日本時間・2202年1月1日(元旦) AM 0900時
コンコン‥‥
月村家のフェイトとティアナが使用している部屋のドアがノックされ、
「失礼します。おはようございます。ハラオウン様、ランスター様」
ノエルが控えめにドアを開け、ベッドに倒れ伏しているフェイトとティアナに声をかける。
「お、おはようございます」
まずティアナが目を覚まし、のろのろと起きかけたが、ノエルの姿を見て、慌てて身を起こした。
「まもなく朝食のお時間でございます」
「は、はいっ、すぐ行きます!」
ノエルが部屋を離れた後、ティアナは隣のベッドの中で沈没しているフェイトを起こしにかかった。
「フェイトさん、朝ですよ‥‥もうすぐ朝ご飯の時間ですって‥起きてください」
「うぅ~ティアナぁ~‥‥先にシャワー浴びていていいから、それまでもう少し寝させてぇ~‥‥」
「は、はい」
ティアナにシャワーの順番を譲り、二度寝をしようとするフェイトは、薄れゆく意識の中で昨夜の顛末を思い返した。
(‥‥良し悪しは別にして、あんなカオスなパーティーは、管理局じゃありえないよね‥‥)
地球防衛軍の年越しパーティーは午前三時まで続いた。
子供や家族連れは1時過ぎには皆帰宅したが、残った血気盛んな者達はさらにボルテージが上がり、フェイトとティアナは二体の○ン太くんらに連れられて、彼方此方の模擬店やイベント会場を回った。
二人はあまりの異様な光景に何度も気が遠くなりかけた。
ただ、その頃にはティアナも理性を取り戻しており、パイ投げの際に見せた単色の目の色ではなく、ちゃんと目の中の光を取り戻していた。
フェイトしてはティアナのダークな一面を見てしまった様な感じだった。
彼女が闇落ちしてしまったら、あの単色の目をして「あはははは‥‥」と壊れた様な笑みを浮かべながらクロス・ミラージュを乱射して来るのかもしれない。
個人的には銃よりも鉈の方が似合っていそうだが、それでも怖い。
そして、最後に‥‥
「あ、あの‥月村艦長、それは何ですか?」
フェイトは着ぐるみを脱いだ良馬が飲んでいる明紫色の液体について訊ねる。
その印象は、アニメで出てきそうな毒薬っぽい色の液体だったからだ。
「ん?これは、ヤマトの佐渡先生特製のヤマトカクテルだよ」
「カクテル‥と言う事は、それはお酒なんですか?」
「うん、そうだよ」
良馬が飲んでいる液体についてフェイトに説明すると、
「どうじゃ?お嬢ちゃんも一杯?」
と、カクテルの製造者、佐渡医師がフェイトにカクテルの入ったグラスを渡して一杯勧める。
「は、はぁ~‥‥」
フェイトも仕事付き合いで何度かお酒を飲む機会があったので、全く飲みなれていない訳では無い。
それに色は毒薬っぽくても、ああして良馬や佐渡が普通に飲んでいるのだから、少なくとも毒では無いだろう。
そこで、一口グラスに口をつけ、恐る恐るカクテルを飲んでみる。
すると、口の中に甘くフルーティーな感覚が広がる。
それはこれまで経験した事のない味だった。
不味いか不味くないかと聞かれれば、不味くはない‥むしろ美味しい部類に入る。
そこで、フェイトはそのままグラスを傾け、カクテルを飲み干すが、
「あっ、でも気をつけて、口当たりは良いけど、このカクテル、アルコール度数が非常に高いから‥‥」
と、良馬がヤマトカクテルの注意点を述べたのだが、それは一歩遅く、フェイトはヤマトカクテルを一杯飲んで酔い潰れた。
あのカクテルを飲んだ後の事は、全く覚えていない‥‥一体何時頃帰宅したのか?どうやって帰って来たのかもさっぱり思い出せないフェイトだった。
(うぅ~恐るべし、地球防衛軍‥‥)
時空管理局の物差しで彼らを量ろうなんて、どだい無理なのだ。
戦闘では狂戦士(バーサーカー)、死兵するのも辞さないだろう彼らは、騒ぐ時も狂戦士だった。
頭のネジどころか脳味噌そのものを遥か彼方の宇宙の果てにでも飛ばしてしまったかのように騒ぎまくったのだ。
(一体、あの人たちの身体のつくりはどうなっているのかな‥‥?)
