八神家、高町家、両者の家には投石が行われ、窓ガラスと言う窓ガラスは全て割られ、家の壁や塀には誹謗・中傷が書かれた張り紙やスプレーで書かれた落書きが有ったと言う。
更には、窓ガラスが割られた事で、家の中にまで侵入され、金目の物は根こそぎ奪われたらしい。
これが、遺族たちの仕業なのか、それとも暴動に加わっただけの只の暴徒の仕業なのかは、不明で捜査をするにも今の管理局では、時間がかかりそうだった。
はやては、自宅や高町家の被害よりもヴィヴィオの事が気がかりとなり、カリムに連絡を入れ、ヴィヴィオを学校が終わったら、高町家ではなく、ミッドでよく自分が使用するホテルへ送ってもらうように連絡をとった。
「そ、そんな‥‥!?」
シャマルからの治療を終え、はやてから自宅の惨状を聞いたなのはは、顔を真っ青にした。
「ヴィヴィオは、シャッハが護衛して今はこのホテルに滞在しとる。迎えに行ってあげてや、なのはちゃん」
「う、うん」
ヴィヴィオが無事だったことは幸いしたが、遺族からの罵倒と自宅の襲撃。
この二つの出来事はなのはの精神力を更に傷つけるには十分の出来事であった。
はやての言っていたホテルへと到着すると、ロビーにて、シャッハと共にヴィヴィオが待っていたが、その顔色はあまり良好とは言えない。
「高町一尉、ちょっとお話が‥‥」
「う、うん‥‥ヴィヴィオ、少しここで待っていて‥‥」
シャッハと共にヴィヴィオから少し離れた場所に立つなのは。
「それで、お話と言うのは?」
「‥‥少しの間、陛下‥いえ、ヴィヴィオさんは学院を休ませた方が良いかもしれません」
「えっ!?それはどういう事ですか!?」
「ヴィヴィオさんが通っている学院にも今回の遠征で家族や身内の方を亡くした生徒さんが大勢おり、その生徒さんから見たら、高町一尉とつながりのあるヴィヴィオさんは苛めを受ける可能性もあります」
「‥‥」
「お心当たりがあるようですね?」
「はい‥‥今日、遺族の方々から言われました‥‥『お前たちが行けば、今回の遠征は勝っていたんじゃないか?』って‥‥『家族を返せ!!』‥とも‥‥」
「‥‥その様な経緯もあり、やはり今回の件が沈静化するまでは、ヴィヴィオさんの学院への登校は自粛して下さい。それと、出来ればミッドを離れた方が良いかもしれません」
「何故です?」
「実は現在、騎士カリム、ヴェロッサたちと共に密かに内偵を進めているのですが、教会内でも今回の管理局の敗戦を受けて、『管理局に変わって聖王教会の自分たちが次元世界を管理しよう』 『古代ベルカ王国の復興』 を掲げようとする者が居るみたいなのです」
「そんなっ!?」
「彼らにとっては管理局が力を無くし、更に崇拝すべき聖王陛下が現代に存在するこの状況‥‥まさに千載一遇の機会と見るでしょうね‥‥」
「‥‥」
JS事件の時の様にまたもやヴィヴィオが大人たちの勝手な野望の為に利用されるかもしれない‥‥。
そんな事はもうさせたくはない。
なのははチラッとホテルのロビーにある椅子に座りながらジュースを飲んでいるヴィヴィオに目をやる。
「そうですね‥‥そうします」
シャッハの言う事は最もであり、なのはは、ヴィヴィオを暫くの間、生まれ故郷の海鳴にある実家に預ける事にして、その日の夜、泊まったホテルの一室でなのははヴィヴィオに暫く学院を休んで、自分の故郷で過ごしてほしいと言った。
ヴィヴィオは最初、なのはも一緒に来てくれるものだと思ったが、なのはは、「今、自分はミッドを離れる訳にはいかないので、今回はヴィヴィオ一人で海鳴に行ってもらう」事を話すと、ヴィヴィオは当然嫌がった。
