星の海へ   作:ステルス兄貴

88 / 294
七十九話 終戦

 

 

冥王星宙域で繰り広げられる彗星帝国残党軍と地球防衛軍との戦いは、第一ラウンド目は波動砲搭載艦の波動砲一斉発射によって残党軍の大半を沈める事が出来たが、残党軍は再集結を図り、尚も地球防衛軍に戦いを挑み、防衛軍側も残党軍の殲滅を優先し、これを迎撃する構えをとった。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

 

「敵艦隊接近!!前方、2500!」

 

「オールウェポンズフリー!目標、敵艦隊!落ち着いて狙えよ!」

 

「はいっ!」

 

他の艦も同様に主砲を敵艦隊に指向し、ミサイルランチャーのドアを開いた。

敵戦艦の回転速射砲は距離をおけば怖くないが、艦橋砲が脅威なのは、以前土星圏で行われた総力戦において、ヒペリオン艦隊を潰滅させられたことで実証済だ。

 

正面での戦闘は禁物だ。

 

向こうは逆にこちらの波動砲を警戒しているだろう。

 

戦艦でなくても、巡洋艦や護衛艦のそれで十分致命的被害を与えられるのだ。

 

「ネメシスより、火線を敵の先頭艦に合わせるように、との指示です!座標データ入りました!」

 

旗艦ネメシスから敵艦隊先頭艦の照準データが来た。

 

即座に入力され、照準が調整された。

 

「機械に頼りきるなよ、自分の目でも確認するんだ。訓練を思い出せ!」

 

「はいっ!」

 

フェリシアの言葉に砲術士が力強く応えた。

防衛軍のメインコンピューターは優秀だが、それに頼りきってはいけない。

 

元々、宇宙戦士たちの照準能力はヤマト就役以前から高かった。

 

ガミラス艦隊との戦闘でも、先に命中弾を与えたのはたいてい地球側だったのだ。

 

ただ、当時の光学兵器は出力不足で、接近戦に持ち込まないとガミラス艦の装甲を撃ち抜くことができなかった。

 

一番強力だった戦艦の艦首砲ですら、中距離以遠では話にならず、最も戦果が多いのは、突撃駆逐艦による近接雷撃戦だった。

 

その分、犠牲も多かった。

 

ヤマトの帰還後再編された新艦隊でも、光学照準による砲雷撃訓練は続けられた。

 

参謀本部あたりからは、そんなの無駄だ、と言われもしたが、故・土方総司令は従来どおりの訓練を課した。

 

「狙点、固定完了!」

 

光学照準でも敵の先頭艦、戦艦に照準が合わさっているのを、艦長席でも確認した。

 

そして、艦長席と副長席、砲雷長席で射撃サインが点灯した。

 

「撃て!!」

 

地球側全艦からの主砲砲撃が敵艦隊の先頭艦に向かって伸びていった。

 

地球・白色彗星両軍の小艦隊同士の戦闘は、互いに決定打を与えられないまま推移していた。

 

白色彗星側は地球艦隊との距離を詰めて正面で捕捉しようとするのに対し、地球艦隊は拡散波動砲による殲滅戦を企図して距離をとろうとしたため、千日手状態に陥っていた。

 

「味方駆逐艦シムス、メインエンジン停止!総員退去!」

 

「敵巡洋艦一隻、撃沈!」

 

「十時の方向から敵駆逐艦二隻接近!」

 

「蹴散らせ!主砲一番二番、左舷艦首ミサイル、撃てっ!」

 

艦橋内に敵情報告と迎撃命令が飛び交う。

 

艦体に数発食らっているが、かすり傷程度だ。

 

幸い、戦死者も出ていない。

 

向こうも戦艦には大した被害が出ていない代わりに、駆逐艦は双方とも喪失艦が出ている。

 

「駆逐艦若竹被弾!!このままでは敵駆逐艦と衝突します!」

 

若竹はガミラス戦役前に就航したM-21881式宇宙突撃駆逐艦の一隻で従来の地球型のエンジンから波動エンジンに換装された艦であった。

 

若竹は艦橋をはじめ、船体の彼方此方から煙を噴き上げている。

 

残念だがあれでは助かるまい。

 

敵の駆逐艦も若竹が最後に放った攻撃が艦橋に命中したらしい。

 

火煙に包まれ、舵がきかなくなったのか、衝突コースを維持したままだ。

 

やがて、両艦とも速度を維持したまま、敵駆逐艦の左舷に若竹が衝突し、一瞬おいて大火球と化した。

 

「‥‥」

 

敬礼してやりたいが、今はそんな余裕がない。

 

まほろば の艦橋員は目礼で若竹の乗組員を悼んだ。

 

その後も戦闘は激化した。

 

「右舷、第一から第三、及び第十一発射管損傷!第五から第八ブロック閉鎖後注水!第二、第三ミサイルランチャー損傷されど、主砲及び波動砲に損傷なし!」

 

「ダメージコントロール現場に急げ!!」

 

「メディックは第三、第七区画へ急行せよ!!」

 

「敵戦艦、大破!!漂流を始めました!!」

 

まほろば は右舷前・中央中から煙を噴き上げながら前進を続けていた。

 

既に敵味方とも無傷な艦はなく、破口を生じ、火煙を引きながらも戦闘を続けている。

 

しかし、まほろば の方も敵戦艦の速射砲で右舷に少なからぬ被害を被ったが、艦橋と右舷艦体に主砲を撃ち込んでやったため、敵戦艦は猛火に包まれて漂流し始めた。

 

「止めを刺してやれ。第四、第五主砲、斉射三連!艦尾発射管、対艦ミサイル撃てっ!」

 

フェリシアの指示から数瞬後、漂流していた敵戦艦は大小無数の金属片と人体だったものの残骸と化した。

 

 

残党軍 旗艦 アポカリクス級航宙母艦 艦橋

 

「提督。味方が次々と‥‥」

 

「‥‥」

 

「提督!!」

 

「陣形編成!!特攻準備!!」

 

「えっ!?」

 

