星の海へ   作:ステルス兄貴

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八十三話 布告なき戦争

 

はやてたちが見送る中、ボラー連邦への制裁艦隊は本局を離れていく。

 

見送りに来た家族は皆、不安そうな表情で見送っている。

 

意気揚々と見送っているのは、今回の武力制裁に賛成しながらも、自らはミッドから一歩も出ないで安全な地で事の成り行きを見守る管理局の強硬派や管理世界拡大推進派、魔導師至上主義の幹部局員たちだけだ。

 

勿論、今回の制裁艦隊の中で、管理局に在籍する彼らの身内、家族は一人も参加していない。

 

彼らの家族は彼ら同様、安全なミッドで事の成り行きをただ見守るだけなのだ‥‥。

 

(ふん、反吐が出るわ‥‥)

 

同じ局員のはやても連中の行動には、殺意さえ抱く。

 

どう考えてもボラー連邦がそう簡単に白旗を上げるとは、思えない。

 

そんな事を言ったら、連中は「何たる弱腰か!!」と、言って来るだろうが、「それなら自分たちで行け!!」と言い返したい。

 

しかし、今のはやての権力では、それを言うのもままならない。

 

上の連中と同じく、今回の武力制裁を止められなかった自分自身にも苛立ちを覚えるはやてだった。

 

 

陽動部隊 次元航行艦 クラウディア ブリッジ

 

慣れ親しんだ本局のバースを離れていくクラウディア。

 

クルーたちはジッと離れていく本局を見つめている。

 

そんな中、艦長のクロノは一人、考え込んでいた。

 

ボラー連邦がこちらに本格的攻勢をかけてくる様子は見られず、ならば先制してボラー連邦の本拠地を叩こうというわけだが、地の利はボラー連邦側にある。

 

それに艦船、機動兵器もそれは同様だ。

 

性能は向こうの方が断然上だ。

 

艦隊決戦に陥れば確実に不利な管理局側は、一目散にボラー連邦の首都をついてアルカンシェルを放ち、可能な限り有利な条件で停戦交渉を行う。

 

その過程でボラー連邦の国民が犠牲になるのもやむを得ない、ということだが――。

 

これまでの経緯からして、ボラー連邦の国民は管理局の事を知らされていないか、憎むべき侵略者と教え込まれているだろうな‥‥

 

そういうところにいきなりアルカンシェルを撃ち込めば、更なる敵愾心と憎悪を買うだけではないのか――?

 

管理局が‥‥これから自分たちが行う所業について考え込むクロノであった。

 

しかし、今回の遠征で、クロノたちに与えられた任務は、事実上の囮となってボラー艦隊を挑発し、誘い出しボラー連邦の艦隊を本星から引き離すこと‥‥

 

極めて危険だが、うまくいけば本隊はボラー連邦の本星をつける。

 

ただ、クロノが何とも冷ややかな気持ちなのは、陽動部隊に配置された艦の多くは、いわゆる慎重派や穏健派といわれる者が艦長であること‥‥

 

(この遠征を使って目障りな連中を一網打尽に消してしまおうと言うわけか?)

 

余りにも見え見えな配置といい、不本意極まる任務だが、自分は艦と乗組員に責任がある。

 

そうやすやすと強硬派の思惑どおりに死んでやるつもりは毛頭ない。

 

何としてでも全員、生きて本局へ‥ミッドへ帰る。

 

クロノの頭には勝利の文字は全く浮かんでおらず、代わりに「生還・帰還」の文字が浮かんでいた。

 

 

ボラー連邦への武力制裁が決まったあたりから元気がなかったが、制裁艦隊が出撃した日のなのはは、一段と沈んでいた。

 

そこに、同じ教導隊に所属するヴィータが声をかける。

 

「どうした?なのは?元気ねぇな」

 

「うん‥‥」

 

「何が有った?」

 

十年近い付き合いのある両者‥特にヴィータは騎士故か、人の感情を読み取るのには、長けていた。

 

最も、今のなのはは、騎士でなくとも、新米の局員でさえ、その表情を見れば何か良くない事があったのはすぐに分かるぐらい顔に出ていた。

 

「今回のボラー連邦制裁艦隊に、私の隊の教導生と同僚の人たちも何人かが参加することになったの‥‥」

 

「えっ!?」

 

魔導師は大気圏内、それも対流圏内での任務に限定されている。

 

成層圏での活動については専用のバリアジャケットの開発が端緒についたばかりで、ましてや宇宙空間で活動できる目処はついていない。

 

空戦魔導師を連れて行ったとなると、ボラー連邦本星に降下するというのか?

