星の海へ   作:ステルス兄貴

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七十七話 管理局悪夢の日

 

時空管理局 本局・大会議場

 

 大会議場では、ラティオ捜索艦隊と第七海上支部が壊滅した事件を受けての対策会議が、“海”・“空”・“陸”の幹部を召集して開催されていた。

 

 損害は壊滅的以外の何物でもなかった。

 

 捜索艦隊は旗艦キャデラックを含め全て全滅、数千人のクルーも全員が殉職した。

 

 更に緊急転移して来たらしいタイタンの爆発の影響で第七海上支部も甚大なダメージを受けた。

 

 タイタンには強力な放射線が検出され、飛散した残骸が第七海上支部を切り刻むとともに、メインの空調システムにも飛び込んだため、致死量の放射能がダクトを伝わって支部全体に回り、ほぼ全員のスタッフが急性放射線障害に冒され、既に四割を超える者が殉職してしまい、生存者も重度の放射線病に侵され、余命半年~数年と言う重傷を負った。

 

 今回のこの事態に管理局は第七海上支部の被害は管制官らが迫りくるタイタンの対処を誤った結果と言う事で位置づけた。

 

 だが、本来ならば、第七海上支部の管制官らはたとえ味方の艦を沈めてでも第七海上支部だけは守ろうとタイタンに向けてアルカンシェルの発射を本局へ要請したが、その要請を本局が蹴ったのだ。

 

 ならば、第七海上支部壊滅の責任を負うのは当時、その指示を出した本局の管制官なのだが、本局は第七海上支部のメインスタッフが殉職をしたのを良い事に今回の責任を彼らに擦り付けたのだ。

 

 まさに死人に口なしとはよく言ったモノだ。

 そして‥‥

 

「何としても敵対勢力がどこなのか掴み、武力制裁を加えなければ、次元世界は混迷し、管理局の威信は地に落ちるぞ!ここはやはり、追加の探査部隊を出すべきだ!」

 

 議題は今回の事態の根源とも言えるラティオ及び捜索隊襲撃犯の検挙となった。

 

「馬鹿か?貴様は!?今、ノコノコと出て行ったところで撃破されるのは目に見えているぞ!そんなに行きたいなら、貴官が自ら艦を指揮して行ったらどうだ!?」

 

「ふっ、出来もしないことを仰らないでもらいたい」

 

 艦を出せと言った局員はいざ、自分が行けと言われたら、鼻で笑い自分は行けないと矛盾した事を言う。

 

 その言葉に対し、穏健派の局員は怒気を露わにして言う。

 

「出来もしないことを言い立てるのは貴官の方だ! それも安全な場所から動かずにな!!」

 

「なっ!?貴様は私を侮辱するか!?」

 

「貴官は、自己の才能を示すのに弁舌ではなく実績を以ってすべきだろう!?他人に命令するようなことが自分には出来るかどうかやってみたらどうだ!?」

 

「なんだと!?」

 

 案の定、会議場は本局の次元世界拡大派と慎重派、本局の慎重派側に立つ“陸”の幹部士官に分かれて大激論になった。

 

 議場の一角に席を与えられたカリム・グラシアは暗い面持ちで議論を聞いていた。

 

 彼女は聖王教会騎士であるとともに、時空管理局では少将待遇の理事官である。

 

(次元世界拡大と現状維持。どちらに転んでも前途は容易ではないわね‥‥)

 

 このまま管理世界の拡大方針を維持すれば、今回の正体不明の敵やガトランティス、暗黒星団のような好戦的かつ極めて強力な軍事勢力と再び衝突する可能性がある。

 

 反面、現状維持を通せば、管理世界全体が停滞し、活力を失う。

 

 活力が失われれば、今まで表面化しなかった様々な問題が表面化する。

 

 最大の問題は少数の高ランク魔導師と低ランク魔導師に非魔導師の大多数勢力の溝だ。

 

 時空管理局、特に本局の将官や提督は大半が高ランクの魔導師だ。

 

 逆に、非魔導師では、今は亡きレジアス・ゲイズの中将が最高位だった。

 

 “陸”の部隊ではそうでもないが、本局系の部隊では往々にして差別事例が多々あった。

 

 むろん例外もある。

 

 旧機動六課のように、本局系高ランク魔導師と低クラス魔導師や非魔導師の間の折り合いが良かった部隊もあるが、旧機動六課の場合は、副隊長以上の幹部は皆、管理外世界の出身者や、一定期間管理外世界で生活した経験を持つ者ばかりで、彼女たちには非魔導師への差別意識自体が存在せず、かつ差別を許さなかったためで、現実は幹部の人柄に左右されることが多かった。

 

 最も隊内でいざこざはあった。

 

 代表的な出来事がティアナ・ランスターと高町なのはとの間で行われた模擬戦だ。

 

 ティアナは他のFWメンバーが自分よりも魔力素質が高かったことにコンプレックスを抱いていた。

 

 また、なのはの教導に関しても、本当に自分は成長しているのかと言う疑問を抱いていた。

 

 その不安と不満がなのはを相手に行った模擬戦で爆発したのだ。

 

 結果はなのはがティアナを力でねじ伏せたが、その後はちゃんと向き合って話をして、その確執も短期間で解決された。

 

 機動六課の例は余りにも特殊で、もし現状維持が恒常化すれば、この対立が表面化し、時空管理局は内側から揺さぶられることになる。

 

 そして第三の選択――地球連邦・地球防衛軍の持つタキオン粒子エネルギー変換技術の導入――は、次元航行艦の大幅な性能と戦闘力向上に貢献するだろう。

 

 但し、あくまで導入できれば、だ。

 

 最近はトーンダウンしているが、管理世界拡大推進派はかの地球の技術を質量兵器として接収することを主張している。

 

 しかし、例の通信ポッドとクライスラーの一件に加え、地球防衛軍の宇宙戦艦はアインヘリアル以上の威力を持つ艦砲を多数装備し、かつアルカンシェルを上回る戦略砲も装備し、一隻で次元航行艦一個艦隊以上の戦力を持つと推定されている。

 

