なのは達に対するバッシングが許せない、胸糞が悪いという方はブラウザバックを‥‥
大丈夫、OK!!という方はどうぞ‥‥
時空管理局本局
『‥‥』
本局内は過去に例を見ない沈鬱な空気に包まれていた。
管理局に敵対する専制国家であるボラー連邦に対して、先の次元客船襲撃事件の報復及び管理世界に編入させる一貫として、強い反対を押し切って実施した武力制裁が、ボラー連邦を制圧、降伏させるどころか、一方的な虐殺同然の戦闘で、管理局が投入した艦船の内、八割強~九割を失った上、撤退に入った艦船も苛烈な追撃に遭ったらしく、本局からの呼び掛けに応答があった艦は未だ十数隻程‥‥
しかも大半が少なからぬダメージを受け、中には総員退艦に追い込まれて放棄された艦も複数出ていた。
「こ、これでは次元世界の拡張どころか現管理世界の治安維持すら覚束ないぞ!」
「艦はいずれ造り直せるが、乗組員はすぐには補充できん。どうするつもりだ!?」
確かに艦船を建造できる資材ならば、他の世界から調達する事は出来るが、それを動かす人の育成は一朝一夕では、出来ない。
特に管理局が払った犠牲として一番痛かったのは、ボラー連邦本星制圧・占拠のため、教導隊や各管理世界から招集した空戦魔導師たちだった。
彼らのランクは全てBランク以上の実力者だっため、その三個師団の犠牲は、SX級二隻、X級、R級の新鋭艦船の損失よりも大きく痛いモノとなった。
「やむを得ん。事情が事情だ。今回も普段の様に“陸”から人員を融通するしかなかろう」
「そうですな、それに他の管理世界からも大規模な徴兵を行わせましょう」
一部の高官は普段通り、“陸”から局員を異動させ、他の管理世界からは現地住民を管理局へ徴兵させれば、それで済むと思っていた。
「ちょっと待って下さい!!そんな事ができるとお思いですか!?“陸”はおろか、各世界も反対するに決まっている!」
今回の遠征に関しては“陸”は一人も人員を参加させていない。
それは、元々“陸”は魔導ランクが低い者が多く、前々から“海”のやり方には反発をしていたし、“海”も“海”で、今回の遠征に“陸”の低ランク魔導師など、足を引っ張るだけの邪魔者に過ぎんと豪語していた。
それが、失敗に終わると、手の掌を返す様に人員の提供を求めた所で、“陸”が応じる訳がない。
どう見ても「自業自得だ」と鼻で笑われるのがオチだ。
と言うか、あまりにも図々しい。
世の中そんな虫のいい話がある訳がない。
「再建はともかく、どのように報道発表するんだ? 真実を発表すれば人心の動揺は免れないぞ」
「かと言って、これだけの夥しい犠牲だ。隠したところでいずればれるぞ!!そうなったら管理局は本当に崩壊するぞ!」
「‥‥」
実りのない激論を交わす高官たちの傍らで、管理局理事官でもある聖王教会騎士のカリム・グラシアも憂鬱さを隠せずにいた。
これだけ大勢の殉職者が出た以上、聖王教会にも騎士の派遣等、管理局から協力を要請されよう。
それ自体は構わないのだが、問題は、それがどれだけの規模になるのかと、聖王教会内部に、過激な主張をする者が出てきていることだ。
レアスキル“プロフェーテン・シュリフテン”を元に、かの機動六課創設に協力し、JS事件の短期鎮圧に貢献したことで教会とカリムの存在感は増した。
それ自体はいい‥‥しかし、彼女が警戒するのは古きベルカの王朝を復興を主張する一派の存在だ。
今回の大敗は、管理局衰退の始まりとなる可能性がある。
それ以前に度重なる次元航行艦の損失と行方不明。
JS事件後の管理局の信用の失墜‥‥それを機に、かつて消え去ったベルカ王国を再興し、管理局にとって代わるべきだと主張する者も出てきた。
しかも、おあつらえ向きにベルカ王国の象徴となるべき“聖王陛下”もクローンとは言え存在する。
最も管理局士官の養女としてだが‥‥
