ご了承ください。
「そんなっ!!」
なのはは、カリムから大事な話があると言われ、聖王教会のカリムの執務室へと来ると、そこで教会の強硬派から海鳴に居るヴィヴィオが襲われ、行方不明になってしまったのだと言う。
「ヴィヴィオ‥‥ヴィヴィオが‥‥また‥‥私は‥‥また助けられなかった‥‥約束を守れなかった‥‥」
なのはは震える声でそう呟くと‥‥
ドサッ
その場に倒れてしまった。
「高町一尉!!」
「医者だ!!医者を早く!!」
カリムとシャッハは慌てて倒れたなのはを客室のベッドへと運び、シャマルを呼んだ。
その頃、オットーは海鳴でヴィヴィオが行方不明になった原因かもしれないジュエルシードのかけらを調べてもらう為、無限図書にいるユーノの下へ来ていた。
何せ、彼はジュエルシードを発掘した張本人であるため、何か知っているのかもしれないと思ったのだ。
「うーん‥‥間違いない。これは確かにジュエルシードだ‥‥」
ルーペを使ってオットーが持ってきたジュエルシードと思しきガラス片を何度も見るユーノ。
そして、彼の口からこのガラス片は間違いなくジュエルシードの欠片と言う事が判明した。
「でも、何故あの街にジュエルシードが?管理局の報告ではすべて回収された筈じゃあ?」
管理局の公式記録で海鳴にばら撒かされたジュエルシードは全部で二十一個‥‥。
それら全てはあの高町なのはが回収したと管理局の公式記録にはそう記されており、二十二個目があったなんて知られていない。
ユーノ自身も発掘したのは二十一個だと後の裁判でそう証言している。
ならば、この二十二個目のジュエルシードは一体何なのか?
「もしかしたら‥‥」
ユーノはある仮説をたてると、クロノと連絡をとった。
そして、彼に訳を言って特別にジュエルシードが安置されている管理局の保管庫へと向かった。
海鳴でなのはが回収したジュエルシードは、当時の管理局の暗部によってスカリエッティの下へと流され、彼はそれを動力源にガジェットと呼ばれる機動兵器を作り上げたが、それらのガジェットも八神はやて率いる機動六課の手によって破壊され、スカリエッティの逮捕により、ジュエルシードは再び管理局の下へと安置され、今度は厳重な監視の下、保管庫で眠っていた。
クロノから特別許可を貰い、二十一個のジュエルシードを一つ一つ丁寧に見ていくと、その内の一つが不自然な欠け方をしていた。
「‥‥」
ユーノはその欠けたジュエルシードに今回オットーが持ってきたジュエルシードの欠片をはめ合わせると、その二つはピタリと一致した。
「やっぱり‥‥」
「どういう事です?スクライア司書長」
納得したユーノにオットーが訊ねる。
「つまり、この二十二個目のジュエルシードは‥‥」
ユーノはオットーにこの二十二個目のジュエルシードの正体を話す。
彼の仮説では、発掘した際に生じた小さなヒビが海鳴にばら撒かれた時の衝撃によってこのヒビが広がり、遂には欠けてしまったのではないか?と言う説だった。
二十二個目のジュエルシード‥‥ジュエルシードの欠片は小さかったため、管理局のサーチャーにも引っかからず、当時ジュエルシードを探していたなのは、ユーノのペア、フェイト、アルフのペアもその存在には気がつかなかったのだ。
海鳴でジュエルシードをめぐる事件PT事件から十数年の年月の中、今まで発動しなかったのは奇跡に近い事だとユーノは言うが、今回はそのジュエルシードの欠片が、一人の少女を行方不明とさせてしまった。
ジュエルシードは願いを叶えるロストロギアだと言う、
ただし、その願いを歪ませてしまうと言う副作用もある。
ヴィヴィオは一体どこに消えてしまったのか?