 

それをなのはに問い質すと、

 

「私もそれが疑問で、本部に問い合わせたんだけど、降下任務が生じる可能性があるから、空戦魔導師も必要だと言っていたの‥‥」

 

「馬鹿な!!ボラーには強力な宇宙艦船が有ったんだぞ!!当然地上には防衛軍の様な戦闘機だってある事ぐらいは簡単に予測がつくだろう!?」

 

ヴィータは声をあげるが、彼女の意見は最もである。

 

宇宙には管理局の艦船よりも強力な宇宙艦隊、そして地上には彼女の言う防空用の艦載機の他にも、強力な対空砲、対空ミサイルだって必ず保有しているはずだ。

 

優秀な航空魔導師であれば、低空での格闘戦で互角に戦えるかも知れないが、それは一対一での話だ。

 

多数のダイブ&ズームの一撃離脱戦法や地上からの対空砲射撃には抵抗しきれない。

 

ヴィータはそれを指摘したが、なのはは、

 

「私もそれを指摘して反対したけど、決定は覆らないって‥‥」

 

と答えるや俯いてしまった。

 

よく見ると肩を震わせ、啜り泣いている。

 

「いくら向こうのやった事が外道で許せない事でも、まだひよっ子の教導生を侵略紛いの行為‥しかも殺されるかもしれない戦場に送り込むなんて、どうかしているぜ、上の連中は‥‥」

 

ヴィータはまだ若い教導生を管理局の任務よりも更に危険な戦場へと送り込んだ管理局上層部に対し、顔をしかめ、毒づく。

 

それは過去に起きた高町なのは墜落事件の出来事が大きく関係している。

 

自分の教導は、世界の平和の守り手になってもらいたい一心でやっている。

 

こんな、侵略同然の行為に加担させられる上、生還が保証されない任務に送られる教え子や同僚たちが余りにも不憫だとなのはは思った。

 

 

ボラー連邦 本星 首都 ラスコー 首相官邸

 

「首相閣下、只今、第八打撃艦隊司令、ハーキンス中将から至急の連絡が入っております」

 

「繋げ」

 

首相官邸で政務を執っていたボラー連邦国家元首、ベムラーゼ首相は、第八打撃艦隊司令官であるハーキンスとの通信回線を開かせる。

 

「何の用かな?ハーキンス中将」

 

「はっ、実は、当方の管轄宙域にある監視衛星が時空管理局の艦船を多数確認いたしました。それに例の特務艦、アフトワーズからの報告では、数日前から通信のやり取りが大幅に増えている様です」

 

「ふむ‥‥」

 

「恐らく彼奴等の狙いは‥‥」

 

「このボラー連邦本星だと言うのだろう?」

 

「御意。今回観測された艦隊の規模は以前に遭遇した艦隊よりもその規模は遥かに大規模であります。連中の言う管理世界における治安維持活動と比べても異常なまでに多い事を併せて考えるに‥‥」

 

「我がボラー連邦本星への直接攻撃の可能性が高いということだな?」

 

「御意にございます」

 

ハーキンスからの報告を聞いたベムラーゼは即断する。

 

「よろしい、彼奴等が戦いを望むのであれば、こちらも其れ相応の対応をするまでだ。アフトワーズには命令あるまで現在位置で待機させよ。第八打撃艦隊は直ちに出撃、迎撃態勢を取れ」

 

「はっ!!」

 

ハーキンスは敬礼し、通信をきった。

 

「ゴルサコフ」

 

「はっ!!」

 

「彼奴等の狙いがここならば、連中は伏兵も潜ませている可能性がある。直ちに本国の第一、第二主力艦隊にも出撃準備をさせろ、そして出撃準備が整い次第、直ちに出撃させろ!!」

 

「はっ、承知しました。直ちに本国の第一、第二主力艦隊を出動させます」

 

「ああ、それと‥‥」

 

「はい?」

 

「例の新兵器の準備もさせておけ」

 

「はっ。ですが、あの機動要塞の自走はまだ不可能です。例の新兵器は使用可能ですが要塞自体を動かす事は出来ませんが、それでもよろしいでしょうか?」

 

「構わん。すぐに準備をさせろ!!」

 

「はっ!!」

 

ベムラーゼは迎撃態勢を整えさせるのと同時にボラー連邦本星全土に戒厳令を敷くように指示を出した。

 

市街地に警報音が鳴り響く。

 

政府庁舎内で人員が目まぐるしく駆け回る中、ベムラーゼは堂々とその場から動かず、スクリーンを見ながら、不敵に口元を緩める。

 