 さらに、中・小型の戦闘艦の存在も確認され、それらもXV級、SX級を凌ぐ戦闘力を持つと判定されたため、実力による接収は事実上不可能という結論に近づいている。

 

 正式に技術提供を受けるにしても、当然見返りを用意しなければならない。

 

 地球連邦と管理局・管理世界間の相互不可侵協定の締結はもとより、次元航行技術の提供、そして、時空管理局憲章と諸規則の改定――質量兵器の否定や魔法中心主義と魔導師主導の管理局システムを根本から改める――を迫られよう。

 

 タキオン粒子のエネルギー変換技術に魔法は必要ないからだ。

 

 でなければ、地球側の警戒心を解くことはできないが、既得権を奪われる魔導師たち、特に高ランク魔導師は強く反発しよう。

 

 自分たちの地位と権力が脅かされるのだから‥‥

 

 とはいえ、地球側が好戦的でないことは本当のようで、先方に保護されているフェイトら三人が帰還し、彼女たちが持ち帰るであろう数々の情報を精査してからでもいいのではないか?

 

 しかし、今この場で自分が出来ることは、魔導師至上主義者、管理世界拡大推進派が唱えている追加の探査部隊の出征を阻止する事だとカリム自身は考えていたのだが、その思考は一つの報告で中断された。

 

「会議中失礼します。ボラー連邦、ベムラーゼ首相と名乗る人物から、時空管理局宛てに映像通信が入っています」

 

との緊急報告がもたらされたのだ。

 

 会議は一時中断され、その映像通信を見ることになったのは当然だ。

 

 その聞いた事もない世界‥「ボラー連邦」がラティオと捜索隊を攻撃した勢力と関わりがあると予想されたわけだからだ。

 

 映像はどうやら録画されたものらしく、曇った空模様に氷と雪に覆われた野外光景が映し出された。

 

 見て分かる通り、非常に寒そうだ。

 

 それは別に構わないのだが、カメラアングルが移動されると、議場から悲鳴や憤激の声が上がった。

 

 其処には、四十人ばかりの、“海”の制服を着た男女が十字型の柱にかけられていた。

 

 中には十歳そこそこの子供も何人か含まれている。

 

 彼らの顔は一様に恐怖と絶望で染められ、中には失禁した者もいる。

 

 そして、薄水色の肌をした肥満体型の男が玉座の様な椅子に座りながら登場した。

 

「私は、ボラー連邦首相のベムラーゼである。次元世界の法と正義の守護者を僣称する時空管理局の諸君。お前たちの同胞は不敵にも私の所有物を横から掠め取ろうとした。故に許しては置けぬ!!これよりその愚か者どもへの裁きを行う。自分たちが招いた愚かな結果を、最後まで見届けるがいい。アハハハハハ‥‥」

 

 ベムラーゼが高笑いを止め、サッと手を振り上げると、銃(レーザーライフル)を構えた兵士たちが張り付けられた局員に対し、その銃口を向ける。

 

 そして、手が振り下ろされると、銃口からレーザーが一斉に放たれ、張り付けられた局員の頭部や心臓に命中し、彼らは絶命する。

 

 突然行われた公開処刑の映像に殆どの者が映像を直視できず、口許を押さえながら議場から走り出ていく者もいる。

 

 レティ、カリムは席を立つことはなかったが、顔面蒼白になりながらも憤怒に身を震わせていた。

 

「も、もういい!映像を切れ!!今すぐに!!」

 

 見かねた“海”の高官が映像を切るよう命じ、映像は消えた。

 

 だが、追い撃ちをかけるように予想外の事が起きる。

 

 各世界の議員毎に開かれている映像ウィンドウが突然明滅したかと思うと、再びベムラーゼの顔が映る。

 

「途中で切るとは随分無粋な事をするな。だが、罪人共の処罰はまだ終わっていない。如何なる事態を招こうと、それは貴様らが責めを負わなければならぬのだ!!刑の執行を続けろ!!盗人共にはおしおきだべぇ~!!」

 

 

ミッドチルダ 首都 クラナガン 商業エリア及び繁華街エリア

 

 それは唐突に現れた。

 

 ビルに据え付けられたスカイビジョンの映像が突然乱れ、暗い空間の映像に切り替わる。

 

「ん?何だ?」

 

「何‥アレ‥‥?」

 

 スカイビジョンを見上げていた市民たちは訝しげな表情をしたが、次の瞬間、驚愕と恐怖のそれに変わった。

 

画面に映る空間が明るさを増すと、そこには“海”の制服を着た男女が磔にされている映像が流れた。

 

「私はボラー連邦首相ベムラーゼ。次元世界の管理世界とやらに住まう者達よ。お前達が守護者と頼む時空管理局とやらが、この大宇宙では弱き者でしかない事を教えてやろう」

 

 嘲笑を浮かべたベムラーゼがそう告げるや画面が切り替わる。

 

 ずんぐりした青色の艦艇からの凄まじい砲火によって無数の穴を穿たれ、艦体を切り刻まれて爆散するXV級航行艦。

 

 そして画面は、再び変わり、次に映し出されたのはつい最近、管理局が自信を持って送り出したSX級キャデラックにX級巡航艦の姿が映し出された。

 

 とは言え、モニター映るキャデラックもX級巡航艦もボロボロの状態であった。

 

 その周りを囲むように細長く鋭角的でスマートな艦体を持つ艦が甲板から紫色の細長いモノ‥‥対艦ミサイルを発射すると、キャデラックとX級巡航艦を包み込むように突き刺さる。

 

 観衆の中から悲鳴と絶叫が上がる中、キャデラックとX級巡航艦の艦体は中央から両断されたかと思うと、大爆発の炎に包まれ四散した。

 

 見ていた市民は泣き叫ぶ者、怒りの声を上げる者、失神して倒れ伏す者等々、平静を保っていられた者は誰一人としていない。

 

 そして画面は最初の場に戻ったが、これこそが真の悪夢の幕開けだった。

 

 ベムラーゼが続いてサッと右手を上げると、磔台近くの雪を掻き分け、キャタピラの着いた特殊車両‥戦車と呼ばれる特殊車両が止まる。

 