まあ、陛下こと高町ヴィヴィオ自身が望まない道を強制されれば、母親たるエース・オブ・エースや一騎当千なその友人たちが絶対許さないだろうが、彼らの動向にも目を光らせるべきだろう。
カリムの思考はそこまでだった。
「帰還する艦船を確認!」
オペレーターの報告に会議場に居た一同はバッとスクリーンを見た。
「艦数と艦名は分かるか!?」
「少々お待ちください‥‥判明しました!!コースター、ダイナ、アバロンです!!いずれも損傷していますが、航行に支障は無いようです!!」
オペレーターが帰還しつつある残存艦の艦名を読み上げていく。
その艦名を耳にしてホッとした表情になる者、不安を隠せずにいる者と様々だったが、次の瞬間、蒼白になって立ち竦んだ。
突然何処からともなく現れたエネルギー波によって、まずコースターとアバロンが動力部を撃ち抜かれ、そのまま誘爆して爆沈した。
「なっ!?」
「っ!?」
「な、なんだ!?」
「何が一体‥‥?」
突然友軍艦の爆沈シーンを見せられた一同は言葉を無くした。
そして、残るダイナも続いて放たれたミサイルの餌食となって沈んだ‥‥。
「本局を前に‥‥」
「くそ!伏兵か!?」
本局の中央通信センターのメインスクリーンの中の光景は、凡そ信じ難いものだった。
帰還する残存艦が、本局到着までにあと20分の距離を切った空間にさしかかった時に敵の待ち伏せを受け、沈んだのだ。
“百里を行く時は九十九里を以って半ばとせよ”
第97管理外世界の中・近世期、250年以上に及ぶ長期世襲政治体制を始めた覇者の言葉だというが、今、本局に向かっていた管理局の敗残艦に必要だったのは、まさに己の足元に対する注意力であろう。
命からがらあの地獄の様な戦場から戻って来た次元航行艦は謎の砲撃とミサイル攻撃の前に敢え無く沈んだ。
乗員はさぞ、無念だっただろう‥‥。
「一旦入港は中止!警戒態勢!」
本局内に警報が鳴り響く。
警報が鳴り響く中、この光景を別室のはやてたちも目にしていた。
「ああ‥‥」
「そんな‥‥」
「本局の前まで来たのに‥‥」
「物凄く腹立たしいですが、敵に心理的ダメージを与える点ではすごく有効な手段です」
唇を噛むはやてに対し、シグナムは怒りを隠さぬまま吐き捨てた。
もうすぐ母港というところで艦もろとも次元空間の塵と化した局員の無念と、その家族・同僚の悲憤を思うと、ベムラーゼのその脂ぎった贅肉体に全力全開のラグナロックをぶち込みたい衝動にかられる。
しかし同時に、実に有効な心理戦であることにもはやては気づいていた。
その直後、スクリーンに攻撃を行った下手人が姿を見せた。
それは、確かに艦首の作りは管理局のSX級であるが、艦中央部から艦尾にかけては、全くの別物となっていた。
「アイツが‥‥」
ヴィータが噛みつく様な勢いで、スクリーンを睨みつける。
その艦は紛れもなく、ボラー連邦が鹵獲した管理局艦であった。
鹵獲艦はその姿を局員らに見せつけるかのように本局の前に現れた。
しかし、流石の鹵獲艦もボラーの技術を取り込んでいるとは言え、元は管理局の艦‥‥本局にあまり近づきすぎては逆に危険だと判断したのか、鹵獲艦は本局自体には近づかず、何処へと姿を消した。
その後の詳しい調査で、鹵獲艦は先程と同様の手口で、コースター、ダイナ、アバロンの他にも更に四隻の管理局艦を本局付近の次元内に潜み、その凶暴で強力な牙と爪で血祭りにあげていた事が判明した。
どの艦も被弾しており、もうすぐ本局だと油断しきっていた為、撃沈され、突然の攻撃で本局にも周囲の艦にも警戒を出す前に沈められてしまった。
鹵獲艦の完全な撤退によって本局内はようやく一息つける空気となった。
(ど、どないしよう‥‥?管理局はしばらく積極的な行動には出られへん‥‥もし、あのベムラーゼがガトランティスの国家元首みたいな人物だったら、間違いなく報復戦を仕掛けてくる‥‥管理局の残存兵力でその侵攻を防ぐことが出来るやろうか?)
