高町なのはの養女、高町ヴィヴィオが通うSt.ヒルデ魔法学院の高等部の生徒たちが乗った次元客船、コスパ・コンコルド号が何者かの襲撃を受けた。
クロノ・ハラオウン提督率いるクラウディアが現場に到着し、ナカジマ姉妹らが救助活動を行うも生存者は僅かに二名のみと言う結果で、多くの学生を含む乗客、乗員が死亡する大惨事となった。
しかも船には時限爆弾が仕掛けられており、犠牲者の遺体もその殆どが収容される事無く、次元の海へと船体と共に消えた。
非武装の客船を攻撃し、大勢の未来ある若者の命を奪い取った行為‥‥
このあまりにも悪逆非道とも言える襲撃事件を受け、管理局は直ちにこの襲撃事件の犯人の捜査へと乗り出した。
コスパ・コンコルド号のブラック・ボックスを解析したその結果、管理局は今回のコスパ・コンコルド号襲撃事件の犯人を先日、局員の公開処刑映像を流して来たボラー連邦と断定した。
さらに管理局は今回のコスパ・コンコルド号襲撃事件の報復としてボラー連邦への武力制裁を決定したのだった。
「八神二佐、貴女の言いたい事は分かっているわ。でも、ボラー連邦が犯人と断定されたら、管理局はボラー連邦への武力制裁、あわよくば管理世界への編入か殲滅をためらわないでしょう‥‥特に“海”の上層部はね」
「そ、そんな‥‥」
「今回は状況が状況だから、三提督方も今度ばかりは反対できないでしょうし、犠牲者の中には局員の子息も多数含まれていたのよ‥‥」
あかん‥‥詰んだ‥‥。
完全に管理局は詰んでもうた‥‥。
管理局はもしかしたら、これで終わりかもしれへん‥‥。
はやては事態が‥管理局が完全に泥沼に陥ったことを悟った。
下手人がボラー連邦ではなく、暗黒星団帝国や新たな武装勢力なら、またもや厄介で新たな敵が増えたことになるし、ボラー連邦、ベムラーゼ首相の犯行ならば、何も手を打たなければ管理世界は管理局に強い不信を抱き、管理世界からの離反や独立すら有り得る。
特に無理矢理管理世界入りさせられた世界は‥‥。
さらに、反管理局テロ組織をも勢いづかせてしまう。
今にすれば、最初にボラー連邦と接触したラティオのやり方が悔やまれた。
もしも、ベムラーゼの言う事が事実なら、ラティオの連中がとった軽率な行動がとんでもない毒蛇を管理世界に呼び込んだとも言える。
ラティオの連中は死んだからこうしたゴタゴタとはもう無縁であるが、生前の最後の行いが、こうした厄介事、厄災を招いたのだ。
はやての心の中では、地獄でもう一回殺してやりたいくらいの怒りが湧く。
仮に地球連邦の技術を全面的に導入できたとしても、今からでは整備、運用は到底間に合わない。
(一体どうしたら、ええんや‥‥)
はやては胸中で苦悶し始めた。
ミッドチルダ首都クラナガン、時空管理局首都航空基地、教育隊 隊舎・教官室
「‥‥」
なのはの顔色は冴えない。
それは他の教導官も同じ感じで、皆厳しい表情だ。
というのも、先程はやてから本局のきな臭い動きを聞かされていたからだ。
更に三日前に行われた第二の地球での定期連絡において、なのははレティと共にその場に同行した。
その席で、レティは今後の管理局の運営方針として、地球連邦からの技術提供、特例として、光学兵器の質量兵器項目からの除外についてフェイトとティアナに意見を求めた。
その際、レティは先日、自分が思った、光学兵器を質量兵器の項目から除外し、携帯可能にすれば、確かに戦闘力は飛躍的に上がり、非魔導師、低ランク魔導師も大幅に戦力化できるが、質量兵器の導入は管理局の自己否定ではないかと言う思いも二人に聞いてみた。
すると、フェイトとティアナはレティのこの見解にやや否定的な態度をとった。
その理由は、