そこまで考えたところでティアナが部屋に戻ってきた――。
台所では紅葉とノエルが湯気を上げている雑煮にかかり、ギンガと忍、桜花はお節の箱や皿、箸をテーブルに並べていた。
なお、お節料理は中嶋夫人と紅葉、ノエルの合作である。
良馬は小皿に数品のお節料理を取ると、リビングの一角に設けられた仏壇に供えると線香を点け、鈴を叩いて合掌する。
仏壇には月村家、高町家のそれぞれの位牌とちょうど10年前、2192年の正月に翠屋の店先で撮影した、両家が一同に会した写真が立てられていた。
「おはようございます」
そこへ、フェイトたちが来たようだ。
良馬も踵を返して台所に向かった。
(そう言えば、昨夜は大酒したはずなのに、もうケロッとしているよ、月村艦長は‥‥)
二日酔いの様子が全く無い良馬の姿を見て、不思議に思うフェイト。
良馬にしても、昨夜は相当深酒したはずなのだが、よほど強肝臓なのか、それとも夜の一族の血を引いているためなのか、二日酔いしている様子は見られなかった。
ここで場面は地球からミッドチルダへと移る。
ミッドチルダ 八神家
「‥‥」
今、はやての目の前にあるテレビ画面では、時空管理局本局・次元港第一埠頭の映像が流れており、その埠頭にはピカピカの新造艦が係留されていた。
全体のシルエットはこれまでのXV級次元航行艦と違い、一際シャープなデザインとなっている。
SX級次元航行艦第一番艦、キャデラック
時空管理局が誇る最大最強の次元航行艦である。
本日は三提督をはじめとする管理局各部門の高級士官や近隣管理世界の政府高官やVIPを招待した就役式典である。
管理局員の出席は原則として一佐以上の者に限られており、クロノやレティ、リンディはもちろん、ミッド地上本部のロールスロイス中将も出席していた。
はやてとなのはの下にも特例で今回の式典への参加の話も来ていたが、はやてもなのはもそれを辞退した。
本来なら出席資格がない筈の彼女たちに何故この話が来たのかと言うと、簡単に言えば、プロパガンダのためだった。
ミッドチルダを巻き込む、歴史的な大規模都市型テロ事件を解決に導いた奇跡の部隊「機動六課」の余光はまだ健在なのだろう。
しかし、はやてもなのはも客寄せパンダになるつもりはないし、管理局の派閥争いに巻き込まれるのも御免なので、クロノに頼んで今回の話は辞退し、こうして自宅のテレビで式典を見ているのだ。
テレビの中のキャデラックは、時空管理局の威信を体現する艦だった。
しかし、管理局の若きエース、ハラオウン執務官まで遭難する程、度重なる次元航行艦襲撃事件の結果、「地球防衛軍」に救出されたハラオウン執務官からの報告がもたらした、管理局を遥かに上回る軍事勢力、ガミラス帝国、彗星帝国ガトランティス、暗黒星団帝国、地球防衛軍――の存在は時空管理局、特に“海”こと次元航行本部に深刻な打撃を与えていた。
これらの勢力の大型戦闘艦には、XV級では全く歯が立たず、この最新鋭のSX級ですら、正面対決では到底敵わないだろうというのが、次元航行本部の冷徹な結論。
つまり、SX級はデビュー以前から、戦闘艦としての評価は二流、ないし三流というものだった。
故に、本来は華やかであるべきキャデラックの就役式典は、どこか白けた空気が漂っていた。
更に管理局はSX級に先立ち、新鋭のX級とR級を建造させていたが、これらの艦艇も当然、SX級同様に二流、ないし三流と言う残念な評価が下された。
