星の海へ   作:ステルス兄貴

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七十二話 悩みは深し管理局 でも、地球はそんなの関係ねぇ

時空管理局・本局 喫茶スペース

 

「それ、本当なの!?はやてちゃん!?」

 

「うん、クロノ君から聞いた情報やから間違いあらへん。クライスラーは第二の地球に向かって、向こうの太陽系の外縁に達して、『地球の座標を掴んだ』との通信を最後に、連絡を絶ったそうや‥‥“海”では、地球防衛軍に拿捕か撃破されたと見とる」

 

「そ、そんな‥‥」

 

なのはもはやても沈痛な表情になっている。

 

「あれだけの艦船を運用しとるんや。太陽系のあちこちに哨戒網を敷いていても何ら不思議やあらへん。ましてや向こうは管理世界じゃないんや。黙って入り込めば当然領海侵犯で捕まるか、撃沈されるやろな」

 

「それで、向こうの地球(地球防衛軍)には確かめるの?」

 

「一部のお偉いさんは防衛軍に問い質せと言うとるけど、たぶん無理やろな」

 

はやては呆れたという口調で返す。

 

「そんなっ!?どうして?」

 

なのはにしては、こちらの艦船が防衛軍によって撃沈または拿捕されたかもしれないのに何故、その事を問いださないのか理解できなかった。

 

「なのはちゃん、そんな事言うたら、管理局はそちらの領域を侵犯しましたと認めるようなもんやで、逆にこっちが問い詰められてまうし、フェイトちゃんたちにも悪影響や。まったく、何考えとるんや、“海”の上の連中は‥‥いや、もしかしたらもう悪くなっとるかもしれへんで‥‥」

 

はやてはなのはにクライスラーの行方を防衛軍に問いただせない理由を説明し、深く溜息をついた。

そして、彼の地にいる親友たちの身を案じる。

 

「向こうに管理世界の常識を押し付けようとしたってせせら笑われるだけやのにな。何でわからんかなぁ‥‥」

 

「でも、私たちは次元世界の平和を守るためにいるんだよ。話し合えば、向こうだって分かってくれるかも知れないよ。それに質量兵器は危険だし、新たな争いを生む元になるし‥‥」

 

異議を唱えるなのはだが、はやては構わず、

 

「なのはちゃん、同じ地球でも、あっちは星間絶滅戦争を戦い抜いた人たちやからな。話し合いはできても、質量兵器全廃なんか絶対応じんやろ。私ら魔導師に魔法を捨てろと言うような事やからな。それに管理局があの世界の地球を防衛軍に代わって守れると思うとるのか?」

 

「‥‥」

 

はやての言葉を聞き、なのはは、手元のミルクティーに視線を落とした。

さすがに「できる」と即答する程、なのはは脳天気ではない。

確かに彼女の言う通り、防衛軍でさえ、苦戦を強いられたガミラスや彗星帝国に対し、防衛軍以下の艦船技術しか持ち合わせていない管理局では不可能だ。

仮に彼らの技術全てを接収しても、管理局の規制でその全てが採用されるとは限らない。

なのはの脳裏に先日画面で言葉を交わした良馬の顔が思い浮かんだ。

管理局員とは眼の光からして違っていた。

あれは、表面上は好青年であるがその内に秘める本質は肉食獣や猛禽類であり、なによりその眼が本質を語っていると、なのははそう思った。

そう、それは自身の兄、高町恭也と同じような雰囲気だ。

一方、はやての方はクライスラーの一件を聞き、カリムの預言が脳裏を過った。

 

(まさか、あの時の預言の一つが之かいな‥‥すると、もう一つの預言が起きる可能性も十分ある訳やな‥‥後でカリムに会って話をせな‥‥あの世界では、管理局は弱小勢力だと自覚せんと死ぬで。それを海のお偉いさんは分かっとらんのかな?)

 

緊張した面持ちでカップに入った紅茶を飲むはやてだった。

 

 

ミッドチルダ 西部地方 エルセア ナカジマ家

 

リビングのテーブルでは、五人の男女が食卓を囲んでいた。

壮年の男性は世帯主のゲンヤ・ナカジマ。共に食事をしているのは、チンク・ナカジマ、デェイチ・ナカジマ、ノーヴェ・ナカジマ、ウェンディ・ナカジマ。

皆、養女ではあるが、戸籍上はゲンヤの娘である。

内、一人は、女性はおろか男性でもそうそう見られない量の料理が山盛りならぬ山積みになっていた。

食卓を囲む皆の表情は、一様に冴えわたっているとは言い難いものだった。

それは娘たちの料理の腕や食事の量が原因ではない。

ゲンヤは時空管理局三等陸佐で、首都クラナガン警護の一翼を担う陸士108隊を預かっている立場上、管理局内部の情報に触れる機会は少なくない。

 

「気になるか?ティアナ嬢ちゃんたちの事?」

 

娘たちの内、赤髪のショートカットの髪型でナカジマ家の次女であるスバルに似ている少女、ノーヴェと同じく赤髪でパイナップルの様な髪型のウェンディに話を振る。

 

「うん。向こうで元気にしていると解ってはいるけど、やっぱりね‥‥」

 

「スバルも結構気にしていたッス」

 

「あの嬢ちゃんたちのことだ。ただ無為に向こうの世界で日々を送るはずはないさ」

 

敏腕で鳴らした執務官とその補佐官だ‥あの世界の「生きた」情報を収集して帰ってくるはずだ。流石に向こうの軍事機密等につては無理だろうが‥‥。

 

「そうだな。父様の言う通りだ。相手をよく知らないことには対応しようがないからな」

 

銀髪で右目に眼帯を着けたチンクが相槌を打つ。

彼女は見た目が小さくナカジマ姉妹の中でも一番下の娘に見えるが、実は、本来の長女であるギンガが鬼籍に入っているため、このナカジマ家の中では一番上の娘に当たる。

 