「フフフフ‥‥時空管理局よ、これは貴様たちが仕掛けてきた戦争だ。神聖なる我が連邦の領地に土足で上がり込んだことを後悔させてやるぞ。フフフフフフフフ‥‥アハハハハ‥‥」

 

ベムラーゼがこの場から逃げなかったのは、既に戦う前から勝敗は決していると‥‥自軍の勝利に揺るぎがないと信じていたからだ。

 

管理局はこの星に傷一つつけられず、敗北するだろう‥‥と言う思いを抱いて‥‥

しかし、彼の思惑はあながち間違ってはいなかった‥‥

 

 

ボラー連邦 本星 近海

 

クラウディアを含む管理局制裁艦隊、陽動部隊は予定宙域に転移を完了した。

 

「艦内全システム異常なし」

 

「通信状況クリア」

 

「レーダー正常動作」

 

クラウディアのブリッジ内に艦内外のチェック状況を報告するオペレーターの声が響く。

 

「よし、旗艦に報告してくれ」

 

艦長席のクロノ・ハラオウンは自艦の状況を旗艦に報告するよう指示した。

 

クロノたちが所属する陽動部隊は、XV級とL級の艦船で編成されている。

 

クロノたちの任務は迎撃に出て来るであろう、ボラー連邦艦隊を誘い出し、本隊をボラー連邦本星への接近を支援することだ。

 

いわば囮だが、簡単にやられては敵の矛先が本隊に向けられるため、敵艦隊に追いかけられながら“敗走”し、敵を本星から引き離さなければならない難しい役どころだ。

 

この策は奇しくも以前、ガトランティス残党軍が使った手口と全く同じである。

 

当然、陽動部隊のこちらは、少なからぬ被害が生じることも考えられる。

 

クロノは出航前に艦から可燃物を全て下ろさせ、代わりに船外作業服(宇宙服)を積み込んだ。

 

これとて気休めにしかならないが、生身よりはずっとましだ。

 

クロノのこの行為は、強硬派の提督連からは嘲笑されたが、地球防衛艦隊とガトランティス艦隊の戦闘を目の当たりにしたクロノにすれば、これですら足りないのだ。

 

彼は、陽動部隊の艦長らにもこの提案をし、彼らもクラウディア同様の行動を行った。

 

そしてボラー連邦の近海に来た時、クロノは乗員全員に宇宙服の着用を命じた。

 

とにかく生き残る‥こんな最低な任務で無駄死になど御免被る。

 

あのベムラーゼが易々と自分たちの攻撃を許すはずがなく、悪質で管理局を絶望させるような陥穽を用意して手ぐすね引いて待っているに違いない。

 

クロノの予感は、一度見ただけではあるが、ベムラーゼの人となりとカリムの預言からくるものであった。

 

周辺を警戒して進んでいくと、

 

「前方十時の方向に、艦船の転移反応多数!」

 

観測担当のオペレーターがクロノを振り返り報告した。

 

「っ!?ボラー艦隊か?」

 

「味方識別信号は出ていません!」

 

「ならば、ボラー艦隊だ。こんな所に味方が居る筈がないからな。総員戦闘配備につけ!艦内全隔壁を閉鎖せよ!!」

 

(‥とはいえ、どこまで持ちこたえられるのか‥‥?)

 

遭難したフェイトらが指摘したのは、管理局艦船の脆弱さだった。

 

特に艦内隔壁の少なさは、万一被弾した時に大量の空気が失われ、犠牲者を増やす原因になる。

 

また、艦の什器・備品に可燃物が多いのも問題で、艦船技術本部も、現在建造中の艦船については隔壁増設や什器備品の難不燃化を進めているが、肝心の艦自体の強化はやっと端緒についたばかりだ。

 

武装に関しても、ガトランティスや地球防衛軍の艦船と比べて数世代は遅れていると見られ、最強の魔導砲たるアルカンシェルは射程と威力で波動砲に及ばず、その他の中小口径魔導砲にしても同様だ。

 

何より、主機たる魔力炉が相対的に出力不足なのだ。

 

機関出力が小さければ航行能力が低く、戦闘時の機動性も低い。

 

だからこそ艦隊決戦ではなく、直接敵国の首都を衝くという戦術も頷けるのだが‥‥。

 

「ボラー艦隊の方位確認!!」

 

「方位、左舷25度‥‥数は‥‥」

 

「どうした?数は?」

 

「ひょ、表示します」

 

オペレーターがスクリーンに接近するボラー艦隊を表示すると、クラウディアのブリッジクルーは唖然とする者、顔を引き攣らせる者に分かれた。

 

「す、凄い数だ‥‥」

 

こちらに接近して来るボラー艦隊は軽く管理局陽動部隊の数よりも多かった。

 

