星の海へ   作:ステルス兄貴

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九十話 久しぶりの‥‥

 

 

「あ゛ぁ~、疲れた‥‥」

 

 下宿先である中嶋家へと向かう帰路の途中、良馬は夜空にそう吐き漏らした。

 点々と仄光る星明りを見つめる眼差しには、疲労が浮かんでいた。

 

「昨日も仕事、今日も仕事、明日も仕事‥‥家に帰っても食事と寝るだけか‥‥はぁ~‥‥」

 

 溜息をつく良馬は言うまでもなく憂鬱であった。

 単に仕事疲れというわけではない。

 最大の問題は、恋人との事である。

 折角恋人である中嶋ギンガと共に現在は、地球に居るのに、いかんせん彼女のための時間が取り辛い。

 付き合い始めてしばらく経つが、ここ最近は、なかなかデートに連れて行ってあげる事も出来なかった。

 ガミラス、白色彗星との戦いがようやく終わったと思えば、新たな脅威となりかねない暗黒星団帝国、そして時空管理局の対策。

 まほろば での当直勤務。

 その他に、新造艦、春藍と今度行われる合同遠洋航海の計画等やるべき仕事が沢山ある。

 ただ孤独な独り身であるだけならば良かった。

 だが彼は、極上の甘い蜜をもたらす可憐な花を手に入れてしまったのだ。

 その花を手にしながら、ただ見ているだけで、愛でられぬというのは、あまりにも殺生だった。

 

(古代君も今、こんな気持ちなんだろうか?)

 

 良馬はふと、ヤマトの艦長代理を務めていた後輩の事を思った。

 彼も婚約者がいる中で、現在はヤマトを降り、空間パトロール艇の艇長として、星の海に居る。

 愛しい婚約者を地球に残して‥‥

 そう考えれば、地球に恋人と共にいる自分はまだ恵まれている方なのだろう。

 

「はぁ~さっさと帰って、ご飯食べて寝よ、うん、そうしよう」

 

 明日の仕事に繋がる体力優先を考え、下宿先の中嶋家へと足早で向かう良馬。

 そして、下宿先に着くと、鍵を取り出してドアノブを握る。

 そこで良馬は気付いた。

 

「あれ?」

 

 鍵の掛かっているドアならばある筈の抵抗感がない。

 試しに捻ってみると、微かな金属音と共にドアが開いた。

 

「開いている‥‥おかしいな?今朝、加奈江さんが夜は誰も居ないって言っていたのに‥‥閉め忘れたのかな?」

 

 今朝加奈江は、今日の夜は外で食事をして、そのままホテルに外泊すると言う旨を良馬に伝えていた。

 その為、夜、中嶋家に居るのは良馬だけの筈だった。

 リニスは、まほろば で当直勤務であるし、ギンガは非番であるが、家族と一緒に出掛けた筈‥‥

 まさか物取りの類が出入りしてはいないかと僅かな用心を胸に、ゆっくりとドアを開ける。

 だがその先に待っていたのは、彼の予想だにしない光景であった。

 

「お、おかえりなさい、良馬さん。ご飯にします? それともお風呂にします? そ、それとも‥‥わ、わたしにします?」

 

 聞きなれた澄んだ声音で、顔を真っ赤にしたギンガがそう言って出迎えた。

 それもただ出迎えただけではない、ふりふりとフリルのついたピンク色のエプロンを掛けた新妻装備によるお出迎えであった。

 頬を羞恥で染めた様は、なんとも男心をくすぐる愛くるしさに満ちている。

 だがその姿はあまりにも今まで良馬の思考を染め抜いていた疲労と、現実感から遠いものであるのもまた事実。

 眼前の光景に呆然と硬直した良馬は、数秒の思慮の後こう判断した。

 

(ヤバッ、疲れすぎて幻見えたわ)

 

 その考えのままに、彼はバタンとドアを閉じた。

 

 再び目の前に出でた黒塗りの金属面を見ながら、じっくりと深呼吸。

 今度こそ、誰も居ない下宿先に帰らんと再度ドアを開ける。

 そこにはまだギンガ(幻覚?)がいた。

 ただし、体育座りになってエグエグと涙を零しているという、なんとも寂寥感たっぷりの様に変わっていたが‥‥。

 

「うぅ~‥‥む、無視された‥‥良馬さんに無視されたぁ~‥‥」

 

「えっ!?あっ、その‥もしかして本物のギンガ?」

 

「本物じゃない私がいるわけないじゃないですか!」

 

「えっ!?いや、だって今日は誰も居ないって加奈江さんが‥‥と、とりあえず奥行こうか」

 

 何故居ない筈のギンガがここに居り、自分を出迎えたのか?