しかし、計画当時、建造当初、管理局はまるで地球の大航海時代の幕開けの様に勢いづいていた。
JS事件が終わり、もう管理局の存在を脅かすモノなど無いと、高を括っていたら、この有様だ。
(やっぱ、行かんで正解やったな)
白けた空気が流れる式典映像を見て、はやては心底今回の話を辞退して正解だったと思った。
はやてと共にテレビで新型艦、キャデラック就役のニュースを見ていた守護騎士たちも厳しい表情だ。
「これだけの立派な艦船でも、彼らには敵わないのかしら?」
同じく式典映像を見ていたシャマルが呟く。
シャマルの言う「彼ら」とは、地球防衛軍とガトランティス、ガミラス、暗黒星団帝国の事を指しているのだと八神家の皆は直ぐに分かった。
「艦の技術、戦闘能力の差もそうやけど、ガミラス、ガトランティス、暗黒星団帝国、地球防衛軍‥これらの艦に乗っているのは本物の軍人さんや。当然殺し殺される覚悟は持っているやろうし、まほろば の月村艦長さんを始めとして、同年輩の管理局員とは面構えが全然違うてたもんな。必要とあらば、自らの手を血で染めることも厭わん人たち、私らも含めて管理局にはいてへんやろ?」
はやては先日、クロノが見せてくれた映像を思い出したようだ。
「管理局は、半端な覚悟であの世界に手出したら、火傷どころやすまへんで、きっと焼け死ぬで‥‥」
クライスラー遭難の一件はまだ一般には発表されておらず、管理局内で戒厳令が敷かれている。
「クロノも頭痛が絶えねーみてぇーだな」
「“海”の上層部も、地球防衛軍とどう付き合うのか結論が出せんうちにクライスラーの一件やからな‥しかも通信ポッドの時と同様にコッチ(管理局)が防衛軍側にちょっかいを出したようやからな」
ヴィータが口火を切り、はやてが応じる。
「そうね。管理局が主張する『質量兵器全廃』に向こうの地球が応じるとは思えないけど‥‥それ以前に管理局があの地球を管理下に置くのは無理じゃないかしら?」
「確かに、向こうにすれば、独立を守るのに必要な力だからな。仲間を悪く言うつもりはないが、管理局の魔導師の殆どは、戦闘に際して殺し殺される覚悟は持っていないだろうさ。万一地球防衛軍と戦闘になったら、管理局は多くの人材と次元航行艦を無駄に失う事になるだろう。それも再起不能になるぐらいの‥‥」
シャマルとシグナムも口を開いた。
管理局の全戦力を投入できれば、あるいは勝てるかも知れないが、そんな事をすれば、人材も艦船も殆んど無くした管理局はミッドも‥‥そして他の管理世界の治安を守れなくなり、どの道瓦解する。
第一、そこまでして向こうの地球を制圧する必要があるのかも極めて疑問だ。
また、各管理世界政府が大勢の人材が死ぬと分かっていながら、そんな作戦を容認するとも思えない。
向こうが侵略してくるような動きを見せたのならまだしも、向こうの地球もミッドチルダの正確な位置を把握していないので、手を出してくる気配は全くないのだ。
「向こうの地球は、フェイトさんたちの身柄をこちらに返した後、管理局にどう接してくるつもりなんですかねぇ?」
リィンフォース・ツヴァイ(リィン)が疑問を呈した。
今はフェイトたちを保護しているから、細々ながらやり取りが持たれているが、太陽系内にまだガトランティスの残党軍が存在しているので、その件が片付いたら、クロノがクラウディアで迎えに赴くことになっている。
そして、フェイトたちを見送った後、地球防衛軍は管理局にどう接してくるのか?