「しかし、それでは‥‥」

 

「こうなれば、一艦一殺だ!!」

 

「で、ですが‥‥」

 

「やかましい!!俺の命令が聞けんのか!?」

 

ホーエンは艦橋にいる幕僚に対して、銃を突きつけ、無理矢理命令に従わせようとした。

 

そんな中、

 

「提督、ここはやはり、辺境の兵站基地へ撤退しましょう」

 

「なに?」

 

と、撤退意見を述べる若い参謀が居た。

 

「兵站基地宙域ならば、いくらかは我々に地の利があります。ここでこのまま戦い続けても無駄死です。提督」

 

彼は一度ここを撤退し、第十一番惑星宙域にて地球艦隊を待ち伏せようと言う。

しかし、

 

「黙れ!!その様な無様なマネが出来るか!!」

 

ホーエンは撤退には反対の様子。

 

「しかし、提督一時の汚辱にまみれても生きてさえいれば再戦の機会も得られます」

 

「貴様!!命を惜しむか!?かくなる上は玉砕あるのみだ!!辺境の蛮族共に彗星帝国ガトランティス軍人の誇りと魂を見せつけてくれるわ!!」

 

「ですから、それは無駄死にです!!」

 

「黙れ!!この卑怯者め!!」

 

「っ!?貴方は自己満足の為だけに多くの将兵を道連れにしようとしている!!どちらが卑怯か!?」

 

「ぬぅぅぅ反抗するか!?貴様!!」

 

逆上したホーエンは、

 

バキューン!!

 

「うっ‥‥」

 

その参謀を銃で撃った。

 

「うっ‥‥皆、無駄死にしたいのか?‥‥つまらない‥‥軍事ロマンチシズムに毒されるな‥‥」

 

斃れても尚、彼は他の艦橋員に、呼びかけるも、賛同する者はおらず、

 

「ふん、しぶとい奴だ」

 

バキューン!!

 

ホーエンは今度は、彼の額に銃口を合わせ、引き金を引いた。

 

「他に反抗する者はいるか!!」

 

ホーエンは銃を突きつけながら、艦橋員を見渡す。

 

皆は銃に怯え、反論する者、反抗する者はいなかった。

 

何故、アンドロメダ方面にいる彗星帝国軍はこの様な者を援軍に寄こしたのかと言うと、やはりアンドロメダ方面の彗星帝国も現地での植民維持が難しくなっており、現地住民により、ゲリラ活動が活発化して正直に言って未だに攻略できない辺境惑星に回せる余裕はなく、結果的に回ってくるのはこうした二流、三流の指揮官なのだ。

 

アンドロメダ方面のガトランティス側としては、地球にはもうこれ以上関わってほしくないと言うのが本音である。

 

その理由が、地球での戦闘で、彗星帝国ガトランティス本国、そして国家元首たるズォーダー、バルゼー、ゴーランド、ゲルン、ザバイバルと言った優秀な人材を多数失ったにも関わらず、未だに攻略出来ず、援軍を送ってもその都度撃破されていては、アンドロメダ方面の連中もたまったものではない。

 

それに国家元首、本国を失ったのだから、新たな国家元首、本国を建国しなければならないのだ。

 

しかし、第十一番惑星にいるガトランティス側としても、ズォーダーら大勢の同胞の弔いとメンツの問題が有るので、そう簡単にアンドロメダ方面へ撤退は出来ないのだ。

 

また太陽系へ派遣された二流、三流の軍人にとっては、ここで手柄をあげれば、アンドロメダへ帰還した時に大出世出来ると思っていた。

 

しかし、それと同時に負ければ、どうなるかも分かっていた。

 

「諸君らの賛同を感謝する」

 

銃を突きつけながらニヤリと笑みを浮かべるホーエン。

 

「全艦全速!!」

 

彗星帝国艦隊は速度を上げて、地球艦隊へと迫っていった。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

「あいつら、正気か!?」

 

敵艦隊の突然の変貌に、目の当たりにした地球艦隊クルーは皆こんな感想と戸惑いを持った。

 

それまではのらりくらりと、相手にじわじわと出血を強いるような戦術をとっていたのが、突然、陣形を三角形に変えつつあるのだ。

 

明らかに突撃を前提としたものだが、今突撃すれば双方相撃ちになることくらい理解できるだろうに‥‥。

 

(遂に自暴自棄になったか)

 

「来るぞ!全砲門、発射管スタンバイ!副長!!敵戦艦の向きに気をつけろ!」

 

「了解!」

 

その時、通信席のギンガが弾んだ声を上げた。

 

「味方の援軍です!!後方から、戦艦 アーカンソー、イリノイ、ロイヤルオーク 巡洋艦 黄河、スフィンクス、パトロール艦 黒潮 駆逐艦 丹陽です!!」

 

 

艦船ステータス

 

主力戦艦 後期生産型 丙

外見は通常のドレッドノート級主力戦艦と変化はないが、新型の積層装甲により、各部装甲が強化され、生還率の向上が図られた戦艦。

波動砲は砲口部を残し撤去されている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

恐らく突貫で建造されて、慌ただしく出てきたのだろうが、心強い援軍には違いない。

 

波動砲は装備しなくとも戦艦が三隻も増えたのだから‥‥。

 

しかも通常の戦艦よりも防御力が格段に違うほどの艦だ。

 

「敵艦隊、突っ込んで来ますっ!」

 

まだ突撃隊形が完成していないのに、敵艦隊は突破を図ってきた。

 

しかも、こちらはまだアーカンソー等が合流できていない。

 

敵艦隊は戦艦を中央に据え、駆逐艦の中で損傷が軽い艦を前衛にして遮二無二突撃をかけてきた。

 

「敵の先頭艦に火線を集中しろ!撃てっ!!」

 

迎撃隊形が完成していなかったのは、地球側も同じだった。

 

たちまち中~近距離での砲雷撃戦になってしまった。

 

敵戦艦が放った衝撃砲をまともに喰らった味方の巡洋艦が爆沈。

 

「くっ、撃てっ!」

 

