星の海へ   作:ステルス兄貴

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八十一話 船は行く‥‥

 

 

地球防衛軍、横須賀基地

 

発進準備を整えているヤマトの舷門には十数人の軍人がいる。

 

「それじゃ、頼むぞ。真田‥‥」

 

「この期に及んじゃ、やるしかないさ」

 

イカルス天文台所長に任じられた真田志郎は古代守と握手を交わした。

傍らには大山歳郎も佇んでいるが、皆の表情はともかく、内心はお世辞にも冴え渡っているとは言えなかった。

それは決して今回の辞令に不服等が有った訳ではない。

ヤマトはこの後、イカルス天文台へ向け出発する。

しかし、そこは言うまでもなく、天文台とは名ばかりのヤマトの近代改装用ドックである。

そして、今回ヤマトに乗るのはヤマトの乗員の一部と宇宙戦士士官学校、訓練学校の訓練生だけではなかった。

真田澪という、六~七歳ほどの少女が彼らに同行するのだ。

 

澪は真田志郎の姉の一人娘で、姉夫婦はガミラスの遊星爆弾で死亡したため、叔父である真田が施設から引き取っていたのだが、特別な事情により、叔父に同行することになった。

むろん、これはでっち上げだ。

真田の姉はガミラスが地球へ攻めて来る前‥彼が少年時代、月にある遊園地で、真田自らのミスよって起こした事故で死亡している。

しかし、真田と親しい者は、その事実を知っており、皆一様に口をつぐんでいる。

何より、真田と守と澪を慮ってのことだ。

言うまでもなく、澪の本名は古代・サーシア・イスカンダル。

古代守とスターシアの娘の一人であり、イスカンダル王家の第一王女。

つまり、次期イスカンダル女王となる身のはずだが、継ぐべきイスカンダルは星としての寿命が尽きかけている。

イスカンダルに残っている母、スターシアが彼女を王位につけるかどうかは分からない。

さて、澪ことサーシアがなぜイカルスに行くのかと言えば、地球では何かと気ぜわしいのと、幼少期の成長速度が地球人の十倍以上なイスカンダルの血を引くサーシアの身体を気遣った事。

そしてサーシアの双子の妹、ユリーシャは良馬の実家、月村家に預けた。

世界有数の大企業であり、資産家の月村家ならば、訳有りの人物を匿うことぐらいは、可能だろうと判断した守が年末パーティーの時に忍に相談したのだ。

そして、忍は快くその件を了承した。

しかし、二人同時に面倒を見てもらう事には守も負い目を感じ、妹のユリーシャを忍に預けたのだ。

月村家にやって来たリトル・プリンセス、古代・ユリーシャ・イスカンダルは瞬く間に月村家の娘の様に可愛がられた。

特にフェイト、忍の溺愛ぶりはノエルとティアナが引くぐらい凄かった。

ギンガも面倒を見たかった様だが、彼女には まほろば の通信長と言う重要な役職が有る為、なかなか良馬の実家に赴けないし、今の彼女には妹や妹分もいるため、ユリーシャと接する時間がフェイトよりも少なかった。

 

 

そして、その姉、サーシアはと言うと‥‥

 

「うぅ~たいくつだよ~」

 

ヤマトの士官用ゲストルームで大きなペンギンのぬいぐるみを抱きながらぼやいていた。

その他にも彼女の部屋には、年末パーティーにて良馬とギンガが着ていたあの謎の生物のぬいぐるみもあった。

大抵、サーシアぐらいの年の子供は親と離れることに悲しみ、泣きじゃくるものなのだが、彼女はそんな様子は見せない。

幼少期の成長速度のせいか、両親、特に母の教育のせいなのかは俄かに判断しかねた。

 

「ふわ~ぁ」

 

可愛らしい声とともに欠伸をする。

父親からは、欠伸を他人様の前でしてはいけない、欠伸する時は手で口元を覆い隠すように躾られているのだが、当の本人は手を口元にやることもなく、大欠伸をかましていた。

 