でも、今のミッドはヴィヴィオにとって危険な事を諭し、必ず迎えに行くからと約束し、ヴィヴィオは渋々海鳴へ行く事を了承した。
その日の夜、なのはとヴィヴィオは同じベッドに一緒に寝た。
暫くは離れ離れで暮らす故、最後の晩は親子共に仲良く寝たのだ。
翌日、なのはとヴィヴィオは海鳴にあるなのはの実家にて、なのはの両親に訳を話して、暫くの間、ヴィヴィオを預かってもらう事にした。
なのはの話を聞いた両親は、「管理局を辞める事は出来ないのか?」と訊ねるが、なのはは、「今、自分が抜ければ、管理局は今よりも事態は悪化するし、大事な友達や生徒を残して自分だけ、安全な世界へ逃げるなんて真似は出来ない」と、まだ管理局に居る事を両親に伝えた。
なのはの言葉を聞き、両親の心は複雑だった。
管理局に務めていたからこそ、自分たちはこうして孫に会う事が出来た。
しかし、もし、管理局に務めていなかったら、十一歳の時、大怪我をする事も無かったし、話に聞いた外宇宙からの侵略者たちと戦うなんてSF映画の様な危ない事もしなくて済んだのだ。
両親の心配を他所に、なのはは、ヴィヴィオに別れの言葉をかけ、再びミッドへと戻って行った。
ミッドチルダ クラナガン 八神家
「‥‥」
「くそ、アイツら‥‥」
「ひでぇことしやがるぜ‥‥」
八神家の一同は、暴徒たちの手によって滅茶苦茶にされた自宅を見て、はやてはただ黙って見ており、ヴィータとアギトは苦虫を噛み潰したような顔で自宅を荒らした暴徒たちに毒づく。
「まぁ、こうなってもうたのはしょーもない。家はまた新しく作れば元通りになるんやから‥‥それよりも私は皆が無事だった方が何倍も嬉しい」
「「主‥‥」」
「はやてちゃん‥‥」
「「はやて‥‥」」
「当分は、官舎か管理局の寮に住むことになるからな、今日は皆で必要なモノを買いに行こうか」
はやては、決して負けない、諦めない の精神で管理局も自宅も復興させると意気込んだ。
ミッドでの暴動が終息してから数日後、ポルテで、応急修理を終えたクラウディアが本局へと帰還した。
乗員の皆はバースへ出迎えに来ていた家族と感動の再会を果たしていた。
クロノも妻のエイミィに無事だったことを伝えた後、本局に報告へ向かった。
「そう‥キャラバン艦長が‥‥」
「はい‥‥」
リンディは本局の医務室にてクロノからの報告でキャラバン艦長の最後を聞いた。
「キャラバン艦長らを連れて帰れなかったのは、紛れもなく私に責任があります。敗残の指揮官が責任を負うのは当然の事であり、私はその責任の追及から逃げるつもりは毛頭ありません」
「クロノ‥‥」
「はい」
「これからが管理局の正念場よ」
「はい‥‥」
リンディはクロノに真剣なまなざしで言い、クロノもそれに答えるかのように頷いた。
それから一週間、本局は管理世界各国と連絡をとり、遠征に出た艦船が立ち寄っていないかの確認を行い、未だに未帰還、行方不明の艦船を撃沈認定し、乗員も全員が殉職認定を受け、二階級特進となった。
集計が纏められ、殉職者の人数、名前、階級が管理局から公式に発表された後、首都クラナガンにある大型の多目的スタジアムにて、合同葬儀が行われた。
ミッドチルダ 首都 クラナガン 多目的スタジアム 合同葬儀会場
約七万人の観客を収容できる多目的スタジアムは、普段は様々なスポーツやコンサートで歓声が響き渡るのだが、今日はスタジアム開設以来の異様な雰囲気に支配されていた。