 その訳を聞くため、良馬は泣いているギンガを慰めながら、中嶋家(下宿先)に上がり、ギンガと共にリビングへと向かった。

 

「なるほどね‥‥」

 

 居間のソファに疲れきった身を沈めながら、良馬はギンガの話に相槌を打つ。

 聞いたところによると、確かに今日、中嶋家の皆は居なかったのだが、それはギンガを除いてだった。

 何故ギンガだけが居たのかと言うと、加奈江がギンガに勧めたらしい。

 最近、疲れ気味の良馬(自分)の為に夕食でも作ってあげたら?と加奈江が勧め、ギンガはその提案に乗ったのだと言う。

 

「しかし、さっきのセリフは一体誰に吹き込まれたんだ?」

 

「あ、えっと‥‥か、母さんが、こうすると男の人は悦ぶって言って‥‥」

 

「な、なるほど」

 

 一見すればごく普通に流しているが、それを聞き良馬は、

 

(加奈江さん、ギンガに何を吹き込んでいるんだ?)

 

 と、呆れるもののそれでもほんの少し嬉しかったりもする。

 そして、先程のセリフもそうだが、今のギンガの格好も疲労した男性を出迎えるには、なかなか完璧な服装だった。

 エプロンの下は、水色をしたハイネックのシャツとジーンズといったラフな服装だ。

 活動的でありながらしかし、身体にフィットした衣裳はギンガの爆発的プロポーションを惜しげもなく見せ付ける。

 正に完璧としか言いようがない。

 

「それじゃあ、お夕食の準備をしますね」

 

「あ、ああ‥頼むよ」

 

 ギンガはソファから立ち上がり、台所へと向かい、自分も堅苦しい軍服からラフな服装へと着替えに一度部屋へと向かった。

 そして、着替えた後、台所で夕食の準備に励む彼女を、良馬はじっくりと見る。

 ソファに深く腰掛けた事で視線は下から見上げる形となり、自然、すらりと伸びた引き締まった脚から肉付きの良い尻、くびれた腰までのラインという扇情的景観が見て取れた。

 料理に打ち込む度に小刻みに揺れる尻の双丘はあまりにも強烈が過ぎる様であった。

 眼の毒、いや、むしろ眼福だろう。

 ミッドに居た頃から、母親の代わりとなって長年家事をしていただけに手馴れた風情もまた、なんとも新妻の風情が漂っていて良い。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとう。では、いただきます」

 

 良馬はギンガが作った夕食を食べた。

 

「ごちそうさま。美味しかったよ」

 

「お粗末様です」

 

 ギンガは食器を下げて、流し台で食器を洗い始めた。

 その姿に先程夕食を準備している姿が重なり、良馬が立ち上がり、ギンガの方へと歩み出すのにそう時間は掛からなかった。

 

「ひゃぁ!?」

 

 愛らしい甘い悲鳴が、ギンガの唇から零れた。

 いつの間にか背後に回っていた彼が、その腕をくびれた腰に回して抱きついてきたのだ。

 良馬と密着し、伝わる鼓動にギンガの頬が紅くなる。

 

「あ、あの‥‥どうしたんですか?」

 

 高鳴る鼓動に声を震わせながら、ギンガは洗い物を中断する。

 だが理性的な言葉の反面、既にギンガの中の“女”としての部分は彼の求めるものと、事の機微を予見していた。

 胸の奥を熱くさせるものは、彼女の期待に他ならない。

 腰を抱き寄せていた腕がするりと離れ、下腹部をつぅと撫でながら上へと上る。

 そのささやかな刺激に、意図せずしてギンガの唇から悩ましげな吐息が漏れた。

 

「最後にこうして二人っきりになったのは、いつだったかな‥‥?」

 