恐らくベムラーゼはボラー連邦本星で自国民に“時空管理局は侵略者”だと喧伝しているだろう。
そんなことはないと反論したいが、ラティオがボラー連邦船籍の非武装船に対し、高圧的に接し、軍を呼ばれてしまったのがそもそものきっかけだ。
しかも相手の領海内で‥‥。
領海侵犯したあげく、臨検だなんて、海賊行為も良い所だ。
それにもかかわらず、管理局は“法の番人”“次元世界の守護者”等と吹聴しているのだから、ボラー連邦側にとってはお笑い草だろう。
(この敗戦で“海”の意識が変わらへんと、管理局は外から攻められ、内から見離されて崩壊してまう‥‥)
はやての拳に無意識に力が入った。
次元航行艦 クラウディア ブリッジ
「提督、清水タンクの応急修理が終わりました」
「わかった。物資移送を始めてくれ」
「はい!」
通信長に地上への連絡を指示したクロノは、ふぅと一息つく。
ボラー連邦への武力制裁は、薮蛇どころかとんでもない猛毒の大蛇に一方的に噛み殺される有様。
参加した戦力の内、九割近い損害を出した挙句、自分たちを戦場から逃がす為に、亡父と母、そして自分の補佐役だった老練の艦乗り、アズナブル・キャラバン艦長を失い、クラウディア自体も少なからぬ損傷を被った。
いや、キャラバン艦長だけでなく、大勢のベテラン艦長や優秀な空戦魔導師たちを失い、今回の任務の失敗では艦よりも人的損害の方が深刻だ。
幸いにもクラウディアには殉職・重傷者はいなかったが、清水タンクや食糧庫を始めとする倉庫区画が中~大破してしまった。
この被弾により当初の目的地であった第八支部とは異なる空間座標へと次元転移したクラウディアであったが、彼らは稀に見る幸運者たちだったようで、転移したすぐ傍に管理世界のポルテがあったのだ。
食糧と水の喪失は乗組員の士気に悪影響を与えかねないと判断したクロノは、ポルテに立ち寄って応急修理と水、食糧の補給を要請することとしたのだ。
ポルテにて、そこの管理局の支部長と話し合いを行い、支部長の快諾と応急修理の完了がクロノをようやくひと安心させた。
しかし、補給の事情から、あと数日はこのポルテに滞在しなければならない。
まぁ、無事にこうして生きているのだから、文句は言えないし、艦の状態が不安定のまま、航行するのは正直言って気が進まない。
物資移送・搬入作業が始まると、クロノは副長から、休憩するよう些か強く意見具申された。
副長は艦乗りとしてはクロノよりキャリアが長い彼からの進言であるため、それを受け入れて艦長室に引き揚げた。
「‥‥」
とはいえ、一人っきりになると、キャラバン艦長の最期の声が脳裏にフラッシュバックし、彼とルークスを救えず、見捨てるような形で逃げた事実に打ちのめされる。
その時、ブリッジから通信が入った。
「お休みのところ申し訳ありません。乗艦してきたエリオ・モンディアル二士とキャロ・ル・ルシエ二士が面会を申し入れておりますが、どうなさいますか?」
「大丈夫だ。会おう。艦長室に通してくれ」
「承知しました」
義妹の被保護者であるあの二人が自然観察・保護官として此処(ポルテ)に赴任していたことをすっかり忘れていた事に、思わず苦笑した。
(確か彼らは今年で十一~十二歳になっているんだったな‥‥)
(二人とも、少しは背が伸びただろうか――?)