衝撃砲を放った敵戦艦と まほろば がすれ違いさまに激しく撃ち合う。

 

まほろば の左舷装甲に無数の破口が穿たれ、小爆発の炎と煙が噴き出し始めたが、敵戦艦も まほろば からの主砲弾が機関部を直撃。

 

艦体後部が大爆発し、続いて艦体前部も爆発して轟沈した。

 

艦隊旗艦ネメシスは敵駆逐艦三隻と撃ち合った。

 

最終的には三隻とも沈めたが、回転速射砲で両舷に被弾した。

 

駆逐艦同士や護衛艦では相撃ちや、敵艦と衝突して爆沈するものが続出した。

 

まほろば の前に敵の旗艦らしい大型空母が踊り出てきた。

 

「うぅ~‥‥せめてこの艦だけでも‥‥」

 

ホーエンは まほろば に艦をぶつけ様とした。

 

「スラスター全開!!下げ舵一杯!!全速急降下!!」

 

「了解!!スラスター全開!!下げ舵一杯!!全速急降下!!」

 

まほろば は、高度を下げ、敵の体当たり攻撃を避避けようとするが、ただでは、転ばない。

 

「煙突ミサイル撃て!!」

 

フェリシアが空母の甲板に照準を合わせ、トリガーを引く。

 

その瞬間、艦橋に閃光が入り、震動が走る。

 

「帝国ばんざぁぁぁぁぁぃぃぃー!!」

 

放たれたミサイルは狙い違わず敵の大型空母にいくつもの命中弾を与えこの世から消滅させた。

 

ホーエンは消滅する艦の中で「帝国万歳」を叫び、艦と運命を共にした。

 

こうして、互いに消耗戦になるも、白色彗星軍側は半ば死兵と化して何度も突破を図り、この戦術的には意味をなさない突撃で白色彗星軍の残存艦隊は全滅した。

 

 

戦闘が終わり、地球艦隊は集結した。

 

ダメージが酷く曳航不能と判断された艦は、廃棄され、乗員は他艦へと移乗し、戦闘は不能だが、航行が可能な艦、曳航が出来る艦は撤退をする事となった。

 

戦闘、航行可能な艦も損傷をしているため、援軍艦隊と随行していた輸送艦からたっぷりと資材供給を受け、艦の修理を行った。

 

その間は周囲警戒のため、コスモタイガー隊が哨戒任務を行った。

 

そして、修理、補給が終わった地球艦隊は、第十一番惑星へと進撃した。

 

 

第十一番惑星 彗星帝国残党軍基地 司令部

 

残党軍基地では先の艦隊戦でこちらが敗北したとの情報が入り、今後どうすべきか、幕僚達が会議を開いていた。

 

残党軍のとるべき道は、降伏するか?または玉砕か?その二者択一の選択だった。

 

「総司令‥残念ですがもはや降伏しかありません」

 

「‥‥」

 

「我々は十分に戦いました。もうこれ以上の犠牲を出すわけには‥‥」

 

幕僚達は降伏を進言する。

 

しかし、

 

「降伏!?降伏だと!あんな下等な辺境蛮族に頭を下げるだと!?」

 

と、降伏に反対する者も居た。

 

「だが、戦うにしても我々にはもう満足に戦える戦闘艦がない。この基地の防空設備ではとてもあの艦隊を撃ち落とすのは不可能だ!!それにここには帝国本土から避難してきた大勢の一般市民もいるのだ。彼らを助けるためにも‥‥」

 

「確かに、アンドロメダ方面からの援軍も期待できんしな‥‥」

 

「黙れ!!彼らも誇りある彗星帝国市民だ!!降伏よりも誇りある死を選ぶはずだ!!」

 

「それは貴様の勝手な思い込みだ!!」

 

「何だと!!貴様!!」

 

会議場は激しい論争の場になった。

 

「総司令!!貴方はどうお考えか!?」

 

降伏反対派の幕僚はゲーニッツに今後どうするべきかを問う。

 

(こっちに振るなよ‥‥)

 

ゲーニッツは内心毒づく、

 

「‥‥」

 

ゲーニッツ自身は自分が生き残れるのであれば、降伏しても良いと考えていたのだが、此処でそう簡単に降伏を主張するのも如何なものかと思っていた。

 

そこへ、

 

「司令、上空の地球艦隊より通信です。『地球時間三十分後に返答無き場合は基地及び周辺施設に対し無差別の艦砲射撃を開始する』‥‥どうしますか!?」

 

通信兵が最後通告とも言える通信の内容を幕僚たちに伝える。

 

地球艦隊は、都市機能が停止した要塞都市ガトランティスにも艦砲射撃を行ったことから、躊躇なく通信通り、此方が返答をしなければ、三十分後にはこの基地には地球軍のショックカノン、ミサイルが雨霰の様に降り注がれるだろう。

 

「総司令!」

 

「やむを得ん‥‥ここは‥‥」

 

ゲーニッツが「降伏する」と言おうとした時、

 

「基地の対空ミサイルを全て発射準備!」

 

降伏反対派の幕僚が勝手に指示を出した。

 

「貴様!!何を勝手な事を!!」

 

「だまれ!私は卑怯者になりたくない!彗星帝国の将として一人でも多く敵を道連れにし、華々しく散るのだ!」

 

「そのために貴様は大勢の非戦闘員まで道連れにするつもりか!?」

 

「黙れ!この敗北主義者が!」

 

降伏反対派の幕僚が降伏を進言する幕僚の一人に銃を向ける。

 

そして引き金を引こうとしたとき、ゲーニッツが降伏反対派の幕僚に銃を向け、その引き金を引いた。

 

バキューン!!