「ぁ‥‥」

 

「最後に抱いたのも‥‥」

 

「あぅ‥‥」

 

 言葉と共に指が胸に至った。

 彼は前に掛けたエプロンをはち切れんばかりに押し上げ、躊躇なくギンガの胸を揉みしだく。

 だが服越しの刺激はもどかしく、それが狂おしい。

 身体の芯ばかり熱くなって、ちっとも快感のボルテージが上がらない。

 焦らすような愛撫に身悶えするギンガは何かを訴えようとするが、まるで機を狙ったかのように、甘い刺激が脳天を突いた。

 

「んにゃ!?」

 

 ヌチャっと言う水音と立てた生温いものが耳を這う。

 言うまでもない、背後に立った彼が敏感な耳たぶを舐めたのだ。

 今まで彼と関係を持って来たギンガの身体は、性感帯を責める刺激の前に徐々に火照っていく。

 紅潮した顔は蕩け、細められた眼差しは濡れている。

 ジーンズを膝まで脱がせたところで、良馬は大きく淫らなギンガが身に着けていた下着を見て、口元に嗜虐的微笑を浮かべて評ずる。

 

「へぇ~、随分とエロい下着穿いているじゃないかギンガ‥‥やっぱりこっちも期待していたの?」

 

 ギンガは淡い紫色のレース地の下着を身に着けていた。

 大人びた印象を裏切らない、官能的でそそる装束‥いわゆる勝負下着である。

 

「そ、そんな事‥‥」

 

「『そんな事』? じゃあギンガはしたくなかったの?」

 

「うぅ~‥‥」

 

 言葉でいくら取り繕ったところで、ギンガの身体が淫らに火照っているのは明らかだった。

 

「ギンガ‥‥寝室‥行こう‥‥」

 

「‥‥」

 

 耳まで真っ赤にした後姿に問えば、こくりと小さく頷きが返って来る。

 洗い物の途中であったが、ギンガはそれを中断し、良馬と共に彼の部屋へと向かった。

 愛しい者との久しぶりの逢瀬‥‥

 二人は本能の赴くままに互いを求め合う二匹のケダモノと成り果てた。

 それは、一度では終わらず、何度も求めあった。

 

そして、翌日‥‥

 

 

 定時通りに、司令部に出頭した良馬。

 

「大丈夫ですか?艦長。少し顔色が悪いですよ」

 

 新見が心配そうに声をかけた。

 

「だ、大丈夫‥‥少し寝不足なだけだから‥‥」

 

 良馬は新見に大丈夫と言うが、彼の顔は少しやつれていた。

 その反面、

 

「あれ?ギンガ、今日は妙に顔色がツヤツヤしていて表情が満足そうだね?何か良い事でもあったの?」

 

 まほろば での当直任務に当たったギンガは同じく当直勤務を行うフェリシアがギンガの顔色が妙に良い事に質問した。

 

「えっ!?そ、そうかな?」

 

 突然の質問にギンガは少し慌てた様子でフェリシアは首を傾げた。

 

 

 中嶋源三郎にはある悩みがあった。

 防衛軍軍人である身であるが、それは別に地球の平和だとか、そんな大層なものではない。

 もっと身近な、もっと小さな悩み‥‥

 愛娘であるギンガについてだ。

 彼女とは桜花と違い、血縁関係は無く、書類上では、養女となっているが、中嶋夫妻はそんなものは関係なく、ギンガを我が家の娘として扱っている。

 そのため、源三郎にとってギンガは桜花同様、大切な愛娘なのだ。

 その愛娘がどうにも、最近の妙なのだ。

 先日は、何故か妻(加奈江)に「今日は桜花と一緒に出掛けるわよ」と、桜花と妻と共に夜のお出かけへとしゃれ込んだが、そのお出かけにギンガは来なかった。

 そこで、長年軍人として目を光らせてきた源三郎の慧眼、またの名をパパリンアイで観察すると、それは発見できる。

 そこから導き出される答え、それは一つしかない。

 男が出来た‥‥と‥‥

 では、果たして相手は誰なのか?