拳銃やライフル、小銃の類は確かに使い方を知れば簡単に凶器となるが、戦闘機や宇宙戦艦は厳しい選抜と訓練を経た者にしか扱えないし、一度その資格を得ても、常に研鑽していなければたちまちその資格を剥奪されてしまう。
魔法文化がない世界の人間からすれば、その気になれば、デバイス一つで、簡単に周囲を破壊できる自分たち魔導師こそ、歩く火薬庫‥歩く兵器みたいな存在だと言い放った。
かつて、ギンガやスバルは自分たちの出生が戦闘機人であり、その定義は人の姿をした兵器である事に対して悩んでいたが、フェイトとティアナはこの世界に来て、自分たち魔導師を第三者的視点で捉えて見ると、戦闘機人よりもデバイスを装備した高ランクの魔導師こそが人間兵器に見えた。
それは自分自身を含めて、親友の はやて や なのは も例外ではない。
ヴォルケンリッターたちなんて人ですらないのだから‥‥
「私たちは管理局の基本理念に賛同したからここにいますが、管理局の戦力を大きく上回っている勢力が相次いで登場している今、理念に囚われ続ければ、管理局はたちまち崩壊しますし、他の管理世界の中には、管理局を見限り、地球連邦のような、政治と軍事のバランスがとれた国家と同盟する世界だって出てくるのではないでしょうか?」
と、述べた。
また、編入時の行き違いで管理局への反感が根強い世界にすれば、管理局より地球連邦と結んだ方が、治安維持、国防関係は上手くいくと考えてもおかしくはないだろう。
そういった混乱を防ぐためにも、地球連邦との関係を進めたいのだが、管理局の方でも一連の騒動で、強硬派と穏健派の内部対立が活発化しており、地球連邦もまだ再建半ばで、自分たちのことで手一杯らしい。
と、早期による地球連邦との同盟も怪しいモノだと言った。
それ以前に管理局の意識改革が行われないまま地球連邦との同盟も不可能だ。
地球連邦と同盟が結べないのであれば、技術提供など夢のまた夢の話だ。
そして地球防衛軍との戦争で技術を全て鹵獲なんて論外である。
「ティアナはどう思っているのかな?」
と、なのはが、恐る恐るティアナに訊ねると、
「私もフェイトさんの意見と同意見ですね」
「‥‥それはなんでかな?」
「生身で飛んだり戦うことができない普通の人が、強力な鋼の翼と鋭い爪や牙を求めるのは当然で、身一つでも飛べたり戦える魔導師や管理局の理屈だけでそれらを没収するのは、極論すれば『非魔導師は魔導師に逆らうな』と言うようなもので、傲慢以外の何物でもありません」
とキツイ言葉を言われた。
ティアナが例えに出したのは、防衛軍で現在採用されているコスモタイガーの事だった。
何故、彼女がコスモタイガーの事について話したのかと言うと、空戦属性の無いティアナは、努力して資格さえ取れれば、大空を高速で自由に飛べるあの翼に憧れを抱いたためであった。
仮想空間であるBRAVE DUELならば設定次第では空戦属性の無い自分も空を飛べるが、所詮、仮想は仮想で現実では無い。
コスモタイガーやコスモゼロは宇宙空間・地球型惑星の重力圏内両方で運用できる。
宇宙空間で運用できるのなら、ミッドや管理世界の次元空間でも当然運用できるだろう。
そして、パイロットは選抜された人材だが、それが必ずしも魔導師である必要はない。
質量兵器云々を別にして、もし管理局がああいう戦闘機を導入すれば、次元空間や宇宙空間はもとより、成層圏等、航空魔導師が活動できないエリアもカバーでき、かつ、魔導師資質や空戦属性がないばかりに才能が埋もれている人材も活用できるだろうから、管理局の人材不足も緩和されるだろう。
しかし、
「自分たちをお払い箱にしかねないような戦闘機の導入に対して、なのはさんは認められますか?」