「っ!?全砲門開け、障壁最大出力へ!」

 

クロノは急ぎ戦闘準備を整えさせる。

 

双方の艦隊は急速に距離を詰めていく。

 

「第一、第二部隊、アルカンシェル発射態勢に入りました!」

 

通信オペレーターが叫ぶように報告する。

前衛部隊がボラー艦隊に先制攻撃でアルカンシェルを浴びせかけようというのだ。

 

(発射を気取られなければ我々の勝ちだが‥‥)

 

クロノはメインモニターに視線をやり、アルカンシェル発射シークエンスに入った前衛部隊を見遣る。

 

前衛部隊の艦首直前に発生した光球が急激に拡大していくが、それを見ていたクロノの表情が強い不安に歪んだ。

 

(いかん。あれでは撃つぞと敵に言いふらしているようなものだ!!)

 

クロノの絶望に近い不安をよそに、発射シークエンスは最終段階に到った。

 

「アルカンシェル、撃ちますっ!」

 

「て、敵艦隊再び一斉に転移しました!!」

 

通信と観測の両オペレーターが叫ぶように言った――。

 

「アルカンシェル、外れました!!」

 

多くの艦で同じ報告がなされた。

 

前衛部隊から放たれたアルカンシェルは敵艦隊に着弾する前に、その敵艦隊が小ワープにて回避してしまい、外れたのだ。

 

 

ボラー艦隊 第八親衛打撃艦隊 旗艦 バイオン

 

ボラー連邦艦隊の中で、一隻だけ艦色と艦影が異なる艦があった。

 

ボラー式の丸みを帯びたずんぐりな艦影は変わらないが、大きな特徴なのはその下にある円盤型の艦体から構成される艦影だった。

 

色も他の艦が青紫なのに対し、その艦だけは赤い色をしていた。

 

この艦こそ、第八親衛打撃艦隊司令、ハーキンス中将の座乗艦、バイオンだった。

そのハーキンス率いるボラー艦隊は、管理局のアルカンシェルを小ワープにて回避すると、管理局艦隊の右舷側面へと出現した。

 

「全艦、総攻撃開始。目標管理局艦隊、前方、400宇宙キロ」

 

ハーキンスは司令官席に座りながら、冷静に攻撃命令を下す。

 

攻撃命令が出たボラー艦隊は一斉に主砲を管理局艦隊に向けて放ってくる。

 

 

クラウディア ブリッジ

 

「ボラー艦隊、我が艦隊の右舷側面に出現、攻撃してきました!!」

 

「障壁展開!主砲斉射!!撃ち返せ!」

 

「無理です!こちらの射程外です!!」

 

「着弾しますっ!!」

 

管理局にとっては最悪の展開になった。

 

ボラー艦隊はこちらの中小口径の魔導砲の射程外からでも撃ってくる。

 

標準装備の武装の射程距離でも管理局の艦とボラー連邦の艦では大きな差があった。

 

そして、例の厄介な誘導ミサイルも撃って来た。

 

ボラー艦隊の一斉攻撃を受け、陽動部隊は被害が出始めた。

 

右翼側に展開していた部隊の艦船が右舷らの砲撃で障壁を破られ、忽ち艦体に多数の破口を穿たれて爆発炎上したのを皮切りに、艦隊の外側に位置する艦から火の手が上がり始めた。

 

「ベレル、シグナルロスト!」

 

「ファスター反応消失!!」

 

瞬く間に僚艦のシグナルが次々と消えていく様に、クラウディアのブリッジクルーは蒼白になっていく。

 

「くそっ、本隊は何をしてやがる!?」

 

「まだ、着かないのか!?」

 

クルーから怒り混じりの声が上がる。

 

こちらは命懸けで囮役を演じているのだが、本隊が役目を果たさなければ、こちらは無駄死だ。

 

「本隊の状況は?」

 

「“今しばらく持ち堪えよ”とだけです」

 

早くも半泣き顔の通信オペレーターの報告を受けたクロノは、コンソールの下で拳に一層力を込めた。

 

ボラーの首都を焼野原にしたとしても降伏する保証などない。

 

むしろ憎悪にかられたボラー軍の報復の的になるだけではないのか?