 源三郎の疑問はそこに集約される。

 彼の知る限り、ギンガの交友関係で男の知り合いはそう多くない。

 そこで彼は推理する。

 知りうる範囲で娘に手を出しそうな男とは、果たしてどこの男だろうか?

 まず‥‥と言うか、最初に怪しんだのは防衛軍関係‥まほろば の乗員に限られてくる。

 しかし、戦艦の乗員は今では、昔と違い数千人と言う大人数から大分減ったが、それでも百人近くは居る‥‥

 一人一人確認するにしても時間が掛かる。

 そこで、まずは‥‥

 

「‥‥という訳で加奈江、ギンガの交際相手が誰なのか知らねぇか?」

 

 と、連れ添った愛妻(加奈江)にギンガの交際相手に心当たりが無いか訊ねてみた。

 同性であり、母親の加奈江には、何かしらの相談をしているかもしれない。

 その中には、ギンガの意中の人の名前を言っているかもしれないと思ったからだ。

 

「どうしたんですか?突然?」

 

「あっ、いや‥その‥‥ギンガの様子‥がな‥‥ここ最近、妙に思えてな‥‥お前はどう思う?」

 

 気まずいのか加奈江から視線を逸らし、口ごもる源三郎。

 

「えっ?姉さんの好きな人?それって‥‥」

 

「桜花」

 

 桜花がギンガの意中の人の名前を出しそうになった時に、加奈江がそれを止める。

 

「あなた、いいじゃないですか」

 

「で、でもな‥‥」

 

「過保護・過干渉は逆に嫌われますよ」

 

「うっ‥‥」

 

「大丈夫ですよ。ギンガは‥‥ちゃんとしっかりしている娘ですから‥‥」

 

「そ、そうか‥‥」

 

「ええ。だから、その時まで、待ってあげて下さい」

 

 加奈江と桜花はどうやらギンガの意中の人を知っている様だ。

 桜花に聞けば教えてくれそうなのだが、加奈江が口止めしてしまったいじょう、桜花は恐らくギンガの意中の人の名前を教えないだろう。

 源三郎としては待つしかなかった。

 ただ、その間、ギンガが騙されない事を祈るしかなかった。

 

 

‥‥と、思ったが、やはり気になるものは気になるので、

 

「という訳で月村、ギンガの交際相手とか知らねぇか?」

 

 今度はギンガが乗艦している艦の長であり、ギンガの上官でもある良馬にギンガの交際相手に心当たりが無いかを訊ねる。

 

「ど、どうして俺に聞くんですか?」

 

 問われた良馬は、何故か額にうっすらと汗をかいて聞き返した。

 心なしか声も震えているような気がする。

 しかし、感情を読み取られない様に顔色は普段通りの様子を繕う。

 

「いや、お前ならギンガの直属の上司だし、知っているかなと思ってな」

 

「さ、さぁ‥‥彼女のプライベートまでは‥‥それに艦内では彼女は女性乗組員専用区画にいますので‥‥その区画の責任者は新見副長なので、そこでのやりとりは流石に‥‥」

 

 そう言いながら、良馬のかく汗はどんどん多くなる。

 まあ無理もあるまい。

 ギンガと付き合っている男とは、正に自分の事なのだ。

 ひょんな事から二人はお互いの想いを通じて交際を開始。

 しかも既に肉体関係まで結んでいる。

 こんな事を親バカの源三郎に知られたらどうなるか‥‥想像するだけで恐ろしい。

 源三郎にとってギンガは中嶋家の娘と言う認識が完全にされている。

 そのため、親バカは当然ギンガも対象になっていた。

 

「そうか‥‥」

 

 源三郎は少し、がっかりした様子で呟く。

 そんな様子を見て、

 

(すみません。源三郎さん‥‥)

 

 良馬は心の中で謝罪した。

 

 

それから数日後‥‥

 

早朝、月村邸

 

「おはようございます。ノエルさん」

 

「おはようございます。ギンガさん」

 

 この日の前の夜、ギンガは月村邸にお泊りした。

 しかし、夕べ良馬は仕事があったらしく、夜、男女間の関係はなかった。

 そのため、ギンガは月村邸に用意された部屋で目を覚まし、朝食の準備をしているノエルを手伝う為に、台所へと降りて来た。

 粗方準備が整うと、

 

「ギンガさん。そろそろ良馬様を起こしに行っていただけませんか?」

 

と、ノエルが朝食の準備は後、自分一人で出来るので、ギンガには良馬を起こしに行くように頼んだ。

 これはギンガに対するノエルなりの気配りであった。

 ギンガは少し嬉しそうに良馬の部屋へと向かった。

 

 コンコン、と良馬の部屋のドアをノックする。

 普通なら、すぐ彼が迎えに出てくれるのだが、その彼は出てこない。

 

「あれ?良馬さん」

 

 ノックをしても中からは反応が無い。

 仕事の為、夜遅くまで起きていたのだろうか?