「多分、そのままフェードアウトやろなぁ」
はやてがフェイトを見送った後の防衛軍、地球連邦政府の行動予想を口にする。
「管理局は所帯こそ大きいけど、地球防衛軍と比べれば総じてハードもソフトも貧弱や。遭難したノアとテリオスを調査すれば、管理局の裏の顔もわかるやろからな。彼方さんとしては、『積極的に付き合いたくはない』っちゅうことになるんやないかなぁ‥‥それはともかく、明日は向こうとの定期通信の日や。まずはフェイトちゃんたちの様子を見るのが先やで。明日はシグナムも行けるんやろ?」
「はい」
はやての言うとおり、明日は待ちに待ったフェイトたちとの定期連絡の日なのだ。
今まで都合のつかなかった自分たちもようやくフェイトたちと話せるし、防衛軍側と初めてコンタクトを取れる。
明日の定期連絡の日を楽しみにしていた八神一家であったが、まさかこの時、あの様な事が起こるとは、この時は夢にも思っていなかった‥‥。
そして迎えた翌日の定期連絡の場にて‥‥
八神はやて side
なんでや‥‥?
なんでこんな事になっとんねん?
この人は元々次元世界拡大推進派に属しているから懸念はしとったが、まさか開口一番に喧嘩を売るとは‥‥。
ほら、ヴィヴィオもすっかり怯えとるやないか。
全く大人気ない人やで‥‥。
こんな事なら、真面目な話、定期連絡前にシャマルのコーヒーと手作りの茶菓子でも差し入れさせとくんやったわ‥‥。
はやてが後悔しつつ、モニターをチラッと見ると、
何やろか?何や向こうの人たちの眼差しが怒るどころか、何か可哀相なモンを見る眼になってきとるわ‥‥。
そして、それにも気づかんこの人は、ホンマモンのアホや‥‥
うわぁ~フェイトちゃんとティアナ、めっちゃ肩身が狭そうや‥‥。
全く、こんな人と同族と思われる私らまで、恥ずかしいやんか‥‥。
自らも肩身が狭い思いをしつつモニターから視線を逸らした。
時空管理局 本局
モニターの向こうにいるのは良馬、リニス、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、ティアナ・ランスターの計四名。
こちらにいるのはクロノ・ハラオウン、八神はやて、シグナム、シャマルにヴィヴィオ。そして次元航行本部の提督の一人、サミュエル・ギルフォードの計六名だった。
本来ならば、なのはも出席する予定だったが、急遽、仕事が入り、今回の定期連絡には欠席している。
そして、今回の定期連絡では、フェイトたちの現状を報告し、クロノが迎えに行く時期を決めるための会談だったのだが、開始早々、ギルフォードがいきなりクロノを押し退けてクライスラーの行方を良馬に問い質し始めた。
しかも相手を見下す様な高圧的な口調で‥‥。
ギルフォードは良馬と年齢的には近く、恐らく同年輩だろうが、良馬の役職が戦艦の艦長で階級が佐官、管理局では、次元航行艦の艦長と同じという事で一佐か二佐に相当する事を良い事に、自分の持つ提督という肩書を最大限利用して、あたかも自分が良馬の上官であるような口調で話し始めたのだ。
相手に舐められてはいけないとの一心かも知れなかったが、モニターの向こうの二人は何の感銘も受けていないようだ。
逆に呆れられている。
だが、ギルフォードの言動により、管理局は地球連邦の領海内に無断で艦を侵入させた事を認めた事になる。
「‥‥クロノ提督、先日お話した上司と言うのは彼の事ですか?」
良馬は冷静な態度と声なのだが、防衛軍側が管理局に対して、不快感を示していると、瞬時に判断したクロノ。
事実、クロノは良馬に名前を言われた時、背筋に冷たいものが走り、ビクッと体を震わせた。
「い、いえ違います。その上司はまだ仕事が終わっていないらしく、後から来ます」
「‥‥そうですか」
ギルフォードの事を無視し、良馬は冷めた目と声でクロノに彼が先日の通信で立ち会わせたかった上司なのかを訊ねる。
もし、クロノが「ええ、そうです」と言えば、良馬がクロノに対する見方も変わったかもしれない。
「おい!!私の話を無視するとは貴様!!いい度胸だな!?高々佐官クラスの分際で!!」
無視された事に腹が立ったのか、ギルフォードが声を荒げる。
(馬鹿が!!)