 

一発の銃声と共にその幕僚はグラリと傾き床に倒れる。

 

「‥‥うっ‥‥帝‥‥国‥‥万歳‥‥」

 

降伏反対派の幕僚は、その言葉を最後に息を引き取った。

 

主力艦隊を失った残党軍は山南の降伏勧告を受諾し、ここに約半年間続いた白色彗星戦役は終結した。

 

ガトランティス側として見れば、まさか一度は降伏勧告を出した相手にこうして降伏勧告をだされ、降伏するとは何とも皮肉な結末であった。

 

 

地球・彗星帝国両陣営で多くの死傷者を出した戦いは終わった。

 

山南から防衛軍本部へ彗星帝国残党軍の降伏が伝えられると、司令部は活気だった。

第十一番惑星基地で行われた降伏調印式は残党軍基地司令ゲーニッツと司令部の幕僚、地球側は討伐指揮に当たっていた山南司令を含む艦隊司令部幕僚たちとの間で執り行われた。

 

彗星帝国本体が滅んでしまったため地球側が提示した条件は戦争責任を問わず、以下の様な条件だった。

 

・太陽系からの全面撤退

・今後、太陽系に対する永久不可侵

 

上記の条件を承諾する場合、撤退に必要な物資を無償で譲渡する。

 

地球側にしては決して納得のいく条件ではなかったが、疲弊しきっている彗星帝国残党にはこれ以上何も望めそうになかった。

 

残津軍側も地球側が出した条件を承諾するしか道はなく調印式は何の問題も混乱もなく終わった。

 

その後、彗星帝国には二日間の撤退猶予が与えられ、今後、太陽系で彗星帝国の艦艇を見かけた場合、それは敵艦とみなし、撃沈または拿捕すると明確に警告を残した。

 

第十一番惑星基地に残っていた彗星帝国の艦艇は、非武装の輸送艦と上陸用舟艇、その他、損傷をしてドック入りをしている戦闘艦が少数であった。

 

残党軍及び彗星帝国本星から命からがら逃げて来た一般市民はそれぞれ、割り振られた艦船にそれぞれ分乗し、太陽系から去って行った。

 

「ふぅ~やっと終わったか‥‥」

 

太陽系から撤収し、何処かへと去って行く彗星帝国の船を見ながら、良馬は一言呟いた。

 

本当に長かった‥‥

 

長く、そして多くの戦友たちが散ってしまった‥‥

 

彼らの犠牲を無駄にしないためにも、地球の独立は何とかこのまま保っていなかければ、ならないが、気になる勢力は二つ‥‥

 

暗黒星団帝国と時空管理局。

 

管理局の概念からすれば、我々は異端以外の何者でもなく、連中としては何としても取り締まり、技術接収をしたいだろう。

 

だが、時空管理局に尻尾を振る気なんぞ毛頭ないが、共存できるならそれに越した事はない。

 

「ほどほどの距離で付き合うのがいいんだけどなぁ‥‥変に深入りさせて巻き添えを食わす訳にはいかないし、食らう訳にはいかない‥‥」

 

現在の地球連邦はまだ復興途上である上、白色彗星帝国残党勢力との抗争がようやく終結したばかりで、更には暗黒星団帝国来襲の可能性を抱えている。

 

時空管理局が関わったところで、狼がうろつく森で体中に肉をぶら下げて散歩する様な物だ。

 

フェイトたちを救助できたのは偶然の産物に過ぎず、同じような事がまたあった時は再び助けなければならないだろう。

 

いけ好かない組織ではあるが、犠牲者が出ていいはずはないのだ。

 

(果たして、どう釘を刺せばいいのやら‥‥)

 

良馬は、今後の事に関し、彗星帝国の勝利の余韻に浸る事もなく、考え込んでしまった。

 

 

約半年間に及び、多くの犠牲を払った彗星帝国戦役が終わり、一つの問題がようやく片付いた防衛軍。

 

一方、ボラー連邦を始めとし、一連の次元航行艦襲撃、遭難事件、ハラオウン執務官らの帰還手続きの為、防衛軍との交渉等問題が山積みの管理局では‥‥。

 

 

時空管理局本局・大会議場

 

会議場では、次元航行本部の提督会議において、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官ら二名の本局帰還が議題にのぼった。

 

転送ポートが使えるはずもなく、クロノが艦長として指揮を執るクラウディアともう一隻‥L級巡航艦ルークスが派遣される予定で、クラウディアにはリンディも同乗する予定となっている。

 

巡航艦ルークスの艦長を務める、アズナブル・キャラバン一等海佐は、今は亡きリンディの夫でクロノの父であるクライド・ハラオウンの元部下で、PT事件・闇の書事件発生時にはアースラの副長を務めていたため、リンディやクロノからの信任が篤く、フェイトたちとも顔見知りであるため、随伴にはうってつけの人物だった。

 

リンディが同行することになったのは、フェイトの義母というだけでなく、今後も地球防衛軍とコネクションを維持しておく必要性があると主張しているためなのだが、

 

「かの世界が管理世界入りする意思があるかを確認する必要があると思いますが?」

 

と主張する者が出たが、即座に反論する者が出る。

 

「管理世界入りすることで、あの世界に何かメリットがあるのかね?恐らく向こうは魔法文化が存在せず、我々が忌み嫌う質量兵器によって強力な外敵に備えているんだぞ」

 

呆れた口調で地上本部本部長ロールスロイスが即座に反応するが、続けて言った言葉に座が凍りついた。

 

「住民全員がマゾヒストか馬鹿でもない限り、自分達の国防軍より弱い組織の管理下に入る世界があると思うかね?」

 

「管理局があんな蛮族共の軍より弱いですと!?」

 

「そうだ!!質量兵器にしか頼る事しか出来ない蛮族共ではないか!!」

 

(こいつらに本当、脳みそはあるのだろうか?)