飛び交うのは歓声ではなく罵声と泣き声。
「何故、私の息子が死ななければならなかったの!?」
「局員の殉職率が九割以上の理由が、いつまで経っても説明されていないじゃないか、ふざけるな!!」
「噂じゃ、元六課のエースたちは今回の遠征メンバーに入っていたのだが、管理局の高官と援交してメンバーから外してもらったらしいぜ‥‥」
「マジかよ!?」
「最低最悪だな‥‥」
「何が管理局のエースだ‥‥」
「ベッドの上の方が勇ましいんじゃねぇの?」
「今の地位だって上官連中と寝て取ったんじゃねぇの?」
三提督を含む、壇上の管理局高官は苦渋の色を隠せずにいた。
またチラホラと聞こえるなのはやはやてたちの根も葉もないデマや誹謗・中傷にクロノは心を痛めた。
遠征に出て行った自分の陰口や誹謗・中傷ならば甘んじて受ける覚悟はあったが、今回の遠征に全く関係のない彼女らの名誉がこうして傷つけられてしまう事には耐えられなかったが、「何も知らない貴様らにそんな事を言う権利があると思うのか!?」と、強気に言えないのもまた事実であり、ただジッと堪えるしか無かった。
そして、この場に彼女らが来ていない事が唯一の幸いだった。
管理局とミッドチルダ政府、クラナガン特別市合同主催の追悼式は、三提督を含む“海”“空”“陸”の管理局高官や政府・市の要人出席の元、厳かに行われた。
その様はテレビでも報道された。
今回の合同葬儀は遺族全員がスタジアムに入れる訳では無かったし、中には高齢、体が不自由だったり、病気の遺族が居り、病院や医療施設から出ることの出来ない者もいたからだ。
「お集まりの市民諸君、局員諸君、今日我々がこの場に馳せ参した目的は何か?それは、あの非道なるボラー連邦との戦いで散った多くの英霊を慰めるためである。彼らは尊い命を祖国と正義を守るために捧げたのだ‥‥彼らは良き夫であり、良き父であり、良き息子、良き恋人出会った‥‥彼らは幸福な生活を送る権利が有った。だが、その権利を捨ててまで正義を貫き通し、死んだのだ。市民諸君ここであえて問う。彼らは何故死んだのか?」
(お前ら首脳部の作戦指示が間違っていたからだろう?)
弔辞を述べる高官の言葉に心の中で今回の遠征の失敗理由を言うクロノ。
実際、ボラー連邦の正確な戦力も図らずにただ勢いのまま数でモノを言わせた戦いを挑んだのに相手はこちらの数よりも多く、またブラックホールを生成できる大砲と言う強力な兵器を備えていた。
どう見ても管理局の情報不足が招いた戦略的ミスだ。
クロノはこの弔辞を述べている高官が今回の遠征に賛成派の局員だったことから、この葬儀を利用してとんでもない事を‥‥ボラーへの遠征を再び行おうではないかと、市民を煽らないか、不安になった。
「その回答はただ一つ。彼らは祖国と正義を守るために命を擲ったのだ。これほど崇高な死があるだろうか?諸君、我々は明記しなければならない。祖国と正義こそが、命を擲ってでも守り通さなければならないモノなのだと!!この偉大なる祖国!!偉大なる正義を!!故に我々は戦わなくてはならない!!祖国と正義の為に!」
(これだから、扇動者は何時まで経っても消えない‥‥今の管理局の戦力でまともに活動できるかどうか分からないのに‥‥)
呆れながら高官の有り難い演説に耳を傾けるクロノであった。
厳かに行われていた葬儀だったのだが、その空気を破ったのは、今回の任務で婚約者(フィアンセ)を失った一人の女性の行動と発言だった。