「だれもいないからいいよね~」

 

意外とプリンセスはふてぶてしさをも身につけつつあるようだ。

いやはや、末恐ろしい‥‥

しかし、宇宙で生きていくのであれば、こうした強い部分も無ければ生きてはいけない。

彼女はきっと強いプリンセスとなるだろう。

 

それは、妹のユリーシャも同じで、ノエルと忍が行う教養、マナーの時には、いかにも良い所育ちのお嬢様なのだが、ひとたび、講義の時間が終わると、お転婆娘に早変わりする。

ノエルはその件に関して、頭を抱えているが、忍は「良いじゃない、子供っぽい部分が有って」と許容している。

 

様々な思いを乗せ、ヤマトは人知れず、地球を飛び立った‥‥。

 

 

ここで舞台はミッドへと移る。

 

先日、高町ヴィヴィオが通うSt.ヒルデ魔法学院の高等部の生徒たちが乗った次元客船、コスパ・コンコルド号が遭難した。

その遭難現場にクロノ・ハラオウンが艦長を務める次元航行艦、クラウディアがようやく現場に到着した。

 

 

次元航行艦 クラウディア ブリッジ

 

「あ、ああ‥‥」

 

「そんな‥‥」

 

「こんなの‥‥」

 

「ひど過ぎるわ‥‥」

 

スクリーンに映し出された前方の光景に、ブリッジクルーは悲憤慷慨する。

声こそ上げないものの、艦長席のクロノ、ブリッジに居たスバル、チンク、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディらナカジマ姉妹たちも拳を握り締め、怒りを堪えていた。

 

映し出された次元航行客船、コスパ・コンコルド号は辛うじて船の形を留めているが、側面には大小の穴が穿たれ、そこから多数の煙の尾を引いており、航行能力を失っていることは一目瞭然だった。

むしろ原型を留めている事だけでも奇跡に近い。

 

「救助作業に入る。総員配置につけ!!」

 

クロノが命令を下すと、皆急ぎ足で配置場所へと向かう。

スバルたちナカジマ姉妹もブリッジを降りて、接舷するシャトルへと乗り込み救助作業の装備点検を行い、宇宙服を装備する。

 

「スバル一士、そろそろ出られるか?」

 

クロノは艦載シャトルで待機するスバルたち、救助隊を呼び出す。

 

「はい、いつでも行けます。クロノ提督」

 

最初にコスパ・コンコルド号の船内に突入するのは、スバルらナカジマ姉妹たちだ。

 

「強い放射能反応はないが、爆発が起きる可能性がある。無理だけはするなよ」

 

「わかりました」

 

通信を終えたクロノたちは改めてスクリーンを見遣る。

あれだけ船腹に穴を穿たれたのでは、内部の酸素はすっかり吸い出されてしまっただろう。

当然その破口から外へ吸いだされた遺体だってあるはずだ。

それらの遺体はもう収容不能と判断せざるを得ない。

 

「また、彼女たちには辛い思いをさせてしまうな‥‥」

 

クラウディアから切り離されたシャトルを見て、クロノは呟く。

 

「しかし、一体誰が何のために‥‥?」

 

「管理局に恨みを持つテロ組織‥‥それとも‥‥」

 

「まさかっ!?」

 

「ボラー連邦か‥‥!?」

 

ブリッジクルーの皆は、憤りとやり切れなさが入り混じった気持ちにさせられる。

 

「通信の最後には、『SX級に似た艦‥‥』と言っていたからな‥‥ボラーが鹵獲した管理局の艦を改装してテロ活動に投入したという可能性が高いが‥‥」

 

「もしその通りだとしたら、早急に奪還するか撃破しないと、いずれ次元航行能力を持った宇宙戦艦が次々と投入されますよ」

 