 

ロールスロイスは呆れながらも反論する。

 

「君はガトランティスやボラー連邦、地球防衛軍との遭遇や戦闘から一体何を学んだ?彼らに比べ、我が管理局はハードで大きく劣り、武装隊員個々の覚悟でも遅れをとっているんだぞ」

 

「覚悟で劣っているですと?」

 

「それはどういう事ですかな?」

 

「我々管理局員は全員、誇りを持って職に就いている!!」

 

「戦いにあたって、殺し殺される覚悟だよ。仲間の屍を弾除けにしてでも戦い続ける覚悟を持っている者が、この管理局にどれだけいるのかね?」

 

これにはさすがに魔導師至上主義者、管理世界拡大推進派も黙り込む。

 

そもそも、管理局はこれまで相手より優勢な状況下で戦い続けてきており、殉職率は一桁%台しかなかったが、ガトランティスやボラー連邦相手の戦闘ではほぼ全員が殉職してしまい、管理局員に深刻な心理ダメージを与えていた。

 

これからはそういう事態が頻発するだろう。

 

大部分の局員は、相手を殺してでも管理局の正義と信念を守り抜くという覚悟など持っていない。

 

ロールスロイスの懸念はまさにそれだった。

レジアス・ゲイズの在任中から、ミッド地上本部では所属下の陸戦魔導師から選抜した特殊制圧隊を組織して殺傷設定魔法を含めた訓練を行っており、凶悪犯罪者については殲滅もやむなしとした。

 

後任についたロールスロイスもこの方針を踏襲したため、ことあるごとに本局とやり合っている。

 

『自らの手を汚す覚悟がない者が、世界を救う事などできぬ!』

 

レジアスが生前口にしていた言葉だが、ロールスロイスも概ね同感だった。

 

別世界にも同じような内容の訓示を自分の教え子達に伝えた、ほぼ同世代の男がいた。

 

それが元宇宙戦士士官学校 日本校 校長の土方 竜であった。

 

 

ミッドチルダ クラナガン郊外 八神家

 

この日、シグナムとアギトが遠方世界の任務から帰ってきたこともあり、久しぶりに家族全員揃っての夕食である。

 

「それにしても、フェイトたちが過ごしているもう一つの地球って、どんな世界なんだろうな」

 

夕食のおかずをつつきながらヴィータが言う。

 

「せやなあ。二度も外宇宙から侵略されても屈服せへんかった‥いわば不撓不屈の世界や。それも魔法ではなく純粋な科学軍事力‥‥質量兵器やからなぁ。管理局内では脅威に思う人が多いみたいや」

 

はやてが溜め息をつく。

 

「確かに、あんな絶大な火力を持った艦船は、管理局からすれば理解できないでしょうね。しかし、主はやて。一連の宇宙軍事勢力の中で、話し合いができるのは地球防衛軍と地球連邦政府しかいないのでしょうか?」

 

「うん、メンタリティは私らの地球の人とほとんど同じ‥いや、向こうも同じ地球人なんやから、全く同じやと思う。何とか共存していければええんやけど、管理局、特に本局は質量兵器アレルギーやからなぁ‥‥」

 

「質量兵器が嫌だと言っても、魔導師じゃ、真空の宇宙では戦えない。それは守護騎士であるあたしたちも同じだ。それに管理局の船は全く歯が立たないんだから、質量兵器で対抗するしかねぇんじゃないのか?規則はもちろん大事だけど、それでミッドや他の世界が戦火に焼かれちゃ本末転倒だぜ」

 

ヴィータが現実的な意見を口にした。

 

「そうなんよ。宇宙空間に限っては質量兵器禁止法を撤廃してはどうかという意見も出ているし、ロールスロイス中将は、アインヘリアルの再配備を提案するらしい」

 

「アインヘリアルを?」

 

「そうや、一連の事件で管理局の次元航行艦船の脆弱さが白日の元に曝されたからなぁ、もう“海”には任せておけないということなんやろう。同様の動きはミッド以外の地上本部からも出とるらしい」

 

「そんなに強いのか?そのボラー連邦って奴等は?」

 

アギトがはやてに訊ねる。

シグナムとアギトは実際ボラー連邦については話を軽く聞いた程度のため、よく知らない。

 

「最新鋭のSX級も全く相手にならへんかったんや‥‥それにボラー連邦だけやない、ガトランティスも地球防衛軍の艦船の戦闘力もほぼ同じやで‥‥」

 

「‥‥」

 

はやての話を聞き、アギトの頬を冷や汗が一筋伝う。

 

「本局としては反対したいが、現に惨敗し続けているし、各管理世界市民から、管理局への突き上げや非難も強くなっとる今度ばかりは止められへんやろうなぁ‥‥」

 

はやては、遠い目をして今後の管理局について語った。

 

 

ミッドチルダ 西部地方 エルセア ナカジマ家

 

「でも、アインヘリアルで防ぎきれるの?そんな強力な艦船を‥‥?」

 

「何とも言えねぇなぁ‥‥十隻程度ならどうにかなるかも知れないが、百隻単位で来られたらどうにもなるまいよ。それに、向こうの射程の方が長ければ、ミッドは一方的なタコ殴りだな」

 

ディエチの問いに、煎茶を口にしながらゲンヤ・ナカジマが答える。

 

と言うか、アインヘリアル自体が役に立つのか?と、過去にアインヘリアルを破壊した経験を持つ旧数の子たち。

 

しかし、何も無いよりはマシである。

 

「先日の映像でこっちの艦船がボラー連邦に鹵獲されている可能性は十分にあるからな、地球防衛軍と同様に次元航行技術が流出したと見るべきだろうが、凶悪さが段違いだからなぁ‥‥」

 

「だとしたら、一連の勢力の中で唯一穏健な地球防衛軍から艦船の技術を教えてもらうしかないんじゃないッスか?もう、質量兵器云々と言ってられる状態じゃないッスよ」

 

「正直、それも難しいだろうな」

 

「どうしてッスか?パパりん」

 

地球防衛軍からの技術導入を主張するウェンディにゲンヤは首を振る。

 

「地球防衛軍より前に地球連邦政府との間に外交関係を結ばなければならないが、向こうの政府がこっち(時空管理局)を相手にするかねぇ。管理局はあくまで治安維持組織であって国家じゃない。ミッドみたいな管理世界の政府を通さないといかんかも知れないし、管理世界の意思が統一できるかどうかだ」

 

地球防衛軍の艦船は確かに強力だが、武装は質量兵器――魔法に依らない実弾兵器と超高エネルギー光学兵器――だ。

 