(ドアホ!!)
ギルフォードの態度と言葉に心の中で毒づくクロノとはやて。
「‥‥先程から何度も言う様に、こちらの太陽系に時空管理局籍の艦船が進入してきたのを確認したのは、ノアとハラオウン執務官らが乗艦していたテリオスの二隻だけです。ただ、一週間前でしたか、あの通信ポッドを何者かが操作した形跡はありました。それが何者かはわかりませんが‥‥」
十中八九、通信ポッドを操作したのがギルフォードの言う管理局の次元航行艦、クライスラーだと分かっているのだが、明確な証拠がないため、防衛軍側は、クライスラーの名前を一切出さない。
「第一、時空管理局がこちらの太陽系に一体何の御用がおありで?ハラオウン提督が用意された通信ポッドにはこちらの司令部との通信回線を後付けしました。それを使って連絡をいただければ、出迎えるなり、それなりの対応をしますが、それすらもなかった上に、太陽系内に張り巡らせた此方の哨戒網でも感知しなかったのですから、何の対応も出来ませんし、していません」
「いえ、正確には、当時は取り込み中で、そちらまで手が回らなかったというのが現実でしたね」
無視された挙句、素っ気なく答えた良馬とリニスの態度にギルフォードはますます不機嫌さを隠さない。
「手が回らなかったとは、一体どういうことだ!?貴様らは我々時空管理局を無視したというのか!?」
噛み付くように言うギルフォードにまたも良馬は素っ気なく答える。
「無視も何も、ちょうどその頃、我々は、太陽系に侵入してきた彗星帝国、ガトランティス軍の残党軍を迎撃していたのですからそちらまで手が回りませんでした‥‥」
「迎撃だと!?」
この言葉にギルフォードだけでなく、内心で呆れ返っていたはやてたちもピクッと反応した。
「はい。偶然にも件のポッドのある宙域から侵入してきた陽動部隊と、時間差で地球を直接攻撃するミサイル艦隊の二手に分かれての侵攻でした」
そう言うや否や、良馬はテーブルの上の端末を操作する。
「証拠にこれからその時の戦闘映像をお見せしましょう。ただ、十五歳未満の方は見ない方がよろしいかと‥‥」
良馬はチラッとヴィヴィオを見る。
「分かりました。シャマルはヴィヴィオを頼むわ」
はやてがシャマルに頼んで、ヴィヴィオを一時退室させる指示を出す。
「承知しました」
シャマルがヴィヴィオの手を引いて部屋を後にした。
それを待って映像が再生される。
土星圏で戦闘を行う防衛軍主力艦隊とガトランティス残党軍艦隊。
そして火星圏にて、砲火を交える まほろば を中心とする別働隊とガトランティスのミサイル艦を中心とする艦隊。
その中で、飛び交う大出力のビームに宇宙戦闘攻撃機やミサイル等の質量兵器。
広がる大火球の中では艦船が砕け散り、数多の命が消えていく。
「「「「‥‥」」」」
はやてたちは言葉もなく映像を見る。
(これじゃ、管理局の艦船はお呼びもかからんわな‥‥それに案の定、地球防衛軍にも中、小型で、かつ快速の艦船も仰山あるやないか)
ヤマト や まほろば のような宇宙戦艦でさえ、驚くような機動力を持っているというのに、中型艦(巡洋艦)や小型艦(駆逐艦と護衛艦)はそれ以上に軽快な動きをする。
管理局の艦船は、地球防衛軍の戦艦はおろか、小型艦部隊にも勝てないだろう。
(管理局にはここまで複雑な艦隊機動運用のノウハウがない。必要とするような事態がなかったからな。仮に地球等の技術を入手して艦艇を整えても、集中して機敏な運用ができなければ、宝の持ち腐れだな)
「件の通信ポッドが操作された時間とガトランティス艦隊がその空域を通過した時間差は、こちらの時間で一時間もありませんでした。恐らくクライスラーはガトランティスの陽動部隊と運悪く鉢合わせをして、撃沈されたのではないでしょうか?」
映像が終わり、再び会談へと移り、良馬はあくまでもクライスラーの行方は知らないと言い切る。
「しょ、証拠はあるのか!?クライスラーがガトランティスの艦に撃沈された事を証明する確たる証拠が!!」