 一体何をするつもりなのだろうかと誰もがそう思っているとベムラーゼの上げた右手が再び振り下ろされる。

 

 その直後、戦車の砲身から高熱の炎が磔台に向け、放たれ、磔にされている局員たちの身体を焼く。

 

 局員たちは、悲鳴と絶叫を上げて、生きながら焼かれていった。

 

 

クラナガン 西部、陸士第108部隊 隊舎

 

 テレビからは生きたまま焼かれ、断末魔の悲鳴を上げながらもがき、絶命していく管理局員の無惨な姿が流れていた。

 

「おぇぇ~‥‥」

 

「うぇぇぇぇぇ~‥‥」

 

「ひどい!」

 

「悪魔め!」

 

「外道がっ!」

 

 ボラー連邦が行ったSX級次元航行艦とX級巡航艦の撃沈と公開火炙りの刑の一部始終はクラナガンを初めとするミッドチルダ全土と一部管理世界のメディアをジャックして流された。

 

 本局大議場に流された、処刑の映像すら生温い残虐極まる映像を目にした市民の相当数が激しい精神的外傷を負わされた。

 

 当然、管理局の諸部隊にも映像が流れたわけだが、たちまち市民からの電話が殺到して対応に追われることになり、それは108部隊も例外ではなかった。

 

 映像の真偽を確かめるもの、映像を見た者が倒れ、救急車の出動を要請する者等々、あちこちでパニックが発生したのである。

 

「今のところ取り乱す者はいませんが、隊舎全体で二割は卒倒したり、吐き気を催したりして戻しました」

 

「そうかい。まぁ、無理もねぇな」

 

 カルタスの報告を聞き、部隊長のゲンヤ・ナカジマ三佐が苦い表情で頷いた。

 

 一見平静に見える部隊長だが、ひじ掛けを握る手は憤怒で震えていた。

 

 そして、すかさずカルタスに指示を出す。

 

「市民がパニックになりかねんぞ。総員緊急配置だ!」

 

「了解!!」

 

 108部隊の隊員達は動ける者は、急ぎ街へと出て、市民の暴動に対処するための行動に入った。

 

 パニックに陥ったのは市民だけではなかった。

 

 映像を目にした様々な隊舎の時空管理局職員らも昏倒したり、その場で嘔吐したり、泣き叫んだりで、職務遂行困難になった者が続出しており、それはエース・オブ・エースも例外ではなかった。

 

 管理局でエースと呼ばれる彼女も所詮は殺し合いをした事もなく、戦争による人の死を目の当たりにした事のない年相応の女性と言う訳だ。

 

 

ミッドチルダ 首都クラナガン 時空管理局首都航空基地、教育隊 隊舎

 

 教導隊 隊舎の女性用化粧室で、なのはは顔面蒼白になって、必死になって吐き気に耐えていた。

 

 映像を見た者の多くが卒倒したり泣き叫んだり、嘔吐したが、気が遠くなる思いをしながらも嘔吐しなかったのは、流石エース・オブ・エースというべきか?

 

「どうして‥‥どうして‥あんな事を‥‥あんなひどい事を‥‥」

 

 鏡に向かって憤怒の声をぶつける。

 

 時空管理局が様々な矛盾を抱える組織であることは、十年以上働いていれば嫌が応でもわかってしまう。

 

 それを何とか改善しようと、親友たちと共に機動六課で頑張ったりしてきたのだ。

 

 しかし、ボラー連邦という国家はなのはの常識を悉く打ち砕くように挙を振り下ろしてきた。

 

 残虐極まる公開処刑もさながら、管理局の唱える次元世界観を嘲笑とともに斬り捨て、無限の大宇宙の中では、管理局は単なる弱者に過ぎないと断言したのだ。

 

 当然強い反感を抱いたが、管理局自慢のSX級、X級の艦船が一矢報えないままボラー連邦の対艦ミサイルの餌食になっていく様を見せ付けられては、一言も反論できない。

 

 艦の性能は勿論、戦術面でも明らかにボラー連邦が上であることを、不特定多数の市民が目にしてしまったのだ。

 

 つまり、次元航行艦部隊の威信は完全に失墜した。

 

 管理局が厳重に緘口令を敷いて来た事が全て無駄になってしまったのだ。

 

 艦船には素人のなのはでも、その事実は痛い程理解した。

 

 なのははそこで、もう一つの事実に気づき、戦慄する。

 

 あの映像は、ミッドの各地で放送された。

 

 愛娘、ヴィヴィオの通っているSt.ヒルデ魔法学院では、あの映像を見せない様にしてくれただろうか?

 

 もし、見ていたとしたら、ヴィヴィオの精神状態の事が心配だ。

 

 更に、もう一つ‥‥。

 

 処刑された者たちはSX級艦のキャデラックとベントレーのクルーだった。

 

 ということは、防衛軍に回収、調査されたノアやテリオス同様、管理局の次元航行艦はボラー連邦に捕獲されたという事で、管理局の機密事項や次元航行の技術もボラー連邦に渡る事を意味していた。

 

 実際にボラー連邦がミッドに電波ジャックを行って処刑動画をながしている。

 

 恐らく次元航行艦の通信網を調査・逆探して流して来たのだろう。

 

 そうなったら、ボラー連邦が将来的には管理世界や本局等に対する軍事行動に出てくる可能性が大きいのだ。

 

 もしそういう事態になったら‥‥

 

 ボラー連邦が敵に対して極めて残忍であることはさっきの映像で証明済みだ。

 

 対して管理局の対人戦闘は、基本的に非殺傷設定であり、なのははもちろん、管理局の魔導師たちはそれを誇りにしてきた。

 

 しかし、ボラー連邦は最初から殺すつもりで来るだろうし、民間人をも容赦なく殺戮するだろう。

 

 そうなった時、管理局の魔導師は相手を殺すつもりで戦えるのか?

 

 八神はやての守護騎士たちは心を決めて戦えるだろう。

 

 しかし、自分たち魔導師はどうだろうか?