と、ティアナから問われ、なのはは黙ってしまう。
自分たちの存在を危うくする物を誰も好き好んで導入したくはないだろう。
それが例え、ミッドの‥管理世界の平和につながる物でも‥‥。
でも、既に管理局は強力な敵対勢力と遭遇してしまっている。
彼らがミッドや管理世界に侵攻してきたら、今の“海”と“空”では到底対抗しきれないし、制空権を奪われれば陸戦魔導師も十分な活動はできない。
建前や魔法、体裁、プライドや面子にばかりに固執し続ければ、いずれ管理局は滅ぶ。
一方、現実を選び、戦闘機や宇宙戦艦等の質量兵器を導入すれば戦力は強化されるが、管理局は管理局でいられなくなるかも知れない。
画面の向こうにいるかつての恩師と比べ、ティアナは確実にドライ‥と言うかリアリストだった。
彼女がなのはに言った言葉、
「建前にこだわって破滅するよりは、たとえ矛盾して苦しむことになっても、守り通せる確率が高い方を選ぶのが、世界の守り手としてのあるべき姿じゃないのでしょうか?」
と言う問いにレティもなのはも絶句するしかなかった。
それはまるで、管理局員(魔導師)でありながら管理局や魔法を否定する様な捉え方も出来るからだ。
管理局が言うところの、
『質量兵器はボタン一つで世界を滅ぼせる危険な物』
という質量兵器観に対しても、この世界にある強力な質量兵器を目の当たりにしてティアナはクールに見るようになっていた。
一番身近な地球連邦の場合、武装できるのは軍人と警察官だけだが、その全てが厳しい採用試験をパスし、更には厳格で採用試験よりも厳しい教育・訓練課程を修了しなければならない。
さらに、宇宙戦艦や戦闘機を扱える人材はより一層厳しい試験と訓練で選抜され教育されるが、途中で振るい落とされてしまう者だっている。
地球で見た雑誌に地球防衛軍の宇宙戦士訓練校での教習メニューの一部が掲載されていたが、管理局の訓練校と比べてもその訓練内容は管理局の訓練校よりも厳しい課程が課されていた。
訓練生が満十五歳以上に限定されている事を割り引いてもかなり厳しいと感じた。
それと同時にギンガは自分が六課に居る間に、こんなにも厳しい訓練をしていたのかと思い知らされた。
それは、六課での教導がお遊びでは無かったのかと、錯覚させられるぐらいに‥‥。
「不正に魔法を扱う連中だって後を絶たないじゃないですか。要は魔法も質量兵器も、それを使う人次第なんですよ。管理世界の‥管理局の質量兵器嫌いは半ばアレルギー反応といってもいいかも知れません。普通の市民はともかく、治安を預かる管理局員までもが過敏に反応するのは行き過ぎです。ましてや、管理局は質量兵器の極致ともいうべき宇宙戦艦を保有する勢力と敵対してしまいました。いつまでも現実から目を背けてはいられないのではないでしょうか?」
と、ティアナにきつく言われ、上官にも関わらず、肩身の狭い思いをしたレティとなのはだった。
結論から言えば、フェイトとティアナの二人は地球連邦からの技術提供、管理局におけるビームやレーザーなどの光学質量兵器の使用と導入へ賛成の姿勢を示したのだ。
最も、それが出来ればの話だが‥‥。
今、思い出しても何故、フェイトもティアナもあんな風になってしまったのだろうと思うなのはに、翌日の昼食時‥‥
先日起きた次元客船襲撃事件の実行犯がボラー連邦軍と断定されたと管理局が会見を開き、大々的な記者発表した。
この発表は正しく解析されたコスパ・コンコルド号のブラック・ボックスの映像にはボラー連邦の艦船と鹵獲されたと思われるSX級の次元航行艦の姿も見られた。
今回のニュースに管理世界は沸騰し、ボラー連邦への対応を巡って激しい議論が湧き起こっていた。