永年魔法戦力を寄りどころにしていた管理世界からは強い反発があるだろう。

 

「それに、手ぶらとはいかねえだろうよ」

 

「それって何らかの代償が伴うということですか?父上」

 

チンクがゲンヤに質問する。

 

「ああ。同じ地球でも、高町嬢ちゃん達の故郷とは訳が違うぞ。管理外世界じゃない。管理不能世界と言うべきだろう。高圧的に『よこせ』なんて言えば反発されるし、実力行使すれば返り討ちだろうさ。『下さい』と願い出るにしても、あちらさんにも何らかのメリットがなければ、いい顔はされないだろうな。何より、本局のお偉方が頭を下げられるかねぇ」

 

ゲンヤが皮肉を込めて苦笑しながら言う。

 

「アハハハハハ‥‥それは無理ッスね。アイツらは人に命令するなら兎も角、人に頭を下げてお願いするなんてマネが出来る訳ないっスよ」

 

「想像できないね」

 

ウェンディとディエチが笑いながら、本局提督らのイメージを口にする。

 

確かにウェンディの言う通り、三提督やその下の連中では、せいぜいハラオウン親子やレティ・ロウランら、やっと両手に余る位しかいないだろう。

 

と、口の中で呟くゲンヤであった。

 

 

管理局が‥ミッドチルダが不安な空気で包まれて居る頃、フェイトたちがいる地球では‥‥。

 

彗星帝国が完全に太陽系から撤退した事は大統領府からの正式発表により、地球連邦市民に伝えられ、市民はその報に湧いた。

 

その興奮冷めぬ中、フェイトとティアナは、紅葉と共に海鳴の繁華街にあるショッピングモールへと買い物へ来ていた。

 

各店舗では、彗星帝国が太陽系から撤退した事に関する記念セールが行われている。

 

「やっぱり電気製品はこちらの方が格段に進んでいるわね」

 

家電や情報・AV機器等はミッド等の管理世界よりも、こちらの世界の物方が概ね機能的にできている。

 

購買欲がないわけではないが、電源仕様の違いや地球連邦の安全保障の関係で、フェイトたちが購入するとややこしい事になるため、見るだけなのだが、幾つかのお店を見ていく中で‥‥

 

「あっ、そうだ!!」

 

既に来慣れたHOBBY SHOP Testarossaの前で、ティアナは何かを思い出したように声を出すと、

 

「ちょっと、見て行ってもいいですか?」

 

と、フェイトと紅葉に断りを入れる。

 

「いいよ」

 

「はい」

 

フェイトと紅葉が了承したので、三人はHOBBY SHOP Testarossaの中へと入って行った。

 

しかし、普段やっているBRAVE DUELをプレイしに来たのではなく、ティアナが向かったのは、宇宙艦船のプラモデルが売っているコーナーだった。

 

「ティアナさん、どうしたんでしょう?」

 

紅葉が首を傾げる。この店の品揃えは男性向けだ。女性が好むような物は少ない筈なのだが‥‥

 

(ああ、なるほど、そういう事か‥‥)

 

フェイトは合点がいったらしく、頻りに頷く。

 

旧機動六課のメンバーの一人、ルキノ・リリエは大の艦船マニアで、事務官補佐の傍らで艦船操舵士の資格も取得していた。

 

事実、JS事件の折には、大破した六課の隊舎から廃艦間際のアースラを仮隊舎兼司令部にしたのだが、この時、アースラを操艦したのは彼女だった。

 

そして、彼女は常日頃から、

 

「管理世界の船はもう見飽きた!!」

 

と言っていた。

 

当然彼女の部屋には沢山の次元航行艦や巡航艦、輸送船や客船のプラモデルやガレージキットが展示されている。

 

よって、彼女からしてみれば、こちらの艦船には非常に興味をそそられるのではないかとフェイトがそう思っていると、ティアナは大きな紙袋を手に戻って来る。

 

「何を買ったの?」

 

フェイトがティアナに訊ねると、

 

「えっと‥‥これです」

 

フェイトの問いに答えながらティアナは紙袋からプラモデルの箱を取り出した。

 

大手玩具メーカー、バ○ダイから発売している1/1000スケール 地球防衛軍 連合宇宙艦隊セット(M-21741式宇宙戦艦 M-2170式宇宙巡洋艦 M-21881式宇宙突撃駆逐艦)

 

1/700スケールの宇宙戦艦ヤマト、地球防衛艦隊旗艦アンドロメダ、主力戦艦、巡洋艦、パトロール艦、宇宙空母、地球防衛軍主力戦闘機・コスモタイガーⅡ、コスモゼロ、ブラックタイガー。

 

メカコレクション 駆逐艦 護衛艦。

 

地球防衛軍の艦艇と艦載機のほぼ全てをティアナは購入していた。

 

流石にプラモデルには軍事機密に関する事は書かれていないので、購入しても問題はない。

 

「‥‥随分と漢らしい趣味をお持ちですね」

 

(あれ?ランスター補佐官にホビーの趣味ってあったっけ?それともこの世界のランスター補佐官にはあるのかな?)

 

紅葉はティアナの買った品を見て激しく勘違いしているようだ。

 

「ち、違うの!向こうにいる友達に艦船マニアがいるのよ!!それで‥‥」

 

「それってもしかして彼氏さんですか?」

 

(ランスター補佐官にもギンガみたいに彼氏がいたの!?)