そう思う中、ボラーへの地上降下作戦の為に招集された空戦魔導師たちにも彼らと同じ、年齢の少年・少女たちが居た事にも気づかされた。
彼らは乗艦していた輸送船ごとブラックホールへと飲み込まれた。
その時の彼らの心情を察すると、とてもつらい。
ブラックホールの強力な重力圏に捕まり、制御不能に陥った輸送船の中で彼らはきっと、故郷の両親の名を口にして泣いていただろう‥‥。
短い間であるが、死との恐怖でさぞ怖い思いをしただろう‥‥。
やるせない思いがクロノを覆った。
次元航行艦 クラウディア 艦長室
「そんなにやられてしまったんですか!?」
「‥‥」
艦長室でクロノから“事”の顛末を聞かされたエリオ・モンディアルは驚きの声を上げ、キャロ・ル・ルシエは絶句してしまった。
乗組員に案内されて艦長室に通された二人は、憔悴しきったクロノに内心で驚き、艦の傷つき具合と合わせて、かなり厳しい戦闘だったことは想像できたが、参加した艦船と局員の八割~九割が僅か一時間足らずで、失われた惨敗とまでは思い至らなかった。
更に今回の武力制裁で、自分たちと同世代の空戦魔導師たちも地上制圧作戦のために招集され、乗っていた輸送船ごとブラックホールへ飲み込まれた事実を知り、身の毛がよだった。
ポルテに赴任せず、ミッドに居たら、自分たちも招集されていたかもしれなかったのだから‥‥
「管理局史上最悪の惨敗だ‥‥あのJS事件が今回の件に比べればほんの些細な出来事でしかなかったと思うよ」
自嘲気味に語るクロノに、エリオ・キャロは返す言葉が見つからない。
あのJS事件の時でさえ、自分たち六課のメンバーは一杯一杯、まさにギリギリの戦いをしたと言うのに、それがほんの些細な出来事だったと言うほど、今回の武力制裁は凄惨なモノだったのだと、想像がついた。
「それじゃ、管理局はこれからどうなるんですか?」
キャロが絞り出すような声で問う。
その様子はとても不安げだった。
「“海”の戦力はこの遠征で主力をつぎ込んだからな‥‥残った残存勢力は集められても五割弱って所だろう。しかもその殆どが廃艦寸前の老朽艦か旧式艦ばかり‥‥暫くは今の管理世界の治安維持がやっとだ。艦船はともかく、失われた人材の損害が余りにも大きすぎる」
「「‥‥」」
艦船だけなら建造すればいずれは補充できる。
しかし、艦もろとも失われた人材はすぐには補充できない。
これまでなら各世界の地上部隊から強引に人材を引き抜く事もできたが、慢性人材不足の管理局だ。
大量に人材を引き抜こうとすれば、各管理世界政府も黙ってはいないだろう。
各管理世界政府とすれば、これ以上は治安維持の為の局員を引き抜かれたり、大規模な徴兵を行っては自分たちの足元に火がつく。
そんなことを許すほど“陸”も各管理世界政府も寛容ではあるまい。
それどころか、管理世界からの脱退を表明するかもしれないのだ。
特に無理矢理管理世界入りをさせられた世界は尚更で今回の敗戦をいい機会だと思うに違いない。
「‥‥」
クロノは俯き気味の二人を見遣った。
招集された空戦魔導師の他にも各艦にはこの二人のような年端もいかない魔導師も乗り組んでいた。
幸いにもクラウディアは助かったが、現在も行方不明になっている僚艦、失われた艦に乗り組んでいた若い‥いや、幼い魔導師たちは恐らく今頃は‥‥
(ミッドに戻ったら、遺族から石を投げられ、罵倒される事は覚悟しないとな‥‥)
理由はどうあれ、未来ある大勢の子供たち、若者たちの未来を自分たち大人が断ち切ってしまったのだ。
この責めは、まず自分たち高位にある大人が背負わなければいけない。
クロノは当面やるべきことに思いを馳せなければならなかった――。
しかし、事態はクロノが思う事とは正反対の事が起きた。
ボラー連邦への武力制裁作戦が無残な失敗に終わったことで、時空管理局、特に“海”こと次元航行本部は半ば恐慌状態に陥った。
