガを睨みながら、ティアナは、

 

(そう言えば、ギンガさん何か前より綺麗になった感じがする)

 

改めてギンガを見てそんな思いを抱いた。

 

以前から美人ではあったのだが、局員時代のギンガと比べると、それに磨きがかかったように思う。

 

化粧や服飾に変化があったわけではないが、些細な表情や仕草にそれを感じていた。

 

それはフェイトも感じており、

 

(ギンガ‥局員の時よりも何だか凛々しくなったなぁ‥‥やっぱり、ギンガの様子を見ても、分かる様に管理局よりも防衛軍の方が訓練は厳しいんだろうな…その厳しさが有るからこそ、凛々しく強いんだろうな‥‥)

 

と、ギンガの纏う雰囲気が局員の時よりも洗練されているように見えた。

 

フェイト、ギンガ、ティアナ、リニス、紅葉の五人が遊戯室へと行くと、其処には卓球台が置いてあった。

 

「あっ、卓球台がある」

 

フェイトが卓球台を見つけた。

 

「いいですね!折角ですからやりましょう!」

 

「やるんなら罰ゲームきめましょう」

 

「いいわね!それじゃあ、アレをやりましょう。アレ!」

 

「アレ?」

 

「ほら、お題に答えて球を打つアレ」

 

「古今東西?」

 

「そう、その古今東西」

 

ゲーム内容が決められて行き、そして、後は罰ゲームの内容を決めるだけとなった時、

 

「それじゃあ、罰ゲームは、私のルシフェリオンをゼロ距離で受けるで、どうでしょう?」

 

紅葉が罰ゲームの内容を言うと、四人がピシっと固まる。

 

「それって‥‥BRAVE DUELの中で?」

 

フェイトが恐る恐る訊ねる。

 

「いえ、月村家の地下には魔導競技用の闘技場があるので、そこで‥‥」

 

紅葉の言う罰ゲームは、BRAVE DUELのアバターではなく、本人で受けると言うモノだ。

 

彼女としては別ゲームを受けるのがフェイトかティアナの場合、改めて釘を指す意味合いも含まれていた。

 

「競技用の闘技場って‥‥」

 

「ありますよ。私とギンガさんも、そこでリニスさんに魔法を教授されましたから。ねっ、リニスさん、ギンガさん」

 

「え、ええ‥‥」

 

「そ、そうね‥‥」

 

「それじゃあ、それで決りですね」

 

紅葉の強引なやり取りで罰ゲームが決まった。

 

有無を言わせない強引な所など、なのはに似ていると、フェイトとティアナはそう思った。

 

そして、罰ゲームの内容を知った四人は‥‥

 

((((絶対に負けられない!!))))

 

と、心の中で闘志を燃やした。

 

「それじゃあ、三回ミスしたら罰ゲーム‥‥お題は‥‥地球に関する事で問題ないですか?私はその‥ミットチルダの事は分からないので‥‥」

 

本当は知っているが、ここで知る筈もないミッドについて知っている素振りを見せると怪しまれるので知らない振りをした。

 

「え、ええ。私は大丈夫よ」

 

「私も一通りの事なら‥‥」

 

フェイトとティアナはお題が地球に関する事で問題ないと言って、ゲームが開始された。

 

審判は罰ゲームを執行する紅葉が行うため、お題が地球に関する事になったのだ。

 

「では、第一回戦‥お題は‥‥海王星の衛星の名前!!」

 

「えっ!?」

 

お題を聞いて、フェイトは慌てる。

 

「はじめ!!」

 

カッ

 

「プロテウス」

 

カッ

 

「ネレイド」

 

カッ

 

ギンガとリニスは防衛軍軍人の為か、太陽系の惑星にある衛星の名前は訳もなく、答える。

 

「トリトン」

 

カッ

 

そして、ティアナまでもが、普通に答えた。

 

「えっと‥‥えぇぇぇ――‥‥?」

 

フェイトは答えられず、ラケットを空振りしてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待って!!問題難しくない!?それにティアナ、何で貴女まで、こんなマニアックな事を知っているの!?」

 

フェイトは、ティアナに何で海王星の衛星の名前を答える事が出来たのかを訊ねた。

 

「えっと‥‥まほろば に乗っている途中で折角ですから太陽系の惑星や星について勉強をしていたので‥‥」

 

ティアナは、答えられた理由を話す。

 

自分もやっておけばよかったと言う思いと、ティアナに裏切られたと言う思いが交差するフェイト。

 

「第二回戦!」

 

一回戦目は負けたが、後の勝負に負けなければ、良いと意気込むフェイト。

 

「お題は‥‥第二次世界大戦中に登場した戦艦の名前!!国は問いません!!では、スタート!!」

 

カッ

 

「『武蔵』」

 

カッ

 

「『アイオワ』」

 

カッ

 

「『大和』」

 

コッ

 

「言われた!!」

 

またもフェイトが空振りをした。

 

大和に関してはヤマトを調べる際、フェイトも知っていたので、唯一答えられそうな艦名だったのだが、同じくヤマトに乗艦していたティアナに先に言われてしまったフェイト。

 