「“海”はどう考えているのかな?地球防衛軍の艦船を接収しに行くなんてバカな事しなきゃいいけど‥‥」

 

ディエチが今後の管理局の対応に危惧する。

 

「あれだけの戦闘力を持っているんだ。“海”としては喉から手が出る程、向こうの技術を欲しがる連中は少なくないだろうよ。同じ艦でも一隻でアルカンシェルを遥かに凌ぐ火力は、管理局から見れば非常識も甚だしいからな」

 

ディエチの懸念に、ゲンヤは地球防衛軍の宇宙戦艦に管理局が抱く不安感を口にした。

 

「でも、自分たちの世界を守るためにあれだけの戦闘力が必要不可欠だとしたら、これまであの世界を知らなかった管理局があれこれ干渉する権利はないのだろうか?」

 

チンクが第二の97管理外世界の立場を口にする。

彼らは、タキオン機関の設計図こそ外の世界から提供を受けたが、機関自体の製造や艦船の建造は自分たちの手で行った。

それは自分たちの手で作り上げたに等しい戦力だ。

しかも彼らはそれらの技術を更に向上させる為、日々様々な実験と努力を重ねている。

それらの技術を管理局が横からかすめ取る権利など存在せず、それをやれば向こうの地球は管理局を侵略者か窃盗組織だと認識するだろう。

最も管理局に限らず、技術の接収に唯々諾々と応じるとは思えない。

 

「そこなんだよなぁ。“海”の連中が恐れているのは‥‥あの世界のみならず、ガトランティスの奴等の技術が流入して、反管理局勢力や無理やり管理世界にされた世界にそれが渡る事さ。そうなれば、今の管理局の戦力では手に負えなくなり、管理世界から離脱するところもあるだろうさ」

 

ゲンヤがやれやれと言った様子で言う。

 

「それか、他の管理世界が、ガトランティスの様な強力な侵略世界に侵略される事も恐れているんだろうな。もしそうなれば、管理局にその世界を救う力は無い。そうなれば、当然管理局はその世界を切捨てて、そこに住んでいる住人たちを見捨てる。それは管理局の信頼と存続に関わるだろう‥‥まっ、時空管理局の元でこそ、世界の平和は保たれる――。そう考える者が意外に多いからな‥‥特に“海”には‥‥」

 

「地球連邦や地球防衛軍の人たちにすれば、ハードもソフトも弱い連中がでしゃばるな、と言いたいのかもな」

 

ノーヴェも防衛軍と比べると管理局は貧弱だと自覚はしている様だ。

 

「戦闘に対する考え方が根底から違うからな。あの地球が俺のご先祖さんの故郷――第97管理外世界――と似た歴史を歩んできたのなら、戦闘とは相手を殺すか自分が殺されるかだ。万が一、管理局と地球防衛軍が戦闘状態になったら、向こうがこっちに来ることが出来ない代わりに、管理局が攻め込んで来るのを手ぐすね引いて待ち構えるだろうな。あのヤマト や まほろば をはじめとする強力な宇宙戦艦と質量兵器がな。よしんば降下に成功しても、今度は地上軍の待ち伏せと、住民からの敵意と憎悪が待っているだろうな」

 

「「「「‥‥」」」」

 

ゲンヤが口にする「住民からの敵意と憎悪」の一言に姉妹は言葉が出なかった。

自分たちは以前、次元犯罪者として指名手配されていたジェイル・スカリエッティの一味としてテロをはじめとする犯罪活動をして、敵意と憎悪を浴びてきたが今は更生して普通の一般人として生活している。

それが、武装隊員としてかの地球に派遣され、住民…特に子供たちから罵声と石礫を投げつけられたら、憤怒よりも悲しくなってしまうだろう。

スバルが向こうの軍人と話す機会があり、彼女曰く、「自分と話した人は、話がわかる人たちだったが、それでもいざとなれば、こちらを殺す事をためらわないだろう」と言っていた。

ナカジマ家の皆はこの時点ではクライスラーのことは知らなかったが、その艦が第二の地球の座標測量に向かい、消息不明になったと知った時は、共に長嘆息することになった――。

 

 

時空管理局 本局 クロノ・ハラオウン 執務室

 

「やっぱり本当なの!? クロノ君?」

 

「ああ‥残念だが、本当だよ」

 

相向っている十年来の友人からもたらされた報せに、なのはは愕然とし、はやては額を押さえて長嘆息した。

あれから喫茶ルームを出たなのはは、クライスラーの一件が本当なのか、クロノに直接訊ねに来たのだ。

 

「そ、そんな‥‥」

 

なのははソファーから腰を浮かせ、声を上擦らせる。

 

なのはは元々喜怒哀楽がはっきりした性格だが、そのただならぬ様子に、隣のはやても訝しがった。

 

「どないしたん?なのはちゃん?」

 

「‥‥クライスラーには‥‥私の教え子が二人‥‥乗っていたの‥‥」

 

戦技教導官であるなのは、教え子は、大半が各世界に配属されている武装隊員だが、中には次元航行艦配属の武装隊員もいて、今回行方不明となったクライスラーにも低魔導師であるが、なのはの教え子が含まれていた。

なのは曰く、その二人の教え子は、六課時代のティアナ同様、自分たちの魔力ランクに対し、負い目を感じていたが、その点は、六課で培った教導方法でカウンセリングを組み込みながら、なのははその二人に魔法を教えて行った。

二人は、自信を持った様子でその後もなのはの教導を受けて、部隊に配置された時には、なのはに、満面の笑みで報告して来た時、なのはは思わず、涙を流したのを今でも覚えている。

当然、その二人も艦もろとも行方不明なのだ‥動揺するなと言う方が無理だろう。

絶句し、暗い表情で、ソファーに腰を下ろしたなのはに代わり、はやてがクロノに訊ねる。

 

「それで、本局ではどう考えているん?」

 

「向こうの太陽系内に侵入した結果、地球防衛軍のスクランブルを受け、領域侵犯の現行犯で拿捕されたか、あるいは‥‥考えたくはないが、攻撃を受けて沈められた可能性もある」