 

 悲しみを打ち砕く力として魔法を使ってきた事を誇りにしてきたが、いくら敵とはいえ、相手を殺し続けることに自分たちは耐えきれるのか?

 

 恐怖に打ち勝って戦い続けることができるのか?

 

 そして、自分は娘(ヴィヴィオ)を守りきれるのか?

 

 高ランク魔導師‥管理局のエース・オブ・エースと言われながら、肝心な時に動けねば全くの役立たずではないか‥‥。

 

 胸中に広がる絶望感は、『聖王のゆりかご』が起動した時とは比べものにならないほど重く暗かった。

 

 

ミッドチルダ、時空管理局地上本部一階、一般受付

 

「あの映像は事実なのか!?」

 

「映画の宣伝や合成映像じゃないのか!?」

 

「管理局ご自慢の艦船はあんなに弱かったのか!?」

 

 あの惨劇の映像が流れた直後から、地上本部や管理局各部隊には市民が直接押しかけ、電話も常に鳴りっぱなしで、局員らは事実関係の説明を求めていたが、当の局員もわからないのだから説明のしようがない。

 

 そして、ベムラーゼの陥穽に嵌められた事に気づいた本局の動揺も著しかった。

 

 管理局を弱者と堂々と発言し、それを証明するかのように行った管理局艦船の撃沈する映像と局員を残虐な方法で処刑し、その映像を一般市民に直接見せつけたボラー連邦とその国家元首、ベムラーゼ首相に対する感情は、もはや憤怒を通り越して憎悪に近い。

 

「あのような人でなしは許せん!正義の鉄槌を下さなければ、次元世界は奴らにいいように掻き回されるぞ!」

 

「許せん気持ちは皆同じだ!しかし、ボラー連邦の艦船はガトランティス同様、戦闘力はとんでもないものだぞ!我々の艦船で対抗できるのか!?」

 

「向こうは我々に明らかに挑戦してきたのだ!しかも、管理局を堂々と弱者だと罵り、最新鋭艦の次元航行艦までもが奴らの手に落ちたのだ。モタモタしていたら、次元航行技術も奴らの手に渡る恐れが強いのだ!奴らがこちらに来る力をつける前に討伐艦隊を差し向けて、踏み潰せばよかろう!」

 

等と激論が交わされている。

 

 自分たちが拠って立つ力の象徴たる次元航行艦がろくに反撃できぬまま一方的に撃破されていく。

 

 まだ若い局員たちが、あんな残虐なやり方で殺されていく様をただ見ているしかできず、彼らは惨めな敗北感と無力感と屈辱のぬかるみに突き落とされていた。

 

 時空管理局の戦力は管理世界でしか通用しない。

 

 立て続けに発生した艦船の喪失で管理局への信頼が揺らいでいるところに、今回の映像とベムラーゼの宣告は管理局にとって決め手となった。

 

 管理局‥特に“海”の体面と信頼は地に墜ちたのだ。

 

 この敗北を挽回し、市民からの信頼を回復する為にはボラー連邦に武力制裁による大打撃を与え国家元首たるベムラーゼを逮捕するしか打開できない。

 

 ここで、負けを認め、ボラー連邦を放置すれば、先程言ったように今度は管理世界にボラー連邦が攻め込んでくる可能性もあるし、管理世界は一層動揺し、治安の悪化と反管理局勢力の跳梁跋扈を招く。

 

 強硬派から出た主張は過激だが、的を射たものであり、慎重派も強く反対はできない。

 

 ここはやはり、地球防衛軍に支援要請ないし、技術提供を受けてはどうかとの意見も出るには出たが、

 

「奴らもボラー連邦と同じ質量兵器信奉者だ!」

 

「そんな連中の力を借りれば次元世界に質量兵器が拡散するぞ!」

 

という魔導師至上主義者、管理世界拡大推進派に押し切られてしまった。

 

 彼らとしては珍しく、管理外世界でも高魔力を持つ者は管理局へ入れたがるくせに、今回の事態収拾は全て管理局の手で行おうと言っているのだ。

 

 もっとも、今の地球に管理局を支援する余裕があるかどうかはわからないし、技術提供を申し込んでも、通信ポッドとクライスラーの一件があるため、すんなりと行くとは限らない。

 

 そんなやり取りを聞いているのか聞いていないのか、分からないが、カリムは、一人顔を頷かせていた。

 

(また、預言を防ぐことは出来なかった‥‥)

 

 JS事件、クライスラー遭難事件、そして今回のボラー連邦との一件。

 

 恐らく今回のボラー連邦との一件が二番目の預言だと言う事は、カリムは直ぐに察しがついた。

 

 預言にて起こる事が分かっていながらも自分はそれを防ぐことが出来なかった。

 

 カリムは果てしない無力感と罪悪感に襲われていた。

 

 

海上第七支部付近空間、次元航行艦クラウディア 士官用ラウンジ

 

「「「「「‥‥」」」」」

 

 第七海上支部の下層部に突入して人命検索と救出任務に当たっているスバルとチンク、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディの新ナカジマ姉妹たちは、コーヒー、紅茶の湯気を顔に当てながら、一言も出せずにいる。

 

 ここは士官専用スペースであり、本来は准尉以上の階級の者しか入れない部屋で、スバルやノーヴェたちは士官ではなく、本来は士官同伴でないとここには入れないのだが、

 

「過去最悪の事態だ。非常に危険な場所へ突入する者に、階級の上下などない!」

 

と、クロノが艦長権限で曹長以下の突入隊員にも、放射能除染処置を受けた後の入室権限を与えていた。

 

 第一次の突入隊員だったスバルたちは、撤収から最短で、あと十二時間経過しないと再突入できないため、休息を兼ねてここにいる。

 

 現在は第三次隊が突入しており、聖王教会から派遣された教会騎士団も含まれ、修業予定者であるセイン、オットー、ディードの旧ナンバーズも志願し、救助隊に名を連ねている。

 

 特に旧ナンバーズの中でも特殊なISスキルを持つセインの能力、ディープダイバーは壁や地面の中に自在に潜れるため、今回の救助活動には重宝している。

 