今回は順番が悪かった。

 

「ねぇっ!!ちょっと!!皆で打ち合わせしたの!?」

 

「いえ‥‥」

 

「そんな事は‥‥」

 

「していませんよ‥‥」

 

連続で難問を出され、二回連続で、空振りをしたフェイトは思わず声をあげる。

少し見苦しい態度である。

 

しかしあと一回、あと一回、失敗したらフェイトは紅葉のルシフェリオンをゼロ距離で食らう。

 

彼女としては形振りなんて構っていられない。

 

「さ、三回戦目は私にお題は決めさせて!!」

 

「良いですよ」

 

こうして、三回戦目はフェイトが決めたお題で始まった。

 

(もう後は無い‥なんとしてでも勝たないと!!)

 

「地球の国旗で『星』のマークがある国の名前!!アメリカ!!」

 

コッ

 

「オーストラリア」

 

カッ

 

「パプアニューギニア」

 

カッ

 

「中国」

 

コッ

 

「‥‥」

 

ティアナが答えた後、フェイトはまたもや答えられず、ラケットを振る事を出来ず、ゲームは終わった。

 

(アメリカと中国しか知らないし‥‥なにもんなのよ!?この人たち‥‥もういいよ‥‥私で‥‥)

 

半ば自棄になってフェイトであった。

 

後日彼女は罰ゲームを受ける事になる。

 

夕食時間になり、大広間にて、今回の旅行のメンバーが集まった。

 

「様々な偶然と巡り合わせで、様々な面々がこうして一堂に会することになりました。直接のきっかけは凶事でしたが、何事も命あっての物種です。我々生き延びた者は、不幸にも命を落としてしまった人たちの分まで、たとえ無様でも、前を向いて生きていきましょう。皆さん、かなりお腹空いていると思うので、以上!乾杯!!」

 

『乾杯!!』

 

良馬の音頭で乾杯し、一同は箸を取った。

 

「日本育ち」のフェイトは器用に箸を使い、ミッドで地球の日本料理を口にしているティアナも支障なく箸を使っている。

 

食事が済み、デザートのクリスマスケーキにも舌鼓をうった後、桜花と紅葉がゲームコーナーに行くと言ったので、ティアナも一緒に向かった。

 

フェイトを含む大人組はリビングでコーヒーや茶を手にしながらしばしの歓談だ。

 

フェイトへの質問はミッドチルダでの暮らし向きや機密に触れない程度での「執務官」の仕事の事だった。

 

しかし、フェイトの災難はこのクリスマスの後に降りかかった。

 

 

後日、月村家の地下にある魔導競技用の闘技場にて‥‥。

 

「ば、バインド!!」

 

フェイトの身体を紅葉はバインドでガッチリとホールドして逃げることが出来ない様にした。

 

「逃げないようにです。では、いきますよ!!疾れ明星!!すべてを焼き消す炎と変われ!!」

 

紅葉が詠唱を唱え、ルシフェリオンからはガチャン、ガチャンとカートリッジがロードされる。

 

「えっ!?ちょっ!!カートリッジをロードまでするの!?」

 

フェイトの質問には答えず紅葉は発射準備を整える。

 

そして、

 

「‥‥真!ルシフェリオン!ブレイカ――――ッ!!」

 

ルシフェリオンの先端から放たれる収束砲撃。

 

それは、BRAVE DUELの時に食らったルシフェリオン・ブレイカー以上の収束砲撃だった。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

フェイトの絶叫と共に彼女の身体は灼熱の様な収束砲撃に飲み込まれた。

 

目の前の惨劇にティアナはガタガタと体を震わせた。

 

海鳴で、なのはそっくりの少女にバインドを掛けられて、至近距離から収束砲撃を食らう‥‥。

 

名前の通り、これがフェイトの運命なのだろうか?

 

そしてフェイトに新たなトラウマの一つが生まれた瞬間でもあった。

 

 

おまけ

 

仰天メンテナンス 

 

 

温泉宿で宴もたけなわになった頃、

 

「♪~」

 

紅葉は、リニスとノエルの客室で鼻歌を歌いながら、旅館の人に頼んで用意してもらったハリオールの用意をしていた。

 

ハリオールの他に客室にあるテーブルの上には、ティーポットやワイン、ブランデー等の酒類と耐熱使用のタンブラーも置いてある。

 

そしてギンガのデバイス、ブリッツ・キャリバーとリニスのデバイス、バルフィニカスも置いてあった。

 

「く、紅葉‥‥?」

 

「はい?」

 

「何‥‥やっているの?」

 

目の前の光景にフェイトとティアナは顔を引き攣らせ、彼女たちの愛機も目まぐるしく点滅して、共に混乱している事を如実に示していた。

 

「ルシフェリオンたちの定期メンテナンスです」

 

「メンテナンスって‥‥それが!?」

 

ティアナが上擦った声でツッコむ。

 

「信じられない‥‥」

 

フェイトも声が少し裏返って言う。

 