 

「領海侵犯かぁ‥‥また余計な事してくれたなあ。“海”の上の連中は‥‥」

 

はやても表情を暗くする。

 

「あくまで仮定の話だがね。仮にクライスラーが太陽系に無断侵入したのなら、地球連邦は怒るだろうし、管理局への印象は悪くなるだろうな‥‥いや、既に悪いのが尚、一層悪くなるだろうな」

 

クロノは自嘲気味に言う。

既に管理局は向こうの地球の座標を掴もうとして、次元通信ポッドに小細工をした揚句、逆に見破れ、おちょくられるという醜態を演じた。

あれだけでも、向こうからしたら、不愉快極まりないはずなのだ。

しかし、今度の件は通信ポッドの件とは違い、実際に艦を領海内に侵入させてしまっている。

不愉快所の騒ぎでは無い。

 

「相手があの人たちだから話ができるんやろうけど、向こうだって、ああいう話せる人たちばかりではないんやろなぁ」

 

「そりゃあそうだろう。人である以上、様々な性格の持ち主がいる訳だし、まして彼らは国防に関わる人たちなのだから‥‥組織だって一枚岩ではない管理局同様にね」

 

「そうやな」

 

恐らくは向こうの地球でも、魔法はファンタジーかオカルトの類だろう。

フェイトたちが魔導師とわかれば、化け物扱いする者だっているはずだ。

ましてやフェイトは出自が出自だ。

今、フェイトたちを預かっている良馬たちは、彼女とティアナが魔導師であることを知っているようだが、フェイトの出自まで知っているのだろうか?

その時点では、向こうがフェイトの出生の事情を知っており、高魔力の魔導師資質を持つ少女まで存在していることなど、誰も思いもしなかった。

 

「信じたくはないけど、カリムの預言が現実のものになり始めとるのと違うやろか?」

 

長嘆息しながらはやてが呟く。

 

「それって、管理局が傲慢になっているっていう事なの?」

 

「管理局の皆が皆、傲慢なわけじゃないけど、魔法が万能だと思い込んでいる者も少なくない。特に若年の高ランク魔導師にはその傾向が強い。君も教え子の中にそんな子が居なかったかい?」

 

「‥‥」

 

クロノの言葉を聞き、なのはは、今まで教えて来た新米局員の中にそんな性格の教え子が居なかったと言えばそれは嘘になる。

 

「彼らの多くは管理世界出身で、管理世界の事しか知らへんし、当然魔力ランクが高いから管理世界では、ちやほやされる。その結果、今の境遇が当然だと思い込み、部下への最低限の気遣いすらできず、非魔導師や低ランクの魔導師、管理外世界を見下す局員になるんよ」

 

「はやての言う通りだ。そしてその局員が任務に赴いた先で地元の局員や住民を見下すような言動をとって、トラブルになるケースがここ最近になって増えている。管理外世界なんて報告されていないだけでもっと酷いだろうな」

 

「その結果、本局の魔導師=傲慢というイメージが定着しつつあるんや。次元航行艦船の遭難で本局が慌てているのを、自業自得とかいい気味だと思っとる人や実際に口にしておる人もおるし、私ら本局所属の魔導師に皮肉を込めて「お貴族様」と呼ぶ局員もおる。一握りの高ランク魔導師と大勢の低ランク魔導師や非魔導師の溝は明らかに年々深くなっとる。何とかせんと、管理局はいずれ内と外から崩されてしまうで‥‥もし、クーデターでも起こされたら、いくら高ランクの魔導師でも完全には防ぎようがないやろうな‥‥」

 

「‥‥」

 

はやては六課解散後、特別捜査官として各世界を回ることもあり、現地の局員を指揮することも少なくない。

それゆえに、本局局員と各世界の地元局員との軋轢に悩まされることもしばしばだった。

一方、戦技教導官のなのはは、基本的にミッドを離れることはないため、他の管理世界の実情については必ずしも正確に把握しているわけではない。

 

「ミッド以外では、そんなに酷くなっているの?」

 

「そうや。それに加えて、強力な軍事勢力との相次ぐ接触に次元航行艦の遭難、喪失が続いとる。魔法や次元航行能力以外では管理局の戦力なんか話にもならん」

 

「“海”としても今後の方針を手探りで探している状態さ」

 

「地球防衛軍と組むことはできないのかな?質量兵器云々は別にしても、一連の軍事勢力の中で、まともにお話が出来るのはあそこしかないよね?」

 

なのはは思い切って地球防衛軍との提携を口にしてみる。

質量兵器の問題はあるが、彼らの主要兵器はエネルギー光学兵器であり、純粋な質量兵器とは言い切れない。

それならば、あるいは可能かもしれないと思ったのだ。

 

「その場合、向こうは対等の付き合いを求めてくるやろな。それは極めて当然やろう。でも、こっちのお偉いさんたちがそれを認めるかが問題や」

 

地球連邦との同盟関係‥‥三提督や“陸”、穏健派の局員は問題ないだろうが、魔法至上主義、管理世界拡大推進派が多く在籍する本局の“海”、若手の佐官や提督クラスは一部を除けば、同盟では無く、かの地球の管理世界編入を主張するだろう。

それは管理局の歴史を見ても今日まで対等な同盟関係を結んだ世界は無く、関わるとしたら、管理以外の方法しか選ばない。

第97管理外世界(地球)は管理局の歴史の仲でも稀中の稀なケースであり、あの世界の地球は第二の地球と異なり、宇宙戦闘艦を建造する技術も無ければ、管理局が欲する様なロストロギアも存在しない。

故に管理局はなのはたちの故郷の地球を管理世界に置いていない。

しかし、管理局の管理下に置く‥当然そんな要求を地球連邦がのむ訳がない。

もし、管理局が強攻策、武力行使をとったら、待っているのは魔導師たちの屍山血河、次元航行艦の残骸の山だ。

仮に地球出身の自分たちがこの地球に派遣されて戦っても結果は変わるまい。

向こうは殺すつもりで迎撃するのだから。

反対に自分たちが殺されてしまう。

 