喧々囂々の議論の結果、管理局はほぼ正確な損害を発表した。
ごまかしたところでいつまでも隠し通せるものではないし、虚偽発表が露顕すれば、管理世界の人心が完全に離反してしまう可能性が高いからで、どのみち非難されることは不可避なのだから、正確な被害を早めに発表した方が良いとの声が強かったのに加え、伝説の三提督も賛同したからであるが、案の定、各管理世界は激震し戦慄した。
何しろ、参加した艦船の約九割と、数多くの人命が艦と運命を共にして宇宙の塵芥に帰したのだ。
管理局創設以来例を見ない大敗、否、惨敗だ。
そして今回の敗戦の責任について管理局はその所在をうやむやにしようとしていたのだ。
管理局側はこれを機にボラー連邦への敵愾心をも植え付けようと目論み、若干の成果を得たのだが――。
「犠牲は避けられないし、作戦の失敗もさることながら、どんな経過を辿ったら九割もの人員と艦船が失われたのか!?」
「ボラー連邦はそれほど強いのか!?それとも管理局の戦術が拙劣だったのか!?戦力が脆弱だったのか!?管理局は全てを公表せよ!」
「今回の大敗の責任の所在を明らかにせよ!!」
管理局の発表の中で、肝心の戦闘経緯と遺族側への謝罪が全く行われなかった事に納得がいかない遺族やジャーナリスト、さらには管理世界政府までが戦闘経過の詳細発表を要求したり、地元の管理局の施設に押しかける者も出て、本局報道部や各世界の地上本部はそれらの対応に苦慮していた。
遺族やマスコミの対処にまわっている地上本部の局員らの心は一つで、
(本局の連中の尻拭いをなんで俺たちがしなきゃならない)
だった。
しかし、問題はそれだけではない。
失われた戦力の補充と再編をしなければならない。
武力制裁に失敗したから治安が悪くなったというのは許されないのだ。
次元航行本部はスタッフの穴埋めを従来通り地上総本部と航空総本部に求めたのだが、
「これ以上人員を割けば、各世界の治安維持すらできなくなる」
「そうだ!!人員を減らすなら財政支援を削ると他の管理世界政府から脅された」
「人材を無駄死にさせるような部署に行きたがる人材も居なければ、寄こす余裕などこちらにはない!!」
等と冷淡な回答しか返ってこない上、スカウトに応じる“陸”の優秀な局員も殆どいなくなっていたのだ。
さらに、各管理世界政府からも、“海”の体制を根本から見直せ!!
見直さなければ今後の協力体制を見直すという声が上がり始めた。
その中に、
「第二の97管理外世界の軍事技術を導入するべきだ。魔法だけで守れる時代ではなくなっているのは明らかなんだぞ!」
と主張する世界もあり、何とも混沌たる状況になっていた。
ボラー連邦への武力制裁で大敗した次元航行部隊に戦力の余裕はなくなり、新次元世界探査は無期限休止を余儀なくされている。
戦力再建、特に人材育成には数年ないし十年以上の歳月を要すると見られ、その間は各世界の地上本部や航空本部からの支援を得ているが、あくまで現在の管理世界の治安維持活動に限定するとの条件付きで、かつ転籍ではなく出向扱いである。
何分、各地上本部の後ろには管理局のスポンサーたる管理世界政府があり、これまでのような専横を“海”が続けるならば財政拠出を減額すると宣告されていた。
これは管理局への不信感のみならず、多くの世界で不況が進み、税収入が落ち込んでいる事もある。
そういう状態では、役立たずの烙印を押された次元航行部隊には厳しさを帯びた眼が向けられても仕方ない。
次元航行部隊を含む本局はけじめをつけざるを得なくなった。
時空管理局本局 大会議場
「ふざけるな!失態の責任もとらずにただ黙って人員を寄越せだと!?よくもそんな恥知らずで、図々しい事をぬけぬけと言えるな!?」
「恥知らずだと!? 人員の補充がなければ次元世界の平和は守れないんだぞ!今の言葉を取り消せ!!」