それほど、紅葉とルシフェリオンたちがしている事は、フェイトやティアナら、ミッドチルダの魔導師から見ると余りにも「非常識」だった。

 

ギンガとブリッツ・キャリバーもこの世界に来た時、始めてこのメンテナンス方法を見て、仰天したのは言うまでもない。

 

用意されたティーカップにはチェーンから外されたルシフェリオンが入れられ、そこに紅葉がティーポットを使い紅茶を注ぎ、少量のブランデーを淹れる。

 

ルシフェリオンの他にもギンガのブリッツ・キャリバーも耐熱タンブラーに入れられて、其処にホットラムを注ぎ、リニスのバルフィニカスもホットワインが入ったグラスの中に入っている。

 

「郷に入っては郷に従えと言うからな。実に心地好いぞ!!地球の酒は!!君たちもどうだい?」

 

と、ルシフェリオンはバルディッシュとクロス・ミラージュを誘う。

 

「い、いえ‥‥」

 

「我々は‥‥」

 

バルディッシュとクロス・ミラージュもやんわりと断る。

 

もしバルディッシュとクロス・ミラージュが八神はやて、シグナムの愛棒であるリィン(リィーンフォース・ツヴァイ)やアギトの様なユニゾンデバイスであったならば、顔を引き攣らせていただろう。

 

「そうか‥‥?むっ!?レディー‥‥もう少し、ブランデーを足してもらいたいのだが‥‥」

 

「あんまり沢山はダメだからね」

 

そう言って紅葉は、ティーカップの中に少量のブランデーを追加で垂らす。

 

「ふぅ~‥‥」

 

まるで温泉に浸かるかのような声を出すルシフェリオン。

 

黒紫色の筈のルシフェリオンは明紫色に点滅している。

 

(アナライザーといい、ルシフェリオンといい、何なんですか!? この世界は。訳がわからないですよ!!)

 

(ティアナ、悩むのはミッドに帰ってからにしよう‥‥)

 

フェイトたちはこの世界に来て以来、最大の衝撃にそれ以上の言葉を口に出来なかった。

 

「兄上。兄上もどうですか?気持ちいいですよ~」

 

ルシフェリオンに続き、バルフィニカスもバルディッシュを誘う。

 

バルフィニカスがバルディッシュを「兄上」と呼ぶのは、この二機はどちらともリニスが製造したデバイスだから、先に造られたバルディッシュは、バルフィニカスの兄機となるからである。

 

「いえ、ですから‥‥」

 

バルディッシュがまたもや断ろうとしたら、

 

「あれあれ?怖いんですか?兄上ともあろう方が?」

 

バルフィニカスがバルディッシュを挑発する。

 

「ムッ、マスター。私も入ります!!」

 

「えっ!?バルディッシュ?」

 

「弟にあそこまで言われては、兄として黙っている訳にはいきません!!」

 

バルディッシュは、バルフィニカスの挑発に乗り、ホットワインが入っているカップに自らを入れてくれとフェイトに頼む。

 

フェイトはバルディッシュを恐る恐るバルフィニカスが浸かっているホットワインの入ったグラスの中へと入れる。

 

ホットワインが満たされたグラスへと入ったバルディッシュは、

 

「はふぅ~‥‥確かにコレは最高ですねぇ~‥‥」

 

バルディッシュは赤く点滅しながら、普段の凛々しい声が嘘の様に甘い声を出す。

 

「切り替え早っ!!」

 

愛機の行動に思わずツッコミをいれるフェイト。

 

「‥‥あの‥マスター‥‥」

 

すると、クロス・ミラージュもソワソワした感じの声でティアナに話しかける。

 

「何?クロス・ミラージュ?まさか、アンタも‥‥」

 

「はい、私もチャレンジしてみたいです」

 

クロス・ミラージュもバルディッシュの様子を見て、自分もチャレンジしてみたくなった様だ。

 

「あんたねぇ~」

 

ティアナは自分の愛機の流されやすさに思わず額を押さえる。

 

そしてティアナがルシフェリオンの入っているブランデー紅茶入りのティーカップに入れる。

 

「うーん‥‥確かにコレはいい気分です~」

 

「そうだろう?」

 

バルディッシュもクロス・ミラージュも最初は、「信じられない」と言っていたにもかかわらず、リラックスモードに入る。

 

「「‥‥」」

 

この様子に、フェイトもティアナも何も言えず、ただ唖然と見ているだけであった。

 

しかし、この旅行の後日、デバイスを起動する機会があり、その時に使用した際、ミッドで通常メンテナンスを行った時よりも精度が上がっていた事に二人は驚愕しつつも、この滅茶苦茶なメンテナンス方法に何も言えず、軽い頭痛を覚えた。

 

更に二人が困惑したのは、この仰天メンテナンス以降、二機のデバイスはこの仰天メンテナンスを二人に要求し続けて来た事だった。

 




松本作品での登場食糧と言えば、ラーメン、(縦だか横だか分からない程の分厚い)ビフテキ、そして酒!!

EF12 さん、ありがとうございました。
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