「‥‥」

 

はやての言葉を聞き、なのはも俯いてしまった。

 

「いずれにせよ、しばらく次元世界探索はやめるべきやろな。これ以上の艦船と人員の喪失は管理世界の治安維持に悪影響しか齎さないで。クライスラーの一件がカリムの最初の預言なら、もう一つの預言も実際に起こるかもしれへんからな」

 

「そうだな」

 

はやての意見にクロノは賛同し、

 

「そうだよね‥‥」

 

これにはなのはも賛同した。

なのは自身、もうこれ以上、教え子たちが死んでいく思いはしたくなかったからだ。

しばらくは既存の管理世界の治安維持に努めるのが最善だ。

その考えは正しいのだが、“海”の管理世界拡大推進派とっては、その考えは弱腰でしかなのだが、これ以上強硬策をとれば、それは結果として傷口を広げることになる。

 

 

今後の運営方針に暗雲が立ち込め管理局から場面は、管理局の連中が必死にその位置を探ろうとしている地球へと変わる。

 

 

太陽系へ侵入した彗星帝国軍残党艦隊との戦いを終えた まほろば は横須賀基地の地下ドックへと傷ついたその身を横たえていた。

敵ミサイル艦の攻撃を一手に引き受けたため、外部装甲板はひどい凸凹が生じた箇所もある。

すでに一部では取り外し作業が始まっていた。

その最中、艦内では全乗組員がそれぞれの持ち場についていた。

既に艦内の大掃除も終わり、後は艦を工廠側に引き渡すだけだ。

大部分の乗組員は明日から四日間の休日である。

そのため、乗員たちは少しでも早く終わる様にと大掃除もかなり気合を入れて取り組んでいた。

やり残しや、大雑把にやれば、班長にどやされ、更に罰掃除を追加されるからだ。

艦長席から立ち上がった良馬は、艦内一斉放送回線を入れた。

 

「諸君、様々な事があり過ぎたと言っても過言ではない2201年も間もなく終わろうとしている。無事に、と言える状況にないのは、ここにいる全員が肌で感じているだろう。白色彗星帝国との、短いが激しい戦いで多くの仲間の命が失われたのは悲しむべきことだが、悲しむ時間はない。諸君も知っての通り、今回のイスカンダルへの航海の途中で遭遇した暗黒星団帝国という新たな敵対的星間国家の存在が明らかになり、我々は今後の備えと軍全体の再建、そして人類社会の再建を続けていかなければならない。来年も多忙な年になる事は間違いないだろうが、この年末年始は心身共にゆっくりと休息し、年明けには全員が元気な顔で本艦に揃ってほしい‥‥以上だ」

 

新見以下の艦橋員全員が敬礼し、良馬が答礼する。

工廠の担当者と引き継ぎを済ませ、最後に下艦した良馬は、帰り際振り返り、まほろば の艦橋を振り仰ぐ。

 

(就役してから僅か数か月なのに、もう歴戦艦になったな‥‥)

 

白色彗星帝国との戦闘で壊滅した地球防衛艦隊の再建が端緒についたばかりの防衛軍にとって、まほろば は虎の子の宇宙戦艦の一隻なのだ。

暗黒星団帝国という新たな脅威の存在が明らかになったとはいえ、宇宙戦士の養成が間に合わないのだ。

かつて旧日本海軍、連合艦隊司令長官、山本五十六はこう名言した。

 

「百年兵を養うは、ただ平和を護る為である」

 

しかし、今の防衛軍は百年兵を養う余裕はなく、一年で兵を養わなければならない。

ましてや人材不足は軍に限らない。

ほぼ全ての分野で同様の問題が持ち上がっている。

この人材難が解決するのには、少なくとも後、二十年以上を要すると言われている。しかもそれは、外宇宙からの侵略が無い事を前提とするものである。

また、暗黒星団帝国もさりながら、今は時空管理局との関係も厄介である。

ノアやテリオスの艦船技術を見る限り、彗星帝国や暗黒星団帝国よりも戦力では劣る彼らではあるが、

「次元世界」の平和と秩序の維持のために、質量兵器は廃絶しなければならない。

ノア、テリオスから回収した資料の中に書かれていたこの一節を見た時は呆れて開いた口が塞がらなかった。

当初、彼らの指す質量兵器とは、実弾銃砲やロケット弾みたいな実弾系の兵器の事を指すのかと思いきや、魔法によらない兵器全てを意味するものと知った時は、管理局の魂胆が見えたも同然だった。

時空管理局が「管理」している世界でも、魔力を持たない住民の方が遥かに多いようだ。

またそれは彼らの根拠地であるミッドチルダも例外ではない。

ということは‥‥

違った見方をすれば、少数派の一部の魔導師が世界を支配する、ということにも捉えられる。

そんな事は決してない、とフェイトやティアナたちは思っているだろうが――。

彼女たちには伝えていないが、既に地球防衛軍は、時空管理局を要注意思想勢力と位置づけている。

彼らの世界観について正邪を論じるつもりはないが、自分たちの価値観を我々に押し付けようとするならば、突っぱねるだけだ。

フェイトたちを救助し、身元を引き受けているのは人道的見地からの特例措置であり、彼女たちの身柄を返還したら、基本的にこちらからはアプローチはしない方針だ。

むしろ、地球連邦はこのままフェードアウトするつもりだ。

それに、地球防衛軍は地球連邦政府の一防衛機関に過ぎず、政府の承認なしに動くことはできない。

地球連邦の基本方針は、あらゆる星間国家と対等な外交関係を結び、支配は一切しない、そして受容しない。

彼らが同盟を求めてくるのであれば、それは地球連邦政府と管理局‥ミッドチルダの政府との間で幾つもの協議がなされ、互いに条件を出し合って決めるモノだ。

反対にもし、自分たち地球の独立を侵そうとするのであれば、断固戦い、その意図を挫く。

こんな事を考えたくはないが、万一そんな事になったら、フェイトたちや紅葉の様な子供の魔導師に向けても躊躇なく、銃口を向けてトリガーを引かなければならないだろう。

地球に居る大切な人や守る人のためには鬼にもなるし、悪魔にも魂を売ってみせるが、それでも子供を殺すのは強い罪悪感がある。

 