 

現実を逃避するかのようにクロノにはそんな思いが脳裏を過った。

 

「うわぁぁぁぁー!!」

 

「助けてくれぇ!!」

 

「嫌だ!!死にたくねぇ!!」

 

「こんな所で死ぬのは嫌だぁぁぁー!!」

 

モニター中のスピーカーからは断末魔に瀕した僚艦のクルーの悲鳴と叫びが聞こえてくるのをクロノは無言で聴き入っていた。

 

彼の指示で艦隊内音声通信を録音している通信オペレーターは聞いていられなくなったか、俯き、インカムに添えた手を震わせている。

 

「‥‥」

 

クロノの心中は怒りを通り越して冷え冷えとしていた。

 

何時自分たちも被弾し、彼らと同じ末路を辿るか分からないのに‥‥

 

クロノは自分でも驚くほど、冷静だった。

 

永久不変の物などあり得ない。それが大宇宙の真理。

 

それは管理局も例外ではない――。

 

陽動部隊の四割強の艦が失われるか大破した頃、

 

「本隊、ボラー星近距離に転移!」

 

ようやく総旗艦プレジデント以下の本隊が動いた様だ。

 

クラウディア以下陽動部隊のブリッジ内にホッとした雰囲気が漂い始めたが、それは束の間の事だった‥‥。

 

「ボラー星側面より、艦隊出現!!」

 

「何っ!?」

 

クロノが我が耳を疑った時、メインスクリーンにはこちらが相手をしている艦数と同等‥いや、それ以上の艦隊が映っていた。

 

「アイツらで全部じゃなかったのかよ!?」

 

オペレーターの一人は現在クラウディアら陽動部隊が相手をしている艦隊全部がボラー連邦の艦隊全てだと思っていた様で、ボラー連邦本星から出て来たボラー艦隊に思わず驚愕の声をあげる。

 

しかし、今自分たちが相手をしている艦隊がボラー連邦の総力とは誰も言っておらず、管理局側が勝手に勘違いをしているだけに過ぎない。

 

「これが、ボラー連邦の底力‥‥」

 

また別のクルーは唖然とした表情で本星から出て来た艦隊を見ている。

 

ボラー連邦の力をまざまざと見せつけられ、もはや勝てる気にも、交渉にもつれ込む気など失せた様子のクラウディアのブリッジだった。

 

ボラー連邦本星から出現した艦隊は管理局本隊を攻撃するが、その攻撃手口がこちらと比べ、何やら手加減しているかのように見えた。

 

しかし、苛烈な攻撃である事には変わりなく、本隊はその攻撃から逃れるべく、ボラー艦隊から逃げる様な艦隊行動を取る。

 

ボラー艦隊は管理局艦隊から一定の距離を保ったまま、待機する様な陣形をとった。

 

すると、ボラー艦隊の攻撃から逃れた管理局本隊の前に建設中の大型機動要塞の様な建造物が現れる‥というよりも管理局艦隊はその要塞のある所へと誘き出された。

 

「ボラー連邦本星の至近距離に機動要塞らしき物体をキャッチ!!」

 

「パネルに映せ!!」

 

「了解!!」

 

「ボラー要塞より、超高エネルギー反応!」

 

「何!?」

 

クロノがメインスクリーンを見ると、要塞から長い砲身の様な物が突出すると、そこから白濁色の光球が断続的に放たれた。

 

その直後、映像が乱れた。

 

「本隊はどうなっている!?」

 

「一帯に極めて高いエネルギー反応!計測できません!」

 

(ボラー連邦はこちらの戦略を看破していたのか?)

 

「解析急げ!」

 

本隊がやられてしまえば作戦の大前提が消滅する。

 

一刻も早く正確な状況を掴んで手を打たなければ、我々は犬死にだ!

 

その思いは陽動部隊旗艦アクシオムも同じだった。

 

「本隊の反応はまだ確認できないのか!?」

 

「まだ出ません!」

 

陽動部隊司令官兼アクシオム艦長のランドバルト・ムーグル少将は焦慮していた。

 

強硬派/拡大派に属する彼は、本部高官と総司令官からは、多少の被害は無視しても構わぬと言われていたが、もう過半数の戦力を失った。

 

管理世界拡張に消極な連中のみならず、同志の艦も続々と戦闘力を奪われ、スペースデブリと化している。

 

これで本隊がやられてしまったら、最早撤退しかないのだ。

 

「エルガミオ、撃沈されました!!」

 

「おのれ野蛮人共め!!」

 

また同志の艦が失われた。

 

「司令官、既に我が艦隊は戦力の68%が失われました。これ以上の戦闘続行は不可能です」

 

観測オペレーターが強張った表情を向ける。

 

オペレーターだけではなく、他のクルーが向ける表情も大同小異。

 

こんなに犠牲を出した。

 

もう撤退すべきだ。

 

自分たちはこんな所で死にたくない。

 

「本隊との通信も繋がらないか!?」

 

「まだ繋がりません」

 

本隊は全滅したのではないか?

 

我々はまんまとボラー連邦の術中に嵌まったのではないのか?