「酷いよ、何であんなことを平然と出来るの‥‥?」

 

 見知らぬ敵への憤りを、スバルが絞り出すように呻く。

 

 艦長のクロノを除くクラウディア乗組員とスバルたち派遣隊員には、ボラー連邦の事や、もっと残虐な行為が行われた事実はまだ知らされていない。

 

 これはセインたち、追加派遣された艦と派遣隊も同じだ。

 

 スバルが言った「ひどい」とは、タイタンをここまでボコボコニした連中の事を指している。

 

「敵が誰かはともかく、管理局やドクターたちとも違う正義と価値観を持つ者たちのようだな‥‥」

 

 スバルの言葉にチンクが応じる。

 

「身を置いた場所によって、正義の概念も違うだろう。私も奴らのした事を許すつもりはないが、それを以って奴らを絶対悪とは言えんさ‥私たちが知らないだけで、何かしらの事情が向こうにもあったのかもしれない」

 

「けど、被害はここだけで済んでいるのかな?」

 

 ノーヴェが声のトーンを落とした。

 

 彼女の勘は冴えており、まさにその通りであった。

 

「他にも被害が出ているかも知れないって事ッスか?」

 

「クロノ提督は何も言っていないけど、あえて伏せている可能性もある訳わけだね」

 

 ウェンディとディエチが推測ではあるが、ノーヴェの言っている事も一理あると言う。

 

「でも、私たちはこの敵に対抗できるんッスかね?」

 

 ナカジマ姉妹のムードメーカーであるウェンディも流石にショックだったのか、声のトーンが落ちている。

 

「これまでも質量兵器の犯罪はあったけど、せいぜい銃器や手榴弾を含む爆弾、大きくても携行型のロケットランチャー位だった‥‥これだけの被害となれば、ラティオが発見したという新たな世界がそっくり敵に回ったと言うことかもしれないな」

 

 チンクが今回の敵の存在を推定する。

 

 最新鋭の次元航行艦を含む、十隻の次元航行艦をいとも簡単にひねってみせたのだ。

 

 もはや反管理局の武装勢力やテロリストの様な類ではなく、暗黒星団帝国やガトランティス、地球防衛軍などと同じ、世界規模の軍事勢力だろうと誰でも推定できる。

 

「魔法文化はなく、純粋科学兵器で戦う世界とこうも続けて遭遇するとはな」

 

 管理局にとっては厄年であり、管理局は、もうダメかも知れない、とは口に出さないチンクだった。

 

 今、言えばスバルに強い不安を抱かせ、救助作業に支障をきたすと思ったからだ。

 

 

次元航行艦 クラウディア 艦長室

 

「ゴク‥ゴク‥ゴク‥‥ふぅ~‥‥」

 

 クロノはミネラルウォーターと一緒に胃薬を飲み下し、ひと息つく。

 

 第七海上支部の半壊をも上回る悪夢のような情報に冗談ではなく胃痛がひどくなった。

 

 あれは悪意なんてものではない。

 

 以前地球の歴史書の中に登場し、なのはやはやての地球でもごく僅かだが、未だに存在する独裁国家そのものだ。

 

 あの世界はガトランティス同様、交渉は不可能だ。

 

 ではどうする?

 

 武力制裁しようにも、返り討ちに遭うのがおちではないのか?

 

 それにベムラーゼは確かに敵であるが、彼が治めている世界、ボラー連邦にも国民はいるだろう。

 

 彼らまで討つ必要はない。

 

 それに、あのベムラーゼが例え独裁者であっても、ボラー連邦国民にとっては良き為政者であれば、彼を討つ時空管理局は、ボラー連邦国民にとっては敵だ。

 

 時空管理局の敵だということだけで排除していいのか?

 

 そうなれば、いずれは地球防衛軍も敵と認識し、戦う事になるかもしれない。

 

 そこまで思い至ったところで、クロノは現実に引き戻される。

 

 ボラー連邦の軍がどれほどの規模なのかわからないが、艦船の性能や武装は管理局のそれを凌いでいる事は明らかであり、もしかしたら、地球防衛軍と同様、宇宙戦闘機もあるかもしれない。

 

 そしてあの対艦ミサイル。

 

 発射されてから不規則な動きをしたと思ったら、急加速し、接近、目標にほぼ確実に命中する。

 

 そんな強力な兵器を持つ軍隊相手に、非殺傷戦闘を基本とする管理局が戦えるのか?

 

 クロノの脳裏に何度か通信で顔を合わせた地球防衛軍士官の顔が浮かぶ。

 

 彼らならば、たとえ敵が優勢でも臆さずに戦うだろう。

 

 管理局はいくつかの反管理局武装組織と戦っているが、管理局の方が戦力、物量とも上回っている。

 

 しかし、ガトランティス、地球防衛軍、暗黒星団帝国、ボラー連邦いずれも物量はわからないが、戦力が段違いで戦意も旺盛で敵を殺すつもりで戦う。

 

 そんな相手に、管理局が仮に物量で勝っていてもアドバンテージにすらならない。

 

 今すぐ、または明日、明後日にボラー連邦が管理世界に攻めて来るとは思えないが、次元航行技術を自分たちのものにした時、攻め込んで来てもおかしくはない。

 

 その時に必要なのは、敵を殺してでも大切なものを守る覚悟と、敵と互角に戦うための術だが、管理局には両方とも足りない。

 

「はぁ~‥これが魔法の‥‥管理局の限界なのか?」

 

 奇しくも彼の口からなのはと同じ、暗然たる呟きが漏れた。

 

 

ミッドチルダ 首都 クラナガン郊外、高町家

 

 ボラー連邦がミッドの放送系統を電波ジャックし流したあの映像の影響で、関係者の動揺が著しいと判断され、教導プログラムの一部が中止された為、なのはは定時で勤務を終え帰宅した。

 

 幸い、あの映像が流された時間は学校の授業中だったため、ヴィヴィオら学生たちはあの映像を見ていなかったが、周囲の大人や街中の異様な雰囲気から何か変事があったことは悟っていたようだ。

 