「取り消せだと!? 責任を取ったのは死者だけで、ボラー連邦への派遣反対を押し切って派遣に賛成した連中の何人が責任を取った!?誰もとっては居ないではないか!!」
「そうだ!!これでは殉職者が浮かばれんぞ!!」
紛糾しかかっている原因は、壊滅的打撃を受けた次元航行部隊の再建の事だった。
何もかもが手詰まりだった。
既存の艦船の性能不足は明らかで、残存する老朽艦や旧式艦では心許ない。
しかし、それ以前に武装、装甲、通常空間での機動力と次元空間への転移能力以外のハード面で、管理局の艦船は最大最強のSX級すら貧弱に過ぎ、任務に参加しなかった艦船の乗組員からも失望の声が上がった。
改善しようにも、現行の魔導兵器では力不足で艦船の推進機関もアンダーパワーで、亜光速と推定されるボラー艦隊に翻弄された。
ボラー艦の動力様式は不明だが、残された映像を見る限り、地球防衛軍の波動機関とほぼ同等の性能を有していることは確かで、彼我の性能格差は十世代以上に及ぶというのが艦政本部の見解だった。
これを解決する近道は、地球防衛軍が有する波動機関=タキオン推進機関を通常空間における主動力に起用することだが、管理外世界の技術導入に対する抵抗感もあり、管理局の艦船では波動機関の大出力に耐えられないということが指摘されたので、波動エンジンを搭載するのであれば新造艦の建造が必要不可欠となったが、肝心の波動エンジンの仕組みが分からない。
さらに、深刻な問題は失われた艦船の乗組員や武装隊員の補充だ。
一瞬で数千もの命が失われ、たとえ艦船を新造できても、それを動かすための人員の手配がつかなければ、ただのオブジェだ。
その肝心の人員の都合がつかない。
本局だけでは到底足りないから、各世界の地上本部にも協力を要請したのだが、その手法が従来と代わり映えしない上、誰も“海”に行きたがらなくなったのだ。
そして、同じ“海”に所属する高官は自らの生命が危険な場所には決して行きたがらず、ミッドで偉そうにふんぞり返って、命令するだけの無能者ばかり‥‥。
それだけではなく、比較的仲良しだった“空”こと航空本部も派遣した武装隊員のほぼ全員が殉職したことで、“海”を見限るかのように、派遣できる人員はいないと言い出す有様だ。
痺れを切らせた“海”が今日の対策会議で“空”“陸”の対応に異議を唱えたところ、“空”“陸”がタッグを組んで揃って反撃してきたのだ。
とは言え、彼らも同じ管理局員であり、セクト主義に陥るような愚を冒してはならないということはよくわかっている。
「何も、絶対に人を出さないと言っているわけではない。今までと同じ思考では問題は解決しないと言っているのだ!今のままでは、せっかく一人前に育てた局員をみすみす無駄死にさせるだけだ。局員一人の死はそれに数倍する人々を悲しみの淵に沈める。機械の部品を交換するのとは訳が違うんだぞ!」
「今のような脆い艦船に、未来ある若者たちを乗せて危険な任務に出す等もっての外だ。艦船の性能改善案を早急に示してほしい」
「地上本部としては、これ以上“海”への無条件完全移籍は受け入れられない。こちらも深刻な人手不足なのだからな。期限付きの派遣、それも本部の合意なしでの一方的な派遣延長は認めない。これが最低限の条件だ」
地上本部長のロールスロイス中将と首都防空司令官のアームストロング・ルーデル中将が相次いで発言した。
“海”側の高官も、艦船の改善は必要だとわかっているから表立っての反論はしない。
しかし、一番手っ取り早い地球防衛軍の技術導入には管理局の規則を大幅に改定しなければならず、実質的には質量兵器導入に繋がると反発する者も少なくないのだ。
仮に技術導入を申し入れるとしても“手ぶら”というわけにはいかず、地球防衛軍、否、地球連邦にメリットがある手土産を用意しなければならず、それを用意できるのかがネックになっていた。
地球連邦の並行世界と思われる第97管理外世界の文化を紹介・提供してはどうかと言う提案は何度も議題にあがった。