 

艦船マニアの友達と言う事で、真っ先に連想したのが、男子=ティアナの彼氏と紅葉そう思いティアナに訊ねた。

 

しかし、これも勘違いである。

 

「だ、だから違うんだってば!私は生まれてこの方彼氏なんて‥‥?ん?あ、あぅ‥‥」 orz

 

間違いを訂正するため、思わず大声になってしまうが、ふと周囲を見回すと、何本もの生温かい視線に囲まれていた。

 

傍らのフェイトと、失言の原因を作った紅葉も唖然とした表情になっている。

 

この後、ティアナは紅葉の勘違いを正すのに五分を要した。

 

しかもその間、フェイトは薄情にも面白そうに笑うだけでティアナに全く加勢しなかった――。

 

(フェイトさん、貴女だって年齢=彼氏いない歴じゃないですか!?それに紅葉、あんたがそもそもの元凶じゃない。なに他人事みたいな顔してんのよ!?そうだ、この子、誰かに似ていると思ったら、ルーテシアに一脈通じているんだわ。見た目がなのはさんで中身はルーテシアとは、何とも難儀な子だわ‥‥)

 

その後、三人は書店に立ち寄り、フェイトは雑誌を何冊か購入した。

 

うち一冊は軍事雑誌で、地球防衛軍とガミラス軍艦船の特集号だ。

 

普通に市販されているものならばプラモデル同様、本局に持ち帰っても問題ないが、『近代史関係、特に21世紀以降の書物は持ち帰らない方がいい』と忍から言われていたが、それには二人とも異存はなかった。

 

執務官としてそれなりのキャリアを積んだ結果、自分が身を置く組織の後ろ暗い面も見えてきたフェイトとしては、管理局に親友の故郷までちょっかいを出されるのは真っ平御免だからだ。

 

それにしても、この三人は人目を引いていた。

 

三人とも掛け値なしの美女/美少女で、発育途上の紅葉以外の二人はスタイルも群を抜いており、すれ違ったカップルの男の方が見とれ、彼女の方が不機嫌になったり、怒り始めたりした。

 

彼氏哀れ‥‥。

 

そして、ナンパを試みようと接近を図るいかにも軽い三人連れがフェイトたちの進路を遮るように立ち、怪訝な表情の彼女たちに声をかけようとした刹那、

 

「おや?三人そろって買い物かな?」

 

フェイトたちの背後から男性の声がかかる。

 

「あん?」

 

「なんだ‥‥?」

 

「じゃま‥‥」

 

その声に不機嫌そうな顔をした三人組だったが、声の主と目が合うや、表情が引き攣った。

 

青を基調にした軍の高級士官ジャケットに白いズボンを着て制帽を被った長身の男性が近づいてくる。

 

顔はイケメンの部類に入るが、その目は鷹か鷲の猛禽類の様に鋭い目つきをしている。

 

被っている制帽や軍服からして、艦長あるいは中規模以上の部隊司令官クラスの宇宙戦士であろう。

 

その男が纏う雰囲気は、どう見ても“素人”のそれではなかったのだ。

 

下手に手を出せば、病院送りに‥‥いや、殺される‥‥。

 

本能的に危機感を抱いた彼らは一目散に退散して行った。

 

「ん?知り合いだったのかな?」

 

大急ぎで去って行った彼らがもしかしたら、紅葉たちの知り合いで声をかけようかと思っていたのだが、何らかの理由でこの場から去ったのだと思っていたのは、イスカンダルから奇跡の帰還を果たした古代守だった。

 

「「「いえ、違います」」」

 

守の間違った認識に対し、フェイトとティアナ、紅葉は揃って苦笑いをした。

 

(やっぱり軍服が似合う人だ‥‥)

 

守と同年輩の管理局員にも佐官や提督クラスの者はいるが、彼のように、有無をも言わさぬ雰囲気を持つ者はいない。

 

フェイトはそんな守をみて頬をほんのり赤らめる。

 

(管理局とはくぐってきた修羅場の質が違うからかな?)

 

ガミラスとの戦争から、約十年の歳月を命懸けで戦ってきたのだから、管理局員より強いオーラを纏うのも当然だろう。

 

ティアナは軍服姿の守をジッと観察する様に見つめながら、防衛軍軍人と管理局員との違いを確認した。

 

それは、守や良馬、真田にも言えるし、自分たちとさほど変わらない年頃の古代進ら、ヤマトの乗員にも同じ事が言えた。

 

そして、元管理局員だったギンガでさえも、管理局に居た頃に比べると、凛として女性としてレベルアップしている様にも見える。

 

(今さらだけど、地球防衛軍、地球連邦と喧嘩してはまずい。何とか協調していくことはできないものかな‥‥?)

 

つい最近、管理局の若い提督と良馬たちが険悪な雰囲気になったことを思うと気が重くなるティアナだが、当の管理局ではそれどころではなくなっていた。

 

一方、フェイトの方は軍服姿の守に見とれていた。

 

それはまさに恋する乙女の仕草であった。

 

そして後日行われた定期連絡の日、

 

この日は良馬とリニスが遠征に出ていたため、この地球におけるギンガの父であり、紅葉の後見人の一人である中嶋源三郎が同席をした。

 

管理局側のメンツは、はやて、なのは、クロノの三人であった。

 

「地球防衛軍軍令部、五課長を務めております。中嶋源三郎です」

 

「時空管理局、次元航行艦クラウディア艦長を務めておりますクロノ・ハラオウンです」

 

(この人は僕やはやて、なのはの様にただ才能だけで出世したエリートとは違う様だ‥‥まさに現場での実績を含んでの叩き上げエリートだ‥‥)

 

「同じく、時空管理局、特務捜査官、八神 はやてです」

 

(この人の声、ナカジマ三佐にめっちゃ似とるわ‥‥そう言えば、ナカジマ三佐の御先祖様も地球出身やったな、それにこの人も三佐と同じ『なかじま』やし‥‥ってことは、この人はあの地球におけるナカジマ三佐の子孫なんかな?それなら、向こうの世界にはスバルやギンガも居たんやろうか?)

 

「時空管理局、航空戦技教導隊所属の高町 なのはです」

 

(お父さんと同じ雰囲気なの‥‥)

 

(高町?そうか、この人が‥‥確かにどことなく紅葉嬢ちゃんに似ているな。それにしても、皆若いな‥‥それでいて、エリート士官とは、管理局はウチ<防衛軍>と同じぐらい人材不足が深刻している組織なのか?)