 そして、ヴィヴィオは疑問をストレートに訊ねる。

 

「ママ、かんりきょくの船がたくさんやられたってホントなの?」

 

「うん‥‥」

 

 すでに子供たちにもその話が伝わっているのか、既にプレスリリースはなされており、管理局次元航行本部の記者会見も間もなく始まるので、なのはも否定できなかった。

 

「かんりきょくの‥‥まほうの力でも負けちゃったの?」

 

 不安げな娘を、なのはは抱き締める。

 

「うん。負けちゃった‥‥魔法の力でも勝てなかった‥‥でも、ヴィヴィオは何があっても、なのはママが守るからね」

 

「‥‥早く大人になって、強くなりたい。そしたら、ママを守ってあげられるのに‥‥」

 

 JS事件の折、ヴィヴィオは、体内にレリックを埋め込まれ、『聖王のゆりかご』でなのはと対峙した時、美しい女性姿であったが、最終的に体内に埋め込まれていたレリックはなのはの手によって摘出、破壊され、同時に聖王の鎧と呼ばれる絶対防御に近い鎧も同じく破壊された。

 

「‥‥ヴィヴィオ」

 

 愛娘を抱きながら、なのはは思考を巡らせた。

 

 こんな事を考えたくはないが、もしミッドチルダが危なくなったら、子供たちだけでも地球へ‥‥。

 

 あるいはあの第二の地球に疎開ができないものか?

 

 生まれ故郷である地球には両親、兄、姉たちがいるし、もう一つの地球には、もしかしたら、ボラー連邦とも互角に戦えるかもしれない。

 

 それに今ならあの地球にはフェイトたちもいる。

 

 地球防衛軍が如何に時空管理局に不信感を抱いていても、フェイトたちを救助したのだ、局員でもない子供たちを邪険に扱いはしないだろう。

 

 少し前までは、こんな事なんか考えなかったのに‥‥。

 

 魔法の力で質量兵器を廃止し、次元世界を平和にするという管理局の理念に賛同したから局に入り、懸命に努力して、少しは世界のために貢献できたという自負があった。

 

 しかし、ガトランティスや地球防衛軍等、魔法とは無縁で、かつ桁外れに強力な質量兵器を使う世界の宇宙軍隊や武装勢力は、なのはや管理局員達の自負を微塵に打ち砕いた。

 

 アインヘリアルやアルカンシェル以上の威力と思われる強力なエネルギー兵器を持つ宇宙戦闘艦に宇宙・大気圏両用の機動兵器等、SX級艦やオーバーSクラス魔導師でも太刀打ちできない。

 

 彼らの力の前に自分たちの魔法は無力なのか?

 

 なのはは、後日の定期連絡において、ティアナから、

 

「生身で飛んだり戦うことができない人が強力な鋼の翼と鋭い爪や牙を求めるのは当然の事で、身一つでも飛べたり戦える魔導師や管理局の理屈だけでそれらを没収するのは、極論すれば『非魔導師は魔導師に従え、逆らうな』と言うようなもので、傲慢以外の何物でもありませんよ」

 

と言われ、絶句することになる。

 

 

時空管理局・無限書庫

 

 次元世界最大の蔵書数を誇る超巨大図書館の実質的責任者であるユーノ・スクライアは、十年来の腐れ縁であるクロノ・ハラオウンと、モニター越しに話をしている。

 

 普段はクロノが突然大至急の資料請求をするため、大抵一悶着あるのだが、珍しくも口論がない。

 

「そうか、やはり見つからないか‥‥」

 

「恐らくは過去にどこの管理世界とも接触がなかったんだと思う」

 

 クロノとフェイトがヤマトに遭遇してから、ユーノは事ある毎に関係する資料を探しているのだが、無限書庫をもってしても、もう一つの地球やヤマト、ガトランティス、暗黒星団帝国、ボラー連邦、あるいはタキオン粒子のエネルギー変換技術に関する資料は発見できていないのだ。

 

「“海”の様子はどうなんだい?」

 

「『最悪』の一言だよ。遠方世界への単独航行は禁止されたから、船の手配は一苦労さ。おまけに出航を渋る艦長も相次ぎ、転属や退職を願い出てくる者も増えている。正に負の連鎖さ」

 

「あれだけ、自信満々で送り出したにも関わらず、一方的にやられた上、あんな残酷な殺され方をされてはね。意気消沈するのも仕方ないといえば仕方ないが地球防衛軍から技術供与を受けるという提案はなかったのかい?」

 

 ユーノの言うとおり、地球防衛軍から造船技術やタキオンエネルギー変換技術を提供してもらうのは一つの手だ。

 

 しかし、

 

「その提案は議題にも上がったし、僕もそれが最善だとは思うが、管理局や管理世界の質量兵器アレルギーを何とかしなければならない。それに、たとえ技術供与を得ても、こちらの力で艦船を建造し、運用できる人材を育てるまでには、相応の期間が要るだろうな」

 

「それもそうだけど、それ以前に根本的な問題があるな」

 

ユーノが話題を変えにかかる。

 

「根本的な問題?」

 

「ああ。地球防衛軍は地球連邦政府の指揮下にある一つの機関なんだろう?地球の常識では、軍に対しては文民統制がなされていて、軍や警察が独自に外国と交流することは禁じられている。ということは、防衛軍に要求したって『政府に言ってくれ』と言われるだろうし、地球連邦政府は政府で、管理局を外交相手と認識する事はありえないんじゃないかな?」

 

「シビリアン・コントロールか‥‥確かにそのとおりだな。かといって、数ある管理世界政府の了承を、管理局がいちいち取るようなことをするとも思えないな」

 

「管理世界といっても、一桁台のところはともかく、強引に管理下にした世界は、今でも反管理局運動や管理局関連の施設に対するテロ行為が今でも続いている所も少なくないからな。素直に従ってはくれないだろうな」

 

 ロストロギア収集や管理世界への編入の際、結構強引だったり、えげつない手段をとった事もあり、結果、住民の反感や憎悪を買った例も見聞きする。

 

 地球防衛軍に回収されたノアやテリオスにもそういう「黒い」資料があったと聞く。

 

 そういう資料が回収されていれば、地球防衛軍や地球連邦政府にとって、時空管理局はガトランティスに準じた侵略的要素を持つ勢力と見られるのではないか?