何か心当たりがないかとオットーがユーノに訊ねると、
ヴィヴィオが教会の強硬派に追い詰められた経緯を聞いたユーノは、もしかしたら、ヴィヴィオはその時、「この場から逃げたい」と願い、その願いを聞いたジュエルシードの欠片はヴィヴィオを何処かの世界へ跳ばしてしまったのではないかと言う。
その跳ばされた世界が何処なのかを確かめる方法は残念ながら分からないと言われ、オットーはがっくりと肩を落とした。
しかし、何か確かめる方法があるかもしれないと言って再び無限図書館へとユーノは戻り、オットーはこの事を教会のカリムの下へと知らせた。
オットーの報告を聞いたカリムは海鳴に居るセインとディードを呼び戻し、オットーと共にユーノのアシスタントを命じ、何かヴィヴィオの居場所を突き止める方法がないか探す様に言った。
その命令を聞いたセインはあからさまに嫌そうな顔をしたが、シャッハの一睨みで、すたこらさっさと無限図書館へと向かった。
なにせ無限図書館は局員の墓場とも言える部署‥‥。
そんな所に好き好んで行く奴は居ない。
セインが嫌悪感を露にしたのも頷けると言うモノだ。
シャマルがシャッハの連絡を受け、教会にたどり着いた時、なのはは客室のベッドの中に居た。
なのはは額に大粒の汗をかき、時折魘されていた。
シャマルがクラール・ヴィントを使い、なのはの身体を診察する。
一通り、診察を行った後、シャマルはカリムとシャッハの待つ執務室へと出向き、二人になのはの容体を説明した。
「それで、どうでしたか?高町一尉の様子は?」
「極度の疲労です。肉体、精神面の両方の‥‥」
「そうですか‥‥」
管理局の現状をカリムとシャッハも当然知っている。
そして、先日ミッド全域で起こった大規模な暴動の事も‥‥。
ただその際、遺族から心無い暴言を吐かれた事は一部の人間しか知らない。
その事はカリムとシャッハは知らなかった。
元々JS事件の最終決戦からなのはは、体やリンカーコアに負担をかけるような、かなり無理な戦いを続けていたため、シャマルとしてはこれ以上の心労や過度な肉体的疲労はなのはにはしてほしくは無かったのだが、事態はそうはさせてくれない様で、管理局は管理世界への拡大にご執心になった挙句に自分たちが井の中の蛙、籠の中の鳥だったことに気づかず、肉食獣、猛禽類、毒を持つ大蛇のいる星の海へと勇んで乗り出した挙句に手痛い傷を負う羽目になった。
管理局は艦船の他に只でさえ、人材不足だった管理局はその人材不足に拍車がかかってしまった。
管理局が大変な中、責任感が人一倍高く、自分は魔法以外取り柄のないと思っているなのはに、今、管理局は自分を必要とされていると言う状況下で休む、管理局を辞めると言う選択肢は存在していないのだ。
そんなワーカホリックの状況下で肉体的に疲労が溜まり、そんな中に遺族からの誹謗・中傷、管理局の歴史的大敗北に加え沢山の同僚と教え子たちの死、魔法による力と管理の限界によって精神的疲労も溜まり、遂には養女とは言え、愛娘であるヴィヴィオまでもが、行方不明になってしまったのだ。
これまでの事で倒れなかったのが不思議なくらいである。
「はやてちゃんには、私から言っておくわ。暫くなのはちゃんを休ませないと‥‥」
「わかりました。では、病院はこちらで手配しておきます。騎士はやてたちによろしくお願いします」
「ええ‥‥」
カリムはなのはを聖王教会系列の病院へ入院させる手続きをした。
本局 特別捜査官室
「なんやて!?なのはちゃんが!?」
「ええ‥ヴィヴィオの件で‥‥肉体的、精神的疲労がピークを迎えたみたい‥‥」