(もっとも、都市帝国には無差別砲撃を加えたからなぁ‥‥今更、悔いるなんて虫が良すぎるか‥‥)

 

都市帝国の残骸の調査の映像を見た時、その中に非戦闘員である年端もいかない子供や女性の遺体が漂っているのを目にした時はさすがに堪えた。

彼らの遺体は即座に収容して丁重に葬ったつもりだが、後味の悪さは残る。

顔も知らなかった都市帝国の住民の遺体でさえ落ち込んだのだから、直に触れ合ったフェイトたちと殺し合うのには流石に堪えてしまうだろう。

 

「こっちも向こうも平和なのが一番なんだがな‥‥」

 

そう口に出した良馬には哀愁の雰囲気があった。

 

 

その頃、月村家の屋敷では、ノエルが夕食の準備をし、フェイト、ティアナ、忍が和気藹々と談話していた。

 

「年末‥‥」

 

「カウントダウンパーティー?」

 

防衛軍の各基地で大晦日深夜から元日未明にかけて行われているという恒例行事の存在を忍から聞いたフェイトとティアナは目を丸くした。

現役や予備役軍人のみならず、退役軍人や家族、さらには戦没者・殉職者の遺族も参加できるという。

 

「ええ。ガミラスとの戦争の最中でも続いていたんですよ。去年はヤマトの帰還もあって、それはすごいお祭り騒ぎだったのよ」

 

「そうなんですか‥‥でも、それって今年もやるんですか?」

 

「確か今年って白色彗星帝国との戦いでは、軍人さんが大勢亡くなった筈では?」

 

忍にフェイトとティアナが問う。

時空管理局の常識では、多数の殉職者が出た場合はこの手の行事は自粛する。

彗星帝国との戦いでは管理局では信じられない程の戦死者を出した筈だ。

それにも関わらず、今年もそんなお祭り騒ぎをやるのか、疑問に思ったのだ。

 

「大勢亡くなったからこそ、盛大にやるのよ。今回も参加できた人は、参加できなくなった人の分まで精一杯生きる義務があるからね」

 

「へぇ‥‥」

 

「そうなんですか‥‥」

 

「それに、板子一枚隔てた向こうは死の世界だから、宇宙戦士にとっては、この地上にいる時こそが生きていると実感できると、良馬はよく言っていたわ」

 

「‥‥」

 

(帰りたくても帰れなかった人たちが‥‥生きたくても生き抜くことが出来なかった人が大勢いたんだよね。この世界では‥‥)

 

管理局の艦船は、ある意味、地上の延長みたいなところがあるが、ヤマト や まほろば は明らかに星の海を行く船だった。

ヤマト乗組員の制服のデザインは、地球の海上艦船の錨をモチーフにしたものだったし、まほろば でも胸の部分や艦長、副長制帽には錨のマークが用いられていた。

 

(そう言えば、「板子一枚下は地獄」という、船乗り達の言い伝えがあったな)

 

フェイトは、昔の地球の船乗りを象徴した諺を思い出していた。

 

「でも、そのパーティーって私たちが参加してもよろしいのですか?」

 

正式な家族でない自分たち,防衛軍の関係者でもなく、まして連邦市民でない自分たちまで参加してもいいのか、とティアナが訊ねるが、

 

「大丈夫よ、それにお祭りは大勢いた方が楽しいから」

 

忍はフェイトたちが参加してもノープロブレムだと言う。

 

((お祭りか‥‥))

 

フェイトとティアナは、ヤマト、まほろば が共同で行ったヘリオポーズでの赤道祭、イスカンダルで執り行われた古代守とスターシアの結婚式を思い出した。

 

(フェイトさん‥何か、すごいお祭りの予感がするんですけど、どうしましょう?)

 

(うん‥ヤマト と まほろば の人たちもお祭り好きだったけど、その倍以上の人たちが集まるんだからね)

 

常に死と隣り合わせた仕事に携わっている人たちだからこそ、さぞや派手なお祭り騒ぎになりそうだ。

フェイトとティアナは開かれる年末パーティーに期待を感じながらも、一抹の不安を抱かずにはいられなかった。

しかし、参加しないという選択肢はなかった。

 

 

そして、パーティー当日、大晦日の朝。

この日は朝からそれなりに忙しかった。

朝早くから、中嶋、月村、古代家合同の餅つきがあった。

この地球におけるギンガの養母である中嶋加奈江の容姿はスバルとギンガの母親、クイント・ナカジマと瓜二つであったが、魔導師ではなかった。

とは言え、加奈江の秘密を知っているのは今の所、良馬だけだった。

しかし、以前スバルからクイントの写真を見た事のあるティアナは最初、加奈江の顔を見て驚いた。

 

年始年末に餅を食べるという地球の習慣は、フェイトは地球で生活していた時に知っていたし、ティアナも地球人の祖先を持つスバルの実家に呼ばれた折に知り、蒸したもち米を臼と杵という木製の道具を使い、全て人力で搗くことも、フェイトはなのはの実家で、ティアナはスバルの実家で実演していたから、それ自体には驚かなかった。

杵を持ち、餅を搗くのは良馬でこねるのは月村家のメイドのノエルが行った。

フェイトもティアナも餅つき事態は目にした経験があり、ティアナもその情景の音を『ペッタン、ペッタン』と記憶していたが、目の前の光景は、『バン!バン!バン!』だった。