地球連邦は長年にわたる星間戦争で少なからぬ特有の文化や動植物が絶滅しているのは確実であり、時代的には200年前である第97管理外世界ならば、それらの“種”を持っているというのが根拠だ。
しかも某有名局員の故郷であり、ハラオウン家が“常駐”している上、件の局員の家族や親友ら、現地の民間協力者もいる。“収集”も難しくはない。
ただ、これもすぐには実現できるか疑わしい。
地球連邦政府が、並行世界の存在を信じるかが皆目見当がつかないからだ。
かの世界と何度か交信したレティによると、一部の地球防衛軍士官はもう一つの地球の存在を理解してくれたようだが、地球防衛軍側の時空管理局への感情は良好とは言えず、認識が広まっているかは疑わしいと言う意見が出た。
人員の確保、第二の97管理世界からの技術導入、それらの問題や議題が解決しないまま時間が流れた。
そんな中、今回の遠征における失敗で管理局の存在を揺るがしかねない出来事が起きた。
それも、今回の武力制裁に賛成した“海”の高官の発言から‥‥
事の発端は、今回の武力制裁に賛成した管理世界拡大推進派の高官がテレビ番組において、「今回の武力制裁の失敗点については?」との記者からの質問に対し、
「我々の立てたプランは完璧だった。今回の武力制裁における失敗は現場指揮や派遣された局員らの無能さが際立った結果であり、失敗の責任は全て彼らにある」
と、余りにもKYな発言を行い、それを聞いた遺族らが管理局に対して謝罪要求の為のデモや抗議集会を行った。
彼としては管理局の面子を守りたかったのかもしれないが、今回はあまりにも犠牲者の数が多すぎた。
そして何時しかデモの規模は次第に大きくなり、遂には暴徒化して、管理局関連の施設を襲撃する事態まで発展した。
管理局は治安維持の名目でこの事態の収拾に乗らなければならなかった‥‥
本局 特別捜査官執務室
「ご苦労さんやったな。シグナム、ヴィータ、アギト‥‥なのはちゃんもつらい思いさせてしもうたな‥‥」
「いえ、大した事はありません」
「「「‥‥」」」
部屋の主たる八神はやては任務を終えて戻ってきた自らの守護騎士、シグナム、ヴィータそして親友のなのはを労った。
大したことはない、と応じたシグナムだが、彼女らが着ている航空武装隊の士官制服、教導隊の士官制服の彼方此方には生卵やトマトのシミが複数付着しており、頬や額、腕には痣やうっすらと切り傷があった。
「大した事じゃんかよ!シグナムのせいじゃないってのに。逆恨みもいいとこだぜ!!アイツらは何も知らないからあんなことが言えるんだ!!」
心外だと声を張り上げたのは彼女の融合騎で相棒たるアギトだった。
一人の管理局高官のKY発言から始まったミッド全体へと広がる大暴動で、事態を重く見た管理局は治安維持の名目で“陸”の局員は勿論、“空”と本局の武装隊を出して事態の収拾に出た。
しかし、それがかえって火に油を注ぐ形となり、大衆の怒りは更に燃え上がった。
ボラーに勝てなかった腰抜けが自分たち民衆にはデバイスを向けるのかと‥‥
更に民衆の怒りを注いだのは管理局で有名な高町なのは、JS事件で大きな功績を残した六課出身のシグナムとヴィータたちの存在で、彼女らの姿を見た民衆や遺族らは、
「何故、お前らはミッドにいる!?」
「何で遠征に行かなかった!?」
「お前らが行けば、今回の結果は違ったかもしれないのに!!」
「そんなに自分の命が大事か!?」
「何が管理局のエースだ!!この腰抜けがぁ!!」
「上司に身売りして自分たちの安全を買ったか!?売女めぇ!!」
「恥知らず!!」
「人でなし!!」
「卑怯者!!」
「ろくでなし!!」
「税金泥棒!!」
「夫を返せ!!」
「お父さんを返せ!!」
「息子を返せ!!」
「娘を返せ!!」
「孫を返せ!!」
「お兄ちゃんを返せ!!」
「お姉ちゃんを返せ!!」
「弟を返せ!!」