その女性は式典の最中、壇上で弔辞を述べている高官の前に立つと、その高官をジッと睨むように見た。
そして、女性は自らの名前と戦死した局員の婚約者である事を明かす。
「そ、それは‥‥お気の毒です‥‥」
「労わっていただかなくて結構です。私の婚約者は貴方の言う祖国と正義を守るため、崇高なる死を遂げたのですから」
「そうですか、いや貴女はまさにミッドの‥いや、管理世界の婦女子の鏡の様な方だ」
(よく言うよ‥‥人間は恥と言うモノを学ばなければ成長はしないな‥‥)
女性と高官のやり取りを冷めた目で見るクロノ。
「ありがとうございます。私はただ一つ、貴方がたにご質問をしたく参りました」
「ほぅ、それは、どのような事でしょうか?」
「貴方がたは、今どこに座っていらっしゃるのですか?」
「ん?それはどういう意味ですかな?」
「私の婚約者は祖国と正義とやらを守るために戦い死に、この世の何処にも居りません‥‥そう‥遺体さえも残りませんでした‥‥貴方がたは、今何処に座っていらっしゃいます!?命を捧げる事を崇拝な事だとおっしゃる貴方は何処にいらっしゃいます!?貴方のご家族は何処にいらっしゃいます!?私は婚約者を犠牲に捧げました。それなのに、貴方は何故そこに居るの!?貴方のご家族は何処に居るの!?貴方の演説はそれらしく聴こえるけど、ご自分はそれを実行しているのですか!?」
鋭い舌鋒に応えられた高官はいなかった。
三提督を始めとする幾人かの高官は女性の言わんとしている事を悟り、苦渋に満ちた表情を浮かべたが、一方では不愉快な表情を浮かべた者もいた。
それは、壇上で弔辞を述べる高官も含まれていた。
「警備員!!このお嬢さんは錯乱している様だ。別室で休んでもらえ!!」
壇上の高官が警備員を呼ぶと、二人の屈強そうな警備員がこの女性を取り押さえようとした時に見咎めた別の遺族が指弾し始めたのをきっかけに、遺族席から管理局の一連の対応への非難が沸き上がった。
その様子に壇上の高官も警備員も戸惑っている。
一人ならば兎も角、会場の大勢からの非難に対して、「彼らを全員この会場からつまみ出せ!!」とは、言えない。
もし、言えば再びミッドは暴動の嵐に包まれ治安は一気に落ちる。
「「「‥‥」」」
スタジアム前の警備本部に詰めている警備担当の地上局員や上空警戒にあたる航空武装隊員たち、滞空しているシグナム、ヴィータ、なのはの三人もまた、憂いを隠せずにいた。
(スタジアムの中は沸騰しかかっているようだな)
(遺族の怒りはわかるけどよ、このままじゃ式は中止。全員締め出されちまうぞ。それじゃパニックになっちまう。そんな事になれば、またあの時の様な暴動が起きるぞ)
(誰かが扇動しているという可能性はないのかな?)
(指名手配のテロリストや要注意人物は入っていないと言っていたが‥‥)
(一応、最初にあのいけ好かねぇ演説をグダグダ述べていたおっさんに喧嘩を吹っ掛けたあの女の事を調べてみるか‥‥)
管理局艦船の相次ぐ撃沈事件発生からこのかた、強硬派から穏健派までの反管理局集団が活動を活発化させており、様々な手段で管理局に揺さぶりをかけているのだ。
常識的な言論だけの集団は監視だけで済むが、テロ集団はそうもいかない。
しかし、摘発しようにも逃げ足が早く、なかなか尻尾を掴めないとはやてたちも苦り切っていた。
管理局がボラー連邦と戦い、敗北、今後の方針を打ち出せない頃、ようやくガトランティスを太陽系から追い出した地球連邦側は‥‥。