 

そんな予感がランドバルトの脳裏をよぎった直後。決定的な映像が齎された。

 

「映像回復しました!!」

 

「よし、メインモニターに繋げ!!」

 

「了解!!」

 

ようやく映像が回復し、陽動部隊全ての艦船は本隊の現状を知るために、モニターに本隊の映像を表示する。

 

すると、其処には‥‥。

 

「あ、ああ‥‥」

 

「ば、馬鹿な‥‥」

 

「本隊が‥‥」

 

モニターには管理局本隊の近くには多数のブラックホールが存在し、その強力な引力によって管理局本隊の艦船は次々とブラックホールへと飲まれていく映像が表示された。

 

何故、こんなにも多数のブラックホールが突然出現した?

 

先程までこの近海にはこんなにも沢山のブラックホールなんて無かった筈だ。

 

誰もがそんな疑問を抱いたが、その答えは直ぐに分かった。

 

例の建設中の要塞が再び、砲身から高エネルギーを放つ。

 

今回は一発しか放たなかったので、映像は乱れなかった。

 

放たれた光球は、やがて花火の様に割れると、そこからブラックホールが出現した。

 

「ブラックホールを生成してしるんだ‥あの砲台は‥‥」

 

誰かがポツリと呟いた。

 

突如、現れたブラックホールへと飲み込まれて行く管理局艦であったが、運よくブラックホールの引力圏から逃れた艦もあったが、その艦はブラックホールの引力圏外に待機していたボラー連邦本国の主力艦隊の餌食となっていく。

 

管理局本隊に残されたのはブラックホールに吸い込まれるか、敵艦の艦砲射撃の餌食になるかのどちらかだった。

 

「‥‥ほ、本隊、全艦シグナルロストですっ!!」

 

観測員が涙声で伝えてきた。

 

「それは間違いないのか!?」

 

「はい!!僚艦からも同様の報告が入っています!!」

 

「恐らく本隊は全てあのブラックホールか敵艦の砲撃によって‥‥」

 

「‥‥」

 

「司令官‥‥」

 

唇を噛むランドバルトの前に、副長が意見具申をした。

 

「作戦は完全に失敗です。一刻も早くこの海域からの撤退を!」

 

本隊の全滅=作戦失敗である以上、ここに留まることはただの無駄死に過ぎず、面子など何の意味もない。

 

(あの女狐たちの言う通りだったか‥‥)

 

非常に不愉快だが、はやて、レティ、リンディらが正しかったと認めざるを得ない。

 

「残存全艦、直ちに空間転移でここを離脱せよ。座標は各艦に一任。各艦の幸運を祈る!」

 

統一した座標を計算する時間すら惜しいと判断したランドバルトは、残存艦に自由転移を命じ、続いて本局への打電を命じる。

 

「我が艦隊は、ボラー連邦軍の罠に嵌まり、本隊は全滅、陽動部隊は既に七割以上の戦力を喪失し壊滅に瀕す。これより残存艦は全て撤退すると打電しろ!!」

 

「わかりました!!」

 

通信主任はコンソールに向き直り、手早く通信文を作成して本局に向けて送信したが、その直後、右舷と直上からの十字砲火がアクシオムのブリッジから機関部を直撃し、同艦は大火球と化して消滅した――。

 

 

時空管理局本局 大会議場

 

ボラー艦隊と戦闘に入るとの連絡が入ってから約一時間後、時空管理局本局に凶報が飛び込んで来た。

 

ボラー連邦本星を攻撃する本隊は全滅。

 

陽動部隊も大半を失い、残存艦は僅か二割~三割弱というのだ。

 

しかも生き残った艦でも無傷のモノは無く、大なり小なり被弾している。

 

報せを受けた“海”の高官たちは蒼白になって立ち尽くす。

 

「どういうことだ、もう一度確認しろ!」

 

「総旗艦、プレジデントに通信が繋がりません!」

 

「引き続き呼び続けろ!!陽動部隊のアクシオムにもだ!!」

 

「了解!!」

 

「プレジデント応答願います!こちら時空管理局本局管制室!!応答願います!」

 

「アクシオム、応答願います!応答して下さい!!」

 

管制室のオペレーターは懸命に各艦に呼び掛けるが、応答してくる艦はごく僅かだ。既にやられてしまったのか、撤退することで精一杯なのか。

 

せめて後者であってほしいのだが――。

 

そしてその報せは瞬く間に本局中に広がった。

 

状況を確認に来たはやては知らせを聞き、顔面蒼白になり、彼女は棒立ちになったまま、しばらく動かなかった。

 