ボラーは鹵獲したSX級を単なるテロ活動だけではなく、次元航行能力を持つ戦闘艦の建造を想定したデータ収集の役目を担っている可能性をクルーの一人が指摘すると、ブリッジクルーの顔は皆蒼白になった。

もし、下手人がボラー連邦ならば、強力無比な宇宙戦艦が次元空間に大挙して入り込み、本局や各世界は重大な危機に陥るのだ。

 

「その可能性は大いにある。しかし、今の最優先事項は生存者の捜索だ。単純に比較することはできないが、テリオスはもっと手酷くやられていたからな。望みはある」

 

かつてガトランティスに襲われたテリオスはもっと酷くやられていた。

率直に言えば、対艦戦闘を想定していなかった既存の次元航行艦の外板は材質も厚さも同程度の大きさの次元商船と大差ないのだ。

だとすれば、目の前のコスパ・コンコルド号にはまだ生存者がいるかも知れない。

第一、あれほど手酷くやられたテリオスでフェイトたちは奇跡的にも生き延びたのだ。

コスパ・コンコルド号で全員とは言わなくても、船内に生存者がいる可能性は決して低くない。

既にスバルたちが乗ったシャトルはコスパ・コンコルド号に接舷しようとしている。

専門の作業員が取り付き、外から乗船口の扉を開いた上でスバルたちが突入するのだ。

 

やがて、乗船口の扉が開けられ、スバルたちは船内の捜索に入った。

 

「うっ‥これは‥‥」

 

「まさに地獄だな‥‥」

 

「見てられないっスよ、これは‥‥」

 

「‥‥」

 

被弾し人工重力発生装置が損傷したためか、船内は乗客の荷物や船内設備の機材、被弾によって生じた瓦礫の他に乗客、乗員の遺体が宙に漂っていた。

死者の多くは被弾によって生じた破口から空気が抜けた事による窒息死で、喉元をかきむしったり、白目を剥いたり失禁や脱糞、或いは舌をベロンと出した状態で息絶えていた。

その地獄の様な光景が広がる中、ナカジマ姉妹の中で、チンクはゼスト隊殲滅時に稼働しており、隊長であるゼストと死闘を繰り広げた経験が有り、その時のアジトとこの現場が似ていた。

死者の顔がその時、自分らが手にかけたゼスト隊の隊員たちに見え、自分に語り掛けてくるかのようだった。

 

「何故、お前は生きている?」

 

「人殺しの癖に‥‥」

 

「家族を持って幸せになる資格がお前にはあるのか?」

 

「俺たちを殺した癖に‥‥」

 

「お前も死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」「死ね!!」

 

 

「あっ‥‥あっ‥‥あっ‥‥」

 

無数の死者の手が自分に迫り、自らを死者の世界へ引きずり込もうとしているかのような光景にチンクは悲鳴を上げ、その手を振りほどこうとした時、

 

「チンク姉、大丈夫ッスか?」

 

「っ!?」

 

ウェンディに声をかけられた。

 

「う、ウェンディか‥‥?」

 

「チンク姉、何か顔色が悪いッスよ?」

 

「まぁ、こんな地獄の様な所じゃ仕方ないけど‥‥辛いならシャトルに戻っている?」

 

ウェンディとディエチが心配そうに声をかけてくる。

 

「い、いや大丈夫だ‥‥問題ない」

 

妹たちに声をかけられ、冷静さを取り戻したチンクは救助作業へと入った。

 

クラウディアに『生存者発見』の一報が飛び込んできたのはスバルたち、救助隊が突入してから五十分程が経過した頃であった。

たちまちクラウディアのブリッジが色めき立つ。

生存者が居た事は何よりもうれしい事だが、生存者が居たと言う事はまだ他にも生存者が居るかもしれないと言う希望が彼らの中に生まれた。

 

「慌てるな。まずはキャンターへの収容が先だ。情報確認を急げ!!」

 