 

 管理局に身を置く自分さえもそう思えるのだから、地球連邦、防衛軍がそう思っていてもおかしくはない。

 クロノのこの懸念は、不幸にも的中していた。

 

 

 此処で舞台はミッドから地球へと移る。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 士官会議室

 

 まほろば の艦内にある会議室では、まほろば の幹部乗組員とヤマトの幹部乗組員が集まり、会議を行っていた。

 

 議題は当面の不安要素――敵性軍事勢力――についてだ。

 

 ガミラスや白色彗星帝国は天の川銀河の外から侵略してきたし、ペテルギウス、イスカンダルで遭遇した暗黒星団帝国もその可能性が高い。

 

 しかし、これからの地球は宇宙開拓の為、天の川銀河の内側――深宇宙――に向かう。

 

 当然星の密度も高くなり、高度知的生命体――ヒューマノイド――が住む惑星もあるだろう。

 

 彼らが宇宙に進出するだけの文明レベルになければ一切接触しないでやり過ごせばいいし、宇宙に漕ぎ出す文明・技術を持ち、平和・穏健的な勢力ならば、対等な外交関係を持つ選択も考えられるが、好戦的・侵略的な勢力ならば話は違う。

 

 基本的には、可能な限り戦闘は避けねばならないが、こちらの艦船や乗組員に危険が迫れば排除しなければならない。

 

「ガミラスとは極めて特殊ではあるが、休戦状態と言っていい。ガミラス艦隊と仮に遭遇しても、こちらから攻撃することは厳に慎まなければならない。ガミラス艦隊もこちらを見つけ、いきなり攻撃してくることは無いだろうが、用心に越したことは無い」

 

 新見、永倉、井上、ギンガ、フェリシアらの まほろば の幹部乗組員、古代、島、真田、雪らヤマトの幹部乗組員達も些か複雑な面持ちながらも頷いた。

 

「彗星帝国の残党に対しても、基本は無視でよろしいんですか?」

 

「組織的な報復攻撃をしてくる可能性は低下しているが、あちらが攻撃してくるのであれば、防衛行動を取らなければならないだろう‥‥問題はペテルギウス、イスカンダルで遭遇した暗黒星団帝国。それと‥‥」

 

「暗黒星団帝国以外にも厄介な勢力があるのですか?」

 

 言葉を濁らせた良馬に古代が質問する。

 

 良馬は、一呼吸置いて口にする。

 

「時空管理局だ」

 

と、管理局の名前を口にした。

 

「時空管理局?それって確かハラオウン執務官らが所属している例の魔法の世界の治安維持組織ですか?」

 

「そう。惑星を一つの世界と定義し、魔法文化の有無や、彼らがいうところの『次元の海』に出る技術を有するか否かで、彼らの管理下(支配下)になるかどうかが分かれるようだ」

 

古代の質問に良馬は答える。

 

「補足で言っておくが、魔法と言っても、一般的にテレビや漫画、絵本で知られているホウキに跨がって飛んだり、黒いトンガリ帽子を被って木の枝の様な杖を振る訳では無い‥‥これから再生する映像に気分を悪くする者が居るかもしれないが、ハラオウン執務官らには、滞在中、変わらぬ接し方をしてもらいたい。映像にある事は彼女たちも知らなかった様だから」

 

「その時空管理局と言う組織も一枚岩ではないと言う訳ですね」

 

 南部が納得する様子で言う。

「まぁ、組織である以上、それは、仕方ないだろうね。防衛軍だってそれは同じだろうし」

 

 そう言って、良馬は用意した映像を再生する。

 

 それはノア、テリオスから回収した時空管理局の航空武装隊の教導用映像で、管理局の活動映像と白いコスチュームに身を包んだ栗色の髪の少女と黒いコスチュームの金髪の少女が「戦っている」映像。

 

 しかも、二人ともまだ十歳に満たない年頃だ。

 

「生身で飛んでいる‥‥」

 

「箒にも杖にも乗っていない‥‥」

 

「ビームを撃ち合っている‥‥」

 

「黒い服の金髪ちゃんは確か、月村艦長が預かっている子じゃないですか?」

 

「それにしてもこの二人、テスタロッサさんと紅葉ちゃんそっくりですね」

 

 それぞれが映像を見て、言葉を交わす。

 

「その通り、当時、彼女も対戦相手の子も九歳だったと聞く。二人が時空管理局に入ったのはこの後だ」

 

 良馬も敢えて感情を排した口調で説明する。

 

 井上は腕を組み、無言で見ていたが、良馬に質問する。

 

「時空管理局は、このような年頃の子供も第一線に立たせるのですか?」

 

 年配者として孫にあたる年頃の子供たちを危険な任務に就かせる時空管理局に対し、不満、不審を感じている様だ。

 

「以前、遭遇した時空管理局の難破船を捜索した時に、十歳から十五歳位の子供の魔導師と思しき遺体を確認している。管理局は、魔導師としての才能がある者は年齢、過去の履歴に関わらず採用、あるいはスカウトしているようだ。事実、黒い服の少女、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは犯罪捜査官になったが、問題はもう一人、白いコスチュームの少女は、時空管理局が言うところの管理外世界、つまり魔法文化がない惑星の出身なんだが、この映像が撮影されてから十一年を経過した現在は、やはり管理局のエース的存在だという」

 

 白いコスチュームの少女‥‥高町なのはが、過去のもう一つの地球出身者とは敢えて言わなかった。

 

「と言うことは、魔導師の資質が高ければ、誰彼構わないということなのですか?」

 

「穿った見方をすればそうだ。過去に凶悪な犯罪を犯した者でも、魔導師資質があれば、司法取引や情状酌量等で管理局入りするケースも多々あるようだ」

 

 一同が憮然とした表情になる。

 

「それって、悪質な洗脳ではないですか?」

 

 新見が辛辣なコメントを口にする。

 