ギルフォードとしては、防衛軍がクライスラーを撃沈したにも関わらず、その罪をガトランティスに着せているのではないかと思ったのだ。
彼としては、防衛軍がクライスラーを沈めた証拠さえ手に入れれば、それを理由に第二の地球を管理世界へ編入させられる大義名分を得られると思い込んでいた。
だが、防衛軍がクライスラーを撃沈したという証拠もない。
ギルフォードの問いに対して良馬は、
「ありませんし、立証する義務もないですね。第一、領域侵犯目的で来た艦船が第三者に攻撃され撃沈されても、それは全て、自己責任、自業自得以外の何物でもありません。乗員及び乗員の遺族には大変お気の毒ではありますがね」
と、良馬(防衛軍)はあくまでクライスラーの事は『知らないの』一点張りを突き通した。
突き放した言い方をした良馬に等々ギルフォードが激昂した。
「き、貴様は我々管理局の船を不法侵入者呼ばわりするのか!?一体何様のつもりだ!?」
「小官はこちらの世界の一般論を言っただけですが?大体、他人の家に無断で上がり込めば、住居不法侵入で警察を呼ばれ、逮捕されても文句は言えませんよ。それとも貴方は、ご自分の家に上がり込んで来た不審者に対してお茶菓子を出して持て成す変わった趣向をお持ちなのですか?ギルフォード提督」
「な、なにぃ~!!」
挑発めいた微笑みを浮かべながら、良馬は解かりやすい例えを言う。
「わ、我々時空管理局は全ての次元世界の平和と秩序を守る唯一にして絶対の組織だ!そして、次元の海は全て我が管理局の領海なのだ!!その管理局を貴様は領海侵犯をした犯罪者呼ばわりする気か!?」
(この馬鹿が!!空気読めよ!!)
(あかんで。それを言ったらおしまいやんか‥‥)
クロノとはやては微かに肩を落とした。
画面の向こうではフェイトとティアナがいたたまれなくなったか、等々俯いてしまった。
その姿はまるで、裁判中、検事から起訴状の朗読を聞かされている被告人の様だ。
ギルフォードの言葉を聞いた良馬は目を細め、ニヤッと口元を緩め反論する。
まるでその言葉をまっていましたかと言わんばかりに‥‥。
「その自負と誇りは尊重しますが、我々がそれに共感したり、同調する義務は全くありません。それに貴官の先程の発言‥『次元の海は全て管理局の領海?』一体何時から地球連邦の領域が管理局のものになったのです?太陽系内の防衛任務を担当している小官は連邦政府からも、また防衛軍司令部からもその様な事は一切聞いていませんが?‥リニス、君は聞いたか?地球連邦政府と地球防衛軍が時空管理局の傘下に入ったと言う事を?」
「いえ、初耳です」
ギルフォードの発言の中には防衛軍側としては管理局が地球の侵略を窺える発言があり、その件に対しても良馬とリニスは嘲笑を含めてお返しする。
良馬とギルフォードのやり取りを見て、はやてとクロノは顔色を青くし、画面向こうのフェイトとティアナも同様に顔色が悪いし少し震えている。
(くそっ、この馬鹿のせいで管理局が向こうの地球に対し侵略の意思があると思われたかもしれないじゃないか‥‥)
(向こうにすれば当然の返事やろうなぁ。本当やったら、腸が煮え繰り返っとるか、何じゃこのアホは、と思とるんやろうなぁ。しかし困ったわ‥‥これじゃ、同盟を結ぶどころの話やあらへん。次元航行艦船が次々やられとる今の情勢じゃ、話が分かりそうな、地球防衛軍まで敵に回すわけにはいかんのになぁ‥‥)
(主はやて、このままでは交渉が決裂します。そうなればテスタロッサたちの待遇にも悪影響が及びかねません)
(せやな‥でも、あちらさんが急にフェイトちゃんたちの待遇を変えるとは思えんけど、確かにこのままじゃ物分かれやな。いい加減止めんといかんわ。そやろ、クロノ君)
(そうだな。時期を見て僕が諌める)
(それは私に任せてくれないかしら?クロノ君、はやてさん、シグナムさん)
(((えっ!?)))