それは管理局も例外ではなく、“海”の強硬派からボラー連邦への武力制裁案が臨時理事会に提出され、今日の臨時理事会で採決される可能性が高いというのだ。
リンディ提督、レティ提督、聖王教会のカリム・グラシア、地上本部のロールスロイスらは強く反対しているが、事が事だけに、今回は三提督たち‥いわゆる中立派といわれる者たちは賛成を迫られるだろうというのだ。
その中立派が強硬派の方へ賛成と流れれば、穏健派は数において不利になる。
なのはは、事情を知っていそうなはやてに連絡を取り、詳細を聞いてみた。
「ボラー連邦はあの強力な誘導ミサイルをはじめ、強力な宇宙艦隊や機動兵器があるんだよ。管理局は勝てる成算はあるの!?」
当然そこで、なのはは疑問をぶつけてみたが、はやては苦しげに、
「賛成派の意見では、『これまでは、こちらが小数だったから負けていた』っちゅう意見が多くてな、そこで、今度は300隻以上の大艦隊を動員して、さらに別動隊でボラー連邦の本星をつき、交渉に持ち込むつもりみたいや‥‥」
「本星をつくのはいいとしても、地表にアルカンシェルなんて撃ったら、ボラー連邦は、前回以上に残虐なやり方で報復してくるよ。ううん、ボラー連邦のベムラーゼっていう人が国民の犠牲を何とも思わない人だったら、敢えて管理局に撃たせておいて、無差別報復に出てくるよ!きっと!!それ以前に位置は分かっているの?」
捕虜を公開処刑するような人物なら、自国民に対してもいざとなれば冷酷非道な事もできるだろう。
しかし、それ以前にボラー連邦の本星の位置が分かっているかどうかである。
広い宇宙をボラー連邦の本星を探しながら移動していては、何年かかるか分からないし、敵の哨戒網に引っかかる可能性が大きい。
消耗戦になれば、遠征している分管理局が不利であるし、本星を見つける前に管理局艦隊が全滅する恐れもある。
「ボラー連邦の版図は一つの恒星系だけみたいやから、国家規模は地球連邦より少し大きい位で、位置もラティオからの報告で本星の座標は大体解っとるから、直接本国近くに転移してアルカンシェルを向けて交渉を持ち掛けるつもりみたいなんよ‥‥」
はやてはボラー連邦の本星の推測位置をなのはに説明するが、管理局が手に入れたボラー連邦の情報は余りにも少なすぎた。
実際ボラー連邦は、銀河系の核恒星系を中心に銀河系北部をほぼ手中に収めている大星間国家だった。
しかし、管理局はこの事実を勿論知らない。
「でも、はやてちゃん。管理局にそんな事ができる力があると思う?もし、ボラー連邦が二段構えで防備を構えていたらどうなるの?当然あの誘導ミサイルは間違いなくあるだろうし、地上から宇宙空間に向けて撃てる兵器があるかも知れないんだよ‥‥それに波動砲だって‥‥」
「リンディ提督、レティ提督ら反対派の人らもそれを指摘しておるんやけど、賛成派に、『それは敗北思想に取り付かれた臆病者だ』と批難されとるらしいんよ。本局には魔導師至上主義が蔓延っておるけど、ボラー連邦や地球連邦みたいな魔法に頼らない軍事力を持つ世界は、異教徒か野蛮人の世界にしか見ようとしないんよ‥‥でも、あちらさんの本音は多分、魔法要らずで管理局を圧倒する力を持つ世界に対する恐怖心の裏返しから来る拒絶反応なんやろうな」
「‥‥」
「それに今回の事件で、管理局の高官の子供も大勢犠牲になったみたいで、ボラー連邦への武力制裁はもう止めることは出来へん‥‥」
なのはは暗澹たる気分に陥っていた。
自分たちが理解できないからと言って対話を拒んで、相手が弱ければ、力(魔法)によって従わせているのでは、駄々を捏ねている子供より始末が悪い。
ましてや、相手を十分知ろうとしないまま戦端を開く等は愚の骨頂ではないか?