「‥‥そうか‥‥ご苦労やったな、シャマル‥引き続き、なのはちゃんの事を頼めるか?」
「ええ、任せてください。それじゃあ‥‥」
シャマルとの通信を終えたはやては、深いため息をつく。
「はぁ~‥‥」
正直、管理局が大変なこの時になのはの入院は痛い。
しかも、ヴィヴィオは行方不明‥‥。
なのはが目を覚ました時に立ち直る可能性は低いかもしれない。
もしかしたら、精神異常をきたしてこのまま管理局を辞めてしまう事だって考えられる。
それに‥‥
「フェイトちゃんにも何て言えばええんや‥‥」
はやてはなのはの他に今、異世界の地球に居る親友であり、ヴィヴィオのもう一人の母親であるフェイトへの報告に頭を抱えた。
「管理局の“海”も“海”やけど、教会の強硬派も強硬派や‥‥ベルカ王国の復活や何て‥‥例え復活できたとしてもかつての古代ベルカの様に混乱の時代に逆戻りするだけやないか‥‥」
カリムからヴィヴィオが行方不明になって事情を聞き、教会の強硬派にも、呆れと同時に管理局が厄介な時期に厄介な事をしてくれたと言う怒りを抱いたはやてであった。
そのヴィヴィオを強引に拉致しようとした教会の強硬派は、教会本部へと連行されると、早速宗教裁判にかけられた。
強硬派の幹部は当初、トカゲの尻尾切りの様に、ヴィヴィオを拉致しようとした工作員メンバーに全ての罪を着せようとし、
「下の者が勝手にやったことで我々には関係ない」
と、発言し、今回の件から逃れようとするが、そうは問屋が卸さない。
カリムら穏健派は、
「部下たちの行動も抑える事が出来ないのか?」
と、強硬派幹部らの監督不行届を指摘し、強硬派の連中に釘を刺す事に成功した。
強硬派も肝心の聖王の行方が分からなくなってしまっては、どうしようもなく、暫くは過激な行動を控える事にした。
管理局は兵力の回復と人材の確保、教会側は、カリムたちのおかげで強硬派を押さえる事が出来た。
しかし、管理局を含め、管理世界の住人はいつ来襲して来るか分からないボラー連邦の脅威に怯える日々を過ごしていかなければならなかった。
当のボラー連邦首相ベムラーゼは既に管理局、管理世界の事など眼中にない事を知らないまま‥‥。
その渦中であるヴィヴィオは一体どこへ転移したのかと言うと‥‥。
「ありがとうございました」
桜花は通っている道場の稽古が終わり、帰宅の途についていると、
「ん?なんでしょう?」
桜花の視線の先には、黄色いモノが落ちていた。
近づいて見ると、それは人間だった。
「どうしてこの子、こんな所で寝ているのでしょう?」
倒れている子を見て首を傾げる桜花。
取りあえず道端で寝かしておくわけにもいかず、桜花は、
「よっ‥と‥‥」
倒れている子をヒョイっと担ぎ上げると、近くの公園のベンチまで運んだ。
「‥‥うっ‥‥うーん‥‥」
やがて、その子は目を覚ました。
「こ、ここは‥‥」
「あっ?気がつきましたか?」
「っ!?」
声をかけた桜花にその子はバッと飛び起き、怯えるような目で桜花を見る。
「えっ?あの‥‥私ってそんなに怖いでしょうか?」
突然、怯えられた桜花はどう反応して良いのか分からず、取りあえず、自分を見て怯えられているのが、自分の顔が怖いせいかと思い、訊ねる桜花。
「‥‥」
飛び起きた子も桜花が自分を攫おうとした教会の人間でないと分かると、徐々に警戒の度合いを下げて行った。
「えっと‥‥大丈夫ですか?」
「こ、ここは何処?」
「ここですか?ここは‥‥」
取りあえず、場所を聞かれたので、桜花はこの場所を言う事にした。
「ここは海鳴の三丁目にある公園ですよ」
「海鳴‥‥?」
その子は辺りをキョロキョロと見回し、
「私‥どうしてここに?」