 そのうちに中でごそごそ動く音がして、無理矢理起こしてしまったかと少し悪い気がした。

 

「‥‥ん?ああ、ギンガか?‥‥ん?もう、朝か‥‥」

 

 明らかに「今起きました」という感じで、ギンガを出迎える良馬。

 ガミラス戦役以降、彼は夜魘される事は無くなり、無事に夜も眠れている様だ。

 そう言う点で、ギンガとしては良かった様な、一緒に寝る口実が無くなってしまったので、残念な様な微妙な気持ちだった。

 

「もうすぐ朝食ですよ」

 

 苦笑しながらギンガは朝食の時間が迫ってきている事を告げる。

 普段は凛々しい軍人であっても、やはり、この人はどこか抜けている。

 そう思ったギンガであったが、逆にそうであるからこそ自分がいないと駄目なのだと思わせる。

 これがただの完璧超人なら、敬意は持ってもそれ以外の感情は持ち得なかったであろう。

 しかしそんなギンガの思いも、ベッドの上で人が動く気配で吹き飛んだ。

 

「‥‥ん?‥‥あさ‥‥?」

 

「なっ!?」

 

 良馬が寝ていたと思われるベッドからは金髪の美少女がもぞもぞと出て来た。

 しかも服装は、下着に男物のワイシャツ一枚という大胆なもので、胸元などはあからさまにはだけさせている。

 そんな格好の美女が良馬と同じベッドから出て来たら恋人としての反応は‥‥

 

「りょ、良馬さん!!その人は一体誰なんですか!!私と言う人がいるのに!!他の女性と関係を持つなんて最低です!!不潔です!!」

 

 ギンガは良馬の胸ぐらを掴んで、問い詰める。

 

「ちょ、ちょっと待って!!ギンガ、誤解なんだ!!」

 

 ギンガの勢いに嫌でも目も覚める良馬。

 

「五回!?昨晩は五回も彼女と関係を持ったんですか!?変態!!浮気者!!」

 

 良馬では埒があかないので、ギンガはこの金髪美女に事情を聞く事にした。

 

「大体、誰なんですか!?貴女は!?」

 

「はてな?」

 

 ギンガの問いに金髪美女は髪の毛をいじりながら首を傾げる。

 

「『はてな?』じゃありません!!」

 

 完全にムキになっているギンガ。

 それは、目の前の金髪美女に対する嫉妬からくるものであった。

 

「あぁ~ギンガ、その子はユリーシャだ」

 

「ユリーシャ?ユリーシャって確かイスカンダルの‥‥」

 

「ああ」

 

「でも・・・・」

 

 ギンガが最後に見たユリーシャはまだヴィヴィオと同じ位の身長だった。

 最初に会った時は赤ん坊だったのだが、それが地球人やミッドの人間よりも成長のスピードが早いと言う印象はあったのだが、それが更に加速したのか、既に15~16歳の体つきになっていた。

 

「どういう事か説明してもらえますか?」

 

 ギンガはダークオーラを纏いながら良馬に説明を求めた。

 

「あ、ああ‥‥」

 

 良馬は顔を引き攣らせながら、ユリーシャ‥‥イスカンダル人の特徴について説明した。

 

「成程、ユリーシャさんについては、分かりました。ですが、それが何で、良馬さんのベッドに潜り込むのか其方の方も説明していただけますか?」

 

「い、一応彼女は、体はここまで成長しているけど、まだ年齢は幼児なんだ。しかも親元を離れて生活しているんだ。心細かったんだろう。昨夜、一人じゃ眠れないって」

 

「それで一緒に寝たんですか」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「‥‥変な事はしていないでしょうね?」

 

「幼児の女子にそんな事はしないよ!!」

 

(こんなナイスボディーの幼児が居てたまりますか!!)