そのような事を思い返している内、教官室に本局から来た士官の一人が来たので、なのはははやてとの通信を切った。
時空管理局 教導隊 隊舎
「本日は緊急かつ重要な報告がある」
苦虫を噛み潰したような表情のまま、件の士官はひと呼吸置いて話し始める。
「時空管理局は、先日の次元客船襲撃の実行犯たるボラー連邦軍並びにボラー連邦政府に対し、武力による制裁を加えることになった。ついては、諸君たち教導官と一部の教導生にも担当部隊への転属命令が出る可能性がある。心しておくように」
その言葉を聞きズン、と空気が重くなる。
担当部隊への転属命令‥‥それは、自分や同僚、教え子たちが、ボラー連邦本星まで遠征し、そこで、その国の兵士たちと戦うかもしれないと言う事だ。
しかも相手は管理局を侵略者として必ず見てくる‥‥。
非殺傷なんて生易しい対応をしてくる筈がない。
殺し殺される血生臭い戦闘がこの先に待っているのは明白だ。
航空戦技教導官・高町なのはにとっての地獄が始まろうとしていた。
それから暫くして…
ボラー連邦への武力制裁が議会で賛成され、早速ボラー連邦への武力遠征部隊の発表が行われた。
ボラー連邦本星を急襲する部隊は稼働可能のSX級二隻を中心として、X級、R級と言った新鋭艦で固められ、XV級も建造されてから比較的新しいモノが加えられた。
それにボラー連邦本土制圧の為、空戦魔導師三個師団が乗る輸送船団も結成された。
そして、ボラー連邦艦隊を陽動する部隊は従来のXV級とL級巡航艦で固められ、こちらは本隊よりも数は多いが、その性能は明らかに段違いだ。
最もそれは管理局の戦力に関してだが‥‥。
そして、遠征艦隊は出立の日を迎えた。
時空管理局 本局 次元航行艦 ドック
「何で‥何で!?どうして!?クロノが行かなきゃならないのっ!?」
夫であるクロノを見送りに来た妻、エイミィの第一声はそれだった。
「そんなに管理世界を拡げたいんなら、拡げたがっている連中だけで行けばいいんだよっ!!」
「エイミィっ!」
やり場のない理不尽な怒り、不満をぶちまける妻に、それ以上言うなとばかりに自然と声が大きくなってしまう。
「っ!?」
「あっ、すまない‥‥」
つい大声を出してしまい、エイミィの体がビクッと震える。
エイミィの言う事はクロノ自身もわかる。
「今回の任務の第一はボラーに対する武力制裁だ。これ以上あの世界を放置すれば、今後もいいように管理世界に対するテロが行われる。もうそんな事をさせないために、ボラーにある程度の損害を与えて、二度とそうする気にさせないための任務なんだ。わかってくれ‥‥」
そう言いながら、クロノの心中には無力感が募る。
武力制裁といえば聞こえはいいが、内実はアルカンシェルの先制攻撃により、ボラー連邦の本土を半ば焦土に変える‥これはれっきとした戦争であり、殺戮行為だ。
しかも、宣戦布告なしの卑劣な奇襲攻撃。
最も管理世界拡大推進派や今回の遠征作戦の賛成派にとっては、管理外世界への宣戦布告などする必要もないと決め込んでいるのだろう。
ベムラーゼらボラー連邦の指導者層は許すことができないが、だからといって普通に暮らしているであろうボラー連邦の大勢の国民まで犠牲にするやり方にはやはり納得できない。
いくら敵対しているとはいえ、魔法文化がない世界を格下に見る姿勢は相も変わらないのか――?