レティは会議室にて、打ち合わせ中だったが、秘書が慌てふためいた様子で会議室へと入って来て、事の次第をレティに報告した。

 

彼女も第一報を聞くや、一瞬気が遠くなりかかったが、すぐに気を取り直す。

 

レティは打ち合わせを中止し、足早で自室に戻った。

 

クロノが幼い頃、次元航行艦の艦長をしていた旦那のクライドを不慮の事故で失い、今度は息子の安否も危うくなったリンディの心中を、レティはよく知っていた。

 

自分にこの知らせが来たのだから、リンディにも当然この知らせは届いている筈だ。

 

もう少し時間が経てば、詳しい状況も分かるだろうが、万が一、クロノが戦死して居たらと思うと、気が気ではない。

 

一分一秒がとても長く感じたレティだった。

 

彼女は急ぎ、リンディの下へと連絡をいれると、通信に出たのは彼女本人ではなく、彼女の秘書だった。

 

レティがリンディの事を訊ねると、彼女は先程倒れて医務室へと運ばれたという。

 

一方、本局詰めのテレビ局や新聞、通信社等の記者は、行き交う局員の顔色が急に変わったのを見て取り、色めき立った。

 

編集部とやりとりする者、知り合いの局員を見つけて駆け寄る者等、思い思いのやり方で情報収集にかかった。

 

「明らかに怪しいな」

 

「ああ、何か大事なのは間違いないな」

 

日頃は競合関係にある記者同士が顔を突き合わせてはひそひそ話し込んだ。

 

彼らは知り合いの局員を見つけるや、何があったのか問い質すが、局員の口は固く、あるいはうまくかわされてしまうのだ。

 

苛立つ彼らの連名で、記者会見要請文が本局報道部に提出されたのはそれから間もなくのことだった。

 

 

陽動部隊 次元航行艦 クラウディア ブリッジ

 

「陽動部隊旗艦から撤退命令です!自由転移で離脱せよと!!」

 

「わかった。第八海上支部に向かう。付近の残存艦にも伝達してくれ」

 

クロノは付近に居た残存艦に同様の指示を下すが、クルーが疑問を呈した。

 

「本局には戻らないんですか!?」

 

本局に艦籍があるのだから、当然本局に戻るのが筋だと思うのだが、

 

「‥‥本局はボラーに見張られている可能性がある。奴らの鹵獲した艦が潜んでいるかも知れないからな。一旦第八支部に寄港して様子を見る。本局にその旨も伝えるんだ‥ただし、通信は暗号文で行え、通信を傍受されてボラー艦隊が第八支部に来たら今度こそ終わりだからな」

 

「了解」

 

クロノの指示を受け、クルーは空間転移の準備を急ぐが、ボラー艦隊のスピードはそれを上回り、クラウディアの周囲の艦からも火の手が上がり、その衝撃波は周囲の艦を揺さぶった。

 

「パッカード、アリストともに被弾!!」

 

すぐ近くで空間転移の準備に入っていた友軍艦艇に砲火が突き刺さり、中央部から火柱が上がった次の瞬間、大爆発の閃光と共に艦が両断される。

 

そして続け様の爆発であっという間にスペースデブリと化していく。

 

もう一隻の友軍艦も数発被弾し、ブリッジ付近に生じた破口から、海の制服姿の男女が次々と宇宙空間に吐き出されていったかと思うと、第二波の砲撃で艦体をへし折られた。

 

凶報はさらに続く。

 

「艦隊旗艦、アクシオム轟沈!!反応消失しましたっ!!」

 

撤退命令を出してから三分も経たずして陽動艦隊の旗艦もやられてしまった。

 

そしてまた一隻、僚艦が宇宙の塵と化す。

 

その様を直視してしまったブリッジクルーから悲鳴が上がり、泣き出す女性クルーも出始めたが、

 

「うろたえるなっ!!」

 

艦長席で仁王立ちになったクロノの大喝が飛んだ。

 

「泣くのはこの戦場から無事に脱出した後に泣け!!今はここから生きて脱出するのが最優先だ!!手あきの者は何かに掴まるかシートベルトを確認するんだ!!航海長!!」

 

「はい」

 

「転移までの時間はっ!?」

 

「あ、あと一分三十秒です!」

 

普段の冷静さをかなぐり捨てた鬼の形相で指示を下すクロノに、クラウディアの航海長は冷静に答えた。

 

「わかった。残り三十秒でカウントダウン開始だ」

 

「了解」

 

クロノはそれだけを指示すると、いつもの表情に戻って席についた。

 

(我々管理局は、こんな経験は初めてに等しいからな。泣き出したくなるのも無理もないか‥‥)

 

本音を言えばクロノだって怖いし、叫びたい。

 

しかし、艦長たる自分がクルーの前で情けない姿を晒し、士気を低下させるわけにはいかないし、そんな事をすれば助かる命も助からない。

 

(あの人たちは、こんな戦いを何度もしてきたのか‥‥?)