 

互いに名を名乗り合い、管理局側のメンツは源三郎の印象をそれぞれ、心の中で抱き、また源三郎の方も管理局側のメンツ、特になのはには内心驚いていた。

 

その理由はやはり、自らが後見人を務める高町 紅葉と容姿が似ている事と高町と言う同じ苗字(フェミリーネーム)だからだ。

 

「本日は、月村良馬、月村リニスが共に軍務の為、この場には居らず、小官が二人の代理人として、この場に同席させてもらいます」

 

「はい、それは一向にかまいません」

 

良馬とリニスが今回この場に居ない事を説明した。それに源三郎は既に管理局の内情もノアやテリオスからのデータから知っており、当然魔法の存在も知っていた。

 

故に、源三郎がこの定時連絡に同席する理由を断る訳にはいかないので、源三郎が良馬の代理を務める事を言うと、管理局側はそれを了承した。

 

そして、互いの情報交換が行われた。

 

と言っても、互いに日常での出来事を語り合うだけなのだが、その中で‥‥

 

「ねぇ、フェイトちゃん」

 

「何?なのは?」

 

「この前の通信で聞けなかったんだけど‥‥この子‥誰?」

 

そう言ってなのはは、先日、フェイトが渡したクリスマスの旅行中の画像の中で、紅葉の部分を切り抜き、拡大された画像をフェイトに見せた。

 

(フェイトさん‥‥(¬_¬) )

 

(ごめん‥‥(;^ω^) )

 

ギンガに関しては、最初にこの世界で出会った時、

 

「もう自分は管理局では死んだ人間なので、この世界で自分が生きている事は秘密にしてください」

 

と、言われた事を守り、フェイトとティアナは写真やデバイスにギンガの姿を写さない様に気を付けてきたのだが、紅葉に関しては、魔導師であることを管理局に報告しないと言う事で、ギンガよりもマークが薄かったため、クリスマスの旅行中に一緒に撮った画像をなのはたちに送ってしまった事にフェイトは「やってしまった」と言う思いになった。

 

元々フェイトは少し、おっちょこちょいな所があったので、今回のミスはフェイトらしいといえば、フェイトらしいミスであった。

 

「ねぇ、フェイトちゃん。この子ってもしかして‥‥」

 

なのはが、この子の正体に薄々勘付いている様なので、ここは正直に紅葉の事を伝えようと思った。

 

ただし、デバイス、魔力保持者である事を除いて‥‥。

 

「彼女の名前は、高町紅葉‥多分、なのはが予想している通り、この世界におけるなのはの子孫だよ」

 

「っ!?」

 

フェイトから言われた衝撃の事実に薄々そうではないかと思っていたなのはであったが、フェイトから直接言われて、驚かない方が無理であった。

 

「私の子孫‥‥」

 

なのはがフェイトのいるもう一つの地球に居たであろうもう一人の自分と、そして今ここに居る自分、そして紅葉の関係を呟く。

 

「なぁ、フェイトちゃん」

 

なのはに続き、今度ははやてが話しかけた。

 

「その世界になのはちゃんの子孫がいるっちゅうことは、私の子孫もおるん?」

 

はやても自分の子孫が居るのか気になった様子で、フェイトに訊ねてくる。

 

「うーん‥‥はやてにそっくりな人には会ったけど、はやての子孫って言う人にはまだ会ってないなぁ」

 

「私にそっくりなのに、私の子孫じゃないんか?」

 

「うん」

 

「ティアナもまだ会っていないんか?」

 

「はい。残念ながら‥‥」

 

「‥‥( ́・ω・ ) 」

 

はやては自分の子孫にも会えるのかと思い、楽しみにしていた様なのだが、フェイトもティアナもまだ会っていないと言う回答にショボーンとした。

 

本来ならば、紅葉に魔力素質、デバイスの有無を聞きたかったのだが、元々ここは管理外世界‥‥。

 

魔法文化は存在しないものとされており、一般に魔力素質、デバイスは持っているの?と聞きたかったのだが、この場に源三郎が居たため、聞くに聞けなかった。

 

ただ、フェイトは、なのはたちに一言だけ、述べた。

 

「クロノ、なのは、はやて‥この世界には広くAMFが散布されている」

 

「「「っ!?」」」

 

フェイトからの一言に衝撃を受ける一同。

 

「失礼だが、AMFとはなにかな?」

 

源三郎がAMFについて尋ねる。

 

「管理局で確認されている空気成分の一種です。人体には何の影響も無いのでご心配には及びません」

 

ティアナが源三郎にAMFについて、其れっぽい事を説明する。

 

まさか、魔導師の魔力が落ち特殊成分等と言えるはずが無かった。

 

「元々そちらの地球の空気はそんな型だったのかい?」

 

クロノがフェイトに質問する。

 

「詳しい原因はわからないけど、私たちはガミラスの遊星爆弾かヤマトがイスカンダルから持ち帰ったコスモクリーナーの能力だと思っている」

 

「コスモクリーナー?」

 

コスモクリーナーについてはフェイトに代わり、源三郎がコスモクリーナーについて大まかな説明をした。

 

「そんな機械が‥‥」

 

コスモクリーナーの能力を聞き、クロノは驚愕する。

 

(その機械があれば、第七海上支部の被爆患者を救う事が出来るのだがな‥‥)

 

先日、救助活動を行った第七海上支部の件を思い出すクロノ。

 

第七海上支部は今も強い放射能反応が有り、立入禁止となっている。

 

恐らく近々廃棄処分命令が下されるだろう。

 

しかし、源三郎の話したコスモクリーナーがあれば、そこの放射能を除去するのも簡単だろうとクロノは思った。

 

強力な質量兵器を有し、放射能を除去することの出来る機械に世界全体を包み込むAMF。

 

やはり、もう一つの地球は魔導師‥いや、管理局にとっては禁断の聖地とも言える世界だった。

 

そういった印象を受けるクロノたちであった。

 

そして、通信終了の時間が来て、今回の定期連絡は何の問題もなく終わった。

 

紅葉について、肝心の部分が聞けなかったのは、モヤモヤした気分が若干残ったが、なのはは、自分の子孫が例え、別の世界であったとしてもちゃんと存在していた事に嬉しさはあった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。