クロノは、武力制裁の裏に隠された任務にも思いを馳せる。
そして、もう一つの任務‥‥
それは、ボラー連邦を管理世界へと編入させ、その技術をすべて没収して、管理局の戦力とすること。
ミサイルのような実弾兵器はダメにしても、防衛軍やガミラス、ガトランティス、暗黒星団帝国と同じ、光学兵器や宇宙船のエンジンは、極端な事を言えばどうにでもごまかせる。
あれだけの戦闘力を持つ艦艇を管理局のものにすれば‥‥次元航行能力さえ付加できれば、反管理局テロ組織の殲滅も容易になるし、今後の管理世界拡大も楽になるだろう。
それに推察ではあるが、ボラー連邦の艦船技術と地球防衛軍の艦船技術は似ている部分が多々ある。
それらを接収出来れば、地球連邦からの技術提供を受ける事は無いだろう。
しかし、それは獲得できればの話だ。
失敗した時のリスクは余りにも大き過ぎて、口にするだけでも恐ろしい。
それに、成功したらしたで、管理局はガトランティスみたいな侵略組織に堕してしまいかねない。
いや、もう既にそうなりかけている。
そして、今よりも強力な力をつけたならば、管理局は真っ先に地球連邦・地球防衛軍と戦争になる可能性が高い。
フェイトたちの一件で交流を持ったとはいえ、正式に友誼を結んだわけではない。
それに管理局の中には、地球防衛軍に煮え湯を飲まされたと思い込んでいる連中も多々いる。
そんな連中にとっては、今まで受けた屈辱を返す時だと言わんばかりに、地球連邦・地球防衛軍との戦争を煽るだろう。
しかし、相手は今回のボラー同様プロの軍隊だ。
いざ戦闘となれば容赦なくこちらを殺すために手ぐすね引いて待ち構えているだろう。
次元航行能力を持たせた ヤマト や まほろば を始めとする戦艦部隊が本局に波動砲を撃ち込みに来るかも知れない。
ミッドに対し、これから自分たちがボラー連邦に行おうとしている事‥‥軌道上からの艦砲射撃‥‥あるいは直接、波動砲を撃ち込んでくるかもしれない。
彼らは“侵略者”に強い敵愾心を持ち、その企みを止めるためには敵国の中枢を攻撃するのもためらわないのだ。
殺し殺される覚悟が皆無か希薄な管理局に、そういった修羅場をくぐり抜けられるだけの気魄があるのか、クロノは自分自身も含めて首を横に振ることしかできずにいた。
今回の武力制裁で、一番ベストなのは、互いに五分と五分で引き分け、ボラー連邦に対して、民間非武装船襲撃での謝罪と今後、管理世界への不可侵条約の締結と一部の技術提供‥‥。
その様な展開ならば良いのだが、そんな展開はボラー連邦に勝つ事よりも難しいだろう。
説得が奏功したのか、エイミィは渋々だが矛を収めてくれた。
「‥‥でも、これだけは約束して。どんなに無様でもいいから、クラウディアのクルーと一緒に生きて還ってきて。魔導師や局員の代わりはいくらでもいるけど、家族の代わりはいないんだからね。いい?」
眼を真っ赤にして早口で言うと、耐えられなかったのか、その場から走り去ってしまった。
「やれやれ‥‥」
あの辺は昔から変わらない。
思わず苦笑が洩れてしまったが、すぐ表情を引き締めた。
「――そんなの当たり前だろう?」
こんな死ぬには馬鹿馬鹿しい任務で父、クライドの元に逝くのは真っ平ごめんだ。
それに義妹をまだ迎えに行っていないのだ。
自分はまだ死ぬわけにはいかない。
無論、クラウディアの乗組員も一人として無駄死なせるつもりはない。