「覚えていないんですか?貴女はこの近くの道端で倒れていたんですよ」
「‥‥っ!?あ、あの‥‥」
「ん?」
「私の他に倒れている人はいませんでしたか?」
「いえ、貴女一人だけですよ」
「そうですか‥‥」
「ところで、貴女、名前は?」
「えっ?」
「名前。何時までも『貴女』では、言いにくので‥‥」
「あっ、そうですね。私の名前は高町ヴィヴィオと言います」
「私の名前は中嶋桜花です」
「でも、高町って‥‥ひょっとして紅葉さんの知り合いですか?‥‥でも、紅葉さんに外国人の知り合いが居るなんて話、聞いた事ないけど‥‥」
ヴィヴィオの苗字に桜花は自分の家の下宿人の紅葉が真っ先に思い浮かんだ。
たまたま同じ苗字かもしれないが、この海鳴で『高町』と言う苗字は紅葉の実家位しか思い当たらない。
しかし、ヴィヴィオの容姿から彼女はどう見ても日本人ではなく、外国人だ。
紅葉の知り合いの中で外国人が居て、その人が海鳴に来るなんて聞いていない。
桜花がヴィヴィオの苗字について考え込んでいると、
「おや?桜花さん。どうしました?」
と、桜花の耳に聞き慣れた声が聞こえた。
そして、その声に反応したのは、桜花だけでなく、ヴィヴィオも反応し、声のした方にバッと顔を向けた。
「ああ、紅葉さん」
そこに来たのは、今まさに桜花が血縁関係かもしれないと思っていた人物、高町紅葉だった。
彼女の手には買い物袋をさげているので、買い物の帰りなのだろう。
桜花は紅葉に普段通りに声をかける。
そして、紅葉にヴィヴィオの事を訊ねようとした時に、
「ママ?」
と、ヴィヴィオが紅葉を見て一言呟く。
「はい?」
「は?」
その声を聞き、紅葉と桜花は唖然とするが、ヴィヴィオの呟いた『ママ』と言う意味を知ると、
「く、紅葉さんには子供がいたんですかぁ!?」
桜花は驚くが、
「そんなわけないでしょう」
紅葉の方は至って冷静だった。
しかし、紅葉はヴィヴィオの姿を見て、
(っ!?高町ヴィヴィオ!?なんで彼女がここに!?‥‥それとも彼女のそっくりさん!?でも、私の事を『ママ』って言っていたけど、それって私と高町一尉を間違えたってことよね?となると、やっぱりこの子はあのJS事件の時の子で間違いはないみたいね‥‥)
「それで何故、私を見て『ママ』と思ったんですか?」
紅葉も参加して、ヴィヴィオに事情を訊ねる。
「あっ、その‥‥お姉さんが私のママによく似ていたので、つい‥‥」
「はぁ~‥‥でも、貴女の容姿から察するに日本人ではなく、外国人の様に見受けられるのですが?日本語はとても上手いですけど‥‥」
「その‥‥私とママは‥‥血の繋がりがないんです」
(うん、知っているけどね‥‥)
「「‥‥」」
しょんぼりしながら言うヴィヴィオに紅葉と桜花は地雷を踏んだと言った感じの表情をする。
(紅葉さん、どうするんですか!?マズイ事を聞いちゃったみたいですよ?)
(そ、そう言われても、私だって会ったばかりの彼女の家庭環境まで知らなかったんですから、仕方がないでしょう。不可抗力ですよ)
(とは言え、ここはミッドじゃないからな‥‥やっぱり、ハラオウン執務官に預けた方がいいんだろうけど、このヴィヴィオがハラオウン執務官の世界のヴィヴィオだと言う確信はできないし‥‥どうしよう‥‥)
アイコンタクトをとりながら、この重い空気を何とかしようとする二人。
「えっと‥‥取りあえず、互いに自己紹介しましょう。私の名前は紅葉‥高町 紅葉です」
「えっ?」
紅葉の名前を聞き、ヴィヴィオは意外そうな目で紅葉を見る。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ‥私の苗字も『高町』なので‥‥」