「‥‥」

 

 元管理局員であるギンガは何も言えない。

 

「向こうには向こうの事情があるんでしょうけど、たとえ高い資質の持ち主であれ、本来不干渉であるべき世界の子供まで引き込むようなやり方には、一片の好感も持てませんね」

 

 島も管理局に対しては不信感を抱いている様子。

 

 今度はフェリシアが良馬に質問する。

 

「時空管理局が取り締まるという質量兵器というのは、実弾兵器だけなんでしょうか?」

 

「以前、ハラオウン執務官に質問したことがあるが、管理局は、魔力によらない兵器全般を質量兵器と定義づけているらしい」

 

「だとすれば、波動砲はその極致じゃないですか?」

 

「そういうことになる。管理局側としては取り締まりたいか、是が非でも接収したいだろうな‥防衛軍の兵器を‥‥そのため、今後、管理局から何かしらの干渉が予想される」

 

「自分達魔導師の優位を保ちたいためにですか?」

 

 古代がやや不機嫌さを出して質問する。

 

「管理局曰く、子供でも扱える質量兵器があるから戦争が絶えないということなんだが、意地悪な見方をすれば、魔法や魔導師の優位を保ちたいがために質量兵器を使わせたくないとも言えるな‥‥とはいえ、別に管理局を全否定するつもりはないさ。彼らの活動で治安が保たれている惑星もあるのだろうから‥‥我々としては、管理局は今の管理世界の治安維持に専念してもらって、こっちの事は放っておいてもらいたい所だがね」

 

「その管理局の戦力はどれくらいのモノなんですか?」

 

 永倉が管理局の戦力について訊ねる。

 

 まほろば の乗員は何度か管理局の艦と接触しているが正式な戦力とその性能までは知らず、ヤマトの方に至っては未だに管理局艦とは接触していない。

 

「艦の性能としては、ガミラス戦役に我々が使用していた艦船とどっこいどっこいかそれ以下の性能だ」

 

『‥‥』

 

 良馬から管理局の所有する艦船の性能を聞き、ギンガを除いてポカーンとする一同。

 

「それ、マジっスか?」

 

「マジだ」

 

 永倉が真意を訊ねるが、良馬はそれをあっさり肯定する。

 

 

 続いての映像を見た一同は思わず顔をしかめた。

 

 映像には管理外世界に逃げ込んだ次元犯罪者に対し、管理局が現地住民に対し無警告でアルカンシェルを放ち、その世界ごと、次元犯罪者を始末する映像だった。

 

 アルカンシェルを撃ち込み、現地の無関係な非戦闘員を大勢虐殺した管理局艦はその後、なに事もなかったかのように、その場から立ち去って行った。

 

 この他にも強引な管理世界への編入、管理外世界の現地住民に対する暴行・略奪、強盗同然なロストロギアの接収。

 

 また、管理外世界における魔力属性者の拉致。

 

 これらの映像を見て、一同は、明らかに不機嫌な顔をしている。

 

「‥‥こんな事をしておいて、連中は正義や法の守護者等とほざいているのですか?」

 

 永倉が怒りを我慢して管理局の実態を訊ねる。

 

「残念ながら‥‥」

 

「あの連中は、正義と言う言葉に酔いしれて、正義と言う言葉を使えば、何をしても許される、何をしても良いと思い込んでいるのでは有りませんか?」

 

 フェリシアも管理局に対して不信感、怒りを感じている様だ。

 

 いや、永倉やフェリシア以外でもここに居る皆が同じことを思っている様だ。

 

 それは以前、管理局に所属しているギンガも同様だった。

 

 まさか、管理局がこんな残虐な侵略行為をしているとは思わなかったのだ。

 

「まぁ、今までは彼らの管轄‥管理世界の領海ではその技量と性能で何とか運営してこれた。しかし、欲でも出して、この世の全て‥‥宇宙の全てを統一しようとしたら、白色彗星や暗黒星団に遭遇し、連中にたやすく捻られて、自分たちの身の程を知ったって所だろう」

 

 今までの地球の努力を無駄にし、バカにする訳では無いが、ヤマト就役前の地球防衛軍艦艇ではガミラスはおろか、ガトランティスの艦艇にも歯が立たないだろう。

 

 それと同じような‥いや、それよりも少し劣る性能の艦艇で宇宙を全て統一しようなんて、余りにも無謀だ。

 

 太平洋を小さなゴムボートで横断するのと同じぐらい無謀だ。

 

 今の最新の地球の科学技術でさえ、もしかしたら、まだ見ぬ星にとっては旧式な技術なのかもしれないのに‥‥

 

 宇宙にはどんな技術を持った星があるかまだまだ分からないのだ。

 

 外宇宙に出るならば、常に自分は弱者であると言う謙虚さを忘れてはいけないのかもしれない。

 

 良馬の見るところ、言葉は悪いが、管理局の次元航行艦船は次元空間と言うトンネルの中でしか生きられないモグラか鼠だ。

 

 通常空間で宇宙戦艦と言う猛禽類、肉食獣、毒を持つ大蛇に狙われたら、ろくに抵抗できず、鋭い爪と嘴または、研ぎ澄まされた牙で簡単に引き裂かれてしまう。

 

 この宇宙では、時空管理局の常識やルールが全て正しいわけではないことを、管理局はいい加減学習してほしいものだ。

 

「基本、管理局の艦船と接触したら、艦名を名乗る程度にしておこう。もし、武装解除しろだの、臨検し艦を接収するとか言ってきたら、その時は‥‥」

 

「その時は‥‥?」

 

「その時は、沖田艦長の故事に学ぶとしよう。連中に一言『バカめ』と言って、無視する。それでも向こうが諦めず、今度は武力行使をしてきたら‥‥」

 

 そこで一息つき、幾分声を低くして言葉を接ぐ。

 

「容赦なく沈める。たとえ子供が相手でも、完膚なきまでに叩きのめすだけだ」

 

 良馬が、管理局艦を撃沈すると言った時、冷たい殺気が飛び、その場に居た誰もが身震いをして、生唾を飲み込んだ。

 

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