ガトランティスの手によって破壊された第十一番惑星基地はその破壊したガトランティスの手によって地下に大規模な基地が建設されており、地球防衛軍はその基地を無傷で手に入れる事が出来た。
現在は基地調査の為の技術官とその護衛の為の軍人と艦船の一部がこの第十一番惑星に滞在している。
その中には、良馬が艦長を務める戦艦 まほろば も居た。
そして良馬の元に新たな任務が課せられた。
「調査船団の護衛ですか?」
「そうだ。ようやくガトランティスを太陽系から追放したので、宇宙開発案も再開されたのだ」
「成程」
「計画書はコレだ」
「拝見します」
山南司令から宇宙開発案が記された計画書を読む良馬。
(ふむ、行先は‥‥ケンタウルス座方面か‥‥)
「調査船団は、三日後にこの第十一番惑星基地に到着する予定だ。それまでに まほろば の出航準備を整えてもらいたい」
「了解しました」
山南に敬礼し、司令官室を出る良馬。
その三日後、ケンタウルス座方面への調査の為に、調査作業船 蓬莱丸 ウィング・バッファロー スイート・フラッグ の三隻が第十一番惑星基地に到着し、まほろば はパトロール艦、畝傍と共に、第十一番惑星基地を出航、ケンタウルス座方面へと向かった。
ケンタウルス座アルファ星は太陽系から四光年余りと、太陽系から最も近い恒星である。
中心であるアルファ星はA・B・Cの三連星で、A星とB星は太陽と同じ位の大きさで、C星は遥かに小さな矮星だ。
いくつかある惑星の中には地球に近い環境の星もあることは前世紀までに判明していたが、ガミラス、ガトランティスとの戦争で探査できずにいた。
外洋宇宙であったイスカンダル行きとは異なり、内深宇宙行とも言えるアルファ星系の場合は、星等の密度が濃いため、長距離ワープには制限があり、航路開拓、測量も兼ねた今航海は片道十日~二週間程度を要すると予想されていた。
調査船団は先頭に畝傍とし、ウインググ・バッファロー、まほろば、蓬莱丸、スイート・フラッグの順で単縦陣を組み、航路データを収集しつつ慎重に進んでいた。
坂井率いるコスモタイガー隊はスクランブル状態で待機し、必要に応じて まほろば を発艦し、周辺警戒に当たっている。
ガミラス軍とは実質的な休戦状態にあるが、まだオリオン湾に潜んでいるかもしれない白色彗星帝国軍の残党や、暗黒星団帝国軍、時空管理局と遭遇する可能性は拭いきれず、万が一にも遭遇すれば非武装艦の調査船などただの標的にしかならない。
この手の護衛任務に戦艦や戦闘機まで動員するのは、地球防衛軍の苦しい台所事情を考えれば異例の大盤振る舞いといえよう。
それだけ連邦政府はこの探査計画に力を入れていることに他ならなかった。
船団は万が一の場合、一時退避できそうな小惑星や航行の障害になり得る天体等を確認しつつ進んでいたため、船団の行程は歩き始めた赤子の様にヨチヨチ歩きみたいな航海だった。
パトロール艦 畝傍 艦橋
「全方位、異状ありません」
「重力異常ありません」
「前方障害ありません」
「了解。通信長、船団各艦船に伝えて」
艦橋の乗組員からの報告を受けたパトロール艦、畝傍の艦長、美咲七波は船団全てへの通知を指示した。
船団の先頭を進む畝傍はまさに船団の目と耳である。
パトロール艦は太陽系外での行動も想定したため、レーダーやセンサー、通信機能は防衛軍艦船の中でも精密かつ良質な物を搭載している。
調査船の一隻、蓬莱丸にも同等の性能を持つレーダーやセンサーを備えてあるが、こちらはあくまで航路データの収集や分析がメインで、戦闘データの分析は二の次だ。