「そうなんですか?」
「はい。私の名前は、高町ヴィヴィオです」
(やっぱり、ヴィヴィオだったか‥‥)
紅葉とヴィヴィオは互いに自己紹介を行い、次に紅葉は、ヴィヴィオの言う『ママ』について訊ねてみた。
「ヴィヴィオさんのお母さんのお名前をお訊ねしてもよろしいですか?」
「はい、ママの名前は高町なのはって言います」
(やっぱり‥‥)
「紅葉さん、貴女の親戚とかに『なのは』って人は居んですか?」
「いえ‥昔‥同じ名前の人はいましたけど‥‥」
「うーん‥‥それで、ヴィヴィオさんは何で道端に倒れていたんですか?それに他に倒れている人が居なかったかと訊ねていましたけど、その人もヴィヴィオさんの知り合いですか?」
桜花が、ヴィヴィオに事情を聞くと、
「いえ、違います‥‥あの人たちは私を攫おうとしたんです」
「「攫う!?」」
ヴィヴィオの言う『攫う』と言う言葉に反応する桜花と紅葉。
「攫うとは随分穏やかな表現ではありませんね」
「そうですね」
「ヴィヴィオさんを攫おうとする人たちは一体どんな人なんですか?」
桜花はヴィヴィオの話を聞き、まだ見ぬその誘拐未遂犯に怒りをもやし、紅葉はその犯人がどういった人物なのかをヴィヴィオに訊ねる。
「私を攫おうとした人たちは教会の人たちなんです」
「教会?」
「ヴィヴィオさんはキリスト教の信者なのですか?」
「キリスト教?」
一般に教会と言われ、真っ先に思いつくのが、キリスト教だろう。
「いえ、私を攫おうとした教会の人たちは聖王教会と言う所の所属です」
「せいおう教会?聞いたことありますか?」
「いえ、まったく‥‥恐らく新興宗教の一種だと思います」
(やっぱり、あっちの世界の教会か‥‥)
紅葉は知ってはいるが、知らない振りをする。
(そっか。ここは管理外世界だもんね。当然、聖王教会の事なんて知って居る筈がないか‥‥)
一方、ヴィヴィオも桜花と紅葉の二人が聖王教会の名前を知らない様子に納得した。
「ヴィヴィオさん大丈夫ですよ。私がその怪しい宗教連中から守ってあげます」
桜花がヴィヴィオを抱きしめながら言う。
「それで、ヴィヴィオさんのお母さんは大丈夫ですか?」
「そうだ!!もしかして、貴女のお母さんはその怪しい宗教団体に捕まったんじゃ‥‥」
「い、いえ‥その‥‥ママは仕事の都合で、海鳴を離れているので大丈夫です。私は海鳴に有るママの実家に預けられていたんです」
「そうか、それなら良かった」
ヴィヴィオの母親の安全が分かり、ホッとする桜花。
「それじゃあ、私たちが、ヴィヴィオさんの実家とやらまで送って行ってあげるよ」
(いや、この世界には多分、彼女の家は無いんじゃないかな‥‥?)
桜花がヴィヴィオの実家へと護衛を兼ねて連れて行こうとする。
しかし、ヴィヴィオの事情をある程度知っている紅葉はこの世界にはヴィヴィオの家は無い事も知っていた。
「あっ、ママの実家はお店をやっているんです。多分、お爺ちゃんとお婆ちゃんはそこに居ると思います」
「何て言う名前のお店ですか?」
桜花が店の名前を聞くと、
「『翠屋』って言う喫茶店です」
「「っ!?」」
ヴィヴィオの言った店の名前を聞いて、二人は目を大きく見開く。
そして、
「「‥‥」」
途端に無言になる。
「えっ?えっと‥‥」
突然の二人の豹変にヴィヴィオはおろおろする。
「‥‥」
「紅葉さん‥その‥‥」
桜花は気まずそうに紅葉に声をかける。
「海鳴に『翠屋』って他に有ったんですか?」
「い、いえ‥‥私の知る限り、『翠屋』と言うお店の名前は‥‥私の実家が経営していたお店以外、今日まで見かけていません‥‥」