 

モニターを通して何度か会った月村良馬や月村リニスの姿を思い出した。

 

彼らは圧倒的に戦力で優勢なガミラスやガトランティス艦隊相手に一歩も退かず、敗北にもめげることなく戦い抜いて生き延びてきた。

 

そうだ、どんな相手でも臆してはいけない。攻めの姿勢こそが道を開く!!

 

まさに、死中に活ありだ!!

 

「転移可能まであと一分です!!」

 

「総員対ショック防御!」

 

航海長がコンソールを叩きながら告げ、続いてクロノが衝撃に備えるよう指示を出したが、その次の瞬間、スクリーンに閃光が走り、衝撃がクラウディアを襲った。

 

「本艦には被害ありません!!被弾したのはルークスです!!」

 

「何!?」

 

愕然としたクロノの目の前には、炎に包まれ針路を外れていくルークスの無残な艦影があった。

 

「通信は繋がるか!?」

 

「映像は乱れるでしょうが、短時間ならば恐らくは‥‥」

 

「繋げ!!」

 

「はい」

 

通信士はコンソールを叩いてクロノに回線を繋ぐ。

 

「キャラバン艦長!!状況を!!」

 

クロノの呼び掛けに、所々映像が乱れながらもキャラバン艦長の姿が映る。

 

「ブリッジ近くに直撃弾を受けた‥‥それと、生活ブロックまで撃ち抜かれ、機関出力も低下していく‥‥艦内各所で‥‥火災発生‥‥ブリッジクルーは‥私以外は全員戦死した‥‥」

 

「‥‥」

 

ブリッジクルー全滅の報に、クラウディアのブリッジは一瞬静まり返る。

 

そしてキャラバンの声も苦しげだ。

 

映像からでも頭から血を流していたため、重傷を負ったであろう事は容易に想像できた。

 

「ハラオウン艦長‥‥このままでは犬死にだ‥‥本艦が撤退の楯となる‥‥その隙に君は撤退しろ!!」

 

「‥‥」

 

クロノは立ったまま俯き、唇を噛んで右の拳を握る。

 

「‥‥クロノ‥私はもう助からない。しかし、君は必ず生きて帰れ‥‥そして、こんな事を繰り返すことがないよう、管理局を頼む‥‥君と一緒に戦えて良かった‥‥最後に‥‥君と共に義妹さんを迎えに行けなくてすまない‥‥」

 

キャラバンはニッと笑みを浮かべ、クロノたち、クラウディアのクルーたちに敬礼をすると、通信をきった。

 

ルークスは死に絶えそうな機関を最後の力を振り絞って動かし、クラウディアの前面へと出る。

 

「転移可能まで‥‥あと、三十秒です‥‥」

 

カウントダウンを続けるオペレーターの声が震えている。

 

クロノは僅かな間俯いていたが、顔を上げるやルークス向けて挙手の礼をとり、再び指示を下した。

 

「本艦は予定通り転移、現海域から撤退する!!予想外の衝撃があるかも知れん。何かに掴まっていろ!!」

 

「転移可能まであと十秒‥九‥八‥七‥‥」

 

その時、艦が揺さぶられた。

 

「右舷に被弾!」

 

「人的被害なし!第十七から二十四区画を閉鎖!」

 

「転移用意完了!」

 

「転移!!」

 

この期に及んでは、多少の被害に右往左往してはいられない。

 

右舷艦側から煙を引きながら、クラウディアは次元空間へ転移していった‥‥

 

 

陽動部隊 次元巡航艦 ルークス ブリッジ

 

「そうだ。それでいい‥‥クライド提督‥貴方の息子さんは立派な局員になりましたよ‥‥今から報告に伺い‥ま‥‥す‥‥」

 

コンソールに半ば突っ伏しながら、巡航艦ルークスの艦長アズナブル・キャラバン艦長は、クラウディアの転移を見届けて微笑した。

 

その直後、ルークスのブリッジは眩い光に包まれた‥‥

 




フェイトにメーテルの衣装、ティアナにエメラルダスの衣装を着せてみました。
ただ、手描きなので、絵の良し悪しに関しては責任を持てませんので、見る場合は自己責任でお願いします。

そして、ティアナに関して、彼女が髪を降ろしている事とマントの影響で、ティアナっぽく見えないかもしれません。

表情については忍に無理矢理コスプレ衣装を着せられたかんじです。


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