フェイトとティアナが唖然とする前で、良馬が物凄い勢いで餅を搗き、ノエルが物凄いペースで餅をひっくり返す。

搗き手が若いからだろうが、それにしても恐ろしくパワフルな餅つきだった。

しかも、互いに表情を変えず、黙々と良馬は杵で餅をつね、ノエルは黙って餅を捏ねる。

二人の息はまさにユニゾンデバイスの如く、息が合っていた。

その後も古代兄弟が杵で餅をつく光景もあり、その様子を見た双子の赤ちゃんたちはキャッ、キャッと笑っていた。

人力の餅つきはここでも珍しい光景なのか、近所の子供たちも集まってきて、忍と加奈江がその子たちやその家族に黄粉餅や餡子餅、お汁粉やお雑煮を振る舞っていた。

 

横須賀基地で23時から行われるという年末パーティーに先立ち、月村家の屋敷では皆で年内最後の夕食会が開かれた。

テーブルの中央にはローストビーフや大きな鶏肉を使用してのローストチキンの包み焼きが鎮座していた。

その他にも周りには、様々な料理が立ち並んでおり、どれも美味そうであった。

そして、料理の他にも数多くの酒類やソフトドリンクも並んでいた。

 

夕食会が始まり、各々が食べたい料理、飲みたい飲み物を手に談笑しながら、時間が過ぎてゆく。

加奈江の料理を食べたフェイトとティアナは、一体どんな魔法をかけているのか、と思ってしまう程に美味しいものだったらしく、顔を綻ばせていた。

その中でもローストチキンの包み焼きを口にしたフェイトとティアナはギョッとしながら、皿の上のローストチキンの包み焼きを見る。

 

「パリパリの皮にふっくら焼き上がったお肉‥‥」

 

「ほのかに付いている風味‥‥表面にはごま油を塗っているみたいね」

 

「それだけじゃ、ありませんよ。お肉の中には、香草やキノコ、蒸した野菜も入っています」

 

「お肉の旨味がしっとり上品に行き渡っていて、本当に美味しいわ」

 

フェイトとティアナは昇天する様な気持ちでローストチキンの包み焼きを食べていた。

 

男性陣は料理を肴に既に酒で宴会モードになっていた。

ここに居る男性陣は皆お酒が強い様で、

ビール、ワインのボトル、日本酒の一升瓶が次々と空になっていく‥‥。

まぁ、それ自体は一向に構わないのだ。

何せ、自分が無理矢理飲まされている訳では無いのだから‥‥。

しかし‥‥。

 

「あ、あの‥守さん‥‥そ、それは一体‥‥?」

 

料理を食べていたティアナが、一時その手を止めて、恐る恐る守の飲んでいる酒について訊ねる。

 

「ん?ああ、之かい?之は、マムシ酒というお酒さ」

 

真田、弟の進、良馬、ギンガの養父の源三郎と円陣を組んで酒を酌み交わす守が手にしていた一升瓶には、蛇の死骸と酒らしい液体が入っていた。

はやてやなのはから、地球の一部の愛好家に伝わっている一種の自家製酒と聞いたが、その時のティアナが受けた衝撃が如何に大きいものだったか、おわかりいただけるだろうか?

ミッドチルダや管理世界にもちゃんと酒は存在するし、果物等を漬けた果実酒等も存在するが、動物の死骸?を漬けた酒類は存在しなかった。

 

「‥‥」

 

地球での生活経験があるフェイトでさえ、マムシ酒をこうして直に目にしたのはこれが初めてだったようで、顔が強張っている。

一升瓶に『翠屋』のステッカーが貼られていたのが何とも気になるのだが、更に驚いたのが、肴として皿に乗っている料理の中に虫があったことだ。

 

「そ、それは‥‥何ですか?」

 

ティアナは更に顔を引き攣らせて皿の上の料理を訊ねる。

フェイトも無言であるがティアナ同様、顔を引き攣らせている。

皿の上には芋虫の様な形状をした虫の料理とバッタの様な虫の料理が置いてあった。

 

「蜂の子とイナゴの佃煮だよ」

 

良馬がフェイトとティアナに料理の正体を説明し、蜂の子を臆さずに食べる。

また、良馬と酒を飲み交わしている男性陣も平気な顔で蜂の子やイナゴを食べている。

 

((うぇぇぇぇぇ~‥‥))

 

流石に本人たちの前で気持ち悪がっては失礼なので、二人は念話で、気持ち悪がった。

 

(フェ、フェイトさん‥この時代の地球の方々は虫を食べないといけないくらい追い詰められたんでしょうか?それとも、宇宙戦士は‥‥防衛軍の軍人さんは訓練でこの様なモノにも耐える訓練が施されたのでしょうか?)

 

(わ、私に聞かれても分からないよ~)

 

これが地球の文化というモノなのか?

それとも、ガミラスとの戦争で、食糧難を経験したため、食べられるモノならば、虫でも食べるくらい逞しくなったのか?

それとも防衛軍の訓練の一環の賜物なのだろうか?

兎も角、異邦人の自分たちが論評することではないだろう。と、思いフェイトとティアナは何も言わなかったし、関わるのを止めた。

 

だいぶ時間が過ぎ、加奈江と忍が年越しそばを作り始めるのと同時に、酔い醒ましのコーヒーを雪とノエル、紅葉が淹れて持って来た。

良馬は、ノエルからコーヒーを受け取り、フェイトとティアナは紅葉からコーヒーを受け取ったが、雪からコーヒーを受け取った古代兄弟と真田は引き攣った笑顔だった。

その理由をフェイトとティアナは知らず、首を傾げていた。

そして、コーヒーを飲んだ三人は顔を引き攣らせながら、無理にコーヒーを飲んでいる様だった。

 

(古代さんたちコーヒーが嫌いだったのかな?)