「‥‥ヴィヴィオさん。貴女のお爺さんとお婆さんの名前は何ていう名前なんですか?」
明らかに動揺している紅葉に変わって桜花がヴィヴィオに今度はヴィヴィオのお爺さんとお婆さんの名前を訊ねる。
「お爺ちゃんの名前は、高町士郎。お婆ちゃんの名前は、高町桃子です」
「‥‥ヴィヴィオさん」
「は、はい」
紅葉の余りにも真剣な表情に押され気味のヴィヴィオ。
「貴女のいた、海鳴の西暦は何年でした?」
「紅葉さん、突然何を聞いて‥‥」
「いいから、答えて下さい。ヴィヴィオさん」
何をバカな質問をしているのかと思う桜花を他所に、紅葉は真剣な表情を崩さない。
「た、確かカレンダーには200X年って書いてありました‥‥」
「‥‥」
「200X年?二百年も前の年号じゃないですか。どういう事なんでしょう?」
「‥‥こんな事は余りにも荒唐無稽なので、考えたくはないのですが‥‥」
「何か分かったんですか?」
「?」
ヴィヴィオが嘘を言っている様には見えないし、仮に嘘だとしても余りにもそれはあからさま過ぎる。
故にヴィヴィオが言っている事は事実であり、そのヴィヴィオが今、この場に居る事に対し、紅葉には何か分かった様子であった。
桜花は紅葉の答えを早く聞きたがっている様子で、ヴィヴィオは首を傾げている。
「SF映画や漫画・アニメの中でよくあるパターンで、タイムトラベルと言うモノを知っていますか?」
「タイムトラベル?」
「それって確か、タイムマシンに乗って過去や未来に行くって言うあのタイムトラベルの事ですか?」
「ええ。ヴィヴィオさんはそのタイムトラベルをした可能性が高いのです」
「‥‥」
「ヴィヴィオさん、ここに来る前に何か変わった事とかありませんでしたか?」
桜花がヴィヴィオにタイムトラベルをした事に何か思い当たる事が無いかを訊ねる。
「うーんと‥‥確か、教会の人から追いかけられていると思ったら、突然目の前が明るくなったの‥‥気がついた、目の前に桜花さんが居て‥‥」
「恐らくその光がヴィヴィオさんを過去からこの世界に跳ばした原因ですね」
「‥‥あの」
「ん?」
「‥‥私は元の時代に戻れるのでしょうか?‥‥ママの所に戻れるのでしょうか?」
ヴィヴィオが不安そうに訊ねる。
「「‥‥」」
西暦2200年代のこの地球でも残念ながら、タイムマシンは存在していない。
故にヴィヴィオを元の時代に帰すのは不可能であった。
「それは‥‥その‥‥」
桜花が、しどろもどろしていると、不安を感じ取ったのか、段々と涙目になるヴィヴィオ。
「え、えっと‥‥その‥‥」
涙目になるヴィヴィオに対し、余計に混乱の渦中へと陥る桜花。
今にも涙腺が崩壊しかけるヴィヴィオに対し、
「‥‥」
紅葉がヴィヴィオをギュっと抱きしめた。
「大丈夫です。ここへ来ることが出来たのです‥‥きっと元の世界へ戻る方法もある筈です」
確実な方法が有る訳でもないが、今のヴィヴィオは、不安と攫われそうになったと言う出来事に精神的に不安定になっている。
母と離れ、別の世界で暮らして居たのだ。
まして、戦争のない平穏な世界ならば、尚更だ。
紅葉はヴィヴィオを暫く抱きしめ、頭を撫でた。
「ママ‥‥」
なのはと同じ雰囲気を持つ紅葉にヴィヴィオは、ポツリと呟いた。
そして、何時までもここに居る訳にもいかず、またヴィヴィオはこの世界には、当然身寄りもなく泊まる家も無い。
そこで、桜花は母親に頼み込むため、ヴィヴィオを連れて中嶋家へと向かう事にした。
(レディー‥‥)
中嶋家に向かう途中、ルシフェリオンが紅葉に念話で話しかける。
(どうしたの?ルシフェリオン?)