唐突に、聞き慣れた女性の念話が割り込んできた。
剣呑な雰囲気になりかけた双方の空気を一変させたのは‥‥
「れ、レティ提督!!」
「お待たせしました」
時空管理局本局運用部の提督、レティ・ロウランだった。
フェイトとティアナは突然のレティの登場に目を丸くしている。
良馬とリニスは特に何のリアクションも起こさず、ただレティをジッと見ている。
レティはギルフォードに向き直る。
「ご苦労様。後は私が話すから、貴方はもう戻っていいわよ」
「し、しかし‥‥」
ギルフォードは突然現れたレティを見て、明らかに動揺している。
その様子を見て、
(後でじっくり絞ってやるぞと言うことだな。ほんの少しだけ同情するな‥‥)
クロノはギルフォードに内心同情した。
その証拠にレティは微笑を浮かべているが、目は笑っていない。
(次回の人事考課を楽しみに待っていなさい)
とでも言いたげな彼女の雰囲気‥‥。
彼女は管理局の人事権も有しているため、この後、彼には何らかの人事異動かペナルティーが有るに違いない。
(怖っ、めっちゃ怖いわ~。レティ提督)
(私も同感です。主はやて)
「良いから、貴方は今すぐ退室しなさい。い・い・わ・ね?」
「は、はい‥‥」
一転して意気消沈したギルフォードはレティに敬礼して退室していった。
良馬とリニスも心の中で合掌し、ギルフォードを見送った。
ギルフォードを見送ったレティが向き直り、良馬たちも姿勢を正した。
「皆さんとは始めてですね。時空管理局運用部所属、人事統括官のレティ・ロウランです」
と、レティは深々と頭を下げた。
「いえ、船乗りとして当然の事をしたまでですのでお気になさらないで下さい。地球防衛軍、宇宙戦艦、まほろば 艦長の月村良馬です」
「同じく、戦艦 まほろば 医務官の月村リニスです」
良馬とリニスは踵を揃え、軍式の挙手礼をとる。
(ほえ~~)
(ほぅ‥‥)
地球防衛軍側二人の敬礼は、はやてが思わず見惚れ、シグナムも唸るほど惚れ惚れしてしまうほど「色気」があった。
「フェイト、ティアナさん、元気だった?」
「ええ、私たちは元気です」
「そう、それは良かったわ」
フェイトは現状について、二、三会話をした後、核心のクライスラーの一件についての話題に移る。
レティは良馬たちに向き直るや、
「クライスラーがそちらに赴いたのは、そちらの太陽系の調査目的でした。しかし、それが地球連邦の領域を侵犯する疑いがあるのならば、それは率直にお詫び致します」
と再び頭を下げた。
(あっさり認めちゃったよこの人‥‥管理局が領域侵犯を行った事を‥‥)
(先程の局員とは違いますが、やはり管理局は‥‥)
レティは包み隠さず、管理局がこちらの太陽系へ無断で侵入して調査をしようとした事を認めその件について謝罪した。
しかし、彼女の行動から少なくともさっきの奴よりは話が分かる人物だと良馬はそう判断した。
だが、それとこれとは別で、管理局が一方的に地球連邦の領域を脅かしたことには変わらず、前の主、プレシア・テスタロッサの使い魔時代から管理局に対して不審があったリニスにとっては、やはり管理局が信頼に値しない組織だと改めて認識させられた。
だが、向こうがあっさり認めて謝罪したのだから、こちらも歩み寄らなければなるまい。