 

その時はそんな、思いを抱くティアナだったが、後日、雪の淹れたコーヒーを飲んで、あの三人が顔を引き攣らせながら、コーヒーを飲んでいた理由が判明した。

 

そして、パーティーの開催時間の少し前に一同はパーティー会場である横須賀基地へと移動した。

 

 

公序良俗に反しなければ何でもあり、階級も一切関係なし。

大晦日深夜から元日早暁にかけて、地球防衛軍の各基地で行われる年末、年越しパーティーは、軍人やその家族を招いて行われるが、徹底した無礼講で知られる。

公序良俗や法令に反しなければ大抵のことは許され、上官・部下すら無関係だ。

ゆえに、日頃パワハラやセクハラをしている上官などは、ここぞとばかりに『復讐』される事すらあると、良馬から聞かされたフェイトとティアナは引き攣った笑みを浮かべた。

パーティー開始の挨拶に立ったのは、藤堂長官だ。

最も、本部でも同様のパーティーが行われているので、モニター越しではあるが、普段の謹厳実直な顔はなく、

 

「諸君、死んでいった者の分まで、思う存分楽しむのだ!」

 

と、拳を振り上げて力強く開始を宣言し、『おーっ!』という戦士達の喚声が大講堂に響き渡る。

長官に呼応して振り上げられたのは拳だけではなく、戦死した者たちの写真も見受けられた。

写真を掲げずとも、それを懐に入れて参加した者も少なからずおり、息子や娘に先立たれた親らしき人たちもちらほら見受けられた。

 

(フェイトさん、何なんでしょう?この光景は?)

 

(わ、私にも分からないよ、ティアナ‥‥)

 

開始から僅か数分にして、大講堂はあっという間にカオス空間へと化した。

あちこちで酒盛りが始まったのはいいとして、どこから調達したのか首を傾げるようなコスプレに興じる者もいる。

当然、まほろば 所属の衛生士、原田真琴もコスプレをしており、何故か永倉もそれに付き合わされている。

まぁ、コスプレぐらいなら大目に見ても良いが‥‥

 

「‥‥」

 

(この人が何を考えているのか、全然わかんないよ‥‥)

 

模擬店で貰ったコーヒーを手にフェイトは内心でぼやきつつ、右隣にいる犬だかネズミだかよく分からない茶色の生き物の着ぐるみで、緑色の帽子を被っており、赤い蝶ネクタイを締めている。

その中に居るのは、何と良馬その人だった。

また‥‥

 

「‥‥」

 

(ギンガさん、貴女もですか‥‥)

 

ティアナの左隣にはフェイトの右隣に居る犬だかネズミだかよく分からない生き物の色違いの着ぐるみが居り、色は黒と灰色のまだら模様で、角付きの軍用ヘルメットとタクティカルベストを装備したバージョンの着ぐるみがいる。

此方の着ぐるみの中にはギンガが入っていた。

パーティーの最中、フェイトとティアナの二人に「ふもっふ」、「ふもふも」、「もっふる」と言葉をかけて来た着ぐるみを見た二人はドン引きした。

そして、二体の着ぐるみが二人にタブレットを渡し、再び「ふもっふ」や「ふもふも」、「もっふる」と言葉をかけると、タブレットに恐らく翻訳されたであろう言葉が表示される。

そしてその中で、今、この着ぐるみの中に入っているのが、良馬とギンガだと分かったのだ。

最初にそれを目にしたフェイトとティアナは忍に訊ねずにいられなかった。

 

「ああ、あれは、防衛軍でテストしている『アーマージャケット』の試作機よ。ウチ(月村)の企業が作ったの。それで、良馬とギンガさんにはテストパイロットを務めてもらっているのよ」

 

「「はい!?」」

 

あれがアーマージャケット!?

フェイトたちは己が耳を疑った。

どう見てもテーマパークやイベント会場にいる着ぐるみにしか思えないのだ。

 

「一見ただの着ぐるみだけど、真田さんや大山さんが製作には協力してくれたから、性能は折り紙付きよ」

 

「「そ、そうなんですか‥‥(汗)」」

 

忍の言葉を聞き、フェイトとティアナは納得した。

あの真田や大山が製作に協力しているのなら、絶対ただの着ぐるみであるはずがない。

パワードスーツ機能はもちろん、防弾防刃、耐レーザー対策。さらに宇宙服機能くらいは備えているはずだ。

魔法を無効化する機能も仕込まれていると言われても、真田と大山ならあながち冗談には聞こえない。

管理局ではこんなエンジニアは危険人物と見なされ即刻逮捕されるだろう。

全てが規格はずれな人物だ。

あのスカリエッティなんかより‥‥

 

(地球防衛軍は懐が深いわ‥‥)

 

ティアナは感心半分、呆れ半分で溜息をついた。

時空管理局はハード以前に人材でも負けている。

こんなイカれた人たちが守る世界を管理下に置こうなんてしたら、管理局は間違いなく自滅する。

本局の管理世界拡大推進派が暴走しないことを、フェイトたちは切に願った。

しかし、既に彼女たちの願いはかなわず、既に管理世界拡大推進派の連中が動いていた事をフェイトとティアナは後日知る事になった。

 

 

2201年12月31日23時57分、地球防衛軍・横須賀基地 大講堂

 

新年まで三分を切った時、大講堂の照明が落とされた。

それまでのカオスが嘘のように講堂全体が静まり返る。

常軌をはずれた乱痴気騒ぎを繰り広げていた戦士たちは酒杯を置き、姿勢を正して起立した。

そして、大講堂に声が流れる。

 

「今年、その職に殉じ、また白色彗星帝国との戦闘で倒れた宇宙戦士達よ・・・・。私達はあなた方の分まで、地球の独立と宇宙の平和のために戦い続けます。地球は何人をも管理も支配せず、またいかなる者からの管理と支配も許さないことをここに誓います。宇宙戦士の御霊に、総員敬礼ッ!!」

 

ザッ!