「了解」

 

今回の捜索において、遭難したのが、次元航行艦では無く、乗船人数が多い、次元客船と言う事で、生存者の救命処置が早く取れる様にクロノは病院船、キャンターを連れて来ていた。

キャンターもスバルたち、捜索隊と共にその船体をコスパ・コンコルド号に接舷し、生存者の救護、受け入れ態勢をとっていた。

ひと通り指示を下したクロノはクラウディアの副長に向き直った。

 

「キャンターに行けるように準備してくれ」

 

「生存者から事情を聞くのですか?」

 

「そうだ」

 

少なくとも、事故の経過の一部はわかるだろう。

ともあれ、生存者の容態が良い事とこの後も生存者が居る事を祈るしかない。

 

 

遭難船 コスパ・コンコルド号 病院船 キャンター 接合部

 

船内は瓦礫が散らばっていたが、爆発の危険はないためキャンターのクルーが周辺の死傷者の収容準備を始めている。

そこへ、

 

「生存者二名、お願いします!」

 

「分かった!!」

 

スバルとノーヴェがSt.ヒルデ魔法学院高等部の制服を着た女子生徒とキャビンアテンダントらしい乗員の制服を着た女性を抱えて戻ってくる。

要救助者の発見場所とその時の状況、救助者の容態等をキャンターのクルーに伝え、二人の身柄を託すと、スバルたちはボンベの再充填等の作業を受け、再び船内に突入していった。

生存者収容に現場のムードは一時上がったが、更なる生存者発見の報はなかなか入って来ない。

スバルたちに加え、次元航行部隊の救難隊員や聖王教会騎士団直属の救助隊員も人命検索に当たっているが、発見されるのはすでに事切れた者ばかりだ。

 

救助活動が行なわれている中、クロノは妙な違和感を持った。

それは‥‥

 

『もし、今回の襲撃事件がボラー連邦の仕業であるならば‥‥ボラー連邦‥‥ベムラーゼのやり口にしては些かあっさりとし過ぎてはいないか?』

 

と言うモノだった。

もし、今回の襲撃事件がボラー連邦の仕業であるならば管理局に対して、電波ジャックを行い局員の公開処刑の映像をミッドのあちこちに流すような人物のやり口としては余りにも今回の件は余りにもあっさりしすぎだ。

まずは船体がこうして残っている事自体が余りにも不自然だ。

ベムラーゼは公開処刑を行う前に、SX級、X級の艦船をまるで自分の力を誇示するかのように粉々に破壊した。

それにも関わらず、このコスパ・コンコルド号はこうして船体が残っている‥‥。

船内にブービートラップを仕掛けた可能性は否定できないと思うが‥‥。

まさか、船体を完全に破壊しなかったのはブービートラップを仕掛け、局員を誘い入れるためなのか?

いや、それ以前に船内に直接兵士を送り込み、乗員や乗客の一部を拉致して、再び管理局やミッドに公開処刑の映像を流すつもりなのだろうか?

しかし、報告では直接敵の兵士が乗り込んできた形跡はないと言うし、仮に乗員、乗客を公開処刑目的で拉致したとしてもこうして船体を残しておくのも解せない。

乗員、乗客を拉致した後、船体を破壊する事は可能なはずだ。

コスパ・コンコルド号が襲撃を受け、自分たちがこの現場に到着するまでかなりの時間があった。

時間的余裕は十分にあった。

ボラー連邦が襲撃中に管理局の艦が来る事を恐れるとはとても思えないが、コスパ・コンコルド号を襲撃したのが管理局からの鹵獲艦であるならば、性能は管理局の艦と同じ性能だからこそ、逃げたのか?

不発弾や時限爆弾があれば、それがブービートラップという可能性もある。

しかし、少なくとも船外には仕掛けられている様子はない。

それとも、完全に破壊しようとした時に何らかの事情があってその場から急いで撤退せざるを得なかったのか?