「妹を返せ!!」
と、管理局の誇るエースであるなのはたちが今回の遠征に参加して居なかった事で、今回の遠征は負けたのだと、無茶苦茶な結論に至ったのだ。
JS事件を始めとする過去の栄光ある実績がここで裏目に出てしまったのだ。
しかし、宇宙空間では流石のエース・オブ・エースでも戦えない。
だが、一般市民はどの様な経緯で今回の武力制裁が失敗したのか知らず、管理局のエースが行かなかったから、今回の制裁は失敗したのだと思い始めていた。
「ヤロォ‥‥」
「アイツら好き勝手言いやがって‥‥」
ここでブチ切れそうになったのが、八神家でも沸点の低いヴィータとアギトであった。
彼女らは自分たちに向かって暴言を吐く遺族らに対して攻撃魔法をぶち込んで、強制的に黙らせてやろうかと意気込むが、
「待て、ヴィータ、アギト」
冷静に事態を見つめていたシグナムはそこで『待った』をかける。
「なんでだよ!?何で止めるんだよ!?シグナム!!」
「そうだぜ、あんなに好き勝手に言われて黙っているのかよ!?」
「今ここで彼らに非殺傷でも魔法を放てば、それこそ暴動は苛烈さを増して手が付けられなくなるぞ!!」
「うっ‥‥」
「‥‥」
「それに彼らは自分の家族を失い、その失った家族のことさえ、我々管理局が無能扱いしたのだ。彼らの行動も理解できない訳じゃない。私だってお前たちの誰かを失い、無能扱いされたら、管理局を辞め、逮捕される覚悟でそのものを叩き伏せる」
「「‥‥」」
シグナムの言葉を聞き、確かに暴徒と化した彼らの気持ちも分からなくはないと思ったヴィータとアギト。
「高町、お前は後ろの方に下がっていろ」
シグナムはそう言って、敢えてデバイスは起動させずに、非魔導師の局員らと共に暴動の鎮圧へと挑んだ。
「くそっ、やりきれないが、シグナムの言う事も最もだな‥‥アギト、お前も後ろに居てなのはを守っていろ」
「あ、ああ‥‥」
ヴィータがアギトをなのはの護衛につかせ、シグナムの方へと駆け寄って行った。
「‥‥」
シグナムとヴィータが非魔導師の局員らと共に暴動を鎮圧している間、なのはは、何もする事が出来なかった。
確かに魔法を使えば、暴動は簡単に鎮圧できるが、それでは余計に彼らの心が管理局から離れてしまう。
彼らは自分たちと違い、家族を亡くし、その家族が無能者と罵倒されたのだ。
管理局に恨み言を言いたくなるのも分からない訳では無い。
そんな彼らに非殺傷とは言え、シューターや収束砲を撃てば、其れこそ自分は本当に悪魔に成り下がってしまう。
人でなしの恥知らずになってしまう。
なのはは遺族たちからの罵倒と投石の中、ただじっと堪えるしかなかった。
アギトが一応なのはの護衛役についたが、大勢の暴徒たちから投げられる沢山の石つぶてや生ゴミを全て撃ち落とすには無理があり、多少の傷をなのはは受けた。
最前線で暴徒の相手をしていたシグナムとヴィータは言うまでもなくボロボロである。
後日、管理局は改めて遺族たちに対して、謝罪を行い、KYな発言をした局員を始め、今回の遠征に賛成した局員らに左遷或いは懲戒免職、減俸等の厳しい処罰を下すと共に、超法規的措置で彼らの資産の一部を没収し、遺族年金へとまわした。
また、その中には汚職や背任容疑で司直の手に委ねられた者も出た。
この他にも三提督を始め、心ある管理局の高官らも自らの資産や給与、ボーナスの一部を遺族達へと寄付した。
次元航行部隊の大敗以降、一連の人事異動と内部改革で、以前よりはだいぶ風通しがよくなった本局だが、新たな人材確保は難渋を余儀なくされていた。
その様な経緯が有り、暴動をようやく鎮めたシグナムたちは、はやての下へ報告に来たのだ。
「兎も角、皆シャマルの治療を受けてや‥‥シャマル頼むで」
「は、はい」
傷ついた皆をシャマルに任せたはやての下にある連絡が入った。
それはミッドの八神家、高町家が暴徒によって襲撃されたと言う報告だった。