 

 心の中では目の前のユリーシャが幼児とは認めたくなかったが、それでもユリーシャがこの世に生を受けてから実際はさほど経ってはいなかったので、このナイスボディーの金髪美女の年齢はまだ幼児と言える年齢で間違いはなかったのだ。

 だが、それでも納得は行かない。

 もし、管理局の豆狸が知れば、同じ事を思っていただろう。

 

 その後、朝食の席にて、ユリーシャの事がフェイトたちにも伝えられた。

 金髪美女に成長したユリーシャを見て、フェイトたちは大層驚いていた。

 それと同時に、

 

(イスカンダル人ってタケノコみたい)

 

と、ややイスカンダル人に対し失礼な印象も抱いていた。

 ユリーシャ本人もこれ以降の成長スピードは地球人と何ら変わらないと補足説明をした。

 ただ、ユリーシャの体‥‥主に胸部を見て、ティアナが悔しそうな視線を向けていた。

 

 

ユリーシャ騒動があったこの日‥‥

 

地球防衛軍本部、司令長官執務室

 

 執務室には主たる藤堂平九郎と長官付秘書官の森雪の他、黒いジャケットタイプの艦長制服を着た壮年の男と精悍な顔つきの男がいた。

 

「山南修、貴君を新造艦、春藍 艦長を命ずる」

 

「はっ」

 

「古代守、貴君を新造艦、春藍 副長を命ずる」

 

「はっ」

 

 藤堂から呼ばれた二人、山南と守は敬礼の後、それぞれの辞令を受け取った。

 

 山南は沖田・土方の後輩でガミラス戦役では、沖田の乗艦、宇宙戦艦 えいゆう の艦長を務め、沖田と共ガミラスと戦っていた。

 白色彗星戦役時に、土方が士官学校の校長職から地球連合艦隊総司令に抜擢されると、その穴を埋める様に士官学校の校長となり、当時、士官学校に入ったばかりのギンガらを指導した。

 今回、山南、古代が乗艦する春藍はつい先日就航した改アンドロメダ級戦艦で、太陽系内の近海における試験航海を終えたばかりで、今度、まほろば と共にシリウス恒星方面への遠洋航海へ向かう予定である。

 

 

 春藍が遠距離航海の計画を立てている頃、

 ミッドチルダでも同じく、八神はやてが艦長を務める新型次元巡航艦ヴォルフラムも試験航海計画を立てていた。

 人員については、機動六課の時の様には行かなかった。

 今回の勤務先はミッドに隊舎を構えていた六課と違い、星の海を行く次元航行艦‥‥

 なのはとヴィータは教導隊所属。

 エリオとキャロは自然観察保護官で今はミッドを不在にしている。

 スバルは“陸”所属の特別救護隊の所属。

 シグナムは本局の武装隊所属であるが、流石に星の海では自慢の剣筋を披露するには、無理がある。

 フェイトとティアナは本局所属の執務官と補佐官なのだが、今は第二の地球で保護されている最中でミッドには不在。

 いずれ二人がミッドに帰ってきたら、所属してもらうつもりでいるが、現在は不在の為乗艦不可の状態。

 そこで、直ぐに採用できたのは六課時代のロングアーチの面々で、航海長にはルキノ・リリエ、副長にはグリフィス・ロウラン、医務長には八神・シャマルが内定された。

 その後、はやては、各パートのチーフを集め、試験航海の日程や訓練内容の計画を立てていった。

 

 

 はやてが自らが艦長を務める新造艦ヴォルフラムの試験航海の計画を練って居る頃、なのはとヴィータが教導官を務める隊舎では、航空戦技教導官・高町なのは一尉は、午前の教導を終え、教導生らと昼食を共にしていた。

 ヴィヴィオの無事も確認された後、なのはは、無事に病院を退院し、隊に復帰していた。

 管理局に所属する高ランク魔導師の殆どは、己を恃む傾向が多く、他者を見下しがちなのだが、管理外世界の出身ゆえ、魔導師・非魔導師に関わらず同じように接するなのはは、威張らない高ランク魔導師として信望を得ているのだ。