いや、そもそも今回の襲撃事件の犯人はボラー連邦ではなく別の勢力の仕業なのだろうか?

兎も角、作業が全て終わるまで油断は出来ない。

クロノはスバルたちにその旨を伝え、十分注意して捜索を続けるように指示を出した。

 

その間、コスパ・コンコルド号のブリッジで捜索を行っていた別の捜索グループから通信が入る。

 

「残念ながら、ブリッジに居た船長ら乗組員はダメでしたが、幸い、航行データの記録媒体(ブラック・ボックス)は無事に回収できましたので、一旦ここを離れます」

 

「わかった」

 

コスパ・コンコルド号の航路、音声を記録したブラック・ボックスは無事にクラウディアへと回収された。

これで、襲撃事件の真相も分かるだろう。

 

時間が経つにつれ、捜索範囲も広がっていったが、齎される報告は発見された遺体の数ばかりで、既に何体かはエントランスホールに搬送されている。

生存者は病院船キャンターに収容されたが、死者を連れ帰るのはクラウディアの仕事だ。

各艦では霊安室だけではスペースが足りず、倉庫や大浴場も遺体安置所に早変わりし、急拵えの祭壇と遺体収容袋が並べられており、更に聖王教会から派遣された神父とシスターも待機していた。

 

クラウディアのブリッジにはコスパ・コンコルド号の船内配置図が展開されているが、ほぼ全ての箇所に救助隊員が進入したことを示す緑一色に変わっていた。

 

「‥‥これ以上の生存者の発見は恐らく無いだろう‥‥作業体制を変更する。これより作業を人命救助から遺体収容作業に変更‥捜索隊にそう伝えろ‥‥」

 

「‥‥わかりました」

 

船内全域に捜索の手が及んだにも関わらず、生存者は僅か二名だけで、他の生命反応はなし。

やり切れない面持ちで、クロノは救助作業から遺体収容作業への切り換えを捜索隊に指示した。

彼の心中には、襲撃者に対する激しい憤りとコスパ・コンコルド号の乗船者を救えなかった事への無力感がないまぜになっていた。

その時だった‥スクリーンに映るコスパ・コンコルド号の船体後部‥機関室付近から眩い閃光と火の手と共に爆発が起こった。

 

「っ!?捜索隊に緊急電!!直ちに船から退避しろ!!キャンターにも現場からの離脱を命じろ!!」

 

クロノは急ぎ、捜索隊と病院船キャンターに撤収を下令した。

 

 

次元航行艦 クラウディア 食堂

 

「‥‥」

 

スバル・ナカジマら特別救助隊員たちは無言で食堂の椅子に座っていた。

コスパ・コンコルド号で突然発生した爆発により遺体捜索、遺体搬出作業は中止され、捜索隊は命からがらコスパ・コンコルド号から退避し、キャンターとシャトルが離脱した直後、コスパ・コンコルド号は全船体が炎と煙に包まれ、やがて爆発、その船体は次元の海に消滅した。

まさに間一髪であった‥もう少し遅ければ、スバルたち捜索隊とキャンターはコスパ・コンコルド号と運命を共にしているところだった。

やはりブービートラップは仕掛けられていた。

恐らく機関室付近に強力な時限爆弾がセットされていたのだろう。

しかも捜索に来た者には分かりづらい場所に‥‥

収容できたのは女子生徒と女性クルーそれぞれ一人ずつ‥計二名の生存者で遺体や遺品の収容は全体の10%程しか出来なかった。

多くの犠牲者たちの遺体はコスパ・コンコルド号と共に次元の海の彼方へと消えた。

 

「くっそおおおっ!!」

 

ガンっ!!