結果がどうあれ、自分は部下の命に対する責任を果たすまでだ。
見っとも無い姿を晒しても、地べたを這いずり回って、周囲から卑怯者と罵られてでも必ず生きて帰る。
こんな馬鹿な作戦を立てた連中の思惑どおりにはさせない。
クロノはそう決意し、チラッと辺りを見回すと、やはり今回の武力制裁は、局の中や他の管理世界での政府の一部は賛成したが、実際に武力制裁へと赴く局員の家族たちは反対の様だ。
そりゃあ、あんな酷い映像を見たら当然の結果だろう。
もし、捕まって捕虜になればあのような末路が待ち構えているのだから‥‥。
クロノの視線の先には、まだ幼い我が子を抱き上げる父親の姿‥‥。
新婚なのだろう、大きくなった妻のお腹に耳を当てる夫の姿‥‥。
彼女と長い抱擁を交わす若い男性局員の姿‥‥。
中でも、クロノが渋い顔をしたのは、まだ未成年ながらも高魔力と空戦属性が有るが故に、今回の武力制裁‥ボラー連邦本星の制圧・占拠を行う為に招集された未成年の若い空戦魔導師たちとその家族であった。
母親なのだろう、管理局の制服に身を包んだまだあどけなさが残る少年にしがみ付きながら、泣いている女性の姿がちらほらと見える。
(やるせないな‥‥)
地球防衛軍の士官たちが、管理局に対して、不信感を持つ訳があの光景を見て、ようやく分かった気がした。
そして今回の武力制裁賛成派の連中の多くは安全なミッドで吉報を待つだけ‥‥
もちろん彼らの身内が今回の武力制裁に参加する筈もない。
そんな中、制裁に向かう中でもボラー連邦の本星を攻撃する連中も出世欲にかられた連中ばかりだ‥‥
しかも、その殆どの連中は、管理外世界における現地住民への暴行・略奪をおこなった疑惑のある者も居る。
管理局はやはり、不信感を抱かれても仕方がない組織なのかと、クロノは思った。
「クロノ君」
「ん?ああ、はやてか‥‥」
見送りに来たのだろう。クロノが振り返ると、そこにははやての姿があった。
「ごめんな、私らの力が及ばんばっかりに‥‥」
「いや、はやてが気にする事じゃないよ。元々、今回の制裁決議は反対するのが難しかったんだから‥‥」
「でも‥‥」
はやての脳裏にカリムの預言が過ぎる。
報復せし法の番人は、独裁の地へと赴く
されど番人は漆黒の闇へと飲まれる‥‥。
預言の二つ目の最後の節と今の状況が全く同じではないか‥‥
「クロノ君、カリムの預言、覚えとるやろう?」
「あ、ああ‥‥」
「今まさに、カリムの二つ目の預言の通りに事が進んどる‥‥」
「‥‥」
クロノもカリムの預言の事は知っており、はやて同様、今の現状が彼女の予言通りに進んでいる事もはやてに指摘され、気がついた。
この武力制裁は失敗するな‥‥と‥‥。
「クロノ君‥‥」
「何だい?はやて‥‥」
「気ぃつけてな‥‥必ず‥必ず生きて帰るんやで」
「分かっているよ、はやて‥‥今回の任務は、死ぬには余りにも馬鹿馬鹿しい任務だからな‥‥」
本局の音楽隊が奏でる音楽が響き渡る中、SX級三番艦プレジデント‥‥
今回の武力制裁における総旗艦が、ゆっくりとバースから離れていく。
見送る局員や家族の表情は悲喜それぞれだが、乗員の家族の大部分に笑顔はなかった。
その人たちの願いはただ一つ、ただ無事に帰ってきてほしいと言うものだけであった。
様々な思惑を抱いて、制裁艦隊はボラー連邦本星を目指して遠征の途へとついていった‥‥。