パトロール艦のお世辞にも広いとは言えない艦橋には、緊張感こそ漂っていたが、張り詰めるほどのものではなかった。
それは、艦長の七波と副長のターニャの表情が比較的柔和だからだ。
七波の第六感にはそれなりに定評があり、彼女の表情が柔和な時には凶事は起きていないからだ。
とはいえ、全ての乗組員たちは、口はともかく目、耳、手は休んでいない。
船団にとっての脅威は何も敵軍だけではない。
宇宙塵等の障害物や宇宙気象も十分脅威だ。
さらには何処からともなく流れてくる難破船‥‥。
過日のイスカンダル救援作戦では実際に まほろば が遭遇し、二名を救出しているからだ。
まあ、その後の付き合い方が些か厄介なのだが、事は既に軍の手を離れた。
後の事は全て地球連邦政府の手に委ねられているため、軍としてはその命令を実行するだけである。
期待と緊張を宿して、調査船団は星の海を進んでいった‥‥。
某宙域
某宙域にある某惑星‥‥赤黒く不気味な雰囲気であるが、その惑星の国家元首の執務室‥‥
そこへある報告が齎された。
「聖総統閣下」
側近の一人が聖総統と呼ばれる国家元首の下へと歩み寄る。
「なんだ?」
「以前、マゼラン方面の一角にて捕獲した艦についてなのですが‥‥」
「捕獲艦?」
「はい。時空管理局とか言う組織の艦です」
「‥‥ああ、そう言えばいたなその様な組織の艦が‥‥確か、生体スパイ実験に使用して使い物にならなくなり、処分したのだな」
「はい」
「それで、その組織の艦がどうしたというのだ?あの艦はもはや宇宙の藻屑となったのだろう?」
「はい。ただ、これまでその組織の艦のコンピューターを解析した結果、面白いデータを発見いたしました」
「面白いデータ?」
「はっ、こちらをご覧ください」
側近は聖総統に端末を渡すと聖総統はその端末に目を通す。
「‥‥」
そして聖総統はその端末に表示されたデータを目にする。
「ふむ‥‥なかなか興味深い‥‥」
「しかし、かのデータによればその人物は収監されている模様です」
「ふむ‥‥その者の収監場所は判明しているのか?」
「はい」
「ふむ‥‥ならば、救出のための特務工作隊を編成し、直ちにその者を我が帝国に迎え入れたい」
「ハッ、承知しました」
聖総統は端末に表示された人物の救出を命じた。
側近は聖総統の命令を実行する為、特務工作隊の編成をする為に部屋を出て行く。
「プロジェクトFate‥戦闘機人計画‥‥実に素晴らしい計画だ‥‥」
側近が部屋を出て行った後、聖総統は端末に表示されたデータをもう一度見る。
「早くお目にかかりたいものだ‥‥ジェイル・スカリエッティ博士‥‥」
端末にはJS事件の首謀者、ジェイル・スカリエッティの顔写真と彼の研究成果が表示されていた。
「ほぉ~聖総統閣下からの特務‥して、その内容は?」
「ある人物の救出任務です」
「救出任務?」
「はい。こちらをご覧ください。ミヨーズ大佐」
ミヨーズと呼ばれた人物はイスカンダルにてガミラス、ヤマト、まほろば と戦ったあのゴルバ、プレアデスで戦った暗黒星団軍人のデーダー、メルダースと同じタイプの 宇宙人であったが、声や容姿はその同じ宇宙人の中でもなかなかの美形に入る人物であった。
「なるほど、確かにこの人物の研究は我が帝国の重要問題の解決の糸口となるな‥‥わかりました。引き受けましょう‥この任務を‥‥我が帝国の為に‥‥」
「はっ、では、こちらが今回の作戦の概要と要となる兵器です」
「‥‥ふむ‥まさか、これが実用化されていたとはな」