 

捜索隊の隊員の一人であるノーヴェ・ナカジマが悔しさを爆発させ、急に椅子から立ち上がると、壁に拳を叩きつける。

流石、戦闘機人‥‥ノーヴェの拳を受けた壁は少し凹んでいる。

犠牲者の大半は十代半ばの少年少女たち‥‥

戦闘機人である自分たちと単純に比較することはできないが、余り変わらない年頃である彼らの変わり果てた姿にノーヴェたちは一様に衝撃を受けていたのだ。

 

「どこのどいつなんだよ!?非武装の民間船をなぶり殺しなんて汚ねぇマネしやがって!!あいつらに一体何の罪があるっていうんだよ!?」

 

その叫ぶような問いに応えられる者はその場にいなかった――。

 

「また、助けてあげられなかった‥‥」

 

肩と視線を落としたスバルも呟く。

救助者が居るのに救助できずに、その場から退却しなければならない‥‥

救助隊員にとってはこれほど辛く悔しい事はない。

決して望んで得たわけではないが、普通の人より頑丈かつ強靭なこの身体‥‥。

また、憧れていたあの人の教導の元で伸ばした力はこういう時にこそ役立つものではなかったのか?

しかし、この現場で見たものは理不尽で非情な現実以外の何物でもなかった。

破壊を免れた客室ホール付近で自分と同年輩の女子生徒と乗組員を救出するのが精一杯だった。

救助隊員である以上、助けられなかった事もあるが、先日の第七海上支部といい、今回のコスパ・コンコルド号の件といい、大半の要救助者を助けられなかった。

 

「‥‥」

 

込み上げてくる涙を必死に堪える。

でも、泣く事は許されない。

かけがえのないものを失った犠牲者の家族の悲嘆の方が遥かに大きく重いのだから‥‥。

 

 

時空管理局本局 リンディ・ハラオウン執務室

 

「そう、わかったわ」

 

派遣した捜索・救助隊司令、クロノ・ハラオウンからの報告に彼の母親であり、本局の統括官であるリンディ・ハラオウンも沈痛な表情になった。

 

「申し訳ありません。もっと早く我々が到着していれば‥‥」

 

「クロノ、貴方のせいではないわ。命令受領から出発までは予想以上に早く進んだと皆驚いているのよ」

 

派遣命令を受けたクロノは、個人的なコネまで動員して人員と装備、補給を予想以上の短時間で揃えて救助へ出発していった。

客観的に見れば、僅か二名とはいえ生存者を収容できたのは上出来だろう。

本来の手続きを踏んで出発して居れば、その二名さえも救う事は出来なかった筈なのだから‥‥

しかし、それを口に出せる状況ではない。

 

「それで、救助した二人の容態は?」

 

「医師からの報告では、二人とも軽い酸素欠乏症ですが、後遺症の心配はないとの事ですが、問題は‥‥」

 

「メンタルケアね」

 

生き残った二人にとってはこれからが正念場だ。

仲間や同僚は皆死んでしまい、自分だけが生き延びたという事実は生涯消えない。

もしかしたら、遺族から誹謗・中傷を受けるかもしれない。

大勢のマスコミにしつこく追いかけまわされるかもしれない。

メンタルケアと身柄の保護を入念に行わなければ、後日自ら命を絶つ事だってあり得る。

ともかく、全てはクロノたちが帰還してからのこと‥あとは自分たちの仕事だ。

 

「いずれにせよ、皆が帰ってきてから考えましょう。クロノ、貴方も疲れているだろうけど、もう少しだけ頑張ってちょうだいね」

 

「承知しました」

 

通信を終えたリンディは腕を組んで考え込む。

クロノには言っていないが、今回の襲撃犯がボラー連邦であると明らかになれば、今度こそ“海”はボラー連邦に対して武力制裁という事態が現実味を帯びてくる。

民間人を理不尽に殺されておいて泣き寝入りという事はありえないからだ。

管理局はおろか、今まで遠距離航海や他の世界探索に難色を示してきた他の管理世界も掌を返して武力制裁に賛成するかもしれない。

問題は、仮にそうなった場合、管理局の戦力は相手に通じるのか?