(このリトル・レディーからは、強力な魔力を感じる‥‥それも、レディー並のな‥‥)
(そう‥‥でも、ここは地球‥フェイトさんたちの言う管理外世界‥‥魔力が有っても無くても、関係ないよ、ルシフェリオン)
(そうか‥そうだったな‥‥)
ルシフェリオンは無粋なマネをしたと言った感じで、紅葉に言った。
(やっぱり、彼女も私の知る世界との彼女と同じで、高レベルの魔導師だったみたいね‥‥)
紅葉は前世とは異なる世界のヴィヴィオもやはり、高レベルの魔導師だったのだと納得した。
「ほぇ~‥‥」
中嶋家に向かう途中、ヴィヴィオは近未来化した海鳴の街並みを見て、驚きの声をあげる。
ミッドに似ているが、見た目はミッドよりも優れているような街並みがヴィヴィオの眼前に広がっていた。
タイヤがなく、地面から少し浮いて動いているエアーカー。
ビルとビルの間や、ビルよりも高い位置に網目の様に広がる真空のチューブ‥‥そしてその中を走るエアーカーやリニアモーターカー。
それはミッドにも他の自分が知る管理世界にも存在しない物ばかりだ。
ヴィヴィオの興味が惹かれない筈がない。
そして、一行は中嶋家へと着いた。
「「ただいま」」
「お、おじゃまします」
「おかえり‥‥」
すると、家の中から中嶋家のお母さん‥中嶋 加奈江が三人を出迎えた。
「あら?」
加奈江は桜花と紅葉の他にもう一人、ヴィヴィオの姿を見て首を傾げる。
「‥‥スバルさん?」
その一方で、ヴィヴィオは加奈江を姿を見て、加奈江の纏う雰囲気が自分の知る知り合いに似ていたため、ポロリとその人物の名前を零す。
「えっ!?」
(何でこの子、スバルの事を知っているの!?)
「あっ、いえ、なんでもありません‥‥」
加奈江に先程ヴィヴィオが出した名前が聞こえたのか、加奈江が声を出すが、ヴィヴィオは慌てて取り繕う。
「それで、お母さんお願いがあるんだけど‥‥」
桜花が加奈江に今回の本題を切り出した。
そして、桜花と紅葉はヴィヴィオがおかれた状況と帰る方法が見つかるまで、ヴィヴィオを家に置いてほしいと頼んだ。
すると、加奈江はギンガの時と同じく、快くヴィヴィオの件を了承した。
その日の夜、
就寝しようとした紅葉の下に、
「あ、あの、紅葉お姉ちゃん‥‥」
「ん?どうしたの?ヴィヴィオ」
紅葉の部屋にヴィヴィオが訪ねて来た。
「どうかしましたか?」
「あの‥‥その‥‥」
ヴィヴィオは、視線を泳がせ、手をもじもじしている。
しかし、意を決したかのように、紅葉の部屋に来た目的を言った。
「あ、あの‥紅葉お姉ちゃん。その‥‥今日、私と一緒に寝てくれませんか?」
ヴィヴィオは、恐る恐る紅葉に頼み込んできた。
紅葉は、ヴィヴィオが何故この様な行動を取って来たのか何となくだが、分かる気がした。
妙な教会の連中に狙われ、見ず知らずの世界へ跳ばされ、親とは離れ離れとなり、元の世界へ戻れる確実な保証はない。
ヴィヴィオ位の年頃ならば、まだまだ親と一緒に居たい年頃である。
それが、もう二度と会えない可能性もあるのだ。
寂しい筈がない。
不安を抱かない訳がない。
ヴィヴィオは紅葉を初めて見た時、自分の事を『ママ』と呼んだ。
恐らく彼女の母親、高町なのはと自分は容姿が似ているのだろう。
だからこそ、ヴィヴィオは自分の下に来たのだろう。
紅葉はそんなヴィヴィオを拒めるわけが無く、
「ええ、いいですよ」
と、ヴィヴィオをベッドへと誘った。
ヴィヴィオと二人で寝た紅葉。
寝ている間、無意識なのか、ヴィヴィオは紅葉の身体にしがみついて来た。
紅葉、そんなヴィヴィオに微笑みを浮かべながら、頭を優しく撫でた。
こうして、次元漂流したヴィヴィオの初日は終わった。
「うっ‥うーん‥‥」
翌朝、ヴィヴィオは、身を捩じらせながら目が覚めた。
見慣れない部屋に一瞬、「ここは何処!?」と、思ったが隣で寝ている紅葉の姿を見て、現状を理解した。
ヴィヴィオが目を覚ました後、直ぐに紅葉も目を覚ました。
「ヴィヴィオ?」
「あっ、紅葉お姉ちゃん。おはようございます」
「はい、おはようございます。ヴィヴィオ」
起きた後、ヴィヴィオは用意された部屋へとお戻り、桜花のお古であるが、出されていた服に着替えた。
「おはようございます」
着替え終えたヴィヴィオは、朝食が用意されたリビングへと降りて来た。
「あら?ヴィヴィオちゃん。おはよう」
朝食を用意していた加奈江がヴィヴィオに気づき挨拶する。
「桜花の昔の服だけど、サイズとかは大丈夫かしら?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
ヴィヴィオは服を用意してもらった礼を言った。
やがて、中嶋家の皆が揃い、朝食が始まった。
ヴィヴィオは加奈江の朝食の量を見て、目を見開いて驚いた。
朝食が進んでいく中、テレビで流れていたあるCMを見て、目を大きく見開き驚愕する。
今、ヴィヴィオの目の前にあるテレビの画面では、BRAVE DUELのCMが流れていた。
「ん?どうしたの?ヴィヴィオ」
「ん?ヴィヴィオは、BRAVE DUELに興味があるんですか?」
「えっ!?あっ‥うん‥‥」
桜花の問いに、ヴィヴィオは生返事をする。
そして、心の中では、
(BRAVE DUEL!?それってこの前、フェイトママやティアナさんがやったって言うゲームじゃない!?もしかして、この世界にはフェイトママとティアナさんがいるのかもしれない!!)