 なのはが教導生から高い人気を博しているのが、こういう飾らない性格故なのだろう。

 

「あの‥高町教導官、質問よろしいでしょうか?‥その‥‥教導とは関係ないことなんですが‥‥」

 

「私に答えられることなら構わないよ。何かな?」

 

 まだあどけなさが残る若い教導生の一人が恐る恐るなのはに質問してきた。

 

「最近、ボラー連邦の話を全然と聞きませんが、教導官のところには何か情報は入っていませんか?」

 

 ベムラーゼの虐殺、制裁艦隊の大敗北から既に幾日が経過している。

 ボラー連邦側からはあれから何の音沙汰はなく、不気味な程の静寂な日々が続いている。

 しかし、若い教導生らにとってはそれがとても不安に感じられた。

 ボラー連邦への武力制裁へ向かった航空隊の教導官や先輩たちは誰一人帰って来なかった。

 次は自分たちの番ではないか?

 そしてもし、ボラー連邦の捕虜になれば、あの公開処刑の映像の様に処刑されるのではないだろうか?

 制裁に向かった者たちは帰還者以外、皆あの様な残虐な方法で処刑されたのではないだろうか?

 そんな不安と恐怖が彼らの中に渦巻いていた。

 

 今の所、“海”の一部が主張している第二次ボラー連邦への武力制裁は艦も無ければ、人材も居らず、賛同者が集まらない為、今の所、具体化する気配はない。

 管理局はボラー方面に繋がる次元回廊を無期限の航行禁止とし、サーチャーを設置して警戒しているが、今のところ異常は見られない。

 

 通常、航空武装隊に次元航行本部の情報が全て流れてくるわけではないが、ボラー連邦関連の情報は重要であり、なのはにはクロノやはやてといった“海”の士官の友人がおり、通常ルートより先に情報が入ることもあるのだ。

 ボラー連邦同様、第二の地球に関してもその情報は同列扱いとなっている。

 必ずしも教導生が知るべき情報ではないし、窘めるのは簡単だが‥‥

 

「私もボラー連邦関連の情報は聞いてないんだ。何か変わった事があれば必ず発表されるから、少なくとも今は、周囲が動揺しようと、それに流されずに私たちのやるべき事をやるしかない。私はそう思うよ」

 

「は、はい‥‥」

 

 なのはの言葉に教導生たちは頷いたが、やはり不安の色は隠せないようだ。

 だが、無理もない、となのはは思う。

 つい最近まで、時空管理局が次元世界の最高権威であり、目の前にいる教導生たちは、その頃に入局した。

 それが今では、ボラー連邦に暗黒星団帝国(ガトランティスは首脳陣が全滅したため、脅威度は低下したと思われる。ガミラスは根拠地となる本星を失い、放浪中との事で、ガトランティス同様、脅威とまでは認識していないが、無暗な接触は控える様厳命されている)といった強力な軍事国家が管理局に牙を剥き、一方的にやられて数多くの局員が殉職し、次元航行艦隊は壊滅してしまった。

 これで管理局の権威は大きく揺らいでおり、もし一般市民がこれ以上犠牲になれば局への信頼は失墜しかねないのだ。

 なのはは無論、教導生も士官候補生であるから動揺を表に出さなくとも、不安が募るのは仕方ないところだ。

 

「第二の97管理外世界との関係はどうなるんでしょう?」

 

と、別の教導生がなのはに聞いてきた。

 

「あの世界も私の故郷と同じく、軍隊は現地政府の一機関という存在だから、政府の命令なく勝手に判断したり行動する事はできないの。今のところは対話する姿勢だから、悪い方に進む事はないと思うけどね」

 

「はい‥‥でも、向こうは管理局法を受け入れる事はないんでしょうね‥‥」

 

 また別の教導生がぽつりと口にした。

 

「そうだね。地球連邦と地球防衛軍は、『今の管理局』と付き合わなくても殆ど困らないからね‥‥」

 

 正確には“今の体制の管理局”なのだが、なのははそこまで言い切ることはできなかった――。

 それは、今の管理局が、今の体制を変える事が出来るのか確証が無かったからであった。

 

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