相手があのボラー連邦だった場合、艦船同士の戦闘では、管理局の艦船とボラー連邦の艦船では戦闘力に差があり過ぎて勝ち目はない。

そもそも防衛軍同様、ボラー連邦の正確な戦力も分からないのだ。

ならば本星近くに艦隊を次元転移させ、首都をつくか?

首都に大気圏上からアルカンシェルを撃ち込み、国家元首たるベムラーゼを斃し、アルカンシェルの威力を見せつけた上で交渉に持ち込むのがベターかも知れないが、向こうはこちらの次元航行艦を鹵獲しているのだ。

ならば当然、次元航行艦を調べ、アルカンシェルも調べただろう。

そして何らかの対策を考えていてもおかしくはない。

単なる反管理局武装組織ならば打つ手はいくらでもあるが、ボラー連邦やガトランティス、暗黒星団帝国、地球防衛軍の様な強力な力を持つ艦船を持つ勢力では返り討ちに遭うのが関の山だ。

 

(ん?地球防衛軍――?)

 

そうだ‥ガミラスに追い詰められながらも諦める事もなく戦い、ガトランティスをも退けた地球防衛軍ならばボラー連邦とも互角に戦えるだろうが、管理局内部では本局高官の過半数が地球防衛軍に対する拒否反応を未だ根強く持っている。

彼らの技術を全面的に導入すれば、確かに戦闘力は飛躍的に上がり、低ランク魔導師、非魔導師も戦力化できるが、非魔導師の武装=質量兵器の導入は管理局の自己否定であり、また旧暦時代の様な混乱な時代に逆戻りだというのだが‥‥

 

(どうしたものかしら‥‥)

 

リンディは一人、頭を抱えた。

そして、次の定期連絡で今回の件は伏せて、地球防衛軍からの技術提供、そして、レーザー等の光学兵器を質量兵器に位置付けるべきか、特例措置でそれを緩和するべきか、光学兵器が実際に使用されているかの世界にいるフェイトとティアナに意見を求めようかと思うリンディだった。

 

だが、事態はクロノ、リンディ、レティ、はやてたちが最も恐れていた結果となった。

 

 

数日後、

 

時空管理局本局 リンディ・ハラオウン執務室

 

「それ、ホンマなんですか?リンディ提督」

 

はやてはリンディの言葉を聞き、震える声で聞きなおす。

リンディは、はやてに先程の会議で決まった内容を話した。

会議の決定内容は、はやてにとってあまりにも衝撃的な内容だった。

 

「‥‥ええ‥残念ながら、これ以上手をこまねいていては、次元世界の安定に悪影響を及ぼし、反管理局武装勢力をも勢いづかせるから‥‥と言う結論に至ったわ‥‥」

 

「そ、そんなっ!?‥‥まだあの仕業がボラー連邦の連中がやったと決まったわけやないんですよ!!」

 

はやての言う通り、現在コスパ・コンコルド号から回収されたブラック・ボックスを解析中で、この時点で下手人がボラー連邦とはまだはっきりと分かっていなかった。

もし、コスパ・コンコルド号襲撃事件の犯人がボラー連邦でなかったら、管理局は誤解の下、ボラー連邦に対して宣戦を布告する事になる。

そうなった場合、管理局はボラー連邦に勝てるのか?

いや、恐らく無理だろう‥‥。

普通に艦隊決戦を挑んだところで返り討ちにされるのが関の山‥‥宇宙に散らばる局員の屍を増やすことが目に見えている。

しかし、本局の強硬派や魔導師至上主義・管理世界拡大派は、コスパ・コンコルド号からの最後の通信、『SX級に似た艦』と言う部分から、この『SX級に似た艦』がボラー連邦に鹵獲された管理局の次元航行艦であり、下手人はボラー連邦だと決定づけたのだった‥‥。

 

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