と、この地球には、自分のもう一人の養母と知り合いが居るのではないかと思った。
もし、この世界にフェイトたちが居れば、自分もミッドに帰れるかもしれないと言う希望がヴィヴィオの中にあった。
「そんなっ!?」
「ヴィヴィオが‥‥」
フェイトとティアナがヴィヴィオの次元漂流を知ったのは、ヴィヴィオが次元漂流をした翌日の事であった。
画面の向こう側には、はやてとカリムがおり、まずはやてから、海鳴のなのはの実家に預けていたヴィヴィオが聖王教会の強硬派に拉致されそうになった事、そして、その際、十年前、海鳴にばら撒かれたロストギア、ジュエルシードの欠片によって次元漂流してしまった事がフェイトとティアナに伝えられた。
その報を受け、フェイトはなのは同様、ショックが隠しきれなかった。
「この度の事は、私たちの落ち度です‥‥申し訳ありません」
カリムが自らの不手際とヴィヴィオを次元漂流させてしまった事について謝罪をする。
当然、彼女も許される訳はないと思いながらも、謝罪せずにはいられなかった。
「そ、それでヴィヴィオの行方は‥‥?分かっているんですか!?」
ショックを受けて、放心状態のフェイトに変わってティアナがはやてたちにヴィヴィオの行方を訊ねる。
次元漂流しても、自分たちの様に何か手がかりなどがないのかと思って‥‥。
「「‥‥‥」」
しかし、はやてたちが無言の上、気まずそうにティアナから視線を逸らすと、手掛かりはなく、ヴィヴィオの捜査は難航している様子が窺えた。
「それで、なのはは?大丈夫なの?」
フェイトは搾り出すような声で、ミッドにいる親友でもあり、ヴィヴィオの養母であるなのはについて訊ねる。
自分だってこんなにショックを受けたのだ。
自分よりもヴィヴィオを溺愛していたなのはのショックはかなりなモノだと、推測できる。
「‥‥なのはちゃんは今、入院中や」
はやてが気まずそうにフェイトとティアナになのはの置かれた状況を説明する。
「「入院!?」」
入院と言う言葉を聞いて驚くフェイトとティアナ。
「なのはさんの身になにかあったんですか!?」
「それがな‥‥」
はやてが重苦しそうになのはの現状を説明した。
元々、ボラー連邦との一件で、管理局がごたごたし、肉体的疲労、そして、それに伴う様々な、精神的疲労にヴィヴィオの件が拍車をかけ、肉体、精神の両方が限界を迎えたのだ。
「そう‥‥」
はやてから、なのはの入院について、説明を受けたフェイトとティアナは顔を俯かせながらなのはの現状を理解した。
「フェイト‥‥」
今日の定時連絡にフェイトとティアナと共にその場に居たリニスは、ただフェイトを見守る事しか出来なかった。
何とかしてやりたかったが、自分の知らないもう一つの地球で起こった出来事は、流石にどうする事も出来なかった。
そして、それはフェイトも同じ事だった。
この日の定期通信はひどく重苦しいもので終わりを告げた。