「では、搬入次第出撃をお願いします」
「了解した」
ミヨーズは物資の搬入を受け、何処かへと出撃した。
ジェイル・スカリエッティ‥‥
かつて、管理局にて長年広域指名手配を受けていた人物で人造魔導師製造計画「プロジェクトF」、「戦闘機人計画」に携わっていた科学者。
高町なのはが十一歳の頃、大怪我をしたガジェット(当時はアンノウン)を製造したのも彼であった。
新暦75年にて古代ベルカ時代の大型戦艦「聖王のゆりかご」を復活させて自らの野望を達成するために、レリックとヴィヴィオを狙い、自らが作り出したガジェットドローンや女性型戦闘機人集団「ナンバーズ」を率いて管理局へ戦いを挑んできた。
その正体は当時の最高評議会メンバーが伝説の地、アルハザードの技術で生み出した人造生命体‥フェイトと同じ存在だった。
彼はJS事件においてフェイトと対峙し、彼女の手により逮捕された。
その後、彼は管理局からの司法取引を拒否し、第9無人世界の「グリューエン」軌道拘置所第一監房に収容されている。
収監された彼は日がな一日、読書をしたり、ワインを飲んだりしている。
「はぁ~退屈だねぇ」
彼は独房のベッドの上で横になりながら呟く。
そんなスカリエッティが収監されている「グリューエン」の軌道拘置所を訪れる者たちが居た。
「り、リンディ・ハラオウン提督!?」
看守は突然のリンディの訪問に驚く。
リンディの後ろには護衛なのかシグナムとヴィータの姿があった。
「ほ、本日の訪問はどういった御用件でしょう?」
「ここへ収監されているジェイル・スカリエッティを別の世界の軌道拘置所へと移送します」
「そ、そんな報告は受けていませんが?」
「相手はスカリエッティ‥堂々と教える訳にはいきません。これは極秘の護送任務です」
そう言ってリンディは正規の管理局印が押された書類を看守に見せる。
看守もリンディが見せた書類と護送相手があのスカリエッティを護送するのであればその情報も少ない方がバレにくい。
リンディが言っている言葉は最もだと判断した。
そして看守はスカリエッティが居る独房へと案内する。
「ん?」
スカリエッティは自分の居る独房に看守が近づいている気配に気づく。
そして扉が開かれるとそこには看守の他に意外な人物たちが居た。
「おや?これは、これは珍しい。まさか本局の統括官殿がこんな辺境の世界にまで来るとは‥‥」
スカリエッティは皮肉を込めてリンディに言うが彼女は顔色を変えずにスカリエッティに言い放つ。
「スカリエッティ‥貴方を別の世界へ護送する‥‥」
看守はスカリエッティの手に手錠をかけ、彼を独房から出す。
拘置所の通路をリンディと看守二人がスカリエッティの前を歩き、彼の後ろをシグナム。ヴィータ、更に三人の看守は歩いている。
やがて、リンディたちが乗って来た艦の一室にスカリエッティを乗せ、その部屋にはシグナムとヴィータが残っている。
そして、艦は動き出す。
しかし、スカリエッティはこの時、妙な違和感を覚えた。
(ん?エンジン音が違うようにも聴こえるが‥‥それに少々早く感じる‥‥私が拘置所にいる間に管理局は新型のエンジンを開発したのか?)
「それで、次はどこに連れて行かれるんだい?」
スカリエッティは次の収監場所を訊ねるが、シグナムとヴィータは何も言わない。
部屋には窓がないので今何処に居るのか?
何処へ向かっているのか一切分からない。
やがて、グラっと艦がどこかに着いた衝撃を受ける。
(やれやれ、今度は何処へ連れてこられたのやら?)