 

参加していた戦士たちはその場で敬礼。家族は頭を垂れて黙祷した。

フェイトとティアナは忍や紅葉達に倣って黙祷を捧げた。

 

(いかなる支配もせず、そして許さない、か‥‥)

 

この地球が時空管理局の管理下に入ることはありえない、と解ってはいたが、ガトランティス暗黒星団帝国など、極めて強力で凶悪な軍事勢力の存在が明らかになり、管理局側にも被害が出ている以上、この地球まで敵にまわすことは自殺行為だ。

 

(地球連邦や地球防衛軍と、手を取り合うことはできないのかな(かしら)‥‥)

 

ここにいる人たちは、いざとなれば死兵になってでも侵略者に立ち向かう凄まじき戦士たちだが、こういう姿を見ていると、実に愛すべき人たちだ。

大多数の管理局員と何ら変わるところはない。

この地球と管理局が共存できる落としどころは必ずあるはず――。

しかし、それにはまず、管理局側の大きな改革と譲歩が不可欠となる。

フェイトとティアナはそこまで思い至ったが、周囲の数字を読み上げる声で現実に呼び戻される。

年明けまで残り三十秒を切っていた――。

カウントダウンの声が一層大きくなり、ゼロを唱和した一瞬の後、会場は輪をかけたカオスを呈した。

 

『~♪~~♪~』

 

 

酒瓶や酒杯を片手に歌を打っている者たち‥‥。

ここまでは、よく宴会等で見られる光景なのだが、謹厳実直な人物とフェイトたちも認識しているヤマトのあの山崎機関長が女性職員と『マイムマイム』を踊ったり、別のフロアでは、パイ投げ合戦が起きたりしていた。

 

「「‥‥」」

 

(この人たち、頭の中に虫が沸いているんじゃないの!?)

 

生来(?)のツッコミ気質が復活したティアナだが、それを聞いた者がいるとすればこう答えただろう。

全くもってその通りだと――。

しかし、もし、この場に嘗て自分の相棒を務めていたスバルが居れば、あっという間に彼らと波長を合わせ、このカオス空間の中に上手く溶け込んでいただろう。

そう考えると、今この場に彼女が居なかった事にホッとするティアナだった。

居れば、自分はツッコミ所が多くて精神的疲労が半端なさそうだからだ。

 

『古代艦長!!』

 

大勢の男性陣の声で呼ばれた守はその方向を見やって目を丸くした。

 

「おお、お前たち!!元気だったか!?」

 

『はいっ!!』

 

男性陣は守の周りに集まり、握手を交わすなどしていた。

中には感極まって号泣する者も居た。

フェイトたちも目を丸くしていたが、横に茶色い着ぐるみ(ボ○太くん)もとい、良馬が来たため、彼らが誰なのか訊ねる。

 

「彼らはかつて古代先輩が艦長を務めていた駆逐艦雪風の元乗員たちさ。冥王星海戦の出撃前に怪我や家を継ぐ立場で古代先輩が強制的に艦から降ろしたんだよ。彼らは自分たちだけ生き残ってしまったとずっと苦にしていたんだよ」

 

と、タブレットには表示され、音声では「ふもふも」、「もっふる」と何を言っているのか、分からなかった。

 

「そ、そうでしたか‥‥」

 

感動的な場面なのだが、その着ぐるみ姿と音声のせいで台無しだった。

 

しかし、それを切り替えて、守の生還を喜ぶ元雪風の乗員たちと守の方へ視線を向けたフェイトはしんみりした気持ちになる。

今まで自分が参加して来た作戦で生還者が自分一人だったことはないし、一緒に参加した局員や魔導師が殉職したこともない。

強いてあげるならば、今回のテリオスの件で仲間の死と言うモノに直面したぐらいだ。

しかし、こちらの世界での、かつてのガミラスとの戦争では、次第に損耗率が高くなり、ヤマト就役直前の冥王星海戦では、出撃した地球軍艦艇の内、地球へ帰って来たのは僅か二隻だけ‥‥。

幸運と不幸な偶然が重なって地球に帰ってきた守も雪風の部下を全員死なせてしまったという悔いと苦しみはあるだろう。

 

「艦長か‥‥」

 

次元航行部隊所属である自分も将来的には義母のリンディや義兄のクロノ同様、次元航行艦を指揮する可能性がある。

管理局の次元航行艦と地球防衛軍の宇宙戦闘艦では用途も性格もかなり違うが、乗組員の命を預かり、モチベーションを保ち続けなければならないことは何ら変わりなかろう。

 

(こちらの世界にいる間に、艦長としての心得とかを月村艦長や守さんに聞いておこうかな)

 

この世界で戦闘艦の艦長に求められるものや、どんな気持ちで戦っていたのか、聞けるものなら聞いてみたいと、フェイトは切に思った。

 

その後、フェイトとティアナは例のパイ投げ合戦の会場へ良馬とギンガの手によって引き摺られて行き、更衣室で待ち構えていた女性隊員たちの手によって、強引にジャージに着替えさせられ、合戦の舞台へと立った。

会場に立った二人に待ち受けていたのは、自分たちに容赦なく飛び交って来る大量のパイ‥‥。

二人はたちまち全身がパイ塗れになると、ティアナが等々理性と言う名のリミッターを外し、単色の目で「あはははははははは‥‥」と声を荒げながらパイを投げていった。

彼女が投げているのは間違いなくパイなのだが、一瞬パイが鉈に見えたり、ひぐらしの鳴き声が聞こえた様な錯覚をフェイトは感じた。

 

「ティアナ‥‥」

 

フェイトは最後まで理性を保ち続けたが、彼女が出来た事と言えば、このカオスと化した会場とリミッターを解除したティアナ(部下)を、パイ塗れのまま呆然としながら見ているだけだった。

パイ投げの次にフェイトはフェリシアに捕まり、赤道祭の時と同じくペアのコスプレ衣装を着せられ、舞台の上に立たされ、デュエットをさせられたりした。

 

パーティーが行われている会場の片隅で、元雪風の乗員たちと涙の再会を終えた後、守は真田と忍にそれぞれに、真剣な表情で何かを言っていたのだが、それは当の本人たち以外気づく者は少なかった。

 

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