「例の次元通信ポッドには、クロノ提督も知らなかったという、惑星座標軸を発信する機能が後付けされていました。それに気づいた私達は、安全保障上の理由からこのポッドをヘリオポーズに設置させていただきました。その理由はご理解いただけるでしょうか?」
「ええ。一世界の安全を担う者ならば、当然の判断です」
レティも地球側の理由を考慮したのか良馬の言葉を聞き、頷く。
「さらに、通信発信元の座標を示す機能もついていましたので、安全保障のため、これもこちらで弄り、地球圏以外のランダムな座標を表示するようにしましたが、こっちの回路は急造したのか、工作が荒く、安定性も今一つでした。その結果、時々変な座標を表示することがありました」
「‥‥と言うと?」
「木星の本星‥‥星を形成している液化・固体化メタンガスの中やこの太陽系のまさに中央点、つまり太陽の中心核付近などです」
「なっ!?」
「っ!?」
管理局側の面々は、地球出身者と地球での生活経験がある者ばかりだ。当然太陽や太陽系各惑星の基本的な知識は持っている。
それはフェイトとティアナも同じだ。
木星から海王星までの大型惑星は液化ガスの海の下に固体化したガスの層が存在する。
重力も地球より遥かに強く、引きずり込まれれば脱出は不可能。
そしてその超重力で押し潰される。
仮に押し潰されなかったとしても超低温の液化ガスの海で永久に凍り付くしかない。
勿論超重力の影響で回収は不可能‥‥
太陽に至ってはいわずもがなだろう。
「そのため、我々はポッドに軍司令部との通信機能を後付けし、かつポッドには、表示される座標を鵜呑みにせず、必ず我が軍ないし地球連邦政府に対し、連絡せよとの告知文をつけました。幸い、そちらのミッド語はこちらの英語と、ベルカ語はドイツ語との共通点が多かったので、英語とドイツ語の併記を用いました」
良馬たちの話をひとしきり聞いていたレティは、ひと息ついて話し始める。
「と言う事は、クライスラーはガトランティス軍に撃破されたか、そうでなければ其方の太陽か木星のどちらかに墜落した可能性が強いという事になりますね」
「「‥‥」」
良馬たちは無言だ。
「‥‥わかりました。この件においては、『クライスラーは太陽系に侵入しようとしていたガトランティス軍に撃破された』と言う結論を出すのが妥当ですね」
レティが防衛軍側の提示したクライスラーの消息不明事件について、ガトランティス残党軍の手によって撃沈されたと言う結論を選んだ。
それは管理局、ガトランティス、互いに死人に口なしと言う結論であった。
(政治的決着ということか。まぁ、出鱈目な座標を鵜呑みにして、太陽や木星に墜落したと言うわけにはいかないだろうしな。それに防衛軍がその艦を撃沈させた訳では無いし、それを理解してくれたのだから、異議を唱えるほどのことではないな。後はそちらで片付ける問題だろうし‥またそっちがグダグダ文句を言ってきたら、その時こそ、交渉は決裂だな)
クライスラーの一件に対し、大人な対応と、管理局側が妥協した事により、
「こちらも異存はありません。レティ提督」
良馬はそう言って、この件に決着をつけ、リニスも頷いた。
「さて、硬い話はここまでにしましょうか」
その後はヴィヴィオとシャマルも戻り、元の和やかな雰囲気になった。