スカリエッティがそう思っていると、部屋の扉が開いた。
すると、入って来たのは人型には見えるが、どうみてもこれまで自分が見てきた人類ではなかった。
皮膚は灰色で、細面の頭部には毛髪が無く顔立ちからは幼さの残る少年のような容貌をしている。
「はじめまして、ドクター・スカリエッティ」
「はじめまして‥‥えっと‥‥」
「ああ、これは失礼。私は暗黒星団帝国デザリアム軍大佐、ミヨーズ」
ミヨーズはスカリエッティに自己紹介をする。
「暗黒星団帝国デザリアム?管理局は随分と物騒な所を管理世界にしたものだね」
「我々は管理局とは全く関係はない。我々帝国は貴方の頭脳と研究を欲している」
「なるほど‥‥」
スカリエッティは動ずることなく、ミヨーズが何故自分を欲するのかを何となく理解した。
「それにしても後ろの二人‥管理局のエース魔導師にそっくりなのだが、君には全然似ていないねぇ」
「ああ、これか‥‥」
ミヨーズはリモコンを取り出しスイッチを押すとシグナムとヴィータの姿は白いゴム人形みたいな姿となる。
シグナムとヴィータがこの様な姿となったことから恐らくリンディも偽物だったのだろう。
「これは驚いた。まさかこんなにそっくりな偽物を用意するとは‥‥ドゥーエの『偽りの仮面(ライアーズ・マスク)』顔負けだな‥しかも変装できる人体の大きさも変更できるとは‥‥」
スカリエッティはかつて自分が製造したナンバーズの一人‥ドゥーエ以上の変装性能を持つ目の前のロボットに感嘆の声を漏らす。
今回、デザリアムがスカリエッティ救出に用いたロボ‥多目的任務機械生命体D号。
これは、表面を軟質ゴムで覆われ、中の機械を組み替えることで身長を自在に変えることが出来、さらにホログラムを纏う事でドゥーエ以上の変装機能を有している。
デザリアムは以前、拿捕した管理局の艦隊からJS事件、スカリエッティ、管理局の有名な高ランク魔導師のデータを読み取りそこからリンディ、シグナム、ヴィータの容姿を真似たD号を今回投入したのだ。
そして、護送に使った艦もデザリアムが管理局の艦を真似て作った張りぼて艦だった。
「救助をしてくれるのはありがたいのだが、私の他にも四人の娘がまだ管理局の拘置所に居るのだ。彼女たちも救ってもらいたい」
「申し訳ございませんが、我々が命令されたのはドクターのみの救出でして、その他の人物に関しては対象外とさせていただきます」
ミヨーズはスカリエッティ以外の人物の救助は命令されておらず、無理だと切り捨てる。
確かに今頃は自分を護送する為に来たリンディたちが偽物だという事実がバレているかもしれない。
そうなれば、別々の世界で留置されているウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの四人を助けるのは困難だ。
「‥‥」
スカリエッティは悔しそうに顔を歪めるが今の自分には拒否権は存在しなかった。
こうして彼はデザリアム帝国へ一人、亡命するような形で向かう事になった。
スカリエッティの脱獄は管理局でも知られる事になり、監視カメラの映像からリンディ、シグナム、ヴィータが真っ先に疑われたのだが、三人にはその時には完全なアリバイがあったので、疑いは晴れたが暫くの間、監視の対象となった。
スカリエッティが脱獄したと言う事で、JS事件の折、彼と共に管理局からの司法取引を拒否して拘置所へと送られたナンバーズの処遇が問題となった。
管理局はボラー連邦との戦いで戦力が大幅に低下している。
そんな中、これ以上厄介なテロリストを脱獄させる訳にはいかなった。
「気は進まないが‥‥やむを得ないか‥‥」
管理局はウーノ、トーレ、クアットロ、セッテが収監されている拘置所の看守にある極秘命令を下した。
この日、ウーノはいつものように用意された食事を食べた。
すると、突然、彼女は息苦しさを感じた。
「うっ‥‥ぐっ‥‥がっ‥‥」
ウーノは苦しそうに喉や胸を手で抑え、床をのたうち舞うがやがて、口からは泡を吹き、目は白目となるとピクリとも動かなくなった。
ウーノの他にも同日、他の世界における拘置所にて収監されていたトーレ、クアットロ、セッテも食事中に原因不明の発作を起こして死んだ‥‥
管理局は彼女たちの死因を病死と記録した‥‥。
ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテのファンの方々、申し訳ございません。
四人は原因不明の病気でお亡くなりになりました。
この件に関して管理局は一切関知していないと公式の記録では申しております。
また留置場での虐待・暴力も一切ありませんし、食事に関してもちゃんと栄養士の監修の下、問題の無い食事を提供しておりました。
四人のご冥福をお祈りいたします。